2021-012621
リソソーム蓄積症治療のための組成物及び方法
- 審判番号
- 2021-012621
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-232644外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年09月21日
- 審決日
- 2023年03月14日
- 公報発行日
- 2023年08月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ラッシュ・ユニバーシティ・メディカル・センター
- 【請求人代理人】園田・小林弁理士法人
- 分類
- P18 .113-Z (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第44条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 11項目
第1 手続の経緯
本願は、2015年11月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年11月19日 米国(US))を国際出願日とする特願2017-526853の一部を、特許法第44条第1項の規定により令和1年12月24日に新たな特許出願としたものであって、令和3年6月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年9月21日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出されたものである。
第2 本願発明
本願の請求項1-8に係る発明は、令和3年9月21日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-8に記載された事項により特定されるものであり、そのうち、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」ともいう。)は以下のとおりのものである。
「リソソーム蓄積症の治療のための組成物であって、治療的有効量のゲムフィブロジル及びオールトランス型レチノイン酸(ATRA)を含有する、上記組成物。」
第3 原査定の理由の概要
令和3年6月29日付けの拒絶査定の理由は、拒絶査定時の本願の請求項1~9に係る発明は、本願出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、との理由を含むものである。
<引用文献等一覧>
3.国際公開第2014/089449号
第4 当審の判断
1 引用文献の記載事項
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原査定において引用文献3として引用した、本願の優先日(2014年11月19日)前である2014年6月12日に公知となった「国際公開第2014/089449号」には、以下の事項が記載されている。なお、英文で記載されているため、当審合議体による訳文で記載し、また、下線は実施例8の標題に元から付されているもの以外については当審合議体が付した。
引ア 特許請求の範囲
「1. 神経変性疾患の治療方法であって、そのような治療を必要とする対象に、治療的有効量のTPP1のアップレギュレーションを媒介する薬剤を含む組成物を投与することを含む、方法。2. 神経変性疾患が、神経セロイドリポフスチン症、アルツハイマー病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病(パーキンソン病+多系統萎縮症(MSA)、進行性核上性麻痺(PSP)、皮質基底変性(CBD)及びレビー小体を伴う認知症(DLB))などの疾患を含む)からなる群から選択される、請求項1記載の方法。・・・(中略)・・・5. 神経変性疾患が、神経セロイドリポフスチン症である、請求項2に記載の方法。6. 薬剤が脂質低下剤である、請求項1-5のいずれかに記載の方法。7. 脂質低下薬がフィブラートである、請求項6に記載の方法。8. フィブラートがゲムフィブロジルまたはフェノフィブラートである、請求項7に記載の方法。・・・(中略)・・・11. 組成物が、治療的有効量のオールトランス型レチノイン酸をさらに含む、請求項1-10のいずれかに記載の方法。・・・(以下省略)」
引イ [0004]、「0005」
「[0004] 神経セロイドリポフスチン症(NCL)は、主に典型的な常染色体劣性遺伝のリソソーム蓄積障害からなる神経変性疾患の一群である。神経セロイドリポフスチン症は、神経細胞や他の細胞型に自家蛍光を発する貯蔵物質の蓄積などの組織所見を伴い、進行性の精神低下、認知障害、視覚障害、発作、運動機能の悪化などの臨床症状で特徴付けられる(1)。NCLは、発症年齢、蓄積物質の超微細構造の違い、各病型に特異的な遺伝子変化などに基づいて、いくつかのグループ(Typel-10)に細分化されている(2,3)。[0005] 後期乳児神経細胞セロイドリポフスチン症(Jansky-Bielschowsky病、LINCL、2型)は、典型的には2~4歳で症状が現れ、急速に進行し、8~15歳で神経細胞とその他の細胞の数が激減する結果、死に至る(2,4)。LINCLは、第1染色体11p15.5にマップされた13エキソン、12イントロン、総長6.65kbのCln2遺伝子の変異に関連している。Cln2遺伝子は、リソソームトリペプチダーゼI(TPP-Iまたはペプチン不感受性プロテアーゼ)をコードしており、リソソームの酸性環境下でタンパク質のアミノ末端からトリペプチドを除去する46KDタンパク質として機能している(5,6)。Cln2遺伝子に変異があると、TPP1タンパク質の欠損や機能低下が起こり、セロイドリポフスチンとして知られる自己蛍光性色素がリソソーム内に蓄積される(5)。現在、この疾患に対する確立された治療法や薬剤はなく、すべてのアプローチは単に支持的または対症的であり、新しい治療アプローチの必要性を示している(7)。しかし、Cln2遺伝子変異には様々なバリエーションがあり、LINCL患者ではTPP-I活性が残存しているとの報告があることから、LINCL患者では正常なCln2遺伝子が数コピー残存しているものと思われる(8,9)。」
引ウ 実施例8([0077])
「実施例8フィブラート系薬剤によるTPP1のアップレギュレーションは、PPARαとRXRαの両方が関与していること[0077] 次に、このアップレギュレーションのメカニズムについて検討した。Cln2遺伝子のプロモーターにはPPAR結合部位がなく、代わりにRXR結合部位が存在することが確認された。RXRαは脳やアストロサイトに多く存在すること(32,33)、PPARαとRXRαはヘテロ二量体を形成することから、PPARα単独ではなくPPARαとRXRαが協調的に作用することがTPP1発現上昇のメカニズムであると考えられた。この仮説を検証するために、様々な実験を行った。まず、RXRの活性化因子として知られているオールトランス型レチノイン酸(RA)でRXRを活性化すると、TPP1のmRNAやタンパク質量に変化が生じるかどうかを確認した。興味深いことに、定量的リアルタイムPCRのデータから、RA単独でもCln2のmRNAレベルが増強されることがわかった(図6A)。0.5μΜの濃度のRAは、Cln2 mRNAレベルに約3.5倍の増加をもたらし、これは10μΜのゲムフィブロジル処理の効果(~4倍)に匹敵する(図6A)。さらに、細胞を低用量のゲムフィブロジル(10μΜ)とRA(異なる濃度)で処理した場合、Cln2レベルの大幅な増加が見られ、組み合わせの最適濃度は10μΜ ゲムフィブロジルと0.5μΜ RA(約12倍増加)であった(図6A)。これらのmRNAデータは、同様の処理を用いてマウスのアストロサイトで行ったウェスタンブロットによって検証された(図6B)。デンシトメトリー分析では、mRNAデータから観察されたのと同様のTPP1のタンパク質レベルの増加パターンが示された(図6C)。リアルタイムPCRとイムノブロット実験の両方で、ゲムフィブロジル(10μΜ)またはRA(0.5μΜ)単独処理と比較して、組み合わせ処理(ゲムフィブロジル 10μΜおよびRA 0.5μΜ)によるTPP1発現の増加は、統計的に有意であることが判明した。この結果は、Cln2遺伝子のアップレギュレーションにRXRが関与している可能性を明確に示している。次に、RXRαの関与を確認するために、RXRαのsiRNAによってアストロサイトのRXRαをノックダウンした後、ゲムフィブロジルおよびRAで処理した。このsiRNAはRXRαを特異的にノックダウンし、RXRβもRXRγもノックダウンしないことがわかった(図6D)。ゲムフィブロジルおよびRAの効果は、定量的リアルタイムPCRデータから観察されるように、RXRαの非存在下で消失することが見出された(図6E)。スクランブルsiRNAでトランスフェクトされていない細胞とトランスフェクトされた細胞の両方でCln2レベルがほぼ8~10倍増加したのに対し、RXRαをノックダウンした細胞は、ゲムフィブロジルまたはRAの単独投与および併用投与に対してほとんど反応しなかった(図6E)。同様の結果は、タンパク質解析でも得られた。TPP1ウェスタンブロットの非測定分析では、RXRα siRNAを導入した細胞でTPP1レベルの増強はほとんど見られなかった(図6F & 6G)。最後に、PPARαとRXRαの両方がアップレギュレーションプロセスに関与しているという我々の仮説を検証するために、RXRα単独の活性化(PPARα非存在下)がCln2の発現を誘導できるかどうかを確認した。野生型(WT)、PPARα-/-およびPPARβ-/-マウスのアストロサイトをRA(0.5μΜ)およびゲムフィブロジル(10μΜ)とRA(0.5μΜ)の組み合わせで処理した後、TPP1について免疫ブロット分析した。その結果、PPARα-/-細胞ではRA単独でも併用でもTPP1を誘導できなかったが、WTおよびPPARβ-/-細胞ではTPP1を誘導することが確認された(約5~6倍のTPP1誘導)(図6H & 6I)。これらのデータは、PPARαまたは RXRαのどちらか一方だけでは、TPP1のアップレギュレーションに十分ではないことを示唆している。」
引エ 図6A~C
「[図:0001399837000001.jpg]」
2 引用発明
上記引アのとおり、引用文献3の特許請求の範囲には、請求項1を引用する請求項2及び該請求項2を引用する請求項5に、神経変性疾患である神経セロイドリポフスチン症の治療に用いる、治療的有効量のTPP1のアップレギュレーションを媒介する薬剤を含む組成物が記載されており、請求項2又は5を間接的に引用する請求項8には、前記薬剤としてゲムフィブロジルが記載されており、そして請求項8を引用する請求項11には、前記組成物として、治療的有効量のオールトランス型レチノイン酸をさらに含むものが記載されている。
そして、引用文献3には、上記引イ~エのとおり、Cln2遺伝子の変異によるTPP1タンパク質の欠損や機能低下によって、自己蛍光性色素であるセロイドリポフスチンのリソソーム内蓄積が生じるところ、前記組成物が神経セロイドリポフスチン症の治療に有用であることを裏付けるマウスの細胞(アストロサイト)を用いた試験において、ゲムフィブロジルとオールトランス型レチノイン酸(RA)との組み合わせ処理は、それぞれの単独処理と比較して、Cln2レベルの大幅な増加や、統計的に有意なTPP1発現の増加をもたらすことが具体的に示されている。
そうすると、引用文献3には以下の発明が記載されているといえる。
「神経セロイドリポフスチン症の治療のための組成物であって、治療的有効量のゲムフィブロジル及びオールトランス型レチノイン酸を含有する、上記組成物。」(以下「引用発明」という。)
3 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の組成物に含まれる「治療的有効量のゲムフィブロジル及びオールトランス型レチノイン酸」は、本願発明の組成物に含まれる「治療的有効量のゲムフィブロジル及びオールトランス型レチノイン酸(ATRA)」に相当する。
また、例えば、「南山堂 医学大辞典 19版、株式会社南山堂、2006年3月10日」の1227頁左欄の「神経セロイドリポフスチン症」の項には、神経セロイドリポフスチン症が「リソソーム蓄積症」であることが記載されており、そして、本願明細書の【0017】にも、「本発明の一態様は、リソソーム蓄積症(LSD)の治療方法に関連する。・・・(中略)・・・LSDはまた、オートファジー-リソソーム経路に関与する神経変性疾患、例えば神経セロイドリポフスチン症、アルツハイマー病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多系統萎縮症(MSA)等のパーキンソン様疾患を含むパーキンソン病、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)又はレビー小体型認知症(DLB)であり得る。」と記載されているとおり、引用発明の組成物が治療対象とする「神経セロイドリポフスチン症」が、本願発明の組成物が治療対象とする「リソソーム蓄積症」の一種であることは、本願優先日前における当業者にとって周知の技術的事項である。
そうすると、本願発明と引用発明との間に相違点はなく、両者は一致する。
4 小括
本願発明は引用文献3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない
第5 審判請求人の主張について
審判請求書において請求人は、概略、以下の点を主張する。
(1)「本願請求項1に係る発明は、「リソソーム蓄積症の治療のための組成物であって、治療的有効量のゲムフィブロジル及びオールトランス型レチノイン酸(ATRA)を含有する、上記組成物」に係るものであり、本願請求項に係る発明は、引用文献3に記載された発明ではなく、引用文献3に記載の発明に基づいて容易に想到し得るものではないと思料する。」
(2)「さらに、本願は、本願請求項に係る発明が優れた効果を有することを実証する。本願実施例は、ゲムフィブロジル及びATRAを組み合わせてマウス初代脳細胞を処理した場合に、低い用量(それぞれ10μM及び0.2μM)でTfebの発現を達成することができたことを実証しており、さらに、ゲムフィブロジルおよびATRAによるマウス初代脳細胞の組み合わせ治療が、PARα/RXRα経路を介してTFEB発現を誘導し、最終的にリソソーム生合成を増加させることができることを実証する。このような効果は引用文献の記載から当然予測されるものではないと思料する。」
まず、上記(1)の点について検討すると、本願の請求項1に係る発明が引用文献3に記載された発明であることは、第4で述べたとおりである。なお、請求人からは、本願の請求項1に係る発明が引用文献3に記載された発明ではないことについて、発明特定事項の対比等による具体的な説明は何らない。
次に、上記(2)の点について検討すると、第4で述べたとおり、本願の請求項1に係る発明は引用文献3に記載された発明であって新規性を有しないものであるから、進歩性についての判断のように効果の相違によってその判断が左右されるものではない。また、組成物が、従来知られていたものとは異なる作用機序を有していることを新たに発見したとしても、そのことによって、治療対象を同一とする組成物が新規性を有しないことについての判断が左右されるものでもない。
よって、請求人の上記主張はいずれも採用できない。
第6 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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