特許異議申立
2021-701089
金属メッシュの製造方法
- 審判番号
- 2021-701089
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-126999
- 登録番号
- 6872728
- 請求日
- 2021年11月18日
- 審決日
- 2023年02月01日
- 公報発行日
- 2023年05月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】パナソニックIPマネジメント株式会社
- 【権利者代理人】新居 広守
- 【権利者代理人】寺谷 英作
- 【権利者代理人】道坂 伸一
- 【異議申立人】金井 澄子
- 審判長/審判官
- 審判長 吉村 尚
- 審判官 藤本 義仁
- 審判官 比嘉 翔一
- 分類
- P1651.113-YAA(B41N) / P1651.121-YAA(B41N) / P1651.536-YAA(B41N) / P1651.537-YAA(B41N) / P1651.851-YAA(B41N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6872728号発明「金属メッシュの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6872728号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3、5-7〕について、訂正することを認める。
特許第6872728号の請求項1-3、5-7に係る特許を維持する。
特許第6872728号の請求項4に係る申立てを却下する。
理由
理 由
1 手続の経緯
特許第6872728号の請求項1乃至7に係る特許についての出願は、平成28年6月27日を出願日とする特許出願であって、令和3年4月22日にその特許権の設定登録がされ、同年5月19日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和3年11月18日付けで特許異議申立人 金井澄子(以下、「特許異議申立人」という。)より請求項1乃至7に対して特許異議の申立てがされ、令和4年2月1日付けで取消理由が通知され、同年5月2日に特許権者により意見書の提出及び訂正請求がされ、同年7月6日に特許異議申立人により意見書が提出され、同年8月2日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年10月6日に特許権者により意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年12月15日に特許異議申立人により意見書が提出された。
2 訂正の適否についての判断(請求項1乃至7に係る一群の請求項に係る訂正)
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、令和4年10月6日に提出された訂正請求書の記載からみて、その請求の趣旨を「特許第6872728号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求める。」とするものであり、その内容はつぎのとおりのものである。(注:下線部分は訂正箇所を示す。)
なお、本件特許の願書に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面(特許掲載公報に記載されたものであって、本件訂正請求による訂正前のもの)について言及する際には、以下において、それぞれ、「本件特許明細書」、「本件特許請求の範囲」、「本件特許図面」といい、これらをまとめて「本件特許明細書等」という。
なお、特許法第120条の5第7項の規定により、令和4年5月2日にされた訂正請求は取り下げられたものとみなす。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「複数のタングステン線を用いて、金属メッシュを製網する工程と、製網された金属メッシュを構成する複数のタングステン線の表面に凹凸を形成する工程とを含み、」と記載されているのを、「表面粗さRaが0.10μm以下である複数のタングステン線を用いて、金属メッシュを製網する工程と、製網された金属メッシュを構成する複数のタングステン線の表面の粗面化を行うことで、前記表面に凹凸を形成する工程とを含み、」に訂正する。
請求項1を引用する請求項2、3、5乃至7も同様に訂正する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に、「請求項1~4のいずれか1項に記載の金属メッシュの製造方法。」とあるのを、「請求項1~3のいずれか1項に記載の金属メッシュの製造方法。」に訂正する。
エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に、「請求項1~5のいずれか1項に記載の金属メッシュの製造方法。」とあるのを、「請求項1~3及び5のいずれか1項に記載の金属メッシュの製造方法。」に訂正する。
オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に、「請求項1~6のいずれか1項に記載の金属メッシュの製造方法。」とあるのを、「請求項1~3、5及び6のいずれか1項に記載の金属メッシュの製造方法。」に訂正する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び一群の請求項について
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「金属メッシュ製造方法」における「複数のタングステン線を用いて、金属メッシュを製網する工程」について、「表面粗さRaが0.10μm以下である複数のタングステン線を用いて、金属メッシュを製網する工程」と、表面粗さの程度を数値限定し、かつ、「複数のタングステン線の表面に凹凸を形成する工程」について、「複数のタングステン線の表面の粗面化を行うことで、前記表面に凹凸を形成する工程」と、凹凸が粗面化の結果形成されることを特定するものである。
同様に、訂正後の請求項1を直接的又は間接的に引用する訂正後の請求項2、3、5乃至7は、訂正後の請求項1の「表面粗さRaが0.10μm以下である複数のタングステン線を用いて、金属メッシュを製網する工程」との記載を引用することにより、訂正前の請求項2、3、5乃至7の「金属メッシュ製造方法」における「複数のタングステン線を用いて、金属メッシュを製網する工程」について、「表面粗さRaが0.10μm以下である複数のタングステン線を用いて、金属メッシュを製網する工程」に限定し、かつ、「複数のタングステン線の表面の粗面化をおこなうことで、前記表面に凹凸を形成する工程」との記載を引用することにより、訂正前の請求項2、3、5乃至7の「金属メッシュ製造方法」における「複数のタングステン線の表面に凹凸を形成する工程」について、「複数のタングステン線の表面の粗面化を行うことで、前記表面に凹凸を形成する工程」に限定するものである。
そうすると、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記(ア)のとおり、訂正事項1は、「複数のタングステン線を用いて、金属メッシュを製網する工程」について、「表面粗さRaが0.10μm以下である複数のタングステン線を用いて、金属メッシュを製網する工程」と限定し、かつ、「複数のタングステン線の表面に凹凸を形成する工程」について、「複数のタングステン線の表面の粗面化を行うことで、前記表面に凹凸を形成する工程」に限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
そうすると、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(ウ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1の「表面粗さRaが0.10μm以下である複数のタングステン線を用いて、金属メッシュを製網する工程」は、本件特許明細書等の発明の詳細な説明の【0044】の「製網工程(S10)で用いるタングステン線100の表面粗さRaは、上述したように、例えば、0.10μm以下である。つまり、製網直後のスクリーンメッシュ10aのタテ糸11及びヨコ糸12の表面粗さRaは、タングステン線100の表面粗さRaと略同じであり、例えば、0.10μm以下である。」との記載に基づいて導き出される事項である。
また、訂正事項1の「複数のタングステン線の表面の粗面化を行うことで、前記表面に凹凸を形成する工程」は、本件特許明細書等の発明の詳細な説明の【0047】の「次に、製網されたスクリーンメッシュ10aを構成するタテ糸11及びヨコ糸12の表面に微小凹凸を形成する(S14)。すなわち、スクリーンメッシュ10aの粗面化を行う。」との記載に基づいて導き出される事項である。
そうすると、訂正事項1は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内でするものであって、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第5項に適合するものである。
イ 訂正事項2について
(ア)訂正の目的について
訂正事項2は、請求項4を削除するというものである。
そうすると、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記(ア)のとおり、訂正事項2は、請求項4を削除するための訂正であって、カテゴリーや対象、目的を変更するもの変更するものには該当しない。
そうすると、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(ウ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記(ア)のとおり、訂正事項2が、請求項4を削除するための訂正であるから、願書に添付した明細書等に記載された範囲内でするものであることは明らかである。
そうすると、訂正事項2は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内でするものであって、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 訂正事項3について
(ア)訂正の目的について
訂正事項3は、訂正前の請求項5の記載が訂正前の請求項1~4の記載を引用する記載であったものを、上記訂正事項2による請求項4の削除に伴い、請求項間の引用関係を解消し、請求項4の記載を引用しないものとするための訂正である。
そうすると、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項3は、上記アのとおり、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、訂正前の請求項5に記載された発明のカテゴリーを変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
そうすると、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(ウ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「願書に添付した明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3は、訂正前の請求項5の記載が訂正前の請求項1~4の記載を引用する記載であったものを、上記訂正事項2による請求項4の削除に伴い、請求項間の引用関係を解消し、請求項4の記載を引用しないものとするための訂正である。
そうすると、訂正事項3は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内でするものであることは明らかであって、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第5項に適合するものである。
エ 訂正事項4について
(ア)訂正の目的について
訂正事項4は、訂正前の請求項6の記載が訂正前の請求項1~5の記載を引用する記載であったものを、上記訂正事項2による請求項4の削除に伴い、請求項間の引用関係を解消し、請求項4の記載を引用しないものとするための訂正である。
そうすると、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項4は、上記アのとおり、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、訂正前の請求項6に記載された発明のカテゴリーを変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
そうすると、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(ウ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「願書に添付した明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項4は、訂正前の請求項6の記載が訂正前の請求項1~5の記載を引用する記載であったものを、上記訂正事項2による請求項4の削除に伴い、請求項間の引用関係を解消し、請求項4の記載を引用しないものとするための訂正である。
そうすると、訂正事項4は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内でするものであることは明らかであって、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第5項に適合するものである。
オ 訂正事項5について
(ア)訂正の目的について
訂正事項5は、訂正前の請求項7の記載が訂正前の請求項1~6の記載を引用する記載であったものを、上記訂正事項2による請求項4の削除に伴い、請求項間の引用関係を解消し、請求項4の記載を引用しないものとするための訂正である。
そうすると、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項5は、上記アのとおり、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、訂正前の請求項7に記載された発明のカテゴリーを変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
そうすると、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(ウ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「願書に添付した明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項5は、訂正前の請求項7の記載が訂正前の請求項1~6の記載を引用する記載であったものを、上記訂正事項2による請求項4の削除に伴い、請求項間の引用関係を解消し、請求項4の記載を引用しないものとするための訂正である。
そうすると、訂正事項5は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内でするものであることは明らかであって、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第5項に適合するものである。
カ 一群の請求項について
訂正前の請求項1乃至7について、請求項2乃至7は、それぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1乃至7に対応する訂正後の請求項1乃至7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
キ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件特許についての特許異議の申立て事件では、訂正前の請求項1乃至7について特許異議の申立ての対象とされているから、本件訂正における訂正前の請求項1乃至7に係る訂正事項1乃至5に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(以下、「独立特許要件」という。)は課されない。
(3)小括
上記のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-7]について訂正することを認める。
3 訂正後の本件訂正特許発明
上記2で検討したとおり、訂正前の請求項1乃至7に係る一群の請求項に係る訂正を認めることができるから、訂正後の請求項1乃至7に係る特許についての発明は本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1乃至7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。(以下、それぞれ「本件訂正特許発明1」乃至「本件訂正特許発明7」という。)
「【請求項1】
表面粗さRaが0.10μm以下である複数のタングステン線を用いて、金属メッシュを製網する工程と、
製網された金属メッシュを構成する複数のタングステン線の表面の粗面化を行うことで、前記表面に凹凸を形成する工程とを含み、
前記金属メッシュは、スクリーン印刷用のスクリーンメッシュであり、
前記金属メッシュは、前記タングステン線からなる隣り合う2本のタテ糸と、前記タングステン線からなる隣り合う2本のヨコ糸とで形成される開口を複数備え、
前記凹凸を形成する工程は、複数の前記開口が選択的に埋められることにより、印刷材料が通過不可能な非通過部が形成されていない状態で行われ、
前記凹凸を形成する工程では、前記金属メッシュの両面を含む表面全体に前記凹凸を形成し、
前記凹凸を形成した後の前記金属メッシュを構成するタングステン線の表面粗さRaは、0.10μmより大きく0.18μm以下である
金属メッシュの製造方法。
【請求項2】
さらに、
製網された金属メッシュを圧延する工程を含み、
前記形成する工程では、前記圧延する工程の後に、前記凹凸を形成する
請求項1に記載の金属メッシュの製造方法。
【請求項3】
前記形成する工程では、前記金属メッシュに薬剤を接触させることで、前記凹凸を形成する
請求項1又は2に記載の金属メッシュの製造方法。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
前記製網する工程で用いるタングステン線の引張強度は、3700MPa以上4200MPa以下である
請求項1~3のいずれか1項に記載の金属メッシュの製造方法。
【請求項6】
前記製網する工程で用いるタングステン線の長さが1000mmである場合における垂下長さは、900mm以上である
請求項1~3及び5のいずれか1項に記載の金属メッシュの製造方法。
【請求項7】
前記製網する工程で用いるタングステン線の線径は、22μm以下である
請求項1~3、5及び6のいずれか1項に記載の金属メッシュの製造方法。」
4 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由(特許法第36条第6項第1号違反)の概要(本件特許発明1乃至7について)
ア 本件特許発明が解決しようとする課題と、その課題を解決するための手段について
本件特許明細書の記載からすると、前記課題を解決する手段は、表面粗さRaが0.10μm以下の複数のタングステン線を用いて、金属メッシュを製網する工程と、製網された金属メッシュを構成する複数のタングステン線の表面に凹凸を形成する工程とを含むことであると認められる。
イ 本件特許発明1乃至7について
請求項1、及び請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2乃至7に係る本件特許は、「凹凸を形成した後の金属メッシュを構成するタングステン線の表面粗さRaは、0.10μmより大きく0.18μm以下である」金属メッシュの製造方法が特定されている。
しかし、製網する工程で用いるタングステン線の表面粗さRaについては、何ら特定されていない。
そうすると、製網する工程で用いるタングステン線の表面粗さRaが、0.11μm以上0.18μm未満(粗面化を行うことで、最大粗さが0.18μmであることから0.18μm未満とした)のもの、すなわち、製網時に断線又は摩耗の発生を抑制できないものも包含される。
そうすると、本件特許発明1乃至3、5乃至7は、上記本件特許発明が解決しようとする課題である「スクリーンメッシュなどに利用可能な高性能な金属メッシュを製造することができる金属メッシュの製造方法を提供する」ことを解決し得ないものである。
そうすると、本件特許発明1乃至3、5乃至7は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。
(2)当審の判断
ア 上記取消理由は、令和4年5月2日に提出された訂正請求書に添付の特許請求の範囲の請求項1乃至7に対して通知されたものであるところ、令和4年10月6日に提出された訂正請求により請求項1は、「表面粗さRaが0.10μm以下である複数のタングステン線を用いて、金属メッシュを製網する工程」と、製網する工程で用いるタングステン線の表面粗さRaが特定され、かつ、「複数のタングステン線の表面の粗面化を行うことで、前記表面に凹凸を形成する工程」と、製網後の粗面化処理により凹凸が形成されることが特定された。
そうすると、製網時において、断線又は摩耗の発生を抑制できると認識し得るものとなった、すなわち、上記本件訂正特許発明が解決しようとする課題が解決できるものと認識し得ることとなったのであるから、本件訂正特許発明1は、取消理由による特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないとはいえないから、取消理由により、本件特許請求の範囲の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
本件訂正特許発明2、3、5乃至7はいずれも、本件訂正特許発明1を直接的又は間接的に引用するものであるから、取消理由により、本件特許請求の範囲の請求項2、3、5乃至7に係る特許を取り消すことはできない。
5 取消理由通知で採用しなかった申立理由について
(1)申立理由の概要
ア 申立理由1
請求項1乃至7に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1乃至7に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
イ 申立理由2
請求項1乃至7に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記各甲号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1乃至7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
ウ 申立理由3
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記(ア)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(ア)「高性能の金属メッシュ」なる意義
本件明細書には、課題として「本発明は、スクリーンメッシュなどに利用可能な高性能な金属メッシュを製造することができる金属メッシュの製造方法を提供することを目的とする。」(【0055】)と明記されている。
しかし、そもそも「性能」についての項目が一切挙げられていない本件明細書において、「高性能」なる意義を到底理解することはできない。
仮に、「請求項及び発明の詳細な説明に記載された用語が不統一であり、その結果、両者の対応関係が不明瞭となる場合」に該当するのであれば、審査基準が「サポート要件違反の類型」に挙げられている典型例である。
さらに進んで、「高性能な金属メッシュ」を課題としていることに鑑みて、【0002】~【0005】の文の流れから、「微細化」「強度」を担保した「金属メッシュ」を意味するのであれば、【請求項1】にタングステン線の「線径」に規定はなく、「ステンレス製の金属線」と対比できるだけの「強度の規定」もない。
一方で、本件明細書には「乳剤の保持力を高める」ことについて多くの紙幅を費やしている。「乳剤の保持力を高める」ことができることが、「高性能な金属メッシュを製造することができる」こととどのように関係するのか、本件明細書を精査しても不明である。
ちなみに、「高性能な金属メッシュ」が「乳剤の保持力を高める」ことを意味するのであれば、請求項7の製網前の「タングステン線の線径」、請求項5の製網前の「タングステン強度」、請求項6の製網前の「タングステン線の真直性」に関係しないことのほか、請求項4の「製網の前後で表面粗さをどのように設定するのか」についても関係しないことが当業者には、明確に理解される。
結局、審査基準における「サポート要件違反の類型」の一つである「請求項及び発明の詳細な説明に記載された用語が不統一であり、その結果、両者の対応関係が不明瞭となる場合に該当する場合」に該当し、本件発明1~7に係る特許はサポート要件を充足しない。
エ 申立理由4
本件特許は、明細書又は特許請求の範囲の記載が下記(ア)の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(ア)上記申立理由3で述べたように、本件明細書に記載において、本件発明の「高性能な金属メッシュ」なる課題が明瞭でないこと、個々の技術的事項の関連性に矛盾があること、その関連性が明瞭でないことがあいまって、当業者が、明細書及び図面に記載された発明の実施についての説明と出願時の技術常識とに基づいて、請求項に係る発明を実施しようとした場合に、どのように実施するかを理解できないから、当業者が実施することができる程度に発明の詳細な説明が記載されていない。
よって、本件明細書の記載は実施可能要件を充足しない。
(2)各甲号証
ア 甲第1号証:特開2013-118222号公報
(ア)甲第1号証に記載した事項
本件特許の出願日前の平成25年6月13日に公報が発行された特開2013-118222号公報(以下「甲第1号証」という。)には、次の事項が記載されている。
a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属線が編まれて構成されたスクリーンメッシュに対して研削・研磨を施して、前記複数の金属線の、その交差部を除く部分の最小径が所定の設定値未満になるまで前記複数の金属線を細くする研削・研磨工程と、
研削・研磨後の前記スクリーンメッシュを含むスクリーン印刷版を用いたスクリーン印刷によって、絶縁基板に導電層を印刷する又は導電層上にエッチングレジストを印刷する印刷工程と、
を含み、
前記設定値は、18μm以下の値である
プリント配線板の製造方法。
【請求項2】
前記研削・研磨工程の前に、前記スクリーンメッシュに対してその厚さ方向に圧力を付与し、前記複数の金属線の、前記交差部において前記スクリーンの一方の面側に位置する第1部分及び他方の面側に位置する第2部分それぞれを扁平にするとともに、前記第1部分の前記一方の面側及び前記第2部分の前記他方の面側に平坦面を形成するカレンダー加工工程を更に含み、
前記研削・研磨工程では、前記第1部分の前記平坦面が曲面になるまで研削・研磨が行われ、前記第1部分の断面形状は楕円状とされる
請求項1に記載のプリント配線板の製造方法。
…
【請求項5】
前記研削・研磨工程では、前記複数の金属線は、被印刷物に向けられる側の表面粗さが0.05μm以上0.2μm未満とされ、その反対側の表面粗さが0.2μm以上とされる
請求項1~4のいずれか1項に記載のプリント配線板の製造方法。」
b 「【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリーン印刷法を利用して導電層を絶縁基板に形成するプリント配線板の製造方法に関する。」
c 「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スクリーン印刷によって導電層若しくはエッチングレジストを印刷してプリント配線板を製造する場合において、配線パターンを微細化するためには、線径(金属線の直径)及びオープニング(網目の内径)を小さくする必要がある。しかし、線径を小さくすると、スクリーンメッシュを織る際に断線が生じやすくなり、スクリーンメッシュの歩留まりが低下する。従って、スクリーンメッシュを構成する金属線の線径は、一般的に13μm以上とされている。その結果、配線パターンの微細化に限界が生じていた。
【0005】
なお、特許文献1では、スクリーンメッシュに対する研磨による効果として、平坦面の面取りがなされることによって、交差部における塗料の回り込みが向上することに着目している。また、特許文献1では、研磨後の線径として、18.2μmを開示している。
【0006】
本発明の目的は、配線パターンを微細化可能なプリント配線板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るプリント配線板の製造方法は、複数の金属線が編まれて構成されたスクリーンメッシュに対して研削・研磨を施して、前記複数の金属線の、その交差部を除く部分の最小径が所定の設定値未満になるまで前記複数の金属線を細くする研削・研磨工程と、研削・研磨後の前記スクリーンメッシュを含むスクリーン印刷版を用いたスクリーン印刷によって、絶縁基板に導電層を印刷する又は導電層上にエッチングレジストを印刷する印刷工程と、を含み、前記設定値は、18μm以下の値である。
【0008】
好適には、前記研削・研磨工程の前に、前記スクリーンメッシュに対してその厚さ方向に圧力を付与し、前記複数の金属線の、前記交差部において前記スクリーンの一方の面側に位置する第1部分及び他方の面側に位置する第2部分それぞれを扁平にするとともに、前記第1部分の前記一方の面側及び前記第2部分の前記他方の面側に平坦面を形成するカレンダー加工工程を更に含み、前記研削・研磨工程では、前記第1部分の前記平坦面が曲面になるまで研削・研磨が行われ、前記第1部分の断面形状は楕円状とされる。
【0009】
好適には、前記研削・研磨工程では、前記第2部分の前記平坦面も曲面になるまで研削・研磨が行われ、前記第2部分の断面形状も楕円状とされる。
…
【0011】
好適には、前記研削・研磨工程では、前記複数の金属線は、被印刷物に向けられる側の表面粗さが0.05μm以上0.2μm未満とされ、その反対側の表面粗さが0.2μm以上とされる。
…
【0014】
本発明の一態様に係るプリント配線板の製造方法は、複数の金属線が編まれて構成されたスクリーンメッシュを含むスクリーン印刷版を用いたスクリーン印刷によって、絶縁基板に導電層を印刷する又は導電層上にエッチングレジストを印刷する印刷工程を含み、前記複数の金属線は、その交差部を除く部分の最小径が18μmであるとともに、前記交差部において一方の面側となる第1部分の断面形状が、前記一方の面側が曲面の楕円状である。」
d 「【0017】
(第1の実施形態)
以下、図1~図5を参照して、本発明の第1の実施形態に係るプリント配線板の製造方法を説明する。
【0018】
まず、図1及び図2に示すように、縦モノフィラメント1Pおよび横モノフィラメント1T(以下、単に「モノフィラメント1」といい、両者を区別しないことがある。)を編んでスクリーンメッシュ3を形成する。モノフィラメント1は、例えば、ステンレス等の金属によって形成されている。織組織は、例えば、平織りである。スクリーンメッシュ3の各種寸法等は適宜に設定されてよいが、一例として、モノフィラメント1の線径d1(直径)は13μm以上20μm以下(例えば13μm)、メッシュ数は430個/インチ、開口率は約61%である。
【0019】
次に、スクリーンメッシュ3を不図示の版枠に紗張りする。版枠は、例えば、アルミダイカストによって形成されている。
【0020】
次に、紗張りされたスクリーンメッシュ3(モノフィラメント1)の研削・研磨を行う。なお、研削及び研磨は、同義とされたり、異なるものとされたりすることから、本願においては、研削及び研磨の上位概念(これらが異なるものとされる場合には双方を含む概念)として、研削・研磨の語を用いることとする。
【0021】
なお、モノフィラメント1の研削・研磨は、スクリーンメッシュ3を版枠に紗張りする前に行われてもよい。
【0022】
研削・研磨は、物理的な研削・研磨であってもよいし、化学的な研削・研磨であってもよい。物理的な研削・研磨としては、例えば、サンドブラスト処理若しくは粘性流体研磨を挙げることができる。また、化学的な研削・研磨としては、例えば、薬液によるエッチング処理を挙げることができる。」
e 「【0023】
図3及び図4に示すように、研削・研磨によって、モノフィラメント1は細くなり、モノフィラメント2(2P、2T)となり、複数のモノフィラメント2からなるスクリーンメッシュ4が形成される。
【0024】
研削・研磨は、スクリーンメッシュ4の各種寸法の少なくとも1つが所望の範囲となるように研削・研磨量が調整される。例えば、モノフィラメント2は、その交差部Cr以外における最小径d2が18.0μm未満、好ましくは13.0μm未満、より好ましくは10.0μm以下とされる。なお、最小径d2は、スクリーンメッシュ4の強度確保の観点から、6.0μm以上であることが好ましい。また、例えば、モノフィラメント2は、交差部Crを除く最小径が加工前の線径d1より1μm以上6μm以下細く、より好ましくは、2μm以上5μm以下細くされる。
【0025】
なお、モノフィラメント2が研削・研磨前のモノフィラメント1よりも細いことにより、スクリーンメッシュ4の開口率は研削・研磨前のスクリーンメッシュ3の開口率よりも大きくなっている。例えば、上記において例示したように、スクリーンメッシュ3において、線径d1(直径)が13μm、メッシュ数が430個/インチ、開口率が約61%である場合において、スクリーンメッシュ4において、モノフィラメント2の最も細い部分の線径の実測値が、11μmないし9μmで平均値が10μmになると、スクリーンメッシュ4の開口率は69%になる。
【0026】
また、研削・研磨後のモノフィラメント2の表面粗さは、使用するインキおよび印刷する目的に合わせて調整することが好ましい。例えば、通常のソルダーレジスト用のインキを用いる場合について述べる。この場合、モノフィラメント2の表面粗さRaは、0.2μm≦Ra≦5μmを満たすように調整し加工することが好ましい。モノフィラメント2の表面粗さRaの値をこのような範囲にすると、インキとモノフィラメントの親和性が増すので、インキの透過性を向上することができる。
【0027】
ところで、モノフィラメント2の表面粗さ(算術平均粗さ)Raを0.2μm≦Ra≦5μmになるように加工する方法としては、エッチング処理方法やサンドブラスト処理方法を用いても良いし、粘性流体研磨を用いて加工しても良い。または、これらの加工方法を組み合わせて加工しても良い。
【0028】
次に、金属微粒子を含有するインキなど、一般的に版離れが大変悪いインキを用いる場合について述べる。このようなインキを用いる場合、モノフィラメント2の表面粗さRaは、0.05μm≦Ra<0.2μmを満たしていることが好ましい。このような範囲の値にした場合、表面粗さRaが0.2μm≦Ra≦5μmの場合に比べて、インキとモノフィラメント2の親和性は悪くなる。ところが、親和性が悪くなる特性は、インキがモノフィラメント2から離れやすく作用するので、版離れを良くすることができる。
【0029】
ところで、モノフィラメント2の表面粗さRaが0.05μm≦Ra<0.2μmを満たすように加工する方法としては、エッチング処理方法を用いても良いし、粘性流体研磨を用いて加工しても良い。または、これらの加工方法を組み合わせて加工しても良い。
【0030】
また、モノフィラメント2の表面粗さRaを、部分的に異なる粗さに加工することがより好ましい。例えば、スキージと接する側のモノフィラメント2の表面粗さRaを0.2μm≦Ra≦5μmになるように加工し、また、印刷面側のモノフィラメント2の表面粗さRaを0.05μm≦Ra<0.2μmになるように加工する。このような加工状態にすると、スキージ側の表面粗さRaが0.2μm≦Ra≦5μmであることによって、インキとモノフィラメント2との親和性が良くなるのでインキの透過性が良くなって、スクリーンメッシュを透過しやすくなる。そして、スクリーンメッシュを透過したインキは、前記モノフィラメントの表面粗さRaが0.05μm≦Ra<0.2μmであることによって、表面粗さRaが0.2μm≦Ra≦5μmである場合に比べて、インキとモノフィラメント2の親和性は悪くなるので、版離れを良くすることができる。
【0031】
ところで、モノフィラメント2の表面粗さRaを部分的に0.05μm≦Ra<0.2μmおよび0.2μm≦Ra≦5μmになるように加工する方法としては、例えば、最初にエッチング法を用いて研削を行った後、粘性流体研磨を行ってモノフィラメント2の表面粗さRaを部分的に0.05μm≦Ra<0.2μmを満たすように加工し、次にスキージと接する側からのみサンドブラスト処理を行って、スキージ側のモノフィラメント2の表面粗さRaが0.2μm≦Ra≦5μmになるように加工する。このようにして加工すると、印刷面側のモノフィラメントの表面はサンドブラスト処理されない。そのため、印刷面側のモノフィラメントの粗さRaは0.05μm≦Ra<0.2μmの状態にすることができる。
【0032】
次に、版枠に紗張りしたスクリーンメッシュ4の表面に、例えば感光性乳剤を塗布し乾燥させて感光性樹脂層5(図5)を形成する。感光性乳剤としては、水溶性光架橋剤を含有する鹸化度70~99モル%の部分鹸化酢酸ビニル重合体及びそれ自体で光架橋性を有する光架橋性基を含有する鹸化度70~99モル%の部分鹸化酢酸ビニル重合体から選ばれた水溶性重合体よりなる分散媒中に、疎水性重合体粒子よりなる分散質及び光重合開始剤を含有する水不溶性又は難溶性で光活性な一つ又は二つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物を分散してなる感光性樹脂組成物等を用いて良い。次に、露光および現像を行って開口部6(図5)を形成してスクリーン印刷版7(図5)を形成する。
【0033】
次に、図5(a)に示すように、絶縁基板10に対向配置されたスクリーン印刷版7に対してスキージ8を摺動させることにより、Cu等の金属を含むインキ9を開口部6を介して絶縁基板10に対して塗布する。その後、インキ9は溶剤が蒸発され、金属層(導電層11)が形成される。これにより、プリント配線板12が作製される。」
f 「【0037】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係るプリント配線板の製造方法について説明する。第2の実施形態に係るプリント配線板の製造方法は、研削・研磨工程の前にカレンダー加工(圧延加工)が行われる点のみが第1の実施形態と相違する。具体的には、以下のとおりである。
【0038】
まず、第1の実施形態と同様に、図1及び図2に示すスクリーンメッシュ3を形成する。
【0039】
次に、スクリーンメッシュ3に対してカレンダー加工を施し、交差部Crを押しつぶす。これにより、図6及び図7に示すように、モノフィラメント1は、交差部Crにおいて圧延部115を有するモノフィラメント101(101P、101T)とされ、複数のモノフィラメント101からなるスクリーンメッシュ103が形成される。
【0040】
圧延部115は、押しつぶされることによって、スクリーンメッシュ103の厚み方向における線径d105(図7)よりも、スクリーンメッシュ103の平面方向における線径d106が大きくなっている。すなわち、扁平となっている。また、圧延部115は、スクリーンメッシュ103の表面側に面する平面状の平坦面115aと、その側面の側面115bを有している。
【0041】
次に、カレンダー加工後のスクリーンメッシュ103に対して、第1の実施形態においてスクリーンメッシュ3に対して行ったのと同様に、版枠に紗張りする前若しくは後において、研削・研磨を行う。
【0042】
これにより、第1の実施形態と同様に、モノフィラメント101は細くなり、モノフィラメント102(102P、102T)となり、複数のモノフィラメント102からなるスクリーンメッシュ104が形成される。
【0043】
なお、モノフィラメント102が、その交差部Cr以外における最小径d2が18.0μm未満、好ましくは13.0μm未満、より好ましくは10.0μm以下とされること等は、第1の実施形態と同様である。
【0044】
ここで、研削・研磨によって、平坦面115a及び側面115bの角部は面取りされる。また、平坦面115aは、さらに研削・研磨が進行することによって、曲面とされることが好ましい。なお、この場合、研削・研磨前の圧延部115において線径d106が線径d105よりも大きい影響が研削・研磨後まで残るから、研削・研磨後の圧延部116は、断面が楕円状となる。
【0045】
なお、本願において、楕円状とは、概ね、外側に膨らむ曲線(曲面)により輪郭全体が形成された扁平な形状をいうものとする。すなわち、本願において、楕円状は、数学的に定義される2定点からの距離の和が一定となる点の集合から作られる曲線(x2/a2+y2/b2=1)に限定されない。
【0046】
その後は、第1の実施形態と同様に、感光性樹脂層5を形成してスクリーン印刷版を作製し、スクリーン印刷版を用いて導電層11を絶縁基板10に印刷する。これにより、プリント配線板が作製される。
【0047】
以上のとおり、第2の実施形態の製造方法は、第1の実施形態と同様に、金属線の交差部を除く最小径が所定の設定値未満になるまで研削・研磨を行う工程を含んでいることから、第1の実施形態と同様の効果が奏される。すなわち、配線パターンの微細化が可能となる。
【0048】
また、第2の実施形態では、研削・研磨工程の前に、スクリーンメッシュ3に対してその厚さ方向に圧力を付与し、複数の金属線(モノフィラメント1)の、交差部Crにおける第1部分(圧延部115)を扁平にしつつ、圧延部115に平坦面115aを形成するカレンダー加工工程を更に含み、研削・研磨工程では、第1部分において平坦面115aが曲面になるまで研削・研磨が行われ、第1部分(圧延部116)の断面形状は楕円状とされる。
【0049】
従って、例えば、カレンダー加工が行われない場合に比較してスクリーンメッシュ4の薄型化を図ることができるとともに、平坦面115a(平面)が残っている場合に比較して、インクの絶縁基板10側への回り込みを好適に実現させることができる。また、例えば、スキージ8の接触を滑らかにしてスキージ8若しくはスクリーンメッシュ104の摩耗を抑えることができる。」
g 「【0069】
本発明は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
【0070】
例えば、織組織は、平織りに限定されず、綾織りであってもよい。また、例えば、カレンダー加工が行われる場合において、研削・研磨後に、金属線の第1部分(交差部において研削・研磨がなされる側に位置する部分)における断面形状は、楕円状とならずに、平面が残る形状であってもよい。」
h 上記【特許請求の範囲】には、「プリント配線板の製造方法」が記載されているものの、プリント配線板の製造方法から印刷工程を除いた研削・研磨工程及びカレンダー加工工程は、スクリーンメッシュの製造に係る工程であるから、甲第1号証には、研削・研磨工程及びカレンダー加工工程を含む、スクリーンメッシュの製造方法が記載されているものと認められる。
(イ)甲1発明
そうすると、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が示されているものと認められる。
「複数のステンレスの金属線が編まれて構成されたスクリーンメッシュに対して研削・研磨を施して、前記複数の金属線の、その交差部を除く部分の最小径が所定の設定値未満になるまで前記複数の金属線を細くする研削・研磨工程と、
前記設定値は、18μm以下の値であり、
前記研削・研磨工程の前に、前記スクリーンメッシュに対してその厚さ方向に圧力を付与し、前記複数の金属線の、前記交差部において前記スクリーンの一方の面側に位置する第1部分及び他方の面側に位置する第2部分それぞれを扁平にするとともに、前記第1部分の前記一方の面側及び前記第2部分の前記他方の面側に平坦面を形成するカレンダー加工工程を更に含み、
前記研削・研磨工程では、前記第1部分の前記平坦面が曲面になるまで研削・研磨が行われ、前記第1部分の断面形状は楕円状とされ、
前記研削・研磨工程後の調整により、前記複数の金属線は、表面粗さRaが、0.05μm≦Ra<0.2μmとなり、
前記研削・研磨工程後の調整は、薬液によるエッチング処理であり、
版枠に紗張りしたスクリーンメッシュの表面に、感光性乳剤を塗布し乾燥させて感光性樹脂層を形成し、次に、露光および現像を行って開口部を形成してスクリーン印刷版を形成する、
スクリーンメッシュの製造方法。」
イ 甲第2号証:国際公開第2014/189026号公報
(ア)甲第2号証に記載した事項
本件特許の出願日前の平成26年11月27日に公報が発行された国際公開第2014/189026号公報(以下「甲第2号証」という。)には、次の事項が記載されている。
a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリーン印刷に用いられ、複数の貫通口を有する構造体であって、
少なくとも一部に濡れ性を良くする表面改質処理が施されている、
構造体。」
b 「【0022】
一実施形態におけるスクリーンメッシュ12は、様々な材質や線径の糸を編み込んで作成される。スクリーンメッシュ12を構成する糸の表面粗さ、断面形状、及び折り方は、その用途等に応じて適宜変更され得る。断面形状は、例えば、丸型、楕円型、四角形型、多角形型、不定形型、及び星型が含まれる。折り方の例には、平織り、綾折、及び3次元形状折が含まれる。スクリーンメッシュ12を構成する糸の材料は、例えば、ステンレス鋼、鉄鋼、銅、若しくはタングステン等の金属又はこれらの合金である。また、金属には非晶質金属なども含まれる。さらには、スクリーンメッシュ12を構成する糸の材料として、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリエチレン、ナイロン、ビニル等の化学繊維、レーヨン等の混紡繊維、炭素繊維、ガラス繊維等の無機材料、羊毛、絹、綿、若しくはセルロース等の天然素材繊維であってもよい。さらに、スクリーンメッシュ12を構成する糸は、繊維糸の交差する「交点部」の厚みを減らすためにプレスされたもの(カレンダー加工品)でも良く、繊維糸表層の表面粗さをサンドブラスト加工などの物理加工や、化学エッチィングその他の化学薬品処理で改質したもの、湿式メッキや乾式メッキ等にて表面処理されたものでも良く、さらには、スクリーンメッシュ12に、後に乳剤を塗布して印刷パターンを露光する際の紫外線乱反射を防止するために紫外線反射防止用の化成処理被膜や塗料などが塗布されているものでもかまわない。例えば、スクリーンメッシュ12として、#500-19メッシュを用いることができる。#500-19メッシュは、メッシュを構成する線材(繊維糸)の線径が19μm、メッシュ開口部(貫通口12a)幅(目開き、つまり隣接する線材の間隔)が概ね30μmであり、メッシュカウントが500である。メッシュカウントが500とは、1インチ幅に500本のメッシュ線材が存在することを意味する。スクリーンメッシュ12の材質、線径、メッシュ数、メッシュ開口部の大きさの均一性、メッシュ開口部の位置、メッシュ開口部のテーパ角度、及びメッシュ開口部の形状等の仕様は、ここで述べたものに限られず、印刷方法、印刷パターン、印刷対象、要求される耐久性等に応じて適宜変更することができる。また、一実施形態において、スクリーンメッシュ12は、通常、糸状の素材を編み込むことによって形成されるが、それ以外の方法によって形成することも可能である。例えば、スクリーンメッシュ12は、電鋳法、印刷法、及びフォトリソグラフィー法により形成され得る。また、スクリーンメッシュ12は、基材に対して、レーザ加工、エッチィング加工、ドリル加工、パンチング加工、及び放電加工等の様々な方法で貫通口を形成することにより形成される。このとき形成される貫通口が、スクリーンメッシュ12の貫通口12aに相当する。上述した材質や作成方法は適宜組み合わせられる。また、スクリーンメッシュ12のメッシュ開口部のエッジ部は、適宜面取りされる。スクリーンメッシュ12は、複数のメッシュを組み合わせたものであってもよい。例えば、同じ種類のメッシュ同士や異なる種類のメッシュ同士が組み合わせられる。」
ウ 甲第3号証:特開2016-13639号公報
(ア)甲第3号証に記載した事項
本件特許の出願日前の平成28年1月28日に公報が発行された特開2016-13639号公報(以下「甲第3号証」という。)には、次の事項が記載されている。
a 「【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリーン印刷を行う場合に用いる金属メッシュ織物およびスクリーン版に関するものである。」
b 「【0069】
高精細パターンの形成に使用される金属メッシュ織物の線材としては軟質のステンレスが広く使用されている。さらに一般的な軟質ステンレスに比べて弾性率の高い高強度ステンレスやタングステンを線材として製織したメッシュを用いれば線径を細くしてもメッシュ数の増加割合は低く抑えることが可能となるため高精細パターンの形成には一層好適である。最小の線幅またはドットの径が30μm以下の高精細なパターンを形成するために用いるスクリーンとしては16μm以下の細い線材を用いてメッシュ数300以上の織物とするのが好ましい。
【0070】
さらに20μm以下の一層高精細なパターンを形成する場合には、線材としては13μm以下でメッシュ数400以上、さらに15μm以下の超高精細なパターンの形成では線径11μm以下の線材を500メッシュ以上の高メッシュ数でのメッシュ織物とすることが好ましい。通常の軟質ステンレスを用いる事も出来るが、弾性率の高い高強度ステンレスやタングステンを用いればメッシュ数を著しく高くせずとも、すなわち開口率を維持してインクやペーストの吐出量を確保して高い解像性を得たうえで、一層耐久性に優れた高い寸法精度での繰り返し印刷を可能とするスクリーン印刷用メッシュ織物とすることが可能となる。
【0071】
16μm以下、特に13μmや11μmの極細い径の線材を高メッシュ数で製織できる材料は極めて限定されることとなり、この点においてヤング率が2500N/mm2以上の高強度ステンレスやタングステンは一層好適な材料といえる。本実施形態の紫外線散乱抑制メッシュ1は、金属メッシュ織物を構成する材料(金属線材)の種類が限定されず、縦糸2及び横糸3の表面に金属化合物粒子及びバインダーを含む薄膜4を形成することで、紫外線の散乱が抑制されたスクリーン印刷用の金属メッシュ織物として得ることができる。すなわち、本実施形態の係る技術により、紫外線の反射率が抑制され、最小の線幅またはドットの径が30μm以下、さらには20μm、15μmという超高精細なパターンの形成が可能となる。」
c 「【0131】
(実施例7)
実施例1において画像形成用スクリーンとして用いたステンレススクリーンを、(a)糸径11μm、520メッシュのタングステンスクリーン((株)NBCメタルメッシュ製、M40)、及び(b)糸径13メッシュ、450メッシュのタングステンスクリーン((株)NBCメタルメッシュ製、M40)を用いた以外は実施例1と同様にしてコンビネーションスクリーン版を作製した。ここで、画像形成用スクリーンの波長375nmでの紫外光での反射率は(a)2.3%、(b)2.2%であった。」
d 「【0140】
換算膜厚が50nm以上500nm以下である実施例1から7のいずれにおいても、波長375nmの光の反射率は6%以下であり、いずれも9分割した全区分(全9パターン)において30μmの解像が可能であった。実施例3では換算膜厚がほぼ同じ200nmではあるが、薄膜厚さが小さい3aが3bに比べて解像性の評価が高いのはメッシュのオープニングエリアが大きいためと考えられる。ヤング率が4000N/mm2レベルの高強度材料であるタングステン糸を用いた、糸径が細い11μmの実施例7aや13μmである実施例7bでは反射率が3%未満であり、9分割した全区分において15μmの解像が可能であった。これに対して薄膜の形成が無い比較例1では反射率が14.4%と高いために、9分割の区分中の3区分のみにて30μmが解像可能であるにとどまっている。また、換算膜厚が35nmである比較例2aでは反射率は6.3%であり、9分割の区分中の7区分のみにて30μmが解像可能であった。さらに、換算膜厚を721nmと実施例2bより厚くした比較例2bでは反射率は2.1%と低いにもかかわらず、9分割の区分中の7区分のみにて30μmの解像が可能であるにとどまった。これは薄膜の厚さが4000nm以上と厚く、メッシュのオープニングエリアに悪い影響が出たためと考えられる。」
エ 甲第4号証:特開2012-121244号公報
(ア)甲第4号証に記載した事項
本件特許の出願日前の平成24年6月28日に公報が発行された特開2012-121244号公報(以下「甲第4号証」という。)には、次の事項が記載されている。
a 「【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリーン印刷用メッシュおよびスクリーン印刷版に関するものである。」
b 「【0034】
本発明によるスクリーン印刷用メッシュ1の横糸2および縦糸3は、金属製であることが好ましく、特にステンレス製およびタングステン製のものが好ましい。」
オ 甲第5号証:特開2015-89672号公報
(ア)甲第5号証に記載した事項
本件特許の出願日前の平成27年5月11日に公報が発行された特開2015-89672号公報(以下「甲第5号証」という。)には、次の事項が記載されている。
a 「【技術分野】
【0001】
本発明は、高精細なパターンをスクリーン印刷で行う場合に用いる金属メッシュ織物およびスクリーン版に関するものである。より詳しくは、高精細のパターンを優れた寸法精度で繰り返し印刷可能とするスクリーン印刷用の金属メッシュ織物及びこの金属メッシュ織物を利用したスクリーン印刷用スクリーン版の提供に関するものである。」
b 「【0029】
ここで、タングステン及びタングステン合金の性質について説明する。タングステン及びタングステン合金は金属材料中で最も高い弾性率を示す材料の1つであり、タングステンでは380~411GPaと通常のステンレスに比べて約2倍の弾性率を有する。すなわち素材そのものが低伸度かつ高強度であるとの特性に加え、応力・ひずみ曲線における降伏応力と引張り強度(破断強度)とが比較的近いとの力学的な特徴がある。」
c 「【0059】
本実施形態の金属メッシュ織物1の材料は、タングステンまたはタングステン合金である。タングステン合金としてはタングステンに加えてレニウム、オスミウム、タンタル、モリブデンから選ばれる少なくとも1種以上の金属を成分に含む合金が好ましい。この中で特にレニウムとの合金はタングステンの高い弾性率、及び応力・ひずみ曲線における降伏応力と引張り強度(破断強度)とが比較的近いとの力学的な特徴を維持しつつ、強度、伸度ともに高くする効果を持つのでより好ましい素材といえる。なお、金属メッシュ織物1の材料には、タングステンあるいはタングステン合金以外に、不可避的に混入する不可避的不純物が含まれることは許容される。不可避的不純物は、原料にもともと含まれていた、もしくは製造過程での混入により含まれる成分であり、意図的に入れたものではない成分である。」
d 「【0121】
(比較例1)
実施例1における画像形成用スクリーンに用いるタングステン線において、本実施形態にて説明した酸化被膜層形成の処理を行わないものであり、その表面はタングステン線の周囲全長の20%程度に断続的に厚み5~20nmの酸化被膜が形成されているが、全体の80%程度にはほとんど酸化被膜層が形成されていない通常のタングステンメッシュ(W40-325-016、株式会社NBCメタルメッシュ製)を用いた以外は、実施例1と同じ仕様のコンビネーションスクリーン版を作製した。ここで、画像形成用スクリーンの波長375nmの紫外光の反射率は11.5%であった。」
カ 甲第13号証:特開2001-312952号公報
(ア)甲第13号証に記載した事項
本件特許の出願日前の平成13年11月9日に公報が発行された特開2001-312952号公報(以下「甲第13号証」という。)には、次の事項が記載されている。
a 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はタングステン線およびその製造方法に係り、特に表面部に接合したエミッタ材などの剥離がなく、良好な電子放出能力を長期間に亘って維持できるカソード用フィラメント等を形成することが可能なタングステン線およびその製造方法に関する。」
b 「【0008】そこで、タングステン線表面をむしろ積極的に目荒しして、その表面粗さを電解研磨等によって所定の範囲にしたときに、エミッタ材との接合面積が大きくなるため、接合強度が高く、エミッタ材の剥離が少ない長寿命のカソード用フィラメントが得られることが判明した。しかし、タングステン線の表面粗さを過度に大きくすると却って電着むらや異常放電が生じ易くなるため、上記タングステン線の表面粗さは適正な範囲に制御する必要があることが判明した。本発明は上記知見に基づいて完成されたものである。」
c 「【0024】実施例1~7および比較例1~4
ドープ剤としてAlを30ppm、Siを300ppm、Kを90ppm含有するタングステン原料粉末を調製し、このタングステン原料粉末を常法により圧粉成形し、得られた成形体を水素炉にて1200~1350℃で30分間仮焼結後、2700~3000℃で30~60分間通電焼結を行いタングステン焼結体とした。
【0025】さらに得られたタングステン焼結体を転打処理、再結晶処理、伸線処理等の一次加工を実施した。具体的には転打機を使用してタングステン焼結体を温度1300~1500℃で線径が2~4mm程度になるまで鍛延した。さらに鍛延したW線材を温度900℃で超硬合金・焼結ダイヤモンドダイスにより線径が10~20μmになるまで伸線し、各実施例および比較例用のタングステン線素材とした。
【0026】次に、上記のように伸線処理した各タングステン線素材を、表1に示す条件で電解研磨処理を行った。すなわち、電解液として表1に示す濃度を有する水酸化ナトリウム水溶液を用い、この電解液中に各タングステン線素材を陽極として配置した上で直流電圧を印加して、各電解率(タングステン線素材の溶解率)が表1に示す値になるまで電解研磨処理を実施することにより、最終的に表1に示す仕上り線径(直径)Dを有する各実施例および比較例に係るタングステン線をそれぞれ調製した。
【0027】上記のように調製された各実施例および比較例のタングステン線の長さ方向に垂直に切断し、その周方向の表面粗さを、金属顕微鏡で100~800倍に拡大して撮影し、それぞれ図1に示すように、表面に数ミクロンの不規則な凹凸が形成されていることを示す粗さ曲線を得た。そして各粗さ曲線から凹凸の間隔(Sm)を測定し、前記(1)式に基づいて粗さ曲線の凹凸の平均間隔(Sm)を算出するとともに、粗さ曲線における山頂線と谷底線との間隔である最大高さ(Ry)を測定した。さらに上記Sm値およびRy値の、W線直径Dに対する比を算出して表1に示す結果を得た。
【0028】また、各実施例および比較例に係るタングステン線の特性を評価するために、各W線の表面にエミッタ材としての酸化バリウムを同一条件で電着して各カソード用フィラメントを調製し、このカソード用フィラメントを蛍光表示管に組み込み、一定時間(100時間)使用した後におけるカソード表面のエミッタ材の剥離率(面積率)を測定するとともに、蛍光表示管の表示特性の良否を測定した。なお、表示特性については、異常放電がなく、はがれ不良の発生頻度が4%以下と少ない場合を○と評価する一方、上記不良の発生頻度が4%を超える場合を×と評価した。測定・評価結果を下記表1に示す。
【0029】
【表1】
[図:0001397162000001.jpg]
」
d 上記表1より、比較例1は、仕上がり線経Dが10.0μmで、Ry/D比が0.3%Ryが0.030μmであると認められる。
キ 甲第14号証:「JIS『照明及び電子機器用のタングステン線 JIS H 4461:2002(JTMIA/JSA)』」、日本工業標準調査会、平成14年3月20日発行、日本規格協会発行
(ア)甲第14号証に記載した事項
本件特許の出願日前の平成14年3月20日に発行された「JIS『照明及び電子機器用のタングステン線 JIS H 4461:2002(JTMIA/JSA)』」(以下「甲第14号証」という。)には、次の事項が記載されている。
a 「5.4 引張強さ 線は、7.4によって試験を行い、その強さは表3による。
[図:0001397162000002.jpg]
」(3頁)
b 表3には、線引きのまま(VVW1、2のD)、電解研磨された(VWW1、2のE)の径0.025mm未満、すなわち、径25μm未満のタングステン線の引張強さが、3.00~4.50×103N/mm2、すなわち、3000~4500MPaの範囲とすることが示されている。
ク 甲第15号証:TUNGSTEN A TREATISE ON ITS METALLURGY、 PROPERTIES AND APPLICATIONS、COLIN J. SMITHELLS、M.C.、D.Sc.、MEMBER OF THE RESEARCH STAFF OF THE GENERAL ELECTRIC CO.LTD、SECOND EDITION REVISED、昭和19年6月30日発行、149-150頁
(ア)甲第15号証に記載した事項
本件特許の出願日前の昭和19年6月30日に発行された「TANGSTEN」(以下「甲第15号証」という。)には、次の事項が記載されている。
a 「4.抗張力
[図:0001397162000003.jpg]
」
b 第126図から、線経が20μm以下で線引きされたタングステン線が3924MPa以上4415MPa以下の引張強度を示すことが看取できる。
ケ 甲第16号証:特開2015-3347号公報
(ア)甲第16号証に記載した事項
本件特許の出願日前の平成27年1月8日に公報が発行された特開2015-3347号公報(以下「甲第16号証」という。)には、次の事項が記載されている。
a 「【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には放電加工用電極線に関し、特定的にはタングステンを含む材料からなるワイヤ放電加工用電極線に関するものである。」
b 「【0034】
(真直性)
(自然垂下長)
真直性を有する線は「長さ500mmの線の自然垂下長が450mm以上でなければならない」とタングステン・モリブデン工業会規格TMIAS1201:2010「タングステン線及び棒」で規定されている。本発明の放電加工用電極線において、長さ500mmの電極線の自然垂下長が470mmを超えるということは、長さ500mmの電極線を鉛直方向に自然に垂らした場合に鉛直方向に平行に延びる線材の長さ(自然垂下長)が470mmを超えることである。 【0035】
なお、真直性の測定方法は、タングステン・モリブデン工業会規格 TMIAS0201:2010(タングステン・モリブデン線及び棒の試験方法)に準拠する。」
(3)当審の判断
ア 申立理由1について
(ア)本件訂正特許発明1について
a 対比
そこで、本件訂正特許発明1と甲1発明とを対比すると、
甲1発明の「メッシュ」及び「編」むことは、本件訂正特許発明1の「メッシュ」及び「製網する工程」に相当する。
本件訂正特許発明1の「複数のタングステン線」と甲1発明の「複数のステンレスの金属線」とは、「複数の金属線」との概念で共通する。
甲1発明の「スクリーンメッシュ」は、複数のステンレスの金属線が編まれて構成されたものであるから、本件訂正特許発明1の「製網された金属メッシュ」に相当し、「スクリーン印刷用のスクリーンメッシュ」といえる。
本件訂正特許発明1の「表面に凹凸を形成する工程」について、本件特許明細書には、「【0019】 本実施の形態では、タテ糸11及びヨコ糸12の各々の表面には、微小凹凸が形成されている。微小凹凸は、タテ糸11及びヨコ糸12の各々の表面に、不規則な配置で、かつ、略均一に形成された不規則な形状の複数の凹部(又は凸部)で構成されている。微小凹凸が形成されていることにより、タテ糸11及びヨコ糸12の各々の表面粗さRaは、例えば、0.10μmより大きくなり、好ましくは、0.15μm以上になる。タテ糸11及びヨコ糸12の表面粗さRaが大きくなることにより、乳剤の保持力を高めることができる。」と記載されていることからすると、甲1発明の複数の金属線は、研削・研磨工程後の調整により、表面粗さRaが、0.05μm≦Ra<0.2μmとなるのであるから、複数の金属線の表面は凹凸が形成されるといえる。してみると、甲1発明の「研削・研磨工程後の調整」は、本件訂正特許発明1の「表面に凹凸を形成する工程」に相当する。
甲1発明の「スクリーンメッシュ」は、複数のステンレスの金属線が編まれて構成されるのであるから、隣り合う2本のタテ糸と、隣り合う2本のヨコ糸とで形成される開口を複数備えることは明らかといえる。
甲1発明の「スクリーンメッシュ」は、露光および現像を行って開口部を形成してスクリーン印刷版となる、すなわち、露光および現像を行って開口部を形成する工程が最終工程であるから、研削・研磨工程後の調整は、露光および現像を行って開口部を形成する工程の前に行われるといえる。そうすると、本件訂正特許発明1の「凹凸を形成する工程」と甲1発明の「研削・研磨工程後の調整」とは、複数の前記開口が選択的に埋められることにより、印刷材料が通過不可能な非通過部が形成されていない状態で行われる工程である点で一致する。
そうすると、本件訂正特許発明1と、甲1発明とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。
[一致点]
「複数の金属線を用いて、金属メッシュを製網する工程と、
製網された金属メッシュを構成する複数の金属線の表面に凹凸を形成する工程とを含み、
前記金属メッシュは、スクリーン印刷用のスクリーンメッシュであり、
前記金属メッシュは、前記金属線からなる隣り合う2本のタテ糸と、前記金属線からなる隣り合う2本のヨコ糸とで形成される開口を複数備え、
前記凹凸を形成する工程は、複数の前記開口が選択的に埋められることにより、印刷材料が通過不可能な非通過部が形成されていない状態で行われ、
前記凹凸を形成する工程では、前記金属メッシュの両面を含む表面全体に前記凹凸を形成する、
金属メッシュの製造方法」
[相違点1]
製網する金属メッシュが、本件訂正特許発明1は、表面粗さRaが0.10μm以下であるタングステン線で構成されるものであるのに対し、甲1発明は、ステンレスで構成されるものである点。
[相違点2]
複数の金属線の表面に凹凸を形成する工程が、本件訂正特許発明1は、粗面化によるものであるのに対し、甲1発明は、研削・研磨工程後の調整によるものである点。
[相違点3]
凹凸を形成した後の金属メッシュを構成する線の表面粗さRaが、本件訂正特許発明1は、0.10μmより大きく0.18μm以下であるのに対し、甲1発明は、表面粗さRaは、0.05μm≦Ra<0.2μmである点。
b 判断
以上のとおり、本件訂正特許発明1と甲1発明とは、上記相違点1乃至3において相違するものであって、本件訂正特許発明1は、甲第1号証に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。
(イ)本件訂正特許発明2乃至7について
本件訂正特許発明2乃至7は、本件訂正特許発明1を直接的又は間接的に引用し、さらなる限定を付加したものであるから、本件訂正特許発明2乃至7と甲1発明とは、少なくとも上記相違点1乃至3において相違するものである。
したがって、本件訂正特許発明2乃至7は、甲第1号証に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。
(ウ)申立理由1(特許法第29条第1項第3号)についてのまとめ
上記のとおり、本件訂正特許発明1乃至7は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではないから、上記申立理由1により、本件特許請求の範囲の請求項1乃至7に係る特許を取り消すことはできない。
イ 申立理由2について
(ア)本件訂正特許発明1について
a 上記相違点1乃至3についての判断
上記ア(ア)aのとおり、本件訂正特許発明1と、甲1発明とは、上記相違点1乃至3で相違する。
そこで、上記各相違点について検討する。
(a)[相違点1]について、
スクリーン印刷用のスクリーンメッシュの金属メッシュをタングステンで構成することは、甲第2号証乃至甲第5号証に示されているように、当該金属メッシュの製造方法の技術分野において周知の技術手段(以下「周知技術」という。)である。
しかし、金属メッシュを製網するためのタングステン線の表面粗さRaを0.10μm以下とすることは、特許異議申立人が提出したいずれの甲号証にも記載されていないし、設計的事項といえる理由もない。
してみると、上記相違点1に係る本件訂正特許発明1の構成を当業者が容易に想到し得るものということはできない。
(b)[相違点2]について
甲1発明の「調整」の直前の工程である「研削・研磨工程」に関して、上記(2)ア(ア)e【0024】には、「研削・研磨は、スクリーンメッシュ4の各種寸法の少なくとも1つが所望の範囲となるように研削・研磨量が調整される。」と記載されている。
ここでの各種寸法は、上記(2)ア(ア)d【0018】の記載から、モノフィラメントの線径、メッシュ数、開口率であると理解できる。
また、(2)ア(ア)e【0023】を参酌すれば、研削・研磨が行われることで、モノフィラメントが細くなり、モノフィラメントの線径が小さくなる程の大きな研削・研磨が行われた後の表面には、凹凸が残ったままであることが容易に推測できる。
したがって、その後に行われる「表面粗さの調整」は、残った凹凸を削る「平坦化」を行うものであると推認できる。
そして、「表面粗さの調整」が「粗面化」であることは、甲第1号証には記載も示唆もされていない。
以上のことから、甲1発明の「調整」及びその前工程である「研削・研磨工程」はいずれも「平坦化」を意味していると推認でき、本特許発明1の特徴である「粗面化」を意味するものとはいえない。
そして、甲1発明の「調整」及びその前工程である「研削・研磨工程」が、「平坦化」を意味しているのであるから、凹凸を形成するようにする、すなわち、上記相違点2に係る本件訂正特許発明1の構成とすることは、阻害要因があるといえる。
してみると、上記相違点2に係る本件訂正特許発明1の構成を当業者が容易に想到し得るものということはできない。
(c)[相違点3]について
甲1発明には、金属線の表面粗さRaを、0.05μm以上とするものであるのであるから、甲1発明において、0.10μmより大きくすることは、適宜選択し得る設計的事項であるといえる。
他方、本件特許明細書等には、金属メッシュの表面粗さRaが、0.1μmより大きいと、「乳剤の保持力を高めることができる。」(【0019】参照。)「乳剤を表面の凹凸に保持させることができる。」(【0073】参照。)との技術的に臨界的意義があることが記載されているが、0.18μm以下であることの臨界的意義は見いだせない。
してみると、甲1発明は、表面粗さRaを0.2μmより小さくするものであるのであるから、甲1発明において、0.18μm以下とすることは、当業者が適宜選択し得る設計的事項であるといえる。
b 小括
以上のとおり、本件訂正特許発明1と甲1発明とは、上記相違点1及び2において相違するものであって、本件訂正特許発明1は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証乃至甲第17号証の3から、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
(イ)本件訂正特許発明2、3、5乃至7について
本件訂正特許発明2、3、5乃至7は、本件訂正特許発明1を直接的又は間接的に引用し、さらに、限定を付加したものであるから、上記アの検討のとおり、本件訂正特許発明2、3、5乃至7は、甲1発明、甲第2号証乃至甲第17号証の3に基づいて、当業者が容易に発明できたものということはできない。
(ウ)申立理由2(特許法第29条第2項)についてのまとめ
上記のとおり、本件訂正特許発明1乃至3、5乃至7は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではないから、上記申立理由2により、本件特許請求の範囲の請求項1乃至3、5乃至7に係る特許を取り消すことはできない。
ウ 申立理由3について
本件特許明細書には、以下のとおり記載されている。
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のスクリーンメッシュは、ステンレス製の金属線を用いて構成されている。ステンレス製の金属線は、強度が十分ではないため、使用中の伸び、短寿命などが発生する。
【0005】
そこで、本発明は、スクリーンメッシュなどに利用可能な高性能な金属メッシュを製造することができる金属メッシュの製造方法を提供することを目的とする。」
上記記載を参酌すれば、「高性能な金属メッシュ」の裏返しとなる「高性能ではない金属メッシュ」とは、強度が十分ではなく、使用中の伸び及び短寿命が発生する金属メッシュのことを指していることは明らかである。
そうすると、「高性能な金属メッシュ」とは、強度が十分で、使用中の伸び及び短寿命が発生しない金属メッシュのことを意味することは、本件特許明細書等を参酌した当業者であれば、容易に理解できるものである。
よって、本件訂正特許発明1乃至3、5乃至7は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているといえるから、上記申立理由3により、本件特許請求の範囲の請求項1乃至3、5乃至7に係る特許を取り消すことはできない。
エ 申立理由4について
上記ウのとおり、「高性能な金属メッシュ」とは、強度が十分で、使用中の伸び及び短寿命が発生しない金属メッシュのことを意味することが、本件特許明細書等を参酌した当業者であれば、容易に理解できるものであるといえる。
そして、本件特許明細書には、強度が十分で、使用中の伸び及び短寿命が発生しない金属メッシュの製造方法が記載されているのであるから、請求項1乃至3、5乃至7に係る本件特許を当業者が実施することができる程度に発明の詳細な説明が記載されているといえる。
よって、本件訂正特許発明1乃至3、5乃至7は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているといえるから、上記申立理由4により、本件特許請求の範囲の請求項1乃至3、5乃至7に係る特許を取り消すことはできない。
6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1乃至3、5乃至7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1乃至3、5乃至7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項4は、本件訂正請求により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議申立てについて、請求項4に係る申立ては、申立ての対象が存在しなくなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2021-701089