2021-006812
アゴニスト抗体の活性を増強する抗体重鎖定常領域配列
- 審判番号
- 2021-006812
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-517135外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年05月26日
- 審決日
- 2024年03月13日
- 公報発行日
- 2024年08月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】シャンハイ ジャオ トン ユニバーシティ スクール オブ メディシン
- 【請求人代理人】名古屋国際弁理士法人
- 分類
- P18 .121-WZ (C12N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 7項目
第1 手続の経緯
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本願は、平成29年6月8日(パリ条約による優先権主張 2016年6月8日(CN)中華人民共和国)を国際出願日とする出願であって、令和3年1月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対し同年5月26日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がなされ、令和5年3月1日付けで当審より拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年9月14日付けで意見書及び手続補正書が提出され、令和6年1月15日付けで上申書が提出されたものである。
第2 本願発明
本願の請求項1~19に係る発明は、令和5年9月14日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~19に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】重鎖定常領域及び上記の重鎖定常領域のN端に位置する抗原結合モジュールを含む、アゴニスト活性を増強するための融合タンパク質であって、上記重鎖定常領域は、N末端からC末端の方向に、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、及びCH3ドメインが連続して連結されており、上記CH1ドメイン及びヒンジ領域の配列は、ヒトIgG2のCH1ドメイン及びヒンジ領域の配列に由来し、ヒトIgG2のCH1ドメイン及びヒンジ領域の野生型機能を有し、かつ上記CH2ドメイン及び上記CH3ドメインの配列は、ヒトIgGにおけるCH2ドメイン及びCH3の配列の変異体であり、上記CH2ドメイン及び上記CH3ドメインは、ヒトIgG1のヒトFcγRIIBとの親和性よりも高いヒトFcγRIIBとの親和性を有し、かつ上記CH2ドメイン及び上記CH3ドメインは、ヒトFcγRI、FcγRIIA、及びFcγRIIIAから選択される活性化ヒトFcγRよりもヒトFcγRIIBに対して、ヒトIgG1よりも高い相対結合傾向性を有し、活性化ヒトFcγRよりもヒトFcγRIIBに対しての上記結合傾向性は、ヒトFcγRI、FcγRIIA、及びFcγRIIIAから選択される活性化ヒトFcγRよりもヒトFcγRIIBに対しての相対結合親和性によって定義され、次式によって計算されるI/A比として定量化され、続きを表示(全12行)I/A比=変異体hFcγRIIA-R131のタンパク質分子の平衡解離定数及び変異体hFcγRIIIA-F158の分子の平衡解離定数のうち低い方を、hFcγRIIB受容体の分子の平衡解離定数で割ったもの上記CH2ドメイン及び上記CH3ドメインは、以下からなる群から選択され、a)ヒトIgG1のCH2-CH3ドメインの配列であり、アミノ酸変異G237D、P238D、P271G及びA330Rを含む配列、b)ヒトIgG1のCH2-CH3ドメインの配列であり、アミノ酸変異G237D、P238D、H268D、P271G及びA330Rを含む配列、c)ヒトIgG2のCH2-CH3ドメインの配列であり、アミノ酸変異S267E及びL328Fを含む配列、並びにd)ヒトIgG2のCH2-CH3ドメインの配列であり、アミノ酸変異H268D及びP271Gを含む配列、アミノ酸変異の位置は、IgGのEU番号に従って番号付けされ、上記の抗原結合モジュールは、リガンドであり、上記のリガンドは、免疫共刺激分子であり、上記の免疫共刺激分子は、CD80、CD86、ICOSL、OX40L、CD137L、CD40L、CD30L、CD27L、CD244、CD150、CD48、CD84、CD319、Ly118、CD229或いはSLAMF8からなる群から選択される、融合タンパク質」
第3 当審拒絶理由の理由1の概要
この出願の請求項1~21に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下、「本願優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第4 当審の判断
1 引用文献1の記載事項
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当審の拒絶の理由で引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である引用文献1には、次の事項が記載されている。なお、引用文献1は英文のため当審による翻訳文で示す。下線は当審で付与した。
(ア)
「【請求項1】修飾された重鎖定常領域を含む抗体であって、該修飾された重鎖定常領域が、N末端からC末端の順にCH1ドメイン、ヒンジ、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含み、該ヒンジがIgG2アイソタイプのものであり、CH1、CH2およびCH3ドメインの少なくとも1つが、IgG2アイソタイプのものではない、抗体。【請求項2】該ヒンジが野生型ヒトIgG2ヒンジであるか、または野生型ヒトIgG2ヒンジのアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の抗体。 」
(イ)
「【請求項117】修飾された重鎖定常領域を含む抗体の製造方法であって、該抗体が、CH1ドメイン、ヒンジ、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを、N末端からC末端の順に含み、以下の工程:(a)IgG2ヒンジおよび/またはIgG2CH1ドメインではない、ヒンジおよび/またはCH1ドメインを含む抗体を提供し;(b)該ヒンジおよび/またはCH1ドメインを、それぞれIgG2ヒンジおよび/またはIgG2CH1ドメインで置換する工程続きを表示(全28行)を含む、方法。【請求項118】細胞による抗体の内在化を増大させる方法であって、(a)IgG2ヒンジおよび/またはIgG2CH1ドメインではない、ヒンジおよび/またはCH1ドメインを含む抗体を提供する工程;(b)該ヒンジおよび/またはCH1ドメインを、それぞれIgG2ヒンジおよび/またはIgG2CH1ドメインで置換する工程を含む、方法。【請求項119】抗体の内在化が、非IgG2アイソタイプのヒンジを含む同じ抗体、例えばIgG1定常領域を含む抗体の内在化と比べて増大される、請求項118に記載の方法。【請求項120】抗体のアゴニスト活性を増大させる方法であって、(a)IgG2ヒンジおよび/またはIgG2CH1ドメインではない、ヒンジおよび/またはCH1ドメインを含む抗体を提供する工程;(b)該ヒンジおよび/またはCH1ドメインを、それぞれIgG2ヒンジおよび/またはIgG2CH1ドメインで置換する工程を含む、方法。【請求項121】アゴニスト活性が、非IgG2アイソタイプのヒンジを含む同じ抗体、例えばIgG1定常領域を含む抗体のアゴニスト活性と比べて増強される、請求項120に記載の方法。【請求項122】IgG2ヒンジが、野生型ヒトIgG2ヒンジであるか、または野生型ヒトIgG2ヒンジのアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項117から121のいずれか一項に記載の方法。【請求項123】CH1、CH2またはCH3ドメインの少なくとも1つを、それぞれ異なるアイソタイプのCH1、CH2またはCH3ドメインで置換する工程を含む、請求項117から122のいずれか一項に記載の方法。【請求項124】(a)CH1ドメインをIgG2CH1ドメインで置換する工程;(b)CH2ドメインをIgG1 CH2ドメインで置換する工程;および/または(c)CH3ドメインをIgG1 CH3ドメインで置換する工程を含む、請求項117から123のいずれか一項に記載の方法。」
(ウ)
「特定の態様において、抗体は、修飾された重鎖定常領域を含み、ここで、(a)CH1ドメインは、さらなる修飾を含むか、もしくは含まない、野生型ヒトIgG2CH1ドメインまたは野生型IgG1 CH1ドメインであり、(b)ヒンジは、C219S置換を含むか、もしくは含まない野生型IgG2ヒンジであり、(c)CH2ドメインは、さらなる修飾を含むか、もしくは含まない、野生型ヒトIgG1CH2ドメインまたは野生型IgG2 CH2ドメインであり、そして(d)CH3ドメインは、位置356にアミノ酸Eおよび位置358にアミノ酸Mを含むか、もしくは含まない、野生型ヒトIgG1CH3ドメインまたは野生型ヒトIgG2 CH3ドメインである。特定の態様において、修飾された重鎖定常領域は、例えば、配列番号26~37および78~93のいずれか1つに記載された、本明細書に記載のアミノ酸配列を含む。」(第3頁12~20行)
(エ)
「修飾された重鎖定常領域を含む抗体を作製するための方法もまた、提供される。本明細書で提供されるすべての方法には、非IgG2アイソタイプのヒンジを含む同じ抗体と比較して、細胞による抗体の内在化を増加させる方法、および抗体のアゴニスト活性を増加させる方法が含まれる。そのような方法は、IgG2ヒンジではないヒンジを有する抗体を提供する工程、および該ヒンジをIgG2ヒンジ(例えば、野生型ヒトIgG2ヒンジであるヒンジ、野生型ヒトIgG2ヒンジのアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するヒンジ、またはジスルフィド結合の形成を減少させる修飾を有するヒンジ、例えば、アミノ酸置換C219Sを有するヒンジ)で置換する工程を含む。一態様において、抗体の内在化は、少なくとも10%、30%、50%、75%、2倍、3倍、5倍またはそれ以上増強または増加され、結果として、少なくとも10%、30%、50%、75%、2倍、3倍、5倍またはそれ以上のT1/2の減少がもたらされる。ある態様において、アゴニスト活性は、エフェクターT細胞における増加したサイトカイン放出または増加した増殖;Tregの関与がTregの機能を低下させる場合、低下したT調節細胞活性;または、増加したTregの枯渇、により定義されるように、少なくとも10%、30%、50%、75%、2倍、3倍、5倍またはそれ以上増加または増大される。」(第4頁3~17行)
(オ)
「本明細書で用いる用語、抗体の“抗原結合部分”は、抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体の1つまたは複数の断片を意味する。抗体の抗原結合部分は、“ヒンジ含有抗原結合部分”であり得る。抗体の抗原結合機能は、完全長抗体の断片によって実行可能であることが示されている。用語、本明細書に記載の抗体の“抗原結合部分”に包含される結合断片の例には、(i)Fab断片、VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価の断片;(ii)F(ab’)2断片、ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価の断片;(iii)VHおよびCH1ドメインからなるFd断片;(iv)抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなるFv断片、(v)VHドメインからなる、dAb断片(Ward et al., (1989) Nature 341:544-546);および、(vi)単離された相補性決定領域(CDR)または必要に応じて合成リンカーによって連結され得る2つ以上の単離されたCDRの組み合わせ、が含まれる。さらに、Fv断片の2個のドメインであるVLおよびVHは、別個の遺伝子によりコードされているが、それらは、組換え法を用いて、一本のタンパク質鎖として作製できる合成リンカーにより連結でき、ここで、VLおよびVH領域は対となって、一本鎖Fv(scFv)として公知の一価の分子を形成する;例えば、Bird et al. (1988) Science 242:423-426;および、 Huston et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883を参照のこと。このような一本鎖抗体もまた、抗体の“抗原結合部分”に包含されることが意図される。これらの、および他の可能性のある構築物は、Chan & Carter (2010) Nat. Rev. Immunol. 10:301に記載されている。これらの抗体断片は、当業者に公知の常套法を用いて入手可能であり、該断片は、無傷の抗体と同様の方法で有用性についてスクリーニングされる。抗原結合部分は、組換えDNA技術により、または無傷の免疫グロブリンの酵素的切断または化学的切断により、産生され得る。」(第19頁22行~第20頁13行)
(カ)
「本明細書で用いる用語“モノクローナル抗体”は、特定のエピトープに対する単一の結合特異性および親和性を示す抗体、または全ての抗体が特定のエピトープに対して単一の結合特異性および親和性を示す複数の抗体組成物を意味する。一般的に、かかるモノクローナル抗体は、単一の細胞または抗体をコードする核酸から誘導され、意図的に配列変化を導入することなく伝播され得る。従って、用語“ヒトモノクローナル抗体”は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列由来の可変および任意の定常領域を有するモノクローナル抗体を意味する。一態様において、ヒトモノクローナル抗体は、例えば、トランスジェニックまたは染色体導入(transchromosomal)非ヒト動物(例えば、ヒト重鎖導入遺伝子および軽鎖導入遺伝子を含むゲノムを有するトランスジェニックマウス)から得られたB細胞を、不死化細胞と融合させて得られる、ハイブリドーマにより産生される。」(第27頁1行~第28頁7行)
(キ)
「ある態様において、修飾された重鎖定常ドメインを含む抗体は、細胞表面分子に結合し、細胞表面分子、例えば、免疫細胞、例えばT細胞、Teff細胞、Th1細胞、Th2細胞、CD4+T細胞、CD8+T細胞、Treg細胞、樹状細胞、マクロファージ、単球、ランゲルハンス細胞、NK細胞、骨髄由来サプレッサー細胞、B細胞または任意の他の免疫細胞上の細胞表面分子の生物学的活性をアゴナイズまたはアンタゴナイズする。細胞表面分子は、阻害性分子、例えば、共刺激性分子(例えば、GITR、OX40、CD137、CD40、ICOSおよび他のTNFRファミリーメンバー)であってよく、抗体は、活性をさらに刺激し得る(アゴニスト抗体)か、または抗体は、活性を阻害し得る(アンタゴニスト抗体)。細胞表面分子は、阻害分子(例えば、CTLA-4、PD-1、PD-L1、LAG-3、TIM-3)であってよく、抗体は、活性をさらに刺激する(アゴニスト抗体)か、または抗体は、活性を阻害してよい(アンタゴニスト抗体)。ある態様において、修飾された重鎖定常ドメインを含む抗体は、例えばT細胞からのIL-2および/またはIFN-γ分泌を誘導することにより、例えば、対象の免疫系を高める刺激性(または共刺激性)分子のアゴニスト抗体(例えば、抗GITR抗体)である。他のアゴニスト抗体は、APCを活性化し、抗腫瘍T細胞応答を促進し、および/またはT細胞免疫のない状態で癌を制御する可能性を有する細胞傷害性骨髄細胞を促進することが示されている。刺激性分子のアゴニスト抗体は、抗CTLA-4または抗PD-1などの負の免疫チェックポイントを阻止する阻害性分子のアンタゴニスト抗体とは異なる。T細胞増殖などのアゴニスト活性は、当技術分野で公知の種々の方法を用いて測定することができる。ある態様において、修飾された重鎖定常ドメインを含む抗体は、抗CTLA-4または抗PD-1抗体などの負の免疫チェックポイントを阻止または阻害することにより、例えば、活性化T細胞上に発現する阻害性受容体を標的とすることにより、対象の免疫応答を増強する、チェックポイント阻害剤のアンタゴニスト抗体である。T細胞増殖の阻害などのアンタゴニスト活性は、当技術分野で公知の種々の方法を用いて測定することができる。一態様において、抗体は、(i)共刺激受容体のアゴニスト、または(ii)例えば、T細胞に対する阻害シグナルのアンタゴニストであり、両方とも、抗原特異的T細胞応答(免疫チェックポイント調節因子)の増強をもたらし得る。ある態様において、抗体は、(i)共刺激受容体のアンタゴニスト、または(ii)例えばT細胞に対する阻害シグナルのアゴニストである。ほとんどの共刺激分子および共阻害分子は、免疫グロブリンスーパーファミリー(IgSF)のメンバーであり、修飾された重鎖定常領域を有する抗体は、それらのいずれかに結合し得る。共刺激受容体または共阻害受容体に結合する膜結合リガンドの1つの重要なファミリーは、B7ファミリーであり、B7-1、B7-2、B7-H1(PD-L1)、B7-DC(PD-L2)、B7-H2(ICOS-L)、B7-H3、B7-H4、B7-H5(VISTA)、およびB7-H6が含まれ、そして修飾された重鎖定常領域を有する抗体は、それらの何れかに結合し得る。共刺激受容体または共阻害受容体に結合する膜結合リガンドの別のファミリーは、同族のTNF受容体(TNFR)ファミリーメンバーに結合する分子のTNFファミリーであり、CD40およびCD40L、OX-40、OX-40L、CD70、CD27L、CD30、CD30L、4-1BBL、CD137、TRAIL/Apo2-L、TRAILR1/DR4、TRAILR2/DR5、TRAILR3、TRAILR4、OPG、RANK、RANKL、TWEAKR/Fn14、TWEAK、BAFFR、EDAR、XEDAR、TACI、APRIL、BCMA、LTβR、LIGHT、DcR3、HVEM、VEGI/TL1A、TRAMP/DR3、EDAR、EDA1、XEDAR、EDA2、TNFR1、リンホトキシンα/TNFβ、TNFR2、TNFα、LTα、LTβ、LTβR、リンホトキシンα 1β2、FAS、FASL(CD178)、DR3(TNFRSF25)、RELT、DR6、TROY、NGFR(例えば、Tansey (2009) Drug Discovery Today 00:1を参照のこと)が含まれる。従って、本明細書に記載の抗体は、これらの表面分子のいずれかに結合することができ、それらは、例えば、(i)T細胞活性化を阻害するIgSFファミリーもしくはB7ファミリーもしくはNFRファミリーのタンパク質のアゴニストまたはアンタゴニスト(または、阻害剤もしくは阻止剤)、またはT細胞活性化を阻害するサイトカイン(例えば、IL-6、IL-10、TGF-β、VEGF;“免疫抑制サイトカイン”)のアンタゴニスト、および/または(ii)例えば癌などの増殖性疾患を処置するための、免疫応答を調節する、例えば刺激するための、T細胞活性化を刺激する、IgSFファミリー、B7ファミリーもしくはTNFファミリーの刺激性受容体、またはサイトカインの刺激性受容体の、アゴニストまたはアンタゴニストであり得る。」(第57頁1行~第58頁21行)
(ク)
「V.非抗体タンパク質および抗体誘導体本明細書に記載の発明はまた、全長抗体ではない分子にも適用され得る。ただし、それらはヒンジを含む。例えば、増強された生物学的活性を有するIgG融合タンパク質を作製することができる。従って、本発明は、IgG2ヒンジおよび要すれば、CH2およびCH3ドメインまたはその部分を含む、IgG定常領域、例えばFc領域に結合された、例えば共有結合された活性部分を含む融合タンパク質を提供する。Fcは、表5および6に示される修飾された重鎖定常領域のFc部分のような、本明細書に記載の修飾された重鎖定常領域の任意のFcであり得る。本明細書に記載の抗体はまた、二重特異性分子を形成するためにも使用され得る。抗体またはその抗原結合部分は、別の機能的分子、例えば、別のペプチドまたはタンパク質(例えば、受容体に対する別の抗体またはリガンド)に誘導体化または連結されて、少なくとも2つの異なる結合部位または標的分子に結合する二重特異性分子を生成し得る。本明細書に記載の抗体は、2以上の他の機能的分子に誘導体化または連結されて、2以上の異なる結合部位および/または標的分子に結合する多重特異性分子を生成してもよい;かかる多重特異性分子はまた、本明細書で用いる用語“二重特異性分子”に包含されることが意図される。二重特異性分子を作製するために、本明細書に記載の抗体は、二重特異性分子が得られるように、別の抗体、抗体断片、ペプチドまたは結合模倣物などの1つまたは複数の他の結合分子に、(例えば、化学的カップリング、遺伝子融合、非共有結合または他の方法によって)機能的に連結され得る。」(第76頁4行~23行)
(ケ)
「治療的有効用量は、早期または予備的な疾患の徴候が存在するとき、所望され得るような癌の発症を予防または遅延させ得る。癌の診断に利用される実験室検査には、化学、血液学、血清学および放射線学が含まれる。従って、上記のいずれかをモニターする臨床的または生化学的アッセイを、特定の処置が癌を処置するのに治療的に有効な用量であるかどうかを決定するのに用いることができる。当業者は、対象のサイズ、対象の症状の重症度、および選択される特定の組成物または投与経路などの要因に基づいて、かかる量を決定することができる。」(第82頁6~13行)
(コ)
「ある態様において、修飾された重鎖定常領域を含む抗体は、刺激性分子に結合し、その活性を阻害する、すなわち、刺激性分子のアンタゴニストであるか、または抗体は、阻害性分子に結合し、その活性を刺激する、すなわち、阻害性分子のアゴニストである。かかる抗体は、免疫系または免疫応答が下方制御されるべき疾患、例えば、自己免疫疾患を処置するため、または移植片拒絶を予防するために使用され得る。本発明は、対象が処置されるように、例えば、癌性腫瘍の増殖が阻害または低減されるように、および/または腫瘍が退行するように、癌を有する対象を処置する方法であって、本明細書に記載の抗体を対象に投与することを含む方法を提供する。例えば、抗GITR抗体によるGITRの活性化は、患者の癌細胞に対する免疫応答を増強することができる。抗体は、癌性腫瘍の増殖を阻害するために単独で使用可能である。あるいは、抗体は、以下に記載の通り、別の薬剤、例えば、他の免疫原性薬剤、標準的な癌処置剤、または他の抗体と組み合わせて使用されてよい。」(第85頁3~16行)
(サ)
「実施例8:遺伝子操作された定常ドメインを有する抗体のFc受容体結合
本実施例は、IgG2のCH1およびヒンジを含む修飾重鎖定常領域を有する抗体は、それらがIgG1のCH2およびCH3ドメインを含有する場合、FcγRに結合することを実証する。
可変ドメインによる抗原結合に加えて、抗体は、定常ドメインとの相互作用を介してFc-γ受容体(FcgR)に結合し得る。これらの相互作用は、抗体依存性の細胞性細胞傷害性抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)および抗体依存性の細胞貪食(ADCP)などのエフェクター機能を仲介する。エフェクター機能活性は、IgG1アイソタイプでは高いが、IgG2およびIgG4では、これらのアイソタイプがFcgRに対してより低い親和性を有するため、非常に低いかまたは存在しない。加えて、IgG1のエフェクター機能は、FcgR親和性および選択性を変化させるために、定常領域内のアミノ酸残基の変異によって改変され得る。
Fcγ受容体(FcγRまたはFcgR)に対する抗体の結合は、Biacore表面プラズモン共鳴(SPR)およびFortebio社のバイオレイヤー干渉(BLI)法を含むバイオセンサー技術を用いて、試験した。SPR試験は、Biacore T100装置(GE Healthcare)にて、25℃で行った。マウス抗6xHis抗体由来のFab断片を、~3000RUの密度まで、EDC/NHSを用いてCM5センサーチップ上に固定化した。種々のhisタグを付したFcgR(7ug/ml)を、10ul/分で30秒間の接触時間を用いてC末端hisタグを介して捕捉し、1.0uMの抗体の結合を、10mM NaPO4、130mM NaCl、0.05% p20(PBS-T) pH7.1の泳動緩衝液で評価した。これらの試験に用いたFcgRには、CD64(FcgRI)、CD32a-H131(FcgRIIa-H131)、CD32a-R131(FcgRIIa-R131)、CD32b(FcgRIIb)、CD16a-V158(FcgRIIIa-V158)、CD16b-NA1(FcgRIIIb-NA1)、およびCD16B-NA2(FcgRIIIb-NA2)が含まれた。BLI実験を、Fortebio Octet RED装置(Pall、Fortebio)にて、25℃で、10mM NaPO4、130mM NaCl、0.05% p20(PBS-T) pH7.1中で行った。プロテインAでコーティングしたセンサー上に、希釈されていない発現上清から抗体を捕捉し、次いで、1uM hCD32a-H131、hCD32a-R131、hCD32b、hCD16a-V158、または0.1uM hCD64分析物を結合させた。
初めに、種々の標的に結合する抗体を、置換S267E(SE)およびS267E/L328F(SELF)、ならびに変異P238D、P271G、H268D、A330R、G237D、E233Dの種々の組合せを含む修飾されたIgG1 Fcドメインを含んで作製し、それらをV4、V7、V8、V9およびV12と称した。これらの抗体の結合を、Biacore SPRによって、IgG1f、IgG2.3(IgG2-C219S)およびIgG4.1(IgG4-S228P)抗体、ならびに全てのFcgRに対して結合を減少させるように遺伝子操作されたIgG1.1f抗体と比較して、試験した。図12に示される結果は、SEおよびSELFに対する増加したCD32a-H131、CD32a-R131およびCD32b結合、ならびにCD32a-H131およびCD32a-R131よりもCD32bに対してV4、V7、V8、V9およびV12変異体の増加した選択性(図12)を含む、IgG1f、IgG2.3およびIgG4.1ならびに変異型IgG1抗体に対して予期されるFcgR結合特性を示す。
構築物の次のセットを、エフェクター機能を他のエフェクター機能が陰性のIgG2アイソタイプ中に操作するために使用した。この試験のために、上記の変異を、IgG2.3定常領域、またはIgG2.3G1-AYと称するIgG2.3/IgG1fハイブリッドに導入した(表19)。抗体を上清として小スケールで発現させ、Fortebio Octetバイオレイヤー干渉法バイオセンサー技術を用いてFcgRに対する結合を試験した。抗体は上清中に低濃度で存在しているため、プロテインAでコーティングしたセンサーを用いて上清から抗体を捕捉し、ついで溶液中でFcgR分析物に結合させることにより、実験を行った。精製され、かつ上清の、野生型IgG1、SE、P238D、V4およびV12抗体を含む対照IgG1fもまた比較のために含められ、これらの対照抗体のそれぞれは予期されるFcgR結合特性を示した(図13)。IgG2.3抗体はまた、予期される結合プロファイルを示し、CD32a-H131のみに対してかなりの結合が見られた。しかしながら、S267E、L328F、P238D、P271G、H268D、A330R、G237DまたはE233D変異をIgG2.3に導入する全ての変異は、対応する操作されたIgG1 mAbのFcgR親和性を再現できなかった(図13)。対照的に、IgG2.3G1-AY構築物は、IgG2.3のCH1およびヒンジ領域を保持しながら、野生型IgG1のFcgR結合特性を完全に保存することができた。加えて、S267E、L328F、P238D、P271G、H268D、A330R、G237DおよびE233Dを含む全てのIgG2.3G1-AY変異体は、同じ変異を含むIgG1バージョンmAbに匹敵するFcgR結合特性を示した(図13)。このことは、野生型または変異型IgG1のエフェクター機能と組み合わされたIgG2のCH1およびヒンジ領域を有する抗体の成功裏の産生を実証する。
[図:0001412518000001.jpg]
このエンジニアリング戦略は、IgG2.3G1-AY、IgG2.3G1-AY-S267E(IgG2.3G1-AY-V27)、ならびにIgG2-B型変異体(IgG2.5G1-AYおよびIgG2.5G1-AY-V27)、およびIgG1およびIgG2定常ドメインの異なる組合せを含む他のハイブリッド抗体を用いてフォーマットされた他の抗体を産生し、そしてSPR技術を用いて、抗his Fabにより捕捉されたhisタグを付したFcgRに対するこれらの抗体の結合を試験することにより、さらに調査された。Octetの上清データと一致して、SPRデータは、IgG2.3G1-AYおよびIgG2.3G1-AY-V27抗体が、IgG1fおよびIgG1f-S267E A型IgG2抗体(IgG2.3)のCH1およびヒンジ領域を含むにもかかわらず、それぞれIgG1fおよびIgG1f-S267Eに匹敵するFcgR結合特性を有することを示した(図14AおよびBならびに表20)。同様のデータはまた、IgG2.5G1-AYおよびIgG2.5G1-AY-V27抗体を用いても得られ、IgG1fまたは修飾されたIgG1f様エフェクター機能を有するB型IgG2抗体(IgG2.5と呼ばれるC131S変異を含む)の成功裏の産生を実証している。IgG2.3G1-AY、IgG2.3G1-AY-V27、IgG2.5G1-AYまたはIgG2.5G1-AY-V27定常領域を有するが、異なる可変領域を有するいくつかの他の抗体のデータは、エンジニアリング戦略が、可変ドメインとは無関係の他の抗体に広く適用可能であることを示す(図14AおよびBならびに表20)。IgG1f様FcgR結合特性を示す他の構築物は、IgG1-G2.3G1-AY、およびIgG1ΔTHTであるが、IgG2.3G1-KH、IgG2.5G1-KH、IgG2.3プラスTHT、IgG2.5プラスTHTおよびIgG2.3プラスGGG構築物を含む、修飾された定常領域構築物のいくつかは、IgG1f様FcgR結合特性を保持できなかった(図14AおよびBならびに表20)。
表20(略)
まとめると、これらのデータは、ヒンジ領域中の保存されたCPPCPAPモチーフへのC末端直後の配列がFcgR介在性エフェクター機能を付与し、一方で、抗体のCH1およびヒンジの上部部分は、IgG2または修飾されたIgG2配列で置換されて、IgG1および修飾されたIgG1のエフェクター機能を、IgG2CH1および/またはヒンジ領域を含む抗体の優れた内在化またはシグナル伝達特性と共に組み合わせて有する可能性を示す。(第111頁1行~第116頁3行)
(シ)配列表
[図:0001412518000002.jpg]
[図:0001412518000003.jpg]
(ス)図13
[図:0001412518000004.jpg]
2 判断
(1)引用発明の認定
上記1には、IgG2のCH1およびヒンジを含む修飾重鎖定常領域を有する抗体は、それらがIgG1のCH2およびCH3ドメインを含有する場合、FcγRに結合することを示すために、変異を、IgG2.3G1-AYと称するIgG2.3/IgG1fハイブリッドに導入し、表19に記載の修飾重鎖定常領域IgG2.3G1-AY-V25(hHC-IgG2-C219S/hHC-IgG1f-G237D,P238D,H268D,P271G,A330R:配列表配列番号165)を作製し、抗体を上清として小スケールで発現させたこと(摘記事項(サ)、(シ))、抗体は予期されるFcgR結合特性を示したことが、mAb1-IgG2.3G1-AY-V25-sup(摘記事項(ス):図13)として記載されている。
したがって、引用文献1には、修飾重鎖定常領域IgG2.3G1-AY-V25(hHC-IgG2-C219S/hHC-IgG1f-G237D,P238D,H268D,P271G,A330R:配列表配列番号165)を有するmAb1-IgG2.3G1-AY-V25-sup抗体(以下、引用発明1bという。)が記載されている。
(2)対比
引用発明1bのmAb1-IgG2.3G1-AY-V25-sup抗体は、抗体であるから重鎖定常領域のN端に位置する抗体の抗原結合断片を含み、重鎖定常領域は、hHC-IgG2-C219S/hHC-IgG1f-G237D,P238D,H268D,P271G,A330Rと記載されているとおり、N末端からC末端の方向に、hHC-IgG2すなわちヒト(human)IgG2のCH1ドメインおよびヒンジ領域に由来しC219Sの置換を含む配列、hHC-IgG1すなわちヒトIgG1のCH2ドメインとCH3ドメインに由来し、G237D,P238D,H268D,P271G,A330R置換を含む配列が連続して連結されているといえる。
本願発明と引用発明1bを対比する。
引用発明1bの「重鎖定常領域のN端に位置する抗体の抗原結合断片」は、本願発明の「重鎖定常領域のN端に位置する抗原結合モジュール」に相当し、
以下同様に、
引用発明1bの重鎖定常領域「hHC-IgG2-C219S/hHC-IgG1f-G237D,P238D,H268D,P271G,A330R」を含む抗体は、引用文献1に、アゴニスト活性が、非IgG2アイソタイプのヒンジを含む同じ抗体、例えばIgG1定常領域を含む抗体のアゴニスト活性と比べて増強されること(摘記事項(エ))が記載されており、本願明細書【0085】において、「本発明の一部の抗体の実施例は、実際に異なる抗体セクションを応用して構築された融合タンパク質と見なされても良い、それは、構造の形式に、抗体の特徴をとどめられるが、具体的な各の機能部分は、異なる抗体IgGサブタイプ由来のものである可能性があり、一部が、更にアミノ酸突然変異を有する。」と記載されているから、引用発明1bの上記抗体は、ヒトIgG2のCH1ドメインおよびヒンジ領域に由来する配列とヒトIgG1のCH2ドメインとCH3ドメインに由来する配列を融合させたものであり、本願発明の「アゴニスト活性を増強するための融合タンパク質」に、
引用発明1bの「修飾重鎖定常領域IgG2.3G1-AY-V25(hHC-IgG2-C219S/hHC-IgG1f-G237D,P238D,H268D,P271G,A330R:配列表配列番号165)」は、N末端からC末端の方向に、hHC-IgG2すなわちヒト(human)IgG2のCH1ドメインおよびヒンジ領域に由来しC219Sの置換を含む配列、hHC-IgG1すなわちヒトIgG1のCH2ドメインとCH3ドメインに由来し、G237D,P238D,H268D,P271G,A330R置換を含む配列が連続して連結されたものであるから、本願発明の「重鎖定常領域は、N末端からC末端の方向に、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、及びCH3ドメインが連続して連結されており」に、
引用発明1bの「hHC-IgG2-C219S」は、IgG2のCH1およびヒンジを含む修飾重鎖定常領域であって、引用発明1b(配列番号165:下段)と本願請求項1に従属する請求項2の選択肢b)ヒトIgG1由来のCH2ドメインとCH3ドメインとの配列であって、上記のCH2ドメインとCH3ドメインとが、G237DとP238DとH268DとP271GとA330Rとの変異を有するものの一態様として記載された配列番号11(上段)との以下のアライメント(CH1,Hinge,CH2等の記載は本願図2の記載に基づき追記した。以下同様。) によると、CH1およびヒンジを含む領域はC219S位を除き両配列で一致するから、本願発明の「CH1ドメイン及びヒンジ領域の配列は、ヒトIgG2のCH1ドメイン及びヒンジ領域の配列に由来し」に、
引用発明1bの「hHC-IgG1f-G237D,P238D,H268D,P271G,A330R」は、IgG1のCH2およびCH3を含む修飾重鎖定常領域であって、以下のアライメントによると、CH2およびCH3を含む領域がアミノ酸変異G237D、P238D、H268D、P271G及びA330Rを含む点で一致するから、本願発明の「上記CH2ドメイン及び上記CH3ドメインの配列は、ヒトIgGにおけるCH2ドメイン及びCH3の配列の変異体であり、上記CH2ドメイン及び上記CH3ドメインは、b)ヒトIgG1のCH2-CH3ドメインの配列であり、アミノ酸変異G237D、P238D、H268D、P271G及びA330Rを含む配列」に、
それぞれ相当する。
<アライメント>
SEQ11 ASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSS
SEQ165 ASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSS
************************************************************
219
---------------CH1-------------------><--Hinge---><--CH2----
SEQ11 GLYSLSSVVTVPSSNFGTQTYTCNVDHKPSNTKVDKTVERKCCVECPPCPAPELLGDDSV
SEQ165 GLYSLSSVVTVPSSNFGTQTYTCNVDHKPSNTKVDKTVERKSCVECPPCPAPELLGDDSV
*****************************************.******************
-------------------------------CH2--------------------------
SEQ11 FLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSDEDGEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTY
SEQ165 FLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSDEDGEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTY
************************************************************
-----------------------------CH2-------><----CH3------------
SEQ11 RVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPRPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTK
SEQ165 RVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPRPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSREEMTK
*******************************************************:*:**
SEQ11 NQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQG
SEQ165 NQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQG
************************************************************
SEQ11 NVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
SEQ165 NVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
***************************
したがって、本願発明と引用発明1bの両者は、
「重鎖定常領域及び上記の重鎖定常領域のN端に位置する抗原結合モジュールを含む、アゴニスト活性を増強するための融合タンパク質であって、上記重鎖定常領域は、N末端からC末端の方向に、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、及びCH3ドメインが連続して連結されており、上記CH1ドメイン及びヒンジ領域の配列は、ヒトIgG2のCH1ドメイン及びヒンジ領域の配列に由来し、かつ上記CH2ドメイン及び上記CH3ドメインの配列は、ヒトIgGにおけるCH2ドメイン及びCH3の配列の変異体であり、上記CH2ドメイン及び上記CH3ドメインは、b)ヒトIgG1のCH2-CH3ドメインの配列であり、アミノ酸変異G237D、P238D、H268D、P271G及びA330Rを含む配列であり、アミノ酸変異の位置は、IgGのEU番号に従って番号付けされた、融合タンパク質。」である点で一致する。
そして本願発明と引用発明1bとは、以下の点で相違する。
<相違点1>
本願発明は、「CH1ドメイン及びヒンジ領域の配列」が、「ヒトIgG2のCH1ドメイン及びヒンジ領域の野生型機能を有」するところ、
引用発明1bは、そのような特定をしていない点。
<相違点2>
本願発明は、「CH2ドメイン及び上記CH3ドメインは、ヒトIgG1のヒトFcγRIIBとの親和性よりも高いヒトFcγRIIBとの親和性を有し、かつ上記CH2ドメイン及び上記CH3ドメインは、ヒトFcγRI、FcγRIIA、及びFcγRIIIAから選択される活性化ヒトFcγRよりもヒトFcγRIIBに対して、ヒトIgG1よりも高い相対結合傾向性を有し、
活性化ヒトFcγRよりもヒトFcγRIIBに対しての上記結合傾向性は、ヒトFcγRI、FcγRIIA、及びFcγRIIIAから選択される活性化ヒトFcγRよりもヒトFcγRIIBに対しての相対結合親和性によって定義され、次式によって計算されるI/A比として定量化され、
I/A比=変異体hFcγRIIA-R131のタンパク質分子の平衡解離定数及び変異体hFcγRIIIA-F158の分子の平衡解離定数のうち低い方を、hFcγRIIB受容体の分子の平衡解離定数で割ったもの」であるところ、
引用発明1bのCH2ドメイン及び上記CH3ドメインは、ヒトIgG1のヒトFcγRIIBとの親和性や相対結合傾向性が明らかにされていない点。
<相違点3>
本願発明は、重鎖定常領域のN端に位置する抗原結合モジュールが「CD80、CD86、ICOSL、OX40L、CD137L、CD40L、CD30L、CD27L、CD244、CD150、CD48、CD84、CD319、Ly118、CD229或いはSLAMF8からなる群から選択される、」免疫共刺激分子であるところ、
引用発明1bは、重鎖定常領域のN端に位置する抗原結合モジュールが「抗体の抗原結合断片」である点。
(3)本願発明の相違点1についての判断
引用文献1には、「該ヒンジが野生型ヒトIgG2ヒンジである」(摘記事項(ア))、「IgG2ヒンジが、野生型ヒトIgG2ヒンジである」(摘記事項(イ))、「ヒンジは、C219S置換を含むか、もしくは含まない野生型IgG2ヒンジであり」(摘記事項(ウ))、「IgG2ヒンジではないヒンジを有する抗体を提供する工程、および該ヒンジをIgG2ヒンジ(例えば、野生型ヒトIgG2ヒンジであるヒンジ・・・・で置換する工程を含む。」(摘記事項(エ))と記載されるように、IgG2ヒンジについてはC219S置換を含まない野生型IgG2ヒンジとすることが記載されている。
したがって、引用文献1の上記記載に接した当業者にとって、引用発明1bにおいて、野生型IgG2ヒンジとすることに格別の困難性はないといえる。
(4)本願発明の相違点2についての判断
本願明細書の表4にはG1抗体Fc断片のI/A比率が0.40、hFcγRIIB結合を向上する倍率が1であること、V11(H1)である抗体Fc断片のI/A比率が271、hFcγRIIB結合を向上する倍率が94であることが記載されており、V11(H1)とはhIgG1(G237D/P238D/H268D/P271G/A330R)であると記載されている(表2)。
このことから、I/A比率、hFcγRIIB結合の向上に大きく寄与しているのは、CH2-CH3ドメインの、G237D/P238D/H268D/P271G/A330Rの変異であることは明白であり、この変異がI/A比率、hFcγRIIB結合の向上に大きく寄与しているものと解される。
また、引用文献1の記載に照らすと、引用発明1bの本願発明との構造上の相違点1、すなわちIgG2ヒンジによって両発明の抗体の構造が大きく変わり、アゴニスト活性が大きく低下するなどの特別の事情も見あたらない。
そうすると、引用発明1bは、G237D/P238D/H268D/P271G/A330Rの変異を全て含むものであるから、本願発明と同様にヒトFcγRIIBとの親和性が、ヒトIgG1のヒトFcγRIIBとの親和性倍率1より相当程度大きく、I/A比率が少なくともヒトIgG1の0.40より相当程度大きいと解される。
したがって、引用文献1には、引用発明1bについての、重鎖定常領域のヒトFcγRIIBとの親和性のヒトIgG1のヒトFcγRIIBとの親和性に対する比率やI/A比率について直接記載されていないものの、ヒトFcγRIIBとの親和性やI/A比率の向上に寄与する変異を全て有しているから、本願発明と引用発明1bが相違点2で実質的に相違するということはできない。
(5)本願発明の相違点3についての判断
引用文献1には、修飾された重鎖定常領域を有する抗体の標的抗原を共刺激性分子(例えば、CD40およびCD40L、OX-40、OX-40L、CD30、CD30L)とすることが記載されており(摘記事項(キ))、抗体またはその抗原結合部分は、別の機能的分子、例えば、別のペプチドまたはタンパク質(例えば、受容体に対する別の抗体またはリガンド)に誘導体化または連結されて、少なくとも2つの異なる結合部位または標的分子に結合する二重特異性分子を生成し得ること(摘記事項(ク))が記載されている。
したがって、引用発明1bの標的抗原としてCD40、OX-40、およびCD30を選択すること、その場合に抗体の抗原結合モジュールとしてCD40、OX-40、およびCD30に対するリガンドである、CD40L、OX-40L、およびCD30Lを選択することも当業者が適宜なし得ることに過ぎない。
(6)本願発明の効果についての判断
本願明細書の発明の詳細な説明には、重鎖定常領域を本発明の重鎖定常領域に取り替えることで、より高いアゴニスト活性を得られること(【0049】段落)、具体的には、JAC3(anti-hCD40-hIgG2-SELF)とJAC4(anti-hCD40-hIgG2-HDPG)を含む抗ヒトCD40抗体が、hIgG2より強いアゴニスト活性を有すること(【0026】段落、図8)、IgG1とIgG3のCH1-ヒンジ領域と比べて、ヒトIgG2のCH1-ヒンジ領域が、OVAワクチンモデルにおける抗CD40抗体の免疫アゴニスト活性をもっとサポートできること(【0026】段落、図10)が記載されている。
しかしながら、引用発明1bは、IgG1とIgG3のCH1-ヒンジ領域と比べて優れるIgG2のCH1-ヒンジ領域をすでに有しており、また、hIgG2より強いアゴニスト活性を有するのに必要なCH2-CH3ドメインの、G237D/P238D/H268D/P271G/A330RやS267E/L328Fなどの変異をすでに有しているから、優れたアゴニスト活性を有するものである。
また、引用文献1の記載に照らすと、引用発明1bの本願発明との構造上の相違点であるC219Sの変異によって抗体の構造が大きく変わり、アゴニスト活性が大きく低下するなどの特別の事情も見あたらないのであるから、本願発明は、引用発明1bと比較して、当業者に予見できない程度に顕著なアゴニスト活性を有するとはいえない。
(7)請求人の主張について
請求人が令和5年9月14日付け意見書、及び令和6年1月15日付け上申書においてする主張とそれに対する合議体の判断は、次のとおりである。
ア 請求人の主張
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(ア)本願発明が構造/機能の相関関係における発見に基づく重鎖の特定の改変スキームに基づくものである点について
引用文献には、本願発明におけるアゴニスト活性を増強するための重鎖定常領域の特定の改変スキームを開示しておらず、引用文献に記載の発明に基づいて、当業者は重鎖定常領域の改変を行うために本願発明における重鎖の特定の改変スキームを使用する動機付けはなく、本願発明における重鎖定常領域に対する特定の改変スキームの効果を期待することができない。
本願出願人は、本願発明に記載されるアゴニズムを増強するための思想(IgG2 CH1ヒンジと、FcγRIIBに対する結合親和性が増加し、(FcγRIIA及びFcγRIIIAを含む活性化FcγRと比較して)I/A比によって定義され得るFcγRIIBに対する結合傾向性が増加したFcとの組み合わせ)が新規であると考えている。
この技術的解決策は、本願の開示以前には、引用文献1を含む他の研究によって示唆されていなかった。これまでの研究では、FcγRIIBに対する結合親和性が増加し、FcγRIIBに対する結合傾向性が増加したIgG2 CH1ヒンジ及びFc変異体がアゴニズムを相乗的に増強できるという技術的解決策を支持したものはなく、これが本願発明の主要な発見である。
アゴニズムを増強するために本願発明で提案される解決策は、IgG2ヒンジと、FcγRIIBに対する結合親和性が増加し、(FcγRIIA及びFcγRIIIAを含む活性化FcγRと比較して)FcγRIIBに対する結合傾向性(I/A比によって定義される)が増加したFc(すなわち、CH2及びCH3ドメイン)との組み合わせを必要とする。
本願出願人は、アゴニズムを増強するための抗体をどのように入手するかはまったく予測できないと考えており、引用文献1は何のヒントも与えていないと考える。
(イ)ヒンジ部分の相違について
引用文献1の表19における変異体25、26、19、17、及び15はすべて、ヒンジ領域にC219S変異を含んでいる。C219S変異は、非常に異なる構造特性を導入し、FcγR非依存性アゴニズムを駆動することが示されており(Cancer Cell.2015 Jan 12;27(1):138-48)、これは、配列のアゴニスト活性がFcγR結合に依存する本願発明とは大きく異なる(本願の図16、19、4及び5)。したがって、ヒンジのC219S変異は抗体の構造に影響を与え、FcγR関連の抗体の機能に影響を与えるものであると考える。
C219Sの構造への影響がFcγR結合に影響を及ぼすかどうかは明らかではないにもかかわらず、ヒンジはFc受容体に対するヒトIgGの結合親和性を調節することが以前に報告されている。
したがって、本願出願人は、IgG-FcγR結合に対するC219S変異の影響が不明瞭であることを考慮すると、本願発明におけるJAC3(請求項1c)のFcγR結合特性は引用文献1のIgG2.3-V19から直接推論することはできないと考える。
引用文献1に記載の発明において、IgG2ヒンジ(優先的にC219Sヒンジ変異体)のみが強調され、Fc(及びそのFcγR結合親和性)の影響は無視されている。本願発明に記載の配列は、引用文献1における変異体と比較して重要な配列の差異があり、これらの差異の影響が不明確であるため、そのFcγR結合特性を引用文献1から直接予測することはできないと考える。また、引用文献1または他の従来技術に基づいて、本願発明に記載される配列の優れたアゴニズムを予測することも不可能であると考える。
(ウ)引用文献1には対応する操作されたIgG1mAb、図13のFcγR親和性を再現できなかったと記載されていることについて
引用文献1には、引用文献1の112ページで「しかしながら、S267E、L328F、P238D、P271G、H268D、A330R、G237D、またはE233D変異をIgG2.3(C219S変異を持つIgG2)に導入するすべての変異体は、対応する操作されたIgG1mAb、図13のFcγR親和性を再現できなかった」と明確に述べられている(以下参照)。これはIgG2とIgG1との間の不適合性、またはC219S変異のいずれかが原因である可能性がある。
したがって、さまざまな変異が与えられた、IgG2.3-V15(P238D/H268D/P271G)及びIgG2.3-V17(P238D/H268D/P271G/A330R)(引用文献1)から、本願発明におけるJAC4(請求項1d)(H268D/P271G)のFcγR結合特性を推測することはできないと考える。
イ 判断
(ア)本願発明が重鎖定常領域の構造/機能の相関関係における発見に基づく重鎖の特定の改変スキームに基づくものである点について
本願発明は、重鎖定常領域の構造/機能の相関関係に基づく融合タンパク質の重鎖の改変・設計方法や、重鎖定常領域の構造/機能の相関関係に基づく融合タンパク質のスクリーニング方法ではなく、融合タンパク質そのものを対象とするものである。
請求人の主張(ア)は、本願発明の融合タンパク質の構成に想到するための動機付けは、請求人による重鎖定常領域の構造/機能の相関関係における発見に基づく以外には存在し得ないことを当然の前提とするものであり、このような前提が認められないことは論ずるまでもないことである。
問題とすべきは、請求人が見出したとされる重鎖定常領域の構造/機能の相関関係における発見ではなく、引用発明等の本願発明以外のものの中に、本願発明の融合タンパク質の構成に至る動機付けとなるに足る記載や示唆が見出されるか否かである。
したがって、引用文献記載の発明から本願発明の構成に至る動機付けを検討するにあたり、請求人が論じるような重鎖定常領域の構造/機能の相関関係における発見が必ずしも必要であるとはいえない。
よって、請求人の主張(ア)は採用することはできない。
(イ)ヒンジ部分の相違について
上述のとおり、引用文献1には、「該ヒンジが野生型ヒトIgG2ヒンジである」(摘記事項(ア))、「IgG2ヒンジが、野生型ヒトIgG2ヒンジである」(摘記事項(イ))、「ヒンジは、C219S置換を含むか、もしくは含まない野生型IgG2ヒンジであり」(摘記事項(ウ))、「IgG2ヒンジではないヒンジを有する抗体を提供する工程、および該ヒンジをIgG2ヒンジ(例えば、野生型ヒトIgG2ヒンジであるヒンジ・・・・で置換する工程を含む。」(摘記事項(エ))と記載されるように、IgG2ヒンジについてはC219S置換を含まない野生型IgG2ヒンジを用いることが記載されている。
請求人はヒンジのC219S変異は抗体の構造に影響を与え、FcγR関連の抗体の機能に影響を与えるものであると考えると主張するものの、一方でC219Sの構造への影響がFcγR結合に影響を及ぼすかどうかは明らかではない旨、またIgG-FcγR結合に対するC219S変異の影響が不明瞭である旨も主張しており、上記のとおりの引用文献1の記載に照らすと219位の置換だけで抗体構造が大きく変わり、引用文献1に記載された発明から予見できない程度の顕著な効果を奏するとは認められない。
そして、C219S置換を含まない野生型IgG2ヒンジを採用することを困難とするような格別の事情は、請求人の主張(イ)を踏まえても見出すことができない。
(ウ)引用文献1には、対応する操作されたIgG1mAb、図13のFcγR親和性を再現できなかったと記載されていることについて
請求人が指摘する実施例8の記載(記載事項(サ))において、「S267E、L328F、P238D、P271G、H268D、A330R、G237DまたはE233D変異をIgG2.3に導入する全ての変異は、対応する操作されたIgG1 mAbのFcgR親和性を再現できなかった」とされているものは、IgG2.3抗体であって、IgG1fハイブリッドのIgG2.3G1-AYでない。
一方で、引用発明1bは、IgG1fハイブリッドのIgG2.3G1-AY構築物であってIgG2.3抗体ではなく、引用文献1には「IgG2.3G1-AY構築物は、IgG2.3のCH1およびヒンジ領域を保持しながら、野生型IgG1のFcgR結合特性を完全に保存することができた。加えて、S267E、L328F、P238D、P271G、H268D、A330R、G237DおよびE233Dを含む全てのIgG2.3G1-AY変異体は、同じ変異を含むIgG1バージョンmAbに匹敵するFcgR結合特性を示した」と記載されており、C219S変異を有するにもかかわらずFcγR結合特性を有することは図13で裏付けられている。
したがって、C219S変異が抗体の構造に影響を及ぼし、FcγR結合特性を推測することはできないとの請求人の主張(ウ)を採用することはできない。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2021-006812