特許拒絶査定不服審判
2021-015745
コク味付与機能を有する組成物
- 審判番号
- 2021-015745
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-500171
- 請求日
- 2021年11月17日
- 審決日
- 2023年02月13日
- 公報発行日
- 2023年05月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】味の素株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人秀和特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 磯貝 香苗
- 審判官 三上 晶子
- 分類
- P18 .113-Z (A23L) / P18 .121-Z (A23L) / P18 .575-Z (A23L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-500171「コク味付与機能を有する組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月24日国際公開、WO2017/141986〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2017年2月15日(優先権主張 平成28年2月16日)を国際出願日とする出願であって、令和3年1月21日付けで拒絶理由が通知され、同年4月2日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月4日付けで拒絶査定がされ、同年11月17日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたものである。
第2 令和3年11月17日提出の手続補正書による手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年11月17日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1、6、12について、本件補正により補正される前の(すなわち、令和3年4月2日提出の手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1、6、12の
「【請求項1】
下記成分(A)および(B)を含有する、先味型のコク味付与剤である組成物:
(A)γ-Glu-X-Gly(Xはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)およびγ-Glu-Y(Yはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)から選択される1種またはそれ以上のγ-グルタミルペプチド;
(B)L-酒石酸およびアジピン酸から選択される1種またはそれ以上のジカルボン酸。」
「【請求項6】
下記成分(A)および(B)を飲食品またはその原料に添加することを含む、先味のコク味が付与された飲食品の製造方法:
(A)γ-Glu-X-Gly(Xはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)およびγ-Glu-Y(Yはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)から選択される1種またはそれ以上のγ-グルタミルペプチド;
(B)L-酒石酸およびアジピン酸から選択される1種またはそれ以上のジカルボン酸。」
「【請求項12】
下記成分(A)および(B)を飲食品またはその原料に添加することを含む、飲食品に先味型のコク味を付与する方法:
(A)γ-Glu-X-Gly(Xはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)およびγ-Glu-Y(Yはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)から選択される1種またはそれ以上のγ-グルタミルペプチド;
(B)L-酒石酸およびアジピン酸から選択される1種またはそれ以上のジカルボン酸。」
を、それぞれ、
「【請求項1】
下記成分(A)および(B)を含有する、該成分(A)を単独で含有する場合と比較して飲食品の先味のコク味を増強するためのコク味付与剤である組成物:
(A)γ-Glu-X-Gly(Xはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)およびγ-Glu-Y(Yはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)から選択される1種またはそれ以上のγ-グルタミルペプチド;
(B)L-酒石酸およびアジピン酸から選択される1種またはそれ以上のジカルボン酸。」
「【請求項6】
下記成分(A)および(B)を飲食品またはその原料に添加することを含む、該成分(A)が単独で添加される場合と比較して先味のコク味が増強された飲食品の製造方法:
(A)γ-Glu-X-Gly(Xはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)およびγ-Glu-Y(Yはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)から選択される1種またはそれ以上のγ-グルタミルペプチド;
(B)L-酒石酸およびアジピン酸から選択される1種またはそれ以上のジカルボン酸。」
「【請求項12】
下記成分(A)および(B)を飲食品またはその原料に添加することを含む、該成分(A)が単独で添加される場合と比較して飲食品の先味のコク味を増強する方法:
(A)γ-Glu-X-Gly(Xはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)およびγ-Glu-Y(Yはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)から選択される1種またはそれ以上のγ-グルタミルペプチド;
(B)L-酒石酸およびアジピン酸から選択される1種またはそれ以上のジカルボン酸。」
にする補正を含むものである。なお、下線は補正箇所を示す。
2 補正の適否
本件補正は、補正前の請求項1、請求項6、請求項12についてそれぞれ、「該成分(A)が単独で添加される場合と比較して」飲食品の先味のコク味を「増強」するとの補正事項を含み、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項6に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定である特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、令和3年11月17日提出の手続補正書により補正された請求項6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項6】
下記成分(A)および(B)を飲食品またはその原料に添加することを含む、該成分(A)を単独で含有する場合と比較して先味のコク味が増強された飲食品の製造方法:
(A)γ-Glu-X-Gly(Xはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)およびγ-Glu-Y(Yはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)から選択される1種またはそれ以上のγ-グルタミルペプチド;
(B)L-酒石酸およびアジピン酸から選択される1種またはそれ以上のジカルボン酸。」
(2)引用文献に記載された事項等
ア 引用文献1の記載事項及び引用文献1に記載された発明
(ア)引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に日本国内において、頒布された刊行物である特開平4-304861号公報(以下、「引用文献1」という。)には、おおむね次の事項が記載されている。
「【0008】この醤油粕を原料として用い以下の調味料を製造した。
1.焼き鳥のたれ
醤油 10L
微粉化醤油粕 15Kg
ネギエキス 4Kg
チキンエキス 2Kg
発酵調味料 22L
酒石酸 0.2Kg
コハク酸 0.1Kg
カラメル 10g
水 20L
【0009】これらをよく混合し、90~95℃で加熱殺菌し製品とした。」
「【0010】またこれを焼き鳥のたれとして使用し、食感について官能テストした」
(イ)引用文献1に記載された発明
引用文献1に記載された事項から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認める。
<引用発明1>
「醤油 10L、微粉化醤油粕 15Kg、ネギエキス 4Kg、チキンエキス 2Kg、発酵調味料 22L、酒石酸 0.2Kg、コハク酸 0.1Kg、カラメル 10g、水 20Lを混合し、90~95℃で加熱殺菌した製品を焼き鳥のたれとして調理した焼き鳥の製造方法。」
イ 引用文献2に記載された事項及び引用文献2に記載された発明
(ア)引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に日本国内において、頒布された刊行物である特開昭63-44547号公報(以下、「引用文献2」という。)には、おおむね次の事項が記載されている。
「実施例2 (めんつゆ)
薄口醤油3%、食塩2%、化学調味料2%、試料(別記)のものを水道水で100%にし、ポリ袋に詰め80℃・30分間殺菌した。それを90日間室温で保管して、アジピン酸の防腐、防カビ力を調べた。」(第2頁左下欄下から6行~末行)
「
[図:0001396716000001.jpg]
」(第2頁右下欄)
(イ)引用文献2に記載された発明
引用文献2に記載された事項から、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認める。
<引用発明2>
「薄口醤油3%、食塩2%、化学調味料2%、アジピン酸:リン酸カリウム=1:1からなる試料0.2%を水道水で100%にし、ポリ袋に詰め80℃・30分間殺菌しためんつゆで調理するめんの製造方法。」
ウ 引用文献3に記載された事項及び引用文献3に記載された発明
(ア)引用文献3に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に日本国内において、頒布された刊行物である特開2007-124994号公報(以下、「引用文献3という。」には、おおむね次の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
柑橘類の皮の多糖類分解酵素処理物を主成分とすることを特徴とする整味剤。」
「【請求項7】
請求項1~7のいずれか1項に記載の整味剤を換算BXで1/10~5の範囲含むことを特徴とするドレッシング類。」
「【実施例2】
【0023】
夏蜜柑を丸ごと実施例1のように処理し果汁と皮破砕物の泥状の磨砕物を得た。混合物に対し約30%の水を加え市販のセルラ-ゼ製剤・ペクチナ-ゼ製剤を実施例1にように添加し40~50℃で10時間攪拌しながら酵素分解した。得られた分解液を実施例1のようにして篩別して透明な液体を集めた。液体を減圧下に液温約40℃で減圧下にしてBx17.0の整味剤を得た。」
「【実施例4】
【0025】
水80部、醸造米酢210部、食塩25部、梅酢1部、砂糖130部、転化糖シロップ35部、醤油5部、酒石酸1部、クエン酸2部、実施例2の整味剤25部、キサンタンガム0.6部を加熱下に溶解して室温に冷却した。(総量約515部、換算Bx0.825)実施例3のサラダに同様に添加して試食すると明確な夏蜜柑の芳香と皮の苦味が感じられた。ただし、大人では過半は苦味を好ましいとするが少数は苦味を不味と表現した。(11人:4人)」
(イ)引用文献3に記載された発明
引用文献3に記載された事項から、引用文献3には、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認める。
<引用発明3>
「水80部、醸造米酢210部、食塩25部、梅酢1部、砂糖130部、転化糖シロップ35部、醤油5部、酒石酸1部、クエン酸2部、柑橘類の皮の多糖類分解酵素処理物を主成分とする整味剤25部、キサンタンガム0.6部を加熱下に溶解して室温に冷却したドレッシングを添加したサラダの製造方法。」
エ 引用文献4に記載された事項及び引用文献4に記載された発明
(ア)引用文献4に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に日本国内において、頒布された刊行物である特開2005-269933号公報(以下、「引用文献4」という。)には、おおむね次の事項が記載されている。
「【0037】
(実施例6:調味液による薄塩いくらの製造)
新鮮な鮭の腹から卵を取り出し、これを卵粒に分離して、生いくらを得た。一方、適量の清酒、グルタミンソーダ、旨味調味料、昆布エキス、薄口醤油、濃い口醤油、みりんを配合し、これに、酢酸ナトリウム、グリシン、リゾチーム、フマル酸、アジピン酸、及びエタノールを実施例1の日持ち向上処理液の配合になるように混ぜ、塩分濃度3%の調味液を調製した。この調味液40容積に、上で得た生いくら100容積を5時間浸漬し、味付けされた薄塩いくら(塩分濃度2.5%)を製造した。この味付けされた薄塩いくらを25℃で48時間保存し、その後に、大腸菌群、一般生菌数、並びに乳酸菌数を調べたところ、大腸菌群は陰性であり、一般生菌数及び乳酸菌数はいずれも103のオーダーであり、保存性の目安となる1×105をはるかに下回るものであった。また、この味付けされた薄塩いくらを食したところ、いくら本来の旨味が良く保持されており、異味、異臭は感じられなかった。」
(イ)引用文献4に記載された発明
引用文献4に記載された事項から、引用文献4には、次の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されていると認める。
<引用発明4>
「適量の清酒、グルタミンソーダ、旨味調味料、昆布エキス、薄口醤油、濃い口醤油、みりんを配合し、これに、酢酸ナトリウム、グリシン、リゾチーム、フマル酸、アジピン酸、及びエタノールを混ぜ、塩分濃度3%とした調味液40容積に生いくら100容積を浸漬する、いくら本来の旨味が良く保持された薄塩いくらの製造方法。」
オ 引用文献5に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物であるKURODA Motonaka et al.,Determination and quantification of the kokumi peptide,γ-glutamyl-valyl-glycine,in commercial soy sauces,Food Chem.,2013年,Vol.141,pp.823-828(以下、「引用文献5」という。)には、醤油中のγ-Glu-Val-Glyの含有量について次のとおり記載されている。
[図:0001396716000002.jpg]
(3)本件補正発明と各引用発明との対比及び判断
ア 本件補正発明と引用発明1との対比及び判断
本件補正発明と引用発明1を対比する。
引用発明1における「酒石酸」は、本件補正発明における「(B)L-酒石酸およびアジピン酸から選択される1種またはそれ以上のジカルボン酸」に相当する。
引用発明1における「製品を焼き鳥のたれとして調理した焼き鳥の製造方法」は、本件補正発明における「飲食品またはその原料に添加することを含む」「飲食品の製造方法」に相当する。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「下記成分(B)を飲食品またはその原料に添加することを含む、飲食品の製造方法:
(B)L-酒石酸およびアジピン酸から選択される1種またはそれ以上のジカルボン酸。」
そして、両者は次の点で一応の相違点を有する。
<相違点1-1>
本件補正発明においては、「(A)γ-Glu-X-Gly(Xはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)およびγ-Glu-Y(Yはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)から選択される1種またはそれ以上のγ-グルタミルペプチド」を添加するのに対し、引用発明1においてはそのような特定がない点。
<相違点1-2>
本件補正発明においては、「該成分(A)を単独で含有する場合と比較して先味のコク味が増強された」製造方法であるのに対し、引用発明1においてはそのような特定はない点。
上記相違点1-1について検討する。
上記(2)オにて示されているように、醤油にはγ-Glu-Val-Glyが含まれている。引用発明1の焼き鳥のたれには醤油が含有されているから、醤油由来のγ-Glu-Val-Glyも含有されている。引用発明1の焼き鳥のたれに含まれるγ-Glu-Val-Glyは、本件補正発明における「(A)γ-Glu-X-Gly(Xはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)およびγ-Glu-Y(Yはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)から選択される1種またはそれ以上のγ-グルタミルペプチド」であり、よって相違点1-1の点において本件補正発明と引用発明1とは相違しない。
上記相違点1-2について検討する。
引用発明1の焼き鳥は、焼き鳥の材料に焼き鳥のたれをつけて飲食に提供されるものであり、引用発明1の焼き鳥のたれに含まれる醤油のγ-Glu-Val-Glyは、先味、中味、後味を問わず、コク味を増強する作用を有していると認められる。
そして、成分(A)と成分(B)を添加すれば、「該成分(A)を単独で含有する場合と比較して先味のコク味が増強された」飲食品になるといえるところ、引用発明1の焼き鳥のたれは、成分(A)と成分(B)が含まれているから、このたれをつけた焼き鳥は、成分(A)が単独で添加される場合と比較して、先味のコク味が増強されている。
したがって、相違点1-2の点においても本件補正発明と引用発明1とは相違しない。
よって、本件補正発明は引用発明1である。
また、本件補正発明は、引用発明1に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものである。
イ 本件補正発明と引用発明2との対比及び判断
本件補正発明と引用発明2を対比する。
引用発明2における「アジピン酸」は、本件補正発明における「(B)L-酒石酸およびアジピン酸から選択される1種またはそれ以上のジカルボン酸」に相当する。
引用発明2における「めんつゆで調理するめんの製造方法」は、本件補正発明における「飲食品またはその原料に添加することを含む」「飲食品の製造方法」に相当する。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「下記成分(B)を飲食品またはその原料に添加することを含む、飲食品の製造方法:
(B)L-酒石酸およびアジピン酸から選択される1種またはそれ以上のジカルボン酸。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点2-1>
本件補正発明においては、「(A)γ-Glu-X-Gly(Xはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)およびγ-Glu-Y(Yはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)から選択される1種またはそれ以上のγ-グルタミルペプチド」を含有するのに対し、引用発明2においてはそのような特定がない点。
<相違点2-2>
本件補正発明においては、「該成分(A)を単独で含有する場合と比較して先味のコク味が増強された」製造方法であるのに対し、引用発明2においてはそのような特定はない点。
上記相違点2-1について検討する。
上記(2)オにて示されているように、醤油にはγ-Glu-Val-Glyが含まれている。引用発明2のめんつゆには醤油が含有されているから、醤油由来のγ-Glu-Val-Glyも含有されている。引用発明2のめんつゆに含まれるγ-Glu-Val-Glyは、本件補正発明における「(A)γ-Glu-X-Gly(Xはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)およびγ-Glu-Y(Yはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)から選択される1種またはそれ以上のγ-グルタミルペプチド」であり、よって相違点2-1の点において本件補正発明と引用発明2とは相違しない。
上記相違点2-2について検討する。
引用発明2のめんつゆは、めんにつけて飲食に提供されるものであり、引用発明2のめんつゆに含まれる醤油のγ-Glu-Val-Glyは、先味、中味、後味を問わず、コク味を増強する作用を有していると認められる。
そして、成分(A)と成分(B)を添加すれば、「該成分(A)を単独で含有する場合と比較して先味のコク味が増強された」飲食品になるといえるところ、引用発明2のめんつゆ、成分(A)と成分(B)が含まれているから、このめんつゆをつけためんは、成分(A)が単独で添加される場合と比較して、先味のコク味が増強されている。
したがって、相違点2-2の点においても本件補正発明と引用発明2とは相違しない。
よって、本件補正発明は引用発明2である。
また、本件補正発明は、引用発明2に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
ウ 本件補正発明と引用発明3との対比及び判断
本件補正発明と引用発明3とを対比する。
引用発明3における「酒石酸」は、本件補正発明における「(B)L-酒石酸およびアジピン酸から選択される1種またはそれ以上のジカルボン酸」に相当する。
引用発明3における「ドレッシングを添加したサラダの製造方法」は、本件補正発明における「飲食品またはその原料に添加することを含む」「飲食品の製造方法」に相当する。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「下記成分(B)を飲食品またはその原料に添加することを含む、飲食品の製造方法:
(B)L-酒石酸およびアジピン酸から選択される1種またはそれ以上のジカルボン酸。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点3-1>
本件補正発明においては、「(A)γ-Glu-X-Gly(Xはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)およびγ-Glu-Y(Yはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)から選択される1種またはそれ以上のγ-グルタミルペプチド」を含有するのに対し、引用発明3においてはそのような特定がない点。
<相違点3-2>
本件補正発明においては、「該成分(A)を単独で含有する場合と比較して先味のコク味が増強された」製造方法であるのに対し、引用発明3においてはそのような特定はない点。
上記相違点3-1について検討する。
上記(2)オにて示されているように、醤油にはγ-Glu-Val-Glyが含まれている。引用発明3のドレッシングには醤油が含有されているから、醤油由来のγ-Glu-Val-Glyも含有されている。引用発明3のドレッシングに含まれるγ-Glu-Val-Glyは、本件補正発明における「(A)γ-Glu-X-Gly(Xはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)およびγ-Glu-Y(Yはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)から選択される1種またはそれ以上のγ-グルタミルペプチド」であり、よって相違点3-1の点において本件補正発明と引用発明3とは相違しない。
上記相違点3-2について検討する。
引用発明3のサラダは、ドレッシングをつけて飲食に提供されるものであり、引用発明3のドレッシングに含まれる醤油のγ-Glu-Val-Glyは、先味、中味、後味を問わず、コク味を増強する作用を有していると認められる。
そして、成分(A)と成分(B)を添加すれば、「該成分(A)を単独で含有する場合と比較して先味のコク味が増強された」飲食品になるといえるところ、引用発明3のサラダは、成分(A)と成分(B)が含まれているから、このドレッシングをつけたサラダは、成分(A)が単独で添加される場合と比較して、先味のコク味が増強されている。
したがって、相違点3-2の点においても本件補正発明と引用発明3とは相違しない。
よって、本件補正発明は引用発明3である。
また、本件補正発明は、引用発明3に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
エ 本件補正発明と引用発明4との対比及び判断
本件補正発明と引用発明4とを対比する。
引用発明4における「アジピン酸」は、本件補正発明における「(B)L-酒石酸およびアジピン酸から選択される1種またはそれ以上のジカルボン酸」に相当する。
引用発明4における「いくら本来の旨味が良く保持された薄塩いくらの製造方法」は、本件補正発明における「飲食品またはその原料に添加することを含む」「飲食品の製造方法」に相当する。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「下記成分(B)を飲食品またはその原料に添加することを含む、飲食品の製造方法:
(B)L-酒石酸およびアジピン酸から選択される1種またはそれ以上のジカルボン酸。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点4-1>
本件補正発明においては、「(A)γ-Glu-X-Gly(Xはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)およびγ-Glu-Y(Yはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)から選択される1種またはそれ以上のγ-グルタミルペプチド」を含有するのに対し、引用発明4においてはそのような特定がない点。
<相違点4-2>
本件補正発明においては、「該成分(A)を単独で含有する場合と比較して先味のコク味が増強された」製造方法であるのに対し、引用発明4においてはそのような特定はない点。
上記相違点4-1について検討する。
上記(2)オにて示されているように、醤油にはγ-Glu-Val-Glyが含まれている。引用発明4の調味液には醤油が含有されているから、醤油由来のγ-Glu-Val-Glyも含有されている。引用発明4の調味液に含まれるγ-Glu-Val-Glyは、本件補正発明における「(A)γ-Glu-X-Gly(Xはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)およびγ-Glu-Y(Yはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)から選択される1種またはそれ以上のγ-グルタミルペプチド」である。よって相違点4-1の点において本件補正発明と引用発明4とは相違しない。
上記相違点4-2について検討する。
引用発明4の薄塩いくらは、調味液に浸漬されて飲食に提供されるものであり、引用発明4の調味液に含まれる醤油のγ-Glu-Val-Glyは、先味、中味、後味を問わず、コク味を増強する作用を有していると認められる。
そして、成分(A)と成分(B)を添加すれば、「該成分(A)を単独で含有する場合と比較して先味のコク味が増強された」飲食品になるといえるところ、引用発明4の調味液は、成分(A)と成分(B)が含まれているから、この調味液に浸漬された薄塩いくらは、成分(A)が単独で添加される場合と比較して、先味のコク味が増強されている。
したがって、相違点4-2の点においても本件補正発明と引用発明4とは相違しない。
よって、本件補正発明は引用発明4である。
また、本件補正発明は、引用発明4に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)まとめ
したがって、本件補正発明は、引用発明1ないし4であり、または、引用発明1ないし4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、または、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。
(5)補正の適否についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、前記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし12に係る発明は、令和3年4月2日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項6に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項6に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認められる。
「【請求項6】
下記成分(A)および(B)を飲食品またはその原料に添加することを含む、先味のコク味が付与された飲食品の製造方法:
(A)γ-Glu-X-Gly(Xはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)およびγ-Glu-Y(Yはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)から選択される1種またはそれ以上のγ-グルタミルペプチド;
(B)L-酒石酸およびアジピン酸から選択される1種またはそれ以上のジカルボン酸。」
2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は次の理由を含むものである。
2.(新規性)この出願の請求項6に係る発明は、本願の優先日前に日本国内において、頒布された刊行物である引用文献1、2、3、又は4に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
3.(進歩性)この出願の請求項6に係る発明は、本願の優先日前に日本国内において、頒布された刊行物である引用文献1、2、3、又は4に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3 引用文献及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし4及び引用文献1ないし4に記載された発明は、前記第2[理由]2(2)アないしエ で示したとおりである。
4 対比・判断
前記第2[理由]2で検討したように、本件補正発明は、本願発明の発明特定事項に対し、「該成分(A)が単独で添加される場合と比較して」飲食品の先味のコク味を「増強する」との限定を加えたものである。
そして、本願発明の発明特定事項に限定を加えた本件補正発明は、前記第2[理由]2(3)アないしエの検討のとおり、引用発明1ないし4であり、または、引用発明1ないし4に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その限定のない本願発明は、引用発明1ないし4であり、または、引用発明1ないし4に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
5 むすび
したがって、本願発明は、引用発明1ないし4であるか、引用発明1ないし4に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、または、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第4 結語
以上のとおり、本願発明、すなわち請求項6に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、または、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2021-015745