特許拒絶査定不服審判
2024-017690
工作機械用および金属加工用潤滑油組成物
- 審判番号
- 2024-017690
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-052109
- 請求日
- 2024年11月05日
- 審決日
- 2025年11月18日
- 公報発行日
- 2026年02月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ENEOS株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人 もえぎ特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 関根 裕
- 審判官 門前 浩一
- 審判官 安藤 倫世
- 分類
- P18 .121-Z (C10M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021- 52109「工作機械用および金属加工用潤滑油組成物」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年10月 7日出願公開、特開2022-149800〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和3年3月25日の出願であって、その手続の経緯は、以下のとおりである。
令和6年 7月23日付け:拒絶理由通知書
同年 9月 4日 :意見書及び手続補正書の提出
同年10月 1日付け:拒絶査定(謄本発送は、10月8日)
同年11月 5日 :審判請求書及び手続補正書の提出
第2 令和6年11月5日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和6年11月5日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「(A)40℃の動粘度が18mm2/s以上40mm2/s以下である潤滑油基油と、(B)硫化エステルと、を含有し、
前記(A)成分のうち70質量%以上はグループIII基油であり、前記(A)成分を組成物全量基準で80質量%以上95質量%以下含有する、
工作機械用および金属加工用潤滑油組成物。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和6年9月4日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「(A)40℃の動粘度が18mm2/s以上40mm2/s以下である潤滑油基油と、(B)硫化エステルと、を含有し、
前記(A)成分のうち25質量%以上はグループIII基油であり、前記(A)成分を組成物全量基準で80質量%以上95質量%以下含有する、
工作機械用および金属加工用潤滑油組成物。」
2 補正の適否
2-1 補正の目的
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「(A)成分のうち」の「グループIII基油」の含有割合について、本願明細書の【0012】の「本発明の潤滑油組成物は、グループIII基油を、成分(A)基準で、25質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上含む。」との記載等に基づいて、「70質量%以上」とするものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は、ともに、40℃の動粘度が18mm2/s以上40mm2/s以下である潤滑油基油を用いて、高い引火点と極圧性を具備する工作機械用および金属加工用潤滑油組成物を提供することであり、両者は同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
2-2 独立特許要件
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)引用文献とその記載事項
ア 引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1である、特開2008-13688号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の記載が記載されている。下線は、合議体による。
「【請求項1】
%CAが2以下、%CP/%CNが6以上、ヨウ素価が2.5以下である潤滑油基油と、
リン及び/又は硫黄を構成元素として含む化合物と
を含有することを特徴とする工作機械用潤滑油組成物。」
「【背景技術】
【0002】
工作機械の分野では、部品の加工精度の向上が求められており、それに伴いすべり案内面における位置決め精度の向上が求められている。すべり案内面における位置決め精度にはすべり案内面油の性能が深く関わっており、低摩擦であること(すなわち摩擦係数が小さいこと)に加えてスティックスリップ逓減制が要求されている。さらに、工作機械用潤滑油においては、ロングライフ及びメンテナンスフリーの要求も高まっている。
【0003】
そこで、従来の工作機械用潤滑油においては、上記の要求に応えるために様々な工夫がなされている。例えば、優れた摩擦特性を得るため、リン酸エステル及びそのアミン化合物等のリン化合物、硫化油脂、硫化エステル等の硫黄化合物などが添加剤として用いられている(例えば、下記特許文献1~5を参照)。
【0004】
また、工作機械用潤滑油の熱・酸化安定性を確保するために、潤滑油基油として溶剤精製鉱油の他、水素化精製鉱油、水素化分解鉱油等の高度精製鉱油、更にはポリα-オレフィン等の合成系炭化水素油などが用いられている(例えば特許文献6~9を参照。)。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の工作機械用潤滑油であっても、摩擦特性及びスティックスリップ低減性の点で未だ改善の余地がある。また、上記従来の工作機械用潤滑油は、ロングライフという観点では必ずしも十分な熱・酸化安定性を有しているとはいえず、更なる改良が望まれている。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、摩擦特性、スティックスリップ低減性、及び熱・酸化安定性を高水準でバランスよく達成することができ、工作機械の高性能化の点で有効な工作機械用潤滑油組成物を提供することを目的とする。」
「【0018】
本発明にかかる潤滑油基油は、%CA、%CP/%CN、及びヨウ素価がそれぞれ上記条件を満たすものであれば特に制限されない。具体的には、原油を常圧蒸留及び/又は減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理のうちの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて精製したパラフィン系鉱油、あるいはノルマルパラフィン系基油、イソパラフィン系基油などのうち、%CA、%CP/%CN、及びヨウ素価がそれぞれ上記条件を満たすものが挙げられる。これらの潤滑油基油は、1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。」
「【0082】
また、本発明にかかる潤滑油基油における飽和分の含有量は、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは90質量%以上、より好ましくは93質量%以上、更に好ましくは95質量%以上であり、また、当該飽和分に占める環状飽和分の割合は、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは0.1~40質量%、更に好ましくは2~30質量%、一層好ましくは5~25質量%、特に好ましくは10~21質量%である。飽和分の含有量及び当該飽和分に占める環状飽和分の割合がそれぞれ上記条件を満たすことにより、粘度-温度特性及び熱・酸化安定性をより高水準で達成することができ、また、当該潤滑油基油に添加剤が配合された場合には、当該添加剤を潤滑油基油中に十分に安定的に溶解保持しつつ、当該添加剤の機能をより高水準で発現させることができる。更に、潤滑油基油自体の摩擦特性を改善することができ、その結果、摩擦低減効果の向上、ひいては省エネルギー性の向上を達成することができる。
【0083】
なお、飽和分の含有量が90質量%未満であると、粘度-温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が不十分となる傾向にある。また、飽和分に占める環状飽和分の割合が40質量%を超えると、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。更に、飽和分に占める環状飽和分の割合が0.1質量%未満であると、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に、当該添加剤の溶解性が低下して潤滑油基油中に溶解保持される当該添加剤の有効量が低下し、当該添加剤の機能を有効に得ることができなくなる傾向にある。また、飽和分の含有量は100質量%でもよいが、製造コストの低減及び添加剤の溶解性の向上の点から、好ましくは99.9質量%以下、より好ましくは99.5質量%以下、更に好ましくは99質量%以下、特に好ましくは98.5質量%以下である。
・・・
【0095】
また、本発明にかかる潤滑油基油の粘度指数は、好ましくは110以上である。粘度指数が前記下限値未満であると、粘度-温度特性及び熱・酸化安定性、更には揮発防止性が低下する傾向にある。なお、本発明にかかる潤滑油基油の粘度指数の好ましい範囲は潤滑油基油の粘度グレードによるため、その詳細については後述する。
・・・
【0097】
本発明にかかる潤滑油基油における硫黄分の含有量は、その原料の硫黄分の含有量に依存する。例えば、フィッシャートロプシュ反応等により得られる合成ワックス成分のように実質的に硫黄を含まない原料を用いる場合には、実質的に硫黄を含まない潤滑油基油を得ることができる。また、潤滑油基油の精製過程で得られるスラックワックスや精ろう過程で得られるマイクロワックス等の硫黄を含む原料を用いる場合には、得られる潤滑油基油中の硫黄分は通常100質量ppm以上となる。本発明にかかる潤滑油基油においては、熱・酸化安定性の更なる向上及び低硫黄化の点から、硫黄分の含有量が100質量ppm以下であることが好ましく、50質量ppm以下であることがより好ましく、10質量ppm以下であることが更に好ましく、5質量ppm以下であることが特に好ましい。
・・・
【0102】
また、本発明にかかる潤滑油基油の40℃における動粘度は、好ましくは6.0~80mm2/s、より好ましくは8.0~50mm2/sである。本発明においては、40℃における動粘度が下記の範囲にある潤滑油留分を蒸留等により分取し、使用することが好ましい。
(IV)40℃における動粘度が6.0mm2/s以上12mm2/s未満、より好ましくは8.0~12mm2/sの潤滑油基油
(V)40℃における動粘度が12mm2/s以上28mm2/s未満、より好ましくは13~19mm2/sの潤滑油基油
(VI)40℃における動粘度が28~50mm2/s、より好ましくは29~45mm2/s、特に好ましくは30~40mm2/sの潤滑油基油。
・・・
【0129】
本発明の工作機械用潤滑油組成物においては、上記本発明にかかる潤滑油基油を単独で用いてもよく、また、本発明にかかる潤滑油基油を他の基油の1種又は2種以上と併用してもよい。なお、本発明にかかる潤滑油基油と他の基油とを併用する場合、それらの混合基油中に占める本発明にかかる潤滑油基油の割合は、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましい。
【0130】
本発明にかかる潤滑油基油と併用される他の基油としては、特に制限されないが、鉱油系基油としては、例えば100℃における動粘度が1~100mm2/sの溶剤精製鉱油、水素化分解鉱油、水素化精製鉱油、溶剤脱ろう基油などが挙げられる。」
「【0133】
また、本発明の工作機械用潤滑油組成物は、リン及び/又は硫黄を構成元素として含む化合物を含有する。
・・・
【0172】
また、硫黄を構成元素として含む化合物(以下、「硫黄化合物」という)としては、具体的には、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、ジヒドロカルビル(ポリ)サルファイド、チアジアゾール化合物、アルキルチオカルバモイル化合物、チオカーバメート化合物、チオテルペン化合物、ジアルキルチオジプロピオネート化合物、硫化鉱油、ジチオカルバミン酸亜鉛化合物及びジチオカルバミン酸モリブデンなどを挙げることができる。これらの硫黄化合物は、1種を単独用いてもよく、2種以上の混合物として用いてもよい。なお、ジチオリン酸亜鉛化合物及びジチオリン酸モリブデン化合物はリン及び硫黄の双方を構成元素として含む化合物であるが、以下の説明において、ジチオリン酸亜鉛化合物及びジチオリン酸モリブデン化合物は「硫黄化合物」に包含されるものとする。
【0173】
硫化油脂は、硫黄や硫黄含有化合物と油脂(ラード油、鯨油、植物油、魚油等)を反応させて得られるものであり、その硫黄含有量は特に制限はないが、一般に5~30質量%のものが好適である。その具体例としては、硫化ラード、硫化なたね油、硫化ひまし油、硫化大豆油、硫化米ぬか油およびこれらの混合物などを挙げることができる。
【0174】
硫化脂肪酸の例としては、硫化オレイン酸などを、硫化エステルの例としては、不飽和脂肪酸(オレイン酸、リノール酸又は上記の動植物油脂から抽出された脂肪酸類などを含む)と各種アルコールとを反応させて得られる不飽和脂肪酸エステル及びこれらの混合物などを任意の方法で硫化することにより得られるものなどが挙げられ、具体的には例えば、硫化オレイン酸メチルや硫化米ぬか脂肪酸オクチルおよびこれらの混合物などを挙げることができる。
・・・
【0198】
上記の硫黄化合物を用いる場合、その含有量は、組成物全量基準で、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上である。硫黄化合物の含有量が前記下限値未満であると、その添加による耐摩耗性及び摩擦特性の向上効果が不十分となる傾向にある。また、それ以上配合しても添加量に見合うほどの効果が得られない点から、硫黄化合物の含有量は、組成物全量基準で、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。
【0199】
本発明の工作機械用潤滑油組成物は、本発明にかかる潤滑油基油とリン及び/又は硫黄を構成元素として含む化合物とからなるものであってもよいが、その特性を更に向上させるために、以下に示す添加剤を更に含有してもよい。
【0200】
本発明の工作機械用潤滑油組成物は、スラッジ抑制性の点から、分散型粘度指数向上剤を更に含有することができる。
・・・
【0219】
本発明の工作機械用潤滑油組成物における分散型粘度指数向上剤の含有量は、組成物全量基準で、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは2質量%である。分散型粘度指数向上剤の含有量が10質量%を超えても、含有量に見合うだけのスラッジ抑制性のさらなる向上は見られず、またせん断による粘度低下を引き起こすため、好ましくない。また、分散型粘度指数向上剤の含有量は、組成物全量基準で、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%、更に好ましくは0.1質量%以上である。分散型粘度指数向上剤の含有量が0.01質量%に満たない場合は、その添加によるスラッジ抑制性の向上効果が不十分となる傾向にある。
【0220】
また、本発明の工作機械用潤滑油組成物は、摩擦特性を更に向上できる点から、下記一般式(27)~(29)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
・・・
【0230】
一般式(27)~(29)で表される化合物の含有量は、組成物全量基準で、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。一般式(27)~(29)で表される化合物の含有量が5質量%を超えても、含有量に見合うだけの摩擦特性の更なる向上はみられず、貯蔵安定性が低下する傾向にある。また、一般式(27)~(29)で表される化合物の含有量は、組成物全量基準で、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.003質量%以上、更に好ましくは0.005質量%以上である。一般式(27)~(29)で表される化合物の含有量が0.001質量%に満たない場合は、その添加による摩擦特性の向上効果が不十分となる傾向にある。」
「【0237】
また、本発明の工作機械用潤滑油組成物は、スラッジ抑制性の点から、エポキシ化合物を含有することができる。エポキシ化合物としては、以下に示すものが挙げられる。
・・・
【0251】
本発明の工作機械用潤滑油組成物がエポキシ化合物を含有する場合、その含有量は特に制限されないが、組成物全量基準で、好ましくは0.1~5.0質量%、より好ましくは0.2~2.0質量%である。
【0252】
また、本発明の工作機械用潤滑油組成物は、酸化安定性を更に向上できる点から、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、またはこの両方を含有することができる。
【0253】
フェノール系酸化防止剤としては、潤滑油の酸化防止剤として用いられる任意のフェノール系化合物が使用可能であり、特に限定されるのもではないが、例えば、下記の一般式(34)または一般式(35)で表される化合物の中から選ばれる1種または2種以上のアルキルフェノール化合物が好ましいものとして挙げられる。
・・・
【0258】
一般式(34)で表されるアルキルフェノール化合物の中で、R70が炭素数1~4のアルキル基である場合の化合物として特に好ましいものは、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール及びこれらの混合物等である。
・・・
【0274】
本発明の工作機械用潤滑油組成物におけるフェノール系酸化防止剤の含有量は、組成物全量基準で、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%である。フェノール系酸化防止剤の含有量が3質量%を超えても、含有量に見合うだけの熱・酸化安定性及びスラッジ抑制性の更なる向上効果は見られず、また潤滑油基油に対する溶解性が不十分となる傾向にある。また、フェノール系酸化防止剤の含有量は、組成物全量基準で、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.2質量%以上である。フェノール系酸化防止剤の含有量が0.01質量%に満たない場合は、その添加による熱・酸化安定性及びスラッジ抑制性の向上効果が不十分となる傾向にある。」
「【0288】
また、本発明の工作機械用潤滑油組成物は、摩擦特性向上の点から、油性剤を含有することができる。
【0289】
油性剤としては、エステル油性剤、アルコール油性剤、カルボン酸油性剤、エーテル油性剤、アミン油性剤、アミド油性剤などが挙げられる。
・・・
【0304】
カルボン酸油性剤としては、一塩基酸でも多塩基酸でもよい。このようなカルボン酸としては、例えば、エステル油性剤の説明において例示された一塩基酸及び多塩基酸が挙げられる。これらの中では、摩擦特性の向上の点から一塩基酸が好ましい。また、カルボン酸油性剤の炭素数は、摩擦特性の向上の点から、6以上が好ましく、8以上がより好ましく、10以上が最も好ましい。また、カルボン酸油性剤の炭素数が大き過ぎると析出しやすくなる恐れがあることから、炭素数は24以下が好ましく、20以下がより好ましく、18以下が最も好ましい。
・・・
【0334】
本発明の工作機械用潤滑油組成物における油性剤の含有量は任意であるが、摩擦特性の向上効果に優れる点から、組成物全量を基準として、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上である。また、当該含有量は、析出防止性の点から、組成物全量を基準として、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7.5質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。」
「【0335】
また、本発明の工作機械用潤滑油組成物は、熱・酸化安定性向上の点から、下記式(50)で表される構造を有するトリアゾール及び/又はその誘導体を含有することができる。
・・・
【0347】
本発明の工作機械用潤滑油組成物におけるトリアゾール及び/又はその誘導体の含有量は任意であるが、組成物全量基準で、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上である。トリアゾール及び/又はその誘導体の含有量が0.001質量%未満の場合には、その添加による熱・酸化安定性の向上効果が不十分となる傾向にある。また、トリアゾール及び/又はその誘導体の含有量は、組成物全量基準で、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。1.0質量%を超える場合は、含有量に見合うだけの熱・酸化安定性の更なる向上効果が得られず、経済的に不利となるおそれがある。
【0348】
また、本発明の工作機械用潤滑油組成物は、その性能を更に向上させる目的で、必要に応じて、さび止め剤、金属不活性化剤、上記した分散型粘度指数向上剤以外の粘度指数向上剤や清浄分散剤、流動点降下剤、消泡剤等に代表される各種添加剤を単独で、または複数種組み合わせて含有させても良い。
【0349】
さび止め剤としては、具体的には、脂肪酸金属塩、ラノリン脂肪酸金属塩、酸化ワックス金属塩等の金属石けん類;ソルビタン脂肪酸エステル等の多価アルコール部分エステル類;ラノリン脂肪酸エステル等のエステル類;カルシウムスルフォネート、バリウムスルフォネート等のスルフォネート類;酸化ワックス;アミン類;リン酸;リン酸塩等が例示できる。本発明においては、これらのさび止め剤の中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を、任意の量で含有させることができるが、通常、その含有量は、組成物全量基準で0.01~1質量%であるのが望ましい。
【0350】
金属不活性化剤としては、具体的には、上記のベンゾトリアゾール系化合物の他、イミダゾール系化合物等が例示できる。本発明においては、これらの金属不活性化剤の中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を、任意の量で含有させることができるが、通常、その含有量は、組成物全量基準で0.001~1質量%であるのが望ましい。
【0351】
また、分散型粘度指数向上剤以外の粘度指数向上剤としては、具体的には、各種メタクリル酸エステルから選ばれる1種または2種以上のモノマーの共重合体若しくはその水添物、エチレン-α-オレフィン共重合体(α-オレフィンとしてはプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン等が例示できる)若しくはその水素化物、ポリイソブチレン若しくはその水添物、スチレン-ジエン水素化共重合体及びポリアルキルスチレン等の、いわゆる非分散型粘度指数向上剤等が例示できる。また分散型粘度指数向上剤以外の清浄分散剤としては、アルケニルコハク酸イミド、スルフォネート、サリシレート、フェネート等が例示される。これらの粘度指数向上剤や清浄分散剤の中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を、任意の量で含有させることができるが、通常、その含有量は、組成物全量基準で0.01~10質量%であるのが望ましい。
【0352】
流動点降下剤としては、具体的には、各種アクリル酸エステルやメタクリル酸エステルから選ばれる1種または2種以上のモノマーの共重合体若しくはその水添物等が例示できる。これらの流動点降下剤の中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を、任意の量で含有させることができるが、通常、その含有量は、組成物全量基準で0.01~5質量%であるのが望ましい。
【0353】
消泡剤としては、具体的には、ジメチルシリコーン、フルオロシリコーン等のシリコーン類が例示できる。本発明においては、これらの消泡剤の中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を、任意の量で含有させることができるが、通常、その含有量は、組成物全量基準で0.0001~0.05質量%であるのが望ましい。
【0354】
上記構成を有する本発明の工作機械用潤滑油組成物は、摩擦特性、スティックスリップ低減性及び熱・酸化安定性の全てを高水準でバランスよく達成することができるものであり、工作機械の高性能化の点で非常に有用である。」
「【0355】
本発明の工作機械用潤滑油組成物は、工作機械のすべり案内面の潤滑に特に好適に用いられ、また、工作機械の各種軸受、歯車、油圧システムなどの潤滑にも好適に用いられる。
【実施例】
【0356】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0357】
[潤滑油基油の製造]
(基油1)
溶剤精製基油を精製する工程において減圧蒸留で分離した留分を、フルフラールで溶剤抽出した後で水素化処理し、次いで、メチルエチルケトン-トルエン混合溶剤で溶剤脱ろうした。かかる溶剤脱ろうの際に除去されたワックス分(以下、「WAX1」という)を、潤滑油基油の原料として用いた。WAX1の性状を表1に示す。
【0358】
【表1】
[図:0001431846000001.jpg]
【0359】
次に、水素化分解触媒の存在下、水素分圧5MPa、平均反応温度340℃、LHSV0.8hr-1の条件下で、WAX1の水素化分解を行った。水素化分解触媒としては、アモルファス系シリカ・アルミナ担体にニッケル及びモリブデンが担持された触媒を硫化した状態で用いた。
【0360】
次に、上記の水素化分解で得られた分解生成物を減圧蒸留することにより原料油に対して20容量%の潤滑油留分を得た。この潤滑油留分について、メチルエチルケトン-トルエン混合溶剤を用いて、溶剤/油比2倍、ろ過温度-30℃の条件で溶剤脱ろうを行い、目的の潤滑油基油(以下、「基油1」という)を得た。
・・・
【0369】
基油1~3の各種性状及び性能評価試験結果を表4に示す。また、従来の高粘度指数基油(基油4、基油5及び基油6)の各種性状及び性能評価試験結果を表5に示す。
【0370】
【表4】
[図:0001431846000002.jpg]
【0371】
【表5】
[図:0001431846000003.jpg]
【0372】
[実施例1~21、比較例1~8]
実施例1~21においては、基油1~3及び以下に示す添加剤を用いて、表6~8に示す組成を有する工作機械用潤滑油組成物を調製した。また、比較例1~8においては、基油1~6及び以下に示す添加剤を用いて、表9~10に示す組成を有する工作機械用潤滑油組成物を調製した。
(リン及び/又は硫黄を構成元素として含有する化合物)
A1:オレイルアシッドホスフェート
A2:オレイルアシッドホスフェートのオレイルアミン塩
A3:トリクレジルホスフェート
A4:硫化エステル(硫黄含有率:11.4質量%)
A5:硫化ラード(硫黄含有率:11.0質量%)
(その他の添加剤)
B1:オレイン酸
B2:2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール。
【0373】
次に、実施例1~21及び比較例1~8の工作機械用潤滑油組成物について以下の評価試験を実施した。
【0374】
[熱・酸化安定性試験]
JIS K 2540-1989の「潤滑油熱安定度試験方法」に準じて各潤滑油組成物のスラッジ生成抑制性を評価した。すなわち、50mlビーカーに潤滑油組成物45gを秤取し、その中に銅触媒及び鉄触媒を入れ、140℃の空気恒温槽内で72時間放置した後、潤滑油組成物のスラッジ量を測定した。生成スラッジ量は、試験後の潤滑油組成物をn-ヘキサンで希釈し、0.8μmのメンブランフィルターにてろ過し、捕集物の重量を測定することにより求めた。銅触媒及び鉄触媒は、タービン油酸化安定度試験(JIS K 2514)に使用する触媒を8巻(長さ約3.5cm)に切断したものを使用した。得られた結果を表6~10に示す。
【0375】
[摩擦特性評価試験]
図1は摩擦特性評価試験に用いた摩擦係数測定システムを示す概略構成図である。図1中、ベッド6上にはロードセル5を介して連結されたテーブル1及び可動治具4が配置されており、さらにテーブル1上には、加工工具の代用物としての重鎮9が配置されている。テーブル1及びベッド6はいずれも鋳鉄からなるものである。また、可動治具4は軸受部を有するもので、当該軸受部は送りネジ3を介してA/Cサーボモータ2に連結されている。A/Cサーボメータ2により送りネジ3を動作させることで、可動治具4を送りネジ3の軸方向(図中の矢印方向)に往復運動させることができる。さらに、ロードセル5はコンピュータ7と、コンピュータ7及びA/Cサーボメータ2はそれぞれ制御板8と電気的に接続されており、これにより可動治具4の往復運動の制御及びテーブル1と可動治具4との間の荷重の測定を行うことができる。
【0376】
このような摩擦係数測定システムにおいて、ベッド6の上面に潤滑油組成物を滴下し、テーブル重鎮9の選定によりテーブル1とベッド6との間を面圧200kPaに調整した後、送り速度1.2mm/min、送り長さ15mmで可動治具4を往復運動させた。このときのテーブル1と可動治具4との間の荷重をロードセル5(荷重計)により測定し、得られた測定値に基づいて案内面(テーブル1/ベッド6=鋳鉄/鋳鉄)の摩擦係数を求めた。なお、上記試験は慣らし運転を3回行った後に行った。各潤滑油組成物の摩擦係数を表6~12に示す。
【0377】
(スティックスリップ低減性評価試験)
図2はスティックスリップ低減性評価装置(プリント アンド パートナーズ(PLINT & PARTNERS)社製TE-77試験機)を示す概略構成図である。図2に示した装置は、支持台110上に下側試験片12、上側試験片11、弾性体10をこの順で積層し、所定荷重で試験片11、12同士を押し付けながら弾性体10を支持台110の面に沿って往復動(すべり運動)させることにより、試験片11、12を摺動させるものである。そして、かかる摺動の際に試験片11、12に加えられる荷重を荷重検出器13により測定することで、試験片11、12間の摩擦係数が求められる。図3は、上記操作で得られる摩擦係数と時間との相関の一例を示すグラフである。図中のΔμは摩擦係数の振幅を示している。
【0378】
このような装置を用い、試験片及び条件をすべり案内面用潤滑油評価用に改良したこと以外は文献(トライボロジー学会トライボロジー会議予稿集 東京 1999-5 D17)に示されている方法に準拠して、試験片11、12間に各潤滑油組成物を介在させたときのΔμを測定した。具体的には、試験片11、12のいずれもJIS G 4051
S45Cを、弾性体10にはクロロプレンゴムをそれぞれ用い、平均すべり速度0.3mm/s、荷重250Nで試験を行った。Δμが0.02未満の場合「スティックスリップなし」、振幅Δμが0.02以上の場合「スティックスリップ有り」としてスティックスリップ低減性を評価した。得られた結果を表6~10に示す。
【0379】
【表6】
[図:0001431846000004.jpg]
【0380】
【表7】
[図:0001431846000005.jpg]
【0381】
【表8】
[図:0001431846000006.jpg]
【0382】
【表9】
[図:0001431846000007.jpg]
【0383】
【表10】
[図:0001431846000008.jpg]
」
イ 周知文献
(ア)周知文献2
本願の出願日前に頒布された刊行物である、社団法人日本化学会編、化学便覧 応用化学編 第6版、日本、丸善株式会社、2003年1月30日発行、第791~793頁「15.9 潤滑剤」の項(以下「周知文献2」という。)には、次の記載がある。下線は、合議体による。
a 第791頁左欄下から第8行~右欄第19行
「潤滑剤の目的は,接触面の摩擦を軽減させ,表面損傷を 防ぐことにある.その機能を整理すると,(1)摩擦面間の摩耗・摩擦の低下,(2)焼付き・摩耗・転がり疲れなどの表面 損傷の防止,(3)潤滑面の冷却,(4)異物の混入防止および排除,(5)腐食や錆の発生防止などである.
・・・
滑油の粘性により接触する二面が分離され,油膜により荷重が支えられる.弾性流体潤滑領域では,接触表面が弾性 変形することで流体膜を形成し,これによって荷重が支えられる.境界潤滑領域では,摩擦面に吸着した潤滑剤の分子膜および生成した反応膜によって荷重が支えられる.混合潤滑領域は,弾性流体潤滑と境界潤滑が混在している領域である.良好な潤滑状態を保つためには,機械の運転条件(荷重,滑り速度,温度)を考慮し,その条件に適した潤滑剤を選定する必要がある.
a.潤滑剤の形態別分類と特徴
潤滑剤は形態により次の三つに分類される(図15.35).
(i) 流体潤滑剤 全潤滑剤の95% 以上を占め,それらのなかで鉱油系潤滑油(石油の精製により得られる)が90% 以上である.鉱油には,飽和鎖状のパラフィン炭化水素,飽和環を含むナフテン炭化水素,芳香族環をもつ芳香族炭化水素があり,これらの含有率によって,パラフィン系鉱油,ナフテン系鉱油,芳香族系鉱油などとよばれている.鉱油系炭化水素の種類を図A15.5に示す.・・・
[図:0001431846000009.jpg]
」
b 第792頁左欄第25行~右欄第30行
「b.潤滑油に使用される添加剤
潤滑油添加剤は潤滑油基油に潤滑油として必要な性質,性能を付与,あるいは補足増強するために配合される.添加剤には多くの種類があり,その作用・効果を表す呼称で分類されている.
(i)酸化防止剤 ・・・
(ii)清浄分散剤・・・
(iii)油性向上剤 混合潤滑領域において,主として 摩擦を軽減させ,さらに摩耗をも減少させることを目的として配合される.極性基を有する長鎖化合物が効果的であり,(1)高級脂肪酸,(2)高級アルコール,(3)エステル,(4)アミン,(5)金属セッケンなどが利用される.
(iv)極圧添加剤 過酷条件下の摩擦面で局部的な金 属接触が生じたとき,それに伴う摩擦熱により,金属表面と反応して低せん断強さの反応皮膜を形成し,焼付き・摩 耗を防止するために配合される.リン,硫黄,ハロゲンなどの油溶性化合物や,亜鉛,モリブデンなどの有機金属化合物が使用される.
(v)粘度指数向上剤・・・
(vi)流動点降下剤・・・
(vii)その他添加剤 潤滑油にはその他の添加剤として,錆止め剤,消泡剤,乳化剤などが配合される.」
c 第792頁右欄第31行~第793頁左欄第5行
「c.潤滑油の種類
潤滑油は大別して,工場などで使用される工業用潤滑油と自動車,航空機,船舶などで使用される輸送機械用潤滑油に分類され,通常,使用される機械やその種類の名を冠して呼称されている.わが国の潤滑油製品の品質はJISでおおまかに定められているが,使用条件あるいは使用環境に伴う要求条件や潤滑油劣化因子が各機械に特有であること,また機械メーカーや最終ユーザーあるいは関連する工業会などが独自の立場で,それぞれの用途に応じた品質規格を設定していることから,潤滑油には非常に多くの種類がある.潤滑油の種類,配合されるおもな添加剤,JIS分類を表15.34に示す.
[図:0001431846000010.jpg]
」
(イ)周知文献3
原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献3である、特開2008-163115号公報(以下「周知文献3」という。)には、次の記載がある。下線は、合議体による。
「【0129】
本発明においては、上述の極圧剤または油性剤の一方のみを用いてもよいが、溶着と加工抵抗の増加とを防止して優れた加工効率および工具寿命を達成できる点から、極圧剤と油性剤とを併用することが好ましい。また、本発明の金属加工油組成物は、後述するように、工作機械の加工部以外の潤滑油として使用することが可能であるが、この場合には油性剤を含有することが望ましい。」
「【0154】
さらに、本発明の金属加工油組成物は、摺動面用油剤、軸受部分用油剤、油圧機器用油剤などの工作機械の加工部位以外の潤滑油剤として用いることが可能なものであり、従って工作機械の省スペース化、省エネルギー化を可能とする点で非常に有用である。
【0155】
なお、本発明でいう摺動面用油剤とは、切削・研削加工に用いられる工作機械が備える構成部材のうち、当接する2平面の摺動運動の案内機構に用いられる潤滑油剤をいう。例えば、ベッド上を移動可能なテーブル上に被加工部材を配置し、テーブルを移動させて切削・研削加工用工具へ向けて被加工部材を搬送する工作機械においては、テーブルとベッドとの間の摺動面が摺動面用油剤により潤滑される。また、ベッド上を移動可能な台上に切削・研削加工用工具を固定し、その台を移動させて工具を被加工部材に向けて移動させる工作機械においては、台とベッドとの間の摺動面が摺動面用油剤により潤滑される。」
「【0162】
[実施例1~24、比較例1~5]
実施例1~24および比較例1~5においては、それぞれ以下に示す基油および添加剤を用いて、表1~6に示す組成、40℃粘度および引火点(COC)を有する金属加工油組成物を調製した。
(基油)
基油A:ネオペンチルグリコールとオレイン酸とのジエステル(40℃動粘度:24mm2/s、引火点(COC)286℃)
基油B:グリセリンとn-C8酸/n-C10酸のトリエステル(40℃動粘度:14mm2/s、引火点(COC)250℃)
基油C:グリセリンとn-C8酸/n-C10酸/オレイン酸のトリエステル(40℃動粘度:19mm2/s、引火点(COC)270℃)
基油D:トリメチロールプロパンとオレイン酸のトリエステル(40℃動粘度:46mm2/s、引火点(COC)308℃)
基油E:α-オレフィンオリゴマー(40℃動粘度:30mm2/s、引火点(COC)240℃)
基油F:鉱油(40℃動粘度:30mm2/s、引火点(COC)264℃)
基油G:鉱油(40℃動粘度:18mm2/s、引火点(COC)220℃)
(添加剤)
添加剤a:硫化エステル(硫黄分10.1質量%)
添加剤b:硫化油脂(硫黄分11.4質量%)
添加剤c:トリフェニルホスホロチオネート
添加剤d:トリクレジルホスフェート
添加剤e:ジアルキルジチオリン酸亜鉛
添加剤f:カルシウムスルホネート
添加剤g:2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール
【0163】
実施例1~24および比較例1~5の各金属加工油組成物について以下の評価試験を行った。
【0164】
(耐荷重能評価試験)
JISK2519に準拠し、曽田式四球試験機を用いて、回転数750rpm、荷重0.049MPaで60秒間保持し、焼付きが認められない場合は更に荷重を0.049MPa増やして60秒間保持する工程を繰り返し、焼付きが生じたときの荷重を耐荷重能として求めた。得られた結果を表1~6に示す。
【0165】
(摩擦特性評価試験)
直径24mm、厚さ6.9mmのディスク上に直径10mmのボール(SUJ-2)を配置し、ディスクとボールとの接触部位に金属加工油組成物を介在させた状態で、荷重800N、温度120℃の条件下、周波数50Hz、振幅1.5mmでボールを微振動させた。微振動開始後2分間は慣らし運転とし、その後の10分間摩擦係数を測定して平均摩擦係数を求めた。摩擦係数が低いと工具の長寿命化につながる。得られた結果を表1~6に示す。
【0166】
(油持出し量評価試験)
JISK2246(さび止め油)5.19に準拠し、縦80mm、横60mm、厚さ1~2mmの試験片を試料油中に1分間浸漬し、引き上げ、24時間垂直に吊るした後、試験片の質量を測定し、単位面積当たりの付着量に換算した。得られた結果を表1~6に示す。
【0167】
[図:0001431846000011.jpg]
・・・
【0170】
[図:0001431846000012.jpg]
」
(3)引用文献1に記載された発明
引用文献1(前記(1)参照。)の【請求項1】と【0379】の【表6】に記載された「実施例4」に着目し、実施例4に含まれる基油1について、【0370】の【表4】の基油組成飽和分、硫黄分、動粘度(40℃)、粘度指数の数値を参照し、A4、B1、B2について、【0372】の記載を参酌する。そうすると、リン及び/又は硫黄を構成元素として含有する化合物A4の硫化エステルが0.5質量%、その他の添加剤B1のオレイン酸が0.5質量%、B2の2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールが0.3質量%であり、その残部98.7質量%が基油1であるから、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
(引用発明)
「硫化エステル(硫黄含有率:11.4質量%)が0.5質量%、
オレイン酸が0.5質量%、
2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールが0.3質量%、
基油1が98.7質量%、
の組成を有する、工作機械用潤滑油組成物であって、
基油1は、基油組成中の飽和分が98.2質量%、硫黄分が1質量ppm未満、動粘度(40℃)が34.6mm2/s、粘度指数が150である、工作機械用潤滑油組成物。」
(4)対比・判断
ア 本件補正発明と引用発明との対比
引用発明の「硫化エステル(硫黄含有率:11.4質量%)」は、本件補正発明の「(B)硫化エステル」に相当する。
引用発明の「基油1」は、「動粘度(40℃)が34.6mm2/s」であるから、本件補正発明の「(A)40℃の動粘度が18mm2/s以上40mm2/s以下である潤滑油基油」に相当する。
本件補正発明の「グループIII基油」は、本願明細書段落【0010】に「APIグループIII基油は、硫黄分が0.03質量%以下、飽和分が90質量%以上、且つ粘度指数が120以上の鉱油系基油である。」と記載され、「APIグループIII基油」として一般的にも知られているとおりである。
そして、引用発明の「基油1」は、硫黄分が1質量ppm未満、基油組成中の飽和分が98.2質量%、粘度指数150であり、かつ、本願明細書の【0018】の「本発明にかかる潤滑油基油は、・・・具体的には、原油を常圧蒸留及び/又は減圧蒸留して得られた潤滑油留分を・・・精製したパラフィン系鉱油、あるいはノルマルパラフィン系基油、イソパラフィン系基油などのうち・・・上記条件を満たすものが挙げられる。」との記載からみて、原油を精製した鉱油であるから、本件補正発明の「グループIII基油」に該当する。そうすると、引用発明は、「基油1」の100%が「グループIII基油」であるから、本件補正発明の「前記(A)成分のうち70質量%以上はグループIII基油であり」を充足する。
また、引用発明の「工作機械用潤滑油組成物」は、本件補正発明の「工作機械用および金属加工用潤滑油組成物」と、「工作機械用潤滑油組成物」である点で共通する。
したがって、本件補正発明と引用発明とは、
「(A)40℃の動粘度が18mm2/s以上40mm2/s以下である潤滑油基油と、(B)硫化エステルと、を含有し、
前記(A)成分のうち70質量%以上はグループIII基油であり、前記(A)成分を組成物全量基準で80質量%以上含有する、
工作機械用潤滑油組成物。」
の点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)
組成物全量基準での「基油」の含有割合が、本件補正発明は、「80質量%以上95質量%以下」であるのに対し、引用発明は、「98.7質量%」であり、前記上限値を超えている点。
(相違点2)
「工作機械用潤滑油組成物」について、本件補正発明は、「工作機械用および金属加工用潤滑油組成物」であることが特定されているのに対し、引用発明は、「金属加工用」について当該特定がない点。
イ 相違点1について
引用発明において、40℃の動粘度が34.6mm2/sのグループIII基油である基油1は、組成物全量基準で98.7質量%、硫黄を構成元素として含む化合物としての硫化エステルであるA4が0.5質量%、カルボン酸油性剤であるオレイン酸が0.3質量%、フェノール系酸化防止剤である2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールが0.3質量%含有されている。
そして、引用文献1の段落【0199】に、「工作機械用潤滑油組成物は、本発明にかかる潤滑油基油とリン及び/又は硫黄を構成元素として含む化合物とからなるものであってもよいが、その特性を更に向上させるために、以下に示す添加剤を更に含有してもよい。」とされており、硫黄を構成元素として含む化合物とその含有割合について、段落【0133】、【0172】、【0198】に、カルボン酸油性剤とその含有割合について、段落【0288】、【0289】、【0304】、【0334】、フェノール系酸化防止剤とその含有割合について、【0252】、【0253】、【0258】、【0274】に、それぞれその性能向上効果が得られる下限値と上限値が記載されている。
具体的には、硫黄を構成元素として含む化合物の含有割合については、段落【0198】に、「硫黄化合物の含有量が前記下限値未満であると、その添加による耐摩耗性及び摩擦特性の向上効果が不十分となる傾向にある。また、それ以上配合しても添加量に見合うほどの効果が得られない点から、硫黄化合物の含有量は、組成物全量基準で、・・・特に好ましくは1質量%以下」と記載されている。
また、油性剤の含有割合については、段落【0334】に、「また、当該含有量は、析出防止性の点から、組成物全量を基準として、・・・さらに好ましくは5質量%以下」と記載され、酸化防止剤の含有割合については、段落【0274】に、「本発明の工作機械用潤滑油組成物におけるフェノール系酸化防止剤の含有量は、組成物全量基準で、・・・更に好ましくは1質量%以下」と記載されている。
さらに、段落【0348】には、「また、本発明の工作機械用潤滑油組成物は、その性能を更に向上させる目的で、必要に応じて、さび止め剤、金属不活性化剤、上記した分散型粘度指数向上剤以外の粘度指数向上剤や清浄分散剤、流動点降下剤、消泡剤等に代表される各種添加剤を単独で、または複数種組み合わせて含有させても良い。」として、組成物全量基準での、さび止め剤の含有量は、0.01~1質量%、金属不活性化剤は、0.001~1質量%、分散型粘度指数向上剤以外の粘度指数向上剤は、0.01~10質量%、流動点降下剤は、0.01~5質量%、消泡剤は、0.0001~0.05質量%が、それぞれ、望ましい含有量として記載されている(【0349】~【0353】参照。)。
また、工作機械用潤滑油組成物において、上記の種々の添加剤を、その性能向上を目的として添加することは、周知慣用の事項でもある(周知文献2摘示2(2)イ(ア)b、c表14.34、周知文献3摘示2(2)イ(イ)段落【0129】)。
そうすると、引用発明において、引用文献1の上記記載と、周知技術に接した当業者であれば、例えば摩擦特性の向上等(引用文献1段落【0198】、周知文献1)の必要な機能を得るために、各種添加剤をその上限とされる値の範囲内で添加し、組成物全量基準での基油1の含有割合を「80質量%以上95質量%以下」とすることは、容易に想到し得ることであると認められる。
ウ 相違点2について
(ア)引用文献1には、「硫黄を構成元素として含む化合物」として引用発明の必須成分である「硫化エステル」が、「極圧剤」であることは記載されていないものの、硫化エステルや硫化油脂が「極圧添加剤」としての機能を有するものであることは周知であり(周知文献2摘示2(2)イ(ア)b、周知文献3摘示2(2)イ(イ)段落【0162】、【0167】表1添加剤a)、極圧剤と油性剤が添加された潤滑油組成物が、工作機械用として用いられるとともに、金属加工用としても用いられることも、周知慣用の事項である(周知文献2摘示2(2)イ(ア)c表14.34、周知文献3摘示2(2)イ(イ)段落【0129】、【0154】、【0155】参照)。
そうすると、引用発明の「工作機械用」潤滑油組成物について、当該組成の添加剤成分を有する潤滑剤に周知の用途である「金属加工用」としても用いることに、当業者が格別の創意を要したものとは認められない。
(イ)そもそも、本願明細書の【0039】に「本発明の潤滑油組成物は、・・・例えば、ギア油、軸受油、摺動面油、油圧作動油研削油、切削油、圧延油、または鍛造油として使用することができる。」と記載されるように、本件補正発明に係る潤滑油組成物は、「工作機械用」及び「金属加工用」の双方に同時に使用できるものと特定されているわけではないから、相違点2は実質的な相違点ではないともいえる。
エ 効果について
本願明細書の段落【0013】には、「本発明の潤滑油組成物は、成分(A)の40℃の動粘度が18mm2/s以上40mm2/s以下である潤滑油基油を、組成物全量基準で、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上含む。成分(A)の上限は、組成物全量基準で、好ましくは99質量%以下、より好ましくは97質量%以下、さらに好ましくは95質量%以下である。成分(A)の含量の具体的な範囲としては、組成物全量基準で、好ましくは80質量%以上99質量%以下、より好ましくは85質量%以上97質量%以下、さらに好ましくは90質量%以上95質量%以下である。成分(A)の含量が上記上限値以下であることにより、添加剤の効果を得やすくなり、上記下限値以上であることにより、コスト面で有利になる。」と記載されている。
しかしながら、具体的な実施態様として開示された実施例1~9は、組成物全量基準の基油量が最も少ない(添加剤量(組成物全量基準)が最も大きい)実施例1において、95.50(本願明細書表1の該当欄には95.29と記載されているが、計算値は100÷(100+4.71)×100=95.50%である。)であり、有効数字2桁として、いずれも本件補正発明の上限値を超えている。そして、成分(A)について基油がグループI基油である比較例1では引火点が低く、成分(B)について硫化エステルを添加しなかった比較例2~4では極圧性が不足するか測定できなかったことが記載されているものの、基油と添加剤の含有比率と、本件補正発明1の奏する「引火点」、「極圧性」、「溶解性」、「位置決め精度」との相関が裏付けられているとはいえない。
また、本願明細書段落【0002】には、「工作機械油」と「金属加工油」について分類されているものの、段落【0006】に記載される本件補正発明の課題は、「動粘度が低い、具体的には40℃動粘度が18mm2/s以上40mm2/s以下である基油を使用して、高い引火点、そして極圧性をバランスよく具備する工作機械用および金属加工用潤滑油」を提供することであって同一である上、具体的な評価指標である、上記「引火点」、「極圧性」、「溶解性」、「位置決め精度」についても共通しており、「金属加工用」に特有の効果が裏付けられているものでもない。
そうすると、本件補正発明の上限値95質量%を超えて(A)成分を含有する本件明細書の実施例等の記載に基づいて、「金属加工」用途を付加し、(A)成分を95質量%以下とした本件補正発明1の構成により、「引火点」、「極圧性」、「溶解性」、「位置決め精度」が優れたものとなったとも、添加剤の効果を得やすくなったとも認められない。
したがって、本件補正発明1により奏される効果は、当業者が本願出願日当時に本件補正発明1の構成が奏するであろうと予測できた効果と比較して、顕著で予測できないものとはいえない。
オ 審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書において、「引用文献1には、潤滑油基油の含量を「10質量%」も少なくすることについて開示も示唆もされておりません。そもそも、引用文献1は、本発明が解決しようとする高い引火点と極圧性のバランスについて開示も示唆もしておりませんので、このようなバランスを改善しようとする当業者が、添加剤を配合して潤滑油基油の含量を減らすことを動機付けられることはございません。」「引用文献1に記載の発明が解決しようとする課題は、摩擦特性、スティックスリップ低減性及び熱・酸化安定性の全てを高水準でバランスよく達成することができ、工作機械の高性能化の点で有効な工作機械用潤滑油組成物を提供することです。これは、高い引火点、そして極圧性をバランスよく具備する工作機械用および金属加工用潤滑油の提供という本発明が解決しようとする課題とは異なります。」と主張している。
上記主張のとおり、引用文献1には、98.7質量%の潤滑油基油の含量を「10質量%」も少なくすることは開示はされていない。しかしながら、引用発明に1.3質量%含有されている添加剤について、要求される性能向上のための増量や、他の添加剤の採用により、添加量を引用文献1に記載された範囲内で変更し、それに伴い数%減らすことで、基油の含量を80~95質量%程度とすることが当業者が容易に想到し得る事項であることは、上記イで検討したとおりである。
そして、消防法による危険物の分類により、引火点が250℃以上の潤滑油は可燃性液体類に分類され、250℃未満のものに比べ規制が緩和されるから、「引火点」が250℃以上であることは、文献を示すまでもなく当然の課題であると認められるし、過酷条件下の摩擦面で局部的な金属接触が生じたとき、それに伴う摩擦熱により、金属表面と反応して低せん断強さの反応皮膜を形成し、焼付き・摩耗を防止する「極圧性」もまた、潤滑油組成物における周知の課題である(周知文献2摘示2(2)イ(ア)b、c表14.34、周知文献3摘示2(2)イ(イ)段落【0129】、【0167】表1)。
また、引用文献1に記載される上記「スティックスリップ」は「摩擦振動」ともいい、摩擦特性の1つである点で、極圧性とも共通するものであって、上記「スティックスリップ低減性」は、そのような添加剤の増量や追加を動機付ける理由となっても、添加剤の増量や追加を妨げる特段の事情とはならない。
したがって、「高い引火点、そして極圧性をバランスよく具備する」という本件補正発明の課題は、引用発明の課題と異なるものとはいえず、引用発明における基油の含量を減らすことが動機付けられないとする、上記主張は採用できない。
以上のとおりであるから、審判請求書における請求人の主張を検討しても、本件補正発明は、引用発明及び引用文献1に記載された事項並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(5)まとめ
以上のとおり、本件補正発明は、引用発明及び引用文献1に記載された事項並びに周知技術に基づいて、本願の出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、前記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1~6に係る発明は、令和6年9月4日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2の[理由]1(2)に記載されたとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、以下の理由を含むものである。
本願発明は、本願の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった上記の引用文献1に記載された発明に基いて、その出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項、及び周知文献の記載事項は、上記第2の[理由]2(2)ア 引用文献1、イ 周知文献にそれぞれ記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、上記第2の[理由]2-1で検討した本件補正発明から、「(A)成分のうち」「グループIII基油」の含有割合について、「70質量%以上」を「25質量%以上」にその範囲を拡張したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに数値範囲を限定したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2-2(4)に記載したとおり、引用発明及び引用文献1に記載された事項並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献1に記載された事項並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-017690