特許拒絶査定不服審判
2022-006148
噴射孔プレート、液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置
- 審判番号
- 2022-006148
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-218697外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年04月22日
- 審決日
- 2023年03月28日
- 公報発行日
- 2023年06月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】エスアイアイ・プリンテック株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人つばさ国際特許事務所
- 分類
- P18 .121-Z (B41J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2017-218697「噴射孔プレート、液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 6月13日出願公開、特開2019- 89232〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成29年11月14日の出願であって、令和3年7月28日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、同年9月29日に意見書及び手続補正書が提出されたが、令和4年1月27日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされたのに対し、同年4月22日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。
第2 本願発明
本願の請求項1乃至8に係る発明は、令和3年9月29日に提出された手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1乃至8に記載された事項により特定され、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は以下のとおりである。
「【請求項1】
液体噴射ヘッドに用いられる噴射孔プレートであって、
複数の噴射孔が設けられた金属基板を備え、
前記金属基板において、各前記噴射孔の噴出口端縁の結晶粒の平均サイズが、前記噴出口端縁を取り囲む周囲領域の結晶粒の平均サイズよりも小さくなっている
噴射孔プレート。」
第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由である、令和3年7月28日付け拒絶理由通知の理由は、次の理由を含むものである。
(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
・請求項 1-3、5-7
・引用文献等 1
・請求項 4
・引用文献等 1-4(引用文献2-4は技術常識を示す文献として引用)
<引用文献等一覧>
1.特開2014-43029号公報
2.特開2015-227027号公報(技術常識を示す文献)
3.特開昭56-134026号公報(技術常識を示す文献)
4.国際公開第2014/181882号(技術常識を示す文献)
ここで、原査定の理由は、「この出願については、令和3年7月28日付け拒絶理由通知書に記載した理由3によって、拒絶をすべきものです。」であることからすれば、請求項1に係る発明は、引用文献1から容易に発明できたものとの理由であると解せる。
また、原査定の備考欄には、「・請求項 1-3、5-8 ・引用文献等 1、4」及び「本願の請求項1-3、5-8に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献4等に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。」と記載されているものの、「引用文献1に記載された発明は、本願の請求項1-3の構成を有する蓋然性が高い。」及び「ここで、出願人が主張するとおり、パンチ加工の際に使用するダイについては引用文献1に記載がない。 しかし、ダイ上の鋼板をパッドで押さえた後、パンチによって鋼板を剪断加工する技術は周知であるところ(例えば、引用文献4(段落[0065]参照。)等を参照。)」と記載されていることからすれば、請求項1に対する引用文献は引用文献1のみであって、引用文献4は、請求項4に対して引用したものであって、出願人(請求人)の主張に対して、周知技術の根拠として例示したにすぎない。
そうすると、本願発明に対する、拒絶の理由は、引用文献1に基づく進歩性の欠如であると認める。
第4 当審の判断
1 引用例
本願の出願日前に頒布された公開公報である特開2014-43029号公報(以下「引用例」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は液体吐出ヘッド及び画像形成装置に関する。」
(2)「【0055】
図6(a)に示すように、例えば厚さ50μmのSUS材320を用意する。ここでは、ステンレス(SUS316)を使用した。
【0056】
そして、図6(b)に示すように、テーパー部323とストレート部324を持つパンチ321により、ノズル位置にプレス加工する。
【0057】
その後、図6(c)に示すように、プレス加工で生じた凸部分325を研磨することにより開口して、ノズル孔41を形成したノズル基材31を形成する。このとき、研磨によって、ノズル孔41の滴吐出面側周辺部には、前述したように、滑らかな凹み形状部が形成される。」
(3)「【0076】
この画像形成装置は、ライン型画像形成装置であり、装置本体401の内部に画像形成部402等を有し、装置本体401の下方側に多数枚の記録媒体(用紙)403を積載可能な給紙トレイ404を備えている。
【0077】
そして、給紙トレイ404から給紙される用紙403を取り込み、搬送機構405によって用紙403を搬送しながら画像形成部402によって所要の画像を記録した後、装置本体401の側方に装着された排紙トレイ406に用紙403を排紙する。
【0078】
また、装置本体401に対して着脱可能な両面ユニット407を備え、両面印刷を行うときには、一面(表面)印刷終了後、搬送機構405によって用紙403を逆方向に搬送しながら両面ユニット407内に取り込み、反転させて他面(裏面)を印刷可能面として再度搬送機構405に送り込み、他面(裏面)印刷終了後排紙トレイ406に用紙403を排紙する。
【0079】
ここで、画像形成部402は、例えばブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の各色の液滴を吐出する、フルライン型の本発明に係る液体吐出ヘッドで構成した記録ヘッド411k、411c、411m、411y(色を区別しないときには「記録ヘッド411」という。)を備えている。
【0080】
各記録ヘッド411は液滴を吐出するノズルを形成したノズル面を下方に向けてヘッドホルダ413に装着している。なお、フルライン型とは、1つで1ライン分を構成する場合も、複数のヘッドを千鳥状に配置して1ライン分を構成する場合のいずれも含まれる。
【0081】
また、各記録ヘッド411に対応してヘッドの性能を維持回復するための維持回復機構412k、412c、412m、412y(色を区別しないときには「維持回復機構412」という。)を備えている。
【0082】
そして、パージ処理、ワイピング処理などのヘッドの性能維持動作時には、記録ヘッド411と維持回復機構412とを相対的に移動させて、記録ヘッド411のノズル面に維持回復機構412を構成するキャッピング部材などを対向させる。
【0083】
なお、ここでは、記録ヘッド411は、用紙搬送方向上流側から、ブランク、シアン、マゼンタ、イエローの順に各色の液滴を吐出する配置としているが、配置及び色数はこれに限るものではない。
【0084】
また、ライン型ヘッドとしては、各色の液滴を吐出する複数のノズル列を所定間隔で設けた1又は複数のヘッドを用いることもできるし、ヘッドとこのヘッドにインクを供給する液体カートリッジを一体とすることも別体とすることもできる。」
(4)「
[図:0001397850000001.jpg]
」
(5)「
[図:0001397850000002.jpg]
」
そうすると、上記記載事項(1)乃至(5)より、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「ステンレス(SUS316)を使用し、テーパー部323とストレート部324を持つパンチ321により、ノズル位置にプレス加工し、プレス加工で生じた凸部分325を研磨することにより開口して、複数のノズル孔41を形成した、記録ヘッドに装着されているノズル基材31。」
2 当審の判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
後者の「記録ヘッド」、「ノズル基材31」、「複数のノズル孔41」及び「ステンレス(SUS316)」は、それぞれ、前者の「液体噴射ヘッド」、「噴射孔プレート」、「複数の噴射孔」及び「金属基板」に相当する。
(2)本願発明と引用発明の一致点と相違点について
上記(1)の対比を踏まえると、本願発明と引用発明とは、つぎの一致点で一致し、相違点において相違する。
[一致点]
「 液体噴射ヘッドに用いられる噴射孔プレートであって、
複数の噴射孔が設けられた金属基板を備える、
噴射孔プレート。」
[相違点]
本願発明が、「金属基板において、各噴射孔の噴出口端縁の結晶粒の平均サイズが、前記噴出口端縁を取り囲む周囲領域の結晶粒の平均サイズよりも小さくなっている」のに対し、引用発明の「ノズル基材31」の結晶粒のサイズは、定かでない点。
(3)上記相違点についての検討
ア 本願発明の「噴射孔プレート」について、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」という。)には、以下のとおり記載されている。
「【0055】
[ノズルプレート41の製造方法]
次に、ノズルプレート41の製造方法について説明する。図7A~図7Cは、ノズルプレート41の製造工程の一例を表す断面図である。
【0056】
まず、金属基板100を用意する(図7A)。金属基板100は、SUS316やSUS304をはじめとするステンレス鋼によって形成されている。金属基板100の一方の面が第1主面100Aとなっており、金属基板の100の他方の面が第2主面100Bとなっている。なお、金属基板100を加工することにより上述の金属基板410となる。また、金属基板100の第1主面100Aが金属基板410の噴出側主面410Aとなる面であり、金属基板100の第2主面100Bが金属基板410の流入側主面410Bとなる面である。
【0057】
次に、パンチ加工を行う。まず、ノズルプレート41のノズル孔H1におけるX軸方向に沿った形成ピッチと同一ピッチの複数の貫通孔300Hを有するダイ300上に、第2主面100Bを上にして、金属基板100を固定する。各貫通孔300Hの径は、後述のパンチ200の円柱部220の径よりも大きくなっている。各貫通孔300Hの径と、円柱部220の径とは、パンチ加工の結果、金属基板100のうち、後述の凹部100Cの周囲(後に噴出口端縁Eaとなる領域)が、オーステナイトからマルテンサイトに変質するような関係となっている。つまり、各貫通孔300Hの径と、円柱部220の径とが、加工誘起マルテンサイト変態を発生させる大きさとなっている。
【0058】
続いて、金属基板100の第2主面100Bを1または複数のパンチ200で押圧する。具体的には、金属基板100の第2主面100Bのうち、各貫通孔300Hと対向する箇所を1または複数のパンチ200で押圧する。これにより、第2主面100Bに複数の凹部100Cを形成するとともに、第1主面100Aのうち、各凹部100Cと対向する位置に凸部100Dを形成する(図7B)。
【0059】
ここで、パンチ200は、円錐台形状のテーパー部210と、テーパー部210の先端に接して形成された円柱部220とを有している。そのため、パンチ200の押圧により形成された凹部100Cは、パンチ200の形状を反転させた形状となっており、具体的には、円錐台形状のテーパー孔部と、テーパー孔部と連通する円柱孔部とを有している。このとき、凹部100Cは、金属基板100の厚さ(第1主面100Aと第2主面100Bとの距離)よりも深くなっている。
【0060】
次に、研磨を行う。具体的には、各凸部100Dを機械研磨によって削り、各凹部100Cを貫通させることにより、複数のノズル孔H1,H2を形成する(図7C)。ここで、機械研磨としては、例えば、テープ500による研磨(テープ研磨)などが挙げられる。テープ500は、例えば、厚さ75μm程度の長尺なポリエステルフィルムの一方の面に、複数の砥粒が接着剤によりほぼ全面に亘って固定されたものである。
【0061】
なお、ノズル孔H1,H2の流入口Hin(ノズル孔H1,H2のアクチュエータプレート42側の端部)近傍に、パンチ200の押圧に伴ってうねりが生じることがある。その場合には、機械研磨により、各凸部100Dを削ることに加えて、第2主面100Bをより平坦にしてもよい。その結果、第2主面100Bは概ね平坦となる。
【0062】
ところで、例えば、上記の機械研磨に伴って、ノズル孔H1の噴出口Houtにバリが生じることがある。その場合には、噴出口端縁Eaが丸みを帯びた形状となるように、金属基板100に対して、化学研磨、電解研磨、または、化学機械研磨を行ってもよい。このようにして、ノズルプレート41が製造される。」
イ 上記アの記載からすると、本願発明の「噴射孔プレート」と引用発明の「ノズル基材31」とは、“SUS316”を材料とする点で共通し、“円錐台形状のテーパー部と、テーパー部の先端に接して形成された円柱部とを有するパンチ”を用いて前記“SUS316”にパンチ加工を行う点でも共通する。
ウ そうすると、本願発明の「噴射孔プレート」と引用発明の「ノズル基材31」とは、用いる材料の点で共通し、ノズル孔の形成工程においても共通するものであることから、両者の特性は同じものとなっている蓋然性が高い。
エ そして、上記相違点は、「噴射孔プレート」の特性であることからすると、引用発明の「ノズル基材31」も同じ特性を有している蓋然性が高いことから、引用発明において、上記相違点とすることは、当業者が容易に想到し得るものであると認める。
(4)請求人の主張について
請求人は、“本願発明の「前記金属基板において、各前記噴射孔の噴出口端縁の結晶粒の平均サイズが、前記噴出口端縁を取り囲む周囲領域の結晶粒の平均サイズよりも小さくなっている」との発明特定事項について、引用文献1には記載も示唆もされていません。また、パンチ加工の際に使用するダイの構成についても、引用文献1には記載も示唆もされておらず、結果として、引用文献1の記載から、引用発明1のノズル板が本願発明の構成要件を満たすものであるかを看取することはできないものと思料致します。さらに、「ワイピングに伴う摩擦によって各ノズル孔の噴出口に損傷が発生することにより、吐出特性が悪化した結果、ノズルプレートの寿命が短くなるおそれがある。」(本願明細書段落[0064])との課題についても、引用文献1には記載も示唆もされていません。「噴出口端縁Eaが周囲領域Ebよりも高硬度となるので、各ノズル孔H1,H2の噴出口Houtが設けられた面をクリーニングのためにワイピングした場合であっても、噴出口端縁Eaに損傷が生じるおそれが少ない。従って、ノズルプレート41の寿命を延ばすことが可能となる。」(本願明細書段落[0065])との本願発明の作用効果についても、引用文献1には記載も示唆もされていません。これらのことは、引用文献2~4においても当てはまっております。そのため、当業者が上記課題に直面した際に、「結晶粒の平均サイズ」という物性値に着目した上で、上記発明特定事項を規定することについては、各引用文献の記載に基づいて容易に想到できないと思料いたします。”旨、主張する。
しかし、上記(3)のとおり、本願発明の「噴射孔プレート」と引用発明の「ノズル基材31」とは、同じ特性を有している蓋然性が高いのであるから、引用発明の「ノズル基材31」においても、寿命を延ばすという効果を奏するものと推認できる。
また、パンチ加工において、ダイを使用することは、引用文献4に示されているように、一般的な技術常識といえる事項である。
なお、請求人は、引用発明の「ノズル基材31」に結晶粒の特定がされていないと主張するが、本願発明の「噴射孔プレート」と引用発明の「ノズル基材31」とで、結晶粒のサイズが異なることについては、何ら反論していないことからしても、本願発明の「噴射孔プレート」と引用発明の「ノズル基材31」とは、同じ特性を有している蓋然性が高いといえる。
よって、上記請求人の主張は採用できない。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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