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特許異議申立

2021-700305

吸音材

審判番号
2021-700305
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2013-264734外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
6761618
請求日
2021年03月23日
審決日
2021年11月24日
公報発行日
2022年05月27日
結論
訂正認容
審判長/審判官
分類
P1651.113-YAA(G10K) / P1651.121-YAA(G10K)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6761618号発明「吸音材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6761618号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。 特許第6761618号の請求項1に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6761618号の請求項1に係る特許についての出願は、平成25年12月23日に出願され、令和2年9月9日にその特許権の設定登録がされ、令和2年9月30日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和3年3月23日に特許異議申立人 特許業務法人朝日奈特許事務所により特許異議の申立てがされ、当審は、令和3年6月28日(起案日)(発送日は令和3年7月5日)に取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和3年9月2日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)を行い、その訂正の請求に対して、特許異議申立人は、令和3年10月15日に意見書を提出した。 第2 本件訂正請求による訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、「前記通気性表皮材の単位厚さあたりの通気抵抗が、前記通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗の、20倍以上2514倍未満の大きさである、吸音材。」とあるのを、「前記通気性表皮材の単位厚さあたりの通気抵抗が、前記通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗の、58.3倍以上2514倍未満の大きさである、吸音材。」に訂正する。 (2)訂正事項2 発明の詳細な説明の段落【0005】に、「前記通気性表皮材の単位厚さあたりの通気抵抗が、前記通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗の、20倍以上2514倍未満の大きさである、吸音材。」とあるのを、「前記通気性表皮材の単位厚さあたりの通気抵抗が、前記通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗の、58.3倍以上2514倍未満の大きさである、吸音材。」に訂正する。 (3)訂正事項3 発明の詳細な説明の段落【0006】に、「そして、前記通気性表皮材の厚さが0.5~12mm、前記通気性表皮材の通気度は5.3cm3/cm2・s以上、前記通気性表皮材の単位厚さあたりの通気抵抗が、前記通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗の20倍以上2514倍未満の大きさである場合に、通気性表皮材の積層により吸音材の吸音性能を効果的に向上できることを見出した。」とあるのを、「そして、前記通気性表皮材の厚さが0.5~12mm、前記通気性表皮材の通気度は5.3cm3/cm2・s以上、前記通気性表皮材の単位厚さあたりの通気抵抗が、前記通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗の58.3倍以上2514倍未満の大きさである場合に、通気性表皮材の積層により吸音材の吸音性能を効果的に向上できることを見出した。」に訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、明細書の段落【0044】-【0046】に記載の実施例9において、「通気性表皮材の単位厚さあたりの通気抵抗を、通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗で除し、小数第2位を四捨五入し算出した値」である「通気抵抗の比率」が「58.3」である旨の記載に基づいて、請求項1に記載の該比率を「20倍以上2514倍未満」から「58.3倍以上2514倍未満」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2)訂正事項2、3について これらの訂正事項は、訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲と発明の詳細な説明との整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 [本件発明] 有機ポリマーで構成された通気性表皮材を有機ポリマーで構成された通気性基材に積層した吸音材であって、 前記通気性表皮材および前記通気性基材は共に不織布であり、 前記通気性表皮材の厚さは、0.5~12mmであり、 前記通気性表皮材の通気度は、5.3cm3/cm2・s以上であり、 前記通気性基材に接着繊維またはバインダを含み、 前記通気性表皮材の単位厚さあたりの通気抵抗が、前記通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗の、58.3倍以上2514倍未満の大きさである、吸音材。 第4 特許異議申立理由について 訂正前の請求項1に係る特許に対する特許異議申立理由の概要は次のとおりである。 1 請求項1に係る発明は、下記の甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 2 請求項1に係る発明は、下記の甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 3 請求項1に係る発明は、下記の甲第3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 4 請求項1に係る発明は、下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 5 請求項1に係る発明は、下記の甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 6 請求項1に係る発明は、下記の甲第3号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 7 請求項1に係る発明は、下記の甲第4号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 8 請求項1に係る発明は、下記の甲第5号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 記 甲第1号証:特許第4616836号公報 甲第2号証:特開2004-325973号公報 甲第3号証:国際公開第2005/019783号 甲第4号証:特開平8-152890号公報 甲第5号証:特開平9-258740号公報 第5 取消理由通知に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 訂正前の請求項1に係る特許に対して、上記特許異議申立理由1ないし8のうち1、2、4、5と同様の理由について、当審が特許権者に通知した取消理由(1)ないし(4)の要旨は、それぞれ、次のとおりである。 (1)請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 (2)請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 (3)請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (4)請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 2 甲各号証の記載事項、甲各号証に記載された発明 (1)甲第1号証 甲第1号証には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審により付与したものである。 「【0020】 それに対し、本発明の目的は、特に200~800 Hzの周波数域に関する吸音性を改良することにある。」 「【0023】 本発明の吸音体は、良好な音響性能を与えるように低中周波数域において最適の吸収性を有する。本発明によれば、特に音の放射源側の高密度不織布1と、音の放射源と反対側の面に低密度の不織布2を組合わせることによって達成される。好ましくは、 不織布2は直接に自動車のシートメタルに隣接され、これによって、不織布とシートメタル間にエアーギャップを形成しないようにしている。」 「【0031】 本発明の不織布は、好ましくは繊維として天然繊維、特に種子繊維である綿;果皮繊維、特にカポック;靭皮繊維、特にリネン、フラックス、ヘンプ および/または ジュート;ハード フアイバー、特にサイザルアサおよび/またはヤシとこれらの混合物より選択される植物繊維である。のみならず合成繊維、例えばポリオレフィン、特にポリプロピレンおよび/またはポリエチレン ;ポリエステル、特にポリエチレン テレフタレートおよび/またはポリブチレン テレフタレート;およびポリアミド、特にナイロン6、ナイロン12、ナイロン66; ビスコースおよびレーヨンとこれらの混合物より選択される合成繊維を含み、また必要に応じて通常のバインダーを含む。 【0032】 使用されるバインダーの種類と量は、基本的には不織布の使用目的によって決定される。一般に、好ましくは 不織布1および/または不織布2を基準にして5~50重量%、特には20~40重量%のバインダーを使用する。 【0033】 必要に応じて、不織布1および/または2は、特にこの2層の境界面で一定の軌跡群模様(raster profile)を有してもよい。この模様は、好ましくは一方の側から出るように形成され、たとえば円錐、あるいはピラミッドで代表されるように一方に凸形状を構成していてもよい。材料とコストを倹約する起毛切断方法(nap cutting technique)によって、優れた音響上の値が中空室原理(hollow chamber principle)によって達成されることができる。」 「【0048】 【表1】 [図:0001384092000001.jpg] 」 「【0050】 【図1】実施例、比較例の周波数に対する吸音の関係を示すグラフ。」 「 [図:0001384092000002.jpg] 」 以上の特に下線部の記載、及び、実施例1-5の数値によれば、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 [甲1発明] 音の放射源側のポリプロピレンを含む高密度不織布1と、音の放射源と反対側のポリプロピレンを含む低密度不織布2を2層に組み合わせた吸音体であって、 不織布はバインダーを含み、不織布1および/または不織布2を基準にして20~40重量%のバインダーを使用し、 不織布1の層厚は5mmであり、 不織布1の流れ抵抗は74~500kNs/m4であり、 不織布2の層厚は15mmで、流れ抵抗は20kNs/m4である、 吸音体。 (2)甲第2号証 甲第2号証には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審により付与したものである。 「【0007】 本発明は上述のような問題点を解決するためになされたもので、吸音性能の優れる自動車用内装材、及びその製造方法を提供することを目的とする。」 「【0048】 (3)吸音層の積層一体化工程; 他方、通気度が50cm3/cm2/sec.以上の吸音層を用意する。この吸音層は常法により製造することができる。例えば、好適であるニードルパンチ不織布は、カード法などの乾式法により繊維ウエブを形成した後、ニードルにより絡合して製造することができる。なお、ニードルパンチ不織布からなる吸音層の通気度は目付、厚さ、或いは製造条件(例えば、ニードルの打ち込み本数、打ち込み深さ、ニードルの種類など)などの条件を調節することにより得ることができ、これらの条件は実験により、適宜設定することができる。また、サーマルボンド不織布は、カード法などの乾式法により熱融着性繊維を含む繊維ウエブを形成した後、熱処理により前記熱融着性繊維を融着させて製造することができる。なお、サーマルボンド不織布からなる吸音層の通気度は目付、厚さ、或いは製造条件(例えば、熱融着性繊維の種類、熱融着性繊維量、熱処理温度、熱処理時の圧力など)などの条件を調節することにより得ることができ、これらの条件は実験により、適宜設定することができる。」 「【0054】 【実施例】 (実施例1) (1)表皮層用ウエブの形成工程; ポリエステル繊維(繊度:3.3dtex、繊維長:51mm)を90mass%と、芯成分がポリエステルからなり、鞘成分が低融点ポリエステル(融点:110℃)からなる芯鞘型複合熱融着性繊維(繊度:4.4dtex、繊維長:51mm)を10mass%とを混綿した後に、カード機を用いて開繊して繊維ウエブを形成した。その後、針密度300本/cm2でニードルパンチ絡合を実施して、目付が150g/m2で、厚さが2.5mmのニードルパンチ不織布を製造し、これを表皮層用ウエブとした。 (2)成型層用ウエブの形成工程; ポリエステル繊維(繊度:3.3dtex、繊維長:51mm)を10mass%と、芯成分がポリエステルからなり、鞘成分がポリプロピレン(融点:160℃)からなる芯鞘型複合熱融着性繊維(繊度:4.4dtex、繊維長:51mm)を90mass%とを混綿した後に、カード機を用いて開繊して繊維ウエブを形成した。その後、針密度100本/cm2でニードルパンチ絡合を実施して、目付が550g/m2で、厚さが5mmのニードルパンチ不織布を製造し、これを成型層用ウエブとした。 (3)表皮層用ウエブと成型層用ウエブの一体化工程; 前記(1)の表皮層用ウエブと前記(2)の成型層用ウエブとを積層した後、表皮層用ウエブ側から針密度100本/cm2でニードルパンチ絡合を実施し、これらウエブを一体化した。 (4)表皮層用ウエブ-バインダ付着成型層用ウエブ一体化ウエブの形成工程; 前記(3)の一体化ウエブの成型層用ウエブ側からのみ、アクリル酸エステル-スチレン共重合体エマルジョン型バインダ(造膜温度:170℃)を塗布し、温度160℃で乾燥すると同時に、表皮層用ウエブの低融点ポリエステル成分及び成型層用ウエブのポリプロピレン成分のいずれも融着させ、成型層用ウエブの片側表面を含む一部にのみ前記バインダが付着(付着量:50g/m2)した、目付が750g/m2で、厚さが7mmの表皮層用ウエブ-バインダ付着成型層用ウエブ一体化ウエブを形成した。 (5)表皮層-成型層一体化物の形成工程; 前記(4)の表皮層用ウエブ-バインダ付着成型層用ウエブ一体化ウエブを加熱炉にて200℃に加熱した後、冷却プレスにより、3mm厚さの平板状に成型するとともに、バインダを造膜させて、表皮層-成型層一体化物(表皮層-成型層一体化物の通気度:12cm3/cm2/sec.、成型層の通気度:16cm3/cm2/sec.)を形成した。この一体化物においては、成型層の0~0.5の範囲(成型層のバインダ付着片側表面を0、成型層の反対側表面を1と目盛った時)に造膜した樹脂バインダが存在していた。 (6)吸音層の形成工程; 反毛綿90mass%と、芯成分がポリエステルからなり、鞘成分が低融点ポリエステル(融点:110℃)からなる芯鞘型複合熱融着性繊維(繊度:4.4dtex、繊維長:51mm)10mass%とを混綿した後に、カード機を用いて開繊して繊維ウエブを形成した。その後、温度170℃、無圧下で熱処理を施し、芯鞘型複合熱融着性繊維の鞘成分を融着させて、吸音層(目付:1000g/m2、厚さ:13mm、通気度:100cm3/cm2/sec.)を形成した。 (7)自動車用内装材の形成工程; 前記(5)の表皮層-成型層一体化物の成型層側に溶剤型合成ゴム系接着剤(商標:インサルジェット、アロン エバーグリップ リミテッド製)を噴霧した後、前記一体化物の成型層に前記(6)の吸音層を積層した後、自然乾燥させて接着一体化し、本発明の自動車用内装材(目付:1750g/m2、厚さ:15mm)を製造した。」 以上の特に下線部の記載によれば、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 [甲2発明] ポリエステル繊維からなる表皮層―成型層一体化物に、ポリエステル繊維からなる吸音層を積層した後、接着一体化した、吸音性能の優れる自動車用内装材であって、 表皮層―成型層一体化物と吸音層は不織布を含み、 表皮層―成型層一体化物の厚さは3mmであり、 表皮層―成型層一体化物の通気度は12cm3/cm2/sec.であり、 吸音層は芯鞘型複合熱融着性繊維を含み、 吸音層の厚さは13mmであり、 吸音層の通気度は100cm3/cm2/sec.である、 自動車用内装材。 3 当審の判断 (1)取消理由(1)について 本件発明と甲1発明を対比する。 甲1発明の「音の放射源側のポリプロピレンを含む高密度不織布1と、音の放射源と反対側のポリプロピレンを含む低密度不織布2を2層に組み合わせた吸音体」は、本件発明の「有機ポリマーで構成された通気性表皮材を有機ポリマーで構成された通気性基材に積層した吸音材」に相当する。また、甲1発明の「高密度不織布1」と「低密度不織布2」は不織布であるから、本件発明と甲1発明は、「有機ポリマーで構成された通気性表皮材を有機ポリマーで構成された通気性基材に積層した吸音材であって、前記通気性表皮材および前記通気性基材は共に不織布」である「吸音材。」である点で一致する。 甲1発明の「不織布1の層厚」は「5mm」であり、本件発明の「通気性表皮材の厚さ」の「0.5~12mm」と数値が重なっているから、本件発明と甲1発明は、「前記通気性表皮材の厚さは、0.5~12mm」である点で一致する。 甲1発明の「不織布1の流れ抵抗」は「74~500kNs/m4」であり、これをフラジール通気量に換算すると、5~34cm3/cm2・sとなり、本件発明の「通気性表皮材の通気度は、5.3cm3/cm2・s以上」と数値が重なっているから、本件発明と甲1発明は、「前記通気性表皮材の通気度は、5.3cm3/cm2・s以上」である点で一致する。 甲1発明における「不織布はバインダーを含み、・・・不織布2を基準にして20~40重量%のバインダーを使用」するから、本件発明と甲1発明は、「前記通気性基材に接着繊維またはバインダを含」む点で一致する。 甲1発明の「不織布1」の流れ抵抗の「不織布2」の流れ抵抗に対する比は、(74/20)~(500/20)、すなわち、3.7~25であり、本件発明の「前記通気性表皮材の単位厚さあたりの通気抵抗が、前記通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗の、58.3倍以上2514倍未満の大きさ」とは数値の範囲が異なり、両者はこの点で相違する。 したがって、請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないから、取消理由(1)には理由がない。 (2)取消理由(2)について 本件発明と甲2発明を対比する。 甲2発明の「ポリエステル繊維からなる表皮層―成型層一体化物に、ポリエステル繊維からなる吸音層を積層した後、接着一体化した、吸音性能の優れる自動車用内装材」は、本件発明の「有機ポリマーで構成された通気性表皮材を有機ポリマーで構成された通気性基材に積層した吸音材」に相当する。また、甲2発明の「表皮層―成型層一体化物」と「吸音層」は、「不織布を含」むから、本件発明と甲2発明は、「有機ポリマーで構成された通気性表皮材を有機ポリマーで構成された通気性基材に積層した吸音材であって、前記通気性表皮材および前記通気性基材は共に不織布」である「吸音材。」である点で一致する。 甲2発明の「表皮層―成型層一体化物の厚さ」は「3mm」であり、本件発明の「通気性表皮材の厚さ」の「0.5~12mm」と数値が重なっているから、本件発明と甲2発明は、「前記通気性表皮材の厚さは、0.5~12mm」である点で一致する。 甲2発明の「表皮層―成型層一体化物の通気度」は「12cm3/cm2/sec.」であり、「5.3cm3/cm2/s以上」であるから、本件発明と甲2発明は、「前記通気性表皮材の通気度は、5.3cm3/cm2/s以上」である点で一致する。 甲2発明の「吸音層」は「芯鞘型複合熱融着性繊維を含」むから、本件発明と甲2発明は、「前記通気性基材に接着繊維またはバインダを含」む点で一致する。 通気抵抗は、通気度に反比例するから、甲2発明において、「表皮層―成型層一体化物」の「単位厚さあたりの通気抵抗」の、「吸音層」の「単位厚さあたりの通気抵抗」に対する比は、(1/(「表皮層―成型層一体化物」の通気度*「表皮層―成型層一体化物」の厚さ))*(1/(「吸音層」の通気度*「吸音層」の厚さ))として計算できる。 甲2発明では、「表皮層―成型層一体化物」の厚さは3mm、「表皮層―成型層一体化物」の通気度は12cm3/cm2/sec.、「吸音層」の厚さは13mm、「吸音層」の通気度は100cm3/cm2/sec.であるから、これらの値を上記計算式に代入すると、「表皮層―成型層一体化物」の「単位厚さあたりの通気抵抗」の、「吸音層」の「単位厚さあたりの通気抵抗」に対する比は、(1/(12*3))/(1/(100*13))=36であり、本件発明の「前記通気性表皮材の単位厚さあたりの通気抵抗が、前記通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗の、58.3倍以上2514倍未満の大きさ」とは数値の範囲が異なり、両者はこの点で相違する。 したがって、請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえないから、取消理由(2)には理由がない。 (3)取消理由(3)について 上記(1)で述べたとおり、本件発明は、「前記通気性表皮材の単位厚さあたりの通気抵抗が、前記通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗の、58.3倍以上2514倍未満の大きさである」のに対し、甲1発明は、不織布1の流れ抵抗が不織布2の流れ抵抗の3.7~25倍であり、数値の範囲が異なる点で、両者は相違する。 この相違点について検討する。 甲1発明は、明細書の段落【0020】の記載によれば、200~800 Hzの周波数域に関する吸音性を改良することを目的とするものである。この目的を達成した実施例として、段落【0048】の表1に実施例1~5が記載されている。 表1をみると、不織布1の流れ抵抗は、実施例1~5で74、120、250、350、500kNs/m4であり、不織布2の流れ抵抗は、実施例1~5で何れも20kNs/m4であるから、不織布1の流れ抵抗の不織布2の流れ抵抗に対する比は、実施例1が3.7、実施例2が6、実施例3が12.5、実施例4が17.5、実施例5が25であり、実施例の数値1~5が大きくなるにしたがって、流れ抵抗の比も大きくなるように設定されている。 図1の「実施例、比較例の周波数に対する吸音の関係を示すグラフ」を参照すると、周波数が200Hz付近では、実施例の数値1~5が大きくなるにしたがって、すなわち、流れ抵抗の比が大きくなるにしたがって音の吸収αも増加している。一方、周波数が800 Hz付近では、実施例1~3までは流れ抵抗の比が大きくなるにしたがって音の吸収αも増加しているが、実施例4、5になると流れ抵抗の比が大きくなるにしたがって音の吸収αは逆に低下して比較例に近くなっていることがわかる。 このことから、甲1発明において、流れ抵抗の比を、実施例5の25倍よりもさらに大きくして、本件発明のような58.3倍以上にすることは、音の吸収を低下させ吸音性を悪化させることとなるから、200~800 Hzの周波数域に関する吸音性を改良することを目的とする甲1発明では想定し得ないことである。 したがって、甲1発明において、上記相違点を克服することには阻害要因があり、請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないから、取消理由(3)には理由がない。 (4)取消理由(4)について 上記(2)で述べたとおり、本件発明は、「前記通気性表皮材の単位厚さあたりの通気抵抗が、前記通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗の、58.3倍以上2514倍未満の大きさである」のに対し、甲2発明は、表皮層―成型層一体化物の単位厚さあたりの通気抵抗が、吸音層の単位厚さあたりの通気抵抗の36倍であり、数値の範囲が異なる点で、両者は相違する。 この相違点について検討する。 甲2発明は、上述したとおり、表皮層―成型層一体化物の単位厚さあたりの通気抵抗が、吸音層の単位厚さあたりの通気抵抗の36倍であるものであるが、この36倍という数値は、単に、本件発明にならって甲2号証について倍率を計算したものであって、甲第2号証には、この数値自体やこの数値と吸音性能との関係について全く言及されていない。 したがって、甲2発明において、上記36倍との数値を変更して58.3倍以上2514倍未満の大きさとする動機はなく、請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないから、取消理由(4)には理由がない。 第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1 異議申立理由3(甲第3号証を主たる証拠とする新規性欠如)について 甲第3号証の段落[0079]には、次の記載がある。 「[0079] (実施例 2) 東レ株式会社製のポリエチレンテレフタレート(PET)ステープル(1.7dtex × 51mm)を用いニードルパンチ方式により厚さ10mm、目付400g/m2、嵩密度0.04g/cm3のポリエチレンテレフタレート(PET)ニードルパンチ不織布を作成した。一方表皮材として、東レ株式会社製ポリエチレンテレフタレート(PET)スパンボンド不織布「アクスター(登録商標)G2260」(厚さ560μm、目付260g/m2、通気量11.5cc/cm2/sec)を、実施例1と同じ方法でPETニードルパンチ不織布に貼り付け、「PET ニードルパンチ不織布/ PETスパンボンド不織布」貼り合わせの吸音材を得た。」 上記記載によれば、甲第3号証には、不織布を積層した吸音材(実施例2)として、次の吸音材が記載されている。 「東レ株式会社製のポリエチレンテレフタレート(PET)ステープル(1.7dtex X 51mm)を用いニードルパンチ方式により厚さ10mm、目付400g/m2、嵩密度0.04g/cm3のポリエチレンテレフタレート(PET)ニードルパンチ不織布を作成した。一方表皮材として、東レ株式会社製ポリエチレンテレフタレート(PET)スパンボンド不織布「アクスター(登録商標)G2260」(厚さ560μm、目付260g/m 2、通気量11.5cc/cm2/sec)を、PETニードルパンチ不織布に貼り付けた、「PET ニードルパンチ不織布/ PETスパンボンド不織布」貼り合わせの吸音材。」 上記実施例2の吸音材について、甲第3号証には、“PETスパンボンド不織布の単位厚さあたりの通気抵抗が、PETニードルパンチ不織布の単位厚さあたりの通気抵抗の何倍であるか”は、全く記載されておらず、その数値を計算するために必要なPETニードルパンチ不織布の通気量や通気抵抗も記載されていない。 実施例2以外の記載をみても同様であり、甲第3号証には、少なくとも、本件発明の「前記通気性表皮材の単位厚さあたりの通気抵抗が、前記通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗の、58.3倍以上2514倍未満の大きさである」との発明特定事項を有する発明は記載されているとはいえない。 よって、請求項1に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であるということはできない。 2 異議申立理由6(甲第3号証を主たる証拠とする進歩性欠如)について 上記1で述べたように、甲第3号証に記載の吸音材については、“PETスパンボンド不織布の単位厚さあたりの通気抵抗が、PETニードルパンチ不織布の単位厚さあたりの通気抵抗の何倍であるか”は全く記載されておらず、また、そもそも、その数値を計算すること自体が記載されていないから、甲第3号証に記載された発明において、その数値を「58.3倍以上2514倍未満の大きさ」にする動機は全くない。 よって、請求項1に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 3 異議申立理由7(甲第4号証を主たる証拠とする進歩性欠如)について 甲第4号証の段落[0039]、段落[0049]には、次の記載がある。 「【0039】実施例1 高密度層(a)と低密度層(b)とを有する2層の積層構造体で、(a)はメルトブロー法で製造したポリプロピレン繊維(構成繊維径1~5μm)からなる不織布で、面密度0.8kg/m2のものを、加熱成形圧縮し、厚さ2mm、通気量0.5cc/cm2secにし、(b)はメルトブロー法で製造したポリプロピレン繊維(構成繊維径1~5μm)からなる不織布で、面密度0.4kg/m2、厚さ20mm、通気量3.5cc/cm2secのものを用い、音の侵入する面を(a)とするように積層し、総厚22mmの低周波数用吸音材(1)を作製した。」 「【0049】実施例11 高密度層(a)と低密度層(b)とを有する2層の積層構造体で、(a)は溶融紡糸法で製造したポリエステル繊維(構成繊維径10~30μm)からなる不織布で、面密度2.4kg/m2のものを、加熱成形圧縮し、厚さ6mm、通気量0.75cc/cm2secにし、(b)は溶融紡糸法で製造したポリエステル繊維(構成繊維径10~30μm)からなる不織布で、面密度1.0kg/m2、厚さ30mm、通気量50cc/cm2secのものを用い、音の侵入する面を(a)とするように積層し、総厚36mmの低周波数用吸音材(11)を作製した。」 これらの記載によれば、甲第4号証には、不織布を積層した吸音材として、次の低周波数用吸音材(1)及び低周波数用吸音材(2)が記載されている。 「高密度層(a)と低密度層(b)とを有する2層の積層構造体で、(a)はメルトブロー法で製造したポリプロピレン繊維(構成繊維径1~5μm)からなる不織布で、面密度0.8kg/m2のものを、加熱成形圧縮し、厚さ2mm、通気量0.5cc/cm2secにし、(b)はメルトブロー法で製造したポリプロピレン繊維(構成繊維径1~5μm)からなる不織布で、面密度0.4kg/m2、厚さ20mm、通気量3.5cc/cm2secのものを用い、音の侵入する面を(a)とするように積層した、総厚22mmの低周波数用吸音材(1)。」 「高密度層(a)と低密度層(b)とを有する2層の積層構造体で、(a)は溶融紡糸法で製造したポリエステル繊維(構成繊維径10~30μm)からなる不織布で、面密度2.4kg/m2のものを、加熱成形圧縮し、厚さ6mm、通気量0.75cc/cm2secにし、(b)は溶融紡糸法で製造したポリエステル繊維(構成繊維径10~30μm)からなる不織布で、面密度1.0kg/m2、厚さ30mm、通気量50cc/cm2secのものを用い、音の侵入する面を(a)とするように積層した、総厚36mmの低周波数用吸音材(11)。」 甲第4号証に記載された、これらの低周波数用吸音材(1)又は低周波数用吸音材(11)について、高密度層(a)(本件発明の「通気性表皮材」に相当)の通気量は、それぞれ、0.5cc/cm2sec又は0.75cc/cm2secであるが、この通気量の数値を変更しようとする動機付けとなる事項は甲第4号証に記載されておらず、さらに、この数値を変更して本件発明のように、5.3cm3/cm2/s以上にすることが当業者に容易に想到し得るといえる理由は見当たらない。 よって、請求項1に係る発明は、甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 4 異議申立理由8(甲第5号証を主たる証拠とする進歩性欠如)について 甲第5号証の段落[0061]には、次の記載がある。 「【0061】実施例11 ポリプロピレン製の板1mmに、高密度層(a)と低密度層(b)とを有する2層の積層構造体で、高密度層(a)は溶融紡糸法で製造したポリエステル繊維(構成繊維径10~30μm)からなる不織布で、面密度2.4kg/m2のものを、加熱成形圧縮し、厚さ6mm、通気量0.75cc/cm2sec、密度0.4g/cm3にし、低密度層(b)は溶融紡糸法で製造したポリエステル繊維(構造繊維径10~30μm)からなる不織布で、面密度1.0kg/m2、厚さ30mm、通気量50cc/cm2sec、密度0.03g/cm3のものを用い、音の侵入する面を(a)、板側に(b)が設置されるように積層し、密度差12倍、設定周波数470Hz、総合の面密度3.4kg/m2、総厚36mmのエンジンカバー用吸音材(11)を作製した。」 これらの記載によれば、甲第5号証には、不織布を積層した吸音材として、次のエンジンカバー用吸音材(11)が記載されている。 「ポリプロピレン製の板1mmに、高密度層(a)と低密度層(b)とを有する2層の積層構造体で、高密度層(a)は溶融紡糸法で製造したポリエステル繊維(構成繊維径10~30μm)からなる不織布で、面密度2.4kg/m2のものを、加熱成形圧縮し、厚さ6mm、通気量0.75cc/cm2sec、密度0.4g/cm3にし、低密度層(b)は溶融紡糸法で製造したポリエステル繊維(構造繊維径10~30μm)からなる不織布で、面密度1.0kg/m2、厚さ30mm、通気量50cc/cm2sec、密度0.03g/cm3のものを用い、音の侵入する面を(a)、板側に(b)が設置されるように積層した、密度差12倍、設定周波数470Hz、総合の面密度3.4kg/m2、総厚36mmのエンジンカバー用吸音材(11)。」 甲第5号証に記載された、エンジンカバー用吸音材(11)について、高密度層(a)(本件発明の「通気性表皮材」に相当)の通気量は、0.75cc/cm2secであるが、この通気量の数値を変更しようとする動機付けとなる事項は甲第5号証に記載されておらず、さらに、この数値を変更して本件発明のように、5.3cm3/cm2/s以上にすることが当業者に容易に想到し得るといえる理由は見当たらない。 よって、請求項1に係る発明は、甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2021-700305

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