特許拒絶査定不服審判
2022-002585
光透過性導電層積層体
- 審判番号
- 2022-002585
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-517074外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年02月22日
- 審決日
- 2023年01月11日
- 公報発行日
- 2023年05月26日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .121-WZ (H01B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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特願2021-517074「光透過性導電層積層体」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年10月28日国際公開、WO2021/215153〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2021年(令和3年)3月18日(優先権主張 令和2年4月20日、令和2年12月2日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 3年 8月31日 :手続補正書の提出
令和 3年10月 1日付け:拒絶理由通知書
令和 3年11月 2日 :意見書、手続補正書の提出
令和 3年11月18日付け:拒絶査定(原査定)
令和 4年 2月22日 :審判請求書の提出
令和 4年 9月 5日付け:拒絶理由通知書
令和 4年11月 1日 :意見書、手続補正書の提出
第2 本願発明
令和4年11月1日付け手続補正(以下「本件補正」という。)によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「【請求項1】
樹脂層と、光透過性導電層とを厚み方向に順に備え、
前記光透過性導電層は、第1主面、および、前記第1主面の厚み方向一方側に間隔を隔てて対向配置される第2主面を有し、前記厚み方向に直交する面方向に延びる層を有し、
前記第1主面および前記第2主面のいずれか一方が前記樹脂層に接触し、
前記光透過性導電層は、導電性酸化物を含み、
前記導電性酸化物が、アルゴンと、前記アルゴンより原子番号が大きい希ガスとを含有し、
前記光透過性導電層は、スパッタリング層であり、
前記光透過性導電層の厚みが148nm以下であることを特徴とする、光透過性導電層積層体。」
第3 拒絶の理由
令和4年9月5日付けの当審が通知した拒絶理由のうちの理由2は、次のとおりのものである。
本願発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開平5-334924号公報
第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載
引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は透明導電薄膜の製造方法に関する。」
「【0006】そこで本発明は、低い比抵抗(抵抗率)を有する透明導電薄膜を製造する方法を提供することを目的とする。」
「【0010】本発明において使用する基板としては、ガラス、プラスチック、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン等(単独重合体の他に共重合体も含む)の基板が挙げられる。また、基板はこれらを2種以上含む積層体であっても良い。基板の厚さは、用途によって異なるので特に限定されない。
【0011】上記した基板上に形成される透明導電膜としては、金属膜として例えばPt、Au、Ag、Cu、Ni等の単層膜、Au/Bi2O3、Au/Cr、TiO2/Ag/TiO2、Bi2O3/Au/Bi2O3、ZnS/Ag/ZnS、SnO2/Ag/SnO2等の多層膜;酸化物膜として例えばSnO2、In2O3、CdO、ZnO、CTO系(CdSnO3、Cd2SnO4、CdSnO4)、CdIn2O4、In2TeO6、WO系、MoO3系、NiO系、IrO系等の単一相膜、Snを添加したIn2O3(ITO)、Sbを添加したIn2O3、Wを添加したIn2O3、Moを添加したIn2O3、Sbを添加したSnO2、Fを添加したSnO2、Asを添加したSnO2 、Alを添加したSnO2(ATO)、Alを添加したZnO(AZO)等の複合(ドープ)相膜;非酸化物膜としてカルコゲナイド(Cu2S、CdS、ZnS)、LaB6 、TiN、TiC、ZrN、ZrB2、HfN等の単層膜、TiO2/TiN、ZrO2/TiN等の2層膜;などが挙げられる。
【0012】本発明の方法においては、上記の基板上に、上記の膜組成を有する薄膜をスパッタ成膜する際に、Krおよび/またはXeを50体積%以上、好ましくは60体積%以上含有するスパッタガス70~99体積%、ならびに亜酸化窒素および/または酸素(これを反応ガスと称する)1~30体積%を含むガスの存在下で行うことを特徴とする。スパッタガスにおけるKrおよび/またはXeの量が50体積%未満であると、ターゲットからの反跳スパッタガス原子による膜の損傷が大きくなり、膜の比抵抗を低くすることができない。KrおよびXeのほかに、スパッタガスに含有することのできるガスとしては、Ar、He、Ne等の不活性ガス等が挙げられ、これらを単独で、または2種以上混合して使用することができる。また、全ガス雰囲気中、スパッタガスは70~99体積%、好ましくは80~95体積%であり、また反応ガスは1~30体積%、好ましくは5~20体積%である。反応ガスの量が上記の範囲より少ないと、酸素空孔の量が多くなり、低級酸化物や金属層を生成してしまうため、膜の透明性が低下し、また比抵抗も高くなる。また上記の範囲より多いと酸素空孔の量が多くなり、得られる膜の比抵抗が高くなる。反応ガスは亜酸化窒素および/または酸素であり、混合する場合はその比率は任意である。反応ガスとして亜酸化窒素のみを用いるのが好ましい。使用するガス雰囲気(スパッタガス+反応ガス)のガス圧は、好ましくは 1.0×10-3~10×10-3Torrである。」
「【0015】膜の透明性としては、可視光透過率で少なくとも数十%以上が必要で、実用的には80%程度以上が通常要求される。導電性は、キャリア濃度(キャリア電子の密度)と移動度(易動度)の積に比例する。本発明においては、得られる膜のキャリア濃度、移動度の値は特に限定されず高い程良く、また抵抗率は低い程よい。また、膜厚は用途によって異なるが、通常数千オングストロームである。」
「【0018】
【実施例】以下の実施例により、本発明をさらに詳しく説明する。
実施例1~12および比較例1~10
厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(以下、PETということがある)基板上に、直流プレーナー型マグネトロンスパッタ装置(基板自公転型、ULVAC社製)を使用して、初期真空度:2×10-6Torr、全ガス圧:10×10-3Torr、基板温度30℃の条件にて成膜を行った。ターゲットとして、In2O3とSnO2の粉末焼結体(重量比90:10)を用いた。なお、使用したガスは、表1に示したスパッタガス種および反応ガス種を表1の割合で混合したものである。また、成膜速度および投入電力も表1に併記した。
【0019】
【表1】
[図:0001396814000001.jpg]
かくして基板上に、ITO膜(膜厚1500オングストローム)を形成した。この膜について、膜中のKrまたはXeの含有量をAES(オージェ電子分光法)とSIMS(二次イオン質量分析法)の併用によって測定し、また抵抗率、可視光透過率、移動度およびキャリア濃度を測定した。結果を表2に示す。
【0020】なお、抵抗率は四端子法により、移動度およびキャリア濃度はファン デルポウ(van der Pauw)法により測定した。また、可視光透過率は波長を固定(680nm)した簡易な装置で測定し、PET基板での吸収を差し引いた値である。
【0021】
【表2】
[図:0001396814000002.jpg]
比較例10においては得られた膜の均一性がやや劣っていた。」
2 引用発明
上記1からみて、引用文献1には、以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「ポリエチレンテレフタレート基板と、基板上に形成される透明導電膜とを備え、
透明導電膜が、Snを添加したIn2O3(ITO)膜からなり、
上記の基板上に、上記の膜組成を有する薄膜をスパッタ成膜する際に、Krおよび/またはXeを含有するスパッタガス70~99体積%、ならびに亜酸化窒素および/または酸素(これを反応ガスと称する)を含むガスの存在下で行い、
KrおよびXeのほかに、スパッタガスに含有することのできるガスとしては、Ar等の不活性ガス等が挙げられ、
実施例1、2、4、5では、スパッタガスとしてKrとArを用い、ITO膜(膜厚1500オングストローム)が形成された、透明導電膜積層体。」
第5 対比
本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。
1 引用発明の「ポリエチレンテレフタレート基板」、「Snを添加したIn2O3(ITO)膜からなる透明導電膜」、「Kr」、「透明導電膜積層体」は、それぞれ本願発明の「樹脂層」、「光透過性導電層」、「アルゴンより原子番号が大きい希ガス」、「光透過性導電層積層体」に相当する。
2 引用発明において、「透明導電膜」は、「ポリエチレンテレフタレート基板」上に「スパッタ成膜」によって「形成される」ものであるといえるところ、一般に、スパッタ成膜で、基板上に形成された膜は、基板側の面(裏面)と表面を有し、厚み方向に直交する方向に延在するものであることは明らかであるから、引用発明において、「透明導電膜」は、表面と、表面の厚み方向一方側に間隔(厚み)を隔てて対向配置される裏面を有し、裏面は「ポリエチレンテレフタレート基板」に接触するものであるといえる。
したがって、本願発明と引用発明とは、「樹脂層と、光透過性導電層とを厚み方向に順に備え、前記光透過性導電層は、第1主面、および、前記第1主面の厚み方向一方側に間隔を隔てて対向配置される第2主面を有し、前記厚み方向に直交する面方向に延びる層を有し、前記第1主面および前記第2主面のいずれか一方が前記樹脂層に接触」する点で一致する。
3 引用発明において、「透明導電膜が、Snを添加したIn2O3(ITO)膜からな」るものであるから、本願発明と引用発明とは、「前記光透過性導電層は、導電性酸化物を含」む点で一致する。
4 引用発明は、「透明導電膜が、Snを添加したIn2O3(ITO)膜からなり、上記の膜組成を有する薄膜をスパッタ成膜する際に、Krおよび/またはXeを含有するスパッタガス70~99体積%、ならびに亜酸化窒素および/または酸素(これを反応ガスと称する)を含むガスの存在下で行い、KrおよびXeのほかに、スパッタガスに含有することのできるガスとしては、Ar等の不活性ガス等が挙げられ、実施例1、2、4、5では、スパッタガスとしてKrとArを用い、ITO膜(膜厚1500オングストローム)が形成された」ものであるから、引用発明において、「透明導電膜」が含む「Snを添加したIn2O3」は、ArとKr(アルゴンより原子番号が大きい希ガス)とを含有し」、「透明導電膜」は、スパッタリング層であるといえる。
したがって、本願発明と引用発明とは、「前記導電性酸化物が、アルゴンと、前記アルゴンより原子番号が大きい希ガスとを含有し、前記光透過性導電層は、スパッタリング層であ」る点で一致する。
5 したがって、本願発明と引用発明との一致点と相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「樹脂層と、光透過性導電層とを厚み方向に順に備え、
前記光透過性導電層は、第1主面、および、前記第1主面の厚み方向一方側に間隔を隔てて対向配置される第2主面を有し、前記厚み方向に直交する面方向に延びる層を有し、
前記第1主面および前記第2主面のいずれか一方が前記樹脂層に接触し、
前記光透過性導電層は、導電性酸化物を含み、
前記導電性酸化物が、アルゴンと、前記アルゴンより原子番号が大きい希ガスとを含有し、
前記光透過性導電層は、スパッタリング層である、光透過性導電層積層体。」
<相違点>
「光透過性導電層」の厚みについて、本願発明では、「148nm以下」であるのに対し、引用発明では、ITO膜は、「膜厚1500オングストローム」、すなわち、「150nm」であり、「148nm以下」ではない点。
第6 判断
上記相違点について、検討する。
1 引用文献1の段落【0015】には、「膜の透明性としては、可視光透過率で少なくとも数十%以上が必要で、実用的には80%程度以上が通常要求される。導電性は、キャリア濃度(キャリア電子の密度)と移動度(易動度)の積に比例する。本発明においては、得られる膜のキャリア濃度、移動度の値は特に限定されず高い程良く、また抵抗率は低い程よい。また、膜厚は用途によって異なるが、通常数千オングストロームである。」と記載されているから、引用発明において、透明導電膜の膜厚は、通常数千オングストームであるが、用途、膜の透明性、導電性、抵抗率なども考慮して、設定すべき設計的事項であるといえる。
2 一方、引用発明は、「実施例1、2、4、5では、スパッタガスとしてKrとArを用い、ITO膜(膜厚1500オングストローム)が形成された」ものであるところ、引用発明において、膜厚を1500Å(150nm)から数nm程度薄いものとした場合、膜の面抵抗(比抵抗(抵抗率)/膜厚)は増加するものの、膜の透明性向上に寄与するから、引用発明において、膜厚を2nm~数nm薄くする程度のことは、当業者であれば容易になし得たことである。
したがって、引用発明において、ITO膜の膜厚を1500オングストロームから数nm減らすことで148nm以下のものとすることで、相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
3 次に、本願発明が奏する作用効果について、検討する。
本願の明細書の段落【0005】には、「本発明は、耐クラック性に優れる光透過性導電層積層体を提供する。」と記載されており、また、「耐クラック性に優れる」条件について、本願の明細書には、以下の条件(パラメータ)が記載されている。
(1)第1領域4におけるアルゴンより原子番号が大きい希ガスの含有割合(【0036】)
(2)厚み方向で、光透過性導電層1における第1領域4が占める比R1(厚み比)の上限値(【0038】)
(3)第2領域5におけるアルゴンの含有割合(【0039】)
(4)厚み方向で光透過性導電層1における第2領域5が占める比(厚み比)R2の下限値(【0041】)
(5)光透過性導電層1の厚み(【0045】)
(6)光透過性導電層1におけるアルゴンと、アルゴンより原子番号が大きい希ガスとの合計の含有割合の上限値(【0049】)
(7)スパッタリング時の樹脂層11の温度(【0072】)
上記のとおり、耐クラック性は、厚み以外に少なくとも(1)~(4)、(6)、(7)の条件にも依存することから、本願発明において、「前記光透過性導電層の厚みが148nm以下である」ことによる作用効果が、引用発明の奏するものと比べて格別顕著なものであるとは認められない。
4 したがって、本願発明は、引用発明に基づき、当業者が容易に想到することができたものである。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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