特許拒絶査定不服審判
2022-002232
冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物
- 審判番号
- 2022-002232
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-539788外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年02月15日
- 審決日
- 2023年08月08日
- 公報発行日
- 2023年10月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 分類
- P18 .121-Z (C10M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-539788「冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 3月22日国際公開、WO2018/052088〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)9月14日(優先権主張 平成28年9月15日)を国際出願日とする出願であって、令和3年4月1日付けで拒絶理由が通知され、同年6月1日に意見書及び手続補正書が提出され、同年11月10日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、同年同月16日に拒絶査定の謄本が送達された。
これに対して、令和4年2月15日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年4月13日に前置報告がなされ、その後、同年5月17日に上申書が提出されたものである。
第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年2月15日にされた手続補正を却下する。
[理由]
1 手続補正の内容
令和4年2月15日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について補正するものであって、次の(1)に示す本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載を、後記の(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載に補正することを含む。下線は補正箇所を示す。
(1)本件補正前の請求項1
「【請求項1】
潤滑油基油と、下記式(A)で表される化合物と、を含有し、
フルオロエチレン、フルオロブテン、及び分子中に塩素原子を1つ有する不飽和フッ化炭化水素からなる群より選ばれる少なくとも1種の不飽和フッ化炭化水素を含む冷媒と共に用いられる、冷凍機油。
【化1】
[図:0001402149000001.jpg]
[式中、R1及びR2はそれぞれ独立に炭素数3~8のアルキル基を表し、R3及びR4はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、R3及びR4の一方は前記アルキル基であり他方は水素原子である。]」
(2)本件補正後の請求項1
「【請求項1】
潤滑油基油として、多価アルコールと炭素数4~9の分岐脂肪酸の割合が50~100モル%である脂肪酸とのエステルと、
下記式(A)で表される化合物と、を含有し、
1,1,2-トリフルオロエチレンを含む冷媒と共に用いられる、冷凍機油。
【化1】
[図:0001402149000002.jpg]
[式中、R1及びR2はそれぞれ独立に炭素数3~8のアルキル基を表し、R3及びR4はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、R3及びR4の一方は前記アルキル基であり他方は水素原子である。]」
2 本件補正の目的
本件補正は、本件補正前の請求項1の「潤滑油基油」という記載を、本件補正後の請求項1の「潤滑油基油として、多価アルコールと炭素数4~9の分岐脂肪酸の割合が50~100モル%である脂肪酸とのエステル」という記載に補正することにより、「潤滑基油」が特定のエステルであることを限定すると共に、本件補正前の請求項1の「フルオロエチレン、フルオロブテン、及び分子中に塩素原子を1つ有する不飽和フッ化炭化水素からなる群より選ばれる少なくとも1種の不飽和フッ化炭化水素」という記載を、本件補正後の請求項1の「1,1,2-トリフルオロエチレン」という記載に補正することにより、「不飽和フッ化炭化水素」が「1,1,2-トリフルオロエチレン」であることを限定するものである。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と、本件補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
よって、本件補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
3 独立特許要件についての当審の判断
前記2のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するから、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際、独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下で検討を行う。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、前記1(2)に記載したとおりのものである。
(2)拒絶査定で引用された引用文献及びその記載事項
引用文献1:国際公開第2016/072296号
引用文献2:特開2016-98256号公報
ア 本願の優先日より前に公開された引用文献1には、以下の記載がある。
「[0001] 本発明は、冷凍機油に関する。」
「[0005] 本発明は、耐摩耗性と安定性とを高水準で両立することが可能な冷凍機油を提供することを目的とする。」
「[0010] 本実施形態に係る冷凍機油は、基油と、下記一般式(1)で表される化合物と、エポキシ化合物と、を含有する。
[図:0001402149000003.jpg]
[式(1)中、R1及びR2はそれぞれ独立に1価の炭化水素基を表し、R3は2価の炭化水素基を表し、R4は水素原子又は1価の炭化水素基を表す。]」
「[0053] 本実施形態に係る冷凍機油は、冷媒と共に用いられる。本実施形態に係る冷凍機用作動流体組成物は、上記の冷凍機油と、冷媒とを含有する。かかる冷媒としては、飽和フッ化炭化水素冷媒、不飽和フッ化炭化水素冷媒、炭化水素冷媒、パーフルオロエーテル類等の含フッ素エーテル系冷媒、ビス(トリフルオロメチル)サルファイド冷媒、3フッ化ヨウ化メタン冷媒、及び、アンモニア、二酸化炭素等の自然系冷媒が例示される。」
「[0056] 不飽和フッ化炭化水素(HFO)冷媒としては、フッ素数が3~5のフルオロプロペンが好ましく、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225ye)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、1,2,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ye)、及び3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO-1243zf)のいずれかの1種又は2種以上の混合物であることが好ましい。冷媒物性の観点からは、HFO-1225ye、HFO-1234ze及びHFO-1234yfから選ばれる1種又は2種以上であることが好ましい。」
「[0061] 実施例及び比較例においては、表1に示す基油(多価アルコールと、脂肪酸A及び脂肪酸Bの混合脂肪酸とのエステル)と、以下に示す添加剤とを用いて、表2,3に示す配合量で冷凍機油を調製した。また、実施例及び比較例の各冷凍機油について、以下に示す耐摩耗性試験及び安定性試験を実施した。
[0062] [表1]
[図:0001402149000004.jpg]
[0063]<添加剤>
B1:グリシジルネオデカノエート
B2:2-エチルヘキシルグリシジルエーテル
B3:1,2-エポキシテトラデカン
C1:下記式(6)で表される化合物
C2:下記式(7)で表される化合物
D1:トリクレジルホスフェート
[0064][化7]
[図:0001402149000005.jpg]
[0065][化8]
[図:0001402149000006.jpg]
[0066](耐摩耗性試験)
耐摩耗性試験には、実コンプレッサと類似の冷媒雰囲気にできる、神鋼造機(株)製の高圧雰囲気摩擦試験機(回転ベーン材と固定ディスク材との回転摺動方式)を用いた。試験条件は、油量:600ml、試験温度:110℃、試験容器内圧力:1.1MPa、回転数:400rpm、負荷荷重:70kgf、試験時間:1時間で、冷媒としてはR32、R410A又はHFO-1234yf、ベーン材としてはSKH-51、ディスク材としてはFC250をそれぞれ用いた。耐摩耗性の評価は、ディスク材の摩耗量が極めて少ないことから、ベーン材の摩耗深さによって行った。得られた結果を表2,3に示す。
[0067](安定性試験)
安定性試験は、JIS K2211-09(オートクレーブテスト)に準拠し、含有水分量を300ppmに調整した試料油80gをオートクレーブに秤取し、触媒(鉄、銅、アルミの線、いずれも外径1.6mm×長さ50mm)と、冷媒(R32、R410A又はHFO-1234yf)20gとを封入した後、150℃に加熱し、150時間後の試料油の外観と酸価(JIS C2101)を測定した。得られた結果を表2,3に示す。
[0068][表2]
[図:0001402149000007.jpg]
」
イ 本願の優先日より前に公開された引用文献2には、以下の記載がある。
「【請求項1】
炭素数4~9の分岐脂肪酸の割合が20~100モル%である脂肪酸と多価アルコールとのエステルを含有する基油と、
冷凍機油全量基準で0.2~0.5質量%のフェノール系酸化防止剤と、
を含有し、トリフルオロエチレン冷媒と共に用いられる冷凍機油。」
「【0001】
本発明は、冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物に関する。」
「【0003】
このような背景の下、オゾン層への影響が少なく且つGWPが低い冷媒の開発が急務となっている。例えば特許文献1には、オゾン層への影響が少なく且つGWPが低い冷媒として、トリフルオロエチレン(HFO-1123)冷媒が開示されている。」
「【0006】
本発明は、トリフルオロエチレン(HFO-1123)冷媒との適合性に優れる冷凍機油、及び該冷凍機油を含有する冷凍機用作動流体組成物を提供することを目的とする。」
「【0051】
本実施形態に係る冷凍機油と共に用いる冷媒、及び本実施形態に係る冷凍機用作動流体組成物が含有する冷媒は、トリフルオロエチレン(HFO-1123)に加えて、飽和フッ化炭化水素冷媒、不飽和フッ化炭化水素冷媒などの公知の冷媒を更に含有していてもよい。トリフルオロエチレン(HFO-1123)の含有量は、冷媒雰囲気下における冷凍機油の安定性の観点からは、冷媒全量基準で、90質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることが更に好ましく、40質量%以下であることが特に好ましく、20質量%以下であることが最も好ましい。また、トリフルオロエチレン(HFO-1123)の含有量は、GWP低減の観点からは、冷媒全量基準で、20質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが更に好ましく、60質量%以上であることが特に好ましく、90質量%以上であることが最も好ましい。
【0052】
飽和フッ化炭化水素冷媒としては、ジフルオロメタン(HFC-32)、ペンタフルオロエタン(HFC-125)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)、1,1-ジフルオロエタン(HFC-152a)、フルオロエタン(HFC-161)、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(HFC-227ea)、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236fa)、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245fa)、及び1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン(HFC-365mfc)からなる群より選ばれる1種又は2種以上の混合物が例示される。これらの中でも、冷媒雰囲気下における冷凍機油の安定性及びGWP低減の観点から、ジフルオロメタン(HFC-32)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)が好ましい。
【0053】
不飽和フッ化炭化水素冷媒としては、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225ye)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、1,2,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ye)、及び3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO-1243zf)からなる群より選ばれる1種又は2種以上の混合物が例示される。これらの中でも、冷媒雰囲気下における冷凍機油の安定性及びGWP低減の観点から、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)が好ましい。」
(3)引用文献1に記載された発明
ア 引用文献1の[0068]の[表2]には、実施例1~5の冷凍機油を、「冷媒:R32」、「冷媒:R410」又は「冷媒:HFO-1234yf」と共に用いて、安定性試験や耐摩耗性試験を行ったことが記載されている。
イ 前記[表2]の実施例1の「基油A1」について、同[0061]及び[0062]の[表1]を合わせみれば、「基油A1」は、多価アルコールであるペンタエリスリトールと、2-メチルプロパン酸35モル%・3,5,5,-トリメチルヘキサン酸65モル%の混合脂肪酸とのエステルであることを理解できる。
ウ 同実施例1の「B1」は、同[0063]をみれば、添加剤としてのグリシジルネオデカノエートであることを理解できる。
エ 同実施例1の「C1」は、同[0063]及び[0064]を合わせみれば、添加剤としての「[化7]
[図:0001402149000008.jpg]
」の化合物であることを理解できる。
オ してみると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
<引用発明>
「基油として、多価アルコールであるペンタエリスリトールと、2-メチルプロパン酸35モル%・3,5,5,-トリメチルヘキサン酸65モル%の混合脂肪酸とのエステルと、
添加剤として、グリシジルネオデカノエートと、
[化7]
[図:0001402149000009.jpg]
とからなる冷凍機油であって、
R32、R410、又はHFO-1234yfである冷媒と共に用いられる、冷凍機油」
(4)本件補正発明と引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「2-メチルプロパン酸」及び「3,5,5,-トリメチルヘキサン酸」は、それぞれ炭素数が4及び9の分岐脂肪酸であるから、引用発明の「基油として、多価アルコールであるペンタエリスリトールと、2-メチルプロパン酸35モル%・3,5,5,-トリメチルヘキサン酸65モル%の混合脂肪酸とのエステル」は、本件補正発明の「潤滑油基油として、多価アルコールと炭素数4~9の分岐脂肪酸の割合が50~100モル%である脂肪酸とのエステル」に相当する。
イ 引用発明の「[化7]
[図:0001402149000010.jpg]
」は、本件補正発明の「【化1】
[図:0001402149000011.jpg]
」において、R1及びR2が炭素数4のアルキル基であり、R3水素であり、R4が炭素数1のアルキル基である場合に該当するから、本件補正発明の「【化1】」に相当する。
ウ 引用発明の「R32、R410、又はHFO-1234yfである冷媒」と本件補正発明の「1,1,2-トリフルオロエチレンを含む冷媒」とは、ともに「冷媒」である点で共通する。
(5)一致点及び相違点
本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「潤滑油基油として、多価アルコールと炭素数4~9の分岐脂肪酸の割合が50~100モル%である脂肪酸とのエステルと、
下記式(A)で表される化合物と、を含有し、
冷媒と共に用いられる、冷凍機油。
【化1】
[図:0001402149000012.jpg]
[式中、R1及びR2はそれぞれ独立に炭素数3~8のアルキル基を表し、R3及びR4はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、R3及びR4の一方は前記アルキル基であり他方は水素原子である。]」
<相違点>
冷凍機油が、本件補正発明は「1,1,2-トリフルオロエチレンを含む冷媒と共に用いられる」のに対し、引用発明は、1,1,2-トリフルオロエチレンと共に用いられるものという特定はされていない点。
(6)相違点についての判断
ア まず、構成の容易想到性について検討する。
(ア)引用発明を認定した引用文献1(前記(2)ア参照。)の[0053]には、冷凍機油と共に用いられる冷媒について、「飽和フッ化炭化水素冷媒、不飽和フッ化炭化水素冷媒、炭化水素冷媒、パーフルオロエーテル類等の含フッ素エーテル系冷媒、ビス(トリフルオロメチル)サルファイド冷媒、3フッ化ヨウ化メタン冷媒、及び、アンモニア、二酸化炭素等の自然系冷媒が例示される。」と記載されており、「1,1,2-トリフルオロエチレン」は、不飽和フッ化炭化水素冷媒の一種である。
そして、引用発明の「冷凍機油」を冷媒と共に用いるにあたり、「1,1,2-トリフルオロエチレン」を含む冷媒と共に用いることを阻害する特段の事情は見当たらず、特段の困難性もないことも考慮すれば、引用発明の「冷凍機油」を、「1,1,2-トリフルオロエチレン」を含む冷媒と共に用いることは、当業者が容易になし得たことである。
(イ)また、引用文献2(前記(2)イ参照。)の【請求項1】には、引用発明と同様の「炭素数4~9の分岐脂肪酸の割合が20~100モル%である脂肪酸と多価アルコールとのエステルを含有する基油」「を含有」する「冷凍機油」を、「トリフルオロエチレン冷媒と共に用い」ることが記載され、同【0051】には、冷媒として、「トリフルオロエチレン(HFO-1123)に加えて、飽和フッ化炭化水素冷媒、不飽和フッ化炭化水素冷媒などの公知の冷媒を更に含有していてもよい。」ことも記載されている。
さらに、同【0003】には、「トリフルオロエチレン(HFO-1123)冷媒」が「オゾン層への影響が少なく且つGWPが低い冷媒」であることが技術常識であることも記載されている。
これら引用文献2の記載を総合すれば、引用発明の「冷凍機油」を、「1,1,2-トリフルオロエチレン」を含む冷媒と共に用いることは、当業者が容易になし得たことである。
(ウ)さらに付言するに、本件補正発明における「1,1,2-トリフルオロエチレンを含む冷媒と共に用いられる」との文言について検討する。
まず、本願明細書の【0099】~【0101】において、本件補正発明に係る冷凍機油と共に用いられる「不飽和フッ化炭化水素(HFO)」について説明がされているところ、「1,1,2-トリフルオロエチレン」は、同【0101】において、「不飽和フッ化炭化水素(HFO)」のうちで好適であることを説明するにすぎず、本件補正発明に係る冷凍機油が「1,1,2-トリフルオロエチレンを含む冷媒」と共にのみ、もっぱら用いられることを意味するものと解することはできない。
また、冷凍機油を冷媒と共に用いるのは、冷凍機の圧縮機において通常のことであり、冷媒としての1,1,2-トリフルオロエチレンも、前記引用文献2の【0003】に記載のとおり周知であるから、「1,1,2-トリフルオロエチレンを含む冷媒と共に用いられる」ことは、新たな用途ということができないのみならず、当業者には自明の使用方法にすぎない。
そうすると、本件補正発明における「1,1,2-トリフルオロエチレンを含む冷媒と共に用いられる」との文言は、本件補正発明に係る「冷凍機油」の使用目的についての主観的な認識を示すにとどまり、「物」の発明である本件訂正発明について、その構成を限定する意義を有するものということはできないともいえ、その場合、本件補正発明は新規性を欠如するものであって、ひいては進歩性も欠如するものといえる。
イ 次に、発明の効果について検討する。
(ア)本件補正発明の「冷媒の分解抑制」との効果は、本件補正発明の「冷凍機油」が「冷媒」と同時に存在することにより初めて奏される効果と考えられるが、本件補正発明は「冷媒と共に用いられる」との特定はあるものの、物の発明としてはあくまでも「冷凍機油」であって、「冷媒」を含むものではない。
(イ)そうすると、本件補正発明の「冷凍機油」自体が奏する効果は「1,1,2-トリフルオロエチレンを含む冷媒」と同時に存在する以前には存在せず、後に「1,1,2-トリフルオロエチレンを含む冷媒」と同時に存在すれば奏されるとしても、本件補正発明の効果は、「効果が奏される予定がある」という程度のことになる。そして、このことは、本件補正発明の全範囲において、その効果が顕著とはいえないということになるから、本件訂正発明の効果の参酌が、進歩性を肯定する方向に働くことはない。
(ウ)以上のとおり、本件補正発明の「冷媒の分解抑制」との効果は、例えば、本願の令和4年2月15日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項3に記載された「請求項1又は2に記載の冷凍機油と、1,1,2-トリフルオロエチレンを含む冷媒と、を含有する、冷凍機用作動流体組成物。」のように、「冷凍機油と」「1,1,2-トリフルオロエチレンを含む冷媒と、を含有する、冷凍機用作動流体組成物」であれば奏することができる効果であるとしても、物の発明として「冷媒」を含まない「冷凍機油」単体で奏することのできる効果とは認められない。
ウ してみれば、本件補正発明は、引用発明、引用文献1及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(7)請求人の主張について
ア 請求人は、前記審判請求書において、冷凍機油は冷媒の種類によって異なる特性(冷媒との適合性)を示すこと本願出願時の技術常識であったことに鑑みれば、当業者は、引用文献1に記載の冷凍機油と組み合わせる冷媒は、引用文献1に具体的に記載されている冷媒から選択するはずと主張する。
しかしながら、引用文献1において実施例として用いられている3種類の冷媒は、R32(トリフルオロメタン)、R410A(R32/R125=50/50重量%の混合物)、HFO-1234yf(テトラフルオロプロペン)と多様な冷媒となっているから、引用文献1の冷凍機油は幅広い冷媒との適合性を示しており、引用文献1の冷凍機油を1,1,2-トリフルオロエチレンを含む冷媒と組み合わせることに阻害要因があるといえない。
イ 請求人は、前記上申書において、「本願発明の効果(冷媒の分解抑制)と引用文献1に記載の発明の効果(安定性)とは異質なものである」ことを踏まえた審理を希望する旨の主張をしている。
しかしながら、前記(6)イで検討したとおり、本願発明の効果(冷媒の分解抑制)は、「冷凍機油と」「1,1,2-トリフルオロエチレンを含む冷媒と、を含有する、冷凍機用作動流体組成物」の奏する効果であって、物の発明として「冷媒」を含まない「冷凍機油」単体で奏することのできる効果とは認められないから、請求人の前記主張は採用できない。
(8)独立特許要件についての判断のむすび
前記したとおり、本件補正発明は、引用発明、引用文献1及び引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
4 補正の却下の決定のむすび
本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は前記したとおり却下されたので、本願の請求項1~9に係る発明は、本件補正前の令和4年2月15日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2の1の(1)に記載したとおりのものである。
2 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は次の引用文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:国際公開第2016/072296号
引用文献2:特開2016-98256号公報
3 引用文献の記載事項及び引用発明
引用文献の記載事項及び引用発明は、前記第2の3の(2)及び(3)に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、前記第2の3で検討した本件補正発明の「潤滑油基油として、多価アルコールと炭素数4~9の分岐脂肪酸の割合が50~100モル%である脂肪酸とのエステルと、」との限定を、「潤滑基油と、」に拡張するとともに、本件補正発明の「1,1,2-トリフルオロエチレンを含む冷媒」との限定を「フルオロエチレン、フルオロブテン、及び分子中に塩素原子を1つ有する不飽和フッ化炭化水素からなる群より選ばれる少なくとも1種の不飽和フッ化炭化水素を含む冷媒」に拡張したものである。
そして、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに前記の限定を付加した本件補正発明は、前記第2の3に記載したとおり、引用発明、引用文献1及び引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
そうすると、本願発明も、引用発明、引用文献1及び引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-002232