特許拒絶査定不服審判
2022-019312
疲労感軽減剤および疲労感軽減用飲食品組成物
- 審判番号
- 2022-019312
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-155492
- 請求日
- 2022年11月30日
- 審決日
- 2024年09月20日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社 伊藤園
- 【請求人代理人】早川 裕司
- 【請求人代理人】村雨 圭介
- 【請求人代理人】田岡 洋
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 松本 陶子
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P18 .113-Z (A23L) / P18 .121-Z (A23L) / P18 .575-Z (A23L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第3項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-155492「疲労感軽減剤および疲労感軽減用飲食品組成物」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 2月27日出願公開、特開2020- 28247〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成30年 8月22日の出願であって、その手続の経緯は、概略、次のとおりである。
令和 4年 3月 7日付け 拒絶理由通知
同年 7月12日 意見書及び手続補正書の提出
同年 8月23日付け 拒絶査定
同年11月30日 審判請求書及び手続補正書の提出
令和 5年 1月12日 手続補正書(方式)の提出
第2 令和 4年11月30日提出の手続補正書による手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和 4年11月30日提出の手続補正書による手続補正を却下する。
[理由]
1 令和 4年11月30日提出の手続補正書による手続補正の内容
令和 4年11月30日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の(すなわち、令和 4年 7月12日に提出された手続補正書により補正された)下記(1)に示す特許請求の範囲を、下記(2)に示す特許請求の範囲とするものである。なお、下線は、補正箇所を示すためのものである。
(1)本件補正前の特許請求の範囲
「 【請求項1】
疲労感軽減剤であって、水素を有効成分とし、前記疲労感は、運動負荷後であって就寝前の倦怠感を含む、疲労感軽減剤。
【請求項2】
疲労感軽減剤であって、水素を有効成分とし、前記疲労感は、運動負荷10時間以上後の倦怠感を含む、疲労感軽減剤。
【請求項3】
前記倦怠感の軽減が、身体のだるさの軽減、活力の向上、および精神的な疲れの軽減からなる群より選択される1または2以上を含む、請求項1または2に記載の疲労感軽減剤。
【請求項4】
運動負荷後の爽快感向上用途に用いられる、請求項1~3のいずれか一項に記載の疲労感軽減剤。
【請求項5】
前記倦怠感がVAS(Visual Analogue Scale)検査によって評価される、請求項1~4のいずれか一項に記載の疲労感軽減剤。
【請求項6】
1日1回以上、水素に換算して1日当たり0.06mg以上投与される、請求項1~5のいずれか一項に記載の疲労感軽減剤。
【請求項7】
一週間以上連続して投与される、請求項6に記載の疲労感軽減剤。
【請求項8】
疲労感を軽減するための飲食品組成物であって、請求項1~7のいずれか一項に記載の疲労感軽減剤を含み、
前記疲労感は、運動負荷後であって就寝前の倦怠感、または、運動負荷10時間以上後の倦怠感を含む、
疲労感軽減用飲食品組成物。
【請求項9】
飲料の形態である、請求項8に記載の疲労感軽減用飲食品組成物。
【請求項10】
水素含有量が0.06~1.6mgである、請求項8または9に記載の疲労感軽減用飲食品組成物。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか一項に記載の疲労感軽減剤または請求項8~10のいずれか一項に記載の飲食品組成物を投与することを含む、疲労感軽減作用を発揮させる方法(医療行為を除く)であって、
前記疲労感は、運動負荷後であって就寝前の倦怠感、または、運動負荷10時間以上後の倦怠感を含む、
方法。」
(2)本件補正後の特許請求の範囲
「 【請求項1】
疲労感軽減剤であって、水素を有効成分とし、前記疲労感は、運動負荷10~14時間後であって就寝前の倦怠感を含む、疲労感軽減剤。
【請求項2】
疲労感軽減剤であって、水素を有効成分とし、前記疲労感は、運動負荷10~14時間後の倦怠感を含む、疲労感軽減剤。
【請求項3】
前記倦怠感の軽減が、身体のだるさの軽減、活力の向上、および精神的な疲れの軽減からなる群より選択される1または2以上を含む、請求項1または2に記載の疲労感軽減剤。
【請求項4】
運動負荷後の爽快感向上用途に用いられる、請求項1~3のいずれか一項に記載の疲労感軽減剤。
【請求項5】
前記倦怠感がVAS(Visual Analogue Scale)検査によって評価される、請求項1~4のいずれか一項に記載の疲労感軽減剤。
【請求項6】
1日1回以上、水素に換算して1日当たり0.06mg以上投与される、請求項1~5のいずれか一項に記載の疲労感軽減剤。
【請求項7】
一週間以上連続して投与される、請求項6に記載の疲労感軽減剤。
【請求項8】
疲労感を軽減するための飲食品組成物であって、請求項1~7のいずれか一項に記載の疲労感軽減剤を含み、
前記疲労感は、運動負荷10~14時間後の倦怠感を含む、
疲労感軽減用飲食品組成物。
【請求項9】
飲料の形態である、請求項8に記載の疲労感軽減用飲食品組成物。
【請求項10】
水素含有量が0.06~1.6mgである、請求項8または9に記載の疲労感軽減用飲食品組成物。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか一項に記載の疲労感軽減剤または請求項8~10のいずれか一項に記載の飲食品組成物を投与することを含む、疲労感軽減作用を発揮させる方法(医療行為を除く)であって、
前記疲労感は、運動負荷10~14時間後の倦怠感を含む、
方法。」
2 本件補正の適否
2-1.新規事項追加(特許法第17条の2第3項)の有無について
願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、
「本実施形態に係る疲労感軽減剤は、運動負荷後の倦怠感に対し好適に適用することができ、また、就寝前の倦怠感に対し好適に適用することができる。・・・また、運動負荷は、就寝前10~14時間の間に行われていることが好ましい。」(段落0015)、及び
「(2-7)運動10~14時間後であって就寝前30分以内の疲労感調査(VAS)」(段落0041)
との記載があることから、本件補正後の請求項1に係る発明の発明特定事項である「前記疲労感は、運動負荷10~14時間後であって就寝前の倦怠感を含む」、本件補正後の請求項2に係る発明の発明特定事項である「前記疲労感は、運動負荷10~14時間後の倦怠感を含む」、本件補正後の請求項8に係る発明の発明特定事項である「前記疲労感は、運動負荷10~14時間後の倦怠感を含む」、本件補正後の請求項11に係る発明の発明特定事項である「前記疲労感は、運動負荷10~14時間後の倦怠感を含む」は、いずれも、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。
2-2.本件補正の目的(特許法第17条の2第5項)について
本件補正は、
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項である「前記疲労感は、運動負荷後であって就寝前の倦怠感を含む」を、「前記疲労感は、運動負荷10~14時間後であって就寝前の倦怠感を含む」とすることにより、本件補正前の「運動負荷後であって就寝前の倦怠感」を時間的に限定するものであり、
本件補正前の特許請求の範囲の請求項2に係る発明の発明特定事項である「前記疲労感は、運動負荷10時間以上後の倦怠感を含む」を、「前記疲労感は、運動負荷10~14時間後の倦怠感を含む」とすることにより、本件補正前の「運動負荷10時間以上後の倦怠感」を時間的に限定するものであり、
本件補正前の請求項8に係る発明の発明特定事項である「前記疲労感は、運動負荷後であって就寝前の倦怠感、または、運動負荷10時間以上後の倦怠感を含む」を、「前記疲労感は、運動負荷10~14時間後の倦怠感を含む」とすることにより、本件補正前の「運動負荷後であって就寝前の倦怠感、または、運動負荷10時間以上後の倦怠感」を時間的に限定するものであり、
本件補正前の請求項11に係る発明の発明特定事項である「前記疲労感は、運動負荷後であって就寝前の倦怠感、または、運動負荷10時間以上後の倦怠感を含む」を、「前記疲労感は、運動負荷10~14時間後の倦怠感を含む」とすることにより、本件補正前の「運動負荷後であって就寝前の倦怠感、または、運動負荷10時間以上後の倦怠感」を時間的に限定するものであって、
特許請求の範囲の請求項1、請求項2、請求項8及び請求項11、並びにそれらの請求項を直接又は間接に引用する請求項3~7及び請求項9~10に記載された発明に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は、本件補正前と本件補正後では同一である。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正である。
2-3.独立特許要件(特許法第17条の2第6項)について
上記2-1のとおり、本件補正は特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であるので、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1~11に係る発明のうち、まず、同請求項1に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうかについて、検討する。
(1)本願補正発明
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1~11に係る発明は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
疲労感軽減剤であって、水素を有効成分とし、前記疲労感は、運動負荷10~14時間後であって就寝前の倦怠感を含む、疲労感軽減剤。」
(2)引用文献1に記載された事項及び引用文献1に記載された発明
ア 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、国際公開第2018/021435号(以下、「引用文献1」という。)には、次の記載がある。なお、下線は当審で付したものである。
摘記(1)
「請求の範囲
[請求項1] 水素を有効成分として含む運動持久力を向上させ、又は運動後の疲労感を軽減させる組成物。
・・・(略)・・・」
摘記(2)
「[0056] ここでは、水素水を飲んだ経験のないボランティア60人にあらかじめ500mLの水を飲ませ、その10分後に体力測定をした。1週間後に30人には500mLの水素水(水素濃度1.0 ppm)を飲んでもらい、10分後に1週間前と同じ体力測定をした(水素水群)。同時に30人には、容器が水素水と同一のプラセボ水(水道水)500mLを飲んでもらい、前回と同じ体力測定を行った(プラセボ群)。1回目と2回目の体力測定を比較することによって、水素水飲用の体力への影響を調べた。
[0057]被験者
被験者は、実験の趣旨を十分説明して同意を得たボランティアから年齢、男女比を考慮して、協力を得た。
[0058] 被験者の年齢は、20歳代12名、30歳代12名、40歳代12名、50歳代12名、60歳代12名で、男女比は30:30である。
[0059] 水素水群とプラセボ群は、年齢、男女比が同じになるようにアトランダムに分類した。
[0060]水の飲用
ボランティアに水道水を500mL一気に飲んでもらい、10分後に体力測定を開始した。その一週間後に水素水群の人には、水素水(1.0 ppm)を500mL飲んでもらい、10分後に体力測定を行った。プラセボ群の人には、水素水の容器につめたプラセボ水(水道水)500mLを飲ませ、10分後に体力測定をおこなった。
[0061]最大酸素摂取量
最大酸素摂取量(さいだいさんそせっしゅりょう、英: VO2max, maximal oxygen consumption)とは、漸増運動で測定された酸素消費の最大量のことで、通常は、モーター付のトレッドミルで計測される。最大酸素摂取量は有酸素運動能力を反映し、長時間の最大限下の運動持久力を決める重要な要素である。
[0062] 筋肉の運動が続く間、酸素を身体にどんどん取り込んで運動のエネルギーを作り出していく。酸素摂取量は時間の経過とともに右肩上がりに増加していくわけであるが、この運動を持続していくと、運動の強度が上がっても酸素摂取量は増加せずに頭打ちとなる部分が出現する。これが酸素摂取量の最大値で、個人における生理的な限界を意味する。
[0063] 一般的に「mL/kg/min/」の単位で表され、体重1kg当り1分間にどれだけの酸素を摂取(利用)できるのか評価する。
[0064] Senoh Cordless Bike V70iを用いて、常法にしたがって最大酸素消費量を測定した。原理は、一定速度で(60回転/分)でバイクをこぎ、脈拍を測定する。ステップ的に3段階に負荷を増加し、その時の脈拍数の増加によって、最大負荷時の脈拍を推定し、最大酸素消費量(VO2max)(mL/kg/min)とした。運動時間は11分である。
[0065]自覚運動強度
さらに、運動後に自覚運動強度を申告してもらった。ボルグが作成した運動強度の表示法のひとつ、自覚的に感じる運動の強さを、非常に楽であるから非常にきついまで15段階の表現として分け、これに6~20の整数を対応させている。きついと感じる方が数値は高くなる。図1にボルグの自覚的運動強度(RPE)を示す(1976 小野寺・宮下より)。
[0066]運動後の疲労感軽減
一般社団法人日本生活習慣病予防協会によると、疲労の度合いを数値化する指針として、エルゴメーター(自転車こぎ)運動による身体能力テストがあげられている(http://www.seikatsusyukanbyo.com/calendar/2008/000407.php)。
「非侵襲的な運動強度の評価方法の一つにBorgが提唱したRPE(rating perceived exertion)スケールがある。RPE は主観的な疲労感などを利用した運動強度指標である」(文献:エルゴメーター運動による血中乳酸と唾液中アミラーゼの変化 阿部征次 日本経大論集40巻第1号119-127)であり、RorgのRPEは運動強度指標であるが、主観的な疲労感を利用したものであり、疲労感の指標でもある。
[0067] 抗疲労臨床評価ガイドライン(日本疲労学会 平成23年7月22日)では、疲労のVAS (Visual Analogue Scale)を用いることが推奨されている。この方法は、検査用紙に記されたいくつかの質問で、直線の左端の「疲れを全く感じていない最良の感覚」から右端の「何もできないほど疲れきった最悪の感覚」のあいだに自分で×を記入していき、判定する(http://hirougakkai.com/hyouka.pdf 抗疲労臨床評価ガイドライン)。
[0068] ランダムに被験者の半数(30人、水素水群15人、プラセボ群15人)に対して、VAS検査を用いて疲労感を評価し、疲労感軽減効果を判定した。
[0069]結果
最大酸素摂取量の変化は、1週間後の結果から1週間前の結果を差し引き集計した。水素水群では、体力の増加が見られた者は24名で6名はやや低下した。変化の平均±標準偏差値は、3.08±5.75mL/kg/minであった。一方、プラセボ群では、増加が見られた者は12名で、18名はやや低下した。変化の平均±標準偏差値は、-0.14±5.65であり、やや低下していた。この両者をt-検定で統計処理を行うとP=0.0324で、有意な差が認められた(図2、左のグラフが水素水群)。
[0070] 自覚運動強度の変化においては、水素水群では、2度目は前に比べて、楽になったと感じた者21名、同じと感じた者5名、きつく感じた者4名であった。プラセボ群では、2度目は前に比べて、楽になったと感じた者3名、同じと感じた者16名、きつく感じた者11名であった。水素水群では、平均±標準偏差値では、-0.70±1.09(マイナスは楽に感じたことを意味し、グラフでは縦軸は+と-は逆に表示している)。プラセボ群では、変化の平均±標準偏差値は、+0.37±1.38であった。この2群をt-検定にて統計処理をおこなうと、P=0.0015であり、有意であった(図3:左のグラフが水素水群)。
[0071] 疲労のVAS (Visual Analogue Scale)を用いた判定では、水素水群では、-12.47±8.50であり、プラセボ群では-6.67±4,70であった(図4:左のグラフが水素水群)。この結果により、水素水を飲んだ群では、主観的な運動後の疲労感が軽減しており、水素水を飲んでから運動すると運動後の疲労感が少ないことが示唆された。
[0072]結論
水素水を飲む事によって、最大酸素摂取量が増大することが明らかになり、水素水による持久力を含む体力の増強が示唆された。
[0073] また、疲労のVAS (Visual Analogue Scale)を用いた判定により水素水を飲むことによって、運動後疲労感が軽減することが示された。」
摘記(3)
「[図4]
[図:0001416986000001.jpg]
」
イ 引用文献1に記載された発明
上記摘記(1)から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明>
「水素を有効成分として含む、運動後の疲労感を軽減させる組成物。」
(3)本願補正発明と引用発明との対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「水素を有効成分として含む」との事項は、本願補正発明における「水素を有効成分とし」との事項と、実質的に同義である。
引用発明における「疲労感を軽減させる組成物」との事項は、本願補正発明における「疲労感軽減剤であって」及び「疲労感軽減剤。」との事項と、実質的に同義である。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「水素を有効成分とする、疲労感軽減剤。」である点。
そして、両者は次の点で、文言上、一応相違する。
<相違点>
疲労感が、本願補正発明では「疲労感は、運動負荷10~14時間後であって就寝前の疲労感を含む」とされる一方、引用発明では「運動後の疲労感」である点。
(4)判断
ア 相違点について
上記相違点について検討する。
本願補正発明及び引用発明のいずれも「水素を有効成分とする、疲労感軽減剤。」の発明であって、「水素を有効成分とする」との事項以外に、その組成を特定する事項はない。
また、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の記載を検討しても、本願補正発明の「疲労感は、運動負荷10~14時間後であって就寝前の疲労感を含む」との事項が、物の発明である本願補正発明において、「水素を有効成分とし」との事項に加えることにより、物の組成をさらに限定するものであるとは認められない。
したがって、本願補正発明は、引用発明と組成に差異がなく、引用発明と物として相違しないので、上記相違点は実質的な相違点ではなく、本願補正発明は、引用発明であるが、そうではないとしても、本願補正発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 請求人の主張について
(ア)請求人の主張
請求人は、審判請求書において、概略、次のとおり主張する。
・請求人の主張(1)
「従来は、本願明細書[0016]に記載したように、運動負荷後の倦怠感は、通常、運動負荷からの時間経過とともに回復するものと考えられていました。しかし、本発明者らは、一旦回復したと思われる倦怠感が就寝前にぶり返すという事象を見出しました。
これらのことは本願の図1~3に示されています。すなわち、「身体のだるさ」および「精神的な疲れ」は、運動直後から運動60分後にかけて低下し回復する傾向にありますが、プラセボ飲料群においては就寝前(運動負荷10~14時間後)にぶり返す事象が確認されています。また、「活力」は、プラセボ飲料群において就寝前(運動負荷10~14時間後)に低下する事象が確認されています。
かかる“ぶり返し”に対し、これも図1~3に示すように、本願発明によれば、水素を含有する飲料(実施例飲料)を摂取することで、就寝前(運動負荷10~14時間後)における疲労感のぶり返しや活力の低下を抑制することができることが確認されています。
なお、本願明細書に記載した実施例の結果によれば、実施例飲料群とプラセボ飲料群とで疲労感の評価項目を対比すると、運動直後あるいは運動60分後においては有意な差が認められないのに対し、就寝前(運動負荷10~14時間後)ではプラセボ飲料群でぶり返しが確認できること、かかるぶり返しが実施例飲料群において抑制されていることが示されています。
すなわち、運動中あるいは運動直後に評価される疲労感が改善したとしても(例えば、疲労感は運動直後から運動60分後にかけて低下し回復します)、運動負荷10~14時間後(あるいは、さらに就寝前)における疲労感のぶり返しにどのように影響するのか、全く予測できないことが示されています。
このように、運動直後の疲労感回復の有無では予測し得ない疲労感のぶり返し(具体的には、「運動負荷10~14時間後の倦怠感」(本願請求項2,本願請求項1はさらに「就寝前」)に対し、本願発明は効果を発揮するものです。」(審判請求書[請求の理由]3.(2))
・請求人の主張(2)
「引用文献1には、水素を有効成分として含む組成物についての発明が開示されており、当該組成物が運動持久力を向上させること、運動後の疲労感を軽減させること等が記載されています。引用文献1において運動後の疲労感はVAS検査により評価されています(引用文献1[0066]~[0068])。
ここで、引用文献1において、運動持久力は最大酸素摂取量で評価しており(引用文献1[0061],[0072])、最大酸素摂取量は運動中または運動直後の脈拍変化から算出されるものと認められます(同[0064])。
また、引用文献1には、運動後からどの程度時間を空けてVAS検査を行ったのかについては、全く記載されていませんが、引用文献1においてVAS検査は運動後に1回行っただけであると認められます。
そうすると、引用文献1を参照したとしても、疲労感が運動後しばらくは回復傾向にあるものの時間が経過するとぶり返す、という事象は、見出すことすらできません。すなわち、「運動負荷10~14時間後の倦怠感」が生じることは、引用文献1を参照したとしても、全く予測できません。
そのため、引用文献1を参照した当業者であっても、その事象すら見出すことができない「運動負荷10~14時間後の倦怠感」について、水素が効果を奏することは、全く予測することができません。
したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明と相違するものであり、また引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものでもありません。」(審判請求書[請求の理由]4.(1))
・請求人の主張(3)
「…、就寝前の倦怠感について、補正後の本願請求項1においては、「運動負荷10~14時間後であって就寝前の倦怠感」と特定されました。そのため、就寝時期が明記されたものとなり、運動直後に就寝する場合の運動直後(かつ就寝前)の倦怠感は、本願発明の対象とする倦怠感に包含されないものとなりました。
また、運動後の時間経過について、補正後の本願発明においては、「運動負荷10~14時間後であって就寝前の倦怠感」(本願請求項1)および「運動負荷10~14時間後の倦怠感」(本願請求項2)というように、運動後の所定時間の間における倦怠感に特定されました。そのため、運動から長時間経過し通常の疲労とも区別がつかなくなった倦怠感は、本願発明の対象とする倦怠感に包含されないものとなりました。
そのため、補正後の本願発明は、引用文献1に記載された発明と明示的に相違します。」(審判請求書[請求の理由]4.(2))
・請求人の主張(4)
「……。通常の倦怠感に対して効果を奏することに当業者が容易に想到し得るとしても、「運動負荷10~14時間後の倦怠感」(すなわち、疲労感(倦怠感)のぶり返し)に効果があるかどうかは、引用文献1からは全く分かりません。
本願発明においては、疲労感が、運動後しばらくは回復傾向にあるものの時間が経過するとぶり返すこと(すなわち「運動負荷10~14時間後の倦怠感」が生じること)を見出し、さらに、かかる疲労感(倦怠感)のぶり返しに対し、水素が効果を奏することを見出したものです。かかる疲労感(倦怠感)のぶり返しは、運動負荷を原因とすること以外、どのような生理現象に基づいて生じるものか、具体的に分かっているわけではありません。
また、上記(1)で述べたように、かかる疲労感(倦怠感)のぶり返しは、運動中あるいは運動直後に評価される疲労感の改善(例えば、運動直後から運動60分後にかけての疲労感の低下・回復)とは異なった傾向にあるため、運動中あるいは運動直後に評価される疲労感の改善が、疲労感(倦怠感)のぶり返しにどのような影響を与えるのか、全く予測することができません。
この点に関し、引用文献1には、運動後1回だけ実施したVAS検査と、運動中または運動直後の運動持久力(運動中または運動直後の脈拍変化から算出した最大酸素摂取量)を評価したことが記載されているだけです。引用文献1には、そもそも疲労感(倦怠感)のぶり返し現象すら全く開示も示唆もされておらず、また運動中または運動直後の疲労感が疲労感(倦怠感)のぶり返しにどのような影響を与えるのか全く予測できないことに鑑みると、引用文献1の記載内容を参照したところで、疲労感(倦怠感)のぶり返しに効果があるとの本願発明の効果を予測することは不可能です。
・・・(略)・・・
本願発明の対象とする疲労感のぶり返し事象(運動負荷10~14時間後の倦怠感)は、運動負荷に起因した疲労を根拠とした現象ではあるものの、運動中あるいは運動直後に評価される疲労感の改善と異なった傾向にあることは繰り返し述べているとおりです。そのため、運動後の疲労感を軽減させる組成物に関する引用文献1や、運動負荷をかけていない疲労に関する引用文献2~3を参照したとしても、これらの引用文献に開示も示唆もされていない疲労感(倦怠感)のぶり返しをも軽減させると解することは不可能です。また、これら引用文献1~3を参照したとしても、疲労感(倦怠感)のぶり返しに水素が効果を発揮することを予測することも不可能です。」(審判請求書[請求の理由]4.(3))
(イ)請求人の主張に対する判断
・新規性についての請求人の主張(上記請求人の主張(1)~(3))について
請求人は、本願補正発明の発明者により運動負荷後の倦怠感は就寝前にぶり返すという事象が確認される一方、本願補正発明により就寝前における疲労感のぶり返しや活力の低下を抑制することができることが確認されるのに対し、引用文献1には、水素を有効成分として含む組成物の発明が開示され、当該組成物が運動後の疲労感を軽減させること等が記載されているものの、運動後の疲労感を評価するVAS検査は運動後に1回行ったのみにすぎないと認められること等を挙げて、本願補正発明は引用発明ではない旨を主張している。
しかし、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の記載を検討しても、本願補正発明の「疲労感は、運動負荷10~14時間後であって就寝前の疲労感を含む」との事項が、「水素を有効成分とする」との事項に加えて、組成をさらに限定するものであるとは認められないことは、上記アに示したとおりであって、たとえ引用文献1に「運動負荷10~14時間後であって就寝前の倦怠感」についての記載がないとしても、本願補正発明は、引用発明と組成に差異がなく、引用発明と物として相違しないとする判断を覆すことはできない。なお、この点について請求人は「疲労感は、運動負荷10~14時間後であって就寝前の疲労感を含む」と補正することにより、対象となる「疲労感」を限定することで用途限定を図ったとも考えられるところであるが、本願補正発明は、当該「疲労感軽減剤」を、いつ、どのように用いるのか、いわゆる用法を特定するものでもないから、物としてのみならず用法の点を含めて検討したとしても、本願補正発明と引用発明との間において相違点があるとはいえない。
また、「プラセボ飲料」を投与された者の疲労感の経時変化において、「運動負荷10~14時間後の倦怠感」、すなわち、倦怠感のぶり返しが生じていることを示す本願明細書の段落[0038]~[0049]及び図1~図4に記載された試験例の結果によっても、引用発明が「運動負荷10~14時間後であって就寝前の倦怠感」を含む疲労感を軽減することのできないものであるということはできず、本願補正発明は、引用発明と物として相違しないとする判断を覆すことはできない。
したがって、請求人の新規性についての主張は受け入れられず、本願補正発明は引用発明であるとの上記アに示した判断を覆すことはできない。
・進歩性についての請求人の主張(上記請求人の主張(1)~(2)、(4))について
請求人は、「運動負荷10~14時間後の倦怠感」、すなわち、倦怠感のぶり返しが生じることは、引用文献1の記載から当業者が予測することはできず、引用文献1で運動後に実施されたVAS検査及び運動中又は運動直後の運動持久力の評価についての記載からは、その疲労感が倦怠感のぶり返しにどのような影響を与えるかを予測できないこと等を挙げて、本願補正発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない旨を主張している。
しかしながら、運動負荷に起因する疲労感や倦怠感を、運動後の経過時間にかかわらず、軽減させることは、周知の課題といえ、また、「プラセボ飲料」を投与された者の疲労感の経時変化において、「運動負荷10~14時間後の倦怠感」、すなわち、倦怠感のぶり返しが生じていることを示す本願明細書の段落[0038]~[0049]及び図1~図4に記載された試験例の結果は、運動負荷に起因する疲労感や倦怠感が、個人差はあるものの、時間の経過とともに軽減していく傾向を有することは、本願出願時に経験則として一般に広く知られていた事項と矛盾するものではないから、引用発明の「運動後の疲労感」を、「運動負荷10~14時間後であって就寝前の倦怠感を含む」疲労感とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとする判断を覆すことはできない。
また、本願明細書の段落[0038]~[0049]及び図1~図4に記載された試験例の結果を含む本願明細書及び図面の記載を検討しても、上記のとおり本願補正発明と引用発明とは、組成に差異がないこと、さらには、用法を加味したとしても差異がないことから、効果にも差異が生じるとは認められない。
したがって、請求人の進歩性についての主張は受け入れられず、本願補正発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとの上記アに示した判断を覆すことはできない。
ウ 小括
上記ア及びイに示したとおり、本願補正発明は、引用発明であり、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(5)まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
また、本願補正発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
2-4.補正の適否についてのむすび
以上のとおり、本件補正後の特許請求の範囲の請求項2~11に係る発明について検討するまでもなく、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本件補正は、前記のとおり、却下されたので、請求項1~11に係る発明は、令和 4年7月12日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものであると認められる。
「【請求項1】
疲労感軽減剤であって、水素を有効成分とし、前記疲労感は、運動負荷後であって就寝前の倦怠感を含む、疲労感軽減剤。」
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、令和 4年 3月 7日付け拒絶理由通知書に記載した理由1,2であり、その概要は、次のとおりの理由を含むものである。
1.(新規性)この出願の請求項1-11に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.(進歩性)この出願の請求項1-11に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:国際公開第2018/021435号
3 引用文献1に記載された事項及び引用文献1に記載された発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1に記載された事項は、前記第2 2 2-3.(2)アに示したとおりであり、引用文献1に記載された発明すなわち引用発明は、前記前記第2 2 2-3.(2)イに示したとおりである。
4 対比及び判断
前記第2 2 2-1.で検討したように、本願補正発明は、本願発明の発明特定事項に限定を加えたものである。
そして、本願発明の発明特定事項に限定を加えた本願補正発明は、前記第2 2 2-3.(4)ウに示したとおり、引用発明であり、また、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その限定のない本願発明も、引用発明であり、また、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
また、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-019312