特許拒絶査定不服審判
2022-009255
電子デバイスにおける透明基板のためのコーティング
- 審判番号
- 2022-009255
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-114369外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年06月15日
- 審決日
- 2023年02月13日
- 公報発行日
- 2023年07月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】アップル インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】弁理士法人大塚国際特許事務所
- 分類
- P18 .121-Z (G09F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第44条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-114369「電子デバイスにおける透明基板のためのコーティング」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年12月17日出願公開、特開2020-201488〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和2年7月1日にされた特許法44条1項の規定による外国語書面出願であって、平成30年8月16日(パリ条約による優先権主張2017年9月8日、2018年2月20日、いずれも米国)に出願された特願2018-153192号の分割出願であるところ、本願の出願後の手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和2年 8月 3日 :翻訳文及び手続補正書の提出
令和3年 7月21日付け:拒絶理由通知書
同年10月21日 :意見書の提出
令和4年 3月 2日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月11日 :原査定の謄本の送達)
同年 6月15日 :審判請求書及び手続補正書の提出
同年 8月10日 :前置報告書
同年11月16日 :上申書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和4年6月15日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。
「 【請求項1】
内部を有する電子デバイスであって、
筐体構造体と、
前記筐体構造体に結合した透明ガラス基板と、
前記内部に面し、前記透明ガラス基板を通して視認できる、前記透明ガラス基板上のコーティングと、を備え、前記コーティングは、インク層と、前記インク層と前記透明ガラス基板との間に挿入された薄膜干渉フィルタとを有し、前記薄膜干渉フィルタは、無彩色の部分反射ミラーを形成し、前記薄膜干渉フィルタは、Lab色空間における最大の色座標値a及びbが、それぞれ絶対値で5未満を示すよう構成されており、前記薄膜干渉フィルタは、Lab色空間における最大の色座標値の変化Δa及びΔbが、前記薄膜干渉フィルタに対する入射角が0°~60°の範囲において、それぞれ絶対値で2未満を示すように構成されている、電子デバイス。」
第3 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明(原査定時の請求項4に係る発明)に対する「理由1(進歩性の欠如)」は、次のとおりである。
理由1(進歩性の欠如)
本願発明は、本願の優先日前に発行された下記引用文献1に記載された発明、及び、本願の優先日前に発行された下記引用文献2、3、5及び6に記載された周知技術に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献1.登録実用新案第3208984号公報
引用文献2.特開2006-268085号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3.中国特許出願公開第106830708号明細書(周知技術
を示す文献)
引用文献5.特表2017-515780号公報(周知技術を示す文献)
引用文献6.特表2013-538774号公報(周知技術を示す文献)
第4 引用文献に記載された発明の認定等
1 引用文献1に記載された事項と引用発明の認定
(1) 引用文献1に記載された事項
前記引用文献1には、以下の事項が記載されている。下線は、当合議体によるものであり、以下同様である。
「【0010】
電子デバイスは、ディスプレイを備えることができる。ディスプレイは、画像を表示するために使用される画素のアレイを含むアクティブエリア、及び画素のない非アクティブエリアを有することができる。回路及び内部のデバイス構成要素は、非アクティブエリアの下に実装することができる。
【0011】
ディスプレイ用の保護ディスプレイカバー層は、透明な材料の層から形成することができる。ディスプレイカバー層は、ディスプレイのアクティブエリア及び非アクティブエリアの両方に重ね合わせることができる。アクティブエリアに重ね合わさるディスプレイカバー層の部分は、インクはなく透明である。非アクティブエリアに重ね合わさるディスプレイカバー層の部分の内面は、デバイス内の内部構造体をユーザによる視界から隠すのに役立つように、不透明マスキング層でコーティングすることができる。不透明マスキング層は、光吸収粒子を有するポリマー、又は他の好適な不透明な構造体から形成することができる。不透明マスキング層は、例えば、黒色インクの層、又は別の色の不透明な層とすることができる。
【0012】
開口部は、光を透過するウィンドウを形成するように、不透明マスキング層内に形成することができる。光学窓又は光窓と呼ばれる場合もあり得る、これらのウィンドウは、光学式構成要素を収容するために使用することができる。例えば、カメラは、ディスプレイカバー層内のウィンドウを通して画像をキャプチャすることができ、周辺光センサは、ディスプレイカバー層内のウィンドウを通して周辺光レベルを測定することができ、光学式近接センサは、ディスプレイカバー層内のウィンドウを通して近接センサによる測定をするために使用することができる。いくつかの場合(例えば、可視光波長で動作するカメラなどの構成要素用のウィンドウを形成する場合)では、ウィンドウは、可視波長で透明とすることができ、何もコーティング層をなしにすることができる。周辺光センサ用のウィンドウを形成する場合などの他の場合では、少なくとも部分的にウィンドウを不明瞭化するようにウィンドウをコーティングすることが望ましいことがある。これは、例えば、周辺光センサが周辺光の測定ができるように周辺光センサに充分な周辺光を透過する、暗いコーティングで周辺光センサ用ウィンドウをコーティングすることにより、実現することができる。コーティングの暗い外観は、周辺光センサ用ウィンドウを、非アクティブエリア内の黒色インク又は他の不透明マスキング層の近隣の部分の外観と融合するのを可能にできる。
【0013】
一般的に、周辺光センサ用のウィンドウコーティングは、任意の好適な色(例えば、白、灰色、黒、又は他の色)を有することができる。これらのコーティングは、任意の好適な光量を透過することができる(例えば、これらのコーティングの透過率は、50%より大きい、50%未満、5%~20%、30%未満、20%未満、10%未満、又は他の好適な値とすることができる)。コーティングは、デバイス10内の赤外線及び可視光カメラ用、赤外線構成要素用、ユーザ入出力装置(例えば、タッチセンサ又は指紋センサ)に関連付けられた光感知アレイ用、近接センサ用、又は任意の他の好適な光学式構成要素用のウィンドウ上に設けることができる。周辺光センサ用ウィンドウにコーティングを設ける構成は、例として本明細書で説明される場合があり得る。しかしながら、これは単なる例示である。コーティングは、デバイス10内の任意の好適な透明なウィンドウ構造体上に設けることができる。
【0014】
ウィンドウコーティングが所望の外観(例えば、所望の反射率、所望の色、特定の波長での所望の透過率など)を有することを確実にするために、ウィンドウコーティングは、薄膜積層体を使用して形成することができる。例えば、無機材料の複数の薄い層を、物理蒸着技術又は他の好適な技術を使用してディスプレイカバー層の内面上に堆積させることができる。層の数、層の厚さ、及びコーティングの層内に使用される材料を調整することにより、コーティングは、所望の外側の外観及び透過特性を備えることができる。例えば、周辺光センサ用ウィンドウの内面上のコーティングは、ウィンドウからの反射量及びウィンドウの色を調整する(例えば、ディスプレイの非アクティブエリア内の不透明なマスキング材料が帯青黒色の外観を有する構成で、帯青黒色に)、反射防止及び色調整層として機能することができる。コーティングはまた、光を吸収する無機材料の薄膜層も設けることができる(例えば、周囲の不透明なマスキング構造体と融合するためにコーティングが充分に黒く見えることを確実にするために)。
… (中略) …
【0016】
図1の例では、デバイス10は、ディスプレイ14を含む。ディスプレイ14は、筐体12内に実装されている。エンクロージャ又はケースとも呼ばれることもあり得る筐体12は、プラスチック、ガラス、セラミック、繊維複合材、金属(例えば、ステンレス鋼、アルミニウムなど)、他の好適な材料、又はこれらの材料のいずれか2種以上の組み合わせで形成してもよい。筐体12は、筐体12が一部若しくはすべて単一の構造として機械加工若しくは成形された一体型構成を使用して形成してもよく、又は複数の構造体(例えば、内部枠組構造、外部筐体表面を形成する1つ以上の構造体など)を使用して形成してもよい。通信ポート、ボタン用の孔、及び他の構造を形成するために、開口部を筐体12内に形成することができる。
… (中略) …
【0019】
ディスプレイ14は、透明なガラス、透明プラスチック、透明なセラミック、サファイア、若しくは他の透明な結晶性材料の層、又は他の透明な層(単数又は複数)などの、ディスプレイカバー層を使用して保護することができる。ディスプレイカバー層は、平面形状、凸の曲線状断面、凹の曲線状断面、平面及び曲線状部分を有する形状、平面主領域の平面の外側に曲がった部分を有する1つ以上の縁部で囲まれた平面主領域を含む構成、又は他の好適な形状を有することができる。ボタン16、スピーカポート18などのポート、及び他の構造体を収容するために、開口部を、ディスプレイカバー層内に形成することができる。
… (中略) …
【0024】
ディスプレイカバー層30の内面は、非アクティブエリアIA内の1つ以上の材料の層でコーティングすることができる。図2の例では、非アクティブエリアIA内のディスプレイカバー層30の下側は、不透明マスキング層36でコーティングされている。不透明マスキング層36は、例えば、黒色インクの層とすることができる。ウィンドウ20用の開口部40は、不透明マスキング層36内に形成することができる。周辺光センサ用コーティング層38は、開口部40に重ね合わせることができ、ウィンドウ20に所望の外観を提供することができる。例えば、コーティング層38は、ウィンドウ20からの反射を抑制するための反射防止構造体、ウィンドウ20の色を調整するための薄膜スペクトル調整構造体、及びウィンドウ20の外観を暗くするように充分な光を吸収するための構造体を含むことができ、それにより、マスキング層36の外観を適合させることができる。
… (中略) …
【0026】
図2の例では、ウィンドウコーティング38は、開口部40が層36内に形成された後で、不透明マスキング層36の内面上に堆積してある。層36は、スクリーン印刷又は他の好適な技術を使用して堆積してパターン化することができる。所望であれば、コーティング38は、ウィンドウ20用の開口部40を形成するために層36を堆積して層36をパターン化する前に、ディスプレイカバー層30の内面上に堆積させることができる(例えば、図3を参照)。コーティング38が充分に不透明な外観を有する構成では、不透明マスキング層36の一部又はすべてを、非アクティブエリアIAから省略することができる。
【0027】
図4に示すように、図2の周辺光44などの入射する周辺光は、ウィンドウ20の表面法線n(すなわち、ウィンドウ20内のディスプレイカバー層36の部分の表面法線)に対する入射角AOIの範囲により特徴付けることができる。コーティング38は、好ましくは入射角AOIにあまり依存しない透過特性を呈する。コーティング38の外観もまた、好ましくは、色及び反射率などの属性において不透明マスキング層36の外観に適合する。
【0028】
1つの例示的な構成では、コーティング38は、層50などの反射防止及び色調整層を含む。不透明マスキング層36用の黒色インクなどの材料は、カーボンブラックの粒子を含むポリマー又は比較的低い反射率を有する他のインク材料から形成することができる。従って、層50内の1つ以上の薄膜誘電体層又は他の薄膜層を、反射防止コーティングとして機能するように積層体内に形成することができる。反射防止材料の1つ以上の層の屈折率は、ウィンドウ20からの光の反射を不透明マスキング層36からの光の反射に適合するレベルに低減するように選択することができる。
【0029】
所望であれば、コーティング38内の材料(例えば、層50のスペクトル調整構造体)の屈折率、材料、及び層の厚さは、コーティング38が所望の色(例えば、帯青黒色、又は別の望ましいスペクトル曲線を有する色)を有することを確実にするように選択することができる。薄膜干渉効果を反射率及び色を調整するために使用することができるので、多様な所望の反射率値及び色を実現することができる(例えば、層の厚さ、層の数、及び層の材料を調整することにより)。層50は、コーティング38に関連付けられた反射防止及び色特性を調整することができ、そのため層50は、反射防止及び色調整層(反射防止層、スペクトル調整層、色調整コーティングなど)として呼ばれることもあり得る。
【0030】
コーティング層38はまた、層52などの1つ以上の光吸収層も含むことができる。層52は、例えば、コーティング38を黒く見えるようにするために、充分な光を吸収する暗い材料とすることができる。層52の厚さは、周辺光44の一部が周辺光センサ42に届くことができるように、充分小さくすることができる。
【0031】
図4の反射防止及び色調整コーティング50用の例示的な構成を、図5に示す。図5の例では、コーティング50は、3つの酸化アルミニウム層及び3つの酸化チタン層の、6つの無機誘電体層(金属酸化物層)の積層体から形成されている。酸化アルミニウム(屈折率1.7)及び酸化チタン(屈折率2.7)に対する、互いに対して及び層30のガラス(屈折率1.55)に対して異なる屈折率値は、層50がウィンドウ20に対して、反射防止層として(ウィンドウ20からの可視光の反射を低減する)及び色調整(スペクトル調整)層として機能することを可能にする。一般的に、層50は、任意の好適な数の誘電体層(例えば、より高い屈折率及びより低い屈折率の交互の層、又は異なる屈折率を有する誘電体層の他のパターン)を有することができ、金属酸化物、シリコン酸化物、窒化ケイ素、他の酸化物、窒化物、オキシ窒化物、又は他の無機材料から形成された誘電体層を有することができる。この薄膜層の積層体は、物理蒸着技術(例えば、スパッタリング若しくは蒸発)、又は他の好適な析出技術を使用して堆積させることができる。
【0032】
光吸収層52もまた、物理蒸着又は他の好適な析出技術を使用して堆積された無機層とすることができる(例えば、層52は、黒色物理蒸着無機層とすることができる)。入射角感度を低減するのに役立つために、層52は、比較的高い屈折率を有する材料から形成することができる。」
「【図1】
[図:0001399011000001.jpg]
」
「【図2】
[図:0001399011000002.jpg]
」
「【図3】
[図:0001399011000003.jpg]
」
「【図4】
[図:0001399011000004.jpg]
」
「【図5】
[図:0001399011000005.jpg]
」
(2) 引用発明の認定
ア(ア) 【0026】、【図3】から、コーティング38は、ウィンドウ20用の開口部40を形成するために層36を堆積して層36をパターン化する前に、ディスプレイカバー層30の内面上に堆積させており、コーティング38が、その堆積される範囲内(周辺光センサ用のウィンドウだけでなく、当該ウィンドウ周辺を含む非アクティブエリアIAも含まれる。)において、一様に形成されていることが読み取れる。
(イ) 前記(ア)の堆積範囲内の一様性を踏まえると、コーティング38内の材料(例えば、コーティング38に含まれる反射防止及び色調整層50のスペクトル調整構造体)の屈折率、材料、及び層の厚さ、すなわちコーティング38の反射率値及び色は、堆積される範囲全体にわたってほぼ変化がないと考えるのが自然である。これは【0012】の「コーティングの暗い外観は、周辺光センサ用ウィンドウを、非アクティブエリア内の黒色インク又は他の不透明マスキング層の近隣の部分の外観と融合するのを可能にできる。」という記載からも裏付けることができる。
よって、【0013】に記載の「周辺光センサ用のウィンドウコーティング」が有する「任意の好適な色(例えば、白、灰色、黒、又は他の色)」は、「周辺光センサ用のウィンドウコーティング」だけのものではなく、当該ウィンドウ周辺を含む非アクティブエリアIAのコーティングが有する色についても当てはまるものであると認められる。
イ 前記(1)の記載事項及び前記アの認定事項を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
<引用発明>
「筐体12内に実装されているディスプレイ14を含むデバイス10であって(【0016】)、
ディスプレイ14は、透明なガラスのディスプレイカバー層を使用して保護することができ(【0019】)、
非アクティブエリアIA内のディスプレイカバー層30の下側は、不透明マスキング層36でコーティングされ、不透明マスキング層36は、黒色インクの層とすることができ(【0024】)、
コーティング38は、ウィンドウ20用の開口部40を形成するために層36を堆積して層36をパターン化する前に、ディスプレイカバー層30の内面上に堆積させることができ(【0026】)、【図3】)、
非アクティブエリアIAのコーティングは、白、灰色、又は黒を有することができ(【0013】、前記ア(イ)の認定事項)、
コーティング38は、層50などの反射防止及び色調整層を含み(【0028】)、
コーティング38内の材料(層50のスペクトル調整構造体)の屈折率、材料、及び層の厚さは、コーティング38が所望の色を有することを確実にするように選択することができ、薄膜干渉効果を反射率及び色を調整するために使用することができ(【0029】)、
反射防止及び色調整コーティング50は、3つの酸化アルミニウム層及び3つの酸化チタン層の、6つの無機誘電体層(金属酸化物層)の積層体から形成されている(【0031】、【図4】、【図5】)、
デバイス10。」
2 引用文献3及び5に記載された事項及び周知技術の認定
(1) 引用文献3に記載された事項
前記引用文献3には、以下の事項が記載されている。括弧内の翻訳文は、当合議体によるものである。
「
[図:0001399011000006.jpg]
」
(実施例2:5層の一般的なフィルム系半反射半透過構造は、以下のとおりである:基板/H1/L/H/L/H、ここでHは高屈折率材料を表し、本実施例では、基板を透明ガラス基板として選択し、H層はNb2O5であり、屈折率は2.5であり、下層H層の膜厚は33nmであり、上層H層の膜厚は65nmである;Lは低屈折率材料を表し、本実施例ではSiO2を選択し、屈折率は1.46であり、底部L層の膜厚は2nmであり、上層L層の膜厚は90nmである。基板の他方の面のH1層はITOであり、屈折率は2.1、膜厚は95nm、シート抵抗は17Ωであった。基板の空気面(非フィルム面)から反射率を測定すると48%であり、反射色はほぼ無色であり、均一な色度空間(L、a、b)において、L=75、a=0、b=-1である。)
(2) 引用文献5に記載された事項
前記引用文献5には、以下の事項が記載されている。
「【0003】
カバー物品は、しばしば、電子製品内の重要なデバイスを保護するために、入力用ユーザインタフェースおよび/またはディスプレイおよび/または多くの他の機能を提供するために使用されている。そのような製品には、スマートフォン、mp3プレーヤーおよびコンピュータータブレットなどのモバイルデバイスが含まれる。カバー物品としては、建築物品、輸送物品(例えば、自動車用途、電車、航空機、船舶などで使用される物品)、器具物品、あるいはいくらかの透過性、耐擦傷性、耐摩擦性またはそれらの組合せを必要とするいずれの物品も含まれる。これらの用途は、しばしば、耐擦傷性、ならびに最大光透過率および最小反射率に関する強い光学的性能特性を要求する。さらに、いくつかのカバー用途では、視野角が変化する時に、反射および/または透過において示されるか、もしくは認知される色が明らかに変化しないことが要求される。ディスプレイ用途においては、これは、反射または透過における色が、視野角とともに感知可能な度合いまで変化する場合、製品の使用者がディスプレイの色または明るさの変化を認知することとなり、それによってディスプレイの知覚品質が低下するおそれがあるためである。他の用途においては、色の変化は、美的な必要条件または他の機能的な必要条件に悪影響を及ぼし得る。」
(3) 周知技術の認定
ア 引用文献3の前記(1)の摘記箇所には、5層の一般的なフィルム系半反射半透過構造は、基板/H1/L/H/L/H(ここで、基板は透明ガラス基板であり、H1はITOで膜厚は95nmであり、Hは高屈折率材料で、下層H層の膜厚は33nm、上層H層の膜厚は65nmであり、Lは低屈折率材料で、底部L層の膜厚は2nm、上層L層の膜厚は90nmである。)であり、反射率が48%であることが記載されているから、引用文献3に記載の「フィルム系半反射半透過構造」は、本願発明の「部分反射ミラーを形成[する]」「薄膜干渉フィルタ」に相当する。
よって、前記(1)の摘記箇所に例示されるように、次の事項は周知技術であると認める(以下「周知技術A」という。)。
<周知技術A>
「部分反射ミラーを形成する薄膜干渉フィルタにおいて、反射色がほぼ無色であり、均一な色度空間(L、a、b)において、a及びbの絶対値がそれぞれ5未満であるもの。」
イ 引用文献5の前記(2)の摘記箇所の記載に例示されるように、次の事項は周知技術であると認める(以下「周知技術B」という。)。
<周知技術B>
「スマートフォンなどのモバイルデバイスの電子製品内の重要なデバイスを保護するためのカバー物品において、いくつかのカバー用途では、視野角が変化しても、反射において認知される色が明らかに変化しないことが要求されていること。」
第5 対比
1 対比分析
本願発明と引用発明を対比する。
(1) 引用発明の「デバイス10」は、「筐体12内に実装されているディスプレイ14を含む」ことから、本願発明の「内部を有する電子デバイス」に相当する。
(2) 引用発明の「筐体12」は、本願発明の「筐体構造体」に相当する。
(3) 引用発明の「透明なガラスのディスプレイカバー層30」と本願発明の「筐体構造体に結合した透明ガラス基板」は、「透明ガラス基板」である点で共通する。
(4)ア 引用発明の、非アクティブエリアIA内のディスプレイカバー層30の下側にコーティングされた「不透明マスキング層36」と、前記層36をパターン化する前に、ディスプレイカバー層30の内面上に堆積させた「コーティング38」は、本願発明の「前記内部に面し、前記透明ガラス基板を通して視認できる、前記透明ガラス基板上のコーティング」に相当する。
イ 引用発明の「コーティング38」は、本願発明の「無彩色」に相当する白、灰色、又は黒を有し、前記コーティング38に含まれる「層50などの反射防止及び色調整層」は、「6つの無機誘電体層(金属酸化物層)の積層体から形成され」、「薄膜干渉効果を反射率及び色を調整するために使用する」ものであるから、引用発明の「層50」は、本願発明の「無彩色の部分反射ミラー」に相当し、引用発明の「コーティング38」は、本願発明の「無彩色の部分反射ミラーを形成する」「薄膜干渉フィルタ」に相当する。
ウ 引用発明の「不透明マスキング層36」は黒色インクの層であるから、本願発明の「インク層」に相当する。
引用発明の、層36をパターン化する前に、ディスプレイカバー層30の内面上に堆積させた「コーティング38」は、前記イを踏まえると、本願発明の「前記インク層と前記透明ガラス基板との間に挿入された薄膜干渉フィルタ」に相当する。
前記アに示したとおり、引用発明の「不透明マスキング層36」及び「コーティング38」は、本願発明の「コーティング」に相当するから、本願発明と引用発明は、「前記コーティングは、インク層と、前記インク層と前記透明ガラス基板との間に挿入された薄膜干渉フィルタとを有[する]」点で一致する。
エ 前記ア~ウをまとめると、本願発明と引用発明は、「前記内部に面し、前記透明ガラス基板を通して視認できる、前記透明ガラス基板上のコーティングと、を備え、前記コーティングは、インク層と、前記インク層と前記透明ガラス基板との間に挿入された薄膜干渉フィルタとを有し、前記薄膜干渉フィルタは、無彩色の部分反射ミラーを形成する」点において一致する。
2 一致点及び相違点
前記1の対比分析の検討結果を総合すると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、それぞれ次に示すとおりである。
(1) 一致点
内部を有する電子デバイスであって、
筐体構造体と、
透明ガラス基板と、
前記内部に面し、前記透明ガラス基板を通して視認できる、前記透明ガラス基板上のコーティングと、を備え、前記コーティングは、インク層と、前記インク層と前記透明ガラス基板との間に挿入された薄膜干渉フィルタとを有し、前記薄膜干渉フィルタは、無彩色の部分反射ミラーを形成する、
電子デバイス、である点。
(2) 相違点
ア 相違点1
本願発明においては、「透明ガラス基板」が、「筐体構造体に結合し[ている]」のに対して、引用発明においては、透明なガラスのディスプレイカバー層30が、筐体12に結合しているのか不明な点。
イ 相違点2
本願発明においては、「前記薄膜干渉フィルタは、Lab色空間における最大の色座標値a及びbが、それぞれ絶対値で5未満を示すよう構成されて[いる]」のに対して、
引用発明においては、コーティング38は、白、灰色、又は黒であるとされているが、Lab色空間における最大の色座標値a及びbの具体的な値が不明な点。
ウ 相違点3
本願発明においては、「前記薄膜干渉フィルタは、Lab色空間における最大の色座標値の変化Δa及びΔbが、前記薄膜干渉フィルタに対する入射角が0°~60°の範囲において、それぞれ絶対値で2未満を示すように構成されている」のに対して、
引用発明においては、コーティング38が、そのような条件を満たすものであるのか不明な点。
第6 当審の判断
1 相違点1について
前記相違点1について検討する。
引用文献1の【図2】には、ディスプレイカバー層30が筐体12に結合していると読み取れる構成について示されているから、引用発明において、ディスプレイカバー層30は筐体12に結合しているものと認められる。
よって、前記相違点1は実質的な相違点でない。
仮に相違点であったとしても、ディスプレイを有するデバイスにおいて、ディスプレイをカバーする部材が筐体と結合している構成は、ごく一般的なものであるから、両者を結合させるかどうかは、当業者が適宜になし得る設計事項の範囲内のものであって、かかる相違点はいずれにせよ格別のものではない。
2 相違点2について
前記相違点2について検討する。
引用発明において、コーティング38は、白、灰色、又は黒であるとされているところ、白色、灰色、又は黒色のような無彩色の、Lab色空間における色座標値a及びbの値が、a=0及びb=0の近傍にあることは当業者にとって自明である。
そして、前記第4の2(3)アにおいて周知技術Aとして示したとおり、部分反射ミラーを形成する薄膜干渉フィルタにおいて、反射色がほぼ無色であり、均一な色度空間(L、a、b)において、a及びbの絶対値がそれぞれ5未満であるものは、本願優先日前に周知である。
そうすると、引用発明のコーティング38の色は、白色、灰色、又は黒色であるから、前記周知技術Aに倣って、引用発明の層50(「無彩色の部分反射ミラー」に相当)のLab色空間における最大の色座標値a及びbを、それぞれ絶対値で5未満を示すようにして、前記相違点2に係る構成とすることに、格別困難性があるものでない。
3 相違点3について
前記相違点3について検討する。
前記第4の2(3)イにおいて周知技術Bとして示したとおり、スマートフォンなどのモバイルデバイスの電子製品内の重要なデバイスを保護するためのカバー物品において、いくつかのカバー用途では、視野角が変化しても、反射において認知される色が明らかに変化しないことが要求されていることは、本願優先日前に周知である。
よって、引用発明の「デバイス10」における、ディスプレイ14を保護する透明なガラスのディスプレイカバー層に対して、その内面にコーティング38を堆積させる際、前記周知技術Bを考慮して、当該コーティング38内の材料(層50のスペクトル調整構造体)の屈折率、材料、及び層の厚さを、視野角が変化しても、反射において認知される色が明らかに変化しないような薄膜干渉効果を奏するものとなるように選択することは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、反射色の変化が認知されない視野角の範囲、すなわち、入射角の範囲をどの程度とし、その範囲内におけるLab色空間における最大の色座標値の変化Δa及びΔbを、どの程度に抑えるようにするかは、当業者が適宜に定めることにすぎない。
よって、引用発明において、前記相違点3に係る構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
4 総合検討
前記1~3において検討したとおり、引用発明において前記相違点1~相違点3に係る構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、前記相違点1~相違点3を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明、周知技術A及び周知技術Bから予測される程度のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
したがって、本願発明は、引用発明、周知技術A及び周知技術Bに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
5 請求人の主張について
(1) 請求人の主張内容
請求人は、審判請求の理由及び上申書において次の主張をしている。
請求項1に係る発明は、
「薄膜干渉フィルタまたは複数の無機誘電体層の積層体は、無彩色の部分反射ミラーを形成し、薄膜干渉フィルタまたは複数の無機誘電体層の積層体は、Lab色空間における色座標値の変化Δa及びΔbが、薄膜干渉フィルタまたは複数の無機誘電体層の積層体に対する入射角が0°~60°の範囲において、絶対値で2未満を示すように構成されている」という、特徴的な構成を備えている。
引用文献1から8は、Lab色空間における色座標値の変化Δa及びΔbが無彩色の部分反射ミラーに対する入射角が0°~60°の範囲において、絶対値で2未満を示す無彩色の部分反射ミラーを記載も示唆もしていない。
引用文献5は、絶対値で2未満のある角度の範囲にわたる色座標値の変化を有することを開示しているが、引用文献5は、色座標値の変化を有する「部分反射ミラー」について記載も示唆もしていない。
仮に、引用文献1が無彩色の部分反射ミラーを開示していたとしても、当業者が、引用文献5に記載された技術を適用して、引用文献1に記載された無彩色の部分反射ミラーを変更した場合、変更されたものが無彩色の部分反射ミラーであるとは直ちに解されない。
(2) 請求人の主張についての検討
引用発明においては、コーティング38内の材料(層50のスペクトル調整構造体)の屈折率、材料及び層の厚さは、コーティング38が所望の色を有することを確実にするように選択することができ、薄膜干渉効果を反射率及び色を調整するために使用するものとされている。
よって、引用発明に前記周知技術Bを適用する際は、屈折率、材料、及び層の厚さによって調整される薄膜干渉効果を使用することにより、色を白、灰色、又は黒の無彩色(引用発明における所望の色)に維持するとともに、視野角が変化しても、反射において認知される色が明らかに変化しないような反射特性となるようにすることは明らかである。
そうすると、引用発明に前記周知技術Bを適用することにより、無彩色の部分反射ミラーを有することになるから、請求人の前記主張は採用できず、前記4の結論を左右するものではない。
6 上申書における補正案について
(1) 補正案の内容
請求人は、令和4年11月16日に提出された上申書において、請求項1を、本願明細書の段落【0038】等に基づき、以下のように補正する準備がある旨を主張している(下線は、補正案において補正される箇所を示すものである。)。
「内部を有する電子デバイスであって、
筐体構造体と、
前記筐体構造体に結合した透明ガラス基板と、
前記内部に面し、前記透明ガラス基板を通して視認できる、前記透明ガラス基板上のコーティングと、を備え、前記コーティングは、インク層と、前記インク層と前記透明ガラス基板との間に挿入された薄膜干渉フィルタとを有し、前記薄膜干渉フィルタは、可視波長にわたって少なくとも5%、かつ85%未満の反射率を有する無彩色の部分反射ミラーを形成し、前記薄膜干渉フィルタは、Lab色空間における最大の色座標値a及びbが、それぞれ絶対値で5未満を示すよう構成されており、前記薄膜干渉フィルタは、Lab色空間における最大の色座標値の変化Δa及びΔbが、前記薄膜干渉フィルタに対する入射角が0°~60°の範囲において、それぞれ絶対値で2未満を示すように構成されている、電子デバイス。」
(2) 補正案についての検討
ア まず、請求人が補正の根拠として挙げている、本願明細書の段落【0038】には、
「フィルタ54の見掛けの色は、Lab色空間における色によって特徴付けることができる。1つの例示的な構成では、フィルタ54は部分反射ミラー(例えば、反射率が10~20%のミラー、又は反射率が少なくとも5%、少なくとも15%、少なくとも20%、85%未満、60%未満、50%未満、35%未満、若しくは他の好適な値のミラー)として動作し、反射時に灰色を示す(例えば、フィルタ54の反射率は色による偏りがないので、フィルタ54は無彩色の部分反射ミラーを形成する)。」と記載されており、
「薄膜干渉フィルタ」が、「少なくとも5%、かつ85%未満の反射率を有する」ことは記載されているものの、「可視波長にわたって少なくとも5%、かつ85%未満の反射率を有する」ことは記載されていない。
したがって、上記補正案は、新規事項を含むものである。
イ 仮に、補正案の内容が新規事項を含むものでないとしても、前記第5の1(4)イに示したとおり、引用発明は、本願発明の「無彩色の部分反射ミラーを形成する」「薄膜干渉フィルタ」に相当する構成を有しており、部分反射ミラーの特性を踏まえると、薄膜干渉フィルタの反射率が、0%及び100%を含まない範囲であることは明らかである。
そして、前記範囲内において、薄膜干渉フィルタの反射率をどの程度とするかは、当業者が適宜に定める設計事項にすぎず、前記補正案の「少なくとも5%、かつ85%未満の反射率」とすることについても、当業者が容易に想到し得たことである。
したがって、いずれにせよ前記補正案の内容は前記4の結論に影響を与えるものではない。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、周知技術A及びBに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-009255