特許拒絶査定不服審判
2022-004619
C1基質からのタンパク質、食料、及び有用な副生成物の生成のための微生物並びに人工エコシステム
- 審判番号
- 2022-004619
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-548330外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年03月30日
- 審決日
- 2024年06月04日
- 公報発行日
- 2024年11月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】キベルディ インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】高岡 亮一
- 【請求人代理人】小田 直
- 【請求人代理人】岩堀 明代
- 【請求人代理人】高橋 香元
- 分類
- P18 .121-WZ (C12P)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-548330「C1基質からのタンパク質、食料、及び有用な副生成物の生成のための微生物並びに人工エコシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 9月28日国際公開、WO2017/165244、令和 1年 6月27日国内公表、特表2019-517775〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成29年3月18日(パリ条約による優先権主張 2016年3月19日 米国、2017年2月3日 米国)を国際出願日とする出願であって、令和2年11月25日付けで拒絶理由が通知され、これに対して令和3年6月7日に意見書及び手続補正書が提出されたが、令和3年11月19日付けで拒絶査定がなされた。その後の手続の経緯は次のとおりである。
令和4年 3月30日 拒絶査定不服審判請求書及び手続補正書の提 出
同年 6月 3日付け 前置報告書
令和5年 6月22日付け 拒絶理由通知
同年 6月23日 上申書の提出(前置報告書に対する意見を述 べるもの)
同年12月27日 意見書及び手続補正書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、令和5年12月27日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
従属栄養生物に栄養素を供給または提供するための方法であって、バイオマスまたは前記バイオマス由来のタンパク質を前記従属栄養生物に提供する工程を含み、
前記バイオマスまたは前記バイオマス由来のタンパク質はカプリアビダス・ネカトールDSM541によって生成されることを特徴とし、
前記カプリアビダス・ネカトールDSM541は前記カプリアビダス・ネカトールDSM541を維持するのに適したバイオリアクタ環境で成長し、前記環境には、炭素原子を1つのみ含有する無機分子および/または有機分子を含有する炭素源を含んだガス状基質が導入され、前記環境はアンモニア、アンモニウム、尿素、および/または硝酸塩を含有する窒素源を含むことを特徴とし、
前記カプリアビダス・ネカトールDSM541は炭素原子を1つのみ含有する前記無機分子および/または有機分子を、少なくとも1つの化学合成炭素固定反応および少なくとも1つの同化生合成経路を用いて、前記バイオマスまたは前記バイオマス由来のタンパク質に、化学合成独立栄養的に変換することを特徴とし、
前記化学合成炭素固定反応および同化生合成経路は、化学的、電気化学的または熱化学的に生成された電子供与体および電子受容体によって供給されるか、または前記環境の外部にある少なくとも1つの供給源から前記環境に導入される、化学的および/または電気化学的エネルギーによって少なくとも部分的に駆動されることを特徴とし、
同化生合成を用いて生成される2つ以上の炭素原子を含む有機分子および/または前記カプリアビダス・ネカトールDSM541を含むバイオマスが、前記従属栄養生物に栄養素を提供可能な生物学的栄養素を包含することを特徴とし、
バイオリアクタは、供給されるバッチ培養システムまたは連続培養システムとして稼働され、前記カプリアビダス・ネカトールDSM541は、算術期または対数期で成長し、
前記バイオマスまたは前記バイオマス由来のタンパク質は前記環境から分離して前記従属栄養生物に供給することを特徴とする、
方法。」(以下、「本願発明」という。)
第3 当審が通知した拒絶理由の概要
本願発明は、本願の優先権主張の日(以下「本願優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用例1及び2に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用例1: 特表2013-542710号公報
引用例2: 米国特許出願公開第2014/0273112号明細書
第4 当審の判断
1 引用例の記載事項
(1)引用例1(特表2013-542710号公報)
当審で通知した拒絶理由で引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である引用例1には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審にて付したものである。
ア 「【要約】
二酸化炭素および/または他の形態の無機炭素および/またはC1炭素源(たとえば、一酸化炭素、メタン、メタノール、ギ酸塩、またはギ酸が挙げられるが、これらに限定されるものではない)および/またはC1化学品を含有する混合物(たとえば、種々のシンガス組成物が挙げられるが、これらに限定されるものではない)から有機化学品(バイオ燃料または他の価値あるバイオマス、化学品、工業品、もしくはも医薬品)への回収および変換を行うハイブリッド型生物化学プロセスのための組成物および方法を提供する。」(第1頁【要約】)
イ 「【請求項1】
無機炭素化合物および/または1個のみの炭素原子を含有する有機化合物から有機化学品への回収および変換のための生物化学法であって、
無機炭素化合物および/または1個のみの炭素原子を含有する有機化合物を、酸水素微生物の保持に好適なおよび/または酸水素微生物の抽出物の保持が可能な環境中に導入することと、
前記環境内で、前記酸水素微生物および/または前記酸水素微生物由来の酵素を含有する細胞抽出物を利用した少なくとも1種の化学合成炭素固定反応を介して、前記無機炭素化合物および/または1個のみの炭素原子を含有する前記有機化合物を前記有機化学品および/またはその前駆体に変換することと、
を含み、
前記化学合成固定反応が、少なくとも部分的には、化学的および/もしくは電気化学的に生成されたならびに/または前記環境外の少なくとも1つの外部源から前記環境内に導入された電子供与体および電子受容体により提供された化学的および/または電気化学的エネルギーにより駆動される、上記方法。」
ウ 「【0037】
本発明の特定の実施形態に係る1または2以上のプロセス工程で使用可能な例示的酸水素微生物としては、次のもの、すなわち、紅色非硫黄光合成細菌(たとえば、ロドシュードモナス・パルストリス(Rhodopseudomonas palustris)、・・・ラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)および他のラルストニア属(Ralstonia)の種、・・・が挙げられるが、これらに限定されるものではない)、さらには酸水素微生物を含む微生物のコンソーシアムのうちの1または2以上が挙げられるが、これらに限定されるものではない。」
エ 「【0086】
酸水素微生物を含有する栄養培地は、本発明の特定の実施形態では、部分的にまたは完全に、周期的にまたは連続的にバイオリアクターから除去可能であり、かつたとえば、細胞培養物を指数増殖期に維持するために、増大された(たとえば、最適な)炭素固定速度で細胞培養物を増殖期(指数期または静止期)に維持するために、増殖培地中の枯渇した栄養素を補充するために、および/または阻害廃棄生成物を除去するために、新しい無細胞培地と交換可能である。」
オ 「【0113】
本発明の特定の実施形態のさらなる特徴は、本発明の特定の実施形態に係る1つまたは複数の化学合成プロセス工程を介して生成される有機化合物および/またはバイオマスの使用に関する。生成される有機化合物および/またはバイオマスの使用としては、・・・栄養補助剤、栄養医薬品、医薬品、医薬用中間体、パーソナルケア製品(ただし、これらに限定されるものではない)をはじめとする有機化学品の生成、製造プロセスまたは化学プロセスのための原料および/または供給原料として、・・・、医薬物質、薬用物質、または栄養物質の供給源として、・・・、他の微生物または生物の増殖のための栄養源として、ウシ、ヒツジ、ニワトリ、ブタ、またはサカナ(ただし、これらに限定されるものではない)をはじめとする動物のための飼料として、メタンまたはバイオガスの製造のための供給原料として、肥料、土壌添加剤および土壌安定剤として、が挙げられるが、これらに限定されるものではない。」
カ 「【0134】
実施例1
この実施例では、高脂質含分および/またはポリヒドロキシブチレート(PHB)などの他の価値ある化合物を蓄積する酸水素微生物を、酸素が電子受容体を提供する形で炭素源としてのCO2および電子供与体として作用する水素を有する無機培地で増殖させた。このような酸水素微生物は、本発明の特定の実施形態では、二酸化炭素などのC1化学品から長鎖状有機化学品中への変換に使用可能である。
【0135】
静的嫌気性反応槽にカプリアビダス・ネカトール(Cupriavidus necator)DSM531(これはPHBとして高パーセントの細胞塊を蓄積可能である)を接種した。摂氏28度の好気的条件下に維持されたDSM培地no.1寒天プレートから接種物を得た。各嫌気性反応槽は、ヘッドスペース中の80%H2、10%CO2、および10%O2を有する10mlの液体培地DSMno.81を有していた。培養物を摂氏28度でインキュベートした。カプリアビダス・ネカトール(Cupriavidus necator)は、8日後、600nmで0.98の光学濃度(OD)および4.7×108細胞/mlの細胞密度に到達した。
【0136】
カプリアビダス・ネカトール(Cupriavidus necator)(DSM531)で他の増殖実験を行った。増殖に使用された培地は、Schlegelらにより配合されたミネラル塩培地(MSM)であった。1000mlの培地A、10mlの培地B、および10mlの培地Cを混合することにより、MSM培地を形成した。培地Aは、9g/l Na2HPO4.12H2O、1.5g/l KH2PO4、1.0g/l、0.2g/l MgSO4.7H2O、および1.0mlの微量元素培地を含んでいた。微量元素培地は、1000ml蒸溜水、100mg/l ZnSO4.7H2O、30mg/l MnCl2.4 H2O、300mg/l H3BO3、200mg/l COCl2.6H2O、10mg/l CuCl2.2H2O、20mg/l NiCl2.6H2O、および30mg/l Na2MoO4.2H2Oを含んでいた。培地Bは、100mlの蒸溜水、50mgクエン酸第二鉄アンモニウム、および100mg CaCl2を含んでいた。培地Cは、100mlの蒸溜水および5g NaHCO3を含有していた。
【0137】
ヘッドスペース中に次のガス混合物、すなわち、71%水素、4%酸素、16%窒素、9%二酸化炭素を有する150ml蓋付き密閉血清バイアル内の20mlのMSM培地中で培養物を増殖させた。ヘッドスペース圧力は、7psiであった。培養物を摂氏30度で8日間増殖させた。カプリアビダス・ネカトール(Cupriavidus necator)は、600nmで0.86のODに到達した。
【0138】
より大きいスケールのバイオリアクター装置では、より速い増殖速度およびより高い細胞密度に到達しうることは、公知である。したがって、単に以上に記載の系をスケールアップすることにより、より高い増殖速度および細胞密度を達成しうると考えられる。たとえば、アルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)、ラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)、ヒドロゲノモナス・ユートロファ(Hydrogenomona eutropha)としても知られるカプリアビダス・ネカトール(Cupriavidus necator)をH2/CO2/O2に基づくバイオリアクター内で90グラム/リットル超の細胞密度まで[Tanaka,Ishizaki;Biotech.And Bioeng.,vol.45,268-275(1995)]、かつ2時間未満の倍加時間で[Ammann,Reed,Durichek,Appl.Microbio.,(1968)822-826]、増殖させた。」
(2)引用例2(米国特許出願公開第2014/0273112号明細書)
当審で通知した拒絶理由で引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である引用例2には、次の事項が記載されている。なお、英語で記載されているので、当審による翻訳文で示す。
ア 「実施例1
合成ガス、またはその構成要素からなる供給原料からアミノ酸の製造
[0109] カプリアビダス・ネカトール(Cupriavidus necator)(ラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)としても知られている)株DSM531およびDSM541はH2/CO2/O2ガス混合物および無機塩を含む醗酵培地を用いて培養した。培養は、66.7%H2、9.5%CO2、5%O2、18.8%N2で補充された血清瓶中で、30℃、200rpmで、20mlのMSM培地(1 L 培地 A:1 L あたり 9 g Na2HPO412H2O、1.5 g H2PO4、1.0 g NH4Cl、0.2 g MgSO47H2O;10 ml 培地 B:100 ml あたり 50 mg クエン酸第二鉄アンモニウム、100 mg CaCl2;10 ml 培地 C:100 ml あたり 5 g NaHCO3;および 1 ml 微量ミネラル溶液: 100 mg ZnSO47H2O、30 mg MnCl24H20、300 mg H3BO3、200 mg COCl26H20、10 mg CuCl22H2O、20 mg NiCl26H2O、および 30 mg Na2MoO42H2O/1L)で96時間増殖させた。
[0110] 成長培地中のリジンの検出のために、細胞(O.D=0.1)1mlを遠心分離(10,000rpm、5分、室温)により分離し、上清(200μl)は、ろ過した(0.22μ)。上清のサンプルを、表2に示すように、アミノ含有化合物の分泌、アミノ酸、リジン、チロシン、およびフェニルアラニンなどについて分析した。C.necator株DSM541は、C.necator株DSM531と比較して高い濃度のリジン、チロシン、およびフェニルアラニンを培地中に分泌したことが観察された。分析は、200μlの滅菌濾過された発酵培地で実施した。分析は200μlの滅菌ろ過した発酵培地で行った。化合物を分離し、クリーンアップ・誘導体化キット(EZ-FaaST(Phenomenex)など)を用いて誘導体化した後、液体クロマトグラフィー質量分析を行い、菌株から培地中に分泌された化合物を分離・同定した(表2)。DSM 541の培地から検出されたリジンのレベルはDSM 531の125倍であった(図5)。」
2 判断
(1)引用発明の認定
引用例1は、上記1(1)ア及びイのとおりの「無機炭素化合物および/または1個のみの炭素原子を含有する有機化合物から有機化学品への回収および変換のための生物化学法」を開示する特許文献であって、実施例1には、当該方法に用いる酸水素微生物として、ラルストニア・ユートロファとしても知られるカプリアビダス・ネカトールDSM531を用いた場合の微生物の増殖例が記載されている(上記1(1)カ)。したがって、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「無機炭素化合物および/または1個のみの炭素原子を含有する有機化合物から有機化学品(バイオ燃料または他の価値あるバイオマス、化学品、工業品、もしくは医薬品)への回収および変換のための生物化学法であって、
無機炭素化合物および/または1個のみの炭素原子を含有する有機化合物を、酸水素微生物の保持に好適な環境中に導入することと、
前記環境内で、前記酸水素微生物を利用した少なくとも1種の化学合成炭素固定反応を介して、前記無機炭素化合物および/または1個のみの炭素原子を含有する前記有機化合物を前記有機化学品に変換することと、
を含み、
前記化学合成固定反応が、少なくとも部分的には、化学的および/もしくは電気化学的に生成されたならびに/または前記環境外の少なくとも1つの外部源から前記環境内に導入された電子供与体および電子受容体により提供された化学的および/または電気化学的エネルギーにより駆動され、
前記酸水素微生物は、ラルストニア・ユートロファとしても知られるカプリアビダス・ネカトールDSM531である、方法。」
(2)対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「酸水素微生物」である「カプリアビダス・ネカトールDSM531」は、本願発明の「ラルストニア・ユートロファとしても知られるカプリアビダス・ネカトールDSM541」と、「カプリアビダス・ネカトール」である点で共通し、引用発明において「酸水素微生物を利用」して「変換」される「有機化学品(バイオ燃料または他の価値あるバイオマス、化学品、工業品、もしくは医薬品)」は、本願発明において「カプリアビダス・ネカトールDSM541によって生成」ないし「変換」される「バイオマスまたはバイオマス由来のタンパク質」及び「炭素原子を2つ以上含む有機分子」に相当する。
そして、「カプリアビダス・ネカトール」による「変換」反応が、本願発明は「少なくとも1つの化学合成炭素固定反応および少なくとも1つの同化生合成経路」と特定されているのに対して、引用発明は「少なくとも1種の化学合成炭素固定反応」とのみ特定されているが、一般に、同化反応とは、簡単な分子から化学的および/または電気化学的エネルギーを使って高分子等の複雑な分子を合成する反応を意味し、本願明細書においてもそのとおりの意味で用いられていると認められるところ(例えば、段落【0046】、【0177】)、引用発明で「回収および変換」される「有機化学品(バイオ燃料または他の価値あるバイオマス、化学品、工業品、もしくは医薬品)」は、「化学合成炭素固定反応」のみならず、何らかの同化反応によって生成することは自明であり、引用発明も同化生合成経路を含むものと認められる。
よって、引用発明の「無機炭素化合物および/または1個のみの炭素原子を含有する有機化合物から有機化学品(バイオ燃料または他の価値あるバイオマス、化学品、工業品、もしくは医薬品)への回収および変換のための生物化学法であって、
無機炭素化合物および/または1個のみの炭素原子を含有する有機化合物を、酸水素微生物の保持に好適な環境中に導入することと、
前記環境内で、前記酸水素微生物を利用した少なくとも1種の化学合成炭素固定反応を介して、前記無機炭素化合物および/または1個のみの炭素原子を含有する前記有機化合物を前記有機化学品に変換することと、
を含み、
前記化学合成固定反応が、少なくとも部分的には、化学的および/もしくは電気化学的に生成されたならびに/または前記環境外の少なくとも1つの外部源から前記環境内に導入された電子供与体および電子受容体により提供された化学的および/または電気化学的エネルギーにより駆動され、
前記酸水素微生物は、ラルストニア・ユートロファとしても知られるカプリアビダス・ネカトールDSM531である、方法」は、
本願発明の「前記バイオマスまたは前記バイオマス由来のタンパク質はカプリアビダス・ネカトールDSM541によって生成されることを特徴とし、
前記カプリアビダス・ネカトールDSM541は前記カプリアビダス・ネカトールDSM541を維持するのに適したバイオリアクタ環境で成長し、前記環境には、炭素原子を1つのみ含有する無機分子および/または有機分子を含有する炭素源を含んだガス状基質が導入され、」及び「前記カプリアビダス・ネカトールDSM541は炭素原子を1つのみ含有する前記無機分子および/または有機分子を、少なくとも1つの化学合成炭素固定反応および少なくとも1つの同化生合成経路を用いて、前記バイオマスまたは前記バイオマス由来のタンパク質に、化学合成独立栄養的に変換することを特徴とし、
前記化学合成炭素固定反応および同化生合成経路は、化学的、電気化学的または熱化学的に生成された電子供与体および電子受容体によって供給されるか、または前記環境の外部にある少なくとも1つの供給源から前記環境に導入される、化学的および/または電気化学的エネルギーによって少なくとも部分的に駆動されることを特徴とし、」と、酸水素微生物が「カプリアビダス・ネカトール」である限りで共通である。
そうすると、本願発明と引用発明とは、
「バイオマスまたは前記バイオマス由来のタンパク質がカプリアビダス・ネカトールによって生成されることを特徴とし、
前記カプリアビダス・ネカトールは前記カプリアビダス・ネカトールを維持するのに適した環境で成長し、
前記カプリアビダス・ネカトールは炭素原子を1つのみ含有する前記無機分子および/または有機分子を、少なくとも1つの化学合成炭素固定反応および少なくとも1つの同化生合成経路を用いて、前記バイオマスまたは前記バイオマス由来のタンパク質に変換することを特徴とし、
前記化学合成炭素固定反応および同化生合成経路は、化学的、電気化学的または熱化学的に生成された電子供与体および電子受容体によって供給されるか、または前記環境の外部にある少なくとも1つの供給源から前記環境に導入される、化学的および/または電気化学的エネルギーによって少なくとも部分的に駆動されることを特徴とする、
方法。」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)
使用されるカプリアビダス・ネカトールが、本願発明では「カプリアビダス・ネカトールDSM541」であるのに対して、引用発明では「カプリアビダス・ネカトールDSM531」である点。
(相違点2)
本願発明では「従属栄養生物に栄養素を供給または提供するための方法であって、バイオマスまたは前記バイオマス由来のタンパク質を前記従属栄養生物に提供する工程を含み」、「同化生合成を用いて生成される2つ以上の炭素原子を含む有機分子および/または前記カプリアビダス・ネカトールDSM541を含むバイオマスが、前記従属栄養生物に栄養素を提供可能な生物学的栄養素を包含すること」、および、「前記バイオマスまたは前記バイオマス由来のタンパク質は前記環境から分離して前記従属栄養生物に供給すること」が特定されているのに対して、引用発明では特定されていない点。
(相違点3)
カプリアビダス・ネカトールが成長する環境について、本願発明では「前記環境には、炭素原子を1つのみ含有する無機分子および/または有機分子を含有する炭素源を含んだガス状基質が導入され、前記環境はアンモニア、アンモニウム、尿素、および/または硝酸塩を含有する窒素源を含むこと」及び「バイオリアクタは、供給されるバッチ培養システムまたは連続培養システムとして稼働され、前記カプリアビダス・ネカトールDSM541は、算術期または対数期で成長し、前記バイオマスまたは前記バイオマス由来のタンパク質は前記環境から分離して前記従属栄養生物に供給すること」が特定されているのに対して、引用発明では特定されていない点。
(3)判断
上記相違点1については、引用例1には無機炭素化合物および/または1個のみの炭素原子を含有する有機化合物から有機化学品を生成するために使用できる酸水素微生物として、実施例1で使用されたカプリアビダス・ネカトール(ラルストニア・ユートロファとしても知られる)DSM531という特定の株だけでなく、ラルストニア・ユートロファを含む各種の微生物が記載されている(上記1(1)ウ)。一方、引用例2の実施例1に記載されるように、カプリアビダス・ネカトールDSM541は、カプリアビダス・ネカトールDSM531と同様に公知で入手可能な微生物であり、しかも、当該実施例1には、カプリアビダス・ネカトールDSM531およびDSM541をH2/CO2/O2ガス混合物および無機塩を含む醗酵培地を用いて培養した結果、各種のアミノ酸の生産レベルが、DSM531よりもDSM541の方が高かったことが示されている(上記1(2)ア)。そうすると、引用発明においてカプリアビダス・ネカトールDSM531に替えてカプリアビダス・ネカトールDSM541を用いることは当業者が容易になし得ることである。
次に、上記相違点2については、引用発明において、「回収および変換」される産物は、2つ以上の炭素原子を含むことが自明であり、「有機化学品(バイオ燃料または他の価値あるバイオマス、化学品、工業品、もしくは医薬品)」であって、引用例1には、当該産物の具体的な使用用途として、発酵のための炭素源、微生物や他の生物の増殖のための栄養源、動物の飼料など(上記1(1)オ)、本願明細書(段落【0002】)に記載された「従属栄養生物」のための「栄養素」と同様のものが記載されていることから、引用発明において、「回収および変換」される「有機化学品」を「従属栄養生物」のための「栄養素」として使用することは当業者が容易になし得ることである。そして、そのような用途に用いる場合、引用発明の「有機化学品」は、当該用途に適した「生物学的栄養素を包含」しており、培養「環境から分離」されて「従属栄養生物」に「提供」されることは自明であるから、引用発明において「回収および変換」される「有機化学品」をこれらの用途に使用すれば、自ずと上記相違点2に係る本願発明の構成を満たすものと認められる。
次に、相違点3については、引用例1の実施例1では、「ヘッドスペース中に次のガス混合物、すなわち、71%水素、4%酸素、16%窒素、9%二酸化炭素を有する150ml蓋付き密閉血清バイアル内の20mlのMSM培地中で培養物を増殖させた。」(上記1(1)カの段落【0137】)と記載されているとおり、反応槽環境に、「炭素原子を1つのみ含有する無機分子および/または有機分子を含有する炭素源」が「ガス混合物」として導入されている。また、用いられた培地は、クエン酸第二鉄アンモニウムを含む(上記1(1)カの段落【0136】)から、当該環境は「アンモニウムを含有する窒素源」を含むと認められる。
さらに、引用例1には、「酸水素微生物を含有する栄養培地は、本発明の特定の実施形態では、部分的にまたは完全に、周期的にまたは連続的にバイオリアクターから除去可能であり、かつたとえば、細胞培養物を指数増殖期に維持するために、増大された(たとえば、最適な)炭素固定速度で細胞培養物を増殖期(指数期または静止期)に維持するために、増殖培地中の枯渇した栄養素を補充するために、および/または阻害廃棄生成物を除去するために、新しい無細胞培地と交換可能である。」(上記1(1)エ)と記載され、ここで、栄養培地を「周期的にまたは連続的にバイオリアクターから除去」し、「新しい無細胞培地と交換」し、「指数増殖期に維持する」ことは、本願発明の「バッチ培養システムまたは連続培養システムとして稼働され」、「算術期または対数期で成長し」に該当する。
よって、引用発明において、より効率的な炭素固定や細胞増殖のために上述の実施形態をとることにより、相違点3に係る本願発明の構成が満たされるものであるから、相違点3に係る本願発明の構成は、引用例1の記載に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。
そして、本願発明において、引用例1、2の記載から当業者が予測できない効果が奏されたと認めるべき事情は見いだせない。
したがって、本願発明は、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)請求人の主張について
請求人の意見書における主張とそれに対する当審の判断は、次のとおりである。
ア 請求人の主張
引用例1の実施例1では、密閉血清バイアル中でのカプリアビダス・ネカトールDSM531のバッチ増殖で、0.86という600nmでのODに達したことが開示されているが、これは、密閉バッチシステムにおいて酸素が枯渇した後の定常期(stationary phase)の状態である。また、引用例2の実施例1においても、カプリアビダス・ネカトールDSM531とDSM541は、引用例1で説明されているような血清ボトルで生育されているに過ぎず、そのODも0.1という低いものである。
これに対して、本願発明では、カプリアビダス・ネカトールDSM541が、それに適したバイオリアクター環境で成長すること、バイオリアクターがバッチ培養システムまたは連続培養システムとして稼働されること、カプリアビダス・ネカトールDSM541が算術期または対数期で成長することが特定されており、実施例8には6.7~50、実施例2には132といった、引用例1、2に比べてはるかに高い細胞密度が達成されたことが記載されている。
このように、本願発明は、引用例1、2の記載から予測することのできない顕著な効果を奏する発明である。
イ 当審の判断
請求人は、引用例1の実施例1や引用例2の実施例1と対比して、本願発明の実施例2及び8の効果の顕著性を主張するが、引用例1の実施例1は、「この実施例では、・・・酸水素微生物を、酸素が電子受容体を提供する形で炭素源としてのCO2および電子供与体として作用する水素を有する無機培地で増殖させた。」(上記1(1)カの【0134】)と記載されているとおり、酸水素微生物の単なる増殖例に過ぎず、バッチ培養システムや連続培養システムで培養を行えば、当該微生物は指数増殖期に維持され、これよりも高い細胞密度が達成されるであろうことは、引用例1の「酸水素微生物を含有する栄養培地は、本発明の特定の実施形態では、部分的にまたは完全に、周期的にまたは連続的にバイオリアクターから除去可能であり、かつたとえば、細胞培養物を指数増殖期に維持するために、増大された(たとえば、最適な)炭素固定速度で細胞培養物を増殖期(指数期または静止期)に維持するために、増殖培地中の枯渇した栄養素を補充するために、および/または阻害廃棄生成物を除去するために、新しい無細胞培地と交換可能である。」との記載(上記1(1)オ)に基づいて、当業者が予想し得る範囲内のことである。
そして、培養により達成される細胞密度が、培養規模、ガス流量、攪拌速度、培地の組成や、培地交換の頻度や量、培養温度など、様々な培養条件の影響を受けることや、細胞密度の目安としてのOD値(光学濃度)が培地組成に起因する培地の色調等の影響を受けることは、本願優先日当時の技術常識である。実際、本願の実施例2の結果を示す下記表1からは、培養条件が異なれば培養により達成された細胞密度(表1の「最終OD」)が異なることが見て取れるし、そもそも培養開始時のOD値(表1の「開始OD」)が、引用例1、2の培養後のOD値(0.86、0.1)を上回っているものも多い(バッチ番号2、5、7~11)。
よって、培養条件が一律ではない本願の実施例2、8と引用例1の実施例1及び引用例2の実施例1のOD値を比較して本願発明の効果の顕著性を評価することは妥当性を欠く。
したがって、請求人の上記主張は採用することができない。
(本願の表1)
[図:0001415619000001.jpg]
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-004619