特許拒絶査定不服審判
2024-016204
コンデンサ電解液の改質剤、およびそれを用いたアルミニウム電解コンデンサ用電解液、並びにアルミニウム電解コンデンサ
- 審判番号
- 2024-016204
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-157671
- 請求日
- 2024年10月09日
- 審決日
- 2025年04月17日
- 公報発行日
- 2025年07月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】阪本薬品工業株式会社
- 審判長/審判官
- 審判長 岩間 直純
- 審判官 井上 信一
- 審判官 須原 宏光
- 分類
- P18 .121-Z (H01G)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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特願2022-157671「コンデンサ電解液の改質剤、およびそれを用いたアルミニウム電解コンデンサ用電解液、並びにアルミニウム電解コンデンサ」拒絶査定不服審判事件〔令和 5年 4月11日出願公開、特開2023- 51877〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
1.手続の経緯
本願は、令和4年9月30日(優先権主張 令和3年9月30日)の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和6年 1月19日付け:拒絶理由通知
令和6年 3月14日 :手続補正書、意見書の提出
令和6年 6月13日付け:拒絶査定(原査定)
令和6年10月 9日 :審判請求書の提出
2.本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明は、令和6年3月14日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
平均重合度が2~10のポリグリセリンに対し、水酸基1つ当たりのアルキレンオキサイドの平均付加数が5~30であるポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテルを含有し、ポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテル1分子において、アルキレンオキサイドの総付加モル数の合計が72以上であることを特徴とするコンデンサ電解液の改質剤。」
3.原査定の概要
本願の請求項1に対する原査定(令和6年6月13日付け拒絶査定)の拒絶の理由の概要は以下のとおりである。
本件出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献1:特開2019-29520号公報
4.引用文献の記載及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1(特開2019-29520号公報)には、「アルミニウム電解コンデンサ用電解液」について、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【請求項1】
平均重合度が2から10であるポリグリセリンに対して、エチレンオキサイド(EO)及びプロピレンオキサイド(PO)が合計で20から100モル付加されて成り、その構成比が、EO:PO=61:39から80:20であるポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテルを含有するアルミニウム電解コンデンサ用電解液。
【請求項2】
ポリグリセリンの水酸基1つに対するEO及びPOの付加モル数がそれぞれ1から15モルであるポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテルを含有する請求項1に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電解液。」
イ.「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来のポリビニルアルコールを耐電圧向上剤として用いた電解液に比べて、より耐電圧向上効果が優れたアルミニウム電解コンデンサ用電解液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
平均重合度が2から10であるポリグリセリンに対して、エチレンオキサイド(EO)及びプロピレンオキサイド(PO)が合計で20から100モル付加されて成り、その構成比が、EO:PO=61:39から80:20であるポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテルを使用することにより、耐電圧向上効果に優れたアルミニウム電解コンデンサ用電解液を見出し、本発明を完成するに至った。」
ウ.「【0010】
本発明の電解液に用いられるポリグリセリンは、水酸基価から算出される平均重合度が2から10のポリグリセリンを使用する。具体例としては、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ヘキサグリセリン、デカグリセリンなどが挙げられ、市販品としては、ジグリセリンS、R-PG、ポリグリセリン#310、R-PG3、ポリグリセリン#500、ポリグリセリン#750(何れも阪本薬品工業株式会社製)を用いることができる。また、平均重合度が2未満の場合では、電解コンデンサの耐電圧の向上効果が低い場合があり、一方、平均重合度が10を超える場合では、ポリグリセリンの粘度が上昇し、電解液の粘度上昇、及びアルミニウム電解コンデンサの低温特性の低下を招く恐れがある。ここで、平均重合度は、末端基分析法による水酸基価から算出されるポリグリセリンの平均重合度(n)である。
・・・・(中 略)・・・・
【0011】
本発明の電解液に用いられるポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテルは、水酸基価から算出される平均重合度が2から10のポリグリセリンに対して、EO及びPOを合計で20から100モル付加されて成り、その構成比がEO:PO=61:39から80:20である。EO及びPOの付加モル数が上記範囲であることにより、アルミニウム電解コンデンサの耐電圧特性の向上に繋がる。
【0012】
本発明のポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテルに用いられるEO及びPOの付加モル数は、好ましくは、ポリグリセリンの水酸基1つに対してそれぞれ1から15モルであり、より好ましくは2から12モルである。EO又はPOの付加モル数が1から15モルの範囲にあることで、アルミニウム電解コンデンサの耐電圧特性の向上に繋がる。ポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテルの具体例としては、ポリオキシプロピレン(9)ポリオキシエチレン(25)ジグリセリルエーテル、ポリオキシプロピレン(14)ポリオキシエチレン(35)ジグリセリルエーテル、ポリオキシプロピレン(25)ポリオキシエチレン(45)ジグリセリルエーテルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。」
エ.「【0018】
(実施例1から3、及び比較例1から2)
実施例に使用したポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテルを表1に示す。各種組成の電解液を調製し、得られた電解液について耐電圧の測定を行った。その結果を表2に示す。なお、表中の組成は重量%である。
・・・・(中 略)・・・・
【0020】
【表1】
[図:0001424465000001.jpg]
【0021】
【表2】
[図:0001424465000002.jpg]
」
上記「ア.」ないし「エ.」から以下のことがいえる。
・上記「ア.」の【請求項1】、「イ.」、「ウ.」の段落【0010】~【0011】の記載によれば、引用文献1に記載の「アルミニウム電解コンデンサ用電解液」は、平均重合度が2から10のポリグリセリンに対して、エチレンオキサイド(EO)及びプロピレンオキサイド(PO)が合計で20から100モル付加されてなるポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテルを含有してなるものであり、特に上記「イ.」、「ウ.」の段落【0010】~【0011】の記載によれば、かかるポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテルは、アルミニウム電解コンデンサ用電解液の耐電圧向上剤として用いられるものであると理解することができる。
・上記「ア.」の【請求項2】、「ウ.」の段落【0012】の記載によれば、ポリグリセリンの水酸基1つに対するEO及びPOの付加モル数がそれぞれ1~15モル、より好ましくは2から12モルである。
・上記「ウ.」の段落【0012】の記載によれば、ポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテルの具体例としては、例えばポリオキシプロピレン(25)ポリオキシエチレン(45)ジグリセリルエーテルなどが挙げられ、上記「エ.」の記載(特に【表1】)によれば、実施例3では当該ポリオキシプロピレン(25)ポリオキシエチレン(45)ジグリセリルエーテル(2G25PO45EO)を使用してなるものであり、この場合、ポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテル1分子において、EO及びPOの付加モル数の合計は70である。
以上のことから、特に実施例3に係る電解液に耐電圧向上剤として含有されるポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテルに着目し、上記記載及び図面を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「平均重合度が2から10のポリグリセリンに対して、エチレンオキサイド(EO)及びプロピレンオキサイド(PO)が合計で20から100モル付加されてなり、ポリグリセリンの水酸基1つに対するEO及びPOの付加モル数がより好ましくはそれぞれ2から12モルであるポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテルからなるアルミニウム電解コンデンサ用電解液の耐電圧向上剤であって、
前記ポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテルが、ポリオキシプロピレン(25)ポリオキシエチレン(45)ジグリセリルエーテル(2G25PO45EO)であり、ポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテル1分子においてEO及びPOの付加モル数の合計は70である、アルミニウム電解コンデンサ用電解液の耐電圧向上剤。」
5.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明における「ポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテル」は、ポリグリセリンに対し、ポリグリセリンの水酸基1つに対するエチレンオキサイド(EO)及びプロピレンオキサイド(PO)がそれぞれ2から12モル、すなわち本願発明でいう「アルキレンオキサイド」の付加モル数の合計が4から24モルの範囲で付加してなるものであり、本願発明における「ポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテル」に相当する。また、引用発明におけるエチレンオキサイド(EO)及びプロピレンオキサイド(PO)が付加される「ポリグリセリン」の平均重合度は、「2から10」であり、本願発明で特定する「2~10」の範囲と一致する。
よって、本願発明と引用発明とは、「平均重合度が2~10のポリグリセリンに対し、水酸基1つ当たりのアルキレンオキサイドの平均付加数が所定の範囲であるポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテルを含有」するものである点で共通するといえる。なお、ここでいう水酸基1つ当たりのアルキレンオキサイドの「平均付加数」とは、「平均付加モル数」を意味することは自明なことである。
そして、ポリグリセリンに対する水酸基1つ当たりのアルキレンオキサイドの平均付加数(平均付加モル数)の所定の範囲について、本願発明では「5~30」(モル)であることを特定するのに対し、引用発明では4から24モルである点で相違する。
(2)ポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテル1分子において、本願発明では、アルキレンオキサイドの総付加モル数の合計が「72以上」であることを特定するのに対し、引用発明では、EO及びPOの付加モル数の合計、すなわち本願発明でいう「アルキレンオキサイドの総付加モル数の合計」は「70」である点で相違する。
(3)そして、引用発明における「アルミニウム電解コンデンサ用電解液の耐電圧向上剤」は、コンデンサ用電解液の耐電圧に関して改質するための添加剤であるといえ、本願発明でいう「コンデンサ電解液の改質剤」に相当するということができる。
よって、上記(1)ないし(3)によれば、本願発明と引用発明とは、
「平均重合度が2~10のポリグリセリンに対し、水酸基1つ当たりのアルキレンオキサイドの平均付加数が所定の範囲であるポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテルを含有することを特徴とするコンデンサ電解液の改質剤。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
ポリグリセリンに対する水酸基1つ当たりのアルキレンオキサイドの平均付加数(平均付加モル数)の所定の範囲について、本願発明では「5~30」(モル)であることを特定するのに対し、引用発明では4から24モルである点。
[相違点2]
ポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテル1分子において、アルキレンオキサイドの総付加モル数の合計が、本願発明では「72以上」であることを特定するのに対し、引用発明では70である点。
6.判断
上記相違点について検討する。
[相違点1]について
引用発明における平均付加数(平均付加モル数)は「4~24」(モル)の範囲とされるものであって、その下限値(4(モル))が本願発明で特定する範囲の下限値(5(モル))を1(モル)ほどわずかに超えて下回っているものの、大部分の範囲(5~24(モル))において重複しており、引用発明においても、平均付加数(平均付加モル数)をかかる重複する範囲内の値とし、相違点1に係る構成とすることは当業者であれば適宜なし得ることである。
[相違点2]について
引用発明におけるポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテルは、具体的にはポリオキシプロピレン(25)ポリオキシエチレン(45)ジグリセリルエーテル(2G25PO45EO)であって、ポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテル1分子においてEO及びPOの付加モル数の合計は70であり、本願発明で特定する範囲の下限値「72」よりもわずかに下回る。しかしながら、引用文献1の段落【0012】にも記載されているように、採用し得る具体的なポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテルとしては、上記ポリオキシプロピレン(25)ポリオキシエチレン(45)ジグリセリルエーテル(2G25PO45EO)に限定されるものではなく、EO及びPOの付加モル数の合計が100を超えない範囲で70を超えるものも選択し得るものであるといえ、引用発明において、ポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテルとして上記ポリオキシプロピレン(25)ポリオキシエチレン(45)ジグリセリルエーテル(2G25PO45EO)に代えてエチレンオキサイド(EO)及びプロピレンオキサイド(PO)の付加モル数の合計が72以上もの(例えば特開2021-40087号公報(特に段落【0011】、【0023】(【表1】)を参照)には、コンデンサ電解液の改質剤であるポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテルとして引用発明の2G25PO45EOに近い2G50EO20PO(付加モル数の合計70)の他に、4G60EO12PO(付加モル数の合計72)、4G60EO24PO(付加モル数の合計84)などEO及びPOの付加モル数の合計が72以上のものが多数例示されている)を用い、相違点2に係る構成とすることも当業者であれば容易になし得たことである。
7.審判請求人の主張について
審判請求人は審判請求書において、「引用文献1の記載の発明と対比すると、本願明細書段落[0005]記載の低温での電気特性に優れることが開示及び示唆されていない点において、相違します。」と主張するとともに、追加比較例1(引用文献1に記載のポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテル2G9PO25EO)、追加比較例2(4G60EO)、及び本願発明の実施例4(4G36PO60EO)についての低温時の流動性と電気特性の実験データを示した実験証明書を添付し、「従来、コンデンサ電解液を低温環境下において適用する場合、電解液の流動性と電気特性を維持することが必要と考えられていましたが、本願発明では、-40℃において一部流動性が失われている電解液であるにも関わらず、電気特性に優れる、つまり、電解液の流動性と電解コンデンサの電気特性には相関が認められないことは明らかです。したがって、引用文献1の発明は、従来の理論をもとに電解液を開発した場合には、本願発明の内容を得ることは難しく、当業者であっても容易に想到できない発明と判断できます。」などと主張している。
しかしながら、本件請求項1には、「低温での電気特性」について何ら直接特定(限定)がなされているわけではない。また、本願発明は「・・ポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテルを含有し、・・72以上であることを特徴とするコンデンサ電解液の改質剤。」であり、改質剤として所定のポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテルを含有するものであるが、その含有量については何ら特定がなく、必ずしも改質剤が所定のポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテルのみからなるもの(つまり含有量100%)に限られないものであるのに対して、本願明細書には実施例として、いずれも改質剤が所定のポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテルからなるもの(つまり含有量100%)のみが示されているにすぎない点や、実験証明書で示した追加比較例1は、引用文献1に記載された実施例のうち、EO及びPOの付加モル数の合計が最も少ない実施例1(付加モル数の合計34)に係るものであって、引用発明の実施例3(付加モル数70)に係るものではない点、さらに言えば、本願明細書の発明の詳細な説明にはアルキレンオキサイドの「付加モル数の合計」と「低温での電気特性」との関係について記載はなく、本願明細書の段落【0026】の【表1】によると、実施例1の2G25PO35EO(付加モル数の合計60)に係るものであって本願発明で特定する付加モル数の合計「72以上」の条件を満たさないものの方が、むしろ実験証明書で本願発明として示した実施例4に係るもの(付加モル数の合計96)よりも低温特性が優れているといえる点を踏まえると、本願発明と引用発明との間に、低温での電気特性について格別の相違があるとは認識できない。
さらに、そもそも低温での電気特性や、低温時の流動性と電気特性の相関に着目しないかぎり、上記相違点(特に相違点2)に係る構成を当業者であっても容易に想到することができないというものでもない。
以上のことから、審判請求人の上記主張は採用できない。
8.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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