特許拒絶査定不服審判
2025-001658
低粘度で摩耗防止を提供する潤滑油組成物
- 審判番号
- 2025-001658
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2023-203623
- 請求日
- 2025年02月03日
- 審決日
- 2026年01月20日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】シェブロン・オロナイト・テクノロジー・ビー.ブイ.
- 【請求人代理人】弁理士法人浅村特許事務所
- 【請求人】シェブロン・オロナイト・カンパニー・エルエルシー
- 【請求人代理人】弁理士法人浅村特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 光本 美奈子
- 審判官 渡辺 陽子
- 審判官 瀬下 浩一
- 分類
- P18 .121-Z (C10M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2023-203623「低粘度で摩耗防止を提供する潤滑油組成物」拒絶査定不服審判事件〔令和 6年 2月 1日出願公開、特開2024- 15128〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2019年(平成31年)2月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2018年3月2日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2020-544749号の一部を令和5年12月1日に新たな特許出願としたものであって、同年12月15日に手続補正書及び上申書が提出され、令和6年2月13日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内(延長3月)である同年8月15日に意見書及び手続補正書が提出され、同年9月19日付けで拒絶査定され(謄本の発送は10月1日)、これに対し、令和7年2月3日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
第2 本願発明
本願の請求項1~21に係る発明は、令和6年8月15日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~21に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、単に「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「 【請求項1】
150℃で1.3~2.9mPa・sの範囲のHTHS粘度を有する潤滑油組成物であって、
a)1.5~6.0mm2/sの範囲の100℃での動粘度を有する50重量%を超える潤滑粘度の油;
b)200,000g/モル~450,000g/モルのMwを有する分散剤ポリメタクリレート(DPMA)粘度指数向上剤;
c)50,000g/モル~150,000g/モルのMwおよび50重量%~70重量%の全エチレン含有量を有する非分散性エチレン系オレフィンコポリマー粘度指数向上剤;
d)モリブデン含有化合物からの50~300ppmのモリブデン;及び
e)50重量%未満のサリチル酸塩清浄剤:
を含む、前記の潤滑油組成物。」
第3 原査定の理由の概要
原査定の理由は、令和6年2月13日付け拒絶理由通知書に記載された理由1であって、要するに、上記本願発明は、下記の引用文献1に記載された発明及び周知技術(要すれば、引用文献2及び3等参照)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特開2010-280821号公報
引用文献2:特開2003-105365号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:国際公開第00/60032号(周知技術を示す文献)
第4 引用文献の記載及びその記載事項
1 引用文献の記載
(1)引用文献1:特開2010-280821号公報
引用文献1には、以下の事項が記載されている。
以下、下線は合議体による。
「【請求項1】
100℃における動粘度が1~6mm2/s、%Cpが70以上、かつ、%CAが2以下である潤滑油基油と、
PSSIが20以下である炭化水素系粘度指数向上剤と、
ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤と、
を含有することを特徴とする潤滑油組成物。」
「【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、150℃におけるHTHS粘度が十分に高く、40℃における動粘度、100℃における動粘度および100℃におけるHTHS粘度が十分に低い潤滑油組成物を提供することを目的とする。」
「【0045】
本発明で用いることのできる炭化水素系粘度指数向上剤は、PSSIが20以下であるという条件を満たす限りにおいては、化合物の形態は任意である。具体的な化合物としては、スチレン-ジエン水素化共重合体、エチレン-α-オレフィン共重合体またはその水素化物、ポリイソブチレンまたはその水素化物、およびポリアルキルスチレンまたはこれらの混合物等を挙げることができる。
・・・
【0048】
エチレン-α-オレフィン共重合体またはその水素化物は、エチレンとα-オレフィンの共重合体またはその共重合体を水素化した化合物である。α-オレフィンとしては具体的にプロピレン、イソブチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン等が使用される。
【0049】
エチレン-α-オレフィン共重合体またはその水素化物の重量平均分子量(MW)は、5,000以上であることが好ましく、より好ましくは10,000以上であり、さらに好ましくは30,000以上である。また、500,000以下であることが好ましく、より好ましくは400,000以下であり、さらに好ましくは300,000以下である。重量平均分子量が5,000未満の場合には潤滑油基油に溶解させた場合の粘度指数向上効果が小さく省燃費性や低温粘度特性に劣るだけでなく、コストが上昇するおそれがあり、重量平均分子量が500,000を超える場合にはせん断安定性や潤滑油基油への溶解性、貯蔵安定性が悪くなるおそれがある。」
「【0062】
本発明の潤滑油組成物においては、省燃費性能を高めるために、さらに有機モリブデン化合物および無灰摩擦調整剤から選ばれる摩擦調整剤を含有させることができる。
【0063】
本発明で用いる有機モリブデン化合物としては、モリブデンジチオホスフェート、モリブデンジチオカーバメート等の硫黄を含有する有機モリブデン化合物が挙げられる。
【0064】
本発明の潤滑油組成物において、有機モリブデン化合物を用いる場合、その含有量は特に制限されないが、組成物全量を基準として、モリブデン元素換算で、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、更に好ましくは0.01質量%以上、特に好ましくは0.02質量%以上であり、また、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0.07質量%以下、特に好ましくは0.05質量%以下である。その含有量が0.001質量%未満の場合、潤滑油組成物の熱・酸化安定性が不十分となり、特に、長期間に渡って優れた清浄性を維持させることができなくなる傾向にある。一方、含有量が0.2質量%を超える場合、含有量に見合う効果が得られず、また、潤滑油組成物の貯蔵安定性が低下する傾向にある。」
「【0070】
金属系清浄剤としては、アルカリ金属スルホネートまたはアルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属フェネートまたはアルカリ土類金属フェネート、およびアルカリ金属サリシレートまたはアルカリ土類金属サリシレート等の正塩、塩基正塩または過塩基性塩などが挙げられる。本発明では、これらからなる群より選ばれる1種または2種以上のアルカリ金属またはアルカリ土類金属系清浄剤、特にアルカリ土類金属系清浄剤を好ましく使用することができる。特にマグネシウム塩および/またはカルシウム塩が好ましく、カルシウム塩がより好ましく用いられる。」
「【0089】
(実施例1~2、比較例1~5)
実施例1~2および比較例1~5においては、それぞれ以下に示す基油及び添加剤を用いて潤滑油組成物を調製した。基油Xの性状を表1に、潤滑油組成物の組成を表2、3に、それぞれ示す。
(基油)
基油X:水素化分解により製造されたグループIII基油
(粘度指数向上剤)
A-1:スチレン-イソプレン水素化共重合体、MW=50,000、PSSI=10
B-1:分散型ポリメタクリレート(メチルメタクリレート、一般式(1)中のR2が炭素数12のアルキル基であるメタクリレート、一般式(1)中のR2が炭素数13のアルキル基であるメタクリレート、一般式(1)中のR2が炭素数14のアルキル基であるメタクリレートおよび一般式(1)中のR2が炭素数15のアルキル基であるメタクリレートおよびジメチルアミノエチルメタクリレートを含有するメタクリレートの共重合体) MW=80,000、Mw/Mn=2.7、PSSI=5
B-2:分散型ポリメタクリレート、MW=400,000、PSSI=50
C-1:エチレン-プロピレン共重合体、MW=250,000、PSSI=24
(その他添加剤)
D:性能添加剤パッケージ(金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤、摩耗防止剤、消泡剤等を含む)
【0090】
[潤滑油組成物の評価]
実施例1~2および比較例1~5の各潤滑油組成物について、40℃および100℃における動粘度、粘度指数、100℃および150℃におけるHTHS粘度を測定した。各物性値の測定は以下の評価方法により行った。なお各組成物は、せん断粘度が9.3mm2/sとなるように配合した。得られた結果を表2、3に示す。
(1)動粘度:ASTM D-445
(2)粘度指数:JIS K 2283-1993
(3)せん断粘度(ディーゼルインジェクター法):ASTM D-6278
(4)HTHS粘度:ASTM D4683
結果の判断基準は、150℃におけるHTHS粘度を2.9mPa・s以上に維持しながら、100℃におけるHTHS粘度6.5mPa・s以下および40℃における動粘度50mm2/s以下を同時に満たすことである。本条件を満たさないと、エンジン高速回転時および低速回転時の燃費性能が出ないことが分かっている。
【0091】
【表1】
[図:0001436920000001.jpg]
【0092】
【表2】
[図:0001436920000002.jpg]
」
(2)引用文献2:特開2003-105365号公報
引用文献2には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】[A]エチレンと炭素数3~20のα-オレフィンとの共重合体であって、エチレン含量(E)が65~79重量%のエチレン・α-オレフィン共重合体と、[B]エチレンと炭素数3~20のα-オレフィンとの共重合体であって、エチレン含量(E)が40~55重量%のエチレン・α-オレフィン共重合体とからなることを特徴とする潤滑油用粘度調整剤。
・・・
【請求項5】前記エチレン・α-オレフィン共重合体[A]のゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量が、70,000~400,000の範囲にあることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の潤滑油用粘度調整剤。
・・・
【請求項9】前記エチレン・α-オレフィン共重合体[B]のゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量が、70,000~400,000の範囲にあることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の潤滑油用粘度調整剤。」
「【0122】
【表1】
[図:0001436920000003.jpg]
・・・
【0130】
【表2】
[図:0001436920000004.jpg]
」
(3)引用文献3:国際公開第00/60032号
原査定で引用された本願優先日前に頒布された引用文献3には、次の記載がある。
(3a)「特許請求の範囲
1.エチレンと炭素数3~20のα-オレフィンとの共重合体であって、下記の特性を有するエチレン・α-オレフィン共重合体からなる潤滑油用粘度調整剤;
(1)エチレン含量(E)が40~77重量%であり、
(2)GPCによるポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)が80,000~400,000であり、
(3)Mw/Mnが2.4以下であり、
(4)DSCで測定した融点(Tm)が60℃以下であり、
(5)エチレン含量(E:重量%)とDSCで測定した融点(Tm:℃)が下記式(I)を満たし、
3.31×E-186 ≧ Tm … (I)
かつ
(6)主鎖および長鎖分岐がある場合は長鎖分岐も含めた炭素原子中に存在するαβ炭素の割合(V:%)と、エチレン含量(E:重量%)とが、下記式(II)を満たす。
V ≦ 10-0.1×E … (II)」(特許請求の範囲第1項)
(3b)「潤滑油用粘度調整剤
本発明に係る潤滑油用粘度調整剤は、以下のような特性を有するエチレンとα-オレフィンとの共重合体(以後、本明細書では、単にエチレン・α-オレフィン共重合体ということもある)からなる。
エチレン・α-オレフィン共重合体は、エチレン含量(E)(エチレンから導かれる繰り返し単位の含有割合)が、通常40~77重量%の範囲にある。とくにエチレン含量(E)は、65~77重量%、好ましくは68~74重量%、特に好ましくは68~72重量%の範囲にあるか、あるいは、40~55重量%、好ましくは43~53重量%、特に好ましくは45~51重量%であることが好ましい。
エチレン含量がこのような範囲にあると、充分な低温特性の潤滑油組成物が得られ、また、エチレン・α-オレフィン共重合体のエチレンシーケンス部分の結晶化により、潤滑油組成物が低温時にゼリー状になることがない。
エチレン・α-オレフィン共重合体中のエチレン含量(E)は、「高分子分析ハンドブック」(日本分析化学会、高分子分析研究懇談会編、紀伊国屋書店発行)に記載の方法に従って13C-NMRで測定することができる。
炭素数3~20のα-オレフィンとしては、具体的に、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセンおよび1-エイコセンなどが挙げられる。
これらのα-オレフィンのなかでも、特にプロピレンが好ましい。すなわち、エチレン・α-オレフィン共重合体としてはエチレン・プロピレン共重合体が好適である。
また本発明で用いられるエチレン・α-オレフィン共重合体は、実質的にエチレンから誘導される構成単位およびα-オレフィンから誘導される構成単位のみからなっていることが好ましい。このような構成のエチレン・α-オレフィン共重合体は低温特性に特に優れている。
エチレン・α-オレフィン共重合体の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で80,000~400,000である。重量平均分子量(Mw)が上記範囲内にあると、粘度指数向上性能(増粘性)に優れており、このため特定の潤滑油粘度を得るためのエチレン・α-オレフィン共重合体の必要量が少なくてよく、低温時にゼリー化が起こりにくく、また、せん断安定性も良い。
このうち、エチレン・α-オレフィン共重合体の重量平均分子量(Mw)が260,000~380,000、好ましくは270,000~350,000の範囲にある場合には、特に潤滑油の粘度指数を向上させることができる。また、この重量平均分子量(Mw)が100,000~240,000、好ましくは120,000~240,000の範囲にある場合には、特に潤滑油粘度のせん断安定性を向上させることができる。」(第6ページ第21行~第8ページ第20行)
2 引用文献1に記載された発明について
引用文献1には、実施例2(【0089】~【0092】参照)の潤滑油組成物として、「A-1:スチレン-イソプレン水素化共重合体(MW=50,000、PSSI=10)を10.1質量%、B-2:分散型ポリメタクリレート(MW=400,000、PSSI=50)を2.07質量%、D:性能添加剤パッケージ(金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤、摩耗防止剤、消泡剤等を含む)を10質量%、及び、残余が基油X:水素化分解により製造されたグループIII基油である、150℃におけるHTHS粘度が2.90mPa・sの潤滑油組成物。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
第5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「B-2:分散型ポリメタクリレート(MW=400,000、PSSI=50)」は、引用文献1の【0089】の記載から、粘度指数向上剤であるから、本願発明の「b)200,000g/モル~450,000g/モルのMwを有する分散剤ポリメタクリレート(DPMA)粘度指数向上剤」に相当する。
引用発明の「D:性能添加剤パッケージ(金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤、摩耗防止剤、消泡剤等を含む)を10質量%」は、本願発明の「e)50重量%未満の」、「清浄剤」に相当する。
引用発明の「基油X:水素化分解により製造されたグループIII基油」は、引用文献1の【0091】の記載から、動粘度(100℃)が4.276mm2/sであるから、本願発明の「a)1.5~6.0mm2/sの範囲の100℃での動粘度を有する」、「潤滑粘度の油」に相当し、引用発明の「残余」は77.83質量%(=100-10.1-2.08-10)であるから、本願発明の「50重量%を超える」を充足する。
引用発明の「150℃におけるHTHS粘度が2.90mPa・sである潤滑油組成物」は、本願発明の「150℃で1.3~2.9mPa・sの範囲のHTHS粘度を有する潤滑油組成物」に相当する。
そうすると、両者は、「150℃で1.3~2.9mPa・sの範囲のHTHS粘度を有する潤滑油組成物であって、
a)1.5~6.0mm2/sの範囲の100℃での動粘度を有する50重量%を超える潤滑粘度の油;
b)200,000g/モル~450,000g/モルのMwを有する分散剤ポリメタクリレート(DPMA)粘度指数向上剤;
及び
e)50重量%未満の清浄剤:
を含む、前記の潤滑油組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本願発明はc)50,000g/モル~150,000g/モルのMwおよび50重量%~70重量%の全エチレン含有量を有する非分散性エチレン系オレフィンコポリマー粘度指数向上剤を含むのに対し、引用発明はそれを含まない点。
<相違点2>
本願発明はd)モリブデン含有化合物からの50~300ppmのモリブデンを含むのに対し、引用発明はそれを含まない点。
<相違点3>
清浄剤が、本願発明はサリチル酸塩であるのに対し、引用発明は金属系洗浄剤である点。
第6 判断
1 <相違点1>について
引用発明の「A-1:スチレン-イソプレン水素化共重合体(MW=50,000、PSSI=10)」は、引用文献1の【0045】の「スチレン-ジエン水素化共重合体」の一種であり、【0089】及び請求項1の記載から、「PSSIが20以下である炭化水素系粘度指数向上剤」であると認められる。引用文献1には、「PSSIが20以下である炭化水素系粘度指数向上剤」として、スチレン-ジエン水素化共重合体と並んでエチレン-α-オレフィン共重合体が記載され(【0045】)、その重量平均分子量を5,000~500,000の範囲とすることも記載されている(【0049】)。
引用文献2には、潤滑油用粘度調整剤を構成するエチレン・α-オレフィン共重合体としてエチレン含量(E)が65~79重量%のエチレン・α-オレフィン共重合体とエチレン含量(E)が40~55重量%のエチレン・α-オレフィン共重合体が記載され(【請求項1】)、エチレン含量(E)が52重量%で、重量平均分子量が130,000のエチレン・α-オレフィン共重合体が記載されている(【0122】参照。)。また、引用文献3には、潤滑油用粘度調整剤を構成するエチレン・α-オレフィン共重合体として、エチレン含量(E)が40~77重量%であり、重量平均分子量(Mw)が80,000~400,000であるものが記載され(摘記(3a))、重量平均分子量(Mw)が上記範囲内にあると、粘度指数向上性能(増粘性)に優れることが記載されている(摘記(3b))。このように、粘度指数向上剤として、c)50,000g/モル~150,000g/モル程度のMwおよび50重量%~70重量%程度の全エチレン含有量を有するエチレン・α-オレフィン共重合体を用いることは、本願優先日前における周知技術である。
してみると、引用発明において、「PSSIが20以下上である炭化水素系粘度指数向上剤」としてA-1:スチレン-イソプレン水素化共重合体(MW=50,000、PSSI=10)に代えて、前記引用文献1の記載及び周知技術に基づき、前記Mw及び重量%程度の全エチレン含有量を有するエチレン・α-オレフィン共重合体粘度指数向上剤を用いることは、当業者が容易に想到し得ることである。特開2001-139978号公報には、粘度指数向上剤として非分散型のオレフィンコポリマー系(ポリイソブチレン系、エチレン-プロピレン共重合体系)エチレン-α-オレフィン共重合体が記載され、非分散型とは、分子中に酸素又は窒素を含んでいなくて分散性能を有していないものであることが記載されており(【0020】参照。)、前記エチレン-α-オレフィン共重合体粘度指数向上剤は、本願発明の「非分散性エチレン系オレフィンコポリマー粘度指数向上剤」に相当するといえる。
2 <相違点2>について
引用文献1には、潤滑油組成物の省燃費性能を高めるために、有機モリブデン化合物を摩擦調整剤として含有させることができ、その含有量は特に制限されないが、組成物全量を基準として、モリブデン元素換算で0.005質量%以上、0.05質量%以下含有させることが記載されているから(前記第4 1(1)の【0062】~【0064】参照。)、引用発明の潤滑油組成物に、本願発明の濃度程度の有機モリブデン化合物を摩擦調整剤として含有させることは、当業者が容易に想到し得ることである。
3 <相違点3>について
引用文献1には、金属系清浄剤としてアルカリ金属サリシレートまたはアルカリ土類金属サリシレート等の正塩、塩基正塩または過塩基性塩などが記載されているから(【0070】参照。)、引用発明の潤滑油組成物において、金属系清浄剤としてアルカリ金属サリシレートまたはアルカリ土類金属サリシレートの正塩、塩基正塩または過塩基性塩を採用し、サリチル酸塩清浄剤を含むものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
4 本願発明の効果について
(1) 本願明細書には、【表2】の例1~例6及び比較例1~3として、様々な組成の組成物に関する記載がなされている。例1~例6は全て【0119】の(g)に記載されるDMPAとOCPを含むものであり、例1と例3は、無硫黄モリブデン化合物(なお、具体的にいかなる化合物であるか不明である)の濃度は同じだが、スルホン酸マグネシウムの濃度が例1は840ppmであるのに対し、例3は240ppmである点で異なることから、例1と例3の結果から、FZG摩耗の評価には、スルホン酸マグネシウムの濃度が影響していることは明らかである。
そこで、スルホン酸マグネシウムの濃度とモリブデンの種類が同じ例同士を比較すると、本願明細書の記載から、以下の技術的事項を理解できる。
・例5と例6から、硫黄含有モリブデンスクシンイミド由来のモリブデンの濃度が100ppmから200ppmに上昇すると、FZG摩耗の評価が下がることが理解できる。
・比較例2、例2及び例3から、無硫黄モリブデン化合物(なお、具体的にいかなる化合物であるか不明である)由来のモリブデンの濃度が80ppmから160ppmまで上昇すると、FZG摩耗の評価が上がるが、160ppmから320ppmまで上昇すると、FZG摩耗の評価が6まで下がることが理解できる。
(2) 本願発明は、「モリブデン含有化合物からの50~300ppmのモリブデン」「を含む」潤滑油組成物に係る発明であるところ、前記(1)から、モリブデンの濃度が160ppm又は200ppmを超えた場合にもFZG摩耗評価が高いことが本願明細書の記載から明らかとはいえず、この点が技術常識から明らかということもできない。また、本願発明はスルホン酸マグネシウムの濃度を特定事項とするものではないところ、前記(1)のとおり、本願明細書には、FZG摩耗評価がスルホン酸マグネシウムの量の影響を受けることが開示されていることから、いかなる量でスルホン酸マグネシウムを含む組成物であっても、モリブデン量等が本願発明の特定事項を満たすものであれば、例3等と同様のFZG摩耗評価となるともいえない。加えて、本願発明は前記(1)の例1~例6で用いられたDPMAとOCP以外のMwや全エチレン含有量のポリマーを含む態様をも包含するものでもある。
そもそも、前記2で検討したとおり、引用文献1には潤滑油組成物にモリブデン元素換算で0.005質量%(50ppm)以上、0.05質量%(500ppm)以下の有機モリブデン化合物を摩擦調整剤として含有させることが記載されており、当業者は、摩擦調整剤により摩擦特性が向上すれば、耐摩耗性能が向上するであろうと理解するといえる。
以上のとおりであるから、本願発明の全体にわたり、本願発明の構成から予測しえない顕著な効果が奏されたとはいえない。
5 請求人の主張について
(1)請求人の主張
請求人は、審判請求書において、追加の比較実験データ(表3)を提出し、本願の表2及び表3に基づき以下のとおり主張する。
<主張1>
本願発明の「d)モリブデン含有化合物からの50~300ppmのモリブデン」の特徴を有しない比較例2、比較例4、及び、表3のブレンド1では、FZG摩耗が6以下にすぎない。
<主張2>
本願発明の特徴のうち少なくとも1つの特徴を有しない、表2の他の比較例でもFZG摩耗が6以下にすぎない。
(2)検討
ア <主張1>について
そもそも、表3は本願明細書に記載された実験結果ではないが、引用文献1に摩耗調整剤であることが記載されるモリブデンを含まない表3のブレンド1では、FZG摩耗評価が低くなるであろうことは、前記4で検討したとおり、当業者が予測しえる範囲内のものである。また、320ppmまたは780ppmのMoを含む比較例2や4のFZG摩耗評価が低いことが開示されていることをもって、本願発明の全体にわたり本願発明の構成から予測しえない有利な効果が奏されたとはいえないことも、前記4において検討したとおりである。
イ <主張2>について
比較例1、7は、表3のブレンド1同様に引用文献1に摩耗調整剤であることが記載されるモリブデンを含んでおらず、このような比較例1ではFZG摩耗評価が低くなるであろうことは、前記アのとおりである。
比較例3については、前記アの比較例2及び4は無硫黄モリブデン化合物(なお、具体的な化合物は不明)を用いる試験例であるのに対し、比較例はさらに硫黄含有モリブデンスクシンイミド錯体を含むものであるところ、490ppmのMoを含む比較例3のFZG摩耗評価が低いことが開示されていることをもって、本願発明の全体にわたり本願発明の構成から予測しえない有利な効果が奏されたとはいえないことは、前記アのとおりである。
また、比較例5は、実施例1において、エチレンプロピレン誘導非分散剤OCPおよび分散剤PMAを、SSIが4で分子量35,000のジビニルベンゼンと結合した水素化ポリイソプレン星形ポリマーを含む4.50重量%のポリマー濃縮物で置き換え、さらに840ppmのマグネシウムを含むスルホン酸マグネシウムを、240ppmのマグネシウムを含むスルホン酸マグネシウムに換えたものであるが、FZX摩耗の差がDPMAおよびOCPを星形ポリマーに換えたことにより生じる効果なのか、マグネシウム量を変えた効果によるものか不明である。加えて、前記1で参照した特開2001-139978号公報の段落【0020】に「粘度指数向上剤としては、一般にポリメタクリレート系、オレフィンコポリマー系(ポリイソブチレン系、エチレン-プロピレン共重合体系)、・・・、星状イソプレン系等が挙げられが、本発明においては、摩擦低減効果の点から非分散型のオレフィンコポリマー系(ポリイソブチレン系、エチレン-プロピレン共重合体系)が好ましく用いられる」と記載されていることからも、比較例5の記載をもって、本願発明の構成から予測しえない顕著な効果が奏されたとはいえない。
比較例6については、比較例5と同様である。
ウ 以上のとおりであるから、審判請求人の主張は採用できない。
6.小括
したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献1に記載された事項及び周知技術(要すれば、引用文献2、3等参照)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された事項及び周知技術(要すれば、引用文献2、3等参照)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2025-001658