2020-700408
壁面パネルと施工方法
- 審判番号
- 2020-700408
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-183025外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年06月12日
- 審決日
- 2020年12月03日
- 公報発行日
- 2021年01月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】有限会社芳肱会
- 【権利者】株式会社AS土木コンサルタント
- 【異議申立人】フリー工業 株式会社
- 【異議申立人代理人】山口 朔生
- 【異議申立人代理人】山口 真二郎
- 分類
- P1651.121-Y (E02D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
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結論
理由
目次 ▾ 7項目
第1 手続の経緯
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特許第6624572号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成29年 9月 4日に出願され、令和1年12月 6日にその特許権の設定登録がされ、令和1年12月25日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
第2 本件特許発明
特許第6624572号の請求項1及び2の特許に係る発明(以下「本件特許発明1」等という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】壁面パネルの背面から後方に、四角柱状に突出する上面の拡張積み上げ部と、前記拡張積み上げ部と対向させた、前記壁面パネルの背面から後方に、四角柱状に突出する下面の拡張据え付け部と、前記拡張積み上げ部と前記拡張据え付け部を連結させる2本の支柱で構成し、前記拡張積み上げ部と、前記拡張据え付け部とに、上下方向の軸線が一致した貫通孔のボルト挿入孔を数箇所設け、前記拡張積み上げ部と、前記拡張据え付け部の両側面の中心付近には、各1個の埋め込みナットを設け、前記支柱の背面には、各1個または各2個の埋め込みナットを設けたことを特徴とする壁面パネル。【請求項2】請求項1に記載の壁面パネルを用いた盛土構造物の施工方法において、積上げた壁面パネルは、下に位置する壁面パネルの前記拡張積み上げ部と、上に位置する壁面パネルの前記拡張据え付け部のボルト挿入孔に、ボルトを挿入してナットで締め付けることにより、上下の前記壁面パネルを固定し、下に位置する壁面パネルの前記拡張積み上げ部側面の埋め込みナットと、上に位置する壁面パネルの前記拡張据え付け部側面の埋め込みナットとを、プレートで連結させ、ボルトで締め付けることにより、固定された上下の前記壁面パネルの水平方向のずれを防止して壁面を形成し、前記壁面パネルの前記支柱の背面の埋め込みナットに、転倒防止鉄筋を取付けて固定してから、前記壁面と法面の間に盛土材を打設することにより、 前記壁面パネルと、前記盛土材との一体化を図った盛土構造物を構築することを特徴とする、壁面パネルの施工方法。」
第3 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
請求項1及び2に係る特許に対して、当審が令和2年9月3日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。なお、当該取消理由通知において採用しなかった異議申立理由はない。
(1)請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証及び甲第3号証等に記載された周知技術及び甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到することができたものである。よって、請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
2 刊行物(特許異議申立人が提出した証拠)
(1)甲第1号証
甲第1号証には、図面とともに次の記載がある。
ア 「(54)【意匠に係る物品】壁面パネル」
イ 「(55)【意匠に係る物品の説明】本物品は、盛土構造物の壁面パネルに関するものであり、使用状態の参考図に示すように、本物品を複数、積み上げ連結して使用する。」
ウ 【背面から見た斜視図】は次のものである。
エ 【使用状態を示す参考図】は次のものである。
オ 上記ア及びイの記載並びに【背面から見た斜視図】及び【使用状態を示す参考図】からは、
「壁面パネルにおいて、壁面パネルの背面から後方に、四角柱状に突出する上面の拡張積み上げ部と、前記拡張積み上げ部と対向させた、前記壁面パネルの背面から後方に、四角柱状に突出する下面の拡張据え付け部と、前記拡張積み上げ部と前記拡張据え付け部を連結させる2本の支柱で構成し、前記拡張積み上げ部に縦向きの埋め込みナットを3か箇所設けるとともに、前記拡張据え付け部に前記縦向きの埋め込みナットと上下方向の軸線が一致した貫通孔のボルト挿入孔を3箇所設け、前記拡張積み上げ部と、前記拡張据え付け部の両側面の中心付近には、各1個の埋め込みナットを設けた点」
及び
「壁面パネルを複数、積み上げ連結して使用する場合において、積上げた壁面パネルは、下に位置する壁面パネルの前記拡張積み上げ部の縦向き埋め込みナットと、上に位置する壁面パネルの前記拡張据え付け部のボルト挿入孔に、ボルトを挿入してナットで固定することにより、上下の前記壁面パネルを固定し、下に位置する壁面パネルの前記拡張積み上げ部側面の埋め込みナットと、上に位置する壁面パネルの前記拡張据え付け部側面の埋め込みナットとを、プレートで連結させ、ボルトで固定した点」
が看て取れる。
上記アないしオによれば、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1-1発明」及び「甲1-2発明」という)が記載されているといえる。
(甲1-1発明)
「壁面パネルの背面から後方に、四角柱状に突出する上面の拡張積み上げ部と、前記拡張積み上げ部と対向させた、前記壁面パネルの背面から後方に、四角柱状に突出する下面の拡張据え付け部と、前記拡張積み上げ部と前記拡張据え付け部を連結させる2本の支柱で構成し、前記拡張積み上げ部に縦向きの埋め込みナットを3箇所設けるとともに、前記拡張据え付け部に前記縦向きの埋め込みナットと上下方向の軸線が一致した貫通孔のボルト挿入孔を3箇所設け、前記拡張積み上げ部と、前記拡張据え付け部の両側面の中心付近には、各1個の埋め込みナットを設けた壁面パネル」
(甲1-2発明)
「甲1-1発明の使用方法であって、積上げた壁面パネルは、下に位置する壁面パネルの前記拡張積み上げ部の縦向き埋め込みナットと、上に位置する壁面パネルの前記拡張据え付け部のボルト挿入孔に、ボルトを挿入してナットで固定することにより、上下の前記壁面パネルを固定し、下に位置する壁面パネルの前記拡張積み上げ部側面の埋め込みナットと、上に位置する壁面パネルの前記拡張据え付け部側面の埋め込みナットとを、プレートで連結させ、ボルトで固定する、壁面パネルの使用方法」
(2)甲第2号証
甲第2号証には、図面とともに次の記載がある。
ア 「1 目的本マニュアルは、PCW工法構築に関する基準を定め、施工技術の維持向上を図ることを目的とする。2 適用範囲本マニュアルは、軽量盛土工〔PCW工法(道路構築方法・災害復旧方式・橋梁埋設方式)〕の施工に適用する。3 概要3.1 概要PCW工法は軽量盛土工法の一種であり、気泡混合軽量盛土と背面地山をせん断ボルトによって一体化を図った、急傾斜地でも施工可能な盛土構築工法である。用途に応じて、山腹急傾斜地での道路新設や道路拡幅を可能にする道路構築方式、法面崩壊や地すべりに対処する災害復旧方式、及び橋りょう下部工の耐震補強や桟道橋の拡幅に対応する橋梁埋設方式がある。構造的特徴は:PCWパネル(プレキャストコンクリート化粧版)を壁状に積み上げ、棒鋼で連結・緊張することで自立した壁体(PCW壁)を組立て、そのPCW壁を気泡混合軽量材打設時の型枠として利用するとともに、気泡混合軽量盛土の保護壁として利用する。また、PCWパネルは、グラウンドアンカーの受圧板としても兼用できる。さらに、補強鉄筋、せん断ボルトを配置して、PCW壁、気泡混合軽量盛土、背面地山が一体となった安定した盛土構造物を構築する工法である。垂直壁の盛土構造物が容易に構築でき、他の工法と比べ工期短縮と経済性に優れた工法である。以下に、これら構築物を築造するにあたって、施工計画の要点、施工上の標準、注意事項、施工管理上の基準を記述する。」(第1頁)
イ 第2頁に掲載された図3.1は次のものである。
図3.1からは、PCW基礎パネルの上に、複数のPCWパネルが積み上げられており、PCWパネル同士が連結棒鋼で連結されている点が看て取れる。
ウ 「3.3 各部の名称と用語の説明・・・(中略)・・・〇3 PCW基礎パネル(〇3は丸の中に数字を示す。以下同様)PCW壁最下段に設置する基礎パネル、カウンターアンカーでPCW基礎パネルを地山に固定し、上部PCWパネルを棒鋼で連結、固定するコンクリート二次製品。続きを表示(全11行)・・・(中略)・・・〇6 PCWパネル気泡混合軽量材の打設時に型枠としての機能と、気泡混合軽量盛土を保護する為のコンクリート二次製品。・・・(中略)・・・〇8 補強鉄筋PCWパネルと気泡混合軽量盛土とを一体化する鉄筋。異形棒鋼、プレート、ナットで構成される。」(第3頁)
エ 第7頁に掲載された図4.1は次のものである。
オ 第8頁に掲載された図4.2は次のものである。
カ 第20頁に掲載された図6.1は次のものである。
図6.1には、PCW工において行う諸工程が、PCWパネル設置工、補強鉄筋設置工、軽量材打設工の順に記載されている。この点からは、PCW工において、「PCWパネル設置工、補強鉄筋設置工、軽量材打設工の順に施工を行う点」が明らかである。
キ 「6.15 PCWパネル設置工1) PCWパネル設置PCWパネルに専用吊金具を取付け、クレーンにて吊上げ、先に設置した下段のPCWパネルの上に慎重に据え付ける。傾きは、下げ振り、水平器で調整し、キャンバー(プレート等)を使用して水平に合わせる。パネル据え付け後、上下のパネル結合部に連結棒鋼・プレート・コマナットを取付け、トルクレンチで所定の緊張力を導入する。PCWパネルの積み重ねは、転倒又は変位の恐れがあるため、1度に積み重ねる高さは2段までとし、それ以上積み重ねてはならない。」(第36頁)
ク 第36頁に掲載された図6.11は次のものである。
ケ 「6.17 補強鉄筋設置工補強鉄筋はPCWパネルと気泡混合軽量盛土を一体化する目的で設置し、長期的な気泡混合軽量盛土の安定を図るものである。〇1 補強鉄筋 :SD345,D16,HDZ35〇2 プレート :t9-150×150mm,HDZ55続きを表示(全11行)〇3 ナット :M16,HDZ35補強鉄筋取付け工パネル背面のインサート部分に異形鉄筋を取付ける。異形棒鋼の先端にプレートをナットで挟み込み締付ける。ポイント・PCW壁と気泡混合軽量盛土の剥離防止のため補強鉄筋は必ず配置する。・補強鉄筋はL=1100mmと600mmを千鳥に配置することを基本とするが背面の余裕幅のない場合等、1100mmが設置できない場合は600mmを配置する。」(第39頁)
コ 第39頁に掲載された図6.12は次のものである。
サ 「6.19 気泡混合軽量材打設工・・・(中略)・・・3)打設気泡混合軽量材の一回の打設高さは1m程度以下を原則とする。1m以上の高さで打設すると、自重により消泡し、固まった気泡混合軽量材の密度が増し設計荷重以上の気泡混合軽量盛土となる恐れがある。気泡混合軽量材が硬化するまで微細な気泡が安定して存在することが重要であり、流動性に任せて打設することは好ましくない。打設ホースの打設口を移動し、材料に余計な振動、流動による気泡の消失を防ぐことが必要である。また、打設ホースの先から気泡混合軽量材を流し落とすことがないよう、ホースの先を極力低くして打設すること。」(第41頁冒頭~第42頁第8行)
シ 第42頁に掲載された図6.13は次のものである。
図3.1、上記ケ及び図6.13からは、「軽量材打設工では、PCW壁と法面との間に気泡混合軽量材を打設し、気泡混合軽量盛土とする点」が看て取れる。
ス 図6.11においては、最下段のPCW基礎パネルだけではなく、その上側に連結されたパネルにも「PCW基礎パネル」との呼称が付与されているが、当該パネルはPCW壁最下段に設置されるものではなく、またカウンターアンカーで地山に固定されるものではないから、上記イの記載に照らせば「PCW基礎パネル」ではなく「PCWパネル」であると認められる。
そして、図6.11においてはPCW基礎パネルとPCWパネルとの連結構造しか示されてはいないが、図3.1及び上記キの記載に鑑みれば、PCWパネル同士の上下の連結構造も同様の連結構造が採用されているものと認められる。
してみれば、図3.1、図4.1、図4.2、上記キ及び図6.11から、「PCWパネルの背面から後方に突出する上面のパネル結合部と、前記上面のパネル結合部と対向させた、前記壁面パネルの背面から後方に突出する下面のパネル結合部とを、それぞれ2つずつ設け、前記両パネル結合部に、上下方向の軸線が一致した貫通孔を設け、連結棒鋼が当該貫通孔の中に配置されるものである点」が看て取れる。
また、上記イ、図3.1、図4.1、図4.2、図6.11及び図6.12を参照すると、図6.12において最下段のPCW基礎パネルの上側に連結されたパネルはPCWパネルであると認められ、してみれば図6.12からは「PCWパネルの背面側の、前記両パネル結合部の間の高さに、補強鉄筋セット用のM16インサートを設けた点」が看て取れる。
上記アないしスによれば、甲第2号証には、次の技術的事項(以下「技術的事項2-1」及び「技術的事項2-2」という)が記載されているといえる。
(技術的事項2-1)
「PCWパネル(プレキャストコンクリート化粧版)を壁状に積み上げ、棒鋼で連結・緊張することで自立した壁体(PCW壁)を組立て、そのPCW壁を気泡混合軽量材打設時の型枠として利用するとともに、気泡混合軽量盛土の保護壁として利用するに際し、PCWパネルの背面から後方に突出する上面のパネル結合部と、前記上面のパネル結合部と対向させた、前記壁面パネルの背面から後方に突出する下面のパネル結合部とをそれぞれ2つずつ設け、前記両パネル結合部に、上下方向の軸線が一致した貫通孔を設け、連結棒鋼が当該貫通孔の中に配置されるものであり、PCWパネルの背面側の、前記両パネル結合部の間の高さに、補強鉄筋セット用のM16インサートを設けた点」
(技術的事項2-2)
「PCWパネル(プレキャストコンクリート化粧版)を壁状に積み上げ、棒鋼で連結・緊張することで自立した壁体(PCW壁)を組立て、そのPCW壁を気泡混合軽量材打設時の型枠として利用するとともに、気泡混合軽量盛土の保護壁として利用する方法において、PCWパネル設置工、補強鉄筋設置工、軽量材打設工の順に施工を行うこととし、PCWパネル設置工では、パネル据え付け後、上下のパネル結合部に連結棒鋼・プレート・コマナットを取付け、トルクレンチで所定の緊張力を導入し、連結棒鋼はパネル結合部の貫通孔の中に配置されるものであり、補強鉄筋設置工では、パネル背面のインサート部分に異形鉄筋を取付け、軽量材打設工では、PCW壁と法面との間に気泡混合軽量材を打設し、気泡混合軽量盛土とする点」
なお、甲第2号証の刊行物としての頒布性又は電気通信回線を通じた公衆利用可能性について、特許異議申立人(以下「申立人」という。)は、異議申立書において、甲第2号証が、不特定多数の施工業者及び顧客(公衆)に対して頒布することを目的として複製されたものである旨、同内容をPDF化したデータを下記URLのフリー工業株式会社のホームページから誰でも自由にダウンロードできる旨、及び、本件特許の出願日の時点において同データを上記ホームページからダウンロード可能であったことがWayback Machineなどのインターネットアーカイブサービスを用いて確認することができる旨を主張する。
上記の申立人の主張について、以下のとおり検討する。
甲第2号証の奥付には「平成24年12月 改訂2版発行」と記載されている。
そして、Wayback Machineを通じて閲覧可能な記録(URL: https://web.archive.org/web/20160531161146/http://free-kogyo.co.jp/method/pcw.html)によれば、本件特許の出願日より前である平成28年5月31日の時点において、上記URLに「PCW工法」に関する説明のためのページが掲載されていた旨、リンク先のファイル自体はWayback Machineでは確認できないものの当該ページの「カタログ」欄には「マニュアル」との記載の直下に「DOWNLOAD | 10.6MB」と記載されたボタンが設けられ当該ボタンにはリンク(URL: http://free-kogyo.co.jp/download/pcw/pcw_manual.pdf)が埋め込まれていた旨、及び、上記「マニュアル」との記載の直上に掲載されていた画像は次のとおりのものであって甲第2号証の表紙と同様のものであったことが確認できる。
そして、申立人の主張は、以上の事実と整合するものであって、不自然な点は存しないから、甲第2号証は、本件特許の出願日よりも前の時点において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであると推認することができる。
(3)甲第3号証
甲第3号証には、図面とともに次の記載がある。
ア 「(54)【意匠に係る物品】擁壁用パネル」
イ 「(55)【意匠に係る物品の説明】本願意匠に係る物品は擁壁用パネルに関するものであり、使用状態の参考図に示すように本物品を複数連結して使用する。」
ウ 【背面側から見た斜視図】は次のものである。
エ 【使用状態を示す参考図】は次のものである。
オ 上記ア及びイの記載並びに【背面側から見た斜視図】及び【使用状態を示す参考図】からは、
「擁壁用パネルにおいて、擁壁用パネルの背面から後方に、四角柱状に突出する上面の拡張積み上げ部と、前記擁壁用パネルの背面から後方に、四角柱状に突出する下面の拡張据え付けと、で構成し、前記拡張積み上げ部と、前記拡張据え付け部とに、上下方向の軸線が一致した貫通孔の連結用金具挿入孔を2箇所設けた点」
及び
「擁壁用パネルの使用状態において、積上げた壁面用パネルは、下に位置する壁面用パネルの前記拡張積み上げ部と、上に位置する壁面用パネルの前記拡張据え付け部の連結用金具挿入孔の中に、鋼棒を配置し、ナットで固定することにより、上下の前記壁面パネルを固定した点」
が看て取れる。
上記アないしオによれば、甲第3号証には、次の技術的事項(以下「技術的事項3-1」及び「技術的事項3-2」という)が記載されているといえ
る。
(技術的事項3-1)
「擁壁用パネルにおいて、擁壁用パネルの背面から後方に、四角柱状に突出する上面の拡張積み上げ部と、前記擁壁用パネルの背面から後方に、四角柱状に突出する下面の拡張据え付けと、で構成し、前記拡張積み上げ部と、前記拡張据え付け部とに、上下方向の軸線が一致した貫通孔の連結用金具挿入孔を2箇所設けた点」
(技術的事項3-2)
「擁壁用パネルの使用状態において、積上げた壁面用パネルは、下に位置する壁面用パネルの前記拡張積み上げ部と、上に位置する壁面用パネルの前記拡張据え付け部の連結用金具挿入孔の中に、鋼棒を配置し、ナットで固定することにより、上下の前記壁面パネルを固定した点」
(4)甲第4号証
甲第4号証には、図面とともに次の記載がある。
ア 「【請求項1】盛土構造物の壁面を構築する壁面パネルは、 コンクリートパネルであって、前記壁面パネルの上面支持部および下面支持部は、該壁面パネル背面後方にコの字形に張出支持部があり、前記上面支持部の張出支持部には、適切な間隔で埋め込みナットまたはボルト挿入孔が配置され、前記上面支持部の張出支持部に接合する前記下面支持部の張出支持部には、前記埋め込みナットまたはボルト挿入孔に対向してボルト挿入孔を設けて構成、さらに、前記上面張出支持部および前記下面張出支持部の両サイドに、埋め込みナットを設けて構成、またさらに、該壁面パネルの背面には、転倒防止鉄筋を取付ける埋め込みナットまたは補強ブロック連結鉄筋を取付ける連結鉄筋取付プレートを適切な間隔で配置して構成し、該壁面パネル同士の積み上げ固定ができる構造のコンクリート壁面パネル。」
イ 「【技術分野】【0001】本発明は盛土構造物の構成に関するものである。【背景技術】【0002】盛土構造物としては、法面下部を基礎地盤として基礎ブロックを設置し、その上に壁面パネルを積み上げて固定して壁面を形成し、壁面パネルと、法面の間に盛土材を積層して構成されることが知られている。」
ウ 「【実施例】【0009】盛土構造物は図1に示すように、法面1と法面下部に設けた基礎底盤2と、その上に壁面パネル5を積み上げた壁面3とその間に打設された盛土材4と盛土に埋設される補強材6で構成されている。【0010】壁面パネル5はコンクリートパネルである。壁面パネル5は図2に示すように、背面5bの上面張出支持部5c-2に,上下連結用埋め込みナット5eが配置され,下面張出支持部5d-2には、ボルト挿入孔5g(貫通孔)が設けられ、さらに上面張出支持部5c-2と下面張出支持部5d-2の両側面に、側面連結用埋め込みナット5fが設けられ、またさらに、背面5bには転倒防止鉄筋取付用埋め込みナット5hがあり、図3および図6に示すように壁面パネル同士を積み上げて、上下連結ボルト5iおよび側面連結プレート・ボルト5jで固定し、さらに、転倒防止鉄筋6aを取付けて、図1に示す壁面3を構築する。なお、壁面パネル5の前面5aは盛土構造物の表面となるので、景観を良くするため、なだらかな模様をつけている。」
エ 「【0014】盛土構造物は、基礎底盤2より上に構築された壁面パネル5による壁面3、と法面1との間に盛土材4を積層させて構築するが、盛土材にセメントを原料としたエアミルクを用いる場合は、図4に示すように、最上層の打継目には、補強金網材6bの敷設を行ったほうが良い。」
オ 図1は次のものである。
図1からは、「転倒防止鉄筋6aが、盛土材4の中に配置されるものである点」が看て取れる。
カ 図2は次のものである。
図2からは、「転倒防止鉄筋取付用埋め込みナット5hが、壁面パネルの背面5bにおける上面張出支持部5c-2と下面張出支持部5d-2との間の位置に2つ設けられる点」が看て取れる。
キ 図3は次のものである。
図2及び図3からは、「転倒防止鉄筋6aが、転倒防止鉄筋取付用埋め込みナット5hに対して取り付けられるものである点」が看て取れる。
上記アないしキによれば、甲第4号証には、次の発明(以下「甲4-1発明」及び「甲4-2発明」という)が記載されているといえる。
(甲4-1発明)
「盛土構造物の壁面を構築する壁面パネルであって、壁面パネルの背面には、転倒防止鉄筋を取付ける埋め込みナットを適切な間隔で配置して構成するものであり、壁面パネル5は、背面5bの上面張出支持部5c-2に、上下連結用埋め込みナット5eが配置され、下面張出支持部5d-2には、ボルト挿入孔5g(貫通孔)が設けられ、さらに上面張出支持部5c-2と下面張出支持部5d-2の両側面に、側面連結用埋め込みナット5fが設けられ、またさらに、背面5bには転倒防止鉄筋取付用埋め込みナット5hがあり、転倒防止鉄筋取付用埋め込みナット5hは、壁面パネルの背面5bにおける上面張出支持部5c-2と下面張出支持部5d-2との間の位置に2つ設けられる、壁面パネル」
(甲4-2発明)
「甲4-1発明の壁面パネル同士を積み上げて、上下連結ボルト5iおよび側面連結プレート・ボルト5jで固定し、さらに、転倒防止鉄筋6aを取付けて、壁面3を構築し、盛土構造物を、壁面3と法面1との間に盛土材4を積層させて構築する方法であって、盛土材にセメントを原料としたエアミルクを用いるものであり、転倒防止鉄筋6aが、盛土材4の中に配置されるものであって、転倒防止鉄筋取付用埋め込みナット5hに対して取り付けられるものである、盛土構造物の構築方法。」
(5)甲第5号証
甲第5号証は、PCW工法について説明するカタログである。
(6)甲第6号証
甲第6号証には、図面とともに以下の記載がある。
ア 「意匠に係る物品 擁壁用ブロック」
イ 「説明 本物品は、道路,住宅などの切土または盛土の土留や河川,港湾の護岸,岸壁などの擁壁構築に使用するものである。左側面図は右側面図と、底面図は平面図と対称にあらわれる。」
ウ 「使用状態を示す参考図」は次のものである。
3 取消理由についての判断
(1)請求項1に係る発明について
ア 対比
本件特許発明1と甲1-1発明とを対比すると、両発明の間には、次の一致点、相違点があるといえる。
<一致点>
「壁面パネルの背面から後方に、四角柱状に突出する上面の拡張積み上げ部と、前記拡張積み上げ部と対向させた、前記壁面パネルの背面から後方に、四角柱状に突出する下面の拡張据え付け部と、前記拡張積み上げ部と前記拡張据え付け部を連結させる2本の支柱で構成し、前記拡張積み上げ部と、前記拡張据え付け部とに、上下方向の軸線が一致したボルト挿入孔を数箇所設け、前記拡張積み上げ部と、前記拡張据え付け部の両側面の中心付近には、各1個の埋め込みナットを設けた壁面パネル」
<相違点>
(相違点1)本件特許発明1においては、前記拡張積み上げ部と、前記拡張据え付け部とに設けられた、上下方向の軸線が一致したボルト挿入孔が、いずれも「貫通孔」であるのに対し、甲1-1発明においては、上下方向の軸線が一致したボルト挿入孔が、拡張据え付け部に設けられる方は貫通孔であるものの、拡張積み上げ部に設けられる方は縦向きの埋め込みナットである点。
(相違点2)本件特許発明1は、「前記支柱の背面には、各1個または各2個の埋め込みナットを設けた」ものであるのに対し、甲1-1発明は、そのような埋め込みナットを有しておらず、当該埋め込みナットを設ける位置も特定されていない点。
イ 相違点についての判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。
甲4-1発明は、「背面5b」に「転倒防止鉄筋取付用埋め込みナット5h」を設けたものではあるが、「背面5b」に支柱を有するものではない。また、甲4-1発明は、「転倒防止鉄筋取付用埋め込みナット5h」を、本件特許発明1の支柱の背面のような部位に設けることを示唆するものでもない。したがって、甲1-1発明に甲4-1発明の「転倒防止鉄筋取付用埋め込みナット5h」を適用し、当該「転倒防止鉄筋取付用埋め込みナット5h」を設ける位置として甲1-1発明の「支柱」を選択することは、当業者にとって容易であったとはいえない。
申立人は、異議申立書において、「埋め込みナットの設置位置を壁面パネルの背面から支柱の背面に変更することは、当業者が適宜選択し得る設計的事項にすぎない」と主張する(第20頁第1~3行参照)。しかしながら、異議申立書においては、埋め込みナットの設置位置を支柱の背面とした先行技術が甲4-1発明以外に存在することや、当業者にとって甲4-1発明をそのような構成に変更する動機が存在したことを具体的に論じるものではなく、その旨を示す証拠も示されていない(支柱の背面に埋め込みナットを設ける点については、甲第2号証、甲第3号証、甲第5号証及び甲第6号証においても記載も示唆もされていない)。よって、申立人による上記主張は採用し得ない。
したがって、本件特許発明1は、相違点1について検討するまでもなく、甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明又は周知技術から容易に発明をすることができたものではない。
ウ 以上のとおり、本件特許発明1は、甲第1号証ないし甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)請求項2に係る発明について
ア 対比
本件特許発明2は、本件特許発明1の「壁面パネル」を用いた盛土構造物の施工方法の発明である。一方、甲1-2発明は、甲1-1発明の「壁面パネル」の使用方法の発明である。
してみると、本件特許発明2と甲1-2発明とは、少なくとも本件特許発明1と甲1-1発明との間の相違点1及び2と同様の点において相違する。
イ 相違点についての判断
上記(1)イにおいて検討したとおり、本件特許発明1の相違点2に係る構成である、壁面パネルの背面における支柱の背面に埋め込みナットを設ける点については、甲第1号証ないし甲第6号証のいずれにおいても記載も示唆もされていない。
したがって、本件特許発明2は、相違点2以外の点について検討するまでもなく、甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明から容易に発明をすることができたものではない。
ウ 以上のとおり、本件特許発明2は、甲第1号証ないし甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由、並びに各証拠によっては、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって結論のとおり決定する。
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2020-700408