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特許拒絶査定不服審判

2020-011587

フッ素化界面活性剤含有組成物

審判番号
2020-011587
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2017-513688外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2020年08月20日
審決日
2022年07月21日
公報発行日
2023年01月27日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (C11D) / P18 .537-WZ (C11D)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項特許法36条6項1号特許法49条2号特許法49条4号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第49条第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2017-513688「フッ素化界面活性剤含有組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月17日国際公開、WO2016/040551、平成29年 9月28日国内公表、特表2017-528568〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2015年9月10日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年9月11日(US)米国〕を国際出願日とする特許出願であって、平成30年9月3日付けで手続補正がなされ、 令和元年6月25日付けの拒絶理由通知に対し、令和元年12月2日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされ、 令和2年4月16日付けの拒絶査定に対し、令和2年8月20日付けで審判請求がなされ、 令和3年3月17日付けの審判合議体による拒絶理由通知に対し、令和3年9月22日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされ、 令和4年1月19日付けの審尋に対し、令和4年4月25日付けで回答書の提出がなされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1~6に係る発明は、令和3年9月22日付けの手続補正(以下「第3補正」ともいう。)により補正された特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下「本1発明」ともいう。)は、次のとおりのものである。 「【請求項1】 フッ素化又は全フッ素化有機溶媒と、 一般式(1)のフッ素化界面活性剤 【化1】 [図:0001392433000001.jpg] [式中、 Rfは1~6個の炭素原子を有するペルフルオロアルキル基であり、 R1及びR2はHであり、 nは1又は2であり、 xは1又は2であり、 ただし、nが2である場合、xは2ではない]と、 を含む、基材から汚染物質を除去するための組成物。」 第3 令和3年6月30日付けの拒絶理由通知の概要 令和3年3月17日付けの拒絶理由通知には、理由1及び2として、次の理由が示されている。 「理由1:この出願の請求項1~2に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1~3に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 理由2:この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」 そして、その「記」には、次のような指摘がなされている。 「1.理由1(進歩性)について (1)引用刊行物及びその記載事項 刊行物1:特開2005-223184号公報(原審の文献4に同じ。) 刊行物2:国際公開第2014/120405号(原審の文献1に同じ。) 刊行物3:特開平5-117696号公報… (4)…本願明細書の…「試験結果」によっては、…本1発明の範囲に含まれるもの全てに格別予想外の顕著な効果があると認めるに至らない(本1発明の効果を主張する場合には、同段落0066の表中の「50~80%」等の範囲で表記された試験結果における具体的な値を明らかにされたい。)。…したがって、本1発明は、刊行物1~2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。… 2.理由2(サポート要件)について… (3)…本願明細書の段落0066の「【表2】ノベック71IPAの粒子除去率」及び「【表3】ノベック7100の粒子除去率」の「試験結果」では、界面活性剤の添加がないCE18及びCE22に対して、本1発明の一般式(1)を満たす「FBS(EE)2」の省略名の界面活性剤が「優れた洗浄性」をもたらし「洗浄改善を促進」する性能を示していないので、本願請求項1に記載の一般式(1)の広範な範囲のものすべてが、上記課題を解決できると認識できる範囲にあるとは認められない。」 第4 当審の判断 1.理由2(サポート要件)について (1)サポート要件に適合するか否かの観点 一般に『特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人(…)が証明責任を負うと解するのが相当である。』とされている〔平成17年(行ケ)10042号判決参照。〕。 (2)本願の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載 本願特許請求の範囲の請求項1の記載は、上記第2に示したとおりであり、本願明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある(なお、当審において下線を付した。)。 摘示a:分野などに関する記載 「【0001】…本開示は、汚染物質の洗浄又は除去に有用となり得る加工用流体、特に、フルオロケミカル界面活性剤と有機溶媒とを含む組成物に関する。… 【0038】驚くべきことに、本開示のフッ素化界面活性剤は、比較的短いフルオロケミカル尾にもかかわらず、許容可能なハイドロフルオロエーテル系溶媒中での溶解性及び優れた洗浄性能をもたらすことが発見された。更に、本開示のフッ素化界面活性剤は、非毒性であり、生物濃縮の可能性がほとんどないと予想される。したがって、これらの界面活性剤は、ハイドロフルオロエーテル系洗浄組成物に使用するための既知のフルオロケミカル界面活性剤の持続可能な代替品を提供する。本開示の改善されたハイドロフルオロエーテル系洗浄組成物は、激しく汚れたデリケートな電子及び光学コンポーネント(例えば、高ピクセル密度のCMOSデバイス)の洗浄改善を促進し得る。」 摘示b:界面活性剤の溶解度や粒子再付着性能に関する実施例の記載 「【0060】実施例(EX)1~21及び比較例(CE)1~17:界面活性剤の溶解度… 【0069】実施例31~32及び比較例25~29:粒子再付着性能」 摘記c:洗浄性能に関する実施例の記載 「【0062】実施例22~30及び比較例18~24:洗浄性能 ノベック7100及びノベック71IPAベース溶媒を上記の可溶性界面活性剤あり又はなしで使用して、実験を行い、溶解した界面活性剤が流体の洗浄性能に与える影響を測定した。いくつかの場合には、単一の界面活性剤を使用した。その他の場合には、2種の界面活性剤の混合物を使用した。全ての場合に、使用したフルオロケミカル界面活性剤の総濃度は、ベース流体中0.20重量%(又は2000ppm)であった。洗浄結果を、界面活性剤を含有しない純ノベック流体対照品と比較した。洗浄試験は、高ピクセル密度を含む激しく汚れたCMOSセンサで実施した。これらのセンサは、粒子汚染物質を本質的に含まないように洗浄することが極めて困難であることが知られている。… 【0066】試験したノベック71IPA及びノベック7100系洗浄流体組成物(FC界面活性剤あり及びなし)並びにそれぞれで得られた洗浄性能(又は粒子除去率(%))の結果を、それぞれ表2及び3にまとめる。最高性能の洗浄流体組成物は、当初CMOS表面に存在した粒子の90~100%を除去することができ、これらの最高性能組成物を、各表の最下部にまとめている。 【表3】 [図:0001392433000002.jpg] 【表4】 [図:0001392433000003.jpg] 【0067】ノベックHFEベース流体と特定のC4F9SO2N系フルオロケミカル界面活性剤又は界面活性剤混合物との組み合わせは、ベースのノベック流体のみ(界面活性剤なしの対照流体)と比較したときに卓越した粒子洗浄性能を提供する。結果は、更に、FBSEE(IX)、FBSE(EE)(V)、及びFBS(EE)2(IV)などの構造(1)に従う非イオン性C4F9SO2N系フルオロケミカル界面活性剤は、ノベック流体中での十分な溶解度と最善の洗浄性能との両方を提供することを示す。FC-4171(XI)のような、構造モチーフの異なるその他の非イオン性C4F9SO2N系フルオロケミカル界面活性剤、並びにH-FBSE(X)及びH-FBS(EE)(III)のようなイオン性(又はプロトン性)C4F9SO2N系フルオロケミカル界面活性剤は、粒子除去効率に関して、有効性が劣る。驚くべきことに、いくつかの場合では、FBS(EE)2(IV)のような非イオン性C4F9SO2N系フルオロケミカル界面活性剤を、H-FBS(EE)(III)のようなイオン性(又はプロトン性)C4F9SO2N系フルオロケミカル界面活性剤と組み合わせることで、実施例28のように、非イオン性界面活性剤又はイオン性界面活性剤のいずれかのみよりも優れた洗浄性能を生じることができる。 【0068】本開示の非イオン性C4F9SO2N系フルオロケミカル界面活性剤は、ノベック7100及びノベック71IPAのようなHFE系洗浄流体の粒子洗浄性能の改善に非常に有効であることが示された。更に、これらの新規界面活性剤含有洗浄配合物は、激しく汚れたCMOSセンサの洗浄に有用であることが示された。」 (3)本1発明の解決しようとする課題 令和3年9月22日付けの意見書の第4頁の主張をも参酌するに、本願明細書の段落0001及び0038(摘示a)の記載を含む発明の詳細な説明の全ての記載からみて、本1発明の解決しようとする課題は『汚染物質の洗浄又は除去に有用となり得、激しく汚れたデリケートな電子及び光学コンポーネントの洗浄改善を促進し得る組成物の提供』にあるものと認められる。 (4)課題を解決できる一般式(1)の範囲 本願請求項1に記載された「一般式(1)のフッ素化界面活性剤」は「nは1又は2であり、xは1又は2であり、ただし、nが2である場合、xは2ではない」ものとして特定されているところ、本願明細書の段落0066(摘示c)のEX23で用いられている「FBSEE(IX)」並びにEX24で用いられている「FBSE(EE)(V)」のフッ素化界面活性剤は、本1発明の「一般式(1)のフッ素化界面活性剤」に該当する。 そして、同段落0066(摘示c)の表2には「 ┌─────┬────────┬────────┬───┬───┐ │ EX番号/│界面活性剤構造 │ 省略名 │添加量│除去率│ │ CE番号 │ │ (化合物番号) │(%)│(%)│ ├─────┼────────┼────────┼───┼───┤ │ CE18 │ なし │ノベック71IPA │ 0 │50~80│ │ │ │ のみ(対照) │ │ │ ├─────┼────────┼────────┼───┼───┤ │ EX23 │式(1) n=1 x=1│FBSEE (IX) │0.0667│50~80│ │ │式(2) m=2 │H-FBS(EE) (III) │0.1333│ │ ├─────┼────────┼────────┼───┼───┤ │ EX24 │式(1) n=1 x=2│FBSE(EE) (V) │0.0667│50~80│ │ │式(2) m=2 │H-FBS(EE) (III) │0.1333│ │ └─────┴────────┴────────┴───┴───┘ 」という「試験結果」が示されている。 すなわち、本願明細書の段落0066の「【表2】ノベック71IPAの粒子除去率」の「試験結果」では、界面活性剤の添加がない「CE18」の除去率が「50~80」%であるのに対して、本1発明の一般式(1)を満たす「FBSEE(IX)」又は「FBSE(EE)(V)」の界面活性剤を用いた「EX23」及び「EX24」の除去率が「50~80」%であって、「CE18」の除去率と相違せず、「洗浄改善を促進」する性能を示していないので、このような「試験結果」が実在する以上、当業者が本願出願時の「技術常識」に照らし、本願明細書の発明の詳細な説明の全ての記載を考慮したとしても、本願請求項1に記載の一般式(1)の広範な範囲のものすべてが、上記『汚染物質の洗浄又は除去に有用となり得、激しく汚れたデリケートな電子及び光学コンポーネントの洗浄改善を促進し得る組成物の提供』という課題を解決できると認識できる範囲にあるとは認められない。 (5)審判請求人の主張について ア 意見書の主張について 令和3年9月22日付けの意見書の第4頁において、審判請求人は「実施例30のFBSE(EE)(V)のデータは、補正後の請求項1をサポートしています。なお、アルコール共溶媒を含まないノベック7100と、一般式(1)においてn=1かつx=1であるものに対応するFBSEE(IX)との組み合わせについては、本願明細書にデータは開示されていないものの、その粒子除去における有用性は、他の実施例のデータなどから合理的に推認できるものと思料いたします。」と主張する。 しかしながら、実施例30のデータは、FBSE(EE)を0.2%添加した場合のデータであり、前記EX24とは前提条件が異なるものである。また、ノベック71IPAと、一般式(1)においてn=1かつx=1であるものに対応するFBSEE(IX)との組み合わせについては、上記「EX23」のとおり本願明細書にデータが開示されており、その粒子除去における有用性は、界面活性剤の添加がない「CE18」に比して「洗浄改善を促進」する性能を示していないという実施例のデータから合理的に推認できないので、上記意見書の主張は採用できない。 イ 回答書の補正案について なお、令和4年1月19日付けの審尋における『請求項6の…0.01~1重量%の量…との記載における請求項1に記載のフッ素化界面活性剤の含有量が「0.2重量%」未満であるもの』が、課題を解決できると認識できる範囲にあると認めることができないので、必要があれば補正案を提示されたい、という旨の指摘に対して、 令和4年4月25日付けの回答書の第5~6頁において、審判請求人は『上記補正案における請求項1では、一般式(1)中のnを1に特定すると共に、一般式(1)のフッ素化界面活性剤が、組成物の総重量に基づいて、0.0667重量%超の量で含まれること、及び組成物が一般式(1)のもの以外のフッ素化界面活性剤を含まないことを特定しました。これにより、本願明細書の実施例におけるEX23及びEX24は、請求項1の範囲に包含されないものとなりました。…補正案における請求項1の範囲は、本願明細書の記載に接した当業者が、明細書に記載されていると合理的に認識できるものであり、且つ、明細書の記載及び技術常識に照らして課題が解決できるであろうとの合理的な期待が得られるものであり、サポート要件を充足するものであると思料いたします。』と主張する。 しかしながら、一般式(1)のフッ素化界面活性剤の量の範囲を、EX23(又はEX24)の「0.0667重量%」を超える、補正案の「0.0667重量%超」に変更したとしても、その差は0.0001重量%でしかないので、このような微差によって有用性が大きく改善されるとは推認できず、上記補正案のものがサポート要件を満たし得る範囲にあると合理的に解せない。 また、EX23(又はEX24)で併用されている「H-FBS(EE)(III)」は、本願明細書の段落0067(摘示c)において「非イオン性C4F9SO2N系フルオロケミカル界面活性剤」と組み合わせることで、単独使用よりも「優れた洗浄性能を生じる」ことができると説明され、本願請求項3及び4に係る発明において必須の界面活性剤とされているので、一般式(1)のもの以外のフッ素化界面活性剤を含まないことを特定する補正案のものが、サポート要件を満たし得る範囲にあると合理的に解せない。 したがって、上記回答書の補正案は採用できない。 2.理由1(進歩性)について (1)引用刊行物の記載事項 上記刊行物1には、次の記載がある。 摘記1a:請求項1 「【請求項1】無機物を主成分とする微小汚染物を基板から除去することのできる洗浄液であって、当該洗浄液が弗素系溶剤と界面活性剤とを含有することを特徴とする洗浄液。」 摘記1b:段落0008~0009及び0016~0017 「【0008】…本発明に用いる弗素系溶剤は、常圧、常温で液体の弗素原子を含有する化合物であり、1つの酸素原子を有していても良い部分弗素化炭化水素が好ましい。また、この弗素系溶剤は、後述する界面活性剤を溶解するものである。… 【0009】好適な弗素系溶剤である酸素原子を有していても良い部分弗素化炭化水素の具体例としては、…式(II)で表されるハイドロフルオロエーテル(以下、「HFE」ということがある)が挙げられる。… 【0016】式(II)で表せられるHFEとして、例えば、…n-C4F9OCH3、…n-C4F9OC2H5…が挙げられる。 【0017】HFCやHFEのような弗素系溶剤は、不燃性で、水存在下での安定性に優れ、無毒であり、オゾン破壊係数がゼロであることから、地球環境にやさしく、その回収・廃棄に対する処理コストも軽減できるという利点もある。」 摘記1c:段落0018~0019 「【0018】本発明の基板洗浄液は界面活性剤を含有するものである。特に、弗素系溶剤との相溶性が良好で、優れた洗浄性を容易に与えられることから、非イオン性界面活性剤が好ましく、特に弗素原子を含有する非イオン性の界面活性剤(以下、弗素系非イオン性界面活性剤ということがある)が好ましい。 非イオン性界面活性剤としては、公知の高級アルコール等のエチレンオキシド・プロピレンオキシド付加物、多価アルコールの脂肪酸エステル、エステル・エーテル型、脂肪酸アルカノールアミドなどが挙げられる。 非イオン性界面活性剤としては、大日本インキ化学工業社製の界面活性剤メガファックシリーズ(F-177、F-443、F-470、F-472SF、R-08、R-30等)、三菱マテリアル社製EFシリーズ(122C、351、352、802等)、ネオス社製フタージェントシリーズ(250、251等)、ネオス社製FTXシリーズ(209F、208G、204D、207X等)等の弗素系非イオン性界面活性剤;日本乳化剤社製の界面活性剤ニューコールシリーズ(2308、2302、3‐85、723SF等)や、竹本油脂社製の界面活性剤パイオニンシリーズ(D-206、D-208-K、D-6112等)等の弗素原子を含有しない非イオン性界面活性剤;が挙げられる。 これら界面活性剤の使用量は、洗浄液全量の通常10重量%以下、好ましくは0.00001~5重量%、特に好ましくは0.0001~1重量%である。」 摘記1d:段落0030~0032 「【0030】(実施例1~7及び比較例1)…調製した粒子汚染ウエハに、35℃に保持した表1記載の組成の洗浄液を、噴霧法により2分間接触させて洗浄した。…結果を表1に示す。 【0031】【表1】 [図:0001392433000004.jpg] 【0032】この結果から、弗素系溶剤に界面活性剤を添加した洗浄液を用いると、容易に微小汚染物量を30%以下に低減することが可能であることが判った。特に、非イオン性界面活性剤を添加したものは10%以下に、弗素系非イオン性界面活性剤を添加したものは5%以下に低減することができることが判った。」 上記刊行物2には、和訳にして、次の記載がある。 摘記2a:第3頁第2~4行、6頁第30~34行及び第10頁第1~26行 「本開示の界面活性剤及び界面活性剤組成物の用途としては、例えば、湿潤剤、洗浄界面活性剤、レベリングが向上しコーティング不良が低減されたコーティング界面活性剤、及び緩衝酸化物エッチング(BOE)界面活性剤としての使用が挙げられる。… 水への最大溶解度を促進するために、様々な実施形態では、アニオン性界面活性剤又は中性界面活性剤のいずれかのスルホンアミド窒素原子に結合した非フッ素化基の少なくとも1つは、オリゴマーのエチレンオキシド基であってもよく、このオリゴマーのエチレンオキシド基は、2~6、2~5、2~4、又は2~3個のエチレンオキシド反復単位を有する。… 様々な実施形態では、本開示のフッ素化スルホンアミド界面活性剤組成物に好適な溶媒は、水及び/又は許容可能な性能に必要な界面活性剤の添加量において十分な界面活性剤の溶解度を提供する任意の有機溶媒を含んでもよい。単一の溶媒又は溶媒混合物を用いてもよい。いくつかの実施形態では、溶媒は、水、及び米国特許出願公開第2008/0280230号に記載されているものなどの1つ以上のアルコール系化学物質を含んでもよい。 例示の実施形態では、フッ素化スルホンアミド界面活性剤は、0.001質量%~5.0質量%、0.01質量%~1.0質量%、又は0.1質量%~0.5質量%もの全濃度(即ち、含まれる全てのフッ素化スルホンアミド界面活性剤種)で、溶液中(即ち、水中又は水及び有機溶媒の混合溶媒中)に存在してもよい。… 本開示のフッ素化スルホンアミド界面活性剤及び界面活性剤組成物は、既知の界面活性剤と比較して、多くの驚くべき利点を提供する。例えば、本開示の界面活性剤及び界面活性剤組成物は、水溶性の向上を示しているが、水溶性は、半導体加工の間の界面活性剤沈殿及び関連する欠陥形成の可能性を少なくするために重要であり得る。具体例として、スルホンアミド窒素原子に結合したオリゴマーのエチレンオキシド基[式中、n>1である-(CH2CH2O)n]を有する本開示のアニオン性及び中性フッ素化スルホンアミド界面活性剤は、既知のスルホンアミド界面活性剤と比較して、かなり高い水への溶解度をもたらすことが発見された。」 摘記2b:第14頁の表2 「 [図:0001392433000005.jpg] 」 摘記2c:第43頁第17行~第45頁第17行 「3.フッ素化スルホンアミド界面活性剤組成物であって、 式: RfSO2N(H)-CH2CH(CH3)OH、若しくは RfSO2N(H)-(CH2CH2O)xHで表されるアニオン性界面活性剤、又は 式: RfSO2N[CH2CH(CH3)OH]2、 RfSO2N[CH2CH(CH3)OH][(CH2CH2O)nH]、 RfSO2N(R)[(CH2CH2O)pH]、若しくは RfSO2N[(CH2CH2O)qH][(CH2CH2O)mH]で表される中性界面活性剤と、 溶媒と、を含む、フッ素化スルホンアミド界面活性剤組成物。 [式中、xは、2~6の整数であり、nは、1~6の整数であり、pは、2~6の整数であり、Rは、1~4個の炭素原子を有するアルキル基であり、qは、1~6の整数であり、mは、1~6の整数であり、(q+m)≧3であり、Rfは、3~8個の炭素原子を有するフルオロアルキル基である。]… 16.前記組成物が溶媒を含む場合、該溶媒は、水、有機液体、又はそれらの組み合わせを含む、請求項3~15のいずれか一項に記載の組成物。」 (2)刊行物1に記載された発明 摘記1aの「無機物を主成分とする微小汚染物を基板から除去することのできる洗浄液であって、当該洗浄液が弗素系溶剤と界面活性剤とを含有することを特徴とする洗浄液。」との記載、 摘記1cの「本発明の基板洗浄液は界面活性剤を含有するものである。特に、弗素系溶剤との相溶性が良好で、優れた洗浄性を容易に与えられることから、非イオン性界面活性剤が好ましく、特に弗素原子を含有する非イオン性の界面活性剤(以下、弗素系非イオン性界面活性剤ということがある)が好ましい。」との記載、及び 摘記1dの「表1…実施例1…弗素系溶剤…A…含有量…残部…界面活性剤…F-177…含有量…0.025…含有量の単位 重量%…A:1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン…F-177…:大日本インキ化学工業社製弗素系非イオン性界面活性剤」との記載からみて、刊行物1には、 『弗素原子を含有する非イオン性の界面活性剤(F-177:大日本インキ化学工業社製弗素系非イオン性界面活性剤)0.025重量%と、弗素系溶剤(1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン)残部のみからなる、無機物を主成分とする微小汚染物を基板から除去することのできる洗浄液。』についての発明(以下「刊1発明」という。)が記載されているといえる。 (3)対比 本願請求項1に係る発明(以下「本1発明」ともいう。)と刊1発明とを対比する。 刊1発明の「弗素系溶剤(1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン)」は、本1発明の「フッ素化又は全フッ素化有機溶媒」に相当する。 刊1発明の「弗素原子を含有する非イオン性の界面活性剤(F-177:大日本インキ化学工業社製弗素系非イオン性界面活性剤)」は、本1発明の「フッ素化界面活性剤」に相当する。 刊1発明の「微小汚染物を基板から除去することのできる洗浄液」は、本1発明の「基材から汚染物質を除去するための組成物」に相当する。 してみると、本1発明と刊1発明は『フッ素化又は全フッ素化有機溶媒と、フッ素化界面活性剤と、を含む、基材から汚染物質を除去するための組成物。』という点において一致し、次の(α)の点において相違する。 (α)フッ素化界面活性剤が、本1発明は「一般式(1) [図:0001392433000006.jpg] [式中、Rfは1~6個の炭素原子を有するペルフルオロアルキル基であり、R1及びR2はHであり、nは1又は2であり、xは1又は2であり、ただし、nが2である場合、xは2ではない]」で表されるものであるのに対して、刊1発明は「F-177」という製品名のものであって、その具体的な化学構造が不明なものである点。 (4)判断 上記(α)の相違点について検討する。 刊1発明の「弗素原子を含有する非イオン性の界面活性剤」は、刊行物1の段落0018(摘記1c)の「特に、弗素系溶剤との相溶性が良好で、優れた洗浄性を容易に与えられることから…特に弗素原子を含有する非イオン性の界面活性剤…が好ましい。」との記載にあるように、溶媒との相溶性が良好で、優れた洗浄性を容易に与えられることから、特に「弗素原子を含有する非イオン性の界面活性剤」が好ましいとされるものである。 そして、刊行物2には「3.フッ素化スルホンアミド界面活性剤組成物であって、…式:…RfSO2N[(CH2CH2O)qH][(CH2CH2O)mH]で表される中性界面活性剤と、溶媒と、を含む、フッ素化スルホンアミド界面活性剤組成物。…16.…該溶媒は、水、有機液体、又はそれらの組み合わせを含む、…組成物。」に関する発明が記載され、その「既知の界面活性剤と比較して、多くの驚くべき利点を提供」し「半導体加工の間の界面活性剤沈殿及び関連する欠陥形成の可能性を少なくするために重要」であり得る「スルホンアミド窒素原子に結合したオリゴマーのエチレンオキシド基」を有する「中性フッ素化スルホンアミド界面活性剤」として、合成例#4の「FBSE(EE)」に示されるとおりの弗素原子を含有する非イオン性の界面活性剤が記載され、オリゴマーのエチレンオキシド基によって、溶媒(水、有機液体、又はそれらの組み合わせを含む)への最大溶解度が促進され、その用途として「洗浄界面活性剤」が挙げられることが記載されているところ(摘記2a~2c)、刊行物2の合成例#4の「FBSE(EE)」の化学構造は、本1発明の一般式(1)において、Rfが4個の炭素原子を有するペルフルオロアルキル基であり、R1及びR2がHであり、nが1であり、xが2であり、nが2である場合、xは2ではないものに相当する。 してみると、刊行物1の記載において「溶媒との相溶性が良好」で「優れた洗浄性を容易に与えられる」という観点で、特に好ましいとされる「弗素原子を含有する非イオン性の界面活性剤」として、刊行物2に記載された溶媒への「最大溶解度が促進」される「オリゴマーのエチレンオキシド基」を有する「FBSE(EE)」のような「洗浄界面活性剤」を採用することには、強い動機付けがあるといえるので、刊1発明に刊行物2に記載の技術を組み合わせて、上記(α)の相違点に係る構成を導き出すことは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲である。 そして、本1発明の効果について検討するに、本願明細書の段落0066(摘記c)に記載された【表3】の「試験結果」では、本1発明の具体例に相当するEX22~EX24のものの除去率が「50~80%」とされており、対応する比較例のCE18のものの除去率に比べて良好な結果になっていないので、本1発明の範囲に含まれるもの全てに格別予想外の顕著な効果があると認めるに至らない。 したがって、本1発明は、刊行物1~2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (5)審判請求人の主張について ア 意見書の主張について 令和3年9月22日付けの意見書の第3頁において、審判請求人は『界面活性剤「F-177」については、引用文献1には「大日本インキ化学工業社製弗素系非イオン性界面活性剤」とのみ記載されていますが、例えば、その供給元である大日本インキ化学工業株式会社が出願人である特開2005-338240号公報の[0080]段落には、それと同一と推察されるものについて「フッ素化オリゴマー(大日本インキ性メガファックF-177)」と記載されています。そうすると、引用文献1の界面活性剤「F-177」は、オリゴマー型界面活性剤である蓋然性が高いといえます。オリゴマー型界面活性剤については、例えば、参考資料1として写しを添付したDIC株式会社(旧・大日本インキ化学工業株式会社)のwebサイトに、オリゴマー型界面活性剤では表面近傍に多く存在して溶剤の蒸発速度を制御する効果が顕著に表れる、と記載されているように、オリゴマー型界面活性剤は、本願発明に係るフッ素化界面活性剤とは異なる系統に属するものと当業者に認識されています。そのため、当業者であれば、引用文献1において用いられているオリゴマー型界面活性剤「F-177」を、それとは異なる系統のものに置き換えることに、何らの成功予見性もなく容易に想到するとは考えられません。』と主張する。 しかしながら、刊行物1の段落0018(摘記1c)には、特に「弗素系溶剤との相溶性が良好で、優れた洗浄性を容易に与えられる」という観点から、特に「弗素原子を含有する非イオン性の界面活性剤」が好ましいとして、大日本インキ化学工業社製の界面活性剤メガファックシリーズ(F-177等)等の各種の「弗素系非イオン性界面活性剤」が例示されていることから、当該「F-177」以外の各種の「弗素系非イオン性界面活性剤」として、刊行物2に記載の「スルホンアミド窒素原子に結合したオリゴマーのエチレンオキシド基」を有する合成例#4の「FBSE(EE)」のような「中性フッ素化スルホンアミド界面活性剤」を採用すること(摘記2cの「RfSO2N[(CH2CH2O)qH][(CH2CH2O)mH]で表される中性界面活性剤」において、q=1、m=2、Rfが4個の炭素原子を有するフルオロアルキル基であるものを採用すること)に阻害事由があるとはいえない。 したがって、上記意見書の主張は採用できない。 イ 審判請求書の主張について (ア)審判請求書において、審判請求人は上記刊行物2の摘記2aに「本開示のフッ素化スルホンアミド界面活性剤組成物に好適な溶媒は、水及び/又は許容可能な性能に必要な界面活性剤の添加量において十分な界面活性剤の溶解度を提供する任意の有機溶媒を含んでもよい。・・・いくつかの実施形態では、溶媒は、水、及び米国特許出願公開第2008/0280230号に記載されているものなどの1つ以上のアルコール系化学物質を含んでもよい。」に記載されているように、上記刊行物においては、溶媒としては水またはアルコールのような極性溶媒しか想定されていないと主張する。 (イ)しかしながら、前記(ア)の記載は、「任意の有機溶媒」のいくつかの実施形態としてのアルコールと記載されているのであって、審判請求人の主張は、前記(ア)の記載を曲解するものである。さらにいえば、当業者であれば、刊行物2記載のFBSE(EE)はそのパーフルオロ炭化水素を有する化学構造からみて、前記の「十分な界面活性剤の溶解度を提供する任意の有機溶媒」として「フッ素化又は全フッ素化有機溶媒」は好適であることが読み取りうることである。審判請求人の主張は採用できない。 第5 むすび 以上総括するに、本1発明は、刊行物1~2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、本願請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであるから、本願は特許法第49条第2号及び第4号の規定に該当し、その余のことを検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2020-011587

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