審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許拒絶査定不服審判

2020-004784

電解コンデンサ及びその製造方法

審判番号
2020-004784
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2017-159209外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2020年04月08日
審決日
2020年11月24日
公報発行日
2021年03月26日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-Z (H01G)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2017-159209「電解コンデンサ及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月14日出願公開、特開2017-220679〕について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 10項目
【理 由】

1.手続の経緯

折りたたみ中(クリックで表示)

本願は、平成24年12月21日に出願した特願2012-280278号の一部を平成29年8月22日に新たな出願としたものであって、平成30年7月19日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年11月16日に意見書が提出され、平成31年4月24日付け拒絶理由通知に対する応答時、令和1年7月5日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、同年10月23日付け最後の拒絶理由通知に対する応答時、同年12月26日に意見書が提出されたが、令和2年1月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年4月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明

本願の請求項1ないし4に係る発明は、令和1年7月5日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】
陽極電極箔と陰極電極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子に、導電性高分子の粒子と、ソルビトール及び多価アルコールと、を含む導電性高分子化合物分散体を用いた固体電解質層であって前記ソルビトール及び多価アルコールを60~92wt%含む前記固体電解質層を形成するとともに、該固体電解質層が形成されたコンデンサ素子内の空隙部に、エチレングリコールを溶媒中10wt%~60wt%含み、溶媒としてさらにγ-ブチロラクトンが含有され、有機酸、無機酸、及び有機酸と無機酸との複合化合物の少なくとも1種のアンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、及びアミン塩から選ばれる溶質が含有された電解液を充填させたことを特徴とする電解コンデンサ。」

3.引用例

(1)引用例1

原査定の拒絶の理由に引用された特開2011-171674号公報(以下、「引用例1」という。)には、「キャパシタ」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。

ア.「【請求項1】

弁金属の多孔質体からなる陽極と、陽極表面が酸化されて形成された誘電体層と、誘電体層表面に形成された固体電解質層とを具備するキャパシタにおいて、

固体電解質層は、

カチオン化された導電性高分子(a)と、

ポリマーアニオン塩(b)、又はポリマーアニオン塩(b)及びアニオン塩(c)と、

エーテル化合物、アミド基を有する化合物、イミド基を有する化合物、ラクタム化合物、グリシジル基を有する化合物及びアクリル化合物から選ばれる1種以上の導電性向上剤(d)と、

融点が40℃以上280℃以下であり、分子内に4個以上の水酸基を有する脂肪族性化合物(e)と、を含み、

固体電解質層は、導電性高分子(a)及びポリマーアニオン塩(b)、又は導電性高分子(a)、ポリマーアニオン塩(b)及びアニオン塩(c)の総量100質量部に対して、50質量部以上の脂肪族性化合物(e)を含むことを特徴とするキャパシタ。」

イ.「【0010】

本願発明はこれらの発明を踏まえなされたものであり、列記した静電容量が大きくかつESRが低くまた、漏れ電流が小さい、耐電圧が高いという特徴を維持させ、更にリフロー工程における高温度処理プロセスを経てもキャパシタとしての特性変化が少ない、耐熱性をも向上させたキャパシタとその製造方法を提供することを目的とする。

【課題を解決するための手段】

【0011】

上述の課題を解決するために、本発明の一態様によれば、弁金属の多孔質体からなる陽極と、陽極表面が酸化されて形成された誘電体層と、誘電体層表面に形成された固体電解質層とを具備するキャパシタにおいて、固体電解質層は、カチオン化された導電性高分子(a)と、ポリマーアニオン塩(b)、又はポリマーアニオン塩(b)及びアニオン塩(c)と、エーテル化合物、アミド基を有する化合物、イミド基を有する化合物、ラクタム化合物、グリシジル基を有する化合物及びアクリル化合物から選ばれる1種以上の導電性向上剤(d)と、融点が40℃以上280℃以下であり、分子内に4個以上の水酸基を有する脂肪族性化合物(e)とを含み、固体電解質層は、導電性高分子(a)及びポリマーアニオン塩(b)、又は導電性高分子(a)、ポリマーアニオン塩(b)及びアニオン塩(c)の総量100質量部に対して、50質量部以上の脂肪族性化合物(e)を含むキャパシタを提供する。」

ウ.「【0038】

ポリマーアニオンの具体例としては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ-2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルカルボン酸、ポリメタクリルカルボン酸、ポリ-2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸、ポリイソプレンカルボン酸、ポリアクリル酸等が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。」

エ.「【0059】

[導電性向上剤]

固体電解質層は、導電性がより高くなることから、導電性向上剤をさらに含有することが好ましい。ここで、導電性向上剤は、導電性高分子又は導電性高分子のドーパントと相互作用して、導電性高分子の電気伝導度を向上させるものである。

・・・・・(中 略)・・・・・

【0093】

・エーテル化合物

導電性向上材の中でも、キャパシタ10の耐電圧がより高くなることから、下記化学式(I)で表されるエーテル化合物であることが好ましい。

【0094】

(I) X-(R-O)n-Y

式(I)中、Rは、置換又は未置換のアルキレン、置換又は未置換のアルケニレン、置換又は未置換のフェニレンからなる群より選ばれる1種以上を表す。

・・・・・(中 略)・・・・・

【0105】

化学式(I)で表される高分子の具体例としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、オリゴポリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノクロルヒドリン、ジエチレングリコールモノクロルヒドリン、オリゴエチレングリコールモノクロルヒドリン、トリエチレングリコールモノブロムヒドリン、ジエチレングリコールモノブロムヒドリン、オリゴエチレングリコールモノブロムヒドリン、ポリエチレングリコール、ポリエーテル、グリシジルエーテル類、ポリエチレングリコールグリシジルエーテル類、ポリエチレンオキシド、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル等、トリエチレングリコール・ジメチルエーテル、テトラエチレングリコール・ジメチルエーテル、ジエチレングリコール・ジメチルエーテル、ジエチレングリコール・ジエチルエーテル・ジエチレングリコール・ジブチルエーテル、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリプロピレンジオキシド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミドなどが挙げられる。」

オ.「【0107】

[脂肪族化合物]

本実施形態に用いられる脂肪族化合物は、融点が40℃以上280℃以下であり、分子内に4以上の水酸基を有する脂肪族性化合物を指す。糖類、糖アルコール類、ポリヒドロキシ類等が挙げられる。

【0108】

具体的には、例えば、ショ糖、グルコース、ラクトース、マルトース、キシロース等の糖類及び糖誘導体;ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、マンニトール、ジペンタエリスリトール、ペンタエリスリトール等の糖アルコール等が挙げられる。」

カ.「【0119】

[電解液]

必要に応じて、電解液を兼用してもよい。電解液としては導電性が高ければ特に限定されず、周知の溶媒中に周知の電解質を溶解させたものである。【0120】

電解液における溶媒としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、グリセリン等のアルコール系溶媒、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン等のラクトン系溶媒、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N-メチルピロリジノン等のアミド系溶媒、アセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル等のニトリル系溶媒、水等が挙げられる。

【0121】

電解質としては、アジピン酸、グルタル酸、コハク酸、安息香酸、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、トルイル酸、エナント酸、マロン酸、蟻酸、1,6-デカンジカルボン酸、5,6-デカンジカルボン酸等のデカンジカルボン酸、1,7-オクタンジカルボン酸等のオクタンジカルボン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の有機酸、あるいは、硼酸、硼酸と多価アルコールより得られる硼酸の多価アルコール錯化合物、りん酸、炭酸、けい酸等の無機酸などをアニオン成分とし、一級アミン(メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、アミノエタノール、アミノプロパンジオール、3-アミノ-1-プロパノール等)、二級アミン(ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、メチルエチルアミン、ジフェニルアミン、イミノジエタノール、エチルアミノプロパノール等)、三級アミン(トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリフェニルアミン、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン-7、ニトリロエタノール等)、テトラアルキルアンモニウム(テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、メチルトリエチルアンモニウム、ジメチルジエチルアンモニウム等)などをカチオン成分とした電解質が挙げられる。」

キ.「【0137】

固体電解質層13においては、導電性高分子が粒子径1~500nmの粒子として形成することが多い。そのため、キャパシタ中間体の誘電体層表面における微細な空隙の最深部にまで導電性高分子が行き届かず、容量を引き出すことが難しくなることがある。このことから、固体電解質層13を形成した後に、必要に応じて電解液を浸透させることで、容量を補充することが好ましい。」

ク.「【0146】

[第1の実施の形態]

(1)導電性高分子溶液の調製

(調製例1)導電性高分子溶液(I)の調製

14.2gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと、2,000mlのイオン交換水に42.6gのポリスチレンスルホン酸(質量平均分子量;約300,000)を溶かした溶液とを20℃で混合した。

【0147】

これにより得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とを添加し、15時間攪拌して反応させた。

【0148】

得られた反応液を透析して不純イオンを除去した後、イオン交換し、約1.6質量%のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を含む溶液(以下、PEDOT-PSS溶液という。)を得た。

【0149】

そして、このPEDOT-PSS溶液100gに、イミダゾールを添加して、pH7に調整した導電性高分子原料溶液(A)を得た。この導電性高分子原料溶液100gに、3.2gの分子量1000のポリエリレングリコール、12.8gのペンタエリスリトール、混合し、分散して、導電性高分子溶液(I)を得た。

・・・・・(中 略)・・・・・

【0155】

(調製例7)導電性高分子溶液(VII)の調製

調製例1における導電性高分子原料溶液(A)100gに、3.2gの分子量1000のポリエチレングリコール、11.2gのソルビトールを混合し、分散して、導電性高分子溶液(VII)を得た。」

ケ.「【0165】

(2)キャパシタの製造

エッチドアルミニウム箔(陽極箔)に陽極リード端子を接続した後、アジピン酸ジアンモニウム10質量%水溶液中で102Vの電圧を印加し、化成(酸化処理)して、アルミニウム箔表面に誘電体層を形成して陽極素子を得た。

【0166】

次に、陽極素子の陽極箔に、陰極リード端子を溶接させた対向アルミニウム陰極箔を、セルロース製のセパレータを介して積層し、これを円筒状に巻き取ってキャパシタ素子を得た。

・・・・・(中 略)・・・・・

【0169】

(実施例1)

調製例1で調製した導電性高分子溶液(I)に、前記キャパシタの製造で得たキャパシタ素子を、減圧下で浸漬した後、150℃の熱風乾燥機により30分乾燥した。さらに、この導電性高分子溶液(I)への浸漬を2回繰り返して、誘電体層と陰極との間に、固体電解質層を形成させた。

【0170】

次いで、アルミニウム製のケースに、固体電解質層が形成されたキャパシタ素子を装填し、封口ゴムで封止した。

・・・・・(中 略)・・・・・

【表1】

【0174】

なお、表1における添加量は、PEDOT-PSSの固形分を100とする時の比率である。

【0175】

(実施例2~11)

導電性高分子溶液(I)の代わりに、導電性高分子溶液(II)、導電性高分子溶液(III)、導電性高分子溶液(IV)、導電性高分子溶液(V)、導電性高分子溶液(VI)、導電性高分子溶液(VII)、導電性高分子溶液(VIII)、導電性高分子溶液(IX)、導電性高分子溶液(X)、導電性高分子溶液(XI)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、其々実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、実施例6、実施例7、実施例8、実施例9、実施例10、実施例11のキャパシタを作製した。また、実施例1と同様にして、静電容量、ESR、静電容量変化率を測定した。結果を表1に示す。」

・上記引用例1に記載の「キャパシタ」は、上記「ア.」、「イ.」の記載事項によれば、固体電解質層を具備するキャパシタであって、固体電解質層が、カチオン化された導電性高分子(a)と、ポリマーアニオン塩(b)と、導電性向上剤(d)と、所定の脂肪族性化合物(e)と、を含んでなるものである。

・上記「ウ.」、「ク.」、「ケ.」の記載事項によれば、カチオン化された導電性高分子(a)、ポリマーアニオン塩(b)は、具体的にはそれぞれ3,4-エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、ポリスチレンスルホン酸(PSS)である。

・上記「エ.」、「オ.」、「ク.」の段落【0155】、「ケ.」の記載事項によれば、特に【表1】に示される調製例7で調製した導電性高分子溶液(VII)を用いた実施例7のキャパシタは、導電性向上剤(d)、所定の脂肪族性化合物(e)がそれぞれポリエチレングリコール、ソルビトールであり、陽極箔と陰極箔をセパレータを介して積層し、これを円筒状に巻き取ってキャパシタ素子を得て、当該キャパシタ素子をpH調整したポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を含む溶液(導電性高分子原料溶液)にポリエチレングリコールとソルビトールを混合し分散して得た導電性高分子溶液に浸漬して固体電解質層を形成してなるものである。

なお、実施例7に係るものについて、ポリエチレングリコール、ソルビトールの添加量は、PEDOT-PSS(ポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン))の固形分を100としたときの比率でそれぞれ200、700であることから、固体電解質層に含まれるポリエチレングリコール及びソルビトールの含有量は、90wt%である。

・上記「カ.」、「キ.」の記載事項によれば、電解液を兼用することができ、固体電解質層を形成した後に電解液を浸透させることで容量補充することが好ましいものである。

電解液における溶媒としては、エチレングリコール、γ-ブチロラクトン等が挙げられ、電解質としては、安息香酸等の有機酸などをアニオン成分とし、テトラアルキルアンモニウム(テトラメチルアンモニウム等)などをカチオン成分としたものが挙げられる。

したがって、実施例7に係るものであって、さらに電解液を兼用するようにしたものに着目し、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「陽極箔と陰極箔をセパレータを介して積層し、これを円筒状に巻き取ってキャパシタ素子を得て、当該キャパシタ素子をpH調整したポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を含む溶液にポリエチレングリコールとソルビトールを混合し分散して得た導電性高分子溶液に浸漬して固体電解質層を形成し、当該固体電解質層を形成した後に、電解液を浸透させてなるキャパシタであって、
前記固体電解質層に含まれるポリエチレングリコール及びソルビトールの含有量は90wt%であり、
前記電解液における溶媒としては、エチレングリコール、γ-ブチロラクトン等が挙げられ、電解質としては、安息香酸等の有機酸などをアニオン成分とし、テトラアルキルアンモニウム(テトラメチルアンモニウム等)などをカチオン成分としたものが挙げられる、キャパシタ。」

(2)引用例2

原査定の拒絶の理由に引用された特開昭61-182212号公報(以下、「引用例2」という。)には、「電解コンデンサ用電解液」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。

ア.「2.特許請求の範囲

(1) γ-ブチロラクトンとエチレングリコールとの混合溶媒にγ-レゾルシル酸アンモニウムを溶解したことを特徴とする電解コンデンサ用電解液。」(1頁左下欄5~9行)

イ.「本発明によれば、広い使用温度範囲にわたって比抵抗の小さい優れた電解コンデンサ用電解液(以下単に電解液と称することがある)が得られる。」(1頁左下欄14~17行)

ウ.「本発明の電解液は、溶媒としてγ-ブチロラクトンとエチレングリコールとの混合溶媒を、溶質としてγ-レゾルシル酸アンモニウムを使用する。

溶媒として用いるγ-ブチロラクトンとエチレングリコールは、任意の割合で混合して用いることができるが、γ-ブチロラクトンとエチレングリコールの混合割合が重量比で90:10~10:90の範囲で用いるのが好ましく、80:20~30:70の範囲が特に好ましい。」(2頁左上欄19行~同頁右上欄7行)

上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例2には、次の技術事項が記載されている。

「電解コンデンサ用電解液であって、広い使用温度範囲にわたって小さい比抵抗のものを得るために、溶媒としてγ-ブチロラクトンとエチレングリコールとの混合溶媒を、溶質としてγ-レゾルシル酸アンモニウムを使用し、γ-ブチロラクトンとエチレングリコールの混合割合を重量比で80:20~30:70の範囲としたこと。」

4.対比

そこで、本願発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明における「陽極箔と陰極箔をセパレータを介して積層し、これを円筒状に巻き取ってキャパシタ素子を得て、当該キャパシタ素子をpH調整したポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を含む溶液にポリエチレングリコールとソルビトールを混合し分散して得た導電性高分子溶液に浸漬して固体電解質層を形成し、・・・・前記固体電解質層に含まれるポリエチレングリコール及びソルビトールの含有量は90wt%であり」によれば、

(a)「陽極箔」、「陰極箔」、「セパレータ」は、それぞれ本願発明でいう「陽極電極箔」、「陰極電極箔」、「セパレータ」に相当し、そして、「キャパシタ素子」は、陽極箔と陰極箔をセパレータを介して積層し、これを円筒状に巻き取ってなる、すなわち巻回してなるものであるから、本願発明でいう「コンデンサ素子」に相当する。

(b)「固体電解質層」は、ポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を含む溶液にポリエチレングリコールとソルビトールを混合し分散して得た導電性高分子溶液にキャパシタ素子を浸漬して形成されるものであるところ、「ポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)」、「ソルビトール」、「ポリエチレングリコール」、これらを混合し分散して得た「導電性高分子溶液」は、それぞれ本願発明でいう「導電性高分子の粒子」、「ソルビトール」、「多価アルコール」、「導電性高分子化合物分散体」に相当する。

そして、固体電解質層に含まれるポリエチレングリコール及びソルビトールの含有量は90wt%であるから、本願発明で特定するソルビトール及び多価アルコールを「60~92wt%」含むとする条件(範囲)を満たす。

したがって、本願発明と引用発明とは、「陽極電極箔と陰極電極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子に、導電性高分子の粒子と、ソルビトール及び多価アルコールと、を含む導電性高分子化合物分散体を用いた固体電解質層であって前記ソルビトール及び多価アルコールを90wt%含む前記固体電解質層を形成する」ようにしたものである点で一致する。

(2)引用発明における「当該固体電解質層を形成した後に、電解液を浸透させてなるキャパシタであって、」「前記電解液における溶媒としては、エチレングリコール、γ-ブチロラクトン等が挙げられ、電解質としては、安息香酸等の有機酸などをアニオン成分とし、テトラアルキルアンモニウム(テトラメチルアンモニウム等)などをカチオン成分としたものが挙げられる」によれば、

固体電解質層を形成した後に、電解液を浸透させてなるものであることから、当然、キャパシタ素子の空隙部に電解液が充填されてなるものであるといえ、本願発明と引用発明とは、「該固体電解質層が形成されたコンデンサ素子内の空隙部に、電解液を充填させた」ものである点で共通する。

ただし、電解液について、本願発明では、「エチレングリコールを溶媒中10wt%~60wt%含み、溶媒としてさらにγ-ブチロラクトンが含有され、有機酸、無機酸、及び有機酸と無機酸との複合化合物の少なくとも1種のアンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、及びアミン塩から選ばれる溶質が含有された」ものである旨特定するのに対し、引用発明では、電解液における溶媒としては、エチレングリコール、γ-ブチロラクトン等が挙げられ、電解質としては、安息香酸等の有機酸などをアニオン成分とし、テトラアルキルアンモニウム(テトラメチルアンモニウム等)などをカチオン成分としたものが挙げられているにすぎない点で相違する。

(3)そして、引用発明における「キャパシタ」は、固体電解質層が形成され、電解液を浸透させてなるものであることから、本願発明でいう「電解コンデンサ」に相当するものである。

よって、上記(1)ないし(3)により本願発明と引用発明とは、

「陽極電極箔と陰極電極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子に、導電性高分子の粒子と、ソルビトール及び多価アルコールと、を含む導電性高分子化合物分散体を用いた固体電解質層であって前記ソルビトール及び多価アルコールを90wt%含む前記固体電解質層を形成するとともに、該固体電解質層が形成されたコンデンサ素子内の空隙部に、電解液を充填させたことを特徴とする電解コンデンサ。」である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]

電解液について、本願発明では、「エチレングリコールを溶媒中10wt%~60wt%含み、溶媒としてさらにγ-ブチロラクトンが含有され、有機酸、無機酸、及び有機酸と無機酸との複合化合物の少なくとも1種のアンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、及びアミン塩から選ばれる溶質が含有された」ものである旨特定するのに対し、引用発明では、電解液における溶媒としては、エチレングリコール、γ-ブチロラクトン等が挙げられ、電解質としては、安息香酸等の有機酸などをアニオン成分とし、テトラアルキルアンモニウム(テトラメチルアンモニウム等)などをカチオン成分としたものが挙げられているにすぎない点。

5.判断

上記[相違点]について検討する。

引用例2には、電解コンデンサ用電解液であって、広い使用温度範囲にわたって小さい比抵抗のものを得るために、溶媒としてγ-ブチロラクトンとエチレングリコールとの混合溶媒を、溶質としてγ-レゾルシル酸アンモニウムを使用し、γ-ブチロラクトンとエチレングリコールの混合割合を重量比で80:20~30:70の範囲とした技術事項が記載(上記「3.(2)」を参照)されている。ここで、溶質のγ-レゾルシル酸アンモニウムにおけるγ-レゾルシル酸は、2,6-ヒドロキシ安息香酸のことであり有機酸といえるものであるから、当該溶質は有機酸のアンモニウム塩である。また、γ-ブチロラクトンとエチレングリコールの混合割合は重量比で80:20~30:70の範囲、すなわち混合溶媒中のエチレングリコールの含有量は20~70wt%であり、本願発明で特定する10~60wt%の範囲とは20~60wt%の範囲において重複する。

そして、引用発明においても、電解液を含み、当該電解液における溶媒として、エチレングリコール、γ-ブチロラクトン等が挙げられ、電解質としては、安息香酸等の有機酸などをアニオン成分とし、テトラアルキルアンモニウム(テトラメチルアンモニウム等)などをカチオン成分としたもの、すなわち有機酸のアンモニウム塩などが挙げられているところ、広い使用温度範囲にわたって小さい比抵抗のものとすることは当然に望まれることであるから、上記引用例2に記載された技術事項を採用し、その際、混合溶媒中のエチレングリコールの含有量として20~70wt%の範囲の中でも、例えば引用例2の第1図に示されているように最も電導度が高くなる30~40wt%の範囲の値(かかる値は、本願発明で特定する10~60wt%の範囲を満たす。)を選択し、相違点に係る構成とすることは当業者であれば容易になし得ることである。

ここで、請求人は審判請求書において、引用文献1と引用文献2の組み合わせについて、以下のように主張している。

(a)「引用文献1は、積極的に電解液を用いることや、容量補充以外の目的で電解液を用いることについては開示も示唆もされていません。引用文献1で用いられているのは、単一の溶媒のみです。このような引用文献1に、わざわざ引用文献2の混合溶媒を組み合わせる動機付けとなる記載はありません。」

(b)「引用文献2は固体電解質を有さない電解コンデンサ用電解液に関するものです。引用文献1と前提の異なる引用文献2に記載された電解液の溶媒を採用すべき動機はありません。」

(c)「引用文献2の記載を考慮すれば、審査官殿が認定されているようにγ-レゾルシル酸アンモニウムを『有機酸のアンモニウム塩』に置き換えて、引用文献1に記載の発明に組み合わせる動機付けはありません。」

しかしながら、上記(a)について、そもそも引用例1(引用文献1)には、電解液の溶媒として単一の溶媒のみを用いなければならないとする記載はない。また、上記(b)について、引用発明は上述したように、電解液を含むものであり、広い使用温度範囲にわたって小さい比抵抗のものとすることは当然に望まれることであるから、引用例2(引用文献2)に記載された技術事項を採用すべき動機付けはあるといえる。そして、引用発明のように固体電解質層を有するキャパシタ(コンデンサ)に対して引用例2に記載の技術事項を適用できないとする技術的な阻害要因があるわけでもない。さらに、上記(c)について、上述したように、そもそもγ-レゾルシル酸アンモニウムは有機酸のアンモニウム塩である。

したがって、上記(a)~(c)のいずれの主張も採用できない。

6.むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明及び引用例2に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2020-004784

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決24件(日本ケミコン株式会社)
  • 2025-014297拒絶査定不服審判 / 2026-04-15 / 原査定取消(特許/登録すべき)コンデンサおよびその製造方法
    同じ当事者: 日本ケミコン株式会社
  • 2023-006836拒絶査定不服審判 / 2024-10-21 / 原査定取消(特許/登録すべき)電解コンデンサ及び製造方法
    同じ当事者: 日本ケミコン株式会社
  • 2023-012957拒絶査定不服審判 / 2024-06-24 / 原査定取消(特許/登録すべき)バスバー積層体及びそれを備える電子部品実装モジュール、バスバー積層体の製造方法
    同じ当事者: 日本ケミコン株式会社
  • 2022-001592拒絶査定不服審判 / 2023-04-19 / 原査定取消(特許/登録すべき)電解コンデンサ及びこの製造方法
    同じ当事者: 日本ケミコン株式会社
  • 2022-001590拒絶査定不服審判 / 2022-12-20 / 原査定取消(特許/登録すべき)巻回形固体電解コンデンサ及び製造方法
    同じ当事者: 日本ケミコン株式会社
検索でもっと見る →
同じ根拠条文の審決7,656件(特許法29条2項)
  • 2024-015046拒絶査定不服審判 / 2026-03-23 / 請求不成立低ノイズコンデンサ
    共通の条文: 特許法29条2項
  • 2024-015741拒絶査定不服審判 / 2025-06-12 / 請求不成立セラミック電子部品およびその製造方法
    共通の条文: 特許法29条2項
  • 2024-013318拒絶査定不服審判 / 2025-06-05 / 請求不成立高純度のバインダーフリー炭素質電極を有するスーパーキャパシタセル
    共通の条文: 特許法29条2項
  • 2024-016204拒絶査定不服審判 / 2025-04-17 / 請求不成立コンデンサ電解液の改質剤、およびそれを用いたアルミニウム電解コンデンサ用電解液、…
    共通の条文: 特許法29条2項
  • 2024-011231拒絶査定不服審判 / 2025-04-14 / 請求不成立積層型キャパシタ及びその実装基板
    共通の条文: 特許法29条2項
検索でもっと見る →
同じ論点・分野の審決(審決分類)465件(121・H01G)
  • 2025-006426拒絶査定不服審判 / 2026-08-26 / 原査定取消(特許/登録すべき)電子部品
    共通の審決分類: 121・H01G
  • 2025-014717拒絶査定不服審判 / 2026-08-19 / 原査定取消(特許/登録すべき)コンデンサアレイ
    共通の審決分類: 121・H01G
  • 2025-012929拒絶査定不服審判 / 2026-08-17 / 原査定取消(特許/登録すべき)リチウムイオンキャパシタの製造方法
    共通の審決分類: 121・H01G
  • 2025-014774拒絶査定不服審判 / 2026-07-27 / 原査定取消(特許/登録すべき)電解コンデンサ、および、その製造方法
    共通の審決分類: 121・H01G
  • 2025-016097拒絶査定不服審判 / 2026-07-27 / 原査定取消(特許/登録すべき)電解コンデンサおよびその製造方法
    共通の審決分類: 121・H01G

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存