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特許拒絶査定不服審判

2021-010328

ワイヤハーネス

審判番号
2021-010328
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2018-518183外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2021年08月04日
審決日
2022年06月17日
公報発行日
2022年09月30日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (H01B)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2018-518183「ワイヤハーネス」拒絶査定不服審判事件〔平成29年11月23日国際公開、WO2017/199700〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 10項目
理 由

第1 手続の経緯

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本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,2017年(平成29年)4月24日(優先権主張 2016年(平成28年)5月19日 日本)を国際出願日とするものであって,その手続の経緯は以下のとおりである。

平成30年 5月15日 :国内書面の提出
令和 2年 7月27日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 9月30日 :意見書,手続補正書の提出
令和 3年 2月 4日付け:拒絶理由(最後)通知書
令和 3年 3月30日 :意見書,手続補正書の提出
令和 3年 4月20日付け:令和 3年 3月30日の手続補正についての補正却下の決定,拒絶査定(原査定)
令和 3年 8月 4日 :審判請求書,手続補正書の提出
令和 3年12月24日付け:拒絶理由通知書(以下「当審拒絶理由通知」という。)
令和 4年 3月 1日 :意見書,手続補正書の提出

第2 本願発明について

本願の請求項1-5(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明5」という。)に係る発明は,令和4年3月1日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載された事項により特定される発明であるところ,本願発明1は,以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
導体の表面に絶縁層が被覆されている複数の絶縁電線が封止されているワイヤハーネスであって,
前記絶縁電線は,前記絶縁層が被覆されておらず前記導体が露出している露出部を端部に有し,前記露出部は,互いに接合しており,
少なくとも前記露出部は,射出成形物により封止されており,前記露出部の末端は前記射出成形物により直接,封止されており,
前記射出成形物の軸方向の一端部であって前記露出部の反対側には,前記複数の絶縁電線が存在しており,
前記一端部から前記射出成形物の軸方向長さの1/3離れた位置(以下,1/3位置という)よりも他端部側に前記露出部が存在し,
前記一端部における前記軸方向に垂直な第1の断面での前記複数の絶縁電線の最外接線は,
前記1/3位置における前記軸方向に垂直な第2の断面での前記複数の絶縁電線の最外接線よりも長く,
前記絶縁電線は,前記射出成形物内において,湾曲部を有していることを特徴とするワイヤハーネス。」

第3 当審における拒絶の理由

令和3年12月24日付けの,当審が通知した拒絶理由は,概略,次のとおりのものである。

理由1(進歩性) この出願の請求項1-5に係る発明は,下記の引用文献1-2に記載された発明に基づいて,本願の優先権主張の日(以下,「優先日」という。」前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1 特開昭64-6307号公報

引用文献2 国際公開第2016/52453号

第4 引用文献,引用発明等

1 引用文献1に記載されている事項及び引用発明

(1)当審拒絶理由に引用された上記引用文献1(特開昭64-6307号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。以下同様である。)

ア 「 すなわち,この発明のワイヤ・ハーネスは,導体部を露出させた複数の絶縁被覆電線の該導体部相互を電気的に接続すると共に,電気的に接続した導体部と,この導体部につながる各絶縁被覆電線の一部とを囲繞して,加圧注型成形法によって熱可塑性共重合ポリエステルを被覆して絶縁接続部としたことを特徴とするものである。
この発明のワイヤ・ハーネスにおける絶縁電線の導体部は,接続せんとする複数の導体部相互の単純な撚り合わせ,溶接,ろう付け,クリップによるかしめなど周知の手段によって通電可能に接続するもので,接続する絶縁電線の本数や,導体の露出部は特に制限されるものではない。」(2頁左下欄4~16行)
イ 「 以下,第2図に示す例によって製造法を説明する。
まず,接続せんとする絶縁電線3,4,5のそれぞれの一端部の絶縁被覆を剥離して導体を露出せしめ,露出した各導体相互を適宜手段によって電気的に接続して接続部6を形成する。
ついで,この接続部6を下型10aのキャビティ11aの中央に配置し,絶縁電線3の絶縁被覆部の一部を条溝12aに,また絶縁電線4の絶縁被覆部の一部を条溝14aに,絶縁電線5の絶縁被覆部の一部を条溝13aそれぞれ係合せしめ,しかるのちに上型10bを下降させてキャビティ11b形成面を下型10aに当接させてこの金型10a,10bを閉鎖する。
しかるのち,樹脂注入用の条溝15a,15bによって形成された樹脂注入孔から,予め溶融状態とした熱可塑性共重合ポリエステルを,アプリケータ(図示せず)等を使用してキャビティ11a,11b内に加圧状態で注入し,各キャビティ11a,11bによってって形成される円筒状のキャビティ内に充満させる。
この充満の状態は,脱気用の条溝16a,16bによって形成されている脱気孔から注入した溶融状態の熱可塑性共重合ポリエステルの一部が流れ出ることによって容易に確認することができる。
金型10a,10b内のキャビティ11a,11bで形成される円筒状のキャビティに注入した熱可塑性共重合ポリエステルが冷却固化するのを待って,上型10bを上昇させて金型を開放し,セットした絶縁電線3,4および5を取り出せば,第1図に示したような絶縁電線3と絶縁電線4,5がほぼ円筒状に形成された絶縁接続部2の内部で電気的に確実に接続され,かつこの接続部6とその近傍の絶縁被覆部分が熱可塑性共重合ポリエステルによる前記絶縁接続部2によって一定厚みで強固かつ緊密に被覆されたワイヤ・ハーネス1を得ることができる。
なお,絶縁接続部2の外形は,使用する金型10a,10bの中央部に形成されるキャビティ11a,11bの形状によって決定されるので,このキャビティ11a,11bの大きさ,深さなどを変更することによって所望の形状,大きさ等を有する絶縁接続部を得ることができる。」(3頁左上欄19行~右下欄1行)
ウ 「〔発明の効果〕
この発明のワイヤ・ハーネスは,接続せんとする導体部を露出させた複数の絶縁被覆電線の該導体部相互を適宜手段によって電気的に接続すると共に,この電気的に接続した導体部と,該導体部につながる各絶縁被覆電線の一部とを,熱可塑性共重合ポリエステルの加圧注型成型によって絶縁接続部を形成したものであるので,導体相互と絶縁電線相互の結合を非常に強固なものとすることができ,多少の負荷が絶縁接続部に加わったとしても決して分離するおそれがなく,従来の方式によるワイヤ・ハーネスに比し,安全性および信頼性においてきわめて優れた優位性を有する。
とくに,このワイヤ・ハーネスの絶縁接続部を構成している熱可塑性共重合ポリエステルが,絶縁被覆電線の電気的に接続された導体部と,これにつながる各絶縁被覆電線の一部を,一括包囲して強力に接着して強固かつ緊密に一体的に被覆することによって絶縁接続部分に優れた耐熱性,耐水性,耐湿性を有するので,熱の加わる部位や水のかかり易い部位においても充分に使用することができ,それ故水濡れのおそれのある部位などを避けてワイヤ・ハーネスを構成する必要がなくなるので,ワイヤ・ハーネスの設計における自由度が大幅に向上し,コスト面においてもきわめて優位性がある。」(6頁左下欄7行~右下欄12行)
「
[図:0001388037000001.jpg]
」
「
[図:0001388037000002.jpg]
」

(2)上記記載について検討する。

ア 上記(1)ア,イ及び第1図,第2図から,引用文献1には,「導体部を露出させた複数の絶縁電線3,4,5の導体部相互を電気的に接続して接続部6を形成し,この接続部6とその近傍の絶縁被覆部分が,絶縁接続部2により一定厚みで強固かつ緊密に被覆されたワイヤ・ハーネス1」が記載されていると認められる。

ここで,引用文献1の図2を参照すると,「複数の絶縁電線3,4,5」は,それぞれの端部において導体部を露出させていることは明らかである。

イ 引用文献1の上記(1)ア,イ及び第2図を参照すると,絶縁接続部2は,加圧注型成形法によって形成されている。

ウ 引用文献1の第1図,第2図を参照すると,「絶縁接続部2」の軸方向の一端部において「複数の絶縁電線4,5」が存在しており,「絶縁接続部2」の軸方向の一端部は,「絶縁電線4,5」の導体部を露出させている端部の反対側であるといえる。

また,「複数の絶縁電線4,5」は,接続部6へ向けてその間隔が狭くなっていると認められるから,「絶縁接続部2」の軸方向の一端部における「絶縁電線4,5」の最外接線は,「絶縁接続部2」内の「絶縁電線4,5」の最外接線よりも長いことは明らかである。

(3)以上(1),(2)で示した事項を参酌すると,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 それぞれの端部において導体部を露出させた複数の絶縁電線3,4,5の導体部相互を電気的に接続し接続部6を形成し,
接続部6とその近傍の絶縁被覆部分が,絶縁接続部2により一定厚みで強固かつ緊密に被覆されたワイヤ・ハーネス1において,
絶縁接続部2は加圧注型成形法によって形成され,
絶縁接続部2の軸方向の一端部において複数の絶縁電線4,5が存在しており,絶縁接続部2の軸方向の一端部は,絶縁電線4,5の導体部を露出させている端部の反対側であり,
絶縁接続部2の軸方向の一端部における絶縁電線4,5の最外接線は,絶縁接続部内の絶縁電線4,5の最外接線よりも長い
ワイヤ・ハーネス1。」

2 引用文献2に記載されている事項及び引用発明

(1)当審拒絶理由に引用された上記引用文献2(国際公開第2016/52453号)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「[0006] 本発明者は上記目的を解決すべく鋭意研究を重ねた結果,例えば本発明の射出装置を用いることで,導電材同士を接合してなる電気的な接続部を,電気的絶縁性の成形体により適切に埋設することができ,従来に比べて信頼性の高い接続構造体にできることを見出し,本発明を完成するに至った。即ち本発明は以下の通りである。
[0007] 本発明における接続構造体は,複数の導電材と,前記導電材同士を電気的に接続した接続部と,前記接続部を埋設してなる電気的絶縁性の成形体と,を有することを特徴とする。」
「[0030] 図8は,図1とは別の実施の形態における接続構造体の部分斜視図である。図9は,第7の実施の形態における接続構造体の部分断面模式図である。図10は,第8の実施の形態における接続構造体の部分断面模式図である。図9,図10は図8に示す接続構造体を平面方向から切断した切断面を示す。図8,図9,図10において図2と同じ符号の部分は図2と同じ部材を示している。
[0031] 図8,図9,図10に示すように導電材50,51は,平行絶縁被膜電線を構成し,各導電材50,51の先端では絶縁被膜が除去されて露出した導体52,53(55,56)が溶接等されて電気的に接続された接続部54を構成している。そして接続部54を成形体34にて埋設して,接続部54の外部に対する電気的絶縁性を確保している。」

「[0035] 本実施の形態では,図1~図15に示す成形体34を以下に示す溶融器を内蔵した射出装置を用いて成形することができる。」

「
[図:0001388037000003.jpg]
」
「
[図:0001388037000004.jpg]
」
「
[図:0001388037000005.jpg]
」

(2)上記記載について検討する。

ア 上記[0030]-[0031]及び図8-10を参酌すると,引用文献2の接続構造体は,平行絶縁被膜電線を構成する各導電材50,51の先端で絶縁被膜が除去されて露出した導体52,53が電気的に接続されて接続部54を構成するとともに,接続部54を成形体34にて埋設し,接続部54の外部に対する電気的絶縁性を確保しているものと認められる。

イ 上記[0006],[0035]を参酌すると,引用文献2の成型体34は,射出装置を用いて成形されているから,射出成型物であるといえる。

ウ 上記図8-10を参酌すると,引用文献2の接続構造体において,各導電材50,51の先端で絶縁被膜が除去されて露出した導体52,53の末端は,成形体34により直接,封止されていると認められる。

(3)以上(1),(2)で示した事項を参酌すると,上記引用文献2には次の事項が記載されていると認められる。

「 平行絶縁被膜電線を構成する各導電材50,51の先端で絶縁被膜が除去されて露出した導体52,53が電気的に接続されて接続部54を構成するとともに,接続部54を成形体34にて埋設し,接続部54の外部に対する電気的絶縁性を確保した接続構造体において,
成形物34は射出成形物であり,
導体52,53の末端は,成形体34により直接,封止されている
接続構造体。」

3 その他の文献に記載されている技術的事項

(1)本願の優先日前に公開された特開平7-263106号公報(以下,周知文献という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0035】
【実施例】本発明のワイヤハーネス枝線分岐部の防水処理方法の第1実施例を図1~図12に従って説明する。
【0036】図1(A)に示される如く,本第1実施例のワイヤハーネスの防水処理方法では,結線工程によってワイヤハーネスの本線10に,枝線16が熱圧接もしくは金属チューブカシメによって結線されたものを,セット工程において,上面が開放された成形型40にセットする。
【0037】なお, 図4に示される如く,ワイヤハーネスの本線10及び枝線16は,塩化ビニルから成る被覆12を施した銅電線14で構成されている。」

「【0041】図1(C)に示される如く,成形工程では,ワイヤハーネスの本線10と枝線16とが固定された成形型40の樹脂注入用凹部48内に,ホットメルトディスペンサー62のノズル62Aから200°C~220°Cにホットメルトしたポリアミド樹脂22を流し込み常温で冷却硬化させる。なお,図10に示される如く,200°C~220°Cにホットメルトしたポリアミド樹脂22の粘度は30PS 弱となっている。」

「【0046】図4に示される如く,冷却硬化後,成形型から取り出した製品86は,ワイヤハーネスの本線10と枝線16との結線部20をポリアミド樹脂22が覆っている。また,製品86のポリアミド樹脂22は表面に凹凸が無い楔形とされており,水が被ってもすぐに水が切れるようになっている。また,製品86のポリアミド樹脂22は,電線全周が1.5mm程度の肉厚Aとされ,各電線の封止長さBが5mm程度とされ,電線と電線の隙間Cは1.5mm程度確保されている。なお,電線外径は2mmとなっている。」

「
[図:0001388037000006.jpg]
」
「
[図:0001388037000007.jpg]
」

(2)上記記載について検討する。

ア 上記【0037】及び【図4】を参酌すると,周知文献の製品86は,ワイヤハーネスの本線10と枝線16とは,その端部に被覆12が施されていない銅電線14を有し,銅電線14が結線部20において互いに接合していると認められる。

イ 上記【0046】及び【図4】を参酌すると,周知文献の製品86は,ワイヤハーネスの本線10と枝線16との結線部20は,ポリアミド樹脂22により覆われている。

ここで,上記【0041】及び【図1】の記載を参照すると,ポリアミド樹脂22は成形型40に流し込まれ硬化したものであるから,一種の成形物であるといえる。

ウ 上記【図4】を参酌すると,周知文献の製品86は,ワイヤハーネスの本線10と枝線16は,ポリアミド樹脂22内において,湾曲部を有していると認められる。

(3)以上(1),(2)で示した事項を参酌すると,上記周知文献には次の事項が記載されていると認められる。

「 本線10と枝線16とは,その端部に被覆12が施されていない銅電線14を有し,銅電線14が結線部20において互いに接合しているワイヤハーネスにおいて,
本線10と枝線16との結線部20は,成形物であるポリアミド樹脂22により覆われており,
本線10と枝線16は,ポリアミド樹脂22内において,湾曲部を有している
ワイヤハーネス。」

第5 当審の判断

1 本願発明1について

(1)対比

本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。

ア 引用発明の「絶縁電線3,4,5」が,本願発明1の「導体の表面に絶縁層が被覆されている複数の絶縁電線」に対応することは明らかである。

そして,引用発明の「絶縁電線3,4,5」における「それぞれの端部において導体部を露出させ」ている部分が,本願発明1の「露出部」に対応し,引用発明の「絶縁電線3,4,5」は,「導体部相互を電気的に接続し接続部6を形成し」ているから,本願発明1の「絶縁電線」と,「前記絶縁層が被覆されておらず前記導体が露出している露出部を端部に有し,前記露出部は,互いに接合して」いる点で共通するといえる。

イ 引用発明の「絶縁接続部2」は,「加圧注型成形法によって形成され」たものであるから,本願発明1の「射出成形物」と,「成形物」である点で共通する。

そして,引用発明の「絶縁接続部2」は,「接続部6とその近傍の絶縁被覆部分」を「一定厚みで強固かつ緊密に被覆」するから,引用発明と本願発明1とは,「少なくとも前記露出部は,」「成形物により封止」されるものである点で一致するといえる。

また,引用発明の「絶縁接続部2」は,「軸方向の一端部において複数の絶縁電線4,5が存在しており,該一端部は,絶縁電線4,5の導体部を露出させている端部の反対側である」から,本願発明1の「射出成形物」と,「軸方向の一端部であって前記露出部の反対側には,前記複数の絶縁電線が存在して」いるといえる。

ウ 引用発明において「絶縁電線4,5」は「接続部6とその近傍の絶縁被覆部分」が「絶縁接続部2」に「被覆」されているから,「絶縁電線4,5」における「それぞれの端部において導体部を露出させ」ている部分は,「絶縁接続部2の軸方向の一端部」から軸方向長さの所定距離離れた位置よりも他端部側に存在するといえる。

すると,引用発明の「絶縁電線4,5」における「それぞれの端部において導体部を露出させ」ている部分は,本願発明1と,「前記一端部から前記射出成形物の軸方向長さで所定距離離れた位置よりも他端部側に前記露出部が存在」する点で一致するといえる。

エ 引用発明は「絶縁接続部2の軸方向の一端部における絶縁電線4,5の最外接線は,絶縁接続部2内の絶縁電線4,5の最外接線よりも長い」から,引用発明と本願発明1とは,「前記一端部における前記軸方向に垂直な第1の断面での前記複数の絶縁電線の最外接線は,前記所定距離離れた位置における前記軸方向に垂直な第2の断面での前記複数の絶縁電線の最外接線よりも長い」点で一致するといえる。

オ 引用発明の「ワイヤ・ハーネス1」は,本願発明1の「ワイヤハーネス」に対応し、引用発明の「ワイヤ・ハーネス1」は,「絶縁電線3,4,5」が「絶縁接続部2」で封止さているといえるから,引用発明と本願発明1とは,「導体の表面に絶縁層が被覆されている複数の絶縁電線が封止されているワイヤハーネス」である点で一致する。

カ したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)

「 導体の表面に絶縁層が被覆されている複数の絶縁電線が封止されているワイヤハーネスであって,
前記絶縁電線は,前記絶縁層が被覆されておらず前記導体が露出している露出部を端部に有し,前記露出部は,互いに接合しており,
少なくとも前記露出部は,成形物により封止されており,
前記成形物の軸方向の一端部であって前記露出部の反対側には,前記複数の絶縁電線が存在しており,
前記一端部から前記成形物の軸方向長さで所定距離離れた位置よりも他端部側に前記露出部が存在し,
前記一端部における前記軸方向に垂直な第1の断面での前記複数の絶縁電線の最外接線は,
前記所定距離離れた位置における前記軸方向に垂直な第2の断面での前記複数の絶縁電線の最外接線よりも長い
ワイヤハーネス。」

(相違点)

(相違点1)成形物に関して, 本願発明1は,「射出成形物」と特定されているのに対し,引用発明は,「加圧注型成形法によって形成され」た「絶縁接続部2」である点。

(相違点2)露出部の末端に関して, 本願発明1は,「前記射出成形物により直接,封止されており」と特定されているのに対し,引用発明では,そのように特定されていない点。

(相違点3)露出部の位置に関して,本願発明1は「前記一端部から前記射出成形物の軸方向長さの1/3離れた位置よりも他端部側に」存在すると特定されているのに対し,引用発明では,そのように特定されていない点。

(相違点4)絶縁電線に関して,本願発明1は「前記射出成形物内において,湾曲部を有している」と特定されているのに対し,引用発明では,そのように特定されていない点。

(2)相違点についての判断

ア 相違点1について

引用発明では,「絶縁接続部2」が「射出成形」により形成されるとは明記されていないが,引用発明においても,「絶縁接続部2」は「加圧注型成形法によって形成され」たものであるから,一種の「射出成形」により形成されたものであると認められる。

また,成形物の形成法として,射出成形は周知の手法であり,ワイヤハーネスの接続部を封止する成形物を射出成形により形成することも,例えば引用文献2に記載されているように周知技術にすぎない。

すると,引用発明において,上記相違点1に係る本願発明1の構成とすることは,当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ 相違点2について

上記「第4」の「1(1)ア」の「この発明のワイヤ・ハーネスにおける絶縁電線の導体部は,接続せんとする複数の導体部相互の単純な撚り合わせ,溶接,ろう付け,クリップによるかしめなど周知の手段によって通電可能に接続する」との記載を参酌すると,引用発明において,導体部の接合を,例えば撚り合わせによって接合した際には,絶縁電線の導体部の末端が露出した状態で接続部が形成されると認められるから,この接続部を絶縁接続部で被覆した際には,導体部の末端は絶縁接続部,すなわち,成形物により直接封止されるものと認められる。

また,絶縁電線の露出部の末端を,成形物により直接,封止することも,例えば,引用文献2に記載されているように周知技術にすぎない。

すると,引用発明において,上記相違点2に係る本願発明1の構成とすることは,当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ 相違点3について

本願発明1は,本願明細書の段落0015に「本発明では,少なくとも露出部5が射出成形物4によって封止されていればよく,これにより浸水や漏電を防止し易くすることができる。」と記載されているように,耐水性を向上させることを目的とするものであると認められる。

そして,上記「第4」の「1(1)ウ」に「絶縁接続部分に優れた耐熱性,耐水性,耐湿性を有する」と記載されているように,引用発明も同様の目的を有するものであるところ,「接続部6とその近傍の絶縁被覆部分が,絶縁接続部2により一定厚みで強固かつ緊密に被覆されたワイヤ・ハーネス1」である引用発明において,「絶縁接続部2」により被覆される「絶縁被覆部分」の長さ,すなわち,絶縁接続部2の端部から絶縁電線4,5の導体部を露出させた部分までの距離を長くすることにより,耐水性,耐湿性等の性能が高まることは明らかであり,その長さをどの程度にするのかは,ワイヤハーネスに求められる性能に応じ,当業者が実施に当たり適宜なし得る設計的事項に過ぎない。

ここで,その露出部の位置を,一端部から射出成形物の軸方向長さの1/3離れた位置よりも他端部側にすることによる,顕著な効果や異質な効果は認められない。

すると,引用発明において,上記相違点3に係る本願発明1の構成とすることは,当業者が容易に発明をすることができたものである。

エ 相違点4について

例えば周知文献に記載されているように,絶縁電線の露出部が成形物により封止されたワイヤハーネスにおいて,絶縁電線が成形物内において湾曲部を有することも,周知技術であると認められる。

すると,絶縁電線の露出部が成形物により封止されたワイヤハーネスである引用発明において,絶縁電線が成形物内において湾曲部を有する構成を採用し,相違点4に係る本願発明1の構成に係る構成とすることは,当業者が容易になし得たものである。

(3)請求人の主張について

ア 請求人は,令和4年3月1日の意見書において,概略

(ア)「・・・これらの記載によれば,引用文献1では導体接続部6を外部から完全に絶縁するために導体接続部6を完全に封止することを課題としていると言え,更に引用文献1に係る発明においては,導体接続部6を完全に封止させるために導体接続部6を絶縁接続部2(射出成形物)の中心に位置させて,尚且つ封止時に電線にたるみが生じないように電線を緊張させる必要があると言えます。
このような引用文献1に接した当業者があえて絶縁電線3,4および5にたるみを生じさせてみようとすることは無いため,絶縁接続部2内において絶縁電線3,4および5をわざわざ「湾曲」させる動機付けは無いと思料致します。」
(イ)「・・・しかし,引用文献1に係る発明から当該構成要件に想到するためには,上記図1,2の,絶縁電線3とその導体部を省略し,絶縁電線4,5の導体部を接合して,その接合部の末端を直接,絶縁接続部2(射出成形物)で封止する必要があります。
そして,このように絶縁電線4,5と対向する絶縁電線3を省略すると絶縁電線3からの張力が無くなってしまい射出成形の際に絶縁電線4,5の導体部が動き易くなることが予想されるため,導体接続部6を完全に封止することを課題としている引用文献1に接した当業者であれば,絶縁電線4,5のみを残して射出成形しようとすることは無いと思われますので,当該構成要件(相違点2)を当業者が採用する動機付けは無いと思料致します。」(ウ)「・・・更に,本願発明1の上述した「絶縁電線は,前記射出成形物内において,湾曲部を有して」いることにより,より一層,複数の絶縁電線1間に樹脂が入り込み易くなります。
その結果,射出成形物4内において,より一層,複数の絶縁電線1間に樹脂が充填されたものになります。
これらの効果は,複数の絶縁電線1の間の隙間と射出成形との関係について何ら記載されていない引用文献1からは予想できない顕著な効果であると考えます。」

と主張している。

イ 上記主張について検討する。

(ア)上記「ア(ア)」について検討すると,引用文献1に請求人の主張する「引用文献1に係る発明においては,導体接続部6を完全に封止させるために導体接続部6を絶縁接続部2(射出成形物)の中心に位置させて,尚且つ封止時に電線にたるみが生じないように電線を緊張させる必要がある」旨の記載はない。

また,上記「1(2)エ」に記載したように,絶縁電線の露出部が成形物により封止されたワイヤハーネスにおいて,絶縁電線が成形物内において湾曲部を有することも,周知技術であると認められる。

そして,引用発明に,絶縁電線が成形物内において湾曲部を有する周知技術を採用することに,阻害要因があるとまではいえず,請求人の主張を採用することはできない。

(イ)上記「ア(イ)」について検討すると,本願発明5に「前記複数の絶縁電線のうち一部の絶縁電線は,前記軸方向に前記他端部から突出している請求項1~4のいずれかに記載のワイヤハーネス。」と記載されているように,本願発明1においても,他端部から絶縁電線が突出する構成を排除していないものと認められる。

すると,請求人の主張は請求項の記載に基づくものとはいえず,採用することはできない。

(ウ)上記「ア(ウ)」について検討すると,本願明細書等には,絶縁電線が射出成型物内おいて,湾曲部を有することにより,絶縁電線間へ樹脂が入り込み易くなる点について,何ら記載されていない。

そして,絶縁電線間への樹脂の入り易さは,射出成型時の射出圧力や,樹脂を流し込むランナーの位置等の条件により変化することは明らかである一方,単に湾曲部を有することにより樹脂が入り易くなるともいない。

すると,請求人が主張するような顕著な効果があるとはいえず,その主張を採用することはできない。

ウ したがって,請求人の上記主張は,いずれも採用することができない。

(4)よって,本願発明1は,引用発明及び引用文献2及び周知文献に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび

以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。

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2021-010328

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