2021-005482
積層セラミックコンデンサおよびその製造方法
- 審判番号
- 2021-005482
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-240850外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年04月27日
- 審決日
- 2022年02月08日
- 公報発行日
- 2022年05月27日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .121-Z (H01G)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第159条第1項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 10項目
第1 手続の経緯
本願は、平成28年12月13日の出願であって、令和2年7月3日に手続補正書が提出され、同年9月8日付けで拒絶理由が通知され、同年11月9日に意見書及び手続補正書が提出され、令和3年1月26日付けで拒絶査定されたところ、同年4月27日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正書及び上申書が提出されたものである。
第2 令和3年4月27日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年4月27日にされた手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の概要
令和3年4月27日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)は、令和2年11月9日に手続補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された発明特定事項により特定される、
「セラミックを主成分とする誘電体層と、内部電極層と、が交互に積層され、積層された複数の前記内部電極層が交互に対向する2端面に露出するように形成され、略直方体形状を有する積層チップと、前記2端面から前記積層チップの側面にかけて形成された1対の外部電極と、を備え、前記1対の外部電極は、前記誘電体層の主成分セラミックよりも熱膨張係数が大きい金属または当該金属の合金を主成分としてセラミック添加材を含む下地層上にめっき層が形成された構造を有し、前記積層チップの積層方向の最外層は、前記誘電体層と主成分が同じのカバー層であり、前記下地層の主成分と、前記セラミック添加材と、前記カバー層の主成分との間の熱膨張係数は、前記下地層の主成分>前記カバー層の主成分>前記セラミック添加材、の関係を有し、αaを前記セラミック添加材の熱膨張係数とし、Eaを前記セラミック添加材のヤング率とし、Vaを前記下地層における前記セラミック添加材の体積分率とし、αmを前記下地層の主成分の熱膨張係数とし、Emを前記下地層の主成分のヤング率とし、Vmを前記下地層の主成分の体積分率とした場合に、αc=(αaEaVa+αmEmVm)/(EaVa+EmVm)が前記カバー層の熱膨張係数に対して±20%以内であることを特徴とする積層セラミックコンデンサ。」
との発明(以下、「本願発明」という。)を、
「セラミックを主成分とする誘電体層と、内部電極層と、が交互に積層され、積層された複数の前記内部電極層が交互に対向する2端面に露出するように形成され、略直方体形状を有する積層チップと、前記2端面から前記積層チップの側面にかけて形成された1対の外部電極と、を備え、前記1対の外部電極は、CuまたはNiを主成分としてセラミック添加材を含む下地層上にめっき層が形成された構造を有し、前記積層チップの積層方向の最外層は、前記誘電体層と主成分が同じのカバー層であり、前記下地層の主成分と、前記セラミック添加材と、前記カバー層の主成分との間の熱膨張係数は、前記下地層の主成分>前記カバー層の主成分>前記セラミック添加材、の関係を有し、αaを前記セラミック添加材の熱膨張係数とし、Eaを前記セラミック添加材のヤング率とし、Vaを前記下地層における前記セラミック添加材の体積分率とし、αmを前記下地層の主成分の熱膨張係数とし、Emを前記下地層の主成分のヤング率とし、Vmを前記下地層の主成分の体積分率とした場合に、αc=(αaEaVa+αmEmVm)/(EaVa+EmVm)が前記カバー層の熱膨張係数に対して±20%以内であることを特徴とする積層セラミックコンデンサ。」(下線部は、補正箇所を示す。)
との発明(以下、「本件補正発明」という。)とする補正を含むものである。
なお、上記本願発明及び本件補正発明には「前記誘電体層と主成分が同じのカバー層であり」(注:下線は当審で付した。)と記載されているが、日本語として語法が不正確であり、「前記誘電体層と主成分が同じカバー層であり」の明らかな誤記と認められるので、以下このように解釈し判断する。
2 補正の適否
(1)新規事項の有無、シフト補正の有無、補正の目的要件
上記補正は、「前記誘電体層の主成分セラミックよりも熱膨張係数が大きい金属または当該金属の合金」を具体的に「CuまたはNi」に限定する補正であり、上記補正の前後で産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
また、本願明細書の段落【0020】に「例えば、下地層21は、Ni,Cu,Pd等を主成分とする。」と記載されていることから、新規事項を追加するものではなく、さらにシフト補正に該当するともいえない。
したがって、上記補正は特許法第17条の2第5項第2号(補正の目的)に規定された事項を目的とするものであり、また、同法第17条の2第3項(新規事項)、及び第4項(シフト補正)に違反するところはない。
(2)独立特許要件について
上記補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、本件補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か、すなわち、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものか否かについて検討する。
ア 本件補正発明
本件補正発明は、上記「1 補正の概要」の項の「本件補正発明」のとおりのものと認める。
イ 引用発明
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された、本願出願前に公開された文献である特開平4-37009号公報(以下、「引用文献」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。
a.「〔産業上の利用分野〕
本発明は、導電性ペースト、特に、積層型コンデンサの端子電極形成用導電性ペーストに関する。
〔従来の技術〕
電子機器の小型化に伴い、電子機器に使用される電子部品も小型化している。たとえばセラミックコンデンサでは、小型で軽量な積層セラミックコンデンサが開発されている。この積層セラミックコンデンサは、たとえば、厚さ数μmの内部電極層と厚さ数十μmのセラミック誘電体層とが交互に積層されて一体焼成されたコンデンサ素子と、外部電極とを有している。ここで、外部電極は導電性ペーストを用いて形成されている。また、積層セラミックコンデンサは、はんだ耐熱性を向上させ、またプリント基板への実装を可能とするために、電気メッキ法により表面にNi膜またはSn膜が形成されている。
従来の外部電極形成用の導電性ペーストは、銀系の導電性粉末とガラスフリットと有機バインダーと有機溶剤とを主成分とするものである(たとえば特公昭62-60802号公報参照)、導電性ペーストによる外部電極の形成は、コンデンサ素子の端面に上述の導電性ペーストを塗布し、ペースト中の導電性粉末とガラスフリットとを焼成してコンデンサ素子と一体化することにより行われている。
〔発明が解決しようとする課題〕
前記従来の導電性ペーストを用いた積層セラミックコンデンサは、外部電極とコンデンサ素子との界面で、コンデンサ素子側にクラックが生じやすい、これは、コンデンサ素子の熱膨張率が8.5~10.5×10-6/℃であるのに対し、外部電極の熱膨張率が19.6×10-6/℃程度であり、両者の熱膨張率の差が大きいためである。特に、コンデンサ素子が大型(たとえば3.2mm×1.6mm以上)の積層セラミックコンデンサでは、上述のようなクラックが生じやすい。
本発明の目的は、コンデンサ素子にクラックを生じさせにくい外部電極が形成できる、積層型コンデンサの端子電極形成用導電性ペーストを提供することにある。」(1頁左下欄17行ないし2頁左上欄14行)
b.「〔課題を解決するための手段〕
本発明の積層型コンデンサの端子電極形成用導電性ペーストは、銀系の導電性粉末と、ガラスフリットと、有機バインダーと、有機溶剤とを含むものである。この電導性ペーストは、銀系の電導性粉末100重量部に対して粒子状のTiO2を2~15重量部含んでいることを特徴としている。
*********
本発明に用いられる導電性粉末は、導電性ペーストの焼成後に電極を形成するための成分である。導電性粉末としては、たとえば銀、銀を主成分とする合金の粉末、または銀の粉末に他の種類の導電性金属の粉末を混合したものが用いられる。このような導電性粉末としては、銀-バラジウム系合金にPd、Ni、Cu等の金属粉末を若干混合したものを例示できる。導電性粉末の平均粒径は、0.2~2μm程度が望ましい。平均粒径が2μmを超える場合には、導電性粉末の焼結速度が遅くなりやすい。なお、導電性粉末は、導電性ペースト中に通常65~75重量%程度混合される。」(2頁左上欄15行ないし右上欄14行)
c.「本発明の導電性ペーストは、上述のガラス成分と異なるフィラーとしての粒子状のTiO2(二酸化チタン)を含んでいる。TiO2は、導電性ペーストの焼成により得られる端子電極の熱膨張率とコンデンサ本体の熱膨張率との差を小さくし、コンデンサ本体と端子電極との界面でコンデンサ本体側に生じるクラックを防止する。ここで、TiO2は、熱膨張率が7.6×10-6/℃であるため、焼成後の端子電極中に分散状態で存在すると、端子電極の熱膨張率を低めてコンデンサ本体の熱膨張率に近づけることができる。なお、TiO2の粒径は、1.4~3.0μmが好ましい。」(2頁右下欄7ないし18行)
d.「図において、積層セラミックコンデンサ1は、直方体状の本体部2と、本体部2の両端に対向するように配置された1対の外部電極3a,3bとを備えている。
本体部2は、たとえばチタン酸バリウムのような誘電体磁器材料のグリーンシートを多数枚積層し、これを焼成して一体化することにより構成されている。本体部2の内部には、内部電極4a,4bが交互に多数配置されている。内部電極4aは、本体部2の図右側端面に配置された外部電極3aに接続されており、左側端面に配置された外部電極3bとは絶縁されている。一方、内部電極4bは外部電極3bに接続されており、外部電極3aとは絶縁されている。また、内部電極4a,4bは、それぞれ平行に配置されている。
外部電極3a,3bは、本発明の導電性ペーストを用いて構成されている。したがって、外部電極3a,3bは、銀系の導電性材料とガラスフリットとTiO2とを含んでいる。」(3頁左上欄20行ないし右上欄18行)
e.「まず、本体部2を用意する。本体部2は、内部電極4a,4bを形成するための導電性ペーストが印刷されたセラミックグリーンシートを複数枚積層し、これを焼成することにより得られる。なお、焼成により得られた本体部2の両端部には、それぞれ内部電極4aまたは4bの端部が露出している。
次に、得られた本体部2の両端面、すなわち内部電極4a.4bが露出する面に外部電極3a,3bを形成する。」(3頁左下欄7ないし16行)
f.「得られた積層セラミックコンデンサ1の外部電極3a,3bには、Niメッキが施される。そして、さらにその上にSn-Pbのはんだメッキが施される。これにより、良好なはんだヌレ性とはんだ耐熱性とを備えた積層セラミックコンデンサが得られる。」(3頁右下欄18行ないし4頁左上欄3行)
g.図1、2として以下の図面が記載されている。
「[図:0001383823000001.jpg]」
(イ)上記の記載によれば、引用文献には次の事項が記載されている。
・上記(ア)d.によれば、引用文献には「直方体状の本体部2と、本体部2の両端に対向するように配置された1対の外部電極3a,3bとを備え」た「積層セラミックコンデンサ1」が記載されている。
・上記(ア)d.には「本体部2は」「チタン酸バリウムのような誘電体磁器材料のグリーンシートを多数枚積層し、これを焼成して一体化することにより構成され」、「本体部2の内部には、内部電極4a,4bが交互に多数配置され」ると記載されており、内部電極4aと内部電極4bは交互に多数配置されているといえる。また、上記(ア)e.に「本体部2は、内部電極4a,4bを形成するための導電性ペーストが印刷されたセラミックグリーンシートを複数枚積層し、これを焼成することにより得られる」と記載され、また図2をみてもセラミックグリーンシートと内部電極4a,4bが交互に積層されていることは明らかである。
したがって、「本体部2」は、チタン酸バリウムのような誘電体磁器材料のグリーンシートを多数枚積層し、これを焼成して一体化することにより構成され、本体部2の内部には、前記グリーンシートと内部電極4a,4bが交互に積層され、内部電極4aと内部電極4bは交互に多数配置されているといえる。
・上記(ア)d.によれば、「内部電極4aは本体部2の」「外部電極3aに接続されており」、「外部電極3bとは絶縁され」、「内部電極4bは外部電極3bに接続され」ており、「外部電極3aとは絶縁されている」と記載されている。そして上記(ア)e.には「本体部2の両端部には、それぞれ内部電極4aまたは4bの端部が露出している」ことが記載されている。
したがって、「本体部2」において、内部電極4aは本体部2の外部電極3aに接続され、内部電極4bは外部電極3bに接続され、本体部2の両端部には、それぞれ内部電極4aまたは4bの端部が露出しているといえる。
・図1、図2によれば、外部電極3a,3bは本体部2の両端から、両端を除く残りの4面へ延伸して設けられていることが読み取れる。
そして、上記(ア)b.及び(ア)c.によれば、焼成により外部電極3a,3bを構成する導電性ペーストは、銀系の導電性粉末を65~75重量%程度、フィラーとしての粒子状のTiO2(二酸化チタン)を銀系の電導性粉末100重量部に対して2~15重量部含んでいるといえる。
また、上記(ア)f.によれば、外部電極3a,3bには、Niメッキが施される。
・上記(ア)c.によると、導電性ペーストにフィラーとして含まれる「TiO2は、導電性ペーストの焼成により得られる端子電極の熱膨張率とコンデンサ本体の熱膨張率との差を小さくし、コンデンサ本体と端子電極との界面でコンデンサ本体側に生しるクラックを防止する」ものであり、「TiO2は熱膨張率が7.6×10-6/℃であるため、焼成後の端子電極中に分散状態で存在すると、端子電極の熱膨張率を低めてコンデンサ本体の熱膨張率に近づけることができる」ことが記載されているものである。
ここで、上記(ア)c.における導電性ペーストの焼成により得られる「端子電極」及び「コンデンサ本体」は、図1及び図2の「外部電極3a,3b」及び「本体部2」に対応することは明らかである。
(ウ)以上を総合すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「直方体状の本体部2と、前記本体部2の両端に対向するように配置された1対の外部電極3a,3bとを備えた積層セラミックコンデンサ1であって、前記本体部2は、チタン酸バリウムのような誘電体磁器材料のグリーンシートを多数枚積層し、これを焼成して一体化することにより構成され、前記本体部2の内部には、前記グリーンシートと内部電極4a,4bが交互に積層され、前記内部電極4aと前記内部電極4bは交互に多数配置され、前記内部電極4aは前記外部電極3aに接続され、前記内部電極4bは前記外部電極3bに接続され、前記本体部2の両端部には、それぞれ前記内部電極4aまたは4bの端部が露出し、前記外部電極3a,3bは、前記本体部2の両端から、両端を除く残りの4面へ延伸して設けられ、焼成により前記外部電極3a,3bを構成する導電性ペーストは、銀系の導電性粉末を65~75重量%程度、フィラーとして粒子状のTiO2(二酸化チタン)を銀系の電導性粉末100重量部に対して2~15重量部含み、前記外部電極3a,3bにはNiメッキが施され、前記TiO2は、前記導電性ペーストの焼成により得られる前記外部電極3a,3bの熱膨張率と前記本体部2の熱膨張率との差を小さくし、前記本体部2と前記外部電極3a,3bとの界面で前記本体部2側に生じるクラックを防止するものであり、TiO2は熱膨張率が7.6×10-6/℃であるため、焼成後の前記外部電極3a,3b中に分散状態で存在すると、前記外部電極3a,3bの熱膨張率を低めて前記本体部2の熱膨張率に近づけることができる、積層セラミックコンデンサ1。」
ウ 対比
(ア)本件補正発明と引用発明とを対比する。
a.引用発明では、「本体部2は、チタン酸バリウムのような誘電体磁器材料のグリーンシートを多数枚積層し、これを焼成して一体化することにより構成され、前記本体部2の内部には、前記グリーンシートと内部電極4a,4bが交互に積層され」ている。ここで「チタン酸バリウム」はセラミックであるから、チタン酸バリウムのような誘電体磁器材料のグリーンシートを焼成してできる構成が、本件補正発明の「セラミックを主成分とする誘電体層」に相当する。また、引用発明のグリーンシートと交互に積層される内部電極4a,4bは本件補正発明の「内部電極層」に相当する。
また、引用発明では「前記内部電極4aと前記内部電極4bは交互に多数配置され、前記内部電極4aは前記外部電極3aに接続され、前記内部電極4bは前記外部電極3bに接続され、前記本体部2の両端部には、それぞれ前記内部電極4aまたは4bの端部が露出」しているから、内部電極4a,4bの端部が交互に本体部2の両端部に露出することとなり、本体部2の両端部が本件補正発明の交互に対向する「2端面」に相当する。
そして、引用発明においてグリーンシートと内部電極が焼成して一体化することにより構成される「直方体状の本体部2」が、本件補正発明の「略直方体形状を有する積層チップ」に相当する。
b.引用発明において、「外部電極3a,3b」は、銀系の導電性粉末を65~75重量%程度、フィラーとして粒子状のTiO2(二酸化チタン)を銀系の電導性粉末100重量部に対して2~15重量部含む導電性ペーストを焼成して構成され、Niメッキが施される構成である。一方、本件補正発明においては、「下地層」はCuまたはNiを主成分としてセラミック添加材を含む構成であり、当該下地層上にめっき層が形成されて外部電極を構成している。ここで、引用発明におけるTiO2(二酸化チタン)はセラミックであることは技術常識であるから、本件補正発明の「セラミック添加材」に相当する。
そうしてみると、引用発明の「外部電極3a,3b」は本件補正発明の「下地層」に相当するものの、本件補正発明の「下地層」はCuまたはNiを主成分として構成されているのに対して引用発明の「外部電極3a,3b」は銀系の導電性粉末を65~75重量%程度有しており、金属を主成分とする点では共通しているが、引用発明がCuまたはNiを主成分としていない点で相違している。
また、引用発明において外部電極3a,3bに施される「Niメッキ」が本件補正発明において下地層上に形成される「めっき層」に相当し、引用発明において外部電極3a,3bにNiメッキが施された構成は、本体部2の両端部に1つずつ存在することを踏まえると、本件補正発明において下地層上にめっき層が形成された「1対の外部電極」に相当する。
そして、引用発明において「前記外部電極3a,3bは、前記本体部2の両端から、両端を除く残りの4面へ延伸して設けられ」ていることは、本件補正発明において「1対の外部電極」が「2端面から前記積層チップの側面にかけて形成され」ていることに相当する。
c.引用発明において、本体部2はグリーンシートを内部電極と交互に多数枚積層し、これを焼成して一体化することにより構成されており、内部電極が最外部に位置するわけではないから、本体部2の積層方向の最外部も最外部以外と同様にグリーンシートが焼成されたものであり主成分は同じである。したがって、引用発明の本体部2の積層方向の最外部が本件補正発明の「カバー層」に相当し、引用発明は本件補正発明の「前記積層チップの積層方向の最外層は、前記誘電体層と主成分が同じカバー層」に相当する構成を有しているといえる。
d.本件補正発明では「前記下地層の主成分と、前記セラミック添加材と、前記カバー層の主成分との間の熱膨張係数は、前記下地層の主成分>前記カバー層の主成分>前記セラミック添加材、の関係を有し」ているのに対して、引用発明では熱膨張係数の大小関係は明示されていない。
しかしながら、引用発明では「TiO2」は「焼成後の前記外部電極3a,3b中に分散状態で存在すると、前記外部電極3a,3bの熱膨張率を低めて前記本体部2の熱膨張率に近づける」からTiO2と本体部2の熱膨張率は外部電極3a,3bの熱膨張率より低いといえる。そして、上記c.で検討したように、引用発明において本体部2の積層方向の最外部は最外部以外と主成分が同じであることを踏まえると、本件補正発明と引用発明とは、下地層の主成分とセラミック添加材とカバー層の主成分との間の熱膨張係数が、下地層の主成分>カバー層の主成分、かつ、下地層の主成分>セラミック添加材、の関係を有する点で一致するが、引用発明ではカバー層の主成分とセラミック添加材の熱膨張係数の大小関係が明確ではない点で相違する。
e.本件補正発明では「αaを前記セラミック添加材の熱膨張係数とし、Eaを前記セラミック添加材のヤング率とし、Vaを前記下地層における前記セラミック添加材の体積分率とし、αmを前記下地層の主成分の熱膨張係数とし、Emを前記下地層の主成分のヤング率とし、Vmを前記下地層の主成分の体積分率とした場合に、αc=(αaEaVa+αmEmVm)/(EaVa+EmVm)が前記カバー層の熱膨張係数に対して±20%以内である」旨特定されているのに対して、引用発明では当該事項は明示されていない点で相違している。
f.引用発明における「積層セラミックコンデンサ1」は、本件補正発明における「積層セラミックコンデンサ」に相当する。
(イ)したがって、本件補正発明と引用発明とは以下の点で一致ないし相違する。
(一致点)
「セラミックを主成分とする誘電体層と、内部電極層と、が交互に積層され、積層された複数の前記内部電極層が交互に対向する2端面に露出するように形成され、略直方体形状を有する積層チップと、前記2端面から前記積層チップの側面にかけて形成された1対の外部電極と、を備え、前記1対の外部電極は、金属を主成分としてセラミック添加材を含む下地層上にめっき層が形成された構造を有し、前記積層チップの積層方向の最外層は、前記誘電体層と主成分が同じカバー層であり、前記下地層の主成分と、前記セラミック添加材と、前記カバー層の主成分との間の熱膨張係数は、前記下地層の主成分>前記カバー層の主成分、かつ、前記下地層の主成分>前記セラミック添加材、の関係を有する、積層セラミックコンデンサ。」
(相違点1)
本件補正発明の外部電極を構成する「下地層」はCuまたはNiを主成分として構成されているのに対して、引用発明の「外部電極3a,3b」は銀系の導電性粉末を主成分としている点
(相違点2)
本件補正発明では「前記下地層の主成分と、前記セラミック添加材と、前記カバー層の主成分との間の熱膨張係数は、前記下地層の主成分>前記カバー層の主成分>前記セラミック添加材、の関係を有し」ているのに対して、引用発明では、カバー層の主成分とセラミック添加材の熱膨張係数の大小関係が明確ではない点。
(相違点3)
本件補正発明では「αaを前記セラミック添加材の熱膨張係数とし、Eaを前記セラミック添加材のヤング率とし、Vaを前記下地層における前記セラミック添加材の体積分率とし、αmを前記下地層の主成分の熱膨張係数とし、Emを前記下地層の主成分のヤング率とし、Vmを前記下地層の主成分の体積分率とした場合に、αc=(αaEaVa+αmEmVm)/(EaVa+EmVm)が前記カバー層の熱膨張係数に対して±20%以内である」旨特定されているのに対して、引用発明では当該事項は明示されていない点。
エ 判断
(ア)上記相違点1について検討する。
積層セラミックコンデンサにおいて、外部電極を形成する導電ペーストの主成分としてNiやCuを使うことは、例えば特開2012-28458号公報(拒絶査定で引用した引用文献5。特に段落【0030】参照。)に記載されているように周知の技術事項にすぎない。そうしてみると、引用発明において導電ペーストの主成分として銀に代え、NiやCuを用いることは適宜設計できた程度の事項にすぎない。
この点について、審判請求人は、令和3年4月27日に提出された審判請求書において、「引用文献1で開示されているAgのヤング率は83GPaであって、本願発明1のCuのヤング率(110GPa~128GPa)およびNiのヤング率(200GPa)と比較して非常に低い数値となっています。引用文献1で開示されているようにAgを外部電極に使用すると、熱膨張係数の差異による応力はほとんど塑性変形によって解消されてしまいますので、クラック発生抑制という課題自体が生じません。」と主張している。
しかしながら、上記イ(ア)a.に引用したように、引用文献には銀系の導電性粉末を用いた従来の導電性ペーストを用いた積層セラミックコンデンサにおいても、外部電極とコンデンサ素子との界面で、コンデンサ素子側にクラックが生じやすい課題を有していることが記載されているから、上記請求人の主張を採用することはできない。
(イ)上記相違点2について検討する。
引用発明は、「前記TiO2は、前記導電性ペーストの焼成により得られる前記外部電極3a,3bの熱膨張率と前記本体部2の熱膨張率との差を小さくし、前記本体部2と前記外部電極3a,3bとの界面で前記本体部2側に生じるクラックを防止するものであり、TiO2は熱膨張率が7.6×10-6/℃であるため、焼成後の前記外部電極3a,3b中に分散状態で存在すると、前記外部電極3a,3bの熱膨張率を低めて前記本体部2の熱膨張率に近づけることができる」ものである。
引用発明の上記構成は、熱膨張率の大きな導電性ペーストに熱膨張率の小さなTiO2を分散させることにより外部電極3a,3bの熱膨張率を低めて本体部2の熱膨張率に近づけたものであるから、TiO2の熱膨張率を本体部2の熱膨張率よりも小さく設定することは容易に想起し得る事項にすぎない。そうしてみると、上記ウ(ア)d.で述べたように本体部2とその最外部は同様の成分を有することも踏まえれば、引用発明において導電性ペーストに添加するTiO2(本件補正発明の「セラミック添加剤」に相当。)の熱膨張率が本体部の最外部(本件補正発明の「カバー層」に相当。)の主成分の熱膨張率よりも相対的に小さく設定することは当業者が容易に想到できた事項にすぎない。
(ウ)上記相違点3について検討する。
本件補正発明において「αaを前記セラミック添加材の熱膨張係数とし、Eaを前記セラミック添加材のヤング率とし、Vaを前記下地層における前記セラミック添加材の体積分率とし、αmを前記下地層の主成分の熱膨張係数とし、Emを前記下地層の主成分のヤング率とし、Vmを前記下地層の主成分の体積分率とした場合」に、式「αc=(αaEaVa+αmEmVm)/(EaVa+EmVm)」により求められる「αc」は本願明細書の段落【0022】に記載されているように下地層の熱膨張係数を示していることは明らかである。したがって、相違点3に係る構成は下地層の熱膨張係数が前記カバー層の熱膨張係数に対して±20%以内であることを特定したものである。
一方、引用発明も「前記導電性ペーストの焼成により得られる前記外部電極3a,3bの熱膨張率と前記本体部2の熱膨張率との差を小さくし、前記本体部2と前記外部電極3a,3bとの界面で前記本体部2側に生じるクラックを防止するもの」であるから、外部電極3a,3bの熱膨張率と本体部2の熱膨張率の差を小さくしようとするものである。
そして、本件補正発明において下地層の熱膨張係数αcが前記カバー層の熱膨張係数に対して±20%以内に設定することに関して、本願明細書を参照しても段落【0022】に「±20%以内とすることが好ましく」と記載されているのみで、±20%に臨界的意義を有しているとはいえない。
そうしてみると、引用発明において外部電極3a,3bの熱膨張率を本体部2の熱膨張率に対して±20%以内に設定することは、クラックを防止するために適宜設計できた程度の事項にすぎず、上記(イ)で述べたように、引用発明において本体部2の最外部とそれ以外の部分では、成分が共通し熱膨張率も等しいことも踏まえれば、相違点3に係る構成とすることは当業者が容易に想到できた事項である。
(エ)そして、本件補正発明の効果も、引用発明と周知の技術事項から当業者が予測できる範囲のものである。
(3)小括
以上のとおり、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合していない。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和3年4月27日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし6に係る発明は、令和2年11月9日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明は、明細書及び図面の記載からみて、その請求項1に記載された事項により特定される、上記「第2」[理由]の「1 補正の概要」の「本願発明」のとおりのものと認める。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。
・請求項1ないし3、及び5ないし6は引用文献1から容易に発明をすることができたものである。
・請求項1ないし6は、引用文献5、引用文献2ないし4から容易に発明をすることができたものである。
(引用文献一覧)
1.特開平4-37009号公報
2.特開平3-230508号公報
3.特開2005-209404号公報
4.特開2015-63590号公報
5.特開2012-28458号公報
3 引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された、引用文献1の記載事項及び引用発明は、上記「第2」[理由]の「2(2)イ」に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、上記「第2」で検討した本件補正発明から、下地層の主成分が「CuまたはNi」であるという限定を省き、「前記誘電体層の主成分セラミックよりも熱膨張係数が大きい金属または当該金属の合金」としたものである。
そうしてみると、上記「第2」の「2ウ(イ)」で相違点1とした点について、引用発明の導電性ペーストの主成分である銀系の導電性粉末は、セラミックよりも熱膨張係数が大きいことは明らかであるから、本願発明の「前記誘電体層の主成分セラミックよりも熱膨張係数の大きい金属または当該金属の合金」に相当する。したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。そして、上記「第2」で判断したとおり、相違点2及び3は引用文献に記載された発明及び周知技術から当業者が容易に想到できた事項にすぎない。
したがって、本件補正発明から構成の一部を省いた本願発明は、引用文献に記載された発明及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2021-005482