2022-006003
心不全インジケータ
- 審判番号
- 2022-006003
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-561296外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年04月21日
- 審決日
- 2023年02月06日
- 公報発行日
- 2023年07月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】インペディメッド・リミテッド
- 【請求人代理人】村山 靖彦
- 【請求人代理人】実広 信哉
- 【請求人代理人】阿部 達彦
- 分類
- P18 .121-Z (A61B) / P18 .575-Z (A61B) / P18 .113-Z (A61B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 11項目
第1 手続の経緯
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本願は、2017年(平成29年)2月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2016年2月16日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、令和2年2月13日に手続補正書が提出され、令和3年3月10日付けで拒絶理由が通知され、同年7月21日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月17日付けで拒絶査定(原査定)がされた(謄本の送達日:同月24日)ところ、令和4年4月21日に拒絶査定不服審判の請求がされ、それと同時に手続補正がされ、同年8月26日に実質的な主張を伴う上申書が提出されたものである。
第2 令和4年4月21日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年4月21日にされた手続補正(以下「本件補正」ということがある。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線は、補正箇所を示す。)
「【請求項1】生物の被験者において心不全疾病状態を示す心不全インジケータを決定するためのシステムであって、a)駆動信号を生成するように適合される、使用時に前記被験者に電気的に接触して設けられる第1の電極に結合される少なくとも1つの信号発生器と、b)応答信号を測定するように適合される、使用時に前記被験者に電気的に接触して設けられる第2の電極に結合される少なくとも1つのセンサと、c)少なくとも1つの処理デバイスとを含み、前記少なくとも1つの処理デバイスが、i)前記少なくとも1つの信号発生器を少なくとも一部制御し、前記少なくとも1つのセンサから測定された応答信号の指示を受信し、少なくとも1つのインピーダンス測定が前記被験者の少なくとも1つの体の部位にわたって実行されることを可能にし、ii)第1の時間において前記被験者の前記少なくとも1つの体の部位にわたって少なくとも1つのインピーダンス測定を実行することによって得られる少なくとも1つの第1のインピーダンス値を使用して第1の体液レベルインジケータを決定し、iii) 第2の時間において前記被験者の前記少なくとも1つの体の部位にわたって少なくとも1つのインピーダンス測定を実行することによって得られる少なくとも1つの第2のインピーダンス値を使用して第2の体液レベルインジケータを決定し、iv) 前記第1と第2の体液レベルインジケータの間の差異を使用して体液レベル変化を決定し、前記体液レベル変化を使用して心不全インジケータを決定することによって、前記第1と第2の体液レベルインジケータを使用して前記心不全インジケータを決定し、前記第1と第2の体液レベルインジケータが体内総水分量に対する前記体の部位における細胞外体液レベルの比であり、前記体の部位が少なくとも前記被験者の肢と前記被験者の胴体とを含む、システム。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、令和3年7月21日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】生物の被験者において心不全疾病状態を示す心不全インジケータを決定するためのシステムであって、a)駆動信号を生成するように適合される、使用時に前記被験者に電気的に接触して設けられる第1の電極に結合される少なくとも1つの信号発生器と、b)応答信号を測定するように適合される、使用時に前記被験者に電気的に接触して設けられる第2の電極に結合される少なくとも1つのセンサと、c)少なくとも1つの処理デバイスとを含み、前記少なくとも1つの処理デバイスが、i)前記少なくとも1つの信号発生器を少なくとも一部制御し、前記少なくとも1つのセンサから測定された応答信号の指示を受信し、少なくとも1つのインピーダンス測定が前記被験者の少なくとも1つの体の部位にわたって実行されることを可能にし、ii)前記少なくとも1つのインピーダンス測定を実行することによって得られる少なくとも1つのインピーダンス値を使用して体液レベルインジケータを決定し、iii)前記体液レベルインジケータを使用して心不全インジケータを決定し、前記体液レベルインジケータが、前記体の部位における細胞外体液レベルを少なくとも部分的に示すものであり、前記体の部位が、前記被験者の肢の少なくとも1つと前記被験者の肢の少なくとも一部とを含み、前記体の部位が、胴体以外である、システム。」
2 補正の適否
本件補正のうち、請求項1に係る補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「ii)前記少なくとも1つのインピーダンス測定を実行することによって得られる少なくとも1つのインピーダンス値を使用して体液レベルインジケータを決定」することについて、「ii)第1の時間において前記被験者の前記少なくとも1つの体の部位にわたって少なくとも1つのインピーダンス測定を実行することによって得られる少なくとも1つの第1のインピーダンス値を使用して第1の体液レベルインジケータを決定し」、「iii) 第2の時間において前記被験者の前記少なくとも1つの体の部位にわたって少なくとも1つのインピーダンス測定を実行することによって得られる少なくとも1つの第2のインピーダンス値を使用して第2の体液レベルインジケータを決定」することに限定するとともに、「iii)前記体液レベルインジケータを使用して心不全インジケータを決定し、前記体液レベルインジケータが、前記体の部位における細胞外体液レベルを少なくとも部分的に示すものであり、前記体の部位が、前記被験者の肢の少なくとも1つと前記被験者の肢の少なくとも一部とを含み、前記体の部位が、胴体以外である」ことについて、「iv) 前記第1と第2の体液レベルインジケータの間の差異を使用して体液レベル変化を決定し、前記体液レベル変化を使用して心不全インジケータを決定することによって、前記第1と第2の体液レベルインジケータを使用して前記心不全インジケータを決定し、前記第1と第2の体液レベルインジケータが体内総水分量に対する前記体の部位における細胞外体液レベルの比であり、前記体の部位が少なくとも前記被験者の肢と前記被験者の胴体とを含む」ことに限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正である。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)引用文献の記載事項
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ア 原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である特許第5034028号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある(下線は当審において付加した。以下同様。)。
(引1-ア)「【0001】
本発明は、生物学的パラメータをモニタリングするための方法及び装置に関し、特に、インピーダンス測定を行うことにより肺水腫の有無又は程度を判定する方法及び装置に関する。
・・・
【0004】
鬱血性心臓疾患に関係する主要な危険の1つは肺水腫の進行であり、これは肺組織及び気腔における流体の血管外蓄積に起因するものである。これは深刻な問題であり、適正な処置がなされないと致命的結果をもたらすことがあるが、治療法は相対的に単純であり、一般的には利尿剤を用いて流体レベルの低減を行う。
・・・
【0007】
従って多くの場合、肺水腫の兆候又は進行は患者が病院に入院して初めて検出される。このため患者は多くの場合、治療が行なわれている間は患者の回復の適切なモニタリングのため病院に残ることが必要である。しかし、適切な診断及びモニタリングの技術が利用可能になれば、そのような病院受診の多くを省いて健康管理システムに対する負担を大幅に減らすことができるであろう。
【0008】
被験者に関する生物学的パラメータを決定するためのある既存の技術は、生体電気インピーダンスの利用を伴うものである。これは、皮膚の表面に配置された一連の電極を用いて被験者の身体の電気的インピーダンスを測定することを含んでいる。身体表面における電気的インピーダンスの変化を用いて、流体レベルの変化等のパラメータが決定される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような技術の複雑さは、胸部のベースラインのインピーダンスが個人によって相当ばらつくことであり、成人の場合、見積もられる範囲は50kHzから100kHzの間の周波数において20Ω~48Ωであり、流体レベルの変化によるインピーダンスの変動が非常に小さくなることがある。これにより信号は、信号対雑音比が低い非常に脆弱なものとなる。その結果、これらの技法は侵襲的技法以外で肺水腫をモニタリングするのには適しておらず、そのような技法では上述のように、多くの場合で患者をモニタリングするための適切な機構が提供されない。」
(引1-イ)「【0108】
図1を参照して、被験者のインピーダンスの解析を行うのに適した装置の一例を説明する。
【0109】
図示のように、この装置は、信号発生器11とセンサ12とに接続された処理システム2を含む測定装置1を含む。使用の際、信号発生器11及びセンサ12は、図示のように、被験者S上に提供された各電極13、14、15、16に複数のリード線Lを介して接続される。オプションの外部インタフェース23を用いることにより、外部データベース又はコンピュータシステム、バーコードスキャナ等の1台以上の周辺機器4に測定装置1をできる。
【0110】
使用の際、処理システム2は制御信号を発生するように適合化されており、この制御信号は、信号発生器11に、電極13、14を介して被験者Sに印加することができる電圧信号又は電流信号等の1つ以上の交流信号を発生させる。センサ12は、電極15、16を用いて、図示のように、被験者Sの電圧又は被験者Sに流れる電流を決定し、適切な信号を処理システム2に送信する。
【0111】
従って、処理システム2は、適切な制御信号を発生し、測定された信号の指示(indication)を解釈することにより被験者の生体電気インピーダンスを決定し、心臓パラメータ又は、肺水腫の有無又は程度等の他の情報をオプションとして決定するのに適した任意の形態の処理システムでもよいことが了解されよう。
【0112】
従って、処理システム2は、ラップトップ、デスクトップ、PDA、スマートフォン等の適切にプログラムされたコンピュータシステムであってもよい。代わりに、処理システム2は専用のハードウェアから形成されてもよい。同様に、入出力装置はタッチスクリーン、キーパッド及びディスプレイ等の任意の適切な形態であってよい。
【0113】
処理システム2、信号発生器11及びセンサ12は共通のハウジング内に統合され、一体化された装置を形成してよいことが了解されよう。代わりに、処理システム2は、有線又は無線で信号発生器11及びセンサ12に接続されてもよい。これにより処理システム2を信号発生器11及びセンサ12に対して遠隔的に配置することができる。このようにして処理システム2を被験者Sから遠くに配置する一方で、信号発生器11及びセンサ12を被験者Sの近傍に一体的に配置するか被験者Sに着用させてもよい。
【0114】
ある例では、外側の対である電極13、14が被験者Sの胸部及び首部に配置される。しかし、これは実行される解析の特性に依存する。従って例えば、この電極の並べ方はリンパ浮腫における心機能解析に適しているが、一般に電極は必要に応じて複数の肢(四肢もしくは手足)上に配置される。
【0115】
電極が配置されると、交流信号が被験者Sに印加される。これは、1つの交流信号を複数の周波数で同時に印加するか、多くの交流信号を異なる周波数で連続して印加することにより実行されてもよい。印加される信号の周波数範囲は実行されている解析に依存してもよい。
【0116】
ある例では、印加される信号はクランプ、又は他の方法で制限された電流源からの周波数成分を多く含む電流(frequency rich current)であるので、被験者の許容可能な最大の補助電流を超えることはない。しかし、代わりに、電圧信号を印加して、測定されている被験者に誘起される電流を測定してもよい。被験者の許容可能な最大の補助電流を超えないように電流が測定される場合、この信号を、定電流、インパルス関数又は定電圧の信号のいずれかとすることができる。
【0117】
内側の対である電極15、16の間では電位差及び/又は電流が測定される。取得された信号及び測定された信号は、心電図(ECG)等の人体によって発生された電位と印加された電流によって発生された電位との重ね合せとなるであろう。」
(引1-ウ)「【0131】
この例では、処理システム2は、バス24を介して接続されたプロセッサ20とメモリ21と入出力(I/O)装置22と外部インタフェース23とを有する第1の処理システム10を含む。処理システム2はさらに、第2の処理システム17を処理モジュールの形態で含んでいる。第1及び第2の処理システム10、17の起動を制御するため、マイクロロジック制御装置等の制御装置19を提供してもよい。」
(引1-エ)「【0181】
図7を参照して、図1又は図3による装置を利用してインピーダンス測定を行うプロセスの一例を説明する。
【0182】
具体的には、ステップ700において、測定装置1を用いて1つ以上の体節のインピーダンスが測定される。ステップ710において、処理システム10は測定されたインピーダンスを用いて少なくとも1つの胸腔部分及び他の1つの体節に関するインピーダンス値を決定し、ステップ720において、これらを用いて胸腔及び他の体節に関する指標(index)が決定される。
【0183】
ステップ730において、処理システム20及び/又は測定装置1のオペレータは、他の体節における水腫の有無又は程度を、オプションとして決定する。これに続き、ステップ740において、上記指標を用いて肺水腫の有無又は程度が決定される。これは、詳細後述するように、実現方式に応じて多くの様態により実現されてもよい。
【0184】
プロセスが実行される正確な様態は、用いられる電極の並べ方、従ってインピーダンス値が決定される体節に依存する。図8A及び図8Bを参照してより詳細な例を説明するが、これは図9Aから図9Eの電極の並べ方に関して用いられるプロセスを詳述するものである。
【0185】
この点に関し、図9Aから図9Dに示す電極の並べ方では電極を被験者Sの複数の肢上に配置する必要があり、特定の電極配置により、様々な体節のインピーダンスを測定することが可能となる。従って例えば、多数の肢のインピーダンスを測定することができる。これは、詳細後述するように、単一チャネルシステムを用いて連続的に、あるいは多重チャネルシステムを用いて同時に実現可能である。
【0186】
図9A及び図9Bの例では、上記構成により被験者全体のインピーダンスを決定することができ、他方、図9C及び図9Dに示す構成では右腕931及び右脚933をそれぞれ測定することができる。
【0187】
一般に、このような電極配置が用いられる場合、必要に応じリード線を選択的に電極に接続し、電極配置が可能な各位置に電極を提供することが典型的である。これは詳細後述される。
【0188】
この構成は等電位の理論を利用しており、これらの電極位置によりインピーダンス測定に関して再現可能な結果が得られることが了解されよう。例えば図9Cにおける電極13と14の間に電流を流す場合、電極16は左腕932に沿ういずれの場所に配置することも可能であるが、これは腕全体が等電位にあるためである。
【0189】
これは、オペレータによる電極の不完全な配置に起因する測定のばらつきが大幅に低減するので有利である。その上、体節による身体測定を行うのに必要な電極の数が大幅に低減されるとともに、図示の限定的な接続を用いて各肢を別個に測定することができる。
【0190】
図9Eには代わりの電極の構成が示されているが、そこでは電極13、14、15、16は図示のように被験者の首及び腹部周囲に延びる帯状電極又はスポット電極である。この電極の構成により、被験者の胸腔のインピーダンスを直接測定することができる。
【0191】
ステップ800において、電極13、14、15、16が被験者の上に配置され、測定装置が上述のように適切な電流信号を印加するように動作し、その後ステップ805において複数の周波数fiにおける複数の肢の電流及び電圧信号が検出される。
【0192】
これを実現するため、図9C及び図9Dに示す電極配置が用いられ、それとともに反対側性の(contra-lateral)複数の肢に関して等価的な測定が行なわれる。電極配置を調整する方式は詳細後述される。
【0193】
用いられる電流信号は好適な実現方式に依存しており、また上述のように複数の周波数における電流信号を同時あるいは連続的に印加することを含む場合があり、そこでは各周波数における測定電圧を導出するように測定信号の適切な処理が実施される。
【0194】
ステップ810において、処理システム10は、周波数fiのそれぞれにおける各肢の瞬時インピーダンスを決定するように動作する。
【0195】
ステップ815において、測定装置1は、電極が胸腔上に存在するか否かを決定するように動作する。
【0196】
ステップ820において、そのような電極が提供されていない場合、測定装置1は、図9A及び図9Bに示す電極の並べ方の一方を用いて身体全部の電圧及び電流信号を検出するように動作する。
【0197】
ステップ825において、処理システム10は、各周波数fiにおける身体全体のインピーダンスを決定するように動作する。ステップ830において、各周波数fiにおいて各肢に関し得られた測定インピーダンス値は、身体全体に関し対応する周波数fiにおいて測定されたインピーダンス値から差し引かれる。各肢に関するインピーダンス測定値を身体全体のインピーダンス測定値から差し引くことにより、各周波数fiにおける有効な胸腔インピーダンス値が得られる。
【0198】
ステップ835において、電極が胸腔上に存在する場合、測定装置1は、複数の周波数fiにおける胸郭の電圧及び電流信号を検出するように動作し、ステップ840において、これを用いて各周波数fiにおける胸腔の瞬時インピーダンス値を決定する。
【0199】
ステップ845において、これらの値を用いて、各肢及び胸腔に関するインピーダンスパラメータR0及びR∞の値が決定される。
【0200】
これに関して、図20は生物組織の電気的挙動を有効にモデル化する等価回路の一例である。この等価回路は、細胞外液及び細胞内液を流れる電流を表す2つの分岐を有している。生体インピーダンスの細胞外成分はReによって表わされ、細胞内成分はRiによって表わされる。細胞内経路における細胞膜のキャパシタンスはCによって表わされる。
【0201】
交流電流(AC)のインピーダンスの細胞外及び細胞内成分の相対的な大きさは周波数に依存する。ゼロ周波数において、コンデンサは完全な絶縁体として作用し、すべての電流は細胞外液中を流れるので、ゼロ周波数における抵抗R0はReに等しくなる。無限周波数において、コンデンサは完全な導体として作用し、電流は並列抵抗の組合せを通って流れる。無限周波数における抵抗はR∞=RiRe/(Ri+Re)によって与えられる。
【0202】
従って、角周波数ω(ω=2π×周波数)における図9の等価回路のインピーダンスは、以下の式によって与えられる。
【0203】
【数3】
[図:0001398910000001.jpg]
【0204】
(ただし、R∞は、無限印加周波数におけるインピーダンス(=RiRe/(Ri+Re))であり、R0は、ゼロ印加周波数におけるインピーダンス(=Re)であり、τは容量性回路の時定数である。)
【0205】
しかし上述の式は、細胞膜が不完全なコンデンサである事実を考慮に入れない理想的な状態を表している。これを考慮すると、変形されたモデルが得られる。
【0206】
【数4】
[図:0001398910000002.jpg]
【0207】
(ただし、αは0から1の間の値を有し、現実の系の理想モデルからの偏差の指標として考えることができる。)
【0208】
インピーダンスパラメータR0及びR∞の値を、以下のような多くの方式のうちいずれか1つにより決定してもよい。
【0209】
・異なる周波数において決定されたインピーダンス値に基づいて連立方程式を解くこと。
・反復的な数学手法(iterative mathematical technique)を用いること。
・図21に示すものと同様の「ベッセル図」から外挿を行うこと。
・多項式関数の使用等の、関数のあてはめ(function fitting)技術を実施すること。
【0210】
上述の等価回路は抵抗率(resistivity)を定数値としてモデル化するものでありで、被験者のインピーダンス応答を正確に反映するものではなく、特に、被験者の血流における赤血球の向きの変化又は他の弛緩効果を正確にモデル化するものではない。人体の電気伝導度をより良好にモデル化するため、改良されたCPEに基づくモデルを代わりに用いてもよい。
【0211】
いずれにせよ、パラメータ値R0及びR∞を決定するための任意の適切な技法を利用してよいことが了解されよう。
【0212】
パラメータ値R0及びR∞が決定されると、ステップ850において処理システム10は、各体節の指標Iを決定するように動作する。この例では、用いられる指標はRi/Reにより与えられるものであり、細胞内液に対する細胞外液の比率を示している。
【0213】
これに関し、上記細胞外液抵抗Re及び細胞内液抵抗Riの値を用いると、指標Iは以下の式により与えられる。
【0214】
【数5】
[図:0001398910000003.jpg]
【0215】
この方法は、時間に対する指標のグラフ又は他の基準値との指標の比較として、時間に対する水腫のモニタリングという特定の用途を有しており、水腫の進行の開始及び速度を明らかにすることができる。
【0216】
これは健康な被験者に関して実施可能であり、異なる体節の間でも細胞外液及び細胞内液のレベルに関しては全体的にある程度の類似性が存在する。従って例えば、被験者が水腫以外の疾患を有しており、それにより細胞内液に対する細胞外液の比率が全体的に変化する場合、この影響はすべての体節に関しておおむね均等なものとなる
【0217】
ステップ855において、測定装置1は、各肢における水腫の有無を、オプションとして決定するように動作する。
【0218】
これは例えば以下を含む多くの技法のうちいずれか1つにより実施されてもよい。
【0219】
・各肢に関する指標Iを比較すること。
・医学的検査。
・縦モード解析(logitudinal analysis。時系列解析ともいう。)として知られる、値を前もってモニタすることによりインピーダンスパラメータ値及び/又は指標を比較すること。
【0220】
従って例えば、1つの肢に関して得られた指標Iを、同じ肢に関して得られた予め決定された指標値Iprevと比較することができ、時間に対する指標の変動は水腫の兆候を示すものである。
【0221】
ステップ860において水腫がいずれかの肢に存在すると判定された場合、処理はステップ865に進み、処理システム10は、水腫を有する肢を次の解析から無視する。
【0222】
ステップ870において、水腫を有しない肢に関し、処理システム10は、各残りの肢に対して決定された指標に対する、胸腔に関して決定された指標の比率に基づいて、指標比率IRを決定するように動作する。従って例えば、1本の脚部及び両腕に水腫が存在しないと判定された場合、3つの指標比率IRが決定される。
【0223】
上述のように、水腫が生じていない身体部位に関して指標Iは相対的に一定のままなので、いずれの体節にも水腫がないと仮定すると、ある個人に関して指標比率IRも相対的に一定のままとなる。
【0224】
特に、各体節の特性が等しいと仮定すると、指標比率の値はほぼ1となる。しかし一般的には、様々な体節の間で組織の小さなばらつきが生じ、これを様々な方法で説明することができる。
【0225】
第1に、ステップ875に示すように、指標比率IRを所定の範囲と比較することができる。この場合、肺水腫に起因しない胸腔及び複数の肢のインピーダンス値の間のばらつきはこの範囲を用いて説明される。従って、この範囲は典型的には、多数の異なる被験者における胸腔及び複数の肢の間の指標比率IRの差異を考慮するように設定されることが了解されよう。従ってこの範囲を、多数の健康な被験者から収集したデータに基づいて設定することが可能である。
【0226】
いずれにせよ、指標比率IRが所定の範囲を外れた場合、ステップ890において、処理システム10はこれにより、肺水腫が体節の1つに存在するものと決定する。
【0227】
さらに、肺水腫の程度の評価において指標比率IRの値の評価を利用することができる。従って、例えば、多数の値の範囲を定義し、それぞれの範囲を異なる程度の水腫に対応させることができる。この例では、処理システム10は、指標比率IRがどの範囲内にあるかを判定可能であり、これを用いて肺水腫の推測される程度の表示を行う。
【0228】
指標比率IRの値は選択された複数の肢にも依存するので、考慮される複数の肢に依存する比較に関しては、一般に異なる範囲が選択されるであろう。
【0229】
また指標比率IRは被験者の年齢、体重、性別、身長等の多くの要因にも依存する可能性があり、これらの要因に基づいてそれぞれの範囲を選択することもできる。
【0230】
しかしながら、そのような要因を評価する必要を回避するため、縦モード解析の別のプロセスを実行することが可能である。この場合、ステップ880において、処理システム10は指標比率IRを、同じ被験者の同じ体節に関して測定され以前に決定された指標比率IRprevと比較することができる。この場合、以前に決定された指標比率IRprevは肺水腫の兆候以前に決定されることが好ましいが、必要不可欠ではない。
【0231】
いずれにせよ、同じ被験者の同じ複数の肢に基づく指標比率の以前の測定は、組織特性の固有の変動を自動的に説明するものであり、これにより、肺水腫が存在しないとしても、細胞内液に対する細胞外液の比率に関して様々な値がもたらされる。
【0232】
この場合、処理システム10は、現在の指標比率IRの値が、同じ肢に関して決定された以前の指標比率IRprevと異なるか否かを評価する。値が変化している場合、値の変化の方向は肺水腫のレベルの上昇あるいは低下のいずれかを示すことがあり、ステップ890において、この変化の大きさを用いて変化の程度が示される。
【0233】
ステップ885において開始される別のオプションは、異なる複数の肢に関して得られた指標比率IRを比較することである。この例では、各肢に関する指標は同一となるべきなのでそれぞれの指標比率もおおむね等しくなる。この例では、所定の統計的有意性を超える指標比率IRのばらつきがある場合、測定手順の問題、又は上記ステップ860において見落とされた複数の肢の1つにおける組織水腫の存在のいずれかを示している。
【0234】
一般にステップ890において、処理システム10は以下のうち1つ以上を表示する。
【0235】
・1つ以上の指標比率と、
・1つ以上の指標と、
・肺水腫の有無又は程度。
【0236】
従って、このことから、上記方法論により水腫の兆候を決定する多くの方法が提供されることが了解されよう。これは、指標比率IRを以前に決定された指標比率IRprevと比較する縦モード解析を実行することにより実現可能である。代わりに、指標比率IRを1つ以上の絶対指標比率範囲と比較することもできる。さらに、異なる複数の肢に関して決定された指標比率を比較することにより、さらなるチェックを行うこともできる。
【0237】
実際上、上記方法の組合せを用いてもよい。例えば、ある患者がまず実行すべき手順の対象となった場合、絶対指標比率範囲との比較を行なって、その患者が肺水腫を起こしていない可能性が高いことを確認してもよい。
【0238】
測定された指標比率IRを用いて指標比率IRprevの基準値を発生し、その後の測定値をこれと比較することができる。
【0239】
上記指標比率IRを用いることにより、肺水腫の有無又は程度を評価する際に、様々な身体部分の間の組織特性のばらつきを考慮することができ、肺水腫の兆候を迅速、正確、かつ初期段階で検出することができる。」
(引1-オ)【図1】
「[図:0001398910000004.jpg]」
(引1-カ)【図9A】
「[図:0001398910000005.jpg]」
(引1-キ)【図9B】
「[図:0001398910000006.jpg]」
(引1-ク)【図9C】
「[図:0001398910000007.jpg]」
(引1-ケ)【図9D】
「[図:0001398910000008.jpg]」
イ 引用文献1に記載された発明
(ア)上記(引1-ウ)の「処理システム2は、バス24を介して接続されたプロセッサ20とメモリ21と入出力(I/O)装置22と外部インタフェース23とを有する第1の処理システム10を含む。処理システム2はさらに、第2の処理システム17を処理モジュールの形態で含んでいる。」との記載から、「第1の処理システム10」は「処理システム2」の一部であり、「第1の処理システム10」と「処理システム10」は同じ構成を示すと解されるから、以下では「処理システム10」を「処理システム2」と表記することとする。
(イ)上記(ア)を踏まえると、上記(引1-ア)ないし(引1-ケ)の記載から、引用文献1には、
「被験者のインピーダンスの解析を行うのに適した装置であって、信号発生器11とセンサ12とに接続された処理システム2を含む測定装置1を含み、使用の際、信号発生器11及びセンサ12は、被験者S上に提供された各電極13、14、15、16に複数のリード線Lを介して接続され、処理システム2は、適切な制御信号を発生し、測定された信号の指示を解釈することにより被験者の生体電気インピーダンスを決定し、心臓パラメータ又は、肺水腫の有無又は程度の情報を決定するのに適した処理システムであり、続きを表示(全12行)使用の際、処理システム2は制御信号を発生するように適合化されており、この制御信号は、信号発生器11に、電極13、14を介して被験者Sに印加することができる電圧信号又は電流信号等の1つ以上の交流信号を発生させ、センサ12は、電極15、16を用いて被験者Sの電圧又は被験者Sに流れる電流を決定し、適切な信号を処理システム2に送信し、電極を被験者Sの複数の肢上に配置することにより、被験者全体のインピーダンスを決定することができ、また、各肢を別個に測定することができ、処理システム2は、周波数fiのそれぞれにおける各肢の瞬時インピーダンスを決定し、各周波数fiにおける身体全体のインピーダンスを決定し、各肢に関するインピーダンス測定値を身体全体のインピーダンス測定値から差し引くことにより、各周波数fiにおける有効な胸腔インピーダンス値を得、これらの値を用いて、各肢及び胸腔に関するインピーダンスパラメータR0及びR∞の値を決定し、細胞内液に対する細胞外液の比率を示す各体節の指標Iを決定し、ここで、細胞外液抵抗Re及び細胞内液抵抗Riの値を用いると、指標Iは、[図:0001398910000009.jpg]により与えられ、処理システム2は、水腫を有しない肢に対して決定された指標に対する、胸腔に関して決定された指標の比率に基づいて、指標比率IRを決定し、指標比率IRが所定の範囲を外れた場合、肺水腫が体節の1つに存在するものと決定し、指標比率IRを、同じ被験者の同じ体節に関して測定され以前に決定された指標比率IRprevと比較し、値が変化している場合、値の変化の方向は肺水腫のレベルの上昇あるいは低下のいずれかを示し、この変化の大きさを用いて変化の程度を示す、装置。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
ウ 当審で新たに引用する本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2000-510005号公報(以下「引用文献3」という。)には、以下の記載がある。
(引3-ア)「本発明は、急性うっ血性心不全の発症の前に介入処置を施すことを最終目的として、慢性うっ血性心不全(CHF)を患う患者の状態変化を見極めるための「早期警告」監視システムにある。本発明に従うと、慢性うっ血性心不全を患う患者を監視するための方法には、体の2ヵ所に電極を適用する段階、電極間に単数又は複数の高周波数で電流を通す段階、そして次に電流(I)及び電圧(V)を測定する段階が含まれている。測定された電流(I)及び電圧(V)に基づいてうっ血性心不全(CHF)徴候値が計算され、計算されたCHF徴候値は次に、患者が既知の安定した条件下にあるときに設定された基準値と比較され、その間の差が設定された許容範囲内にあるか否かを決定する。
本発明の好ましい一形態においては、この方法は、患者の2肢に電極を適用する段階そして次に電極の間に高周波電流を通す段階を含んで成る。電流(I),電圧(V)及び位相角(φ)が測定され、次に抵抗(R)及びリアクタンス(Zc)を含むうっ血性心不全(CHF)徴候値が計算される。計算されたCHF徴候値は次に基準値と比較され、計算上のCHF徴候値と基準値の間の差が設定された許容範囲外にあるとき、介入処置が開始される。この方法は、介入処置が必要とされたか否かによって決定される間隔で反復される。計算されたCHF徴候値はさらにインピーダンス(Z)を内含することができる。
位相角(φ)又は抵抗(R),リアクタンス(Zc)又はインピーダンス(Z)の計算上のCHF徴候値のいずれかの減少が、介入処置を開始する必要性の1つの指標である。計算上のCHF徴候値についての基準値からの許容範囲は、抵抗(R)及びインピーダンス(Z)について約5パーセント(5%),リアクタンス(Zc)について10パーセント(10%)そして位相角(φ)について20パーセント(20%)である。
計算上のCHF徴候値は同様に、体内全水分量(TBW)及び細胞外水分量(ECW)を含んでいてもよい。計算上の体内全水分量(TBW)又は細胞外水分量(ECW)の増加が、介入処置を開始する必要性の1つの指標である。」(第9頁下から8行~第10頁8行)
(引3-イ)「本発明の方法10には慢性うっ血性心不全(CHF)を患う無為な(abulatory)患者における体の全インピーダンス(Z),抵抗(R),リアクタンス(Zc)及び位相角(φ)の追跡が関与し、急性CHFの発症を予防するものとして、これらの「徴候値」のいずれか又は全ての減少が使用される。測定は、体の組成を測定するためのミシガン州Clinton TwpのRJL Systemsが製造するもののような市販の装置又はこの目的のために設計された類似の装置を用いて行なうことができる。患者の体内におけるこれらのパラメータ値の経時的な大きな変化(例えば5パーセント以上)が、肉体的条件の劣化の指標とみなされることになる。電極は、体の任意の2ヵ所に設置できるが、好ましくは、Subramanyan et al.,「うっ血性心不全における体内全水分量」,Jour.Asso.Phys.Ind.,1980年9月、第28巻、p257~262に記述されているとおり、同側の手首と足首又は対側の手首及び足首のいずれかに位置づけされる。測定は、標準的に高周波数で(20kHzより上-体内全水分量に対し高い感応性をもつ、又は20kHz未満-主として細胞外液の量に対し感応性をもつ)又は多重周波数で行なわれる。
本発明の方法10は同様に、末梢性水腫及び肺水腫を別々に追跡するため、患者の体の別々の部分に適用される上述の技術を利用する段階も内含している。例えば、足首から足首へのインピーダンス(Z)及びその成分を測定し追跡することにより、右心不全を主として示す末梢液の変化が強調されることになる。手首から手首のインピーダンス(Z)成分は、肺液及び左心不全の変化をより良く示すことになる。これらの成分インピーダンス値のいずれかの変化は、不安定性の指標として用いられることになり、治療的養生法の変更を示唆する。
以上で得られた測定値を、Lukaski H.C,& Bolonchuk,W.W「四極生体電気インピーダンス測定値を用いた体液体積の推定」,航空宇宙及び環境医学:1988;59,1163-1169により記述されたもののような式の中の体のサイズ及び体重と組合せることによって、体内全水分量(TBW)及び細胞内及び細胞外水分量(ECW)についての推定値を得ることが可能となる。全水分又は細胞外水分の推定量のその基準値から約0.5~1リットルの増加は、進行性心不全及び治療的介入処置のための1つの指標として用いられることになる。さらに、全水分及び細胞外水分推定量と体内細胞質量推定値を、患者の水分補給状態を表わす1つの「示性数」の形に組合わせることも、本発明の方法10に従って有利に達成できる。CHF患者の悪化条件の指標として、「示性数」の変化が使用されることになる。標準的な示性数としては、細胞外液(ECW)と無脂肪質量(FFM)の比率又は、細胞外水分量(ECW)と体内全水分量の比率が含まれることになる。悪化条件の指標として、約1パーセント(1%)の示性数の増加が用いられる。さらに、一定の示性数は、それらの変化ではなくそれ自体がうっ血性心不全の指標として利用され得る。例えば、細胞外水分量(ECW)と無脂肪質量(FFM)の比率が約0.30よりも大きい場合、患者がうっ血性心不全の状態にあると仮定することができる。」(第11頁下から3行~第13頁7行)
エ 引用文献3に記載された技術事項
上記(引3-ア)及び(引3-イ)の記載から、引用文献3には、
「慢性うっ血性心不全(CHF)患者の悪化条件の指標として、「示性数」の変化が使用され、標準的な示性数として、細胞外水分量(ECW)と体内全水分量の比率が含まれること」
という技術事項(以下「引3技術事項」という。)が記載されていると認められる。
(3)本件補正発明と引用発明との対比
ア(ア)引用発明の「被験者(S)」が「生物」であることは明らかであり、引用発明の「被験者(S)」は、本件補正発明の「被験者」に相当する。
(イ)引用発明は、「指標比率IRを、同じ被験者の同じ体節に関して測定され以前に決定された指標比率IRprevと比較し、値が変化している場合、値の変化の方向は肺水腫のレベルの上昇あるいは低下のいずれかを示し、この変化の大きさを用いて変化の程度を示す」から、引用発明の「指標比率IR」の「値の変化の方向」及び「変化の大きさ」は、肺水腫のレベルの変化の決定に用いられる。
上記(引1-ア)に「鬱血性心臓疾患に関係する主要な危険の1つは肺水腫の進行であり」と記載されているように、「肺水腫」は「鬱血性心臓疾患」の症状であり、「鬱血性心臓疾患」は「心不全」に含まれる。
そうすると、引用発明の「値が変化している場合、値の変化の方向は肺水腫のレベルの上昇あるいは低下のいずれかを示し、この変化の大きさを用いて変化の程度を示す」「指標比率IR」の「値の変化の方向」及び「変化の大きさ」は、本件補正発明の「心不全疾病状態を示す心不全インジケータ」に相当する。
また、引用発明の「指標比率IR」の「値の変化の方向」及び「変化の大きさ」は、本件補正発明の「心不全インジケータ」に相当する。
(ウ)引用発明の「装置」は、本件補正発明の「システム」に相当する。
(エ)上記(ア)ないし(ウ)を踏まえると、引用発明の「被験者のインピーダンスの解析を行うのに適し」、「指標比率IRを決定し」、「指標比率IRを、同じ被験者の同じ体節に関して測定され以前に決定された指標比率IRprevと比較し、値が変化している場合、値の変化の方向は肺水腫のレベルの上昇あるいは低下のいずれかを示し、この変化の大きさを用いて変化の程度を示す」「装置」は、本件補正発明の「生物の被験者において心不全疾病状態を示す心不全インジケータを決定するためのシステム」に相当する。
イ(ア)引用発明の「交流信号」は、本件補正発明の「駆動信号」に相当する。
(イ)引用発明の「電極13、14」は、本件補正発明の「第1の電極」に相当する。
(ウ)引用発明の「信号発生器11」は、本件補正発明の「信号発生器」に相当する。
(エ)上記(ア)ないし(ウ)を踏まえると、引用発明の「使用の際」、「被験者S上に提供された各電極13、14」「に複数のリード線Lを介して接続され」、「電極13、14を介して被験者Sに印加することができる電圧信号又は電流信号等の1つ以上の交流信号を発生させ」る「信号発生器11」は、本件補正発明の「a)駆動信号を生成するように適合される、使用時に前記被験者に電気的に接触して設けられる第1の電極に結合される少なくとも1つの信号発生器」に相当する。
ウ(ア)引用発明の「被験者Sの電圧又は被験者Sに流れる電流」は、本件補正発明の「応答信号」に相当する。
(イ)引用発明の「電極15、16」は、本件補正発明の「第2の電極」に相当する。
(ウ)引用発明の「センサ12」は、本件補正発明の「センサ」に相当する。
(エ)上記(ア)ないし(ウ)を踏まえると、引用発明の「使用の際」、「被験者S上に提供された各電極15、16」「に複数のリード線Lを介して接続され」、「電極15、16を用いて被験者Sの電圧又は被験者Sに流れる電流を決定」する「センサ12」は、本件補正発明の「b)応答信号を測定するように適合される、使用時に前記被験者に電気的に接触して設けられる第2の電極に結合される少なくとも1つのセンサ」に相当する。
エ 引用発明の「処理システム2」は、本件補正発明の「処理デバイス」に相当する。
オ(ア)引用発明の「処理システム2は制御信号を発生するように適合化されており、この制御信号は、信号発生器11に、電極13、14を介して被験者Sに印加することができる電圧信号又は電流信号等の1つ以上の交流信号を発生させ」るから、引用発明の「処理システム2」は、「信号発生器11」を制御している。
(イ)引用発明の「センサ12は」、「適切な信号を処理システム2に送信し」、「処理システム2は」、「測定された信号の指示を解釈することにより被験者の生体電気インピーダンスを決定」するから、引用発明の「処理システム2」は、「センサ12」が「送信し」た「適切な信号を」受信し、「測定された信号の指示を解釈することにより被験者の生体電気インピーダンスを決定」している。
(ウ)上記(ア)及び(イ)を踏まえると、引用発明の「処理システム2は制御信号を発生するように適合化されており、この制御信号は、信号発生器11に、電極13、14を介して被験者Sに印加することができる電圧信号又は電流信号等の1つ以上の交流信号を発生させ、センサ12は、電極15、16を用いて被験者Sの電圧又は被験者Sに流れる電流を決定し、適切な信号を処理システム2に送信し」、「測定された信号の指示を解釈することにより被験者の生体電気インピーダンスを決定」することは、本件補正発明の「前記少なくとも1つの処理デバイスが、i)前記少なくとも1つの信号発生器を少なくとも一部制御し、前記少なくとも1つのセンサから測定された応答信号の指示を受信し、少なくとも1つのインピーダンス測定が前記被験者の少なくとも1つの体の部位にわたって実行されることを可能に」することに相当する。
カ(ア)引用発明の「電極を被験者Sの複数の肢上に配置することにより、被験者全体のインピーダンスを決定」し、「各肢を別個に測定」し、「周波数fiのそれぞれにおける各肢の瞬時インピーダンスを決定し、各周波数fiにおける身体全体のインピーダンスを決定し、各肢に関するインピーダンス測定値を身体全体のインピーダンス測定値から差し引くことにより、各周波数fiにおける有効な胸腔インピーダンス値を得」ることは、本件補正発明の「前記被験者の前記少なくとも1つの体の部位にわたって少なくとも1つのインピーダンス測定を実行すること」に相当する。
(イ)引用発明の「細胞内液に対する細胞外液の比率を示す各体節の指標I」は、体液レベルに関する指標であるから、本件補正発明の「体液レベルインジケータ」に相当する。
(ウ)引用発明において、新たに測定を行う時間は、本件補正発明の「第1の時間」に相当する。
そして、当該測定で決定される「指標I」は、本件補正発明の「第1の体液レベルインジケータ」に相当する。
(エ)上記(ア)ないし(ウ)を踏まえると、引用発明の新たに測定を行う時間において、 「電極を被験者Sの複数の肢上に配置することにより、被験者全体のインピーダンスを決定」し、「各肢を別個に測定」し、「周波数fiのそれぞれにおける各肢の瞬時インピーダンスを決定し、各周波数fiにおける身体全体のインピーダンスを決定し、各肢に関するインピーダンス測定値を身体全体のインピーダンス測定値から差し引くことにより、各周波数fiにおける有効な胸腔インピーダンス値を得、これらの値を用いて」「細胞内液に対する細胞外液の比率を示す各体節の指標Iを決定」することは、本件補正発明の「ii)第1の時間において前記被験者の前記少なくとも1つの体の部位にわたって少なくとも1つのインピーダンス測定を実行することによって得られる少なくとも1つの第1のインピーダンス値を使用して第1の体液レベルインジケータを決定」することに相当する。
キ(ア)引用発明において、「指標比率IRprev」を決定するために「以前」に行われた「測定」は、「指標比率IR」を決定するための測定と同様に「電極を被験者Sの複数の肢上に配置することにより、被験者全体のインピーダンスを決定」し、「各肢を別個に測定」し、「周波数fiのそれぞれにおける各肢の瞬時インピーダンスを決定し、各周波数fiにおける身体全体のインピーダンスを決定し、各肢に関するインピーダンス測定値を身体全体のインピーダンス測定値から差し引くことにより、各周波数fiにおける有効な胸腔インピーダンス値を得、これらの値を用いて」「細胞内液に対する細胞外液の比率を示す各体節の指標Iを決定」して行われたものといえる。
(イ)引用発明の「同じ被験者の同じ体節に関して測定され」た「以前」の時間は、本件補正発明の「第2の時間」に相当する。
そして、「指標比率IRprev」の決定に用いた「指標I」は、本件補正発明の「第2の体液レベルインジケータ」に相当する。
(ウ)上記(ア)及び(イ)を踏まえると、引用発明の「以前に」「同じ被験者の同じ体節に関して測定」して「細胞内液に対する細胞外液の比率を示す各体節の指標Iを決定」することは、本件補正発明の「iii) 第2の時間において前記被験者の前記少なくとも1つの体の部位にわたって少なくとも1つのインピーダンス測定を実行することによって得られる少なくとも1つの第2のインピーダンス値を使用して第2の体液レベルインジケータを決定」することに相当する。
ク(ア)上記ア(イ)で対比したように、引用発明の「指標比率IR」の「値の変化の方向」及び「変化の大きさ」は、本件補正発明の「心不全インジケータ」に相当するから、引用発明の「水腫を有しない肢に対して決定された指標に対する、胸腔に関して決定された指標の比率に基づいて、指標比率IRを決定し」、「指標比率IRを、同じ被験者の同じ体節に関して測定され以前に決定された指標比率IRprevと比較し」、「値の変化の方向」及び「変化の大きさ」を求めることは、本件補正発明の「前記第1と第2の体液レベルインジケータの間の差異を使用して体液レベル変化を決定し、前記体液レベル変化を使用して心不全インジケータを決定することによって、前記第1と第2の体液レベルインジケータを使用して前記心不全インジケータを決定」することに相当する。
(イ)引用発明の「各体節の」「細胞内液に対する細胞外液の比率」と、本件補正発明の「体内総水分量に対する前記体の部位における細胞外体液レベルの比」とは、「前記体の部位における細胞外体液レベルの比」の点で共通する。
(ウ)引用発明の「被験者S」の「水腫を有しない肢」は、本件補正発明の「前記被験者の肢」に相当する。
(エ)引用発明の「胸腔」は、「各肢に関するインピーダンス測定値を身体全体のインピーダンス測定値から差し引くことにより、各周波数fiにおける有効な胸腔インピーダンス値を得」ていることに照らせば、「胴体」といえるものである。
そうすると、引用発明の「胸腔」は、本件補正発明の「前記被験者の胴体」に相当する。
(オ)上記(ア)ないし(エ)を踏まえると、引用発明の「細胞内液に対する細胞外液の比率を示す各体節の指標I」から、「水腫を有しない肢に対して決定された指標に対する、胸腔に関して決定された指標の比率に基づいて、指標比率IRを決定し」、「指標比率IRを、同じ被験者の同じ体節に関して測定され以前に決定された指標比率IRprevと比較し」、「値の変化の方向」及び「変化の大きさ」を求めることと、本件補正発明の「iv) 前記第1と第2の体液レベルインジケータの間の差異を使用して体液レベル変化を決定し、前記体液レベル変化を使用して心不全インジケータを決定することによって、前記第1と第2の体液レベルインジケータを使用して前記心不全インジケータを決定し、前記第1と第2の体液レベルインジケータが体内総水分量に対する前記体の部位における細胞外体液レベルの比であり、前記体の部位が少なくとも前記被験者の肢と前記被験者の胴体とを含む」こととは、「iv) 前記第1と第2の体液レベルインジケータの間の差異を使用して体液レベル変化を決定し、前記体液レベル変化を使用して心不全インジケータを決定することによって、前記第1と第2の体液レベルインジケータを使用して前記心不全インジケータを決定し、前記第1と第2の体液レベルインジケータが前記体の部位における細胞外体液レベルの比であり、前記体の部位が少なくとも前記被験者の肢と前記被験者の胴体とを含む」点で共通する。
(4)そうすると、本件補正発明と引用発明とは、
「生物の被験者において心不全疾病状態を示す心不全インジケータを決定するためのシステムであって、a)駆動信号を生成するように適合される、使用時に前記被験者に電気的に接触して設けられる第1の電極に結合される少なくとも1つの信号発生器と、b)応答信号を測定するように適合される、使用時に前記被験者に電気的に接触して設けられる第2の電極に結合される少なくとも1つのセンサと、c)少なくとも1つの処理デバイスとを含み、前記少なくとも1つの処理デバイスが、i)前記少なくとも1つの信号発生器を少なくとも一部制御し、前記少なくとも1つのセンサから測定された応答信号の指示を受信し、少なくとも1つのインピーダンス測定が前記被験者の少なくとも1つの体の部位にわたって実行されることを可能にし、ii)第1の時間において前記被験者の前記少なくとも1つの体の部位にわたって少なくとも1つのインピーダンス測定を実行することによって得られる少なくとも1つの第1のインピーダンス値を使用して第1の体液レベルインジケータを決定し、iii) 第2の時間において前記被験者の前記少なくとも1つの体の部位にわたって少なくとも1つのインピーダンス測定を実行することによって得られる少なくとも1つの第2のインピーダンス値を使用して第2の体液レベルインジケータを決定し、iv) 前記第1と第2の体液レベルインジケータの間の差異を使用して体液レベル変化を決定し、前記体液レベル変化を使用して心不全インジケータを決定することによって、前記第1と第2の体液レベルインジケータを使用して前記心不全インジケータを決定し、前記第1と第2の体液レベルインジケータが前記体の部位における細胞外体液レベルの比であり、前記体の部位が少なくとも前記被験者の肢と前記被験者の胴体とを含む、システム。」
の発明である点で一致し、次の点において相違する。
(相違点1)
前記体の部位における細胞外体液レベルの比について、本件補正発明においては、「体内総水分量に対する前記体の部位における細胞外体液レベルの比」であるのに対し、引用発明においては、「細胞内液に対する細胞外液の比率」である点。
(5)判断
ア 相違点1について
(ア)引3技術事項は、慢性うっ血性心不全(CHF)患者の悪化条件の指標として、「示性数」の変化が使用されるところ、「細胞外水分量(ECW)と体内全水分量の比率」が「標準的な示性数」であることを開示している。
そして、引3技術事項から把握される、「細胞外水分量(ECW)と体内全水分量の比率」の変化が慢性うっ血性心不全(CHF)の悪化条件の指標となることは、従来周知である(以下、当該周知な事項を「周知技術1」という。)。
(イ)引用発明と周知技術1は、対象者の水分量に基づいて心不全の状態の変化を判定する点で共通する技術の分野に属するものであるから、引用発明の「細胞内液に対する細胞外液の比率」を示す「指標I」に代えて周知技術1の「細胞外水分量(ECW)と体内全水分量の比率」を採用し、上記相違点1に係る本件補正発明の特定事項を備えたものとすることは、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)であれば容易に想到し得ることである。
イ 本件補正発明の奏する作用効果
本件補正発明によってもたらされる効果は、引用文献1及び3の記載事項から当業者が予測し得る程度を超えるものとはいえない。
ウ したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(6)請求人の主張について
ア(ア)請求人は、審判請求書において、「引用文献1は、時間に関する体の部位の体液レベルの変化を用いて心不全インジケータを決定することを開示も教示もしないものです。」と主張する。
(イ)しかしながら、引用発明として認定したように、引用文献1の段落【0212】には、「パラメータ値R0及びR∞が決定されると、ステップ850において処理システム10は、各体節の指標Iを決定するように動作する。この例では、用いられる指標はRi/Reにより与えられるものであり、細胞内液に対する細胞外液の比率を示している。」と、体節(体の部位)の細胞内液に対する細胞外液の比率(体液レベル)を決定することが記載され、段落【0222】に「ステップ870において、水腫を有しない肢に関し、処理システム10は、各残りの肢に対して決定された指標に対する、胸腔に関して決定された指標の比率に基づいて、指標比率IRを決定するように動作する。」と肢の指標I(体の部位の体液レベル)と胸腔の指標I(体の部位の体液レベル)との比率である指標比率IR(体の部位の体液レベル)を決定することが記載され、段落【0230】に「縦モード解析の別のプロセスを実行することが可能である。この場合、ステップ880において、処理システム10は指標比率IRを、同じ被験者の同じ体節に関して測定され以前に決定された指標比率IRprevと比較することができる。」、段落【0232】に「処理システム10は、現在の指標比率IRの値が、同じ肢に関して決定された以前の指標比率IRprevと異なるか否かを評価する。値が変化している場合、値の変化の方向は肺水腫のレベルの上昇あるいは低下のいずれかを示すことがあり、ステップ890において、この変化の大きさを用いて変化の程度が示される。」と指標比率IRの値の変化(時間に関する体の部位の体液レベルの変化)に基づいて指標比率IRの値の変化の方向及び変化の大きさ(心不全インジケータ)を決定することが開示されている。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。
イ(ア)請求人は、令和4年8月26日提出の上申書(以下「請求人上申書」という。)において、「出願人は、引用文献3が開示する唯一の比が無脂肪質量(FFM)に対する細胞外水分量(ECW)の比率で、請求項が要件とするECW/TBWの比とは異なるものと思料いたします。また、引用文献3における当該比率に代わるものとして、TBWのみが説明されています。そのため、引用文献3は実際には、ECW/TBWを心不全の兆候として用いることから阻害するものです。加えて、引用文献3には、当業者をECW/TBWを心不全の兆候として用いることへ導くような、教示も示唆もございません。
上記の点から、審査官殿のご認定のようなECW/TBWがうっ血性心不全の兆候として周知であるといった点には、根拠が見出されないものと思料いたします。更に、請求項が、体内総水分量に対する体の部位におけるECWの比における変化に基づいて心不全インジケータを決定することを要件とすることを、出願人は強調するものです。こうした要件はいずれの引用文献にも開示もしくは教示されるものではなく、また、当該技術分野において周知なものでもございません。」と主張する。
(イ)しかしながら、引3技術事項として認定したように、引用文献3(上記(引3-イ)参照。)には、慢性うっ血性心不全(CHF)患者の悪化条件の指標として「示性数」の変化が使用されるところ、細胞外水分量(ECW)と体内全水分量の比率が、標準的な示性数に含まれることが開示されている。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。
なお、請求人は、請求人上申書において「依然として拒絶理由が解消されないとご認定の場合には・・・再度拒絶理由をご通知いただき、ぜひとも補正の機会をいただけますよう・・・」と主張するが、具体的な補正案が提示されているわけでもなく、新たに補正の機会を用意する格別の事情はない。
3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和4年4月21日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和3年7月21日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、(1)この出願の請求項1、2及び4ないし13に係る発明は、その優先日前に頒布された刊行物である下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、(2)この出願の請求項3に係る発明は、その優先日前に頒布された刊行物である下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された周知技術に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
3 引用文献について
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項及び引用発明は、上記第2[理由]2(2)ア及びイに記載したとおりである。
4 対比・判断
(1)本願発明は、上記第2[理由]2(3)ないし(5)で検討した本件補正発明から、
ア 「前記少なくとも1つのインピーダンス測定を実行することによって得られる少なくとも1つのインピーダンス値を使用して体液レベルインジケータを決定」することについて、「少なくとも1つのインピーダンス測定」が「前記被験者の前記少なくとも1つの体の部位にわたって」実行されること、「第1の時間」及び「第2の時間」において実行され、それぞれで得られる「少なくとも1つの第1のインピーダンス値」及び「少なくとも1つの第2のインピーダンス値」を使用して「第1の体液レベルインジケータ」及び「第2の体液レベルインジケータ」を決定するという限定事項を削除し、
イ 「前記体液レベルインジケータを使用して心不全インジケータを決定」することについて、「前記体液レベルインジケータ」が「前記第1と第2の体液レベルインジケータ」であり、「前記第1と第2の体液レベルインジケータの間の差異を使用して体液レベル変化を決定し、前記体液レベル変化を使用して心不全インジケータを決定する」という限定事項を削除し、
ウ 「前記体液レベルインジケータが、前記体の部位における細胞外体液レベルを少なくとも部分的に示すものであ」ることについて、「体内総水分量に対する前記体の部位における細胞外体液レベルの比であ」るという限定事項を削除するとともに、
エ 「前記体の部位」について、「少なくとも前記被験者の肢と前記被験者の胴体とを含む」との特定から、「前記被験者の肢の少なくとも1つと前記被験者の肢の少なくとも一部とを含み、前記体の部位が、胴体以外である」との特定に変更されたものである。
(2)上記(1)のア及びイの特定事項について、上記第2[理由]2(3)カないしク(ア)で対比したように、引用発明と本件補正発明は相違しないから、引用発明と本願発明とも相違しない。
(3)上記(1)のウの特定事項について、上記第2[理由]2(3)ク(I)で対比したように、引用発明と本件補正発明は「前記体の部位における細胞外体液レベルの比」の点で共通するから、引用発明と本願発明は相違しない。
(4)ア 上記(1)のエの特定事項について、本願発明の「前記体の部位が、前記被験者の肢の少なくとも1つと前記被験者の肢の少なくとも一部とを含み、前記体の部位が、胴体以外である」との特定事項は、令和3年7月21日にされた手続補正により、補正前の「前記体の部位が、前記被験者の胴体と前記被験者の胴体の部分との少なくとも1つを含む」との特定事項を補正したものである。
イ そして、令和3年7月21日に提出された意見書によれば、「前記体の部位が、胴体以外である」という補正の根拠は、出願当初の明細書の段落【0050】、【0095】及び【0098】等の記載であり、その記載内容は以下のとおりである(下線は当審で付加した。)。
「【0050】一実施形態では、シグネチャは、胴体の体液レベルインジケータ、胴体以外の体の部位である少なくとも1つの体の部位の体液レベルインジケータ、および胴体の体液レベルインジケータと体の部位の体液レベルインジケータとの差異のうちの2つ以上を示す。」
「【0095】一例では、処理デバイスは、被験者の胴体にわたって少なくとも1つのインピーダンス測定を実行することによって得られる少なくとも1つの胴体インピーダンス値を使用して胴体体液レベルインジケータを決定し、被験者の体の部位にわたって少なくとも1つのインピーダンス測定を実行することによって得られる少なくとも1つの部位別インピーダンス値を使用して部位別体液レベルインジケータを決定し、この体の部位は胴体以外の体の部位である。したがって、別個の体液レベルインジケータが、被験者の胴体および少なくとも1つの他の体の部位について得られる。心不全インジケータが次いで、胴体体液レベルインジケータと部位別体液レベルインジケータの両方を使用して、たとえば、胴体と体の部位との間での細胞内体液レベルの差異、胴体と体の部位との間での細胞外体液レベルの差異、胴体の体の部位との間での細胞外体液レベルに対する細胞内体液レベルの比の差異のうちの1つまたは複数を調査することによって、決定され得る。」
「【0098】一例では、処理デバイスは典型的には、第1の時間において被験者の胴体にわたって少なくとも1つのインピーダンス測定を実行することによって得られる少なくとも1つの第1のインピーダンス値を使用して第1の胴体体液レベルインジケータを決定し、第1の時間において被験者の体の部位にわたって少なくとも1つのインピーダンス測定を実行することによって得られる少なくとも1つの第1のインピーダンス値を使用して第1の部位別体液レベルインジケータを決定し、この体の部位は胴体以外の体の部位である。処理デバイスは次いで、第2の時間において被験者の少なくとも胴体にわたって少なくとも1つのインピーダンス測定を実行することによって得られる少なくとも1つの第2のインピーダンス値を使用して第2の胴体体液レベルインジケータを決定し、第2の時間において被験者の体の部位にわたって少なくとも1つのインピーダンス測定を実行することによって得られる少なくとも1つの第2のインピーダンス値を使用して第2の部位別体液レベルインジケータを決定する。これに続いて、処理デバイスは、第1の胴体体液レベルインジケータと第2の胴体体液レベルインジケータの差異を使用して胴体体液レベル変化を決定し、第1の部位別体液レベルインジケータと第2の部位別体液レベルインジケータの差異を使用して部位別体液レベル変化を決定する。心不全インジケータは次いで、胴体体液レベル変化および部位別体液レベル変化に基づいて決定され得る。したがって、このプロセスは、胴体の体液レベルおよび他の体の部位の体液レベルの経時的な変化を特定することができることが理解されるであろう。これは、各々の体の部位における体液レベルの傾向を独立に調査するために、またしかし、変化が胴体に限局されているものかどうかを確かめるために他の体の部位における体液レベル変化に対して相対的にこれらの変化を追跡するためにも、使用され得る。」
ウ 補正の根拠とされるこれらの段落の記載によれば、心不全インジケータの決定において、胴体以外の体の部位の体液レベルインジケータが単独で使用されることはなく、胴体以外の体の部位の体液レベルインジケータと胴体の体液レベルインジケータの双方を使用して心不全インジケータが決定されている。
このような補正の根拠とされる明細書の記載に鑑みれば、本願発明の「iii)前記体液レベルインジケータを使用して心不全インジケータを決定し、前記体液レベルインジケータが、前記体の部位における細胞外体液レベルを少なくとも部分的に示すものであり、前記体の部位が、前記被験者の肢の少なくとも1つと前記被験者の肢の少なくとも一部とを含み、前記体の部位が、胴体以外である」という特定事項は、心不全インジケータの決定に使用する体液レベルインジケータとして、胴体以外の体の部位である被験者の肢と肢の少なくとも一部の体液レベルインジケータを含むことを特定するものであって、胴体の体液レベルインジケータを使用することを排除するものではないと解される。
エ そうすると、引用発明が「水腫を有しない肢に対して決定された指標に対する、胸腔に関して決定された指標の比率に基づいて、指標比率IRを決定」していること、すなわち、胸腔に係る指標(体液レベルインジケータ)を使用していることは、引用発明と本願発明との相違点とはならない。
オ また、引用発明は「各肢及び胸腔に関するインピーダンスパラメータR0及びR∞の値を決定し、細胞内液に対する細胞外液の比率を示す各体節の指標Iを決定」している、すなわち、複数の肢の指標I(体液レベルインジケータ)を使用しているから、本願発明の「前記体の部位が、前記被験者の肢の少なくとも1つと前記被験者の肢の少なくとも一部とを含」むことは、引用発明と本願発明との相違点とはならない。
(5)本願発明と本件補正発明とで共通する特定事項については、上記第2[理由]2(3)アないしオで対比したように、引用発明と本件補正発明は相違しないから、引用発明と本願発明とも相違しない。
(6)そうすると、本願発明と引用発明との間に相違する点はなく、本願発明は引用発明である。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-006003