特許拒絶査定不服審判
2022-008930
半導体素子とその製造方法および半導体装置
- 審判番号
- 2022-008930
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-151777
- 請求日
- 2022年06月10日
- 審決日
- 2023年03月01日
- 公報発行日
- 2023年05月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社豊田中央研究所
- 【請求人代理人】森岡 正往
- 【請求人代理人】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
- 【請求人】株式会社デンソー
- 【請求人代理人】森岡 正往
- 【請求人代理人】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 恩田 春香
- 審判官 松永 稔
- 審判官 鈴木 聡一郎
- 分類
- P18 .575-Z (H01L) / P18 .16 -Z (H01L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条の2
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条の2、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-151777「半導体素子とその製造方法および半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 2月20日出願公開、特開2020- 27871〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、庄司智幸、及び臼井正則、土森正昭、近藤嘉代、奥村謙太郎、榊原純を発明者とし、株式会社豊田中央研究所、及び株式会社デンソーを出願人として、平成30年8月10日に出願されたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年 9月 9日付け:拒絶理由通知書
令和3年10月20日 :意見書、手続補正書の提出
令和4年 3月18日付け:拒絶査定(原査定)
令和4年 6月10日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和4年6月10日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年6月10日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1) 本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正後の請求項1の記載は、次のとおりである。(下線部は、手続補正書の記載のとおりである。)
「【請求項1】
半導体からなる基体上に形成した金属層へ該基体の反対面側からレーザーを照射する照射工程を備え、該基体に接合された該金属層からなる電極を有する半導体素子を得る製造方法であって、
前記照射工程は、前記金属層の第1領域へエネルギー密度の低いレーザーを照射する第1工程と、
該金属層の第2領域へ該エネルギー密度の高いレーザーを照射する第2工程とを少なくとも備え、
該第1領域には該第2領域よりも大きな引張応力が作用し、
該半導体は、SiCであり、
該レーザーは、パルスレーザーである半導体素子の製造方法。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和3年10月20日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
半導体からなる基体上に形成した金属層へ該基体の反対面側からレーザーを照射する照射工程を備え、該基体に接合された該金属層からなる電極を有する半導体素子を得る製造方法であって、
前記照射工程は、前記金属層の第1領域へエネルギー密度の低いレーザーを照射する第1工程と、
該金属層の第2領域へ該エネルギー密度の高いレーザーを照射する第2工程とを少なくとも備え、
該第1領域には該第2領域よりも大きな引張応力が作用し得る半導体素子の製造方法。」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「該第1領域には該第2領域よりも大きな引張応力が作用し得る」、及び、「半導体」、「レーザー」について、「該第1領域には該第2領域よりも大きな引張応力が作用し、」、及び、「該半導体は、SiCであり、該レーザーは、パルスレーザーである」と限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本願補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)先願明細書の記載、及び先願発明
ア 先願明細書の記載
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された、吉澤洋明を発明者とし、トヨタ自動車株式会社を出願人として、本願出願日(平成30年8月10日)前の平成29年7月12日に出願され、本願出願日後の平成31年2月7日に特開2019-021680号公報として出願公開された特願2017-136454号(以下「先願」という。)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「先願明細書」という。)には、次の記載がある。(下線は、引用箇所を示すために当審において付した。なお、先願は、令和2年4月1日に出願人名義が株式会社デンソーに変更され、令和3年6月28日に特許第6904122号として特許権の設定登録が行われ、令和3年7月14日に特許掲載公報が発行された。)
(ア) 「【0009】
上記した製造方法では、半導体素子を用意する工程において、半導体素子の下面電極にレーザを照射するアニール工程を実施する。このアニール工程では、下面電極の第1領域に第1の強度を有するレーザを照射する一方で、下面電極の第1領域を取り囲む第2領域には、第1の強度よりも弱い第2の強度を有するレーザを照射する。又は、第2領域にはレーザを照射しない。その結果、半導体素子の第2領域では、アニール処理に起因する強度の低下が生じないか、又はその程度が小さく、半導体素子の機械的な強度が維持される。ここで、第2領域は第1領域を取り囲む領域であるとともに、第1領域と第2領域との境界は、平面視において第2接合領域の外周縁よりも中心側に配置される。このような関係により、第2領域には、半導体素子において大きな引張応力が生じ得る領域(即ち、前述した外周部分と中心部分との間の領域)が含まれる。大きな引張応力が生じ得る領域において、半導体素子の強度が維持されることから、半導体素子の損傷が抑制される。その一方で、半導体素子の中心部分が含まれる第1領域では、生じる引張応力が比較的に小さいことから、アニール処理を十分に行うことができ、半導体基板と電極との間に良好なオーミックコンタクトを形成することができる。
・・・(中略)・・・
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面を参照して、実施例の半導体装置10とその製造方法について説明をする。図1に示すように、半導体装置10は、半導体素子12、下面側導体板18、上面側導体板20、導体スペーサ22、及びモールド樹脂24を備える。半導体素子12は、モールド樹脂24内に封止されている。モールド樹脂24は、絶縁性を有する材料で構成されている。特に限定されないが、モールド樹脂24を構成する材料は、エポキシ樹脂といった熱硬化性の樹脂材料であってもよい。
【0012】
半導体素子12は、上面電極14と下面電極16とを備える。上面電極14は半導体素子12の上面12aに位置しており、下面電極16は半導体素子12の下面12bに位置している。半導体素子12の具体的な種類や構造は特に限定されない。半導体素子12は、例えばMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)、又はIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などのパワー半導体素子であってよい。また半導体素子12は、例えばシリコン(Si)、炭化ケイ素(SiC)、又は窒化ガリウム(GaN)といった各種の半導体材料を用いて構成されることができる。上面電極14及び下面電極16を構成する材料には、特に限定されないが、例えばアルミニウム系又はその他の金属を採用することができる。
・・・(中略)・・・
【0020】
図4は、半導体素子12に生じる引張応力をCAE(Computer aided Engineering)解析によって求めた結果を示す。図4(B)は、通電とその停止を繰り返すパワーサイクルの回数(1000回、2000回、3000回)ごとに、半導体素子12に生じる引張応力(低温時)を示し、図4(A)、(C)は、その引張応力が生じた位置をそれぞれ模式的に示す断面図及び下面電極16の平面図である。図4から理解されるように、半導体素子12の下方へ変位する外周部分A2と、上方へ変位する中心部分A1との間の領域A3において、比較的に大きな引張応力が生じる。また、半導体素子の中心部分A1においては、比較的に応力が生じ難いことがわかる。
【0021】
上記のように、半導体素子12において損傷が生じやすい領域は、大きな引張応力が生じ得る領域、即ち、外周部分A2と中心部分A1との間の領域A3であることがわかる。従って、半導体素子12の損傷を抑制するためには、少なくとも外周部分A2と中心部分A1との間の領域A3において、半導体素子12の強度を高めることが有効である。そのために、本技術では半導体素子12のアニール処理に着目した。一般に、半導体素子12の製造工程では、上面電極14や下面電極16と半導体基板(図示省略)との間において良好なオーミックコンタクトを形成するために、上面電極14及び下面電極16が形成された後の半導体素子12にアニール処理工程が実施される。半導体素子12を加熱するアニール処理は、半導体素子12の強度を低下させるという副次的な影響をもたらす。この点に関して、レーザを用いて半導体素子12を局所的に加熱するレーザアニールであれば、半導体素子12の強度が必要とされる領域とその他の領域とを区別して、アニール処理の有無又は程度を選択的に変更することができる。即ち、大きな引張応力が生じ得る領域A3では、アニール処理を省略するか、又はその程度を緩めることで、半導体素子12の強度を維持することができる。それに対して、大きな引張応力が生じ得ない領域A1では、アニール処理を十分に行うことで、上面電極14や下面電極16と半導体基板との間に良好なオーミックコンタクトを形成することができる。
【0022】
上記した技術に基づいて、本実施例の半導体装置10に適用された製造方法を説明する。この製造方法は、上面電極14及び下面電極16を有する半導体素子12を用意する工程と、下面電極16にはんだ26を介して下面側導体板18を接合する工程と、上面電極14にはんだ28を介して導体スペーサ22を接合する工程と、を備える。前述したように、下面電極16にはんだ26を介して下面側導体板18が接合される第1接合領域C1の面積は、導体スペーサ22にはんだ28を介して導体スペーサ22が接合される第2接合領域C2よりも大きい。半導体素子12を用意する工程には、半導体素子12にレーザ照射をするアニール工程が含まれる。このアニール工程では、図5に示すように、半導体素子12の第1領域R1に第1の強度を有するレーザを照射する一方で、半導体素子12の第1領域R1を取り囲む第2領域R2には、第1の強度よりも弱い第2の強度を有するレーザを照射する。あるいは、第2領域R2にはレーザを照射しない。ここで、第1領域R1と第2領域R2との間の境界BLは、平面視において第2接合領域C2の外周縁よりも中心側に位置する。
【0023】
上記した製造方法では、半導体素子12を用意する工程において、半導体素子12の下面電極16にレーザを照射するアニール工程を実施する。このアニール工程では、まず下面電極16の第1領域R1に第1の強度を有するレーザを照射する。一方で、下面電極16の第1領域R1を取り囲む第2領域R2には、第1の強度よりも弱い第2の強度を有するレーザを照射する。又は、第2領域R2にはレーザを照射しない。その結果、半導体素子12の第2領域R2では、アニール処理に起因する強度の低下が生じないか、又はその程度が小さく、半導体素子の機械的な強度が維持される。ここで、第2領域R2は第1領域R1を取り囲む領域であるとともに、第1領域R1と第2領域R2との境界BLは、平面視において第2接合領域C2の外周縁よりも中心側に配置される。このような関係により、第2領域R2には、半導体素子12において大きな引張応力(特に、最大の引張応力)が生じ得る領域(即ち、前述した外周部分A2と中心部分A1との間の領域A3)が含まれる。大きな引張応力が生じ得る領域において、半導体素子の強度が維持されることから、半導体素子の損傷が抑制される。その一方で、半導体素子の中心部分が含まれる第1領域R1では、生じる引張応力が比較的に小さいことから、アニール処理を十分に行うことができ、半導体基板と各電極14、16との間に良好なオーミックコンタクトを形成することができる。」
(イ) 「【図4】
[図:0001396992000001.jpg]
」
イ 先願発明
上記アの段落0012、段落0021、及び段落0023の記載によると、先願明細書には次の発明(先願発明)が記載されているといえる。
「上面電極14や下面電極16と半導体基板との間において良好なオーミックコンタクトを形成するために、
上面電極14及び下面電極16が形成された後の半導体素子12にアニール処理工程が実施され、
レーザアニールにより
大きな引張応力が生じ得る領域A3では、アニール処理の程度を緩め、
大きな引張応力が生じ得ない領域A1では、アニール処理を十分に行う(段落0021)方法であって、
半導体素子12は、炭化ケイ素(SiC)を用いて構成されることができ(段落0012)、
半導体素子12の下面電極16にレーザを照射するアニール工程を実施し、
このアニール工程では、まず下面電極16の第1領域R1に第1の強度を有するレーザを照射し、一方で、下面電極16の第1領域R1を取り囲む第2領域R2には、第1の強度よりも弱い第2の強度を有するレーザを照射し、
第2領域R2には、半導体素子12において大きな引張応力が生じ得る領域が含まれる(段落0023)、
方法。」
(3)対比
本願補正発明と先願発明とを対比する。
ア(ア) 先願発明の半導体素子12に形成された「下面電極16」は、「半導体からなる基体上に形成した金属層」といえる。
また、先願発明の、アニール処理工程が実施され、半導体基板との間において良好なオーミックコンタクトが形成された下面電極16は、半導体基板に接合された金属層からなる電極といえる。
そうすると、「上面電極14や下面電極16と半導体基板との間において良好なオーミックコンタクトを形成するため」の方法である先願発明は、「半導体からなる」「基体に接合された該金属層からなる電極を有する半導体素子を得る製造方法」といえる点で本願補正発明と一致する。
(イ) 「半導体素子12の下面電極16にレーザを照射するアニール工程を実施」る先願発明において、レーザは、半導体素子の下面電極16側から照射されるものである。
そうすると、先願発明は、「半導体からなる基体上に形成した金属層へ該基体の反対面側からレーザーを照射する照射工程を備え」る点で本願補正発明と一致する。
(ウ) 以上のとおり、先願発明は、「半導体からなる基体上に形成した金属層へ該基体の反対面側からレーザーを照射する照射工程を備え、該基体に接合された該金属層からなる電極を有する半導体素子を得る製造方法」である点で本願補正発明と一致する。
イ 「レーザアニールにより、
大きな引張応力が生じ得る領域A3では、アニール処理の程度を緩め、
大きな引張応力が生じ得ない領域A1では、アニール処理を十分に行う方法であって、
・・・
このアニール工程では、まず下面電極16の第1領域R1に第1の強度を有するレーザを照射し、一方で、下面電極16の第1領域R1を取り囲む第2領域R2には、第1の強度よりも弱い第2の強度を有するレーザを照射し、
第2領域R2には、半導体素子12において大きな引張応力が生じ得る領域が含まれる」先願発明は、レーザーアニール処理の程度をレーザーの「エネルギー密度」ではなくレーザーの「強度」で表現している点で一応相違するが、
「前記照射工程は、前記金属層の第1領域へ低いアニール処理の程度となるレーザーを照射する第1工程と、
該金属層の第2領域へ該強度の高いアニール処理の程度となるレーザーを照射する第2工程とを少なくとも備え、
該第1領域には該第2領域よりも大きな引張応力が作用し、」といえる点で、本願補正発明と共通する。
ウ 「半導体素子12は、炭化ケイ素(SiC)を用いて構成されることができ」る先願発明は、「該半導体は、SiCであり」といえる点で本願補正発明と一致する。
エ 以上を踏まえると、本願補正発明と先願発明とは、
「半導体からなる基体上に形成した金属層へ該基体の反対面側からレーザーを照射する照射工程を備え、該基体に接合された該金属層からなる電極を有する半導体素子を得る製造方法であって、
前記照射工程は、前記金属層の第1領域へ低いアニール処理の程度となるレーザーを照射する第1工程と、
該金属層の第2領域へ高いアニール処理の程度となるレーザーを照射する第2工程とを少なくとも備え、
該第1領域には該第2領域よりも大きな引張応力が作用し、
該半導体は、SiCである半導体素子の製造方法。」である点で一致し、本願補正発明がレーザーを「パルスレーザーである」と特定し、レーザーアニール処理の程度をレーザーの「エネルギー密度」で表現しているのに対し、先願発明は、レーザーを「パルスレーザー」と特定せず、また、レーザアニール処理の程度をレーザーの「強度」で表現している点で一応相違する。
オ 上記一応の相違について検討する。
原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用された特表2007-534143号公報の段落0069に「当然のことながら、本明細書で記述する金属-SiCオーミックコンタクトをアニーリングするために用いるレーザ光は、金属層とSiC基板との界面で金属シリサイド材を形成するのに十分な波長と強度とを有するレーザ光である。例えば、6H SiCを基板として用いる実施形態においては、約248ナノメートルから約308ナノメートルの波長を有するレーザ光を、約30ナノ秒のパルス幅を持つ単一パルスを用いて1平方センチメートルあたり約2.8ジュールのエネルギーで入射させることによりレーザアニーリングを行うことができる。また、本発明の別の実施形態においては、SiC基板が4H SiCであるとすると、レーザ光は、約248ナノメートルから約308ナノメートルの波長と、約30ナノ秒のパルス幅を持つパルスを約5パルス用いて1平方センチメートルあたり約4.2ジュールのエネルギーとを有することができる。本発明によるさらに別の実施形態においては、他の波長およびエネルギーを用いて、SiC基板のバンドギャップを超える光子エネルギーを含む光の吸収によって、金属層とSiC基板との界面部でのアニーリングを行ってもよい。当然のことながら、パルスレーザおよび/または連続ループレーザを利用してもよい。」と記載されているように、レーザアニーリングをパルスレーザーで行うことは周知技術であるから、レーザアニーリングを行うレーザを特定していない先願発明は、レーザアニーリングをパルスレーザーで行うことを排除していない。
また、引用文献2の上記記載のとおり、レーザーアニールの程度を、1平方センチメートルあたりのエネルギーであるレーザーの「エネルギー密度」で表現することも周知技術にすぎない。
そして、レーザアニーリングのアニール処理の程度を「エネルギー密度」で表現し、その調整を、パルスレーザーで行うことにより特に新たな効果を奏するとはいえないから、上記エの本願補正発明と先願発明との一応の相違は、課題解決のための具体化手段における微差といえる。
カ 以上のとおり、本願補正発明は、先願発明と実質同一であり、しかも、本願補正発明の発明者が先願発明の発明者と同一ではなく、また本願の出願の時において、本願の出願人が先願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 請求人の主張について
請求人は審判請求書で「(2)課題 本願発明は、半導体と電極をオーミックコンタクトさせるために、電極となる金属層へパルスレーザを照射してアニールすると、電極表面に窪み(凹部)ができて、その窪みが素子割れの起点になるという新たな知見(解決課題)に基づいてなされています([0008]~[0010]等)。
特に、電極表面にできた窪み(凹部)を起点とする素子割れは、最大電界強度がSiの約10倍あるSiC等を用いて半導体を薄くすればするほど、生じ易くなります。
ちなみに、連続波レーザー(CWレーザー)を照射してアニールすれば、素子割れの起点となる窪み(凹部)の形成自体は回避されますが、電極(金属層)の裏側にある素子形成領域まで伝熱により過熱され、絶縁膜(ゲート酸化膜等)等にダメージが及び易くなります。」(3ページ18行~最下行)、「このように引用文献1には、薄くできるSiCと金属層(電極)をオーミックコンタクトさせるためにパルスレーザを用いたときに生じる上述しました特有な課題について、具体的な記載もそれを想起させるような示唆等も、何らなされていないように存じます。
そうしますと、補正後の本願発明と引用文献1に記載された発明とは、決して、「課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)」(審査基準第III部第3章3.2)ではなく、恐れながら、両者が「実質同一」でないことは明白であると存じます。
なお、当然ながら、引用文献2にも、本願発明に関する課題や構成について具体的な記載や示唆等はなく、SiCとパルスレーザに関して触れられている程度であると存じます。」(4ページ24行~5ページ7行)と主張する。
しかしながら、本願明細書の段落0007に記載された先行技術文献として特許文献1として示されるWO2016/030963は、レーザーアニールを行うレーザーをパルスレーザーと特定した技術に関するものではなく、また、本願明細書の段落0008~0010に、パルスレーザを用いたときに生じる特有な課題が記載されているともいえないから、請求人の課題についての主張は、明細書の記載に基づくものとはいえない。
そして、「大きな引張応力が生じ得る領域において、半導体素子の強度が維持されることから、半導体素子の損傷が抑制される。その一方で、半導体素子の中心部分が含まれる第1領域では、生じる引張応力が比較的に小さいことから、アニール処理を十分に行うことができ、半導体基板と電極との間に良好なオーミックコンタクトを形成することができる」(先願明細書段落0009)先願発明も、「オーミック性のみならず、信頼性(耐素子割れ性等)も確保できる電極を備えた半導体素子等を提供する」(本願明細書段落0009)本願補正発明と同様の作用効果を奏するものといえるから、新たな効果についての請求人の主張は理由がない。
したがって、請求人の主張は採用できない。
4 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和4年6月10日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和3年10月20日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1~8に係る発明は、先願発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない、というものである。
3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された先願及び先願明細書の記載事項は、前記第2[理由]2(2)アに記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本願補正発明から、「半導体」及び「レーザー」についての「該半導体は、SiCであり、該レーザーは、パルスレーザーである」との限定事項を削除し、本願補正発明の「該第1領域には該第2領域よりも大きな引張応力が作用し、」との特定事項を「該第1領域には該第2領域よりも大きな引張応力が作用し得る」としたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記第2[理由]2(3)のとおり、先願発明と実質同一であったのと同様に、本願発明も先願発明と同一である。
また、本願補正発明と同様に、本願発明の発明者は先願発明の発明者と同一ではなく、また本願の出願の時において、本願の出願人が先願の出願人と同一でもない。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-008930