特許拒絶査定不服審判
2024-011901
耐腐食性永久磁石を備えた血管内血液ポンプ
- 審判番号
- 2024-011901
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-135033外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2024年07月19日
- 審決日
- 2025年03月12日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】アビオメド オイローパ ゲーエムベーハー
- 【請求人代理人】弁理士法人YKI国際特許事務所
- 分類
- P18 .121-Z (H01F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022-135033「耐腐食性永久磁石を備えた血管内血液ポンプ」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年11月30日出願公開、特開2022-177015〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
1.手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)10月25日(パリ条約による優先権主張 2016年11月2日 (EP)欧州特許庁)を国際出願日とする特願2019-523602号の一部を令和4年8月26日に新たに特許出願したものであって、令和5年9月13日付けで拒絶理由が通知され、同年12月22日に意見書及び手続補正書が提出され、令和6年3月13日付けで拒絶査定されたところ、同年7月19日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
2.本願発明
本願の請求項1ないし14に係る発明は、令和5年12月22日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、請求項1に記載された次の事項により特定されるものであると認める。
「 埋め込み可能な血液ポンプの電気モータに使用される耐腐食性永久磁石であって、前記耐腐食性永久磁石は、
磁石本体と、
前記磁石本体の表面上に設けられてカバーする複合コーティングと、
を備えて、前記複合コーティングが、
(a)前記磁石本体上の金属層と、
(b)オプションとして、前記金属層の前記磁石本体とは反対側の表面上の金属酸化物層と、
(c)前記金属層又は前記金属酸化物層の上のリンカー層と、
(d)前記リンカー層の上のポリ(2-クロロ-p-キシリレン)から形成される層と、を備え、
前記磁石本体が希土類金属・鉄・ホウ素永久磁石であり、
前記金属層の金属が、アルミニウム、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、ならびにアルミニウム、チタン、タンタル、ニオブ、及びジルコニウムのうちの2つ以上の合金から選択され、
前記リンカー層を形成するリンカーが、アルコキシシランから選択される、耐腐食性永久磁石。」
3.原査定の拒絶の理由の概要
本願の請求項1に対する原査定の拒絶の理由の概要は以下のとおりである。
この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1ないし7に記載された発明に基いて、その出願前にその発明が属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献1.特開2000-256878号公報
引用文献2.特表2002-523147号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3.特開平10-290138号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4.国際公開第2015/190409号(周知技術を示す文献)
引用文献5.特開平10-70114号公報(周知技術を示す文献)
引用文献6.国際公開第2016/118735号
引用文献7.特表2001-517102号公報
4.引用発明と公知技術
(1)引用文献1の記載及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2000-256878号公報)には、以下の各記載がある。なお、下線は当審で付した。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば、希土類磁石、鋼、その他鉄を含む合金などの腐食しやすい部材に適用したときに好適な、高耐食性膜付き部材及びその製造方法に関する。」
「【0008】
【発明が解決しようとする課題】そこで本発明は、合計10μm以下の膜厚でも長時間の塩水噴霧試験に耐えうる高耐食性を有し、厳しい寸法精度が要求される精密部品や、複雑形状の部品にも適用でき、しかも後加工が不要で比較的低コストで得られる高耐食性膜付き部材、及び、その製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するため手段】上記目的を達成するための本発明の高耐食性膜付き部材は、部材表面に、第1層としてTi、Al、Ni、Zr、Hf、V、Nb、TaまたはCrから選ばれる少なくとも1種の金属膜または金属合金膜が厚さ1~2μm、第2層としてアルミナ(Al2O3)膜またはマグネシア(MgO)膜が厚さ1~5μm、第3層としてポリパラキシリレン樹脂膜が厚さ1~5μm順次形成され、かつ、第1層~第3層の厚さの合計が10μm以下であることを特徴とする。」
「【0011】
【発明の実施の形態】本発明に用いられる部材は特に限定されないが、S25C、SS400、SK3などの炭素鋼や、SCM440、SUJ2などの合金鋼など、特に発錆、腐食しやすい鋼系材料やNd-Fe-B系磁石、Sm-Fe-N系磁石などに適用すると効果が大きい。部材は鋳造材、焼結材、圧延材等、特にその製造方法は限定されない。」
「【0028】
【実施例】(実施例1) 寸法10×10×5mmの磁化していないNd-Fe-B系焼結磁石をエタノール中で超音波洗浄し、乾燥後、反応性イオンプレーティング装置内にセットした。第1層膜の蒸発材としてCr粒を、第2層膜の蒸発材として直径1~3mmの粒状アルミナ(溶融粉砕品)を、Cu製のハース内に充填した。部材および蒸発材を真空チャンバー内の所定位置にセッティングした後、真空チャンバー内を1×10-5Torrまで排気し、内部ヒータで300℃まで加熱し、そのまま2時間保持した。次にArガスを0.03Torr導入し、部材に-800Vを印加して、イオンボンバードメント処理を10分間行った。
【0029】次に、10kV-100mAの電子ビームをCr粒に照射してCrを蒸発させ、部材に-800Vのバイアス電圧を印加して、Crイオンによりメタルボンバード処理を5分間行った。続いて、バイアス電圧を-200Vに下げて、Crメタルを3分間成膜した。
【0030】次に、蒸発材をアルミナに変えて、電子ビームを10kV-400mA照射し、酸素を5×10-4Torrになるまで導入し、25分間成膜した。
【0031】次にポリパラキシリレン樹脂(日本パリレン(株)製:製品名 パリレンC)からなる樹脂層(第3層)を、ジパラキシリレンを気化させた後、熱分解を伴うCVD法により形成した。
【0032】得られた膜厚は、第1層のCr膜が1.0μm、第2層のアルミナ膜が4.8μm、第3層のポリパラキシリレン樹脂膜が3.0μm、合計で8.8μmであった。
【0033】この膜付き部材(焼結磁石)を、JIS Z 2371に準じた塩水噴霧試験に供したところ、168時間後でも発錆は見られず、高い耐食性を有した。」
上記記載から主に実施例1に関連して以下のことがいえる。
・段落【0001】によれば、希土類磁石などの腐食しやすい部材に適用したときに好適な、高耐食性膜付き部材について記載されている。
・段落【0028】ないし【0031】によれば、Nd-Fe-B系焼結磁石に、Crメタル、アルミナの順に成膜し、さらにポリパラキシリレン樹脂(パリレンC)からなる樹脂層を形成したものであり、段落【0032】の記載を踏まえれば、Nd-Fe-B系焼結磁石に近い側から第1層のCr膜、第2層のアルミナ膜、第3層のポリパラキシリレン樹脂膜(パリレンC)が形成されたNd-Fe-B系焼結磁石が記載されているといえる。
・段落【0033】によれば、第1層のCr膜、第2層のアルミナ膜、第3層のポリパラキシリレン樹脂膜からなる膜は塩水噴霧に対して高い耐食性を有するものである。
以上のことから、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「第1層のCr膜、第2層のアルミナ膜、第3層のポリパラキシリレン樹脂膜(パリレンC)からなる、塩水噴霧に対して高い耐食性を有する膜が形成されたNd-Fe-B系焼結磁石。」
(2)引用文献6の記載及び引用技術
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献6(国際公開第2016/118735号)には、以下の各記載がある。なお、併記した翻訳は、引用文献6の日本語ファミリー文献である特表2018-504215号公報による。また、下線は当審で付した。
「Claims:
1. A magnetic article comprising an NdFeB magnet having thereon a substantially continuous corrosion resistant barrier comprising a fluorinated parylene conformal coating covered with a polysulfone thermoplastic overlayer.」(当審訳:「【請求項1】ポリスルホン熱可塑性オーバーレイヤーで覆われたフッ素化パリレンコンフォーマルコーティングを備える、実質的に連続的な耐食性バリアを有する、NdFeB磁石を備える磁性物品。」)
「[0059] The disclosed barrier helps reduce corrosion of the magnet due to exposure to gases (e.g., oxygen, air or water vapor), liquids (e.g., water, blood or other bodily fluids) or ions (e.g. , sodium or chlorine ions). In some embodiments the disclosed coated magnetic articles do not exhibit visible corrosion after 5 days, 10 days or 20 days immersion in 37°C normal saline solution. Preferred embodiments of the disclosed magnetic articles both retain their full magnetic strength and do not exhibit visible corrosion after 5 days, 10 days, 20 days or even 28 days immersion in 87°C normal saline solution. Inductively-coupled plasma (ICP) mass spectrophotometric analysis of the saline solutions after such immersion preferably finds no detectable magnetic elements compared to saline controls prepared without the immersed magnetic article.
[0060] The disclosed magnetic articles may be part of a detector, actuator, latch, indicator or other mechanical, electrical or other system. If housed inside or on a larger device, the magnet may be stationary or movable within or on such device, and if movable may be slidable, pivotable or rotatable. The magnet may bear upon or move another part of the device. The magnet may be a single magnet or multiple magnets within or on such device. The device may be an implantable medical device, such as the implantable CSF shunt valves described in the above-mentioned Bertrand et al. application, urethral control devices such as those shown in U.S. Patent No. 7,223,228 B2 (Timm et al.), implantable blood pumps such as those shown in U.S. Patent No. 8,512,013 B2 (LaRose et al), pacemakers, implantable drug pumps, and other devices that will be familiar to persons having ordinary skill in the medical arts. If part of an implantable medical device, the device may be sold in sterile packaging and designed for one-time use. Exemplary sterilization techniques will be familiar to persons having ordinary skill in the art, and include heat, steam, chemical processes (e.g., ethylene oxide, nitrogen dioxide, bleach or various aldehydes) and irradiation (e.g., UV, gamma radiation or electron beam processing). The magnet may be part of a variety of non-implantable medical devices including hearing aids, external drug pumps and dental or orthodontic appliances (e.g., bridges, plates, dentures and orthodontic correctional devices). The magnet may also be part of a variety of non-medical devices including sensors, switches, valves, indicators or signaling devices for uses including marine, automotive and defense systems.」(当審訳:「[0059]本開示のバリアは、気体(例えば、酸素、空気または水蒸気)、液体(例えば、水、血液または他の体液)またはイオン(例えば、ナトリウムイオンまたは塩素イオン)に曝露されることによる磁石の腐食を減らす助けをする。一部の実施形態では、本開示のコーティングされた磁性物品は、37℃の生理食塩水中に5日間、10日間または20日間浸漬された後に目視可能な腐食を示さない。本開示の磁性物品の好ましい実施形態は、87℃の生理食塩水中に5日間、10日間、20日間またはさらに28日間浸漬された後に、自らの完全な磁性強度を保持しかつ目視可能な腐食を示さない。このような浸漬を行った後の食塩水に対する誘導結合プラズマ(ICP)質量分光光度分析からは、磁性物品の浸漬なしで調製された食塩水対照と比べて、検出可能な磁性要素が見出されないことが好ましい。
[0060]本開示の磁性物品は、検出器、作動器、ラッチ、インディケーターまたは他の機械的、電気的もしくはその他のシステムの一部であってもよい。大型のデバイス内部またはデバイス上に格納される場合、磁石はこのようなデバイス内またはデバイス上に据え付けられていても可動であってもよく、可動である場合、摺動可能(slidable)であっても枢動可能(pivotable)であっても回転可能(rotatable)であってもよい。磁石は、このデバイスの別の部分を圧迫しても動かしてもよい。磁石は、このようなデバイス内またはデバイス上の単一の磁石であっても複数の磁石であってもよい。デバイスは、埋め込み型医療デバイス、例えば上述のBertrand他の出願に記載の埋め込み型CSFシャントバルブなど、尿道制御デバイス、例えば米国特許第7,223,228B2号明細書(Timm他)において示されるものなど、埋め込み型血液ポンプ、例えば米国特許第8,512,013(B2)号明細書(LaRose他)において示されるものなど、ペースメーカー、埋め込み型薬物ポンプ、および医療分野の当業者になじみがあると思われる他のデバイスであり得る。埋め込み型医療デバイスの一部である場合、このデバイスは滅菌包装で販売され、1回限りの使用で設計され得る。滅菌手法の例は当業者になじみがあり、加熱、蒸気、化学的プロセス(例えば、エチレンオキシド、過酸化窒素、漂白剤または様々なアルデヒド)および照射(例えば、UV、γ線または電子ビーム処理)が挙げられよう。磁石は、補聴器、外部薬物ポンプおよび歯科もしくは歯科矯正器具(例えば、ブリッジ、プレート、義歯および歯科矯正の矯正デバイス)を含めた様々な非埋め込み型医療デバイスの一部であってもよい。また、磁石は、海上、自動車および防衛システムを含めた使用のためのセンサー、スイッチ、バルブ、インディケーターまたは信号デバイスを含めた、様々な非医療デバイスの一部であってもよい。」
上記記載より、引用文献6には、「水、血液または他の体液に曝露されることによる磁石の腐食を減らす助けをするバリアを有するNdFeB磁石を、埋め込み型血液ポンプに用いること。」(以下、「公知技術1」という。)が記載されているといえる。
(3)周知技術について
ア.引用文献2(特表2002-523147号公報)の記載事項
引用文献2には以下の事項が記載されている。
「【0078】
図12は、図11の装置10のさらに別の態様を示す。この実施形態では、パリレン接着促進層30を、構造体12のステンレス鋼の基礎材料14に最初に適用する。例示により、接着促進層30は、例えば0.5から5,000Å、好ましくは2から50Åの範囲の厚さを有する薄いシランの層である。このシラン促進層は、ガンマメタクリルオキシプロピルトリメトキシシランを含むA-174シランであることが好ましく、これはSpecialty Coating Systems Inc.(Indianapolis, IN)から入手可能である。基礎材料14の外面を準備する際は、最初にイソプロピルアルコールで洗浄する。次に、ステントをシランに浸漬し、その薄い層を基礎材料の外面に塗布する。次に、パリレンのポリマー・コーティング層16をシラン層に塗布する。基礎材料14の外面を準備する他の方法には、プラズマ・エッチングおよびグリット・ブラスト仕上げがある。準備には、基礎材料の外面をイソプロピルアルコールで洗浄し、基礎材料の外面にプラズマ・エッチングを施し、プラズマ・エッチングした表面にシランを塗布することが含まれる。グリット・ブラスト仕上げを使用して、基礎材料の外面にグリット・ブラスト仕上げを施して、次にイソプロピルアルコールで洗浄し、洗浄したグリット・ブラスト仕上げ表面にシランを塗布する。」
イ.引用文献3の記載事項
引用文献3(特開平10-290138号公報)には以下の事項が記載されている。
「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の上記目的は、圧電性セラミック基体上に陽極酸化処理された電極膜及び気相合成法によって形成されたポリパラキシリレン又はその誘導体からなる樹脂被膜をこの順に有する圧電セラミック素子、前記樹脂被膜が形成後にプラズマ処理を施されたものであること、圧電性セラミック基体上に形成されたアルミニウム、タンタル又はチタニウムからなる電極膜を、陽極酸化処理した後、気相合成法によってポリパラキシリレン又はその誘導体からなる樹脂被膜を形成する電極の保護方法、前記樹脂皮膜を形成した後プラズマ処理を施すこと、前記樹脂皮膜の形成前に接着性を付与する処理を行うこと、前記接着性を付与する処理にジメチルビニルクロロシラン、メチルビニルジクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン及びγ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランから選ばれるシラン化合物を用いること、圧電性セラミック基体上にアルミニウム、タンタル又はチタニウムからなる電極膜を形成し、接着性を付与する処理を行ったのち、気相合成法によってポリパラキシリレン又はその誘導体からなる樹脂被膜を形成すること、及び、圧電性セラミック基体上に電極膜及び接着性を付与する処理を行ったのち気相合成法によって形成されたポリパラキシリレン又はその誘導体からなる樹脂被膜をこの順に有する圧電セラミック素子、により達成される。」
「【0019】パリレン膜の接着を強固にするために、皮膜の形成前に接着性を付与する処理を行うことが好ましい。好ましい接着性付与処理としては、シラン化合物(ジメチルビニルクロロシラン、メチルビニルジクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等)を用いた次の様な処理を挙げることができる。」
ウ.周知技術
上記ア.における「A-174シラン」は3-(トリメトキシリル)プロピルメタクリレートであり(本願明細書の段落【0072】参照)、アルコキシシランである。また、上記イ.の段落【0019】に示されるシラン化合物をみると、例えばビニルトリメトキシシランはアルコキシシランである。
したがって、上記ア.及びイ.によれば以下の技術事項(以下、「周知技術」という。)は周知の技術事項であると認められる。
「金属や金属酸化膜にパリレン膜を形成する際に、接着性を高めるため、アルコキシシランを塗布したのちにパリレン膜を形成すること。」
5.対比・判断
本願発明と引用発明を対比する。
・引用発明における「高い耐食性を有する膜が形成されたNd-Fe-B系焼結磁石」は、本願発明の「耐腐食性永久磁石」に相当するが、本願発明の「耐腐食性永久磁石」は「埋め込み可能な血液ポンプの電気モータに使用される」のに対して、引用発明の「Nd-Fe-B系焼結磁石」はそのような特定を有していない点で相違する。
・引用発明の「Nd-Fe-B系焼結磁石」も磁石本体を当然有するから、本願発明の「磁石本体」に相当する構成を有している。また、引用発明の「Nd-Fe-B系焼結磁石」はその磁石本体が「Nd」「Fe」「B」を有し、Ndは希土類金属であるから、本願発明の「前記磁石本体が希土類金属・鉄・ホウ素永久磁石であ」ることに相当する。
・引用発明における「第1層のCr膜、第2層のアルミナ膜、第3層のポリパラキシリレン樹脂膜(パリレンC)からなる」「膜」が、本願発明の「前記磁石本体の表面上に設けられてカバーする複合コーティング」に相当する。
・引用発明における「第1層のCr膜」「第2層のアルミナ膜」が、本願発明の「(a)前記磁石本体上の金属層」「(b)オプションとして、前記金属層の前記磁石本体とは反対側の表面上の金属酸化物層」にそれぞれ相当する。しかしながら、本願発明は「(c)前記金属層又は前記金属酸化物層の上のリンカー層」を有するのに対して、引用発明はそのような構成を有していない点で相違する。
また、引用発明の「第3層のポリパラキシリレン樹脂膜(パリレンC)」が本願発明の「ポリ(2-クロロ-p-キシリレン)から形成される層」に相当するものの、本願発明の「ポリ(2-クロロ-p-キシリレン)から形成される層」は「前記リンカー層の上」に形成されるのに対して、引用発明はリンカー層を有さず、「第3層のポリパラキシリレン樹脂膜(パリレンC)」がリンカー層の上に形成されない点で相違する。
さらに、引用発明は本願発明の「リンカー層」を有していないから、本願発明の「前記リンカー層を形成するリンカーが、アルコキシシランから選択され」る構成を有していない点で本願発明と相違する。
したがって、本願発明は「前記金属層又は前記金属酸化物層の上のリンカー層」を有し、「ポリ(2-クロロ-p-キシリレン)から形成される層」が「前記リンカー層の上」に形成され、「前記リンカー層を形成するリンカーが、アルコキシシランから選択される」のに対して、引用発明はそのような構成を有していない点で相違する。
・本願発明の「前記金属層の金属」は「アルミニウム、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、ならびにアルミニウム、チタン、タンタル、ニオブ、及びジルコニウムのうちの2つ以上の合金から選択され」るのに対して、引用発明における「第1層」は「Cr膜」であり、「第1層」の金属は「Cr」である点で相違する。
よって、本願発明と引用発明とは以下の点で一致ないし相違する。
(一致点)
「 耐腐食性永久磁石であって、前記耐腐食性永久磁石は、
磁石本体と、
前記磁石本体の表面上に設けられてカバーする複合コーティングと、
を備えて、前記複合コーティングが、
(a)前記磁石本体上の金属層と、
(b)オプションとして、前記金属層の前記磁石本体とは反対側の表面上の金属酸化物層と、
(d)ポリ(2-クロロ-p-キシリレン)から形成される層と、を備え、
前記磁石本体が希土類金属・鉄・ホウ素永久磁石である、
耐腐食性永久磁石。」
(相違点1)
本願発明の耐腐食性永久磁石は「埋め込み可能な血液ポンプの電気モータに使用される」のに対して、引用発明はそのような特定を有していない点。
(相違点2)
本願発明は「前記金属層又は前記金属酸化物層の上のリンカー層」を有し、ポリ(2-クロロ-p-キシリレン)から形成される層が「前記リンカー層の上」に形成され、「前記リンカー層を形成するリンカーが、アルコキシシランから選択される」のに対して、引用発明はそのような構成を有していない点。
(相違点3)
本願発明の「前記金属層の金属」は「アルミニウム、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、ならびにアルミニウム、チタン、タンタル、ニオブ、及びジルコニウムのうちの2つ以上の合金から選択され」るのに対して、引用発明における金属は「Cr」(クロム)である点。
(相違点1)(相違点3)について合わせて検討する。
上記「4.(2)」において公知技術1としたように、「水、血液または他の体液に曝露されることによる磁石の腐食を減らす助けをするバリアを有するNdFeB磁石を、埋め込み型血液ポンプに用いること。」は公知技術であり、Nd-Fe-B系焼結磁石が埋め込み型血液ポンプにおける電気モータに使用されることは自明なことである。
当該公知技術1に触れた当業者であれば、体液中に多くの塩分が含まれることから、塩水に対して高い耐食性を有する膜が形成されたNd-Fe-B系焼結磁石である引用発明を、埋め込み型血液ポンプに用いるようにすることは、当業者が容易に想到できる事項にすぎない。
そして、埋め込み型血液ポンプに用いる際に、第1層を引用文献1の段落【0009】に示された金属のなかから「Ti」「Ni」「Ta」が生体適用性を有するのは当業者にとって明らかであるから(例えば引用文献2の段落【0020】参照。)、これらの金属に変更することも、生体適合性を考慮して当業者が当然設計変更すべき事項であって格別の事項ではない。
したがって、(相違点1)(相違点3)に係る構成は公知技術1を参照することによって当業者が引用発明から容易に構成できたものである。
次に(相違点2)について検討する。
上記「4.(3)」のとおり、「金属や金属酸化膜にパリレン膜を形成する際に、接着性を高めるため、アルコキシシランを塗布したのちにパリレン膜を形成すること。」は周知技術である。また、ポリ(2-クロロ-p-キシリレン)から形成される層はパリレン膜である。
そうしてみると、引用発明において第2層のアルミナ膜上に、第3層のポリパラキシリレン樹脂膜(パリレンC)を形成するに際し、接着性を高めたいという要請は一般的な技術事項にすぎないことから、上記周知技術を採用し、アルコキシシランを第2層のアルミナ膜上に塗布して本願発明のリンカー層とし、相違点2に係る構成とすることは当業者が容易に想到できた事項である。
したがって、本願発明は引用発明、公知技術及び周知技術から当業者が容易に発明できたものである。
6.審判請求人の主張について
審判請求人は審判請求書において、以下のように主張している。
「さらに、引用文献1に記載の発明は、第1層を構成する金属が、Ti、Al、Ni、Zr、Hf、V、Nb、TaまたはCrから選ばれる少なくとも1種」であること、すなわち選択肢として埋め込み可能な血液ポンプの電気モータに使用できる生体適合性材料ではないCrが挙げられている。引用文献1に記載の発明において、「Ti、Al、Ni、Zr、Hf、V、Nb、TaまたはCrから選ばれる少なくとも1種」は、所謂、一群のものとして認識される化学物質群であるから、その化学物質群に属する各化学物質を互いに入れ換えても同等の結果が得られるということが言えるはずである。してみれば、引用文献1に記載の発明の永久磁石において、埋め込み可能な血液ポンプの電気モータに使用できる生体適合性材料ではないCrが選択肢として含まれている以上、引用文献1においては、引用文献1に記載の発明の永久磁石を埋め込み可能な血液ポンプの電気モータに使用することが想定されていないことは明らかである。したがって、引用文献6,7において、磁石の用途として、血管内ポンプの電動モータが示されていたとしても、引用文献1に記載の発明の永久磁石を埋め込み可能な血液ポンプの電気モータに使用することは当業者にとって容易ではない。」(3ページ22行ないし4ページ7行)
しかしながら、引用文献1には「高耐食性膜付き部材」の生体適合性の有無に関して何ら言及されていない。したがって、引用文献1には生体に使用可能か否かという生体適合性という観点が存在しないと解される。そうしてみると、たとえ高耐食性膜の第1層を構成する金属の候補に生体不適合であるCrが含まれていても、引用文献1の「高耐食性膜付き部材」の全てが生体に使用できないと解すべきではない。したがって、引用発明の「Nd-Fe-B系焼結磁石」を埋め込み型血液ポンプに用いることが排除されるべき理由はなく、上記(相違点1)(相違点3)についての検討においても述べたように、埋め込み型血液ポンプに適用するに際しては引用文献1に示された「Ti、Al、Ni、Zr、Hf、V、Nb、TaまたはCr」の中から用途に合わせて生体適合性を有する金属に適宜変更できたものである。
したがって、上記請求人の主張を採用することはできない。
7.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献6に記載の技術事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-011901