特許訂正審判
2020-390063
フェライト系ステンレス鋼板、鋼管およびその製造方法
- 審判番号
- 2020-390063
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 訂正審判(訂正の審決)
- 出願番号
- 特願2016-556584
- 登録番号
- 特許第6542249号(P6542249)
- 請求日
- 2020年07月29日
- 審決日
- 2020年11月16日
- 公報発行日
- 2021年02月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【請求人】日鉄ステンレス 株式会社
- 【請求人代理人】特許業務法人樹之下知的財産事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 亀ヶ谷 明久
- 審判官 井上 猛
- 審判官 増山 慎也
- 分類
- P141 .852-Y (C22C) / P141 .841-Y (C22C) / P141 .854-Y (C22C) / P141 .855-Y (C22C) / P141 .856-Y (C22C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第126条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6542249号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
特許第6542249号の特許請求の範囲を審判請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6542249号(請求項の数19。以下,「本件特許」という。)は,2015年(平成27年)10月27日(優先権主張:平成26年10月31日,同年11月21日)を国際出願日とする特許出願(特願2016-556584号)に係るものであって,令和1年6月21日に設定登録されたものである。
その後,令和2年7月29日に,本件特許に対して,特許権者である日鉄ステンレス株式会社により,本件訂正審判の請求がされた。
第2 請求の趣旨及び訂正の内容
1 請求の趣旨
結論と同旨
2 訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「880~9050℃に加熱する最終焼鈍をする」と記載されているのを,「880~950℃に加熱する最終焼鈍をする」に訂正する。
(審決注:下線は,訂正箇所を示す。)
(2)一群の請求項について
訂正前の請求項1~3について,請求項2及び3は,請求項1を直接又は間接的に引用するものであり,上記の訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって,訂正前の請求項1~3は,一群の請求項である。そして,本件訂正審判の請求は,その一群の請求項ごとに請求がされたものである。
第3 当審の判断
1 訂正事項1について
訂正事項1に係る訂正は,訂正前の請求項1における最終焼鈍の焼鈍温度の上限について,「9050℃」を「950℃」とするものである。
(1)訂正の目的
請求人は,訂正事項1に係る訂正は,誤記の訂正を目的とするものであると主張するので,以下,検討する。
ア 特許法126条1項ただし書2号は,「誤記の訂正」を目的とする場合には,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の訂正をすることを認めているが,ここで「誤記」というためには,訂正前の記載が誤りで訂正後の記載が正しいことが,当該明細書,特許請求の範囲若しくは図面の記載又は当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)の技術常識などから明らかで,当業者であればそのことに気付いて訂正後の趣旨に理解するのが当然であるという場合でなければならないものと解される(知的財産高等裁判所,平成18年(行ケ)第10204号,平成18年10月18日2部判決,同裁判所,平成28年(行ケ)第10154号,平成29年5月30日2部判決)。
以下,検討する。
イ(ア)訂正前の請求項1に係る発明は,フェライト系ステンレス鋼板の製造方法に関するものであって,所定の熱間圧延をした後,熱延板焼鈍を省略して,中間冷延,所定の中間焼鈍,最終冷延,「880~9050℃に加熱する最終焼鈍をする」ものであるところ,上記の最終焼鈍の温度の上限である「9050℃」は,フェライト系ステンレス鋼が溶融する温度を明らかに超えるものである(なお,鉄の融点は1536℃程度である。)。
そうすると,フェライト系ステンレス鋼を始めとする各種合金に対する焼鈍が,固体状態で行われることが技術常識であることを踏まえると,上記の最終焼鈍の焼鈍温度の上限である「9050℃」は,それ自体で誤りであることが明らかである。
(イ)a 本件特許の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「本件明細書等」という。)には,以下の記載がある。
「(1)質量%にて,C:0.001~0.03%,Si:0.01~0.9%,Mn:0.01~1.0%,P:0.01~0.05%,S:0.0003~0.01%,Cr:10~20%,N:0.001~0.03%,Ti,Nbの一種または2種を0.05~1.0%含有し,残部がFeおよび不可避的不純物より成る鋼で,板厚中心部の{111}強度が5以上,{411}強度が3未満であり,結晶粒度番号が5.5以上であることを特徴とする成形性に優れたフェライト系ステンレス鋼板の製造方法であって,
前記成分を有するステンレス鋼スラブを熱間圧延する際,スラブ加熱温度を1100~1200℃とし,粗圧延のパス回数(n回)の中で(n-2)回以上を各々圧下率30%以上で行うとともに粗圧延終了温度を1000℃以上とし,仕上温度を900℃以下とする連続圧延を行い,700℃以下で巻取り,その後,熱延板焼鈍を省略して,引き続き,少なくとも1回は直径が400mm以上のロールを用いて40%以上の圧下率で冷延する中間冷延,820~880℃に加熱する中間焼鈍,最終冷延,880~9050℃に加熱する最終焼鈍をすることを特徴とする成形性に優れたフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。」(【0021】)
「最終冷延後の最終焼鈍については,焼鈍温度を880~950℃として,結晶粒度番号を5.5以上に調整する。結晶粒度番号が5.5未満になるとリジングやオレンジピールと呼ばれる肌荒れが顕著になるため,上限を5.5とした。これを満足する焼鈍温度が950℃以下であるため,焼鈍温度の上限を950℃とした。一方,880℃未満では未再結晶組織が部分的に残る場合があるため,下限を880℃とした。」(【0070】)
「【表2ー1】
」(【0125】)
「【表2ー3】
」(【0127】)
b 上記aの記載によれば,本件明細書等の【0021】には,訂正前の請求項1と同様,「880~9050℃に加熱する最終焼鈍をする」との記載があるものの(当該記載は,特許請求の範囲の記載を単に引き写したものと解される。),本件明細書等の【0070】には,最終焼鈍の焼鈍温度を880~950℃としたこと,焼鈍温度の上限を950℃としたことが記載され,また,現に,表2-1(【0125】)には,本発明例1~27として,最終焼鈍の焼鈍温度が890~950℃であるものが記載されている。
一方,表2-3(【0127】)には,比較例65として,最終焼鈍の焼鈍温度が960℃であるものが記載されている。ここで,表2-3における比較例65の「最終焼鈍」の「焼鈍温度」の欄には,「960*」として,「本発明から外れているもの」(表2-3の脚注を参照)を意味する「*」の記号が付されていることから,960℃との焼鈍温度は,訂正前の請求項1に係る発明における最終焼鈍の焼鈍温度から外れたものであり,比較例65は,この点で比較例とされていることが理解できる。
c 以上によれば,訂正前の請求項1における最終焼鈍の焼鈍温度の上限である「9050℃」は,本件明細書等の記載との関係でも誤りであることが明らかである。
(ウ)そして,上記(イ)で本件明細書等の記載について検討したところによれば,訂正前の請求項1における最終焼鈍の焼鈍温度の上限については,本件明細書等の記載全体から,「950℃」との正しい記載が自明な事項として定まるといえる。
ウ 以上のとおりであるから,訂正前の請求項1の「9050℃」との記載が誤りで訂正後の「950℃」との記載が正しいことが,本件明細書等の記載又は当業者の技術常識などから明らかで,当業者であればそのことに気づいて訂正後の趣旨に理解するのが当然であるといえる。
したがって,訂正事項1に係る訂正は,誤記の訂正を目的とするものに該当する。
(2)新規事項の追加,実質上特許請求の範囲の拡張又は変更
本件特許の国際出願日における国際出願の明細書,請求の範囲又は図面(以下,「出願当初明細書等」という。)には,以下に示す[0021]の記載のほか,上記(1)イ(イ)aで示した記載(【0070】,【表2-1】(【0125】),【表2-3】(【0127】))と同じ記載([0070],[表2-1]([0125]),[表2-3]([0127]))がある。
「(6)本発明の成分を有するステンレス鋼スラブを熱間圧延する際,スラブ加熱温度を1100~1200℃とし,粗圧延のパス回数(n回)の中で(n-2)回以上を各々圧下率30%以上で行うとともに粗圧延終了温度を1000℃以上とし,仕上温度を900℃以下とする連続圧延を行い,700℃以下で巻取り,その後,熱延板焼鈍を省略して,引き続き,少なくとも1回は直径が400mm以上のロールを用いて40%以上の圧下率で冷延する中間冷延,820~880℃に加熱する中間焼鈍,最終冷延,880~950℃に加熱する最終焼鈍をすることを特徴とする成形性に優れたフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。」([0021])
上記の出願当初明細書等の記載によれば,訂正事項1に係る訂正は,出願当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(3)独立特許要件
本件訂正審判の請求に係る訂正後の請求項1~3に記載されている事項により特定される発明について,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるとはいえない理由は,見当たらない。
第4 むすび
以上のとおり,本件訂正審判の請求に係る訂正は,特許法126条1項ただし書2号に掲げる事項を目的とするものに該当し,かつ,同条5~7項の規定に適合するものである。
よって,結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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