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特許拒絶査定不服審判

2022-008807

ドコサヘキサエン酸含有油及びその製造方法

審判番号
2022-008807
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2017-554159外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2022年06月08日
審決日
2024年03月05日
公報発行日
2024年05月31日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .113-Z (C11B)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条1項3号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2017-554159「ドコサヘキサエン酸含有油及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年6月8日国際公開、WO2017/094804〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 8項目
理 由

第1 手続の経緯

折りたたみ中(クリックで表示)

本願は、2016年11月30日(優先権主張2015年12月1日(JP)日本国)を国際出願日とする出願であって、その後の手続の経緯は、概略、次のとおりである。

令和2年11月27日付け:拒絶理由通知書
令和3年 4月 6日 :意見書及び手続補正書の提出
令和3年 8月24日付け:拒絶理由通知書
令和3年10月25日 :意見書の提出
令和4年 3月 4日付け:拒絶査定(謄本の送達は、同年同月8日)
令和4年 6月 8日 :審判請求書の提出

第2 本願発明

本願の請求項1~24に係る発明は、令和3年4月6日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~24に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
油中の脂肪酸の合計重量の40重量%以上の濃度でドコサヘキサエン酸を含有し、示差走査熱量測定(DSC)により求められる吸熱ピークの温度が15℃以下である、微生物油。」

第3 原査定の理由

原査定の理由は、令和3年8月24日付け拒絶理由通知書に記載した理由1及び2によるものであり、そのうち理由1は、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、というものである。

<引用文献等一覧>

5.林 雅弘,藻類を活用する食品素材開発,生物工学会誌,日本,日本生物工学会,2013年,第91巻、第11号,p.621-624

以下、 林 雅弘,藻類を活用する食品素材開発,生物工学会誌,日本,日本生物工学会,2013年,第91巻、第11号,p.621-624 を「引用文献5」という。

第4 当審の判断

当審は、原査定の理由1のとおり、本願発明は、引用文献5に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないと判断する。

理由は、以下のとおりである。

1 引用文献5の記載事項

折りたたみ中(クリックで表示)

原査定の理由1に引用された引用文献5には、次の記載がある。

記載(1)

「ラビリンチュラ類の利用
海洋性の徴生物や微細藻類の中には,DHAやエイコサペンタエン酸(EPA)などのn-3 PUFAを生産するものがいくつも知られているが,高い増殖性や脂質蓄積性からラビリンチュラ類の産業利用が各方面で検討されている.ラビリンチュラ類のなかでもヤブレツボカビ科に属するスラウストキトリッド(Thraustochytrids)は増殖性や脂質蓄積性の点から産業利用には適していると考えられる.スラウストキトリッドには,これまで応用面での検討例が多いオーランチオキトリウム(Aurantiochytrium),シゾキトリウム(Schizochytrium)などの1l属が含まれることが最近の分子系統解析6,7)によって示されており,いずれの属のスラウストキトリッドもDHAやEPA,ドコサペンタエン酸(DPA),アラキドン酸(ARA)などのPUFAを細胞内に蓄積する.
筆者らはこれまでにさまざまなスラウストキトリッドを天然海から分離し,現在およそ2000株の菌株ライブラリーを保有しているが,その中でも沖縄県波照間島の沿岸海水から分離したAurantiochytrium limacinum mh0186株(図5)は高い増殖性と著量のDHAを細胞内に蓄積することを特徴とする分離株である8).
15%グルコースのような高い糖濃度でも増殖が可能で,グルコースの流加培養で100g/L以上の高いバイオマス収量を得ることができる.さらに,培養温度については15~35℃の広い温度帯で良好な増殖を示し,増殖速度は落ちるものの,10℃でも増殖が認められる9).
また,A.limacinum mh0186株の乾燥細胞中の脂質含量は60~65%に達し,脂肪酸組成(図6)をみると,培養条件にかかわらず細胞の主要な脂肪酸はパルミチン酸,n-6 DPA,DHAであり,EPAやARA,モノエン酸~トリエン酸はほとんど含まれない.培養温度が低いほど総脂肪酸中のDHAの割合が高くなる傾向にあり,10℃で培養した細胞では,総脂肪酸中に占めるDHAの割合は70%近くに達する.」(623頁左欄13行~右欄17行)

2 引用発明

記載(1)の「……沖縄県波照間島の沿岸海水から分離したAurantiochytrium limacinum mh0186株(図5)は高い増殖性と著量のDHAを細胞内に蓄積することを特徴とする分離株である….」との記載及び「…、A.limacinum mh0186株の乾燥細胞中の脂質含量は60~65%に達し,…….培養温度が低いほど総脂肪酸中のDHAの割合が高くなる傾向にあり,10℃で培養した細胞では,総脂肪酸中に占めるDHAの割合は70%近くに達する.」との記載により、10℃で培養したAurantiochytrium limacinum mh0186株の細胞から脂質を得たこと、及び総脂肪酸中に占めるDHAの割合は70%近くに達することが示されている。

したがって、引用文献5には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「10℃で培養したAurantiochytrium limacinum mh0186株の細胞から得られる、総脂肪酸中に占めるDHAの割合が70%近くに達する脂質。」

3 対比・判断

(1)対比

本願発明にいう「微生物」に関して、本願明細書には、

「【0042】
なかでも微生物としては、ラビリンチュラ綱に属する微生物が好ましく、その中でも、ヤブレツボカビ類(Thraustochtrid)に属する微生物が特に好ましい。ヤブレツボカビ類に属する微生物としては、例えば、……、アウランティオキトリウム属(Aurantiochytrium)、……に属する微生物が好ましく、その中でも特に好ましくは、アウランティオキトリウム属微生物からなる群より選択された少なくとも1種の微生物を選択することができる。
【0043】
アウランティオキトリウム属微生物としては、アウランティオキトリウム・リマシナム(Aurantiochytrium limacinum)、……からなる群より選択される少なくとも1つを選択することができ、特に微生物の増殖性の点で、アウランティオキトリウム・リマシナム(Aurantiochytrium limacinum)を選択することができる。」

との記載があり、引用発明にいう「Aurantiochytrium limacinum mh0186株」は「アウランティオキトリウム・リマシナム(Aurantiochytrium limacinum)」に属する株と認められることから、引用発明にいう「Aurantiochytrium limacinum mh0186株」は、本願発明にいう「微生物」に相当する。

そして、本願発明にいう「微生物油」に関して、本願明細書には、

「【0015】
本明細書において、「油」又は「油脂」とは、常温常圧、即ち25℃1気圧下で水に不溶の有機物の混合物であり、トリグリセリドのみを含む油と、トリグリセリドを主成分とし、ジグリセリド、モノグリセリド、リン脂質、コレステロール、遊離脂肪酸等の他の脂質が含まれている粗油も含む。「油」又は「油脂」は、これらの脂質を含む組成物を意味する。」及び
「【0016】
本明細書において「微生物油」とは、微生物バイオマスを起源として得られる油を意味し、微生物油には、飽和又は不飽和脂肪酸、リン脂質、ステロール、グリセロール、セラミド、スフィンゴ脂質、テルペノイド、フラボノイド、トコフェロール等の油性成分が含まれる。飽和又は不飽和脂肪酸は、他の油性成分における構成脂肪酸として存在する場合もある。」

と記載されていることから、引用発明にいう「10℃で培養したAurantiochytrium limacinum mh0186株の細胞から得られる、……脂質。」は、本願発明にいう「微生物油」に相当する。

引用発明にいう「DHA」は、本願明細書の段落0002に「ドコサヘキサエン酸(以下、DHAと略すことがある)」との記載があることにも示されるように、「ドコサヘキサエン酸」と同義であり、引用発明にいう「総脂肪酸中に占めるDHAの割合が70%近くに達する脂質。」は、本願発明にいう「油中の脂肪酸の合計重量の40重量%以上の濃度でドコサヘキサエン酸を含有」する「微生物油」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明を対比すると、両者は、

(一致点)

「油中の脂肪酸の合計重量の40重量%以上の濃度でドコサヘキサエン酸を含有する微生物油。」である点で一致し、

(相違点)

本願発明では、

「示差走査熱量測定(DSC)により求められる吸熱ピークの温度が15℃以下である」との特定がされる一方、

引用発明では、その特定がされていない点で、一見相違する。

(2)相違点の判断

引用発明は、上記2に示したとおり、10℃で培養したAurantiochytrium limacinum mh0186株の細胞から得られるものであるところ、上記1の記載(1)には「培養温度については15~35℃の広い温度帯で良好な増殖を示し,増殖速度は落ちるものの,10℃でも増殖が認められる….」との記載があって、10℃でもAurantiochytrium limacinum mh0186株の増殖が認められることが示されていることから、増殖が認められる温度である10℃におけるAurantiochytrium limacinum mh0186株の細胞内の脂質はその大部分が凝固していないものであると考えられること、及びDHAの融点は-44℃程度であることが知られていることを考慮すれば、Aurantiochytrium limacinum mh0186株の細胞から得られる脂質は、その大部分が10℃では凝固しないものであることが明らかである。

ここで、一般に、示差走査熱量測定(DSC)では、試料の融解などに伴う相転移に対応した温度の吸熱ピークが得られる。

どんな脂質であっても極めて低い温度では凝固するものであるから、10℃で培養したAurantiochytrium limacinum mh0186株の細胞に蓄積した脂質も、極めて低い温度では凝固するものであり、凝固している温度から10℃までの間に融解に伴う相転移が生じる温度、すなわち、「示差走査熱量測定(DSC)により求められる吸熱ピークの温度」が、少なくとも1つは存在することは明らかである。

凝固している温度から10℃までの温度は、本願発明にいう「15℃以下」に該当するから、引用発明も「示差走査熱量測定(DSC)により求められる吸熱ピークの温度が15℃以下である」ものに該当する。

よって、上記相違点は実質的な相違点ではなく、本願発明は引用発明である。

(3)審判請求人の主張の検討

折りたたみ中(クリックで表示)

審判請求人は、審判請求書[請求の理由]2.において、

・主張ア;

「……、DSC流動点と凝固点とが同じではありません。
ご参考に、添付書類1(Netsu Sokutei 41(3)、104-112(2014))を本審判請求書に添付いたします。油脂に対して熱測定を行うと、添付書類1の図4に示されるような加熱曲線が得られます。ここで、本発明ではDSC流動点を「得られたDSC曲線における吸熱ピークのうちの極大値における温度を、DSC流動点(℃)とする。」と定義しており(段落0032)、添付書類1の図4でいえば、β-meltの温度となります。その一方、原審査官殿が指摘されてる凝固点が、流動性を持たない固体となる温度と解釈するのであれば、その値は、最も安定なβ型の結晶物の融解する温度(Fig. 5)とは異なります。
複数の結晶形が存在することにより、アルキル基が全てパルミチン酸であるトリパルミトイルグリセロールですら、DSC吸熱ピークは予測できないところ、複数種の脂肪酸からなるトリアシルグリセロールであって、各脂肪酸組成の組成比も多様な構成を有する微生物油について、脂肪酸組成のみによってDSC流動点を正確に予測することは不可能です。
以上より、「脂肪酸組成によってDSCが決まることは技術常識である」、並びに「DSCは、油脂の凝固点を明らかにするもの」という審査官殿のご認定は妥当ではありません。」(「(2)原審査官殿のご認定に対する反論」の項)、

・主張イ;

「引用文献5では、10℃で培養した細胞では、総脂肪酸中に占めるDHAの割合は70%近くに達するとありますが、脂肪酸組成によってDSCは決まらないという点は、(2)の欄において反論した通りであります。
引用文献5において、10℃で培養した細胞で70%以上のDHAを含有したからといって、DSC流動点が15℃以下になることは全く示されていませんし、その蓋然性もありません。」(「(5)発明の対比」の項の第一段落)、及び

・主張ウ;

「本発明では、変異株に対しコロニー形状によるスクリーニング方法を行うことで初めて、クレームで特定された低DSC流動点の微生物油を生じる微生物が取得できたものであり、そのようなスクリーニングを経ない野生株(NBL-8)ではDSC流動点は15℃以下になることはありません。
そうすると、本発明の野生株(NBL-8)と同じ種である引用文献5に記載のAurantiochytrium limacinum mh0186株から得られ微生物油についても、DSC流動点が15℃を超えている蓋然性が高く、本発明の新規性は否定されるべきではないと思料します。
……。」(「(5)発明の対比」の項の第二段落)

などと主張する。

上記審判請求人の主張について検討する。

上記主張アでは「…、本発明ではDSC流動点を「得られたDSC曲線における吸熱ピークのうちの極大値における温度を、DSC流動点(℃)とする。」と定義しており(段落0032)、……。」と主張し、その「DSC流動点(℃)」の定義の下、本願発明は「DSC流動点(℃)が15℃以下である」ものであることを前提にして、上記主張ア~主張ウがされている。

しかし、本願発明は、「DSC流動点(℃)が15℃以下である」又は「得られたDSC曲線における吸熱ピークのうちの極大値における温度が15℃以下である」ことを発明特定事項とするものではなく、「示差走査熱量測定(DSC)により求められる吸熱ピークの温度が15℃以下である」ことを発明特定事項とするものであって、得られたDSC曲線における吸熱ピークの個数及び大小等には関係なく、15℃以下に一つでも吸熱ピークがあれば本願発明の当該発明特定事項に該当すると解されるから、上記主張ア~主張ウは特許請求の範囲の記載に基づかない主張である。

また仮に、上記主張アに述べられているように、審判請求書に添付された添付書類1に示されるような結晶多形転移による複数の吸熱ピークが引用発明においても生じるとしても、あるいは、上記主張イに述べられているように、「脂肪酸組成によってDSCは決まらない」といえるとしても、引用発明が、極めて低い温度では凝固するものであり、凝固している温度から10℃までの間に、融解に伴う相転移が生じる温度、すなわち、「示差走査熱量測定(DSC)により求められる吸熱ピークの温度」が存在することを否定する根拠にはならないから、引用発明が「示差走査熱量測定(DSC)により求められる吸熱ピークの温度が15℃以下である」ものには該当しないとすることはできない。

また、主張ウについては、本願明細書の段落0135~0141に、アウランティオキトリウム・リマシナムの野生株の一つである「NBL-8株」を培養して得られた微生物油のDSC流動点(℃)は、20℃で培養して得られた微生物油では16.6℃、26℃で培養して得られた微生物油では19.1℃であったことが記載されている。

しかし、微生物油の組成・特性は、微生物の種のみならず、培地及びフィード液の組成並びに培養温度等の培養条件によっても異なることが技術常識であって、引用発明に係るAurantiochytrium limacinum mh0186株と同種の微生物の異なる株である「NBL-8」株を特定組成の培地及びフィード液を用いて20℃または26℃で培養して得られた微生物油のDSC流動点(℃)は、10℃で培養したAurantiochytrium limacinum mh0186株の細胞から得られるものである引用発明について「示差走査熱量測定(DSC)により求められる吸熱ピーク」が15℃以下には一つも存在しないことの根拠にはならないから、引用発明が「示差走査熱量測定(DSC)により求められる吸熱ピークの温度が15℃以下である」ものには該当しないとすることはできない。

以上のとおり、審判請求人のいずれの主張によっても、引用発明が「示差走査熱量測定(DSC)により求められる吸熱ピークの温度が15℃以下である」ものには該当しないとすることはできず、本願発明は引用発明であるとの判断を覆すことはできない。

第5 むすび

以上のとおり、本願発明は、引用文献5に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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2022-008807

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