特許拒絶査定不服審判
2020-001181
太陽光発電
- 審判番号
- 2020-001181
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-061813外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年01月09日
- 審決日
- 2020年06月22日
- 公報発行日
- 2021年10月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】石井 均
- 分類
- P18 .536-Z (H01L) / P18 .537-Z (H01L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法36条6項2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2019- 61813「太陽光発電」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成31年3月8日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 元年 9月12日付け :拒絶理由通知書
令和 元年10月 4日(差出日):意見書、手続補正書の提出
令和 元年11年12日(差出日):手続補正書の提出
令和 元年12月19日付け :拒絶査定
令和 2年 1月 9日(差出日):審判請求書の提出
令和 2年 2月26日(差出日):審判請求書の手続補正書(方式)の
提出
令和 2年 4月 7日(差出日):上申書の提出
令和 2年 4月 8日(差出日):上申書の提出
令和 2年 5月 4日(差出日):上申書の提出
第2 請求項1に記載された事項
令和元年11月12日(差出日)に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1は、以下のとおりである
「【請求項1】
シリコン系太陽電池は、電気的性質の異なるp型シリコン(p型半導体)(電子の不足した場所(正孔)が多い)とn型シリコン(n型半導体)(動きやすい電子が多い)を重ねると、重ねた部分(pn接合)では、電子と正孔が打ち消しあう結果、pn接合部分のp型シリコンがマイナスに、n型シリコンがプラスに帯電します。このpn接合部に光を当てると、電子が叩き出されると同時に電子の抜け殻は正孔となり、帯電した電気との反発力によりマイナス電子はn型シリコンへ、プラス正孔はp型シリコンへ移動します。電子が移動することにより、電流が流れます。
シリコン系太陽電池の電流の流れる量を3倍にして、太陽光発電の発電効率を3倍にします。シリコン原子は最外殻に4つの電子を持っています。p型シリコンとは、シリコンに少量のホウ素など最外殻に3つの電子を持っている物質を混ぜたものです。ホウ素などは最外殻に3つの電子を持っているので、電子の不足した場所(正孔)が多くなります。n型シリコンとは、シリコンに少量のリンなど最外殻に5つの電子を持っている物質を混ぜたものです。リンなどは最外殻に5つの電子を持っているので、動きやすい電子が多くなります。そこで、n型シリコンにハロゲンを混ぜると、最外殻に7つの電子を持っているので、動きやすい電子が、リンなどと比べ3倍になります。移動する電子の数も3倍となり、電流も3倍になります。電力は、電圧×電流ですから、太陽光発電の発電効率も3倍になる太陽電池。」
第3 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
理由1.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
理由2.(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由3.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
●理由1
・請求項 1
補正により、請求項1の末尾が「太陽電池」となった。
請求項1に係る発明は、「太陽電池」という「物」の発明に属するものであるが、当該「太陽電池」が具体的にどのような構成を有するのか解することができず、何に対して特許を受けようとしているのか不明であるから、請求項1に係る発明は、依然として明確でない。
●理由2
・請求項 1
出願人は意見書において、「イオン化エネルギーとは、原子などから電子を取り去ってイオン化するために要するエネルギーのことである。シリコンにハロゲンを不純物として添加した場合、シリコンがハロゲンに置換され、結合に寄与しない価電子が3つ存在することになる。すなわち、電子は結合に寄与しないため、イオン化エネルギーとは関係なく、自由電子となります。」と主張している。しかしながら、半導体中の自由電子は、ドナー原子に束縛されているドナー準位の電子が伝導帯に励起されたものであり、ドナー準位と伝導帯のエネルギー差が「イオン化エネルギー」に対応するから、「電子は結合に寄与しないため、イオン化エネルギーとは関係なく、自由電子となります」という出願人の前記主張は採用できない。
●理由3
・請求項 1
・引用文献等 1-3
<引用文献等一覧>
1.D. J. Chadi,"Halogen impurities in silicon: Shallow single donors",Applied Physics Letters,1997年,Vol.71,pp.806-808
2.G. GREEUW and J.F. VERWEY,"DONOR GENERATION IN MONOCRYSTALLINE SILICON BY HALOGEN IMPLANTATION",Solid-State Electronics,1983年,Vol.26,pp.241-246
3.特開平11-74211号公報
第4 判断
1 明確性要件違反について
請求項1には、「n型シリコンとは、シリコンに少量のリンなど最外殻に5つの電子を持っている物質を混ぜたものです。リンなどは最外殻に5つの電子を持っているので、動きやすい電子が多くなります。そこで、n型シリコンにハロゲンを混ぜると、最外殻に7つの電子を持っているので、動きやすい電子が、リンなどと比べ3倍になります。移動する電子の数も3倍となり、電流も3倍になります。太陽光発電の発電効率も3倍になる太陽電池。」と記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。
このように、請求項1は、「n型シリコンにハロゲンを混ぜ」たものを含むが、この「n型シリコンにハロゲンを混ぜ」たものが、いかなるものであるのかが、次のとおり不明である。
すなわち、請求項1の記載によれば、「n型シリコンにハロゲンを混ぜ」たものにおける「n型シリコン」とは、「シリコンに少量のリンなど最外殻に5つの電子を持っている物質を混ぜたもの」であるから、「n型シリコンにハロゲンを混ぜ」たものとは、「シリコン」に「少量のリンなど最外殻に5つの電子を持っている物質」を混ぜるとともに、さらに、「ハロゲン」を混ぜたものであると解される。
他方で、請求項1の「ハロゲンを混ぜると、最外殻に7つの電子を持っているので、動きやすい電子が、リンなどと比べ3倍になります。移動する電子の数も3倍となり、電流も3倍になります。」との記載によれば、「n型シリコンにハロゲンを混ぜ」たものとは、リンなどに換えてハロゲンを用いるもの、すなわち、シリコンにハロゲンのみを混ぜてn型シリコンとしているものとも解される。
このように、「n型シリコンにハロゲンを混ぜ」たものとは、「シリコン」に「少量のリンなど最外殻に5つの電子を持っている物質」と「ハロゲン」の双方を混ぜたものなのか、それとも、「シリコン」に「ハロゲン」のみを混ぜており、「少量のリンなど最外殻に5つの電子を持っている物質」を混ぜていないものなのか、いずれなのかが、当該請求項1の記載では不明である。よって、「n型シリコンにハロゲンを混ぜ」たものが不明である。
その結果、「太陽光発電の発電効率も3倍になる太陽電池」の構成も不明ということになる。
したがって、請求項1に係る発明が明確であるとはいえないから、本願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
2 実施可能要件違反について
(1)本願明細書には以下の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン系太陽電池を使用して、n型シリコンにリンではなく、ハロゲンを混ぜることにより、電流を3倍にして、発電効率を3倍にする。【背景技術】
【0002】
シリコン系太陽電池は、電気的性質の異なるp型シリコン(p型半導体)(電子の不足した場所(正孔)が多い)とn型シリコン(n型半導体)(動きやすい電子が多い)を重ねると、重ねた部分(pn接合)では、電子と正孔が打ち消しあう結果、pn接合部分のp型シリコンがマイナスに、n型シリコンがプラスに帯電します。このpn接合部に光を当てると、電子が叩き出されると同時に電子の抜け殻は正孔となり、帯電した電気との反発力によりマイナス電子はn型シリコンへ、プラス正孔はp型シリコンへ移動します。n型シリコンに付けたマイナス電極とp型シリコンにつけたプラス電極の間にランプなどの負荷を導線で結ぶと、電子が移動して電子とは逆方向に直流の電流が流れます。光を当て続ければいつでも発電します。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
電流の流れる量を変えられない。
【課題を解決するための手段】
シリコン原子は最外殻に4つの電子を持っています。p型シリコンとは、シリコンに少量のホウ素などを混ぜたものです。ホウ素は最外殻に3つの電子を持っているので、電子の不足した場所(正孔)が多くなります。n型シリコンとは、シリコンに少量のリンなどを混ぜたものです。リンは最外殻に5つの電子を持っているので、動きやすい電子が多くなります。そこで、n型シリコンに最外殻に7つの電子を持っているハロゲンを混ぜます。ホウ素とハロゲンを混ぜる割合は1対1です。将来、ハロゲン以上の最外殻に電子を持っている物質が発見されれば、その物質を混ぜます。
【発明の効果】
n型シリコンにハロゲンを混ぜると、最外殻に7つの電子を持っているので、動きやすい電子が、リンと比べ3倍になります。移動する電子の数も3倍となり、電流も3倍になります。電流とは、電子の移動に伴う電荷の移動のこと、及び電荷の量のことであり、電子が増えれば電流も増えます。電力は、電圧×電流ですから、太陽光発電の発電効率も3倍になります。将来、ハロゲン以上の最外殻に電子を持っている物質が発見されれば、それを使用することにより、さらに発電効率は上昇します。
【発明を実施するための形態】
太陽光発電装置としての新たな半導体を使用します。p型半導体は、従来通りホウ素などを混ぜたものを使用しますが、n型半導体には、ハロゲンを混ぜたものを使用します。両者を混ぜる割合は1対1とします。こうして新しい半導体を作ります。」
(2)検討
そこで、検討すると、請求項1の「n型シリコンにハロゲンを混ぜると、最外殻に7つの電子を持っているので、動きやすい電子が、リンなどと比べ3倍になります。移動する電子の数も3倍となり、電流も3倍になります。電力は、電圧×電流ですから、太陽光発電の発電効率も3倍になる太陽電池。」をどのように実施することができるのか、次のとおり、当業者が理解することができない。
なお、上記1のとおり、「n型シリコンにハロゲンを混ぜ」たものは明確でないので、以下では、そのものを、「シリコン」に「ハロゲン」を混ぜているが「少量のリンなど最外殻に5つの電子を持っている物質」(以下「リン様物質」といい、その原子を「リン様物質原子」という。)を混ぜていないものであると解する場合と、「シリコン」にリン様物質を混ぜるとともに、さらに、「ハロゲン」を混ぜたものであると解する場合とに、分けて検討を行う。
ア 「n型シリコンにハロゲンを混ぜ」たものが、「シリコン」に「ハロゲン」を混ぜているが、リン様物質を混ぜていないものである場合
(ア)請求項1に係る発明は、「n型シリコンにハロゲンを混ぜる」ことによって、「動きやすい電子が、リンなどと比べ3倍になります。移動する電子の数も3倍とな」るとされているところ、これは、要するに、「シリコンにハロゲンを混ぜ」たときに生じる、いわゆる自由電子の数が、リン様物質をドーパントとして混ぜた場合に比べて3倍になっていることを特定していると解される。
しかるに、このような意味において自由電子の数が3倍となるためには、少なくとも次の2つの技術的前提、すなわち、(i)ハロゲン原子がシリコン原子と置換される濃度が、リン様物質原子がシリコン原子と置換される濃度と、同様であること、(ii)シリコン原子と置換されたハロゲン原子の(シリコン原子との結合に関与しない)余った3個の電子が、シリコン原子と置換されたリン様物質原子の(シリコン原子との結合に関与しない)余った1個の電子が自由電子になるのと同じ環境(典型的には常温常圧環境)下において、すべて自由電子になること、という技術的前提が必要であると解される。ここで、(ii)の技術的前提が必要な理由は、それが成り立たない場合は、(シリコン原子との結合に関与しない)余った電子を、自由電子にすることが可能な環境(例えば、高温環境)下におくために、余分なエネルギーを必要とすることになることから、「太陽光発電の発電効率も3倍になる」とはいえなくなることにある。
そこで、上記2つの技術的前提が成り立つか否かについて検討する。
a (i)「ハロゲン原子がシリコン原子と置換される濃度が、リン様物質原子がシリコン原子と置換される濃度と、同様であること」という技術的前提について
まず、リン様物質原子は、15族に属し、最外殻に5つの電子を持っているものであるところ、リン様物質原子と17族に属するハロゲン原子とは、同じ周期の場合、イオン半径が大きく異なることが、例示するまでもなく技術常識である。そして、イオン半径の大きさは、シリコン原子との置換のしやすさに影響するものと考えられる。
また、ハロゲン原子は、リン様物質原子に比べ、電気陰性度が大きいことが、例示するまでもなく技術常識である。そして、シリコンに不純物としてハロゲンを混ぜると、そのハロゲン原子は、その大きな電気陰性度のために、シリコン原子に置換されずに、アクセプター不純物として挙動することが知られている(必要ならば、特開平11-74211号公報(【0005】、【0019】)を参照されたい。)。
このように、ハロゲン原子とリン様物質原子とは、イオン半径及び電気陰性度が異なるのであり、これらのパラメータは、シリコン原子との置換のしやすさに関係すると考えられる。そうすると、ハロゲンをシリコンに混ぜることによって、当該ハロゲン原子が、当然に、リン様物質原子と同様の濃度で、シリコン原子に置換されるとはいえない。
そうであるにもかかわらず、本願の発明の詳細な説明には、ハロゲンを不純物としてシリコンに混ぜることに関し、「n型半導体には、ハロゲンを混ぜたものを使用します。両者を混ぜる割合は1対1とします。こうして新しい半導体を作ります。」と記載されているのにとどまるのであり、ハロゲン原子が、リン様物質原子と同様の濃度で、シリコン原子に置換されることが、実験的に確認されているわけではないし、そのようにするために、具体的にどのようにすればよいのかについても何ら記載されていない。
よって、「ハロゲン原子がシリコン原子と置換される濃度が、リン様物質原子がシリコン原子と置換される濃度と、同様であること」という技術的前提は、本願の発明の詳細な説明及び技術常識に照らせば、成り立つものとはいえない。
b (ii)「シリコン原子と置換されたハロゲン原子の(シリコン原子との結合に関与しない)余った3個の電子が、シリコン原子と置換されたリン様物質原子の(シリコン原子との結合に関与しない)余った1個の電子が自由電子になるのと同じ環境(典型的には常温常圧環境)下において、すべて自由電子になること」という技術的前提について
リン様物質原子であっても、ハロゲン原子であっても、その原子がシリコン原子と置換されると、(シリコン原子との結合に関与しない)余った電子が生じることになるが、そのような(シリコン原子との結合に関与しない)余った電子であっても、リン様物質原子又はハロゲン原子からの束縛(例えば、原子核からのクーロン力による束縛)を受けるのであるから、ただちに自由電子とはならない。換言すれば、(シリコン原子との結合に関与しない)余った電子が自由電子となるためには、エネルギーが必要である。そして、リン様物質原子のうち、例えば、リンにおいては、常温の熱エネルギーによって、その(シリコン原子との結合に関与しない)余った電子が自由電子になることが技術常識である。
しかしながら、ハロゲン原子の場合、(シリコン原子との結合に関与しない)余った電子が3つ存在することになるところ、それらの3つの電子すべてが、リンと同様に、常温程度の熱エネルギーによって自由電子になるとは考えにくい。すなわち、イオン化エネルギーという物性値が技術常識であるところ、この量は、気体状態にある原子または分子から1個の電子を取り除いて陽イオンにするために必要なエネルギーである。そして、イオン化エネルギーは、「原子」「から」「電子を取り除」くのに必要なエネルギーという意味において、上述の「(シリコン原子との結合に関与しない)余った電子が自由電子となるために」必要なエネルギーと共通するといえるから、イオン化エネルギーの傾向をもって、「(シリコン原子との結合に関与しない)余った電子が自由電子となるために」必要なエネルギーの傾向も予測できると考えられる。しかるに、イオン化エネルギーは、一般に、第1イオン化エネルギー、第2イオン化エネルギー、第3イオン化エネルギーの順で相当程度大きくなるところ、このことは、取り除く電子の数を増やすほど、イオン化エネルギーが相当程度大きくなることを意味するから、「(シリコン原子との結合に関与しない)余った電子が自由電子となるために」必要なエネルギーも、取り除く電子の数を増やすほど相当程度大きくなるものと考えられる。そうだとすれば、ハロゲン原子における、(シリコン原子との結合に関与しない)余った3つの電子についても、自由電子へのなりやすさには差があると考えられるのであり、しかも、その差は相当程度存在すると考えられるから、これら3つの電子が、リンと同様に、常温程度の熱エネルギーによって自由電子になるとは、ただちには考えにくい。
そうであるにもかかわらず、本願の発明の詳細な説明には、ハロゲン原子における、(シリコン原子との結合に関与しない)余った3つの電子すべてが、リンと同様に、常温程度の熱エネルギーによって自由電子になることに関し、「n型シリコンにハロゲンを混ぜると、最外殻に7つの電子を持っているので、動きやすい電子が、リンと比べ3倍になります。」と記載されているのにとどまるのであって、そのことが実験的に確認されているわけではないし、そのようにするために、具体的にどのようにすればよいのかについても何ら記載されていない。
よって、「シリコン原子と置換されたハロゲン原子の(シリコン原子との結合に関与しない)余った3個の電子が、シリコン原子と置換されたリン様物質原子の(シリコン原子との結合に関与しない)余った1個の電子が自由電子になるのと同じ環境(典型的には常温常圧環境)下において、すべて自由電子になること」という技術的前提は、本願の発明の詳細な説明及び技術常識に照らせば、成り立つものとはいえない。
(イ)このように、本願の発明の詳細な説明及び技術常識に照らして、(i)ハロゲン原子がシリコン原子と置換される濃度が、リン様物質原子がシリコン原子と置換される濃度と、同様であること、(ii)シリコン原子と置換されたハロゲン原子の(シリコン原子との結合に関与しない)余った3個の電子が、シリコン原子と置換されたリン様物質原子の(シリコン原子との結合に関与しない)余った1個の電子が自由電子になるのと同じ環境(典型的には常温常圧環境)下において、すべて自由電子になること、という技術的前提が成り立つことを理解することができない。
しかしながら、上述したとおり、本願の発明の詳細な説明は、これらの技術的前提が成り立つことを実験的に明らかにしておらず、また、具体的にどのようにすれば、これらの技術的前提を実現できるのかを記載していない。
したがって、「n型シリコンにハロゲンを混ぜ」たものが、「シリコン」に「ハロゲン」を混ぜているが、リン様物質を混ぜていないものである場合において、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
イ 「n型シリコンにハロゲンを混ぜ」たものが、「シリコン」にリン様物質を混ぜるとともに、さらに、「ハロゲン」を混ぜたものである場合
上記アのとおり、「シリコン」に「ハロゲン」を混ぜても、当業者は、請求項1に係る発明の「n型シリコンにハロゲンを混ぜると、最外殻に7つの電子を持っているので、動きやすい電子が、リンなどと比べ3倍になります。移動する電子の数も3倍となり、電流も3倍になります。電力は、電圧×電流ですから、太陽光発電の発電効率も3倍になる太陽電池。」を実施することができない。そして、「シリコン」にリン様物質を混ぜるとしても、リン様物質原子は、最外殻に5つの電子を持っている原子であって、(シリコン原子との結合に関与しない)余った電子が、3個ではなく1個にとどまるから、当業者は、なおさら、請求項1に係る発明の「n型シリコンにハロゲンを混ぜると、最外殻に7つの電子を持っているので、動きやすい電子が、リンなどと比べ3倍になります。」を実施することはできないといえる。
したがって、「n型シリコンにハロゲンを混ぜ」たものが、「シリコン」にリン様物質を混ぜるとともに、さらに、「ハロゲン」を混ぜたものである場合において、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
ウ 以上のとおりであるから、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
第5 審判請求人の主張について
1 審判請求人は、令和2年1月9日(差出日)の審判請求書において、
「自由電子を供給するような不純物をドナーと呼ぶから、ハロゲンはドナーとして機能するため、自由電子となります。審査官がハロゲンだけ例外と主張するならば、論文や文献を用いて、証明してください。」
旨主張し、また、令和2年2月26日(差出日)の審判請求書の手続補正書(方式)において、
「審査官の主張通り、第2イオン化エネルギーと第3イオン化エネルギーは大きくなることは、文献などで確認できます。しかし、その原因で、伝導体にならず、自由電子にならないという説明は、どの文献でも確認できません。繰り返しますが、ハロゲンは自由電子になるということは技術常識として専門家が書いているので、ハロゲンだけ例外と主張するならば、論文や文献を用いて、明確に書かれていることを根拠に証明する必要があります。」
旨主張している。
しかしながら、上記のとおり、自由電子になるためには、原子からの束縛から離脱する必要があるから、(シリコン原子との結合に関与しない)余った電子であれば、必然的に自由電子になるということにはならない。
2 請求人は、令和2年4月7日(差出日)、4月8日(差出日)及び5月4日(差出日)に上申書を提出し、ハロゲンをシリコンに添加すると(シリコン原子との結合に関与しない)余った3つの電子がいずれも自由電子になる旨主張するが、上記の認定判断を左右するものではない。
以上のとおりであるから、審判請求人の主張を採用することはできない。
第6 むすび
以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、また、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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