2021-800065
有機光電子素子およびこれを含む表示装置
- 審判番号
- 2021-800065
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2015-551052外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6323815
- 請求日
- 2021年07月30日
- 審決日
- 2023年05月08日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】出光興産 株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人大谷特許事務所
- 【被請求人】サムスン エスディアイ カンパニー,リミテッド
- 【被請求人代理人】阿部 達彦
- 分類
- P1123.537-YAA(H05B) / P1123.121-YAA(H05B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第36条、特許法第134条の2第6項、特許法第120条の5第2項、特許法第169条
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 19項目
第1 請求の趣旨及び答弁の趣旨並びに手続等の経緯
1 請求の趣旨
特許第6323815号発明の特許請求の範囲の請求項11~15及び20に記載された発明についての特許を無効とし、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。
2 答弁の趣旨
本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。
3 手続等の経緯
特許第6323815号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~請求項20に係る特許についての出願は、平成25年7月23日(優先権主張 平成24年12月31日、優先権主張国 韓国)を国際出願日とする外国語特許出願(特願2015-551052号)であって、平成30年4月20日に特許権の設定の登録がされたものである。
請求人 出光興産株式会社は、令和3年7月30日に、上記特許のうち請求項11~請求項15及び請求項20に係る特許を無効とすることについて、無効審判(無効2021-800065号)を請求した。
以後の、手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
(甲1~甲11と、甲1、5、9、10の必要部分の訳文を添付。)
(乙1~乙6を添付。)
(乙1~乙6の原本を添付して追完。)
(乙7を添付。)
(甲1~甲3、甲5に係る書証の申出が請求人から撤回され、被請求人も当該撤回に同意した。)
(乙8~乙12を添付。)
(乙9~乙12の原本を添付して追完。)
(甲12~13を添付。)
なお、令和3年12月28日にした訂正の請求は、特許法第134条の2第6項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 本件訂正請求について
1 請求の趣旨
令和4年12月13日付け訂正請求書による訂正の請求(以下、当該訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)の趣旨は、特許第6323815号の特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項11から15及び20について訂正することを求める、というものである。
2 本件訂正の内容
本件訂正の内容は、令和4年12月13日付け訂正請求書の「(2)訂正事項」に記載されたとおりのものと認める。
本件訂正は、一群の請求項である、請求項11~15及び20についてなされたものであって、その訂正事項は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項11に「有機光電子素子:」と記載されているのを、
「有機光電子素子であって、燐光素子又は青色素子であり、前記化学式11で表される化合物は、燐光発光ホスト材料又は青色蛍光ホスト材料のイオン化ポテンシャルエネルギーより小さい、有機光電子素子:」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項11に
「X1は、O、S、またはCR’R”であり、R’、R”、R1およびR2は、互いに独立して、水素、重水素、置換もしくは非置換のC1~C20アルキル基、置換もしくは非置換のC6~C30アリール基、置換もしくは非置換のC2~C30ヘテロアリール基、置換もしくは非置換のC3~C40シリル基またはこれらの組み合わせであり、Ar1およびAr2は、互いに独立して、置換もしくは非置換のC6~C30アリール基または置換もしくは非置換のC2~C30ヘテロアリール基であり、L1~L3は、互いに独立して、単結合、置換もしくは非置換のC2~C6アルケニレン基、置換もしくは非置換のC2~C6アルキニレン基、置換もしくは非置換のC6~C30アリーレン基、またはこれらの組み合わせであり、」と記載されているのを、
「X1は、OまたはSであり、R1およびR2は、互いに独立して、水素、重水素、置換もしくは非置換のC1~C20アルキル基、非置換のC6~C30アリール基、または置換もしくは非置換のC3~C40シリル基であり、Ar1およびAr2は、互いに独立して、置換もしくは非置換のC6~C30アリール基または置換もしくは非置換のC2~C30ヘテロアリール基であり、ただし、Ar1およびAr2は、それぞれヘテロアリール基のヘテロ原子は窒素ではなく、Ar1およびAr2は、それぞれ置換もしくは非置換の9,9’-スピロビフルオレニル基ではなく、Ar1およびAr2の定義において、置換とはC1~C20アルキル基またはC6~C30アリール基で置換されたものであり、L1~L3は、互いに独立して、単結合、置換もしくは非置換のC2~C6アルケニレン基、置換もしくは非置換のC2~C6アルキニレン基または置換もしくは非置換のC6~C30アリーレン基であり、R1、R2、及びL1~L3の定義において、置換におけるヘテロアリール基のヘテロ原子は窒素ではなく、」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項11に
「R1~R4は、互いに独立して、水素、重水素、置換もしくは非置換のC1~C10アルキル基、置換もしくは非置換のC6~C30アリール基、置換もしくは非置換のC2~C30ヘテロアリール基またはこれらの組み合わせであり、R1およびR2は、互いに融合環を形成することができ、R3およびR4は、互いに融合環を形成することができ、Ar1~Ar3は、互いに独立して、置換もしくは非置換のC6~C30アリール基または置換もしくは非置換のC2~C30ヘテロアリール基であり、L1~L4は、互いに独立して、置換もしくは非置換のC2~C10アルケニレン基、置換もしくは非置換のC2~C10アルキニレン基、置換もしくは非置換のC6~C30アリーレン基、置換もしくは非置換のC2~C30ヘテロアリーレン基またはこれらの組み合わせであり、」と記載されているのを、
「R1~R4は、互いに独立して、水素、重水素、置換もしくは非置換のC1~C10アルキル基、または非置換のC6~C30アリール基であり、Ar1~Ar3は、互いに独立して、置換もしくは非置換のC6~C30アリール基であり、L1~L4は、互いに独立して、置換もしくは非置換のC6~C30アリーレン基であり、R1~R4、Ar1~Ar3及びL1~L4において、置換とは、炭素数1~30のアルキル基、炭素数1~10のアルキルシリル基、炭素数3~30のシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数2~30のヘテロアリール基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数12~30のカルバゾール基、炭素数6~30のアリールアミン基または炭素数6~30の置換もしくは非置換のアミノアリール基で置換されたものであり、」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項12に、
「X1およびX2は、互いに独立して、O、S、SO2(O=S=O)、PO(P=O)またはCR’R”であり、R’、R”およびR1~R4は、互いに独立して、水素、重水素、置換もしくは非置換のC1~C20アルキル基、置換もしくは非置換のC6~C30アリール基、置換もしくは非置換のC2~C30ヘテロアリール基、置換もしくは非置換のC3~C40シリル基またはこれらの組み合わせであり、Ar2は、互いに独立して、置換もしくは非置換のC6~C30アリール基または置換もしくは非置換のC2~C30ヘテロアリール基であり、L1~L3は、互いに独立して、単結合、置換もしくは非置換のC2~C6アルケニレン基、置換もしくは非置換のC2~C6アルキニレン基、置換もしくは非置換のC6~C30アリーレン基、またはこれらの組み合わせであり、」と記載されているのを、
「X1およびX2は、互いに独立して、OまたはSであり、R1~R4は、互いに独立して、水素、重水素、置換もしくは非置換のC1~C20アルキル基、非置換のC6~C30アリール基、または置換もしくは非置換のC3~C40シリル基であり、Ar2は、互いに独立して、置換もしくは非置換のC6~C30アリール基または置換もしくは非置換のC2~C30ヘテロアリール基であり、ただし、Ar2は、ヘテロアリール基のヘテロ原子は窒素ではなく、Ar2は、置換もしくは非置換の9,9’-スピロビフルオレニル基ではなく、Ar2の定義において、置換とはC1~C20アルキル基またはC6~C30アリール基で置換されたものであり、L1~L3は、互いに独立して、単結合、置換もしくは非置換のC2~C6アルケニレン基、置換もしくは非置換のC2~C6アルキニレン基または置換もしくは非置換のC6~C30アリーレン基であり、R1~R4及びL1~L3の定義において、置換におけるヘテロアリール基のヘテロ原子は窒素ではなく、」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項13に、
「X1~X3は、互いに独立して、O、S、SO2(O=S=O)、PO(P=O)またはCR’R”であり、R’、R”およびR1~R6は、互いに独立して、水素、重水素、置換もしくは非置換のC1~C20アルキル基、置換もしくは非置換のC6~C30アリール基、置換もしくは非置換のC2~C30ヘテロアリール基、置換もしくは非置換のC3~C40シリル基またはこれらの組み合わせであり、L1~L3は、互いに独立して、単結合、置換もしくは非置換のC2~C6アルケニレン基、置換もしくは非置換のC2~C6アルキニレン基、置換もしくは非置換のC6~C30アリーレン基、またはこれらの組み合わせであり、」と記載されているのを、
「X1~X3は、互いに独立して、OまたはSであり、R1~R6は、互いに独立して、水素、重水素、置換もしくは非置換のC1~C20アルキル基、非置換のC6~C30アリール基、または置換もしくは非置換のC3~C40シリル基であり、L1~L3は、互いに独立して、単結合、置換もしくは非置換のC2~C6アルケニレン基、置換もしくは非置換のC2~C6アルキニレン基または置換もしくは非置換のC6~C30アリーレン基であり、R1~R6及びL1~L3の定義において、置換におけるヘテロアリール基のヘテロ原子は窒素ではなく、」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項14に、
「前記化学式1のR1およびR2のうちの少なくともいずれか一つは、置換もしくは非置換のC3~C40シリル基であり、前記化学式11のR1およびR2のうちの少なくともいずれか一つは、置換もしくは非置換のC3~C40シリル基である、」と記載されているのを、
「前記化学式11のR1およびR2のうちの少なくともいずれか一つは、置換もしくは非置換のC3~C40シリル基である、」に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項15に、
「前記化学式1のR1およびR2のうちの少なくともいずれか一つは、置換されたC3~C40シリル基であり、前記化学式11のR1およびR2のうちの少なくともいずれか一つは、置換されたC3~C40シリル基であり、」
と記載されているのを、
「前記化学式11のR1およびR2のうちの少なくともいずれか一つは、置換されたC3~C40シリル基であり、」に訂正する。
3 訂正請求の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、「有機光電子素子:」を「燐光素子又は青色素子」に限定し、かつ、「前記化学式11で表される化合物は、燐光発光ホスト材料又は青色蛍光ホスト材料のイオン化ポテンシャルエネルギーより小さい」と限定するものである。
よって、訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
イ 本件明細書等に記載した事項の範囲内であること
本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0090】には、「前記発光層に隣接した正孔輸送層が前記化学式11で表される化合物を含む場合、既存の一般的な正孔特性を有する有機発光素子材料よりイオン化ポテンシャルエネルギーが大きく、・・・中略・・・前記化合物が燐光素子および青色素子で正孔輸送層と発光層との間に補助正孔輸送層として用いられる場合、素子の高効率および長寿命特性を達成することができる。」と記載されている。
そうすると、訂正事項1に係る訂正は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないこと
上記アに照らせば、訂正事項1に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、化学式11を構成するX1、R1、R2、Ar1、Ar2及びL1~L3の一部の選択肢を削除し、Ar1及びAr2の定義において「置換とはC1~C20アルキル基またはC6~C30アリール基で置換されたもの」に限定し、Ar1及びAr2を、「それぞれヘテロアリール基のヘテロ原子は窒素ではなく」「それぞれ置換もしくは非置換の9,9’-スピロビフルオレニル基ではなく」と限定し、R1、R2、及びL1~L3の定義において、「置換におけるヘテロアリール基のヘテロ原子は窒素ではなく」と限定するものである。
よって、訂正事項2に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
イ 本件明細書等に記載した事項の範囲内であること
X1、R1、R2、Ar1、Ar2及びL1~L3の一部の選択肢を訂正事項2のとおりに削除することは、本件明細書等に記載のない特定の選択肢の組み合わせに変更するものでないので、新たな技術的事項を導入しない。
また、本件明細書の【0037】には、「本明細書で「置換」とは、別途の定義がない限り、炭素数1~30のアルキル基、炭素数1~10のアルキルシリル基、炭素数3~30のシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数2~30のヘテロアリール基、炭素数1~10のアルコキシ基、フルオロ基、トリフルオロメチル基などの炭素数1~10のトリフルオロアルキル基、炭素数12~30のカルバゾール基、炭素数6~30のアリールアミン基、炭素数6~30の置換もしくは非置換のアミノアリール基またはシアノ基で置換されたものを意味する。」と記載されている。よって、当該【0037】の記載の「炭素数1~30のアルキル基」及び「炭素数6~30のアリール基」のうち、炭素数21~30の「アルキル基」を削除した上で、Ar1及びAr2の定義における「置換」を、「C1~20アルキル基」及び「C6~30アリール基」とすることは、新たな技術的事項を導入しない。
さらに、Ar1及びAr2を、「それぞれヘテロアリール基のヘテロ原子は窒素ではなく」「それぞれ置換もしくは非置換の9,9’-スピロビフルオレニル基ではなく」と限定し、R1、R2、及びL1~L3の定義において、「置換におけるヘテロアリール基のヘテロ原子は窒素ではなく」と限定することは、いわゆる除くクレームとなる訂正であって、新たな技術的事項を導入しないものであることは明らかである。
そうすると、訂正事項2に係る訂正は、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないこと
上記アに照らせば、訂正事項2に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3は、化学式B-1を構成するR1~R4、Ar1~Ar3及びL1~L4の一部の選択肢を削除し、R1~R4、Ar1~Ar3及びL1~L4において、「置換とは、炭素数1~30のアルキル基、炭素数1~10のアルキルシリル基、炭素数3~30のシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数2~30のヘテロアリール基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数12~30のカルバゾール基、炭素数6~30のアリールアミン基または炭素数6~30の置換もしくは非置換のアミノアリール基で置換されたもの」に限定するものである。
よって、訂正事項3に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
イ 本件明細書等に記載した事項の範囲内であること
R1~R4、Ar1~Ar3及びL1~L4の一部の選択肢を訂正事項3のとおりに削除することは、本件明細書等に記載のない特定の選択肢の組み合わせに変更するものでないので、新たな技術的事項を導入しない。
また、上記(2)イと同様に、「置換」の意味が記載されている本件明細書の【0037】の記載に基づいて、R1~R4、Ar1~Ar3及びL1~L4において、「置換とは、炭素数1~30のアルキル基、炭素数1~10のアルキルシリル基、炭素数3~30のシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数2~30のヘテロアリール基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数12~30のカルバゾール基、炭素数6~30のアリールアミン基または炭素数6~30の置換もしくは非置換のアミノアリール基で置換されたもの」とすることは、新たな技術的事項を導入しない。
そうすると、訂正事項3に係る訂正は、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないこと
上記アに照らせば、訂正事項3に係る訂正は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、化学式12を構成するX1、X2、R1~R4、Ar2及びL1~L3を、訂正事項2と同様に限定するものである。
よって、訂正事項4に係る訂正は、訂正事項2と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(5)訂正事項5について
訂正事項5は、化学式13を構成するX1~X3、R1~R6及びL1~L3を、訂正事項2と同様に限定するものである。
よって、訂正事項5に係る訂正は、訂正事項2と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(6)訂正事項6~7について
訂正事項6~7に係る訂正は、誤記の訂正を目的とするものであることは明らかであって、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(7)小括
訂正事項1~7に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号及び2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔11~15及び20〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明
上記「第2」のとおり、本件訂正請求は適法なものと認められるので、本件特許の請求項11~請求項15及び請求項20は、本件訂正後の請求項11~請求項15及び請求項20(以下、それぞれ「訂正請求項11」~「訂正請求項15」及び「訂正請求項20」という。)に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、各訂正請求項に係る発明を、それぞれ「本件訂正発明11」~「本件訂正発明15」及び「本件訂正発明20」といい、これらを総称して「本件訂正発明」という。)。
「【請求項11】陽極、陰極、および前記陽極と陰極との間に形成された少なくとも一層以上の有機薄膜層を含み、前記有機薄膜層は、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層またはこれらの組み合わせを含み、前記有機薄膜層は、発光層および複数の正孔輸送層を含み、続きを表示(全52行)前記複数の正孔輸送層のうち、前記発光層に隣接した正孔輸送層は、下記の化学式11で表される化合物を含み、前記発光層に隣接していない正孔輸送層のうちいずれか一つは、下記の化学式B-1で表される化合物を含むものである有機光電子素子であって、燐光素子又は青色素子であり、前記化学式11で表される化合物は、燐光発光ホスト材料又は青色蛍光ホスト材料のイオン化ポテンシャルエネルギーより小さい、有機光電子素子:【化9】[図:0001400987000001.jpg]前記化学式11で、X1は、OまたはSであり、R1およびR2は、互いに独立して、水素、重水素、置換もしくは非置換のC1~C20アルキル基、非置換のC6~C30アリール基、または置換もしくは非置換のC3~C40シリル基であり、Ar1およびAr2は、互いに独立して、置換もしくは非置換のC6~C30アリール基または置換もしくは非置換のC2~C30ヘテロアリール基であり、ただし、Ar1およびAr2は、それぞれヘテロアリール基のヘテロ原子は窒素ではなく、Ar1およびAr2は、それぞれ置換もしくは非置換の9,9’-スピロビフルオレニル基ではなく、Ar1およびAr2の定義において、置換とはC1~C20アルキル基またはC6~C30アリール基で置換されたものであり、L1~L3は、互いに独立して、単結合、置換もしくは非置換のC2~C6アルケニレン基、置換もしくは非置換のC2~C6アルキニレン基または置換もしくは非置換のC6~C30アリーレン基であり、R1、R2、及びL1~L3の定義において、置換におけるヘテロアリール基のヘテロ原子は窒素ではなく、n1~n3は、互いに独立して、0~3のうちのいずれか一つの整数である:【化10】[図:0001400987000002.jpg]前記化学式B-1で、R1~R4は、互いに独立して、水素、重水素、置換もしくは非置換のC1~C10アルキル基、または非置換のC6~C30アリール基であり、Ar1~Ar3は、互いに独立して、置換もしくは非置換のC6~C30アリール基であり、L1~L4は、互いに独立して、置換もしくは非置換のC6~C30アリーレン基であり、R1~R4、Ar1~Ar3及びL1~L4において、置換とは、炭素数1~30のアルキル基、炭素数1~10のアルキルシリル基、炭素数3~30のシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数2~30のヘテロアリール基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数12~30のカルバゾール基、炭素数6~30のアリールアミン基または炭素数6~30の置換もしくは非置換のアミノアリール基で置換されたものであり、n1~n4は、互いに独立して、0~3のうちのいずれか一つの整数である。【請求項12】前記化学式11で表される化合物は、下記の化学式12で表されるものである、請求項11に記載の有機光電子素子:【化11】[図:0001400987000003.jpg]前記化学式12で、X1およびX2は、互いに独立して、OまたはSであり、R1~R4は、互いに独立して、水素、重水素、置換もしくは非置換のC1~C20アルキル基、非置換のC6~C30アリール基、または置換もしくは非置換のC3~C40シリル基であり、Ar2は、互いに独立して、置換もしくは非置換のC6~C30アリール基または置換もしくは非置換のC2~C30ヘテロアリール基であり、ただし、Ar2は、ヘテロアリール基のヘテロ原子は窒素ではなく、Ar2は、置換もしくは非置換の9,9’-スピロビフルオレニル基ではなく、Ar2の定義において、置換とはC1~C20アルキル基またはC6~C30アリール基で置換されたものであり、L1~L3は、互いに独立して、単結合、置換もしくは非置換のC2~C6アルケニレン基、置換もしくは非置換のC2~C6アルキニレン基または置換もしくは非置換のC6~C30アリーレン基であり、R1~R4及びL1~L3の定義において、置換におけるヘテロアリール基のヘテロ原子は窒素ではなく、n1~n3は、互いに独立して、0~3のうちのいずれか一つの整数である。【請求項13】前記化学式11で表される化合物は、下記の化学式13で表されるものである、請求項11に記載の有機光電子素子:【化12】[図:0001400987000004.jpg]前記化学式13で、X1~X3は、互いに独立して、OまたはSであり、R1~R6は、互いに独立して、水素、重水素、置換もしくは非置換のC1~C20アルキル基、非置換のC6~C30アリール基、または置換もしくは非置換のC3~C40シリル基であり、L1~L3は、互いに独立して、単結合、置換もしくは非置換のC2~C6アルケニレン基、置換もしくは非置換のC2~C6アルキニレン基または置換もしくは非置換のC6~C30アリーレン基であり、R1~R6及びL1~L3の定義において、置換におけるヘテロアリール基のヘテロ原子は窒素ではなく、n1~n3は、互いに独立して、0~3のうちのいずれか一つの整数である。【請求項14】前記化学式11のR1およびR2のうちの少なくともいずれか一つは、置換もしくは非置換のC3~C40シリル基である、請求項11に記載の有機光電子素子。【請求項15】前記化学式11のR1およびR2のうちの少なくともいずれか一つは、置換されたC3~C40シリル基であり、前記置換されたシリル基の水素のうちの少なくともいずれか一つがC1~C10アルキル基またはC6~C15アリール基で置換されたものである、請求項14に記載の有機光電子素子。」
「【請求項20】請求項11に記載の有機光電子素子を含む表示装置。」
第4 当事者の主張及び証拠方法
1 請求人が主張する無効理由
請求人は、本件特許発明11~15及び20についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求めて、以下(1)~(4)の無効理由を主張している。
なお、審判請求書第34頁ないし35頁に記載された、特許無効審判請求の根拠のうち、(3-2)、(3-3)、(3-4)、(3-5-2)、(3-5-3)及び(3-5-4)に係る主張並びに同請求書40頁の(4―1―2)(1)に係る主張は、口頭審理において撤回され、当該撤回について被請求人は同意した(令和4年6月21日付け第1回口頭審理調書を参照。)。
(1)無効理由1(サポート要件)
本件特許発明11~15及び20は、発明の詳細な説明に記載されたものであるということができないから、その特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法123条1項4号に該当し、無効とすべきである(審判請求書第35~43頁)。
(2)無効理由5-1(進歩性)
本件特許発明11~13及び20は、甲第4号証、甲第6~8号証及び甲第10号証に記載された発明に基づいて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法123条1項2号に該当し、無効とすべきである(審判請求書第61~102頁)。
(3)無効理由5-5(進歩性)
本件特許発明11~13及び20は、甲第7号証、甲第9~10号証に記載された発明に基づいて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法123条1項2号に該当し、無効とすべきである(審判請求書第117~121頁)。
(4)無効理由5-6(進歩性)
本件特許発明11~13及び20は、甲第8号証及び甲第10号証に記載された発明に基づいて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法123条1項2号に該当し、無効とすべきである(審判請求書第121~124頁)。
2 被請求人の主張
被請求人は、本件訂正請求を認める、本件無効審判の請求は成り立たない、審判請求の費用は請求人の負担とする、との審決を求めており、請求人の主張する無効理由は何れも理由がない旨の主張をしている。
3 証拠方法
(1)請求人が提出した証拠
請求人が提出した証拠は以下のとおりである。
なお、口頭審理の場において、審判請求書に添付された甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証及び甲第5号証に係る書証の申出は請求人から撤回され、当該撤回について被請求人は同意した(令和4年6月21日付け第1回口頭審理調書を参照。)
(甲9、甲10については、必要部分の訳文も提出されている。)
(当合議体注:主引用例は、甲4、甲7、甲8である。)
(2)被請求人が提出した証拠等
被請求人が提出した証拠は以下のとおりである。
なお、乙7は、参考資料として被請求人が提出したものである。
乙7:Bernard Geffroy, Philippe le Roy and Christophe Prat, "Organic light-emitting diode (OLED) technology: materials, devices and display technologies", Polymer International, 2006, Vol. 55, p. 572-582
第5 無効理由についての当合議体の判断
1 無効理由1(サポート要件)について
(1)本件明細書の記載
本件明細書には、本件訂正発明の課題、課題解決手段及び課題解決に至る作用機序に関する記載として以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付した。
ア 「【発明の詳細な説明】【技術分野】【0001】本発明は、有機光電子素子およびこれを含む表示装置に関する。続きを表示(全17行)【背景技術】【0002】有機光電子素子(organic optoelectric device)とは、正孔または電子を用いた電極と有機物との間での電荷交流を必要とする素子を意味する。・・・中略・・・【0009】一方、発光材料として一つの物質だけ用いる場合、分子間相互作用により最大発光波長が長波長に移動し、色純度が低下したり、発光減衰効果により素子の効率が減少する問題が発生するため、色純度の増加とエネルギー遷移を通じた発光効率と安定性を増加させるために発光材料としてホスト/ドーパント系を用いることができる有機発光素子が前述した優れた特徴を十分に発揮するためには、素子内有機物層を構成する物質、例えば正孔注入物質、正孔輸送物質、発光物質、電子輸送物質、電子注入物質、発光材料中のホストおよび/またはドーパントなどが安定的且つ効率的な材料により裏付けられるのが先行されなければならないが、まだ安定的且つ効率的な有機発光素子用有機物層材料の開発が十分ではない状態であり、したがって新たな材料の開発が継続的に要求されている。このような材料開発の必要性は前述した他の有機光電子素子でも同様である。【発明の概要】【発明が解決しようとする課題】【0010】本発明の目的は、発光、または正孔注入および輸送の役割を果たすことができ、適切なドーパントと共に発光ホストとしての役割を果たすことができる有機光電子素子用化合物を提供する。【0011】また、本発明の他の目的は、前記有機光電子素子用化合物を正孔層に適切に組み合わせて特性に優れた有機光電子素子を提供することにある。」
イ 「【0084】本発明の他の一実施形態では、陽極、陰極、および前記陽極と陰極との間に形成された少なくとも一層以上の有機薄膜層を含み、前記有機薄膜層は、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層またはこれらの組み合わせを含み、前記有機薄膜層は、発光層および複数の正孔輸送層を含み、前記複数の正孔輸送層のうち、前記発光層に隣接した正孔輸送層は、下記の化学式11で表される化合物を含み、前記発光層に隣接していない正孔輸送層のうちのいずれか一つは、下記の化学式B-1で表される化合物を含むものである有機光電子素子を提供する。【0085】【化13】続きを表示(全32行)[図:0001400987000005.jpg]【0086】前記化学式11で、X1は、O、S、SO2(O=S=O)、PO(P=O)またはCR'R”であり、R'、R”、R1およびR2は、互いに独立して、水素、重水素、ハロゲン基、シアノ基、ヒドロキシル基、アミノ基、置換もしくは非置換のC1~C20アミン基、ニトロ基、カルボキシル基、フェロセニル基、置換もしくは非置換のC1~C20アルキル基、置換もしくは非置換のC6~C30アリール基、置換もしくは非置換のC2~C30ヘテロアリール基、置換もしくは非置換のC1~C20アルコキシ基、置換もしくは非置換のC6~C20アリールオキシ基、置換もしくは非置換のC3~C40シリルオキシ基、置換もしくは非置換のC1~C20アシル基、置換もしくは非置換のC2~C20アルコキシカルボニル基、置換もしくは非置換のC2~C20アシルオキシ基、置換もしくは非置換のC2~C20のアシルアミノ基、置換もしくは非置換のC2~C20のアルコキシカルボニルアミノ基、置換もしくは非置換のC7~C20アリールオキシカルボニルアミノ基、置換もしくは非置換のC1~C20スルファモイルアミノ基、置換もしくは非置換のC1~C20スルホニル基、置換もしくは非置換のC1~C20のアルキルチオール基、置換もしくは非置換のC6~C20アリールチオール基、置換もしくは非置換のC1~C20ヘテロシクロチオール基、置換もしくは非置換のC1~C20のウレイド基、置換もしくは非置換のC3~C40シリル基またはこれらの組み合わせであり、R1およびR2は、それぞれ独立して存在するか、または互いに融合して融合環を形成することができ、Ar1およびAr2は、互いに独立して、置換もしくは非置換のC6~C30アリール基または置換もしくは非置換のC2~C30ヘテロアリール基であり、L1~L3は、互いに独立して、単結合、置換もしくは非置換のC2~C6アルケニレン基、置換もしくは非置換のC2~C6アルキニレン基、置換もしくは非置換のC6~C30アリーレン基、置換もしくは非置換のヘテロアリーレン基またはこれらの組み合わせであり、n1~n3は、互いに独立して、0~3のうちのいずれか一つの整数である:【0087】【化14】[図:0001400987000006.jpg]【0088】前記化学式B-1で、R1~R4は、互いに独立して、水素、重水素、置換もしくは非置換のC1~C10アルキル基、置換もしくは非置換のC6~C30アリール基、置換もしくは非置換のC2~C30ヘテロアリール基またはこれらの組み合わせであり、R1およびR2は、それぞれ独立して存在するか、または互いに融合環を形成することができ、R3およびR4は、それぞれ独立して存在するか、または互いに融合環を形成することができ、Ar1~Ar3は、互いに独立して、置換もしくは非置換のC6~C30アリール基または置換もしくは非置換のC2~C30ヘテロアリール基であり、L1~L4は、互いに独立して、置換もしくは非置換のC2~C10アルケニレン基、置換もしくは非置換のC2~C10アルキニレン基、置換もしくは非置換のC6~C30アリーレン基、置換もしくは非置換のC2~C30ヘテロアリーレン基またはこれらの組み合わせであり、n1~n4は、互いに独立して、0~3のうちのいずれか一つの整数である。・・・中略・・・【0090】前記複数の正孔輸送層のうち前記発光層に隣接した正孔輸送層が前記化学式11で表される化合物を含む場合、既存の一般的な正孔特性を有する有機発光素子材料よりイオン化ポテンシャルエネルギーが大きく、燐光発光ホスト材料または青色蛍光ホスト材料のイオン化ポテンシャルエネルギーよりは小さく、比較的に高い三重項エネルギーを有している。そこで、前記化合物が燐光素子および青色素子で正孔輸送層と発光層との間に補助正孔輸送層として用いられる場合、素子の高効率および長寿命特性を達成することができる。・・・中略・・・【0190】このような化合物を含む有機光電子素子用化合物は、ガラス転移温度が110℃以上、熱分解温度が400℃以上で、熱的安定性に優れている。これによって、高効率の有機光電子素子の実現が可能である。・・・中略・・・【0192】本発明の一実施形態に係る有機光電子素子用化合物は、有機薄膜層に用いられて有機光電子素子の寿命特性、効率特性、電気化学安定性および熱的安定性を向上させ、駆動電圧を低くすることができる。」
ウ 「【実施例】【0208】以下、本発明の具体的な実施例を提示する。ただし、下記に記載された実施例は、本発明を具体的に例示したり説明するためのものに過ぎず、これによって本発明が制限されてはならない。・・・中略・・・続きを表示(全116行)【0398】実施例1:化合物F-94で表される化合物の製造【0399】【化149】[図:0001400987000007.jpg]・・・中略・・・【0406】実施例3:化合物F-99で表される化合物の製造【0407】【化151】[図:0001400987000008.jpg]・・・中略・・・【0410】実施例4:化合物G-99で表される化合物の製造【0411】【化152】[図:0001400987000009.jpg]・・・中略・・・【0414】実施例5:化合物I-1で表される化合物の製造【0415】【化153】[図:0001400987000010.jpg]・・・中略・・・【0418】実施例6:化合物I-3で表される化合物の製造【0419】【化154】[図:0001400987000011.jpg]・・・中略・・・【0438】実施例11:化合物I-43で表される化合物の製造【0439】【化159】[図:0001400987000012.jpg]・・・中略・・・【0558】(有機発光素子の製造)緑色有機発光素子の製造実施例40ITO(Indium tin oxide)が1500Åの厚さに薄膜コーティングされたガラス基板を蒸留水で超音波洗浄した。蒸留水洗浄が終わるとイソプロピルアルコール、アセトン、メタノールなどの溶剤で超音波洗浄し乾燥させた後、プラズマ洗浄機に移送させた後、酸素プラズマを用いて前記基板を5分間洗浄した後、真空蒸着機で基板を移送した。このように準備されたITO透明電極を陽極として用いてITO基板上部にHT-1を真空蒸着して700Åの厚さの正孔注入および輸送層を形成した。次に、実施例4で製造された化合物を用いて真空蒸着で100Åの厚さの補助正孔輸送層を形成した。前記補助正孔輸送層上部に(4,4’-N,N’-ジカルバゾール)ビフェニル[CBP]をホストとして用い、ドーパントとしてトリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(III)[Ir(ppy)3]を5重量%にドーピングして真空蒸着で300Åの厚さの発光層を形成した。【0559】その後、前記発光層上部にビフェノキシ-ビス(8-ヒドロキシキノリン)アルミニウム[Balq]を真空蒸着して50Åの厚さの正孔阻止層を形成した。前記正孔阻止層上部にトリス(8-ヒドロキシキノリン)アルミニウム[Alq3]を真空蒸着して250Åの厚さの電子輸送層を形成し、前記電子輸送層上部に10ÅのLiFと1000ÅのAlを順次に真空蒸着して陰極を形成することによって有機発光素子を製造した。【0560】前記有機発光素子は5層の有機薄膜層を有する構造からなっており、具体的にAl(1000Å)/LiF(10Å)/Alq3(250Å)/Balq(50Å)/EML[CBP:Ir(ppy)3=95:5](300Å)/補助HTL(100Å)/HT-1(700Å)/ITO(1500Å)の構造で製作した。【0561】実施例41前記実施例40で、実施例4の代わりに実施例11を用いた点を除いては同様な方法で有機発光素子を製造した。【0562】実施例42前記実施例40で、実施例4の代わりに実施例5を用いた点を除いては同様な方法で有機発光素子を製造した。【0563】実施例43前記実施例40で、実施例4の代わりに実施例1を用いた点を除いては同様な方法で有機発光素子を製造した。(当合議体注:【0597】【表2】との整合性から「実施例3」は「実施例1」の誤記と解される。)・・・中略・・・【0568】比較例1前記実施例40で、HT-1の代わりにN,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニルベンジジン[NPB]を用い、実施例4の代わりにN,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニルベンジジン[NPB]を用いた点を除いては同様な方法で有機発光素子を製造した。【0569】比較例2前記実施例40で、HT-1の代わりにN,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニルベンジジン[NPB]を用い、実施例4の代わりにトリス(4,4’,4''-(9-カルバゾリル))-トリフェニルアミン[TCTA]を用いた点を除いては同様な方法で有機発光素子を製造した。【0570】比較例3前記実施例40で、実施例4の代わりにHT-1を用いた点を除いては同様な方法で有機発光素子を製造した。【0571】赤色有機発光素子の製造実施例48ITO(Indium tin oxide)が1500Åの厚さに薄膜コーティングされたガラス基板を蒸留水で超音波洗浄した。蒸留水洗浄が終わるとイソプロピルアルコール、アセトン、メタノールなどの溶剤で超音波洗浄し乾燥させた後、プラズマ洗浄機に移送させた後、酸素プラズマを用いて前記基板を5分間洗浄した後、真空蒸着機で基板を移送した。このように準備されたITO透明電極を陽極として用いてITO基板上部に4,4’-bis[N-[4-{N,N-bis(3-methylphenyl)amino}-phenyl]-N-phenylamino]biphenyl[DNTPD]を真空蒸着して600Åの厚さの正孔注入層を形成した。次に、HT-1を真空蒸着で200Åの厚さの正孔輸送層を形成した。前記正孔輸送層上部に実施例32で製造された化合物を用いて真空蒸着で100Åの厚さの補助正孔輸送層を形成した。前記補助正孔輸送層上部に(4,4’-N,N’-ジカルバゾール)ビフェニル[CBP]をホストとして用い、ドーパントとしてビス(2-フェニルキノリン)(アセチルアセトネート)イリジウム(III)[Ir(pq)2acac]を7重量%にドーピングして真空蒸着で300Åの厚さの発光層を形成した。【0572】その後、前記発光層上部にビフェノキシ-ビス(8-ヒドロキシキノリン)アルミニウム[Balq]を真空蒸着して50Åの厚さの正孔阻止層を形成した。前記正孔阻止層上部にトリス(8-ヒドロキシキノリン)アルミニウム[Alq3]を真空蒸着して250Åの厚さの電子輸送層を形成し、前記電子輸送層上部に10ÅのLiFと1000ÅのAlを順次に真空蒸着して陰極を形成することによって有機発光素子を製造した。【0573】前記有機発光素子は、6層の有機薄膜層を有する構造からなっており、具体的にAl(1000Å)/LiF(10Å)/Alq3(250Å)/Balq(50Å)/EML[CBP:Ir(pq)2acac=93:7](300Å)/補助HTL(100Å)/HT-1(700Å)/DNTPD(600Å)/ITO(1500Å)の構造で製作した。・・・中略・・・【0578】実施例53前記実施例48で、実施例32の代わりに実施例3を用いた点を除いては同様な方法で有機発光素子を製造した。【0579】実施例54前記実施例48で、実施例32の代わりに実施例6を用いた点を除いては同様な方法で有機発光素子を製造した。・・・中略・・・【0582】比較例4前記実施例48で、HT-1の代わりにN,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニルベンジジン[NPB]を用い、実施例32の代わりにN,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニルベンジジン[NPB]を用いた点を除いては同様な方法で有機発光素子を製造した。【0583】比較例5前記実施例48で、HT-1の代わりにN,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニルベンジジン[NPB]を用い、実施例32の代わりにトリス(4,4’,4''-(9-カルバゾリル))-トリフェニルアミン[TCTA]を用いた点を除いては同様な方法で有機発光素子を製造した。【0584】比較例6前記実施例48で、実施例32の代わりにHT-1を用いた点を除いては同様な方法で有機発光素子を製造した。【0585】前記有機発光素子の製作に用いられたDNTPD、NPB、HT-1、TCTA、CBP、Balq、Alq3、Ir(ppy)3、Ir(pq)2acacの構造は以下のとおりである。【0586】【化189】[図:0001400987000013.jpg]・・・中略・・・【0593】(有機発光素子の性能測定)前記実施例40~56と比較例1~6で製造されたそれぞれの有機発光素子に対して電圧に応じた電流密度の変化、輝度の変化および発光効率を測定した。具体的な測定方法は、次のとおりであり、その結果は下記表2および表3に示した・・・中略・・・【0597】【表2】[図:0001400987000014.jpg]【0598】(駆動電圧および発光効率1,000nitで測定)前記表2の結果によれば、緑色燐光有機発光素子で補助正孔輸送層を使用しない比較例1または比較例3に比べて、本発明の化合物を補助正孔輸送層として使用した前記実施例40~47は、有機発光素子の発光効率と寿命を向上させることが分かる。特に、比較例3に比べて本発明の実施例は、発光効率が最小18%から最大30%以上大幅に上昇することが分かり、従来に知らされているTCTAを補助正孔輸送層として使用した比較例2に比べて本発明の実施例は、発光素子寿命が最小20%から最大50%以上上昇して実際の素子の商業化の側面から、素子の寿命は製品化の最も大きい問題の一つであることを考慮すると、前記実施例の結果は素子を製品化して商業化するに十分であると判断される。【0599】【表3】[図:0001400987000015.jpg]【0600】(駆動電圧および発光効率800nitで測定)前記表3の結果によれば、赤色燐光有機発光素子で補助正孔輸送層を使用しない比較例4または比較例6に比べて、本発明の化合物を補助正孔輸送層として使用した前記実施例48~56は、有機発光素子の発光効率と寿命を向上させることが分かる。特に、比較例4に比べて本発明の実施例は、発光効率が最小10%から最大25%以上大幅に上昇することが分かり、従来に知らされているTCTAを補助正孔輸送層として使用した比較例5に比べて本発明の実施例は、発光効率が最小5%から最大20%以上上昇し、発光素子寿命が最小23%から最大38%以上上昇し、駆動電圧を下げて赤色燐光素子の全般的な主要特性を大幅に向上させることが分かる。実際の素子の商業化の側面から、素子の寿命は製品化の最も大きい問題の一つであることを考慮すると、前記実施例の結果は素子を製品化して商業化するに十分であると判断される。」
(2)当合議体の判断
請求人は、無効理由1(サポート要件)に関し、複数の正孔輸送層における化学式11及び化学式B-1で表される化合物(審判請求書第41~42頁)、及び、発光層の材料(審判請求書第42~43頁)のそれぞれについて、発明の詳細な説明の記載から、出願時の技術常識を考慮しても本件訂正発明まで拡張ないし一般化できるものではないと主張しているところ、これらの化合物及び材料は技術的に相互に関連するから、以下、まとめて判断する。
ア サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かについては、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断されるべきである。
イ 本件明細書の記載から理解される発明の課題
上記(1)アの記載(特に、【0009】、【0010】及び【0011】)によれば、本件訂正発明の課題は、「発光、または正孔注入および輸送の役割を果たすことができ、適切なドーパントと共に発光ホストとしての役割を果たすことができる有機光電子素子用化合物を提供すること」又は「前記有機光電子素子用化合物を正孔層に適切に組み合わせて特性に優れた有機光電子素子を提供すること」と認められる。
また、上記記載に加えて、【0192】及び【0597】~【0600】に記載された評価結果からみて、上記「特性」とは、寿命特性、効率特性、電気化学安定性、熱的安定性及び駆動電圧に関する特性を意味していると解釈するのが自然である。
ウ 本件明細書の記載から理解される課題解決手段に関する事項
(ア)本件明細書の実施例及び比較例の記載から理解できる事項
本件訂正発明は、化学式11及び化学式B-1で表される範囲の化合物を包含する。
他方、本件訂正発明の「有機光電子素子」に対応する全ての実施例(上記(1)ウの実施例40~43及び53~54)で用いられている「化学式11で表される化合物」は、「G-99」、「I-43」、「I-1」、「F-94」、「F-99」及び「I-3」の6つの化合物のみであり、また、「化学式B-1で表される化合物」は「HT-1」のみである(【0399】~【0439】、【0586】、【0597】及び【0599】)。
本件訂正発明の「化学式11で表される化合物」と「化学式B-1で表される化合物」を併用した実施例は、実施例40~43と53~54である。そして、緑色燐光有機発光素子である実施例40~43と、赤色燐光有機発光素子である実施例53~54は、比較例1、3、4及び6に比べて、有機発光素子の発光効率と寿命が向上することが示されている(【0597】~【0600】)。また、実施例40~43は、従来知られている化合物であって「化学式11で表される化合物」には該当しない化合物を発光層に隣接した正孔輸送層に用いた比較例2に比べて、寿命が向上することも示されている(【0597】~【0598】)。さらに、実施例53~54は、従来知られている化合物であって「化学式11で表される化合物」ではない化合物を発光層に隣接した正孔輸送層に用いた比較例5に比べて、発光効率及び寿命が向上し、駆動電圧を下げて赤色燐光素子の主要特性を大幅に向上させることが示されている(【0599】~【0600】)。
以上から、当業者は実施例40~43及び53~54が、比較例1~6に比べて、優れた発光効率と低い駆動電圧という両方の優れた特性を有していることを理解する。
(イ)本件明細書の記載から理解される課題解決に至る作用機序
上記イの課題の解決に至る作用機序は、本件明細書の発明の詳細な説明の【0090】に記載されているとおり、「前記複数の正孔輸送層のうち前記発光層に隣接した正孔輸送層が前記化学式11で表される化合物を含む場合、既存の一般的な正孔特性を有する有機発光素子材料よりイオン化ポテンシャルエネルギーが大きく、燐光発光ホスト材料または青色蛍光ホスト材料のイオン化ポテンシャルエネルギーよりは小さく、比較的に高い三重項エネルギーを有している」ことにより、「前記化合物が燐光素子および青色素子で正孔輸送層と発光層との間に補助正孔輸送層として用いられる場合、素子の高効率および長寿命特性を達成することができる」というものであると理解される。
(ウ)化合物の特性
加えて、本件明細書の発明の詳細な説明の【0192】の記載から、「化学式11で表される化合物」及び「化学式B-1で表される化合物」を採用することで、「有機光電子素子の寿命特性、効率特性、電気化学安定性および熱的安定性を向上させ、駆動電圧を低くすることができる」ものであることが理解される。
エ 有機光電子素子の分野における技術常識
(ア)化合物の構造と物性及び特性
骨格とそれに置換する置換基を有する化合物について、基本骨格が共通する場合に、置換基が多少変化しても、類似の物性又は特性が得られることは技術常識である。
(イ)イオン化ポテンシャルエネルギーの階段構成がもたらす効果
発光層側の正孔輸送層に含まれる正孔輸送材料のイオン化ポテンシャルエネルギーを、発光層のホスト材料のイオン化ポテンシャルエネルギーより小さくし、電極側の正孔輸送層に含まれる正孔輸送材料のイオン化ポテンシャルエネルギーより大きいものとすることにより、効果的な階段構成を採用することで、電極から発光層へ正孔注入が可能となることも技術常識である(例えば、森竜雄著,「今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい有機ELの本」,初版第3刷,日刊工業新聞社,2010年5月20日,p.82-83を参照。)。
(ウ)イオン化ポテンシャルエネルギーの調整
イオン化ポテンシャルエネルギーは置換基によって調節でき、一般に、電子供与性基を導入することでイオン化ポテンシャルエネルギーを小さくできること、逆に、電子吸引性基を導入することでイオン化ポテンシャルエネルギーを大きくできることは技術常識である(例えば、城戸淳二,“3.有機EL素子における発光機構と材料設計”,電気化学および工業物理化学,1995年,第63巻,第10号,p.901-905及び特開2012-93640号公報の【0030】等を参照。)。
オ 判断基準のあてはめ
(ア)課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲
本件明細書の発明の詳細な説明の【0084】には、「発光層および複数の正孔輸送層を含み、前記複数の正孔輸送層のうち、前記発光層に隣接した正孔輸送層は、」「化学式11で表される化合物を含み、前記発光層に隣接していない正孔輸送層のうちのいずれか一つは、」「化学式B-1で表される化合物を含むものである有機光電子素子」が記載されている。
上記ウ(イ)の作用機序を踏まえると、上記下線部の「有機光電子素子」は、「化学式11で表される化合物」のイオン化ポテンシャルエネルギーが、「化学式B-1で表される化合物」より大きく、「燐光発光ホスト材料または青色蛍光ホスト材料」より小さい場合に、素子の高効率及び長寿命特性を達成することができると解される。このイオン化ポテンシャルの大小関係により、効果的な階段構成が形成されて、電極から発光層へ正孔注入が可能となることは、上記エ(イ)に示した技術常識から当業者が理解できる事項であって、その場合に素子の高効率及び長寿命特性を達成できることもまた当業者が認識できる事項といえる。
加えて、上記ウ(ウ)のとおり、上記「化学式11で表される化合物」及び「化学式B-1で表される化合物」を採用することで、有機光電子素子の寿命特性、効率特性、電気化学安定性および熱的安定性を向上させ、駆動電圧を低くすることができることも、本件明細書の発明の詳細な説明から当業者が認識可能な事項である。
さらに、上記ウ(ア)のとおり、本件訂正発明に対応する実施例40~43及び実施例53~54は、比較例1~6との対比により、「発光効率と寿命が向上する有機光電子素子を実現できる」こと、及び、優れた発光効率と低い駆動電圧という両方の特性を併せ持つことが理解される。また、寿命が向上する効果から、電気化学安定性及び熱的安定性が向上していることも当業者が推認可能な事項である。
ここで、当業者が認識できる上記各事項は、上記ウ(イ)の作用機序及び上記エ(イ)の技術常識を考慮すれば、上記実施例で採用された特定の化合物の組み合わせに限らず、化合物の基本骨格が共通していれば当該特に化合物の組み合わせ以外を採用した場合であっても、当業者であれば課題が解決できることを理解する。
以上によれば、本件明細書の発明の詳細な説明は、「発光層および複数の正孔輸送層を含み、前記複数の正孔輸送層のうち、前記発光層に隣接した正孔輸送層」が「化学式11で表される化合物」を含み、かつ、「前記発光層に隣接していない正孔輸送層のうちのいずれか一つ」が「化学式B-1で表される化合物」を含む「有機光電子素子」であれば、通常、前者の化合物のイオン化ポテンシャルエネルギーが、後者の化合物のイオン化ポテンシャルエネルギーより大きくなり、併せて、前者の化合物を「燐光発光ホスト材料または青色蛍光ホスト材料」のイオン化ポテンシャルエネルギーより小さいものとすることで効果的な階段構成とし、加えて、「化学式11で表される化合物」と「化学式B-1で表される化合物」の化合物自体の構造に起因する寿命特性、効率特性、電気化学安定性、熱的安定性及び駆動電圧に関する効果を奏することによって、上記イに示した課題を解決できることを、当業者が認識できるように記載されているといえる。
(イ)本件訂正発明が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かについて
上記(ア)を踏まえて本件訂正発明についてみると、まず、本件訂正発明は、「化学式11で表される化合物は、燐光発光ホスト材料又は青色蛍光ホスト材料のイオン化ポテンシャルエネルギーより小さい」ものである。
次に、本件訂正発明の「化学式11で表される化合物」と「化学式B-1で表される化合物」については、本件明細書の発明の詳細な説明の【0085】~【0089】に記載の構造を更に限定したものである。そして、本件訂正発明の「化学式11で表される化合物」は、ジベンゾフラン-アミン構造又はジベンゾチオフェン-アミン構造を、本件訂正発明の「化学式B-1で表される化合物」はカルバゾール-アミン構造をそれぞれ有していることから、化合物の基本骨格において両者は大きく異なり、その基本骨格の違いに起因して、「化学式11で表される化合物」のイオン化ポテンシャルエネルギーは、「化学式B-1で表される化合物」より通常大きいといえる。
以上総合すると、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願時の技術常識から、本件訂正発明は、「化学式11で表される化合物」のイオン化ポテンシャルエネルギーが、「化学式B-1で表される化合物」より大きく、「燐光発光ホスト材料または青色蛍光ホスト材料」より小さいという効果的な階段構成とし、加えて、「化学式11で表される化合物」と「化学式B-1で表される化合物」の化合物自体の構造に起因する寿命特性、効率特性、電気化学安定性、熱的安定性及び駆動電圧に関する効果を奏することによって、上記イの課題が解決できることを当業者が認識し得るといえる。
したがって、本件訂正発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が課題を解決できると認識できる範囲を超えるものではない。
(3)請求人の主張について
ア 化学式11及び化学式B-1で表される化合物のイオン化ポテンシャルの大小関係
請求人は、令和5年2月3日付け審判事件弁駁書の第4~5頁において、「被請求人は、本件訂正発明11では、化学式11で表される化合物と化学式B-1で表される化合物とのイオン化ポテンシャルの大小関係が明確になり、定義に含まれるすべての化合物にわたってイオン化ポテンシャルは化学式11で表される化合物の方が化学式B-1で表される化合物よりも大きいものであることが明らかであると主張している。
しかし、本件訂正発明11では、化学式11で表される化合物と化学式B-1で表される化合物とのイオン化ポテンシャルの大小関係は、少なくとも文言上からは不明瞭である。」と主張し、さらに、甲12及び甲13を提示して、上記大小関係を必ずしも満足しない、化学式B-1で表される化合物と化学式11で表される化合物の特定の組み合わせが存在することを指摘する。
これに対して、被請求人は令和4年12月13日付け上申書の第15~16頁において、「審決の予告において合議体が主張する「窒素原子含有の縮合環であってイオン化ポテンシャルが小さい基」を化学式11から削除した。また、化学式B-1については、置換の定義を、段落[0037]に列記された基から電子求引性基であるフルオロ基、トリフルオロメチル基などの炭素数1~10のトリフルオロアルキル基及びシアノ基を除外して導入することで、合議体が主張する「フッ化アルキル基などの電子吸引性基」を削除した。したがって、化学式11で表される化合物と化学式B-1で表される化合物とのイオン化ポテンシャルの大小関係が明確になり、定義に含まれるすべての化合物にわたってイオン化ポテンシャルは化学式11で表される化合物の方が化学式B-1で表される化合物よりも大きいものであることが明らかである。」と主張している。
上記主張について検討する。
「定義に含まれるすべての化合物にわたって」という被請求人の上記主張をそのまま採用することはできないが、本件訂正発明の「化学式11」及び「化学式B-1」は本件明細書の発明の詳細な説明の【0085】~【0089】に記載の構造を更に限定したものであり、本件訂正の上記経緯に照らせば、上記オ(イ)で説示したとおり、「化学式11で表される化合物」のイオン化ポテンシャルエネルギーは、「化学式B-1で表される化合物」より通常大きいといえる。
また、そもそも、発光層側の正孔輸送層のイオン化ポテンシャルエネルギーを、電極側の正孔輸送層より大きくすることで、効果的な階段構成を設けて、電極から発光層への正孔注入を可能とすることは上記(2)エ(イ)のとおり技術常識であるから、本件訂正発明の「化学式11」と「化学式B-1」が、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された「化学式11」と「化学式B-1」から更に限定された経緯も併せ考慮すると、本件訂正発明において階段構成を採用することは当然の前提とされているといえる。そうであるならば、「化学式11で表される化合物」のイオン化ポテンシャルエネルギーが「化学式B-1で表される化合物」より小さいような特異な化合物の組み合わせを根拠にして、本件訂正発明のサポート要件充足性を否定することは、本件訂正発明の解釈として、上記当然の前提を考慮しない不当な判断といわざるを得ない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。
イ 乙1について
被請求人が提出した乙1は、下記「化合物F-127」を、「発光層に隣接した正孔輸送層」に使用した実施例57に係る実験成績証明書であって、本件訂正発明がサポート要件を充足していることを立証趣旨とした証拠であるが、その記載内容にかかわらず、本件訂正発明がサポート要件を満たすことは、上記(2)オ(イ)に既に示したとおりである。
なお、「化合物F-127」が、「化学式11で表される化合物」に該当するか否かについて当事者間に争いがあるため、念のため合議体の見解を以下に示す。
[図:0001400987000016.jpg]
(当合議体注:上記の図は、乙1から引用した。)
ここで、便宜のために、上記「化合物F-127」における窒素原子より下の部位を拡大したものが下記図である。
[図:0001400987000017.jpg]
(当合議体注:令和5年2月3日付け審判事件弁駁書の第6頁に記載された図である。)
上記図において、アリーレン基(L3)と結合しているのはフルオレン環の9位の炭素原子であるところ、フルオレン環の9位の炭素原子は、4つの結合手がσ結合であるため、π電子を有していない。よって、フルオレン環は、9位の炭素原子を除いてπ電子を共有しているとしても、π電子を共有していない9位の炭素原子がアリーレン基と結合している以上、有機化学に関する技術分野の当業者は、上記図の枠囲いした部分の官能基は、全体としてみればアリール基というよりは、アリール基で置換されたアルキル基と理解するというべきである。
そうしてみると、「化合物F-127」は、本件訂正発明の「化学式11で表される化合物」に該当しない。
ウ 乙9について
請求人は、令和5年2月3日付け審判事件弁駁書の第7頁において、実験成績証明書として追加提示された乙9についても意見を述べている。
しかしながら、本件訂正発明は、乙9の内容にかかわらず、上記(2)オ(イ)に記載のとおり、サポート要件を満たすものである。
(4)無効理由1についてのまとめ
訂正請求項11~訂正請求項15及び訂正請求項20の記載は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしているから、無効理由1は理由がない。
2 無効理由5-1(進歩性)について
(1)甲4号証の記載
甲4(国際公開第2010/095621号)の請求の範囲及び明細書には、それぞれ以下の記載がある。(当合議体注:下線は、当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断に活用した箇所を示す。以下、他の甲号証についても同様である。)
ア 「[請求項1] 下記一般式(1)[化1][図:0001400987000018.jpg][(i)L1は置換もしくは無置換の環形成炭素数6~50のアリーレン基を表す。続きを表示(全18行)(ii)L2は、単結合、または置換もしくは無置換の環形成炭素数6~50のアリーレン基を表す。但し、L1およびL2の任意の置換基は炭素数1~10の直鎖もしくは分岐のアルキル基、環形成炭素数3~10のシクロアルキル基、炭素数3~30のトリアルキルシリル基、各アリール基の環形成炭素数6~10のトリアリールシリル基、炭素数8~24のアルキルアリールシリル基(アリール部分の環形成炭素数は6~14)、置換もしくは無置換の環形成炭素数6~30のアリール基、ハロゲン原子又はシアノ基である。複数の置換基は同じでも異なっていてもよい。(iii)Aは下記一般式(2)~(5)[化2][図:0001400987000019.jpg]〔R1~R7はそれぞれ独立に、前記L1およびL2の任意の置換基と同じ置換基又は一般式<-L2-B(L2は前記と同じである。Bは下記Bと同じである)>である。隣接した複数のR1~R7はそれぞれ結合して飽和もしくは不飽和の環を形成してもよい。dは0~4の整数である。a、b、c、eおよびfはそれぞれ独立に0~3の整数である。gは0~2の整数である。Ar1は置換または無置換の環形成炭素数6~14のアリール基を表す。但し、Ar1の置換基はそれぞれ独立に前記L1およびL2の任意の置換基と同じ置換基である〕のいずれかの連結基である。(iv)Bは下記一般式(6)~(9)[化3][図:0001400987000020.jpg]〔R8~R14はそれぞれ独立に、前記L1およびL2の任意の置換基と同じ置換基又は一般式<-L2-B(L2およびBは前記と同じである)>である。隣接した複数のR8~R14はそれぞれ結合して飽和もしくは不飽和の環を形成してもよい。i、j、k、およびmはそれぞれ独立に0~4の整数である。h、l、およびnはそれぞれ独立に0~3の整数である。Ar2は置換もしくは無置換の環形成炭素数6~14のアリール基を表す。但し、Ar2の置換基はそれぞれ独立に前記L1およびL2の任意の置換基と同じ置換基(ただし、アリール基は除く)およびフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、フェナントリル基のいずれかである。前記Aが一般式(5)で表わされる連結基であるとき、Bは前記一般式(6)で表わされる置換基である〕いずれかの置換基である]で表わされる置換基を有することを特徴とする芳香族アミン誘導体。」
イ 「発明が解決しようとする課題[0006] 本発明は、前記の課題を解決するためになされたもので、高温においても寿命が長い有機エレクトロルミネッセンス素子及びそれを実現する芳香族アミン誘導体を提供することを目的とする。課題を解決するための手段[0007] 本発明者らは、前記目的を達成するために、鋭意研究を重ねた結果、特定の置換基を有する新規な芳香族アミン誘導体を有機EL素子用材料として用い、特に正孔注入材料又は正孔輸送材料として用いると、前記の課題を解決できことを見出した。続きを表示(全16行)そして、2つ以上のヘテロ環が連結したユニットを有するアリール基を置換基として有するアミン化合物は立体障害性があるため分子間の相互作用が小さいことから、結晶化が抑制され、有機EL素子を製造する歩留を向上させることができる。特に、2つ以上のヘテロ環がアリール基を介して連結したユニットを有するアリール基を置換基として有するアミン化合物はエネルギーギャップ(Eg)が大きく、発光層からの電子を効果的にブロックすることが可能なため、正孔輸送層への電子の注入を抑制するため寿命を長くする効果があり、特に青色発光素子と組み合わせることにより、顕著な長寿命効果が得られることが見出された。本発明者らは、これらの知見に基づいて本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は以下、(1)下記一般式(1)・・・中略・・・発明の効果[0018] 本発明の芳香族アミン誘導体は、結晶化しにくく、これを有機EL素子材料として用いると、高温においても寿命が長いものが得られる。・・・中略・・・[0036] 本発明の前記一般式(1)で表わされる置換基を有する芳香族アミン誘導体は、結晶化しにくく、有機EL素子用発光材料、中でも、有機EL素子用正孔輸送材料として好ましく用いられる。本発明の芳香族アミン誘導体を用いた有機EL素子は高温においても寿命が長いものとなる。・・・中略・・・[0042] 前記複数の層には、必要に応じて、本発明の芳香族アミン誘導体に加えてさらなる公知の発光材料、ドーピング材料、正孔注入材料や電子注入材料を使用することもできるし、本発明の芳香族アミン誘導体をドーピング材料としても使用することができる。有機EL素子は、前記有機薄膜層を複数層構造にすることにより、クエンチングによる輝度や寿命の低下を防ぐことができる。必要があれば、発光材料、ドーピング材料、正孔注入材料や電子注入材料を組み合わせて使用することができる。また、ドーピング材料により、発光輝度や発光効率の向上、赤色や青色の発光を得ることもできる。また、正孔注入層、発光層、電子注入層は、それぞれ二層以上の層構成により形成されても良い。その際には、正孔注入層の場合、電極から正孔を注入する層を正孔注入層、正孔注入層から正孔を受け取り発光層まで正孔を輸送する層を正孔輸送層と呼ぶ。同様に、電子注入層の場合、電極から電子を注入する層を電子注入層、電子注入層から電子を受け取り発光層まで電子を輸送する層を電子輸送層と呼ぶ。これらの各層は、材料のエネルギー準位、耐熱性、有機層又は金属電極との密着性等の各要因により選択されて使用される。・・・中略・・・[0053] 本発明の有機EL素子は、壁掛けテレビのフラットパネルディスプレイ等の平面発光体、複写機、プリンター、液晶ディスプレイのバックライト又は計器類等の光源、表示板、標識灯等に利用できる。また、本発明の材料は、有機EL素子だけでなく、電子写真感光体、光電変換素子、太陽電池、イメージセンサー等の分野においても使用できる。」
ウ 「[0149] 前記合成例1~66で合成された中間体1~66および合成実施例1~28で合成された本発明の芳香族アミン誘導体である化合物H1~H28ならびに比較化合物1~7の構造式は下記の通りである。・・・中略・・・[0155][化20][図:0001400987000021.jpg][0156][化21][図:0001400987000022.jpg]」
エ 「[0158]・・・中略・・・[実施例1(有機EL素子の製造)]25mm×75mm×1.1mm厚のITO透明電極付きガラス基板(ジオマティック社製)をイソプロピルアルコール中で超音波洗浄を5分間行なった後、UVオゾン洗浄を30分間行なった。続きを表示(全19行)洗浄後の透明電極ライン付きガラス基板を真空蒸着装置の基板ホルダーに装着し、まず透明電極ラインが形成されている側の面上に前記透明電極を覆うようにして下記化合物H232を蒸着し、膜厚60nmのH232膜を正孔注入層として膜を成膜した。このH232膜上に上記化合物H4を蒸着し、膜厚20nmの正孔輸送層を成膜した。さらに下記化合物EM1を蒸着し膜厚40nmの発光層を成膜した。同時に発光分子として、下記のスチリル基を有するアミン化合物D1を、EM1とD1の重量比が40:2になるように蒸着した。この膜上に下記Alqを膜厚10nmに成膜した。この層は、電子注入層として機能する。この後、還元性ドーパントであるLi(Li源:サエスゲッター社製)とAlqを二元蒸着させ、電子注入層(陰極)としてAlq:Li膜(膜厚10nm)を形成した。このAlq:Li膜上に金属Alを蒸着させ金属陰極を形成し有機EL素子を形成した。次に、得られた有機EL素子を105℃で8h保存した後、発光色を観察した。発光効率はミノルタ製CS1000を用いて輝度を測定し、10mA/cm2における発光効率を算出した。さらに、初期輝度5000cd/m2、室温、DC定電流駆動での発光の半減寿命を測定した結果を表1に示す。[0159][化24][図:0001400987000023.jpg]・・・中略・・・[0171][実施例11(有機EL素子の製造)]実施例1において、正孔注入材料としてH232の代わりに化合物H11を用い、正孔輸送材料を2層積層した以外は同様にして有機EL素子を作製した。また、得られた有機EL素子について、実施例1と同様にして、発光色を観察し、さらに、初期輝度5000cd/m2、室温、DC定電流駆動での発光の半減寿命を測定した結果を表1に示す。・・・中略・・・[0175][表1][図:0001400987000024.jpg]」
(2)甲6号証の記載
甲6(特開2011-98903号公報)には、以下の記載がある。
ア 「【請求項1】下記一般式で表されることを特徴とするフルオレニルアミン化合物。【化1】[図:0001400987000025.jpg]続きを表示(全12行)式中のR1乃至R6はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基から選ばれる。R21乃至R23はそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基から選ばれる。前記アルキル基は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基のいずれかである。【請求項2】請求項1に記載のフルオレニルアミン化合物である有機発光素子用材料。【請求項3】一対の電極と前記一対の電極の間に配置される有機化合物層とを有し、前記有機化合物層は請求項1に記載のフルオレニルアミン化合物を有することを特徴とする有機発光素子。【請求項4】前記一対の電極は陽極と陰極とであり、前記有機化合物層はホール輸送層であり、前記ホール輸送層は発光層と前記陽極との間に配置されることを特徴とする請求項3に記載の有機発光素子。」
(3)甲7号証の記載
甲7(国際公開第2010/114017号)の請求の範囲及び明細書には、それぞれ以下の記載がある。
ア 「請求の範囲[請求項1] 陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に設けられた有機薄膜層と、を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記有機薄膜層は、ホスト材料と発光材料とを含有する発光層と、前記発光層よりも前記陽極側に設けられた正孔輸送層と、を有し、前記正孔輸送層は、前記陽極から順に、第1正孔輸送層および第2正孔輸送層を有し、前記第1正孔輸送層は下記一般式(1)で表される化合物を含有し、前記第2正孔輸送層は下記一般式(2)で表される化合物を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。[化1]続きを表示(全24行)[図:0001400987000026.jpg](式中、L1は、置換もしくは無置換の環形成炭素数10~40のアリーレン基を表し、Ar1~Ar4は、置換もしくは無置換の環形成炭素数6~60のアリール基又は環形成原子数6~60のヘテロアリール基を表す。)[化2][図:0001400987000027.jpg](式中、Ar5~Ar7中、少なくとも1つは下記一般式(3)で表される基であり、Ar5~Ar7中、一般式(3)でない基は下記一般式(4)又は(5)で表される基、あるいは置換もしくは無置換の炭素数6~40のアリール基である。)[化3][図:0001400987000028.jpg](式中、L2は、単結合または置換もしくは無置換の環形成炭素数6~50のアリーレン基を表し、L2が有してもよい置換基は、炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、環形成炭素数3~10のシクロアルキル基、炭素数3~10のトリアルキルシリル基、環形成炭素数18~30のトリアリールシリル基、炭素数8~15のアルキルアリールシリル基(アリール部分の環形成炭素数は6~14)、環形成炭素数6~14のアリール基、ハロゲン原子又はシアノ基である。R1及びR2は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換の炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換もしくは無置換の環形成炭素数3~10のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数3~10のトリアルキルシリル基、置換もしくは無置換の環形成炭素数18~30のトリアリールシリル基、置換もしくは無置換の炭素数8~15のアルキルアリールシリル基(アリール部分の環形成炭素数は6~14)、置換もしくは無置換の環形成炭素数6~16のアリール基、ハロゲン原子又はシアノ基である。隣接した複数のR1及びR2は互いに結合し、環を形成する飽和もしくは不飽和の2価の基を形成してもよい。a及びbは、それぞれ独立に、0~4の整数を表す。)[化4][図:0001400987000029.jpg](式中、L3は、単結合または置換もしくは無置換の環形成炭素数6~50のアリーレン基を表し、L3が有してもよい置換基は、炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、環形成炭素数3~10のシクロアルキル基、炭素数3~10のトリアルキルシリル基、環形成炭素数18~30のトリアリールシリル基、炭素数8~15のアルキルアリールシリル基(アリール部分の環形成炭素数は6~14)、環形成炭素数6~14のアリール基、ハロゲン原子又はシアノ基である。cおよびdは、それぞれ独立に、0~4の整数を表す。R3及びR4は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換の炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換もしくは無置換の環形成炭素数3~10のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数3~10のトリアルキルシリル基、置換もしくは無置換の環形成炭素数18~30のトリアリールシリル基、置換もしくは無置換の炭素数8~15のアルキルアリールシリル基(アリール部分の環形成炭素数は6~14)、置換もしくは無置換の環形成炭素数6~14のアリール基、ハロゲン原子又はシアノ基を表す。隣接した複数のR3及びR4は、互いに結合して、環を形成する飽和もしくは不飽和の2価の基を形成してもよい。)[化5][図:0001400987000030.jpg](式中、L4は、単結合または置換もしくは無置換の環形成炭素数6~50のアリーレン基を表し、L4が有してもよい置換基は、炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、環形成炭素数3~10のシクロアルキル基、炭素数3~10のトリアルキルシリル基、環形成炭素数18~30のトリアリールシリル基、炭素数8~15のアルキルアリールシリル基(アリール部分の環形成炭素数は6~14)、環形成炭素数6~14のアリール基、ハロゲン原子又はシアノ基である。Ar8は、置換もしくは無置換の環形成炭素数6~14のアリール基を表し、Ar8が有してもよい置換基は、炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、環形成炭素数3~10のシクロアルキル基、炭素数3~10のトリアルキルシリル基、環形成炭素数18~30のトリアリールシリル基、炭素数8~15のアルキルアリールシリル基(アリール部分の環形成炭素数は6~14)、環形成炭素数6~14のアリール基、ハロゲン原子又はシアノ基である。eは、0~3の整数を表し、fは、0~4の整数を表す。R5及びR6は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換の炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換もしくは無置換の環形成炭素数3~10のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数3~10のトリアルキルシリル基、置換もしくは無置換の環形成炭素数18~30のトリアリールシリル基、置換もしくは無置換の炭素数8~15のアルキルアリールシリル基(アリール部分の環形成炭素数は6~14)、置換もしくは無置換の環形成炭素数6~14のアリール基、ハロゲン原子又はシアノ基を表す。隣接した複数のR5及びR6は、互いに結合して、環を形成する飽和もしくは不飽和の2価の基を形成してもよい。)」
イ 「発明が解決しようとする課題[0005] しかし、上記のような有機EL素子では、上記材料において分子構造の異なる分子間の電荷移動がスムーズに進行しない場合があり、駆動電圧の上昇を招くことがあった。以上から、本発明は、駆動電圧を低下させるとともに、寿命が長く、実用的に優れた有機EL素子を提供することを目的とする。」
ウ 「課題を解決するための手段[0006] 本発明者等は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定のジアミン構造を有する化合物を第1正孔輸送層材料として用い、ジベンゾフラン構造及びカルバゾール構造を有する芳香族アミン誘導体を第2正孔輸送層材料として用いる、あるいは、特定の電子受容性化合物を用い、かつ、ジベンゾフラン構造及びカルバゾール構造を有する芳香族アミン誘導体を第1正孔輸送材料として用いることで、駆動電圧が低く、寿命の長い有機EL素子を製造できることを見出し、本発明を完成したものである。・・・中略・・・[0020] 本発明の有機EL素子は好適に電荷を輸送できることから、フルカラーディスプレイに必要な赤、緑、青のいずれの画素を構成する有機EL素子にも適用可能であり、発光層に含有されるホスト材料と発光材料以外の材料を共通化させることが期待できる。これにより、素子の製造コストを低減させることが期待される。発明の効果[0021] 本発明によれば、駆動電圧を低下させるとともに、寿命が長く、実用的に優れた有機EL素子を提供することができる。」
エ 「発明を実施するための形態[0024] 本願第一の発明の有機EL素子は、陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に設けられた有機薄膜層とを備えてなる。有機薄膜層はホスト材料と発光材料とを含有する発光層を有し、かつ、前記発光層より陽極側に設けられた正孔輸送層を有する。そして、正孔輸送層は、前記陽極から順に、第1正孔輸送層および第2正孔輸送層を有し、前記第1正孔輸送層は下記一般式(1)で表される化合物を含有し、前記第2正孔輸送層は下記一般式(2)で表される化合物を含有する。・・・中略・・・[0039] 本願第一の発明の有機EL素子は、このような前記式(1)及び(2)で表される化合物を用いて、正孔輸送層を形成したので、電子を発光層に閉じ込めつつ、発光層に正孔を注入することができ、電荷の再結合確率を高めて高効率の発光を得ることができる。高性能化は蛍光、燐光を問わず効果があるが、燐光には特に効果がある。続きを表示(全23行)また、電子ブロックに際して、発光層と正孔輸送層との界面に電子が集中するが、前記式(1)及び(2)で表される化合物は電子耐性が高いので発光寿命が低下しにくい。また、前記式(1)及び(2)で表される化合物は、Afが小さく電子が入りにくく、陽極側への移動をトラップする傾向がある。さらに、前記式(1)で表される化合物に対して、大きい電子耐性を有する前記式(2)で表される化合物に電子をトラップすることにより、素子全体を長寿命化することができる。前記式(2)で表される化合物はモノアミン系であって、ジベンゾフラン基を有しており、前記式(1)で表される化合物に比べEgが大きくなる。よって一般的にAfが前記式(1)で表される化合物に比べ小さく、電子を発光層から陽極側へ移動させにくい。燐光発光層においては、発光層Egが大きいのでAfが一般に小さく、電子をより陽極側へ移動させにくく、上記効果は顕著である。また、ジベンゾフランの立体的かさだかさにより隣接する第1正孔輸送層の分子との距離を長くする立体的効果がある。これにより、第2正孔輸送層と第1正孔輸送層の界面にキャリアのトラップができる。これにより、前記式(1)で表される化合物に対して大きい電子耐性を有する前記式(2)で表される化合物に陰極側から移動してくる電子をトラップすることにより、素子全体を長寿命化することができる。・・・中略・・・[0045] 本発明の有機EL素子は、第1正孔輸送層に上記一般式(1)で表される化合物を有するが、当該化合物はイオン化ポテンシャルが大きいため、第2正孔輸送層への正孔の移動が容易となり、得られる有機EL素子が低電圧化される。前記一般式(1)で表される化合物は、さらに下記(2)~(6)を満たすことが好ましい。(2)前記一般式(1)で表される化合物がL1に対して非対称である。L1に対して対称の化合物に比べて、分子間の相互作用が小さいことから、結晶化が抑制され、有機EL素子を製造する歩留を向上させる。また、アモルファス性が優れることから、隣接するITOもしくは有機層との界面の接着性が向上し、素子を安定化させる。(3)前記一般式(1)において、L1がビフェニルジイル基である。正孔が注入したカチオン状態において、電気的に安定なキノイド構造を有し、酸化に対して優れた安定性を有する。(4)前記一般式(1)のAr1~Ar4が、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のフェニル基、置換もしくは無置換のビフェニリル基、置換もしくは無置換のターフェニリル基、置換もしくは無置換のフェナントリル基、又は下記一般式(6)で表される。・・・中略・・・[0143] なお、本発明の有機EL素子は、図1に示した構成に限定されない。例えば、第1正孔輸送層と陽極3との間には、正孔注入層が設けられていてもよい。また、正孔輸送層6は、第1正孔輸送層61と第2正孔輸送層62の二層構造である。さらに、発光層5と電子注入・輸送層7との間に正孔障壁層を備えていてもよい。正孔障壁層によれば、正孔を発光層5に閉じ込めて、発光層5における電荷の再結合確率を高め、発光効率を向上することができる。」
オ 「[0147][実施例1-1]25mm×75mm×1.1mm厚のITO透明電極付きガラス基板(旭硝子製)に、イソプロピルアルコール中で5分間の超音波洗浄をした後、30分間のUVオゾン洗浄を行なった。洗浄後の透明電極ライン付きガラス基板を真空蒸着装置の基板ホルダーに装着し、まず透明電極ラインが形成されている側の面上に、第1正孔輸送層として前記透明電極を覆うようにして膜厚40nmの下記化合物X1を抵抗加熱により成膜した。第1正孔輸送層の成膜に続けて、第2正孔輸送層としてこの膜上に膜厚20nmで、下記化合物Y1-1(Af:2.48eV、Eg(S):3.12eV、Ip:5.60eV)を抵抗加熱により成膜した。続きを表示(全44行)さらに、この第2正孔輸送層上に膜厚40nmで、ホスト材料として化合物H1、燐光発光材料として化合物D1を、抵抗加熱により共蒸着した。化合物D1の濃度は7.5%であった。この共蒸着膜は発光層として機能する。さらに、この発光層上に膜厚10nmで、化合物HBを、抵抗加熱により共蒸着した。この膜は正孔障壁層として機能する。そして、この正孔障壁層成膜に続けて化合物ET1を膜厚30nmで成膜した。このET1膜は電子輸送層として機能する。次に、LiFを電子注入性電極(陰極)として成膜速度0.1オングストレーム/minで膜厚を1nmとした。このLiF膜上に金属Alを蒸着させ、金属陰極を膜厚80nmで形成し有機EL素子を作製した。[0148][化60][図:0001400987000031.jpg][0149][化61][図:0001400987000032.jpg]・・・中略・・・[0152][実施例1-3]実施例1-1において、第2正孔輸送層として、Y1-3(Af:2.45eV、Eg(S):3.17eV、Ip:5.62eV、Eg(T):2.63eV)を用いた以外は、実施例1-1と同様にして有機EL素子を作製した。尚、Af、Eg(S)及びIpは実施例1-1と同様にして測定し、Eg(T)は以下に示すようにして測定した。Eg(T)(3重項エネルギーギャップ):燐光発光スペクトルに基づいて測定した。材料をEPA溶媒(容積比でジエチルエーテル:イソペンタン:エタノール=5:5:2)に10μmol/Lで溶解し、燐光測定用試料とした。この燐光測定用試料を石英セルに入れ、77Kに冷却し、励起光を照射し、放射される燐光の波長を測定した。得られた燐光スペクトルの短波長側の立ちあがりに対して接線を引き、この接線とベースラインとの交点の波長値をエネルギーに換算した値を励起3重項エネルギーギャップEg(T)とした。なお、測定には市販の測定装置F-4500(日立製)を用いた。[0153][実施例1-4]実施例1-1において、第2正孔輸送層として、Y1-4を用いた以外は、実施例1-1と同様にして有機EL素子を作製した。[0154][実施例1-5]実施例1-1において、第2正孔輸送層として、Y1-5を用いた以外は、実施例1-1と同様にして有機EL素子を作製した。[0155][実施例1-6]実施例1-1において、第2正孔輸送層として、Y1-6を用いた以外は、実施例1-1と同様にして有機EL素子を作製した。・・・中略・・・[0161][表1][図:0001400987000033.jpg][0162][実施例1-7]実施例1-1において、第1正孔輸送層として、X2を用いた以外は、実施例1-1と同様にして有機EL素子を作製した。[0163][化63][図:0001400987000034.jpg][0164][実施例1-8~1-12]実施例1-7において、第2正孔輸送層として、表2に記載の材料を用いた以外は、実施例1-7と同様にして有機EL素子を作製した。・・・中略・・・[0168][表2][図:0001400987000035.jpg]・・・中略・・・[0176] 表1~3に示すように、本発明所定の化合物を用いて第1正孔輸送層、第2正孔輸送層を形成した実施例1-1~1-18の有機EL素子は、比較例1-1~1-9のものに比べ、素子寿命が向上する効果が得られた。第2正孔輸送層として、Y1-3に比べY1-4、Y1-6を用いた素子の方が長寿命であることがわかる。さらに第1正孔輸送層として、X2を用いた素子に比べ、X1、X3を用いた素子の方が長寿命であることがわかる。」
(4)甲8号証の記載
甲8(国際公開第2012/157211号)の請求の範囲及び明細書には、それぞれ以下の記載がある。
ア 「[請求項1] 基板と、前記基板平面に対して並列に配置されてなる第1の発光素子及び第2の発光素子を有する有機EL多色発光装置であって、前記第1の発光素子は、陽極と陰極の間に、陽極側から、第1の有機層、第2の有機層及び第3の有機層を、前記基板平面に対して垂直方向にこの順に有し、前記第2の発光素子は、陽極と陰極の間に、陽極側から、第2の有機層及び第3の有機層を、前記基板平面に対して垂直方向にこの順に有し、前記第1の有機層は、第1の発光ドーパントを含み、前記第3の有機層は、第2の発光ドーパントを含み、前記第2の有機層は、それぞれ下記(A)~(D)の化合物のいずれかを含む有機EL多色発光装置。(A)アリールアミン部位と、フラン部位又はチオフェン部位を有する化合物(B)アリールアミン部位と、含窒素六員環構造を含む部位を有する化合物(C)カルバゾール部位と、フラン部位又はチオフェン部位を有する化合物(D)カルバゾール部位と、含窒素六員環構造を含む部位を有する化合物」
イ 「発明の概要[0007] 本発明の目的は、高効率、長寿命及び高品質である有機EL多色発光装置を提供することである。[0008] 本発明者らは、鋭意研究した結果、赤、黄色燐光発光素子又は緑色燐光発光素子に対して電子輸送層及び三重項ブロック層として機能でき、青色蛍光発光素子に対しては、正孔注入、輸送層として機能できる材料からなる特定の層(隣接層)を設けることによって、高効率、長寿命、高品質の有機EL多色発光装置が得られることを見出した。」
ウ 「発明を実施するための形態[0012] 本発明の有機EL多色発光装置は、基板、陽極及び陰極を有し、陽極と陰極の間に、基板平面に対して並列に配置されてなる第1の発光素子及び第2の発光素子を有する。上記第1の発光素子は、第1の有機層、第2の有機層及び第3の有機層を、例えば基板側から垂直方向にこの順に含む積層体であり、上記第2の発光素子は、第2の有機層及び第3の有機層を、例えば基板側から垂直方向にこの順に含む積層体である。尚、第1の発光素子の第2の有機層と、第2の発光素子の第2の有機層は、同一でも異なってもよいが、同一が好ましい。第1の発光素子の第3の有機層と、第2の発光素子の第3の有機層は、同一でも異なってもよいが、同一が好ましい。続きを表示(全25行)・・・中略・・・[0019] 第2の有機層の化合物は、正孔注入性及び正孔輸送性、並びに電子注入性及び電子輸送性の両者の機能を有する。これにより、第1の発光素子の第2の有機層は、電子注入性及び電子輸送性を有し、第2の発光素子の第2の有機層では正孔注入性及び正孔輸送性を有する。また、第2の有機層の化合物がカルバゾール部位と、フラン部位、チオフェン部位又は含窒素六員環構造を含む部位を有することで高い三重項エネルギーを維持する効果があり、赤、黄燐光発光層又は緑燐光発光層からの三重項エネルギーの拡散を防止することができ、燐光発光効率を大きくすることができる。尚、三重項エネルギーとは、最低励起三重項状態と基底状態のエネルギー差を意味する。・・・中略・・・[0027] 図1は、本発明の有機EL多色発光装置の一実施形態を示す概略断面図である。有機EL多色発光装置1は、基板10上に第1の発光素子100及び第2の発光素子200を並列に有する装置である。第1の発光素子100は、陽極110及び陰極180の間に、正孔注入層120、正孔輸送層130、第1の発光層140、第1隣接層150、第2発光層160及び電子輸送層170をこの順に有する積層体である。また、第2の発光素子200は、陽極210及び陰極270の間に、正孔注入層220、正孔輸送層230、第2隣接層240、第2発光層250及び電子輸送層260をこの順に有する積層体である。第1の発光素子100及び第2の発光素子200の間には、層間絶縁膜20、22及び24があり、第1の発光素子100の陽極110、正孔注入層120、正孔輸送層130及び第1発光層140、並びに第2の発光素子200の陽極210、正孔注入層220及び正孔輸送層230は、層間絶縁膜20、22及び24に挟持されてそれぞれ積層している。一方、第1の発光素子100の第1隣接層150、第2発光層160及び電子輸送層170は、第2の発光素子200の第2隣接層240、第2発光層250及び電子輸送層260とそれぞれ同じ層であり、これら層は層間絶縁膜20、22及び24を覆うようにして積層している。第1の発光素子100の第2発光層160は、電子輸送層としても機能する。[0028] 有機EL多色発光装置1の第1の発光素子100において、第1発光層140が本発明の第1の発光素子の第1の有機層に対応し、第1隣接層150が本発明の第1の発光素子の第2の有機層に対応し、第2発光層160が本発明の第1の発光素子の第3の有機層に対応する。同様に、有機EL多色発光装置1の第2の発光素子200において、第2隣接層240が第2の発光素子の第2の有機層に対応し、第2発光層250が第2の発光素子の第3の有機層に対応する。図1が示すように、第1及び第2の発光素子は、第1の有機層、第2の有機層及び第3の有機層の他に、他の層を含んでもよい。有機EL多色発光装置1では、第1隣接層150と第2隣接層240、第2の発光層160と第2の発光層250、電子輸送層170と電子輸送層260、陰極180と陰極270は同一層であり、同一化合物から形成できるため、これら層をマスクを用いずに蒸着によって一度に積層することができる。これは、第1の発光素子及び第2の発光素子の発光色が互いに異なる場合に、特にその生産性を向上させることができる。・・・中略・・・[0030] 以下、本発明の有機EL多色発光装置の各層について、図1の有機EL多色発光装置1の各層を例に取り説明する。[隣接層]本発明の有機EL多色発光装置では、第1隣接層及び第2隣接層が、上述した(A)~(D)の化合物のいずれかを含み、好ましくは式(1)又は(2)で表わされる構造を有する化合物を含む(以下、(A)~(D)の化合物及び式(1)又は(2)で表わされる構造を有する化合物を隣接層化合物という場合がある)。式(1)及び(2)で表わされる構造は、それぞれアリールモノアミン構造及びアリールジアミン構造であり、正孔注入性及び正孔輸送性を有する。式(1)又は式(2)で表わされる構造が、式(a)又は式(b)で表わされる置換基を有することにより、隣接層化合物に電子注入性及び電子輸送性も付与することができる。従って、隣接層が式(1)又は(2)で表わされる化合物を含むことにより、第1隣接層にあっては、第1発光層に効率よく電子を輸送して注入し、第1の発光素子の発光効率を高めることができ、第2隣接層にあっては、第2発光層に効率よく正孔を輸送して注入し、第2の発光素子の発光効率を高めることができる。上記に加えて、式(a)又は式(b)で表わされる置換基は、三重項エネルギー(T1)を大きくする効果があり、赤、黄燐光発光層又は緑燐光発光層からの三重項エネルギーの拡散を防止することができる。尚、三重項エネルギーとは、最低励起三重項状態と基底状態のエネルギー差を意味する。以上から、隣接層が隣接層化合物を含むことにより本発明の有機EL多色発光装置は、トータル性能の向上及び色再現性の向上の効果が得られる。・・・中略・・・[0061] 隣接層化合物は、好ましくはイオン化ポテンシャルが5.45~5.75eVであり、より好ましくは5.50~5.70eVであり、さらに好ましくは、5.55~5.65eVである。隣接層化合物のイオン化ポテンシャルが5.45~5.75eVであることで、例えば第2隣接層から、第2発光層(青色蛍光発光層)への正孔注入を促進させ、青色発光効率や寿命を高めることができる。一方、隣接層化合物のイオン化ポテンシャルが5.45eV未満の場合、青色蛍光発光層への正孔注入障壁が大きく、青色発光効率が低下するおそれがある。また、隣接層化合物のイオン化ポテンシャルの5.75eVを超えると、陽極側から第2の隣接層への正孔注入障壁が大きく、青色発光効率や寿命が低下するおそれがある。」
エ 「[0068] また、第1隣接層及び第2隣接層について、好ましくは第1隣接層が第1発光層に隣接しており、上記(C)又は(D)の化合物を含む、又は第2隣接層が第2発光層に隣接しており、上記(A)又は(B)の化合物を含む。第1発光層(例えば赤、黄燐光発光層、又は緑燐光発光層)と隣接する第1隣接層が、(C)又は(D)の化合物を含むことで、第1発光層側への電子輸送と注入の促進、及び赤、黄燐光層発光層又は緑燐光発光層からの三重項エネルギーの拡散を防止することができる。第2発光層(例えば青蛍光発光層)と隣接する第2隣接層が、(A)又は(B)の化合物を含むことで、第2発光層への正孔輸送と注入を促進し、青発光の効率、寿命を高めることができる。」
オ 「[0070][発光素子]本発明の有機EL多色発光装置の基板上に並置されてなる第1の発光素子及び第2の発光素子について、第1の発光素子は例えば陽極/正孔注入層/正孔輸送層/第1発光層/第1隣接層/第2電子注入・輸送層/第1電子注入・輸送層/陰極で表わされる構造を有し、第2の発光素子は例えば陽極/正孔注入層/正孔輸送層/第2隣接層/第2発光層/第1電子注入・輸送層/陰極で表わされる構造を有する。ここで、第1隣接層の材料と第2隣接層の材料は、それぞれ上記(A)~(D)の化合物のいずれかである。また、第2発光層が青発光層の場合、第2発光層は、第1の発光素子の第2の電子注入・輸送層と同一でもよい。第1発光層及び第2発光層の発光は、陽極側、陰極側、あるいは両側から取り出すことができる。・・・中略・・・[0081][正孔注入層及び正孔輸送層]正孔注入・輸送層は、発光層への正孔注入を助け、発光領域まで輸送する層であって、正孔移動度が大きく、イオン化エネルギーが通常5.6eV以下と小さい層である。正孔注入・輸送層の材料としては、より低い電界強度で正孔を発光層に輸送する材料が好ましく、さらに正孔の移動度が、例えば104~106V/cmの電界印加時に、少なくとも10-4cm2/V・秒であれば好ましい。」
カ 「実施例[0094] 実施例及び比較例では、下記化合物を用いて有機EL素子を作製した。[化88][図:0001400987000036.jpg]続きを表示(全24行)[化89][図:0001400987000037.jpg][化90][図:0001400987000038.jpg][化91][図:0001400987000039.jpg]・・・中略・・・[0095] 上記化合物1~4、8~12、14~28、A~Cの三重項エネルギーT1、一重項エネルギーS1、イオン化ポテンシャルIP及び電子親和力Afを下記方法により測定した。結果を表1に示す。(1)三重項エネルギー(T1)三重項エネルギーは、市販の装置F-4500(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて測定した。T1の換算式は以下の通りである。換算式 T1(eV)=1239.85/λedge尚、λedge(単位:nm)とは、縦軸にリン光強度、横軸に波長をとって、リン光スペクトルを表したときに、リン光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸の交点の波長値を意味する。[0096] (2)イオン化ポテンシャル(IP)イオン化ポテンシャルは、大気下で光電子分光装置(理研計器(株)社製:AC-3)を用いて測定した。具体的には、材料に光を照射し、その際に電荷分離によって生じる電子量を測定することにより測定した。尚、イオン化ポテンシャル(Ip)は、ホスト材料の化合物から電子を取り去ってイオン化するために要するエネルギーを意味する。・・・中略・・・[0098][表1][図:0001400987000040.jpg]」
キ 「[0099]実施例1本発明の有機EL多色発光装置の効果を確認するため、第1の発光素子と第2の発光素子を評価した。[第2の発光素子(青色蛍光発光素子)の形成]25mm×75mm×1.1mm厚のITO透明電極付きガラス基板を、イソプロピルアルコール中で5分間超音波洗浄した後、UVオゾン洗浄を30分間行なった。洗浄後の透明電極付きガラス基板に、ND1501(日産化学工業製:アニリンオリゴマー)をスピンコート法で25nmの膜厚で成膜して、230℃で加熱して正孔注入層を形成した。ついで、HT1のキシレン溶液(1.0重量%)を、スピンコート法で30nmの膜厚で成膜し、120℃で乾燥し、正孔輸送層を形成した。次に、第2の隣接層(第2の有機層)の材料として化合物1を蒸着により、膜厚10nmに成膜した。次に第2の発光層(青発光層)(第3の有機層)として、ホスト材EM1とドーパント材BD1を97:3の質量比で蒸着し、膜厚35nmの発光層を形成した。さらに、ET1を蒸着により、膜厚25nmに成膜した。この層は、電子輸送層として機能する。この後、還元性ドーパントであるLi(Li源:サエスゲッター社製)とAlqを2元蒸着させ、電子注入層としてAlq:Li膜(膜厚10nm)を形成した。このAlq:Li膜上に金属Alを蒸着させ金属陰極を形成し、窒素中でガラス封止して、第2の発光素子である青色発光有機EL素子を作製した。続きを表示(全16行)・・・中略・・・[0101][第1の発光素子(緑色燐光発光素子)の作製]25mm×75mm×1.1mm厚のITO透明電極付きガラス基板を、イソプロピルアルコール中で5分間超音波洗浄した後、UVオゾン洗浄を30分間行なった。洗浄後の透明電極付きガラス基板に、ND1501(日産化学工業製)をスピンコート法で25nmの膜厚で成膜して、230℃で加熱して正孔注入層を形成した。ついで、WO2009/102027に開示のHT2のキシレン溶液(1.0重量%)を、スピンコート法で30nmの膜厚で成膜し、230℃で加熱乾燥して、正孔輸送層を形成した。次に、第1発光層(緑発光層)(第1の有機層)として、ホスト材EM2とドーパント材GD1の90:10の重量比のキシレン溶液(1.0重量%)を調製し、スピンコート法で60nmの膜厚で成膜し、120℃で乾燥した。次に、第1隣接層(第2の有機層)の材料として第2隣接層の材料と同じ化合物1を蒸着により、膜厚10nmに成膜した。次に、ホスト材EM1とドーパント材BD1を97:3のレート比で蒸着し、膜厚35nmの層(青共通層)(第3の有機層)を形成し、次に、ET1を蒸着により、膜厚25nmに成膜した。これら層は、電子輸送層として機能する。この後、還元性ドーパントであるLi(Li源:サエスゲッター社製)とAlqを二元蒸着させ、電子注入層としてAlq:Li膜(膜厚10nm)を形成した。このAlq:Li膜上に金属Alを蒸着させ金属陰極を形成し、窒素中でガラス封止して、第1の発光素子である緑色発光有機EL素子を作製した。・・・中略・・・[0103]実施例2~11化合物1からなる第1隣接層及び第2隣接層の代わりに、表2に示す化合物8~12、14~18をそれぞれ単層で蒸着した隣接層を採用した他は実施例1と同様にして第1の発光素子及び第2の発光素子を製造し評価した。・・・中略・・・[0107][表2-1][図:0001400987000041.jpg]・・・中略・・・[0109] 隣接層を単層で構成した実施例1~11では、化合物1、8~12、14~18を用いた。これらの化合物は、アリールアミン部位とジベンゾフラン部位、又はカルバゾール部位とジベンゾフラン部位を含んでいる。即ち、アミン、カルバゾールの正孔輸送性ユニットとジベンゾフランの電子輸送性ユニットを有するので、第2の発光素子(青)および第1の発光素子(緑)の効率はいずれも良好である。これは、第2の発光素子(青)の発光層への正孔が十分注入されつつ、第1の発光素子(緑)の発光層へは電子が十分注入されるためと推定する。また、第2の発光素子(青)の寿命は良好である。これは、アミンユニットまたはカルバゾールユニットに加えて、耐電子性の高いジベンゾフランユニットを有するためと推定される。」
ク 「産業上の利用可能性[0112] 本発明の有機EL多色発光装置は、民生用又は工業用の表示機器、カラーディスプレイ等に好適に用いらることができ、薄型テレビ、ノートパソコン、携帯電話、ゲーム機表示、車載用テレビ等に好適に用いられる。」
ケ 「[図1][図:0001400987000042.jpg]」
(5)甲9号証の記載
甲9(国際公開第2011/133007号(ファミリー文献:特表2013-525346号公報))には、以下の記載がある。
なお、参考訳は、ファミリー文献に基づいて当合議体で作成したものである(参考訳については、甲10も同様である。)。
ア 「[224] The compound for an optoelectronic device according to one embodiment may include at least one of the compounds represented by the following Chemical Formulae A-1 to A-305, A-414 to A-416, A-457, A-458, or A-469 to A-473. The compounds of the following structures have an excellent hole transport property due to carbazolyl, excellent thin film characteristics due to an asymmetrical molecule, and thermal stability. Therefore when they are used for a hole injection layer and a hole transport layer (HTL) of an organic light emitting diode, a long life-span and high efficiency may be realized.」
(参考訳:
[224] 本発明の一実施形態による光電子素子用化合物は、下記化学式A-1~A-305、A-414~A-416、A-457、A-458またはA-469~A-473で表される化合物の少なくとも一つを含みうる。下記のような構造は、カルバゾリルの優れた正孔輸送性と共に分子全体の非対称性により薄膜特性に優れ、熱的安定性が増加できる。したがって、有機発光ダイオードの正孔注入層および正孔輸送層(HTL)に使用する場合、長寿命、高効率を示す。)
イ 「[225][図:0001400987000043.jpg][226][図:0001400987000044.jpg][227][図:0001400987000045.jpg]」
ウ 「[719] Fabrication of Organic Light Emitting Diode[720] Example 41[721] A glass substrate thin film coated with 1500Å of indium tin oxide (ITO) was ultrasonic-wave cleaned with distilled water. Subsequently, the glass substrate cleaned with distilled water was ultrasonic-wave cleaned with a solvent such as isopropyl alcohol, acetone, methanol, or the like and dried. Then the glass substrate was moved to a plasma cleaner and cleaned for 5 minutes with oxygen plasma, and then the substrate was moved to a vacuum evaporator. 4,4-'bis[N-[4-{N,N-bis(3-methylphenyl)amino}-phenyl]-N-phenylamino]biphenyl (DNTPD) was vacuum deposited on the ITO substrate using an ITO transparent electrode prepared according to the above procedure to provide a 600Å thick hole injection layer (HIL). Then the compound prepared according to Example 4 was vacuum deposited to provide a 300Å-thick hole transport layer (HTL). A 250Å-thick emission layer was vacuum deposited on the hole transport layer (HTL) using 9,10-di-(2-naphthyl)anthracene (ADN) as a host and 3wt% of 2,5,8,11-tetra(tert-butyl)perylene (TBPe) as a dopant.[722] Next, Alq3 was vacuum-deposited to be 250Å thick on the emission layer, forming an electron transport layer (ETL). On the electron transport layer (ETL), LiF at 10Å and Al at 1000Å were sequentially vacuum-deposited to fabricate a cathode, completing an organic light emitting diode.続きを表示(全32行)[723] The organic light emitting diode had five organic thin layers.[724] In particular, it had Al (1000Å/LiF (10 )/Alq3 (250Å/EML[ADN:TBPe=97:3] (250Å)/HTL (300Å/DNTPD (600Å/ITO (1500Å).[725] Example 42[726] An organic light emitting diode was prepared with the same method as Example 41, except for using Example 5 instead of Example 4.[727] Example 43[728] An organic light emitting diode was prepared with the same method as Example 41, except for using Example 6 instead of Example 4.[729] Example 44[730] An organic light emitting diode was prepared with the same method as Example 41, except for using Example 7 instead of Example 4.[731] Example 45[732] An organic light emitting diode was prepared with the same method as Example 41, except for using Example 9 instead of Example 4.[733] Example 46[734] An organic light emitting diode was prepared with the same method as Example 41, except for using Example 10 instead of Example 4.[735] Example 47[736] An organic light emitting diode was prepared with the same method as Example 41, except for using Example 38 instead of Example 4.[737] Example 48[738] An organic light emitting diode was prepared with the same method as Example 41, except for using Example 39 instead of Example 4.[739] Comparative Example 1[740] An organic light emitting diode was prepared with the same method as Example 41, except for using NPB instead of Example 4. The structure of NPB is shown in the following.[741] Comparative Example 2[742] An organic light emitting diode was prepared with the same method as Example 41, except for using HT1 instead of Example 4. The structure of HT1 is shown in the following.[743] Comparative Example 3[744] An organic light emitting diode was fabricated in accordance with the same procedure as in Example 41, except that HT2 was used instead of the Example 41. The structure of HT2 is described in the following.[745] The structure of DNTPD, ADN, TBPe, NPB, HT1, and HT2 that are used for preparing the organic light emitting diode is shown as follows.・・・中略・・・[748] [NPB] [HT1] [HT2][749][図:0001400987000046.jpg]」
(参考訳:
[719] 有機発光ダイオードの製造
[720] 実施例41
[721] ITO(Indium tin oxide)が1500Åの厚さが薄膜コーティングされたガラス基板を蒸溜水超音波で洗浄した。蒸溜水洗浄が終わるとイソプロピルアルコール、アセトン、メタノールなどの溶剤で超音波洗浄し乾燥させた後、プラズマ洗浄機に移送させた後、酸素プラズマを利用して前記基板を5分間洗浄した後、真空蒸着器に基板を移送した。このように準備されたITO透明電極を陽極として使用し、ITO基板上部に4,4’-bis[N-[4-{N,N-bis(3-methylphenyl)amino}-phenyl]-N-phenylamino]biphenyl(DNTPD)を真空蒸着して600Å厚さの正孔注入層(HIL)を形成した。次に実施例4で製造された化合物を使用して真空蒸着で300Å厚さの正孔輸送層(HTL)を形成した。前記正孔輸送層(HTL)上部に9,10-di-(2-naphthyl)anthracene(ADN)をホストとして使用し、ドーパントとして2,5,8,11-tetra(tert-butyl)perylene(TBPe)を3重量%ドーピングして真空蒸着で250Å厚さの発光層を形成した。
[722] その後、前記発光層上部にAlq3を真空蒸着して250Å厚さの電子輸送層(ETL)を形成した。前記電子輸送層(ETL)上部にLiFの10ÅとAlの1000Åを順次に真空蒸着して陰極を形成することによって有機発光ダイオードを製造した。
[723] 前記有機発光ダイオードは、5層の有機薄膜層を有する構造からなっている。
[724] 具体的には、Al(1000Å)/LiF(10Å)/Alq3(250Å)/EML[ADN:TBPe=97:3](250Å)/HTL(300Å)/DNTPD(600Å)/ITO(1500Å)の構造で製作した。
[725] 実施例42
[726] 前記実施例41で、実施例4の代わりに実施例5を使用した点を除いては、同様な方法で有機発光ダイオードを製造した。
[727] 実施例43
[728] 前記実施例41で、実施例4の代わりに実施例6を使用した点を除いては、同様な方法で有機発光ダイオードを製造した。
[729] 実施例44
[730] 前記実施例41で、実施例4の代わりに実施例7を使用した点を除いては、同様な方法で有機発光ダイオードを製造した。
[731] 実施例45
[732] 前記実施例41で、実施例4の代わりに実施例9を使用した点を除いては、同様な方法で有機発光ダイオードを製造した。
[733] 実施例46
[734] 前記実施例41で、実施例4の代わりに実施例10を使用した点を除いては、同様な方法で有機発光ダイオードを製造した。
[735] 実施例47
[736] 前記実施例41で、実施例4の代わりに実施例38を使用した点を除いては、同様な方法で有機発光ダイオードを製造した。
[737] 実施例48
[738] 前記実施例41で、実施例4の代わりに実施例39を使用した点を除いては、同様な方法で有機発光ダイオードを製造した。
[739] 比較例1
[740] 前記実施例41で、実施例4の代わりにNPBを使用した点を除いては、同様な方法で有機発光ダイオードを製造した。前記NPBの構造は以下に記載されている。
[741] 比較例2
[742] 前記実施例41で、実施例4の代わりにHT1を使用した点を除いては、同様な方法で有機発光ダイオードを製造した。前記HT1の構造は以下に記載されている。
[743] 比較例3
[744] 前記実施例41で、実施例4の代わりにHT2を使用した点を除いては、同様な方法で有機発光ダイオードを製造した。前記HT2の構造は以下に記載されている。
[745] 前記有機発光ダイオード製作に使用されたDNTPD、ADN、TBPe、NPB、HT1およびHT2の構造は以下のとおりである。
・・・中略・・・
[748] [NPB][HT1][HT2]
[749] (化学式の再掲は省略))
エ 「[774] Table 3[図:0001400987000047.jpg][775] Current density: 10mA/cm2[776] Referring to the results of [Table 3], the materials that were used for preparing the hole transport layer (HTL) of Examples 41 to 48 turned out to decrease driving voltage of the organic light emitting diode but improved luminance and efficiency.[777] Further, the half-life of Examples 41 to 48 were remarkably improved compared to the half-life of Comparative Examples 1 to 3, particularly, the organic light emitting diode of Example 42 had a half-life of 2290 hours, which was 1.8 times improved compared to that of Comparative Example 1 of 1250 hours. In terms of commercial selling, the life-span of a device is one of the biggest issues for commercializing a device. Therefore, the devices according to the exemplary embodiments are shown as sufficient to be commercialized.」
(参考訳:
[774]
[図:0001400987000048.jpg]
[775] 電流密度:10mA/cm2
[776] 前記表3の結果によれば、前記実施例41~48で正孔輸送層(HTL)に使用された材料の場合、有機発光ダイオードの駆動電圧を下げ、輝度と効率を向上させることが分かる。
[777] また、前記実施例41~48の半減寿命は前記比較例1~3よりも大幅向上し、特に前記実施例42の半減寿命は2290時間(h)で、比較例1の半減寿命である1250時間より1.8倍以上向上したことが分かる。実際、素子の商用化側面で素子の寿命は製品化の最も大きい問題の一つであることを考慮するとき、前記実施例の結果は素子を製品化して商用化することに十分であると判断される。)
(6)甲10号証の記載
甲10(国際公開第2009/072587号(ファミリー文献:特開2009-298767号公報))には、以下の記載がある。
ア 「[0019]In addition, as another feature of the present invention, a light-emitting element includes an EL layer between a pair of electrodes, the EL layer includes at least a light-emitting layer and a hole-transporting layer, and at least one of the light-emitting layer and the hole-transporting layer contains any of the carbazole derivatives described above.[0020]Further, as another feature of the present invention, a light-emitting element includes an EL layer between an anode and a cathode, the EL layer includes at least a light-emitting layer, a hole-transporting layer, and a hole-injecting layer, the hole-injecting layer is formed in contact with the anode, and at least one of the light-emitting layer, the hole-transporting layer, and the hole-injecting layer contains any of the carbazole derivatives described above.」
(参考訳:
[0019]
また、本発明の別の構成は、一対の電極間にEL層を有する発光素子であって、EL層は、発光層と正孔輸送層とを少なくとも有し、発光層、正孔輸送層の少なくとも一に上記記載のカルバゾール誘導体を含むことを特徴とする。
[0020]
さらに、本発明の別の構成は、陽極と陰極との間にEL層を有する発光素子であって、EL層は、発光層、正孔輸送層、および正孔注入層とを少なくとも有し、正孔注入層は、前記陽極と接して形成され、発光層、正孔輸送層、正孔注入層の少なくとも一に上記記載のカルバゾール誘導体を含むことを特徴とする。)
イ 「[0023]Further, the present invention also includes a light-emitting device having the light-emitting element described above and an electronic devuce having the light-emitting device. A light-emitting device in this specification refers to an image display device, a light-emitting device, or a light source (including a lighting device). In addition, light-emitting devices include all of the following modules: modules in which a connector, for example, a flexible printed circuit (FPC), a tape automated bonding (TAB) tape, or a tape carrier package (TCP) is attached to a light-emitting device; modules provided with a printed wiring board at the end of a TAB tape or a TCP; and modules where an integrated circuit (IC) is directly mounted on a light-emitting element by a chip-on-glass (COG) method.[0024]Since the carbazole derivative of the present invention exhibits a high hole-transporting property, it can be mainly used for a hole-transporting layer which is included in an EL layer of a light-emitting element. In addition, the carbazole derivative of the present invention is used for the hole-transporting layer to form a light-emitting element, whereby a light-emitting element having high luminous efficiency can be formed.」
(参考訳:
[0023]
また、本発明は、上述した発光素子を有する発光装置および発光装置を有する電子機器も範疇に含めるものである。本明細書中における発光装置とは、画像表示デバイス、発光デバイス、もしくは光源(照明装置含む)を指す。また、発光装置にコネクター、例えばFPC(Flexible printed circuit)もしくはTAB(Tape Automated Bonding)テープもしくはTCP(Tape Carrier Package)が取り付けられたモジュール、TABテープやTCPの先にプリント配線板が設けられたモジュール、または発光素子にCOG(Chip On Glass)方式によりIC(集積回路)が直接実装されたモジュールも全て発光装置に含むものとする。
[0024]
本発明のカルバゾール誘導体は、高い正孔輸送性を示すことから、主に発光素子のEL層を構成する正孔輸送層に用いることができる。また、本発明のカルバゾール誘導体を正孔輸送層に用いて発光素子を形成することにより、発光効率の高い発光素子を形成することができる。)
ウ 「[Embodiment 1][0267]In Embodiment 1, a synthetic method of a carbazole derivative of the present invention, 4-phenyl-4'-(9-phenyl-9H-carbazol-3-yl)triphenylamine (abbreviation: PCBA1BP) represented by a structural formula (5), will be specifically described.[0268]続きを表示(全22行)[図:0001400987000049.jpg]・・・中略・・・[0303]First, the calculation of the HOMO level of PCBAlBP (abbreviation) by CV measurement is described in detail. As shown in FIG 41, an oxidization peak potential £Pa was 0.536 V. In addition, a reduction peak potential E^0 was 0.446 V. Therefore, a half-wave potential (an intermediate potential between Ep0 and £pa) can be calculated to be 0.49 V. This shows that PCBAlBP (abbreviation) can be oxidized by an electrical energy of 0.49 V [vs. Ag/Ag+], and this energy corresponds to the HOMO level. Here, the potential energy of the reference electrode used in Embodiment 1 with respect to the vacuum level is -4.94 [eV] as described above. Therefore, the HOMO level of PCBAlBP (abbreviation) was found to be -4.94-0.49 = -5.43 [eV]. In addition, the oxidation peak took a similar value even after the 100 cycles. Accordingly, it was found that repetition of the oxidation reduction between an oxidation state and a neutral state had favorable chracteristics.[Embodiment 2][0304]In Embodiment 2, a synthetic method of a carbazole derivative of the present invention, 4,4'-diphenyl-4"-(9-phenyl-9-H-carbazol-3-yl)triphenylamine (abbreviation: PCBBi1BP) represented by a structural formula (6), will be specifically described.[0305][図:0001400987000050.jpg]・・・中略・・・[0333]An oxidation-reduction reaction characteristic of PCBBiIBP (abbreviation) was examined by a cyclic voltammetry (CV) measurement. Since the measurement method is similar to that of Embodiment 1, the description is omitted.[0334]FIG 42 shows the CV measurement result on the oxidation reaction characteristics. As shown in FIG 42, an oxidization peak potential Epa can be read as 0.521 V, and a reduction peak potential Ep0 can be read as +0.431 V. Therefore, a half-wave potential (an intermediate potential between Epc and Epa) can be calculated to be +0.48 V. According to the calculation similar to that of Embodiment 1, the HOMO level of PCBBiIBP (abbreviation) was found to be = -5.42 [eV]. In addition, the oxidation peak took a similar value even after the 100 cycles. Accordingly, it was found that repetition of the oxidation reduction between an oxidation state and a neutral state had favorable characteristics.[0335]The result of measuring the thin film using a photoelectron spectrometer (AC-2, manufactured by Riken Keiki Co., Ltd.) under the atmosphere indicated that the HOMO level of PCBBiIBP (abbreviation) was -5.34 eV. The Tauc plot of the absorption spectrum of the thin film revealed that the absorption edge was 3.15 eV. Thus, the energy gap in the solid state was estimated to be 3.15 eV, which means that the LUMO level of PCBBiIBP (abbreviation) is -2.19 eV.[0336]In addition, the glass transition temperature of PCBBi1BP (abbreviation) was examined with a differential scanning calorimetry (Pyris 1 DSC, manufactured by Perkin Elmer Co., Ltd.). According to the measurement results, it was found that the glass transition temperature was 123 ℃. In this manner, PCBBi1BP (abbreviation) has a high glass transition temperature and favorable heat resistance. In addition, the crystallization peak does not exist; thus, it was found that PCBBi1BP (abbreviation) is a substance which is hard to be crystallized.」
(参考訳:[実施例1]
[0267]
本実施例1では、構造式(5)で表される本発明のカルバゾール誘導体である4-フェニル-4’-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)トリフェニルアミン(略称:PCBA1BP)の合成方法について具体的に説明する。
[0268]
(化学式の再掲は省略)
・・・中略・・・
[0303]
まず、PCBA1BP(略称)のCV測定からのHOMO準位の算出について詳述する。図41に示すように、酸化ピーク電位Epaは、0.536Vであった。また、還元ピーク電位Epcは0.446Vであった。したがって、半波電位(EpaとEpcの中間の電位)は0.49Vと算出できる。このことは、PCBA1BP(略称)は0.49[V vs.Ag/Ag+]の電気エネルギーにより酸化されることを示しており、このエネルギーはHOMO準位に相当する。ここで、上述した通り、本実施例1で用いる参照電極の真空準位に対するポテンシャルエネルギーは、-4.94[eV]であるため、PCBA1BP(略称)のHOMO準位は、-4.94-0.49=-5.43[eV]であることがわかった。また、100サイクル後でも酸化ピークが同様の値となった。このことから、酸化状態と中性状態間の酸化還元の繰り返しに良好な特性を示すことがわかった。
[実施例2]
[0304]
本実施例2では、構造式(6)で表される本発明のカルバゾール誘導体である4,4’-ジフェニル-4’’-(9-フェニル-9-H-カルバゾール-3-イル)トリフェニルアミン(略称:PCBBi1BP)の合成方法について具体的に説明する。
[0305]
(化学式の再掲は省略)
・・・中略・・・
[0333]
また、PCBBi1BP(略称)の酸化還元反応特性をサイクリックボルタンメトリ(CV)測定によって調べた。測定方法は、実施例1と同様なので、説明を省略することとする。
[0334]
酸化反応特性のCV測定結果を図42に示す。図42に示すように、酸化ピーク電位Epaは、0.521V、還元ピーク電位Epcは+0.431Vと読み取ることができる。したがって、半波電位(EpcとEpaの中間の電位)は+0.48Vと算出できる。実施例1と同様の計算により、PCBBi1BP(略称)のHOMO準位は、=-5.42[eV]であることがわかった。また、100サイクル後でも酸化ピークが同様の値となった。酸化状態と中性状態間の酸化還元の繰り返しに良好な特性を示すことがわかった。
[0335]
また、薄膜を大気中にて光電子分光法(理研計器社製、AC-2)で測定した結果、PCBBi1BP(略称)HOMO準位は-5.34eVであった。薄膜の吸収スペクトルのTaucプロットから吸収端は3.15eVであった。従って、固体状態のエネルギーギャップは3.15eVと見積もられ、このことはPCBBi1BP(略称)のLUMO準位が-2.19eVであることを意味する。
[0336]
また、PCBBi1BP(略称)のガラス転移温度について、示差走査熱量分析装置(DSC:Differential Scanning Calorimetry)(パーキンエルマー製、型番:Pyris1 DSC)を用いて調べた。測定結果から、ガラス転移温度は123℃であることが分かった。このように、PCBBi1BP(略称)は、高いガラス転移温度を示し、良好な耐熱性を有するものである。また、結晶化を表すピークは存在せず、結晶化し難い物質であることが分かった。)
エ 「[Embodiment 5][0376]In Embodiment 5, a method for manufacturing a light-emitting element 2, a light-emitting element 3, a light-emitting element 4, and a light-emitting element 5, which were formed using carbazole derivatives of the present invention that are synthesized in Embodiments 1 to 4 and measurement results of their element characteristics will be described. The light-emitting element 2 was formed using 4-phenyl-4'-(9-phenyl-9H-carbazol-3-yl)triphenylamine (abbreviation: PCBA1BP), the light-emitting element 3 was formed using 4,4'-diphenyl-4"-(9-phenyl-9-H-carbazol-3-yl)triphenylamine (abbreviation: PCBBi1BP), the light-emitting element 4 was formed using 9,9-dimethyl-N-phenyl-N-[4-(9-phenyl-9H-carbazol-3-yl)phenyl]-fluorene-2-amine (abbreviation: PCBAF), and the light-emitting element 5 was formed using N-phenyl-N-[4-(9-phenyl-9H-carbazol-3-yl)phenyl]-spiro-9,9'-bifluoren-2-amine (abbreviation: PCBASF).[0377]続きを表示(全49行)Note that each element structure of the light-emitting elements in Embodiment 5 is a structure shown in FIG 18, in which a hole-transporting layer 1512 is formed using the above carbazole derivative of the present invention. In addition, a light-emitting element 1 which is a comparative light-emitting element is formed using 4,4'-bis[N-(1-naphthyl)-N-phenylamino]biphenyl (abbreviation: NPB) for the hole-transporting layer 1512. In order to make comparative conditions of the light-emitting element 1 with each of the light-emitting elements 2 to 5 the same, the light-emitting element 1 was formed over the same substrates as the light-emitting elements 2 to 5, and the light-emitting element 1 was compared to the light-emitting elements 2 to 5. A structural formula of an organic compound used in Embodiment 5 is shown below.[0378][図:0001400987000051.jpg][0379]First, indium tin oxide containing silicon oxide was deposited over a substrate 1501 which is a glass substrate by a sputtering method to form a first electrode 1502. The thickness of the first electrode 1502 was set to be 110 nm, and the area was set to be 2 mm x 2 mm.[0380]Next, an EL layer 1503 in which a plurality of layers are stacked over the first electrode 1502 was formed. In Embodiment 5, the EL layer 1503 has a structure in which a first layer 1511 which is a hole-injecting layer, a second layer 1512 which is a hole-transporting layer, a third layer 1513 which is a light-emitting layer, a fourth layer 1514 which is an electron-transporting layer, and a fifth layer 1515 which is an electron-injecting layer are sequentially stacked.[0381]The substrate having the first electrode 1502 was fixed to a substrate holder provided in a vacuum evaporation apparatus in such a way that the surface of the first electrode 1502 faced downward, and then the pressure was reduced to about 10-4 Pa. Then, 4,4'-bis[N-(1-naphthyl)-N-phenylamino]biphenyl (abbreviation: NPB) and molybdenum(VI) oxide were co-evaporated on the first electrode 1502, whereby the first layer 1511 which is a hole-injecting layer was formed. The evaporation rate was controlled so that the thickness of the first layer which is a hole-injecting layer could be 50 nm and the weight ratio of NPB to molybdenum(VI) oxide could be 4:1 (= NPB : molybdenum oxide). Note that the co-evaporation method is an evaporation method in which evaporation is performed using a plurality of evaporation sources at the same time in one treatment chamber.[0382]Next, a hole-transporting material was deposited over the first layer 1511 to a thickness of 10 nm by an evaporation method using resistive heating, and the second layer 1512 which is a hole-transporting layer was formed. Note that 4,4'-bis[N-(1-naphthyl)-N-phenylamino]biphenyl (abbreviation: NPB) was used in the case of forming the light-emitting element 1,4-phenyl-4'-(9-phenyl-9H-carbazol-3-yl)triphenylamine (abbreviation: PCBA1BP) was used in the case of forming the light-emitting element 2, 4,4'-diphenyl-4"-(9-phenyl-9-H-carbazol-3-yl)triphenylamine (abbreviation: PCBBi1BP) was used in the case of forming the light-emitting element, 9,9-dimethyl-N-phenyl-N-[4-(9-phenyl-9H-carbazol-3-yl)phenyl]-fluorene-2-amine (abbreviation: PCBAF) was used in the case of forming the light-emitting element 4, and N-phenyl-N-[4-(9-phenyl-9H-carbazol-3-yl)phenyl]-spiro-9,9'-bifluoren-2-amine (abbreviation: PCBASF) were used in the case of forming the light-emitting element 5.[0383]Next, the third layer 1513 which is a light-emitting layer was formed over the second layer 1512 by an evaporation method using resistive heating. The third layer 1513 was formed by co-evaporating 9-[4-(10-phenyl-9-anthryl)phenyl]-9H-carbazole (abbreviation: CzPA) and 4-(10-phenyl-9-anthryl)-4'-(9-phenyl-9H-carbazol-3-yl)triphenylamine (abbreviation: PCBAPA) to a thickness of 30 nm. Here, the evaporation rate was controlled so that the weight ratio of CzPA to PCBAPA could be 1:0.10 (= CzPA : PCBAPA).[0384]Further, tris(8-quinolinolato)aluminum(III) (abbreviation: AIq) was deposited over the third layer 1513 to be a thickness of 10 nm by an evaporation method using resistive heating. Then, the fourth layer 1514 which is an electron-transporting layer was formed by depositing bathophenanthroline (abbreviation: BPhen) over the third layer 1513 to a thickness of 20 nm.[0385]Then, the fifth layer 1515 which is an electron-injecting layer was formed by depositing lithium fluoride (LiF) to a thickness of 1 nm over the fourth layer 1514.[0386]Finally, a second electrode 1504 was formed by depositing aluminum to a thickness of 200 nm by an evaporation method using resistance heating, and the light-emitting elements 1 to 5 were formed.[0387]The light-emitting elements 1 to 5 obtained through the process described above were put into a glove box with a nitrogen atmosphere so that the light-emitting elements were sealed without being exposed to atmospheric air. After that, the operating characteristics of these light-emitting elements were measured. Note that the measurement was performed at room temperature (an atmosphere kept at 25 0C).[0388]FIG 19 shows the current density vs. luminance characteristics of the light-emitting elements 1 and 2. FIG 20 shows the voltage vs. luminance characteristics of the light-emitting elements 1 and 2. FIG 21 shows the luminance vs. current efficiency characteristics of the light-emitting elements 1 and 2. FIG 22 shows the voltage vs. current characteristics of the light-emitting elements 1 and 2.[0389]When the drive voltage of the light-emitting element 2 was 3.4 V, the luminance and the current value were 1277 cd/m2 and 0.79 mA, respectively. It was found that the light-emitting element 2 using PCBAlBP (abbreviation) for the second layer 1512 showed higher luminance, even when the light-emitting element 2 was compared to the light-emitting element 1 using NPB for the second layer 1512. Further, it was found that the current efficiency was high with respect to the current density or the luminance.・・・中略・・・[0391]FIG 24 shows the results of a continuous lighting test in which the light-emitting element 2 was continuously lit by constant current driving with the initial luminance set at 1000 cd/m2 (the vertical axis indicates the relative luminance on the assumption that 1000 cd/m2 is 100 %). From the results in FIG 24, the light-emitting element 2 exhibits 92% of the initial luminance even after 160 hours, and was found to have a longer lifetime, as compared to the light-emitting element 1. Thus, a long lifetime light-emitting element can be obtained by applying PCBAlBP (abbreviation) of the present invention.・・・中略・・・[0393]When the drive voltage of the light-emitting element 3 was 3.4 V, the luminance and the current value were 1328 cd/m2 and 0.78 mA, respectively. It was found that the light-emitting element 3 using PCBBiIBP (abbreviation) for the second layer 1512 showed higher luminance, even when the light-emitting element 3 was compared to the light-emitting element 1 using NPB for the second layer 1512. Further, it was found that the current efficiency was high with respect to the current density or the luminance.・・・中略・・・[0402]As described above, it was found that the light-emitting elements 2 to 5 which were formed using the carbazole derivatives of the present invention exhibited an equivalent level of efficiency to the light-emitting element 1. Thus, it was found that a light-emitting element having high efficiency can be obtained by applying the present invention.[0403]In addition, as another structure of the light-emitting element 1 shown in Embodiment 5, PCBAlBP (abbreviation) was used instead of NPB (abbreviation), which was used at the time of forming the first layer 1511, and was co-evaporated with molybdenum(VI) oxide to form the first layer 1511. With the efficiency, the drive voltage at a luminance of about 1000 cd/m2, and the reliability of such a light-emitting element 1, favorable values equivalent to those of a light-emitting element 8 were obtained. The light-emitting element 8 will be formed in Embodiment 10 by using a co-evaporation film of NPB and molybdenum(VI) oxide for a hole-injecting layer and using PCBBiNB (abbreviation) for a hole-transporting layer. When the drive voltage of the light-emitting element 1 was 3.8 V, the luminance and the current value were 949 cd/m2 and 0.65 mA, respectively, and the light-emitting element 1 exhibited 64 % of the initial luminance when driven for 1500 hours.[0404]As thus described, it was found that PCBAlBP (abbreviation) was a favorable material also as a hole-injecting material. In addition, it was found that favorable characteristics can also be obtained by using the co-evaporation film with molybdenum(VI) oxide for the hole-injecting layer.[0405]In addition, as another structure of the light-emitting element 2 shown in Embodiment 5, PCBAlBP (abbreviation) was used instead of NPB (abbreviation), which was used at the time of forming the first layer 1511, and was co-evaporated with molybdenum(VI) oxide to form the first layer 1511. With the efficiency, the drive voltage at a luminance of about 1000 cd/m2, and the reliability of such a light-emitting element 2, favorable values equivalent to those of a light-emitting element 8 were obtained. The light-emitting element 8 will be formed in Embodiment 10 by using a co-evaporation film of NPB and molybdenum(VI) oxide for a hole-injecting layer and using PCBBiNB (abbreviation) for a hole-transporting layer. When the drive voltage of the light-emitting element 2 was 3.6 V, the luminance and the current value were 843 cd/m2 and 0.53 mA, respectively, and the light-emitting element 2 exhibited 65 % of the initial luminance when driven for 1500 hours.[0406]As thus described, it was found that PCBAlBP (abbreviation) was a favorable material which can be used for both the first layer 1511 which is a hole-injecting layer and the second layer 1512 which is a hole-transporting layer at the same time. Accordingly, an element could be manufactured easily and material use efficiency could also be improved.・・・中略・・・[0544]FIG 60 shows the result of a continuous lighting test in which the light-emitting element 8 was continuously lit by constant current driving with the initial luminance set at 1000 cd/m2 (the vertical axis indicates the relative luminance on the assumption that 1000 cd/m2 is 100 %). From the results in FIG 60, the light-emitting element 8 was found to have a longer lifetime, as compared to the light-emitting element 1. Thus, a long lifetime light-emitting element can be obtained by applying the present invention.」
(参考訳:[実施例5]
[0376]
本実施例5では、実施例1~実施例4で合成した本発明のカルバゾール誘導体である4-フェニル-4’-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)トリフェニルアミン(略称:PCBA1BP)を用いて形成した発光素子2、4,4’-ジフェニル-4’’-(9-フェニル-9-H-カルバゾール-3-イル)トリフェニルアミン(略称:PCBBi1BP)を用いて形成した発光素子3、9,9-ジメチル-N-フェニル-N-[4-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)フェニル]-フルオレン-2-アミン(略称:PCBAF)を用いて形成した発光素子4、およびN-フェニル-N-[4-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)フェニル]-スピロ-9,9’-ビフルオレン-2-アミン(略称:PCBASF)を用いて形成した発光素子5の作製方法および素子特性の測定結果を示す。
[0377]
なお、本実施例における発光素子の素子構造は、図18に示す構造であり、正孔輸送層1512に上述した本発明のカルバゾール誘導体を用いて形成したものである。また、比較発光素子である発光素子1は、正孔輸送層1512に4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(略称:NPB)を用いて形成し、比較条件をそろえるために発光素子2~発光素子5が形成されたそれぞれの基板と同一基板上に発光素子1を形成し、発光素子2~発光素子5との比較を行った。本実施例5で用いる有機化合物の構造式を以下に示す。
[0378]
(化学式の再掲は省略)
[0379]
まず、ガラス基板である基板1501上に、酸化珪素を含む酸化インジウム-酸化スズをスパッタリング法にて成膜し、第1の電極1502を形成した。なお、その膜厚は110nmとし、電極面積は2mm×2mmとした。
[0380]
次に、第1の電極1502上に複数の層が積層されたEL層1503を形成する。本実施例において、EL層1503は、正孔注入層である第1の層1511、正孔輸送層である第2の層1512、発光層である第3の層1513、電子輸送層である第4の層1514、電子注入層である第5の層1515が順次積層された構造を有する。
[0381]
第1の電極1502が形成された面が下方となるように、第1の電極1502が形成された基板を真空蒸着装置内に設けられた基板ホルダーに固定し、10-4Pa程度まで減圧した後、第1の電極1502上に、4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(略称:NPB)と酸化モリブデン(VI)とを共蒸着することにより、正孔注入層である第1の層1511を形成した。その膜厚は50nmとし、NPBと酸化モリブデン(VI)の比率は、重量比で4:1=(NPB:酸化モリブデン)となるように蒸着レートを調節した。なお、共蒸着法とは、一つの処理室内で複数の蒸発源から同時に蒸着を行う蒸着法である。
[0382]
次に、抵抗加熱を用いた蒸着法により、第1の層1511上に正孔輸送性材料を10nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層である第2の層1512を形成した。なお、発光素子1を形成する場合には、4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(略称:NPB)を用い、発光素子2を形成する場合には、4-フェニル-4’-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)トリフェニルアミン(略称:PCBA1BP)を用い、発光素子3を形成する場合には、4,4’-ジフェニル-4’’-(9-フェニル-9-H-カルバゾール-3-イル)トリフェニルアミン(略称:PCBBi1BP)を用い、発光素子4を形成する場合には、9,9-ジメチル-N-フェニル-N-[4-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)フェニル]-フルオレン-2-アミン(略称:PCBAF)を用い、発光素子5を形成する場合には、N-フェニル-N-[4-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)フェニル]-スピロ-9,9’-ビフルオレン-2-アミン(略称:PCBASF)を用いてそれぞれ形成した。
[0383]
次に、抵抗加熱を用いた蒸着法により、第2の層1512上に、発光層である第3の層1513を形成した。9-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]-9H-カルバゾール(略称:CzPA)と4-(10-フェニル-9-アントリル)-4’-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)トリフェニルアミン(略称:PCBAPA)とを共蒸着することにより第3の層1513を30nmの膜厚で形成した。ここで、CzPAとPCBAPAとの重量比は、1:0.10(=CzPA:PCBAPA)となるように蒸着レートを調節した。
[0384]
さらに、第3の層1513上に抵抗加熱による蒸着法を用いて、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(III)(略称:Alq)を10nm、その上にバソフェナントロリン(略称:BPhen)を20nmの膜厚となるように成膜し、電子輸送層である第4の層1514を形成した。
[0385]
第4の層1514上に、フッ化リチウム(LiF)を1nmの膜厚となるように成膜することにより、電子注入層である第5の層1515を形成した。
[0386]
最後に、抵抗加熱による蒸着法を用い、アルミニウムを200nmの膜厚となるように成膜することにより、第2の電極1504を形成し、発光素子1~発光素子5を作製した。
[0387]
以上により得られた発光素子1~発光素子5を、窒素雰囲気のグローブボックス内において、発光素子が大気に曝されないように封止する作業を行った後、これらの発光素子の動作特性について測定を行った。なお、測定は室温(25℃に保たれた雰囲気)で行った。
[0388]
発光素子1および発光素子2の電流密度-輝度特性を図19に示す。また、電圧-輝度特性を図20、輝度-電流効率特性を図21、電圧-電流特性を図22にそれぞれ示す。
[0389]
発光素子2は、駆動電圧が3.4Vのとき、輝度1277cd/m2、電流値は0.79mAであった。第2の層1512にNPBを用いた発光素子1と比較しても、第2の層1512にPCBA1BP(略称)を用いた発光素子2は、低駆動電圧を示していることがわかった。さらに電流効率が高いことがわかった。
・・・中略・・・
[0391]
また、発光素子2に関し、初期輝度を1000cd/m2として、定電流駆動による連続点灯試験を行った結果を図24に示す(縦軸は、1000cd/m2を100%とした時の相対輝度である)。図24の結果から、発光素子3は160時間後でも初期輝度の92%の輝度を保っており、発光素子1と比較しても長寿命であることがわかった。よって、本発明のPCBA1BP(略称)を適用することにより、長寿命な発光素子が得られる。
・・・中略・・・
[0393]
発光素子3は、駆動電圧が3.4Vのとき、輝度1328cd/m2、電流値は0.78mAであった。第2の層1512にNPBを用いた発光素子1と比較しても、第2の層1512にPCBBi1BP(略称)を用いた発光素子3は、低駆動電圧を示していることがわかった。さらに、電流効率が高いことがわかった。
・・・中略・・・
[0402]
以上より、本発明のカルバゾール誘導体を用いて形成した発光素子2~発光素子5は発光素子1と同等レベルの効率を示すことがわかった。よって、本発明を適用することにより、高効率な発光素子が得られることがわかった。
[0403]
また、本実施例に示した発光素子1の構造において、第1の層1511を形成する際に用いたNPB(略称)の代わりにPCBA1BP(略称)用い、酸化モリブデン(VI)と共蒸着して第1の層1511を形成した発光素子の効率、約1000cd/m2における駆動電圧、および信頼性は、実施例10においてNPBと酸化モリブデン(VI)の共蒸着膜を正孔注入層に用い、PCBBiNB(略称)を正孔輸送層に用いて形成した発光素子8と同等の良好な値が得られた(駆動電圧が3.8Vのとき、輝度949cd/m2、電流値は0.65mAであり、1500時間駆動で初期輝度の64%の輝度を保っていた)。
[0404]
このように、PCBA1BP(略称)は、正孔注入材料としても良好な材料であることがわかった。また酸化モリブデンとの共蒸着膜を正孔注入層として用いても良好な特性が得られることがわかった。
[0405]
さらに、本実施例に示した発光素子2の構造において、第1の層1511を形成する際に用いたNPB(略称)の代わりにPCBA1BP(略称)用い、酸化モリブデン(VI)と共蒸着して第1の層1511を形成した発光素子の効率、約1000cd/m2における駆動電圧、および信頼性は、実施例10においてNPBと酸化モリブデン(VI)の共蒸着膜を正孔注入層に用い、PCBBiNB(略称)を正孔輸送層に用いて形成した発光素子8と同等の良好な値が得られた(駆動電圧が3.6Vのとき、輝度843cd/m2、電流値は0.53mAであり、1500時間駆動で初期輝度の65%の輝度を保っていた)。
[0406]
このように、PCBA1BP(略称)は、正孔注入層である第1の層1511および正孔輸送層である第2の層1512の両方へ同時に用いることができる良好な材料であることがわかった。そのことにより、素子の作製が簡便となり、材料利用効率も向上させることができた。
・・・中略・・・
[0544]
また、発光素子8に関し、初期輝度を1000cd/m2として、定電流駆動による連続点灯試験を行った結果を図60に示す(縦軸は、1000cd/m2を100%とした時の相対輝度である)。図60の結果から、発光素子1と比較しても長寿命であることがわかった。よって、本発明を適用することにより、長寿命な発光素子が得られる。)
オ 「CLAIMS1. A carbazole derivative represented by a general formula (1),[図:0001400987000052.jpg]wherein α1, α2, α3, and α4 each represent an arylene group having less than or equal to 13 carbon atoms,wherein Ar1 and Ar2 each represent an aryl group having less than or equal to 13 carbon atoms,wherein R1 represents any of a hydrogen atom, an alkyl group having 1 to 6 carbon atoms, a substituted or unsubstituted phenyl group, and a substituted or unsubstituted biphenyl group,wherein R2 represents any of an alkyl group having 1 to 6 carbon atoms, a substituted or unsubstituted phenyl group, and a substituted or unsubstituted biphenyl group, andwherein l, m, and n are each independently 0 or 1.」
(参考訳:
請求の範囲
1. 一般式(1)で表されるカルバゾール誘導体。
(化学式の再掲は省略)
(式中、α1、α2、α3、α4は、環を形成する炭素数が13以下のアリーレン基を表し、Ar1、Ar2は、環を形成する炭素数が13以下のアリール基を表し、R1は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、置換又は無置換のフェニル基、置換又は無置換のビフェニル基のいずれかを表し、R2は、炭素数1~6のアルキル基、置換又は無置換のフェニル基、置換又は無置換のビフェニル基のいずれかを表す。また、l、m、nは、それぞれ独立に0または1である。))
カ 「FIG. 21[図:0001400987000053.jpg]」
キ 「FIG. 24[図:0001400987000054.jpg]」
(7)甲4発明
甲4の[0158]、[0171]、[0175]([表1])等には、実施例11として、「正孔注入材料」「H232」に代えて「化合物H11」を用いた、「正孔輸送材料を2層積層した」「正孔輸送層」を有する「有機EL素子」が記載されている。また、[表1]の記載から当該「有機EL素子」が青色素子であることが把握できる。また、甲4の[0053]の記載から、上記「有機EL素子」が「液晶ディスプレイ」に用いられるものであるといえる。
そうすると、甲4には、上記記載から把握される、次の「有機EL素子」の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
「25mm×75mm×1.1mm厚のITO透明電極付きガラス基板(ジオマティック社製)をイソプロピルアルコール中で超音波洗浄を5分間行なった後、UVオゾン洗浄を30分間行ない、洗浄後の透明電極ライン付きガラス基板を真空蒸着装置の基板ホルダーに装着し、まず透明電極ラインが形成されている側の面上に前記透明電極を覆うようにして下記化合物H11を蒸着し、この化合物H11膜上に下記化合物H4を蒸着して正孔輸送材料を2層積層した正孔輸送層を成膜し、さらに化合物EM1を蒸着し膜厚40nmの発光層を成膜し、同時に発光分子として、スチリル基を有するアミン化合物D1を、EM1とD1の重量比が40:2になるように蒸着し、この膜上に下記Alqを膜厚10nmに成膜し、この後、還元性ドーパントであるLi(Li源:サエスゲッター社製)とAlqを二元蒸着させ、電子注入層(陰極)としてAlq:Li膜(膜厚10nm)を形成し、このAlq:Li膜上に金属Alを蒸着させ金属陰極を形成した、青色素子であって、液晶ディスプレイに用いられる、有機EL素子。[図:0001400987000055.jpg][図:0001400987000056.jpg]」
(8)本件訂正発明11と甲4発明との対比
ア 陽極、陰極
甲4発明の「ITO透明電極」及び「金属陰極」は、技術的にみて、それぞれ、本件訂正発明11の「陽極」及び「陰極」に相当する。
イ 発光層及び電子注入層
甲4発明の「発光層」及び「電子注入層」は、その用語の意味するとおり、それぞれ、本件訂正発明11の「発光層」及び「電子注入層」に相当する。
ウ 発光層に隣接した正孔輸送層、発光層に隣接していない正孔輸送層及び複数の正孔輸送層
甲4発明の「正孔輸送材料を2層積層した正孔輸送層」は、「化合物H11」からなる層と、「化合物H4」からなる層の2層で構成されるものであるから、本件訂正発明11の「複数の正孔輸送層」に相当する。
また、「化合物H4」及び「化合物H11」の成膜の順序からみて、甲4発明の「化合物H4」からなる層及び「化合物H11」からなる層は、それぞれ、本件訂正発明11の「発光層に隣接した正孔輸送層」及び「発光層に隣接していない正孔輸送層」に相当する。
エ 化学式B-1で表される化合物
甲4発明における「発光層に隣接していない正孔輸送層」の材料である「化合物H11」と、本件訂正発明11の「化学式B-1で表される化合物」とを比較すると、甲4発明の「化合物H11」における下記の枠囲いの部分は、「化学式B-1」における「R1」又は「R2」に対応すると理解できる。しかしながら、本件訂正発明11の「R1およびR2」は、「水素、重水素、置換もしくは非置換のC1~C10アルキル基、または非置換のC6~C30アリール基」であることから、甲4発明の「化合物H11」は本件訂正発明11の「化学式B-1で表される化合物」に該当し得ない。
[図:0001400987000057.jpg]
(当合議体注:構造式中の枠囲いは当合議体が付した。)
オ 化学式11で表される化合物
甲4発明における「発光層に隣接した正孔輸送層」の材料である「化合物H4」と、本件訂正発明11の「化学式11で表される化合物」とを比較すると、甲4発明の「化合物H4」における下記の枠囲いの部分が、「化学式11」における「L1」に対応することが理解できる。しかしながら、本件訂正発明11の「L1」は、「単結合、置換もしくは非置換のC2~C6アルケニレン基、置換もしくは非置換のC2~C6アルキニレン基または置換もしくは非置換のC6~C30アリーレン基」であることから、甲4発明の「化合物H4」は本件訂正発明11の「化学式11で表される化合物」に該当し得ない。
[図:0001400987000058.jpg]
(当合議体注:構造式中の枠囲いは当合議体が付した。)
カ 有機薄膜層
甲4発明の「有機EL素子」における、「ITO透明電極」と「金属陰極」の間に位置する層が有機薄膜であることは技術常識に照らして明らかであり、上記層は、本件訂正発明11の「有機薄膜層」に相当する。
また、上記ア~オの構成より、甲4発明の上記層は、本件訂正発明11の「陽極、陰極、および前記陽極と陰極との間に形成され」るという要件、「発光層、正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層またはこれらの組み合わせを含み」という要件及び「発光層および複数の正孔輸送層を含み」という要件を満たす。
キ 有機光電子素子
上記ア~カに記載した構成からみて、甲4発明の「有機EL素子」は、本件訂正発明11の「有機光電子素子」に相当する。
また、甲4発明の「有機EL素子」は、「青色素子であ」るから、本件訂正発明11の「燐光素子又は青色素子である」という要件を満たす。
(9)一致点及び相違点
ア 一致点
本件訂正発明11と、甲4発明は、次の点で一致する。
「 陽極、陰極、および前記陽極と陰極との間に形成された少なくとも一層以上の有機薄膜層を含み、前記有機薄膜層は、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層またはこれらの組み合わせを含み、前記有機薄膜層は、発光層および複数の正孔輸送層を含む、有機光電子素子であって、燐光素子又は青色素子である、有機光電子素子。」
イ 相違点
本件訂正発明11と、甲4発明は、以下の点で相違する。
(相違点5-1-1)
「発光層に隣接した正孔輸送層」が、本件訂正発明11では、「化学式11で表される化合物を含み」、「前記化学式11で表される化合物は、燐光発光ホスト材料又は青色蛍光ホスト材料のイオン化ポテンシャルエネルギーより小さい」のに対して、甲4発明は、「化合物H4」が、「化学式11」の「L1」における「互いに独立して、単結合、置換もしくは非置換のC2~C6アルケニレン基、置換もしくは非置換のC2~C6アルキニレンまたは置換もしくは非置換のC6~C30アリーレン基であり」との要件を満たさないため、「化学式11で表される化合物」を含むものとはいえない点。
(当合議体注:上記「化学式11」は上記第3に示した構造式であって再掲しない。以降、「化学式B-1」についても同様に構造式の記載を省略する。)
(相違点5-1-2)
「発光層に隣接していない正孔輸送層のうちいずれか一つ」が、本件訂正発明11では、「化学式B-1で表される化合物を含」むものであるのに対して、甲4発明は、「化合物H11」が、「化学式B-1」の「R1」又は「R2」における「水素、重水素、置換もしくは非置換のC1~C10アルキル基、または非置換のC6~C30アリール基」との要件を満たさないため、「化学式B-1で表される化合物」を含むものとはいえない点。
(10)判断
ア 相違点5-1-1(化学式11)
(ア)甲4に基づく容易想到性
甲4の[請求項1]には、下記一般式(1)で表される置換基を有する芳香族アミン誘導体が記載されている。
[図:0001400987000059.jpg]
[(i)L1は置換もしくは無置換の環形成炭素数6~50のアリーレン基を表す。
(ii)L2は、単結合、または置換もしくは無置換の環形成炭素数6~50のアリーレン基を表す。
但し、L1およびL2の任意の置換基は炭素数1~10の直鎖もしくは分岐のアルキル基、環形成炭素数3~10のシクロアルキル基、炭素数3~30のトリアルキルシリル基、各アリール基の環形成炭素数6~10のトリアリールシリル基、炭素数8~24のアルキルアリールシリル基(アリール部分の環形成炭素数は6~14)、置換もしくは無置換の環形成炭素数6~30のアリール基、ハロゲン原子又はシアノ基である。複数の置換基は同じでも異なっていてもよい。
(iii)Aは下記一般式(2)~(5)
[化2]
[図:0001400987000060.jpg]
〔R1~R7はそれぞれ独立に、前記L1およびL2の任意の置換基と同じ置換基又は一般式<-L2-B(L2は前記と同じである。Bは下記Bと同じである)>である。
隣接した複数のR1~R7はそれぞれ結合して飽和もしくは不飽和の環を形成してもよい。dは0~4の整数である。a、b、c、eおよびfはそれぞれ独立に0~3の整数である。gは0~2の整数である。Ar1は置換または無置換の環形成炭素数6~14のアリール基を表す。
但し、Ar1の置換基はそれぞれ独立に前記L1およびL2の任意の置換基と同じ置換基である〕のいずれかの連結基である。
(iv)Bは下記一般式(6)~(9)
[化3]
[図:0001400987000061.jpg]
〔R8~R14はそれぞれ独立に、前記L1およびL2の任意の置換基と同じ置換基又は一般式<-L2-B(L2およびBは前記と同じである)>である。
隣接した複数のR8~R14はそれぞれ結合して飽和もしくは不飽和の環を形成してもよい。i、j、k、およびmはそれぞれ独立に0~4の整数である。h、l、およびnはそれぞれ独立に0~3の整数である。Ar2は置換もしくは無置換の環形成炭素数6~14のアリール基を表す。
但し、Ar2の置換基はそれぞれ独立に前記L1およびL2の任意の置換基と同じ置換基(ただし、アリール基は除く)およびフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、フェナントリル基のいずれかである。前記Aが一般式(5)で表わされる連結基であるとき、Bは前記一般式(6)で表わされる置換基である〕いずれかの置換基である]
また、同[0036]には、当該一般式(1)で表される置換基を有する芳香族アミン誘導体を有機EL素子用正孔輸送材料として用いること、同[0149]、[0155]~[0156]には、当該一般式(1)に該当する置換基を有する芳香族アミン誘導体として、下記化合物H13~H15及びH22を用いることが、それぞれ記載されている。
[図:0001400987000062.jpg]
(当合議体注:構造式中の枠囲いは当合議体が付した。)
甲4の上記記載に接した当業者であれば、甲4発明において、正孔輸送材料である芳香族アミン誘導体として、上記一般式(1)を満たす置換基を有する化合物が採用でき、その具体的な材料として、化合物H4とともに例示された、上記化合物H13~H15及び22が選択肢たり得ることを理解する。
化合物H13~H15及びH22において、上記の枠囲いの部分は、本件訂正発明11における「化学式11」における「R1」又は「R2」に対応することが理解できる。しかしながら、本件訂正発明11の「R1およびR2」は、「水素、重水素、置換もしくは非置換のC1~C20アルキル基、非置換のC6~C30アリール基、または置換もしくは非置換のC3~C40シリル基」であり、上記の枠囲いの部分と異なる。そうすると、化合物H13~H15及びH22は、本件訂正発明11の「化学式11で表される化合物」に該当し得ない。
また、そもそも、甲4の一般式(1)で表される置換基を有する芳香族アミン誘導体は、本件訂正発明11における「化学式11で表される化合物」に該当し得ない。
すなわち、甲4の一般式(1)の「A」における一般式(2)の連結基が、本件訂正発明11における「化学式11」のジベンゾフラン構造(X1がOである構造)に対応すると考えた場合、当該一般式(1)の「L2-B」が当該「化学式11」の「R1」又は「R2」に対応する。しかしながら、甲4の一般式(1)の「L2は、単結合、または置換もしくは無置換の環形成炭素数6~50のアリーレン基」であり、「B」は、一般式(6)~(9)に示されるとおりヘテロアリール基である。そうすると、本件訂正発明11の「R1およびR2」は、「水素、重水素、置換もしくは非置換のC1~C20アルキル基、非置換のC6~C30アリール基、または置換もしくは非置換のC3~C40シリル基」であるので、甲4の「L2-B」に該当し得ない。
また、甲4の一般式(1)の「B」の一般式(6)の置換基が、本件訂正発明11における「化学式11」のジベンゾフラン構造に対応すると考えた場合、当該一般式(1)の「L1-A-L2」が当該「化学式11」の「(L1)n1」に対応する。しかしながら、甲4の一般式(1)の「L1は置換もしくは無置換の環形成炭素数6~50のアリーレン基」であり、「L2は、単結合、または置換もしくは無置換の環形成炭素数6~50のアリーレン基」であり、「A」は、一般式(2)~(5)に示されるとおりヘテロアリーレン基である。そうすると、本件訂正発明11の「L1」は、「単結合、置換もしくは非置換のC2~C6アルケニレン基、置換もしくは非置換のC2~C6アルキニレン基または置換もしくは非置換のC6~C30アリーレン基」であるので、当該「(L1)n1」は、甲4の「L1-A-L2」に該当し得ない。
したがって、仮に、甲4発明において、発光層に隣接した正孔輸送層に含まれる正孔輸送材料として、「化合物H4」に代えて上記化合物H13~H15及びH22のいずれか、又は、一般式(1)で表される置換基を有する芳香族アミン誘導体を採用したとしても、上記相違点5-1-1に係る本件訂正発明11の「化学式11で表される化合物を含む」という構成には至らない。
(イ)甲6に基づく容易想到性
甲6に記載される「フルオレニルアミン化合物」は、本件訂正発明11の化学式11においてX1(OまたはS)を含む骨格を含んでいない。
したがって、仮に、甲4発明において、発光層に隣接した正孔輸送層に含まれる正孔輸送材料として、「化合物H4」に代えて甲6に記載される「フルオレニルアミン化合物」を採用したとしても、上記相違点5-1-1に係る本件訂正発明11の「化学式11で表される化合物を含む」という構成には至らない。
(ウ)甲7に基づく容易想到性
a 相違点5-1-1に関する甲7の記載
甲7の[請求項1]には、「陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に設けられた有機薄膜層と、を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記有機薄膜層は、ホスト材料と発光材料とを含有する発光層と、前記発光層よりも前記陽極側に設けられた正孔輸送層と、を有し、前記正孔輸送層は、前記陽極から順に、第1正孔輸送層および第2正孔輸送層を有し、前記第1正孔輸送層は下記一般式(1)で表される化合物を含有し、前記第2正孔輸送層は下記一般式(2)で表される化合物を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。」が記載されている。
また、同[0147]~[0155]には、同[請求項1]に係る発明を具現化した発明として、実施例1-1、1-3~1-6において、「陽極」、「第1正孔輸送層」、「第2正孔輸送層」、「発光層」をこの順に有し、「第1正孔輸送層」を形成する材料として「X1」、「第2正孔輸送層」を形成する材料として「Y1-1」又は「Y1-3」~「Y1-6」、ホスト材料として「化合物H1」、燐光発光材料として「化合物D1」を用いた「有機EL素子」が記載されている。同[0176]には、「本発明所定の化合物を用いて第1正孔輸送層、第2正孔輸送層を形成」することで、「素子寿命が向上する効果が得られ」ることが記載されている。
b 甲7に記載された技術的事項
甲7の上記aの各記載によれば、甲7には、以下の技術的事項が記載されていると認められる。
有機EL素子の長寿命化を課題としたものであるところ(甲7の[0005])、その解決手段として、「第2正孔輸送層」が「一般式(2)で表される化合物」を含有する場合は、それと同時に「第1正孔輸送層」が「一般式(1)で表される化合物」を含有することに技術的特徴を有すること(同[0006]、[0024]及び[0039])。(以下「甲7記載事項」という。)
c 甲7記載事項と相違点5-1-1との関係
折りたたみ中(クリックで表示)
甲7の「第1正孔輸送層」及び「第2正孔輸送層」は、本件訂正発明11の「発光層に隣接していない正孔輸送層」及び「発光層に隣接した正孔輸送層」に相当する。
甲7の「第2正孔輸送層」に用いられる「Y1-1」及び「Y1-3」~「Y1-6」は、いずれも、本件訂正発明11の「化学式11で表される化合物」に該当する。例えば、下記構造である甲7の「Y1-3」は、本件訂正発明11の「化学式11」のうち、「X1」が「O」、「R1およびR2」が「水素」、「Ar1およびAr2」が「非置換のC2~C30ヘテロアリール基」、「L1~L3」が「非置換のC6~C30アリーレン基」、「n1~n3」が1である化合物に相当する。
[図:0001400987000063.jpg]
d 判断
甲7記載事項を踏まえると、甲7に接した当業者が、甲7の「第2正孔輸送層」の化合物を「発光層に隣接した正孔輸送層」に用いて長寿命化を図ろうとするならば、それと同時に、甲7の「第1正孔輸送層」の化合物も「発光層に隣接していない正孔輸送層」に用いると理解される。
一方、甲4発明は、甲7と同様に、長寿命化が課題であるものの(甲4の[0004]及び[0006])、甲4の[請求項1]に記載のとおり、一般式(1)で表される置換基を有する芳香族アミン誘導体を用いることに技術的特徴がある。しかし、そもそも甲7の「一般式(1)で表される化合物」、「一般式(2)で表される化合物」、「X1」、「Y1-1」、「Y1-3」~「Y1-6」は、いずれも、甲4の[請求項1]の一般式(1)で表される置換基を有する芳香族アミン誘導体には該当しない。
よって、甲4発明において、「発光層に隣接していない正孔輸送層」の化合物を甲7の「第1正孔輸送層」の化合物とし、それと同時に、「発光層に隣接していない正孔輸送層」の化合物を甲7の「第2正孔輸送層」の化合物とすることは、甲4の[請求項1]の一般式(1)で表される置換基を有する芳香族アミン誘導体を用いるという、甲4発明の前提を崩すことを意味するから、甲4発明をそのように変更する動機付けは見出し難い。
したがって、甲4発明において、甲7に記載の技術的事項を適用して上記相違点5-1-1に係る本件訂正発明11の「化学式11で表される化合物を含む」という構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。
(エ)甲8に基づく容易想到性
a 相違点5-1-1に関する甲8の記載
甲8の[請求項1]には、「基板と、前記基板平面に対して並列に配置されてなる第1の発光素子及び第2の発光素子を有する有機EL多色発光装置であって、
前記第1の発光素子は、陽極と陰極の間に、陽極側から、第1の有機層、第2の有機層及び第3の有機層を、前記基板平面に対して垂直方向にこの順に有し、
前記第2の発光素子は、陽極と陰極の間に、陽極側から、第2の有機層及び第3の有機層を、前記基板平面に対して垂直方向にこの順に有し、
前記第1の有機層は、第1の発光ドーパントを含み、
前記第3の有機層は、第2の発光ドーパントを含み、
前記第2の有機層は、それぞれ下記(A)~(D)の化合物のいずれかを含む有機EL多色発光装置。」が記載されている。
また、同[0094]~[0107]には、同[請求項1]に係る発明を具現化した実施例1~3、5、7、11において、「陽極」、「正孔注入層」、「正孔輸送層」、「第2の隣接層(第2の有機層)」、「第2の発光層(青発光層)」をこの順に有し、「第2の隣接層(第2の有機層)」の材料として「化合物1」、「化合物8」~「化合物9」、「化合物11」、「化合物14」及び「化合物18」、「青発光層」の材料として「ホスト材EM1」を用いた「第2の発光素子(青色蛍光発光素子)」と、「第1隣接層(第2の有機層)の材料として第2隣接層の材料と同じ化合物」を用いた「第1の発光素子(緑色燐光発光素子)」が記載されている。同[0109]には、当該「隣接層」に用いた化合物について、「第2の発光素子(青)および第1の発光素子(緑)の効率はいずれも良好である。これは、第2の発光素子(青)の発光層への正孔が十分注入されつつ、第1の発光素子(緑)の発光層へは電子が十分注入されるためと推定する。」という効果が記載されている。
b 甲8に記載された技術的事項
甲8の上記aの各記載によれば、甲8には以下の技術的事項が記載されていると認められる。
「基板と、前記基板平面に対して並列に配置されてなる第1の発光素子及び第2の発光素子を有する有機EL多色発光装置有機EL素子」を前提とし([請求項1]及び[0012])、「第1の発光素子の第2の有機層と、第2の発光素子の第2の有機層」が「同一層」であることで「生産性を向上」させることができ([0030])、両者の「第2の有機層」は「同一が好まし」く([0012])、「第2の有機層の化合物は、正孔注入性及び正孔輸送性、並びに電子注入性及び電子輸送性の両者の機能を有する。これにより、第1の発光素子の第2の有機層は、電子注入性及び電子輸送性を有し、第2の発光素子の第2の有機層では正孔注入性及び正孔輸送性を有する。」(([0019])ことに技術的特徴を有すること。(以下、「甲8記載事項」という。)
c 甲8記載事項と相違点5-1-1との関係
折りたたみ中(クリックで表示)
甲8の「第2の隣接層(第2の有機層)」及び「正孔輸送層」は、それぞれ、本件訂正発明11の「発光層に隣接した正孔輸送層」及び「発光層に隣接していない正孔輸送層」に相当する。
甲8の「化合物1」、「化合物8」~「化合物9」、「化合物11」、「化合物14」及び「化合物18」は、いずれも、本件訂正発明11の「化学式11で表される化合物」に該当する。例えば、下記構造である甲8の「化合物8」は、本件訂正発明11の「化学式11」のうち、「X1」が「O」、「R1およびR2」が「水素」、「Ar1およびAr2」が「非置換のC2~C30ヘテロアリール基」、「L1~L3」が「非置換のC6~C30アリーレン基」、「n1~n3」が1である化合物に相当する。
[図:0001400987000064.jpg]
d 判断
甲8記載事項を踏まえると、甲8に接した当業者は、甲8に記載の技術的事項は、「基板と、前記基板平面に対して並列に配置されてなる第1の発光素子及び第2の発光素子を有する有機EL多色発光装置有機EL素子」に特有の効果を奏するものであると理解する。
一方、甲4発明は、「基板と、前記基板平面に対して並列に配置されてなる第1の発光素子及び第2の発光素子を有する有機EL多色発光装置有機EL素子」ではないため、「第1の発光素子」のための「電子注入性及び電子輸送性」が必要とされるものではない。
よって、甲4発明において、「発光層に隣接していない正孔輸送層」の化合物の材料変更を試みる当業者が甲8を参考にすることはない。
したがって、甲4発明において、甲8に記載の技術的事項を適用して上記相違点5-1-1に係る本件訂正発明11の「化学式11で表される化合物を含む」という構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。
(オ)相違点5-1-1のまとめ
相違点5-1-1に係る構成は、甲4発明並びに甲4及び甲6~甲8に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。
イ 相違点5-1-2(化学式B-1)
(ア)甲9に記載された化合物と「化学式B-1」の関係
甲9の[224]~[227]には、「下記化学式A-1~A-305、A-414~A-416、A-457、A-458またはA-469~A-473で表される化合物の少なくとも一つを含みうる。下記のような構造は、カルバゾリルの優れた正孔輸送性と共に分子全体の非対称性により薄膜特性に優れ、熱的安定性が増加できる。したがって、有機発光ダイオードの正孔注入層および正孔輸送層(HTL)に使用する場合、長寿命、高効率を示す。」と記載されている。
また、甲9の[774]には、実施例41~44、47、48として、「A-10」~「A-13」、「A-18」~「A-19」を「正孔輸送層」に用いた有機発光ダイオードについて、電圧、色、効率、半減寿命が優れることを確認したことが記載されている。
甲9の「A-10」~「A-13」、「A-18」~「A-19」で表される化合物は、本件訂正発明11の「化学式B-1で表される化合物」に相当する。例えば、下記構造である甲9の「A-10」は、本件訂正発明11の「化学式B-1」のうち、「R1~R4」が「水素」、「Ar1」及び「Ar2」が「非置換のC6~30アリール基」、「Ar3」が下記枠囲いの部分であって「炭素数2~30のヘテロアリール基」で「置換」された「C6~C30アリール基」、「L1~L4」が「非置換のC6~C30アリーレン基」、「n1」及び「n3」が0、「n2」及び「n4」が1である化合物に相当する。
[図:0001400987000065.jpg]
(イ)甲10に記載された化合物と「化学式B-1」の関係
甲10の[0267]及び[0268]には、構造式(5)で表される「カルバゾール誘導体」である「PCBA1BP」が記載されている。
また、甲10の[0304]及び[0305]には、構造式(6)で表される「PCBBi1BP」が記載されている。甲10の[0336]には、構造式(6)で表される「PCBBi1BP」が、結晶化し難い物質であることが記載されている。
さらに、甲10の[0020]には、「発光層、正孔輸送層、正孔注入層の少なくとも一に・・・中略・・・カルバゾール誘導体を含む」と記載されている。
そして、甲10の[0376]~[0386](実施例5)には、「正孔輸送層である第2の層1512」として、「発光素子2」を形成する場合は構造式(5)で表される「PCBA1BP」を、「発光素子3」を形成する場合は構造式(6)で表される「PCBBi1BP」を用いることがそれぞれ記載されている。
甲10の構造式(5)で表される「PCBA1BP」は、本件訂正発明11の「化学式B-1」のうち、「R1~R4」が「水素」、「Ar1~Ar3」が「非置換のC6~C30アリール基」、「L1~L4」が「非置換のC6~C30アリーレン基」、「n1」及び「n3」が0、「n2」及び「n4」が1である化合物に相当する。
甲10の構造式(6)で表される「PCBBi1BP」は、本件訂正発明11の「化学式11」のうち、「R1~R4」が「水素」、「Ar1~Ar3」が「非置換のC6~C30アリール基」、「L1~L4」が「非置換のC6~C30アリーレン基」、「n1」が0、「n2」~「n4」が1である化合物に相当で表される化合物」に相当するものである(当合議体注:甲10の構造式(6)で表される「PCBBi1BP」は、本件明細書の実施例で用いられている化合物「HT-1」と同じものである。)。
(ウ)甲9又は甲10に基づく容易想到性
仮に、甲4発明に、甲7又は甲8に記載された事項を適用して、相違点5-1-1に係る本件訂正発明11の構成とすることには、一応の動機付けがある場合、甲4発明において、「発光層に隣接した正孔輸送層」の化合物を甲7又は甲8の「化学式11で表される化合物」とし、それと同時に、「発光層に隣接していない正孔輸送層」の化合物を甲9又は甲10の「化学式B-1で表される化合物」とする変更になる。
しかしながら、甲7又は甲8の「化学式11で表される化合物」も、甲9又は甲10の「化学式B-1で表される化合物」も、いずれも、甲4の[請求項1]の一般式(1)で表される置換基を有する芳香族アミン誘導体に該当しない。
そうすると、上記下線部の変更を行うことは、甲4の[請求項1]の「一般式(1)」「で表される置換基を有することを特徴とする芳香族アミン誘導体」を用いるという、甲4発明の前提を崩すことを意味するから、甲4発明をそのように変更する動機付けは見出し難い。
したがって、甲4発明において、甲7又は甲8に記載の技術的事項を適用して相違点5-1-1に係る構成を採用した上で、甲9又は甲10に記載の技術的事項を適用し、上記相違点5-1-2に係る本件特許発明11の「化学式B-1で表される化合物を含む」という構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。
ウ 相違点の検討のまとめ
本件特許発明11は、甲4発明並びに甲4及び甲6~甲10に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。
(11)請求人の主張について
ア 甲4について
請求人は、令和5年2月3日付け審判事件弁駁書の第9~10頁において、「しかし、甲4発明の請求項1では、下記一般式(1)・・・中略・・・中のBについて、下記一般式(6)~(9)のいずれかの置換基であると定義されている。・・・中略・・・前記H13~H15及びH22の化合物の四角で囲った部位には上記一般式(7)又は一般式(8)に対応する基が含まれているが、これらの基は、上記一般式(6)又は一般式(9)で表される置換基であってもよいことが示されている。そのため、前記H13~H15及びH22の化合物の四角で囲った部位のカルバゾリル基を上記一般式(6)又は一般式(9)で表される置換基に置換することは容易であって、そのような化合物は本件訂正発明11における化学式11で表される化合物に含まれるから、本件訂正発明11は依然として甲4発明から容易に想到し得るものである。」と主張する。
ここで、「前記H13~H15及びH22の化合物の四角で囲った部位のカルバゾリル基を上記一般式(6)又は一般式(9)で表される置換基に置換」した化合物は、当該「一般式(6)又は一般式(9)で表される置換基」が、本件訂正発明11の「化学式11」の「R1」又は「R2」に対応すると理解できる。
しかしながら、本件訂正発明11の当該「R1」及び「R2」は、「水素、重水素、置換もしくは非置換のC1~C10アルキル基、または非置換のC6~C30アリール基」であるところ、「一般式(6)又は一般式(9)で表される置換基」はヘテロアリール基であって当該「R1」及び「R2」に該当しない。
そうすると、「前記H13~H15及びH22の化合物の四角で囲った部位のカルバゾリル基を上記一般式(6)又は一般式(9)で表される置換基に置換」した化合物は、本件訂正発明11の「化学式11で表される化合物」ではない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。
イ 乙2について
被請求人が提出した乙2は、上記1(3)イと同様に、「化合物F-127」を、「発光層に隣接した正孔輸送層」に使用した実施例に係る実験成績証明書であって、本件訂正発明11が有利な効果を奏することを立証趣旨とした証拠であるが、その記載内容にかかわらず、本件訂正発明11は、上記(10)ウに記載のとおり、甲4発明並びに甲4及び甲6~甲10に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではないものである。
なお、「化合物F-127」を使用する乙2が参酌できるか否かについて当事者間に争いがあるため、念のため合議体の見解を示すと、上記1(3)イと同様に、「化合物F-127」は、本件訂正発明11の「化学式11で表される化合物」に該当しないので、乙2は、本件訂正発明11の効果を推認し得る証拠として参酌できない。
(12)小括
したがって、本件訂正発明11は、甲4に記載された発明並びに甲4及び甲6~甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。
(13)本件訂正発明12~13及び20について
本件訂正発明12~13及び20は、本件訂正発明11に対して、さらに他の発明特定事項を付加したものである。
そうすると、これらの発明と甲4発明を対比しても、相違点5-1-1と相違点5-1-2が抽出されることになり、その判断は、上記(10)~(12)と同様である。
よって、本件訂正発明12~13及び20は、甲4に記載された発明並びに甲4及び甲6~甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。
(14)無効理由5-1についてのまとめ
無効理由5-1には理由がない。
3 無効理由5-5(進歩性)について
(1)甲7号証の記載
甲7の記載は、上記2(3)に記載したとおりのものである。
(2)甲7発明
甲7の[0147]~[0149]、[0152]には、「実施例1-3」の「有機EL素子」を、「実施例1-1において、第2正孔輸送層として、Y1-3(Af:2.45eV、Eg(S):3.17eV、Ip:5.62eV、Eg(T):2.63eV)を用いた以外は、実施例1-1と同様にして」作製することが記載されている。また、甲7の[0152]の記載から当該「有機EL素子」は燐光素子であり、[0020]の記載からは、「フルカラーディスプレイ」に適用可能なものであることが理解できる。
そうすると、甲7には、上記記載から把握される、次の「有機EL素子」の発明(以下「甲7発明」という。)が記載されていると認められる。
「 25mm×75mm×1.1mm厚のITO透明電極付きガラス基板(旭硝子製)に、イソプロピルアルコール中で5分間の超音波洗浄をした後、30分間のUVオゾン洗浄を行ない、洗浄後の透明電極ライン付きガラス基板を真空蒸着装置の基板ホルダーに装着し、まず透明電極ラインが形成されている側の面上に、第1正孔輸送層として前記透明電極を覆うようにして膜厚40nmの下記化合物X1を抵抗加熱により成膜し、第1正孔輸送層の成膜に続けて、第2正孔輸送層としてこの膜上に膜厚20nmで、下記化合物Y1-3(Af:2.48eV、Eg(S):3.12eV、Ip:5.60eV)を抵抗加熱により成膜し、さらに、この第2正孔輸送層上に膜厚40nmで、ホスト材料として化合物H1、燐光発光材料として化合物D1を、抵抗加熱により共蒸着して発光層を形成し、続きを表示(全13行)さらに、この発光層上に膜厚10nmで、化合物HBを、抵抗加熱により共蒸着して正孔障壁層を形成し、そして、この正孔障壁層成膜に続けて化合物ET1を膜厚30nmで成膜して電子輸送層を形成し、次に、LiFを電子注入性電極(陰極)として成膜速度0.1オングストレーム/minで膜厚を1nmとし、このLiF膜上に金属Alを蒸着させ、金属陰極を膜厚80nmで形成した、燐光素子であり、フルカラーディスプレイに適用可能である、有機EL素子。[図:0001400987000066.jpg][図:0001400987000067.jpg][図:0001400987000068.jpg]」
(3)本件訂正発明11と甲7発明との対比
ア 陽極、陰極
甲7発明の「ITO透明電極付きガラス基板」及び「金属陰極」は、技術的にみて、それぞれ、本件訂正発明11の「陽極」及び「陰極」に相当する。
イ 発光層及び電子輸送層
甲7発明の「発光層」及び「電子輸送層」は、その用語が意味するとおり、それぞれ、本件訂正発明11の「発光層」及び「電子輸送層」に相当する。
ウ 化学式11で表される化合物
甲7発明の「化合物Y1-3」は、上記2(10)ア(ウ)のとおり、本件訂正発明11の「化学式11で表される化合物」に該当する。
エ 化学式B-1で表される化合物
甲7発明における「化合物X1」と、本件訂正発明11の「化学式B-1」とを比較すると、「化合物X1」は、「化学式B-1」に含まれるカルバゾール骨格を含んでいない。よって、甲7発明の「化合物X1」は、本件訂正発明11の「化学式B-1で表される化合物」に該当しない。
オ 複数の正孔輸送層
甲7発明の「第2正孔輸送層」及び「第1正孔輸送層」は、本件訂正発明11の「複数の正孔輸送層」に相当する。
また、「第2正孔輸送層」及び「第1正孔輸送層」の成膜の順序からみて、甲7発明の「第2正孔輸送層」及び「第1正孔輸送層」は、それぞれ、本件訂正発明11の「発光層に隣接した正孔輸送層」及び「発光層に隣接していない正孔輸送層」に相当する。
さらに、甲7発明の「第2正孔輸送層」の材料である「化合物Y1-3」は上記ウに記載したとおり、「化学式11で表される化合物」であることから、甲7発明は、本件訂正発明11の「前記複数の正孔輸送層のうち、前記発光層に隣接した正孔輸送層は、下記の化学式11で表される化合物を含む」という要件を満たす。
カ 有機薄膜層
甲7発明の「有機EL素子」における、「ITO透明電極付きガラス基板」と「金属陰極」の間に位置する、「第1正孔輸送層」、「第2正孔輸送層」、「発光層」及び「電子輸送層」が有機薄膜であることは技術常識に照らして明らかであり、上記層は、本件訂正発明11の「有機薄膜層」に相当する。
また、上記ア~オの構成より、甲7発明の上記層は、本件訂正発明11の「陽極、陰極、および前記陽極と陰極との間に形成され」るという要件、「発光層、正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層またはこれらの組み合わせを含み」という要件及び「発光層および複数の正孔輸送層を含み」という要件を満たす。
キ 有機光電子素子
上記ア~カに記載した構成からみて、甲7発明の「有機EL素子」は、本件訂正発明11の「有機光電子素子」に相当する。
また、技術的にみて、甲7発明の「有機EL素子」は、燐光素子であり、本件訂正発明11の「燐光素子又は青色素子である」という要件を満たす。
ク ホスト材料
甲7発明の「ホスト材料」である「化合物H1」は、燐光素子の「ホスト材料」であるので、本件訂正発明11の「燐光発光ホスト材料」に相当する。
(4)一致点及び相違点
ア 一致点
本件訂正発明11と、甲7発明は、次の点で一致する。
「 陽極、陰極、および前記陽極と陰極との間に形成された少なくとも一層以上の有機薄膜層を含み、前記有機薄膜層は、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層またはこれらの組み合わせを含み、前記有機薄膜層は、発光層および複数の正孔輸送層を含み、前記複数の正孔輸送層のうち、前記発光層に隣接した正孔輸送層は、下記の化学式11で表される化合物を含むものである有機光電子素子であって、燐光素子又は青色素子である、有機光電子素子。」
イ 相違点
本件訂正発明11と、甲7発明は、以下の点で相違する。
(相違点5-5-1)
本件訂正発明11では、「前記発光層に隣接していない正孔輸送層のうちいずれか一つは、下記の化学式B-1で表される化合物を含むものである」のに対して、甲7発明は、「化合物X1」が、カルバゾール骨格を含んでいないため、「化学式B-1で表される化合物を含むもの」とはいえない点。
(相違点5-5-2)
本件訂正発明11では、「前記化学式11で表される化合物は、燐光発光ホスト材料又は青色蛍光ホスト材料のイオン化ポテンシャルエネルギーより小さい」のに対して、甲7発明は、「Y1-3」と「化合物H1」とのイオン化ポテンシャルエネルギーの大小関係が明らかでないため、「前記化学式11で表される化合物は、燐光発光ホスト材料」「のイオン化ポテンシャルエネルギーより小さい」といえるか否か一応明らかでない点。
(5)判断
ア 相違点5-5-1(化学式B-1)
(ア)甲9に基づく容易想到性
上記2(10)イ(ア)のとおり、甲9には、「化学式A-1~A-305、A-414~A-416、A-457、A-458またはA-469~A-473で表される化合物」が記載されるとともに、「A-10」~「A-13」及び「A-18」~「A-19」で表される化合物は、甲9の実施例で「正孔輸送層」に用いられ、電圧、色、効率、半減寿命が優れることを確認されたものであって、本件訂正発明11の「化学式B-1で表される化合物」に相当するものである。
当業者であれば、各種特性向上を確実に実現するため、甲9に記載された「化学式A-1~A-305、A-414~A-416、A-457、A-458またはA-469~A-473で表される化合物」の中から、実施例で具体的に特性が確かめられた「A-10」~「A-13」及び「A-18」~「A-19」で表される化合物を優先して採用するといえる。
しかし、甲9の「A-10」~「A-13」、「A-18」~「A-19」で表される化合物は、いずれも、甲7の[請求項1]の「第1正孔輸送層」に含有される「一般式(1)で表される化合物」には該当しない。
よって、甲7発明において、「発光層に隣接していない正孔輸送層」である「第1正孔輸送層」に含まれる「X1」を、甲9の「A-10」~「A-13」、「A-18」~「A-19」のいずれかで表される化合物とすることは、甲7の「一般式(1)で表される化合物」を「第1正孔輸送層」に用いるという、甲7発明の前提を崩すことを意味するから、甲7発明をそのように変更する動機付けが見出し難い。
また、甲7の[0143]には、「第1正孔輸送層」と「陽極」との間に「正孔注入層」を設けることが示唆されている。
しかしながら、本件訂正後の請求項の記載によれば、本件訂正発明11の「正孔輸送層」と「正孔注入層」は別の層と理解されるから、甲7の[0143]の示唆に基づいて、甲7発明において、甲9の「A-10」~「A-13」、「A-18」~「A-19」のいずれかで表される化合物を「正孔注入層」に用いたとしても、上記相違点5-5-1に係る本件訂正発明11の構成に至らない。
したがって、甲7発明において、甲9に記載の技術的事項を適用して上記相違点5-5-1に係る本件訂正発明11の「化学式B-1で表される化合物を含む」という構成とすることは、当業者が容易になし得たものではない。
(イ)甲10に基づく容易想到性
上記2(10)イ(イ)のとおり、甲10の「カルバゾール誘導体」であって構造式(5)で表される「PCBA1BP」と構造式(6)で表される「PCBBi1BP」は、いずれも、本件訂正発明11の「化学式B-1で表される化合物」に相当する。
しかし、甲10のこれらの化合物は、いずれも、甲7の[請求項1]の「第1正孔輸送層」に含有される「一般式(1)で表される化合物」には該当しない。
そうすると、上記(ア)と同様の理由から、甲7発明において、「発光層に隣接していない正孔輸送層」である「第1正孔輸送層」に含まれる「X1」を、甲10のこれらの化合物のいずれかとすることは、甲7の「一般式(1)で表される化合物」を「第1正孔輸送層」に用いるという、甲7発明の前提を崩すことを意味するから、甲7発明をそのように変更する動機付けが見出し難い。
また、甲7発明に、甲10の上記化合物を用いた「正孔注入層」を導入したとしても、上記(ア)と同様の理由から、上記相違点5-5-1に係る本件訂正発明11の構成に至らない。
当業者であれば、各種特性向上を確実に実現するため、甲10に記載された「カルバゾール誘導体」の中から、実施例で具体的に特性が確かめられた化合物を優先して採用するといえるところ、甲10の「カルバゾール誘導体」について、実施例に記載された構造式(5)や(6)以外の化合物についてみても、甲7発明に適用する動機付けが見出し難い点は上記と同様である。
したがって、甲7発明において、甲10に記載の技術的事項を適用して上記相違点5-5-1に係る本件訂正発明11の「化学式B-1で表される化合物を含む」という構成とすることは、当業者が容易になし得たものではない。
(ウ)相違点5-5-1のまとめ
相違点5-5-1に係る構成は、甲7発明及び甲9~甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。
イ 相違点5-5-2(イオン化ポテンシャルエネルギー)
上記1(2)エ(イ)に示したとおり、発光層側の正孔輸送層に含まれる正孔輸送層の正孔輸送材料は、発光層のホスト材料のイオン化ポテンシャルエネルギーより小さいことが技術常識である。加えて、甲7発明の「Y1-3」と、「ホスト材料」である「化合物H1」の構造も併せ考慮すると、甲7発明の「Y1-3」は、「ホスト材料」である「化合物H1」のイオン化ポテンシャルエネルギーより小さい蓋然性が高い。
そうすると、甲7発明は、本件訂正発明11の「燐光発光ホスト材料」「のイオン化ポテンシャルエネルギーより小さい」という要件を満たすといえるので、上記相違点5-5-2は、実質的な相違点ではない。
仮に、上記相違点5-5-2が実質的な相違点であったとしても、上記1(2)エ(イ)に示したとおり、発光層側の正孔輸送層に含まれる正孔輸送層の正孔輸送材料は、発光層のホスト材料のイオン化ポテンシャルエネルギーより小さいことが技術常識であるから、発光層のホスト材料を変更して、甲7発明の「Y1-3」が、「燐光発光ホスト材料」の「イオン化ポテンシャルエネルギーより小さい」とするようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
ウ 相違点の検討のまとめ
上記イのとおり、相違点5-5-2に係る構成は、実質的な相違点ではないか、当業者が容易に想到し得たことである。
しかしながら、上記アのとおり、相違点5-5-1に係る構成は、甲7発明及び甲9~甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。
したがって、本件特許発明11は、甲7発明及び甲9~甲10に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。
(6)本件訂正発明11の効果について
ア 本件明細書の発明の詳細な説明から理解される効果
上記1(2)オ(イ)に示したように、本件訂正発明11が奏する効果は、本件明細書の発明の詳細な説明の【0090】等の記載から、「発光層および複数の正孔輸送層を含み、前記複数の正孔輸送層のうち、前記発光層に隣接した正孔輸送層は、」「化学式11で表される化合物」を含み、「前記発光層に隣接していない正孔輸送層のうちのいずれか一つは、」「化学式B-1で表される化合物」を含むものである「有機光電子素子」とすることで、「化学式11で表される化合物」のイオン化ポテンシャルエネルギーが、「化学式B-1で表される化合物」よりも大きく、「燐光発光ホスト材料または青色蛍光ホスト材料」よりも小さいという階段構成を備えることを可能とすることにより、素子の高効率及び長寿命特性を達成できるというものであると理解される。
さらに、本件明細書の発明の詳細な説明の【0192】等の記載から、本件訂正発明11は、「化学式11で表される化合物」と「化学式B-1で表される化合物」を採用することにより、寿命特性、効率特性、電気化学安定性、熱的安定性及び駆動電圧に関する特性が優れると理解される。そして、これらの効果は、本件明細書の発明の詳細な説明の実施例によって裏付けられている。
以上によれば、結局、寿命特性、効率特性、電気化学安定性、熱的安定性及び駆動電圧に関する特性が優れるという、本件訂正発明11の効果は、イオン化ポテンシャルエネルギーの階段構成を備えたことに加えて、「化学式11で表される化合物」と「化学式B-1で表される化合物」の化合物自体の構造に起因する寿命特性、効率特性、電気化学安定性、熱的安定性及び駆動電圧に関する効果といえる。
イ 乙4について
乙4は、甲7発明との関係で被請求人が提出した実験成績証明書であって、そこには、以下の記載がある。
「4.実験の目的甲第7号証に記載される化合物が発光層に隣接していない正孔輸送層として使用された場合の駆動電圧、発光効率及び半減寿命を、緑色燐光素子及び赤色燐光素子において確認するとともに、追加の実施例を示しながら訂正後の特許第6323815号の特許請求の範囲に記載される化学式B-1で表される化合物が発光層に隣接していない正孔輸送層として使用された場合に、甲第7号証に記載される化合物が発光層に隣接していない正孔輸送層として使用された場合より、優れた駆動電圧、発光効率及び半減寿命を示すことを、本件特許明細書に記載した実施例と比較することによって確認する。5.実験内容(1)正孔輸送層に使用した化合物続きを表示(全46行)下記化合物のいずれかを正孔輸送層又は正孔注入層に使用した。[図:0001400987000069.jpg](2)その他の使用化合物1.緑色燐光素子の製造に使用したその他の化合物は下記のとおりである。[図:0001400987000070.jpg]・・・中略・・・2.赤色燐光素子の製造に使用したその他の化合物は下記のとおりである。・・・中略・・・[図:0001400987000071.jpg][図:0001400987000072.jpg]・・・中略・・・(3)素子の製造方法緑色燐光素子の製造方法1.緑色燐光素子の製造方法緑色燐光素子を以下のとおり製造した。なお、この製造方法は、本件特許明細書に記載した緑色燐光素子と同様の方法であり、正孔注入層及び正孔輸送層に使用された化合物のみが異なる。・・・中略・・・このように準備されたITO透明電極を陽極として用いてITO基板上部に化合物HT-1又はX2を真空蒸着して700Åの厚さの正孔注入および輸送層を形成した。次に、化合物Y1-4を用いて真空蒸着で100Åの厚さの補助正孔輸送層を形成した。前記補助正孔輸送層上部に。前記補助正孔輸送層上部に(4,4’-N,N’-ジカルバゾール)ビフェニル[CBP]をホストとして用い、ドーパントとしてトリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(III)[Ir(ppy)3]を5重量%にドーピングして真空蒸着で300Åの厚さの発光層を形成した。その後、前記発光層上部にビフェノキシ-ビス(8-ヒドロキシキノリン)アルミニウム[Balq]を真空蒸着して50Åの厚さの正孔阻止層を形成した。前記正孔阻止層上部にトリス(8-ヒドロキシキノリン)アルミニウム[Alq3]を真空蒸着して250Åの厚さの電子輸送層を形成し、前記電子輸送層上部に10ÅのLiFと1000ÅのAlを順次に真空蒸着して陰極を形成することによって有機発光素子を製造した。・・・中略・・・2.赤色燐光素子の製造方法赤色燐光素子を以下のとおり製造した。なお、この製造方法は、本件特許明細書に記載した赤色燐光素子と同様の方法であり、正孔輸送層に使用された化合物のみが異なる。・・・中略・・・このように準備されたITO透明電極を陽極として用いてITO基板上部に4,4’-bis[N-[4-{N,N-bis(3-methylphenyl)amino}-phenyl]-N-phenylamino]biphenyl[DNTPD]を真空蒸着して600Åの厚さの正孔注入層を形成した。次に、化合物HT-1又はX2を真空蒸着で700Åの厚さの正孔輸送層を形成した。前記正孔輸送層上部に化合物Y1-4を用いて真空蒸着で100Åの厚さの補助正孔輸送層を形成した。前記補助正孔輸送層上部に(4,4’-N,N’-ジカルバゾール)ビフェニル[CBP]をホストとして用い、ドーパントとしてビス(2-フェニルキノリン)(アセチルアセトネート)イリジウム(III)[Ir(pq)2acac]を7重量%にドーピングして真空蒸着で300Aの厚さの発光層を形成した。その後、前記発光層上部にビフェノキシ-ビス(8-ヒドロキシキノリン)アルミニウム[Balq]を真空蒸着して50Åの厚さの正孔阻止層を形成した。前記正孔阻止層上部にトリス(8-ヒドロキシキノリン)アルミニウム[AIq3]を真空蒸着して250Åの厚さの電子輸送層を形成し、前記電子輸送層上部に10ÅのLiFと1000ÅのAlを順次に真空蒸着して陰極を形成することによって有機発光素子を製造した。・・・中略・・・(4)素子の性能測定正孔輸送層または正孔注入層に化合物HT-1(実施例)又は化合物X2(比較例)を使用して製造された緑色燐光素子(実施例60及び比較例10)及び赤色燐光素子(実施例61及び比較例11)それぞれに対して電圧に応じた電流密度の変化、輝度の変化および発光効率を測定した。具体的な測定方法は、次のとおりである。・・・中略・・・(3)発光効率の測定・・・中略・・・同一の輝度(cd/m2)での電流効率(cd/A)を計算した。(4)寿命測定製造された有機発光素子に対してPolarOnyx寿命測定システムを用いて緑色有機発光素子の場合には、初期輝度3,000nitに発光させ、時間経過に応じた輝度の減少を測定して初期輝度に比べて1/2に輝度が減少した時点を半減寿命とし、赤色有機発光素子の場合には、初期輝度1,000nitに発光させ、時間経過に応じた輝度の減少を測定して初期輝度に比べて80%に輝度が減少した時点をT80寿命と測定した。(5)実験結果甲第7号証に記載される化合物X2を正孔輸送層又は正孔注入層として使用した比較例並びに本件発明11の化合物HT-1を正孔輸送層又は正孔注入層として使用した実施例について、緑色燐光素子(実施例60及び比較例10)及び赤色燐光素子(実施例61及び比較例11)の駆動電圧、発光効率及び半減寿命又はT80寿命を測定し、本件特許明細書に記載した実施例及び比較例と比較した。結果を下記表1及び2に示す。[表1]緑色燐光素子[図:0001400987000073.jpg][図:0001400987000074.jpg][表2]赤色燐光素子[図:0001400987000075.jpg](6)参考本実験において比較された本件特許明細書の実施例において、補助正孔輸送層に使用された化合物は以下のとおりである。[図:0001400987000076.jpg]」
ウ 乙12について
被請求人が提出した乙12は、宣誓書であって、そこには以下の記載がある。
「さて、サムスンSDIの日本特許第6323815号特許(以下同特許)に属する材料が、先行文献に開示された材料に対し著しく優れた効果特性があるかに関しての確認への要請がありました。従いまして、下記のように陳述します。1)甲第7号証との比較実験データ(乙第4号証、2021年12月28日提出)・・・中略・・・実施例60及び61は、先行発明(甲第7号証)の比較例10及び11に対し緑色燐光素子及び赤色燐光素子において優れた寿命を示します。具体的には、同実施例は比較例に対し、最小7.5%から最大11.8%、寿命が長いという測定結果が出ました。このような効果上の差異により、同特許によるOLED材料は、OLEDパネルの性能を左右するバーンイン(burn-in)現象を著しく改善できると見られます。さらに、同特許による材料の発光効率も2.3%~5.3%と、先行発明(甲第7号証)の材料に対し優れた効果を示していることが確認されました。・・・中略・・・4)同特許及び先行発明の材料間の効果上の際に関しての商業的意味上記のように、同特許による材料と先行発明に開示された材料間の寿命、駆動電圧、発光効率上の差異は明らかです。さらに、自分の想定可能かつ、同特許の権利範囲内で実際のOLEDパネルに使用可能な材料は、先行発明に記載された材料よりも著しく改善された効果上の差異を発生させます。実際OLEDパネルメーカーでは、このような数%の寿命、効率の差により量産製品に採用する材料になるか否かが決まりますし、上記の効果上の差異は、量産製品への適用成否を決定するほどの著しい技術上の効果の差異です。」
エ 効果の総合検討
乙4に示された、「発光層に隣接していない正孔輸送層」に「化学式B-1で表される化合物」を用いることによる、駆動電圧、発光効率及び寿命に関する効果は、上記アに示した、本件明細書の発明の詳細な説明の【0192】及び実施例から把握できる効果と軌を一にするものであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明から推認可能なものである。
そして、乙4で示された効果は、「発光層に隣接していない正孔輸送層」に「化学式B-1で表される化合物」を用いた場合に、甲7に記載の化合物を使用した場合と比較して、発光効率が2.3%~5.3%改善し、寿命が7.5%~11.8%改善する、顕著な効果である。
乙4の実験では、甲7の実施例1-3に基づいて認定した甲7発明の「X1」と「Y1-3」ではなく、甲7の実施例1-10における「X2」と「Y1-4」を使用している。しかし、当該「X1」と「X2」はアミン-アミン骨格を有している点で、当該「Y1-3」と「Y1-4」はジベンゾフラン-アミン骨格を有している点でそれぞれ共通の基本骨格を有している。ここで、技術常識として、骨格とそれに置換する置換基を有する化合物は、基本骨格が共通する場合に、置換基が多少変化しても、類似の効果又は特性が得られることが知られていることを併せ考慮すると、乙4の実験によって示された効果は、甲7発明と比較した場合の顕著な効果と同等であると推認される。
そこで、以下では、甲7及び甲9並びに甲7及び甲10の記載に照らして、上記顕著な効果が、本件優先日当時、本件特許発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができなかったものか否かについて検討する。
甲9の[774]~[777]には、「A-10」~「A-13」及び「A-18」~「A-19」で表される化合物(「化学式B-1で表される化合物」である。)を、「正孔輸送層」(「発光層に隣接した正孔輸送層層」である。)に用いた実施例41~44及び47~48が、当該化合物の代わりに「NPB」(「化学式B-1で表される化合物」ではない。)を用いた比較例1と比べて、電流効率と寿命が改善することが記載されている。しかしながら、甲9で示された当該効果は、「化学式B-1で表される化合物」を「発光層に隣接した正孔輸送層層」に用いた場合の効果であって、「発光層に隣接していない正孔輸送層層」に用いた場合に、同様に、電流効率と寿命が改善するか否かは不明である。ここで、同一の化合物であっても用いられる層が異なれば電流効率や寿命特性が変化することが通常であるという技術常識であるから、甲7発明において、「発光層に隣接していない正孔輸送層」に「化学式B-1で表される化合物」を併用した場合に、発光効率と寿命が乙4で示された程度にまで改善することは、当業者が予測し得ないことである。
また、甲10の[0391]には、構造式(5)で表される「PCBA1BP」である「カルバゾール誘導体」(「化学式B-1で表される化合物」である。)を、「正孔輸送層である第2の層1512」(「発光層に隣接した正孔輸送層層」である。)に用いた「発光素子2」が、当該「PCBA1BP」の代わりに「NPB」(「化学式B-1で表される化合物」ではない。)を用いた「発光素子1」と比べて、図21に示されるとおり電流効率が改善し、図24に示されるとおり寿命が改善することが記載されている。しかしながら、甲9の場合と同様の理由により、甲7発明において、「発光層に隣接していない正孔輸送層」に「化学式B-1で表される化合物」を用いた場合に、発光効率と寿命について乙4に示される程度にまで改善することは、当業者が予測し得ないことである。
以上の点と上記アも総合すると、本件訂正発明11が奏する効果は、本件明細書の発明の詳細な説明からみて、イオン化ポテンシャルエネルギーの階段構成を備えたことによる効果のみならず、「化学式11で表される化合物」と「化学式B-1で表される化合物」を併用したという化合物自体の効果であって、その効果の程度は、乙4及び乙12からみて、当業者が予測し得る範囲を超えた顕著なものであるといえる。
したがって、本件訂正発明11は、上記相違点5-5-1により、当業者が予測し得る範囲を超えた顕著な効果を奏するものである。
(7)請求人の主張について
ア イオン化ポテンシャルについて
請求人は、令和5年2月3日付け審判事件弁駁書の第11~12頁において、「そもそも、本件訂正発明11において、化学式11で表される化合物と化学式B-1で表される化合物とのイオン化ポテンシャルの大小関係は不明瞭である」と主張する。
しかしながら、上記1(3)アのとおり、本件訂正発明11の「化学式11で表される化合物」のイオン化ポテンシャルエネルギーは、「化学式B-1で表される化合物」よりも通常大きいものである。
また、「化学式11で表される化合物」のイオン化ポテンシャルエネルギーが「化学式B-1で表される化合物」よりも小さいような特異な化合物の組み合わせを根拠にして、本件訂正発明11の効果を否定することは、本件訂正発明の上記1(3)に示した当然の前提を考慮しない主張でもある。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。
イ 乙4について
被請求人が提出した乙4は、新たな実施例についての実験結果を記載した実験成績証明書である。
請求人は、令和5年2月3日付け審判事件弁駁書の第12頁において、「ところで、乙4の各比較例では、甲7発明の実施例で使用されている化合物X2を発光層に隣接していない正孔輸送層の材料として使用しているが、この場合も、発光層に隣接していない正孔輸送層に用いられた化合物は、補助正孔輸送層に用いられた化合物のイオン化ポテンシャル(Ip)よりも低い・・・中略・・・
この場合、被請求人が本件訂正発明11において主張している「化学式11で表される化合物と化学式B-1で表される化合物とのイオン化ポテンシャルの大小関係」と同じである。それゆえに、乙4が示している効果の差は、化学式11で表される化合物と化学式B-1で表される化合物とのイオン化ポテンシャルの大小関係に起因するものではなく、補助正孔輸送層に用いられた化合物と、発光層に隣接していない正孔輸送層に用いられた化合物との「特定の種類の組み合わせ」に起因するものであると考えるのが合理的である。
本件訂正発明11において、補助正孔輸送層に用いられる化学式11で表される化合物と、発光層に隣接していない正孔輸送層に用いられる化学式B-1で表される化合物との組み合わせは依然として無数にあり、乙4によって示された特定の組み合わせでの対比のみによって、本件訂正発明11に含まれるその全ての範囲が甲7発明に対して有利な効果を奏するということはできない。」と主張する。
しかしながら、乙4の比較例は、本件訂正発明11に包含されないので、当該比較例は、本件訂正発明11の特定の組み合わせが効果を奏さないことを示すものとはいえない。
また、本件訂正発明11が奏する効果は、上記(6)アのとおり、イオン化ポテンシャルエネルギーの階段構成を備えたことに加えて、「化学式11で表される化合物」と「化学式B-1で表される化合物」の化合物自体の構造に起因する効果といえる。
そして、技術常識として、骨格とそれに置換する置換基を有する化合物は、基本骨格が共通する場合に、置換基が多少変化しても、類似の効果又は特性が得られることが知られている。
本件訂正発明11の「化学式B-1で表される化合物」は、カルバゾール-アミン構造を有している点に技術的特徴があるところ、乙4で使用された「HT-1」も、同様に、カルバゾール-アミン構造を有している。本件訂正発明11の「化学式11で表される化合物」は、ジベンゾフラン-アミン構造又はジベンゾチオフェン-アミン構造を有している点に技術的特徴があるところ、乙4で使用された「化合物Y1-4」も、同様に、カルバゾール-ジベンゾフラン構造を有している。そして、本件訂正請求によって限定された「化学式B-1で表される化合物」と「化学式11で表される化合物」の構造を考慮すれば、イオン化ポテンシャルエネルギーに主要な影響を与えるものは、上記カルバゾール-アミン構造と、ジベンゾフラン-アミン構造又はジベンゾチオフェン-アミン構造であり、これらが基本骨格であるといえる。さらに、酸素原子と硫黄原子とは共に16族原子であってジベンゾフランとジベンゾチオフェンは同様の性質を有し基本骨格としてはほぼ共通することを併せ考慮すると、当該「HT-1」及び「化合物Y1-4」を用いた乙4で示された顕著な効果は、カルバゾール-アミン構造という基本骨格が共通する「化学式B-1で表される化合物」及びジベンゾフラン-アミン構造又はジベンゾチオフェン-アミン構造という基本骨格が共通する「化学式11で表される化合物」を有する本件訂正発明11が奏する効果でもあることを当業者は理解する。
よって、請求人の上記主張は採用できない。
(8)小括
上記(5)ウのとおり、本件特許発明11は、甲7発明及び甲9~甲10に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。
仮に、当業者が容易に想到し得たことに一応の根拠があったとしても、上記(6)のとおり、本件訂正発明11は、当業者において予測できない顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件訂正発明11は、甲7に記載された発明及び甲9~甲10の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(9)本件訂正発明12~13及び20について
本件訂正発明12~13及び20は、本件訂正発明11に対して、さらに他の発明特定事項を付加したものである。
そうすると、これらの発明と甲7発明を対比しても、相違点5-5-1と相違点5-5-2が抽出されることになり、その判断は、上記(5)~(8)と同様である。
よって、本件訂正発明12~13及び20は、甲7に記載された発明及び甲9~甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。
(10)甲7に記載されるその他の実施例について
甲7の「第2正孔輸送層」として、甲7に記載される、Y-1、Y1-4~Y1-6を用いた実施例1-1、1-4~1-6の「有機EL素子」の発明を主引用発明としても上記(3)~(9)と同様である。
(11)無効理由5-5についてのまとめ
無効理由5-5には理由がない。
4 無効理由5-6(進歩性)について
(1)甲8号証の記載
甲8の記載は、上記2(4)に記載したとおりのものである。
(2)甲8発明
甲8の[0099]及び[0103]には、実施例2として、「化合物1からなる第1隣接層及び第2隣接層の代わりに、表2に示す化合物8」を「単層で蒸着した隣接層を採用した他は実施例1と同様にして」「第2の発光素子を製造」することが記載されている。また、甲8の[0112]から、「表示機器、カラーディスプレイ等」に好適に用いられることが理解できる。
また、甲8の[0019]から、実施例2の「第2の発光素子」の「第2の隣接層」である「第2の有機層」は、「正孔注入性及び正孔輸送性」を有していることが理解できる。
そうすると、甲8には、上記記載から把握される、次の「青色発光有機EL素子」の発明(以下「甲8発明」という。)が記載されていると認められる。
「 25mm×75mm×1.1mm厚のITO透明電極付きガラス基板を、イソプロピルアルコール中で5分間超音波洗浄した後、UVオゾン洗浄を30分間行ない、洗浄後の透明電極付きガラス基板に、ND1501(日産化学工業製:アニリンオリゴマー)をスピンコート法で25nmの膜厚で成膜して、230℃で加熱して正孔注入層を形成し、ついで、下記HT1のキシレン溶液(1.0重量%)を、スピンコート法で30nmの膜厚で成膜し、120℃で乾燥し、正孔輸送層を形成し、次に、第2の隣接層(第2の有機層)の材料として下記化合物8を蒸着により、膜厚10nmに成膜し、続きを表示(全13行)次に第2の発光層(青発光層)(第3の有機層)として、ホスト材EM1とドーパント材BD1を97:3の質量比で蒸着し、膜厚35nmの発光層を形成し、さらに、ET1を蒸着により、膜厚25nmに成膜して電子輸送層を形成し、この後、還元性ドーパントであるLiとAlqを2元蒸着させ、電子注入層としてAlq:Li膜(膜厚10nm)を形成し、このAlq:Li膜上に金属Alを蒸着させ金属陰極を形成し、窒素中でガラス封止して作成した、表示機器、カラーディスプレイ等に好適に用いられ、第2の隣接層(第2の有機層)は正孔注入性及び正孔輸送性を有し、青色蛍光発光素子である青色発光有機EL素子。[図:0001400987000077.jpg][図:0001400987000078.jpg]」
(3)本件訂正発明11と甲8発明との対比
ア 陽極、陰極
甲8発明の「ITO透明電極」及び「金属陰極」は、技術的にみて、それぞれ、本件訂正発明11の「陽極」及び「陰極」に相当する。
イ 発光層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層
甲8発明の「発光層」、「正孔注入層」、「電子輸送層」及び「電子注入層」は、その用語の意味するとおり、それぞれ、本件訂正発明11の「発光層」、「正孔注入層」、「電子輸送層」及び「電子注入層」に相当する。
ウ 化学式11で表される化合物
甲8発明の「化合物8」は、上記2(10)ア(エ)のとおり、本件訂正発明11の「化学式11で表される化合物」に該当する。
エ 化学式B-1で表される化合物
甲8発明における「HT1」と、本件訂正発明11の「化学式B-1」とを比較すると、「化学式B-1」ではカルバゾール骨格のベンゼン環がL4を介して窒素原子に結合されているのに対し、「HT1」ではカルバゾール骨格のベンゼン環は窒素と結合されていない。よって、甲8発明の「HT1」は、本件訂正発明11の「化学式B-1で表される化合物」に該当しない。
オ 複数の正孔輸送層
甲8発明の「正孔輸送層」及び「第2の隣接層(第2の有機層)」は、本件訂正発明11の「複数の正孔輸送層」に相当する。
また、「正孔輸送層」及び「第2の隣接層(第2の有機層)」の成膜の順序からみて、甲8発明の「第2の隣接層(第2の有機層)」及び「正孔輸送層」は、それぞれ、本件訂正発明11の「発光層に隣接した正孔輸送層」及び「発光層に隣接していない正孔輸送層」に相当する。
さらに、甲8発明の「第2の隣接層(第2の有機層)」は上記ウに記載したとおり、「化学式11で表される化合物」であることから、甲8発明は、本件訂正発明11の「前記複数の正孔輸送層のうち、前記発光層に隣接した正孔輸送層は、下記の化学式11で表される化合物を含み」という要件を満たす。
カ 有機薄膜層
甲8発明の「青色発光有機EL素子」における、「ITO透明電極」と「金属陰極」の間に位置する層が有機薄膜であることは技術常識に照らして明らかであり、上記層は、本件訂正発明11の「有機薄膜層」に相当する。
また、上記ア~オの構成より、甲8発明の上記層は、本件訂正発明11の「陽極、陰極、および前記陽極と陰極との間に形成され」るという要件、「発光層、正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層またはこれらの組み合わせを含み」という要件及び「発光層および複数の正孔輸送層を含み」という要件を満たす。
キ 有機光電子素子
上記ア~カに記載した構成からみて、甲8発明の「青色発光有機EL素子」は、本件訂正発明11の「有機光電子素子」に相当する。
また、甲8発明の「青色発光有機EL素子」は、「青色蛍光発光素子」であるから、本件訂正発明11の「青色素子である」という要件を満たす。
ク ホスト材料
甲8発明の「ホスト材EM1」は、「青色蛍光発光素子」の「ホスト材」であるので、本件訂正発明11の「青色蛍光ホスト材料」に相当する。
(4)一致点及び相違点
ア 一致点
本件訂正発明11と、甲8発明は、次の点で一致する。
「 陽極、陰極、および前記陽極と陰極との間に形成された少なくとも一層以上の有機薄膜層を含み、前記有機薄膜層は、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層またはこれらの組み合わせを含み、前記有機薄膜層は、発光層および複数の正孔輸送層を含み、前記複数の正孔輸送層のうち、前記発光層に隣接した正孔輸送層は、下記の化学式11で表される化合物を含むものである有機光電子素子であって、青色素子である、有機光電子素子。」
イ 相違点
本件訂正発明11と、甲8発明は、以下の点で相違する。
(相違点5-6-1)
本件訂正発明11では、「前記発光層に隣接していない正孔輸送層のうちいずれか一つは、下記の化学式B-1で表される化合物を含むものである」のに対して、甲8発明は、「HT1」が、カルバゾール骨格のベンゼン環が窒素と結合された構造を有しておらず、「化学式B-1で表される化合物を含むもの」とはいえない点。
(相違点5-6-2)
本件訂正発明11では、「前記化学式11で表される化合物は、燐光発光ホスト材料又は青色蛍光ホスト材料のイオン化ポテンシャルエネルギーより小さい」のに対して、甲8発明は、「化合物8」と「ホスト材EM1」とのイオン化ポテンシャルエネルギーの大小関係が明らかでないため、「前記化学式11で表される化合物は、」「青色蛍光ホスト材料のイオン化ポテンシャルエネルギーより小さい」といえるか否か一応明らかでない点。
(5)判断
ア 相違点5-6-1(化学式B-1)
(ア)甲9に基づく容易想到性
上記2(10)イ(ア)のとおり、甲9の「A-10」~「A-13」及び「A-18」~「A-19」で表される化合物は、甲9の実施例で「正孔輸送層」に用いられ、高効率及び長寿命を示すものであって、本件訂正発明11の「化学式B-1で表される化合物」に相当するものである。また、上記3(5)ア(ア)のとおり、当業者であれば、各種特性向上を確実に実現するため、甲9の当該化合物を用いる場合は、甲9に記載の化合物の中から、実施例で具体的に特性が確かめられた上記化合物を優先して採用するといえる。
一方、甲8発明は、「正孔輸送層」を有するものであって、有機EL多色発光装置の高効率化、長寿命を目的とするものである(甲8の[0007])。
そうしてみると、甲9に接した当業者が、甲8発明において、更なる高効率化及び長寿命のために、甲9の「A-10」~「A-13」及び「A-18」~「A-19」のいずれかで表される化合物を、甲8発明の「発光層に隣接していない正孔輸送層」である「正孔輸送層」の「HT1」に代えて適用することは、その動機付けに一応の根拠があるといえる。
(イ)甲10に基づく容易想到性
上記2(10)イ(イ)のとおり、甲10の構造式(5)で表される「PCBA1BP」と、構造式(6)で表される「PCBBi1BP」は、いずれも、本件訂正発明11の「化学式B-1で表される化合物」に相当する。また、甲10の[0020]、[0376]~[0386]によると、甲10のこれらの化合物は、「正孔輸送層」に用いることで、長寿命になることが理解される。さらに、甲10の[0336]には、構造式(6)で表される「PCBBi1BP」が、結晶化し難い物質であることが記載されている。
一方、甲8発明は、「正孔輸送層」を有するものであって、有機EL多色発光装置の高効率化、長寿命を目的とするものであり(甲8の[0007])、かつ、結晶化の抑制は有機EL素子分野における自明な課題である(例えば、甲4の[0006])。
そうしてみると、甲10に接した当業者であれば、甲8発明において、更なる長寿命を図り、あるいは結晶化を抑制するために、甲10の構造式(5)で表される「PCBA1BP」、又は構造式(6)で表される「PCBBi1BP」を、甲8発明の「正孔輸送層」の「HT1」に代えて適用することは、その動機付けに一応の根拠があるといえる。
(ウ)相違点5-6-1のまとめ
相違点5-6-1に係る構成は、甲8発明及び甲9~甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たことに一応の根拠がある。
イ 相違点5-6-2(イオン化ポテンシャルエネルギー)
上記1(2)エ(イ)に示したとおり、発光層側の正孔輸送層に含まれる正孔輸送層の正孔輸送材料は、発光層のホスト材料のイオン化ポテンシャルエネルギーより小さいことが技術常識である。甲8発明の「化合物8」と「ホスト材EM1」の構造も併せ考慮すると、甲8発明の「化合物8」は、「ホスト材EM1」のイオン化ポテンシャルエネルギーより小さい蓋然性が高い。
そうすると、甲8発明は、本件訂正発明11の「化学式11で表される化合物は、」「青色蛍光ホスト材料のイオン化ポテンシャルエネルギーより小さい」という要件を満たすといえるので、上記相違点5-6-2は、実質的な相違点ではない。
仮に、上記相違点5-6-2が実質的な相違点であったとしても、上記1(2)エ(イ)に示したとおり、発光層側の正孔輸送層に含まれる正孔輸送層の正孔輸送材料は、発光層のホスト材料のイオン化ポテンシャルエネルギーより小さいことが技術常識であるから、発光層のホスト材料を変更して、甲8発明の「化合物8」が、「青色蛍光ホスト材料のイオン化ポテンシャルエネルギーより小さい」という構成にすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
ウ 相違点の検討のまとめ
上記ア及びイに照らせば、本件特許発明11は、甲8発明及び甲9~甲10に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たことに一応の根拠がある。
(6)本件訂正発明11の効果について
ア 乙11について
被請求人が提出した乙11は、実験成績証明書であって、そこには以下の記載がある。
「4.実験の目的甲第8号証に記載される化合物が発光層に隣接していない正孔輸送層として使用された場合より、訂正後の特許第6323815号の特許請求の範囲に記載される化学式B-1で表される化合物が発光層に隣接していない正孔輸送層として使用された場合の方が、優れた駆動電圧、発光効率及び寿命を示すことを、追加の比較例及び実施例を示すことによって確認する。5.実験内容(1)正孔輸送層に使用した化合物続きを表示(全27行)下記いずれかの化合物を正孔輸送層に使用した。[図:0001400987000079.jpg](2)その他の使用化合物緑色燐光素子の製造に使用したその他の化合物は下記のとおりである。・・・中略・・・[図:0001400987000080.jpg]・・・中略・・・(3)緑色燐光素子の製造方法・・・中略・・・このように準備されたITO透明電極を陽極として用いてITO基板上部に化合物J-9(97%)及びNPD9(3%,Novaled社製品)を真空蒸着して100Åの厚さの正孔注入層を形成し、更に化合物J-9又は化合物DE08-HT1を真空蒸着して130Åの厚さの正孔輸送層を形成した。次に、化合物F-99を用いて真空蒸着で400Åの厚さの補助正孔輸送層を形成した。前記補助正孔輸送層上部に化合物C及び化合物D(3:7)90重量%をホストとして用い、ドーパントとして化合物GDを10重量%にドーピングして真空蒸着で400Åの厚さの発光層を形成した。その後、前記発光層上部に化合物Bを真空蒸着して50Åの厚さの正孔阻止層を形成した。前記正孔阻止層上部に化合物A及びLiQ(5:5)を真空蒸着して300Åの厚さの電子輸送層を形成し、1000ÅのAlを順次に真空蒸着して陰極を形成することによって有機発光素子を製造した。・・・中略・・・(4)緑色燐光素子の性能測定実施例68及び比較例18で製造されたそれぞれの緑色燐光素子に対して電圧に応じた電流密度の変化、輝度の変化および発光効率を測定した。具体的な測定方法は、次のとおりである。・・・中略・・・(4)寿命測定製造された有機発光素子に対してPolarOnyx寿命測定システムを用いて緑色有機発光素子の場合には、初期輝度24000nitに発光させ、時間経過に応じた輝度の減少を測定して初期輝度に比べて97%に輝度が減少した時間をT97寿命として測定した。(5)実験結果甲第8号証に記載される化合物DE08-HT1を正孔輸送層として使用した比較例18、及び本件発明化学式B-1で表される化合物J-9を正孔輸送層として使用した実施例68の緑色燐光素子の駆動電圧、発光効率及びT97寿命を比較した結果を下記表1に示す。[表1]緑色燐光素子[図:0001400987000081.jpg][図:0001400987000082.jpg]」
イ 乙12について
被請求人が提出した乙12は、宣誓書であって、甲8に関し、そこには以下の記載がある。
「2)甲第8号証との比較実験データ(乙第11号証、2022年12月13日提出)・・・中略・・・同特許での実施例68は、先行発明(甲第8号証)の比較例18に対し寿命が約2倍程度長く、これによってOLEDパネルの寿命スペックの不足により発生するバーンイン(Burn-in)現象を著しく改善できます。さらに、駆動電圧も同特許が比較例に対し5%以上優れた効果を示すことにより電力効率を大幅に高めることができました。」
ウ 効果の総合検討
乙11に示された、「発光層に隣接していない正孔輸送層」に「化学式B-1で表される化合物」を用いることによる、駆動電圧、発光効率及び寿命に関する効果は、上記3(6)エと同様の理由により、本件明細書の発明の詳細な説明から推認可能なものである。
そして、乙11で示された効果は、特に寿命に関して、甲8発明の「HT1」を使用した場合と比較して、「化学式B-1で表される化合物」を用いた場合に、T97寿命が約2倍程度長くなるという、顕著な効果である。
そうすると、上記3(6)エと同様の理由により、本件訂正発明11は、乙11及び乙12からみて、上記相違点5-6-1により、当業者が予測し得る範囲を超えた顕著な効果を奏するものである。
(7)請求人の主張について
ア イオン化ポテンシャルについて
請求人は、令和5年2月3日付け審判事件弁駁書の第15頁において、「そもそも、本件訂正発明11において、化学式11で表される化合物と化学式B-1で表される化合物とのイオン化ポテンシャルの大小関係は不明瞭である」と主張するが、この主張は、上記3(7)アと同趣旨の主張であって、既に検討したとおりである。
したがって、上記3(7)アと同様の理由により、請求人の上記主張は、本件訂正発明11が当業者において予測できない異質な効果ないし顕著な効果を奏するものであるという判断を左右しない。
イ 乙5について
乙5については、その内容にかかわらず、本件訂正発明11は、当業者において予測できない顕著な効果を奏するといえる。
なお、乙5について念のため合議体の見解を示すと、上記2(11)イと同様の理由により、本件訂正発明11の効果を推認し得る証拠として参酌できない。
ウ 乙11について
被請求人が提出した乙11は、新たな実施例についての実験結果を記載した実験成績証明書である。
請求人は、令和5年2月3日付け審判事件弁駁書の第16頁において、「本件訂正発明11において、補助正孔輸送層に用いられる化学式11で表される化合物と、発光層に隣接していない正孔輸送層に用いられる化学式B-1で表される化合物との組み合わせは依然として無数にあり、乙11によって示された特定の組み合わせでの対比のみによって、本件訂正発明11に含まれるその全ての範囲が甲8発明に対して有利な効果を奏するということはできない。」と主張する。
しかしながら、上記3(7)イと同様の理由により、乙11で示された顕著な効果は、本件訂正発明11も同様に奏すると解される。
よって、請求人の上記主張は採用できない。
(8)小括
上記(5)ウのとおり、本件特許発明11は、甲8発明及び甲9~甲10に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たことに一応の根拠があるものの、上記(6)のとおり、本件訂正発明11は、当業者において予測できない顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件訂正発明11は、甲8に記載された発明及び甲9~10の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(9)本件訂正発明12~13及び20について
本件訂正発明12~13及び20は、本件訂正発明11に対して、さらに他の発明特定事項を付加したものである。
そうすると、これらの発明と甲8発明を対比しても、相違点5-6-1と相違点5-6-2が抽出されることになり、その判断は、上記(5)~(8)と同様である。
よって、本件訂正発明12~13及び20は、甲8に記載された発明及び甲9~甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。
(10)甲8に記載されるその他の実施例について
甲8の「正孔輸送層」として、甲8に記載される「化合物1」、「化合物9」、「化合物11」、「化合物14」、「化合物18」を用いた「青色発光有機EL素子」の発明を主引用発明としても上記(3)~(9)と同様である。
(11)無効理由5-6についてのまとめ
無効理由5-6には理由がない。
第6 むすび
以上のとおり、請求人の主張及び証拠方法によっては、請求項11~15及び請求項20に係る特許は、無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法169条2項で準用する民事訴訟法61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-800065