特許拒絶査定不服審判
2024-013318
高純度のバインダーフリー炭素質電極を有するスーパーキャパシタセル
- 審判番号
- 2024-013318
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-556676
- 請求日
- 2024年08月19日
- 審決日
- 2025年06月05日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】矢崎総業株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人栄光事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 岩間 直純
- 審判官 井上 信一
- 審判官 須原 宏光
- 分類
- P18 .121-Z (H01G)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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特願2022-556676「高純度のバインダーフリー炭素質電極を有するスーパーキャパシタセル」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 9月30日国際公開、WO2021/194653、令和 5年 3月 3日国内公表、特表2023-508762〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
1.手続の経緯
本願は、2021年2月11日(バリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 2020年3月24日 米国(US) 2020年8月3日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和5年 4月18日付け:拒絶理由通知
令和5年 8月23日 :手続補正書、意見書の提出
令和5年11月 9日付け:拒絶理由通知
令和6年 3月11日 :手続補正書、意見書の提出
令和6年 5月16日付け:拒絶査定(原査定)
令和6年 8月19日 :審判請求書、手続補正書の提出
2.本願発明
本願の請求項1ないし29に係る発明は、令和6年8月19日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし29に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
集電体および活性層を含む少なくとも1つの電極を有するスーパーキャパシタセルであって、前記活性層が、活性炭と、少なくとも98重量%の純度を有するカーボンナノチューブとを含み、バインダーを含まず、前記活性層中のカーボンナノチューブの含有量が15~25重量%であるスーパーキャパシタセル。」
なお、請求項1については、令和6年8月19日の手続補正による補正はなされていない。
3.原査定の概要
本願の請求項1に対する原査定(令和6年5月16日付け拒絶査定)の拒絶の理由の概要は次のとおりである。
この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献4に記載された発明及び周知技術(引用文献2、5に記載の技術事項)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献2:国際公開第2017/199884号(周知技術を示す文献)
引用文献4:国際公開第2014/129540号
引用文献5:特開2019-116398号公報(周知技術を示す文献)
4.引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献4
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4(国際公開第2014/129540号)には、「電極、その電極を用いた電気二重層キャパシタ」について、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「[請求項1] 平均粒子径が100nm未満の多孔質化処理した炭素粉末と、繊維状炭素と、を分散させた溶液の溶媒を除去して得られたことを特徴とする電極。
・・・・(中 略)・・・・
[請求項3] 前記炭素粉末は、カーボンブラックを賦活処理したものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電極。
・・・・(中 略)・・・・
[請求項5] 前記繊維状炭素は、炭素粉末と繊維状炭素の合計量に対して10~30重量%含有されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の電極。
・・・・(中 略)・・・・
[請求項11] 請求項1乃至10のいずれかの電極を集電体の上に形成した電気二重層キャパシタ。」
イ.「[0009] 前記の目的を達成するため、本発明の電極は、平均粒子径が100nm未満の多孔質化処理した炭素粉末と、繊維状炭素と、を分散させた溶液の溶媒を除去して得られたことを特徴とする。また、溶液を濾過して溶媒を除去しても良い。炭素粉末と繊維状炭素を混合した溶液から溶媒を除去して得られた電極においては、繊維状炭素がバインダー的な役割を果たす。繊維状炭素は、樹脂系のバインダーと併用し使用することも可能であるので、樹脂系のバインダーを用いる場合にでも、樹脂系バインダーを電気抵抗に対して影響が出にくい割合で用いることが可能であり、樹脂系バインダーの電気抵抗への影響を排除することが可能であるため、得られる電極の電気抵抗を小さくすることが可能である。
[0010] 前記炭素粉末は、カーボンブラックを賦活処理したものであることを特徴としても良い。
・・・・(中 略)・・・・
[0012] 前記繊維状炭素は、炭素粉末と繊維状炭素の合計量に対して10~30重量%含有することもできる。
・・・・(中 略)・・・・
[0017] また、この電極をスルホランと、スルホラン骨格に側鎖を有するスルホラン化合物又は鎖状スルホンとの混合物に含浸した電気二重層キャパシタや、この電極を集電体の上に形成した電気二重層キャパシタも本発明の一態様である。」
ウ.「[0024] 本実施形態で使用する炭素粉末は、電極の主たる容量を発現するものである。炭素粉末の種類としては、やしがら等の天然植物組織、フェノール等の合成樹脂、石炭、コークス、ピッチ等の化石燃料由来のものを原料とする活性炭、ケッチェンブラック(以下、KB)、アセチレンブラック、チャネルブラックなどのカーボンブラック、カーボンナノホーン、無定形炭素、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化ケッチェンブラック、活性炭、メソポーラス炭素などを挙げることができる。
[0025] また、炭素粉末は賦活処理や開口処理などの多孔質化処理を施して使用するのが好ましい。・・(以下、略)
[0026] また、炭素粉末は比表面積が、600~2000m 2 /gの範囲にあるものが望ましい。炭素粉末はその一次粒子の平均粒子径としては100nm未満が望ましく、その中でも特に50nm未満が望ましい。炭素粉末の平均粒子径が100nm未満であると、極めて小さい粒子径であるため拡散抵抗が低くその導電率は高い。また多孔質化処理による比表面積が大きいため高容量発現効果を期待することができる。炭素粉末の平均粒子径が100nmより大きいと、炭素粉末の粒子内のイオン拡散抵抗が大きくなり、結果として得られるキャパシタの抵抗が高くなってしまう。・・(以下、略)」
エ.「[0033] 本実施形態で使用する繊維状炭素は、繊維と繊維の間に極めて小さいナノサイズの炭素粉末を効率的に絡めることができるものであり、抄紙成型の際のバインダー的な役割を担う。繊維状炭素の種類としては、カーボンナノチューブ(以下、CNT)、カーボンナノファイバ(以下、CNF)などの繊維状炭素を挙げることができる。なお、この繊維状炭素に対しても、繊維状炭素の先端や壁面に穴をあける開口処理や賦活処理を用いても良い。
・・・・(中 略)・・・・
[0038] 炭素粉末と繊維状炭素の含有率は、炭素粉末と繊維状炭素の合計量に対し、繊維状炭素が5~50重量%、特には10~30重量%含有されていることが好ましい。繊維状炭素が50重量%を超えると、電解液含浸時に電極自体が膨れてしまい、外装ケースを圧迫し、ケース膨れが生じやすくなってしまう。また、繊維状炭素が5重量%より少ないと炭素粉末の凝集体が大きくなり、内部抵抗が上昇する傾向がある。なお、本発明の目的を損なわない範囲で任意成分を含んでいても良い。例えば、分散剤や他のバインダーなどが挙げられる。」
オ.「[0057] このシート電極では、バインダー的な役割を担う繊維状炭素を用いた混合溶液の濾過によってシート電極を作製することで樹脂系バインダーの添加量を抑制して抵抗を低減し、さらには炭素粉末の平均粒子径を100nm未満と極めて小さい粒子径とすることで、炭素粉末自体の拡散抵抗を低減し、シート電極の抵抗をさらに低減させることができる。また、炭素粉末として極めて小さい粒子径を用いているため、炭素粉末が凝集しやくなり、これにより得られるシート電極は低密度の傾向となる。しかしながら、混合溶液中での炭素粉末と繊維状炭素とをジェットミキシングや超遠心処理などの分散手法を用いて高分散させることで、シート電極を緻密・均質な形態として電極密度を高め、従来のミクロンサイズの炭素粉末を用いた電極と同等レベルの容量を得ることができる優れたシート電極を実現できる。
[0058] このシート電極形成工程で作製した炭素粉末/繊維状炭素シート電極は、集電体と同じサイズに切り取られ、集電体となるエッチング処理したアルミニウム箔の上に載せられ、箔およびシート電極の上下方向からプレスし、シート電極をアルミニウム箔の凹凸面に食い込ませて一体化することで電極が作製される。・・(以下、略)
・・・・(中 略)・・・・
[0060] シート電極と集電体との一体化については、前述のプレスでもよく、また導電性接着剤(例えばカーボン材料などを使用)などを用いたアンダーコート層を用いても良い。なお、炭素粉末/繊維状炭素シート電極は、必要に応じて、集電体と一体化する前にプレスなどによる平坦化処理を施しても良い。」
カ.「[0076][第1の特性比較]
本発明のシート電極を用いた電気二重層キャパシタの特性を確認する。本実施例及び比較例では、以下の条件により電極を作成し、当該電極を用いて電気二重層キャパシタを作成して各種特性を測定した。本特性比較で使用する実施例1~8、及び、比較例1、従来例1は、次の方法により、作製した。
[0077](混合溶液の作製)
まず、実施例1~4の混合溶液としては、水蒸気賦活処理した平均粒子径12nmのカーボンブラック(以下、CB)を電極内の炭素粉末と繊維状炭素との合計量に対して80wt%となるように計り取る。次に、外径20nm、長さ150μmの繊維状炭素としてCNTを、電極内のCBとCNTとの合計量に対して20wt%となるように計り取る。CBとCNTとは、合計50mgとなるようにする。合計50mgのCBとCNTを、50mlのメタノールと混合させて混合溶液を作製した。
・・・・(中 略)・・・・
[0078](実施例1,実施例5)
実施例1,5では、上記の混合溶液に対して、遠心力200000N(kgms -2 )で5分間、超遠心分散処理による分散処理を行い、炭素粉末/繊維状炭素/メタノール分散液を作製した。この分散液をPTFE濾紙(直径:35mm、平均細孔0.2μm)を用いて減圧濾過し、抄紙成型した炭素粉末/繊維状炭素シート電極を得た。これをアルミニウム板の上に載せ、別のアルミニウム板で挟み、板の上下方向から10tcm-2の圧力で1分間プレスし、炭素粉末/繊維状炭素シート電極を得た。この炭素粉末/繊維状炭素シート電極をアルミニウム板から剥離し、集電体と同じサイズに切り分け、集電体となるステンレス鋼板の上に導電性接着剤により貼り付け、常圧下120℃にて1時間乾燥し、2枚の電極体を得、セルロース系セパレータを介して電気二重層キャパシタ素子を作製した(電極面積:2.1cm 2 )。そして、1M(=1mol/dm 3 )の四フッ化ホウ酸テトラエチルアンモニウムを含むプロピレンカーボネート溶液を電解液として素子に含浸した後、ラミネートフィルムを用いて熱封止し、評価用セル(電気二重層キャパシタ)を作製した。
・・・・(中 略)・・・・
[0084] 表1において、実施例1~8、比較例1及び従来例1のシート電極及びコーティング電極の分散方法、バインダー又は繊維状炭素の割合、電極内のカーボンブラックの割合、電極密度、評価用セルの電極容量、内部抵抗及び低温特性を示した表である。実施例1~3、比較例1及び従来例1の評価用セルについて、電極容量及び内部抵抗は、3Vで30分間電圧印加後の測定結果を示す。低温特性は、20℃及び-30℃のそれぞれの環境下で評価用セルの電極容量を測定し、その容量の比(-30℃での容量/20℃での容量)×100%の値とした。
[表1]
[図:0001425534000001.jpg]
」
上記「ア.」ないし「カ.」から以下のことがいえる。
・上記「ア.」の[請求項1]、[請求項11]、「イ.」、[ウ.]の記載によれば、引用文献4に記載の「電極、その電極を用いた電気二重層キャパシタ」における電気二重層キャパシタは、平均粒径が100nm未満の賦活処理などの多孔質化処理した炭素粉末と、繊維状炭素と、を分散させた溶液を除去して得られた電極を集電体の上に形成してなるものである。
・上記「ア.」の[請求項3]、「イ.」の段落【0010】、「ウ.」の記載によれば、平均粒径が100nm未満の賦活処理などの炭素粉末は、例えばカーボンブラックであり、上記「カ.」の記載によれば、例えば実施例1においても、水蒸気賦活処理した平均粒径12nmのカーボンブラックが用いられてなるものである。
・上記「イ.」の段落【0009】、「オ.」の記載によれば、繊維状炭素はバインダー的な役割を担うものである。そして、上記「エ.」の段落【0033】の記載によれば、繊維状炭素は、例えばカーボンナノチューブ(CNT)であり、上記「カ.」の記載によれば、例えば実施例1においてもカーボンナノチューブ(CNT)が用いられ、また、電極の作製にあたって別途バインダー(いわゆる樹脂バインダー)は用いられておらず、したがって電極には別途のバインダーは含まれていない。
・上記「ア.」の[請求項5]、「イ.」の段落【0012】、「エ.」の段落【0038】の記載によれば、繊維状炭素は、炭素粉末と繊維状炭素の合計量に対して10~30重量%含有されてなり、上記「カ.」の記載によれば、例えば実施例1では、炭素粉末(CB)と繊維状炭素(CNT)の合計量に対して20wt%(重量%)である。
以上のことから、特に実施例1に係る電極(シート電極)を用いた電気二重層キャパシタに着目し、上記記載を総合勘案すると、引用文献4には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「平均粒径が100nm未満の賦活処理などの多孔質化処理した炭素粉末と、繊維状炭素と、を分散させた溶液を除去して得られた電極を集電体の上に形成した電気二重層キャパシタであって、
前記炭素粉末は、水蒸気賦活処理した平均粒径12nmのカーボンブラックであり、
前記繊維状炭素は、カーボンナノチューブ(CNT)であり、バインダー的な役割を担うものであって、前記電極には別途のバインダーは含まれておらず、
前記繊維状炭素は、前記炭素粉末と前記繊維状炭素の合計量に対して20重量%含有されている、電気二重層キャパシタ。」
(2)引用文献2
同じく原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2(国際公開第2017/199884号)には、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「[0006] 本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、体積抵抗率が2×10-2Ω・cm以下であるカーボンナノチューブを電極材料に混合し、バインダおよび導電材として機能させることによって、低抵抗で且つ膜強度に優れた薄膜状の電子デバイス用電極構造体を実現し得ることを見出し、本発明を完成した。
[0007] すなわち、本発明によって提供される電極は、電子デバイスに用いられる電極構造体である。この電極構造体は、粉末状の電極材料と、体積抵抗率が2×10-2Ω・cm以下であるカーボンナノチューブ(以下、「CNT」とも表記する。)と、を含む。カーボンナノチューブは、 上記特定の体積抵抗率を有するCNTを電極材料に混合して用いることにより、低抵抗で且つ膜強度に優れた薄膜状の電子デバイス用電極構造体が実現され得る。」
イ.「[0027] CNTの純度は、体積抵抗率が前記範囲を満たす限りにおいて特に制限はないが、典型的には85%以上である。低抵抗化や膜強度向上等の観点から、CNTの純度は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。CNTの純度の上限は特に限定されないが、製造容易性等の観点からは、典型的には99%以下、例えば98%以下であってもよい。ここに開示される技術は、例えば、CNTの純度が85%以上100%以下(典型的には95%以上99%以下)である態様で好ましく実施され得る。なお、本明細書において、CNTの純度は、熱重量分析(TGA)装置による測定で得られた値を採用することができる。」
上記「ア.」及び「イ.」の記載を総合勘案すると、引用文献2には、次の技術事項が記載されているといえる。
「粉末状の電極材料と、バインダおよび導電材として機能するカーボンナノチューブ(CNT)とを含む電極構造体において、
カーボンナノチューブ(CNT)の純度は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上であり、典型的には95%以上99%以下である態様で好ましく実施され得ること。」
(3)引用文献5
原査定において提示された上記引用文献5(特開2019-116398号公報)には、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
「【0006】
これら用途でカーボンナノチューブの特徴を生かすには、一般にカーボンナノチューブの質(結晶性や純度)は高いほど良い。結晶性が高ければ高いほど、カーボンナノチューブの特徴である導電性、熱伝導性がより高くなるからである。また、高温下でカーボンナノチューブとの複合化が必要な用途では、カーボンナノチューブにも高い耐熱性が要求される。 【0007】 一般的に、カーボンナノチューブ含有組成物に、アモルファスカーボンなどの炭素不純物、及び触媒金属が含まれている場合がほとんどである。これら不純物は導電性や熱伝導性を阻害する因子となり、カーボンナノチューブと他材料との複合化をする場合には、強度低下の原因にもなり得る。」
上記記載によれば、引用文献5には、次の技術事項が記載されているといえる。
「一般に、カーボンナノチューブについて、不純物は導電性等を阻害する因子となることから、その質(純度)は高いほど良いこと。」
(4)引用文献6
当審で新たに提示する国際公開第2013/073526号(以下、「引用文献6」という。)には、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「[0030] 本発明の蓄電デバイス用電極において、カーボンナノチューブは、純度が70質量%以上が好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。カーボンナノチューブの純度が70質量%未満であると、触媒金属による影響で耐電圧の減少やデンドライトの生成が懸念される。 [0031] カーボンナノチューブの純度が90質量%以上であると、電気伝導性が良好である。したがって、本発明の蓄電デバイス用電極は、蓄電デバイスの出力を向上させることができる。」
イ.「[0084]
[表1]
[図:0001425534000002.jpg]
[0085]<評価結果>
実施例1-1、1-2は単層CNTの炭素純度が90質量%と高い。これらのCNTを用いて作製したキャパシタの充放電効率、電圧保持率は表1に示したように高い。一方で、実施例1-3、1-4に示した単層CNTは、試料内にNi、Ca、Mg、Fe、Znなどの金属不純物が残留しており、実施例1-1、1-2と比較して純度が低い。実施例1-3、1-4の充放電効率、電圧保持率が実施例1-1、1-2に対して低くなった原因には、金属不純物の電気化学反応に貯蔵された電荷が消費されたことが推測できる。Ni、Ca、Mg、Fe、Znなどのこれら金属元素は、電気化学反応によって電極上に金属が針状に析出するデンドライトとなり得る。このデンドライトの発生は、キャパシタの電気的短絡の要因となる。図2~図4に示すように、カーボンナノチューブの純度が70質量%以上であれば電気二重層キャパシタとして安定に動作することを確認した。しかし、充放電効率、電圧維持率、デンドライト発生の危険性から、より好ましくは、単層カーボンナノチューブ純度が90質量%以上であることが望ましい。」
特に段落[0084]の[表1]からは、炭層CNTの純度(炭素純度)が高いほどキャパシタの電圧維持率、充放電効率も向上していることが見て取れ、実施例1-1では純度が98.3質量%であることを踏まえ、上記「ア.」及び「イ.」の記載を総合勘案すると、引用文献6には、次の技術事項が記載されているといえる。
「キャパシタ用電極に用いられるカーボンナノチューブの純度は高いほどキャパシタの特性が向上し、90質量%以上であると電気伝導性が良好であり、キャパシタの出力を向上させることができ、例えば純度98.3質量%のものを用いること。」
5.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明における「集電体」は、本願発明でいう「集電体」に相当する。また、引用発明における平均粒径が100nm未満の賦活処理などの多孔質化処理した炭素粉末と、繊維状炭素と、を分散させた溶液を除去して得られた「電極」は、賦活処理などの多孔質化処理した炭素粉末を含むものであるから、本願発明でいう「活性層」に相当し、さらに、引用発明における電極を集電体の上に形成してなるものが、本願発明でいう「少なくとも1つの電極」に相当するといえる。そして、引用発明における「電気二重層キャパシタ」は、電極を集電体の上に形成してなるものを有するものであるから、本願発明でいう「スーパーキャパシタセル」に相当するものである。
したがって、本願発明と引用発明とは、「集電体および活性層を含む少なくとも1つの電極を有するスーパーキャパシタセル」である点で一致する。
(2)引用発明における「電極」は、平均粒径が100nm未満の賦活処理などの多孔質化処理した炭素粉末と、繊維状炭素と、を分散させた溶液を除去して得られるものであるから、平均粒径が100nm未満の賦活処理などの多孔質化処理した「炭素粉末」と「繊維状炭素」とを含むものである。このうちの「炭素粉末」については、「水蒸気賦活処理した平均粒径12nmのカーボンブラック」であり、賦活処理つまり活性化処理がされたものであることから、本願発明でいう「活性炭」に相当するということができるものである。また、「繊維状炭素」については、カーボンナノチューブ(CNT)であるから、本願発明でいう「カーボンナノチューブ」に相当するものである。
さらに、引用発明における「電極」にあっても、カーボンナノチューブ(CNT)がバインダー的な役割を担うものであり、別途のバインダーは含まれていない。
したがって、本願発明と引用発明とは、「前記活性層が、活性炭と、カーボンナノチューブとを含み、バインダーを含ま」ないものである点で共通するといえる。
ただし、カーボンナノチューブについて、本願発明では「少なくとも98重量%の純度」を有することを特定するのに対し、引用発明ではそのような純度についての特定がない点で相違する。
(3)引用発明におけるカーボンナノチューブ(CNT)である繊維状炭素は、炭素粉末と繊維状炭素の合計量に対して「20重量%」含有されてなるものであり、かかる含有量は、本願発明で特定する活性層中のカーボンナノチューブの含有量である「15~25重量%」の範囲に含まれる。
したがって、本願発明と引用発明とは、「前記活性層中のカーボンナノチューブの含有量が15~25重量%」である点で一致する。
よって上記(1)ないし(3)によれば、本願発明と引用発明とは、
「集電体および活性層を含む少なくとも1つの電極を有するスーパーキャパシタセルであって、前記活性層が、活性炭と、カーボンナノチューブとを含み、バインダーを含まず、前記活性層中のカーボンナノチューブの含有量が15~25重量%であるスーパーキャパシタセル。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
カーボンナノチューブについて、本願発明では「少なくとも98重量%の純度」を有することを特定するのに対し、引用発明ではそのような純度についての特定がない点。
6.判断
上記相違点について検討する。
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(国際公開第2017/199884号)には、粉末状の電極材料と、バインダおよび導電材として機能するカーボンナノチューブ(CNT)とを含む電極構造体において、カーボンナノチューブ(CNT)の純度は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上であり、典型的には95%以上99%以下である態様で好ましく実施され得ることが記載(上記「4.(2)」を参照)され、原査定において提示された引用文献5(特開2019-116398号公報)には、一般に、カーボンナノチューブについて、不純物は導電性等を阻害する因子となることから、その質(純度)は高いほど良いことが記載(上記「4.(3)」を参照)され、さらに、例えば当審で新たに提示する引用文献6(国際公開第2013/073526号)には、キャパシタ用電極に用いられるカーボンナノチューブの純度は高いほどキャパシタの特性が向上し、90質量%以上であると電気伝導性が良好であり、キャパシタの出力を向上させることができ、例えば純度98.3質量%のものを用いることが記載(上記「4.(4)」を参照)されている。これら引用文献の記載によれば、キャパシタ用電極に用いられるカーボンナノチューブの純度は、電気伝導性が良好となり、キャパシタの特性も向上することから高いほど良く、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95%以上(例えば98.3質量%)であることは周知といえる技術事項であるといえ、引用発明においても、カーボンナノチューブについてその純度が極力高いもの、例えば98重量%以上のものを用い、相違点に係る構成とすることは当業者であれば容易になし得たことである。
そして、本願発明が奏する効果についてみても、引用文献4に記載された発明及び周知の技術事項から当業者が予測できたものであって、格別顕著なものがあるとはいえない。
よって、本願発明は、引用文献4に記載された発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
7.予備的見解
上記「5.(2)」では、引用発明における「炭素粉末」については、「水蒸気賦活処理した平均粒径12nmのカーボンブラック」であるところ、賦活処理つまり活性化処理がされたものであることから、本願発明でいう「活性炭」に相当するということができると認定したが、仮に、引用発明における「炭素粉末」すなわち水蒸気賦活処理した平均粒径12nmの「カーボンブラック」は、本願発明でいう「活性炭」に相当するとはいえないとしても、引用文献4の段落[0024]には、「炭素粉末」の種類として、カーボンブラックの他に活性炭などが挙げられることも記載されており、引用発明における「炭素粉末」として、水蒸気賦活処理した平均粒径12nmの「カーボンブラック」に代えて、平均粒径が100nm未満の賦活処理などの多孔質化処理した「活性炭」を用いるようにすることも当業者であれば適宜なし得たことである。
8.審判請求人の主張について
審判請求人は審判請求書において、「本願発明は選択的発明であり、CNT純度を『少なくとも98重量%』に限定しています。そして、引用文献2に開示されている純度が98%未満、例えば85%や95%のCNTは、本願発明の範囲から除外されています。」などと述べ、本願発明は引用文献4に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない旨主張している。
しかしながら、そもそも引用文献2には、CNT純度を98%未満とすべきことが記載されているわけではなく、「典型的には95%以上99%以下である態様で好ましく実施され得る」とあり、98%以上(99%以下)のものも好ましく実施され得ることが記載されている。そして、キャパシタ用電極に用いられるカーボンナノチューブの純度は、電気伝導性が良好となり、キャパシタの特性も向上することから高いほど良く、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95%以上(例えば98.3質量%)であることは周知といえる技術事項であるといえ、引用発明においても、カーボンナノチューブについてその純度が極力高いもの、例えば98重量%以上のものを用い、相違点に係る構成とすることは当業者であれば容易になし得たことであることは、上記「6.判断」に記載したとおりである。
よって、審判請求書の上記主張は採用できない。
9.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献4に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-013318