特許拒絶査定不服審判
2025-002334
変圧器コア用コイル
- 審判番号
- 2025-002334
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2023-513807
- 請求日
- 2025年02月14日
- 審決日
- 2025年09月25日
- 公報発行日
- 2026年03月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ヒタチ・エナジー・リミテッド
- 【請求人代理人】弁理士法人深見特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 信一
- 審判官 多田 幸司
- 審判官 ▲吉▼澤 雅博
- 分類
- P18 .121-Z (H01F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2023-513807「変圧器コア用コイル」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年11月10日国際公開、WO2022/233447、令和 5年 9月13日国内公表、特表2023-539304〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
1.手続の経緯
本願は、2021年12月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2021年5月5日、欧州特許庁(EP))を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和6年 3月26日付け:拒絶理由通知
令和6年 7月 2日 :意見書、手続補正書の提出
令和6年10月24日付け:拒絶査定
令和7年 2月14日 :審判請求書の提出
2.本願発明
本願の請求項1ないし14に係る発明は、令和6年7月2日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「変圧器コア(100)用のコイル(10)であって、
長手方向軸(L)と、
少なくとも1つの多撚導体(2)と、
前記長手方向軸(L)の周りに巻かれる少なくとも1つの第1の導体巻回(22)と、
前記長手方向軸(L)の周りに巻かれる少なくとも1つの第2の導体巻回(24)とを備え、
前記少なくとも1つの第1の導体巻回(22)および前記少なくとも1つの第2の導体巻回(24)の各々が同一の前記コイル(10)における別個のターンを形成するように、前記少なくとも1つの第1の導体巻回(22)は、前記少なくとも1つの第2の導体巻回(24)に隣接し、
前記少なくとも1つの第1および第2の導体巻回(22,24)の各々は、前記少なくとも1つの第1および第2の導体巻回(22,24)が互いに対して絶縁されるように、それぞれの導体巻回(22,24)の断面周囲全体ではなく部分的に延在する電気絶縁部材(4)を設けられ、
前記電気絶縁部材(4)を前記それぞれの導体巻回(22、24)に保持するための保持要素(6)をさらに備え、
前記保持要素(6)は、複数巻回で前記多撚導体(2)の周りに螺旋状に巻かれている、変圧器コア(100)用のコイル(10)。」
3.原査定の拒絶の理由の概要
本願の請求項1に対する原査定(令和6年10月24日付け拒絶査定)の拒絶の理由の概要は以下のとおりである。
この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明及び周知の技術的事項(下記の引用文献2~6等に記載された技術的事項)に基いて、その出願前にその発明が属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献1:米国特許第6563413号明細書
引用文献2:特開昭55-38076号公報
引用文献3:特開昭59-90905号公報
引用文献4:実願昭61-164418号(実開昭63-70285
号)のマイクロフィルム
引用文献5:特開平3-85708号公報
引用文献6:特開2019-83616号公報
4.引用例の記載事項と周知の技術的事項
(1)引用例の記載事項
ア.原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された米国特許第6563413号明細書(以下、「引用例」という。)には、「a transformer comprising a higher-voltage and a lower-voltage winding」(より高い電圧とより低い電圧の巻線を含む変圧器のための巻線)について、以下の各記載がある(なお、当審による翻訳文を付記する。下線は当審で付与した。)。
(ア)「Furthermore, the present invention relates to a winding for an electrical machine, especially a transformer comprising a higher-voltage and a lower-voltage winding, comprising of at least one multiple parallel conductor of the abovementioned type, wherein successive windings of the multiple parallel conductor or parallel-wound multiple parallel conductors are arranged axially and/or radially adjacently.」(第1欄第16~23行)
(さらに、本発明は、電気機械、特により高い電圧とより低い電圧の巻線を含む変圧器のための巻線に関するものであって、上述のタイプの少なくとも1つの、複数の並列導体からなる、複数の並列導体または複数の並列巻の複数の並列導体の連続する巻線が、軸方向及び/又は半径方向に隣接して配置されている。)
(イ)「In the text which follows, reference is made to FIG. 1 in which a multiple parallel conductor 1 for an electrical machine is shown using the example of a transposed conductor for the lower-voltage winding of a transformer. The multiple parallel conductor exhibits a number of subconductors 2, e.g. flat copper conductors having a rectangular cross section.
Each subconductor 2 is provided with insulation 3, in the present case an enamel coating. To manufacture the multiple parallel conductor, the individual subconductors 2 are combined in the required number and alignment to form a subconductor bundle.
In the present illustrative embodiment, protective insulation 4 which covers the entire top and the edge areas of the side faces facing this top is arranged on the top of the subconductor bundle. The side faces and the underside of the subconductor bundle remain without protective insulation. The material selected for the protective insulation is insulating material which can be impregnated with oil, preferably paper, in the required quality and thickness.
To achieve the required solidity, the arrangement of the subconductor bundle with the protective insulation is wrapped with a wide-meshed ribbon 5. Further information relating to the meshed ribbon 5 can be found in the International Application WO95/30991 of the applicant quoted at the start, which must be expressly considered as part of the present disclosure.」(第5欄第26~52行)
(以下の説明では、図1を参照する。図1には、変圧器の低圧巻線用の転位導体を例に、電気機械用の複数の並列導体1が示されている。この複数の並列導体は、例えば長方形断面を有する平型銅導体などの多数のサブ導体2を備えている。
各サブ導体2には、絶縁体3(本例ではエナメル被覆)が施されている。複数の並列導体を製造するために、個々のサブ導体2を必要な数と配置で組み合わせて、サブ導体束を形成する。
本実施形態では、サブ導体束の上部に、上面全体と、この上面に面する側面の縁部領域を覆う保護絶縁体4が配置されている。サブ導体束の側面および下面には保護絶縁体は配置されていない。保護絶縁体には、油を含浸可能な絶縁材料、好ましくは必要な品質および厚さの紙が選択される。
必要な堅牢性を達成するために、保護絶縁体を備えたサブ導体束の配置は、幅広のメッシュリボン5で包まれる。メッシュリボン5に関する詳細は、冒頭で引用した出願人の国際出願WO95/30991に記載されており、本開示の一部として明示的に考慮される必要がある。)
(ウ)「In a variant of the embodiment of a winding according to the invention, shown in FIG. 4a, the side faces, which are in contact with one another, of two or more multiple parallel conductors 1 are each provided with protective insulation 4 in order to further increase the dielectric strength of the winding.」(第6欄第26~31行)
(図4aに示す本発明による巻線の実施形態の変形例では、2本以上の複数の並列導体1の互いに接触する側面のそれぞれに保護絶縁体4が設けられ、巻線の絶縁強度がさらに高められている。)
(エ)「
[図:0001432887000001.jpg]
」
(オ)「
[図:0001432887000002.jpg]
」
イ.上記記載から、引用例には、次の技術的事項が記載されている。
(ア)上記「ア.(ア)」の記載によれば、引用例の「巻線」は、変圧器用のものである。
(イ)上記「ア.(ア)」、「ア.(ウ)」、「ア.(オ)」の記載によれば、引用例の「巻線」は、複数の並列導体の連続する巻線が、軸方向に隣接して配置されているものである。
(ウ)上記「ア.(イ)」、「ア.(エ)」の記載によれば、引用例の「巻線」は、個々のサブ導体2を必要な数と配置で組み合わせて、転位導体であるサブ導体束として形成された複数の並列導体1からなるものである。
(エ)上記「ア.(イ)」、「ア.(ウ)」、「ア.(オ)」の記載によれば、図4aに示す本発明による巻線の実施形態の変形例に着目すると、引用例の複数の並列導体1は、サブ導体束の下面と、2本以上の複数の並列導体1の互いに接触する側面のそれぞれに延在する保護絶縁体4が設けられ、その他の面には保護絶縁体4は配置されていないことが見てとれる。
(オ)上記「ア.(イ)」、「ア.(エ)」の記載によれば、引用例の「巻線」の、保護絶縁体4を備えたサブ導体束の配置は、メッシュリボン5で包まれてなるものである。
以上のことから、特に変形例に着目し、上記記載及び図面を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「変圧器用の巻線であって、
軸と、
絶縁体3が施されている個々のサブ導体2を必要な数と配置で組み合わせて、転位導体であるサブ導体束として形成された複数の並列導体1からなり、
サブ導体束を有する複数の並列導体の連続する巻線が、軸方向に隣接して配置されており、
複数の並列導体1は、サブ導体束の下面と、2本以上の複数の並列導体1の互いに接触する側面のそれぞれに延在する保護絶縁体4が設けられ、その他の面には保護絶縁体は配置されておらず、
保護絶縁体4を備えたサブ導体束の配置は、メッシュリボン5で包まれてなる、
変圧器用の巻線。」
(2)周知の技術的事項
ア.引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された特開昭55-38076号公報には、以下の各記載がある。(下線は当審で付与した。)
「第2図(a)(b)においては、超電導線(1)の表面に絶縁テープ(3)を適当な隙間を設けつつスパイラルに巻き付けている。これらの超電導線をコイル状に巻回した場合、隣接した各超電導線の間には絶縁テープによつて隙き間が作られる。・・・超電導線(1)と超電導線(1)の隙間(6)にはこの液体ヘリウムか充填された状態になるから、各超電導線(1)は液体ヘリウムに接触する。この発明の超電導コイルにおいては、第2図に示すような絶縁をほどこした超電導線を巻回しているために、隙間(6)が大きくなり流通孔(7)から浸入した液体ヘリウムが隙間(6)に十分に浸入し蓄積されて、超電導線の表面に接触冷却する。」(第2頁右上欄第5行~左下欄第12行)
イ.引用文献3の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用された特開昭59-90905号公報には、以下の各記載がある。(下線は当審で付与した。)
「超電導線は、コイル巻回時の電気的な短絡を防ぐために、表面に何らかの方法で電気的な絶縁を施して用いられる。また超電導線が超電導状態を維持するため、すなわち、冷媒、例えば液体ヘリウムによる冷却が充分に行われるように、・・・超電導線材の表面に、第1図に示す如く、スペーサを兼ねた絶縁テープ3をスパイラル状に間隔をあけて巻き付ける方法が用いられる。」(第1頁左欄第11行~右欄第4行)
「第2図は断面円形の超電導線1の表面を、その周長のほぼ半分に相当する幅をもった薄い絶縁物・・・で縦添え被覆し、その周上に絶縁テープ3・・・をスパイル状に間隔をあけて巻付けたものである。・・・このような絶縁超電導線をコイル巻回すれば、万一スパイラル絶縁のない部分同志が接触しても薄い絶縁物2があるために線間短絡の恐れはない。しかも超電導線の表面の一部は露出し、そこが冷媒、例えば、液体ヘリウムに接するため冷却がよく行われ、安定性を確保し得る。」(第1頁右欄第14行~第2頁左欄第9行)
ウ.引用文献5の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献5として引用された特開平3-85708号公報には、以下の各記載がある。(下線は当審で付与した。)
「導体表面に絶縁テープを被覆した素線に、木綿パルプ紙等からなるテープ状の間隔材(スペーサ)を螺旋状に巻着し、間隔材によってできた巻線間の間隙に冷媒を流入して冷却していた。」(第2頁左上欄第5~9行)、
「第4図は他の実施例であり、絶縁テープ3を、直接、被覆フィルム5で被覆し、その外側に第5図に示した糸状スペーサ9を巻き付けた点が前述の実施例と異なっている。本実施例によれば、冷却面積を、更に、大きくする効果がある。」(第3頁左上欄第13~17行)
「第7図は毛羽のない絶縁テープ3の上に多孔シート10を間隔をあけて巻きつけた実施例である。本多孔シート10の孔6は微細孔でも良い。本実施例によれば、落電時に巻線に作用する機械力に対して強い。なお、多孔シート10の代りに、第3図に示した網目状スペーサ8を使用することができる」(第3頁右上欄第3~9行)
エ.周知の技術的事項
上記「ア.」ないし「ウ.」によれば以下の技術事項は周囲の技術的事項であると認められる。
「コイル導線の表面にスペーサーを隙間をあけて螺旋状に設けることで、コイル巻回時に導線の間の隙間を大きくして冷媒を流入しやすくすることで冷却効率を高めること。」
5.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア.引用発明における「巻線」は、変圧器に用いる巻線であるので、本願発明の「コイル」に相当する。したがって、引用発明の「変圧器用の巻線」は、本願発明の「変圧器」「用のコイル」に対応する。
したがって、本願発明と引用発明とは、「変圧器用のコイル」である点では共通する。
ただし、本願発明の「コイル」は、「変圧器コア」用であることが特定されているのに対して、引用発明の「巻線」は、「変圧器」用ではあるものの、「変圧器コア」用であることは特定されていない点で相違する。
イ.引用発明の「サブ導体束」は、「個々のサブ導体2を必要な数と配置で組み合わせて、転位導体」として形成されており、すなわち個々のサブ導体を所定位置で互いに交差させて位置を入れ替える「転位」が行われているものであるので、本願発明の「多撚導体」に相当する。
ウ.引用発明は、サブ導体束を有する複数の並列導体の連続する巻線が、軸方向に隣接して配置されていることから、サブ導体束を有する複数の並列導体は軸の周りに巻かれているといえる。そして、本願発明は、「前記長手方向軸(L)の周りに巻かれる少なくとも1つの第1の導体巻回(22)と、前記長手方向軸(L)の周りに巻かれる少なくとも1つの第2の導体巻回(24)とを備え」る点を特定していること、本願明細書の段落【0010】、【0022】には、「第1および第2の導体巻回は、軸方向に、すなわち長手方向軸の方向に、または径方向に、すなわち長手方向軸に垂直な方向に、互いに隣接していてもよい」点、「本明細書において、「軸方向に」は、長手方向軸に平行な方向に沿うこと意味」する点が記載されていることを踏まえると、本願発明の「長手方向軸」は、導体巻回の巻回軸を意味することは明らかであるので、引用発明のサブ導体束を有する複数の並列導体の連続する巻線の巻回軸である「軸」は、本願発明の「長手方向軸」に相当する。してみると、引用発明の、複数の並列導体1の「サブ導体束」は、長手方向軸の周りに巻かれるといえるので、引用発明の連続する巻線の複数の並列導体の「サブ導体束」のうち、軸方向に隣接して配置されているそれぞれの部分は、本願発明の「長手方向軸(L)の周りに巻かれる少なくとも1つの第1の導体巻回(22)」、「長手方向軸(L)の周りに巻かれる少なくとも1つの第2の導体巻回(24)」に相当する。そして、引用発明の複数の並列導体のサブ導体束は、連続する巻線を構成しているので、本願発明の「前記少なくとも1つの第1の導体巻回(22)および前記少なくとも1つの第2の導体巻回(24)の各々が同一の前記コイル(10)における別個のターンを形成する」構成を満たす。さらに、本願明細書の段落【0020】には、「少なくとも1つの第1の導体巻回が少なくとも1つの第2の導体巻回に隣接することは、少なくとも1つの第1の導体巻回と隣接する少なくとも1つの第2の導体巻回との間にさらなる導体巻回がないことを意味する」と記載されていることを踏まえると、引用発明の、「サブ導体束」を有する複数の並列導体の連続する巻線が、軸方向に隣接して配置されている構成は、隣接する複数の並列導体の間に他の導体がないので、本願発明の「前記少なくとも1つの第1の導体巻回(22)は、前記少なくとも1つの第2の導体巻回(24)に隣接」する構成を満たす。
したがって、本願発明と引用発明とは、「長手方向軸(L)と、少なくとも1つの多撚導体(2)と、前記長手方向軸(L)の周りに巻かれる少なくとも1つの第1の導体巻回(22)と、前記長手方向軸(L)の周りに巻かれる少なくとも1つの第2の導体巻回(24)とを備え、前記少なくとも1つの第1の導体巻回(22)および前記少なくとも1つの第2の導体巻回(24)の各々が同一の前記コイル(10)における別個のターンを形成するように、前記少なくとも1つの第1の導体巻回(22)は、前記少なくとも1つの第2の導体巻回(24)に隣接」する点で一致する。
エ.引用発明の「保護絶縁体4」は、サブ導体束の下面と、2本以上の複数の並列導体1の互いに接触する側面のそれぞれに延在していることから、2本以上の複数の並列導体1の互いに接触する側面及び上下面のいずれの方向においても、互いに絶縁されるように設けられているといえる。したがって、引用発明の連続する巻線の複数の並列導体の「サブ導体束」のうち、軸方向に隣接して配置されているそれぞれの部分は、「保護絶縁体4」により、互いに絶縁されるように設けられているといえるとともに、サブ導体束の下面と、2本以上の複数の並列導体1の互いに接触する側面のその他の面には保護絶縁体は配置されていないことから、サブ導体束の断面周囲全体ではなく部分的に延在しているといえるので、引用発明の「保護絶縁体4」は、本願発明の「電気絶縁部材」に相当する。よって、引用発明のサブ導体束は、少なくとも1つの第1および第2の導体巻回(22,24)が互いに対して絶縁されるように、それぞれの導体巻回(22,24)の断面周囲全体ではなく部分的に延在する「電気絶縁部材」を備えているといえる。
したがって、本願発明と引用発明とは、「前記少なくとも1つの第1および第2の導体巻回(22,24)の各々は、前記少なくとも1つの第1および第2の導体巻回(22,24)が互いに対して絶縁されるように、それぞれの導体巻回(22,24)の断面周囲全体ではなく部分的に延在する電気絶縁部材(4)を設けられ」る点で一致する。
オ.引用発明の保護絶縁体4を備えたサブ導体束の配置は、メッシュリボン5で包まれていることから、「メッシュリボン5」は、保護絶縁体4をサブ導体束に保持しているといえるため、本願発明の「保持要素」に対応する。
したがって、本願発明と引用発明とは、「前記電気絶縁部材(4)を前記それぞれの導体巻回(22、24)に保持するための保持要素(6)をさらに備える」点で一致する。
ただし、保持要素について、本願発明は、「複数巻回で前記多撚導体(2)の周りに螺旋状に巻かれている」と特定するのに対して、引用発明は、そのような特定がない点で相違する。
よって、上記「ア.」ないし「オ.」によれば、本願発明と引用発明とは、
「変圧器用のコイル(10)であって、
長手方向軸(L)と、
少なくとも1つの多撚導体(2)と、
前記長手方向軸(L)の周りに巻かれる少なくとも1つの第1の導体巻回(22)と、
前記長手方向軸(L)の周りに巻かれる少なくとも1つの第2の導体巻回(24)とを備え、
前記少なくとも1つの第1の導体巻回(22)および前記少なくとも1つの第2の導体巻回(24)の各々が同一の前記コイル(10)における別個のターンを形成するように、前記少なくとも1つの第1の導体巻回(22)は、前記少なくとも1つの第2の導体巻回(24)に隣接し、
前記少なくとも1つの第1および第2の導体巻回(22,24)の各々は、前記少なくとも1つの第1および第2の導体巻回(22,24)が互いに対して絶縁されるように、それぞれの導体巻回(22,24)の断面周囲全体ではなく部分的に延在する電気絶縁部材(4)を設けられ、
前記電気絶縁部材(4)を前記それぞれの導体巻回(22、24)に保持するための保持要素(6)をさらに備える、
変圧器用のコイル(10)。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
本願発明の「コイル」は、「変圧器コア」用であることが特定されているのに対して、引用発明の「巻線」は、「変圧器」用ではあるものの、「変圧器コア」用であることは特定されていない点。
[相違点2]
保持要素について、本願発明は、「複数巻回で前記多撚導体(2)の周りに螺旋状に巻かれている」と特定するのに対して、引用発明は、そのような特定がない点。
6.判断
上記各相違点について検討する。
(1)相違点1について
変圧器用の巻線を、変圧器コアの周囲に巻くことで変圧器コア用として用いるようにすることは、特に例示するまでもなく周知の技術的事項であり、引用発明においても、変圧器用の巻線を、変圧器コア用として用いることは、当業者が容易に想到し得たことである。
(2)相違点2について
引用例の第1欄第27~38行、第5欄第48~52行に、「For example, a multiple parallel conductor consisting of a plurality of subconductors or transposed conductors which is taped with a wide-meshed woven ribbon or meshed ribbon of polyester or a glass-filament/polyester mixture having a mesh-size of at least 2 mm is described in International Publication WO95/30991 of the applicant. If necessary, the multiple parallel conductor and/or the woven or meshed ribbon is also impregnated with a partially crosslinked epoxy resin. Such a woven ribbon can be used for producing a solid compact conductor in which the subconductors are in direct contact with the cooling medium.」(例えば、出願人の国際公開WO95/30991には、少なくとも2mmのメッシュサイズを有するポリエステルまたはガラスフィラメント/ポリエステル混合物からなる幅広の織りリボンまたはメッシュリボンでテープ状に覆われた複数のサブ導体または転位導体からなる複数の平行導体が記載されている。必要に応じて、複数の平行導体および/または織りリボンもしくはメッシュリボンには、部分架橋エポキシ樹脂が含浸される。このような織りリボンは、サブ導体が冷却媒体と直接接触する、堅くコンパクトな導体を製造するために使用することができる。)、「Further information relating to the meshed ribbon 5 can be found in the International Application WO95/30991 of the applicant quoted at the start, which must be expressly considered as part of the present disclosure.」(メッシュリボン5に関する詳細は、冒頭で引用した出願人の国際出願WO95/30991に記載されており、本開示の一部として明示的に考慮される必要がある。)と記載されていることから、引用発明の「メッシュリボン5」はサブ導体が冷却媒体と直接接触するための冷却用のスペーサーとして用いられるといえるものであるところ、上記「4.(2)エ.」のとおり、「コイル導線の表面にスペーサーを隙間をあけて螺旋状に設けることで、コイル巻回時に導線の間の隙間を大きくして冷媒を流入しやすくすることで冷却効率を高めること」は、周知の技術的事項である。そして、引用発明における「変圧器」用の「巻線」において、高い冷却効率が求められることは明らかであるところ、引用発明において、サブ導体が冷却媒体と直接接触するための冷却用のスペーサーとして用いられる「メッシュリボン5」について、そのスペーサーとしての機能をより効率的にするために、コイル巻回時の導線の間の隙間を大きくして冷媒が流入しやすくすることで冷却効率を高める上記周知の技術的事項を適用し、相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
よって、本願請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
7.審判請求人の主張について
審判請求人は審判請求書において、引用例には「長尺状の絶縁体」との開示も示唆もないため、長尺状の絶縁体を螺旋状に配置するという技術的思想は、引用例に開示された発明からは到達不可能であり、他の引用文献に開示された螺旋状の構成を、引用例に適用できる理由(動機付け)はない旨主張している。
しかし、引用例に長尺状の絶縁体が記載されているか否かに関わらず、上記「6.(2)」に記載したとおり、コイル導線の表面に冷却効率を高めるためにスペーサーを隙間をあけて螺旋状に設けることは、周知の技術的事項であり、冷却用のスペーサーとして「メッシュリボン5」を用いているといえる引用発明に当該周知の技術的事項を適用する動機付けも存在することから、引用発明における「メッシュリボン5」に上記周知の技術的事項を適用し、保持要素は、複数巻回で多撚導体の周りに螺旋状に巻かれている構成(相違点2に係る構成)とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
よって、審判請求人の上記主張を採用することはできない。
8.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2025-002334