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特許拒絶査定不服審判

2021-007633

マッサージ装置及びマッサージシステム

審判番号
2021-007633
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2017-087906外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2021年06月10日
審決日
2023年08月02日
公報発行日
2023年10月27日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (A61H)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第4号
データ出所
審決公報(XML)

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特願2017- 87906「マッサージ装置及びマッサージシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年11月22日出願公開、特開2018-183474〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 1 手続の経緯 本願は、平成29年 4月27日の特許出願であって、令和 3年 1月20日に拒絶の理由が通知され(発送日: 1月26日)、これに対し、同年 3月25日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年 4月14日付で拒絶査定がなされ(発送日: 4月27日)、これに対し、同年 6月10日に拒絶査定不服審判が請求された。以後の手続きは以下の通りである。 令和 3年 6月10日 手続補正書の提出(審判請求と同日) 令和 4年 2月 9日付け 拒絶理由通知(発送日: 2月10日) 同年 3月25日 意見書及び手続補正書の提出 同年 9月 6日付け 最後の拒絶理由通知(発送日: 9月 8日) 同年11月 2日 意見書及び手続補正書の提出 2 本件発明 令和 4年11月 2日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1は以下のとおりである。(当該請求項1に係る発明を、以下「本件発明」という。) なお、令和 4年11月 2日提出の手続補正書による補正は、当審による同年 9月 6日付の最後の拒絶の理由に示す事項についてするものであるから、特許法第17条の2第5項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当するものとして認容した。 「【請求項1】 利用者をマッサージするマッサージ部を備えたマッサージ装置であって、 音声入力部と、 音声出力部と、 少なくとも複数の異なる分野の複数人の医師の知識・ノウハウに関するデータを蓄積する情報記憶部を備え、前記情報記憶部に蓄積された前記データに基づく診断、アドバイスを判断する人工知能部と、 前記利用者の症状を入力する項目選択部と、を備え、 前記人工知能部は、前記利用者の症状を抽出するステップを有し、 前記ステップは、 前記項目選択部によって前記利用者が複数の項目の中から気になる自覚症状を選択入力する第1ステップと、 前記第1ステップで選択入力された前記自覚症状と前記データとに基づいて前記利用者と対話を行う第2ステップと、を有し、 前記人工知能部は、前記第1ステップを実行後に前記第2ステップを実行することで、前記自覚症状と前記対話による前記利用者の発話内容に基づき、前記利用者に応じた診断または適したアドバイスの少なくともいずれかを決定する、ことを特徴とするマッサージ装置。」 3 当審からの拒絶理由通知の概要 令和 4年 9月 6日付で当審が通知した拒絶理由は以下の理由を含むものである。 本件出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された引用発明、周知技術及び技術常識等に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開2006-81824号公報 2.特開2004-130090号公報(技術常識を示す文献) 3.特開2015-194974号公報(技術常識を示す文献) 4.特開2007-102743号公報(周知技術を示す文献) 5.特開2004-252753号公報(周知技術を示す文献) 6.特開平9-198446号公報(周知技術を示す文献) 4 拒絶理由に対する当審の判断 (1)本件発明 上記2に記載したとおりである。 (2)引用文献の記載及び引用発明 引用文献1(特開2006-81824号公報)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。 A 「【請求項1】 少なくとも1つの施療手段を用いてマッサージをマッサージ実行手段により実行するマッサージ機において、使用者の状態、設置環境を検出する検出手段と、当該検出手段から出力される検出情報から使用者の状態を把握する状態把握手段と、当該状態把握手段から出力される状態把握情報及び/又は検出情報から総合判断する総合判断手段とを備えることを特徴とするマッサージ機。」 B「【0020】 前記検出手段1は、着座検出部1a、時刻検出部1b、体重検出部1c及び音声検出部1dから構成される。着座検出部1aは、肘置き23の内側壁に赤外線センサー14を備え、使用者が着座すると使用者からの赤外線の変化が生じて使用者の着座を検出し、逆に、使用者が離席すると同様に使用者からの赤外線の変化が生じて使用者の離席を検出する構成である。この着座検出部1aを用いてマッサージ機のマイコンが自動起動する構成にすることもできる。・・・ 【0023】 前記音声検出部1dは、例えばマイクロフォン21bからなり、音声を電気信号に変換する。ここでマイクロフォン21bで音声を検出する場合には、雑音が混入するおそれがあるが、マイクロフォン21bに指向性を持たせ、必要であれば後記のメカユニット25同様に移動可能にし適切に使用者の音声を入力できるようにすることが好ましい。また、マッサージ機が駆動中であればモータ音等が阻害要因となるので、停止させるか、若しくはサイレントモードでの駆動とすることが望ましい。」(・・・は省略を示し、当審で付したものである。以下同様。) C「【0026】 前記総合判断手段3は、状態把握情報及び検出情報から総合判断する。詳細には、状態把握情報の各情報の整合性、または、検出情報を含めた整合性をとり、適切な判断を行う。整合性が取れていれば、入力された状態把握情報及び検出情報が判断結果となる。さらに、高度には、これら状態把握情報及び検出情報から他の情報を導き出す。例えば、音声から疲れが感じられなく、時刻が夜であれば、風呂上りであることを導き出すことができる。そして、風呂上りであるということは、血行が促進されている状態であって、マッサージ効果を受け易い状態であることを判断することができる。すなわち、状態把握手段が各検出情報から直接的な事実を導くのに対し、総合判断手段3は、より高度に推測するか、若しくは、複数の検出情報又は状態把握情報から事実を導く。 【0027】 以上の状態把握手段2の把握、総合判断手段3の判断は、年齢、性別、身長、体格、体重、持病等で異なる場合もあるので、それぞれに応じて把握基準、判断基準を有することが望ましい。また、工場出荷時には、統計的に一般大多数の人に適合した把握基準、判断基準を反映した状態把握手段2、総合判断手段3を構築しておき、随時使用者からの指摘等で追加、更新、削除が可能であることが好ましい。」 D「【0031】 前記背もたれ部21は、リクライニングでき、使用者との接触面の両端側に図示しないクッション材を配設することもでき、着座して背もたれ部21にもたれると使用者の背中が背もたれ部21の中心に位置するようになっている。また、背もたれ部21の上方部にスピーカ21aが内蔵されている(オーディオケーブルは図示しない)。図には、一般的な体格の人に合わせてスピーカ21aを配置させているが、複数のスピーカを他の位置に設けてもよく、また、使用者の体格に合わせてスピーカの指向性を変更してもよい。さらには、スピーカ21aから出力される音に連動して振動するように構成してもよい。」 E「【0042】 体重検出後、マイコンは背もたれ部21のリクライニングを戻し、フットレスト24の傾動を戻した状態で、スピーカからROMに記憶された合成音声により使用者に対して問いかける。使用者からの返答をマイクロフォンにより検出し、アナログをデジタル変換した後にマイコンに出力する(ステップ34)。ここで、マイコンが検出した音声情報について雑音が大きく、状態把握手段2での把握に使用できないと判断した場合には、マッサージ機の駆動音を下げ、可能であればマイクロフォン21bを使用者の口元に近づけて音声の再検出を行う。また、リクライニングを戻した状態で音声検出を行ったのは、リクライニングの有無・程度により人間の音声に変化が生じるからである。」 F「【0065】 本実施形態に係るマッサージ機は、使用者への質問からなる問診情報に基づいて使用者に対して問診する問診手段6を備え、かかる問診手段6からの問診結果情報が総合判断手段3に出力される構成である。 【0066】 前記問診情報は、検出情報又は状態把握情報となり得る情報を問診により得るための質問からなる検出又は状態把握に係る問診情報であり、例えば、「お疲れですか?」、「~が痛みますか?」、「病気ではないですか?」、「十分な睡眠を取られていますか?」、「アルコールを摂取されましたか?」、「たばこをすいましたか?」、「食事はされましたか?」、「低血圧ですか?」、「目は疲れていませんか?」、「高血圧ですか?」といった質問が該当する。 【0067】 前記検出又は状態把握に係る問診情報以外に、病状に係る問診情報もある。この病状に係る問診情報は、一般的な問診と同様な質問からなり、質問自体は前記検出又は状態把握に係る問診情報と重複する部分もあるが、病気を推定又は診断するためという目的の相違がある。また、問診は使用者の回答によって次の質問が変わる場合もあり、すなわち、前後の質問に相関性がある。これは医者が、患者の回答によって質問を変え、病気を特定していく過程と同様である。例えば、「微熱ですか?」という問いに対して、使用者が肯定的な回答をした場合には、「せき、動悸、腰痛、排尿痛、やせ、関節痛といった症状がないですか?」とさらに問い、使用者がせきを回答すれば、慢性気管支炎、肺結核、気管支拡張症といった病気を患っている可能性があり、さらに、息切れ、呼吸困難があるかの問いをし、そうであれば、慢性気管支炎であることを推定することができる。このように一連の問いには流れがあり、質問がツリー状に構成されていることが望ましい。本実施形態により、問診手段6が問診情報を用いて問診をし、総合判断手段3が問診結果情報を見て判断を行うことができるが、本マッサージ機だけで病気に関して確定的な判断を行うことは困難であって、病気の可能性があれば、医者の診察を受診するように促すような構成であることが好ましい。 【0068】 本実施形態に係るマッサージ機の問診は、前記第1の実施形態に係る動作でいえば、センシング、診断、マッサージの中の診断の一部に含まれ、検出手段による検出をし、状態把握手段2による把握の後に、問診手段6による問診を行う。ここで、かかる問診手段6はマッサージ動作中にすることもでき、リラックスした状態で問診を受けることにより適切な回答を得ることができる。 【0069】 本実施形態に係るマッサージ機の問診に係る質問に対して、使用者は回答を求められるが、かかる回答はリモコン28の上ボタン28b、下ボタン28c、左ボタン28d及び右ボタン28eを用いて選択し、Enterボタン28gで確定して返答を行う他、音声による返答も行うことができる。このようにどちらの方法による返答も可能として、ケースバイケースで使用者は回答方法を選択することができ、利便性が高い。 【0070】 このように本実施形態に係るマッサージ機によれば、使用者への質問、かかる質問への回答からなる問診情報に基づいて使用者に対して問診する問診手段6を備え、かかる問診手段6からの問診結果情報が総合判断手段3に出力されるので、特に、検出手段1により検出できない情報を問診により得ることにより、より適切な状態の総合判断を行うことができる。」 G 「【0072】 また、本実施形態に係るマッサージ機においては、問診は問診手段6による合成音声の問いかけ及び使用者からの回答によって構成されているが、問いかけをリモコン28の表示画面28aへの文字表示とし、回答をリモコン操作によっても実現することができる。」 a 上記摘記事項Aの「【請求項1】少なくとも1つの施療手段を用いてマッサージをマッサージ実行手段により実行するマッサージ機において、使用者の状態、設置環境を検出する検出手段と、当該検出手段から出力される検出情報から使用者の状態を把握する状態把握手段と、当該状態把握手段から出力される状態把握情報及び/又は検出情報から総合判断する総合判断手段とを備えることを特徴とするマッサージ機。」との記載から、引用文献1に記載された発明は、マッサージ実行手段を備えたマッサージ機であって、使用者の状態を検出する検出手段と、当該検出手段から出力される検出情報から使用者の状態を把握する状態把握手段と、当該状態把握手段から出力される状態把握情報及び検出情報から総合判断する総合判断手段とを備えるマッサージ機であることが理解できる。 b 上記摘記事項Bの「【0020】前記検出手段1は、着座検出部1a、時刻検出部1b、体重検出部1c及び音声検出部1dから構成される。・・・【0023】前記音声検出部1dは、例えばマイクロフォン21bからなり、音声を電気信号に変換する。」との記載から、引用文献1に記載された発明は、マイクロフォンを備えるといえる。 c 上記摘記事項Dの「【0031】・・・また、背もたれ部21の上方部にスピーカ21aが内蔵されている(オーディオケーブルは図示しない)。」との記載、上記摘記事項Eの「【0042】体重検出後、マイコンは背もたれ部21のリクライニングを戻し、フットレスト24の傾動を戻した状態で、スピーカからROMに記憶された合成音声により使用者に対して問いかける。・・・」との記載、上記摘記事項Gの「【0072】また、本実施形態に係るマッサージ機においては、問診は問診手段6による合成音声の問いかけ及び使用者からの回答によって構成されている・・・」との記載から、引用文献1に記載された発明は、スピーカを備えるといえる。 d 上記摘記事項Fの「【0065】本実施形態に係るマッサージ機は、使用者への質問からなる問診情報に基づいて使用者に対して問診する問診手段6を備え、かかる問診手段6からの問診結果情報が総合判断手段3に出力される構成である。・・・【0067】前記検出又は状態把握に係る問診情報以外に、病状に係る問診情報もある。この病状に係る問診情報は、一般的な問診と同様な質問からなり、質問自体は前記検出又は状態把握に係る問診情報と重複する部分もあるが、病気を推定又は診断するためという目的の相違がある。また、問診は使用者の回答によって次の質問が変わる場合もあり、すなわち、前後の質問に相関性がある。これは医者が、患者の回答によって質問を変え、病気を特定していく過程と同様である。例えば「微熱ですか?」という問いに対して、使用者が肯定的な回答をした場合には、「せき、動悸、腰痛、排尿痛、やせ、関節痛といった症状がないですか?」とさらに問い、使用者がせきを回答すれば、慢性気管支炎、肺結核、気管支拡張症といった病気を患っている可能性があり、さらに、息切れ、呼吸困難があるかの問いをし、そうであれば、慢性気管支炎であることを推定することができる。このように一連の問いには流れがあり、質問がツリー状に構成されていることが望ましい。本実施形態により、問診手段6が問診情報を用いて問診をし、総合判断手段3が問診結果情報を見て判断を行うことができるが、本マッサージ機だけで病気に関して確定的な判断を行うことは困難であって、病気の可能性があれば、医者の診察を受診するように促すような構成であることが好ましい。・・・」との記載から、当該「慢性気管支炎であることを推定」は「病気についての判断」と、また当該「医者の診察を受診するように促す」は「適したアドバイス」といえるから、引用文献1に記載された発明は、使用者への質問からなる問診情報に基づいて使用者に対して問診する問診手段を備え、該問診手段は、例えば「微熱ですか?」という問いに対して、使用者が肯定的な回答をした場合には、「せき、動悸、腰痛、排尿痛、やせ、関節痛といった症状がないですか?」とさらに問い、使用者が「せき」を回答すれば、慢性気管支炎、肺結核、気管支拡張症といった病気を患っている可能性があり、さらに、息切れ、呼吸困難があるかの問いをし、そうであれば、慢性気管支炎であることを推定するものであって、問診結果情報を前記総合判断手段に出力し、使用者の病気についての判断または適したアドバイスを行うものであることが理解できる。 上記記載事項A~G、認定事項a~dを総合すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「マッサージ実行手段を備えたマッサージ装置であって、使用者の状態を検出する検出手段と、検出手段の出力する検出情報から使用者の状態を把握する状態把握手段と、状態把握手段から出力される状態把握情報および前記検出情報から総合判断する総合判断手段を備えたマッサージ装置において、さらにマイクロフォンと、スピーカーと、使用者への質問からなる問診情報に基づいて使用者に対して問診する問診手段を備え、該問診手段は、例えば「微熱ですか?」という問いに対して、使用者が肯定的な回答をした場合には、「せき、動悸、腰痛、排尿痛、やせ、関節痛といった症状がないですか?」とさらに問い、使用者が「せき」を回答すれば、慢性気管支炎、肺結核、気管支拡張症といった病気を患っている可能性があり、さらに、息切れ、呼吸困難があるかの問いをし、そうであれば、慢性気管支炎であることを推定するものであって、問診結果情報を前記総合判断手段に出力し、使用者の病気についての判断または適したアドバイスを行う、マッサージ装置。」 (3)対比 本件発明と引用発明とを、その構成、機能等に基づき、技術常識をふまえて対比すると、引用発明の「マッサージ実行手段を備えたマッサージ装置」は本件発明の「利用者をマッサージするマッサージ部を備えたマッサージ装置」に相当する。同様に、「マイクロフォン」は「音声入力部」に、「スピーカー」は「音声出力部」に相当する。 また、引用発明の「問診手段」及び「総合判断手段」と本件発明の「人工知能部」とは、引用発明の「問診手段」及び「総合判断手段」は「例えば「微熱ですか?」という問いに対して、使用者が肯定的な回答をした場合には、「せき、動悸、腰痛、排尿痛、やせ、関節痛といった症状がないですか?」とさらに問い、使用者が「せき」を回答すれば、慢性気管支炎、肺結核、気管支拡張症といった病気を患っている可能性があり、さらに、息切れ、呼吸困難があるかの問いをし、そうであれば、慢性気管支炎であることを推定するものであって、問診結果情報を前記総合判断手段3に出力し、使用者の病気についての判断を行う」のであるから、「診断、アドバイスを判断する手段であって、利用者と対話を行い、当該対話による利用者の発話内容に基づき、利用者に応じた診断又は適したアドバイスの少なくともいずれかを決定する」手段の限りで共通する。 したがって、両者は、 「利用者をマッサージするマッサージ部を備えたマッサージ装置であって、 音声入力部と、 音声出力部と、 診断、アドバイスを判断する手段と、を備え、前記診断、アドバイスを判断する手段は、利用者と対話を行い、当該対話による利用者の発話内容に基づき、利用者に応じた診断又は適したアドバイスの少なくともいずれかを決定する、マッサージ装置。」である点で一致し、以下の点で相違している。 〔相違点1〕 診断、アドバイスを判断する手段について、本件発明は、「少なくとも複数の異なる分野の複数人の医師の知識・ノウハウに関するデータを蓄積する情報記憶部を備え、前記情報記憶部に蓄積された前記データに基づく診断、アドバイスを判断する人工知能部」であるのに対し、引用発明の問診手段及び総合判断手段は、そのようなものであるか明らかでない点。 〔相違点2〕 本件発明は、「利用者の症状を入力する項目選択部」を備えるとともに、「人工知能部は利用者の症状を抽出するステップを有し、前記ステップは、前記項目選択部によって前記利用者が複数の項目の中から気になる自覚症状を選択入力する第1ステップと、前記第1ステップで選択入力された前記自覚症状と前記データとに基づいて前記利用者と対話を行う第2ステップと、を有し、前記人工知能部は、前記第1ステップを実行後に前記第2ステップを実行することで、前記自覚症状と前記対話による前記利用者の発話内容に基づき、前記利用者に応じた診断または適したアドバイスの少なくともいずれかを決定する」のに対し、引用発明は、そのような構成を備えるか明らかでない点。 (4)判断 まず、相違点1について検討すると、 引用発明の問診手段は、使用者への質問からなる問診情報を用いて問診を行うものであり、また総合判断手段は、状態把握情報および検出情報から総合判断するとともに、さらに問診手段から出力された問診結果情報に基づいて病気についての判断やアドバイスを行うものであるところ、引用発明の「問診手段」及び「総合判断手段」は、当該問診情報や病気についての判断やアドバイスを総合判断するための基礎となる情報を蓄積する情報記憶手段を備えることは自明である。 そして、引用発明の問診手段及び総合判断手段は、「微熱ですか?」という問いに対して、使用者が肯定的な回答をした場合には、「せき、動悸、腰痛、排尿痛、やせ、関節痛といった症状がないですか?」とさらに問い、使用者が「せき」を回答すれば、慢性気管支炎、肺結核、気管支拡張症といった病気を患っている可能性があり、さらに、息切れ、呼吸困難があるかの問いをし、そうであれば、慢性気管支炎であることを推定する問診手段の問診結果情報を利用して、使用者の病気についての判断を行うところ、そのような問診手段の質問、回答に応じたさらなる質問、それらの回答に基づいた病気の推定等は、引用文献1の摘記事項Fの「【0067】・・・問診は使用者の回答によって次の質問が変わる場合もあり、すなわち、前後の質問に相関性がある。これは医者が、患者の回答によって質問を変え、病気を特定していく過程と同様である。・・・」との記載もふまえると、上記病気についての判断やアドバイスを総合判断するための基礎となる情報、すなわち医師の知識・ノウハウに関するデータによるものといえる。また、そのような医師の知識・ノウハウに関するデータを単一の分野の単一の医師の知識・ノウハウのみに基づいて構成することはおよそ考えられない(医師の臨床診断等に用いられる臨床医マニュアル(例えば、MSDマニュアル等。)が多くの分野の専門医の知見を総合して作られていること等を想起されたい。)し、病気についての判断やアドバイスのためのデータを、複数の医師の知識・ノウハウに基づいて構成することは技術常識(例えば、引用文献2(例えば、【0011】「メモリ18は、医師のためのエキスパートルールを格納する。医師或いは一群の病気について学習している医療専門家が、このルールを用いる。このエキスパートルールは、医師が診断決定支援のために使用する診断決定モデルの基盤となる。ルールを格納するメモリ18は、ユーザである医師の経験によって蓄積された彼自身の専門知識に基づいたユーザ医師の診断決定支援モデルを含むことができる。また、該ルールは、関連する医療分野における専門家によって設定されたルールとすることができる利点がある。・・・」、【0012】「更に、複数の専門家によって設定されたルールを、メモリ18内に組み入れることができる。この場合、医師はエキスパートルールのタイプを選択して推奨案を得ることができる。医師はまた、複数の推奨案を得ることができ、医師はそれらを比較することができる。」の記載を参照。)、引用文献3(例えば、【0013】「そこで、本実施形態では、まず、診療テキストからカルテ情報及びレセプト以外の医師の経験やノウハウに基づく医師知識テキストを蓄積(吸い上げる)する仕組みを実現し、複数の医師の経験やノウハウを活用した診療支援を行うための環境を提供する。そして、蓄積された医師知識テキストを用いた知見データの作成を通じ、患者毎に今後発生する症状やその発生確率、治療方法、治療後の症状の発生確率などを診療支援データとして生成する。つまり、各医師自身が診療等を通じてノウハウ的に蓄積された医師知識テキストから、各患者に対する病状の「知見」を生成し、医師の「知見」を活用して診療支援データを提供する。診療支援データは、カルテ情報の付随する情報として記憶される。各医師は、カルテ情報及び診療支援データを確認しながら、各患者の現状の症状診断や診療方針等の策定、患者への注意喚起などを行うことができる。」、【0096】「以上、本実施形態によれば、訪問診療における診療音声データをテキスト化し、カルテ情報やレセプト情報に利用される情報以外に、医師の経験やノウハウが医師知識テキストとして個別に抽出される。このため、複数の医師の経験やノウハウを活用した診療支援を行うための環境を提供することができる。そして、抽出された医師知識テキストを蓄積して知見データを生成し、知見データを反映した患者毎の診療支援データを生成する。このため、患者への注意喚起、患者に対する治療方針や治療内容の策定などを、医師の経験やノウハウに基づいて支援することができる。」の記載を参照。)であって、引用発明の問診情報や病気についての判断やアドバイスを総合判断するための基礎となる情報を、当該技術常識等に従い、少なくとも複数の分野の複数の医師の知識・ノウハウとすることは、当業者が容易になし得たことといえる。また、「人工知能」とは、「推論・判断などの知的な機能を人工的に実現するための研究。また、これらの機能を備えたコンピューターシステム。」(岩波書店広辞苑第六版)のことであるから、データに基づく診断、アドバイスを判断する人工的手段は、いわゆる人工知能部であるといえる。 してみると、引用発明の問診手段及び総合判断手段を、少なくとも複数の異なる分野の複数人の医師の知識・ノウハウに関するデータを蓄積する情報記憶部を備え、前記情報記憶部に蓄積された前記データに基づく診断、アドバイスを判断する、いわゆる人工知能部として、相違点1に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことといえる。 次に相違点2について検討すると、利用者の症状を入力する項目選択部を備え、利用者の症状を抽出するステップの第1ステップとして、項目選択部を介して前記利用者が複数の項目の中から気になる自覚症状を選択入力する点に関し、この種の装置において、問診の初めに、利用者が入力手段を介して複数の項目の中から気になる自覚症状を入力することにより、問診を効率化することは周知技術(例えば、引用文献4(特に、【0001】「本発明は、問診用プログラムを搭載したコンピュータを用いて、表示装置の画面に医療機関内での共通問診及び各診療科特有の問診用質問と、これに対応する複数の予想回答を表示し、患者が自身の症状に該当する回答を選択してタッチする操作を順次複数の質問について実行し、得られたデータを、診療機関内の医療システムに取り込み、効率的な診療を支援するシステム技術に関する。」、【0012】「患者が診察前の診療待ち時間に、図4に示すような身長、体重など基本事項問診を始めとして、所定のプログラムに従って、順次コンピュータ画面に問診のための質問を表示し、患者が質問を読み自身の病状を画面上の回答から選択することにより問診が進行するので、医師や看護師の手を煩わすことなく、患者のコンプレインツを整理した形で受け取れる。」、【0013】「電子カルテに応用する場合、診療開始前、即ち患者の診療待ち時間に自動問診を行った結果を、院内医療情報システムに自動伝送することにより、医師が診察時に院内医療情報システムの診療用端末機の画面上で参照することができる。その結果、電子カルテ普及の妨げとなっている診察しながら患者の病状をキーボードから入力するための時間的ロスが解消し、また、患者基本情報を毎日繰り返して初診患者の数だけ質問することを省略できるから医師の診療上の負荷も軽減される。」等の記載を参照。)、引用文献5(特に、【請求項1】「問診票への回答を予め患者に入力させることにより医療を支援する医療支援システムであって、問診情報を出力する問診情報出力手段と、前記問診情報に対して入力された回答情報から、前記患者に対して医療の処置を行うための医療処置情報を抽出する医療処置情報抽出手段と、抽出された前記医療処置情報に示される医療処置を患者に対して実行するかどうかの可否を入力させる抽出医療処置情報を出力する抽出医療処置情報出力手段と、前記抽出医療処置情報のうち、実行可とされた医療処置情報を出力する医療処置情報出力手段とを有することを特徴とする医療支援システム。」、【0056】「まずステップS101で表示される問診票入力画面を図6に示す。図6に示される問診票入力画面32には、病状入力欄30と、お知らせ欄31と、ボタン29が表示される。」【0057】「病状入力欄30には、一般的な内容の質問が表示され、あてはまるものに対応するチェックボックスに患者がチェックするようになっている。」の記載を参照。)、引用文献6(特に、【請求項1】「患者の生理状態を表わすバイタルサインを数値情報で入力するバイタルサイン入力ステップと、患者の症状を非数値情報で入力する問診入力ステップと、前記バイタルサイン入力ステップと前記問診入力ステップで入力された情報により、前記患者に生活指標のアドバイスを出力手段に表示する健康アドバイス表示ステップとを有し、前記問診入力ステップは、前記患者が自分の自覚症状を入力する自覚症状入力ステップと、前記患者が、前記出力手段に表示された前記患者に症状の有無を問う質問に対する回答を入力する聴取入力ステップから構成され、前記自覚症状入力ステップは、前記患者の身体部位に関する前記自覚症状を入力する部位別症状入力ステップと、前記患者の全身に関する自覚症状を入力する全身症状入力ステップとから構成され、前記部位別症状入力ステップで、全身図が表示されて、前記患者が、前記自覚症状のある前記身体部位の位置とその症状を、前記全身図上を指示して入力することを特徴とする対話型自動問診方法。」の記載を参照。)であって、引用発明の問診手段による使用者に対する問診の一部を簡略化するために、マイクロフォンと、スピーカーに加えて、利用者が自ら症状を入力する項目選択部を備え、第1ステップとして、問診の初めに利用者が複数の項目の中から気になる自覚症状を入力するよう構成することは、当業者が適宜なし得ることである。 そして、問診の初めに利用者が自覚症状を入力する第1ステップを設けた場合には、その後の問診において、第1ステップで入力された自覚症状と、情報記憶手段に蓄積されたデータとに基づいて、利用者に応じた診断または適したアドバイスを得るために、医学的な知見に基づいた第2ステップとして利用者と対話を行うことも、例えば、引用文献4(特に、【0014】「本発明の自動問診の付加効果として、プログラムに従って回答を行うと、結果的に患者自身のコンプレインツを自動的に整理していくことになり、その結果医師が直裁的に病状を把握することが可能となり診療効率が向上する。また診察前に基本的な問診を終えているので、医師は重点事項に絞り患者と対話する時間が得られる。さらに問診する事項が標準化され順次回答を得られるので、症状や既往歴など重要診断要素を聞き漏らしてしまうおそれを防止できる。」を参照。)、引用文献6(特に、【0011】「あるいは、本装置と、担当医の診断室に置かれた診療端末(入力装置122’(図示せず)、出力装置123’(図示せず)を含む)とを有線又は無線による通信回線により接続しておき、患者自身が本装置を利用して行なった問診結果を、担当医が参照してさらに必要な問診事項を追加する必要があると判断した場合には、この問診事項を聴取データベース113に加えて、より詳細な診断に必要な情報を得るようにする。さらに、担当医の診断室に置かれた入力装置122’(図示せず)、出力装置123’(図示せず)と、患者宅に置かれた本装置の入力装置122、出力装置123を利用して、担当医が患者に直接に対話して問診して、適切な指導を行なってもよい。即ち、担当医は入力装置122’から患者に質問事項を入力すると、この質問事項は出力装置123に表示され患者は回答を入力装置122に入力するとこの回答は出力装置123’に表示され、このような質問回答の繰返しにより、担当医は診断と患者指導を行なう。」を参照。)にも開示されているとおり、必要に応じて適宜行う事項にすぎない。 また、引用発明の「微熱ですか?」という問いに対して、使用者が肯定的な回答をした場合には、「せき、動悸、腰痛、排尿痛、やせ、関節痛といった症状がないですか?」とさらに問い、使用者が「せき」を回答すれば、慢性気管支炎、肺結核、気管支拡張症といった病気を患っている可能性があり、さらに、息切れ、呼吸困難があるかの問いをし、そうであれば、慢性気管支炎であることを推定すること」は、自覚症状と対話による利用者の発話内容に基づいてなされた、利用者に応じた診断または適したアドバイスの少なくともいずれかを決定しているといえる。 よって、引用発明において周知技術を採用し、相違点2に係る本件発明のように構成することは、当業者が容易に想到できたことである。 そして、相違点1及び2を総合的に見ても、当業者が容易に想到できたことであるし、本件発明の作用効果も、引用発明、周知技術及び技術常識から当業者が予測できる範囲のものである。 してみると、本件発明は、引用発明、周知技術及び技術常識に基いて、当業者が容易に想到することができたものである。 (5)小括 したがって、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 5 むすび 以上のとおり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2021-007633

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