特許拒絶査定不服審判
2021-007377
バッグ用表皮材,バッグ用表皮材の製造方法及びバッグ
- 審判番号
- 2021-007377
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-026607外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年06月07日
- 審決日
- 2022年04月13日
- 公報発行日
- 2022年07月29日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .121-WZ (A45C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020- 26607「バッグ用表皮材,バッグ用表皮材の製造方法及びバッグ」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 9月 9日出願公開、特開2021-129726〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、令和2年2月19日の出願であって、その手続の経緯は、以下のとおりである。
令和2年10月12日付け 拒絶理由通知書
令和2年12月11日 意見書、手続補正書
令和3年 3月 4日付け 拒絶査定
令和3年 6月 7日 審判請求書、手続補正書
令和3年11月24日付け 拒絶理由通知書
令和4年 1月21日 意見書、手続補正書
第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、令和4年1月21日の手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりである。
「基材層の表面側に接着剤層を介して表皮層を接合して形成され、前記接着剤層及び表皮層をポリカーボネート系ウレタン樹脂で形成すると共に、前記基材層をポリエステル繊維により形成し、前記基材層の表面側部にインクを含浸させて印刷層を形成し、前記基材層に前記接着剤層を介して前記表皮層を接合したことを特徴とするバッグ用表皮材。」
第3 拒絶の理由
令和3年11月24日に当審が通知した拒絶理由のうちの理由1は、次のとおりのものである。
理由1(進歩性)について
請求項1~6に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:実願昭60-183769号(実開昭62-93399号)のマイクロフィルム
引用文献2:特許第5087215号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:特開2013-189736号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4:特開平5-44174号公報(周知技術を示す文献)
引用文献5:特開2015-96562号公報(周知技術を示す文献)
引用文献6:特開2014-37650号公報(周知技術を示す文献)
第4 当審の判断
1 引用文献について
(1)引用文献1の記載事項
引用文献1には、図面とともに以下の記載がある(下線は当審にて付加した。以下同様。)。
ア「<産業上の利用分野>
本考案は、家具、鞄、文房具及び履物等の外装材や、車両、建物の内装材など、様々な用途に利用される染色合成皮革に関する。」(明細書第1ページ第10-13行(空白行含まず))
イ「また、プリント意匠の施された従来の合成皮革は、使用中の摩擦や擦過によつて表面のプリント意匠が損傷を受け、着色外観が経時的に変化し易く、一定の美観を長時間維持することが困難なものであつた。」(明細書第4ページ第17-第5ページ第1行)
ウ「すなわち、本考案の染色合成皮革は、表面にプリント意匠の施された皮革用繊維質層、および該繊維質層の上側に配された染色性透明樹脂層が必要により透明接着剤層を介して積層成形され、かつ染料により染色されてなることを特徴とするものである。
さらに説明するに、本考案の染色合成皮革1は、第1図及び第2図に模式的に示すように、例えば、繊維質層2の上に皮革模様のプリント意匠3を施し、さらにその上に一層または二層以上の、透明な染色性樹脂層4bをクリア接着剤層5を介して重ね、これらを積層成形しその後ドブ漬け処理等によつて染色したものであつて、プリント意匠の柄と色とが染色の色と一体になつて天然皮革様外観を呈するものである。
本考案で用いる合成皮革用繊維質層2には、合成皮革の基材として従来より使用されてきたものを適用できるが、積層加工後の強度や触感等の点において天然皮革と同様の性質を有するものが好ましい。そのようなものとして、例えば、編織布、起毛布、および起毛布の片面または両面に樹脂を含浸させた含浸布、あるいは短繊維交絡体に樹脂を含浸させた不織布、さらには海島繊維や収束繊維等の極細繊維から作られている人工皮革用ベース不織布等が挙げられる。
また、本考案で用いる染色性透明樹脂層4bは、ドブ漬け処理等によつて染色可能であり、かつ染色後においても高い透明度が保たれるものであればよく、当業者にとつて公知の難黄変型または無黄変型の染色性ポリウレタン樹脂よりなるものが好ましい。この染色性透明樹脂層は、単一層であつても複数層であつてもよい。
さらに、本考案により上記の繊維質層上に施されるプリント意匠3は、目標とする天然皮革の模様の意匠であればよく、またプリント意匠の施用は、グラビア印刷技術等を利用して常法に従つて行なえばよい。また、本考案で用いる接着剤層5は、クリア接着剤の層であつて、プリント意匠の施された繊維質層と上記の染色性透明樹脂層を接着し得る性質を有するものであればよい。ただし、染色性透明樹脂層が加熱によつて高い粘着性を発揮する性質のものであり、該樹脂層を熱ラミネート法により容易に繊維質層の上に貼着することができるときには、接着剤の使用は不要となる。
また、本考案の染色合成皮革1は、ペーパートランスフアーコート方式及びドブ漬け処理法を利用した方法により製造される。すなわち、第3図に示すように、所要厚の繊維質層2を準備し(同図(A))、次いで所望のプリント意匠3を繊維質層2上に施し(同図(B))、次に予め透明な染色性樹脂溶液をリリースペーパー6上に塗布し乾燥させて染色性樹脂層4aを形成しておいたものを意匠3のプリントされた繊維質層2の上に重ね(同図(C))、続いてラミネート法または加熱ラミネート法により、必要により透明な接着剤層5を介して貼着し(同図(D))、その後乾燥、硬化の後リリースペーパー6を剥離し(同図(E))、しかる後これを所定の染料液中に浸漬して樹脂層4a等を染色して染色合成皮革1に仕上げる方法により製造される。」(明細書第5ページ第14-第8ページ第14行)
エ「その上、本考案の染色性合成皮革では、プリント意匠を表面ではなく皮革内部に設けたことにより、摩擦や擦過によつてプリント意匠が直接損傷を受けあるいは剥離することがなく、従つて上記の染色外観を長期間安定に維持することができる。」(明細書第9ページ第9-14行)
オ「
[図:0001385862000001.jpg]
」
カ「
[図:0001385862000002.jpg]
」
キ「
[図:0001385862000003.jpg]
」
(2)引用発明
上記(1)から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「繊維質層2の上側にクリア接着剤層5を介して染色性ポリウレタン樹脂よりなる染色性樹脂層4bを接着して形成され、前記繊維質層2の表面にプリント意匠3を施し、前記繊維質層2に前記クリア接着剤層5を介して前記染色性樹脂層4bを接着した鞄の外装材。」
(3)引用文献2の記載事項
引用文献2には、図面とともに以下の記載がある。
ア「【課題を解決するための手段】【0008】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明にあっては、基布と、この基布に接合された表皮とにより構成される表皮材を有し、上記基布と上記表皮とは表皮の素材からなる接着剤により接合され、上記基布はナイロンを素材とするハーフトリコット生地により形成され、上記表皮及び接着剤の素材はポリカーボネート系ウレタン樹脂であって、上記基布からなる基布層の厚さ寸法は250ミクロンであって、上記接着剤からなる接着層の厚さ寸法は46.5ミクロンであって、上記表皮からなる表皮層の厚さ寸法は20ミクロンであることを特徴とする。
従って、請求項1記載の発明にあっては、ポリカーボネート系ウレタン樹脂からなる表皮材及び接着剤との親和性の良好なナイロンが使用されていることから、接着剤が良好に基布に馴染み、表皮材は接着剤により表皮材と良好に接着される。」
イ「【0014】
また、表皮と基布との接合にはポリカーボネートを素材とする接着剤が使用され、ポリカーボネートは対加水分解性に優れることから、表皮材への表皮方向からの水分の浸入を防ぐと共に、表皮材への基布方向からの水分の浸入も防ぐことが可能となり、バッグの表皮材外方及び表皮材内方からの水分の浸入による加水分解を有効に防止することが可能となる。その結果、表皮材における外方または内方からの水分の浸入による、基布と表皮との剥離を有効に防止することが可能となる。
【0015】
さらに、表皮材がポリカーボネートにより形成されていることから、多湿状態で保管されたり、雨に濡れて雨滴が表皮材に付着したり、使用者の手の汗が付着した場合であっても、これらの水分によりポリカーボネートが加水分解を起こすようなことがないので、表皮材が次第に劣化するのを防止することができる。従って、長年使用した場合であっても、例えば、手紐部分にあって表皮材がひび割れて表皮材が剥離するという事態の発生を防止することができる。」
ウ「【発明を実施するための最良の形態】【0027】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態について説明する。
本実施形態に係るバッグ11にあっては、図1に示すように、表皮材12は、図2に示すように、ナイロン素材からなる基布層13と、この基布層13上方に形成された表皮層15と、上記表皮層15と上記基布層13との間に設けられた接着層16とにより構成され、上記表皮層15及び接着層16はポリカーボネートを素材としている。」
エ「
[図:0001385862000004.jpg]
」
(4)引用文献3の記載事項
引用文献3には、図面とともに以下の記載がある。
ア「【技術分野】【0001】
本発明は、車両用シートの表面材として用いられる合成皮革に関する。本発明の合成皮革は、耐屈曲性、霞度、および耐加水分解性に特に優れたものである。」
イ「【0004】
なお、ポリウレタン自体は耐屈曲性に比較的優れた素材であるが、車両用シートに用いる場合には、高い耐磨耗性、難燃性、および耐加水分解性が要求される。そのため、車両用シートのポリウレタンには、耐屈曲性に劣るが、耐加水分解性等の特性を優先してポリカーボネート系ポリウレタンがよく用いられている。また、法規制を満たすべく難燃性を付与することが求められ、ウレタンレザーを構成する少なくとも1つの層にハロゲン系、リン系、無機系等の粉体(難燃剤)を配合することが一般的である。しかし、粉体を配合すると耐屈曲性をさらに低下させることとなる(特許文献1,2)。結果として、車両用シートに用いられているポリウレタンについては、耐屈曲性の向上を図るには不利な条件が重なっている。」
ウ「【0009】
上記現状に鑑み、本発明は、車両用シートの表面材として用いられる合成皮革であって、高い耐磨耗性と難燃性を保持しつつ、優れた耐屈曲性、霞度、および耐加水分解性を備えた合成皮革を提供することを目的とする。」
エ「【0012】
本発明の合成皮革は車両用シートの表面材として用いられるものであり、繊維基材の少なくとも片面に、ポリウレタン接着剤層を介してポリウレタン表皮層を設けた構造を有している。また、ポリウレタン接着剤層とポリウレタン表皮層を構成するポリウレタンが、いずれもポリカーボネート系ポリウレタンであり、耐磨耗性に優れている。さらに、ポリウレタン接着剤層にはリン酸エステル系難燃可塑剤が含まれており、必要な難燃性が付与されている。
そして本発明では、ポリウレタン接着剤層に含まれるリン酸エステル系難燃可塑剤が、分子量が330以上でかつ酸価が0.1KOHmg/g以下のものである。またリン酸エステル系難燃可塑剤のポリウレタン接着剤層に対する配合割合が、5重量%以上である。かかる構成を備えることにより、本発明の合成皮革は、高い耐磨耗性と難燃性を保持しつつ、優れた耐屈曲性、霞度、および耐加水分解性を備えたものとなる。例えば、乗用車用のシートにおける歪みが生じやすい部位(メインサイド材やカマチ材等)に適用しても、耐屈曲性に優れているので割れにくい。」
オ「
[図:0001385862000005.jpg]
」
(5)引用文献4の記載事項
引用文献4には、図面とともに以下の記載がある。
ア「【0010】繊維質基体2に用いる基材21としては、合成皮革の基材として一般に用いられている繊維質の基材であって、例えばトリコット、メリヤスなどの編物、合繊加工糸又はスパンデックス(弾性繊維)よりなる織布、スパンボンド法によりなる不織布等が使用でき、これらを構成する繊維素材としては、綿、麻、ウール、絹等の天然繊維、レーヨン、アセテート、ナイロン、アクリル、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン等の化学繊維、及びこれらの混紡糸等がある。」
(6)引用文献5の記載事項
引用文献5には、以下の記載がある。
ア「【0003】
近年、インクジェット記録方法を用いて、記録媒体である布帛を捺染する技術が提案されている。捺染用のインクジェットインクは、布帛の種類によって使用する染料の種類も異なる。例えばポリエステルやナイロン等の疎水性合成繊維の捺染には、一般に分散染料が用いられる。分散染料とは、石鹸、アルコール、エーテル等の分散剤で、染料の微粒子を水中に分散させてエマルジョン状にした分散液のことをいう。分散染料は、通常高温加熱して疎水性合成繊維に染着させる。」
(7)引用文献6の記載事項
引用文献6には、図面とともに以下の記載がある。
ア「【技術分野】【0001】
本発明は、インクジェット染色に適したポリエステル繊維に関する。より詳細には、分散染料インクを、インクジェット記録装置を用いてポリエステル繊維に染色加工を行う際、濃色性と堅牢性に極めて優れた特性を得ることができる好適なポリエステル繊維に関するものである。
【背景技術】【0002】
ポリエステル繊維は、力学的特性や発色性及び取扱い性などの特性から、衣料用途を中心に様々な分野で使用されている。中でも、染色加工方法については、紙の印写技術を応用したインクジェットによる印写方式が発達し、繊維分野においてもすでに実用化されている。インクジェット方式による図柄形成は、図柄読取機やコンピュータと組み合わせることにより、図柄を形成したスクリーン、彫刻ローラー、転写紙などを作製する時間と費用を掛けることなく印写が可能である点で、少量多品種に対応できる手法として拡大されている状況である。
【0003】
しかし、一般にポリエステル繊維はその緻密な繊維構造から染色性に劣っており、カチオン染料及び分散染料を使用する場合はインクジェット染色方式でも染色自体速度が非常に遅く、発色工程の処理時間が長くなり生産性を阻害する傾向にある。また発色工程の処理温度が高いために、耐熱性の低い染料では、高い発色性や堅牢度得ることが困難となり、染料が限定されるものであった。
【0004】
このため、ポリエステル樹脂の改質により染色性を改良させる方法がこれまで数多く検討されており、その中でもジカルボン酸成分としてスルホン酸金属塩基を共重合させることで、常圧でカチオン染料及び分散染料に易染性のポリエステル繊維を製造することができるという発明が数多く提案されている(特許文献1~特許文献3)。スルホン酸金属塩基として一般的によく用いられているのが5-ナトリウムスルホイソフタル酸、又は5-カリウムスルホイソフタル酸成分などであり、それらを共重合化した後に繊維化することで、従来のポリエステル繊維に比べて繊維内部構造に非晶部分を保有させることができ、その結果、分散染料及びカチオン染料に常圧染色が可能で、かつ堅牢度に優れたポリエステル繊維を得ることができるとされている。しかし、それらスルホン酸金属塩基成分を共重合化してできた繊維ではインクジェット染色方法での染色性としては不十分であった。
【先行技術文献】【特許文献】【0005】
【特許文献1】特開平6-184820号公報
【特許文献2】特開2000-355831号公報
【特許文献3】特開2003-301328号公報
【発明の概要】【発明が解決しようとする課題】【0006】
本発明はこのような従来技術における問題点を解決するものであり、具体的にはインクジェット染色方法において、160℃、10分以下の乾熱処理によりカチオン染料及び分散染料インクに対して濃色性を示し、洗濯堅牢性及び耐光堅牢性に優れる特徴を有し、更には良好な紡糸性を確保できるポリエステル繊維を提供することを目的とする。」
イ「【産業上の利用可能性】【0060】
本発明によれば、インクジェット染色方式での染色において濃色性と堅牢性に極めて優れた染色が可能で、直接紡糸延伸手法又はその他の一般的な溶融紡糸手法においても安定した品質及び工程性が得られるポリエステル繊維を提供することができる。
具体的には、本発明のポリエステル繊維は、従来のポリエステル繊維と何ら遜色のない品質を有しているため、一般衣料全般、例えば紳士婦人向けフォーマル或いはカジュアルファッション衣料用途、スポーツ用途、ユニフォーム用途など、多岐に渡って有効に利用することができる。また、資材用途全般、例えば自動車や航空機などの内装素材用途、靴や鞄などの生活資材用途、カーテンやカーペットなどの産業資材用途などにも有効に利用することができる。」
2 対比
(1)本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「繊維質層2」は本願発明の「基材層」に相当し、以下同様に、「上側」は「表面側」に、「クリア接着剤層5」は「接着剤層」に、「染色性樹脂層4b」は「表皮層」に、「接着」は「接合」に、「表面」は「表面側部」に、「プリント意匠3」は「印刷層」に、「施し」は「形成し」に、「鞄の外装材」は「バッグ用表皮材」にそれぞれ相当する。
(2)一致点及び相違点
以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「基材層の表面側に接着剤層を介して表皮層を接合して形成され、前記基材層の表面側部に印刷層を形成し、前記基材層に前記接着剤層を介して前記表皮層を接合したバッグ用表皮材。」
<相違点1>
本願発明は、「前記接着剤層及び表皮層をポリカーボネート系ウレタン樹脂で形成する」のに対し、引用発明は、染色性樹脂層4bは染色性ポリウレタン樹脂よりなり、クリア接着剤層5の材質は不明である点。
<相違点2>
本願発明は、「前記基材層をポリエステル繊維により形成し」、前記基材層の表面側部に「インクを含浸させて」印刷層を形成しているのに対し、引用発明は繊維質層2をポリエステル繊維により形成しているのか否か不明であって、プリント意匠3もインクを含浸させて形成しているのか否か不明である点。
3 判断
以下、相違点について検討する。
(1)相違点1について
表皮材として用いられる合成皮革の分野において、耐加水分解性を付与するために、繊維質からなる基材の表面に形成する接着剤層及び表皮層を、ポリカーボネート系ウレタン樹脂とすることは、例えば、引用文献2(上記「1(3)」)、引用文献3(上記「1(4)」)に示されるように、従来周知の技術(以下、「周知技術1」という。)である。
引用発明は、鞄に用いられる外装材であり、雨滴等の付着による加水分解を防ぐことは当然に内在する課題であるから、引用発明において、耐加水分解性を付与するために、上記周知技術1を適用し、上記相違点1に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得たものである。
(2)相違点2について
引用発明の繊維質層2の材質について、上記「1(1)ウ」に、「本考案で用いる合成皮革用繊維質層2には、合成皮革の基材として従来より使用されてきたものを適用できるが、積層加工後の強度や触感等の点において天然皮革と同様の性質を有するものが好ましい。そのようなものとして、例えば、編織布、起毛布、および・・・(中略)・・・、さらには海島繊維や収束繊維等の極細繊維から作られている人工皮革用ベース不織布等が挙げられる。」とあるように、引用文献1には、繊維質層2に、合成皮革の基材として従来より使用されてきた編織布もしくは不織布が使用されることが示唆されている。
ここで、合成皮革の基材として、ポリエステル繊維を用いることは、例えば、引用文献4(上記「1(5)」)に示されるようにごく一般的であり、また、該ポリエステル繊維の表面に施すプリントを、インクジェットプリンタにより分散染料からなるインクを含浸させて形成することは、従来周知の技術(以下、「周知技術2」という。)にすぎないものである(例えば、引用文献5(上記「1(6)」)、引用文献6(上記「1(7)」)参照。)。
してみると、引用発明において、繊維質層2の材質として、ごく一般的なポリエステル繊維を採用することは、引用文献1に示唆されているといえ、該示唆に基づいて、繊維質層2の表面に施すプリント意匠3を、上記周知技術2を適用して形成し、上記相違点2に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得たものである。
4 請求人の主張について
審判請求人は、令和4年1月21日に提出された意見書の4.(3)ii「『表皮剤層(『表皮層』の誤記、以下同様。)及び接着剤層にエステル系ウレタン樹脂又はエーテル系ウレタン樹脂を採用すると共に、基剤層をポリエステル系樹脂により形成した場合のポリエステル樹脂に使用される印刷層を形成するインクとの間で発生する化学反応』について」において、
「『表皮剤層』及び『接着剤層』を、一般に、合成皮革製バッグに使用される合成樹脂であるエステル系ウレタン樹脂又はエーテル系ウレタン樹脂により構成すると共に、『基材層』をポリエステル系樹脂により形成した場合には、『表皮剤層』及び『接着剤層』を構成するエステル系又はエーテル系ウレタン樹脂と、『基材層』を構成するポリエステル樹脂に使用される『印刷層』を形成するインクとの間で化学反応が起きて印刷層のインクが接着剤層に滲出し、その結果、印刷が不鮮明になってしまい、バッグとしての外観品質、商品価値が大幅に減衰する、という不具合が従来よりありました。
この点に関し本件特許出願人は、鋭意研究を重ね、ポリカーボネート系ウレタン樹脂と、ポリエステル系樹脂に使用されるインクとの間では上記のような化学反応が起きないことを多年の実験結果により知得したものであります。
従って、本願発明においては表皮剤層及び印刷剤層にポリカ―ボネート系ウレタン樹脂を採用することにより、印刷層を表皮剤層及び接着剤層の内方に設けることにより表面方向からの物理的な接触による印刷層の劣化を回避すると共に、上記のような印刷層の接着剤層への滲出による印刷品質の劣化という不具合を回避するように構成されております。この点が本願発明の要旨であります。」(上記意見書4ページ4~18行)と主張している。
しかしながら、本願明細書には、「表皮層及び接着剤層にエステル系ウレタン樹脂又はエーテル系ウレタン樹脂を採用すると共に、基剤層をポリエステル系樹脂により形成した場合のポリエステル樹脂に使用される印刷層を形成するインクとの間で発生する化学反応」という課題について何ら記載されておらず、当該課題を解決するために、「表皮層及び印刷剤層にポリカ―ボネート系ウレタン樹脂を採用する」ことも一切記載がない。
ここで、本願発明において「ポリカーボネート系ウレタン樹脂」を表皮層と接着剤層に採用することの技術的意義を検討すると、本願明細書には、「ポリカーボネート系ウレタン樹脂」に関し、以下の記載がある。
・「【0007】・・・ポリカーボネート系ウレタン樹脂は、耐候性が高く、耐久性に優れるとともに、基材層への密着性に優れ、堅牢性の高い被膜を形成する。」(【0029】にも同様の記載がある。)
・「【0008】・・・ポリカーボネート系ウレタン樹脂は、耐候性が高く、耐久性に優れることから、印刷のインクとは化学反応することなく、インクが接着剤層に浸出して、滲んで、印刷が不鮮明となってしまうという不具合を防止することができる。」(【0018】、【0037】にも同様の記載がある。)
・「【0009】・・・接着剤層は、ポリカーボネート系ウレタン樹脂で構成されるので、表皮層方向からの水分の浸入を防ぐことが可能となり、水分の浸入による加水分解を有効に防止することが可能となる。その結果、表皮層の剥離を有効に防止することが可能となる。」(【0019】、【0040】にも同様の記載がある。)
・「【0009】・・・ポリカーボネート系ウレタン樹脂は、耐光性にも優れているので、色褪せたり変色を起こして劣化することがほとんどなく、また、変形や型崩れもおきにくく、さらに、表皮層の表面が平滑な外観品質に優れ、長年の使用の用に供することができる。」(【0019】、【0040】にも同様の記載がある。)
これらの本願明細書の記載によると、本願発明は、「ポリカーボネート系ウレタン樹脂」の耐候性、耐久性及び耐光性に優れるという性質を利用して、堅牢性が高く、容易に剥離し難い表皮層及び接着剤層を形成するために、「ポリカーボネート系ウレタン樹脂」を採用しているものと把握できる。さらに、耐候性が高く、耐久性に優れることから印刷のインクと化学反応しないという性質を利用して、インクが接着剤層に浸出して、滲んで、印刷が不鮮明とならないように、「ポリカーボネート系ウレタン樹脂」を採用しているものとも把握できるが、表皮層及び接着剤層をエステル系ウレタン樹脂又はエーテル系ウレタン樹脂により構成し、基材層をポリエステル系樹脂により形成した場合に生じる、「ポリエステル樹脂」に使用される印刷層を形成するインクとの化学反応や、当該インクの浸出、滲みに着目しているものとは把握できない。すると、本願発明の「ポリカーボネート系ウレタン樹脂」は、表皮層及び接着剤層をエステル系ウレタン樹脂又はエーテル系ウレタン樹脂により構成し、基材層をポリエステル系樹脂により形成した場合に生じる、「ポリエステル樹脂」に使用される印刷層を形成するインクとの化学反応が起きないようにするために採用されているものとは把握できない。この点は、本願明細書の段落【0011】、【0028】、【0050】において、基材層をポリエステル繊維から構成することを必須のものとしていないことからも裏付けられている。
してみると、請求人が主張するような、「『表皮層』及び『接着剤層』を、一般に、合成皮革製バッグに使用される合成樹脂であるエステル系ウレタン樹脂又はエーテル系ウレタン樹脂により構成すると共に、『基材層』をポリエステル系樹脂により形成した場合」に「『基材層』を構成するポリエステル樹脂に使用される『印刷層』を形成するインクとの間で化学反応が起き」るという問題意識は、本願明細書に一切記載されておらず、本願発明が、そのような問題意識に基づいて、なされたものとは解されない。
また、請求人は上記意見書において、「ポリエステル系樹脂に使用されるインクとの間で化学反応が起きず、印刷層の接着剤層への滲出による印刷品質の劣化という不具合を回避できる」という効果が、顕著な効果である旨(上記意見書4ページ下から17~11行(空白行含まず。))を主張しているが、請求人の主張する「ポリエステル系樹脂に使用されるインク」に対する効果は、本願明細書に何ら記載されていない。
さらに、請求人は上記意見書において、接着剤層及び表皮層にポリカーボネート系ウレタン樹脂を採用した理由が、「審判官殿が主張されるように、『耐加水分解性を付与するために、・・・ポリカーボネート系ウレタン樹脂を採用した』ものではな」い旨(上記意見書4ページ25~27行)も主張している。しかしながら、前述したとおり、本願発明は、上記問題意識に基づいてなされたものとは解されないうえに、上記「3(1)」に記載したとおり、引用発明において、耐加水分解性を付与する観点から上記周知技術1を適用したものも、本願発明と同様に「接着剤層及び表皮層をポリカーボネート系ウレタン樹脂で形成」されることに違いはないから、上記「3(1)」に示した判断を左右するものではない。
よって、上記主張を採用することはできない。
5 本願発明の作用効果
本願発明の作用効果について検討するに、印刷層は接着剤層及び表皮層に保護され、表皮層が他物品と接触しても印刷層には影響しないことから、印刷層が経年時に消失したり劣化する事態を防止することができ、耐久性を大幅に向上させることができる(段落【0004】、【0018】)という効果は、引用発明から得られる効果であって、格別な効果とは認められない。また、ポリカーボネート系ウレタン樹脂が、印刷のインクとは化学反応することなく、インクが接着剤層に浸出して、滲んで、印刷が不鮮明となってしまうという不具合を防止することができる(段落【0008】、【0018】、【0037】)という効果は、引用発明及び上記周知技術1から得られる効果であって、格別な効果とは認められない。さらに、ポリエステル繊維で基材層を形成したことで、分散染料による印刷により柄や色彩を表出できる(段落【0019】)という効果は、上記周知技術2から得られる効果であって、格別な効果とは認められない。
してみると、本願発明の作用効果はいずれも、引用発明及び上記周知技術1もしくは上記周知技術2から当業者が予測できる範囲のものである。
6 まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2021-007377