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特許拒絶査定不服審判

2021-004320

アレルギー治療薬。

審判番号
2021-004320
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2020-056834外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2021年01月31日
審決日
2023年11月17日
公報発行日
2024年03月29日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (A61K) / P18 .536-WZ (A61K) / P18 .537-WZ (A61K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項特許法36条4項1号特許法36条6項1号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2020- 56834「アレルギー治療薬。」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 9月16日出願公開、特開2021-138679〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 この出願(以下「本願」という。)は、令和2年3月9日の特許出願であって、出願後の主な手続の経緯は次のとおりである。 令和 2年 8月13日付け:拒絶理由通知 令和 2年 8月31日 :意見書の受付 令和 2年12月25日付け:拒絶査定 令和 3年 1月31日 :審判請求書及び手続補正書の受付 令和 3年 3月25日 :手続補正書の受付 令和 3年 6月 4日付け:却下理由通知 令和 3年12月 9日付け:手続却下の処分(令和3年3月25日受付の手続補正書の却下) 令和 5年 5月17日付け:拒絶理由通知(当審) 令和 5年 7月 3日 :意見書の受付 第2 本願発明について 1 請求項1の記載 本願請求項1に係る発明は、令和3年1月31日受付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定された、次のとおりのものと認められる。 「【請求項1】 酸性薬物、または塩基性薬物を使用する、を、酸性溶質、または塩基性溶質を有効成分として含むリボソーム医薬品を使用する、に変更します。 請求項1 肥満細胞を標的部位とするリポソーム医薬品のうち、酸性溶質、または塩基性溶質を有効成分として含むリボソーム医薬品を使用する、アレルギー治療薬。」 2 本願発明 本願請求項1の「酸性薬物、または塩基性薬物を使用する、を、酸性溶質、または塩基性溶質を有効成分として含むリボソーム医薬品を使用する、に変更します。 請求項1」なる記載は、発明を特定する事項ではなく、補正の意図を記載した事項であって、当該記載に続き、「肥満細胞を標的部位とするリポソーム医薬品のうち、酸性溶質、または塩基性溶質を有効成分として含むリポソーム医薬品を使用する、アレルギー治療薬。」(下線は当審が追加)と記載されていることから見ても、誤記又は余事記載と解される。 さらに、請求項1の「リボソーム」なる記載は、本願明細書の段落【0002】に「リポソーム医薬品とは、標的部位への医薬品の選択的な送達や生体内安定性の向上を図る医薬品であり」と記載されていることから、「リポソーム」の誤記であると解される。 したがって、本願請求項1に係る発明を下記のとおり認定して(以下「本願発明」という。)以下の検討を行う。(下線は当審で付与した。) 「肥満細胞を標的部位とするリポソーム医薬品のうち、酸性溶質、または塩基性溶質を有効成分として含むリポソーム医薬品を使用する、アレルギー治療薬。」 第3 当審の拒絶理由 当審における令和5年5月17日付けでの拒絶理由の概略は下記のとおりである。 1 理由1(明確性):この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 ・請求項1 請求項1の記載は明確でない。 2 理由2(サポート要件):この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 ・請求項1 本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識から、当業者は本願発明1の課題を解決できると認識することができないから、本願発明1は、発明の詳細な説明に記載したものでない。 3 理由3(実施可能要件):この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 ・請求項1 本願明細書の発明の詳細な説明が、当業者が本願発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。 4 理由4(進歩性):この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 ・請求項1 本願発明1は、引用文献1に記載された発明及び引用文献1に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得た発明である。 <引用文献等一覧> 1.清水広介,DDSの理想を追いかけて,薬剤学,2013年,73巻3号,第171-175頁 第4 当審の判断 1 理由2(サポート要件)について (1)特許法第36条第6項第1号の判断手法について 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。以下、この観点に立って判断する。 (2)本願発明の課題について 本願発明の課題に関して、本願明細書の段落【0002】には、以下の記載がある。 「【0002】 肥満細胞の酵素の働きのため、アレルギーを発症する。 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 アレルギーの発症を抑えるためのアレルギー治療薬を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 本発明の目的を達成するため、次の構成を採用する。 アレルギーを発症させる物質をアレルゲンという。 肥満細胞とはIgEを介したI型アレルギー反応の主体である。肥満細胞の中にはヒスタミンをはじめとした各種化学伝達物質がある。 アレルゲンが放出するIgE抗体は、肥満細胞の表面にある、IgE受容体に結合してブリッジ構造を形成する。その結果、肥満細胞の持つ酵素の働きを促し、酵素により肥満細胞内のヒスタミンなどの顆粒球を外に放出し、この物質が、いろいろなアレルギーを引き起こす。 酵素には至適PHがあり、リポソーム医薬品のうち、酸性薬物または塩基性薬物を加えて酵素の至適PHの値からPHを乖離させて酵素の働きを失脚させ、肥満細胞の顆粒球の放出を抑えることにより、アレルギーの発症を治療する。 リポソーム医薬品とは、標的部位への医薬品の選択的な送達や生体内安定性の向上を図る医薬品であり、副作用の軽減及び有効性の向上を目指す革新的医薬品の一つである。本発明は、肥満細胞を標的部位とするリポソーム医薬品を使用する。 肥満細胞は、粘膜、皮膚、腸管などのからだの表面に近い部位でしか存在しない。従って、アレルギーの発症する部位はそういった場所に限られる。 【発明の効果】 肥満細胞を標的部位とするリポソーム医薬品のうち、酸性薬物または塩基性薬物をアレルギー治療薬として人体に投与して、アレルギーの治療をする。」 そして、本願発明は「肥満細胞を標的部位とするリポソーム医薬品のうち、酸性溶質、または塩基性溶質を有効成分として含むリポソーム医薬品を使用する、アレルギー治療薬。」に関するものである。 ここで、本願発明の「酸性溶質」及び「塩基性溶質」なる記載について、具体的にどのような物質を意図しているのか、本願明細書にも同記載がないが、本願明細書の段落【0002】には本願発明の「アレルギー治療薬」に用いられる成分として、「酸性薬物」又は「塩基性薬物」を用いることが記載されていることから、「酸性溶質」及び「塩基性溶質」は「酸性薬物」及び「塩基性薬物」を意味するものと解される。 そうすると、本願発明の課題は、肥満細胞を標的部位とするリポソーム医薬品のうち、酸性薬物又は塩基性薬物を有効成分として含むリボソーム医薬品を使用して、肥満細胞の持つ酵素の至適pHの値からpHを乖離させて酵素の働きを失脚させ、肥満細胞の顆粒球の放出を抑えることによりアレルギーの発症を治療する、アレルギー治療薬を提供することであるといえる。 そして、本願発明の上記課題を解決できるとするためには、本願発明の「肥満細胞を標的部位とするリポソーム医薬品のうち、酸性溶質、または塩基性溶質を有効成分として含むリポソーム医薬品」が、アレルギー治療に有効であることを裏付ける薬理試験方法及び薬理試験結果を示すか、あるいは、「肥満細胞を標的部位とするリポソーム医薬品のうち、酸性溶質、または塩基性溶質を有効成分として含むリポソーム医薬品」が、出願時の技術常識に照らし、アレルギー治療に有効であることを推認できることが必要であると解される。 (3)本願発明について 本願発明は、上記「(2)本願発明の課題について」で述べたとおり、「肥満細胞を標的部位とするリポソーム医薬品のうち、酸性溶質、または塩基性溶質を有効成分として含むリポソーム医薬品を使用する、アレルギー治療薬。」であることを発明特定事項としている。 しかし、本願明細書には、「肥満細胞を標的部位とするリポソーム医薬品のうち、酸性溶質、または塩基性溶質を有効成分として含むリポソーム医薬品」が、アレルギー治療に有効であることを裏付ける薬理試験方法及び薬理試験結果については記載されていない。 さらに、「肥満細胞を標的部位とするリポソーム医薬品のうち、酸性溶質、または塩基性溶質を有効成分として含むリポソーム医薬品」のアレルギー治療における有効性については、段落【0002】に、酸性薬物又は塩基性薬物によって、肥満細胞の持つ酵素の至適pHの値からpHを乖離させて酵素の働きを失脚させ、肥満細胞の顆粒球の放出を抑えることによりアレルギーの発症を治療すると説明されており、上記(2)のとおり、本願発明の「酸性溶質」及び「塩基性溶質」は「酸性薬物」及び「塩基性薬物」を意味するものと解したとしても、一般に、生体内においてはpHについての緩衝機能が働くというのが技術常識であるところ、酸性或いは塩基性を有する化合物をリポソーム製剤によって肥満細胞に送達し得たとしても、それが直ちに肥満細胞の持つ酵素を失活させて肥満細胞の顆粒球の放出を抑制しうるほどのpHの変化を誘導するとは考えられない。 また、肥満細胞の持つ酵素を失活させて肥満細胞の顆粒球の放出を抑制しうるほどのpHの変化を誘導するほどの強力又は多量の「酸性溶質」、又は「塩基性溶質」を用いる場合には、人体に少なからず悪影響を及ぼし、「医薬品」として使用できるとは考えられない。 そうすると、「肥満細胞を標的部位とするリポソーム医薬品のうち、酸性溶質、または塩基性溶質を有効成分として含むリポソーム医薬品」が、出願時の技術常識に照らし、アレルギー治療に有効であることを推認できるとはいえない。 (4)請求人の主張について ア 請求人は、令和5年7月3日受付の意見書において、以下の点を主張する。 薬理試験結果が必要なのは、技術常識から論理的に結論が出ない場合であり、実際、薬理試験結果がなくても、特許査定を受けている案件は存在する(出願番号 特願2006-168598 公開番号 特開2006-241172 発明名称 子宮内膜症の予防又は治療薬)。そして、本願発明、技術常識から論理的に結論が出るものであり、薬理試験は必要なく、審査官が指摘している、酸及び塩基の種類や用量は、特許の出願で特定する必要はない。 イ 請求人の主張について検討する。 いわゆるサポート要件の判断は、上記(1)において述べたとおり、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断されるものであり、薬理試験結果の開示の有無のみによって判断されるものではない。 そして、上記(3)において検討したとおり、発明の詳細な説明には「肥満細胞を標的部位とするリポソーム医薬品のうち、酸性溶質、または塩基性溶質を有効成分として含むリポソーム医薬品」が、アレルギー治療に有効であることを裏付ける薬理試験方法及び薬理試験結果については記載されていないし、当業者が、出願時の技術常識に照らして、「肥満細胞を標的部位とするリポソーム医薬品のうち、酸性溶質、または塩基性溶質を有効成分として含むリポソーム医薬品」がアレルギー治療に有効であることを推認できるともいえない。 よって、この主張を採用することはできない。 (5)まとめ 以上のとおり、本願発明は、本願の明細書の発明の詳細な説明に記載されているとはいえないため、特許法第36条第6項第1号の要件に適合するとはいえない。 2 理由3(実施可能要件)について (1)特許法第36条第4項第1号の判断手法について 特許法第36条第4項は「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定され、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。 特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明では、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載がない場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術上記に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、そのものを作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。 そして、医薬発明は、一般に物の構造や名称からその物をどのように作り、どのように使用するかを理解することが比較的困難な技術分野に属する発明であり、当業者がその発明を実施することができるように発明の詳細な説明を記載するためには、出願時の技術常識から、当業者が化合物等を製造又は取得することができ、かつ、その化合物等を医薬用途に使用することができる場合を除き、通常、一つ以上の代表的な実施例を記載することが必要である。そして、医薬用途を裏付ける実施例として、通常、請求項に係る発明における化合物等に薬理作用があることを裏付けるための薬理試験結果の記載が求められる。 (2)本願発明について 本願発明は「肥満細胞を標的部位とするリポソーム医薬品のうち、酸性溶質、または塩基性溶質を有効成分として含むリポソーム医薬品を使用する、アレルギー治療薬。」に係る発明であり、その実施をすることができるように発明の詳細な説明を記載するためには、「アレルギー治療」のための医薬用途を裏付ける実施例として、「肥満細胞を標的部位とするリポソーム医薬品のうち、酸性溶質、または塩基性溶質を有効成分として含むリポソーム医薬品」が「アレルギー治療」に有効であることを確認するための薬理試験結果記載が求められる。 しかしながら、上記「1 理由2(サポート要件)について」で述べたとおり、本願明細書には、「肥満細胞を標的部位とするリポソーム医薬品のうち、酸性溶質、または塩基性溶質を有効成分として含むリポソーム医薬品」が、アレルギー治療に有効であることを裏付ける薬理試験方法及び薬理試験結果は示されておらず、また、本願明細書の段落【0002】の記載を参酌しても、「肥満細胞を標的部位とするリポソーム医薬品のうち、酸性溶質、または塩基性溶質を有効成分として含むリポソーム医薬品」が「アレルギー治療」に有効であると認識できるような出願時の技術常識が存在していたとも認められない。 さらに、生体内において、そのような肥満細胞の持つ酵素を失活させて肥満細胞の顆粒球の放出を抑制しうるほどのpHの変化を誘導することができるような酸性薬物又は塩基性薬物や、そのような薬物を送達しうるようなリポソーム製剤等が、出願時の技術常識に基づいて製造し得たとはいえない。 そうすると、本願明細書は、本願発明について当業者が実施できる程度に、明確かつ十分に記載されているとはいえず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているとはいえない。 (3)請求人の主張について 令和5年7月3日受付の意見書における請求人の主張とそれに対する判断は、上記「1 理由2(サポート要件)について」の「(4)請求人の主張について」で述べたとおりであり、採用できない。 (4)まとめ 以上のとおり、本願発明について、本願明細書の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているとはいえない。 3 理由4(進歩性)について (1)引用文献1に記載された発明 ア 引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付記した。)。 (ア)第174頁右欄第13行目-第175頁左欄第6行目 「前述のように抗体などを標的化プローブとして用い、標的細胞に能動的にキャリアを送達するのではなく、抗原を表面に修飾することで免疫細胞群に認識させるこの標的化戦略を当研究室では逆標的化(リバースターゲティング、Reverse targeting)と呼んでいる(図2)。ちょうど免疫細胞に対し、抗原修飾リポソームが”囮(おとり)”となり、内封する薬物によりそれらの細胞が殺傷される構図である(図3)。この概念を導入するにあたり、モデル抗原として卵白アルブミン(OVA)を用い、OVA修飾リポソームの免疫細胞への認識について検討を行ったところ、OVA修飾リポソームが抗OVA抗体に特異的に結合することを明らかとし、OVAで事前に感作した、マウスにおけるOVA特異的抗体の抗体価が、OVA修飾リポソーム尾静脈内投与後に有意に上昇することも明らかとした4)。また全身免疫を司る臓器である脾臓へのリポソームの集積が、OVAの表面修飾により有意に高くなり、秘蔵内の分布についてはB細胞集団と共局在していることも同時に確認された。」 (イ)図3 「アレルギー発症の抗原となる分子を修飾したリポソームは、その特異的抗体を細胞表面に発現する記憶B細胞や肥満細胞に認識され、内封する薬物によりそれら細胞群に致死的障害を与えることができる。これによりその後のアレルギー反応を抑えるだけでなく、アレルギー発症そのものを長期的に抑えることが可能となる。」 (ウ)第174頁右欄第13行目-第175頁左欄第6行目 「さらに細胞障害性のモデル薬物としてドキソルビシン(DOX)を用い、DOXを内諷したOVA修飾リポソームをOVA感作マウスに投与したところ、その後の追加免疫におけるOVA特異的抗体の血中抗体価の上昇が有意に抑制されることが明らかとなった5)。」 (エ)第172頁右欄第7行目-第9行目 「・・・私が初めて封入を試みた抗がん剤は、ドキソルビシンと同様に塩基性低分子化合物であったため・・・」 イ そうすると、引用文献1には、上記摘記(イ)に着目すると、次の発明が記載されていると認められる。 「アレルギー発症の抗原となる分子を修飾したリポソームであって、該抗原に対する特異的抗体を細胞表面に発現する肥満細胞に認識されて、内封する薬物によって肥満細胞を含む細胞群に致死的障害を与えることができ、アレルギー反応を抑えるだけでなく、アレルギー発症そのものを長期的に抑えることが可能なリポソーム。」(以下「引用発明」という。) (2)本願発明について ア 対比 (ア)引用発明の「アレルギー発症の抗原となる分子を修飾したリポソーム」は、「該抗原に対する特異的抗体を細胞表面に発現する肥満細胞に認識されて、内封する薬物によって肥満細胞を含む細胞群に致死的障害を与える」ものであるので、本願発明の「肥満細胞を標的部位とするリポソーム医薬」に相当する。 (イ)引用発明の「アレルギー反応を抑えるだけでなく、アレルギー発症そのものを長期的に抑えることが可能なリポソーム。」は、本願発明の「リポソーム医薬品を使用する、アレルギー治療薬」に相当する。 (ウ)上記1(2)のとおり、本願発明の「酸性溶質」及び「塩基性溶質」なる記載について、具体的にどのような物質を意図しているのか、本願明細書にも同記載がないが、本願明細書の段落【0002】には本願発明の「アレルギー治療薬」に用いられる成分として、「酸性薬物」又は「塩基性薬物」を用いることが記載されていることから、「酸性溶質」及び「塩基性溶質」は「酸性薬物」及び「塩基性薬物」を意味するものと解される。 そうすると、引用発明の「薬物」と本願発明の「酸性溶質、または塩基性溶質」とは、「薬物」である限りにおいて一致する。 (エ)引用発明は、「薬物」が作用してアレルギー反応を抑えるものであることから、「薬物」は有効成分として含まれているものといえ、本願発明の「(酸性溶質、または塩基性溶質を)有効成分として含む」ものに相当する。 <一致点> 肥満細胞を標的部位とするリポソーム医薬品のうち、薬物を有効成分として含むリボソーム医薬品を使用する、アレルギー治療薬。 <相違点> 本願発明の医薬組成物が、「酸性溶質、または塩基性溶質」を有効成分とするものであるのに対し、引用発明は、「薬物」の種類が特定されていない点。 イ 判断 引用文献1には、細胞障害性のモデル薬物としてドキソルビシンを用いることも記載されている(上記(1)ア(ウ))。 ここで、上記(1)ア(エ)の記載からみてドキソルビシンは塩基性の物質であり、ドキソルビシンが水にやや溶けることも自明であることから、本願発明の「塩基性溶質」に相当する。 してみると、引用発明に用いる薬物として、本願発明の「塩基性溶質」に相当するドキソルビシンを採用してみることは、当業者が容易になしえたことである。 さらに、本願明細書には、本願発明に関する薬理試験結果等が開示されていないため、リポソームに酸性溶質又は塩基性溶質を採用したことによる有利な効果を確認することができない。 ウ 小括 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献1に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得た発明である。 (3)請求人の主張について ア 請求人は、令和5年7月3日受付の意見書において、以下の点を主張する。 引用文献1は本願発明と無関係の文献であり、Aという発明とBという発明を合わせて、Cという全く新しい発明が生まれた場合、進歩性はあるといえ、本件はそれにあたり、技術常識そのものは、容易な常識であるものの、それらを組み合わせて得られる結論も、同様に容易である、とは解釈できない。 また、仮に容易に想到できるなら、私の発明した薬は、既に販売されているはずであり、容易に想到できないから、発明できていないのである。 イ 請求人の主張について検討する。 上記(1)のとおり、本願発明と引用発明とは、「肥満細胞を標的部位とするリポソーム医薬品のうち、薬物を有効成分として含むリボソーム医薬品を使用する、アレルギー治療薬」という点で一致しているから、引用文献1と本願発明とは技術的に関連しており、引用文献1には、細胞障害性のモデル薬物としてドキソルビシンを用いることも記載されているから、引用発明において、ドキソルビシンを採用してみることは、当業者が容易になしえたことである。また、販売等の有無は本願発明が容易に想到し得るか否かを左右するものではない。さらに、本願発明は、肥満細胞を標的部位とするリポソーム医薬品のうち、酸性薬物又は塩基性薬物を有効成分として含むリポソーム医薬品を使用して、肥満細胞の持つ酵素の至適pHの値からpHを乖離させて酵素の働きを失脚させ、肥満細胞の顆粒球の放出を抑えることによりアレルギーの発症を治療することを意図するものと解されるが、そのような効果を奏することを示す薬理試験結果等は開示されておらず、出願時の技術常識に照らしてもそのような効果を奏することが確認できない。 したがって、この主張を採用することはできない。 ウ 小括 上記主張にかかわらず、本願発明は、引用発明及び引用文献1に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得た発明である。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が、本願発明について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 さらに、本願発明は、引用発明及び引用文献1に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2021-004320

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    共通の審決分類: 121・A61K、536・A61K、537・A61K
  • 2024-017685拒絶査定不服審判 / 2026-08-24 / 原査定取消(特許/登録すべき)組み換えプロテアーゼ阻害剤含有組成物、同様物の製造およびその使用のための方法
    共通の審決分類: 121・A61K、536・A61K、537・A61K
  • 2026-002455拒絶査定不服審判 / 2026-08-20 / 原査定取消(特許/登録すべき)水性液剤
    共通の審決分類: 121・A61K、536・A61K、537・A61K
  • 2023-001003拒絶査定不服審判 / 2026-08-19 / 原査定取消(特許/登録すべき)テストステロン組成物の針に補助されるジェット注射投与
    共通の審決分類: 121・A61K、536・A61K、537・A61K

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