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特許拒絶査定不服審判

2021-007771

水素富化ガスから有機硫黄化合物を除去するための方法および装置

審判番号
2021-007771
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2019-511776
請求日
2021年06月15日
審決日
2022年09月21日
公報発行日
2023年03月31日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】ティッセンクルップ インダストリアル ソリューションズ アクツィエンゲゼルシャフト
  • 【請求人代理人】小野 誠
  • 【請求人代理人】金山 賢教
  • 【請求人代理人】坪倉 道明
  • 【請求人代理人】重森 一輝
  • 【請求人代理人】安藤 健司
  • 【請求人代理人】市川 英彦
  • 【請求人代理人】櫻田 芳恵
  • 【請求人代理人】川嵜 洋祐
  • 【請求人代理人】飯野 陽一
  • 【請求人代理人】市川 祐輔
  • 【請求人代理人】森山 正浩
  • 【請求人代理人】河野 隆
  • 【請求人代理人】岩瀬 吉和
  • 【請求人代理人】城山 康文
  • 【請求人】ティッセンクルップ アクチェンゲゼルシャフト
  • 【請求人代理人】小野 誠
  • 【請求人代理人】金山 賢教
  • 【請求人代理人】坪倉 道明
  • 【請求人代理人】重森 一輝
  • 【請求人代理人】安藤 健司
  • 【請求人代理人】市川 英彦
  • 【請求人代理人】櫻田 芳恵
  • 【請求人代理人】川嵜 洋祐
  • 【請求人代理人】飯野 陽一
  • 【請求人代理人】市川 祐輔
  • 【請求人代理人】森山 正浩
  • 【請求人代理人】河野 隆
  • 【請求人代理人】岩瀬 吉和
  • 【請求人代理人】城山 康文
審判長/審判官
  • 審判長 宮澤 尚之
  • 審判官 原 和秀
  • 審判官 後藤 政博
分類
P18 .121-Z (C01B) / P18 .537-Z (C01B) / P18 .575-Z (C01B)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項特許法36条6項1号特許法49条2号特許法49条4号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項、特許法第36条第6項第1号、特許法第159条第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2019-511776「水素富化ガスから有機硫黄化合物を除去するための方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 3月 8日国際公開、WO2018/041728、令和 1年10月17日国内公表、特表2019-529306〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2017年(平成29年)8月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2016年(平成28年)9月1日(DE)ドイツ)を国際出願日とし、平成31年2月27日に国内書面が提出され、同年4月1日に翻訳文が提出された特許出願であって、同年4月1日付けで手続補正がされ、令和2年3月17日付けで拒絶理由通知がされ、同年9月18日付けで手続補正がされ、令和3年2月5日付けで拒絶査定がされ、同年6月15日に拒絶査定不服審判の請求がされると共に、同日付けで手続補正がされ、同年7月28日付けで審判請求書に対する手続補正がされたものである。 第2 令和3年6月15日付けの手続補正についての補正却下の決定 1 補正却下の決定の結論 令和3年6月15日付けの手続補正を却下する。 2 理由 (1)本件補正の内容 本件審判の請求と同時にされた令和3年6月15日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1についてする補正であって、本件補正前後の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 ア 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載 本件補正前、すなわち、令和2年9月18日付けの手続補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 「【請求項1】 ある割合の有機硫黄化合物および酸素を含む水素富化ガスから硫黄を除去するための方法であって、有機硫黄化合物を硫化水素に還元するための触媒プロセスが実施され、使用される前記触媒は貴金属触媒であり、前記水素富化ガスはCOSおよびCS2を含む群から選択される少なくとも1つの化合物を含み、前記有機硫黄化合物の触媒転化は200℃~250℃の範囲で行われ、前記ガス混合物中になお存在する有機硫黄化合物が貴金属をベースとしない触媒で硫化水素に変換されて、その後に硫化水素が塩基性媒体中での吸収によってガス混合物から除去される段階が前記触媒プロセスの下流に配置され、前記水素富化ガス中に存在する前記酸素は前記有機硫黄化合物の還元と同時に水に変換され、前記貴金属をベースとしない触媒が、硫化コバルト-モリブデン触媒またはニッケル-モリブデン触媒であることを特徴とする、方法。」 イ 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載 上記アの本件補正前(令和2年9月18日付け手続補正後)の特許請求の範囲の請求項1の記載は、本件補正により、次のとおりに補正された。 「【請求項1】 ある割合の有機硫黄化合物および酸素を含む水素富化ガスから硫黄を除去するための方法であって、有機硫黄化合物を硫化水素に還元するための触媒プロセスが実施され、使用される前記触媒はルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムおよび白金から成る群から選択される少なくとも1つの貴金属を含む貴金属触媒であり、前記水素富化ガスはCOSおよびCS2を含む群から選択される少なくとも1つの化合物を含み、前記有機硫黄化合物の触媒転化は200℃~250℃の範囲で行われ、前記ガス混合物中になお存在する有機硫黄化合物が貴金属をベースとしない触媒で硫化水素に変換されて、その後に硫化水素が塩基性媒体中での吸収によってガス混合物から除去される段階が前記触媒プロセスの下流に配置され、前記水素富化ガス中に存在する前記酸素は前記有機硫黄化合物の還元と同時に水に変換され、前記貴金属をベースとしない触媒が、硫化コバルト-モリブデン触媒またはニッケル-モリブデン触媒であり、水素富化ガスは酸素と水素との触媒反応からの廃熱によって加熱されることを特徴とする、方法。」 (2)本件補正の目的要件について ア 本件補正の補正事項について 本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「貴金属触媒」を「ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムおよび白金から成る群から選択される少なくとも1つの貴金属を含む貴金属触媒」に限定し(以下、「補正事項1」という。)、かつ、「水素富化ガスは酸素と水素との触媒反応からの廃熱によって加熱される」という事項を新たに追加するもの(以下、「補正事項2」という。)である。 イ 各補正事項についての検討 (ア)補正事項1 補正事項1は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「貴金属触媒」を「ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムおよび白金から成る群から選択される少なくとも1つの貴金属を含む」ことに限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (イ)補正事項2 本件補正前の請求項1に記載された発明は、発明を特定するために必要な事項(発明特定事項)として、水素富化ガスを効率的に加熱する工程に関する事項を有していないから、補正事項2に係る「水素富化ガスは酸素と水素との触媒反応からの廃熱によって加熱される」という事項は、実質的に当該工程に関する事項を新たに追加するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明のいずれの発明特定事項をも概念的に下位にしたものではないと解するのが相当である。したがって、補正事項2は、当該発明特定事項を限定するものではない。 しかも、本件補正前の請求項1に記載された発明の解決しようとする課題は、「工業用ガス中の元素状酸素の除去のコストを削減し、同時に理想的には先行技術と比較して比較的低い温度で、ガス中に存在する硫化炭素および同様に硫化水素中に存在する任意の有機硫黄化合物(例えばチオフェンまたはメルカプタン)の理想的に定量的な変換を確実にする方法を提案すること」(【0014】)というものであるのに対して、本件補正後の同課題には、補正事項2に係る「水素富化ガスは酸素と水素との触媒反応からの廃熱によって加熱される」との発明特定事項に起因して、「脱硫のためにガス混合物を加熱するために可能な限り少ないエネルギーを費やすことを必要とする方法を提案すること」(【0014】)との課題が追加されている。そして、この補正後の課題は、補正前の課題を概念的に下位にしたものでも、同種のものでもないなど、補正前の課題と技術的に密接に関連しているとはいえないから、当該補正事項2を含む本件補正前後の請求項1に係る発明の解決しようとする課題が同一であるということもできない。 したがって、補正事項2は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものであるとはいえない。 また、補正事項2が、請求項の削除、誤記の訂正又は明瞭でない記載の釈明を目的とするものでないことは明らかである。 ウ 小括 よって、補正事項2を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しない。 (3)本件補正の独立特許要件について 上記(2)のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しないが、仮に、本件補正が特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものであるとした場合、本件補正が適法にされたものであるというためには、更に特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定(独立特許要件)に適合することが必要であるから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについても念のために検討すると、当審は、本件補正発明は特許法第29条第2項所定の規定に違反するもの(進歩性が欠如するもの)、具体的には、後記引用文献1に記載された発明並びに後記引用文献2~5及びAの記載から認められる周知技術ないし公知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許を受けることができないものである、と判断する。 以下、その理由について詳述する。 ア 引用文献とその記載事項 (ア)引用文献一覧 引用文献1:特開昭61-89294号公報 引用文献2:特開昭59-232175号公報 引用文献3:特開昭58-215488号公報 引用文献4:英国特許出願公告第340016号明細書 引用文献5:特公昭61-9244号公報 引用文献A:吉川文明ら,化学工学論文集,1997年,第23巻,第6号, p.892-898 なお、引用文献1~4及びAは、審査段階において、既に提示された文献である。また、引用文献5は、上記補正事項2に係る技術的事項が古くから知られた技術であることを立証するために、当審において、新たに提示する文献である。 (イ)引用文献1の記載事項(下線は当審が付した。以下同じ) 引用文献1には、次の事項が記載されている。 a 「2.特許請求の範囲 1.コークス炉ガスを、パラジウム触媒により不飽和炭化水素および酸素を水添することを特徴とするコークス炉ガスの精製法。 2.前記パラジウム触媒による水添の前に、前処理としてホットボトル、油洗浄、冷却を行なう前記特許請求の範囲第1項記載のコークス炉ガスの精製法。 3.前記パラジウム触媒による水添の後に、水添脱硫触媒により硫化物を水添脱硫する前記特許請求の範囲第1項または第2項記載のコークス炉ガスの精製法。 4.前記パラジウム触媒による水添の後に、吸着剤により吸着分離を行ない、水素を回収する前記特許請求の範囲第1項または第2項記載のコークス炉ガスの精製法。 5.前記吸着剤がゼオライトである前記特許請求の範囲第4項記載のコークス炉ガスの精製法。」 (特許請求の範囲) b 「このように、コークス炉ガスからジエン類、アセチレン類、オレフィン等の不飽和炭化水素や硫化物、酸素を有効に除去する方法は改善が必要とされているのが実情である。 (発明の目的) 本発明はかかる問題点に鑑みなされたもので、コークス炉ガスから不飽和炭化水素等の不純物を有効に除去することを目的とする。」 (第2頁左下欄第3~10行) c 「本発明においては、コークス炉ガスを先ず60~150℃に昇温する。コークス炉ガス中に、芳香族化合物、窒素酸化物が含まれている場合には、5~50kg/cm2Gに昇圧後ホットボトルにて、NOxやアセチレン類、ジエン類を重合させて除去し、次いでガス油の如き吸収油で油洗浄して重質炭化水素、ナフタリン、芳香族化合物等を除去し、さらに冷却してナフタリン等を析出除去する。このような処理をされたコークス炉ガス中にはもはやNOxや芳香族化合物は実質的に残存していない。 次いで、このコーク炉ガスを、パラジウム触媒に接触させジエン類、オレフィン類等の不飽和炭化水素や酸素を選択的に水添する。パラジウム触媒は有機硫黄化合物の存在下でも触媒層入口温度を100~200℃に上げることにより、オレフィン類、ジエン類等の不飽和炭化水素や酸素が充分に水添される。このため残留オレフィン類等に硫化水素が付加し、新たに有機硫黄化合物を副生することがなく、またオレフィン類等と一酸化炭素および水蒸気によって有機酸を副生することが少ないため腐食の問題が生じない。また、パラジウム触媒は100~200℃で充分高い触媒活性を発揮する。従って、パラジウム触媒の入口温度をこの範囲の温度にすると、パラジウム触媒における水添反応は脱酸素反応およびエチレン等の水添反応であり発熱反応であることから、コークス炉ガス中の組成により多少の変動はあるが、パラジウム触媒出口温度は270~330℃となる。」 (第2頁左下欄第19行~第3頁左上欄第6行) d 「このようにしてオレフィン類やジエン類等の不飽和炭化水素や酸素が水添されたコークス炉ガスは、次に水添脱硫し有機硫黄化合物等の硫化物を脱硫したり、ゼオライト吸着により水素を分離する。 水添脱硫に用いらる触媒はニッケル触媒、NiMo触媒、CoMo触媒等の通常の水添脱硫触媒が用いられる。この水添脱硫においては、コークス炉ガス中のオレフィン類等の不飽和炭化水素がパラジウム触媒の水添によって、充分水添されているため、オレフィン等と硫化水素が反応して有機硫黄化合物が生成することがない。」 (第3頁左上欄第20行~第3頁右上欄第11行) e 「実施例 第1表に示す組成のコークス炉ガスを第2図に示すフローに従って、ホットボトル、油洗浄、冷却という前処理を施した後、断熱反応器を設け、パラジウム触媒を充填(当審注:「填」は土へんに「眞」)し、入口温度を150℃に設定した結果、出口温度は280℃になり、そのままNiMo触媒層に送入し、水添脱硫を行なった。このパラジウム触媒層出口およびNiMo触媒層出口のコークス炉ガスの組成を第1表に示した。なお、NiMo触媒層は冷却する必要がなかった。 第1表に示されるごとく、比較例におけるNiMo触媒層出口のコークス炉ガス組成はオレフィン類、有機酸や有機硫黄化合物がかなり含有されているが、実施例のパラジウム触媒層出口のコークス炉ガス組成はオレフィン類や有機酸が含有されておらず、オレフィン類は完全に水添され、有機酸は副生しないことが判った。また、実施例のNiMo触媒層出口のコークス炉ガス組成においては、有機硫黄化合物が完全に水添されていることが判った。」 (第3頁右下欄第8行~第4頁左下欄第10行) f 「 [図:0001394423000001.jpg] 」 (第4頁の第1表) (ウ)引用文献2の記載事項 引用文献2には、次の事項が記載されている。 a 「特許請求の範囲 1.不純物としてジエン類、酸素、オレフィン類及び硫黄化合物を含有するコークス炉ガスを精製する方法において、該不純物を、触媒として白金族金属を担持した触媒の存在下で水添する工程、及び前記水添工程により水素化処理されたコークス炉ガス中の硫化水素を吸着除去する硫化水素除去工程の各工程を包含することを特徴とするガスの精製法。」 (特許請求の範囲第1項) b 「本発明で水添反応に使用する触媒の例には、白金及び/又はパラジウムを例えばアルミナ、チタニア又はマグネシア等の担体に担持したものがあり、その水添性能は画期的に優れている。上記水添触媒は製造工程において、還元状態になっているのでこのまま使用される。還元状態において、金属成分の量は触媒全重量に対して、0.01~5重量%が水添活性向上に役立つ。上記の特殊な水添触媒を用いて行われる水添反応の温度は50~450℃、好ましくは150~350℃である。コークス炉ガス中には酸素が0.1~2容量%含有するが、酸素が1容量%反応すると、150℃の温度上昇がある。また、コークス炉ガス中にはオレフィン類が3~5容量%含有するが、オレフィン類が1容量%反応すると、30℃の温度上昇がある。したがってコークス炉ガス中のオレフィン類、酸素濃度の変化により、触媒層内の温度は500℃以上に達することがしばしばある。水添触媒が500℃を超えると触媒の半融現象による失活、反応器の損傷となる。反応熱を制御するには触媒層の温度上昇を監視して、硫化水素除去工程からの精製ガスの一部を水添工程の入口へ再循環させ、入口の酸素、オレフィン濃度を希釈してやることにより、水添工程の温度が450℃を超えないように調節を行うと良い。また、水添工程の入口温度を50~300℃の範囲内に調節することも効果的である。」 (第2頁左上欄第16行~第2頁左下欄第2行) (エ)引用文献3の記載事項 引用文献3には、次の事項が記載されている。 a 「2.特許請求の範囲 (1)メタン、酸素および少なくとも1つの有機硫黄化合物を含むガス(A)を水素化脱硫する方法において、パラジウムを含む第1触媒上を温度300~450℃で、ついでモリブデンとニッケルおよびコバルトよりなる群の第2金属の少なくとも1つとを含む第2触媒上を上記限定300~450℃の範囲を含む温度で、上記ガス(A)と水素を含むガス(B)の混合物を通す工程を特徴とする方法。」 (特許請求の範囲第1項) b 「酸素および有機硫黄化合物の両者を含む他のガス(たとえばCOS、CS2、メルカプタン、硫化物、二硫化物)は、たとえば、石炭、亜炭、瀝青質頁岩または残油のコークス化およびガス化によって得られるか、または採油井戸の発生ガスないしは精油所のガスよりなるものである。」 (第2頁左下欄第11~16行) (オ)引用文献4の記載事項 引用文献4には、次の事項が記載されている。 a 「The hydrogen sulphide may be removed for example by absorption in alkaline solutions, or by means of organic solvents, or by means of solid adsorbents or absorbents if desired under pressure, or by catalytic oxidation.」 (第2頁左欄第21行~第27行) (当審仮訳:「硫化水素は、例えば、アルカリ溶液に吸収させるか、有機溶媒を用いるか、固体吸着剤または吸収剤を所望により加圧して用いるか、または触媒酸化により除去することができる。」) (カ)引用文献5の記載事項 引用文献5には、次の事項が記載されている。 a 「特許請求の範囲 1 コークス炉ガスからモレキュラーシーブ法を利用して高純度水素ガスを製造する方法に於て、その前処理工程の1つにコークス炉ガス中に含まれる酸素を、ニッケル-モリブデン触媒を用いて水添還元し水として除去する工程を含ませたことを特徴とするコークス炉ガスの精製法。」 (特許請求の範囲第1項) b 「反応温度は比較的低い温度でも活性を示し、反応器入口温度で150~250℃の範囲で充分である。但し反応器出口温度は酸素及び一部オレフィン類の水添反応熱により上昇し、O2等の濃度によっては400℃前後になる場合もある。反応器の構造としては通常の円筒ドラム型でよく特別の構造は不要である。但し反応器出口ガス温度は前記の様に相当高くなるので熱交換器を設け、反応器を出る高温ガスを用いて反応器入口ガスを必要温度迄予熱すれば熱経済的に有利である。」 (第2頁第4欄第43行~第3頁第5欄第8行) (キ)引用文献Aの記載事項 引用文献Aには、次の事項が記載されている。 a 「コークス炉ガスを化学原料や都市ガス原料として利用するためには硫黄化合物等の不純物を除去する必要がある.硫黄化合物のひとつ, 二硫化炭素(CS2)を低温で除去可能な新しい吸着剤を提案した.けい酸カルシウムにジエタノールアミンを含浸した吸着剤で40~50℃の低温において高いCS2除去性能を示した.多量の炭化水素やCO2が含まれるコ一クス炉ガス中においても, 45℃, 空間速度99h-1で280日間CS2を100%吸着除去した.本吸着剤と既報のK2CO3含浸アルミナ触媒を用いて, 45℃, 常圧でコークス炉ガス中の有機硫黄化合物のほとんどを占めるCS2と硫化カルボニルを300日間に渡ってそれぞれ96%, 76%以上除去できた.」 (第892頁の要約) b 「 [図:0001394423000002.jpg] 」 (第894頁のTable2) イ 引用文献1に記載された発明(引用発明)の認定 引用文献1には、「コークス炉ガスからジエン類、アセチレン類、オレフィン等の不飽和炭化水素や硫化物、酸素を有効に除去する方法は改善が必要とされている」とし、「本発明はかかる問題点に鑑みなされたもので、コークス炉ガスから不飽和炭化水素等の不純物を有効に除去することを目的とする」と記載されているから(上記ア(イ)b参照)、引用文献1には、硫化物、不飽和炭化水素及び酸素を含むコークス炉ガスから、硫化物、不飽和炭化水素及び酸素を除去するための方法が記載されているといえる。 また、引用文献1には、硫化物が「有機硫黄化合物等の硫化物」であることも記載されている(上記ア(イ)d参照)。 さらに、引用文献1には、「コークス炉ガスを、パラジウム触媒により不飽和炭化水素および酸素を水添」し、その後、「水添脱硫触媒により硫化物を水添脱硫する」ことが記載され(上記ア(イ)a参照)、この水添及び水添脱硫の具体的条件等について、「コーク炉ガスを、パラジウム触媒に接触させジエン類、オレフィン類等の不飽和炭化水素や酸素を選択的に水添する」とき、「触媒層入口温度を100~200℃」とすること、及び「触媒出口温度は270~330℃となる」こと(上記ア(イ)c参照)、並びに、「水添脱硫触媒」が「NiMo触媒」であること(上記ア(イ)d参照)、がそれぞれ記載されている。 以上のことから、引用文献1には、次のような方法に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「有機硫黄化合物等の硫化物、不飽和炭化水素及び酸素を含むコークス炉ガスから、有機硫黄化合物等の硫化物、不飽和炭化水素及び酸素を除去するための方法であって、パラジウム触媒により不飽和炭化水素および酸素を水添し、そのときの触媒層入口温度は100~200℃、出口温度は270~330℃であり、その後、NiMo触媒により有機硫黄化合物等の硫化物を水添脱硫する、方法。」 ウ 周知技術ないし公知技術の認定 ここで、本件補正発明に関連する周知技術ないし公知技術についても整理しておく。 (ア)引用文献2には、「不純物としてジエン類、酸素、オレフィン類及び硫黄化合物を含有するコークス炉ガスを精製する方法において」(上記ア(ウ)a)、「水添反応に使用する触媒」として「白金及び/又はパラジウムを例えばアルミナ、チタニア又はマグネシア等の担体に担持したもの」を用いた場合の「水添反応の温度は50~450℃,好ましくは150~350℃である」(上記ア(ウ)b)ことが記載されている。 そうしてみると、パラジウム触媒により150~350℃で有機硫黄化合物等を水添することは、本願優先日当時における周知技術ないし公知技術といえる。 (イ)引用文献3には「酸素および有機硫黄化合物の両者を含む他のガス(たとえばCOS、CS2…)は、たとえば、石炭、亜炭、瀝青質頁岩または残油のコークス化…によって得られる」(上記ア(エ)b)と記載されている。 また、引用文献Aには「常圧でコークス炉ガス中の有機硫黄化合物のほとんどを占めるCS2と硫化カルボニル」(上記ア(キ)a)と記載されている。ここで、「硫化カルボニル」は「COS」に相当する。 そうしてみると、コークス炉ガスがCOS及びCS2を含むことは、本願優先日当時において周知のことであるといえる。 (ウ)引用文献4には「硫化水素は、例えば、アルカリ溶液に吸収させるか、…により除去することができる。」)」(上記ア(オ)a)と記載されている。ここで、引用文献4に記載された「アルカリ溶液」は本件補正発明の「塩基性媒体」に相当する。 そうしてみると、硫化水素を塩基性媒体中での吸収によって除去することは、本願優先日当時において周知のことであるといえる。 (エ)引用文献5には「コークス炉ガス中に含まれる酸素を、ニッケル-モリブデン触媒を用いて水添還元し水として除去する」(上記ア(カ)a)際に、「反応器出口温度は酸素及び一部オレフィン類の水添反応熱により上昇し、O2等の濃度によつては400℃前後になる場合もある。…反応器出口ガス温度は前記の様に相当高くなるので熱交換器を設け、反応器を出る高温ガスを用いて反応器入口ガスを必要温度迄予熱すれば熱経済的に有利である」(上記ア(カ)b)ことが記載されている。ここで、引用文献5に記載された「反応器を出る高温ガス」は、触媒により酸素を水添したときの反応熱により温度が上昇したガスであるから、本件補正発明の「酸素と水素との触媒反応からの廃熱」に相当する。 そうしてみると、熱経済的に有利な方法として、コークス炉ガスを、酸素と水素との触媒反応からの廃熱によって加熱する方法は、公知の技術であるといえる。 エ 本件補正発明と引用発明との対比 (ア)本件補正発明と引用発明とを対比してみると、両者の対応関係は、次のとおりに解することができる。 ・引用発明の「有機硫黄化合物等の硫化物、不飽和炭化水素及び酸素を含むコークス炉ガス」は、本願明細書[0018]でコークス炉ガスが水素富化ガスとして挙げられていることからも分かるように、本件補正発明の「ある割合の有機硫黄化合物および酸素を含む水素富化ガス」に相当する。 ・引用発明の「有機硫黄化合物等の硫化物…を除去する」ことは、硫化物を除去すれば硫黄が除去されるから、本件補正発明の「硫黄を除去する」ことに相当する。 ・引用発明の「パラジウム触媒により不飽和炭化水素および酸素を水添」することは、本件補正発明の「触媒プロセスが実施され、使用される前記触媒はルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムおよび白金から成る群から選択される少なくとも1つの貴金属を含む貴金属触媒であ」ることに相当する。 ・引用発明の「NiMo触媒により有機硫黄化合物等の硫化物を水添脱硫する」ことは、NiMo触媒とニッケル-モリブデン触媒は同じであることと、(コークス炉ガス中の)有機硫黄化合物を水添脱硫すれば、ガス混合物中の有機硫黄化合物が硫化水素に変換されることとを考慮すれば、本件補正発明の「ガス混合物中になお存在する有機硫黄化合物が貴金属をベースとしない触媒で硫化水素に変換され」、「前記貴金属をベースとしない触媒が、硫化コバルト-モリブデン触媒またはニッケル-モリブデン触媒であ」ることに相当する。 (イ)以上の対応関係に照らすと、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、それぞれ、次のように認定することができる。 a 一致点 「ある割合の有機硫黄化合物および酸素を含む水素富化ガスから硫黄を除去するための方法であって、触媒プロセスが実施され、使用される前記触媒はルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムおよび白金から成る群から選択される少なくとも1つの貴金属を含む貴金属触媒であり、ガス混合物中になお存在する有機硫黄化合物が貴金属をベースとしない触媒で硫化水素に変換され、前記貴金属をベースとしない触媒が、硫化コバルト-モリブデン触媒またはニッケル-モリブデン触媒である、方法。」 b 相違点 (相違点1)本件補正発明では、貴金属触媒による触媒プロセスにより「有機硫黄化合物を硫化水素に還元」し、「前記水素富化ガス中に存在する前記酸素は前記有機硫黄化合物の還元と同時に水に変換」するのに対して、引用発明では、同プロセスにより「不飽和炭化水素および酸素を水添」するとしている点。 (相違点2)本件補正発明では、水素富化ガスが「COSおよびCS2を含む群から選択される少なくとも1つの化合物」を含むのに対して、引用発明では、水素富化ガスが「有機硫黄化合物」を含むものの、「COSおよびCS2」を含むとまでは特定していない点。 (相違点3)本件補正発明では、「有機硫黄化合物の触媒転化は200℃~250℃の範囲で行われ」るのに対して、引用発明では、「触媒層入口温度は100~200℃、出口温度は270~330℃」であるものの、触媒転化が行われる温度は不明である点。 (相違点4)本件補正発明では、「硫化水素が塩基性媒体中での吸収によってガス混合物から除去される段階が前記触媒プロセスの下流に配置され」ているのに対して、引用発明では、当該段階が配置されていない点。 (相違点5)本件補正発明では、「水素富化ガスは酸素と水素との触媒反応からの廃熱によって加熱される」のに対して、引用発明では、廃熱による加熱がない点。 オ 相違点の検討 (ア)相違点1について 引用発明では、貴金属触媒による触媒プロセスにより「酸素を水添」しており、これは本件補正発明の「酸素」を「水に変換」することに相当する。 また、引用発明の方法をより具体化した引用文献1の実施例の記載(上記ア(イ)e及びf参照)をみると、第1表において、コークス炉ガスの有機硫黄化合物の量(「90~160」)よりもパラジウム触媒出口の有機硫黄化合物の量(「60~100」)が低くなっていることから、引用文献1の実施例においては、パラジウム触媒により有機硫黄化合物が反応して変換されていることが読み取れる。さすれば、引用発明の方法でも、パラジウム触媒により有機硫黄化合物が反応して変換されるものと考えるのが合理的である。 さらに、引用発明の触媒は、本件補正発明の触媒と同じ材料(パラジウム)からなるものであり、かつ、引用発明の反応温度についても、後記(ウ)aで検討するとおり、本件補正発明と同程度であることから、貴金属触媒による触媒プロセスにおいて、引用発明でも本件補正発明と同様の反応が起こるものと解するのが自然である。 加えて、引用発明の触媒と同じ材料(パラジウム)からなる触媒が、引用発明と同程度の反応温度において、有機硫黄化合物を水添(つまり、硫化水素に還元)することは、本願優先日当時においてよく知られたことである(上記ウ(ア)参照)。 以上のことを併せ考慮すれば、引用発明でも本件補正発明と同様に、貴金属触媒による触媒プロセスにより「有機硫黄化合物を硫化水素に還元」し、「前記水素富化ガス中に存在する前記酸素は前記有機硫黄化合物の還元と同時に水に変換」していると理解するのが相当である。 よって、相違点1は実質的な相違点ではない。 (イ)相違点2について コークス炉ガスがCOSやCS2を含むことは周知であるから(上記ウ(イ)参照)、引用発明の水素富化ガスである「コークス炉ガス」は、「COSおよびCS2を含む群から選択される少なくとも1つの化合物」を含むものと認められる。 よって、相違点2は実質的な相違点ではない。 (ウ)相違点3について a 引用発明では、触媒層入口温度が100~200℃、出口温度が270~330℃であるから、触媒反応の温度はその間であると認められる。 また、引用発明において、触媒層の入口温度よりも出口温度が高くなるのは、触媒反応が発熱反応であることによるから(上記ア(イ)c参照)、引用発明においては、触媒層に入ったガスが、100~200℃でまず入口側の触媒に触れ、その後、出口までに270~330℃に加熱されることになると認められる。 加えて、引用発明と同じ材料(パラジウム)からなる触媒において、200℃~250℃を含む150~350℃の温度範囲で触媒反応(有機硫黄化合物の触媒転化)が起こることは、本願優先日当時に既に知られていたことである(上記ウ(ア)参照)。 そうしてみると、引用発明では、触媒層の入口から出口までのいずれかの部分において、100~200℃と270~330℃の間の温度である200℃~250℃の範囲でも触媒反応が起こっているものと考えられる。 以上のことから、引用発明でも、「有機硫黄化合物の触媒転化は200℃~250℃の範囲で行われ」ているといえるから、相違点2は実質的な相違点ではない。 b 仮に、引用発明では「有機硫黄化合物の触媒転化は200℃~250℃の範囲で行われ」ていないとしても、引用発明と同じ材料(パラジウム)からなる触媒の反応温度を、上記のとおり慣用されている150~350℃の範囲内の適宜の温度に設定することは、単なる温度範囲の好適化に過ぎず、当業者の通常能力の発揮の域を超えるものではないから、引用発明において、触媒反応の温度を200℃~250℃とすることは、当業者が容易になし得ることである。 そして、本願明細書の【0032】等の記載をみても、触媒反応の温度を200℃~250℃とすることによる格別な効果を見い出すことはできない。 なお、引用文献1には、「パラジウム触媒は100~200℃で充分高い触媒活性を発揮する」という記載がある(上記ア(イ)c参照)。しかし、引用発明では、触媒層入口温度は100~200℃であるが、出口温度は270~330℃となっている以上、実際には発熱反応により触媒反応の温度が100~200℃より大きいはずであるし、また、たとえ触媒反応の温度が100~200℃で充分であったとしても、それより高い温度に設定することを妨げるものではない。したがって、上記記載は、引用発明において、触媒反応の温度を200℃~250℃とすることの阻害要因とはならない。 (エ)相違点4について 硫化水素は有毒性の化学物質であるし、硫黄資源の回収という点からも、発生した硫化水素を回収することは当業者にとって自明の課題といえ、この課題は、引用発明においても内在するものというべきである。 また、硫化水素を塩基性媒体中での吸収によって除去することは、本願優先日当時において周知のことである(上記ウ(ウ)参照)。 そうしてみると、引用発明において、「硫化水素が塩基性媒体中での吸収によってガス混合物から除去される段階」を「触媒プロセスの下流に配置」することは、当業者が容易になし得ることである。 (オ)相違点5について 熱経済的に有利な方法として、コークス炉ガス(水素富化ガス)を、酸素と水素との触媒反応からの廃熱によって加熱する方法は、本願優先日の前から当業者がよく熟知する技術に過ぎないから(上記ウ(エ)参照)、引用発明において、当業者であれば当然に熟慮すべき熱経済性を考慮して、触媒により酸素を水添(本件補正発明の「酸素と水素との触媒反応」に相当)した結果生じた温度が270~330℃であるパラジウム触媒出口からのガス(その熱は本件補正発明の「廃熱」に相当)を、その後段のNiMo触媒による水添脱硫温度を考慮しつつ、パラジウム触媒入口に入るガス(本件補正発明の「水素富化ガス」に相当)を加熱することに用いることは、当業者が容易になし得ることである。 カ 請求人の主張についての検討 (ア)請求人は、令和3年7月28日付け手続補正書により補正された審判請求書において、「水素富化ガスは酸素と水素との触媒反応からの廃熱によって加熱される」点はいずれの引用文献にも記載されておらず、また、本件補正発明は、このことによりエネルギー消費を抑制し得るという効果を有するから、本件補正発明は進歩性を有すると主張する(令和3年7月28日付け手続補正書第2頁の(3)(b)参照)。 しかしながら、上記オ(オ)で検討したとおり、この点は引用文献5(上記ウ(エ))に記載されているように公知の技術であり、その効果も引用文献5の記載(「熱経済的に有利」)から予測し得るものであるから、この点に進歩性を見い出すことはできず、請求人の上記主張は採用できない。 キ 本件補正の独立特許要件についてのまとめ 以上の検討によれば、上記相違点に係る本件補正発明の構成は、引用発明が既に具備するものであるか、引用発明等から容易想到の事項であって、各構成に係る効果、さらには、それらの組合せに係る効果も格別なものではないので、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明並びに引用文献2~5及びAに記載された周知技術ないし公知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、本件補正は独立特許要件に適合しない。 (4)補正の却下の決定のむすび 上記(2)に記載したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものである。 また、仮に、本件補正が特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものであるとした場合でも、上記(3)に記載したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものである。 以上のとおり、いずれにしても本件補正は、適法にされたものではないから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、本件補正(令和3年6月15日付けの手続補正)については、上記1の補正却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 令和3年6月15日付けの手続補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和2年9月18日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである(上記第2の2(1)ア参照)。 2 原査定における拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、令和2年3月17日付け拒絶理由通知書に記載した理由1、2であって、その概要は次のとおりである。 (1)理由1(進歩性欠如に関する拒絶理由) 本願発明は、本件優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1~4及びAに記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 <引用文献等一覧> 1.特開昭61-089294号公報 2.特開昭59-232175号公報 3.特開昭58-215488号公報 4.英国特許出願公告第340016号明細書 A.吉川文明ら,化学工学論文集,1997年,第23巻,第6号,p.892-898 (2)理由2(サポート要件違反の拒絶理由) 本願発明は、その課題を「工業用ガス中の元素状酸素の除去のコストを削減し、同時に理想的には先行技術と比較して比較的低い温度で、ガス中に存在する硫化炭素および同様に硫化水素中に存在する任意の有機硫黄化合物(例えばチオフェンまたはメルカプタン)の理想的に定量的な変換を確実にする方法を提案すること」とするところ、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえないし、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該課題を解決できる範囲のものであるともいえないから、本願特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものではないため、本願は、同項に規定する要件を満たしていない。 3 本願明細書の記載 (1)「【発明が解決しようとする課題】 【0014】 したがって、本発明は、工業用ガス中の元素状酸素の除去のコストを削減し、同時に理想的には先行技術と比較して比較的低い温度で、ガス中に存在する硫化炭素および同様に硫化水素中に存在する任意の有機硫黄化合物(例えばチオフェンまたはメルカプタン)の理想的に定量的な変換を確実にする方法を提案することを目的とする。本発明のさらなる目的は、脱硫のためにガス混合物を加熱するために可能な限り少ないエネルギーを費やすことを必要とする方法を提案することである。」 (2)「【発明を実施するための形態】 【0017】 本発明の文脈において、「貴金属」は、水素電極に関して少なくとも0.45Vの正の標準電位(pH7の水溶液中)を有する金属を意味すると理解されるべきであり、本発明の文脈では、好ましくは、金、白金、イリジウム、パラジウム、オスミウム、銀、ルテニウム、およびロジウムであり、特に好ましくは、パラジウム、白金、およびロジウムであり、パラジウムおよび白金が最も好ましい。貴金属は、列挙された金属のうちの1つからなるか、または列挙された複数の金属の混合物であり得る。 ・・・ 【0020】 貴金属触媒は、好適には固体担体材料に結合している形態である。適切な担体材料には、特に従来の自動車触媒の担体材料としても使用されるような酸化アルミニウム、またはセラミックが含まれる。適切な酸化アルミニウムは、特に高い内部表面積を有するものである。 【0021】 列挙した種類の酸化アルミニウム担体は先行技術からよく知られている。このように、例えば欧州特許第1385786号明細書および欧州特許第1385787号明細書(Axens)は、ハイドラルギライト型の酸化アルミニウムを粉砕し、硝酸アルミニウムおよびギ酸の水溶液を用いて200℃で6時間かけて水熱処理して、得られた生成物を400℃~1300℃で焼成する酸化アルミニウム担体の製造方法を記載している。担体材料は続いて押し出され、次いで装填する準備が整う。触媒担体の性質および製造が関係している限りにおいて、2つの列挙された文献は、参照により本明細書に引用される。 【0022】 担体材料の形状に関連する規格はないが、適切な形状としては、反応器内でダンプ床の形態で使用され得る球体、および触媒の比較的大きな表面積を保証するハニカムが挙げられる。 【0023】 列挙された触媒の従来の用途、例えば水素化反応において、一酸化炭素は触媒毒として作用する。しかしながら、本発明の根底にある研究において、貴金属触媒は、触媒の有効性の著しい損失が観察されることなく、水素富化ガス混合物中で使用可能であることが驚くべきことに見出された。行われた研究の文脈において、生成物中に酸素と水素の危険な混合物が観察されることなく、触媒に酸素含有ガス混合物を供給することもできることがさらに見出された。代わりに、触媒の作用下で酸素が水素と反応して水を生成することが観察されたので、触媒含有反応器から排出されたガス混合物はごくわずかな割合の酸素(<0.01体積%)しか含まなかった。 【0024】 酸素と水素との触媒反応はさらに、触媒とガス混合物とが爆発性ガス反応からの廃熱によって加熱され、その結果、(いったん最適な運転温度に達すると)触媒の外部加熱が必要ないという利点がある。さらに、高温のオフガスは、触媒含有反応器へのガス供給物を加熱するために熱交換器を使用して利用されてもよく、したがってさらなるエネルギー節減をもたらす。したがって、本発明における水素富化ガスは、ある割合の酸素を含有することが好ましい。 ・・・ 【0030】 上記に特定したように、貴金属触媒はガス混合物中に存在する酸素を還元的に水に変換する。したがって、本発明による方法の文脈において、ガス中に存在する酸素が有機硫黄化合物の還元と同時に水に変換される場合が好ましい。ガス中に存在する酸素が実質的に、すなわちガス混合物中の酸素の総体積に基づいて少なくとも80体積%、好ましくは少なくとも90体積%、特に好ましくは少なくとも95体積%の程度までである場合に、有機硫黄化合物の還元と同時に水に変換されるのが特に好ましい。 ・・・ 【0036】 触媒転化は、水素富化ガス中に存在する有機硫黄成分を硫化水素(H2S)に変換する。・・・」 4 引用文献の記載事項及び引用発明 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1~4及びAは、上記第2の2(3)ア(ア)に列記した引用文献1~4及びAであり、その記載事項は、上記第2の2(3)ア(イ)~(オ)及び(キ)に記載したとおりである。また、引用文献1に記載された発明(引用発明)は、上記第2の2(3)イにおいて認定したとおりである。 5 当審の判断 (1)進歩性について 本願発明は、上記第2の2(3)にて、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討した本件補正発明において、「ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムおよび白金から成る群から選択される少なくとも1つの貴金属を含む貴金属触媒」から「ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムおよび白金から成る群から選択される少なくとも1つの貴金属を含む」という発明特定事項を省き、かつ「水素富化ガスは酸素と水素との触媒反応からの廃熱によって加熱される」という発明特定事項を省いたものである。 したがって、本願発明と引用発明とを対比すると、両者の対応関係は、上記第2の2(3)エ(ア)で検討したとおりであるから、両者は、上記第2の2(3)エ(イ)に示した、相違点1~相違点4で相違し、その余の点で一致しているといえる。 そして、当該相違点1~4については、上記第2の2(3)オ(ア)~(エ)で検討したとおりであるから、本願発明は、引用文献1に記載された発明並びに引用文献2~4及びAに記載された周知技術ないし公知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 よって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 (2)サポート要件について ア サポート要件の判断手法について 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるから、以下、この観点に立って検討する。 イ 特許請求の範囲の記載 特許請求の範囲の請求項1の記載は、上記第2の2(1)アのとおりである。 ウ 発明の詳細な説明の記載 本願明細書の発明の詳細な説明(及び図面)には、上記3において摘記した記載があるところ、特に、以下の記載事項を認めることができる。 (ア)本願発明の課題に関して、上記3(1)には、「本発明は、工業用ガス中の元素状酸素の除去のコストを削減し、同時に理想的には先行技術と比較して比較的低い温度で、ガス中に存在する硫化炭素および同様に硫化水素中に存在する任意の有機硫黄化合物(例えばチオフェンまたはメルカプタン)の理想的に定量的な変換を確実にする方法を提案することを目的とする。」と記載されている。 (イ)本願発明の「貴金属触媒」の「貴金属」に関して、上記3(2)には、「「貴金属」が水素電極に関して少なくとも0.45Vの正の標準電位(pH7の水溶液中)を有する金属を意味すると理解されるべきであり、本発明の文脈では、好ましくは、金、白金、イリジウム、パラジウム、オスミウム、銀、ルテニウム、およびロジウムであり、特に好ましくは、パラジウム、白金、およびロジウムであり、パラジウムおよび白金が最も好ましい。」(【0017】)と記載されている。 (ウ)本願発明の「貴金属触媒」の作用等に関して、上記3(2)には、「本発明の根底にある研究において、貴金属触媒は、触媒の有効性の著しい損失が観察されることなく、水素富化ガス混合物中で使用可能であることが驚くべきことに見出された。行われた研究の文脈において、生成物中に酸素と水素の危険な混合物が観察されることなく、触媒に酸素含有ガス混合物を供給することもできることがさらに見出された。代わりに、触媒の作用下で酸素が水素と反応して水を生成することが観察されたので、触媒含有反応器から排出されたガス混合物はごくわずかな割合の酸素(<0.01体積%)しか含まなかった。」(【0023】)、「貴金属触媒はガス混合物中に存在する酸素を還元的に水に変換する。したがって、本発明による方法の文脈において、ガス中に存在する酸素が有機硫黄化合物の還元と同時に水に変換される場合が好ましい。」(【0030】)と記載されている。 エ サポート要件適合性について(特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比・検討) (ア)本願発明の課題は、上記ウ(ア)の記載事項からみて、「工業用ガス中の元素状酸素の除去のコストを削減し、同時に理想的には先行技術と比較して比較的低い温度で、ガス中に存在する硫化炭素および同様に硫化水素中に存在する任意の有機硫黄化合物(例えばチオフェンまたはメルカプタン)の理想的に定量的な変換を確実にする方法を提案すること」にあると解されるところ、上記ウ(ウ)の記載事項によれば、当該課題は、貴金属触媒に関する驚くべき知見に基いて、貴金属触媒を用いて有機硫黄化合物と酸素とを同時に水素化反応させることにより、解決しようとするものであると認められる。そして、上記ウ(イ)の記載事項によれば、この貴金属触媒の貴金属には、金、白金、イリジウム、パラジウム、オスミウム、銀、ルテニウム、およびロジウムが含まれていることが分かる。 しかしながら、水素化反応に使用される貴金属が白金属金属に限られ、金は水素化反応の触媒として不活性であるという技術常識(後記参考文献1、2を参照した。)を踏まえると、上記貴金属触媒の貴金属のうち、当業者において上記課題が解決できると認識できるのは、白金族金属である、白金、イリジウム、パラジウム、オスミウム、ルテニウム及びロジウムの場合のみであるというべきである。 ・参考文献1:西村重夫ら,有機合成化学,1964年,第22巻, 第12号,p.961-974(拒絶査定で引用された引用文献B) (第961頁左欄第2~4行には、「水素化反応に使用さ れる貴金属はほとんど週(当審注:「周」の誤記と認め る。)期律表VIII族に属する白金属金属(Ru, Rh,Pd,Os,Ir,Pt)に限られ,かつもっぱら 金属状として使用される。」と記載されている。) ・参考文献2:春田正毅,表面科学,2005年,Vol. 26, No. 10, p.578-584(拒絶査定で引用された引用文献C) (第578頁左欄第4~5行には、「水素化や酸化反応の 触媒として金が不活性であることは自明の理である。」と 記載されている。) (イ)他方、特許請求の範囲の請求項1の記載は、上記第2の2(1)アのとおりであるところ、請求項1に記載された貴金属触媒の貴金属は、白金、イリジウム、パラジウム、オスミウム、ルテニウム及びロジウムに限らず、これら以外の貴金属、すなわち、金、銀等も含むものである。 そのため、上記(ア)のとおり、貴金属として、白金、イリジウム、パラジウム、オスミウム、ルテニウム及びロジウムを用いた貴金属触媒を使用した方法については、当業者において、発明の詳細な説明の記載などから本願発明の課題を解決できると認識できるとしても、これら以外の貴金属、すなわち、金、銀などの貴金属を用いた貴金属触媒を包含する本願発明についてまで、当業者において、上記課題が解決できると認識できるということはできない。 (ウ)したがって、本願発明は、発明の詳細な説明、又は、出願時の技術常識に照らし、当業者において、本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえないから、特許請求の範囲の請求項1の記載は、サポート要件に適合しない。 オ 請求人の主張の検討 請求人は、令和3年7月28日付け手続補正書により理由補充された審判請求書において、「引用文献Bには、水素化反応において、白金族金属が類似の活性を示すことが記されているところ、令和和3年6月15日に提出した手続補正書において請求項1の記載を改め、貴金属を白金族であるルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムおよび白金に限定したことにより、本拒絶理由は解消したものと思料する。」と主張しているが、令和3年6月15日付けの手続補正は、上記第2のとおり却下されたので、請求人の当該主張は採用できない。 カ 小括 以上のとおり、特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合しない。 第4 むすび 上記第3で検討したとおり、本願発明、すなわち、請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるし、また、特許請求の範囲の請求項1の記載は、同法第36条第6項第1号に適合するものであるとはいえないから、本願は同項に規定する要件を満たしていないため、その余の事項について検討するまでもなく、本願は、同法第49条第2号及び第4号に該当するため拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2021-007771

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