特許異議申立
2020-700416
面ファスナー雌部材
- 審判番号
- 2020-700416
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-160254
- 登録番号
- 6622025
- 請求日
- 2020年06月17日
- 審決日
- 2021年10月19日
- 公報発行日
- 2022年02月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日東電工株式会社
- 【権利者代理人】籾井 孝文
- 【異議申立人】鈴野 幹夫
- 審判長/審判官
- 審判長 久保 克彦
- 審判官 藤井 眞吾
- 審判官 井上 茂夫
- 分類
- P1651.113-YAA(A44B) / P1651.121-YAA(A44B) / P1651.536-YAA(A44B) / P1651.537-YAA(A44B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6622025号発明「面ファスナー雌部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
特許第6622025号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
特許第6622025号の請求項1、4、6、7に係る特許を維持する。
特許第6622025号の請求項2、3、5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
第1 手続の経緯
特許第6622025号の請求項1~7に係る特許についての出願は、平成27年8月17日(優先権主張 平成26年8月26日、平成27年7月17日)の出願であって、令和元年11月29日にその特許権の設定登録がされ、令和元年12年18日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和2年 6月17日 :特許異議申立人鈴野幹夫(以下「申立人」という。)による請求項1~7に係る特許に対する特許異議の申立て
令和2年 9月29日付け:取消理由通知書
令和2年11月25日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和3年 1月 8日 :申立人による意見書の提出
令和3年 3月 2日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和3年 4月30日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出(以下、訂正請求書による訂正の請求を、以下「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)
令和3年 7月 2日 :申立人による意見書の提出
なお、本件訂正請求がされたことにより、上記令和2年11月25日に提出された訂正請求書による訂正は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1に記載された
「該係合層中の該不織布の密度が、5kg/m3~110kg/m3であり、」を、
「不織布の坪量(Xg/m2)と不織布の厚み(Ymm)から計算されるX/Yとして計算される該繊維の不織布の密度が、5kg/m3~110kg/m3であり、
該不織布の厚みがデジタルマイクロスコープを用いて、不織布断面を撮影し、該不織布断面の上部と下部のそれぞれにおいて、繊維との交点が10点となるような平行な線を、それぞれ上辺および下辺とし、上辺および下辺の間の長さを不織布厚さとして画像解析ソフトにて計測した値であり、」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4、6、7も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項1に記載された
「該繊維の直径が15μm~60μmであり、」を、
「該繊維の直径が15μm~60μmであり、
該繊維がポリプロピレンまたはポリプロピレンのブレンドの繊維を含み、」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4、6、7も同様に訂正する)。
(3)訂正事項3
本件訂正前の請求項1に記載された
「該物性層がフィルムまたは不織布であり、」を、
「該物性層がスパンボンド法により得られる不織布、メルトブロー法により得られる不織布、または、スパンメルト法により得られる不織布であり、」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4、6、7も同様に訂正する)。
(4)訂正事項4
本件訂正前の請求項1に記載された
「該係合層および物性層がエンボス処理されている、面ファスナー雌部材。」を、
「該係合層および物性層がエンボス処理されており、
該面ファスナー雌部材のせん断応力が8N以上100N以下であり、かつ、剥離強度(4回目)が0.2N以上10N以下であって、
該せん断応力が、面ファスナー雌部材を5cm×5cmに切出し、切出した面ファスナー雌部材の物性層表面を両面テープを介してステンレス金属板に固定し、雄部材である紙製の導きを有する25mm×13mmのメカニカルフック部材の25mmの辺と係合層の流れ方向とが平行になるように、雌部材上に静置し、その上を、0.7kgローラーを300mm/分の速度で1回ラミネートして圧着し、その後、上記導きをもって、該面ファスナー雌部材の係合層のTD方向に300mm/分の速度で引張り、雄部材が雌部材から剥離されるのに必要な力であり、
該剥離速度(4回目)が、5cm×5cmに切出した面ファスナー雌部材を、雄部材である60μmの厚さのポリエチレン製フィルムの導きを有する25mm×13mmのメカニカルフック部材の25mmの辺と、係合層の流れ方向が平行になるように、雌部材上に静置し、その上を、0.7kgローラーを300mm/分の速度で1回ラミネートして圧着した後、上記導きを測定機の上側に、面ファスナーを測定機の下側にそれぞれチャックし、係合層のTD方向に300mm/分の速度で引張り(T型剥離)、雄部材が剥離されるのに必要な力を測定する操作を4回繰り返し、4回目に測定された値である、面ファスナー雌部材。」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4、6、7も同様に訂正する)。
(5)訂正事項5
本件訂正前の請求項2を削除する。
(6)訂正事項6
本件訂正前の請求項3を削除する。
(7)訂正事項7
本件訂正前の請求項4に記載された「請求項1から3のいずれかに記載の面ファスナー雌部材。」を、
「請求項1に記載の面ファスナー雌部材。」に訂正する。
(8)訂正事項8
本件訂正前の請求項5を削除する。
(9)訂正事項9
本件訂正前の請求項6に記載された「請求項1から5までのいずれかの面ファスナー雌部材」を、
「請求項1または4に記載の面ファスナー雌部材」に訂正する。
(10)訂正事項10
本件訂正前の請求項7に記載された「請求項1から5までのいずれかの面ファスナー雌部材」を、
「請求項1または4に記載の面ファスナー雌部材」に訂正する。
なお、本件訂正前の請求項1~7は、請求項2~7が、それぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用するものであり、訂正事項1~4によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の「不織布の密度」を、どのように測定して計算したものであるのか、その測定方法を明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項1は、本件特許の明細書【0043】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という)に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項1は、明瞭でない記載を釈明するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項1の「繊維」について限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項2は、本件特許の明細書【0036】、【0037】の記載に基づくものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項2は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、本件訂正前の請求項1の「物性層」について限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項3は、本件特許の明細書【0049】、【0050】の記載に基づくものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項3は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、本件訂正前の請求項1の「面ファスナー雌部材」について、その「せん断応力」及び「剥離強度(4回目)」を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項4は、本件特許の明細書【0063】、【0065】、【0069】、【0070】の記載に基づくものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項4は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(5)訂正事項5、6、8について
訂正事項5、6、8は、それぞれ請求項2、3、5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項5、6、8は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(6)訂正事項7、9、10について
訂正事項7、9、10は、訂正事項5、6により請求項2、3を削除する訂正に伴って引用する請求項を整理するための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項7、9、10は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
上記第2のとおり本件訂正が認められたことから、本件特許の請求項1、4、6、7に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、4、6、7に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
雄部材に係合可能な係合層を有する面ファスナー雌部材であって、
該係合層が繊維の不織布を含み、
不織布の坪量(Xg/m2)と不織布の厚み(Ymm)からX/Yとして計算される該繊維の不織布の密度が、5kg/m3~110kg/m3であり、
該不織布の厚みがデジタルマイクロスコープを用いて、不織布断面を撮影し、該不織布断面の上部と下部のそれぞれにおいて、繊維との交点が10点となるような平行な線を、それぞれ上辺および下辺とし、上辺および下辺の間の長さを不織布厚さとして画像ソフトにて計測した値であり、
該繊維の直径が15μm~60μmであり、
該繊維がポリプロピレンまたはポリプロピレンのブレンドの繊維を含み、
該係合層が物性層上に設けられており、
該物性層がスパンボンド法により得られる不織布、メルトブロー法により得られる不織布、または、スパンメルト法により得られる不織布であり、
該係合層および物性層がエンボス処理されており、
該面ファスナー雌部材のせん断応力が8N以上100N以下であり、かつ、剥離強度(4回目)が0.2N以上10N以下であって、
該せん断応力が、面ファスナー雌部材を5cm×5cmに切出し、切出した面ファスナー雌部材の物性層表面を両面テープを介してステンレス金属板に固定し、雄部材である紙製の導きを有する25mm×13mmのメカニカルフック部材の25mmの辺と係合層の流れ方向とが平行になるように、雌部材上に静置し、その上を、0.7kgローラーを300mm/分の速度で1回ラミネートして圧着し、その後、上記導きをもって、該面ファスナー雌部材の係合層のTD方向に300mm/分の速度で引張り、雄部材が雌部材から剥離されるのに必要な力であり、
該剥離速度(4回目)が、5cm×5cmに切出した面ファスナー雌部材を、雄部材である60μmの厚さのポリエチレン製フィルムの導きを有する25mm×13mmのメカニカルフック部材の25mmの辺と、係合層の流れ方向が平行になるように、雌部材上に静置し、その上を、0.7kgローラーを300mm/分の速度で1回ラミネートして圧着した後、上記導きを測定機の上側に、面ファスナーを測定機の下側にそれぞれチャックし、係合層のTD方向に300mm/分の速度で引張り(T型剥離)、雄部材が剥離されるのに必要な力を測定する操作を4回繰り返し、4回目に測定された値である、
面ファスナー雌部材。」
「【請求項4】
前記物性層が繊維の不織布を含み、該繊維の直径が40μm以下である、請求項1に記載の面ファスナー雌部材。」
「【請求項6】
請求項1または4に記載の面ファスナー雌部材と、該面ファスナー雌部材と係合する面ファスナー雄部材とを有する、面ファスナー。
【請求項7】
請求項1または4に記載の面ファスナー雌部材を有する衛生用品。」
第4 取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
令和2年11月25日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~7に係る特許に対して、当審が令和3年3月2日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
理由1(明確性要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(1)請求項1に記載された「該係合層中の該不織布の密度」について、係合層と物性層とが積層前のものを意味するのか、又は積層後のもの意味するのかは特定されていないから、不織布の厚みから計算される密度が一義的に定まらず、「面ファスナー雌部材」という「物の発明」として、どのようなものが特定されているのかが明らかではないため、発明が不明確である。
(2)請求項1の「該面ファスナー雌部材のせん断応力が8N以上100N以下であり、かつ、剥離強度(4回目)が0.2N以上10N以下である」という記載について、「せん断応力」及び「剥離強度(4回目)」の測定条件を理解できず、また、計算方法が特定されていないため、発明が不明確である。
理由3(実施可能要件)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が以下の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
・請求項1の「該面ファスナー雌部材のせん断応力が8N以上100N以下であり、かつ、剥離強度(4回目)が0.2N以上10N以下である」という記載について、エンボス加工には、様々な加工方法や条件があり、これらの相違により、面ファスナー雌部材のせん断応力及び刺離強度(4回目)が左右されることが本件優先日前の技術常識であるから、当業者が本件特許明細書に記載される特定のエンボス処理以外のエンボス処理を用いて請求項1に係る発明を実施するためには、過度の試行錯誤を要するものであるため、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1~7に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
理由5(進歩性)
請求項1~7に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された発明、又は引用文献3に記載された発明、及び周知の技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
[引用文献等一覧]
引用文献1:特開2004-81254号公報(甲第1号証)
引用文献2:特開2003-265207号公報(甲第2号証)
引用文献3:米国特許第5616394号明細書(甲第3号証)
引用文献4:国際公開第2014/4807号(甲第4号証)
引用文献5:国際公開第2008/130807号(甲第5号証)
引用文献6:特表2008-518649号公報(甲第6号証)
2 当審の判断
(1)理由1(明確性要件)について
ア 請求項1の「該係合層中の該不織布の密度が、5kg/m3~110kg/m3で」の記載について、当該密度は、係合力を発揮する係合層「中」の不織布の密度を特定するものであるから、当該記載は、「面ファスナー雌部材」として積層後の密度であることは明らかであり、また、発明特定事項に技術的な不備がないため、本件発明1は明確である。
請求項1の上記記載に関して、発明の詳細な説明には、「本発明の面ファスナー雌部材においては、係合力を重視する場合、係合層中の不織布の密度が、5kg/m3~110kg/m3であり、・・・本発明の面ファスナー雌部材において、係合層中の不織布の密度が上記範囲内に収まることにより、面ファスナー雄部材との係合力に優れる、面ファスナー雌部材を提供し得る。特に、本発明の面ファスナー雌部材において、係合層中の不織布の密度が上記範囲内に収まることにより、面ファスナー雄部材との係合力として、高いせん断応力と、高い剥離強度を両立でき、使い捨ておむつなどでは装着時や排泄後等においてズレ落ちの問題を効果的に解消し得る。本発明の面ファスナー雌部材において、係合層中の不織布の密度が上記範囲を外れて低すぎると、面ファスナー雄部材が引っかかりにくくなったり、もしくは、生産性が悪くコスト高になったりするというおそれがある。係合層中の不織布の密度が上記範囲を外れて高すぎると、面ファスナー雌部材の不織布の繊維が密に詰まった状態になるため、面ファスナー雄部材の係合部分が面ファスナー雌部材中に装入され難くなり、優れた係合力が発現できないおそれがある。」(【0041】)と記載されているが、当該記載は、請求項1の上記記載と整合するものである。
イ 請求項1の「該面ファスナー雌部材のせん断応力が8N以上100N以下であり、かつ、剥離強度(4回目)が0.2N以上10N以下である」という記載について、本件訂正によって、「せん断応力」及び「剥離強度(4回目)」の測定条件及び計算方法が特定されたため、本件発明1は明確である。
ウ よって、本件発明1、4、6、7は、明確である。
(2)理由3(実施可能要件)について
エンボス処理により、不織布の係合力が変化することは明らかであるから、当業者であれば、エンボス処理の諸条件(エンボスの大きさ、密度、処理温度、線圧、処理速度等)を適宜設定することにより、「せん断応力」及び「剥離強度(4回目)」を所望の範囲内のものとして実施することができる。
よって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1、4、6、7を実施できる程度に記載されたものである。
(3)理由5(進歩性)について
ア 引用文献の記載事項
(ア)引用文献1には、次の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は面ファスナー雌材に関するものであり、特に使い捨ておむつのようなディスポーザブル商品に好適に用いることのできる面ファスナー雌材に関する。」
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、面ファスナーとして十分な係合強力とディスポーザブル用途に必要な剥離耐久性を有し、目付けが低く安価であり、かつ使い捨ておむつ等の製造ラインにおける工程通過性が良好な面ファスナー雌材を提供することにある。」
「【0026】
<係合剥離強力>
高さ0.3mmの丸型(キノコ型)のフック部が1cm2当り約250個設けられた巾25mm、長さ24mmの粘着材付き係合部材を巾25mm、不織布基材の端に固定した。一方、巾40mm、長さ100mmのループ側係合部材を、両面テープを用い巾60mm、長さ200mmのステンレス板に貼り付けた。用意したそれぞれの係合部材を重ねて2Kgのローラーを1往復させて結合させた。
その後、1Kgの荷重をせん断方向に10秒間掛け、次いでインストロン社製5543型インストロンを用いて、角度90度の方向に分けた係合していない部分のフック側とループ側をチャック間隔50mmでつかみ、速度300mm/分で剥離させて、最大値(3箇所)と最小値(3箇所)を読み取った(測定数:n=3)。全測定値の平均を『平均値』、最大値の平均を『最大値』として剥離強度とした。
【0027】
<引張りせん断強力>
上記剥離強度と同じ方法にてフック材を準備し、ループ材はステンレス板には貼り付けないで切断したままの状態で準備した。用意したそれぞれの部材を重ねて2Kgのローラーを1往復させて結合させた。次いで5543型インストロンを用いて係合していない部分のフック側とループ側の上下をチャック間隔50mmでつかみ速度300mm/分で引っ張った。最大強力を読み(測定数:n=4)、これの平均値をせん断強力とした。」
「【0029】
実施例1
ポリエチレンテレフタレート(融点255℃)を芯成分、ポリエチレン(融点130℃)を鞘成分とする芯鞘型複合繊維で、単繊維繊度が6.7dTexと2.0dTexの複合繊維を用い、前者を60%、後者を40%で充分に混綿した目付40g/m2のカードウェブを作製した。このカードウェブを基材である目付け重量15g/m2のポリプロピレン製スパンボンド不織布-ポリプロピレン製メルトブロー不織布-ポリプロピレン製スパンボンド不織布貼り合せ基材に積層した。
積層した後、熱エンボス法で熱圧着させた。用いたエンボスロールは直径が5mmで、深さが2mmの円形孔が5.5mm間隔で一列に並び、その円形孔列に対して次の円形孔列が千鳥状に並ぶように配列されたもので、対ローラーとしてフラットローラーを用いた。処理のエンボス圧力は45Kg/cm、エンボス温度は155℃であった。エンボス領域の面積率は76.3%であった。
図1で示される如き、エンボス熱融着領域Sの中に、エンボス非熱圧着面として、多数の非熱融着領域Iが突出したエンボス不織布を得た。得られた不織布は、図2に示すように非熱融着部の高さHが0.65mmであった。
このエンボス不織布を面ファスナー雌材として用い、高さ0.3mmからなるマッシュルーム状の雄側係合部材として用い、両者で係合剥離強力を測定した。係合剥離強力は初期の最大値が508g/cm幅、3回の係合剥離を繰り返した後の値が160g/cm幅であった。初期の平均値は400g/cm幅、3回の係合剥離を繰り返した後の値が81g/cm幅であった。また、剪断引張り強力は424g/cm2であり、いずれも面ファスナーとして充分な係合強力を示した。また、通気度は81cc/cm2/秒であり、おむつ製造ラインでの工程通過性は極めて良好であった。」
「【図1】
[図:0001381638000001.jpg]
」
(イ)上記(ア)から、実施例1に着目すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「ポリエチレンテレフタレート(融点255℃)を芯成分、ポリエチレン(融点130℃)を鞘成分とする芯鞘型複合繊維で、単繊維繊度が6.7dTexと2.0dTexの複合繊維を用い、前者を60%、後者を40%で充分に混綿した目付40g/m2のカードウェブを、ポリプロピレン製スパンボンド不織布-ポリプロピレン製メルトブロー不織布-ポリプロピレン製スパンボンド不織布貼り合せ基材に積層し、積層した後、熱エンボス法で熱圧着させ、非熱融着部の高さHが0.65mmである面ファスナー雌材であって、
高さ0.3mmからなるマッシュルーム状の雄側係合部材(雄部材)に係合可能で、
係合剥離強力は初期の最大値が508g/cm幅、3回の係合剥離を繰り返した後の値が160g/cm幅、初期の平均値は400g/cm幅、3回の係合剥離を繰り返した後の値が81g/cm幅であって、
剪断引張り強力は424g/cm2であって、
係合剥離強力が、高さ0.3mmの丸型(キノコ型)のフック部が1cm2当り約250個設けられた巾25mm、長さ24mmの粘着材付き係合部材を巾25mm、不織布基材の端に固定し、一方、巾40mm、長さ100mmのループ側係合部材を、両面テープを用い巾60mm、長さ200mmのステンレス板に貼り付け、用意したそれぞれの係合部材を重ねて2Kgのローラーを1往復させて結合させ、その後、1Kgの荷重をせん断方向に10秒間掛け、次いでインストロン社製5543型インストロンを用いて、角度90度の方向に分けた係合していない部分のフック側とループ側をチャック間隔50mmでつかみ、速度300mm/分で剥離させて、最大値(3箇所)と最小値(3箇所)を読み取り(測定数:n=3)、全測定値の平均を『平均値』、最大値の平均を『最大値』とし、
引張りせん断強力が、上記剥離強度と同じ方法にてフック材を準備し、ループ材はステンレス板には貼り付けないで切断したままの状態で準備し、用意したそれぞれの部材を重ねて2Kgのローラーを1往復させて結合させ、次いで5543型インストロンを用いて係合していない部分のフック側とループ側の上下をチャック間隔50mmでつかみ速度300mm/分で引っ張り、最大強力を読み(測定数:n=4)、これの平均値である、面ファスナー雌材。」
(ウ)引用文献2には、次の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は面ファスナー雌材に関し、さらに詳しくは、鮮明な印刷柄を有し、剥がし易く、風合いも柔らかく、剥離音が静かであり、かつ生産性に優れた安価な面ファスナー雌材に関する。」
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】従って、本発明の目的は、印刷性が良く、鮮明な印刷柄を有し、かつ風合いが柔らかく、通気性があり、小さい剥離音で剥がし易い、面ファスナー雌材を提供することにある。」
「【0018】実施例1
ポリエチレンテレフタテートを溶融紡糸し、フィラメントをネット上にランダム捕集した後、フラットローラで軽く圧着して表1に示した太さ、目付のスパンボンド不織布シートを製造した。次いで、得られたシートを20μmのキャラクター柄が印刷されたフィルムの裏面と重ね合わせて、ニードルパンチマシンに導入し、スパンボンド不織布の上からニードルを挿入してニードルパンチすることにより、フィルムの表面(印刷面)に多数のスパンボンドの繊維によるループを形成させた。なお、積層したフィルムは、フレキソ印刷方法で4色刷りの印刷を行った物を用いた。次いで、前記積層体にポリアクリル酸エステル系エマルジョン樹脂をパディング法で該樹脂の含有量が面ファスナー雌材全重量に対して9重量%になるように樹脂加工し、面ファスナー雌材を得た。得られた面ファスナー雌材の評価結果を表1に示した。
【0019】実施例2
ポリエチレンテレフタテートを溶融紡糸し、フィラメントをネット上にランダム捕集した後、フラットローラで軽く圧着して表1に示した太さ、目付のスパンボンド不織布シートを製造した。次いで、得られたシートと20μmのキャラクター柄が印刷されたフィルムとを重ね合わせて、ニードルパンチマシンを用いてニードルパンチにより実施例1と同様にフィルムの表面に多数のスパンボンドの繊維によるループを形成させて面ファスナー雌材を得た。得られた面ファスナー雌材の評価結果を表1に示した。
【0020】実施例3
PEL/PETの芯鞘型二成分の複合繊維を溶融紡糸する以外は、実施例2と同様にして、積層体を得た。次いで、得られた積層体に格子状の熱エンボス加工を施して、面ファスナー雌材を得た。得られた面ファスナー雌材の評価結果を表1に示した。
【0021】実施例4
スパンボンド不織布シートに代えて、PE/PETの芯鞘型二成分の複合短繊維のウェブシートを使用する以外は、実施例2と同様にして、積層体を得た。次いで、得られた積層体に格子状の熱エンボス加工を施して、面ファスナー雌材を得た。得られた面ファ スナー雌材の評価結果を表1に示した。」
「【0023】
【表1】
[図:0001381638000002.jpg]
」
(エ)上記(ウ)から、実施例3に着目すると、引用文献2には次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「雄材に係合可能な不織布部を有する面ファスナー雌材であって、
該不織布部がPEL/PETの芯/鞘構型二成分の複合繊維から成るスパンボンド不織布を含み、
不織部の目付が30g/m2で厚さが0.67mmであり
不織布部の複合繊維の繊維径が18μmであり
不織布部が20μmのキャラクター柄が印刷されたフィルムに積層されており 不織布部とフィルムの積層体がエンボス加工を施されており、
剥がす際の取り外しやすく、長時間使用時におけるファスナー部が取れない、面ファスナー雌部材。」
(オ)上記(ウ)から、実施例4に着目すると、引用文献2には次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
「雄材に係合可能な不織布部を有する面ファスナー雌材であって、
該不織布部がPE/PETの芯/鞘構型二成分の複合短繊維のウェブシートを含み、
不織部の目付が30g/m2で厚さが0.7mmであり
不織布部の複合短繊維の繊維径が23μmであり
不織布部が20μmのキャラクター柄が印刷されたフィルムに積層されており
不織布部とフィルムの積層体がエンボス加工を施されており、
剥がす際の取り外しやすく、長時間使用時におけるファスナー部が取れない、面ファスナー雌部材。」
イ 引用発明1を主引用発明とした場合
(ア)本件発明1について
本件発明1と引用発明1とを対比する。
本件発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「マッシュルーム状の雄側係合部材」は、その構成や機能から見て、本件発明1の「雄部材」に相当し、同様に、「カードウェブ」は「係合層」に、「面ファスナー雌材」は「面ファスナー雌部材」に、「ポリプロピレン製スパンボンド不織布-ポリプロピレン製メルトブロー不織布-ポリプロピレン製スパンボンド不織布貼り合せ基材」は「物性層」及び「該物性層がスパンボンド法により得られる不織布、メルトブロー法により得られる不織布、または、スパンメルト法により得られる不織布であ」ることに、「熱エンボス法で熱圧着させ」ることは「エンボス処理」に、「カードウェブを、スパンボンド不織布貼り合せ基材に積層」することは「係合層が物性層上に設けられて」いることに、それぞれ相当する。
また、以下a~cは、本件優先日前の技術常識である。
a 繊維直径(μm)=11.29×(D/ρ)1/2(ただし、Dは繊維の太さ(dTex))
b ポリエチレンテレフタレートの密度:1.34~1.39g/cm3
c ポリエチレンの密度:0.91~0.965g/cm3
かかる技術常識を踏まえると、PETとPEの芯鞘型複合繊維の密度は、1.1g/cm3程度であり、引用発明1の「カードウェブ」(係合層)が「ポリエチレンテレフタレート(融点255℃)を芯成分、ポリエチレン(融点130℃)を鞘成分とする芯鞘型複合繊維で、単繊維繊度が6.7dTexと2.0dTexの複合繊維を用い」たことは、直径が約15μm~28μmの範囲内の繊維を用いていたことと換算できるから、本件発明1の「該繊維の直径が15μm~60μmであ」ることに相当する。
また、引用発明1の「カードウェブ」(係合層)が「目付40g/m2」であり、「積層した後、熱エンボス法で熱圧着させ、非熱融着部の高さHが0.65mmである」ことは、密度が約61.5kg/m3と計算できることから、本件発明1の「不織布の坪量(Xg/m2)と不織布の厚み(Ymm)から計算されるX/Yとして計算される該繊維の該不織布の密度が、5kg/m3~110kg/m3であ」ることに相当する。
さらに、引用発明1の「係合剥離強力は初期の最大値が508g/cm幅、3回の係合剥離を繰り返した後の値が160g/cm幅、初期の平均値は400g/cm幅、3回の係合剥離を繰り返した後の値が81g/cm幅であって、剪断引張り強力は424g/cm2であって、係合剥離強力が、高さ0.3mmの丸型(キノコ型)のフック部が1cm2当り約250個設けられた巾25mm、長さ24mmの粘着材付き係合部材を巾25mm、不織布基材の端に固定し、一方、巾40mm、長さ100mmのループ側係合部材を、両面テープを用い巾60mm、長さ200mmのステンレス板に貼り付け、用意したそれぞれの係合部材を重ねて2Kgのローラーを1往復させて結合させ、その後、1Kgの荷重をせん断方向に10秒間掛け、次いでインストロン社製5543型インストロンを用いて、角度90度の方向に分けた係合していない部分のフック側とループ側をチャック間隔50mmでつかみ、速度300mm/分で剥離させて、最大値(3箇所)と最小値(3箇所)を読み取り(測定数:n=3)、全測定値の平均を『平均値』、最大値の平均を『最大値』とし、引張りせん断強力が、上記剥離強度と同じ方法にてフック材を準備し、ループ材はステンレス板には貼り付けないで切断したままの状態で準備し、用意したそれぞれの部材を重ねて2Kgのローラーを1往復させて結合させ、次いで5543型インストロンを用いて係合していない部分のフック側とループ側の上下をチャック間隔50mmでつかみ速度300mm/分で引っ張り、最大強力を読み(測定数:n=4)、これの平均値である」ことは、面ファスナー雌部材が所定の係合力を有するという限りにおいて、本件発明1の「該面ファスナー雌部材のせん断応力が8N以上100N以下であり、かつ、剥離強度(4回目)が0.2N以上10N以下であって、該せん断応力が、面ファスナー雌部材を5cm×5cmに切出し、切出した面ファスナー雌部材の物性層表面を両面テープを介してステンレス金属板に固定し、雌部材である紙製の導きを有する25mm×13mmのメカニカルフック部材の25mmの辺と係合層の流れ方向とが平行になるように、雌部材上に静置し、その上を、0.7kgローラーを300mm/分の速度で1回ラミネートして圧着し、その後、上記導きをもって、該面ファスナー雌部材の係合層のTD方向に300mm/分の速度で引張り、雄部材が雌部材から剥離されるのに必要な力であり、該剥離速度(4回目)が、5cm×5cmに切出した面ファスナー雌部材を、雄部材である60μmの厚さのポリエチレン製フィルムの導きを有する25mm×13mmのメカニカルフック部材の25mmの辺と、係合層の流れ方向が平行になるように、雌部材上に静置し、その上を、0.7kgローラーを300mm/分の速度で1回ラミネートして圧着した後、上記導きを測定機の上側に、面ファスナーを測定機の下側にそれぞれチャックし、係合層のTD方向に300mm/分の速度で引張り(T型剥離)、雄部材が剥離されるのに必要な力を測定する操作を4回繰り返し、4回目に測定された値である」ことと一致している。
以上を踏まえると、本件発明1と引用発明1とは、以下の一致点で一致し、相違点1~3で相違する。
以上のことから、本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点1]
「雄部材に係合可能な係合層を有する面ファスナー雌部材であって、
該係合層が繊維の不織布を含み、
不織布の坪量(Xg/m2)と不織布の厚み(Ymm)からX/Yとして計算される該繊維の不織布の密度が、5kg/m3~110kg/m3であり、
該繊維の直径が15μm~60μmであり、
該係合層が物性層上に設けられており、
該物性層がスパンボンド法により得られる不織布、メルトブロー法により得られる不織布、または、スパンメルト法により得られる不織布であり、
該係合層および物性層がエンボス処理されており、
所定の係合力を有する、面ファスナー雌部材。」
[相違点1]
不織布の厚み(Ymm)の計測に関して、本件発明1では、「該不織布の厚みがデジタルマイクロスコープを用いて、不織布断面を撮影し、該不織布断面の上部と下部のそれぞれにおいて、繊維との交点が10点となるような平行な線を、それぞれ上辺および下辺とし、上辺および下辺の間の長さを不織布厚さとして画像ソフトにて計測した値」であるのに対して、引用発明1では計測機器や計測方法が明確ではない点。
[相違点2]
本件発明1は、「該繊維がポリプロピレンまたはポリプロピレンのブレンドの繊維を含」むのに対して、引用発明1は、「ポリエチレンテレフタレート(融点255℃)を芯成分、ポリエチレン(融点130℃)を鞘成分とする芯鞘型複合繊維」である点。
[相違点3]
面ファスナー雌部材が所定の係合力を有することに関して、
本件発明1は、「該面ファスナー雌部材のせん断応力が8N以上100N以下であり、かつ、剥離強度(4回目)が0.2N以上10N以下であって、該せん断応力が、面ファスナー雌部材を5cm×5cmに切出し、切出した面ファスナー雌部材の物性層表面を両面テープを介してステンレス金属板に固定し、雌部材である紙製の導きを有する25mm×13mmのメカニカルフック部材の25mmの辺と係合層の流れ方向とが平行になるように、雌部材上に静置し、その上を、0.7kgローラーを300mm/分の速度で1回ラミネートして圧着し、その後、上記導きをもって、該面ファスナー雌部材の係合層のTD方向に300mm/分の速度で引張り、雄部材が雌部材から剥離されるのに必要な力であり、該剥離速度(4回目)が、5cm×5cmに切出した面ファスナー雌部材を、雄部材である60μmの厚さのポリエチレン製フィルムの導きを有する25mm×13mmのメカニカルフック部材の25mmの辺と、係合層の流れ方向が平行になるように、雌部材上に静置し、その上を、0.7kgローラーを300mm/分の速度で1回ラミネートして圧着した後、上記導きを測定機の上側に、面ファスナーを測定機の下側にそれぞれチャックし、係合層のTD方向に300mm/分の速度で引張り(T型剥離)、雄部材が剥離されるのに必要な力を測定する操作を4回繰り返し、4回目に測定された値である」であるのに対して、
引用発明1では、「係合剥離強力は初期の最大値が508g/cm幅、3回の係合剥離を繰り返した後の値が160g/cm幅、初期の平均値は400g/cm幅、3回の係合剥離を繰り返した後の値が81g/cm幅であって、剪断引張り強力は424g/cm2であって、係合剥離強力が、高さ0.3mmの丸型(キノコ型)のフック部が1cm2当り約250個設けられた巾25mm、長さ24mmの粘着材付き係合部材を巾25mm、不織布基材の端に固定し、一方、巾40mm、長さ100mmのループ側係合部材を、両面テープを用い巾60mm、長さ200mmのステンレス板に貼り付け、用意したそれぞれの係合部材を重ねて2Kgのローラーを1往復させて結合させ、その後、1Kgの荷重をせん断方向に10秒間掛け、次いでインストロン社製5543型インストロンを用いて、角度90度の方向に分けた係合していない部分のフック側とループ側をチャック間隔50mmでつかみ、速度300mm/分で剥離させて、最大値(3箇所)と最小値(3箇所)を読み取り(測定数:n=3)、全測定値の平均を『平均値』、最大値の平均を『最大値』とし、引張りせん断強力が、上記剥離強度と同じ方法にてフック材を準備し、ループ材はステンレス板には貼り付けないで切断したままの状態で準備し、用意したそれぞれの部材を重ねて2Kgのローラーを1往復させて結合させ、次いで5543型インストロンを用いて係合していない部分のフック側とループ側の上下をチャック間隔50mmでつかみ速度300mm/分で引っ張り、最大強力を読み(測定数:n=4)、これの平均値である」点。
まず、相違点3について検討する。
面ファスナーの係合力は、試料の大きさ、圧着条件、引張り速度等に影響を受けることは明らかであるところ、本件発明1と引用発明1の「せん断応力」及び「剥離強度(4回目)」の測定においては、引張り速度は同じであるものの、試料の大きさ、圧着条件が異なるため、引用発明1で特定された「剪断引張り強力」及び「係合剥離強力」は、引用発明1の「面ファスナー雌材」を、本件発明1で特定された「せん断応力」及び「剥離強度(4回目)」の測定方法によって測定したものであるとはいえない。
また、本件特許明細書等の記載から、本件発明1は、「従来の不織布が採用された係合層を有する面ファスナー雌部材は、面ファスナー雄部材との係合力が十分ではなく、特に、せん断応力が低かったり、剥離強度が弱かったりすることが多く、使い捨ておむつなどでは装着時や排泄後等においてズレ落ちの問題」(【0004】)があったため、「不織布が採用された係合層を有する面ファスナー雌部材であって、面ファスナー雄部材との係合力に優れる、面ファスナー雌部材を提供すること」(【0006】)を課題として、本件発明1で特定される「せん断応力」及び「剥離強度(4回目)」の測定方法とすることによって解決したものである。そうすると引用発明1において、当該課題を有する点について記載されていないから、相違点3に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者の通常の創作能力の発揮とはいえない。
さらに、相違点3に係る本件発明1の構成は、引用文献1~6には記載されておらず、また出願前において周知技術であるともいえない。
したがって、引用発明1において、相違点3に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、相違点1、2を検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が引用発明1に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(イ)本件発明4、6、7について
本件発明4、6、7は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(ア)で検討したのと同じ理由により、当業者が引用発明1に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 引用発明2を主引用発明とした場合
(ア)本件発明1について
本件発明1と引用発明2とを対比すると、引用発明2の「雄材」は、その構成や機能から見て、本件発明1の「雄部材」に相当し、同様に、「不織布部」は「係合層」に、「面ファスナー雌材」は「面ファスナー雌部材」に、「不織布部が PEL/PETの芯/鞘構型に成分の複合繊維から成るスパンボンド不織布を含」むことは「係合層が繊維の不織布を含む」ことに、「不織布部が20μmのキャラクター柄が印刷されたフィルムに積層されて」いることは「該係合層が物性層上に設けられて」いることに、「エンボス加工」は「エンボス処理」に、「繊維径が18μm」は「繊維の直径が15μm~60μm」に、それぞれ相当する。
また、引用発明2の「不織部」(係合層)が「目付が30g/m2で厚さが0.67mmであ」ることは、密度が約44.8kg/m3と計算できることから、本件発明1の「不織布の坪量(Xg/m2)と不織布の厚み(Ymm)から計算されるX/Yとして計算される該繊維の該不織布の密度が、5kg/m3~110kg/m3であ」ることに相当する。
さらに、引用発明2の「剥がす際の取り外しやすく、長時間使用時におけるファスナー部が取れない」ことは、面ファスナー雌部材が所定の係合力を有するという限りにおいて、本件発明1の「該面ファスナー雌部材のせん断応力が8N以上100N以下であり、かつ、剥離強度(4回目)が0.2N以上10N以下であって、該せん断応力が、面ファスナー雌部材を5cm×5cmに切出し、切出した面ファスナー雌部材の物性層表面を両面テープを介してステンレス金属板に固定し、雌部材である紙製の導きを有する25mm×13mmのメカニカルフック部材の25mmの辺と係合層の流れ方向とが平行になるように、雌部材上に静置し、その上を、0.7kgローラーを300mm/分の速度で1回ラミネートして圧着し、その後、上記導きをもって、該面ファスナー雌部材の係合層のTD方向に300mm/分の速度で引張り、雄部材が雌部材から剥離されるのに必要な力であり、該剥離速度(4回目)が、5cm×5cmに切出した面ファスナー雌部材を、雄部材である60μmの厚さのポリエチレン製フィルムの導きを有する25mm×13mmのメカニカルフック部材の25mmの辺と、係合層の流れ方向が平行になるように、雌部材上に静置し、その上を、0.7kgローラーを300mm/分の速度で1回ラミネートして圧着した後、上記導きを測定機の上側に、面ファスナーを測定機の下側にそれぞれチャックし、係合層のTD方向に300mm/分の速度で引張り(T型剥離)、雄部材が剥離されるのに必要な力を測定する操作を4回繰り返し、4回目に測定された値である」ことと一致している。
以上のことから、本件発明1と引用発明2との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点2]
「雄材に係合可能な係合層を有する面ファスナー雌部材であって、
係合層が繊維の不織布を含み、
不織布の坪量(Xg/m2)と不織布の厚み(Ymm)から計算されるX/Yとして計算される該繊維の該不織布の密度が、5kg/m3~110kg/m3であり、
該繊維の直径が15μm~60μmであり、
該係合層が物性層上に設けられており、
該係合層および物性層がエンボス処理されており、
所定の係合力を有する、面ファスナー雌部材。」
[相違点4]
不織布の厚み(Ymm)の計測に関して、本件発明1では、不織布の厚みがデジタルマイクロスコープを用いて、不織布断面を撮影し、繊維との交点が10点となるような平行な線を、それぞれ上辺および下辺とし、上辺および下辺の間の長さを不織布厚さとして画像解析ソフトにて計測した値であるのに対して、引用発明2では計測機器や計測方法が明確ではない点。
[相違点5]
本件発明1は、「該繊維がポリプロピレンまたはポリプロピレンのブレンドの繊維を含」むのに対して、引用発明2は、「PEL/PETの芯/鞘構型二成分の複合繊維から成る」点。
[相違点6]
本件発明1は「該物性層がスパンボンド法により得られる不織布、メルトブロー法により得られる不織布、または、スパンメルト法により得られる不織布」であるのに対して、引用発明2は、「フィルム」である点。
[相違点7]
面ファスナー雌部材が所定の係合力を有することに関して、
本件発明1は、「該面ファスナー雌部材のせん断応力が8N以上100N以下であり、かつ、剥離強度(4回目)が0.2N以上10N以下であって、該せん断応力が、面ファスナー雌部材を5cm×5cmに切出し、切出した面ファスナー雌部材の物性層表面を両面テープを介してステンレス金属板に固定し、雌部材である紙製の導きを有する25mm×13mmのメカニカルフック部材の25mmの辺と係合層の流れ方向とが平行になるように、雌部材上に静置し、その上を、0.7kgローラーを300mm/分の速度で1回ラミネートして圧着し、その後、上記導きをもって、該面ファスナー雌部材の係合層のTD方向に300mm/分の速度で引張り、雄部材が雌部材から剥離されるのに必要な力であり、該剥離速度(4回目)が、5cm×5cmに切出した面ファスナー雌部材を、雄部材である60μmの厚さのポリエチレン製フィルムの導きを有する25mm×13mmのメカニカルフック部材の25mmの辺と、係合層の流れ方向が平行になるように、雌部材上に静置し、その上を、0.7kgローラーを300mm/分の速度で1回ラミネートして圧着した後、上記導きを測定機の上側に、面ファスナーを測定機の下側にそれぞれチャックし、係合層のTD方向に300mm/分の速度で引張り(T型剥離)、雄部材が剥離されるのに必要な力を測定する操作を4回繰り返し、4回目に測定された値である」のに対して、
引用発明2では、「剥がす際の取り外しやすく、長時間使用時におけるファスナー部が取れない」点。
まず、相違点7について検討する。
本件特許明細書等の記載から、本件発明1は、「従来の不織布が採用された係合層を有する面ファスナー雌部材は、面ファスナー雄部材との係合力が十分ではなく、特に、せん断応力が低かったり、剥離強度が弱かったりすることが多く、使い捨ておむつなどでは装着時や排泄後等においてズレ落ちの問題」(【0004】)があったため、「不織布が採用された係合層を有する面ファスナー雌部材であって、面ファスナー雄部材との係合力に優れる、面ファスナー雌部材を提供すること」(【0006】)を課題として、本件発明1で特定される「せん断応力」及び「剥離強度(4回目)」の測定方法とすることによって解決したものである。そうすると引用発明2において、当該課題を有する点について記載されていないから、相違点7に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者の通常の創作能力の発揮とはいえない。
さらに、相違点7に係る本件発明1の構成は、引用文献1~6には記載されておらず、また出願前において周知技術であるともいえない。
したがって、引用発明2において、相違点7に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、相違点4~6を検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が引用発明2に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(イ)本件発明4、6、7について
本件発明4、6、7は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(ア)で検討したのと同じ理由により、当業者が引用発明2に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ 引用発明3を主引用発明とした場合
引用発明3は、上記引用発明2と同様の発明であるところ、引用発明2に基づいた上記ウ(ア)における相違点4についての判断は引用発明3にも妥当するから、本件発明1、4、6、7は、当業者が引用発明3に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。
オ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1、4、6、7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
第5 取消理由通知(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許法第29条第1項第3号(新規性)及び同条第2項(進歩性)に係る申立理由について
(1)申立人は、本件特許の請求項1~7は、引用文献3、4、5又は6に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は引用文献3、4、5又は6に記載された発明に基いて容易に発明できたものであるから、特許を受けることができない旨主張する。
(2)しかし、本件発明1と引用文献3、4、5又は6に記載された発明とを対比すると、本件発明1が「該面ファスナー雌部材のせん断応力が8N以上100N以下であり、かつ、剥離強度(4回目)が0.2N以上10N以下であって、該せん断応力が、面ファスナー雌部材を5cm×5cmに切出し、切出した面ファスナー雌部材の物性層表面を両面テープを介してステンレス金属板に固定し、雌部材である紙製の導きを有する25mm×13mmのメカニカルフック部材の25mmの辺と係合層の流れ方向とが平行になるように、雌部材上に静置し、その上を、0.7kgローラーを300mm/分の速度で1回ラミネートして圧着し、その後、上記導きをもって、該面ファスナー雌部材の係合層のTD方向に300mm/分の速度で引張り、雄部材が雌部材から剥離されるのに必要な力であり、該剥離速度(4回目)が、5cm×5cmに切出した面ファスナー雌部材を、雄部材である60μmの厚さのポリエチレン製フィルムの導きを有する25mm×13mmのメカニカルフック部材の25mmの辺と、係合層の流れ方向が平行になるように、雌部材上に静置し、その上を、0.7kgローラーを300mm/分の速度で1回ラミネートして圧着した後、上記導きを測定機の上側に、面ファスナーを測定機の下側にそれぞれチャックし、係合層のTD方向に300mm/分の速度で引張り(T型剥離)、雄部材が剥離されるのに必要な力を測定する操作を4回繰り返し、4回目に測定された値である」のに対して、引用文献3、4、5又は6に記載された発明が当該構成を有しない点で両者は少なくとも相違し、当該相違点は引用文献3、4、5又は6に記載された発明との実質的な相違点である。
また、上記相違点に係る本件発明1の構成は、引用文献1~6には記載されておらず、また出願前において周知技術であるともいえず、引用文献3、4、5又は6に記載された発明において、当該相違点に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に係る申立理由について
(1)申立人は、本件特許の請求項1は、次のア及びイの点で発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない旨主張する。
ア 係合層に関し、「雄部材に係合可能な係合層」としか規定されておらず、係合層が、雄部材に対してどの程度、係合し得る層であるのか特定されていない。
イ 「該係合層及び物性層がエンボス処理されている」と単に規定するのみであり、係合力が優れているとは明らかにいえない態様を包含している。
(2)しかし、以下の理由により、上記ア及びイの申立人の主張は、いずれも採用できない。
本件訂正により、本件発明1は、「該面ファスナー雌部材のせん断応力が8N以上100N以下であり、かつ、剥離強度(4回目)が0.2N以上10N以下であって、該せん断応力が、面ファスナー雌部材を5cm×5cmに切出し、切出した面ファスナー雌部材の物性層表面を両面テープを介してステンレス金属板に固定し、雌部材である紙製の導きを有する25mm×13mmのメカニカルフック部材の25mmの辺と係合層の流れ方向とが平行になるように、雌部材上に静置し、その上を、0.7kgローラーを300mm/分の速度で1回ラミネートして圧着し、その後、上記導きをもって、該面ファスナー雌部材の係合層のTD方向に300mm/分の速度で引張り、雄部材が雌部材から剥離されるのに必要な力であり、該剥離速度(4回目)が、5cm×5cmに切出した面ファスナー雌部材を、雄部材である60μmの厚さのポリエチレン製フィルムの導きを有する25mm×13mmのメカニカルフック部材の25mmの辺と、係合層の流れ方向が平行になるように、雌部材上に静置し、その上を、0.7kgローラーを300mm/分の速度で1回ラミネートして圧着した後、上記導きを測定機の上側に、面ファスナーを測定機の下側にそれぞれチャックし、係合層のTD方向に300mm/分の速度で引張り(T型剥離)、雄部材が剥離されるのに必要な力を測定する操作を4回繰り返し、4回目に測定された値である」ことを発明特定事項に含むものとなり、発明の課題を解決し得ると認識できるように記載された範囲のものとなった。
第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件発明1、4、6、7に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に請求項1、4、6、7に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。
また、請求項2、3、5に係る特許は、本件訂正により削除されたため、申立人による請求項2、3、5に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2020-700416