特許拒絶査定不服審判
2021-000345
腸内フローラ改善納豆
- 審判番号
- 2021-000345
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-042416
- 請求日
- 2021年01月08日
- 審決日
- 2022年10月14日
- 公報発行日
- 2022年12月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】室戸海洋深層水株式会社
- 【請求人代理人】清原 義博
- 審判長/審判官
- 審判長 ▲吉▼澤 英一
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P18 .561-Z (A23L) / P18 .575-Z (A23L) / P18 .121-Z (A23L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第3項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020- 42416「腸内フローラ改善納豆」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 9月24日出願公開、特開2021-141844〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和 2年 3月11日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 2年 7月 3日付け 拒絶理由通知
同年 8月31日 意見書及び手続補正書の提出
同年10月 6日付け 拒絶査定
同年12月22日 面接
令和 3年 1月 8日 審判請求書及び手続補正書の提出
第2 令和 3年 1月 8日提出の手続補正書による手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和 3年 1月 8日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、本件補正により補正される前の(すなわち、令和 2年 8月31日提出の手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1の
「【請求項1】
100gあたりのマグネシウム含有量が2500mg乃至6000mgおよびカルシウム含有量が500mg乃至2000mgであり、
カルシウム含有量に対するマグネシウム含有量の比率が2~7であり、且つ
硬度が144000mg/L乃至383000mg/Lである、海洋深層水由来のにがりを、
食品全重量に対して0.8重量%乃至1.5重量%含む、
ことを特徴とするエクオール産生細菌を増加および活性化させるための腸内フローラ改善納豆。」を
「【請求項1】
100gあたりのマグネシウム含有量が2500mg乃至6000mgおよびカルシウム含有量が500mg乃至2000mgであり、
カルシウム含有量に対するマグネシウム含有量の比率が2~7であり、且つ
硬度が144000mg/L乃至383000mg/Lである、海洋深層水由来のにがりを、
食品全重量に対して0.8重量%乃至1.2重量%含む、腸内フローラ改善納豆であり、
前記腸内フローラ改善納豆は、大豆イソフラボン(アグリコン換算)を78mg~80mg含み、
前記腸内フローラ改善納豆は、エクオール産生細菌を増加および活性化させる、ことを特徴とする腸内フローラ改善納豆。」
にする補正を含むものである。なお、下線は補正箇所を示すものである。
2 補正の適否
(1)新規事項の追加
本願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、これらを「当初明細書等」という。)には、「腸内フローラ改善納豆」を、その重量にかかわらず、「大豆イソフラボン(アグリコン換算)を78mg~80mg含」むものとすることは記載されていない。
そして、当初明細書等には、
「【0056】
本発明において食品全重量とは、本発明においてにがりを添加する対象である食品の単位重量のことをいう。例えば、納豆50gを食品全重量と定めることができる。」及び
「【0078】
<実施例1.腸内フローラ改善納豆の調製>
・・・(略)・・・
【0081】
納豆用大豆に上記のにがりを0.6重量%(納豆サンプル1)、0.8重量%(納豆サンプル2)、1.0重量%(納豆サンプル3)、および1.2重量%(納豆サンプル4)を加え、納豆サンプル1~4を調製した。
・・・(略)・・・
各納豆サンプル1~4は、100gあたり下記の表3で示すイソフラボン含有量(アグリコン換算)を示した。尚、イソフラボン含有量(アグリコン換算)は、高知県食品衛生協会の食品検査センターにて測定した。
【0082】
【表3】
[図:0001391291000001.jpg]
」等の記載はあるものの、「納豆50gを食品全重量と定めることができる。」との記載、及び、100gあたりのイソフラボン含有量(アグリコン換算)が、納豆サンプル2及び納豆サンプル3では80mgであり、納豆サンプル4では78mgであったことを示す記載からは、「腸内フローラ改善納豆」を、その重量にかかわらず、「大豆イソフラボン(アグリコン換算)を78mg~80mg含」むものとすることが自明な事項であるとはいえず、これらの記載を含む当初明細書等のすべての記載を総合しても、「腸内フローラ改善納豆」を、その重量にかかわらず、「大豆イソフラボン(アグリコン換算)を78mg~80mg含」むものとすることが自明な事項であるとはいえないから、この補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
したがって、本件補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものとはいえず、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
(2)独立特許要件
本件補正は、上記(1)に述べたことを理由として却下すべきものであると判断されるが、仮に、本件補正が、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないと判断される場合についても検討する。
本件補正は、「にがり」の「食品全重量」に対する量を本件補正前よりも狭くした上で、「前記腸内フローラ改善納豆」を「大豆イソフラボン(アグリコン換算)を78mg~80mg含」むものに限定するものであるから、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項を限定するものであり、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
ア 本件補正発明
本件補正発明は、令和 3年 1月 8日提出の手続補正書により補正された請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
100gあたりのマグネシウム含有量が2500mg乃至6000mgおよびカルシウム含有量が500mg乃至2000mgであり、
カルシウム含有量に対するマグネシウム含有量の比率が2~7であり、且つ
硬度が144000mg/L乃至383000mg/Lである、海洋深層水由来のにがりを、
食品全重量に対して0.8重量%乃至1.2重量%含む、腸内フローラ改善納豆であり、
前記腸内フローラ改善納豆は、大豆イソフラボン(アグリコン換算)を78mg~80mg含み、
前記腸内フローラ改善納豆は、エクオール産生細菌を増加および活性化させる、ことを特徴とする腸内フローラ改善納豆。」
イ 引用文献の記載事項
(ア)引用文献1の記載事項及び引用文献1に記載された発明
a 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された本願出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、国際公開第2019/181321号(以下、「引用文献1」という。)には、次の記載がある。なお、下線は当審で付したものである。
「請求の範囲
[請求項1] 100gあたりのマグネシウム含有量が2500mg乃至6000mgおよびカルシウム含有量が500mg乃至2000mgであり、
カルシウム含有量に対するマグネシウム含有量の比率が2~7であり、且つ
硬度が144000mg/L乃至383000mg/Lであり、
健康食品全重量に対して0.8重量%乃至1.5重量%含まれるにがりからなる
ことを特徴とする腸内フローラ改善健康食品。
[請求項2]・・・(略)・・・
[請求項3] 前記腸内フローラ改善健康食品は納豆である、ことを特徴とする請求項1に記載の腸内フローラ改善健康食品。」
「[0024] 請求項1に係る発明によれば、腸内フローラ改善健康食品は100gあたりのマグネシウム含有量が2500mg乃至6000mgおよびカルシウム含有量が500mg乃至2000mgであり、カルシウム含有量に対するマグネシウム含有量の比率が2~7であり、且つ硬度が144000mg/L乃至383000mg/Lであり、健康食品全重量に対して0.8重量%乃至1.5重量%含まれるにがりからなる。これにより、にがりを含有することによって、腸内フローラを改善する腸内フローラ改善健康食品を提供することが可能である。」
「[0027] 請求項3に係る発明によれば、腸内フローラ改善健康食品は納豆である。納豆も豆腐と同様に大豆を原料として製造される食品である。したがって、この構成においても大豆成分と上記の組成のにがりを摂取することで、より効率的にエクオール産生細菌を増加および、活性化させて、腸内フローラを改善することが可能である。」
「[0038] エクオール産生細菌が増え、血液中に吸収されるエクオールの量が増えると疫学的にも宿主に対して様々な有益な効果が表れることが報告されている(非特許文献1、非特許文献2および、非特許文献3)。」
「[0040] 本発明において腸内フローラ改善とは、善玉菌であるエクオール産生細菌が増加および、活性化することを指標として評価する。また宿主の尿中のエクオールの含有量によって、エクオール産生細菌の増加および、活性化を評価する。」
「[0053] 本発明に係る腸内フローラ改善健康食品は、100gあたりのマグネシウム含有量が2500mg乃至6000mgおよびカルシウム含有量が500mg乃至2000mgであり、カルシウム含有量に対するマグネシウム含有量の比率が2~7であり、且つ硬度が144000mg/L乃至383000mg/Lであるにがりを含む。
[0054] 上記の組成のにがりを含む腸内フローラ改善健康食品を摂取することで、腸内フローラを改善することができる。」
「[0059] 本発明に係る腸内フローラ改善健康食品を加工食品または、総菜等として提供する場合、にがりは、健康食品全重量に対して0.8重量%乃至1.5重量%含まれ得る。・・・(略)・・・
[0060] 腸内フローラ改善健康食品を加工食品または、総菜等として提供する場合において、にがりの量を健康食品全重量に対して0.8重量%より少なくすると、充分な腸内フローラを改善する効果が得られず、1.5重量%より多くすると苦みが増すため好ましくない。」
「[0063] にがりを得る海水として海洋深層水を使用することが好ましい。海洋深層水は、深度200メートル以深の海水であり、汚染された河川などの水域の影響が少なく、化学物質による汚染が少ない。また、太陽光が届かず、水温も低いため微生物(雑菌)などの繁殖も少ない。したがって、本発明に海洋深層水由来のにがりを使用することで、化学物質による腸内フローラバランスへの悪影響や、雑菌および雑菌由来の代謝物による悪影響を受ける恐れを抑制することができる。」
「[0077] さらに本発明は、ゲニステインおよび/または、ダイゼインなどのイソフラボンを追加して含有してもよい。イソフラボンはエクオール産生細菌が生育するために要求する物質であるため、イソフラボンを追加することでエクオール産生細菌をより効率的に増加および、活性化させることができる。
[0078] またこれに伴ってエクオールの産生量が増え、血液中に吸収されるエクオールの量が増える。よって、乳がん、前立腺がん、骨粗しょう症、高コレステロール血症、心疾患および、更年期障害などに対する予防および/または、改善する効果を高めることができる。」
「[0079] 本発明は、大豆加工食品として提供され得る。
[0080] 大豆にはイソフラボンが多く含まれるため、大豆加工食品として提供することで、本発明の摂取者の腸内において、より効率的にエクオール産生細菌を増加および、活性化させて、腸内フローラを改善することが可能である。
[0081] 大豆加工食品としては、例えば、豆腐、納豆、味噌、醤油および、煮豆などが挙げられる。
[0082]・・・(略)・・・
[0084] 本発明が提供し得る納豆としては、例えば、糸引き納豆、塩辛納豆、干し納豆および、五斗納豆などが挙げられる。」
「[0088]<実施例1.腸内フローラ改善健康食品の調整>
にがりとして、下記の表1で示すにがりを用いた。
[0089][表1]
[図:0001391291000002.jpg]
[0090] 有機豆乳に上記のにがりを1.2重量%加えて絹ごし豆腐を調整した。・・・(略)・・・
[0092]<実施例2.腸内フローラ改善健康食品の摂取による尿中エクオール量の比較試験>
(試験方法)
11人の成人(男性5人、女性6人)を対象にして、尿中エクオール量の変化について比較した。被験者の年齢は35-68歳(平均51.91歳)であり、いずれの被験者も抗菌性物質などの医薬品を服用しておらず、血圧は正常域であった。
[0093] 被験者は実施例1の豆腐をそれぞれ2017年10月16日から2017年11月15日の1ヶ月間欠かさずに1日あたり400g摂取した。
[0094] 試験開始前(2017年10月16日)、試験中間日(2017年10月31日)、試験終了後(2017年11月15日)に被験者の尿を採取し、尿中エクオールを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定した。
[0095](結果)
被験者の尿中のエクオール量を試験開始前、試験中間日、試験終了後で比較した。試験開始前、試験中間日、試験終了後のそれぞれの被験者の尿中のエクオール量の結果を下記の表3に示す。被験者の尿中のエクオール量は、試験開始前、試験中間日、試験終了後と試験の進行とともに増加することがわかった。このことから、接種者の腸内においてエクオール産生細菌が増加および、活性化していることがわかった。
[0096] 上記の結果より、老若男女問わず実施例1に係る腸内フローラ改善健康食品が、腸内フローラを改善することがわかった。
[0097]
[表3]
[図:0001391291000003.jpg]
」
「[0098] 本発明は、特定の組成のにがりの摂取が腸内フローラを改善することに基づき、にがりを含有することによって、腸内フローラを改善する腸内フローラ改善健康食品を提供することができる。
[0099] さらに本発明に係る腸内フローラ改善健康食品の摂取による腸内フローラの改善は、エクオール産生細菌の増加および、活性化を伴うため、エクオールの産生量が増え、血液中に吸収されるエクオールの量が増える。これにより、乳がん、前立腺がん、骨粗しょう症、高コレステロール血症、心疾患および、更年期障害などに対する予防および/または、改善する効果を得ることができる。」
b 引用文献1に記載された発明
引用文献1の[請求項1]、[請求項3]、段落[0027]及び段落[0079]~[0084]の記載から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明>
「100gあたりのマグネシウム含有量が2500mg乃至6000mgおよびカルシウム含有量が500mg乃至2000mgであり、
カルシウム含有量に対するマグネシウム含有量の比率が2~7であり、且つ
硬度が144000mg/L乃至383000mg/Lであり、
健康食品全重量に対して0.8重量%乃至1.5重量%含まれるにがりからなる、納豆である腸内フローラ改善健康食品であり、
前記納豆である腸内フローラ改善健康食品は、摂取することでより効率的にエクオール産生細菌を増加および、活性化させて、腸内フローラを改善することが可能である、納豆である腸内フローラ改善健康食品。」
(イ)文献2に記載された事項
本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である“薬事情報センターのページ 原田修江「大豆イソフラボンの安全な一日摂取目安量について」”,広島県薬剤師会誌,2006年,Vol.31,No.2,p.40-43(以下、「文献2」という。)には、次の記載がある。
「
[図:0001391291000004.jpg]
」
ウ 引用発明との対比
本件補正発明と引用発明を対比する。
引用発明における「摂取することでより効率的にエクオール産生細菌を増加および、活性化させて、腸内フローラを改善することが可能である」との事項は、引用文献1の段落[0040]の記載からみて、本件補正発明における「エクオール産生細菌を増加および活性化させる」との事項と、実質的に同義であると認められる。
したがって、引用発明における「納豆である腸内フローラ改善健康食品であり、
前記納豆である腸内フローラ改善健康食品は、摂取することでより効率的にエクオール産生細菌を増加および、活性化させて、腸内フローラを改善することが可能である、納豆である腸内フローラ改善健康食品。」は、本件補正発明における「腸内フローラ改善納豆であり」、「前記腸内フローラ改善納豆は、エクオール産生細菌を増加および活性化させる」「腸内フローラ改善納豆。」に相当する。
以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点および相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「100gあたりのマグネシウム含有量が2500mg乃至6000mgおよびカルシウム含有量が500mg乃至2000mgであり、
カルシウム含有量に対するマグネシウム含有量の比率が2~7であり、且つ
硬度が144000mg/L乃至383000mg/Lである、にがりを含む、腸内フローラ改善納豆であり、
前記腸内フローラ改善納豆は、エクオール産生細菌を増加および活性化させる、腸内フローラ改善納豆。」
【相違点1】
「にがり」について、本件補正発明では「海洋深層水由来のにがり」とされるのに対して、引用発明では「にがり」の由来について特定されていない点。
【相違点2】
「にがり」の食品全重量に対する重量割合について、本件補正発明では「食品全重量に対して0.8重量%乃至1.2重量%含む」とされるのに対して、引用発明では「健康食品全重量に対して0.8重量%乃至1.5重量%含まれる」とされる点。
【相違点3】
「大豆イソフラボン(アグリコン換算)」の含有量について、本件補正発明では「78mg~80mg含み」とされるのに対して、引用発明ではそのようには特定されていない点。
エ 判断
以下、相違点について検討する。
(ア)相違点1について
「にがり」の由来について、引用文献1の段落[0063]に「にがりを得る海水として海洋深層水を使用することが好ましい。」及び「本発明に海洋深層水由来のにがりを使用することで、化学物質による腸内フローラバランスへの悪影響や、雑菌および雑菌由来の代謝物による悪影響を受ける恐れを抑制することができる。」と記載されていることから、引用発明における「にがり」は「海洋深層水由来」であるといえ、相違点1は実質的な相違点とはいえないし、仮に、相違点1が実質的な相違点であったとしても、引用発明における「にがり」として「海洋深層水由来のにがり」を用いることは、引用文献1の段落[0063]の記載から、当業者が容易に想到し得たことである。
(イ)相違点2について
「にがり」の食品全重量に対する重量割合について、引用文献1の段落[0059]~[0060]に「にがりは、健康食品全重量に対して0.8重量%乃至1.5重量%含まれ得る。」及び「腸内フローラ改善健康食品を加工食品または、総菜等として提供する場合において、にがりの量を健康食品全重量に対して0.8重量%より少なくすると、充分な腸内フローラを改善する効果が得られず、1.5重量%より多くすると苦みが増すため好ましくない。」と記載され、同段落[0088]~[0097]に、にがりを1.2重量%加えて調整した絹ごし豆腐を摂取した被験者の腸内において、腸内フローラが改善され、エクオール産生細菌が増加及び活性化したことが記載されている。
上記のとおり、引用文献1には、絹ごし豆腐に対してではあるものの、「にがり」を「1.2重量%」加えることが記載されている。また、加えた「にがり」が水分とともに流出・消失する可能性のある絹ごし豆腐であっても、摂取することにより腸内フローラが改善され、エクオール産生細菌が増加及び活性化したのであるから、「にがり」が流出・消失することのない納豆では、絹ごし豆腐の調整時に加えた「にがり」の量よりも少ない量で十分な効果が得られると考えられる。
したがって、「にがり」の食品全重量に対する重量割合を、引用発明における「健康食品全重量に対して0.8重量%乃至1.5重量%含まれる」から「食品全重量に対して0.8重量%乃至1.2重量%含む」に変更することは、当業者が容易に想到し得たことである。
(ウ)相違点3について
文献2に記載されているように、納豆100g中の大豆イソフラボン含有量は65.6~81.3mg程度であることが技術常識といえる。
また、引用文献1の段落[0077]~[0078]には、イソフラボンはエクオール産生細菌が生育するために要求する物質であり、イソフラボンを追加することでエクオール産生細菌をより効率的に増加および活性化することができること、またこれに伴ってエクオールの産生量が増えることが記載されている。
引用文献1の上記記載に基づいて、引用発明において、エクオール産生細菌を増加および活性化するために好適な「大豆イソフラボン(アグリコン換算)」の含有量の範囲を、納豆の大豆イソフラボン含有量の技術常識といえる範囲65.6~81.3mgまたはその周辺において探索・決定することにより、「大豆イソフラボン(アグリコン換算)78mg~80mg含み」とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
(エ)本件補正発明の奏する効果について
上記相違点1~3に係る構成により本件補正発明の奏する効果について、本願明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。
(相違点1に係る構成により奏する効果)
「【0025】
前記にがりが海洋深層水由来であるため、従来の納豆に比べて、エクオール産生細菌を増加および活性化し腸内フローラを改善することができる腸内フローラ改善納豆を提供することができる。」
「【0058】
にがりを得る海水として海洋深層水を使用することが好ましい。海洋深層水は、深度200メートル以深の海水であり、汚染された河川などの水域の影響が少なく、化学物質による汚染が少ない。また、太陽光が届かず、水温も低いため微生物(雑菌)などの繁殖も少ない。したがって、本発明に海洋深層水由来のにがりを使用することで、化学物質による腸内フローラバランスへの悪影響や、雑菌および雑菌由来の代謝物による悪影響を受ける虞を抑制することができる。」
(相違点2及び3に係る構成により奏する効果)
「【0081】
納豆用大豆に上記のにがりを0.6重量%(納豆サンプル1)、0.8重量%(納豆サンプル2)、1.0重量%(納豆サンプル3)、および1.2重量%(納豆サンプル4)を加え、納豆サンプル1~4を調製した。
調製した納豆サンプル1は、外見は茶色、粒の大きさは7.3mm、粘つきは良く、味はまろやかである。
調製した納豆サンプル2は、外見は茶色、粒の大きさは5.5mm、粘つきは良く、味はまろやかである。
調製した納豆サンプル3は、外見は茶色、粒の大きさは4.9mm、粘つきは良く、味はまろやかである。
調製した納豆サンプル4は、外見は茶色、粒の大きさは4.9mm、粘つきは良く、味は苦みがある。
各納豆サンプル1~4は、100gあたり下記の表3で示すイソフラボン含有量(アグリコン換算)を示した。尚、イソフラボン含有量(アグリコン換算)は、高知県食品衛生協会の食品検査センターにて測定した。
【0082】
【表3】
[図:0001391291000005.jpg]
・・・(略)・・・
【0085】
(比較試験方法)
腸内フローラ改善納豆(実施例1、納豆サンプル3)またはにがりを添加していない納豆(比較例1、納豆サンプル5)の摂取による尿中エクオール量の比較試験を行った。22人の成人(男性15人、女性7人)を対象にして、尿中エクオール量の変化について比較した。被験者の年齢は24-70歳(平均44.82歳)であり、いずれの被験者も抗菌性物質などの医薬品を服用しておらず、血圧は正常域であった。
【0086】
グループAの被験者(A1~A13)は実施例1の納豆サンプル3をそれぞれ2019年5月8日から2019年6月7日の1ヶ月間欠かさずに1日あたり45gを3パック摂取した。また、グループBの被験者(B1~B9)は比較例1の納豆サンプル5をそれぞれ2019年5月8日から2019年6月7日の1ヶ月間欠かさずに1日あたり45gを3パック摂取した。
【0087】
試験の開始前(2019年5月8日)、試験の間(2019年5月23日)、試験の終了後(2019年6月7日)にグループAおよびグループBの被験者の尿を採取し、尿中エクオールを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定した。
【0088】
(試験結果)
被験者の尿中のエクオール量を試験の開始前、試験の間、試験の終了後で比較した。試験の開始前、試験の間、試験の終了後のグループAおよびグループBの被験者の尿中のエクオール量の結果を下記の表5に示す。また、エクオール産生者における尿中エクオール量の変化を図1に示す。
試験の結果、表5より、グループAの被験者の尿中のエクオール量は、試験の開始前、試験の間、試験の終了後と試験の進行とともに増加することが分かった。このことから、摂取者の腸内においてエクオール産生細菌が増加および、活性化していることが分かった。
【0089】
【表5】
[図:0001391291000006.jpg]
【0090】
図1より、エクオール産生者においては実施例1および比較例1ともに試験の間でエクオール量の増加が示され、試験の終了後は減少傾向にあることが示された。特に、実施例1の試験の間におけるエクオール量の増加は有意差があることが示された。また、実施例1は比較例1よりもエクオールの変化量が大きい傾向にあることが示された。また、実施例1における試験の間および試験の終了後におけるエクオール量が近い値を示していることから、実施例1は、比較例1よりも持続的な効果を有することが示された。
さらに、検体A6では、実施例1の納豆の摂取前ではエクオール非検出であったにも関わらず、摂取後ではエクオールが検出される結果が示された。この結果は、実施例1の腸内フローラ改善納豆においてのみ観測された。
【0091】
上記の結果より、老若男女問わず実施例1に係る腸内フローラ改善納豆が、腸内フローラを改善することが分かった。
また、実施例1に係る腸内フローラ改善納豆は、味がまろやかであり、栄養素としてイソフラボンを含むため、従来の納豆と比較してエクオールの産生菌が多くなり腸内環境を改善する効果があり、食品としての有用性が高いことが分かった。」
一方、引用文献1には、相違点1に係る構成により奏する効果に対応する記載として、引用文献1の段落[0063]に、海洋深層水由来のにがりを使用することで、化学物質による腸内フローラバランスへの悪影響や、雑菌および雑菌由来の代謝物による悪影響を受ける恐れを抑制することができることが記載されている。
また、引用文献1には、相違点2及び3に係る構成により奏する効果に対応する記載として、引用文献1の段落[0059]~[0060]に、にがりの健康食品全重量に対する含有割合の範囲は0.8重量乃至1.5重量%が好ましいことが記載され、同段落[0088]~[0097]に、にがりを1.2重量%加えて調整した大豆加工食品である絹ごし豆腐を摂取することにより、老若男女を問わず、腸内フローラの改善、エクオール産生細菌の増加および活性化という効果が得られたことが、具体的に記載されている。
そうすると、本件補正発明の奏する効果は、引用発明及び技術常識から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
オ まとめ
したがって、本件補正発明は、引用発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(3)補正の適否についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、また、同法同条第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、前記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし3に係る発明は、令和 2年 8月31日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものであると認められる。
「【請求項1】
100gあたりのマグネシウム含有量が2500mg乃至6000mgおよびカルシウム含有量が500mg乃至2000mgであり、
カルシウム含有量に対するマグネシウム含有量の比率が2~7であり、且つ
硬度が144000mg/L乃至383000mg/Lである、海洋深層水由来のにがりを、
食品全重量に対して0.8重量%乃至1.5重量%含む、
ことを特徴とするエクオール産生細菌を増加および活性化させるための腸内フローラ改善納豆。」
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものを含むものである。
3 引用文献1及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、前記第2 2(2)イ(ア)aに示したとおりであり、引用文献1に記載された発明すなわち引用発明は、前記第2 2(2)イ(ア)bに示したとおりである。
4 対比・判断
前記第2[理由]2(2)で検討したように、本件補正発明は本願発明の発明特定事項に限定を加えたものである。
そして、本願発明の発明特定事項に限定を加えた本件補正発明は、前記第2[理由]2(2)ウないしオのとおり、引用発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、技術常識は本件補正で加えられた限定のうち「前記腸内フローラ改善納豆は、大豆イソフラボン(アグリコン換算)を78mg~80mg含」むものに限定したことに対して引用されたものであるから、その限定のない本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
5 むすび
したがって、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第4 結語
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-000345