特許拒絶査定不服審判
2017-018192
液晶媒体
- 審判番号
- 2017-018192
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-020363
- 請求日
- 2017年12月07日
- 審決日
- 2018年06月12日
- 公報発行日
- 2018年12月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
- 【請求人代理人】伊藤 克博
- 審判長/審判官
- 審判長 冨士 良宏
- 審判官 日比野 隆治
- 審判官 天野 宏樹
- 分類
- P18 .113-Z (C09K) / P18 .121-Z (C09K) / P18 .16 -Z (C09K) / P18 .537-Z (C09K) / P18 .55 -Z (C09K) / P18 .561-Z (C09K) / P18 .572-Z (C09K) / P18 .575-Z (C09K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法17条の2第3項特許法29条1項3号特許法29条2項特許法29条の2特許法36条6項1号特許法49条1号特許法49条2号特許法49条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第29条の2、特許法第36条第6項第1号、特許法第50条の2、特許法第17条の2第6項、特許法第159条第1項、特許法第53条第1項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2016- 20363「液晶媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月 1日出願公開、特開2016-156003〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成21年12月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 平成20年12月22日、ドイツ(DE))を国際出願日とする特願2011-541215号の一部を、平成26年6月20日に新たな特許出願とした特願2014-126789号について、さらにその一部を平成28年2月5日に新たな特許出願としたものであって、その出願後の手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成28年 5月20日 手続補正書提出(自発)
同年11月22日付 特許法第50条の2の通知を伴う拒絶理由通 知
平成29年 5月30日 意見書・手続補正書提出
同年 7年31日付 補正の却下の決定・拒絶査定
同年12月 7日 審判請求書・手続補正書提出
平成30年 1月19日付 前置報告
第2 平成29年12月7日付け手続補正についての補正の却下の決定
1 補正の却下の決定の結論
平成29年12月7日付け手続補正を却下する。
2 理由
(1) 特許請求の範囲についてする補正の内容
ア 本件補正後の新請求項1、2、12の記載
平成29年12月7日提出の手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について補正するものであるところ、本件補正により、請求項1、2、12(以下、本件補正後の請求項を「新請求項1」などという。)は、次のとおりとなった。
「【請求項1】
・式I(ただし、aは0を表す。)の少なくとも1種類の化合物(ただし総濃度は、液晶媒体全体に対して3~50重量%である。)と、
・式PP-1-mの少なくとも1種類の化合物(ただし総濃度は、液晶媒体全体に対して少なくとも3重量%である。)と、
・負の誘電異方性を有する液晶化合物から選択される4種類以上の化合物(ただし総濃度は、混合物全体を基礎として45重量%以上である。)と
を含み、
ただし、ナフチレン骨格を含む化合物を含まず、
ただし、各総濃度の合計は100重量%以下であり、
負の誘電異方性を有することを特徴とする液晶媒体。」
「【請求項2】
負の誘電異方性を有する液晶化合物から選択される4種類以上の化合物のうち少なくとも1種類の化合物は、式CY-n-(O)m、CCY-n-(O)m、PY-n-(O)m、CPY-n-(O)m、PYP-n-(O)m、COYOICC-n-m、COYOIC-n-VおよびCCOY-V-OnVの化合物から成る群より選択されることを特徴とする請求項1に記載の液晶媒体。
【化1】
【化2】
(式中、
nおよびmは、それぞれ互いに独立に、1、2、3、4、5または6を表し、
(O)CmH2m+1は、CmH2m+1またはOCmH2m+1を表す。)」
「【請求項12】
式CCP-n-(O)mの1種類以上の化合物を更に含むことを特徴とする請求項1~11のいずれか1項に記載の液晶媒体。
【化12】
(式中、
nおよびmは、それぞれ互いに独立に、1、2、3、4、5または6を表し、
(O)CmH2m+1は、CmH2m+1またはOCmH2m+1を表す。)」
イ 旧特許請求の範囲(旧請求項1)の記載
一方、本件補正に先立ってなされた平成29年5月30日付け手続補正は、平成29年7月31日付けの補正の却下の決定により却下されたため、本件補正前の特許請求の範囲の記載(本件補正の基礎となる記載)は、平成28年5月20日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載であるところ、そのうちの請求項1の記載は次のとおりである(以下、当該特許請求の範囲を「旧特許請求の範囲」といい、その各請求項を「旧請求項1」などという。)。
「【請求項1】
・式I(ただし、aは0を表す。)の少なくとも1種類の化合物と、
・式B-1の少なくとも1種類の化合物と
を含むことを特徴とする液晶媒体。
【化1】
(式中、
R1およびR1*は、それぞれ互いに独立に、1~6個のC原子を有するアルキル基を表し、および
aは0を表す。)
【化2】
(式中、
alkylおよびalkyl*は、それぞれ互いに独立に、1~6個のC原子を有する直鎖状のアルキル基を表す。)」
ウ なお、新旧の請求項を比べてみると、新請求項1は、旧請求項1に対応するもの(旧請求項1から派生したもの)であることが分かるが、新請求項2、12については、旧特許請求の範囲において対応する請求項は見当たらないことから、当該新請求項2、12は、新設されたものであると解される(審判請求書にもその旨説明されている。)。
(2) 新請求項1、2、12に係る補正の適否
ア 新規事項の追加について
新請求項12は、新請求項1などを引用し、当該新請求項1などにおいて、式CCP-n-(O)mの1種類以上の化合物を更に含むことを特定するものである。
ここで、当該式CCP-n-(O)mの化合物のうち、「(O)CmH2m+1」が「OCmH2m+1」である化合物(以下、「新請求項12の化合物」という。)に着目して、本件の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下、「本件当初明細書等」という。)をみると、その【請求項7】には、次の記載がある。
「【請求項7】
該媒体が、式O-1~O-18の1種類以上の化合物を追加的に含むことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の液晶媒体。
【化12】
【化13】(省略)
(式中、
R1およびR2は、それぞれ互いに独立に、請求項2においてR2Aに示される意味を有する。)」
なお、当該請求項7における「請求項2においてR2Aに示される意味」とは、請求項2において、「R2A・・・は、それぞれ互いに独立に、H、15個までのC原子を有するアルキル基を表し、該基は無置換であるか、CNまたはCF3で一置換されているか、または、ハロゲンで少なくとも一置換されており、ただし加えて、これらの基における1個以上のCH2基は、O原子が互いに直接連結しないようにして、-O-、-S-、【化3】(省略)、-C≡C-、-CF2O-、-OCF2-、-OC-O-または-O-CO-で置き換えられていてもよ」いものである旨説明されている(下線は当審において付した。)。
さらに、本件当初明細書等の【0222】【表38】には、「例15」の成分として、「CCP-3-O1」、「CCP-2-O2」なるものが記載されている。ただし、これらの成分(略称)は、化合物の略称についてまとめられた同【0159】~【0174】において何ら説明されていないものであり、詳細は不明である。
ほかに、本件当初明細書等において、「新請求項12の化合物」について説明されている箇所は見当たらない。
そうすると、本件当初明細書等の【請求項7】には、式O-9として、概念的ないし形式的に「新請求項12の化合物」を含む化合物群が記載されているということができる。しかし、その化合物群の「R1」及び「R2」(すなわち請求項2記載の「R2A」)は多岐にわたる広範な選択肢を包含するため、当該「R1」及び「R2」として、それぞれ「CnH2n+1」及び「OCmH2m+1」(ただし、nおよびmは、それぞれ互いに独立に、1、2、3、4、5または6を表す。)を選択した化合物、すなわち「新請求項12の化合物」が、実体的なものとして記載されていたとまでいうことはできない。さらに、当該「新請求項12の化合物」は、新請求項1に記載された「式I(ただし、aは0を表す。)の少なくとも1種類の化合物」及び「式PP-1-mの少なくとも1種類の化合物」(ただし、下記「ウ(ア)」のとおり、これらの式が意味するところは不明である。)とともに配合されるものであるが、このような「新請求項12の化合物」とこれらの化合物との組合せについては、上記【請求項7】や【0222】【表38】はもとより、本件当初明細書等全体を仔細にみても、記載ないし示唆されているとは到底いえない。
したがって、当該新請求項12についてする補正は、本件当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものというほかないから、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内の補正に当たるとはいえない。
よって、当該補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであると認められる。
イ 目的要件について
(ア) 新請求項1に係る補正は、旧請求項1の記載と比較すれば明かなとおり、式Iを示す【化1】を削除する補正を含むものであるが、当該補正の目的は、特許法第17条の2第5項各号に掲げるいずれの事項にも該当しない。
(イ) 新請求項2、12は、本件補正により新設されるものであるから、本件補正は、いわゆる増項補正を含むものである。そして、当該新請求項2及び新請求項12はそれぞれ、旧特許請求の範囲には記載されていない、「負の誘電異方性を有する液晶化合物から選択される4種類以上の化合物」及び「式CCP-n-(O)mの1種類以上の化合物」について、さらに特定するものであるから、当該新請求項2、12に係る補正は、特許法第17条の2第5項第2号の括弧書きに規定される「第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するもの・・・に限る」という要件を満たしていない。
してみると、当該補正は、同号が掲げる、いわゆる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものとはいえない。また、当該補正が、同項各号が掲げる他の目的に該当するものではないことも明らかである。
(ウ) 上記(ア)、(イ)のとおりであるから、当該請求項1、2、12に係る補正を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反しているものであると認められる。
ウ 新請求項1、2、12に係る発明の独立特許要件について
仮に、新請求項1、2、12についての補正を、審判請求人が審判請求書において主張するとおり、特許法第17条の2第5項第2号(上記特許請求の範囲の限定的減縮)を目的とするものであると解しても、これらの新請求項の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件(明確性要件)又は同項第1号に規定する要件(サポート要件)に適合しないから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるとはいえない(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定(独立特許要件)に適合しない。)。
その理由は以下のとおりである。
(ア) 明確性要件について
新請求項1は、上記のとおり、式Iが欠落している。式PP-1-mについても同様である。
してみると、新請求項1に係る液晶媒体の構成成分(化合物)は、不明であるといわざるを得ないから、新請求項1に係る発明は明確とはいえず、当該新請求項1の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件に適合しない。当該新請求項1を引用する請求項2、12の記載についても同様である。
(イ) サポート要件について
上記のとおり、新請求項1に記載された式I及び式PP-1-mの内容は明確ではないが、これらの式が、それぞれ本件明細書の【0002】に記載された「式I」及び同【0168】【表9】に記載された「式PP-n-m」のn=1の場合を意味するものと善解しても、次に示すとおり、新請求項1の記載は、サポート要件に適合しない。
(i) サポート要件に適合するために、「特許請求の範囲に記載された範囲」と、「発明の詳細な説明の記載及び技術常識から、当業者において、本願発明の課題が解決できると認識できる範囲」とを比較して、前者が後者の範囲内にあることが必要となるから、この観点に立って検討してみる。
(ii) 特許請求の範囲の記載
「特許請求の範囲に記載された範囲」として、新請求項1に記載された範囲(新請求項1に係る発明。以下では、単に「本願発明」ということがある。)に着目してみると、当該新請求項1には、負の誘電異方性を有する液晶媒体が記載されており、当該液晶媒体は、次の3つの成分を含むものであることが分かる(以下、当該3成分を、順に「式I成分」、「式PP-1-m成分」、「負の誘電異方性成分」という。なお、当該「式I成分」の「式I」及び当該「式PP-1-m成分」の「式PP-1-m」は、それぞれ本件明細書の【0002】に記載された「式I」及び同【0168】【表9】に記載された「式PP-n-m」(n=1)であるとして以下扱う。)。
・式I(ただし、aは0を表す。)の少なくとも1種類の化合物(ただし総濃度は、液晶媒体全体に対して3~50重量%である。)
・式PP-1-mの少なくとも1種類の化合物(ただし総濃度は、液晶媒体全体に対して少なくとも3重量%である。)
・負の誘電異方性を有する液晶化合物から選択される4種類以上の化合物(ただし総濃度は、混合物全体を基礎として45重量%以上である。)
そして、各成分は、種々の化合物を包含する上、それらの配合割合は、順に「3~50重量%」、「少なくとも3重量%」、「45重量%以上」と規定されることから、広範にわたる化合物の組合せ及び配合割合(例えば、「式I成分」が3重量%程度で、「式PP-1-m成分」が大半を占める液晶媒体であるとか、「式I成分」と「式PP-1-m成分」とがともに3重量%程度で、「負の誘電異方性成分」が大半を占める液晶媒体など)を許容するものであるということができる。
(iii) 発明の詳細な説明の記載
次に、発明の詳細な説明の記載をみると、その【0026】には、本願発明が解決しようとする課題(目的)について、次のようにまとめられている。
「【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明は、特に、モニターおよびテレビ用途向けで、ECB効果またはIPSまたはFFS効果に基づき、上述の不具合を有していないか、低減された程度にのみ有する液晶混合物を提供する目的に基づいている。特に、モニターおよびテレビ用には、また、液晶混合物が極めて高温および極めて低温においても動作し、同時に短い応答時間を有し、同時に改善された信頼性のある挙動を有し、特に、長時間の動作後に画像の固着を有さないか著しく低減されていることが保証されなければならない。」
そして、これに続く【0027】には、これらのディスプレイ素子において、式Iの少なくとも1種類の化合物を含むネマチック液晶混合物を使用すると、この目的を達成できることが記載されている。
しかしながら、発明の詳細な説明全体を俯瞰してみると、確かに、液晶媒体を構成する成分として、どのような化合物等を用いることができるのかについては詳述されていると認められるものの、当該液晶媒体を構成する成分と、上記課題(目的)との関係(どのような成分を用いることにより、上記課題を解決することができたのかといった、構成成分の種類や構造と課題解決との因果関係)を理解するに足りる記載は見当たらない。
加えて、発明の詳細な説明に記載された実施例(【0193】以降)を仔細にみても、本願発明が具備する上記の3成分を備えた具体例は、「例17」(【0226】【表40】参照)のみであり、当該「例17」は、上記「式I成分」にあたる化合物(CCH-23、CCH-34)を合計29.00%、「式PP-1-m成分」にあたる化合物(PP-1-5)を17.00%、「負の誘電異方性成分」にあたる化合物(COYOICC-2-3、COYOIC-3-V、COYOICC-2-2、CCOY-V-O2V、CCOY-V-O3V)を合計44.00%、そのほかの化合物(CCP-3-1)を10.00%含有するものであることが分かる。
しかしながら、上記3成分を備えた唯一の具体例である当該「例17」は、本願発明の構成成分である「式I成分」、「式PP-1-m成分」、「負の誘電異方性成分」として、広範な化合物の中から特定の化合物を選んで配合した例にすぎず、それらの配合割合も特定の配合割合の場合である。その上、その「負の誘電異方性成分」の配合割合は44.00%であり、本願発明の規定から外れている(本願発明に属する実施例であるとは認められない。)。
(iv) 技術常識などについて
一般に、化合物(組成物)の分野においては、当該化合物の構造や組成物の成分組成のみから、当該化合物(組成物)が発現する効用・特性を理解することは困難である(当該効用・特性は、組成物の成分組成などに大きく左右される。)。そのため、「発明の詳細な説明の記載から、当業者において、本願発明の課題が解決できると認識できる範囲」の認定にあたっては、発明の詳細な説明に記載された実施例(化合物・組成物の具体例)の効用・特性を斟酌しながら、当該実施例から拡張ないし一般化できる範囲(実施例の効用・特性を類推適用できる化合物・組成物の範疇)を画定するか、あるいは、発明の詳細な説明における実施例以外の記載箇所において、特許を受けようとする発明に係る化合物(組成物)と、その効用との関係につき、実施例に代わるほどの、当業者が首肯できる合理的な説明を勘案することになるのが通例である。
実際、本願発明のような液晶媒体(液晶組成物)も例に漏れず、その特性は、その成分組成によって、特性が大きく異なり、例えば、後記引用文献1の実施例14、15と引用文献2の実施例22とは、ともに上記式Iの化合物を具備する液晶組成物である点では共通するものの、それらの特性は、一方は負の誘電異方性で、他方は正の誘電異方性となるなど、大きく異なったものとなっている。
(v) 上記(iv)の点を踏まえて、上記(iii)の発明の詳細な説明の記載から認定できる「発明の詳細な説明の記載から、当業者において、本願発明の課題が解決できると認識できる範囲」について検討する。
発明の詳細な説明の実施例の記載をみても、上記のとおり、本願発明に対応する具体例は見当たらない。また、実施例として記載された上記「例17」(【0225】、【0226】【表40】参照)は、本願発明の態様に近い具体例であり、その透明点(78.5)やγ1(165)が示されていることから、本願発明の課題のうちの、高温動作特性や応答時間特性については実際に検証されているといえるものの、本願発明が課題としている低温動作特性や長時間の動作後に画像の固着を有さないか著しく低減されていることについては何ら検証されていないため、当該「例17」の記載に基づいて、当業者において、本願発明の課題が解決できると認識することができるとは言い難い。仮に、当該「例17」が、当業者において、本願発明の課題を解決することができると認識できるものであっても、当該「例17」は、本願発明の上記3成分に属する特定の化合物を特定の配合割合で配合したもの(特定の「式I成分」:29.00%、特定の「式PP-1-m成分」:17.00%、特定の「負の誘電異方性成分」:44.00%)であることから、そこから類推して同様に、本願発明の課題が解決できると認識できる範囲は、極限られた範囲のものというほかなく、本願発明全体(例えば、「式I成分」が3重量%程度で、「式PP-1-m成分」が大半を占める液晶媒体であるとか、「式I成分」と「式PP-1-m成分」とがともに3重量%程度で、「負の誘電異方性成分」が大半を占める液晶媒体など)についてまで網羅するとは到底いえない。
また、発明の詳細な説明の実施例以外の記載には、上記のとおり、【0027】に、式Iの少なくとも1種類の化合物を含むネマチック液晶混合物を使用すると、本願発明の課題を解決できる旨の記載があるが、上記技術常識に照らすと、液晶媒体(液晶組成物)の特性は、上記式Iの化合物の有無のみならず、その他の成分(化合物)の種類・配合割合に大きく影響されるといわざるを得ないから、単に式Iの化合物を具備するだけで、所望の特性を得ることができ、もって、本願発明の課題を解決することができるとは考え難い。そして、この点を首肯するに足りる合理的な根拠も見当たらない。したがって、当該記載のみから、当業者において、式Iの化合物を有する液晶媒体(液晶組成物)であれば、本願発明の課題を解決することができるとは認識しないというべきである。
(vi) 以上を踏まえると、発明の詳細な説明の記載から認定できる「発明の詳細な説明の記載から、当業者において、本願発明の課題が解決できると認識できる範囲」は、技術常識を参酌しても、たかだか上記「例17」か、これに類似する極限られた形態であると考えるのが合理的であるから、当該範囲内に「特許請求の範囲に記載された範囲」(新請求項1に記載された範囲)が存在するとは到底いうことができない。
(vii) さらに、新請求項12についていうと、上記「第2 2(2)ア」にて説示したとおり、発明の詳細な説明(本件出願後に明細書の補正はなされていないから、発明の詳細な説明の記載は、当該「第2 2(2)ア」において検討した、願書に最初に添付した明細書の発明の詳細な説明の記載と同じである。)には、「新請求項12の化合物」に関し、【0222】【表38】の「例15」に、詳細不明の「CCP-3-O1」、「CCP-2-O2」が記載されるにとどまり、当該「新請求項12の化合物」自体の説明はもとより、これを、上記「式I成分」及び「式PP-1-m成分」とともに配合することについてまでの説明は見当たらない。
そうである以上、少なくとも、新請求項12に記載された範囲のうち、当該「新請求項12の化合物」に関連する範囲については、「発明の詳細な説明の記載から、当業者において、本願発明の課題が解決できると認識できる範囲」内にないことは明らかである。
(viii) 以上のとおり、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合しない。
3 補正却下についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項、同条第5項、及び同条第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
第3 旧請求項1に係る発明(本件補正前発明)
平成29年12月7日付けでなされた上記本件補正は、上記「第2」のとおり却下されたので、本件特許請求の範囲の請求項1~23に係る発明は、平成28年5月20日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~23に記載された事項により特定されるとおりのものである。そして、その請求項1に係る発明は、上記「第2 2(1)」に示した本件補正前のものであって、再掲すると次のとおりである。
「【請求項1】
・式I(ただし、aは0を表す。)の少なくとも1種類の化合物と、
・式B-1の少なくとも1種類の化合物と
を含むことを特徴とする液晶媒体。
【化1】
(式中、
R1およびR1*は、それぞれ互いに独立に、1~6個のC原子を有するアルキル基を表し、および
aは0を表す。)
【化2】
(式中、
alkylおよびalkyl*は、それぞれ互いに独立に、1~6個のC原子を有する直鎖状のアルキル基を表す。)」
(以下、旧請求項1に係る発明を「本件補正前発明」という。また、本件補正前発明は、「式I(ただし、aは0を表す。)の少なくとも1種類の化合物」、「式B-1の少なくとも1種類の化合物」の2成分を含むものであるところ、各成分をそれぞれ「式I成分」、「式B-1成分」という。)
第4 原査定の拒絶理由
原査定の拒絶の理由は、「平成28年11月22日付け拒絶理由通知書に記載した理由」であって、要するに、次に示す、新規事項、新規性、進歩性、拡大先願及びサポート要件に関するものである。
1 (新規事項)平成28年5月20日付け手続補正書でした補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
2 (新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
3 (進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
4 (拡大先願)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
5 (サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
なお、新規性、進歩性及び拡大先願に係る拒絶理由において引用された引用文献等は次のとおりである。
<引用文献等一覧>
1.特開2004-256791号公報
2.特開平9-302346号公報
3.特願2007-254122号(特開2009-84362号)
第5 各拒絶理由について
1 理由1(新規事項)について
平成28年5月20日提出の手続補正書による手続補正は、その補正前の(すなわち出願当初の)特許請求の範囲に発明特定事項として記載されていた「負の誘電異方性を有する」という液晶媒体についての限定を削除する補正を含むものであり、その結果、当該補正後の特許請求の範囲の請求項1~19、21~23に係る液晶媒体は、上記の限定を有しないもの、すなわち、負の誘電異方性を有するものに特定されないものとなった。
しかしながら、本件当初明細書等には、液晶媒体として負の誘電異方性を有するものが記載されているにとどまり(段落【0001】等)、誘電異方性が特定されていない液晶媒体についてまで記載ないし示唆されているとは言い難い。また、その点が当初明細書等に記載ないし示唆されているに等しいと認めるに足りる技術常識も存しない。
したがって、上記補正は、本件当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであり、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内の補正に当たるとはいえないから、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。
2 理由2及び3(新規性・進歩性)について
(1) 引用文献1に基づく新規性・進歩性の判断
引用文献1には、負の誘電率異方性を有する液晶組成物(特許請求の範囲)の具体例として、実施例14(【0097】)に、2-HH-5:13%、3-HH-4:10%、3-HH-5:4%、2-BB-5:2%を含むものが、実施例15(【0098】)に、2-HH-5:7%、3-HH-4:11%、2-BB-4:2%を含むものが、それぞれ記載されている。
ここで、これらの実施例において使用されている「2-HH-5」、「3-HH-4」、「3-HH-5」は、【0077】の表5に記載された「記号を用いた化合物の表記法」に照らすと、本件補正前発明における「式I成分」に相当するものであることが分かるし、同じく、「2-BB-5」、「2-BB-4」は、本件補正前発明における「式B-1成分」に相当するものであることを理解することができる。
そうすると、引用文献1に記載された実施例14及び実施例15の液晶組成物はいずれも、本件補正前発明における「式I成分」及び「式B-1成分」を含むものであるといえるから、本件補正前発明と比較して何ら相違するところは見当たらない。
よって、本件補正前発明は、引用文献1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものである。
仮に両者に相違があるとしても、それは容易想到の範疇の事項というべきものにすぎないから、本件補正前発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(2) 引用文献2に基づく新規性・進歩性の判断
引用文献1と同様、引用文献2には、液晶組成物(特許請求の範囲)の具体例として、実施例22(【0067】)に、5-BB-2:2.0%及び3-HH-4:10.0%を含有するもの(なお、当該液晶組成物は、Δε=4.3となっているから正の誘電異方性を示すものである。)が記載されているから、本件補正前発明は、引用文献2に記載された発明であるか、それから容易想到のものというべきである。
3 理由4(拡大先願)について
引用文献3に係る先願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「先願明細書3等」という。)には、誘電率異方性Δεが-1.5~-8.0であるネマチック液晶組成物(特許請求の範囲)の具体例として、実施例1【0034】【表1】)に、3-Cy-Cy-2:15%、3-Cy-Cy-4:7%、3-Cy-Cy-5:7%、5-Ph-Ph-1:6%を含むものが、同じく、実施例3(【0038】【表3】)に、3-Cy-Cy-2:7%、3-Cy-Cy-4:11%、3-Cy-Cy-5:11%、5-Ph-Ph-1:6%を含むものが、それぞれ記載されている。
ここで、これらの実施例において使用されている「3-Cy-Cy-2」、「3-Cy-Cy-4」、「3-Cy-Cy-5」は、【0031】、【0032】に記載された化合物の略号についての説明に照らすと、本件補正前発明における「式I成分」に相当するものであることが分かるし、同じく、「5-Ph-Ph-1」は、本件補正前発明における「式B-1成分」に相当するものであることを理解することができる。
そうすると、先願明細書3等に記載された実施例1及び実施例3の液晶組成物はいずれも、本件補正前発明における「式I成分」及び「式B-1成分」を含むものであるといえるから、本件補正前発明と比較して何ら相違するところは見当たらない。
したがって、本件補正前発明は、先願明細書3に記載された発明であるといえるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
4 理由5(サポート要件)について
上記「第2 2(2)ウ」において説示したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から認定できる「発明の詳細な説明の記載から、当業者において、本願発明の課題が解決できると認識できる範囲」は、上記「例17」か、その近傍の極限られた形態であると考えるのが合理的であるから、上記検討対象の「特許請求の範囲に記載された範囲」、すなわち、新請求項1に記載された範囲(新請求項1に係る発明)は、「発明の詳細な説明の記載から、当業者において、本願発明の課題が解決できると認識できる範囲」を超えるものである。
一方、当該「特許請求の範囲に記載された範囲」として、旧請求項1に記載された範囲(旧請求項1に係る発明、補正前発明)を新たな検討対象とすると、当該範囲は、上記検討対象であった新請求項1に記載された範囲(新請求項1に係る発明)を含み、これよりも、さらに広いのであるから、旧請求項1に記載された範囲も、「発明の詳細な説明の記載から、当業者において、本願発明の課題が解決できると認識できる範囲」を超えるものであることは明らかである。
したがって、特許請求の範囲の記載(旧特許請求の範囲の記載)は、特許法第36条第6項第1号に規定するサポート要件に適合しないといえる。
第6 むすび
以上のとおり、平成29年12月7日付け手続補正は却下すべきものであるから、本願の特許請求の範囲の請求項1~23の記載は、平成28年5月20日付け手続補正後の特許請求の範囲の請求項1~23に記載のとおりであるところ、(i)当該平成28年5月20日付け手続補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないし、(ii)当該請求項1~23のうちの少なくとも請求項1に係る発明は、同法第29条第1項第3号、同法同条第2項及び同法第29条の2の規定により特許をすることができないものであるし、(iii)本願は同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであるから、本願は、同法第49条第1号、第2号及び第4号に該当するため拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2017-018192