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特許異議申立

2021-700532

水性液剤

審判番号
2021-700532
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-178641外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
6797992
請求日
2021年06月01日
審決日
2022年03月23日
公報発行日
2022年06月24日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.121-YAA(A61K) / P1651.537-YAA(A61K)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項、特許法第36条第6項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6797992号発明「水性液剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論
特許第6797992号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項7について訂正することを認める。
特許第6797992号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。

理由

目次 ▾ 16項目
理 由

第1 手続の経緯

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特許第6797992号(請求項の数7。以下、「本件特許」という。)は、令和1年9月30日に出願された特許出願(特願2019-178641号)に係るものであって、令和2年11月20日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和2年12月9日である。)。

その後、令和3年6月1日に、本件特許の請求項1~7に係る特許に対して、特許異議申立人である戸原和雄(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立て(以下、「申立」という。)がされた。

申立以降の主な手続の経緯は以下のとおりである。

令和3年 6月 1日 特許異議申立書の提出(申立人)

同年 8月 4日付け 取消理由通知書

同年10月 8日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)

同年11月25日 意見書の提出(申立人)

第2 令和3年10月8日付け訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)について

1 請求の趣旨

本件訂正請求は、本件特許の特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項7について訂正することを求めることを請求の趣旨とするものである。

2 訂正の内容

本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。下線は、訂正箇所を示す。

特許請求の範囲の請求項7に、

「緑内障の治療に使用される、」とあるのを、

「前記水性液剤のpHが7~8であり、緑内障の治療に使用される、」に訂正する。

3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

上記2の訂正は、訂正前の「水性液剤」について、「pHが7~8」であるものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、上記2の訂正は、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下、「本件特許明細書等」という。)の「本発明で使用される水性液剤のpHについては、・・・好ましくは7~8、・・・が挙げられる。」との【0079】の記載に基づくものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであって、本件特許明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとはいえないし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

4 小括

上記のとおり、上記2の訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項7について訂正することを認める。

第3 本件訂正発明

上記第2で説示のとおり、本件訂正請求は認められるので、訂正後の本件特許の請求項1~7に係る発明は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
ブリモニジン及び/又はその塩と、緩衝剤と、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、及び塩化カルシウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属塩化物とを含み、保存剤を実質的に含まず、且つ有効成分としてブリモニジン及び/又はその塩のみを含む水性液剤が、フィルター付き容器に収容されてなる、医薬製品。
【請求項2】
前記金属塩化物が、塩化ナトリウムである、請求項1に記載の医薬製品。
続きを表示(全14行)
【請求項3】
前記緩衝剤が、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、トリス緩衝剤、及びクエン酸緩衝剤よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の医薬製品。
【請求項4】
前記緩衝剤が、ホウ酸緩衝剤である、請求項1~3のいずれかに記載の医薬製品。
【請求項5】
前記水性液剤が、点眼液である、請求項1~4のいずれかに記載の医薬製品。
【請求項6】
前記フィルターの素材が、ポリエーテルスルホン、又はポリフッ化ビニリデンである、請求項1~5のいずれかに記載の医薬製品。
【請求項7】
前記水性液剤のpHが7~8であり、緑内障の治療に使用される、請求項1~6のいずれかに記載の医薬製品。」

以下、請求項番号に対応して、それぞれの請求項に係る発明を「本件訂正発明1」、・・・「本件訂正発明7」といい、本件訂正発明1~7をまとめて「本件訂正発明」ともいう。

第4 令和3年8月4日付け取消理由通知について

1 取消理由1(進歩性)の概要

本件特許の請求項1~7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気回線を通じて公衆に利用可能となった、下記の引用文献1に記載された発明、下記の引用文献1(及び引用文献6、引用文献7及び/又は引用文献9)に記載された事項及び周知技術に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

引用文献等一覧

1.欧州特許出願公開第2886130号公報(甲第1号証)

2.第十七改正 日本薬局方解説書 2016,廣川書店,2016年,A-108~A-113(甲第2号証)

3.あたらしい眼科,2008年,Vol.25,No.6,pp.789~794(甲第3号証)

4.薬剤学,日本薬剤学会,2002年,Vol.62,Supplement(日本薬剤学会第17年会講演要旨集),pp.48~53(甲第4号証)

5.「GOOD DESIGN AWARD 2007」インターネット記事(URL:https://www.g-mark.org/award/describe/33613), 2021年5月13日アクセス日(甲第5号証)

6.ABAK容器カタログ,Laboratoires Thea,2011年4月18日,pp.20~23(甲第6号証)

7.特許第5327809号公報(甲第7号証)

8.Novelia(R)(注:原文では、〇の中にRの文字)容器カタログ,Nemera,2018年9月(甲第8号証)

9.特開2019-6776号公報(原審の引用文献1)

上記取消理由1は、特許異議申立理由のうち、特許法第29条第2項(同法第113条第2号)に係る理由(申立理由1)に相当する。

2 取消理由についての判断

外国語で記載された引用文献については、以下において、その翻訳文を示す。

2-1 引用文献1に記載された事項及び引用発明

(1) 引用文献1に記載された事項

1a 「[0001]本発明は、治療有効量の活性成分、・・・ブリモニジン又はその塩のようなα2-アドレナリン受容体アンタゴニストを含む局所投与のための眼科用医薬製剤・・・及びそれらの製造方法に関する。・・・

[0002]眼科用溶液は、主として固体粒子を含まない無菌の透明な水性溶液であり、眼に直接滴下するために適切にパッケージングする。眼科用溶液の本質的な特徴は、全ての成分(活性成分及び賦形剤)が、水性媒体中に完全に溶解され、任意の形態の可視的な不溶性粒子を含有しない、ということである。」

1b 「[0006]いずれの上記文献もプロスタグランジンを含む医薬組成物に関する安定性及び透過性を克服する試みを示しているが、そのような医薬組成物の安定性及び透過性を改善する必要が依然として存在する。

・・・

[0007]したがって、本発明の目的は、プロスタグランジン又はその塩、・・・ブリモニジン又はその塩等のα2-アドレナリン受容体アンタゴニスト・・・等の活性成分を含み、外側眼表面に影響している状態の治療に使用され、従来技術の欠点を克服する局所投与用眼科医薬組成物を提供することである。

・・・

[0009]本発明の上記目的によれば、治療有効量の活性成分・・・を含む外側眼表面に影響している状態の治療に使用される局所投与用眼科医薬組成物であって、治療有効量のプロスタグランジン又はその塩、・・・ブリモニジン又はその塩等のα2-アドレナリン受容体アンタゴニスト等の活性成分・・・を含み、かつ、組成物の安定性及び透過性の特性を改善するために、液滴サイズ、pH値、浸透圧及び粘度を最適化するのに有効量の剤を含み、かつ、ベンザルコニウム塩化物等の抗微生物性保存剤化合物を使用しない、局所投与用眼科医薬組成物が提供される。」

1c 「[0012]眼科用溶液の開発の間に、安定性、純度、生物学的利用能のあるレベルを有し、患者に安全かつ効果的な投与に適している医薬組成物を調製するために特定のパラメータを考慮しなければならない。このパラメータは、溶液中の活性成分の濃度レベル、活性成分のイオン化定数、活性成分の分配係数、pH値の影響、溶液の浸透圧、緩衝システム(緩衝キャパシティ)の種類及びキャパシティ、溶液の粘度、表面張力、保存剤及び滅菌技術を含む。」

1d 「[0033]組成物の安定性及び透過性を向上させるためには、驚くべきことに、本発明の目的は、下記の活性成分のうちの1つ又はこれらの組み合わせからなる;プロスタグランジン又はその薬学的に許容されるその塩、・・・ブリモニジン又はその塩等のα2-アドレナリン受容体アンタゴニスト及び/又は上記活性成分の組み合わせを用いること、液滴の大きさ、pH値、浸透圧及び粘度を最適化すること、及び任意の抗微生物性保存剤の使用を避けること、によって、達成されることが見いだされた。」

1e 「[0035]活性剤は、容器に使用されるプラスチック材料の選択に応じて、容器の材料により吸収及び/又は吸着され得るので、プラスチック容器は欠点を有する。一般に、眼科用薬剤は、単位投与または多回投与ディスペンサーの形態で市販されているが、使いやすさとコスト効果から後者の形態での市販が好ましい。このような多回投与ディスペンサーにおいて、製品の劣化を防止することができ、潜在的に有害な細菌の広がりを回避するために、内容物は、貯蔵中及び患者又は消費者による使用中に滅菌状態を維持しなければならない。前記必要性を満たすためにBACのような保存剤の含有は一般的である。

[0036]しかし、保存剤に起因する局所的な副作用の高い発生率は、近年において議論されたように、患者及び関連の保護期間にとって重要である。すでに公開されている前臨床及び臨床試験は必ずしも一貫していないという事実にもかかわらず、低い濃度で保存剤を含む製剤の使用は耐容性が良好であることが明らかであると思われるが、保存剤は、長期にわたる使用において、化学的刺激、過敏性及びアレルギー等の深刻な炎症性副作用を引き起こしうる。

[0037]保存剤を含まない製剤の多回投与による使用を可能にするシステムは、医薬製造業者が直面する問題のいくつか(例えば不適合性)を解決するだけでなく、慢性治療を必要としている患者に顕著な利益を提供する可能性を有する。

[0038]このような保存剤を含まない製剤の場合、微生物汚染を防ぐことができる適切な多回投与ディスペンサーが使用されなければならない。今日、オリフィス又は排気のいずれかを介した、主に汚染の抑制に対処するさまざまなメカニズムに基づいて、いくつかの技術的解決策が使用可能である。

[0039]RexamのNoveliaTM又はOpthalmic pump system750、SpectrumのThea pharmaceuticals ABAC、AptarのPharmaOpthalmic Squeeze dispenser、UrsapharmのComod-system、 Adelphi Healthecare Packaging Aero Pumpの3K system、 Mystic Pharmaceuticals VersiDoser and VRx2 and PfizerのAirless Antibacterial Dispensing Systemは既に市販されているいくつかのデバイスである。

[0040]したがって、好適な期間、十分な無菌状態を保持する好適な容器中でBACのような抗微生物性保存剤化合物を含まない効率的な眼科用多回投与製剤を開発する必要性が存在する。」

1f [0043]本発明によると、好適な期間、十分な無菌条件を保持する好適な容器中の、塩化ベンザルコニウム等の抗微生物性保存剤化合物を含まない適切な製剤の、多回投与医薬組成物は、BAC含有溶液と同様の角膜上皮透過性を示すために、調整された液滴サイズ、浸透圧、pH値、比重及び粘度を必要とする。

本発明は、同じ活性医薬成分を有するBAC含有眼科用溶液と比べて同様の角膜上皮透過性を提示するために、防腐剤を含まない眼科用溶液に必要とされ得る、製剤及び保存能力を有する種々の容器を使用して達成することができる液滴サイズ、浸透圧、pH値、比重及び粘度の範囲に関する。」

1g 「実施例6:ブリモニジン2.0mg/眼科用溶液の製剤6

[0066]

[図:0001385175000001.jpg]

[0067]上記製剤は以下の製造工程にしたがって調製される。

注射用水90mlを透明な容器に入れ、25-30℃、約320rpmで攪拌する。ブリモニジン酒石酸塩を加え、混合物を25-30℃で約10分間攪拌する。ポリビニルアルコールを加え、混合物を25-30℃で60分間攪拌する。その後、クエン酸ナトリウム二水和物及びクエン酸一水和物を加え、透明な溶液が得られるまで(約10分間)攪拌する。最後に、塩化ナトリウムを加え、透明な溶液が得られるまで(約10分間)攪拌する。水酸化ナトリウム水溶液(1N)でpH=6.2に調整する。最終容量は注射用水を加えることによって調整する。

最終溶液の濾過滅菌は、PES 0.2μmメンブランフィルターを介して行われる。

[0068]濾液は、保存剤を含まない組成物に適したRexam closing tip systemのNoveliaTMを備えたポリプロピレン(PP)とポリエチレン(PE)容器のような10mlプラスチック容器に充填される。

[0069]最終生成物のアッセイは、ブリモニジンン酒石酸塩の完全な可溶化を確認した。

[0070]この溶液は、濾過後、濾過前のこの実験の全ての段階において透明であった。

[0071]実施例1と同様にして、下記の物理化学的特性を上記の製剤について測定し、ブリモニジン、ベンザルコニウムクロライド、ポリ(ビニルアルコール)、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸一水和物、精製水、塩酸又は水酸化ナトリウムを含有する市販製品であるAlphagan(R)(注:原文では、○の中にRの文字、以下同じ。)と比較した。結果は表3a及び3bに示されている。

表3a 本発明によるブリモニジン BAC非含有製剤及びAlphagan(R)の物理化学的特性

[図:0001385175000002.jpg]

表3b 本発明によるブリモニジン BAC非含有製剤及びAlphagan(R)の液滴サイズ

[図:0001385175000003.jpg]

[0072]全ての組成物について、それらのpH値、粘度、比重及び浸透圧を試験し、全ての値は満足のいくものであった。

本発明を特定の実施態様に関して説明してきたが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、種々の変形が可能であることは当業者に明らかであり、添付の特許請求の範囲で定義されるとおりである。」

1h 「1.治療有効量の治療有効量の活性成分及び/又は他の活性成分との組み合わせを含む、外側眼表面に影響している状態の治療に使用される局所投与用眼科医薬組成物であって前記有効成分が・・・ブリモニジン又はその塩等のα2-アドレナリン受容体アンタゴニスト・・・から選択され、さらに組成物の安定性及び透過性の特性を改善するために、液滴サイズ、pH値、浸透圧及び粘度を最適化するのに有効量の剤を含み、かつ、ベンザルコニウム塩化物等の抗微生物性保存剤化合物を使用しない、局所投与用眼科医薬組成物。」(Claims1)

(2) 引用発明

引用文献1には、摘記1gに記載の製剤6の組成及びその製造方法から以下の発明が記載されていると認める。

「以下の組成からなり、pH=6.2に調整された水性溶液が、Rexam closing tip systemのNoveliaTMを備えてなるプラスチック容器に収容されている眼科用製剤。
組成
ブリモニジン酒石酸塩 0.20%w/v
ポリビニルアルコール 4.30
塩化ナトリウム 0.62
クエン酸ナトリウム二水和物 0.45
クエン酸一水和物 0.05
NaOH(1N)
注射用水 残部。」(以下、「引用発明」という。)

2-2 引用文献2に記載された事項

2a 「6.目に投与する製剤・・・

Preparations for Ophthalmic Application

6.1.点眼剤・・・

Opthalmic Liquids and Solutions

(1)点眼剤は,結膜嚢などの眼組織に適用する,液状,又は用時溶解若しくは用時懸濁して用いる固形の無菌製剤である.」(A-108 6.眼に投与する製剤 の項の1~6行)

2b 「注10 多回投与容器に充填された点眼剤は注射剤とは異なり長期にわたって少量ずつ使用されることから,使用中に汚染される可能性がある.このため,多回投与容器に充填された点眼剤には適切な保存剤を加えることができる.点眼剤に使用する保存剤の配合量は,品質と安全性を考慮し設定される.」(A-110 21~24行)

2c 「液性:前眼部では点眼液のpHが6以下,又は8以上になると不快感を生じることがある.・・・緩衝液としては各種の眼科用等張緩衝液が用いられている.」(A-111 14~25行)

2d 「最近では投与時の微生物の汚染を防御した特殊な多回投与容器に充填した点眼剤も見られる.」(A-112 下から14~13行)

2e 「容器:点眼剤の容器として種々の形の点眼瓶が考案されているが,微生物進入阻止性,透湿性,透ガス性,耐薬品性,成形性,透明性などに注意が必要である.・・・

プラスチック製のものは,・・・通気性,透湿性の可能性があること,水分の揮散や一部の薬品,添加物などを吸着するなどの欠点を有するものであるが,最近はかなり透明性の高い樹脂が開発され,繁用されている.・・・近年,防腐剤を含まない弁タイプあるいはフィルタータイプの多回投与容器が開発され,第四級アンモニウム塩系の防腐剤を含まないフィルタータイプの容器に充填された点眼剤が市販されている.」(A-113 5~21行)

2-3 引用文献3に記載された事項

3a 「II 防腐剤の種類と含有量

防腐剤非含有の点眼容器を実際に臨床使用した後,内容液を調べてみると高頻度で微生物による汚染が起こることが知られている.・・・眼科用防腐剤としてBAC,塩化ベンゼトニウム,・・・などが単独あるいは組み合わされて配合されている(表2)3).・・・最近はBACによる細胞毒性を考慮してBAC濃度を減少した点眼薬(ハイパジール,リズモンTG),BAC非含有製剤として点眼容器内にフィルターを内蔵し無菌化を可能とした点眼薬や,BAC以外の新しい防腐剤を採用した点眼薬が発売されてきている.」(p790右欄1行~p791左欄4行)

3b 「III BAC非含有製剤の種類

1. フィルター内蔵式製剤

海外では防腐剤非含有チモロールのシングルドーズ(1回使い切りタイプ)が発売されている.日本では防腐剤非含有製剤として,フィルター内蔵マルチドーズ点眼薬が2社から発売されている.

a.ブロキレートPF点眼薬,ニプラジロールPF点眼薬(日本点眼薬研究所)

これに採用されたPF(Preservative―Free)デラミ容器はノズル先端に0.22μmのフィルターを配置し,微生物による2次汚染を防ぐこと,容器本体の二重構造化,およびシリコーン弁を採用することで汚染された空気の流入を防ぐことを特徴としている(図4a).

b.ニプラジロール点眼液0.25%「わかもと」(わかもと製薬)

これに採用されたNP(Non-Preservative)容器には親水性,疎水性の2種類のメンブランフィルターが装着されている.親水性フィルターノズルからの微生物侵入を制御し,疎水性フィルターが容器内への外気の無菌的な取り込みを実現している(図4b).」(p791左欄5行~最終行)

2-4 引用文献4に記載された事項

4a 「点眼剤は眼局所粘膜(結膜や角膜)に点眼する薬剤のため,注射剤と同様に無菌製剤の取扱いです。ご存知のように,多くの点眼剤は繰返し点眼使用するマルチドーズ容器になっています。従って,開封後は微生物汚染,更に患者の涙や目ヤニの吸込みによる汚染等もしばしば見られる事例です。微生物汚染対策として古くより防腐剤が添加されてきました。

防腐剤の効用は十分に認められている反面,防腐剤の持つ副作用もよく知られています。防腐剤の副作用はその毒性とアレルギーであり,毒性は主に細胞毒性に起因し,またアレルギーは過敏症に起因し,それぞれ角膜上皮障害や眼部周囲の接触皮膚炎が知られています。また,眼疾患によっては治癒を遅らせる原因になることもあります。

このような現状で,眼科の医療現場で望まれている点眼剤とは,やはり防腐剤を含まない点眼剤であり,近年,特にクローズアップされているテーマです。最近は防腐剤を含まない点眼剤がいくつか製品化されています。シングルドーズタイプの点眼剤はその1例で,1回使い切りのため防腐剤が添加されていません。

しかし,薬剤コストが高くなること,容器の開封,保管,携帯が煩雑であるため不便さを感じること,使う毎に容器を廃棄しなければならないことなど,やや課題が多い点眼剤です。

従って,望まれる点眼剤として,防腐剤の無い点眼剤であること,且つ繰返し使うタイプ,所謂マルチドーズの点眼剤であることが重要な点眼容器の開発コンセプトになります。

一昨年発売されたチマバック点眼液0.5%(発売元:日本点眼薬研究所)は,防腐剤フリーのマルチドーズの点眼剤です。これはフランスで開発されたアバック(ABAK)容器システムで,0.2μmフィルターを装着することで内容を常時無菌に保っています。ただし,この容器の難点は,容器の形状や大きさが通常の点眼容器と比べて違和感があることです。

これらの現状も踏まえ眼科医療現場のニーズを基に,アバック(ABAK)容器システムより更に前進した通常の点眼剤として使用できる防腐剤フリーマルチドーズ点眼容器システムを開発致しました。」(p48 1.はじめに の項の5~28行)

4b 「この小径フィルターが付いた点眼容器は内容液がフィルターを透過する際の抵抗のため、一般の点眼容器とは滴下特性が異なりスクイズ開始から滴下までに一定の時間を要す。」(p50下から3~2行)

2-5 引用文献5に記載された事項

5a 「プラスチック点眼容器[NP容器]」(1/4 受賞対象名)

5b 「通常、点眼薬には腐敗や細菌汚染を防ぐため、塩化ベンザルコニウムなどの防腐剤が使用されています。しかし、近年、防腐剤による角膜障害やアレルギーなどの角膜・涙液系に対する影響がクローズアップされつつあり、防腐剤濃度の低い点眼薬や防腐剤無添加の点眼薬が望まれています。本点眼容器は、2種類のフィルターを装着することにより、内容液の無菌性を保ち、防腐剤の使用を控えることが可能となりました。」(1/4 概要)

2-6 引用文献6に記載された事項

6a 「製剤から防腐剤を除去することからなる決定的な開発により、ABAKシステムは、粘度が0.2μmの多孔度の抗菌膜の使用と互換性のあるほぼすべての溶液に拡張でき、該膜は1~10ミクロンまでのサイズを有する微生物による汚染から点眼薬を保護する。」(p20左欄13~23行)

6b 「この親水性高分子膜は、特許取得済みの表面処理によって部分的に疎水性になっている。・・・P.E.S*ベースの化合物から作られたこの革新的な膜は、・・・・滅菌状態にできることが見いだされた。これらの十分に検証されたプロセスのいずれによっても、その抗菌バリア特性は変わらなかった。

*P.E.S:ポリエーテルスルホン」(p20右欄1~最終行)

6c 「各溶液は、表面張力、粘度及び密度が異なる液滴を形成する。したがって、溶液の密度及び粘度に関係なく、理論上、各ボトルが10ml当たり300滴を供給することを保証する液滴サイズのキャリブレーションを得ることは一見不可能である。理想的には、チップは各点眼液に適合させる必要があるが、これは製造の観点からは不可能であり、流量は全ての点眼液に適しているように平均データから計算されている。」(p23 項目「c.」の1~8行)

2-7 引用文献7に記載された事項

7a 「容器の構造上,水性医薬組成物は容器に装着されたフィルターを通過するので、水性医薬組成物に含まれる成分と装着されたフィルターとの相互作用を考慮する必要がある。成分の化学的物理的物性によりフィルターに著しく吸着する物質も存在する。すなわち、水性医薬組成物をフィルター付き容器に充填する際、水性医薬組成物とフィルターの材質との相性が重要となる。」(【0007】)

2-8 引用文献8に記載された事項

8a 「Novelia(R)を使用すれば、防腐剤0%、目の保護100%!

防腐剤フリーの配合のための当社の多回投与点眼容器」(1/4)

8b 「システムはどのように動作するか

(1)(注:原文では、○の中に1の数字、(2)~(4)まで同様)ボトル絞り

(2)弁開放液滴送達

(3)弁再閉塞緊密状態(逆流がないため、汚染された液体はボトルに入ることができない)

(4)空気補償

空気を取り入れるためのPureFlow(R)テクノロジー(汚染された空気はボトルに入ることができない)

当社の多回投与クロージングチップシステムは、薬剤中の防腐剤の必要性を回避し、治療期間中の細菌汚染を防ぐ。」(2/4)

2-9 引用文献9に記載された事項

9a 「ブリモニジンは、選択的アドレナリンα2受容体作動薬であり、眼房水の産生を抑制すると共に、ぶどう膜強膜流出路を介した眼房水の流出を促進し、それにより、眼圧低下作用を示す。このため、ブリモニジン及びその塩は緑内障の治療に使用されている。」(【0002】)

9b 「1つの実施形態において、点眼剤は、緩衝作用を付与する緩衝剤を必要に応じて含む。緩衝剤は、限定するものではないが、リン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、Tris緩衝剤、アミノ酸が挙げられる。これらの緩衝剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。1つの実施形態において、緩衝剤は、ホウ酸緩衝剤であり、好ましくはホウ酸及びホウ酸ナトリウムの組合せである。」(【0026】)

2-10 本件訂正発明1について

(1)対比

本件訂正発明1と引用発明とを対比する。

引用発明の「ブリモニジン酒石酸塩」、「クエン酸ナトリウム二水和物」及び「クエン酸一水和物」、「塩化ナトリウム」、「水性溶液」、「眼科用製剤」は、それぞれ、本件訂正発明1の「ブリモニジン及び/又はその塩」、「緩衝剤」、「塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、及び塩化カルシウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属塩化物」、「水性液剤」、「医薬製品」に相当する。

そして、本件訂正発明1は、「ブリモニジン及び/又はその塩」、「緩衝剤」、「塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、及び塩化カルシウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属塩化物」の含有割合や、上記以外の成分の有無やその含有割合を特定しないものであるから、引用発明が、上記成分の含有割合を特定していることや、ポリビニルアルコール、NaOH(1N)、注射用水を特定の含有割合で含むことは、相違点とはならない。

また、引用発明は、保存剤も、「ブリモニジン酒石酸塩」以外の有効成分も含有していないから、本件訂正発明1の「保存剤を実質的に含まず、且つ有効成分としてブリモニジン及び/又はその塩のみを含む」との発明特定事項を満足するものであるといえる。

そうすると、本件訂正発明1と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>

ブリモニジン及び/又はその塩と、緩衝剤と、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、及び塩化カルシウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属塩化物とを含み、保存剤を実質的に含まず、且つ有効成分としてブリモニジン及び/又はその塩のみを含む水性液剤が、容器に収容されてなる、医薬製品。

<相違点>

容器について、本件訂正発明1は「フィルター付き容器」と特定しているのに対し、引用発明は「Rexam closing tip systemのNoveliaTMを備えてなるプラスチック容器」である点

(2)判断

ア 相違点について

(ア)摘記1a~1dの記載によれば、引用文献1記載の眼科用医薬製剤(以下、「製剤」という。)は、プロスタグランジンやブリモニジン、又はそれらの塩等の活性成分を含む局所投与のための製剤であって、該製剤は、上記活性成分と、液滴サイズ、pH値、浸透圧及び粘度を最適化するのに有効量の剤とを含み、かつ、抗微生物性保存剤を含まないものであり、その安定性と透過性とが改善されたものであると理解される。

引用文献1には、また、好適な期間、十分な無菌状態を保持する好適な容器中でBACのような抗微生物性保存剤化合物を含まない効率的な眼科用多回投与製剤を開発する必要性が存在する(摘記1e)との認識の下、上記好適な容器に収容されている、BACを含有しない多回投与医薬組成物がBAC含有溶液と同様の角膜上皮透過性を示すために、上記多回投与医薬組成物は、調整された液滴サイズ、浸透圧、pH値、比重及び粘度を有する必要があることが記載されている(摘記1f)。

そうすると、引用文献1記載の、安定性と透過性とが改善された上記製剤は、上記眼科用多回投与製剤における組成物として適したものであるといえる。そして、引用文献1記載の製剤の実施態様の一つである引用発明の水性溶液もまた、眼科用医薬製剤の安定性と透過性とを改善するために、保存剤を含まない眼科用溶液に必要とされ得る保存能力を有する引用発明の容器、すなわち弁付き容器を使用して液滴サイズ、浸透圧、pH値、比重及び粘度の範囲を最適化されたものであると認められる。

(イ)一方、「好適な期間、十分な無菌状態を保持する適切な容器」(摘記1e)に関して、引用文献1には、微生物汚染抑制のためにオリフィス又は排気のメカニズムを使用しうること(摘記1e)、市販のデバイス(摘記1f)が記載されている。そして、引用発明の「Rexam closing tip systemのNoveliaTM」は、上記市販のデバイスとして列挙されているものであり、保存剤を含まない製剤への微生物の混入を防止するための使用に適した眼科用多回投与容器を提供するデバイスの一種であって(摘記1e、8a)、引用文献8の記載(摘記8b)によれば、弁の開閉により微生物汚染を防御する弁付き容器であると認められる。

ところで、本件特許出願当時、「保存剤を含まない眼科用製剤」の微生物汚染を防ぐ多回投与容器として、弁付き容器だけでなく、フィルター付き容器が市販され、周知となっていた(摘記2e、3b、4a、5a、5b、6a、7a)。

しかし、本件特許の出願当時、点眼液等の水性医薬組成物の有効成分の中には、メンブランフィルターや容器に装着されたフィルターに吸着される物質があるとの技術常識が存在しており(必要であれば、佐賀県衛生薬業センター所報,第40号(平成30年度), p21-23,特に、タイトル、図-5;Journal of Pharmacological Toxicological Methods, 2019, Vol.95, p79-85,特に、Abstract, p83左欄4-8行, 40-43行(Available online 05 Dec. 2018)参照)(順に乙第1号証、乙第2号証に同じ。各乙号証は特許権者が提出した文献である。以下同じ。)、たとえば、フィルターへの物質吸着を抑制するために水性医薬組成物に添加物を配合する等してフィルター付き容器に収容される組成物の組成を調整する試みがなされている(摘記7a)。

(ウ)これに対し、引用発明における「Rexam closing tip systemのNoveliaTMを備えてなるプラスチック容器」は、弁付き容器であって、フィルターを備えていないから、有効成分であるブリモニジン酒石酸塩のフィルターへの吸着は起こっておらず、該容器に収容される組成物の組成について、ブリモニジン酒石酸塩の吸着抑制の観点からの特段の配慮は不要であると推測される。

加えて、フィルター付き容器に関しては、本件特許出願当時、フィルターを透過する際の抵抗のため、一般の点眼容器とは滴下特性が異なることが知られており(摘記4b)、たとえば、フィルター付き容器であるABAKが粘性溶液には不適切であることが、ABAK容器カタログ,Laboratoires Thea,2011年4月18日,p25 項目「b.」の1~3行(乙第11号証に同じ)に記載されている。引用発明の水性溶液は、粘度増強剤(引用文献1[0025])であるポリビニルアルコールを4.30%w/v含有するものであり、該含有割合は眼科用剤としての最大使用量10mg/g(医薬品添加物事典 2007,株式会社薬事日報社,2007年7月25日,p.275 「ポリビニルアルコール(部分けん化物)」)(乙第8号証に同じ)の4倍以上と通常の眼科用剤より多量の粘度増強剤を配合した組成に調整されたものであることから、高い粘度を示す眼科用剤と推測される。

(エ)以上のとおり、引用発明の水性溶液は、引用発明における弁付き容器の「Rexam closing tip systemのNoveliaTMを備えてなるプラスチック容器への収容に適したものであるものの、収容される組成物のフィルターへの吸着についての配慮を要するフィルター付き容器に適したものであるか否かは不明であるし、粘度増強剤を通常より多量に含有するものであることを考え合わせると、当業者であれば、むしろ、引用発明の水性溶液は、粘性溶液には不適切な場合があることが知られているフィルター付き容器への収容には適さないと考え、収容フィルター付き容器において使用できる程度の粘性とするために、該水性溶液の組成を調整する必要があるものと考えるのが自然である。

そうすると、引用発明における弁付き容器の「Rexam closing tip systemのNoveliaTMを備えてなるプラスチック容器」に代えて、あえてフィルター付き容器を採用する動機付けがあるとは認められない。

イ 効果について

本件特許明細書等には、本件訂正発明1に係る水性液剤が、金属塩化物を含まない点でのみその組成が異なる液剤に比べて、PES膜又はPVDF膜によるフィルター通過後において高いブリモニジン酒石酸塩回収率を示すことが記載されている(【0136】~【0139】【表1】)。そうすると、本件訂正発明1に係る水性液剤は、ブリモニジン及び/又はその塩のフィルターへの吸着を抑制し、その含量低下を抑制することができるという効果を奏するものといえ、また、該効果は、上記アで示したとおり、眼科用点眼液等の水性医薬組成物の有効成分の中には、容器に装着されたフィルターに吸着される物質がある、との本件特許出願当時の技術常識があることからすれば、当業者が予測し得ないものといえる。

ウ 申立人の主張について

申立人は、甲1(引用文献1)には、複数回投与ディスペンサーとして、Thea PharmaceuticalsのABACが記載されており(摘記1f)、ここで、ABACとの記載が、甲4(引用文献4)、甲6(引用文献6)の記載や甲1及び参考資料2(「Chemical Book、ベンザルコニウム クロライド」インターネット記事、2021年11月18日アクセス(URL:https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB0712969.htm))の記載からみて、フィルター付き容器であるABAK(摘記4a)の誤記であることを当業者は当然に理解するから、引用文献1には、フィルター付き容器が記載されていると主張する(異議申立書p20 10~23行、令和3年11月25日付け意見書p3 14行~p4 13行)。

そして、本件特許出願当時、保存剤を含まない点眼液においては、その無菌性を担保するために、単回投与タイプとするか、又は、多回投与タイプとする場合には、弁付きかフィルター付き容器を採用するか、という限られた技術的手段の選択肢が存在するにすぎないから、引用発明の弁付き容器を甲1に例示のあるABAKをはじめとするフィルター付き容器に置き換える動機付けはあるといえるし(異議申立書p20 24~28行)、また、フィルター付き容器を用いる際、フィルターに吸着する成分が存在するから、成分とフィルターとの吸着特性を考慮する必要があることは本件特許出願前に既に知られていたところであるから(異議申立書p18 最下行~p19 3行)、該吸着特性を調べて、その結果に基づいて実際に採用するフィルターの素材を決定する作業は単なるルーチンワーク程度のものにすぎず、当業者が容易に想到し得たことである(異議申立書p20 29~39行)と主張する。

しかし、ABACがABAKの誤記であるか否かはさておき、引用発明の水性溶液が、フィルター付き容器への収容に適したものとは考えがたく、むしろその組成の調整が必要と考えられることは上記アにおいて説示したとおりである。そして、いかに調整すればフィルター付き容器への収容に適したものとしうるかについては、引用文献1には記載も示唆もされていないし、また、そのような組成の調整をしてまで、フィルター付き容器へ変更する動機付けがあるともいえない。この判断は、仮に、ABACがABAKの誤記であるとしても変わらない。よって、上記申立人の主張を採用することはできない。

2-11 本件訂正発明2~7

本件訂正発明2~7は、いずれも、本件訂正発明1の医薬製品を、請求項2~7に規定する発明特定事項を備えてなるものにそれぞれ限定するものである。そして、上記2-10において示したとおり、引用発明における弁付き容器の「Rexam closing tip systemのNoveliaTMを備えてなるプラスチック容器」に代えてフィルター付き容器を採用する動機付けがあるとはいえず、本件訂正発明1について、当業者が容易に想到し得たものと認められない以上、本件訂正発明1をさらに限定する本件訂正発明2~7についても同様の理由により当業者が容易に想到し得たものと認めることはできない。

したがって、本件訂正発明2~7は、引用発明及び引用文献1~9に記載された事項、周知技術及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 小括

以上のとおり、本件訂正発明1~7に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由1により取り消すことはできない。

第5 取消理由で採用しなかった申立理由

1 申立理由2(サポート要件違反)

特許異議申立書の記載によれば、申立人は、本件訂正発明1~7に対し、特許法第36条第6項1号(同法第113条第4号)に係る特許異議申立理由を主張しており、その概要は以下のとおりである。

本件特許明細書の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)には、金属塩化物とともにグリセリンを含有している場合の効果が示されているのみであり、発明の詳細な説明の記載は、金属塩化物を添加することのみにより、フィルターへのブリモニジンの吸着抑制、ひいては水性液剤中のブリモニジンの含量低下を抑制する、という本件訂正発明の課題が解決できると当業者が認識し得る程度になされていないから、本件訂正発明1~7は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。

したがって、本件訂正発明は、出願時の技術常識に照らして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載により、その課題を解決できると当業者が認識し得る範囲を超えるものであるから、本件特許明細書の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

2 本件特許明細書に記載された事項

(1)発明が解決しようとする課題、課題解決手段及び発明の効果についての記載

「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ブリモニジン及び/又はその塩を含む水性液剤に関する製剤技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、ブリモニジン及び/又はその塩と、緩衝剤と、金属塩化物とを含む水性液剤は、フィルターを通過させても、フィルターヘのブリモニジン及び/又はその塩の吸着を抑制でき、フィルター付き容器に収容したり、製造時にフィルター処理による滅菌工程に供したりしても、水性液剤中のブリモニジン及び/又はその塩の含量の低下を抑制できることを見出した。」
「【0016】
本発明によれば、ブリモニジン及び/又はその塩を含む水性液剤において、緩衝剤、及び金属塩化物を含有させることにより、フィルターへのブリモニジン及び/又はその塩の吸着を抑制でき、フィルター通過後の水性液剤において、ブリモニジン及び/又はその塩の含量の低下を抑制することができる。そのため、本発明の一態様では、ブリモニジン及び/又はその塩を含む水性液剤をフィルター付き容器に収容しても、使用時にフィルターを通過して容器外に注出された水性液剤におけるブリモニジン及び/又はその塩の含量の低下を抑制することができる。本発明の他の一態様では、ブリモニジン及び/又はその塩を含む水性液剤の製造時にフィルター処理による滅菌工程に供しても、ろ過滅菌後の水性液剤におけるブリモニジン及び/又はその塩の含量の低下を抑制することができる。」

(2)発明の実施の態様についての記載

「【0035】
3.医薬製品
フィルター付き容器に収容される水性液剤については、容器のフィルターに薬物が吸着すると、容器から注出された水性液剤中の薬物の含量が低下し、所期の効果を奏し得なくなることにつながる。そのため、フィルター付き容器に収容される水性液剤については、薬物がフィルターに吸着しないように設計されることが求められる。
【0036】
本発明者は、ブリモニジン及び/又はその塩を含む水性液剤をフィルター付き容器に収容した医薬製品について種々検討を行ったところ、容器のフィルターにブリモニジン及び/又はその塩が吸着し、容器から注出される水性液剤中のブリモニジン及び/又はその塩の含量が低下することを知見した。そこで、本発明者は、鋭意検討を行ったところ、ブリモニジン及び/又はその塩と、緩衝剤と、金属塩化物とを含む水性液剤は、フィルター付き容器に収容しても、フィルターへのブリモニジン及び/又はその塩の吸着を抑制でき、容器から注出される水性液剤中のブリモニジン及び/又はその塩の含量の低下を抑制できることを見出した。
【0037】
一つの態様において、本発明は、ブリモニジン及び/又はその塩と、緩衝剤と、金属塩化物とを含み水性液剤が、フィルター付き容器に収容されてなる、医薬製品を提供する。以下、本発明の医薬製品について詳述する。」

(3)実施例についての記載

「【0133】
試験例1:フィルターへの薬物吸着抑制の評価(緩衝剤及び金属塩化物が及ぼす影響の検討)
表1に示す組成の水性液剤を調製した。調製後の水性液剤を孔径0.22μmのフィルター(ポリエーテルスルホン膜;PES膜)を用いてろ過し、フィルターを通過した最初のろ液0.6gを回収した。また、別途、調製後の水性液剤を孔径0.22μmのフィルター(ポリフッ化ビニリデン膜;PVDF膜)を用いてろ過し、フィルターを通過した最初のろ液1.0gを回収した。なお、PES膜は、STERIVEX-GP 0.22μm/Merck Millipore(細孔径:0.22μm,高さ:67mm,直径:10cm2,カタログ番号:SVGP01050)を、PVDF膜は、STERIVEX-GV 0.22μm/Merck Millipore(細孔径:0.22μm,高さ:67mm,直径:10cm2,カタログ番号:SVGV010RS)を使用した。
【0134】
続きを表示(全34行)
ろ過前の水性液剤とろ過後の水性液剤(ろ液)におけるブリモニジン含量を、下記の条件で液体クロマトグラフィー(島津製作所製 高速液体クロマトグラフ:Prominence)による測定を行った。
(測定条件)
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:230nm)
カラム:Symmetry C18, 4.6 mm I.D.×150mm, 3.5μm, Waters社製
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相A:4.3mMリン酸水溶液/メタノール/アセトニトリル(容量比:84/8/8)の混液
移動相B:4.3mMリン酸水溶液/メタノール/アセトニトリル(容量比:40/30/30)の混液
移動相の送液:移動相A及び移動相Bの混合比率を以下のように変えて直線濃度勾配制御した。
注入後の時間(分) 移動相A(vol%) 移動相B(vol%)
0.0~20.0 100 0
20.0~25.0 100→0 0→100
25.0~30.0 0 100
30.0~30.1 0→100 100→0
30.1~60.0 100 0
流量:1.0mL/min
オートサンプラ内温度:5℃
【0135】
フィルター通過前の水性液剤とフィルター通過後の水性液剤におけるブリモニジン含量から、下記式に従って、フィルター通過後の薬物回収率を算出した。
【数1】
[図:0001385175000004.jpg]
【0136】
結果を表1に示す。ブリモニジン酒石酸塩を含む水性液剤は、緩衝剤及び金属塩化物を含まない場合(比較例1)には、PES膜によるフィルター通過後の薬物回収率が94%であり、PES膜によるろ過によって6%ものブリモニジン酒石酸塩が吸着していた。また、ブリモニジン酒石酸塩及び緩衝剤(ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、トロメタモール、又はクエン酸緩衝剤)を含む水性液剤でも、金属塩化物を含まない場合(比較例2、比較例6~8)では、PES膜によるフィルター通過後の薬物回収率は比較例1と同等であった。更に、ブリモニジン酒石酸及びホウ酸緩衝剤と共に、エデト酸ナトリウム又は水溶性高分子(カルボキシメチルセルロース又はポリビニルピロリドン)を含む水性液剤でも、金属塩化物を含まない場合(比較例3~5)では、PES膜によるフィルター通過後の薬物回収率は比較例1と同等であった。
【0137】
これに対して、ブリモニジン酒石酸及び緩衝剤(ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、トロメタモール、又はクエン酸緩衝剤)と共に、金属塩化物(塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、又は塩化マグネシウム)を含む水性液剤では、PES膜によるフィルター通過後の薬物回収率は、比較例1に比べて大幅に上昇しており、金属塩化物には、薬物吸着抑制効果があることがわかった。また、実施例3と比較例2、実施例9と比較例6、実施例11と比較例7、及び実施例12と比較例8のそれぞれの対比から明らかなように、緩衝剤の中でも、ホウ酸緩衝剤を使用した場合に、PES膜によるフィルター通過後の薬物回収率を改善する効果が最も高くなっていた。
【0138】
また、PVDF膜を使用した場合も、PES膜の場合と同様の傾向が認められた。
【0139】
【表1】
[図:0001385175000005.jpg]
」

3 申立理由2(サポート要件違反)についての判断

(1)上記2(1)、(2)の記載、及び本件訂正特許請求の範囲の請求項1~7の記載から、本件訂正発明が解決すべき課題(以下、「本件訂正発明の課題)という。)は、フィルターへのブリモニジン及び/又はその塩の吸着を抑制でき、フィルター通過後の水性液剤において、ブリモニジン及び/又はその塩の含量の低下を抑制することができる、水性液剤がフィルター付き容器に収容されてなる医薬製品を提供することであると認める。

そして、その解決手段は、ブリモニジン及び/又はその塩と、緩衝剤と、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、及び塩化カルシウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属塩化物とを含む水性液剤をフィルター付き容器に収容させることであると解される(上記2(1)、(2))。

(2)発明の詳細な説明には、ブリモニジン酒石酸塩を含む水性液剤について、以下の内容が記載されていると認められる(上記2(3)、表1)

ア ブリモニジン酒石酸塩を含む水性液剤は、緩衝剤及び金属塩化物を含まない場合(比較例1)には、PES膜によるフィルター通過後の薬物回収率が94%であり、PES膜によるろ過によって6%のブリモニジン酒石酸塩が吸着したこと

イ ブリモニジン酒石酸塩及び緩衝剤(ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、トロメタモール、又はクエン酸緩衝剤)を含む水性液剤は、金属塩化物を含まない場合(比較例2;比較例6;比較例7;比較例8)には、PES膜によるフィルター通過後の薬物回収率は順に、93.3%;94.7%;94.5%;94.7%であったのに対し、金属塩化物を含む点でのみ上記水性液剤と組成が異なる場合(実施例1~3、実施例8~9、実施例10~11、実施例12)には、同薬物回収率が順に、95.2%、96.1%、96.9%;95.8%、96.5%;95.2%、96.2%;96.1%であり、いずれも対応する比較例に比べて高いこと(ここで、上記のうち、実施例3、実施例9、実施例11における水性液剤の組成は、濃グリセリンを含まないものである。)

ウ PES膜に代えてPVDF膜によるフィルター通過後の薬物回収率も上記ア、イと同様の傾向の結果が得られたこと

(3)そうすると、上記(2)の記載から、当業者は、濃グリセリンを含むか否かに関わりなく、ブリモニジン及び/又はその塩と、緩衝剤と、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、及び塩化カルシウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属塩化物とを含む水性液剤を用いることにより、フィルターへのブリモニジン及び/又はその塩の吸着を抑制し、その結果として、フィルター通過後の水性液剤において、ブリモニジン及び/又はその塩の含量の低下を抑制するという効果が得られ、本件訂正発明の課題を解決できることを認識できるといえる。

したがって、本件訂正発明1~7は、発明の詳細な説明の記載により、当業者が本件訂正発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえる。

(4)小括

以上のとおり、本件訂正特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)に適合しているといえるので、本件訂正発明1~7に係る特許は、申立人による申立理由2により取り消すことはできない。

第6 むすび

本件訂正後の請求項1~7に係る特許を、取消理由通知書に記載した取消理由1及び特許異議申立書に記載した申立理由1及び2によって取り消すことはできない。

また、他に上記訂正後の請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

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2021-700532

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