2021-003483
圧粉磁心の製造方法
- 審判番号
- 2021-003483
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-106306外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年03月16日
- 審決日
- 2021年11月02日
- 公報発行日
- 2022年01月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】トヨタ自動車株式会社
- 【請求人代理人】特許業務法人平木国際特許事務所
- 【請求人】株式会社豊田中央研究所
- 【請求人代理人】特許業務法人平木国際特許事務所
- 分類
- P18 .121-Z (H01F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 9項目
第1 手続の経緯
本願は、平成29年5月30日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
第2 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明は、令和2年7月13日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】Zrの含有量が0.020質量%以下であるFe-Al-Si系軟磁性粉末を1000℃以下で熱処理して酸化皮膜を形成する工程と、焼鈍温度よりも低い軟化点温度を有する低融点ガラスを添加し、圧粉磁心用粉末を調製する工程と、前記圧粉磁心用粉末を圧縮成形して圧粉成形体を形成する工程と、該圧粉成形体を焼鈍する工程と、を有する、圧粉磁心の製造方法。」
第3 原査定の拒絶の理由の概要
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1又は引用文献2に記載された発明及び引用文献3に記載された技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1.特開平10-189323号公報
引用文献2.特開2015-103770号公報
引用文献3.特開昭58-064346号公報
第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。以下同様。)。
「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、各種電気・電子機器に用いられる金属系圧粉磁心と、その製造方法に関する。」
「【0014】本発明では、鉄、珪素、アルミニウムを主成分とする合金粉末を適正な温度範囲で酸化性雰囲気中で熱処理する一次熱処理工程と、この工程で得られた合金粉末にガラス粉末とポリビニルアルコール水溶液とを混合する工程と、この混合物を圧縮成形する圧縮成形工程と、この圧縮成形体を酸化性雰囲気中で適正な温度範囲で熱処理する二次熱処理工程とをこの順で有する。【0015】鉄、珪素、アルミニウムを主成分とする合金粉末を適正な温度範囲で酸化性雰囲気で熱処理すると、アルミニウムが選択的に酸化され、主に酸化アルミニウムからなる酸化皮膜が合金粉末粒子の表面に形成される(日本セラミックス協会学術論文誌第99巻(1991年)第73頁から第77頁)。この酸化アルミニウム皮膜が粉末表面に形成された粉末をガラス粉末によって結着すると、磁心の機械的強度が向上する。これは酸化アルミニウム皮膜とガラス粉末との結着が強固になるためと考えられる。また、この酸化皮膜により高絶縁性が保たれ、高周波領域での損失の増大を抑制している。」
「【0016】一次熱処理工程の温度範囲は500℃~1000℃が好ましく、650℃~800℃がより好ましい。一次熱処理の温度が低すぎると、酸化皮膜の形成に時間がかかりすぎて実用上不利であり、温度が高すぎると酸化皮膜が厚くなり透磁率が著しく低下する。」
「【0018】本発明で用いるガラス粉末には、低融点ガラスを用いることが好ましい。低融点ガラスとしては、軟化点と作業点が二次熱処理温度よりも低いものが好ましく、具体的には、PbO、B2O3、SiO2を主要組成とするものが好ましいが、軟化点を調整したり接着強度を高めるためにAl2O3、CaO、BaO、MgO、ZnOなどを含んでも良い。また、ガラス粉末は、平均粒子径が5μm以下のものが好ましい。粒子径が大きすぎると合金粉末を被覆することが困難になる。」
「【0024】成形後の二次熱処理工程では、圧縮成形体に熱処理を施し、硬化させると共に合金粉末に生じた歪みを取り除き、磁心の軟磁気特性を向上させる。硬化時にガラス粉末と合金粉末の表面の酸化皮膜が強固に接着し、成形体の機械的強度が向上すると考えられる。また、ポリビニルアルコールや潤滑剤は二次熱処理中に熱分解し、成形体の密度や機械的強度は低下しない。」
以上によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「鉄、珪素、アルミニウムを主成分とする合金粉末を500℃~1000℃の温度範囲で酸化性雰囲気中で熱処理して、酸化皮膜を合金粉末粒子の表面に形成する一次熱処理工程と、前記工程で得られた合金粉末に、軟化点が二次熱処理温度よりも低い低融点ガラス、ポリビニルアルコール水溶液とを混合する工程と、混合物を圧縮成形する圧縮成形工程と、圧縮成形体を酸化性雰囲気中で適正な温度範囲で熱処理し、硬化させると共に合金粉末に生じた歪みを取り除き、磁心の軟磁気特性を向上させる二次熱処理工程と、を有する、圧粉磁心の製造方法。」
2 引用文献3には、図面とともに以下の事項が記載されている。
a 「本発明はFe-Al-Si系合金(センダスト合金)の優れた磁気特性を損なうことなく耐食性に優れた高透磁率合金を提供せんとするものである。」(第1頁左下欄第16-18行)
b 「ところがFe-Al-Si系合金は通常センダストと呼ばれており、優れた軟磁気特性と高い飽和磁束密度および比較的高い電気抵抗を有しており、その高い硬さと相まって磁気ヘッド用のコア材料としては理想的な性質を有するものである。」(第1頁右下欄第5-10行)
c 「実施例第1表に試験材の組成を、第2表にその磁気特性と耐食試験の結果を示す。」(第2頁左下欄第6-8行)
d
[図:0001380798000001.jpg]
[図:0001380798000002.jpg]
e 第1表より、Zrの含有量に着目すると次の事項が読み取れる。
試料No1ないし19、21ないし23、25ないし32には、Zrを含んでいないFe-Al-Si系合金が記載されている。
試料No20には、Zrの含有量が0.05重量%のFe-Al-Si系合金が記載されている。
試料No24には、Zrの含有量が0.02重量%のFe-Al-Si系合金が記載されている。
f 上記aないしeの記載より、引用文献3にはZrの含有量が0.02重量%以上であるFe-Al-Si系合金とともに、Zrの含有量が0.02重量%以下であるFe-Al-Si系合金が記載されているといえる。
第5 本願発明と引用発明の対比
(1)引用発明の「鉄、珪素、アルミニウムを主成分とする合金粉末」は、「軟磁気特性を向上させ」て「圧粉磁心」に用いるものであるから、軟磁性粉末である。
そうすると、引用発明の「鉄、珪素、アルミニウムを主成分とする合金粉末を500℃~1000℃の温度範囲で酸化性雰囲気中で熱処理して、酸化皮膜を合金粉末粒子の表面に形成する一次熱処理工程」は、本願発明の「Fe-Al-Si系軟磁性粉末を1000℃以下で熱処理して酸化皮膜を形成する工程」に相当する。
但し、Fe-Al-Si系軟磁性粉末について、本願発明は「Zrの含有量が0.020質量%以下である」のに対して、引用発明はそのような特定がない点で相違する。
(2)引用発明における「圧縮成形体を酸化性雰囲気中で適正な温度範囲で熱処理し、硬化させると共に合金粉末に生じた歪みを取り除き、磁心の軟磁気特性を向上させる」ことは、「圧縮成形体」を焼鈍しているといえる。
そうすると、引用発明の「二次熱処理工程」は、本願発明の「該圧粉成形体を焼鈍する工程」に相当する。
(3)上記(2)を踏まえると、引用発明の「二次熱処理温度」は、本願発明の「焼鈍温度」に相当する。
そうすると、引用発明の「前記工程で得られた合金粉末に、軟化点が二次熱処理温度よりも低い低融点ガラス」「を混合する工程」は、本願発明の「焼鈍温度よりも低い軟化点温度を有する低融点ガラスを添加し、圧粉磁心用粉末を調製する工程」に相当する。
(4)引用発明の「混合物を圧縮成形する圧縮成形工程」は、本願発明の「前記圧粉磁心用粉末を圧縮成形して圧粉成形体を形成する工程」に相当する。
(5)そうすると、本願発明と引用発明とは、次の(一致点)及び(相違点)を有する。
(一致点)
「Fe-Al-Si系軟磁性粉末を1000℃以下で熱処理して酸化皮膜を形成する工程と、焼鈍温度よりも低い軟化点温度を有する低融点ガラスを添加し、圧粉磁心用粉末を調製する工程と、前記圧粉磁心用粉末を圧縮成形して圧粉成形体を形成する工程と、該圧粉成形体を焼鈍する工程と、を有する、圧粉磁心の製造方法。」
(相違点)
Fe-Al-Si系軟磁性粉末について、本願発明は「Zrの含有量が0.020質量%以下である」のに対して、引用発明はそのような特定がない点。
第6 判断
上記相違点について検討する。
引用文献3にはZrの含有量が0.02重量%以上であるFe-Al-Si系合金とともに、Zrの含有量が0.02重量%以下であるFe-Al-Si系合金が記載されている(上記「第4 2 f」)。
引用文献3記載のFe-Al-Si系合金は磁気ヘッドのコア材料としての使用を想定しているが、高透磁率で優れた軟磁気特性、高い電気抵抗等を有するFe-Al-Si系合金(上記「第4 2」「a」「b」等参照)は、磁気ヘッドのコア材のみならず、圧粉磁心の材料として用いられていることは周知である。よって、組み合わせる動機はあり、阻害する要因はない。
そうすると、引用発明の圧粉磁心に、引用文献3記載の上記Fe-Al-Si系合金の適用を試ることは当業者が容易に想到し得ることである。その際に、Zrの含有量が0.02重量%以下のFe-Al-Si系合金を選択することは、当業者が通常行い得る試行錯誤の範囲にすぎない。
したがって、上記相違点に係る構成は、引用発明及び引用文献3に記載された技術に基いて、当業者が容易になし得たことである。
よって、本願発明は、引用発明及び引用文献3に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第7 請求人の主張について
1 請求人は、審判請求書において、主に次の主張をしている。
(1)引用文献3に記載のように、Fe-Al-Si系合金において、Zrの含有量が0.020質量%以下であるものは知られていた可能性はあるものの、Zrの含有量が0.020質量%以下であるFe-Al-Si系合金を「圧粉磁心の製造」に用いることまで公知であったとは言えない。さらに、Zrの含有量が0.020質量%以下であるFe-Al-Si系合金を「圧粉磁心の製造」に用いることにより、良好な鉄損特性を得ることができるという本発明の効果までは予測できるものではない。
また、引用文献3は、「磁気記録および再生に用いる磁気ヘツド材料」に関するものであり(例えば、第1頁左欄下から5行目~右欄下から3行目)、引用文献1及び2並びに本発明の「圧粉磁心」に関する分野とは大きく異なる分野に関するものである。それゆえ、当業者は、引用文献3に記載の合金を引用文献1又は2に適用するように動機付けされることはない。(第3頁第19行-第4頁1行)
(2)引用文献3には、「0.01~1%のSn、Pb、B、S、P、Zr、Hf、Yおよび希土類元素」を添加できるとの記載があるが(第2頁左上欄)、当業者がこのような一行記載の中からZrだけを選択し、他の文献、特に異なる分野の文献である引用文献1又は2に適用することは有り得ない。さらに、引用文献3には、『これら副成分の添加により本系合金の耐食性は相乗効果により一層向上する』との記載があり(第2頁左上欄)、この記載から、当業者は、耐食性の向上は相乗効果であるため、「白金族元素により選ばれた少なくとも一種0.1~2.5%、N25~300ppmおよびC100~500ppmのうちの一種または二種」を含むことと切り離してZrを他の文献である引用文献1又は2に適用することは有り得ない。(第4頁第2-10行)
(3)圧粉磁心に関わる業者にとって、不純物と認識されている元素は、C,O,N,P,S,Mn,Cu,Ni,Cr,Ca,Mg,Moである(参考文献1~4参照)。それに対し、本発明で規定されるZrはこれらに含まれておらず、本発明はZrに着目し、その含有量が0.020質量%以下であるFe-Al-Si系軟磁性粉末を圧粉磁心の製造方法に用いることにより、良好な鉄損特性を得ることができることを見出して成されたものであり、このような事由まで当業者にとって自明の事項であったとは言えない。(第5頁第6-18行)
2 上記主張について検討する
(1)の主張について
上記「第6」で検討したように、Fe-Al-Si系合金は、磁気ヘッドのコア材のみならず、圧粉磁心の材料として用いられていることは周知であり、引用文献3に記載の合金を引用文献1又は2に適用を試みることは、当業者が容易に想到し得ることである。
また、引用文献3にはFe-Al-Si系合金は高い電気抵抗を有することが示されており(上記「第4 2 b」)、圧粉磁芯に適用した場合には高い電気抵抗により渦電流を抑えることができるので、良好な鉄損特性を得ることは当業者の予測の範囲であるといえる。
したがって、上記主張(1)は採用することができない。
(2)の主張について
引用文献3の第1表には、Zrを含んでいない或いはZrの含有量が0.02重量%のFe-Al-Si系合金について、試料No1ないし19、21ないし32と多数の例が示されており、引用発明に引用文献3記載の上記Fe-Al-Si系合金を適用する際に、Zrの含有量を0.02重量%以下のFe-Al-Si系合金を選択することは格別な困難なこととはいえない。
したがって、上記主張(2)は採用することができない。
(3)の主張について
引用文献3の第1表には、Zrを含んでいないFe-Al-Si系合金(試料No1ないし19、21ないし23、25ないし32)、Zrを含んでいるFe-Al-Si系合金(試料No20、24)がともに記載されていることから、副成分としてZrにも着目しているいことは明らかである。
そして、上記「第6」で検討したように、Fe-Al-Si系合金は、磁気ヘッドのコア材のみならず、圧粉磁心の材料として用いられていることは周知であり、引用文献3に記載の合金を引用文献1又は2に適用を試みることは、当業者が容易に想到し得ることである。そして、上述の様に副成分としてZrにも着目しているのであるから、その含有量が0.020質量%以下とすることは当業者が適宜なし得ることである。
したがって、上記主張(3)は採用することができない。
第8 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献3に記載されてた技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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