特許異議申立
2020-700034
方向性電磁鋼板、及び方向性電磁鋼板の製造方法
- 審判番号
- 2020-700034
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-543521
- 登録番号
- 特許第6547835号(P6547835)
- 請求日
- 2020年01月21日
- 審決日
- 2020年03月27日
- 公報発行日
- 2020年05月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日本製鉄株式会社
- 【権利者代理人】棚井 澄雄
- 【権利者代理人】寺本 光生
- 【権利者代理人】勝俣 智夫
- 【権利者代理人】山口 洋
- 【異議申立人】JFEスチール 株式会社
- 【異議申立人代理人】伊東 秀明
- 【異議申立人代理人】蜂谷 浩久
- 審判長/審判官
- 審判長 中澤 登
- 審判官 井上 猛
- 審判官 平塚 政宏
- 分類
- P1652.121-Y (C23C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6547835号発明「方向性電磁鋼板、及び方向性電磁鋼板の製造方法」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6547835号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6547835号(請求項の数14。以下「本件特許」という。)は,2016年(平成28年)9月28日(優先権主張 平成27年 9月29日)を国際出願日とする特許出願(特願2017-543521)に係るものであって,令和 1年 7月 5日に特許権の設定の登録がされ,同年 7月24日に特許掲載公報が発行され,その後,令和 2年 1月21日に,本件特許の請求項1~8に係る特許に対して,特許異議申立人JFEスチール株式会社(以下「申立人」という。)により,特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~14に係る発明は,本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定される,次のとおりのものである(以下,それぞれ「本件発明1」等という。)。
「【請求項1】
鋼板と絶縁被膜とを備える方向性電磁鋼板であって、 前記絶縁被膜が、 Al、Fe、Mg、Mn、Ni、およびZnの中から選ばれる1種または2種以上の金属のリン酸金属塩である第一のリン酸金属塩と;
Co、Mo、V、W、およびZrの中から選ばれる1種または2種以上の金属のリン酸金属塩である第二のリン酸金属塩と;
シリカと;を含有し、
前記絶縁被膜がクロム酸塩を含有せず、
前記方向性電磁鋼板を沸騰させた純水中で10分間煮沸し、前記純水中に溶出したリン酸の量を測定し、前記リン酸の量を煮沸された前記方向性電磁鋼板の前記絶縁被膜の面積で割ることで測定される、前記絶縁被膜のリン酸溶出量が30mg/m2以下であることを特徴とする方向性電磁鋼板(ただし、前記絶縁被膜中に塩化物または塩化物イオンを含有するものを除く)。
【請求項2】
前記第一のリン酸金属塩が、Al、Mg、Ni、およびZnの中から選ばれる1種または2種以上の前記金属の前記リン酸金属塩であることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項3】
前記第二のリン酸金属塩が、V、W、およびZrの中から選ばれる1種または2種以上の前記金属の前記リン酸金属塩であることを特徴とする請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項4】
前記第二のリン酸金属塩の含有率は、前記絶縁被膜の総質量に対して0.5~10.0質量%であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項5】
前記シリカの含有率は、前記絶縁被膜の総質量に対して、25~55質量%であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項6】
前記絶縁被膜の被膜量が2.0~7.0g/m2であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項7】
前記絶縁被膜が、さらに、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、酸化チタン、酸化モリブテン、顔料、およびチタン酸バリウムからなる群から選択される一種以上を含むことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項8】
前記鋼板は、単位質量%で、
C:0.005%以下、
Si:2.5~7.0%、
Mn:0~1.0%、
Al:0~0.03%、
N:0.01%以下、
P:0.01%以下、及び
S:0.01%以下
を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、
前記鋼板の平均結晶粒径は、1~10mmであり、
前記鋼板の(110)[001]の結晶方位と圧延方向とのなす角は、平均で8°以下である
ことを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項9】
絶縁被膜処理液を鋼板の表面に塗布する工程と;
前記絶縁被膜処理液を焼き付けて絶縁被膜を成膜する工程と;を備え、
前記絶縁被膜処理液は、
固形分換算で100質量部の、Al、Fe、Mg、Mn、Ni、およびZnの中から選ばれる1種または2種以上の金属のリン酸金属塩である第一のリン酸金属塩と;
固形分換算で3~20質量部の、Co、Mo、V、W、およびZrの中から選ばれる1種または2種以上の金属のリン酸金属塩である第二のリン酸金属塩と;
固形分換算で35~125質量部のコロイド状シリカと;
0.3~6.0質量部の重合補助剤と;を含有し、
前記焼き付けでは、100~800℃の温度範囲での昇温速度30℃/秒以上、焼付均熱温度800~1000℃、及び均熱保持時間10~60秒とされ、
前記コロイド状シリカの平均一次粒径が7~30nmであることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記第一のリン酸金属塩が、Al、Mg、Ni、およびZnの中から選ばれる1種または2種以上の前記金属の前記リン酸金属塩であることを特徴とする請求項9に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記第二のリン酸金属塩が、V、W、およびZrの中から選ばれる1種または2種以上の前記金属の前記リン酸金属塩であることを特徴とする請求項9または10に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記重合補助剤が、亜硝酸、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、硝酸、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、亜塩素酸、亜塩素酸ナトリウム、ホスホン酸、ホスホン酸ナトリウム、トリリン酸、トリリン酸ナトリウム、ポリリン酸、及びポリリン酸ナトリウムからなる群から選択される一種以上であることを特徴とする請求項9~11のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項13】
前記絶縁被膜処理液が、さらに、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、酸化チタン、酸化モリブテン、顔料、およびチタン酸バリウムからなる群から選択される一種以上を含むことを特徴とする請求項9~12のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項14】
前記鋼板は、単位質量%で、
C:0.005%以下、
Si:2.5~7.0%、
Mn:0~1.0%、
Al:0~0.03%、
N:0.01%以下、
P:0.01%以下、及び
S:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、
前記鋼板の平均結晶粒径は、1~10mmであり、
前記鋼板の(110)[001]の結晶方位と圧延方向とのなす角は、平均で8°以下である
ことを特徴とする請求項9~13のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。」
第3 特許異議の申立ての理由の概要
本件特許の請求項1~8に係る発明は,下記甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証~甲第7号証に記載された事項に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,同法第113条第2号に該当する。
(証拠方法)
甲第1号証:特開2010-13692号公報(以下「甲1」という。)
甲第2号証:特開2005-187924号公報(以下「甲2」という。)
甲第3号証:国際公開第2015/162837号(以下「甲3」という。)
甲第4号証:特開2012-158800号公報(以下「甲4」という。)
甲第5号証:国際公開第2015/115036号(以下「甲5」という。)
甲第6号証:特開2012-92409号公報(以下「甲6」という。)
甲第7号証:特開2004-60026号公報(以下「甲7」という。)
第4 当審の判断
当審は,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1~8に係る特許を取り消すことはできないものと判断する。以下,詳述する。
1 甲1に記載された発明
甲1の記載(請求項2,請求項3)によれば,甲1には,次の発明が記載されていると認められる。
「表面に、りん酸塩とコロイド状シリカ中のシリカ分を主成分とし、りん酸塩とシリカ分の比率がりん酸塩に対しシリカ分が23~41重量%でかつ、りん酸塩の全金属元素中の2価の金属元素の比率が20~80重量%、3価の金属元素の比率が10~70重量%、4価以上の金属元素の比率が3~20重量%であり、上記りん酸塩中の金属成分が、2価の金属元素としてMg、Ca、Sr、Ni、Co、Mn、Znの群、3価の金属元素としてFe、Al、Mnの群、4価以上の金属元素としてMo、V、Zrの群からなり、これらそれぞれの群の中から少なくとも1種を選択してなる、クロムを含有しない絶縁被膜を有する、方向性電磁鋼板」
(以下「甲1発明」という。)
2 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「りん酸塩」は,「2価の金属元素としてMg、Ca、Sr、Ni、Co、Mn、Znの群」,「3価の金属元素としてFe、Al、Mnの群」及び「4価以上の金属元素としてMo、V、Zrの群」からなり,各々少なくとも1種を選択してなるものである。
ここで,甲1発明の上記「2価の金属元素としてMg、Ca、Sr、Ni、Co、Mn、Znの群」から選択される「りん酸塩」のうち,金属元素がMg,Mn,Znの場合は,本件発明1の「Al、Fe、Mg、Mn、Ni、およびZnの中から選ばれる1種または2種以上の金属リン酸塩である第一のリン酸金属塩」に相当し,Coの場合は,本件発明1の「Co、Mo、V、W、及びZrの中から選ばれる1種または2種以上の金属リン酸塩である第二のリン酸金属塩」に相当する。
同じく,甲1発明の上記「3価の金属元素としてFe、Al、Mnの群」から選択される「りん酸塩」は,本件発明1の「Al、Fe、Mg、Mn、Ni、およびZnの中から選ばれる1種または2種以上の金属リン酸塩である第一のリン酸金属塩」に相当する。
同じく,甲1発明の上記「4価以上の金属元素としてMo、V、Zrの群」から選択される「りん酸塩」は,本件発明1の「Co、Mo、V、W、およびZrの中から選ばれる1種または2種以上の金属リン酸塩である第二のリン酸金属塩」に相当する。
また,甲1発明の「コロイド状シリカのシリカ分」は,本件発明1の「シリカ」に相当する。
そして,甲1発明の「りん酸塩とコロイド状シリカのシリカ分を主成分」とする「クロムを含有しない絶縁被膜」は,本件発明1の「絶縁被膜」すなわち「第一のリン酸金属塩」,「第二のリン酸金属塩」及び「シリカ」を含有し「クロム酸塩を含有せず」に相当する。
更に,甲1発明の「方向性電磁鋼板」は,本件発明1の「方向性電磁鋼板」に相当する。
以上によれば,本件発明1と甲1発明とは,
「鋼板と絶縁被膜とを備える方向性電磁鋼板であって、
前記絶縁被膜が、
Al、Fe、Mg、Mn、Ni、およびZnの中から選ばれる1種または2種以上の金属のリン酸金属塩である第一のリン酸金属塩と;
Co、Mo、V、およびZrの中から選ばれる1種または2種以上の金属のリン酸金属塩である第二のリン酸金属塩と;
シリカと;を含有し、
前記絶縁被膜がクロム酸塩を含有しない、方向性電磁鋼板」
の点で一致し,次の点で相違する。
(相違点1)
本件発明1では,「絶縁被膜のリン酸溶出量が30mg/m2以下である」のに対し,甲1発明では,絶縁皮膜のりん酸溶出量が不明である点。
(相違点2)
本件発明1では,「絶縁被膜中に塩化物または塩化物イオンを含有するものを除く」ものであるのに対し,甲1発明では,絶縁被膜中の塩化物または塩化物イオンについての明示がない点。
(2)相違点の検討
ア 上記相違点1について検討するに,本件発明1は,従来のクロム酸塩を含まない絶縁被膜がポーラス構造を有していることも張力低下の原因となっていることを見いだし(段落【0016】),鋼板の表面に大きな張力を付与可能であり,密着性及び耐蝕性も良好であり,さらに生産性が良好な,クロム酸塩を含まない絶縁被膜を有し,かつ磁気特性も良好な方向性電磁鋼板およびその製造方法の提供を課題として(段落【0019】),リン酸塩とコロイド状シリカとを主成分とし,このリン酸塩が,比較的溶解度が高い第一のリン酸金属塩と,比較的溶解度が低い第二のリン酸金属塩とを組み合わせたものである絶縁被膜において,絶縁被膜のリン酸溶出量と鋼板に付与される張力との間に強い相関関係があることを見出した,というものである(段落【0029】~【0032】,図1)。
イ これに対し,甲1は,表面に形成される絶縁被膜の性状を改善することにより,クロム化合物を含有しないにもかかわらず,密着性などの各種被膜特性が良好で生産性も良好であり,かつ従来よりも格段に優れた高張力被膜を有する方向性電磁鋼板を得ることを課題として(段落【0016】),りん酸金属塩の金属元素の価数を複数導入し,かつ2価と3価と4価以上の金属元素の構成割合を特定することにより,りん酸金属塩がより重合し,緻密な被膜を形成することを知見した,というものであって(段落【0034】),絶縁被膜のリン酸溶出量については,何ら記載も示唆もされていない。
一方,甲2には,方向性電磁鋼板用クロムフリー絶縁被膜に関して,リン酸塩-シリカ系の張力コーティングを行うこと(請求項1),Pの溶出試験を行ったこと(段落【0017】~【0019】,【0032】~【0033】,表1~3)が記載されている。
しかしながら,甲2の絶縁被膜は,リン酸塩-シリカ系の張力コーティングを被成したのち,上地層として有機樹脂にコロイド状シリカを配合した耐吸湿性コーティングを被成するものであって(請求項1,請求項3),絶縁被膜の構成が,甲1発明とは本質的に異なる。よって,甲2所載の絶縁被膜について,甲1発明に適用する動機づけが見当たらない。
申立人は,甲2のP溶出量の換算値を援用して,甲1発明のリン酸溶出量も同程度であると推定され,また,リン酸溶出量を同程度とする動機づけがある旨主張するが(特許異議申立書第26~27頁),上記のとおり,甲2所載の絶縁被膜は,甲1発明とのものと異なるから,採用できない。
ウ また,甲3~甲5には,本件発明1の「第一のリン酸金属塩」と金属元素が一部重複するリン酸塩とコロイド状シリカを含有する絶縁被膜を形成することが記載されているが(いずれも特許請求の範囲),発明が解決しようとする課題は耐吸湿性及び張力付与であって(いずれも段落【0011】),Pの溶出試験(甲3段落[0036],甲4段落【0020】,甲5段落[0021])は,張力被膜の水分に対する溶解のし易さを判断するためのものであるから,絶縁被膜のリン酸溶出量の意味合いが異なる。
申立人は,甲3~甲5はいずれも,クロムフリー絶縁被膜と同等以上の絶縁被膜を得ることを課題としているから,甲1発明のリン酸溶出量も同程度であると推定され,また,課題の共通性による動機づけがある旨主張する(特許異議申立書第27~28頁)。
しかしながら,甲3~甲5においては,上記のとおり,絶縁被膜のリン酸溶出量の意味合いが異なるものであり,また,甲3~甲5のP溶出量からの援用は換算値であるうえ,中には30mg/m2を超えるものも含まれているから,採用できない。
エ なお,甲6は,方向性電磁鋼板の圧延方向に対するゴス方位粒の[001]軸のずれ角が平均で±10°以内であること(段落【0012】),また,甲7は,方向性電磁鋼板において,C及びNを合計で100massppm以下とすること(段落【0027】),及び,結晶粒の[001]軸と圧延方向とのずれ角α(圧延面内)がα≦15°である結晶粒の面積率が70%以上,同ずれ角β(圧延垂直面内)がβ≦10°である結晶粒の面積率が80%以上であること(段落【0030】~【0032】)の各記載が引用されるに止まるところ,絶縁被膜のリン酸溶出量については,何ら記載も示唆もされていない。
(3)小括
以上より,相違点2について検討するまでもなく,本件発明1は,甲1に記載された発明及び甲2~甲7に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 本件発明2~8について
本件発明2~8はいずれも,本件発明1を直接又は間接的に引用して特定するものであるから,少なくとも,上記2(1)で指摘した相違点1を有する。
そして,上記2(2)で検討したのと同様の理由により,本件発明2~8はいずれも,甲1に記載された発明及び甲2~甲7に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第5 むすび
以上のとおり,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1~8に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
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