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特許拒絶査定不服審判

2023-020110

発酵プロセス利用による有用物質の製造方法

審判番号
2023-020110
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2020-541155外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2023年11月28日
審決日
2026年01月13日
公報発行日
2026年03月27日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .113-Z (C12P) / P18 .121-Z (C12P)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条1項3号特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2020-541155「発酵プロセス利用による有用物質の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 3月12日国際公開、WO2020/050113〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2019年(令和元年)8月28日(優先権主張 2018年9月3日 日本(JP))を国際出願日とする出願であって、令和5年7月10日付けの拒絶理由通知に対し、同年8月23日に意見書が提出されると同時に手続補正がなされたが、同年9月26日付けで拒絶査定がなされ、同年11月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。 第2 令和5年11月28日付け手続補正についての補正却下の決定 [結論] 令和5年11月28日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.本件補正 本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に、 「(補正前)【請求項1】 遺伝子工学的にロドプシンをコードする遺伝子を導入して発現させ、二酸化炭素固定経路に関与する核酸及びNADH経路に関与する核酸のいずれの核酸も遺伝子工学的に導入していない非光合成原核生物を光照射下で培養することを特徴とする、有用物質の製造方法であって、 前記ロドプシンが、バクテリオロドプシン、プロテオロドプシン及びデルタロドプシンから選択されるいずれかのロドプシンであり、 前記有用物質が、有機酸、ペプチド、アミノ酸、タンパク質、核酸、ビタミン、糖、糖アルコール、アルコール、イソプレノイド類及び脂質から選択される1種又は複数種からなる有用物質であり、 前記有用物質の産生量が、前記非光合成原核生物を光照射下で培養したときに、暗所で培養したときより高い産生量を示すことを特徴とする有用物質の製造方法。」とあったものを、補正後の請求項1において、 「(補正後)【請求項1】 遺伝子工学的にロドプシンをコードする遺伝子を導入して発現させ、二酸化炭素固定経路に関与する核酸及びNADH経路に関与する核酸のいずれの核酸も遺伝子工学的に導入していない非光合成原核生物を光照射下で培養することを特徴とする、有用物質の製造方法であって、 前記ロドプシンが、バクテリオロドプシン、プロテオロドプシン及びデルタロドプシンから選択されるいずれかのロドプシンであり、 前記有用物質が、前記非光合成原核生物の代謝産物からなり、有機酸、ペプチド、アミノ酸、タンパク質、核酸、ビタミン、糖アルコール、アルコール、イソプレノイド類及び脂質から選択される1種又は複数種からなる有用物質であり、 前記非光合成原核生物を光照射下で培養したときに暗条件と比較して代謝サイクルにおけるグルコース消費量を抑制させることにより、前記有用物質の産生量が暗所で培養したときより高い産生量を示すことを特徴とする有用物質の製造方法。」 とする補正を含むものである。(下線は補正部分である。) 2.目的要件について 本件補正により、補正前の請求項1に、有用物質が「非光合成原核生物の代謝産物からな」ることが追加され、有用物質から「糖」が除外され、また、有用物質の産生量が、非光合成原核生物を光照射下で培養したときに暗所で培養したときより高い生産量を示すことについて、「暗条件と比較して代謝サイクルにおけるグルコース消費量を抑制させることにより、有用物質の産生量が」高い生産量を示すというメカニズムが特定されたので、補正前の方法が限定された。 そして、補正前の請求項1に記載された発明と、補正後の請求項1に記載された発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。 そうすると、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものを含むと認められる。 そこで、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)(以下、「独立特許要件」という。)について、以下で検討する。 3.独立特許要件の検討 (1)引用文献4の記載 拒絶査定において引用文献4として引用された、本願の優先日(2018年(平成30年)9月3日)より前の2015年5月28日に公知となった米国特許出願公開第2015/0147780号には、次の事項が記載されている。 なお、引用文献4は英文であるから、当審による翻訳を記載する。また、下線は当審で付したものである。 引4ア. 「特許請求の範囲 1.有機化合物を生産する方法であって、少なくとも1つのプロトンポンプタンパク質の遺伝子を用いて遺伝子操作された生物または細胞株から少なくとも1つの有機化合物を採取することを含む方法。 2.請求項1に記載の方法であって、前記少なくとも1つのプロトンポンプタンパク質が光駆動型プロトンポンプタンパク質である方法。 3.請求項1に記載の方法であって、前記少なくとも1つのプロトンポンプタンパク質が、アーキアロドプシン、バクテリオロドプシン、オプシン、プロテオロドプシン、ロドプシン、キサントロドプシン、それらの相同体、またはそれらの組み合わせである方法。 4.請求項3に記載の方法であって、前記少なくとも1つのプロトンポンプタンパク質が約100nmから約1μmの間の光を吸収する方法。 5.請求項4に記載の方法であって、前記少なくとも1つのプロトンポンプタンパク質が約300nmから約750nmの間の光を吸収する方法。 6.請求項5に記載の方法であって、前記少なくとも1つのプロトンポンプタンパク質が約450nmから約650nmの間の光を吸収する方法。 7.請求項6に記載の方法であって、前記少なくとも1つのプロトンポンプタンパク質が約450nmから約550nmの間の光を吸収する方法。 8.請求項6に記載の方法であって、前記少なくとも1つのプロトンポンプタンパク質が約550nmから約600nmの間の光を吸収する方法。 9.請求項1に記載の方法であって、前記少なくとも1つの有機化合物が生物製剤またはバイオ燃料である方法。 10.請求項9に記載の方法であって、前記生物製剤が、アレルゲン、抗体、血液製剤またはその誘導体、酵素、成長因子、ホルモン、免疫調節剤、インターフェロン、インターロイキン、ポリペプチド、タンパク質、血清、組織、毒素及びワクチンからなる群から選択される方法。」 引4イ. 「[0005]本発明は、遺伝子組換生物および細胞株を用いて、プロトンポンプタンパク質を用いてATP生産を増加させ、生物および細胞株の生産性を向上させるシステムおよび組成物を開示する。バクテリオロドプシンなどの特定のプロトンポンプは光駆動型であり、太陽光または他の光源によって吸収された光をエネルギー源として利用してプロトン勾配を形成することができる。太陽光をエネルギーとすることで、生物または細胞株はATP産生のためにグルコース、グリコーゲン、トレハロース、NADH、FADH2などの他のエネルギー源からそれほど多くのエネルギーを必要としない。その結果、生物はエネルギー消費および産生をより効率的に行うことができる。」 引4ウ. 「[0016]本発明は、少なくとも1つのプロトンポンプタンパク質の遺伝子を用いて遺伝子操作された生物または細胞株から有機化合物を収穫する方法、および少なくとも1つのプロトンポンプタンパク質の遺伝子を用いて遺伝子操作された生物または細胞株を含む組成物に関する。有機生成物を収穫するプロセスは、少なくとも1つのプロトンポンプタンパク質を含むように生物または細胞株を遺伝子操作し、その生物または細胞株を培養し、次いで所望の有機化合物を収穫することを含み得る。特定の実施形態では、有機化合物は生物製剤またはバイオ燃料である。」 引4エ. 「[0059]この方法は、様々な細胞機能の生産性向上を支援するために用いることができる。これらの細胞機能の向上は、生物製剤やバイオ燃料を含む有機化合物の収量増加をもたらす可能性がある。いくつかの実施形態では、この方法はATP生産の増加に用いることができる。前述のように、ATPは、プロトンがATP合成酵素を通過する際に生成される。ATP合成酵素は、リン酸基をアデノシン二リン酸に結合させ、ATPを生成するのに十分なエネルギーを生成する。より多くのプロトンポンプタンパク質を組み込むことで、より多くのプロトンがATP生成に利用可能となる。したがって、いくつかの実施形態では、プロトン勾配を増加させることができる。また、他の実施形態では、ATP合成酵素の活性も増加させることができる。いくつかの実施形態では、利用可能なエネルギーの増加により、生物製剤やバイオ燃料を含む有機化合物の高濃度生産が可能になる。」 引4オ. 「[0062]いくつかの実施形態では、本方法は、脂肪酸、アミノ酸、エタノールを含むが、これらに限定されない様々な細胞産物の産生を増加させるのにも役立つ可能性がある。脂肪酸は、エネルギー源および細胞構造の重要な供給源であるだけでなく、バイオ燃料の生産にも利用されている。しかしながら、脂肪酸の合成にはATPが必要である。脂肪酸の合成は、I型およびII型脂肪酸合成酵素を介して行われ、FASN遺伝子およびその相同遺伝子によってコードされている。いくつかの実施形態では、生物または細胞株は、FAS1、FAS2、FASN遺伝子、相同遺伝子、またはそれらの組み合わせも含むようにさらに遺伝子操作され得る。FAS1、FAS2、FASN遺伝子、相同遺伝子、またはそれらの組み合わせの追加は、いくつかの実施形態では、脂肪酸合成の増加に役立つ可能性がある。同様に、脂肪酸産生の増加は、遺伝子操作された生物における動物性脂肪の量を増加させ、バイオ燃料およびバイオディーゼルの生産量を増加させる可能性がある。」 引4カ. 「[0078]特定の実施形態では、方法は、プロトンポンプタンパク質の光曝露及び吸収、ならびにそのエネルギー産生を最大化するための設備を作製することを含み得る。特定の実施形態では、設備は、選択されたプロトンポンプおよび遺伝子組換え生物の吸収を最適化するように調整可能な照明を提供することにより、プロトンポンプの吸収を最大化することを含み得る。」 引4キ. 「[0082]プロテオロドプシンを用いた遺伝子工学の対象として大腸菌(E.coli)を選択する。プロテオロドプシン(PR)は、光駆動型プロトンポンプとして機能するバクテリオロドプシンの相同遺伝子である。PRは、このシステムにおける好ましいプロトンポンプとして大腸菌で良好に発現する。相同組み換えを用いて大腸菌を形質転換する。」 (2)生物学辞典の記載 当審が本願優先日前からの技術常識を示すために引用する「岩波 生物学辞典 第4版」(1998年11月10日株式会社岩波書店発行)には、次の事項が記載されている。 「代謝・・・生体内に取り込んだ分子の酵素などによる変化を指し、物質代謝とエネルギー代謝を包括する呼称。単に代謝というときは前者をおもに想定するが、実は両者は必ず伴いあう不可分のものである。個々の反応が連絡・制約しあって複雑な代謝網、さらに全体の代謝を形づくる・・・。また、物質代謝は同化と異化に大別される。さらに物質代謝の中で多くの生物に共通してみられる生化学的反応を一次代謝、特異的にみられるものを二次代謝という。代謝の機能は、(1)環境からのエネルギー(光・栄養物など)の取出し、(2)細胞の構築単位の合成・確保(アミノ酸・ヌクレオチドなど)、(3)構築単位からの組み立て(蛋白質・核酸・脂質など)、(4)生体機能に必要な分子の合成・確保(ホルモン・ATPなど)、(5)解毒に整理できる・・・。なお代謝という語は、生体の定型的な物質変化についてかなり広義に用いる。例えば酸素の消費の有無により好気的代謝と嫌気的(無酸素的または無機的)代謝を区別する。またある特定の物質群に注目して、糖質代謝・脂質代謝などといい、ある特定の器官に注目して筋肉の代謝・肝臓の代謝などともいう。」(第846項 「代謝」の項) (3)引用発明 引用文献4には、「有機化合物を生産する方法であって、バクテリオロドプシンやプロテオロドプシン等のプロトンポンプタンパク質の遺伝子を用いて遺伝子操作された生物または細胞株から少なくとも1つの有機化合物を採取することを含む方法であって、当該有機化合物は、アレルゲン、抗体、血液製剤またはその誘導体、酵素、成長因子、ホルモン、免疫調節剤、インターフェロン、インターロイキン、ポリペプチド、タンパク質、血清、組織、毒素及びワクチンからなる群から選ばれる生物製剤やバイオ燃料である方法。」が記載され(引4ア)、生物の例として大腸菌が挙げられている(引4キ)。 また、バクテリオロドプシンなどの特定のプロトンポンプは光駆動型であり、太陽光または他の光源によって吸収された光をエネルギー源として利用してプロトン勾配を形成すること(引4イ)、有機生成物を収穫するプロセスは、少なくとも1つのプロトンポンプタンパク質を含むように生物または細胞株を遺伝子操作し、その生物または細胞株を培養し、次いで所望の有機化合物を収穫することを含むこと(引4ウ)、プロトンポンプの吸収を最大化するために調整可能な照明を提供することが記載されている(引4カ)から、有機化合物を採取するために、生物または細胞株を光照射下で培養することが記載されているといえる。 そうすると、引用文献4には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「バクテリオロドプシンやプロテオロドプシン等のプロトンポンプタンパク質を含むように大腸菌等の生物を遺伝子操作し、当該生物を光照射下で培養することを含む有機化合物の製造方法であって、 当該有機化合物は、アレルゲン、抗体、血液製剤またはその誘導体、酵素、成長因子、ホルモン、免疫調節剤、インターフェロン、インターロイキン、ポリペプチド、タンパク質、血清、組織、毒素及びワクチンからなる群から選ばれる生物製剤やバイオ燃料である、方法。」 (4)対比 補正発明と引用発明を対比する。 引用発明の「バクテリオロドプシンやプロテオロドプシン等のプロトンポンプタンパク質を含むように大腸菌等の生物を遺伝子操作し、当該生物を光照射下で培養する有機化合物の製造方法」について、引用文献4には、大腸菌等の生物に、二酸化炭素固定経路に関与する核酸及びNADH経路に関与する核酸を導入することは記載されておらず、大腸菌は非光合成原核生物であるから、補正発明の「遺伝子工学的にロドプシンをコードする遺伝子を導入して発現させ、二酸化炭素固定経路に関与する核酸及びNADH経路に関与する核酸のいずれの核酸も遺伝子工学的に導入していない非光合成原核生物を光照射下で培養することを特徴とする、有用物質の製造方法であって、前記ロドプシンが、バクテリオロドプシン、プロテオロドプシン及びデルタロドプシンから選択されるいずれかのロドプシンであり」に相当する。 また、引用発明の「有機化合物」と補正発明の「有用物質」は、両者ともタンパク質を含み、少なくとも部分的には重複するから、引用発明の「有機化合物は、アレルゲン、抗体、血液製剤またはその誘導体、酵素、成長因子、ホルモン、免疫調節剤、インターフェロン、インターロイキン、ポリペプチド、タンパク質、血清、組織、毒素及びワクチンからなる群から選ばれる生物製剤やバイオ燃料である」は、補正発明の「有用物質が、有機酸、ペプチド、アミノ酸、タンパク質、核酸、ビタミン、糖アルコール、アルコール、イソプレノイド類及び脂質から選択される1種又は複数種からなる有用物質であり」に相当する。 したがって、補正発明と引用発明は、 「遺伝子工学的にロドプシンをコードする遺伝子を導入して発現させ、二酸化炭素固定経路に関与する核酸及びNADH経路に関与する核酸のいずれの核酸も遺伝子工学的に導入していない非光合成原核生物を光照射下で培養することを特徴とする、有用物質の製造方法であって、 前記ロドプシンが、バクテリオロドプシン、プロテオロドプシン及びデルタロドプシンから選択されるいずれかのロドプシンであり、 前記有用物質が、有機酸、ペプチド、アミノ酸、タンパク質、核酸、ビタミン、糖アルコール、アルコール、イソプレノイド類及び脂質から選択される1種又は複数種からなる有用物質である、有用物質の製造方法。」の点で一致し、以下の点で一応相違する。 (一応の相違点1)製造される有用物質が、補正発明では「非光合成原核生物の代謝産物からなり」と特定されているのに対して、引用発明ではそのような特定がない点。 (一応の相違点2)補正発明は、「前記有用物質の産生量が、前記非光合成原核生物を光照射下で培養したときに暗条件と比較して代謝サイクルにおけるグルコース消費量を抑制させることにより、前記有用物質の産生量が暗所で培養したときより高い産生量を示す」と特定されているのに対して、引用発明ではそのような特定がない点。 (5)判断 上述した(一応の相違点1)について、発明の詳細な説明には「代謝産物」の定義は示されていない。そこで、その意味する範囲を、技術常識等に基づいて解釈すると、「代謝産物」とは「代謝」の結果として生成される化学物質と解されるところ、「代謝」とは、生物学辞典(上記(2))において、「生体内に取り込んだ分子の酵素などによる変化」を指すこと、代謝の機能として「(2)細胞の構築単位の合成・確保(アミノ酸、ヌクレオチドなど)、(3)構築単位からの組み立て(蛋白質・核酸・脂質など)、(4)生体機能に必要な分子の合成・確保(ホルモン・ATPなど)」が挙げられ、「生体の定型的な物質変化についてかなり広義に用いる」ことと記載されている。したがって、生物学辞典にも記載された技術常識である「代謝」という技術用語の意味に基づけば、代謝の機能により合成、確保あるいは組み立てられるアミノ酸、蛋白質、核酸、脂質、ホルモン等は、代謝産物であるといえる。 そうすると、引用発明において製造される「有機化合物」の選択肢には、タンパク質等、補正発明でいう「非光合成原核生物の代謝産物」に該当するものが含まれているといえるから、上述した(一応の相違点1)は、実質的な相違点ではない。 また、(一応の相違点2)について、引用文献4には、遺伝子操作した生物および細胞株は、太陽光または他の光源によって吸収された光をエネルギー源として利用してプロトン勾配を形成することができ、ATP産生のためにグルコースなどの他のエネルギー源からそれほど多くのエネルギーを必要としないので、生物はエネルギー消費および産生をより効率的に行うことができること(引4イ)が記載されている。 そうすると、引用発明においても、光が得られる条件では、グルコース等のエネルギー源の消費を抑え、有機化合物の産生をより効率的に行うことが記載されているといえる。 したがって、(一応の相違点2)も実質的な相違点ではない。 以上のとおり、補正発明と引用発明は実質的な相違点を有さず、補正発明は引用文献4に記載された発明である。仮に補正発明と引用発明に実質的な相違点があったとしても、引用文献4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、補正発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、同条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 4.審判請求人の主張について 審判請求人は、審判請求書において、(a)引用文献4には、プロテオロドプシン(PR)を導入した大腸菌がどのような機能を有するかについては一切記載も示唆もないこと、(b)引用文献4にはプロトンポンプタンパク質の遺伝子を用いて遺伝子操作された生物又は細胞株について生物学的製剤又はバイオ燃料等の有機化合物の産生、収穫について言及があるが、これらの生物学的製剤又はバイオ燃料等は全て細胞外物質を材料とするものであって、本願発明の代謝産物についての記載はなく、本願発明の発明特定事項である「有用物質が、非光合成原核生物の代謝産物からなり、有機酸、ペプチド、アミノ酸、タンパク質、核酸、ビタミン、糖アルコール、アルコール、イソプレノイド類及び脂質から選択される1種又は複数種からなる有用物質であり」に係る記載がないこと、及び、(c)引用文献4には、TCAサイクルに及ぼす作用、有用物質の具体的な産生結果、光照射の有無による有用物質の産生量の違いについても記載も示唆もなく、本願発明の発明特定事項である「前記有用物質の産生量が、前記非光合成原核生物を光照射下で培養したときに、暗所で培養したときより高い産生量を示すことを特徴とする有用物質の製造方法。」に係る記載がないこと、を主張する。 以下、上記の審判請求人の主張について、検討する。 審判請求人の主張(a)について、引用文献4には、「少なくとも1つのプロトンポンプタンパク質を含むように生物または細胞株を遺伝子操作し、その生物または細胞株を培養し、次いで所望の有機化合物を収穫する」方法が記載され(引4ウ)、プロトンポンプタンパク質及び生物の例として、プロテオロドプシン及び大腸菌が挙げられており(引4キ)、有機化合物の生産を増加させると考えられる合理的な根拠として、より多くのプロトンポンプタンパク質を組み込むことで、より多くのプロトンがATP生成に利用可能となり、プロトン勾配を増加させることができ、プロトンがATP合成酵素を通過する際に生成されるATP生産を増加できることや、本方法を、脂肪酸、アミノ酸、エタノールを含む様々な細胞産物の産生を増加させるのにも役立つ可能性があることが示されている(引4エ、引4オ)。したがって、プロテオロドプシンを導入した大腸菌が、所望の有機化合物を生産する機能を有していることが、当業者が理解できるように記載されているといえる。 また、審判請求人の主張(b)について、引用発明において製造される「有機化合物」の選択肢に、補正発明でいう「非光合成原核生物の代謝産物」に該当するものが含まれることは、上記「3(5)」でも検討したとおりである。請求人は、細胞外物質を材料として産出される物質は代謝産物には該当しないとも解される主張をしているが、これは生物学辞典にも記載された「代謝」という技術用語の意味を逸脱するものであって、失当である。 さらに、審判請求人の主張(c)について、補正発明においてもTCAサイクルに及ぼす作用は記載されておらず、有用物質が具体的な産生結果が記載されたものに限定されているわけでもないから、これらの主張をもって補正発明が新規性・進歩性を有するとはいえない。 また、引用文献4に光照射の有無による有用物質の産生量の違いについて記載も示唆もなく、本願発明の発明特定事項である「前記有用物質の産生量が、前記非光合成原核生物を光照射下で培養したときに、暗所で培養したときより高い産生量を示すことを特徴とする有用物質の製造方法。」に係る記載がないとの主張について、引用文献4の「太陽光をエネルギーとすることで、生物または細胞株はATP産生のためにグルコース、グリコーゲン、トレハロース、NADH、FADH2などの他のエネルギー源からそれほど多くのエネルギーを必要としない。その結果、生物はエネルギー消費および産生をより効率的に行うことができる。」といった記載(引4イ)は、光をエネルギー源として利用することで、光をエネルギー源として利用できない場合と比較して、高分子あるいは細胞産物の産生を効率的に行うことができる、という意味であることは自明であり、光をエネルギー源として利用することで、有機化合物の産生を効率的に行うことができることが合理的に説明されているから、審判請求人の主張は採用できない。 したがって、審判請求人の主張は、いずれも理由がない。 5.小括 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 第3 本願発明について 1.本願に係る発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1~8に係る発明は、令和5年8月23日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1~8に記載の事項により特定されるものであると認める。 2.原査定の理由 令和5年9月26日付け拒絶査定は、この出願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献4に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、または、引用文献4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができない、との理由を含むものである。 <引用文献等一覧> 4.米国特許出願公開第2015/0147780号明細書 3.当審の判断 本願の請求項1に係る発明は、上記第2の1.に(補正前)として記載したものであり、補正発明の上位概念にあたる発明である。 そうすると、本願の請求項1に係る発明は、補正発明について述べた上記第2の3(5)と同様の理由により、引用文献4に記載された発明であるか、引用文献4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、同条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、または、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2023-020110

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