特許異議申立
2021-701250
CD8陽性T細胞を誘導する方法
- 審判番号
- 2021-701250
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-512104
- 登録番号
- 6948072
- 請求日
- 2021年12月27日
- 審決日
- 2023年01月25日
- 公報発行日
- 2023年04月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】国立大学法人京都大学
- 【権利者代理人】山尾 憲人
- 【権利者代理人】松谷 道子
- 【権利者代理人】山田 卓二
- 【異議申立人】市川 愛子
- 審判長/審判官
- 審判長 長井 啓子
- 審判官 上條 肇
- 審判官 高堀 栄二
- 分類
- P1651.113-YAA(C12N) / P1651.121-YAA(C12N) / P1651.536-YAA(C12N) / P1651.537-YAA(C12N) / P1651.55 -YAA(C12N) / P1651.841-YAA(C12N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第113条第2号、特許法第113条第4号、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第17条の2第3項、特許法第113条第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6948072号発明「CD8陽性T細胞を誘導する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6948072号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~23〕について訂正することを認める。
特許第6948072号の請求項1、3、5ないし23に係る特許を維持する。
特許第6948072号の請求項2、4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯及び証拠方法
1.手続の経緯
特許第6948072号(請求項の数23。以下、「本件特許」という。)は、平成29年 4月14日(優先権主張 平成28年 4月15日)に国際出願(特願2018-512104号)され、令和 3年 9月22日に特許権の設定登録がされたものである(特許掲載公報の発行日は、令和 3年10月13日である。)。
その後、令和 3年12月27日に、本件特許の請求項1~23に係る特許に対して、特許異議申立人である市川 愛子(以下、「申立人」という。)から特許異議の申立てがなされた。
手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年12月27日 特許異議申立書の提出
令和4年 8月16日付け 取消理由通知書
令和4年10月14日 訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
令和4年11月24日付け 通知書(申立人宛)
令和4年12月19日 意見書の提出(申立人)
2.証拠方法
申立人が特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に添付した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証:Cancer Res,76巻12号,3473-3483頁(公開日2016年4月12日)及び抄訳文
甲第2号証:Cell Stem Cell,12巻,31-36頁(公開日2013年1月3日)及び抄訳文
甲第3号証:Cellular & Molecular Immunology,1巻5号,328-335頁(公開日2004年10月)及び抄訳文
甲第4号証:American Journal of Transplantation、14巻,580-593頁(公開日2014年)及び抄訳文
第2 訂正の適否
1.訂正事項
令和4年10月14日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求は、特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~23について訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりのものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、「(2)(1)で得られた細胞培養物よりCD4-CD8-T細胞を除く工程」とあるを「2)(1)で得られた細胞培養物よりCD4-CD8-T細胞およびCD8抗原がCD8α鎖のホモ接合型であるCD4-CD8+T細胞を除く工程」と訂正する。
請求項1の記載を直接、または間接的に引用する請求項3、5~23も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3において、「請求項1または2に記載」とあるを、「請求項1に記載」と訂正する。
請求項3の記載を直接、または間接的に引用する請求項5~23も同様に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5において、「請求項1~4いずれかに記載」とあるを、「請求項1または3に記載」と訂正する。
請求項5の記載を直接、または間接的に引用する請求項6~23も同様に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7において、「請求項1~6いずれかに記載」とあるを、「請求項1、3、5および6いずれかに記載」と訂正する。
請求項7の記載を直接、または間接的に引用する請求項8~15および請求項18~23も同様に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項16において、「請求項1~6いずれかに記載」とあるを、「請求項1、3、5および6いずれかに記載」と訂正する。
請求項16の記載を直接、または間接的に引用する請求項17~23も同様に訂正する。
2.一群の請求項について
訂正前の請求項2~3、5~23は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあり、訂正事項によって、訂正される訂正前の請求項1に連動して、訂正前の請求項2~3、5~23も訂正されるから、訂正前の請求項1~3、5~23は、一群の請求項に該当するものである。
訂正前の請求項5~23は、訂正前の請求項4を直接又は間接的に引用する関係にあり、訂正事項によって、削除される訂正前の請求項4に連動して、訂正前の請求項5~23も訂正されるから、訂正前の請求項4~23は、一群の請求項に該当するものである。
共通の請求項5~23を有する、「一群の請求項」である請求項1~3、5~23と「一群の請求項」である請求項5~23は特許法施行規則第45条の4に規定されるとおり組み合わされて、1つの「一群の請求項」を構成する。
よって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項1~23に対してなされたものである。
3.訂正の目的について
(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されていた「(1)で得られた細胞培養物よりCD4-CD8-T細胞を除く工程」とあるところ、「(1)で得られた細胞培養物よりCD4-CD8-T細胞およびCD8抗原がCD8α鎖のホモ接合型であるCD4-CD8+T細胞を除く工程」と訂正し、除去する細胞の種類である直列的要素を追加することにより、得られる細胞培養物の範囲をさらに限定するものであるから、本件訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2)訂正事項2
訂正事項2は、請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(3)訂正事項3
訂正事項3は、「請求項1または2に記載の方法」とあるのを「請求項1に記載の方法」とすることにより、引用する請求項の数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(4)訂正事項4
訂正事項4は、請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(5)訂正事項5
訂正事項5は、「請求項1~4いずれかに記載の方法」とあるのを「請求項1または3に記載の方法」とすることにより、引用する請求項の数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(6)訂正事項6
訂正事項6は、「請求項1~6いずれかに記載の方法」とあるのを「請求項1、3、5および6いずれかに記載の方法」とすることにより、引用する請求項の数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(7)訂正事項7
訂正事項7は、「請求項1~6いずれかに記載の方法」とあるのを「請求項1、3、5および6いずれかに記載の方法」とすることにより、引用する請求項の数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
4.実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更する訂正ではないこと
(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されていた「(1)で得られた細胞培養物よりCD4-CD8-T細胞を除く工程」とあるところ、「(1)で得られた細胞培養物よりCD4-CD8-T細胞およびCD8抗原がCD8α鎖のホモ接合型であるCD4-CD8+T細胞を除く工程」と訂正し、除く工程において除く細胞の種類を追加することにより得られる細胞培養物の範囲を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
(2)訂正事項2、4
訂正事項2、4は、請求項2、4をそれぞれ削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
(3)訂正事項3、5~7
訂正事項3、5~7は、引用する請求項の数を減少させるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
5.願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されていた「(1)で得られた細胞培養物よりCD4-CD8-T細胞を除く工程」とあるところ、「(1)で得られた細胞培養物よりCD4-CD8-T細胞およびCD8抗原がCD8α鎖のホモ接合型であるCD4-CD8+T細胞を除く工程」と訂正し、除く工程において「CD8抗原がCD8α鎖のホモ接合型であるCD4-CD8+T細胞を除く」ことを特定する訂正である。
そして、願書に添付した明細書には、
「【請求項2】
工程(2)において、細胞培養物よりCD8抗原がCD8α鎖のホモ接合型であるCD4-CD8+T細胞がさらに除去される、請求項1に記載の方法。」
「多能性細胞のT細胞への分化誘導の過程において、DN細胞およびDP細胞を含む細胞培養物はCD8SP細胞が含まれる場合がある。かかるCD8SPC細胞がCD8ααホモダイマー型T細胞である可能性があり、DP細胞の濃縮、即ちDN細胞の除去に当たってはCD8SP細胞、特にCD8ααホモダイマー型T細胞も同時に取り除くことが好ましい。細胞培養物からDN細胞、CD8SP細胞を除く方法は限定的ではない。一の態様においてはCD4抗体を結合させた担体、例えばMACSビーズを用いてCD4陽性細胞を回収することによってCD8SP細胞並びにDN細胞を除去することができる。さらにCD8βを結合させた担体、例えばMACSビーズを用いてCD8SPαβヘテロダイマー型T細胞を回収することによってCD8ααホモダイマー型T細胞を除去することができる。他の態様としては、セルソーターにてDN細胞画分を除去することによってDN細胞を実質的に含まない細胞培養物を、あるいはセルソーターにてDP細胞画分を集めることによって、DN細胞、CD8SP細胞を実質的に含まない細胞培養物を得ることができる。さらに、セルソーターにてCD8SPαβヘテロ接合型の細胞画分を集めることによってCD8SPααホモ接合型の細胞を実質的に含まない細胞培養物を集めることができる。」(【0046】段落、下線は、当審による。)
と記載されている。
したがって、願書に添付した明細書の請求項2及び【0046】段落にもCD8ααホモダイマー型T細胞すなわちCD8α鎖のホモ接合型であるCD8SP細胞すなわちCD4-CD8+T細胞を取り除くことが好ましいことがに記載されていたということができる。
したがって、本件訂正は、願書に添付した明細書に記載された範囲のものである。
(2)訂正事項2、4
訂正事項2、4は、請求項2、4をそれぞれ削除するものであるから、願書に添付した明細書に記載された範囲のものである。
(3)訂正事項3、5~7
訂正事項3、5~7は、引用する請求項の数を減少させるものであるから、願書に添付した明細書に記載された範囲のものである。
6.独立特許要件
本件特許異議の申立ては、訂正前の全ての請求項1~23に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
7.小括
以上のとおり、本件訂正請求による訂正事項1~7は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合している。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~23について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件特許の請求項1、3、5~23に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1、3、5~23に記載された、以下の事項によって特定されるとおりのものである。下線は、訂正箇所を示す。
「【請求項1】 (1)多能性幹細胞を分化誘導して、CD4-CD8-T細胞並びにCD4+CD8+T細胞を含む細胞培養物を得る工程、
(2)(1)で得られた細胞培養物よりCD4-CD8-T細胞およびCD8抗原がCD8α鎖のホモ接合型であるCD4-CD8+T細胞を除く工程、および
(3)(2)で得られた細胞培養物中のCD4+CD8+T細胞をCD4-CD8+T細胞へと分化させる工程
を含む、CD8抗原がCD8α鎖とCD8β鎖のヘテロ接合型であるCD4-CD8+T細胞を誘導する方法。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
工程(2)で得られる細胞培養物が、CD4-CD8-T細胞を実質的に含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
多能性幹細胞が、iPS細胞である、請求項1または3に記載の方法。
【請求項6】
多能性幹細胞が、HLAハプロタイプホモ接合型のiPS細胞である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
多能性幹細胞が所望の抗原に特異的な再構成済T細胞受容体またはキメラ抗原受容体遺伝子を有し、当該抗原に特異的な細胞傷害活性を有するCD4-CD8+T細胞が誘導される、請求項1、3、5および6いずれかに記載の方法。
【請求項8】
多能性幹細胞が、所望の抗原に特異的な再構成済T細胞受容体遺伝子を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
多能性幹細胞が、所望の抗原に特異的な再構成済T細胞受容体遺伝子を有するヒトT細胞から誘導されたT-iPS細胞である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
多能性幹細胞が、所望の抗原に特異的な再構成済T細胞受容体遺伝子をヒト多能性幹細胞へ導入して得られたTCR-iPS細胞である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
CD4+CD8+T細胞をCD4-CD8+T細胞へと分化させる工程が、T細胞受容体に刺激を加えた時に起こる活性化経路のいずれかの部分を直接活性化することによる、請求項7~10いずれかに記載の方法。
【請求項12】
CD4+CD8+T細胞をCD4-CD8+T細胞へと分化させる工程が、抗CD3抗体を用いることによって行われる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
CD4+CD8+T細胞をCD4-CD8+T細胞へと分化させる工程が、当該所望の抗原による刺激を加えることによって行われる、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
CD4+CD8+T細胞をCD4-CD8+T細胞へと分化させる工程が、当該所望の抗原を提示する抗原提示細胞による刺激を加えることによって行われる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
CD4+CD8+T細胞をCD4-CD8+T細胞へと分化させる工程が、キメラ抗原受容体の標的抗原による刺激を加えることによって行われる、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
誘導されたCD4-CD8+T細胞へ、所望の抗原に特異的なT細胞受容体またはキメラ抗原受容体を導入する工程を更に含み、当該抗原に特異的な細胞傷害活性を有するCD4-CD8+T細胞を作製する、請求項1、3、5および6いずれかに記載の方法。
【請求項17】
誘導されたCD4-CD8+T細胞へ、所望の抗原に特異的なT細胞受容体を導入する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
得られた所望の抗原に特異的なCD4-CD8+T細胞をさらに増殖させる工程を更に含む、請求項7~17いずれかに記載の方法。
【請求項19】
得られた抗原特異的CD4-CD8+T細胞をさらに増殖させる工程が、T細胞受容体に刺激を加えた時に起こる活性化経路のいずれかの部分を直接活性化することによる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
得られた抗原特異的CD4-CD8+T細胞をさらに増殖させる工程が、抗CD3抗体を用いることによって行われる、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
得られた抗原特異的CD4-CD8+T細胞をさらに増殖させる工程が、当該所望の抗原による刺激を加えることによって行われる、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
得られた抗原特異的CD4-CD8+T細胞をさらに増殖させる工程が、当該所望の抗原を提示する抗原提示細胞による刺激によって行われる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
得られた抗原特異的CD4-CD8+T細胞をさらに増殖させる工程が、キメラ抗原受容体の標的抗原による刺激を加えることによって行われる、請求項18に記載の方法。
以下、訂正後の本件発明を、項番に従い、「本件発明1」~「本件発明23」といい、これらを総称して、「本件発明」という。また、訂正前の本件発明を、「訂正前本件発明1」~「訂正前本件発明23」といい、これらを総称して、「訂正前本件発明」という。
第4 当審が通知した取消理由及び特許異議申立ての理由の概要
1.当審が通知した取消理由通知の概要
当審が令和4年8月16日付け取消理由通知書で通知した取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は、以下のとおりである。
なお、取消理由通知書で引用した引用文献A、Bは、当審により職権で追加した、以下の文献である。
甲第1号証 Cancer Research,2016.4.12,Vol.76,No.12,p.3473-3483(以下、甲1という)
文献A 国際公開第2016/010154号
文献B 特表2014-514927号公報
(1)取消理由1(新規性)
訂正前本件発明1、3、5、7、8、11、13は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された甲1に記載された発明であって、それらの特許は、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)取消理由2(進歩性)
訂正前本件発明1、3、5~23は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された甲1、文献A、文献Bに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反するから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)取消理由3(実施可能要件)
多種多様の化合物が包含される条件下で、細胞培養物中のCD4+CD8+T細胞をCD4-CD8+T細胞へと分化させるためにどのような化合物をどのような条件で用いればよいかは、明細書には具体的に記載されておらず、当業者といえども過度の試行錯誤を要するといえる。
したがって、本件発明の詳細な発明の記載は、訂正前本件発明4~23について、実施可能要件を充足せず、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)取消理由4(サポート要件)
訂正前本件特許発明の解決しようとする課題は、「多能性幹細胞からCD4-CD8+T細胞を製造する方法を提供すること」と認められる。
訂正前本件発明4に係る「(2)パーフォリン阻害剤、グランザイム阻害剤、Fas経路阻害剤、カスパーゼ阻害剤、NK活性化レセプター阻害抗体からなる群から選択されるCD4-CD8-T細胞に対する細胞傷害活性を抑制する物質の共存下で、(1)で得られた細胞培養物中のCD4+CD8+T細胞をCD4-CD8+T細胞へと分化させる工程」について、実際に細胞傷害活性を抑制することができることを明らかにするに足る理論的な説明の記載はなく、実施例とされた記載においても実際の実験結果を伴ったものは存在せず、実施例以外の箇所にも実施例の記載と評価しうる記載もない。
本件においては、このとおり、本件発明の詳細な説明は、具体的な化合物を含む具体的な実験条件及び前記課題を解決したことを示す実験結果を伴う実施例の記載に基づき、前記課題が解決できることを明らかにしていないから、これに接した当業者は訂正前本件発明4~23の全般にわたり前記課題を解決できると認識することができない。
したがって、訂正前の本件特許請求の範囲の請求項4~23の記載は発明の課題を解決できると認められる範囲を超えるものであって、サポート要件を充足せず、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
2.特許異議申立ての理由の概要
申立人が特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に記載した特許異議申立ての理由(以下、「申立理由」という。)及び令和4年12月19日付け意見書に記載した訂正の請求に付随して生じた取消理由は、以下のとおりである。
(1)申立理由1(新規性)
訂正前本件発明1~6は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(ア)(進歩性)
訂正前本件発明1~23は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された甲1又は、甲1と甲2、甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由2(イ)(進歩性)
訂正前本件発明4~23は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された甲1又は甲1と甲4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)申立理由3(ウ)(サポート要件)
T-iPS細胞からDP細胞およびDN細胞を含む細胞群への分化(工程1)において特定の細胞(LMP2-T-iPS細胞、OP9細胞、OP9/DLL1細胞)、特定の培地(medium A,medium B, Medium C)等が用いられているが、請求項1の工程1は、このような形態に限定したものではない。
DP細胞の濃縮(DN細胞およびCD8SP細胞の除去(工程2)において特定の方法(CD4抗体を結合させたMACS beads)、特定の培地(Medium D)等が用いられているが、請求項1の工程2は、このような形態に限定したものではない。
濃縮DP細胞からCD8αβSP細胞の誘導(工程3)において特定の細胞(OP9/DLL1細胞)および(特定の培地(Medium D)等が用いられているが、請求項1の工程3は、このような形態に限定したものではない。
以上のように本件特許発明1は、実施可能な形態に限定したものではないから、本件特許の請求項1~23において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになり、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(5)申立理由3(エ)(サポート要件)
本件特許発明の詳細な説明(実施例)には、請求項4に記載された「パーフォリン阻害剤、グランザイム阻害剤、Fas経路阻害剤、カスパーゼ阻害剤、NK活性化レセプター阻害抗体からなる群から選択されるCD4-CD8-T細胞に対する細胞傷害活性を抑制する物質」の例示及びデータが全くない。
よって、本願の発明の詳細な説明には、請求項4に係る発明が、課題を解決できることを当業者が認識できる程度に記載されていると認めることはできない。出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
したがって、訂正前の本件発明4及びその従属請求項に係る発明は、発明の課題を解決できると認められる範囲を超えるものであって、サポート要件を充足せず、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(6)申立理由4(実施可能要件)
本件明細書の発明の詳細な説明には、申立理由3と同様の理由により、訂正前本件請求項1~23に係る発明について、当業者が実施可能な程度に十分に記載がされていない。
したがって、訂正前本件特許は、実施可能要件を充足せず、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(7)訂正請求に付随して生じた申立理由5(新規事項)
訂正請求により、請求項1に追加された「CD8抗原がCD8α鎖のホモ接合型であるCD4-CD8+T細胞を除去する」工程は、当初の明細書に記載されていないから、請求項1に該構成を追加する訂正は、新規事項追加に該当し、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第1号に該当し、取り消されるべきものである。
第5 取消理由に係る当審の判断
本件発明1、3、5~23に係る特許は、以下のとおり、当審が通知した取消理由通知書に記載した取消理由によっては、取り消すことができない、と判断する。
1.引用文献に記載された事項
(1)甲1に記載された事項
甲1(Cancer Research,2016.4.12,Vol.76,No.12,p.3473-3483)には、以下のとおりの記載がある。甲1は、英語で記載されているため、摘示箇所を含め、当審による翻訳文で示す。
(a)
「現在の養子縁組T細胞療法は、生体内で有用な特性を持つ標的抗原に対するT細胞を十分な数得ることが困難であるため、そのアプローチには限界がある。理論的には、自己T細胞の無制限な供給源となる人工多能性幹細胞(iPSC)を用いることで、この限界を克服することが可能である。しかし、iPS細胞由来の再生T細胞の治療効果については、まだ実証されていない。本発表では、T細胞受容体(TCR)を導入したCD8+T細胞の多能性再プログラム化に初めて成功したことを報告する。その一環として、抗原特異性が知られているTCRを再配列したiPSCから再生したT細胞のin vitroおよびin vivoの抗腫瘍反応性を評価するために、同系統のマウスモデルを確立した。安定的にTCRを保持したT細胞由来iPSCは、in vitroでCD3および目的のTCRを発現するCD4+CD8+T細胞に分化した。IL7とIL15の存在下でiPSC由来のCD4+CD8+T細胞を同族抗原で刺激し、その後IL2、IL7、IL15で拡張すると、抗原特異的な強力なサイトカイン産生と細胞溶解能を有する低分化CD8+T細胞が大量に生成された。さらに、養子移入したiPSC由来のCD8+T細胞は拒絶反応を起こさず、大きな腫瘍を効果的に退縮させ、生存率を向上させ、抗原特異的免疫記憶を確立した。この結果は、in vivoでの有効性に必要な表現型、機能、拡張性を備えた自己抗原特異的T細胞を無制限に提供できるiPSCのトランスレーショナルな可能性を示している。」(第3473頁 要約)
(b)
「Pmel-1 TCRトランスジェニックCD8+T細胞からのマウスiPSCの作製
Pmel-1 CD8+T細胞は、抗CD8ビーズとMACSカラム(Miltenyi Biotec)を用いて、脾臓細胞の単細胞懸濁液から分離した。選別した1×105個のPmel-1 CD8+T細胞を、T細胞再プログラム培地(23)中のB6マウス由来のマイトマイシンC処理した5×104個の脾臓細胞の存在下で10μmol/Lのヒト(h)gp10025-33ペプチド、KVPRNQDWL(GenScript)でパルス処理した。24時間培養後、Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Mycのそれぞれを個別に搭載したセンダイウイルス(SeV)ベクターを含む溶液を感染倍率20倍でウェルに添加した。感染24時間後、細胞を回収し、マイトマイシンC不活性化SNLフィーダー細胞をiPSC培地に入れた10cmディッシュに移した。コロニーを摘出するまで、iPSC培地を1日おきに交換した。
in vitroでのiPSCからのT細胞の作製
Pmel-1 iPSCとmESCをOP9およびOP9-DL1ストローマ細胞共培養系を用いて培養した(24)。簡単に言うと、5×104個の細胞を、OP9培地中のコンフルエントなOP9細胞単層を含む10cmディッシュ上にプレーティングした。培養5日目に細胞をトリプシン除去し、5×105個の細胞を、hFlt3リガンド(5 ng/mL; R&D systems)を添加したOP9培地中のコンフルエントOP9細胞単層を含む新鮮培養10cmディッシュへ移した。培養8日目およびその後4日ごとに、セミアドヒーレントな幹細胞由来の造血細胞を回収し、40μmのナイロンメッシュでろ過し、hFlt3リガンドおよびmIL7(1 ng/mL; Peprotech)を添加したOP9-DL1単層に移し替えた。16日目から28日目までに得られた半接着性細胞をさらなる実験に使用した。
Pmel-1 iPSC由来T細胞、Pmel-1脾臓細胞、およびPmel-1胸腺細胞のin vitro活性化
OP9-DL1細胞上に半接着したPmel-1 iPSC由来細胞を採取し、40μmのナイロンメッシュで濾過した。Pmel-1 iPSC由来細胞、Pmel-1脾臓細胞、胸腺細胞のCD4 CD8 double positive (DP) T細胞とCD8 single positive (SP) T細胞を含むCD8発現細胞を、抗CD8ビーズとMACSカラムを用いて分離し、T細胞活性化中のOP9-DL1細胞を除いた。これらの細胞(2×106個)を、1μmol/Lのhgp100ペプチドおよびB6マウスのマイトマイシンC処理脾臓細胞(5×105個)の存在下で、mIL7(10ng/mL)およびmIL15(10ng/mL;Peprotech)により2日間、培養した。これらの活性化された細胞は、3日目からIL7とIL15、またはIL7、IL15、IL-2で培養し、6日目から8日目にさらなる実験に使用された。」
(第3474頁左欄27行~右欄14行)
(c)
「iPSCからの養子細胞療法のための低分化CD8+T細胞の作製
OP9-DL1細胞上で培養されたmESCは、CD4 CD8 ダブルネガティブステージから胸腺細胞へと進行し、さらにCD44とCD25の発現に基づいてCD4 CD8 DP T細胞へと4段階に細分化される(24)。Pmel-1 iPSCがin vitroで成熟T細胞に分化できるかどうかを調べるため、Pmel-1 iPSCをOP9細胞上で培養し、その後OP9-DL1細胞上で培養した(図3A)。8日目には、OP9細胞上で培養したPmel-1 iPSCから、CD45を発現する細胞集団が出現し始めた(補足図S1A)。培養16日目には、これらのCD45+細胞は、OP9-DL1細胞上のmESCと同様の典型的な胸腺細胞の発生進行を示し、CD4 CD8 DP T細胞が出現した(補足図S1B)。20日目には、OP9-DL1細胞上で培養したPmel-1 iPSCは、DP T細胞の大きな集団を含み(図3B)、DP T細胞の大部分は、CD5を発現するCD8αβ T細胞だった(補足図S1C)。OP9-DL1細胞上のPmel-1 iPSCでは、NK細胞やNK-T細胞は観察されなかった(補足図S1D)。mESC由来のDP T細胞でCD3やTCRβを発現しているものは非常に少なく、天然のDP胸腺細胞の30%だけがCD3とPmel-1 TCRβ鎖Vβ13を発現していることが分かった。一方、Pmel-1 iPSC由来のDP T細胞は、CD8 SP Pmel-1胸腺細胞や脾臓細胞と同様に、事実上すべて(95%以上)がCD3とTCR Vβ13を発現していた(図3B)。さらにハイスループットなシークエンスによってTCRレパートリーの特徴を調べると、再生されたPmel-1 iPSC由来のDPおよびCD8 SP細胞の大部分が、オリジナルのPmel-1 CD8+T細胞と同じTCRβ鎖遺伝子を持っていることがわかった(表1)。これらの結果は、TCR遺伝子が再配列されたiPSCが、前選択の段階で効率的にTCR発現細胞に分化することを示唆しており、これはTCR遺伝子が再配列されたヒトiPSCと一致している(19, 20)。
次に、Pmel-1 iPSC由来のDP T細胞をCD8 SP T細胞に分化させ、養子細胞療法に適した低分化CD8+T細胞を大量に得られるかどうかを検討した(1、4-6)。TCRαβを介したシグナルは、DP胸腺細胞を成熟SP T細胞へと分化誘導する(36)。そこで、Pmel-1 iPSC由来のDP T細胞を、そのペプチドエピトープであるhgp10025-33で、IL7とIL15の存在下で刺激した。この二つのサイトカインは、細胞障害性系統の特定(37)や、長寿命のメモリーT細胞の生成に関与する(38、39)。活性化2日後、DP T細胞は消失し、同時にCD8 SP T細胞が増加した(Fig. 3C)。CD8 SP T細胞の表現型解析から、Pmel-1 iPSC由来のCD8 SP T細胞におけるIL2受容体α鎖(CD25)およびCD69の発現は、活性化2日後には胸腺細胞より高く、脾臓細胞より低くなっていることが明らかになった。CD25の発現の増加を根拠に、IL2を培養に加えることでPmel-1 iPSC由来CD8 SP T細胞の膨張が増加するかどうかを検証してみた。IL2、IL7、IL15で培養した後、3日目からIL7やIL15と比較して、T細胞の数が著しく増加することが観察された(図3D)。」
(第3476頁右欄6行~第3478頁左欄9行)
(2)引用文献Aに記載された事項
引用文献A(国際公開第2016/010154号)には、以下の記載がある。
(d)
「【請求項1】
(1)所望の抗原特異性T細胞受容体を有するヒト多能性幹細胞を提供する工程、および
(2)工程(1)の多能性幹細胞からT細胞を誘導する工程
を含む、免疫細胞療法用T細胞を誘導する方法。
【請求項2】
所望の抗原特異性T細胞受容体遺伝子を有する多能性幹細胞が、多能性幹細胞へ所望の抗原特異性T細胞受容体遺伝子を導入することによって得たものである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
多能性幹細胞がiPS細胞である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
iPS細胞が、免疫療法対象者のHLAの何れか一方のハプロタイプをホモで有しているハプロタイプホモ接合型のHLAを有しているヒトから得られたiPS細胞である、請求項2または3記載の免疫療法用T細胞を誘導する方法。
【請求項5】
免疫細胞療法が、がん、感染症、自己免疫疾患、アレルギーなど、免疫が関与する疾患を治療するためのものである、請求項1~4いずれかに記載の方法。
【請求項6】
免疫細胞療法が、がんを治療するためのものである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
がんがWT1遺伝子を発現するがんである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
所望の抗原特異性T細胞受容体遺伝子が、WT1特異的T細胞受容体遺伝子である請求項1~7何れかに記載の方法。
【請求項9】
所望の抗原特異性T細胞受容体遺伝子が、HLA-A2402拘束性であり、ペプチドCMTWNQMNLを認識するWT1抗原特異的TCRである請求項8記載の方法。
【請求項10】
所望の抗原特異性T細胞受容体遺伝子が、HLA-A0201拘束性であり、ペプチドRMFPNAPYLを認識するWT1抗原特異的TCRである請求項8記載の方法。
【請求項11】
所望の抗原特異性T細胞受容体遺伝子が、HLA-DRB1*0405拘束性またはHLA-DPB1*0501拘束性であり、ペプチドKRYFKLSHLQMHSRKHを認識するWT1抗原特異的TCRである請求項8記載の方法。」
(e)
「[0056]
Day 44: (CD4+CD8+T細胞の確認、CD8 SP細胞の誘導開始)
T細胞が誘導されているかどうかを確かめるために抗CD4抗体、抗CD8抗体を用いてFACS解析した。CD4+CD8+T細胞の生成が確認された。
ここで抗CD3/28抗体をhuIL-2と供に加える。24穴プレートに新たにOP9/DLL1細胞を用意しておき、CD4+CD8+T細胞を含んだT細胞を3x105個/穴となるように播種した。ここに抗CD3抗体(50ng/ml)、抗CD28抗体(2ng/ml), huIL-2 (200U/ml)を添加した。
Day 50: (CD4-CD8+細胞が現れる)
抗CD3抗体による刺激後6日目には、成熟CD8SP細胞が生成した。生成した細胞をWT1-テトラマーと抗CD3抗体で染色した(図3)。導入したWT1-TCRを発現するT細胞が生成しているのが確認された。」
(3)引用文献Bに記載された事項
また、引用文献B(特表2014-514927号公報)には、以下の記載がある。
(f)
「【0036】
説明
本発明は、抗CD3抗体と組み合わせた、樹状細胞(DC)を含む抗原提示細胞による活性化の際に抗原特異的T細胞の増殖および生存の増大を促進するための、同種感作した同種異系リンパ球(ASAL)の生産に関する。
【0037】
本発明は、ヒト健常血液ドナー由来の末梢血単核細胞(PBMC)およびその部分集団を用いたin vitro研究に基づくが、ここで、抗原特異的ヒトCD8+T細胞応答の誘導におけるASALの正の調節の役割が実証された。同種異系in vitroモデルを用いて、ASALの存在下で同種異系反応性CD8+T細胞の増殖および生存を追跡すると、再刺激後の増殖能は5倍を超える増大を示し、アポトーシス細胞死は10%から5%に減少した。
【0038】
抗原特異的ヒトCD4+およびCD8+T細胞は、腫瘍抗原受容体をコードする遺伝子の形質導入またはトランスフェクションによってin vitroで作出することができる。本発明は、標的抗原を認識するT細胞受容体(TCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)を発現するように操作された(ウイルス形質導入、トランスフェクション、エレクトロポレーションまたはその他の遺伝物質導入法による)T細胞を含む養子免疫療法に用いるためのT細胞集団を調製し;これらの操作T細胞を、感作した同種異系リンパ球および抗CD3抗体の存在下、DCで活性化し;これらの細胞を培養で拡大し;及び、これらの細胞を患者に再導入する方法に関する。
【0039】
ASALの添加は、抗原提示DC上での共刺激分子CD70の強くアップレギュレートされた発現をもたらし、かつ、T細胞の1型CD4+およびCD8+T細胞への運命決定によく知られた正の影響を持つ2つの因子IL-12およびIFN-γの生産をもたらす。さらに、ASALの添加は、T細胞に関するよく知られた増殖因子IL-2の生産をももたらした。特に、CD70が介在する相互作用は、最近、連続して何回も分裂することで活性化されたT細胞の生存を増進し、それにより、エフェクターT細胞の蓄積に寄与することが示された。
【0040】
より具体的には、本発明は、腫瘍を有する患者への投与に好適な遺伝子改変型の抗原特異的CD4+および/またはCD8+T細胞のプライミングのためのin vitro法に関する。この方法は、治療される患者に由来する腫瘍抗原受容体発現標的T細胞を、DC、抗CD3抗体、ならびに抗原提示細胞(APC)上のMHCクラスIおよび/またはMHCクラスII抗原に感作したリンパ球を共培養することを含み、前記APCは好ましくは前記リンパ球に対して同種異系であり、かつ、前記樹状細胞は好ましくは単球に由来する。抗CD3抗体の添加は、Fc/Fc受容体の相互作用によるそれらの、樹状細胞との結合をもたらし、これにより、抗体アームを有する樹状細胞はCD3発現T細胞と直接相互作用してこれを活性化することができる。
【0041】
標的T細胞は、T細胞受容体(TCR)コード遺伝子で形質転換させることもできるし、あるいはまた興奮性シグナルをT細胞にMHCにより制限を受けない方法で中継することができるキメラ抗原受容体(CAR)の使用によって形質転換させることもできる。従って、細胞内T細胞活性化ドメインと融合した細胞外抗原認識ドメインから構成されるこれらのハイブリッドタンパク質は、それらのヒト白血球抗原の遺伝子型にかかわらず患者に使用することができる。遺伝子の形質転換前に、標的T細胞は、続いての形質転換を最適化するために抗CD3抗体で予め刺激することが好ましい。好適ないずれのCARを本発明に用いてもよい。CARリガンドは腫瘍細胞によって発現されなければならない。好適なCARの選択および調製は当業者に知られている技術上の範囲内である。CARリガンドの限定されない例としては、VEGFR-2(血管内皮増殖因子受容体-2)、Her2/neu、CEA(癌胎児性抗原)、CD19、CD20およびGD2(ガングリオシド抗原)がある。
【0042】
TCRコード遺伝子またはCARコード遺伝子のT細胞への遺伝子形質転換は、トランスフェクションまたは形質導入などの当業者に知られている好適ないずれの方法を用いて行ってもよい(例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3rd ed., vol. 1-3, Cold. Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY参照)。トランスフェクションはウイルスベクターを用いて行うこともできる。ウイルスベクターの限定されない例としては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターが挙げられる。形質導入としては、限定されるものではないが、プラスミドの電気転移、トランスポゾン/トランスポゼース系およびマイクロインジェクションが挙げられる。」
2.取消理由1(新規性)について
甲1には、選別した1×105個のPmel-1 CD8+T細胞を、T細胞再プログラム培地で10μmol/Lのヒト(h)gp10025-33ペプチド、KVPRNQDWL(GenScript)でパルス処理し、24時間培養後、Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Mycのそれぞれを個別に搭載したセンダイウイルス(SeV)ベクターを含む溶液を添加し、感染24時間後、細胞を回収し、フィーダー細胞をiPSC培地に入れた10cmディッシュに移したこと、Pmel-1 iPSCをOP9およびOP9-DL1ストローマ細胞共培養系を用いて培養したこと、培養8日目およびその後4日ごとに、セミアドヒーレントな幹細胞由来の造血細胞を回収し、40μmのナイロンメッシュでろ過し、hFlt3リガンドおよびmIL7(1 ng/mL; Peprotech)を添加したOP9-DL1単層に移し替えたこと、Pmel-1 iPSC由来細胞、Pmel-1脾臓細胞、胸腺細胞のCD4 CD8 double positive (DP) T細胞とCD8 single positive (SP) T細胞を含むCD8発現細胞を、抗CD8ビーズとMACSカラムを用いて分離し、T細胞活性化中のOP9-DL1細胞を除いたこと、これらの細胞(2×106個)を、1μmol/Lのhgp100ペプチドおよびB6マウスのマイトマイシンC処理脾臓細胞(5×105個)の存在下で、mIL7(10ng/mL)およびmIL15(10ng/mL;Peprotech)により2日間、培養し、3日目からIL7とIL15、またはIL7、IL15、IL-2で培養し、6日目から8日目にさらなる実験に使用したことが記載されている。(記載事項(b))。
そうすると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「Pmel-1 iPSCを培養し、CD4 CD8 double positive (DP) T細胞とCD8 single positive (SP) T細胞を含むCD8発現細胞を生じさせ、CD4 CD8 double positive (DP) T細胞とCD8 single positive (SP) T細胞を含むCD8発現細胞を、抗CD8ビーズとMACSカラムを用いて分離し、これらの細胞(2×106個)を、1μmol/Lのhgp100ペプチドおよびB6マウスのマイトマイシンC処理脾臓細胞(5×105個)の存在下で、mIL7(10ng/mL)およびmIL15(10ng/mL;Peprotech)により2日間、培養し、3日目からIL7とIL15、またはIL7、IL15、IL-2で培養することにより、Pmel-1 iPSC由来T細胞を活性化する方法。」(以下、「引用発明1」という。)
ここで、引用発明1における「Pmel-1 iPSC」は記載事項(a)に記載のとおり「人工多能性幹細胞(iPSC)」であるから本件発明1における「多能性幹細胞」に相当する。
また、本件発明明細書参考例2に「参考例1で得たLMP2-T-iPS細胞より非特許文献1の方法にてT細胞を誘導した。35日目までは、下記実施例1と同じ操作を行った。誘導35日目の細胞をFACSにて解析した。LMP2抗原特異的T細胞を含む細胞培養物中、DP細胞は12.0%、DN細胞は68.0%含まれていた(図1)。」と記載されていることを考慮すれば、引用発明1における「Pmel-1 iPSCを培養し、CD4 CD8 double positive (DP) T細胞とCD8 single positive (SP) T細胞を含むCD8発現細胞を生じさせ」る際には、CD4 CD8 double negative (DN) T細胞も生じており、得られた細胞培養物にはCD4-CD8-T細胞並びにCD4+CD8+T細胞が含まれていると認められる。
また、引用発明1における「CD4 CD8 double positive (DP) T細胞とCD8 single positive (SP) T細胞を含むCD8発現細胞を、抗CD8ビーズとMACSカラムを用いて分離」することで、CD8を発現しておらず抗CD8ビーズに結合することができないCD4-CD8-T細胞は除かれると認められる。
また、得られたCD8発現細胞を1μmol/Lのhgp100ペプチドおよびB6マウスのマイトマイシンC処理脾臓細胞(5×105個)の存在下で、mIL7(10ng/mL)およびmIL15(10ng/mL;Peprotech)により2日間、培養し、3日目から少なくとも5日目までIL7とIL15、またはIL7、IL15、IL-2で培養することは、甲1に「iPSC由来のCD4+CD8+T細胞を同族抗原で刺激し、その後IL2、IL7、IL15で拡張すると、抗原特異的な強力なサイトカイン産生と細胞溶解能を有する低分化CD8+T細胞が大量に生成された。」(記載事項(a))と記載されていることを考慮すると、本件発明1における「CD4+CD8+T細胞をCD4-CD8+T細胞へと分化させる工程」に相当する。
また、甲1に記載された、Pmel-1 iPSC由来のDP T細胞の大部分は、CD5を発現するCD8αβ T細胞だったこと(記載事項(c))を考慮すると、引用発明1の方法により活性化して得られた細胞もまたCD8αβ T細胞すなわち「CD8抗原がCD8α鎖とCD8β鎖のヘテロ接合型であるCD4-CD8+T細胞」であると推認することができる。
したがって、本件発明1と引用発明1とを対比すると、両者は
(一致点)
「(1)多能性幹細胞を分化誘導して、CD4-CD8-T細胞並びにCD4+CD8+T細胞を含む細胞培養物を得る工程、
(2)(1)で得られた細胞培養物よりCD4-CD8-T細胞を除く工程、および
(3)(2)で得られた細胞培養物中のCD4+CD8+T細胞をCD4-CD8+T細胞へと分化させる工程
を含む、CD8抗原がCD8α鎖とCD8β鎖のヘテロ接合型であるCD4-CD8+T細胞を誘導する方法。」
である点で一致し、
(相違点)
本件発明1は、「多能性幹細胞を分化誘導して、得られた細胞培養物よりCD8抗原がCD8α鎖のホモ接合型であるCD4-CD8+T細胞を除く」のに対して、
引用発明1は、「多能性幹細胞を分化誘導して、得られた細胞培養物よりCD8抗原がCD8α鎖のホモ接合型であるCD4-CD8+T細胞を除く」工程が記載されていない点
で相違する。
甲1には上記相違点に係る構成が記載されていないので、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明3、5~23は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様の理由により、上記甲1に記載された発明であるとはいえない。
以上からすると、本件発明1、3、5~23に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではないから、取消理由1は理由がない。
3.取消理由2(進歩性)について
本件発明1と引用発明1との上記相違点について検討する。
上記1.(1)のとおり、甲1には、「Pmel-1 iPSC由来細胞、Pmel-1脾臓細胞、胸腺細胞のCD4 CD8 double positive (DP) T細胞とCD8 single positive (SP) T細胞を含むCD8発現細胞を、抗CD8ビーズとMACSカラムを用いて分離し、T細胞活性化中のOP9-DL1細胞を除いた。」と記載されており(甲1(b))、抗CD8ビーズを用いて分離するからCD4 CD8 double positive (DP) T細胞とCD8 single positive (SP) T細胞は共にCD8を有するから共に抗CD8ビーズに付着し、両者が分離されることはないといえる。そして、甲1のその余の箇所にも、CD4 CD8 double positive (DP) T細胞とCD8 single positive (SP) T細胞を互いに分離することを動機付ける記載や示唆は見当たらない。
また、当審で通知した文献A~Bにも、CD4 CD8 double positive (DP) T細胞とCD8 single positive (SP) T細胞を含むCD8発現細胞からCD8 single positive (SP) T細胞を除き、敢えてCD4 CD8 double positive (DP) T細胞のみを取得することを動機付ける記載や示唆は何ら見当たらない。
一方、本件発明1は、多能性幹細胞を分化誘導して、得られた細胞培養物よりCD8抗原がCD8α鎖のホモ接合型であるCD4-CD8+T細胞を除くことで、「強い抗原特異的細胞傷害活性を有するCD4-CD8+T細胞培養物を得ることができる」(本件明細書[0015]段落)という効果を奏するものと認められる。
そうすると、甲1、文献A~Bの記載を勘案しても、引用発明1において細胞培養物よりCD8抗原がCD8α鎖のホモ接合型であるCD4-CD8+T細胞を除くことを当業者が容易に想到し得たとは認められない。
よって、上記相違点として挙げた本件発明1の特定事項は、当業者が容易に想到し得たものとは認められないので、本件発明1は、甲1、文献A~Bに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件発明3、5~23は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様の理由により、上記文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない
以上からすると、本件発明1、3、5~23に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反するものではないから、取消理由2は理由がない。
4.取消理由3(実施可能要件)・取消理由4(サポート要件)について
(1)本件明細書の記載
本件明細書には、以下の事項が記載されている。
(本ア)
「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一の態様において、本願は多能性幹細胞からCD4-CD8+T細胞を製造する方法を提供することを目的とする。より詳細には、本願は多能性幹細胞から所望の抗原特異的細胞傷害活性を有するCD4-CD8+T細胞を分化誘導する方法を提供することを目的とする。なお、以下単に「CD8T細胞」という場合はCD4-CD8+T細胞を意味するものとする。他の態様において、本願は同一抗原特異性を有し、高い抗原特異性を有するCD4-CD8+T細胞集団を提供することを目的とする。」
(本イ)
「【0046】
多能性細胞のT細胞への分化誘導の過程において、DN細胞およびDP細胞を含む細胞培養物はCD8SP細胞が含まれる場合がある。かかるCD8SPC細胞がCD8ααホモダイマー型T細胞である可能性があり、DP細胞の濃縮、即ちDN細胞の除去に当たってはCD8SP細胞、特にCD8ααホモダイマー型T細胞も同時に取り除くことが好ましい。細胞培養物からDN細胞、CD8SP細胞を除く方法は限定的ではない。一の態様においてはCD4抗体を結合させた担体、例えばMACSビーズを用いてCD4陽性細胞を回収することによってCD8SP細胞並びにDN細胞を除去することができる。さらにCD8βを結合させた担体、例えばMACSビーズを用いてCD8SPαβヘテロダイマー型T細胞を回収することによってCD8ααホモダイマー型T細胞を除去することができる。他の態様としては、セルソーターにてDN細胞画分を除去することによってDN細胞を実質的に含まない細胞培養物を、あるいはセルソーターにてDP細胞画分を集めることによって、DN細胞、CD8SP細胞を実質的に含まない細胞培養物を得ることができる。さらに、セルソーターにてCD8SPαβヘテロ接合型の細胞画分を集めることによってCD8SPααホモ接合型の細胞を実質的に含まない細胞培養物を集めることができる。
【0047】
濃縮したDP細胞培養物を、次いでCD8SP細胞へと分化誘導する。DP細胞からCD8SP細胞への誘導は、T細胞受容体に刺激を加えた時に生じる活性化経路の何れかを直接活性化することによって行うことができる。例えば、PMAとIonomysinを添加することによりTCR刺激に類似した形でT細胞を活性化することができる。TCRを介した刺激としては、例えば、DP細胞をCD3抗体により刺激しながら培養することが例示される。CD3抗体による刺激に加え、IL-7およびIL-2を培養液に添加するのが好ましい。CD3抗体を含む培養液による培養期間は3~10日間、例えば4~8日、例えば約6日間とすればよい。
【0048】
DP細胞培養物が、所望の抗原に対する特異的受容体、例えばTCRを有する多能性幹細胞から誘導されたDP細胞培養物である場合には、当該抗原による刺激あるいは、当該抗原を提示する抗原提示細胞による刺激を加えることによってもDP細胞からCD8SP細胞へ分化誘導することが可能である。同様に、CARを発現する場合は、CARが認識する抗原を可溶性分子として添加する、ビーズや培養器にコートして共培養する、別な細胞に発現させて共培養するなどの方法で刺激を入れることができる。
【0049】
濃縮したDP細胞培養物をT細胞受容体に刺激を加えた時に生じる活性化経路の何れかを直接活性化することによって分化誘導して得られるCD8SP細胞はそのほとんどがCD8αβヘテロダイマーを発現するCD8αβ型のT細胞である。以下に示す参考例2において、DP細胞の濃縮を行わずにDN細胞やCD8SP細胞を含む細胞培養物からCD3抗体刺激によるCD8SP細胞を誘導した場合、得られた細胞のほとんどがCD8ααホモダイマーであった。CD8ααホモダイマー型T細胞は抗原特異的細胞傷害活性が低いが、比較的高いNK様細胞傷害活性を示す。」
(本ウ)
「【実施例1】
【0070】
参考例1で得たLMP2-T-iPS細胞クローンを使用した。図7に概略を示す手順にて、T-iPS細胞からT細胞を再生させた。
1)T-iPS細胞からDP細胞およびDN細胞を含む細胞群への分化
使用した培地は下記である。
【表1】
*ペニシリン/ストレプトマイシン溶液は、ペニシリン10000U/mLおよびストレプトマイシン10000μg/mLからなり、それぞれの最終濃度を100U/mLおよび100μg/mLとした。
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
【0073】
OP9細胞の準備
0.1%ゼラチン/PBS溶液5mlを10cm培養ディッシュに入れ、室温で30分以上静置した。コンフルエントになったOP9細胞をトリプシン/EDTA溶液で剥がし、1/4相当量をゼラチンコートした10cm培養ディッシュに播種した。培地はmedium Aを10mlとなるように加えた。
4日後に播種したOP9細胞培養ディッシュに新たにmedium Aを10ml加え、全量が20mlとなるようにした。
【0074】
OP9/DLL1細胞(24穴プレート)の準備
コンフルエントになったOP9/DLL1細胞をトリプシン/EDTA溶液で剥がし、1/4相当量を全量12mlのmedium Aに懸濁し、24穴プレートに0.5mlずつ播種した。播種2日後にOP9/DLL1細胞培養ディッシュを使用した。
【0075】
T-iPS細胞からの血球前駆細胞誘導
T-iPS細胞培養ディッシュ(6cmディッシュ)より解離液を用いてiPS細胞コロニーを回収し、ピペッティングにより細かく砕いた。4℃、1200rpmで5分間遠心し、ペレットを10mlのmedium Aに懸濁させた。およそ6cmディッシュ1枚分の細かく砕いたiPS細胞塊を予め用意したOP9細胞上に播種した。
【0076】
Day 1 (培地交換)
iPS細胞塊が接着し分化し始めているかどうかを確認し、培地を新しいmedium A 20mlに交換した。
Day 5 (培地半量交換)
半量分の培地を新しいmedium A 10mlに交換した。
Day 9 (培地交換)
半量分の培地を新しいmedium A 10mlに交換した。
Day 13 (誘導した中胚葉細胞をOP9細胞上からOP9/DLL1細胞上へ移しかえた)
培地を吸引し、HBSS(+Mg+Ca)で細胞表面上の培地を洗い流した。その後250U collagenase IV/HBSS(+Mg+Ca)溶液6mlを加え、37℃で45分間培養した。
Collagenase溶液を吸引し、PBS(-)10mlで洗い流した。その後2mlの0.05%トリプシン/EDTA溶液を加え、37℃で25分培養した。培養後、medium Aを8ml加え細胞が膜状に剥がれてくるので、ピペッティングにより物理的に細かくし、接着細胞同士を離した。さらに37℃で45分間培養した。
【0077】
培養後、浮遊細胞を含む上清を、70μmのメッシュを通して回収した。4℃、1200rpmで5分間遠心し、ペレットを10mlのmedium Bに懸濁させた。このうち1/50をFACS解析用にとりわけ、残りの細胞を新たに用意したOP9/DLL1細胞上に播種した。複数枚のディッシュから得た細胞をプールした場合、元々の枚数と同じ枚数になるように再分配して細胞を播き直した。
【0078】
得られた細胞に造血前駆細胞が含まれているかどうかを確かめるために抗CD34抗体、抗CD43抗体を用いてFACS解析した。CD34lowCD43+細胞分画に十分な細胞数が確認できたことから、造血前駆細胞が誘導されていると確認した。(図8)
【0079】
Day 15 (細胞の継代)
OP9/DLL1細胞に緩く接着している細胞を、穏やかに複数回ピペッティングし50mlコニカルチューブに回収した。4℃、1200rpmで5分間遠心し、ペレットを10mlのmedium Bに懸濁させた。これらの細胞を新たに用意したOP9/DLL1細胞上に播種した。10cmディッシュ2~3枚分を1枚のディッシュに集約した。
【0080】
Day 22 (細胞の継代): 血液細胞コロニーが見え始めた。
OP9/DLL1細胞に緩く接着している細胞を、穏やかに複数回ピペッティングし50mlコニカルチューブに回収した。4℃、1200rpmで5分間遠心し、ペレットを10mlのmedium Bに懸濁させ、新たに用意したOP9/DLL1細胞上に播種した。
【0081】
Day 29 (細胞の継代):
OP9/DLL1細胞に緩く接着している細胞を、穏やかに複数回ピペッティングし、50mlコニカルチューブに回収した。4℃、1200rpmで5分間遠心し、ペレットを10mlのmedium Cに懸
濁させ、新たに用意したOP9/DLL1細胞上に播種した。
【0082】
Day 36 (細胞の継代):
OP9/DLL1細胞に緩く接着している細胞を、穏やかに複数回ピペッティングし、 50mlコニカルチューブに回収した。4℃、1200rpmで5分間遠心し、ペレットを10mlのmedium Cに懸濁させ、新たに用意したOP9/DLL1細胞上に播種した。
【0083】
DP細胞の濃縮(DN細胞およびCD8SP細胞の除去)
下記培養液を使用した。
【表4】
【0084】
【表5】
【0085】
Day 40: DP細胞の濃縮(DN細胞およびCD8SP細胞の除去)
OP9/DLL1細胞に緩く接着している細胞を、穏やかに複数回ピペッティングし、50mlコニカルチューブに回収した。4℃、1200rpmで5分間遠心し、ペレットを180μLのMACSバッファーに懸濁した。CD4抗体を結合させたMACS beads 20μL加え、15分4℃で反応させた。以下MACSプロトコルどおりにMACSカラムを用いてCD4陽性細胞を回収した。濃縮前と濃縮後のCD4/CD8のFACSパターンを図9に示す。濃縮前は、DP細胞が27.6%、DN細胞が51.8%、CD8SP細胞が18.4%含まれていたが、濃縮によってDP細胞を96.3%、DN細胞を0.263%およびCD8SP細胞を0.072%含む細胞培養物とした。
【0086】
濃縮DP細胞からCD8αβSP細胞の誘導
上記で得た濃縮DP細胞培養物を最終濃度が5x105細胞/mlとなるようにmedium Dで懸濁した。予め準備したOP9/DLL1細胞培養ディッシュの培地を吸引し、細胞懸濁液を1ml/wellとなるよう播種し、培養した。6日後細胞を回収し、FACSにて確認を行った。結果を図10に示す。
【0087】
得られた全細胞培養物中、CD8SP細胞は95.3%であった。CD8SP細胞をFACSにて分析したところ、その87.5%がCD8αβ型T細胞であった。以下、得られた細胞を再生CD8αβSP細胞という。
【0088】
一方、40日目においてDN細胞のみを含む細胞画分を濃縮してDN細胞を約99%含む細胞培養物を得た。得られたDN細胞濃縮培養物を、上記と同様にしてCD3抗体により刺激して6日間培養した。同じくLMP2テトラマー陽性、CD3陽性のCD8SP細胞が得られたが、得られたCD8SP細胞の約87%がCD8αα型T細胞であった。
【0089】
再生CD8αβSP細胞の増殖
再生CD8αβSP細胞を、LMP2抗原を提示する抗原提示細胞(APC)にて刺激して増殖させた。」
(本エ)
「【実施例6】
【0104】
WT1ペプチド特異的TCR-iPS細胞からのCD8SP細胞の誘導
WT1抗原特異的TCRを導入したiPS細胞の作製
導入する対象の細胞としては京都大学再生医科学研究所再生免疫学分野(日本国京都府京都市)にて作製された、日本で二番目の頻度のHLAハプロタイプをホモで有する単核細胞由来のiPS細胞を用いた。
【0105】
WT1ペプチド特異的TCR遺伝子を導入したiPS細胞はWO 2016/010154に記載の方法にて調製した。用いたWT1ペプチド特異的TCR遺伝子は実施例2で示された再生WT1特異的CTLからクローニングしたものである。以下、導入するTCRをWT1-TCRとする。
【0106】
1) WT1-TCRを組み込んだレンチウィルスベクターの作製
独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター細胞運命情報解析技術開発サブチーム(日本国茨城県つくば市)より提供されたCS-UbC-RfA-IRES2-Venusベクターを用い、GatewayシステムによりWT1-TCRを導入したCS-UbC-RfA-IRES2-Venus/WT1-TCRを作製した。
【0107】
2) WT1-TCRを組み込んだレンチウィルス上清の作製
CS-UbC-RfA-IRES2-Venus/WT1-TCRをX-treamGENE9(ロシュ社)を用いてパッケージング細胞LentiX-293Tに導入した。翌日に培地交換を行い、2日目にレンチウィルスを含む培養上清を回収し、レンチウィルス上清として用いた。
【0108】
3) WT1-TCR transduced-T-iPS細胞の樹立
iPS細胞をTryp LE Select (ライフテクノロジーズ社)を用いて完全な単一細胞とした。遠心後、ペレットをレンチウィルス上清で懸濁し、30℃、3000rpmで1時間遠心しiPS細胞に感染させることでWT1-TCRをiPS細胞に導入した。
感染後、フィーダー細胞(MFF)上に播種して培養し、14日後にWT1-TCRが導入されたiPS細胞をVenusタンパク質の発現によって蛍光顕微鏡下で選択した。各クローンを個別に樹立した。ひとつのクローンを選択して以下の試験に供した。以下TCRを導入して得たiPS細胞を「TCR-iPS細胞」という。
【0109】
得られたTCR-iPS細胞を実施例1と同じ手順(図7)にてDP細胞とDN細胞を含む細胞培養物を得た(図22)。得られた細胞培養物中、DP細胞は79.1%、DN細胞は12.0%、CD8SP細胞は6.60%含まれていた。MACSビーズを用いてDP細胞を濃縮し、濃縮DP細胞培養物から培地(medium D)ではなく下記(medium D')を用いる以外は、実施例と同一の方法にてCD8SP細胞へと誘導した。
【0110】
【表7】
【0111】
即ち、濃縮DP細胞培養物を最終濃度が5x105細胞/mlとなるようにmedium D'で懸濁した。予め準備したOP9/DLL1細胞培養ディッシュの培地を吸引し、細胞懸濁液を1ml/wellとなるよう播種し、培養した。6日後細胞を回収し、FACSにて確認を行った。結果を図23に示す。
【0112】
得られた全細胞培養物中、CD8SP細胞は87.86%であった。CD8SP細胞をFACSにて分析したところ、得られたCD8SP細胞の79.7%がCD8αβ型T細胞であった。
【0113】
得られた全細胞培養物中、CD8SP細胞は87.86%であった。CD8SP細胞をFACSにて分析したところ、得られたCD8SP細胞の79.7%がCD8αβ型T細胞であった。
【0114】
TCR-iPS細胞から再生したCTLと実施例2で示したT-iPS細胞から再生したCTLの細胞傷害活性を比較した。両者は同じTCRを発現している。図16と同じくC1R A*24:02(ヒトLCL細胞株)にWT1ペプチド(CYTWNQMNL:配列番号2)を様々な濃度で加え2時間培養した。各C1R A*24:02を回収し、再生CD8SP細胞とC1R A*24:02をE:T比3:1の割合で混合後、37℃5%CO2の環境下で6時間培養を行った。その後、Annexin V陽性細胞の割合で、細胞傷害活性を評価した。結果を図24に示す。TCR-iPS細胞から再生したCTLとT-iPS細胞から再生したCTLは同等の抗原特異的細胞傷害活性を示した。」
(2)実施可能要件及びサポート要件の判断
本件訂正により、訂正前発明4
「(1)多能性幹細胞を分化誘導して、CD4-CD8-T細胞並びにCD4+CD8+T細胞を含む細胞培養物を得る工程、
(2)パーフォリン阻害剤、グランザイム阻害剤、Fas経路阻害剤、カスパーゼ阻害剤、NK活性化レセプター阻害抗体からなる群から選択されるCD4-CD8-T細胞に対する細胞傷害活性を抑制する物質の共存下で、(1)で得られた細胞培養物中のCD4+CD8+T細胞をCD4-CD8+T細胞へと分化させる工程を含む、CD4-CD8+T細胞を誘導する方法。」および訂正前発明4を引用する発明は全て削除され、
本件発明1
「(1)多能性幹細胞を分化誘導して、CD4-CD8-T細胞並びにCD4+CD8+T細胞を含む細胞培養物を得る工程、
(2)(1)で得られた細胞培養物よりCD4-CD8-T細胞およびCD8抗原がCD8α鎖のホモ接合型であるCD4-CD8+T細胞を除く工程、および
(3)(2)で得られた細胞培養物中のCD4+CD8+T細胞をCD4-CD8+T細胞へと分化させる工程
を含む、CD8抗原がCD8α鎖とCD8β鎖のヘテロ接合型であるCD4-CD8+T細胞を誘導する方法。」および本件発明1を引用する発明に限定された。
そして、上記(本ウ)、(本エ)で示したように、本件明細書の実施例1および6ではT-iPS細胞からDP細胞およびDN細胞を含む細胞群へ分化させ、CD4抗体を結合させたMACS beads とMACSカラムを用いてCD4陽性細胞を回収すること、medium Dやmedium D’等により、CD4-CD8-T細胞およびCD8抗原がCD8α鎖のホモ接合型であるCD4-CD8+T細胞を誘導できることが、実験結果により確認され、当該方法を採用すれば、CD8抗原がCD8α鎖とCD8β鎖のヘテロ接合型であるCD4-CD8+T細胞を誘導することも可能であることを当業者が認識できるといえる。
そうすると、本件発明は、本件明細書の記載より、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、実施し得るものと認められる。
一方、本件発明の解決しようとする課題は、【0009】の記載に照らすと(本ア)、「多能性幹細胞からCD4-CD8+T細胞を製造する方法を提供すること」と認められる。
そして、本件発明に係るCD4-CD8+T細胞を製造する方法は、本件訂正により、「(2)パーフォリン阻害剤、グランザイム阻害剤、Fas経路阻害剤、カスパーゼ阻害剤、NK活性化レセプター阻害抗体からなる群から選択されるCD4-CD8-T細胞に対する細胞傷害活性を抑制する物質の共存下で、(1)で得られた細胞培養物中のCD4+CD8+T細胞をCD4-CD8+T細胞へと分化させる工程を含む」ものが削除され、「細胞培養物よりCD4-CD8-T細胞およびCD8抗原がCD8α鎖のホモ接合型であるCD4-CD8+T細胞を除く工程」を含む方法に限定されたため、例えばその後に用いる培地の組成が、多少変更されたりしても、強い抗原特異的細胞傷害活性を有するCD4-CD8+T細胞培養物が得られることは、当業者が認識できるといえる。
そうすると、本件発明は、本件明細書の記載によると、当業者が上記課題を解決し得ると認識できる範囲のものであると認められる。
したがって、本件発明1、3、5~23に係る特許は、取消理由3(実施可能要件)、取消理由4(サポート要件)によって取り消すべきものではない。
5.小括
以上のとおりであるから、本件発明1、3、5~23に係る特許は、取消理由1(新規性)、取消理由2(進歩性)、取消理由3(実施可能要件)、取消理由4(サポート要件)のいずれについても取り消すべきものではない。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由及び申立人による訂正の請求に付随して生じた申立理由について
1.申立理由1(新規性)(上記第4 2.(1))について
上記第5 2.で判断したとおり、多能性幹細胞を分化誘導して、得られた細胞培養物よりCD8抗原がCD8α鎖のホモ接合型であるCD4-CD8+T細胞を除く」工程は、甲1には記載されていないから、当該工程を含む本件発明は、甲1に対して新規性を有する。
これに対して、申立人は、次の理由(1)及び(2)を挙げて、当該工程を含む本件発明(訂正前本件発明2等、訂正後本件発明1等)についても、甲1に対して新規性を有しないと主張する。
(1)本願の明細書0046段落は、「DP細胞の濃縮、即ちDN細胞の除去に当たってはCD8SP細胞、特にCD8ααホモダイマー型T細胞も同時に取り除くことが好ましい。」が記載されていることから、甲第1号証の(CD4+CD8+ )の濃縮は、DN細胞およびCD8SP細胞等のCD4+CD8+細胞以外の細胞の除去を教示しているといえる。
(2)令和4年12月19日付け意見書において提示した文献C(Nature Biotechnology, 2013 Oct., Vol.31, No.10, p.928-933)のp.929右欄19-29行目、図1には、請求項1の工程1の細胞にはCD4陰性CD8αα陽性T細胞が含まれることが記載されているので、甲1に記載されているCD4+CD8+細胞以外の細胞を除去するのであれば、CD8α鎖のホモ接合型であるCD4-CD8+T細胞も除去することは自明の結果である
申立人が令和4年12月19日付け意見書でした理由4・理由5も同旨のものである。
しかし、次のとおり、いずれも採用の限りではない。
(1)本願の明細書は本願出願日後に公知になったものであり、当業者であれば出願日当時の技術常識を理解しているから、出願日当時の技術常識を参酌するのは当然であるが、出願日当時の技術常識とはいえない出願日後に公知となった本願明細書の技術内容を参酌しなければ理解できないものは、出願日当時に開示されていたということはできない。
(2)甲1に記載された工程は、CD4+CD8+細胞以外の細胞を除去するのではなく、抗CD8ビーズを用いてCD8が発現している細胞を選択し、足場細胞であるOP9-DL1細胞やCD4-CD8-T細胞、CD4+CD8-T細胞を除いているのであって、本件発明1の発明特定事項である「CD8抗原がCD8α鎖のホモ接合型であるCD4-CD8+T細胞」は除かれないから、申立人の主張はその前提において誤りがあり、主張を採用することはできない。
したがって、申立理由1によって、本件特許を取り消すことはできない。
2.申立理由2(ア)(進歩性)(上記第4 2.(2))について
上記第5 2.で判断したとおり、「多能性幹細胞を分化誘導して、得られた細胞培養物よりCD8抗原がCD8α鎖のホモ接合型であるCD4-CD8+T細胞を除く」工程は、甲1には記載されていない。
甲2には、「OP9/DLL1細胞と共培養すると、これらのiPSCは効率的にMART-1エピトープに特異的なT細胞受容体(TCR)を発現する、TCRβ+CD4+CD8+ダブルポジティブ(DP)細胞を生成し、これらのDP細胞を抗CD3抗体で刺激すると、多数のCD8+T細胞が生成され、得られた細胞の90%以上が元のMART-1エピトープに特異的である」(要約)と記載されている。
甲3には、「これらのサブセットの中でαβTCR+CD3+CD4-CD8-ダブルネガティブ(DN)Treg細胞は、抗原特異的な方法でエフェクターT細胞を直接に死滅させることで免疫応答を阻害する能力によって定義される。さらにDN Treg細胞は、特定の抗原に遭遇した後、抗原提示細胞(APC)からのMHC-ペプチド複合体の獲得によって部分的に媒介される調節活性を発現することが示されている。DN T細胞上で獲得した同種抗原の提示はDN Treg細胞と同種抗原反応性エフェクターT細胞の間の特定の相互作用を可能にする。」(要約)と記載されている。
しかし、甲1~3のいずれにも、「多能性幹細胞を分化誘導して、得られた細胞培養物よりCD8抗原がCD8α鎖のホモ接合型であるCD4-CD8+T細胞を除く」工程は記載されておらず、その示唆もない。
また、申立人のその余の主張については、上記第6 1.(1)(2)で述べたとおりであって、いずれも採用の限りではないから、上記申立理由2(ア)によって、本件特許を取り消すことはできない。
3.申立理由2(イ)(進歩性))(上記第4 2.(3))について
本件訂正により訂正前本件発明4および訂正前本件発明4を引用する発明は全て削除され、申立ての対象が存在しなくなったので、申立理由2(イ)によって、本件特許を取り消すことはできない。
4.申立理由3(ウ)(サポート要件)、申立理由4(ウ)(実施可能要件)(上記第4 2.(4)(6))について
申立人は、訂正前本件発明1について、「T-iPS細胞からDP細胞およびDN細胞を含む細胞群への分化(工程1)において特定の細胞(LMP2-T-iPS細胞、OP9細胞、OP9/DLL1細胞)、特定の培地(medium A,medium B, Medium C)等が用いられているが、請求項1の工程1は、このような形態に限定したものではない。」こと、「DP細胞の濃縮(DN細胞およびCD8SP細胞の除去(工程2)において特定の方法(CD4抗体を結合させたMACS beads)、特定の培地(Medium D)等が用いられているが、請求項1の工程2は、このような形態に限定したものではない。」こと、「濃縮DP細胞からCD8αβSP細胞の誘導(工程3)において特定の細胞(OP9/DLL1細胞)および(特定の培地(Medium D)等が用いられているが、請求項1の工程3は、このような形態に限定したものではない。」ことから、訂正前本件発明1は、実施可能な形態に限定したものではないから、訂正前本件発明1~23において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであると主張し、本件明細書の発明の詳細な説明には、申立理由3(ウ)と同様の理由により、訂正前本件請求項1~23に係る発明について、当業者が実施可能な程度に十分に記載がされていない(申立理由4(ウ))と主張する。
申立人が令和4年12月19日付け意見書でした理由4・理由5も同旨のものである。
しかし、上記第5 4.(2)で述べたとおり、本願出願時には多能性細胞からT細胞への分化誘導方法は周知であって、足場細胞や分化培地を適宜選択することは可能であり、分別方法についてもMACS beadsに限らず他の担体を用いることも可能であるし、本願出願時周知のセルソーターを用いることなど種々の手段を用いることも可能であるといえる。
そして、その他に本件発明1、3、5~23が対象とする「T細胞を誘導する方法」が裏付けられていないこと、容易に実施することができないことをうかがわせる客観的証拠(本件特許の出願時の技術常識等や実験的証拠)は申立人より提示されていない。
そうすると、本件発明1、3、5~23は、サポート要件、実施可能要件を満たすものであり、申立理由3(ウ)(サポート要件)、申立理由4(ウ)(実施可能要件)によって、本件特許を取り消すことはできない。
5.申立理由3(エ)(サポート要件)、申立理由4(エ)(実施可能要件)(上記第4 2.(5)(6))について
上記第5 4.(2)及び第6 3.で述べたとおり、本件訂正により、訂正前発明4及び、訂正前発明4を引用する発明は全て削除され、申立ての対象が存在しなくなったため、申立理由3(エ)、申立理由4(エ)によって、本件特許を取り消すことはできない。
6.申立理由5(新規事項)(上記第4 2.(7))について
本件訂正事項1により、訂正前の請求項1に記載されていた「(1)で得られた細胞培養物よりCD4-CD8-T細胞を除く工程」とあるところ、「(1)で得られた細胞培養物よりCD4-CD8-T細胞およびCD8抗原がCD8α鎖のホモ接合型であるCD4-CD8+T細胞を除く工程」と訂正し、除く工程において「CD8抗原がCD8α鎖のホモ接合型であるCD4-CD8+T細胞を除く」ことを特定する訂正が加えられた。
これに対して申立人は、令和4年12月19日付け意見書における理由1として「CD8抗原がCD8α鎖のホモ接合型であるCD4-CD8+T細胞を除去する」という構成が当初の明細書に記載されていないと主張している。
しかしながら、国際出願当初の請求の範囲には
「[請求項1] (1)多能性幹細胞を分化誘導して、CD4-CD8-T細胞並びにCD4+CD8+T細胞を含む細胞培養物を得る工程、
(2)(1)で得られた細胞培養物よりCD4-CD8-T細胞を除く工程、および
(3)(2)で得られた細胞培養物中のCD4+CD8+T細胞をCD4-CD8+T細胞へと分化させる工程
を含む、CD4-CD8+T細胞を誘導する方法。
[請求項2] 工程(2)において、細胞培養物よりCD8抗原がCD8α鎖のホモ接合型であるCD4-CD8+T細胞がさらに除去される、請求項1記載の方法。」
として、工程(2)において、細胞培養物よりCD8抗原がCD8α鎖のホモ接合型であるCD4-CD8+T細胞がさらに除去されることが明記されている。
また、国際出願当初の明細書にも、「「CD4-CD8+T細胞」、「CD8T細胞」および「CD8SP細胞」はいずれも、CD4陰性CD8陽性T細胞を意味する。」([0019]段落)、「多能性細胞のT細胞への分化誘導の過程において、DN細胞およびDP細胞を含む細胞培養物はCD8SP細胞が含まれる場合がある。かかるCD8SPC細胞がCD8ααホモダイマー型T細胞である可能性があり、DP細胞の濃縮、即ちDN細胞の除去に当たってはCD8SP細胞、特にCD8ααホモダイマー型T細胞も同時に取り除くことが好ましい。細胞培養物からDN細胞、CD8SP細胞を除く方法は限定的ではない。一の態様においてはCD4抗体を結合させた担体、例えばMACSビーズを用いてCD4陽性細胞を回収することによってCD8SP細胞並びにDN細胞を除去することができる。さらにCD8βを結合させた担体、例えばMACSビーズを用いてCD8SPαβヘテロダイマー型T細胞を回収することによってCD8ααホモダイマー型T細胞を除去することができる。他の態様としては、セルソーターにてDN細胞画分を除去することによってDN細胞を実質的に含まない細胞培養物を、あるいはセルソーターにてDP細胞画分を集めることによって、DN細胞、CD8SP細胞を実質的に含まない細胞培養物を得ることができる。さらに、セルソーターにてCD8SPαβヘテロ接合型の細胞画分を集めることによってCD8SPααホモ接合型の細胞を実質的に含まない細胞培養物を集めることができる。」([0046]段落、下線部は当審による。)
と記載されている。
したがって、出願当初明細書請求項2及び[0046]段落にもCD8ααホモダイマー型T細胞すなわちCD8α鎖のホモ接合型であるCD8SP細胞すなわちCD4-CD8+T細胞を取り除くことが好ましいことがに記載されていたということができる。
したがって、本件訂正は、出願当初明細書に記載された範囲のものであり、申立理由5によって、本件特許を取り消すことはできない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由、申立人が意見書に記載した訂正の請求に付随して生じた申立理由によっては、本件請求項1、3、5~23に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1、3、5~23に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項2、4は、本件訂正請求により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議申立てについて、請求項2、4に係る申立ては、申立ての対象が存在しなくなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2021-701250