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特許異議申立

2021-700501

粘着テープロール

審判番号
2021-700501
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2015-257443
登録番号
6791629
請求日
2021年05月24日
審決日
2022年08月16日
公報発行日
2022年11月25日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】日東電工株式会社
  • 【権利者代理人】大井 道子
  • 【権利者代理人】谷 征史
  • 【権利者】台灣日東電工股▲ふん▼有限公司
  • 【権利者代理人】大井 道子
  • 【権利者代理人】谷 征史
  • 【異議申立人】古川 慎二
審判長/審判官
  • 審判長 蔵野 雅昭
  • 審判官 木村 敏康
  • 審判官 門前 浩一
分類
P1651.121-YAA(C09J) / P1651.536-YAA(C09J) / P1651.537-YAA(C09J) / P1651.851-YAA(C09J)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第113条第4号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第113条第2号、特許法第120条の8第1項
データ出所
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特許第6791629号発明「粘着テープロール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6791629号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~9〕について訂正することを認める。 特許第6791629号の請求項1、3及び5~9に係る特許を維持する。 特許第6791629号の請求項2及び4に係る特許についての特許異議申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6791629号(以下「本件特許」という。)の請求項1~9に係る特許についての出願は、 平成27年12月28日に出願され、令和2年11月9日に特許権の設定登録がされ、令和2年11月25日に特許掲載公報が発行され、その請求項1~9に係る発明の特許に対し、令和3年5月24日に古川慎二(以下「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。 特許異議の申立て以後の手続の経緯は次のとおりである。 令和3年 7月14日付け 取消理由通知 同年 8月 4日付け 通知書 同年10月11日 上申書(特許権者) 同年10月12日付け 通知書 同年11月12日 意見書・訂正請求書(特許権者) 同年11月17日付け 訂正請求があった旨の通知 同年12月 3日 上申書(特許異議申立人) 同年12月 8日付け 通知書 同年12月16日 意見書(特許異議申立人) 令和4年 1月19日付け 取消理由通知(決定の予告) 同年 4月22日 意見書・訂正請求書(特許権者) 同年 5月11日付け 訂正請求があった旨の通知 同年 6月14日 意見書(特許異議申立人) なお、令和3年11月12日付けの訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 第2 訂正の適否 1.訂正の内容 令和4年4月22日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の「請求の趣旨」は『特許第6791629号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~9について訂正することを求める。』というものであり、その内容は、以下の訂正事項1~12からなるものである(なお、訂正箇所に下線を付す。)。 (1)訂正事項1 訂正前の請求項1の「長手方向に捲回された粘着テープロールであって、前記粘着テープロールにおいて、前記粘着テープは、前記粘着剤層の表面を該粘着テープの背面に当接させて捲回されており、」との記載を、 訂正後の請求項1の「長手方向に捲回された粘着テープロールであって、前記ポリ塩化ビニルフィルムは、10重量%以上40重量%以下の可塑剤を含み、前記可塑剤は芳香族カルボン酸エステルであり、前記ポリ塩化ビニルフィルムは、さらにエラストマーを含み、前記ポリ塩化ビニルフィルムにおける前記エラストマーの含有量は1重量%以上30重量%以下であり、前記エラストマーは、(メタ)アクリル酸エステル-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、または塩素化ポリエチレンであり、前記粘着テープロールにおいて、前記粘着テープは、前記粘着剤層の表面を該粘着テープの背面に当接させて捲回されており、」との記載に訂正する(請求項1を直接または間接的に引用する請求項3、5、6、7、8、9も同様に訂正する。)。 (2)訂正事項2 訂正前の請求項1の「前記粘着テープロールの巻戻し力FUW[N/19mm]が前記粘着テープの50%延伸力FE50[N/19mm]の20%以上40%以下であり、粘着テープの総厚は」との記載を、 訂正後の請求項1の「前記粘着テープロールの巻戻し力FUW[N/19mm]が前記粘着テープの50%延伸力FE50[N/19mm]の20%以上40%以下であり、前記巻戻し力FUWが5~10N/19mmであり、粘着テープの総厚は」との記載に訂正する(請求項1を直接または間接的に引用する請求項3、5、6、7、8、9も同様に訂正する。)。 (3)訂正事項3 訂正前の請求項1の「粘着テープの総厚は100μm未満である、」との記載を、 訂正後の請求項1の「粘着テープの総厚は70μm以上100μm未満である、」との記載に訂正する(請求項1を直接または間接的に引用する請求項3、5、6、7、8、9も同様に訂正する。)。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (5)訂正事項5 訂正前の請求項3の「請求項1または2に記載の粘着テープロール。」との記載を、 訂正後の請求項3の「請求項1に記載の粘着テープロール。」との記載に訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項4を削除する。 (7)訂正事項7 訂正前の請求項5の「前記ポリ塩化ビニルフィルムにおける前記エラストマーの含有量が1~30重量%である」との記載を、 訂正後の請求項5の「前記ポリ塩化ビニルフィルムにおける前記エラストマーの含有量が3重量%以上30重量%以下である」との記載に訂正する(請求項5を直接または間接的に引用する請求項6、7、8、9も同様に訂正する。)。 (8)訂正事項8 訂正前の請求項5の「請求項4に記載の粘着テープロール」との記載を、 訂正後の請求項5の「請求項1または3に記載の粘着テープロール」との記載に訂正する。 (9)訂正事項9 訂正前の請求項6の「前記ポリ塩化ビニルフィルムは、10~60重量%の可塑剤を含む」との記載を、 訂正後の請求項6の「前記ポリ塩化ビニルフィルムは、15重量%以上35重量%以下の前記可塑剤を含む」との記載に訂正する(請求項6を直接または間接的に引用する請求項7、8、9も同様に訂正する。)。 (10)訂正事項10 訂正前の請求項6の「請求項1から5のいずれか一項に記載の粘着テープロール」との記載を、 訂正後の請求項6の「請求項1、3または5に記載の粘着テープロール」との記載に訂正する。 (9)訂正事項11 訂正前の請求項7の「請求項1から6のいずれか一項に記載の粘着テープロール」との記載を、 訂正後の請求項7の「請求項1、3、5または6に記載の粘着テープロール」との記載に訂正する。 (10)訂正事項12 訂正前の請求項9の「請求項1から8のいずれか一項に記載の粘着テープロールを用意することと、」との記載を、 訂正後の請求項9の「請求項1、3、5、6、7または8に記載の粘着テープロールを用意することと、」との記載に訂正する。 2.本件訂正による訂正の適否 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項6の「前記ポリ塩化ビニルフィルムは、10~60重量%の可塑剤を含む」との記載、並びに本件特許明細書の段落0022の「上記可塑剤の例としては、…芳香族カルボン酸エステル、…等が挙げられる」との記載、及び同段落0029の「可塑剤の含有量は、…PVCフィルムの10重量%以上とすることができ、…通常は40重量%以下とすることが適当であり」との記載に基づき、訂正前の請求項1に記載の「ポリ塩化ビニルフィルム」を「10重量%以上40重量%以下の可塑剤を含み、前記可塑剤は芳香族カルボン酸エステルであ」るものに限定するとともに、 訂正前の請求項4の「前記ポリ塩化ビニルフィルムは、エラストマーを含む」との記載、及び同請求項5の「前記エラストマーの含有量が1~30重量%である」との記載、並びに本件特許明細書の段落0032の「エラストマーとしては、…塩素化ポリエチレン(CPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、…(メタ)アクリル酸エステル-ブタジエン-スチレン共重合体(…)、…アクリロニトリル-ブタジエン共重合体…等が挙げられる。」との記載、及び同段落0089の「E1:…(メタ)アクリル酸エステル-ブタジエン-スチレン共重合体、…E2:…アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、…E3:…アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、…E4:…エチレン-酢酸ビニル共重合体、…E5:…塩素化ポリエチレン」との記載にあるエラストマー(実施例1~6で用いられているエラストマーの具体例)の記載に基づき、訂正前の請求項1に記載の「ポリ塩化ビニルフィルム」を「さらにエラストマーを含み、前記ポリ塩化ビニルフィルムにおける前記エラストマーの含有量は1重量%以上30重量%以下であり、前記エラストマーは、(メタ)アクリル酸エステル-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、または塩素化ポリエチレンであ」るものに限定するものである。 してみると、訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」ともいう。)に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 また、特許請求の範囲の減縮によって、特許請求の範囲の拡張ないし変更が実質的に生じないことも明らかであるから、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、訂正前の請求項2の「前記巻戻し力FUWが5~10N/19mmであり」との記載、及び本件特許明細書の段落0008の「上記粘着テープロールの巻戻し力FUWが5~10N/19mmであり」との記載に基づき、訂正前の請求項1に記載の「粘着テープロール」を「巻戻し力FUWが5~10N/19mm」のものに限定するものである。 してみると、訂正事項2は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 また、特許請求の範囲の減縮によって、特許請求の範囲の拡張ないし変更が実質的に生じないことも明らかであるから、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (3)訂正事項3について 訂正事項3は、本件特許明細書の段落0079の「PVC粘着テープの総厚(支持基材と粘着剤層との合計厚さ)は、…より好ましくは凡そ70μm以上…が好ましい。」との記載に基づき、訂正前の請求項1に記載の「粘着テープの総厚」の下限を「70μm以上」に限定するものである。 してみると、訂正事項3は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 また、特許請求の範囲の減縮によって、特許請求の範囲の拡張ないし変更が実質的に生じないことも明らかであるから、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (4)訂正事項4及び6について 訂正事項4は訂正前の請求項2を削除するものであり、訂正事項6は訂正前の請求項4を削除するものである。 したがって、訂正事項4及び6は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内において、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更することなく、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (5)訂正事項5、8及び10~12について 訂正事項5、8及び10~12は、訂正事項4及び6によって訂正前の請求項2及び4が削除されたことにともない、訂正前の請求項3及び5~9のうち、削除された請求項2及び4を直接又は間接的に引用する場合のものを削除して「特許請求の範囲の減縮」を行うものである。 したがって、訂正事項5、8及び10~12は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内において、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更することなく、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (6)訂正事項7について 訂正事項7は、本件特許明細書の段落0035の「PVCフィルムにおけるエラストマーの含有量は、…凡そ30重量%以下(…3~8重量%)である態様で好ましく実施され得る。」との記載に基づき、訂正前の請求項5に記載の「エラストマーの含有量」を「3重量%以上30重量%以下」に限定するものである。 してみると、訂正事項7は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 また、特許請求の範囲の減縮によって、特許請求の範囲の拡張ないし変更が実質的に生じないことも明らかであるから、訂正事項7は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 したがって、訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (7)訂正事項9について 訂正事項9は、本件特許明細書の段落0029の「可塑剤の含有量は、…PVCフィルムの10重量%以上とすることができ、より良好な可塑化効果を得る観点から15重量%以上とすることが好ましい。…通常は40重量%以下とすることが適当であり、35重量%以下(…)とすることが好ましい。」との記載に基づき、訂正前の請求項6に記載の「10~60重量%の可塑剤」を「15重量%以上35重量%以下の前記可塑剤」に限定するものである。 してみると、訂正事項9は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 また、特許請求の範囲の減縮によって、特許請求の範囲の拡張ないし変更が実質的に生じないことも明らかであるから、訂正事項9は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 したがって、訂正事項9は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (8)一群の請求項について 訂正事項1~12に係る訂正前の請求項1~9について、その請求項2~9はいずれも直接又は間接的に請求項1を引用する関係にあるから、訂正前の請求項1~9に対応する訂正後の請求項1~9は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 したがって、訂正事項1~12による本件訂正は、特許法第120条の5第4項に適合するものである。 3.まとめ 以上総括するに、訂正事項1~12による本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、なおかつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~9〕について訂正を認める。 第3 本件発明 本件訂正により訂正された請求項1~9に係る発明(以下「本1発明」~「本9発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1~9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 ポリ塩化ビニルフィルムと該ポリ塩化ビニルフィルムの一方の表面に配置された粘着剤層とを含み、ワイヤーハーネスを構成する電線の周囲に巻き付けて用いられる粘着テープが、長手方向に捲回された粘着テープロールであって、 前記ポリ塩化ビニルフィルムは、10重量%以上40重量%以下の可塑剤を含み、前記可塑剤は芳香族カルボン酸エステルであり、 前記ポリ塩化ビニルフィルムは、さらにエラストマーを含み、前記ポリ塩化ビニルフィルムにおける前記エラストマーの含有量は1重量%以上30重量%以下であり、前記エラストマーは、(メタ)アクリル酸エステル-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、または塩素化ポリエチレンであり、 前記粘着テープロールにおいて、前記粘着テープは、前記粘着剤層の表面を該粘着テープの背面に当接させて捲回されており、 前記粘着剤層の厚さは7μm以上18μm以下であり、 前記粘着テープの50%延伸力FE50が15N/19mm以上25N/19mm以下であり、かつ 前記粘着テープロールの巻戻し力FUW[N/19mm]が前記粘着テープの50%延伸力FE50[N/19mm]の20%以上40%以下であり、 前記巻戻し力FUWが5~10N/19mmであり、 粘着テープの総厚は70μm以上100μm未満である、粘着テープロール。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 前記ポリ塩化ビニルフィルムの厚さが80μm以下である、請求項1に記載の粘着テープロール。 【請求項4】 (削除) 【請求項5】 前記ポリ塩化ビニルフィルムにおける前記エラストマーの含有量が3重量%以上30重量%以下である、請求項1または3に記載の粘着テープロール。 【請求項6】 前記ポリ塩化ビニルフィルムは、15重量%以上35重量%以下の前記可塑剤を含む、請求項1、3または5に記載の粘着テープロール。 【請求項7】 前記ポリ塩化ビニルフィルムは、脂肪酸金属塩を含む、請求項1、3、5または6に記載の粘着テープロール。 【請求項8】 前記ポリ塩化ビニルフィルムにおける前記脂肪酸金属塩の含有量が0.02~1重量%である、請求項7に記載の粘着テープロール。 【請求項9】 ワイヤーハーネスを製造する方法であって、 請求項1、3、5、6、7または8に記載の粘着テープロールを用意することと、 前記粘着テープロールを巻き戻しつつ、前記ワイヤーハーネスを構成する電線の周囲に前記粘着テープを巻き付けることと を包含する、ワイヤーハーネスの製造方法。」 第4 取消理由通知の概要 令和4年1月19日付けの取消理由通知で通知された取消理由は、次の理由2のみからなるものである。 〔理由2〕本件特許は、その明細書の発明の詳細な説明の記載が下記の1.(1)~(2)の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。 1.(1)50%延伸力を論じるには、可塑剤の含有量だけでは足りず、エラストマーの種類やその量なども必要であるから、実施例に記載のエラストマーの種類や使用量、可塑剤の種類や使用量から大きく外れる範囲においては、実施可能要件を満たさない。 1.(2)巻き戻し力の値は粘着剤層の厚さだけでは足りず、エラストマーの種類や量なども必要であり、実施例に記載のエラストマーの種類や使用量から大きく外れる範囲においては、実施可能要件を満たさない。 よって、本件特許の請求項1~9に係る発明に係る特許は、同法第36条第4項第1号の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 第5 当審の判断 1.理由2(実施可能要件)について (1)50%延伸力について 訂正後の本1発明は、可塑剤の種類と使用量が「芳香族カルボン酸エステル」と「10重量%以上40重量%以下」に限定され、エラストマーの種類と用量が「(メタ)アクリル酸エステル-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、または塩素化ポリエチレン」と「1重量%以上30重量%以下」に限定されたので、実施例から大きく外れる範囲のものを含まず、当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要がある場合に該当しないことは明らかである。 したがって、上記1.(1)に指摘した記載不備に基づく取消理由は解消した。 (2)巻戻し力について 訂正後の本1発明は、可塑剤の種類と使用量が「芳香族カルボン酸エステル」と「10重量%以上40重量%以下」に限定され、エラストマーの種類と用量が「(メタ)アクリル酸エステル-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、または塩素化ポリエチレン」と「1重量%以上30重量%以下」に限定されたので、実施例から大きく外れる範囲のものを含まず、当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要がある場合に該当しないことは明らかである。 したがって、上記1.(2)に指摘した記載不備に基づく取消理由は解消した。 (3)特許異議申立人の主張について 令和4年6月14日付けの意見書の第5頁において、特許異議申立人は『対応としては,エラストマーの候補から実施例2,比較例1,及び比較例2に対応する「アクリロニトリル-ブタジエン共重合体」を外す訂正も選択し得たにもかかわらず,特許権者は,訂正後の請求項1に記載の発明が,実施例2,比較例1,及び比較例2に対応する「アクリロニトリル-ブタジエン共重合体」をエラストマーとして含む態様をわざわざ記載することを選択した。したがって,訂正後の本件発明は実施可能要件違反となる態様を明確に包含するものであるから,訂正後の本件発明が実施可能要件を満たすことはない。』と主張する。 しかしながら、本件特許明細書の段落0098の表1の「比較例1」の「50%延伸力FE50」に関連するデータの記載に何らかの技術的な矛盾が存在することは当業者に明らかであるところ、当該「比較例1」という比較例のデータ記載に何らかの錯誤があるからといって、本件特許明細書に記載の実施例1~6の具体例(なお、実施例7は「巻戻し力FUW」の値が訂正後の本1発明の範囲外である。)の記載に特段の不備はないので、比較例のデータ記載の不備を根拠に、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に違反するとすることに合理性があるとはいえない。 したがって、特許異議申立人の上記意見書の主張は採用できない。 2.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立ての理由について (1)申立理由1(サポート要件)について ア 特許異議申立人が主張する申立理由1(サポート要件)は、本件特許の特許請求の範囲に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないため、本件特許は特許法第36条第6項第1号の要件を満たさないというものである(特許法第113条第4号)。 イ そして、その「(1-1)厚さ」の不備として「粘着テープ及びポリ塩化ビニルフィルムの厚さの下限について何ら規定していない本件発明1は、甲第5号証に示されるような当業者の技術常識及び本件明細書自身の記載に鑑みても、課題が解決されない範囲を明らかに包含するものであり、当該部分は発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲を超える部分のものであるから、サポート要件を満たさない。」と主張する(申立書第12~13頁) しかしながら、本件特許の請求項1の「粘着テープの総厚は70μm以上100μm未満である」との記載にあるように、本1発明は「粘着テープ」の厚さの下限が「70μm以上」に特定されており、粘着剤層の厚さが「18μm以下」に特定されていることからみて、その「ポリ塩化ビニルフィルム」の厚さは「52μm」以上の範囲にあることも明らかであるから、上記(1-1)の主張に理由があるとはいえない。 ウ また、その「(1-2)実施例及び比較例における疑義」の不備として「本件明細書の表1に示されている結果では、50%延伸力FE50(50%モジュラス)は、比較例1(13.0N/19mm)の方が実施例2(20.0N/19mm)よりも35%も小さくなるという結果が示されている。このような結果となることは、当業界の技術常識を考慮したとしても、全く理解できるものではない。…そうすると、本件明細書が上記のような複数の矛盾をはらむために、本件発明が発明の課題が解けるできることを当業者が認識できるかどうかが判断できるものではないから、サポート要件を満たさない。」と主張する(申立書第13~14頁)。 しかしながら、本件特許明細書の表1に示される比較例1のデータ記載に何らかの錯誤ないし矛盾があり、このような錯誤ないし矛盾の存在が当業者の技術常識からみて明らかなことはその通りであるが、当該技術分野の通常の知識を有する者にしてみれば、本件特許明細書の全体の記載からみて、100%の絶対的な確度で断言できないまでも、当該「比較例1」のデータの内容が正しくは「20.0N/19mm」程度である蓋然性が高いとまでは予見可能なことも明らかなので、上記(1-2)の主張に理由があるとはいえない。 エ さらに、その「(1-3)ポリ塩化ビニルフィルムの組成」の不備として「本件明細書の実施例で示したポリ塩化ビニルとエラストマーとの特定の比率における組み合わせ以外の組成を有するポリ塩化ビニルフィルムは、その50%延伸応力、ひいては巻戻し力FUW[N/19mm]と50%延伸力FE50[N/19mm]の比率が本件の請求項1を満たすとは言えず、本件発明1は本件特許の課題を解決できない範囲を含むものであるから、サポート要件を満たさない。」と主張する(申立書第20頁)。 しかしながら、本件特許の請求項1の「前記ポリ塩化ビニルフィルムは、10重量%以上40重量%以下の可塑剤を含み、前記可塑剤は芳香族カルボン酸エステルであり、前記ポリ塩化ビニルフィルムは、さらにエラストマーを含み、前記ポリ塩化ビニルフィルムにおける前記エラストマーの含有量は1重量%以上30重量%以下であり、前記エラストマーは、(メタ)アクリル酸エステル-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、または塩素化ポリエチレンであり」との記載にあるように、本1発明は「ポリ塩化ビニルフィルム」の組成が、具体的に特定されているものであるから、上記(1-3)の主張に理由があるとはいえない。 (2)申立理由2(実施可能要件)について ア 特許異議申立人が主張する申立理由2(実施可能要件)は、本件特許の発明の詳細な説明は、請求項に係る発明について当業者が実施できる程度に明確かつ充分に記載されたものではないため、本件特許は特許法第36条第4項第1号の要件を満たさないというものである(特許法第113条第4号)。 イ そして、その「(2-1)実施例及び比較例における疑義」の不備(申立書第22~23頁)について、上記(1-2)に記載のように不備があると特許異議申立人は主張するが、本件特許明細書の表1に示される「比較例1」のデータの内容が正しくは「20.0N/19mm」程度である蓋然性が高いことは、当業者にとって自明であるので、上記(2-1)の主張に理由があるとはいえない。 ウ また、その「(2-2)ポリ塩化ビニルフィルムの組成」の不備(申立書第23頁)について、上記(1-3)に記載のように不備があると特許異議申立人は主張するが、本件特許明細書の表1に記載の実施例5と6は、その「エラストマーの量」が異なるのみならず、その「可塑剤の量」も異なっているので、その記載に矛盾があるとはいえず、上記(2-2)の主張に理由があるとはいえない。 (3)申立理由3(明確性要件)について ア 特許異議申立人が主張する申立理由3(明確性要件)は、本件特許の特許請求の範囲に記載された発明は、特許を受けようとする発明が明確ではないため、本件特許は特許法第36条第6項第2号の要件を満たさないというものである(特許法第113条第4号)。 イ そして、その「(3-1)巻戻し力の測定条件について」の不備として「本件発明1には、巻戻し力の測定条件となる巻き戻し速度については記載されておらず、本件発明1の記載からは、どのような条件で測定した巻戻し力を規定しているのか不明確である。」と主張する(申立書第24頁)。 しかしながら、本件特許明細書の段落0095には「巻戻し速度1m/分の条件で巻戻し力(N/19mm)を測定した。」と記載されているので、上記(3-1)の主張に理由があるとはいえない。 ウ また、その「(3-2)可塑剤とエラストマーについて」の不備として「ある特定の化合物を可塑剤と呼称するかエラストマーと呼称するかについての明確な定義は存在せず、本件発明においては、ある化合物を可塑剤とエラストマーのいずれに区分けるべきか不明であるため、特許発明の技術的範囲を明確に定めることが困難であり、発明を明確に把握することができない。」と主張する(申立書第24~25頁)。 しかしながら、技術用語として「可塑剤」と「エラストマー」の意味する内容は明確であって、ある化合物が「可塑剤」として機能しなければ「可塑剤」の範疇に含まれず、同様に「エラストマー」として機能しなければ「エラストマー」の範疇に含まれないことは明らかであるから、上記(3-2)の主張に理由があるとはいえない。 (4)申立理由4(進歩性の欠如)について ア 特許異議申立人が主張する申立理由4(進歩性の欠如)は、本件特許の請求項1~9に係る発明は、その出願前に公開された甲第1~4号証に基づいて、当業者が胃に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである(特許法第113条第2号)。 そして、次の甲第1~4号証を証拠として提出している(申立書第25~46頁)。 甲第1号証:田原昌治,外3名,“ワイヤーハーネス関連材料”,日東技報,日東電工株式会社,1992年11月,第30巻,第2号,第77~79頁 甲第2号証:特開2013-40308号公報 甲第3号証:特開2003-119301号公報 甲第4号証:JIS K 6251:2010,“加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方”,日本工業標準調査会,2010年,第759~781頁 イ 甲第1~4号証の記載事項 (ア)甲第1号証には、次の記載がある。 摘記1a:第79頁 「 [図:0001390546000001.jpg] [図:0001390546000002.jpg] [図:0001390546000003.jpg] 」 (イ)甲第2号証には、次の記載がある。 摘記2a:請求項1 「【請求項1】少なくとも、下記(A)~(E)を含有する樹脂組成物からなり、 (A)ポリ塩化ビニル、 (B)トリメチロールプロパントリメタクリレート、及び/又は、トリメチロールプロパントリアクリレート、 (C)ポリエステル系可塑剤、 (D)安定化剤、 (E)ゴム成分、 (E)ゴム成分の配合量が、(A)ポリ塩化ビニル100重量部に対して1~20重量部であることを特徴とするハーネス結束テープ用フィルム。」 摘記2b:段落0002、0029、0034及び0036 「【0002】自動車や電子機器等の内部には、多数の電線が引き回され配線(配索)されている。ここで、多数の電線は結束されハーネスとして配線されている。 多数の電線を結束してハーネスとする方法としては、例えば、束ねた電線群の周囲にハーネス結束テープを巻き付ける方法が知られている。… 【0029】上記ハーネス結束テープ用フィルムの厚さは、40~80μmであることが好ましい。上記厚さが40μm未満では、充分な破断強度を確保することができない場合があり、一方、80μmを超えると、重量が嵩むこととなるからである。例えば、普通乗用車では、通常、ハーネスは、約1.5~2.0km使用されており、ハーネス結束テープは、ハーネス全体量の約9%を占めている。そのため、ハーネス結束テープの厚さを上記のように薄くすることで、自動車の燃費を向上させることができるのである。… 【0034】…上記ハーネス結束テープは、本発明のハーネス結束テープ用フィルムに電子線照射処理が施され、更にその片面に粘着剤層が形成されたものである。… 【0036】…上記粘着剤層の厚さは、通常、5~15μmであることが好ましい。」 (ウ)甲第3号証には、次の記載がある。 摘記3a:段落0010 「【0010】ポリエステル系可塑剤を用いた塩化ビニル系フィルムは、低温での柔軟性がフタル酸エステル系可塑剤を用いた塩化ビニル系フィルムに比べて劣るが、上記本発明では、ポリエステル系可塑剤に加えて、塩素化ポリオレフィンおよび/またはメタクリル酸エステル/スチレン/ブタジエン共重合体を加えており、これにより低温での柔軟性も満足することができる。また、塩素化ポリオレフィンおよび/またはメタクリル酸エステル/スチレン/ブタジエン共重合体は、カレンダー圧延の混練特性も良好であり、フタル酸エステル系の可塑剤よりも初期粘着力の絶対値が大きな粘着テープが得られる点でも有効である。本発明の粘着テープ用支持体となる塩化ビニル系フィルムは、フタル酸エステル系可塑剤を含まないため環境ホルモンの問題がなく人体に安全な粘着テープ用支持体である。」 (エ)甲第4号証には、次の記載がある。 摘記4a:第760頁 「 [図:0001390546000004.jpg] 」 ウ 甲第1号証に記載された発明 摘記1bの「表2」の、軽量化製品(No.2101)についての「軽量タイプ…No2102…厚さ…mm…0.100…対SUS板粘着力…常態…kg/30mm幅…0.24…巻き戻し力…低速2)…0.69…高速3)…1.64…50%モジュラス…常態…3.0…2)0.005m/s…3)0.5m/s…3.1 燃費改善に寄与するテープ…自動車メーカ各社は燃費改善のために全ての部材の重量減少を部材メーカに要求している。この要求に対応した製品として,ワイヤーハーネスの結束において一般に使用されているNo.2100S(T)の軽量化製品(No.2101)を上市した(表2)。」との記載からみて、刊行物1には、 『厚さ0.100mm、巻き戻し力が、低速(0.005m/s)で0.69kg/30mm幅、高速(0.5m/s)で1.64kg/30mm幅、50%モジュラス(常態)が3.0kg/30mm幅、対SUS板粘着力(常態)が0.24kg/30mm幅の、ワイヤーハーネスの結束において使用されるテープの軽量化製品(No.2101)。』についての発明(以下「刊1発明」という。 )が記載されているといえる。 エ 対比 本1発明と甲1発明とを対比する。 刊1発明は、「巻き戻し力が、低速(0.005m/s)で0.69kg/30mm幅」、及び、「対SUS板粘着力(常態)が0.24kg/30mm幅の、ワイヤーハーネスの結束において使用されるテープの軽量化製品(No.2101)」であり、 刊1発明の製品が「粘着力」を有する「テープ」の製品であるという点において「粘着テープ」の形態にあることが明らかであり、 刊1発明のテープが「巻き戻し力」を有する「30mm幅」のテープであるという点において、テープが「長手方向」に「捲回」された「ロール」の形態(巻き戻し可能な形態)にあることが明らかであり、 刊1発明のテープが「ワイヤーハーネスの結束において使用される」という点において、テープが「ワイヤーハーネスを構成する電線の周囲に巻き付けて用いられる」ことが明らかなので、 刊1発明の「ワイヤーハーネスの結束において使用されるテープの軽量化製品(No.2101)」は、本1発明の「ワイヤーハーネスを構成する電線の周囲に巻き付けて用いられる粘着テープが、長手方向に捲回された粘着テープロール」に相当する。 刊1発明の「巻き戻し力が、低速(0.005m/s)で0.69kg/30mm幅、高速(0.5m/s)で1.64kg/30mm幅、50%モジュラス(常態)が3.0kg/30mm幅」について、その単位系を本1発明の単位系に換算すると、 当該「低速(0.005m/s)で0.69kg/30mm幅」の巻き戻し力は、0.005m/s=0.3m/分、0.69kg/30mm×(19/30)=0.437kg/19mmであって、1kgf=9.8Nであることから、0.437×9.8=4.28N/19mmに換算され、 当該「高速(0.5m/s)で1.64kg/30mm幅」の巻き戻し力は、0.5m/s=3.0m/分、1.64kg/30mm×(19/30)=1.0386kg/19mmであって、1kgf=9.8Nであることから、1.0386×9.8=10.18N/19mmに換算され、 当該「3.0kg/30mm幅」の50%モジュラスは、3.0kg/30mm×(19/30)=1.9kg/19mmであって、1kgf=9.8Nであることから、1.9×9.8=18.6N/19mmに換算される。 そして、甲第1号証の図4(摘記1a)の記載にあるように、巻き戻し力(y)は巻き戻し速度の常用対数(x)に対して比例関係にあるところ、図4の「-▲- No2101」の直線の y=a*log10(x)+b … (1’) の式(1’)に、y1=0.69、x1=0.3、及び、y2=1.64、x2=3.0を代入して、連立方程式を解いて、その傾きaと切片bの値を求めると、 logA(X/Y)=logAX-logAY の公式を利用するに、a=(1.64-0.69)÷2=0.475、b=0.69-(0.475*-0.52288)=0.94となることから、図4の「-▲- No2101」の直線の式は、 y=0.475*log10(x)+0.94 …(1) で表されることとなる。 してみると、本件特許明細書の段落0095の「巻戻し速度1m/分の条件で巻戻し力(N/19mm)を測定した。」との記載にある条件での「巻戻し力(N/19mm)」の値は、0.475*log10(1.0)+0.94=0.94kg/30mmとなり、0.94kg/30mm×(19/30)×9.8=5.83N/19mmに換算され、 刊1発明の「巻き戻し力」の「50%モジュラス」に対する百分率での割合は、5.83÷18.6×100=31.3%と計算される。 以上のことから、刊1発明の「巻き戻し力が、低速(0.005m/s)で0.69kg/30mm幅、高速(0.5m/s)で1.64kg/30mm幅、50%モジュラス(常態)が3.0kg/30mm幅」は、本1発明の「前記粘着テープの50%延伸力FE50が15N/19mm以上25N/19mm以下であり、かつ前記粘着テープロールの巻戻し力FUW[N/19mm]が前記粘着テープの50%延伸力FE50[N/19mm]の20%以上40%以下であり、前記巻戻し力FUWが5~10N/19mmであり、」に相当する。 したがって、本1発明と刊1発明は『ワイヤーハーネスを構成する電線の周囲に巻き付けて用いられる粘着テープが、長手方向に捲回された粘着テープロールであって、 前記粘着テープの50%延伸力FE50が15N/19mm以上25N/19mm以下であり、かつ 前記粘着テープロールの巻戻し力FUW[N/19mm]が前記粘着テープの50%延伸力FE50[N/19mm]の20%以上40%以下であり、 前記巻戻し力FUWが5~10N/19mmである、粘着テープロール。』という点において一致し、次の(α)~(ε)の5つの点で一応相違する。 (α)粘着テープロールが、本1発明は「ポリ塩化ビニルフィルムと該ポリ塩化ビニルフィルムの一方の表面に配置された粘着剤層とを含」む粘着テープが「前記粘着剤層の表面を該粘着テープの背面に当接させて捲回されて」いるのに対して、刊1発明は、粘着テープの支持体の材質が不明であり、粘着テープロールの捲回の状態の詳細が不明な点 (β)ポリ塩化ビニルフィルムが、本1発明は「10重量%以上40重量%以下の可塑剤を含み、前記可塑剤は芳香族カルボン酸エステルであ」るのに対して、刊1発明は、粘着テープの支持体の材質が不明な点 (γ)ポリ塩化ビニルフィルムが、本1発明は「さらにエラストマーを含み、前記ポリ塩化ビニルフィルムにおける前記エラストマーの含有量は1重量%以上30重量%以下であり、前記エラストマーは、(メタ)アクリル酸エステル-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、または塩素化ポリエチレンであ」るのに対して、刊1発明は、粘着テープの支持体の材質が不明な点 (δ)粘着剤層の厚さが、本1発明は「7μm以上18μm以下」であるのに対して、刊1発明は、粘着剤層の厚さが不明な点 (ε)粘着テープの総厚が、本1発明は「70μm以上100μm未満」であるのに対して、刊1発明は「0.100mm」である点 オ 判断 事案に鑑み、まず上記(β)及び(γ)の相違点について検討する。 特許異議申立人は、申立書の第38頁で「ビニールテープという表記がポリ塩化ビニルフィルムを基材としたテープを意味することは技術常識であるから、No.2101はポリ塩化ビニルフィルムとその一方の表面に粘着剤層を有するものであると認められる。」と主張し(構成要件A)、同第45頁で「甲第3号証の実施例では、アジピン酸系ポリエステルを30重量%含むポリ塩化ビニルフィルムが開示されている。」と主張する(構成要件K)。 しかしながら、甲第3号証の段落0010(摘記3a)に記載の「アジピン酸系ポリエステル」は「脂肪族ポリエステル系」の可塑剤であって「芳香族カルボン酸エステル」系の可塑剤ではなく、甲第2号証の請求項1(摘記2a)に記載の「(C)ポリエステル系可塑剤」も「ポリエステル系」の可塑剤であって「芳香族カルボン酸エステル」系の可塑剤ではない。 してみると、甲第1~4号証の全ての記載を精査しても、上記(β)の相違点に係る「芳香族カルボン酸エステル」系の可塑剤を採用することが、当業者にとって容易に想到し得るとはいえない。 また、甲第1~4号証の全てを精査しても、エラストマーと芳香族カルボン酸エステル系可塑剤とを組み合わせて含む具体的なPVCフィルムの開示はないので、上記(β)及び(γ)の相違点に係る構成及び効果を導き出すことが、当業者にとって容易に想到し得るとはいえない。 そして、本件特許明細書の段落0091及び0098には、可塑剤として「フタル酸ジイソノニル」を用いた実施例1~6のものが、良好な「結束作業性」を示すことが具体的な試験結果とともに示されている。 なお、特許異議申立人は、令和3年12月16日付けの意見書において「1.理由2(実施可能要件違反)」と「2.理由3(サポート要件違反)」について主張し、令和4年4月22日付けの意見書において「イ 理由2(実施可能要件)について」の主張をしているところ、進歩性については更なる主張をしていない。 したがって、その余の点について検討するまでもなく、本1発明は、甲第1~4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当するとはいえない。 カ 本3及び本5~本9発明について 本3及び本5~本9発明は、本1発明を直接又は間接的に引用し、さらに限定したものである。 してみると、本1発明の進歩性が甲第1~4号証によって否定できない以上、本3及び本5~本9発明が、甲第1~4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当するとはいえない。 第6 まとめ 以上総括するに、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、本1、本3、及び本5~本9発明に係る特許を取り消すことができず、他に本1、本3、及び本5~本9発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また、訂正前の請求項2及び4は削除されているので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、請求項2及び4に係る発明についての特許異議の申立てを却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2021-700501

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