特許異議申立
2019-701007
映像表示システムおよび映像表示方法
- 審判番号
- 2019-701007
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-143173
- 登録番号
- 特許第6529728号(P6529728)
- 請求日
- 2019年12月10日
- 審決日
- 2021年05月13日
- 公報発行日
- 2021年09月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】AGC株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人 志賀国際特許事務所
- 【異議申立人】栗 暢行
- 審判長/審判官
- 審判長 石井 哲
- 審判官 濱野 隆
- 審判官 中塚 直樹
- 分類
- P1651.113-YAA(G03B) / P1651.121-YAA(G03B) / P1651.536-YAA(G03B) / P1651.537-YAA(G03B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条、特許法第36条、特許法第120条の5第7項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6529728号発明「映像表示システムおよび映像表示方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6529728号の明細書及び特許請求の範囲を、令和3年1月7日に提出された訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕,〔6~8〕,〔9~13〕,〔14~16〕について訂正することを認める。
特許第6529728号の請求項1~16に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6529728号(以下「本件特許」という。)に係る特許出願は、平成26年7月11日にされたものであり、令和元年5月24日にその特許権の設定の登録がされ、同年6月12日にその特許掲載公報が発行された。本件特許の特許請求の範囲に記載された請求項の数は16である。
これに対して、令和元年12月10日に特許異議申立人栗暢行(以下「申立人」という。)は、証拠として甲第1号証~甲第6号証(枝番も含む)を提出し、本件特許の請求項1~16について特許異議の申立てをした。
その後の経緯は、次のとおりである。
令和2年 2月26日付け:取消理由通知書
令和2年 4月30日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和2年 8月25日付け:通知書(申立人宛て)
令和2年 9月25日 :申立人による意見書の提出
令和2年11月 4日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和3年 1月 7日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和3年 2月16日付け:通知書(申立人宛て)
令和3年 3月10日 :申立人による意見書の提出
以下、令和3年1月7日に提出された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。
なお、令和2年4月30日に提出された訂正請求書による訂正の請求は、特許法120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 本件訂正について
1 請求の趣旨及び訂正の内容
本件訂正の請求の趣旨は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲を、それぞれ、本件訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~16について訂正することを求めるものであって、その内容は次のとおりである(訂正箇所に下線を付した。)。
(1)訂正事項1
明細書の段落【0056】の記載を、
「【0056】
(作用機序)
以上説明した反射型の映像表示透明部材1を用いた本発明の映像表示システムおよび映像表示方法にあっては、短焦点プロジェクタを用いることにより、光軸方向に焦点位置とずれた場所においても、光量の密度が高い状態となる映像の中央付近の光が、映像表示透明部材の第1の面Aにおいて正反射した反射光Rの出射角、および結像せずに反射膜33を透過した透過光Tの出射角が大きくなる。そのため、反射光Rや透過光Tが観察者Xや観察者Yの目に入りにくく、投影機200から投射された映像光Lに由来する反射光Rや透過光Tによる眩しさを観察者Xや観察者Yが感じにくい。また、眩しさを抑えるために、第1の面Aおよび反射膜33の散乱度を高く設定する必要がないため、前方ヘーズを50%以下にすることができ、観察者Xや観察者Y側から見て映像表示透明部材1の向こう側に見える光景の視認性を低下させることがない。
ただし、短焦点プロジェクタを用いることで、映像表示透明部材1の第1の面Aへの映像光Lの入射角が大きくなるため、透過光Tが映像表示透明部材1付近の床や天井に到達するようになる。そして、透過光Tが床や天井に到達することによって床や天井で散乱された光は、映像表示透明部材1に映りこんで、映像のコントラストの低下を引き起こす。そのため、映像表示透明部材1の反射率を10%以上にすることによって、床や天井に到達する透過光Tの光量を減少させ、また、透過光Tが床や天井に到達することによって床や天井で散乱した光が、映像表示透明部材1を透過して写りこむ光量を低下させることができ、映像表示透明部材1に表示される映像のコントラストの低下を防ぐことができる。
また、短焦点プロジェクタを用いることで、映像表示透明部材1の第1の面Aへの入射角が大きくなるため、反射膜33で散乱し、観察者Xへ向かう散乱光が少なくなり輝度が低くなる領域が発生する。そこで、後方ヘーズが5%以上である映像表示透明部材1を用いることで、各領域において適切なスクリーンゲインが得られ、映像表示透明部材1の映像表示位置によらず、映像を視認することができるようになる。」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6を、
「【請求項6】
第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有する透明部材であり、第1の面側の光景を第2の面側の観察者に視認可能に透過し、第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過し、かつ第1の面側に設置された投影機から投射された映像光を第2の面側の観察者に映像として視認可能に表示する透過型の映像表示透明部材と、
映像表示透明部材の第1の面側に設置された投影機と
を備えた映像表示システムであって、
前記映像表示透明部材は、前記第1の面側の第1の透明基材と、前記第2の面側の第2の透明基材との間に、光散乱シートが配置されたものであり、
前記第1の透明基材と前記光散乱シートとは、接着層によって接着され、前記第2の透明基材と前記光散乱シートとは、接着層によって接着され、
前記第1の透明基材と、前記第2の透明基材が、ソーダライムガラスであり、
前記投影機が、短焦点プロジェクタであり、
前記映像表示透明部材の透過率が、5%以上であり、
前記映像表示透明部材の反射率が、10%以下であり、
前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、8~40%である、映像表示システム。」に訂正する。
(請求項6の記載を引用する請求項7、8も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項8を、
「【請求項8】
前記映像表示透明部材が、第1の面と第2の面との間に、透明層と、透明層の内部に互いに平行に、かつ面方向に沿って所定の間隔で配置された、面方向に沿って延びる複数の光散乱部とを有する、請求項6または7に記載の映像表示システム。」に訂正する。
(4)訂正事項4
明細書の段落【0011】の記載を、
「【0011】
本発明は、以下の構成を有する。
[1]第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有する透明部材であり、第1の面側の光景を第2の面側の観察者に視認可能に透過し、第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過し、かつ第1の面側に設置された投影機から投射された映像光を第1の面側の観察者に映像として視認可能に表示する反射型の映像表示透明部材と、映像表示透明部材の第1の面側に設置された投影機とを備えた映像表示システムであって、前記投影機が、短焦点プロジェクタであり、前記映像表示透明部材の透過率が、5~80%であり、前記映像表示透明部材の反射率が、18%以上であり、前記映像表示透明部材の後方ヘーズが、5~80%であり、前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、50%以下である、映像表示システム。
[2]前記映像表示透明部材に表示された映像の投影機に最も近い部分における、映像表示透明部材の第1の面への映像光の入射角が、15~60度である、[1]の映像表示システム。
[3]前記映像表示透明部材が、第1の面と第2の面との間に、表面に凹凸構造を有する第1の透明層を有し、第1の透明層の凹凸構造の算術平均粗さRaが、0.01~20μmである、[1]または[2]の映像表示システム。
[4]前記映像表示透明部材が、第1の面と第2の面との間に、第1の透明層の凹凸構造側の面に沿うように形成された、入射した光の一部を透過する反射膜と、反射膜の表面を覆うように設けられた第2の透明層とをさらに有する、[3]の映像表示システム。
[5]前記映像表示透明部材における、第1の透明層の表面の凹凸構造が、不規則な凹凸構造である、[3]または[4]の映像表示システム。
[6]第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有する透明部材であり、第1の面側の光景を第2の面側の観察者に視認可能に透過し、第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過し、かつ第1の面側から投射された映像光を第2の面側の観察者に映像として視認可能に表示する透過型の映像表示透明部材と、映像表示透明部材の第1の面側に設置された投影機とを備えた映像表示システムであって、前記映像表示透明部材は、前記第1の面側の第1の透明基材と、前記第2の面側の第2の透明基材との間に、光散乱シートが配置されたものであり、前記第1の透明基材と前記光散乱シートとは、接着層によって接着され、前記第2の透明基材と前記光散乱シートとは、接着層によって接着され、前記第1の透明基材と、前記第2の透明基材が、ソーダライムガラスであり、前記投影機が、短焦点プロジェクタであり、前記映像表示透明部材の透過率が、5%以上であり、前記映像表示透明部材の反射率が、10%以下であり、前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、8~40%である、映像表示システム。
[7]前記映像表示透明部材に表示された映像の投影機に最も近い部分における、映像表示透明部材の第1の面への映像光の入射角が、15~60度である、[6]の映像表示システム。
[8]前記映像表示透明部材が、第1の面と第2の面との間に、透明層と、透明層の内部に互いに平行に、かつ面方向に沿って所定の間隔で配置された、面方向に沿って延びる複数の光散乱部とを有する、[6]または[7]映像表示システム。」に訂正する。
(5)訂正事項5
明細書の段落【0095】の記載を、
「【0095】
(作用機序)
以上説明した透過型の映像表示透明部材4を用いた本発明の映像表示システムおよび映像表示方法にあっては、短焦短プロジェクタを用いることにより、光軸方向に焦点位置とずれた場所においても、光量の密度が高い状態となる映像の中央付近の光が、映像表示透明部材の第1の面Aにおいて正反射した反射光Rの出射角、および結像せずに光散乱部43を透過した透過光Tの出射角が大きくなる。そのため、反射光Rや透過光Tが観察者Xや観察者Yの目に入りにくく、投影機200から投射された映像光Lに由来する反射光Rや透過光Tによる眩しさを観察者Xや観察者Yが感じにくい。また、眩しさを抑えるために、第1の面Aおよび光散乱部43の散乱度を高く設定する必要がないため、前方ヘーズを40%以下にすることができ、観察者Xや観察者Y側から見て映像表示透明部材4の向こう側に見える光景の視認性を低下させることがない。
ただし、短焦点プロジェクタを用いることで、映像表示透明部材4の第1の面Aへの映像光Lの入射角が大きくなるため、透過光Tが映像表示透明部材4付近の床や天井に到達するようになる。そして、透過光Tが床や天井に到達することによって床や天井で散乱された光は、映像表示透明部材4に映りこんで、映像のコントラストの低下を引き起こす。そのため、映像表示透明部材4の反射率を15%以下にすることによって、透過光Tが床や天井に到達することによって床や天井で散乱した光が、映像表示透明部材4に反射して写りこむ光量を低下させることができ、映像表示透明部材4に表示される映像のコントラストの低下を防ぐことができる。
また、短焦点プロジェクタを用いることで、映像表示透明部材4の第1の面Aへの入射角が大きくなるため、光散乱部43で散乱し、観察者Yへ向かう散乱光が少なくなり輝度が低くなる領域が発生する。そこで、前方ヘーズが、4%以上である映像表示透明部材4を用いることで、各領域において適切なスクリーンゲインが得られ、映像表示透明部材4の映像表示位置に依らず、映像を視認することができるようになる。」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項14を、
「【請求項14】
第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有する透明部材であり、第1の面側の光景を第2の面側の観察者に視認可能に透過し、第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過し、かつ第1の面側から投射された映像光を第2の面側の観察者に映像として視認可能に表示する透過型の映像表示透明部材に、
映像表示透明部材の第1の面側に設置された投影機から映像光を投射し、映像を表示させる方法であって、
前記映像表示透明部材は、前記第1の面側の第1の透明基材と、前記第2の面側の第2の透明基材との間に、光散乱シートが配置されたものであり、
前記第1の透明基材と前記光散乱シートとは、接着層によって接着され、前記第2の透明基材と前記光散乱シートとは、接着層によって接着され、
前記第1の透明基材と、前記第2の透明基材が、ソーダライムガラスであり、
前記投影機が、短焦点プロジェクタであり、
前記映像表示透明部材の透過率が、5%以上であり、
前記映像表示透明部材の反射率が、10%以下であり、
前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、8~40%である、映像表示方法。」に訂正する。
(請求項14の記載を引用する請求項15、16も同様に訂正する。)
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項16を、
「【請求項16】
前記映像表示透明部材が、第1の面と第2の面との間に、透明層と、透明層の内部に互いに平行に、かつ面方向に沿って所定の間隔で配置された、面方向に沿って延びる複数の光散乱部とを有する、請求項14または15に記載の映像表示方法。」に訂正する。
(8)訂正事項8
明細書の段落【0012】の記載を、
「【0012】
[9]第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有する透明部材であり、第1の面側の光景を第2の面側の観察者に視認可能に透過し、第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過し、かつ第1の面側から投射された映像光を第1の面側の観察者に映像として視認可能に表示する反射型の映像表示透明部材に、映像表示透明部材の第1の面側に設置された投影機から映像光を投射し、映像を表示させる方法であって、前記投影機が、短焦点プロジェクタであり、前記映像表示透明部材の透過率が、5~80%であり、前記映像表示透明部材の反射率が、18%以上であり、前記映像表示透明部材の後方ヘーズが、5~80%であり、前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、50%以下である、映像表示方法。
[10]前記映像表示透明部材に表示された映像の投影機に最も近い部分における、映像表示透明部材の第1の面への映像光の入射角が、15~60度である、[9]の映像表示方法。
[11]前記映像表示透明部材が、第1の面と第2の面との間に、表面に凹凸構造を有する第1の透明層を有し、第1の透明層の凹凸構造の算術平均粗さRaが、0.01~20μmである、[9]または[10]の映像表示方法。
[12]前記映像表示透明部材が、第1の面と第2の面との間に、第1の透明層の凹凸構造側の面に沿うように形成された、入射した光の一部を透過する反射膜と、反射膜の表面を覆うように設けられた第2の透明層とをさらに有する、[11]の映像表示方法。
[13]前記映像表示透明部材における、第1の透明層の表面の凹凸構造が、不規則な凹凸構造である、[11]または[12]の映像表示方法。
[14]第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有する透明部材であり、第1の面側の光景を第2の面側の観察者に視認可能に透過し、第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過し、かつ第1の面側から投射された映像光を第2の面側の観察者に映像として視認可能に表示する透過型の映像表示透明部材に、映像表示透明部材の第1の面側に設置された投影機から映像光を投射し、映像を表示させる方法であって、前記映像表示透明部材は、前記第1の面側の第1の透明基材と、前記第2の面側の第2の透明基材との間に、光散乱シートが配置されたものであり、前記第1の透明基材と前記光散乱シートとは、接着層によって接着され、前記第2の透明基材と前記光散乱シートとは、接着層によって接着され、前記第1の透明基材と、前記第2の透明基材が、ソーダライムガラスであり、前記投影機が、短焦点プロジェクタであり、前記映像表示透明部材の透過率が、5%以上であり、前記映像表示透明部材の反射率が、10%以下であり、前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、8~40%である、映像表示方法。
[15]前記映像表示透明部材に表示された映像の投影機に最も近い部分における、映像表示透明部材の第1の面への映像光の入射角が、15~60度である、[14]に記載の映示方法。
[16]前記映像表示透明部材が、第1の面と第2の面との間に、透明層と、透明層の内部に互いに平行に、かつ面方向に沿って所定の間隔で配置された、面方向に沿って延びる複数の光散乱部とを有する、[14]または[15]の映像表示方法。」に訂正する。
2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の目的
ア 訂正事項1
上記訂正事項1は、明細書の段落【0056】の記載において、本件訂正前の「また、短焦点プロジェクタを用いることで、映像表示透明部材1の第1の面Aへの入射角が大きくなるため、反射膜33で散乱し、観察者Xへ向かう散乱光が少なくなくなり輝度が低くなる領域が発生する。」との記載における「少なくなくなり」を「少なくなり」と訂正するものである。
本件訂正前の段落【0050】の「本発明においては、短焦点プロジェクタを用いることによって、映像表示透明部材1の第1の面Aへの映像光Lの入射角が大きくなり、映像光Lの光量の強い領域が映像表示透明部材1を大きな出射角で透過、または映像表示透明部材1の第1の面Aにて大きな出射角で正反射することによって観察者に到達しにくくなる。」という記載及び本件訂正前の段落【0056】の「輝度が低くなる領域が発生する。」との記載からみて、上記「少なくなくなり」が「少なくなり」の誤記であることは明らかであるから、上記訂正事項1に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書き2号に掲げる「誤記の訂正」を目的とするものに該当する。
イ 訂正事項2
上記訂正事項2は、本件訂正前の請求項6において、「前記映像表示透明部材は、前記第1の面側の第1の透明基材と、前記第2の面側の第2の透明基材との間に、光散乱シートが配置されたものであり、前記第1の透明基材と前記光散乱シートとは、接着層によって接着され、前記第2の透明基材と前記光散乱シートとは、接着層によって接着され、前記第1の透明基材と、前記第2の透明基材が、ソーダライムガラスであり、」との構成を付加することを含むものである。
また、上記訂正事項2は、本件訂正前の請求項6において、「前記映像表示透明部材の反射率が、15%以下であり、」と記載されているのを「前記映像表示透明部材の反射率が、10%以下であり、」に訂正するものであり、「前記映像表示透明部材の反射率」の上限の値を15%から10%に減縮するものである。
よって、上記訂正事項2に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書き1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
ウ 訂正事項3
上記訂正事項3は、本件訂正前の請求項8の「第1の面と第2の面との間に」、「透明層の内部に互いに平行に、かつ所定の間隔で配置された」、「面方向に沿って延びる複数の光散乱部」について、「面方向に沿って所定の間隔で配置された」と限定するものであるから、上記訂正事項3に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書き1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
エ 訂正事項4
上記訂正事項4は、上記訂正事項2及び3に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載の整合を図るためのものであるから、上記訂正事項4に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書き3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
オ 訂正事項5
上記訂正事項5は、明細書の段落【0095】の記載において、本件訂正前の「また、短焦点プロジェクタを用いることで、映像表示透明部材4の第1の面Aへの入射角が大きくなるため、光散乱部43で散乱し、観察者Yへ向かう散乱光が少なくなくなり輝度が低くなる領域が発生する。」との記載における「少なくなくなり」を「少なくなり」と訂正するものである。
本件訂正前の段落【0089】の「本発明においては、短焦点プロジェクタを用いることによって、映像表示透明部材4の第1の面Aへの映像光Lの入射角が大きくなり、映像光Lの光量の強い領域が映像表示透明部材4を大きな出射角で透過、または映像表示透明部材1の第1の面Aにて大きな出射角で正反射することによって観察者に到達しにくくなる。」という記載及び本件訂正前の段落【0095】の「輝度が低くなる領域が発生する。」との記載からみて、上記「少なくなくなり」が「少なくなり」の誤記であることは明らかであるから、上記訂正事項5に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書き2号に掲げる「誤記の訂正」を目的とするものに該当する。
カ 訂正事項6
上記訂正事項6は、本件訂正前の請求項14において、「前記映像表示透明部材は、前記第1の面側の第1の透明基材と、前記第2の面側の第2の透明基材との間に、光散乱シートが配置されたものであり、前記第1の透明基材と前記光散乱シートとは、接着層によって接着され、前記第2の透明基材と前記光散乱シートとは、接着層によって接着され、前記第1の透明基材と、前記第2の透明基材が、ソーダライムガラスであり、」との構成を付加することを含むものである。
また、上記訂正事項6は、本件訂正前の請求項14において、「前記映像表示透明部材の反射率が、15%以下であり、」と記載されているのを「前記映像表示透明部材の反射率が、10%以下であり、」に訂正するものであり、「前記映像表示透明部材の反射率」の上限の値を15%から10%に減縮するものである。
よって、上記訂正事項6に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書き1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
キ 訂正事項7
上記訂正事項7は、本件訂正前の請求項8の「第1の面と第2の面との間に」、「透明層の内部に互いに平行に、かつ所定の間隔で配置された」、「面方向に沿って延びる複数の光散乱部」について、「面方向に沿って所定の間隔で配置された」と限定するものであるから、上記訂正事項7に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書き1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
ク 訂正事項8
上記訂正事項8は、上記訂正事項6及び7に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載の整合を図るためのものであるから、上記訂正事項8に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書き3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
(2)新規事項の追加、特許請求の範囲の実質的拡張・変更
上記訂正事項2~4、6~8に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書き2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものに該当しないから、この訂正における新規事項の追加の有無を判断する際の基準となる明細書等は、同条9項で準用する同法126条5項の規定により、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「特許明細書等」という。)である。
上記訂正事項1及び5に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書き2号に掲げる「誤記の訂正」を目的とするものに該当するから、この訂正における新規事項の追加の有無を判断する際の基準となる明細書等は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「当初明細書等」という。)である。
ア 訂正事項1
上記訂正事項1における訂正前の「少なくなくなり」という記載は、当初明細書等の段落【0056】においても存在するものであると認められるところ、当初明細書等の段落【0050】の「本発明においては、短焦点プロジェクタを用いることによって、映像表示透明部材1の第1の面Aへの映像光Lの入射角が大きくなり、映像光Lの光量の強い領域が映像表示透明部材1を大きな出射角で透過、または映像表示透明部材1の第1の面Aにて大きな出射角で正反射することによって観察者に到達しにくくなる。」という記載及び当初明細書等の段落【0056】の「輝度が低くなる領域が発生する。」との記載からみて、上記「少なくなくなり」が、当初明細書等においても「少なくなり」の誤記であることは明らかであるから、この訂正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、上記訂正事項1に係る訂正は、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項及び6項に規定する要件を満たす。
イ 訂正事項2
上記訂正事項2のうち、「前記映像表示透明部材は、前記第1の面側の第1の透明基材と、前記第2の面側の第2の透明基材との間に、光散乱シートが配置されたものであり、前記第1の透明基材と前記光散乱シートとは、接着層によって接着され、前記第2の透明基材と前記光散乱シートとは、接着層によって接着され、前記第1の透明基材と、前記第2の透明基材が、ソーダライムガラスであり、」という構成を付加する訂正は、特許明細書等の段落【0069】の「図5は、透過型の映像表示透明部材の一例を示す層構成図である。以下、図1の映像表示透明部材1と同じ構成のものについては同じ符号を付し、説明を省略する。映像表示透明部材4は、第1の透明基材10と、第2の透明基材20との間に、光散乱シート40が配置されたものである。第1の透明基材10と光散乱シート40とは、接着層12によって接着され、第2の透明基材20と光散乱シート40とは、接着層22によって接着されている。」との記載、段落【0023】の「透明基材を構成するガラスとしては、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸塩ガラス等が挙げられる。」との記載、段落【0116】の「ソーダライムガラス板(松浪硝子社製、厚さ:3mm)、PVBフィルム(Solutia社製 Saflex RK11l、厚さ:375μm)、例4の光散乱シート、PVBフィルム(厚さ:375μm)、ソーダライムガラス板(厚さ:3mm)の順に積層し、真空加熱圧着を行い、例4の透過型の映像表示透明部材を得た。」との記載に基づくものであると認められる。
また、上記訂正事項2のうち、「前記映像表示透明部材の反射率」の上限の値を15%から10%に減縮する訂正は、特許明細書等の段落【0089】の「映像表示透明部材4の反射率は、・・・10%以下がより好ましい。」との記載に基づくものであると認められる。
したがって、上記訂正事項2に係る訂正は、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、上記訂正事項2に係る訂正は、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項及び6項に規定する要件を満たす。
ウ 訂正事項3
上記訂正事項3において、本件訂正前の請求項8の「第1の面と第2の面との間に」、「透明層の内部に互いに平行に、かつ所定の間隔で配置された」、「面方向に沿って延びる複数の光散乱部」について、「面方向に沿って所定の間隔で配置された」と限定する訂正は、特許明細書等の【図5】の記載に基づくものであると認められ(下図参照)、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、上記訂正事項3に係る訂正は、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項及び6項に規定する要件を満たす。
「【図5】
」
エ 訂正事項4
上記訂正事項4は、上記訂正事項2及び3に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るためのものであって、上記イ、ウで述べたように、訂正事項2及び3に係る訂正が特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえるから、上記訂正事項4に係る訂正も、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。
また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、上記訂正事項4に係る訂正は、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項及び6項に規定する要件を満たす。
オ 訂正事項5
上記訂正事項5における訂正前の「少なくなくなり」という記載は、当初明細書等の段落【0095】においても存在するものであると認められるところ、当初明細書等の段落【0089】の「本発明においては、短焦点プロジェクタを用いることによって、映像表示透明部材4の第1の面Aへの映像光Lの入射角が大きくなり、映像光Lの光量の強い領域が映像表示透明部材4を大きな出射角で透過、または映像表示透明部材1の第1の面Aにて大きな出射角で正反射することによって観察者に到達しにくくなる。」という記載及び当初明細書等の段落【0095】の「輝度が低くなる領域が発生する。」との記載からみて、上記「少なくなくなり」が、当初明細書等においても「少なくなり」の誤記であることは明らかであるから、この訂正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、上記訂正事項5に係る訂正は、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項及び6項に規定する要件を満たす。
カ 訂正事項6
上記訂正事項6のうち、「前記映像表示透明部材は、前記第1の面側の第1の透明基材と、前記第2の面側の第2の透明基材との間に、光散乱シートが配置されたものであり、前記第1の透明基材と前記光散乱シートとは、接着層によって接着され、前記第2の透明基材と前記光散乱シートとは、接着層によって接着され、前記第1の透明基材と、前記第2の透明基材が、ソーダライムガラスであり、」という構成を付加する訂正は、特許明細書等の段落【0069】の「図5は、透過型の映像表示透明部材の一例を示す層構成図である。以下、図1の映像表示透明部材1と同じ構成のものについては同じ符号を付し、説明を省略する。映像表示透明部材4は、第1の透明基材10と、第2の透明基材20との間に、光散乱シート40が配置されたものである。第1の透明基材10と光散乱シート40とは、接着層12によって接着され、第2の透明基材20と光散乱シート40とは、接着層22によって接着されている。」との記載、段落【0023】の「透明基材を構成するガラスとしては、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸塩ガラス等が挙げられる。」との記載、段落【0116】の「ソーダライムガラス板(松浪硝子社製、厚さ:3mm)、PVBフィルム(Solutia社製 Saflex RK11l、厚さ:375μm)、例4の光散乱シート、PVBフィルム(厚さ:375μm)、ソーダライムガラス板(厚さ:3mm)の順に積層し、真空加熱圧着を行い、例4の透過型の映像表示透明部材を得た。」との記載に基づくものであると認められる。
また、上記訂正事項6のうち、「前記映像表示透明部材の反射率」の上限の値を15%から10%に減縮する訂正は、特許明細書等の段落【0089】の「映像表示透明部材4の反射率は、・・・10%以下がより好ましい。」との記載に基づくものであると認められる。
したがって、上記訂正事項6に係る訂正は、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、上記訂正事項6に係る訂正は、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項及び6項に規定する要件を満たす。
キ 訂正事項7
上記訂正事項7において、本件訂正前の請求項16の「第1の面と第2の面との間に」、「透明層の内部に互いに平行に、かつ所定の間隔で配置された」、「面方向に沿って延びる複数の光散乱部」について、「面方向に沿って所定の間隔で配置された」と限定する訂正は、特許明細書等の【図5】の記載に基づくものであると認められ、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、上記訂正事項7に係る訂正は、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項及び6項に規定する要件を満たす。
ク 訂正事項8
上記訂正事項8は、上記訂正事項6及び7に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載の整合を図るためのものであって、上記カ、キで述べたように、訂正事項6及び7に係る訂正が特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえるから、上記訂正事項8に係る訂正も、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、上記訂正事項8に係る訂正は、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項及び6項に規定する要件を満たす。
(3)独立特許要件
この特許異議の申立てにおいては、本件訂正前の請求項1~16について特許異議の申立てがされているから、本件訂正後における請求項1~16に記載されている事項により特定される発明について、特許法120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条7項に規定する独立特許要件は課されない。
(4)申立人の主張
ア 申立人は、令和3年3月10日に提出した意見書において、訂正事項2、4、6及び8に係る訂正について、特許明細書等の段落【0070】には、「光散乱シート40は、第1の透明フィルム41と;第1の透明フィルム41の表面に設けられた透明層42と;透明層42の内部に互いに平行に、かつ所定の間隔で配置された、面方向に沿って延びる、長手方向に直交する方向の断面が直角三角形の複数の光散乱部43と;透明層42の表面に設けられた第2の透明フィルム45とを有する。以下、このようにストライプ状に一次元方向に延びる複数の光散乱部43が形成されている構造をルーバー構造と記載する場合がある。」(下線は当審が付与した。以下同様。)と記載されており、透過型の映像表示透明部材が、直角三角形を配列した光散乱部を備えることは開示されているものの、第1及び第2の透明基材間に光散乱シートを配置するだけの映像表示透明部材は開示されていないから、このような訂正はいわゆる新規事項を追加する訂正であって、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に違反する旨主張している(上記意見書の5~7頁)。
イ 上記主張について検討すると、特許明細書等の段落【0101】には、「また、光散乱シートとしては、透明層内に図示例のような複数の光散乱部を設けることなく、透明層全体に光散乱微粒子を分散させて透明層自体を光散乱層としたものであってもよい。 光散乱微粒子としては、上述した酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム等の高屈折率材料の微粒子;ポーラスシリカ、中空シリカ等の低屈折率材料の微粒子等が挙げられる。光散乱微粒子の濃度は、0.01~5体積%が好ましく、0.05~1体積%がより好ましい。光散乱微粒子の平均粒子径は、上述した理由から、50~1000nmが好ましく、100~800nmがより好ましい。 光散乱層は、上述した理由から、光吸収材料を含んでいてもよい。光吸収材料の濃度は、0.01~5体積%が好ましく、0.1~3体積%がより好ましい。」と記載されているから、「透過型の映像表示透明部材」の「光散乱シート」において、直角三角形を配列した光散乱部を備えることは必須の構成であるとはいえず、光を散乱させる機能を有するシートであれば、「光散乱シート」であるとして差し支えないというべきである。
そうすると、訂正事項2、4、6及び8に係る訂正において、「光散乱シート」の具体的構成を特定していないとしても、そのような訂正は、特許明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、申立人の上記アの主張を採用することはできない。
(5)まとめ
上記(1)~(4)において検討した訂正要件についての判断をまとめると、本件訂正は適法なものである。
よって、前記結論のとおり、訂正することを認める。
第3 本件訂正後の発明
上記第2において述べたとおり、本件訂正が認められたことから、本件特許の請求項1~16に係る発明(以下、請求項の番号に従って「本件訂正発明1」等という。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1~16に記載された次の事項により特定されるとおりのものであると認める。
なお、以下では、本件訂正発明1~5、9~13を総称して「本件反射型発明」といい、本件訂正発明6~8、14~16を総称して「本件透過型発明」ということもある。
「【請求項1】
第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有する透明部材であり、第1の面側の光景を第2の面側の観察者に視認可能に透過し、第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過し、かつ第1の面側に設置された投影機から投射された映像光を第1の面側の観察者に映像として視認可能に表示する反射型の映像表示透明部材と、
映像表示透明部材の第1の面側に設置された投影機と
を備えた映像表示システムであって、
前記投影機が、短焦点プロジェクタであり、
前記映像表示透明部材の透過率が、5~80%であり、
前記映像表示透明部材の反射率が、18%以上であり、
前記映像表示透明部材の後方ヘーズが、5~80%であり、
前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、50%以下である、映像表示システム。
【請求項2】
前記映像表示透明部材に表示された映像の投影機に最も近い部分における、映像表示透明部材の第1の面への映像光の入射角が、15~60度である、請求項1に記載の映像表示システム。
【請求項3】
前記映像表示透明部材が、第1の面と第2の面との間に、表面に凹凸構造を有する第1の透明層を有し、
第1の透明層の凹凸構造の算術平均粗さRaが、0.01~20μmである、請求項1または2に記載の映像表示システム。
【請求項4】
前記映像表示透明部材が、第1の面と第2の面との間に、第1の透明層の凹凸構造側の面に沿うように形成された、入射した光の一部を透過する反射膜と、反射膜の表面を覆うように設けられた第2の透明層とをさらに有する、請求項3に記載の映像表示システム。
【請求項5】
前記映像表示透明部材における、第1の透明層の表面の凹凸構造が、不規則な凹凸構造である、請求項3または4に記載の映像表示システム。
【請求項6】
第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有する透明部材であり、第1の面側の光景を第2の面側の観察者に視認可能に透過し、第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過し、かつ第1の面側に設置された投影機から投射された映像光を第2の面側の観察者に映像として視認可能に表示する透過型の映像表示透明部材と、
映像表示透明部材の第1の面側に設置された投影機と
を備えた映像表示システムであって、
前記映像表示透明部材は、前記第1の面側の第1の透明基材と、前記第2の面側の第2の透明基材との間に、光散乱シートが配置されたものであり、
前記第1の透明基材と前記光散乱シートとは、接着層によって接着され、
前記第2の透明基材と前記光散乱シートとは、接着層によって接着され、
前記第1の透明基材と、前記第2の透明基材が、ソーダライムガラスであり、
前記投影機が、短焦点プロジェクタであり、
前記映像表示透明部材の透過率が、5%以上であり、
前記映像表示透明部材の反射率が、10%以下であり、
前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、8~40%である、映像表示システム。
【請求項7】
前記映像表示透明部材に表示された映像の投影機に最も近い部分における、映像表示透明部材の第1の面への映像光の入射角が、15~60度である、請求項6に記載の映像表示システム。
【請求項8】
前記映像表示透明部材が、第1の面と第2の面との間に、透明層と、透明層の内部に互いに平行に、かつ面方向に沿って所定の間隔で配置された、面方向に沿って延びる複数の光散乱部とを有する、請求項6または7に記載の映像表示システム。
【請求項9】
第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有する透明部材であり、第1の面側の光景を第2の面側の観察者に視認可能に透過し、第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過し、かつ第1の面側から投射された映像光を第1の面側の観察者に映像として視認可能に表示する反射型の映像表示透明部材に、
映像表示透明部材の第1の面側に設置された投影機から映像光を投射し、映像を表示させる方法であって、
前記投影機が、短焦点プロジェクタであり、
前記映像表示透明部材の透過率が、5~80%であり、
前記映像表示透明部材の反射率が、18%以上であり、
前記映像表示透明部材の後方ヘーズが、5~80%であり、
前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、50%以下である、映像表示方法。
【請求項10】
前記映像表示透明部材に表示された映像の投影機に最も近い部分における、映像表示透明部材の第1の面への映像光の入射角が、15~60度である、請求項9に記載の映像表示方法。
【請求項11】
前記映像表示透明部材が、第1の面と第2の面との間に、表面に凹凸構造を有する第1の透明層を有し、
第1の透明層の凹凸構造の算術平均粗さRaが、0.01~20μmである、請求項9または10に記載の映像表示方法。
【請求項12】
前記映像表示透明部材が、第1の面と第2の面との間に、第1の透明層の凹凸構造側の面に沿うように形成された、入射した光の一部を透過する反射膜と、反射膜の表面を覆うように設けられた第2の透明層とをさらに有する、請求項11に記載の映像表示方法。
【請求項13】
前記映像表示透明部材における、第1の透明層の表面の凹凸構造が、不規則な凹凸構造である、請求項11または12に記載の映像表示方法。
【請求項14】
第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有する透明部材であり、第1の面側の光景を第2の面側の観察者に視認可能に透過し、第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過し、かつ第1の面側から投射された映像光を第2の面側の観察者に映像として視認可能に表示する透過型の映像表示透明部材に、
映像表示透明部材の第1の面側に設置された投影機から映像光を投射し、映像を表示させる方法であって、
前記映像表示透明部材は、前記第1の面側の第1の透明基材と、前記第2の面側の第2の透明基材との間に、光散乱シートが配置されたものであり、
前記第1の透明基材と前記光散乱シートとは、接着層によって接着され、
前記第2の透明基材と前記光散乱シートとは、接着層によって接着され、
前記第1の透明基材と、前記第2の透明基材が、ソーダライムガラスであり、
前記投影機が、短焦点プロジェクタであり、
前記映像表示透明部材の透過率が、5%以上であり、
前記映像表示透明部材の反射率が、10%以下であり、
前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、8~40%である、映像表示方法。
【請求項15】
前記映像表示透明部材に表示された映像の投影機に最も近い部分における、映像表示透明部材の第1の面への映像光の入射角が、15~60度である、請求項14に記載の映像表示方法。
【請求項16】
前記映像表示透明部材が、第1の面と第2の面との間に、透明層と、透明層の内部に互いに平行に、かつ面方向に沿って所定の間隔で配置された、面方向に沿って延びる複数の光散乱部とを有する、請求項14または15に記載の映像表示方法。」
第4 取消理由の概要
本件特許について、当審の審判長が令和2年11月4日に特許権者に決定の予告として通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
なお、この取消理由は、令和2年4月30日に提出された訂正請求書により訂正された特許請求の範囲及び明細書について通知したものである。
<取消理由1(進歩性欠如)>
請求項8及び16に係る発明は、下記の引用文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、上記請求項に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
記
甲第2号証:特開2010-231080号公報
周知例1 :国際公開第2013/129290号(甲第5号証)
周知例5 :特開2014-115581号公報
(令和2年9月25日に申立人から提出された意見書に添付された参考資料1)
周知例6 :特開2014-13369号公報
(令和2年9月25日に申立人から提出された意見書に添付された参考資料2)
<取消理由2(サポート要件違反)>
本件特許は、特許請求の範囲の記載が、下記のとおり、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
ア 請求項6及び14の
「前記映像表示透明部材の透過率が、5%以上であり、
前記映像表示透明部材の反射率が、10%以下であり、
前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、8~40%である、」との記載
及び
請求項16の
「前記映像表示透明部材の透過率が、5%以上であり、
前記映像表示透明部材の反射率が、15%以下であり、
前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、8~40%である、」との記載
について、発明の詳細な説明に開示された実施例は、(例4)の透過型の映像表示透明部材(透過率85%、反射率6%、前方ヘーズ16%)の一例のみである。
イ ここで、請求項6~8、14~16に係る発明が解決しようとする課題は、【発明が解決しようとする課題】の欄に記載されたとおり、「【0010】本発明は、短焦点プロジェクタを用いた映像表示システムおよび映像表示方法において、観察者側から見て映像表示透明部材の向こう側に見える光景の視認性を低下させることなく、映像表示透明部材に表示される映像のコントラストが高い状態を維持できる映像表示システムおよび映像表示方法を提供する。」というものである。
ウ そして、上記一つの実施例で確認された光学特性値以外の広範な数値範囲を含む上記請求項に係る発明は、出願時の技術常識に照らしても、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるから、上記広範な数値範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
エ したがって、請求項6~8、14~16に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。
第5 当審の判断
上記取消理由1及び2が、本件訂正後についても当てはまるか否か以下検討する。
1 取消理由1(進歩性欠如)について
(1)引用文献の記載
ア 甲第2号証
甲第2号証(特開2010-231080号公報)には、次の事項が記載されている(下線は当審が付した。)。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリーンに関し、特に、プロジェクタから投影される画像を表示するスクリーンに関する。
【背景技術】
【0002】
各種プロジェクタから出射された光をスクリーン上に投射して、画像を投影する投射型画像投影装置が開発されている。画像が投影されるスクリーンには、プロジェクタと同じ側から観察する反射型スクリーンと、スクリーンを挟んでプロジェクタと反対側から観察する透過型スクリーンと、がある。反射型スクリーンには、例えば、ショーウインドウなどに使用される、透明な反射型スクリーンも含まれる。
【0003】
室内照明や太陽光などの外光が入射する明所において、スクリーンに表示された画像を観ることがある。この場合、外光が、プロジェクタから投射される光に重畳してスクリーンに入射するため、特に反射型スクリーンにおいて、画像のコントラストが低下し易くなる。このような使用環境下でも、コントラストの高い画像を表示できるスクリーンが望まれている。」
「【0090】
以下、本発明のスクリーンを用いた画像投影システムの例について説明する。図2は、本発明の反射型スクリーンを用いた画像投影システムの例を示す図である。
画像投影システム10は、投射光を出射するプロジェクタ12と、プロジェクタ12からの投射光を反射することで画像を投影する反射型スクリーン14と、を有する。この場合、観察者Aは、プロジェクタ12と同じ側から反射型スクリーン14に投影された画像を観察する。
【0091】
反射型スクリーン14は、基板16と、その上に形成された偏光性拡散フィルム18と、を有している。反射型スクリーン14は、観察者A側に偏光性拡散フィルム18が面するように配置される。
【0092】
基板16は、偏光性拡散フィルム18が配置された面に反射性(拡散反射性、正反射性、またはそれらの中間的な反射性)を有することが好ましい。このような基板16の例には、アルミ、銀等の金属薄膜;金属および/または誘電体の多層薄膜;金属箔を積層した、フィルム状または板状の樹脂基材やガラス基材;および金属板等が含まれる。公知の拡散反射性を有する白色の樹脂基材、または該白色樹脂基材に上記金属薄膜を形成したもの等も含まれる。基板16が、偏光性拡散フィルム18が配置された面に反射性を有しない場合、偏光性拡散フィルム18と基板16との間に、さらに別途反射層を有していてもよい。偏光性拡散フィルム18は、前述の偏光性拡散フィルムである。
【0093】
プロジェクタ12は、3板式液晶プロジェクタやDLP方式のプロジェクタあるいはCRT方式のプロジェクタなどでありうる。プロジェクタ12から出射される投射光は、直線偏光であることが好ましい。」
「【0099】
図3は、本発明の透過型スクリーンを用いた画像投影システムの例を示す図である。同図において、図2と同一の部材には同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
画像投影システム20は、投射光を出射するプロジェクタ12と、プロジェクタ12からの投射光を透過および拡散させて画像を投影する透過型スクリーン24と、を有する。この場合、観察者Aは、透過型スクリーン24を介してプロジェクタ12と反対側から画像を観察する。
【0100】
透過型スクリーン24は、偏光性拡散フィルム28を有し、必要に応じて基板26を有してもよい。透過型スクリーン24は、プロジェクタ12側に偏光性拡散フィルム28が面するように配置される。
【0101】
基板26は、透明であることが好ましい。このような基板26の例には、ガラス板、アクリル板などが含まれる。偏光性拡散フィルム28は、前述の偏光性拡散フィルムである。基板26は、既にあるガラス窓やショーウインドウであって、偏光性拡散フィルム28が、これらにロールカーテンのように展張されてもよい。この場合、偏光性拡散フィルム28は、ガラス窓やショーウインドウに貼り付けられる前の、片面に粘着層が形成された状態(粘着層の表面には、離型フィルムが付与されてもよい)で提供されてもよい。このようにして用いられる偏光性拡散フィルム28は、比較的良好な剛性を有する点から、厚み0.1mm以上の厚手のフィルム(PETやPC)等であることが好ましい。
【0102】
プロジェクタ12から出射される直線偏光の偏光軸は、偏光性拡散フィルム28の延伸方向(延伸軸)に対して平行であることが好ましい。延伸方向に対して垂直な偏光Vの透過ヘイズよりも、延伸方向に対して平行な偏光Pの透過ヘイズのほうが大きく、投射画像が散乱されて、投射方向以外の位置からも視認できるようになるためである。
【0103】
直線偏光の偏光軸が、偏光性拡散フィルム28の延伸方向と平行である場合の作用について説明する。
透過型スクリーン24には、プロジェクタ12から出射された直線偏光に、室内照明や太陽光等の外光が重畳された状態で入射する。偏光性拡散フィルム28の延伸方向と平行な直線偏光は、偏光性拡散フィルム28において多くが拡散透過あるいは拡散反射されるが、残りは画像に寄与しない無偏光の外光とともに透過する。したがって、偏光性拡散フィルム28を透過した画像に寄与する直線偏光は、外光よりも選択的に拡散透過される。これにより、偏光性拡散フィルム28を含む透過型スクリーン24は、明所においてもコントラストの高い画像を表示できる。」
「【0124】
(実施例4)
原反を大阪樹脂化工製A-PETシート(PET26P、表面処理なし、厚み200μm)とし、ギヤオーブンによる加熱時間を2分20秒間とし、延伸時の予熱温度を117℃とした以外は、実施例2と同様にして偏光性拡散フィルムを得た。ギヤオーブンによる加熱後の原反の透過ヘイズは8.2%であった。得られた偏光性拡散フィルムの厚さは44μmであった。」
「【図3】
」
「【図4】
」
イ 甲第2号証に記載された発明
上記アにおいて摘記した記載事項及び図面の図示内容を総合すると、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
[甲2発明]
「透過型スクリーンを用いた画像投影システムであって、
前記画像投影システム20は、投射光を出射するプロジェクタ12と、プロジェクタ12からの投射光を透過および拡散させて画像を投影する透過型スクリーン24とを有し、(段落【0099】、【図3】)
前記プロジェクタ12は、3板式液晶プロジェクタやDLP方式のプロジェクタあるいはCRT方式のプロジェクタなどであり、(段落【0093】)
前記透過型スクリーン24は、偏光性拡散フィルム28及び基板26を有し、前記プロジェクタ12側に前記偏光性拡散フィルム28が面するように配置され(段落【0100】)、
前記基板26は、既にあるガラス窓やショーウインドウであって、前記偏光性拡散フィルム28がこれらに貼り付けられており、(段落【0101】)
観察者Aは、前記透過型スクリーン24を介してプロジェクタ12と反対側から画像を観察するものであり、(段落【0099】)
前記偏光性拡散フィルム28は、
フィルム厚みが44μmであり、
全光線透過率が84.6%であり、
透過ヘイズが37.2%である、
延伸樹脂フィルムである、(実施例4、【図4】の表1)
透過型スクリーンを用いた画像投影システム。」
(2)本件透過型発明と甲2発明の対比・判断
ア 対比
本件訂正後の請求項8の記載は、
「 前記映像表示透明部材が、第1の面と第2の面との間に、透明層と、透明層の内部に互いに平行に、かつ面方向に沿って所定の間隔で配置された、面方向に沿って延びる複数の光散乱部とを有する、請求項6または7に記載の映像表示システム。」
であり、請求項7に係る発明も請求項6の記載を引用するものであるから、本件訂正発明8は、いずれにしても請求項6の記載を引用するものである。
そこで、まず本件訂正発明6と甲2発明を対比すると、
(ア)甲2発明の「透過型スクリーン24」は、「偏光性拡散フィルム28及び基板26を有し、前記プロジェクタ12側に前記偏光性拡散フィルム28が面するように配置され」たものであるから、この「プロジェクタ12側」に「配置され」、「プロジェクタ12」に近い方の「偏光性拡散フィルム28」の表面が、本件訂正発明6の「第1の面」に相当し、「偏光性拡散フィルム28」側とは反対側の「基板26」の表面が、本件訂正発明6の「これとは反対側の第2の面」に相当する。
そして、甲2発明の「透過型スクリーン24」は「投射光を透過」させるものであるところ、本件訂正後の明細書の段落【0088】には
「【0088】
(透過型の映像表示透明部材の光学特性)
映像表示透明部材4の透過率は、観察者側から見て映像表示透明部材4の向こう側に見える光景の視認性がよい点から、5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、15%以上がさらに好ましい。」と記載されており、本件訂正発明6の「透明」は、透過率が5%以上のものであれば満たされるといえるから、この記載を参照すると、甲2発明の「透過型スクリーン24」についても、透明であるといえる。
そうすると、甲2発明の「透過型スクリーン24」は、本件訂正発明6の「第1の面及びこれとは反対側の第2の面を有する透明部材」に相当する。
(イ)甲2発明の「透過型スクリーン24」は、「前記基板26」が「既にあるガラス窓やショーウインドウ」であり、「プロジェクタ12から出射された直線偏光に、室内照明や太陽光等の外光が重畳された状態で入射する」と、「偏光性拡散フィルム28の延伸方向と平行な直線偏光は、偏光性拡散フィルム28において多くが拡散透過あるいは拡散反射されるが、残りは画像に寄与しない無偏光の外光とともに透過」するものであり(段落【0103】)、また、「透明性を確保する」こと(段落【0119】)が要求されるものである。
また、上記(ア)において摘記した段落【0088】の記載を参照すると、本件訂正発明6の「視認可能」については、透過率が5%以上のものであれば視認性が「よい」と評価されるのであるから、かかる評価基準に照らせば、甲2発明の「透過型スクリーン24」についても視認可能であるといえる。
したがって、甲2発明の「透過型スクリーン24」は、「プロジェクタ12側」(「第1の面側」に相当)の光景を、「プロジェクタ12と反対側」(「第2の面側」に相当)から視認可能に透過させ、「プロジェクタ12と反対側」(「第2の面側」に相当)の光景を、「プロジェクタ12側」(「第1の面側」に相当)から視認可能に透過させるものであるといえる。
(ウ)甲2発明の「プロジェクタ12からの投射光」は、本件訂正発明6の「第1の面側に設置された投影機から投射された映像光」に相当し、甲2発明の「透過型スクリーン24を介してプロジェクタ12と反対側から」「観察する」「観察者A」は、本件訂正発明6の「第2の面側の観察者」に相当し、甲2発明の「プロジェクタ12からの投射光を透過および拡散させて」「投影」された「画像」は、本件訂正発明6の「第2の面側の観察者」に「視認可能」な「映像」に相当する。
(エ)上記(イ)及び(ウ)の内容を踏まえると、甲2発明の「透過型スクリーン24」は、本件訂正発明6の「第1の面側の光景を第2の面側の観察者に視認可能に透過し、第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過し、かつ第1の面側に設置された投影機から投射された映像光を第2の面側の観察者に映像として視認可能に表示する透過型の映像表示透明部材」に相当する。
(オ)甲2発明の「投射光を出射するプロジェクタ12」は、「偏光性拡散フィルム28」の表面(「第1の面」に相当)に面しているから、本件訂正発明6の「映像表示透明部材の第1の面側に設置された投影機」に相当する。
(カ)上記(ア)~(オ)の内容を踏まえると、甲2発明の「透過型スクリーンを用いた画像投影システム」は、本件訂正発明6の「映像表示システム」に相当する。
(キ)甲2発明の「透過型スクリーン24」は、「偏光性拡散フィルム28及び基板26」を有し、「偏光性拡散フィルム28」の「全光線透過率が84.6%であ」るから、「既にあるガラス窓やショーウインドウ」である「基板26」の寄与分を考慮しても、「透過型スクリーン24」の透過率は5%以上であることは明らかであり、このことは、本件訂正発明6の「前記映像表示透明部材の透過率が、5%以上であ」ることに相当する。
(ク)甲2発明の「偏光性拡散フィルム28」の「透過ヘイズが37.2%である」ところ、「既にあるガラス窓やショーウインドウ」である「基板26」は、透過光を前方散乱させる光学要素を通常含まないと考えられ、その寄与分を考慮しても、「透過型スクリーン24」の透過ヘイズは、概ね37.2%前後の値であるといえるから、このことは本件訂正発明6の「前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、8~40%である」ことに相当する。
以上(ア)~(ク)より、本件訂正発明6と甲2発明とは、以下の一致点において一致し、以下の相違点1~3において相違する。
[一致点]
「第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有する透明部材であり、第1の面側の光景を第2の面側の観察者に視認可能に透過し、第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過し、かつ第1の面側に設置された投影機から投射された映像光を第2の面側の観察者に映像として視認可能に表示する透過型の映像表示透明部材と、
映像表示透明部材の第1の面側に設置された投影機と
を備えた映像表示システムであって、
前記映像表示透明部材の透過率が、5%以上であり、
前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、8~40%である、
映像表示システム。」
[相違点1]
本件訂正発明6では、「前記映像表示透明部材は、前記第1の面側の第1の透明基材と、前記第2の面側の第2の透明基材との間に、光散乱シートが配置されたものであり、前記第1の透明基材と前記光散乱シートとは、接着層によって接着され、前記第2の透明基材と前記光散乱シートとは、接着層によって接着され、前記第1の透明基材と、前記第2の透明基材が、ソーダライムガラスであ」るのに対して、甲2発明では、「前記透過型スクリーン24は、偏光性拡散フィルム28及び基板26を有し」、「前記基板26は、既にあるガラス窓やショーウインドウ」であるから、2つの透明基材の間に光散乱シートが配置されたものではなく、基板26がソーダライムガラスであるとの限定もされていない点。
[相違点2]
「投影機」が、本件訂正発明6では「短焦点プロジェクタ」であるのに対して、甲2発明では、短焦点とはされていない点。
[相違点3]
本件訂正発明6では、「前記映像表示透明部材の反射率が、10%以下」であるのに対して、甲2発明では、透過型スクリーン24の反射率が10%以下であることについて特定されていない点。
イ 判断
(ア)相違点1について検討すると、申立人が提出した参考資料1(特開2014-115581号公報)には、ガラスや樹脂でできた透光性を有する板状の部材であるパネル111と、公知の硬化性樹脂からなるハードコート層119の間に、接着層113及び118を介して光散乱層214が設けられた透過スクリーン200が記載されている(【0023】、【0053】、【0082】~【0102】、【図6】、【図7】を参照)。
同様に、申立人が提出した参考資料2(特開2014-13369号公報)には、ガラスや樹脂でできた透光性を有する板状の部材であるパネル111と、公知の硬化性樹脂からなるハードコート層120の間に、接着層113及び118を介して光散乱層515が設けられた透過スクリーン500が記載されている(【0024】、【0047】、【0098】~【0112】、【図10】、【図11】を参照)。
しかしながら、上記パネルやハードコート層はソーダライムガラスからなるものではないから、ソーダライムガラスである2つ透明基材と、その間に接着層によって接着された光散乱シートからなる映像表示透明部材は、上記参考資料1、参考資料2のいずれにも開示されていない。また、申立人が提出した甲第1~6号証にもそのような映像表示透明部材は開示されておらず、周知なものであるとはいえない。
したがって、甲2発明に基づいて上記相違点1に係る本件訂正発明6の構成とすることは、当業者といえども容易になし得たことであるとはいえない。
(イ)この点に関し、申立人は、令和3年3月10日に提出された意見書において、次の主張をしている。
「オ.相違点c
2枚のガラスの間に光散乱シートを配置することは従来周知であり(必要なら特表平6-500056号公報、特表2005-530627号公報参照)、またソーダライムガラス(ソーダ石灰ガラス)は甲5(国際公開第2013/129290号の段落59)に記載されるように汎用ガラスである。」(上記意見書の17頁)。
上記主張について検討すると、上記のような光散乱シートの配置構造と、素材としてのソーダライムガラスとがそれぞれ周知であったとしても、ソーダライムガラスである2つの透明基材と、その間に接着層によって接着された光散乱シートからなる映像表示透明部材は、申立人の提示した上記文献のいずれにも開示されておらず周知であるとはいえない。また、甲2発明において、2つの透明基材を設け、その間に光散乱シートを配置するという動機を見い出すことはできない。
よって、申立人の上記主張を採用することはできない。
(ウ)そうすると、上記相違点2及び3について検討するまでもなく、本件訂正発明6は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件訂正発明8、16について
本件訂正発明8は、請求項6の記載を引用するものであるところ、上記(2)において説示したとおり、本件訂正発明6は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件訂正発明8も、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
本件訂正発明16は、「映像表示方法」の発明であって、本件訂正発明8とは発明のカテゴリーが異なるものの、その構成はそれぞれ対応づけることが可能であり、また引用する請求項14も同様に請求項6と対応づけることが可能なものであるから、本件訂正発明16も、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)小括
以上検討したとおりであるから、上記取消理由1(進歩性欠如)は、本件訂正発明8及び16については当てはまらない。
2 取消理由2(サポート要件違反)について
(1)請求項6~8、14~16の記載
本件訂正後の請求項6~8、14~16の記載は次のとおりである。
「【請求項6】
第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有する透明部材であり、第1の面側の光景を第2の面側の観察者に視認可能に透過し、第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過し、かつ第1の面側に設置された投影機から投射された映像光を第2の面側の観察者に映像として視認可能に表示する透過型の映像表示透明部材と、
映像表示透明部材の第1の面側に設置された投影機と
を備えた映像表示システムであって、
前記映像表示透明部材は、前記第1の面側の第1の透明基材と、前記第2の面側の第2の透明基材との間に、光散乱シートが配置されたものであり、
前記第1の透明基材と前記光散乱シートとは、接着層によって接着され、
前記第2の透明基材と前記光散乱シートとは、接着層によって接着され、
前記第1の透明基材と、前記第2の透明基材が、ソーダライムガラスであり、
前記投影機が、短焦点プロジェクタであり、
前記映像表示透明部材の透過率が、5%以上であり、
前記映像表示透明部材の反射率が、10%以下であり、
前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、8~40%である、映像表示システム。
【請求項7】
前記映像表示透明部材に表示された映像の投影機に最も近い部分における、映像表示透明部材の第1の面への映像光の入射角が、15~60度である、請求項6に記載の映像表示システム。
【請求項8】
前記映像表示透明部材が、第1の面と第2の面との間に、透明層と、透明層の内部に互いに平行に、かつ面方向に沿って所定の間隔で配置された、面方向に沿って延びる複数の光散乱部とを有する、請求項6または7に記載の映像表示システム。」
「【請求項14】
第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有する透明部材であり、第1の面側の光景を第2の面側の観察者に視認可能に透過し、第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過し、かつ第1の面側から投射された映像光を第2の面側の観察者に映像として視認可能に表示する透過型の映像表示透明部材に、
映像表示透明部材の第1の面側に設置された投影機から映像光を投射し、映像を表示させる方法であって、
前記映像表示透明部材は、前記第1の面側の第1の透明基材と、前記第2の面側の第2の透明基材との間に、光散乱シートが配置されたものであり、
前記第1の透明基材と前記光散乱シートとは、接着層によって接着され、
前記第2の透明基材と前記光散乱シートとは、接着層によって接着され、
前記第1の透明基材と、前記第2の透明基材が、ソーダライムガラスであり、
前記投影機が、短焦点プロジェクタであり、
前記映像表示透明部材の透過率が、5%以上であり、
前記映像表示透明部材の反射率が、10%以下であり、
前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、8~40%である、映像表示方法。
【請求項15】
前記映像表示透明部材に表示された映像の投影機に最も近い部分における、映像表示透明部材の第1の面への映像光の入射角が、15~60度である、請求項14に記載の映像表示方法。
【請求項16】
前記映像表示透明部材が、第1の面と第2の面との間に、透明層と、透明層の内部に互いに平行に、かつ面方向に沿って所定の間隔で配置された、面方向に沿って延びる複数の光散乱部とを有する、請求項14または15に記載の映像表示方法。」
(2)発明の詳細な説明の記載
本件訂正後の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、短焦点プロジェクタを用いた映像表示システムおよび映像表示方法において、観察者側から見て映像表示透明部材の向こう側に見える光景の視認性を低下させることなく、映像表示透明部材に表示される映像のコントラストが高い状態を維持できる映像表示システムおよび映像表示方法を提供する。」
「【発明を実施するための形態】
【0015】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「第1の面」とは、映像表示透明部材の最表面であって、投影機から映像光が投射される側の表面を意味する。
「第2の面」とは、映像表示透明部材の最表面であって、第1の面とは反対側の表面を意味する。
「第1の面側(第2の面側)の光景」とは、映像表示透明部材の第2の面側(第1の面側)にいる観察者から見て、映像表示透明部材の向こう側に見える像(主要対象物(商品、美術品、人物等)およびその背景、ならびに風景等)を意味する。光景には、投影機から投射された映像光が映像表示透明部材において結像して表示される映像は含まれない。
「入射角」とは、映像光の入射方向と映像表示透明部材の第1の面の法線とがなす角度を意味する。
「前方ヘーズ」とは、第1の面側から第2の面側に透過する透過光、または第2の面側から第1の面側に透過する透過光のうち、前方散乱によって、入射光から0.044rad(2.5°)以上それた透過光の百分率を意味する。すなわち、JISK 7136:2000(ISO 14782:1999)に記載された方法によって測定される、通常のヘーズである。
「後方ヘーズ」とは、第1の面において反射する反射光のうち、散乱によって、正反射光から0.044rad(2.5°)以上それた反射光の百分率を意味する。
「凹凸構造」とは、複数の凸部、複数の凹部、または複数の凸部および凹部からなる凹凸形状を意味する。
「不規則な凹凸構造」とは、凸部または凹部が周期的に出現せず、かつ凸部または凹部の大きさが不揃いである凹凸構造を意味する。
「シート」は、枚葉のものであってもよく、連続した帯状のものであってもよい。
算術平均粗さ(Ra)は、JIS B 0601:2013(ISO 4287:1997,Amd.1:2009)に基づき測定される算術平均粗さである。
粗さ曲線用の基準長さlr(カットオフ値λc)は0.8mmとした。
透過率は、拡散されずに透過した光と、拡散されて透過した光の合計であり、全光線透過率と同等である。ただし、入射した部位から大きく外れたり、部材端部から放出されたものは含まない。
反射率は、正反射率と拡散反射率の和であり、全光線反射率と同等である。ただし、入射した部位から大きく外れたり、部材端部から放出されたものは含まない。
透過率、反射率、屈折率は、ナトリウムランプのd線(波長589nm)を用いて室温で測定したときの値である。」
「【0047】
(反射型の映像表示透明部材の光学特性)
映像表示透明部材1の透過率は、観察者側から見て映像表示透明部材1の向こう側に見える光景の視認性がよい点から、5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、15%以上がさらに好ましい。
映像表示透明部材1の透過率は、スクリーンゲイン(輝度)を適切に保つ点から、90%以下が好ましく、80%以下がより好ましく、75%以下がさらに好ましい。
【0048】
映像表示透明部材1の第1の面Aにおける表面の反射率は、映像光Lの反射を抑える点から、5%以下が好ましく、2%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましい。
【0049】
映像表示透明部材1の反射率は、10%以上であり、30%以上が好ましい。映像表示透明部材1の反射率が10%以上であれば、特に、正反射光から0.044rad(2.5°)以上それた反射光において、このあたりの反射率が得られると人間の視感度的に変化が分かりにくくなるため、充分なスクリーンゲインを得られる。
【0050】
本発明においては、短焦点プロジェクタを用いることによって、映像表示透明部材1の第1の面Aへの映像光Lの入射角が大きくなり、映像光Lの光量の強い領域が映像表示透明部材1を大きな出射角で透過、または映像表示透明部材1の第1の面Aにて大きな出射角で正反射することによって観察者に到達しにくくなる。しかし、映像光Lの入射角が大きくなるため、透過光Tが映像表示透明部材1付近の床や天井に到達してしまう。そして、透過光Tが床や天井に到達することによって床や天井で散乱された光が、映像表示透明部材1に映りこんで、映像のコントラストの低下を引き起こす。
本発明においては、映像表示透明部材1の反射率を上記程度に高くすることによって、床や天井に到達する透過光Tの光量を減少させ、また、透過光Tが床や天井に到達することによって床や天井で散乱した光が、映像表示透明部材1を透過して写りこむ光量を低下させることができ、映像表示透明部材1に表示される映像のコントラストの低下を防ぐことができる。特に、映像表示透明部材1に表示された映像の投影機200に最も遠い部分における映像光Lの入射角が50度以上である場合は、透過光Tが映像表示透明部材1付近の床や天井に到達するのみでなく、床や天井で散乱された光のうち、比較的光量の多い領域である、正規反射角度からの角度差が90度未満の光が映像表示透明部材1へ到達するため、上記の効果が高くなる。
【0051】
映像表示透明部材1の前方ヘーズは、観察者側から見て映像表示透明部材1の向こう側に見える光景の視認性の点から、50%以下であり、30%以下が好ましく、20%以下がより好ましい。
【0052】
映像表示透明部材1の後方ヘーズは、スクリーンゲイン、およびコントラストの確保の点から、5%以上であり、15%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、50%以上がさらに好ましい。
映像表示透明部材1の後方ヘーズは、観察者側から見て映像表示透明部材1の向こう側に見える光景の視認性の点から、90%以下が好ましく、80%以下がより好ましい。
【0053】
映像表示透明部材1における隣り合う各層間の屈折率差は、各層界面における反射率が0.5%以内に抑えられる点から、0.2以内が好ましく、各層界面での反射率が0.1%程度となる点から、0.1以内がより好ましい。
【0054】
(反射型の映像表示透明部材を用いた映像表示方法)
本発明の映像表示方法の第1の態様は、反射型の映像表示透明部材に、映像表示透明部材の第1の面側に設置された投影機から映像光を投射し、映像を表示させる映像表示方法である。
【0055】
図1に示すように、投影機200から投射され、映像表示透明部材1の第1の面Aから入射した映像光Lが、反射膜33において散乱することによって結像し、投影機200と同じ側にいる観察者Xに映像として視認可能に表示できる。
また、映像表示透明部材1における反射膜33が入射した光の一部を透過するため、第1の面A側の光景を第2の面B側の観察者Yに視認可能に透過でき、かつ第2の面B側の光景を第1の面A側の観察者Xに視認可能に透過できる。
【0056】
(作用機序)
以上説明した反射型の映像表示透明部材1を用いた本発明の映像表示システムおよび映像表示方法にあっては、短焦点プロジェクタを用いることにより、光軸方向に焦点位置とずれた場所においても、光量の密度が高い状態となる映像の中央付近の光が、映像表示透明部材の第1の面Aにおいて正反射した反射光Rの出射角、および結像せずに反射膜33を透過した透過光Tの出射角が大きくなる。そのため、反射光Rや透過光Tが観察者Xや観察者Yの目に入りにくく、投影機200から投射された映像光Lに由来する反射光Rや透過光Tによる眩しさを観察者Xや観察者Yが感じにくい。また、眩しさを抑えるために、第1の面Aおよび反射膜33の散乱度を高く設定する必要がないため、前方ヘーズを50%以下にすることができ、観察者Xや観察者Y側から見て映像表示透明部材1の向こう側に見える光景の視認性を低下させることがない。
ただし、短焦点プロジェクタを用いることで、映像表示透明部材1の第1の面Aへの映像光Lの入射角が大きくなるため、透過光Tが映像表示透明部材1付近の床や天井に到達するようになる。そして、透過光Tが床や天井に到達することによって床や天井で散乱された光は、映像表示透明部材1に映りこんで、映像のコントラストの低下を引き起こす。そのため、映像表示透明部材1の反射率を10%以上にすることによって、床や天井に到達する透過光Tの光量を減少させ、また、透過光Tが床や天井に到達することによって床や天井で散乱した光が、映像表示透明部材1を透過して写りこむ光量を低下させることができ、映像表示透明部材1に表示される映像のコントラストの低下を防ぐことができる。
また、短焦点プロジェクタを用いることで、映像表示透明部材1の第1の面Aへの入射角が大きくなるため、反射膜33で散乱し、観察者Xへ向かう散乱光が少なくなり輝度が低くなる領域が発生する。そこで、後方ヘーズが5%以上である映像表示透明部材1を用いることで、各領域において適切なスクリーンゲインが得られ、映像表示透明部材1の映像表示位置によらず、映像を視認することができるようになる。」
「【0088】
(透過型の映像表示透明部材の光学特性)
映像表示透明部材4の透過率は、観察者側から見て映像表示透明部材4の向こう側に見える光景の視認性がよい点から、5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、15%以上がさらに好ましい。
【0089】
映像表示透明部材4の反射率は、15%以下であり、10%以下がより好ましい。
本発明においては、短焦点プロジェクタを用いることによって、映像表示透明部材4の第1の面Aへの映像光Lの入射角が大きくなり、映像光Lの光量の強い領域が映像表示透明部材4を大きな出射角で透過、または映像表示透明部材1の第1の面Aにて大きな出射角で正反射することによって観察者に到達しにくくなる。しかし、映像光Lの入射角が大きくなるため、透過光Tが映像表示透明部材4付近の床や天井に到達してしまう。そして、透過光Tが床や天井に到達することによって床や天井で散乱された光が、映像表示透明部材4に映りこみ、その反射光を観察者が視認することによって、映像のコントラストの低下を引き起こす。
本発明においては、映像表示透明部材4の反射率を上記程度に低くすることによって、透過光Tが床や天井に到達することによって床や天井で散乱した光が、映像表示透明部材4に反射して写りこむ光量を低下させることができ、映像表示透明部材4に表示される映像のコントラストの低下を防ぐことができる。特に、映像表示透明部材4に表示された映像の投影機200に最も遠い部分における映像光Lの入射角が50度以上である場合は、透過光Tが映像表示透明部材4付近の床や天井に到達するのみでなく、床や天井で散乱された光のうち、比較的光量の多い領域である、正規反射角度からの角度差が90度未満の光が映像表示透明部材4へ到達するため、上記の効果が高くなる。
【0090】
映像表示透明部材4の前方ヘーズは、スクリーンゲインの確保および視野角の確保の点から、4%以上が好ましく、5%以上がより好ましく、8%以上がさらに好ましい。
映像表示透明部材4の前方ヘーズは、観察者側から見て映像表示透明部材4の向こう側に見える光景の視認性の点から、50%以下が好ましく、30%以下がより好ましく、20%以下がさらに好ましい。
【0091】
映像表示透明部材4における透明層42の屈折率と光散乱部43の屈折率との差は、0.01以下が好ましく、0.005以下がより好ましく、0.001以下がさらに好ましい。透明層42の屈折率と光散乱部43の屈折率との差が大きいと、観察者側から見て映像表示透明部材4の向こう側に見える光景が多重に見える。虹ムラや光景の分光を抑える点から、透明層42と光散乱部43は同じ屈折率であることが好ましい。
【0092】
映像表示透明部材4における透明フィルムの屈折率と透明層42の屈折率との差も、できるだけ小さいことが好ましい。透明フィルムの屈折率と透明層42の屈折率との差は、0.1以下が好ましく、0.05以下がより好ましく、0.01以下がさらに好ましく、0.001以下が特に好ましい。
【0093】
(透過型の映像表示透明部材を用いた映像表示方法)
本発明の映像表示方法の第2の態様は、透過型の映像表示透明部材に、映像表示透明部材の第1の面側に設置された投影機から映像光を投射し、映像を表示させる映像表示方法である。
【0094】
図5に示すように、投影機200から投射され、映像表示透明部材4の第1の面Aから入射した映像光Lが、光散乱部43において散乱することによって結像し、投影機200と反対側にいる観察者Yに映像として視認可能に表示される。
また、映像表示透明部材4における光散乱部43間の間隙が光を透過するため、第1の面A側の光景を第2の面B側の観察者Yに視認可能に透過でき、かつ第2の面B側の光景を第1の面A側の観察者Xに視認可能に透過できる。
【0095】
(作用機序)
以上説明した透過型の映像表示透明部材4を用いた本発明の映像表示システムおよび映像表示方法にあっては、短焦短プロジェクタを用いることにより、光軸方向に焦点位置とずれた場所においても、光量の密度が高い状態となる映像の中央付近の光が、映像表示透明部材の第1の面Aにおいて正反射した反射光Rの出射角、および結像せずに光散乱部43を透過した透過光Tの出射角が大きくなる。そのため、反射光Rや透過光Tが観察者Xや観察者Yの目に入りにくく、投影機200から投射された映像光Lに由来する反射光Rや透過光Tによる眩しさを観察者Xや観察者Yが感じにくい。また、眩しさを抑えるために、第1の面Aおよび光散乱部43の散乱度を高く設定する必要がないため、前方ヘーズを40%以下にすることができ、観察者Xや観察者Y側から見て映像表示透明部材4の向こう側に見える光景の視認性を低下させることがない。
ただし、短焦点プロジェクタを用いることで、映像表示透明部材4の第1の面Aへの映像光Lの入射角が大きくなるため、透過光Tが映像表示透明部材4付近の床や天井に到達するようになる。そして、透過光Tが床や天井に到達することによって床や天井で散乱された光は、映像表示透明部材4に映りこんで、映像のコントラストの低下を引き起こす。そのため、映像表示透明部材4の反射率を15%以下にすることによって、透過光Tが床や天井に到達することによって床や天井で散乱した光が、映像表示透明部材4に反射して写りこむ光量を低下させることができ、映像表示透明部材4に表示される映像のコントラストの低下を防ぐことができる。
また、短焦点プロジェクタを用いることで、映像表示透明部材4の第1の面Aへの入射角が大きくなるため、光散乱部43で散乱し、観察者Yへ向かう散乱光が少なくなり輝度が低くなる領域が発生する。そこで、前方ヘーズが、4%以上である映像表示透明部材4を用いることで、各領域において適切なスクリーンゲインが得られ、映像表示透明部材4の映像表示位置に依らず、映像を視認することができるようになる。
【0096】
(他の実施形態)
なお、本発明における透過型の映像表示透明部材は、第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有する透明部材であり、第1の面側の光景を第2の面側の観察者に視認可能に透過し、第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過し、かつ第1の面側から投射された映像光を第2の面側の観察者に映像として視認可能に表示する映像表示透明部材であればよく、図5の映像表示透明部材4に限定はされない。以下、図5の映像表示透明部材4と同じ構成のものについては同じ符号を付し、説明を省略する。
【0097】
透過型の映像表示透明部材は、図7に示すように、第1の透明基材10を省略した映像表示透明部材5であってもよい。映像表示透明部材5の具体例としては、たとえば、第2の透明基材20が既存の窓ガラス等である例、すなわち光散乱シート40を、既存の窓ガラス等に貼り付けた例が挙げられる。
また、図5の映像表示透明部材4において、第2の透明基材20を省略したものであってもよい。
また、2枚のガラス板と、ガラス板間に空隙が形成されるようにガラス板の周縁部に介在配置された枠状のスペーサとを有する複層ガラスにおいて、一方のガラス板の内面に、光散乱シート40を貼り付けたものであってもよい。
【0098】
透過型の映像表示透明部材は、図8に示すように、第1の透明基材10および第2の透明基材20を省略した映像表示透明部材6、すなわち光散乱シート40そのものであってもよい。映像表示透明部材6は、接着層を用いて既存の窓ガラス等への貼り付けが可能である。また、映像表示透明部材6は、変形させることが可能であり、曲面を有する映像表示透明部材を形成するのに向いている。
また、図8の映像表示透明部材6において、第1の透明フィルム41および第2の透明フィルム45を第1の透明基材10および第2の透明基材20に置き換えたものであってもよい。
【0099】
光散乱シートにおいて、透明フィルムがなくても光散乱シートがその形状を保つことができる場合は、必ずしも光散乱シートに透明フィルムを設ける必要はない。
透過型の映像表示透明部材においては、第1の面および第2の面のいずれか一方または両方に、反射防止フィルムを設けてもよい。
【0100】
透過型の映像表示透明部材においては、光散乱部43の長手方向に直交する断面の形状は、図示例のような直角三角形に限定されず、他の三角形、台形、釣鐘形状等であってもよい。
光散乱シートの他の例としては、体積ホログラムによって、透過、偏向、拡散されるもの;キノフォーム型ホログラム、その他凹凸表面を形成した構成によって、偏向、散乱、拡散されるもの等が挙げられる。
【0101】
また、光散乱シートとしては、透明層内に図示例のような複数の光散乱部を設けることなく、透明層全体に光散乱微粒子を分散させて透明層自体を光散乱層としたものであってもよい。
光散乱微粒子としては、上述した酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム等の高屈折率材料の微粒子;ポーラスシリカ、中空シリカ等の低屈折率材料の微粒子等が挙げられる。光散乱微粒子の濃度は、0.01~5体積%が好ましく、0.05~1体積%がより好ましい。光散乱微粒子の平均粒子径は、上述した理由から、50~1000nmが好ましく、100~800nmがより好ましい。
光散乱層は、上述した理由から、光吸収材料を含んでいてもよい。光吸収材料の濃度は、0.01~5体積%が好ましく、0.1~3体積%がより好ましい。
【実施例】
【0102】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
例1、3、4は実施例であり、例2、5は比較例である。
【0103】
(例1)
透明なポリエチレンテレフタレート(以下、PETと記す。)フィルム(東洋紡社製、コスモシャイン(登録商標)A4300、厚さ:0.1mm)の表面に、紫外線硬化性樹脂(大阪ガスケミカル社製、オグソール(登録商標)EA-F5003)100質量部に対し、光開始剤(BASF社製、イルガキュア(登録商標)907)を3質量部混合した溶液をダイコート法によって10μmの厚みに塗布した。
不規則な凹凸構造が表面に形成された白色PETフィルム(東レ社製、E20、算術平均粗さRa:0.23μm)を、凹凸構造が紫外線硬化性樹脂に接するように、紫外線硬化性樹脂の上に重ねた。
【0104】
透明PETフィルムの側から1000mJの紫外線を照射し、紫外線硬化性樹脂を硬化させて、白色PETフィルムの不規則な凹凸構造が表面に転写された第1の透明層を形成した後、白色PETフィルムを剥離した。
第1の透明層の表面に、アルミニウムを真空蒸着法によって物理蒸着し、アルミニウム薄膜(厚さ:8nm)からなる反射膜を形成した。
【0105】
反射膜の表面に、紫外線硬化性樹脂(大阪ガスケミカル社製、オグソール(登録商標)EA-F5003)100質量部に対し、光開始剤(BASF社製、イルガキュア(登録商標)907)を3質量部混合した溶液をダイコート法によって10μmの厚みに塗布し、紫外線硬化性樹脂の上に透明PETフィルム(厚さ:0.1mm)を重ねた。
1000mJの紫外線を照射し、紫外線硬化性樹脂を硬化させて、第2の透明層を形成することによって、例1の光散乱シートを得た。
【0106】
ソーダライムガラス板(松浪硝子社製、厚さ:3mm)、ポリビニルブチラール(以下、PVBと記す。)フィルム(Solutia社製Saflex RK11l、厚さ:375μm)、例1の光散乱シート、PVBフィルム(厚さ:375μm)、ソーダライムガラス板(厚さ:3mm)の順に積層し、真空加熱圧着を行い、例1の反射型の映像表示透明部材を得た。例1の映像表示透明部材の評価結果を表1に示す。
【0107】
投影機として、短焦点プロジェクタ(RICOH社製、PJ WX4141NI)を用意した。
図1に示すように、投影機200に最も近い部分における、映像表示透明部材1の第1の面Aへの映像光の入射角αが26度となるように、映像表示透明部材1の第1の面A側に設置した。映像光の投射距離は、最短で18.8cmであった。
【0108】
映像表示透明部材1に投影機200から映像光を投射し、映像を表示させた。
観察者Xは、映像表示透明部材1の第1の面Aを、真正面かつ3mの距離から観察した。観察者Yは、映像表示透明部材1の第2の面Bを、真正面かつ3mの距離から観察した。投影機200から投射された映像光Lに由来する反射光Rや透過光Tによる眩しさを観察者Xや観察者Yが感じることはなかった。また、映像の輝度ムラが抑えられていた。
【0109】
(例2)
投影機として、通常のプロジェクタ(EPSON社製、LCD PROJECTOR EB-X8)を用意し、入射角αを10度、映像光の投射距離(最短)を100cmに変更した以外は、例1と同様にして映像表示透明部材に映像を表示させた。投影機200から投射された映像光Lに由来する反射光Rや透過光Tによる眩しさが、観察者Xや観察者Yに感じられた。
【0110】
(例3)
不規則な凹凸構造が表面に形成された白色PETフィルムとして、算術平均粗さRaが0.02μmのものを用いた以外は、例1と同様にして例3の光散乱シートを得た。
例1の光散乱シートの代わりに例3の光散乱シートを用いた以外は、例1と同様にして例3の反射型の映像表示透明部材を得た。例3の映像表示透明部材の評価結果を表1に示す。
【0111】
例1の反射型の映像表示透明部材の代わりに例3の透過型の映像表示透明部材を用いた以外は、例1と同様にして映像表示透明部材に映像を表示させた。投影機200から投射された映像光Lに由来する反射光Rや透過光Tによる眩しさを観察者Xや観察者Yが感じることはなかった。ただし、映像の輝度ムラが顕著に現れた。
【0112】
(例4)
透明PETフィルム(東洋紡社製、コスモシャイン(登録商標)A4300、厚さ:50μm)の表面に、紫外線硬化性樹脂(日立化成社製、ヒタロイド(登録商標)7981、比重1.1)をブレードコート法によって厚さが80μmとなるように塗布した。
光散乱部に対応した断面直角三角形の複数の凸条が表面に形成されたモールドを、凸条が紫外線硬化性樹脂に接するように、温度:25℃、ゲージ圧:0.5MPaの条件で紫外線硬化性樹脂の上に押し付けた。
【0113】
透明PETフィルムの側から紫外線を照射し、紫外線硬化性樹脂を硬化させて、モールドの凸条に対応する溝が表面に形成された透明層下層を形成した後、モールドを剥離した。これにより、100mm×100mmの領域の透明層下層の表面に、間隔:80μm、幅:40μm、深さ:80μm、長さ:100mm、断面形状:直角三角形の複数の溝が形成された。
【0114】
紫外線硬化性樹脂(日立化成社製、ヒタロイド(登録商標)7981、比重1.1)に、酸化チタン微粒子(平均粒子径:0.2μm、比重4.2)を0.1体積%となるように混合したペーストを用意した。
透明層下層の表面にペーストを供給し、余剰分をドクターブレードでかき取ることによって、透明層下層の溝にペーストを埋め込んだ。紫外線を照射し、ペーストを硬化させることによって、光散乱部を形成した。
【0115】
透明層下層の表面および光散乱部の表面に紫外線硬化性樹脂(日立化成社製、ヒタロイド(登録商標)7981、比重1.1)をダイコート法により厚さが5μmとなるように塗布し、紫外線硬化性樹脂の上に透明PETフィルムを重ねた。
紫外線を照射し、紫外線硬化性樹脂を硬化させて、透明層上層を形成することによって、例4の光散乱シートを得た。
【0116】
ソーダライムガラス板(松浪硝子社製、厚さ:3mm)、PVBフィルム(Solutia社製 Saflex RK11l、厚さ:375μm)、例4の光散乱シート、PVBフィルム(厚さ:375μm)、ソーダライムガラス板(厚さ:3mm)の順に積層し、真空加熱圧着を行い、例4の透過型の映像表示透明部材を得た。例4の映像表示透明部材の評価結果を表1に示す。
【0117】
例1の反射型の映像表示透明部材の代わりに例4の透過型の映像表示透明部材を用いた以外は、例1と同様にして映像表示透明部材に映像を表示させた。投影機200から投射された映像光Lに由来する反射光Rや透過光Tによる眩しさを観察者Xや観察者Yが感じることはなかった。
【0118】
(例5)
例1の反射型の映像表示透明部材の代わりに例4の透過型の映像表示透明部材を用いた以外は、例2と同様にして映像表示透明部材に映像を表示させた。投影機200から投射された映像光Lに由来する反射光Rや透過光Tによる眩しさが、観察者Xや観察者Yに感じられた。
【0119】
【表1】
【0120】
表中の評価基準は、下記のとおりである。
(光景視認性)
観察者側(反射型の場合は観察者X、透過型の場合は観察者Y)から見て映像表示透明部材の向こう側に見える光景の視認性を、下記の基準にて評価した。
0:良好である。
1:手前が暗い場合、または外光が小さい場合は良好である。
2:大まかな認識が可能なレベルである。
3:光景を視認できない。
【0121】
(映像視認性)
観察者側(反射型の場合は観察者X、透過型の場合は観察者Y)から見て映像表示透明部材に表示される映像の視認性を、下記の基準にて評価した。
0:良好である。
1:周囲が暗い場合は良好である。
2:大まかな認識が可能なレベルである。
3:映像を視認できない。」
(3)本件透過型発明に係るサポート要件についての判断
ア 発明が解決しようとする課題
本件訂正後の明細書の段落【0010】には、【発明が解決しようとする課題】として、「本発明は、短焦点プロジェクタを用いた映像表示システムおよび映像表示方法において、観察者側から見て映像表示透明部材の向こう側に見える光景の視認性を低下させることなく、映像表示透明部材に表示される映像のコントラストが高い状態を維持できる映像表示システムおよび映像表示方法を提供する。」と記載されている。
イ 明細書に開示された実施例
本件透過型発明では、「前記映像表示透明部材の透過率が、5%以上であり、前記映像表示透明部材の反射率が、10%以下であり、前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、8~40%である」としているところ、本件訂正後の明細書の段落【0112】~【0121】には、映像表示透明部材の透過率が85%、反射率が6%、前方ヘーズが16%の(例4)が実施例として開示されているのみであり、このような一つの実施例で確認された光学特性値以外の広範な数値範囲を含む本件透過型発明は、出願時の技術常識に照らしても、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであって、上記広範な数値範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないようにも思われる。
そこで、このような広範な数値範囲の光学特性を有する本件透過型発明が発明の詳細な説明に記載されたものといえるか否か、光学特性(透過率、反射率、前方ヘーズ)ごとに検討する。
ウ 透過率について
(ア)上述のとおり、本件訂正後の明細書に開示された実施例は、透過率が85%の(例4)のみであるところ、段落【0088】には、本件透過型発明の「映像表示透明部材」の透過率について、次の記載がある(下線は当審が付与した。以下、同様。)。
「【0088】
(透過型の映像表示透明部材の光学特性)
映像表示透明部材4の透過率は、観察者側から見て映像表示透明部材4の向こう側に見える光景の視認性がよい点から、5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、15%以上がさらに好ましい。」
(イ)この点に関し、申立人は、令和3年3月10日に提出した意見書において、次の主張をしている。
「ウ.透過率について、訂正発明6及び14は、映像表示透明部材の透過率が5%以上であると記載しているが、甲2の透過率が60%以上であるように(請求項6)、透過率が5~60%程度で、他方側の光景が視認できる透過型の映像表示透明部材であるとはいえないから、「透過率が5%以上」と「透過型の映像表示透明部材」とは矛盾するとともに、訂正発明6は、発明の課題が解決できる範囲を超えており、サポート要件を満足していない。」(上記意見書の9頁)
(ウ)上記主張について検討すると、本件透過型発明においては、明細書の上記段落【0088】の記載に基づいて「視認可能」であるか否かを評価するのが適当であり、その記載によれば、映像表示透明部材4の透過率が5%以上であれば、観察者側から見て映像表示透明部材4の向こう側に見える光景の視認性が「よい」と評価しているのであるから、実施例が透過率85%の場合を開示したのみであるとしても、上記評価基準に照らせば、「前記映像表示透明部材の透過率が、5%以上であり」という数値範囲を含む本件透過型発明が、出願時の技術常識に照らして、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではない。
(エ)また、映像表示透明部材の向こう側に見える光景の視認性の良し悪しは、当該映像表示透明部材が使用される環境(室内や室外の明暗の程度)や、観察者の主観、またそもそも期待される視認性の程度などにも依存することから、一般にその評価にはある程度の幅があり、他の文献に開示された透過型の映像表示透明部材の透過率と比べて低い透過率の場合であっても、その視認性が劣ることはあるものの、「視認可能」ではないとまで一概にいうことはできない。
したがって、申立人の上記主張を採用することはできない。
エ 反射率について
(ア)本件訂正後の明細書に開示された実施例は、反射率が6%の(例4)のみであるところ、段落【0089】には、本件透過型発明の「映像表示透明部材」の反射率について、次の記載がある。
「【0089】
映像表示透明部材4の反射率は、15%以下であり、10%以下がより好ましい。
本発明においては、短焦点プロジェクタを用いることによって、映像表示透明部材4の第1の面Aへの映像光Lの入射角が大きくなり、映像光Lの光量の強い領域が映像表示透明部材4を大きな出射角で透過、または映像表示透明部材1の第1の面Aにて大きな出射角で正反射することによって観察者に到達しにくくなる。しかし、映像光Lの入射角が大きくなるため、透過光Tが映像表示透明部材4付近の床や天井に到達してしまう。そして、透過光Tが床や天井に到達することによって床や天井で散乱された光が、映像表示透明部材4に映りこみ、その反射光を観察者が視認することによって、映像のコントラストの低下を引き起こす。
本発明においては、映像表示透明部材4の反射率を上記程度に低くすることによって、透過光Tが床や天井に到達することによって床や天井で散乱した光が、映像表示透明部材4に反射して写りこむ光量を低下させることができ、映像表示透明部材4に表示される映像のコントラストの低下を防ぐことができる。特に、映像表示透明部材4に表示された映像の投影機200に最も遠い部分における映像光Lの入射角が50度以上である場合は、透過光Tが映像表示透明部材4付近の床や天井に到達するのみでなく、床や天井で散乱された光のうち、比較的光量の多い領域である、正規反射角度からの角度差が90度未満の光が映像表示透明部材4へ到達するため、上記の効果が高くなる。」
また、上記段落【0089】の記載に関連して、段落【0095】には、作用機序として、「・・・そして、透過光Tが床や天井に到達することによって床や天井で散乱された光は、映像表示透明部材4に映りこんで、映像のコントラストの低下を引き起こす。そのため、映像表示透明部材4の反射率を15%以下にすることによって、透過光Tが床や天井に到達することによって床や天井で散乱した光が、映像表示透明部材4に反射して写りこむ光量を低下させることができ、映像表示透明部材4に表示される映像のコントラストの低下を防ぐことができる。」と記載されている。
(イ)ここで、本件透過型発明の「透過型の映像表示透明部材」は、「第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有する透明部材であり、第1の面側の光景を第2の面側の観察者に視認可能に透過し、第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過し、かつ第1の面側(に設置された投影機)から投射された映像光を第2の面側の観察者に映像として視認可能に表示する」ものである。
また、本件透過型発明では、「映像表示透明部材の前方へーズが、8~40%である」としているところ、この「前方ヘーズ」は、第1の面側から入射した光が第2の面側に透過する際に、その透過光の前方散乱の度合いを意味している。 そうすると、本件透過型発明の「前記映像表示透明部材の反射率」は、「第1の面側」(以下に示す【図5】におけるA面側)に外部から光を入射して測定した場合の反射率(以下「第1面反射率」という。)を意味するものであり、「第2の面側」(【図5】におけるB面側)に外部から光を入射して測定した場合の反射率(以下「第2面反射率」)を意味するものではないと解するのが相当である。
(ウ)他方、段落【0095】の記載によれば、映像表示透明部材4を透過した透過光Tが床や天井で散乱し、その散乱光が映像表示透明部材4に反射して写りこみ、映像表示透明部材4に表示される映像のコントラストを低下させることを問題とし、映像表示透明部材4の反射率を15%以下にすることによって、映像のコントラストの低下を防ぐことができるとしているから、段落【0095】の作用機序において述べられている上記「映像表示透明部材4の反射率」は、映像が表示される面である第2の面(B面)に光を入射して測定した場合の反射率(すなわち、第2面反射率)を意味しているものと解すべきである。
「【図5】
」
(エ)そうすると、段落【0095】の作用機序に従って、映像表示透明部材4に表示される映像のコントラストの低下が防止できるのは、第2面反射率によるものであって、第1面反射率によるものではないことになるから、この作用機序は、本件透過型発明において、第1面反射率が10%以下であれば、映像表示透明部材4に表示される映像のコントラストの低下が防止できることを十分説明しているとはいえない。
(オ)もっとも、本件訂正により、本件透過型発明には、
「前記映像表示透明部材は、前記第1の面側の第1の透明基材と、前記第2の面側の第2の透明基材との間に、光散乱シートが配置されたものであり、
前記第1の透明基材と前記光散乱シートとは、接着層によって接着され、
前記第2の透明基材と前記光散乱シートとは、接着層によって接着され、
前記第1の透明基材と、前記第2の透明基材が、ソーダライムガラスであり、」という構成が付加されており(訂正事項2、6)、「第1の面側の第1の透明基材」と「第2の面側の第2の透明基材」がいずれも「ソーダライムガラス」という共通の材料であるから、上記(イ)において説示したとおり、本件透過型発明における「映像表示透明部材」の「反射率」は、第2面反射率を意味するものではないとしても、透明基材の材料の共通性及び映像表示透明部材の層構造の対称性から、第2面反射率も、第1面反射率と同程度の値を有すると解する余地がある。
(カ)この点に関し、段落【0116】には、「ソーダライムガラス板(松浪硝子社製、厚さ:3mm)、PVBフィルム(Solutia社製Saflex RK11l、厚さ:375μm)、例4の光散乱シート、PVBフィルム(厚さ:375μm)、ソーダライムガラス板(厚さ:3mm)の順に積層し、真空加熱圧着を行い、例4の透過型の映像表示透明部材を得た。」と記載されており、明示はされていないものの、透明基材である「ソーダライムガラス板」が共通の製造元からのものであり、同等の光学特性を有するであろうことが推測される。
(キ)そうすると、映像表示透明部材4に表示される映像のコントラストの低下が防止できるのは、第2面反射率によるものであって、第1面反射率によるものではないとしても、本件訂正により付加された構成により、「映像表示透明部材」の「第2の面側の第2の透明基材」の反射率が、「第1の面側の第1の透明基材」の反射率と同程度のものとして見積もることができるから、本件透過型発明において、第1面反射率が10%以下であれば、第2面反射率も10%以下になり、段落【0095】の作用機序に従って、映像表示透明部材4に表示される映像のコントラストの低下が防止できることが理解できるようになる。
(ク)したがって、実施例が反射率6%の場合を開示したのみであるとしても、段落【0095】に記載された作用機序を手がかりとして、反射率10%以下の場合についても通用すると考えることができるから、「前記映像表示透明部材の反射率が、10%以下であり」という数値範囲を含む本件透過型発明が、出願時の技術常識に照らして、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではない。
(ケ)この点に関し、申立人は、令和3年3月10日に提出した意見書において、次の主張をしている。
「エ.特許権者は、令和3年1月7日付意見書において、「映像表示透明部材の反射率を10%以下とすることで、透過率が床や天井で散乱した光が映像表示透明部材に表示される映像のコントラストの低下を防ぐことができる」と主張しているが(第12頁下から9~4行)、透過型の映像表示透明部材の場合、本件図5でみて上下左右が非対称であることから、第1面側の反射率と第2面側の反射率が異なり、かつそれぞれの反射率について、上側から投影した場合、中央付近側から投影した場合(背景の景色についても同様)、下側から投影した場合で反射率が異なるが、いずれの反射率のことを述べているのかが不明であり、訂正発明6及び14には「反射率」とは上述のどの反射率を指すのかが特定されていない。「透過率」「前方ヘーズ」についても同様である。「前方ヘーズ」については、JIS K 7136が採用されているが(本件特許明細書の段落15)、訂正発明6及び14は短焦点プロジェクタを用いることが強調されているのであるから、大きな入射角で投射された場合の前方ヘーズを特定しなければ、コントラストの低下を防止するという作用効果を主張できない。 よって、反射率、透過率、前方ヘーズの定義を特定していない訂正発明6及び14は、発明の課題を解決するための手段が反映されていない。」(上記意見書の9~10頁)
「イ.本件特許明細書には、透過型の映像表示透明部材として、第1の透明基材と第2の透明基材との間に光散乱シートが配置され、かつ、光散乱シートが、面方向に沿って断面が直角三角形の光散乱部が所定の間隔で配置され、直角三角形の斜辺に向けて映像が投影される構造のみが記載されており、出願時の技術常識に照らしても、当該構造を特定しない「光散乱シート」にまで拡張又は一般化できるとは考えられず、訂正発明6及び14は発明の課題を解決できる範囲を超えて請求している。」(上記意見書の11頁。12頁の主張も同旨。)
(コ)上記主張について検討すると、本件訂正後の明細書の【0096】には、「なお、本発明における透過型の映像表示透明部材は、・・・図5の映像表示透明部材4に限定はされない。」と記載され、段落【0101】には、「また、光散乱シートとしては、透明層内に図示例のような複数の光散乱部を設けることなく、透明層全体に光散乱微粒子を分散させて透明層自体を光散乱層としたものであってもよい。」と記載されており、本件透過型発明において、「透過型の映像表示透明部材」の「光散乱シート」が、【図5】に示されているような直角三角形を配列した光散乱部を備えることは必須の構成であるとはいえないから、透過型の映像表示透明部材が「上下左右が非対称である」ことを前提とした申立人の前記主張を採用することはできない。
また、本件訂正後の明細書の段落【0015】には、「透過率」について、「透過率は、拡散されずに透過した光と、拡散されて透過した光の合計であり、全光線透過率と同等である。ただし、入射した部位から大きく外れたり、部材端部から放出されたものは含まない。」と記載されており、「反射率」について、「反射率は、正反射率と拡散反射率の和であり、全光線反射率と同等である。ただし、入射した部位から大きく外れたり、部材端部から放出されたものは含まない。」と記載されており、「透過率」、「反射率」のいずれについても、「入射した部位から大きく外れた」ものを除外しているから、極端な斜め入射した場合の透過率や反射率を想定しているとは考え難く、透過率や反射率の入射角依存性が顕著にみられない範囲での入射角を想定していると考えられる。
そうすると、本件透過型発明においては、第1面側の反射率と第2面側の反射率はほぼ同じであり、それぞれの反射率について、上側から投影した場合、中央付近側から投影した場合、下側から投影した場合のいずれでも反射率に変化がないような入射角で光を入射させた場合の「透過率」及び「反射率」を規定していると解するのが相当である。「前方ヘーズ」についても同様である。
よって、申立人の上記(ケ)の主張を採用することはできない。
オ 前方ヘーズについて
(ア)本件訂正後の明細書に開示された実施例は、前方ヘーズが16%の(例4)のみであるところ、段落【0090】には、本件透過型発明の「映像表示透明部材」の前方ヘーズについて、次の記載がある。
「【0090】
映像表示透明部材4の前方ヘーズは、スクリーンゲインの確保および視野角の確保の点から、4%以上が好ましく、5%以上がより好ましく、8%以上がさらに好ましい。
映像表示透明部材4の前方ヘーズは、観察者側から見て映像表示透明部材4の向こう側に見える光景の視認性の点から、50%以下が好ましく、30%以下がより好ましく、20%以下がさらに好ましい。」
(イ)ここで、スクリーンゲイン及び視野角を確保する要請と、観察者側から見て映像表示透明部材の向こう側に見える光景の視認性を確保する要請を両立させるためには、映像表示透明部材の前方ヘーズに所定の上限値及び下限値が生じることは明らかであるところ、どのような数値範囲にあればそれが両立可能であるかについては、当該映像表示透明部材が使用される環境(室内や室外の明暗の程度)にも依存するから、8~40%の範囲として限定しても、そのような数値限定は非現実的なものではない。
(ウ)この点に関し、申立人は、令和3年3月10日に提出した意見書において、次の主張をしている。
「イ.また、本件特許明細書によれば、透過型の映像表示透明部材は、断面が直角三角形の光散乱部を配置した構造を備え(本件図5でみて左右非対称)、かつ、直角三角形の斜辺に向けて映像が投影された場合(本件図5)に、第2の面側の前方ヘーズを8%以上にすることで、第2の面側の各領域において適切なスクリーンゲインを得ることができる。
ウ.他方で、訂正発明6及び14は、単に第1及び第2の透明基材の間に光散乱シートが配置されていることを特定するのみで、光散乱シートが、断面が直角三角形の光散乱部を備え、かつ、当該直角三角形の斜辺が第1の面側に位置する構造であること、及び第2の面側の前方ヘーズを8%以上であることを特定していない。
エ.よって、訂正発明6及び14は、出願時の技術常識に照らしても、上記発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求している。」(上記意見書の13~14頁)
(エ)上記主張について検討すると、上記エ(コ)において説示したとおり、本件透過型発明において、「透過型の映像表示透明部材」の「光散乱シート」が、【図5】に示されているような直角三角形を配列した光散乱部を備えることは必須の構成であるとはいえないから、透過型の映像表示透明部材が左右非対称であることを前提とした上記主張を採用することはできない。
(オ)したがって、実施例が前方ヘーズ16%の場合を開示したのみであるとしても、「前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、8~40%である」という数値範囲を含む本件透過型発明が、出願時の技術常識に照らして、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではない。
カ 屈折率について
(ア)申立人は、令和3年3月10日に提出した意見書において、屈折率について次の主張をしている。
「イ.訂正発明6及び14は、光散乱シートの透明フィルムの材料、屈折率を特定していないし、第1及び第2の透明基材が最外層であることも特定していない。 また、境界面における屈折率差より、直角三角形の光散乱部の材料及び構造の方が反射率に大きな影響を与えることは明らかであるにも拘わらず、訂正発明6及び14はこれらの構成について何も特定していない。
ウ.よって、訂正発明6及び14は、出願時の技術常識に照らしても、特許権者が主張する上記発明の課題及び作用機序に対応する構成が反映されておらず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求している。」
(上記意見書の15頁)
(イ)上記主張について検討すると、本件訂正後の明細書及び図面の記載を参照しても、「第1の透明基材」及び「第2の透明基材」の外側に最外層としての光学部材が存在する「映像表示透明部材」は何ら開示されていないから、本件透過型発明において、「第1の透明基材」及び「第2の透明基材」が「映像表示透明部材」の最外層であることを特定していなくても、それらは最外層にあると解するのが相当である。
また、本件訂正により付加された「前記映像表示透明部材は、前記第1の面側の第1の透明基材と、前記第2の面側の第2の透明基材との間に、光散乱シートが配置されたものであり、前記第1の透明基材と前記光散乱シートとは、接着層によって接着され、前記第2の透明基材と前記光散乱シートとは、接着層によって接着され、前記第1の透明基材と、前記第2の透明基材が、ソーダライムガラスであり、」という構成から、「映像表示透明部材」は概ね左右対称性を有することが想起できるから、本件透過型発明において、光散乱シートの透明フィルムの材料や屈折率を特定していなくとも、そのことが光学特性に大きな影響を与えると考えるのは適当ではない。
なお、本件透過型発明において、直角三角形の光散乱部の存在が必須のものではないことは、上記エ(コ)において説示したとおりである。
したがって、申立人の上記(ア)の主張を採用することはできない。
キ 小括
以上の検討内容をまとめると、本件透過型発明について、上記取消理由2(サポート要件違反)は存在しない。
第6 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立人が提出した証拠と申立理由の概要
(1)証拠
甲第1号証 :特表2014-509963号公報
甲第2号証 :特開2010-231080号公報
甲第3号証 :特開2013-237889号公報
甲第4号証 :特開2002-277962号公報
甲第5号証 :国際公開第2013/129290号
甲第6号証の1:国際公開第2014/009663号
甲第6号証の2:特表2015-530959号公報
(2)理由の概要
申立人は、上記(1)の文書を証拠方法として、以下の申立理由1~8に示す理由により、請求項1~16に係る特許は取り消すべきものである旨主張する。
<申立理由1(甲1からの新規性欠如)>
請求項1、3~5、9、11~13に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法29条1項3号に該当するから、請求項1、3~5、9、11~13に係る特許は、同法29条1項の規定に違反してされたものである。
<申立理由2(甲5からの新規性欠如)>
請求項6、14に係る発明は、甲第5号証に記載された発明であり、特許法29条1項3号に該当するから、請求項6、14に係る特許は、同法29条1項の規定に違反してされたものである。
<申立理由3(甲1からの進歩性欠如)>
請求項1~5、9~13に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~5、9~13に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
<申立理由4(甲5からの進歩性欠如)>
請求項6~8、14~16に係る発明は、甲第5号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項6~8、14~16に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
<申立理由5(甲2からの進歩性欠如)>
請求項1、2、6、7、9、10、14、15に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2、6、7、9、10、14、15に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
<申立理由6(サポート要件違反)>
本件特許は、特許請求の範囲の記載が、下記のとおり、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
(1)請求項1において、「前記映像表示透明部材の透過率が、5~80%であり、前記映像表示透明部材の反射率が、18%以上であり、前記映像表示透明部材の後方ヘーズが、5~80%であり、前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、50%以下である」と記載されているところ、発明の詳細な説明には、反射型の実施例として例1(透過率45%、反射率18%、前方ヘーズ3%、後方ヘーズ53%)の1例のみ記載されているが、前方ヘーズ3%及び後方ヘーズ53%は請求項1に係る発明の特定範囲外であるから、この実施例は請求項1に係る発明の実施例であるとはいえない。また、反射率18%は請求項1において特定された範囲の境界値である。
したがって、請求項1に係る発明は、実施例に裏付けられていないから、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。
請求項2~5、9~13に係る発明も、同様に発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。
(2)請求項6において、「前記映像表示透明部材の透過率が、5%以上であり、前記映像表示透明部材の反射率が、15%以下であり、前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、8~40%である」と記載されているところ、発明の詳細な説明には、透過型の実施例として例4(透過率85%、反射率6%、前方ヘーズ16%、後方ヘーズ43%)が記載されているが、請求項6の「透過率が5%以上」に対して著しく高い「透過率85%」の例が開示されているのみであり、出願時の技術常識に照らしても請求項6に特定された範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
したがって、請求項6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。
請求項7~8、14~16に係る発明も、同様に発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。
(3)請求項1において、「前記映像表示透明部材の後方ヘーズが、5~80%であり」と記載されているところ、発明の詳細な説明には、反射型の実施例として例1(後方ヘーズ53%)の1例のみが開示されており、請求項1に係る発明は、実施例により裏付けられていないから、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。
請求項2~5、9~13に係る発明も、同様に発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。
<申立理由7(明確性要件違反)>
本件特許は、特許請求の範囲の記載が、下記のとおり、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
(1)請求項1において、「前記映像表示透明部材の透過率が、5~80%であり、前記映像表示透明部材の反射率が、18%以上であり、前記映像表示透明部材の後方ヘーズが、5~80%であり、前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、50%以下である」と記載されているが、透過率と反射率の関係、後方ヘーズ及び前方ヘーズの関係において、多くの矛盾する範囲を包含しており(例えば、透過率と反射率の合計が100%を超える場合)、各特性がどのような関係にあるのか不明であるから、請求項1に係る発明は明確ではない。
請求項2~5、9~13に係る発明も、同様に明確ではない。
(2)請求項6において、「前記映像表示透明部材の透過率が、5%以上であり、前記映像表示透明部材の反射率が、15%以下であり、前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、8~40%である」と記載されているが、透過率と反射率の関係において、多くの矛盾する範囲を包含しており(例えば、透過率と反射率の合計が100%を超える場合)、各特性がどのような関係にあるのか不明であるから、請求項6に係る発明は明確ではない。
請求項7~8、14~16に係る発明も、同様に明確ではない。
(3)請求項1において、「前記映像表示透明部材の後方ヘーズが、5~80%であり」と記載されているが、技術常識を考慮すれば、5%程度の低い値で映像を視認できるとは考えられず、「後方ヘーズ」に係る特定事項には不明な点があり、請求項1に係る発明は明確ではない。
請求項2~5、9~13に係る発明も、同様に明確ではない。
(4)請求項1、6、9及び14において「短焦点プロジェクタ」と記載されているが、「短焦点プロジェクタ」とはいかなるプロジェクタを意味するのか不明であり、請求項1、6、9及び14に係る発明は明確ではない。
また、これらの請求項の記載を引用する請求項2~5、7~8、10~13、15~16に係る発明は明確ではない。
<申立理由8(実施可能要件違反)>
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が、下記のとおり、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
(1)発明の詳細な説明には、請求項1~5、9~13に特定された各特性について、どのような組み合わせで実施可能なのか1例も記載されていないから(例1は請求項1に特定された値の範囲外)、発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
(2)発明の詳細な説明には、請求項6~8、14~16に特定された各特性について、どのような組み合わせで実施可能なのか記載されていないから、発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
(3)請求項1の「前記映像表示透明部材の後方ヘーズが、5~80%であり」という特定事項に関し、特許明細書等の段落【0052】には、「・・・映像表示透明部材1の後方ヘーズは、観察者側から見て映像表示透明部材1の向こう側に見える光景の視認性の点から、90%以下が好ましく、80%以下がより好ましい。」と記載されているが、その理由が不明である。
すなわち、後方ヘーズは光の拡散性の指標であり、背後の光景の視認性は透過性と前方ヘーズに依存するものと考えられ、背後の視認性が後方ヘーズに依存するという理由が不明であり、発明の詳細な説明は、後方ヘーズがどのように背後の光景の視認性に影響するのか当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
(4)請求項1、6、9及び14に記載された「短焦点プロジェクタ」に関し、発明の詳細な説明には、「短焦点プロジェクタ」とはいかなるプロジェクタを意味するのか、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
2 当審の判断
(1)申立理由1及び申立理由3(甲1からの新規性・進歩性欠如)について
ア 甲第1号証
甲第1号証(特表2014-509963号公報)には、次の事項が記載されている(下線は当審が付した。)。
「【発明の概要】
【0006】
本発明は、より詳しくは、部材を通して明瞭な視界を有し、部材の鏡のような反射を制限し、そして部材の拡散反射を促進することを同時に可能にする層状部材を提案することによってこれらの欠点を克服しようとするものである。」
「【0017】
本発明の結果、層状部材に入射する放射の正透過と拡散反射が得られる。正透過は、層状部材を通して明瞭な視界を確保する。拡散反射は、層状部材によるはっきりとした反射とまぶしさの危険性を回避することを可能にする。
【0018】
層状部材の拡散反射は、一方が誘電体層であり、他方が金属層であるか、又は異なった屈折率を有する2つの誘電体層である2つの隣接する層の間のそれぞれの接触表面が凹凸があるという事実のためである。よって、層状部材に入射する放射がそうした接触面に達したとき、それが金属層によって反射されるか、又は2つの誘電体層の間の屈折率の差のために、そして接触表面に凹凸があるので、反射が拡散する。
【0019】
正透過は、層状部材の2つの外層が平坦な外側の主表面を持ち、かつ、実質的に同じ屈折率を有する材料から構成されているという事実、ならびに一方が誘電体層であり、他方が金属層であるか、又は異なった屈折率を有する2つの誘電体層である層状部材の2つの隣接する層の間のそれぞれの凹凸のある接触表面が、一方が誘電体層であり、他方が金属層であるか、又は異なった屈折率を有する2つの誘電体層である2つの隣接する層の間の凹凸のある接触表面の他方と平行であるという事実に起因する。」
「【0025】
本発明の1つの態様によれば、層状部材の拡散反射特性は、放射が入射した側の複数の方向に放射の大部分を反射するのに利用される。この高い拡散反射を得る一方でそれと同時に、層状部材を通した明瞭な視界を有する、すなわち、層状部材は、層状部材の正透過特性のため半透明である。こうした高い拡散反射を有する透明な層状部材は、例えば、ディスプレイスクリーン又はプロジェクションスクリーン向けの適用を満たす。
【0026】
特に、こうした高い拡散反射を有する層状部材は、ヘッドアップディスプレイ(HUD)システムで使用できる。既知の様式において、特に、飛行機コックピット、列車のみならず、今日では、個人の自動車(乗用車、トラックなど)でも使用されているHUDシステムは、ドライバー又は同乗者に向かって反射されるグレージング、一般的に自動車のフロントガラスに映し出された情報を表示することを可能にする。これらのシステムは、ドライバーが自動車の前方視界から目を逸らす必要なしにドライバーに情報提供することを可能するので、それは安全性の大幅な増強を可能にする。ドライバーは、虚像がグレージングの後ろの一定の距離に位置していると認識する。」
「【0029】
本発明は、この問題を克服することができる。実際には、層状部材が投影光源からの放射を受けるグレージング、又はグレージングの主表面に追加される軟質膜としてHUDシステムに組み込まれるとき、層状部材内で放射で遭遇する第1の凹凸のある接触表面における拡散反射を、大気に接触している外側表面の反射より著しく高くすることができる。よって、層状部材の第1の凹凸のある接触表面による反射を促進することによって、二重反射が抑制される。」
「【0063】
本発明の別の主題は、上記の層状部材を含むディスプレイスクリーン又はプロジェクションスクリーンである。特には、本発明の1つの主題は、上記の層状部材を含むヘッドアップディスプレイシステムのグレージングである。
【0064】
本発明の最後の主題は、自動車、建築物、街路備品、インテリア備品、ディスプレイスクリーン、ヘッドアップディスプレイシステム又はプロジェクションスクリーンのためのグレージングの全部又は一部としての上記の層状部材の使用である。」
「【0068】
図1に示された層状部材1は、2つの外層2及び4を含み、そしてそれは、実質的に同じ屈折率n2、n4を有する透明誘電体材料から構成される。それぞれの外層2又は4は、層状部材の外側に向いた平坦な主表面、それぞれ2A又は4A、及び層状部材の内部に向いた凹凸のある主表面、それぞれ2B又は4Bを有する。」
「【0070】
内部表面2Bと4Bの凹凸は互いに相補的である。図1ではっきり分かるように、凹凸のある表面2Bと4Bは、互いに向き合うように配置され、ここで、立体配置において、それらの凹凸は厳密に平行である。層状部材1はまた、凹凸のある表面2Bと4Bの間に接触した状態で差し込まれた中心層3を含む。」
「【実施例】
【0108】
本発明による層状部材の4つの実施例の反射特性を、以下の表1に示す。表1に示した層状部材の反射特性は、次のものである。
TL:標準的なISO規格9050:2003(光源D65、2°視野の観察者)に従って計測した可視域の光透過(%単位)。
曇り度T:外層2の側面において層状部材に入射する放射に関して標準的なASTM D1003に従ってヘーズメーターを使用して計測した透過(%単位)。
RL:標準的なISO規格9050:2003(光源D65、2°視野の観察者)に従って計測した外層2の側面において層状部材に入射する放射に関する可視域の総光反射(%単位)。
曇り度R:Minolta製ポータブル機で計測した可視域の総光反射(%単位)を可視域の非正光反射(%単位)で割った比率と規定される、外層2の側面において層状部材に入射する放射に関する反射における曇り度(%単位)。
【0109】
【表1】
」
「【0116】
層状部材における全反射に対する拡散反射のパーセンテージは、層状部材のいくつかのパラメーターを使用することによって調整できる。特に、このパーセンテージは、以下の方策の両方又はいずれか一方を導入することによって高めることもできる。
入射する放射を受けることが意図される層状部材の各外側表面を覆う反射防止コーティングを提供する。そのことで、この平坦な外側表面による正反射を制限することができ、そしてそれにより、その平坦な外側表面による反射の正反射様式よりむしろ層状部材の隣接する層の間の凹凸のある接触表面による拡散様式の反射を示すことを可能にする。
放射の入射の側に位置している層状部材のそれぞれの外層の間の接触表面と中心層、及び/又は中心層の構成隣接する層の間の各接触表面における屈折率のギャップを増強する。そのことで、これらの接触表面における(拡散反射である)放射の反射を増大することを可能にする。」
「【図1】
」
イ 甲第1号証に記載された発明
上記アにおいて摘記した記載内容及び図示内容を総合すると、甲第1号証には、次のとおりの発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
[甲1発明]
「ヘッドアップディスプレイ(HUD)システムにおいてディスプレイスクリーン又はプロジェクションスクリーンとして使用できる、高い拡散反射を有する透明な層状部材であって、
(【0025】~【0026】、【0063】~【0064】)
層状部材に入射する放射の正透過と拡散反射が得られ、正透過は、層状部材を通して明瞭な視界を確保し、拡散反射は、層状部材によるはっきりとした反射とまぶしさの危険性を回避することを可能にするものであり、
(【0006】、【0017】)
投影光源からの放射を受けて、ドライバー又は同乗者に向かってグレージングを反射し、自動車のフロントガラスに映し出された情報を表示することを可能にするものであり、(【0026】、【0029】)
層状部材1は、実質的に同じ屈折率を有する透明誘電体材料から構成される2つの外層2及び4を含み、外層2又は4は、層状部材の外側に向いた平坦な主表面(2A又は4A)、層状部材の内部に向いた凹凸のある主表面(2B又は4B)を有し、(【0068】、【図1】)
凹凸のある表面2Bと4Bは、互いに向き合うように配置され、立体配置において、それらの凹凸は厳密に平行であり、凹凸のある表面2Bと4Bの間に中心層3が接触した状態で差し込まれており、(【0070】、【図1】)
4つの実施例の反射特性が、
実施例1では、TL:76.7%、曇り度T:2.8%、RL:14.9%、曇り度R:59.0%であり、
実施例2では、TL:54.6%、曇り度T:1.9%、RL:14.3%、曇り度R:60.0%であり、
実施例3では、TL:49.6%、曇り度T:4.8%、RL:18.3%、曇り度R:89.9%であり、
実施例4では、TL:35.4%、曇り度T:6.0%、RL:10.0%、曇り度R:49.4%であり、(【0109】【表1】の実施例No.1~4)
層状部材における全反射に対する拡散反射のパーセンテージは、層状部材のいくつかのパラメーターを使用することによって調整できる、(【0116】)
高い拡散反射を有する透明な層状部材。
ただし、TLは、標準的なISO規格9050:2003(光源D65、2°視野の観察者)に従って計測した可視域の光透過(%単位)を表し、曇り度Tは、外層2の側面において層状部材に入射する放射に関して標準的なASTMD1003に従ってヘーズメーターを使用して計測した透過(%単位)を表し、RLは、標準的なISO規格9050:2003(光源D65、2°視野の観察者)に従って計測した外層2の側面において層状部材に入射する放射に関する可視域の総光反射(%単位)を表し、曇り度Rは、Minolta製ポータブル機で計測した可視域の総光反射(%単位)を可視域の非正光反射(%単位)で割った比率と規定される、外層2の側面において層状部材に入射する放射に関する反射における曇り度(%単位)を表す。(【0108】)」
ウ 本件訂正発明1と甲1発明の対比
(ア)甲1発明の「高い拡散反射を有する透明な層状部材」は、「層状部材に入射する放射の正透過と拡散反射が得られ、正透過は、層状部材を通して明瞭な視界を確保し、拡散反射は、層状部材によるはっきりとした反射とまぶしさの危険性を回避することを可能にするものであり」、「投影光源からの放射を受けて、ドライバー又は同乗者に向かってグレージングを反射し、自動車のフロントガラスに映し出された情報を表示することを可能にするもの」であるから、本件訂正発明1の「第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有する透明部材であり、第1の面側の光景を第2の面側の観察者に視認可能に透過し、第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過し、かつ第1の面側に設置された投影機から投射された映像光を第1の面側の観察者に映像として視認可能に表示する反射型の映像表示透明部材」に相当する。
(イ)甲1発明の「投影光源」は、本件訂正発明1の「映像表示透明部材の第1の面側に設置された投影機」に相当し、甲1発明の「ヘッドアップディスプレイ(HUD)システム」は、本件訂正発明1の「映像表示システム」に相当する。
(ウ)甲1発明の「TL」は、「標準的なISO規格9050:2003(光源D65、2°視野の観察者)に従って計測した可視域の光透過(%単位)」を表すから、本件訂正発明1の「前記映像表示透明部材の透過率」に相当する。
そして、甲1発明の「実施例1」では「TL:76.7%」、「実施例2」では「TL:54.6%」、「実施例3」では「TL:49.6%」、「実施例4」では「TL:35.4%」であるから、いずれの場合も5~80%の範囲内にあり、このことは、本件訂正発明1の「前記映像表示透明部材の透過率が、5~80%であり」に相当する。
(エ)甲1発明の「曇り度T」は、「外層2の側面において層状部材に入射する放射に関して標準的なASTM D1003に従ってヘーズメーターを使用して計測した透過(%単位)」を表すから、本件訂正発明1の「前記映像表示透明部材の前方ヘーズ」に相当する。
そして、甲1発明の「実施例1」では「曇り度T:2.8%」、「実施例2」では「曇り度T:1.9%」、「実施例3」では「曇り度T:4.8%」、「実施例4」では「曇り度T:6.0%」であるから、いずれの場合も50%以下であり、このことは、本件訂正発明1の「前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、50%以下である」に相当する。
(オ)甲1発明の「RL」は、「標準的なISO規格9050:2003(光源D65、2°視野の観察者)に従って計測した外層2の側面において層状部材に入射する放射に関する可視域の総光反射(%単位)」を表すから、本件訂正発明1の「前記映像表示透明部材の反射率」に相当する。
そして、甲1発明の「実施例1」では「RL:14.9%」であり、「実施例2」では「RL:14.3%」であり、「実施例3」では「RL:18.3%」であり、「実施例4」では「RL:10.0%」であり、18%以上であるのは、実施例3の場合のみであるから、甲1発明は、「実施例3」の場合に限り、本件訂正発明1の「前記映像表示透明部材の反射率が、18%以上であり」に相当する構成を備えている。
(カ)甲1発明の「曇り度R」は、「Minolta製ポータブル機で計測した可視域の総光反射(%単位)を可視域の非正光反射(%単位)で割った比率と規定される、外層2の側面において層状部材に入射する放射に関する反射における曇り度(%単位)」を表すから、本件訂正発明1の「前記映像表示透明部材の後方ヘーズ」に相当する。
そして、甲1発明の「実施例1」では「曇り度R:59.0%」、「実施例2」では「曇り度R:60.0%」、「実施例3」では「曇り度R:89.9%」、「実施例4」では「曇り度R:49.4%」であり、5~80%の範囲内にあるのは、実施例1、2、4の場合であるから、甲1発明は、「実施例1」、「実施例2」及び「実施例4」の場合に限り、本件訂正発明1の「前記映像表示透明部材の後方ヘーズが、5~80%であり」に相当する構成を備えている。
以上(ア)~(カ)より、本件訂正発明1と甲1発明とは、以下の一致点において一致し、以下の相違点1及び2において相違する。
[一致点]
「第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有する透明部材であり、第1の面側の光景を第2の面側の観察者に視認可能に透過し、第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過し、かつ第1の面側に設置された投影機から投射された映像光を第1の面側の観察者に映像として視認可能に表示する反射型の映像表示透明部材と、
映像表示透明部材の第1の面側に設置された投影機と
を備えた映像表示システムであって、
前記映像表示透明部材の透過率が、5~80%であり、
前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、50%以下である、映像表示システム。」
[相違点1]
「投影機」が、本件訂正発明1では「短焦点プロジェクタ」であるのに対して、甲1発明では、短焦点とはされていない点。
[相違点2]
本件訂正発明1では、「前記映像表示透明部材の反射率が、18%以上であり」、「前記映像表示透明部材の後方ヘーズが、5~80%であ」るのに対して、甲1発明では、「RL」が18%以上であり、かつ、「曇り度R」が5~80%であることを同時に満たすような実施例がない点。
エ 判断
(ア)まず相違点2について検討すると、甲1発明は、「層状部材における全反射に対する拡散反射のパーセンテージは、層状部材のいくつかのパラメーターを使用することによって調整できる」としているものの、「RL」が18%以上であり、かつ、「曇り度R」が5~80%であることを同時に満たすように調整することが、当業者にとって容易に想到し得たことであるとまではいえない。
また、反射率が18%以上であり、かつ、後方ヘーズが5~80%であることが明示された映像表示透明部材は、申立人が提出した甲第1~6号証のいずれにも開示されておらず、周知なものであるとはいえない。
したがって、甲1発明に基づいて上記相違点2に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者といえども容易になし得たことであるとはいえない。
(イ)この点に関し、申立人は、特許異議申立書において、甲1発明において、曇り度T、曇り度R、透過率TL、反射率RLをそれぞれ個別に調整することが可能である旨主張している(35~36頁)。また、甲1発明の実施例3において、曇り度Rが89.9%である点で本件訂正発明1と相違するが、本件訂正発明において、後方ヘーズの上限を80%とする点に技術的意義も臨界的意義も認められないから、上記相違点は当業者が適宜なし得た設計的事項にすぎないものである旨主張している(37~38頁)
(ウ)上記主張について検討すると、甲1発明において、曇り度T、曇り度R、透過率TL、反射率RLをそれぞれ個別に調整することが可能であったとしても、本件訂正発明1のごとく、反射率RLを18%以上としつつ、曇り度Rを5~80%とすることの動機付けが乏しく、設計的事項にすぎないとまではいえないから、申立人の上記主張には賛同できない。
(エ)したがって、上記相違点1について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1発明であるとはいえず、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(オ)本件訂正発明2~5、9~13も、同様の理由により、甲1発明であるとはいえず、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
オ 小括
以上検討のとおりであるから、本件反射型発明について、甲第1号証から新規性及び進歩性が欠如しているとする申立理由1及び3を採用することはできない。
(2)申立理由2及び申立理由4(甲5からの新規性・進歩性欠如)について
ア 甲第5号証
甲第5号証(国際公開第2013/129290号)には、次の事項が記載されている(下線は当審が付した。)。
「技術分野
[0001] 本発明は、プロジェクターから投影された映像を映し出し視認するための透過型スクリーンに関する。
背景技術
[0002] 現在、プロジェクターより投影された映像をスクリーンに映し出し、スクリーンを挟んでプロジェクターの反対側から視認する、いわゆる背面投射型の透過型スクリーンは、これまでのポスター、サイン、看板等の広告媒体に代わって普及しつつある。近年では、貼り替えが不要で、即座に画像内容を変更でき、静止画像だけではなく動的な画像内容も含むデジタルコンテンツを大画面で投影できるデジタルサイネージとして、透過型スクリーンは非常に注目を浴びている。
[0003] とりわけ、店舗のショーウインドウ等は、その多くが顧客の通る道路に面している。ショーウインドウ面を大画面スクリーンとして使用するデジタルサイネージとして使うことができれば、広告媒体として非常に有用であること。そのため、ショーウインドウ貼付型の、いわゆるウインドウディスプレイ用透過型スクリーンのニーズが高まっている。
[0004] 背面投射型の透過型スクリーンとしては、偏光フィルム、フレネルレンズシート、レンチキュラーレンズシート等を使用したもの(例えば特許文献1)や、光透過性支持体上に光透過性ビーズを付着させたスクリーン(例えば特許文献2)が提案されている。また、光透過性支持体上に多孔質粒子を含有する光拡散層を設けた透過型スクリーン(例えば特許文献3)や、光透過性支持体上に設けた光拡散層に光拡散微粒子と樹脂バインダーを含有し、光拡散微粒子の一部を光拡散層から突出させることで、ヘーズ値が80%以上、全光線透過率が60%以上、且つ、少なくとも一方の面の鏡面光沢度が10%以下の透過型スクリーン(例えば特許文献4)が提案されている。
[0005] 更に、店舗のショーウインドウ等は、必要に応じてそのウインドウ面をデジタルサイネージとして使うだけでなく、本来のウインドウ越しに店内の商品を視認できる機能も兼ね備えることができれば、広告媒体として非常に有用である。そのため、透視可能なショーウインドウ貼付型の透過型スクリーンのニーズも高まっている。」
[0006] 特許文献1、2、3、4等に記載される透過型スクリーンでは、スクリーン自体が不透明であるため、このような透視可能な透過型スクリーンとしての使用は不可能であった。透視可能な透過型スクリーンとしては、光透過性支持体上に透明性樹脂バインダーと平均粒子径が1.0~10μmで透明性樹脂バインダーの屈折率に対する相対屈折率nが0.91<n<1.09(但し、n≠1)である球状微粒子を含有する光散乱層を設けた透過型スクリーン(例えば特許文献5、6)が提案されている。」
「発明が解決しようとする課題
[0008] ウインドウディスプレイ用の透過型スクリーンにおいては、広告として機能を最大限に発揮すべく、プロジェクターから投影された映像を広い角度から視認できる高い映像視認性が求められている。また、スクリーンが貼付されたウインドウの外(スクリーンを挟んでプロジェクターの反対側)からの視認だけでなく、店内(プロジェクター側)から映像を視認する機会もあることから、スクリーンの両面からの映像視認性にも優れた透過型スクリーンが望まれている。また、ウインドウディスプレイ用だけでなく、店内の空間などにスクリーンを設置した場合においても、同様にスクリーンの両面からの優れた映像視認性が求められている。しかしながら、従来の透過型スクリーンは、プロジェクター投影時の映像を視認できる視野角が狭く、満足いくものではなかった。更にプロジェクター側からの映像視認性に関しても十分満足いく品質ではなかった。また、透視可能な透過型スクリーンとして用いる場合でも、透視性と映像視認性の双方を十分に満足することは困難であった。
[0009] また、ウインドウディスプレイ用の透過型スクリーンにおいては、プロジェクターから投影された大画面の映像が、いかなる位置においてもムラなく高い輝度で再現できることが求められている。また、一般的に透過型スクリーンでは、スクリーンの垂線に平行に映像を投影した場合、プロジェクターのレンズ、スクリーンの映像及び観賞位置が直線となる位置から映像を観賞すると、ホットスポット現象という、プロジェクターレンズからの光が直接視認者に見えてしまい、スクリーンの映像が見難くなる現象が発生する場合がある。スクリーン輝度を上げるため、高い輝度特性を有するプロジェクターを使用するほど、このホットスポット現象により映像が見難くなるため、改良が非常に望まれている。しかしながら、従来の透過型スクリーンは、プロジェクターから投影された映像の輝度と輝度ムラ、更にはホットスポット現象の点で満足いくものではなかった。
[0010] そこで、本発明の目的は、プロジェクターから投影された映像を視認できる視野角が非常に広く、スクリーンの両面からの映像視認性にも優れる透過型スクリーンを提供することにある。また、透視性と映像視認性に優れた透視可能な透過型スクリーンを提供することにある。更に、プロジェクターから投影された映像の輝度が高く、輝度ムラやホットスポット現象が改善された透過型スクリーンを提供することにある。」
「発明を実施するための形態
[0019] 以下に本発明を詳細に説明する。
[0020] 本発明の透過型スクリーンは、光透過性支持体、及び該光透過性支持体の少なくとも一方の面に光拡散層を有し、該光拡散層が、光拡散微粒子とキセロゲルとを含有することを特徴とするものである。本発明における「透過型スクリーン」とは、光が透過するスクリーンを意味し、具体的には、JIS-K7105に規定される全光線透過率が50%を超えるスクリーンを指す。
[0021] 透過型スクリーンなどの光透過性のシート状物の透明性の指標は、JIS-K7105において下記のヘーズ値で規定されている。ヘーズ値は、値が高いと不透明性が高く、値が低いと透明性が高い。
H=(Td/Tt)×100
H:ヘーズ値(%)
Td:拡散光線透過率
Tt:全光線透過率
[0022] 本発明の透過型スクリーンを、透視性を必要としない用途に用いる場合は、透過型スクリーンのヘーズ値は79%以上であることが好ましい。対して、本発明の透過型スクリーンを、透視性を必要とする用途に用いる場合は、透過型スクリーンのヘーズ値は60%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましい。」
「[0024] 図1~3に、本発明の透過型スクリーンの一実施例又は他の実施例を示す概略断面図を示す。図4には、透過型スクリーンの従来例の概略断面図を示す。本発明における透過型スクリーンは、図4のような樹脂バインダー成分7で光拡散微粒子2が覆われた光拡散層3ではなく、図1~3に示すように光拡散微粒子2がキセロゲル8により担持された光拡散層3を有する。なお、本発明の透過型スクリーンは、図1のように光透過性支持体4に光拡散層3のみを設けた構成や、図2のように、光拡散層3の光透過性支持体4に接する面とは反対側の面に粘着層5を設けたり、図3のように、光透過性支持体4の光拡散層3に接する面とは反対側の面に粘着層5を設ける構成も可能である。また、図示はないが、図1の透過型スクリーンにおいて、光透過性支持体4の光拡散層3が設けられない側の面に、更に本発明の光拡散層を設けることも可能である。なお、粘着層5の上には、粘着層を保護し、被接着基材に実装するまでの粘着性を維持することを目的に、セパレート基材6が好ましく設けられる。」
「[0058] 本発明の透過型スクリーンは、例えば、溶媒中に光拡散微粒子とキセロゲル原料とを含有する光拡散層塗布液を、光透過性支持体上に塗布し、乾燥して、光透過性支持体上に光拡散層を形成することにより、製造することができる。これにより、キセロゲルに光拡散微粒子が担持された光拡散層を得ることができる。溶媒としては、水を主体に用いることができ、エタノールやアセトン等の水溶性有機溶媒を含んでいてもよい。光拡散層の塗布に用いられる塗布方式としては、公知の各種塗布方式を用いることができる。例えば、スライドビード方式、スライドカーテン方式、エクストルージョン方式、スロットダイ方式、グラビアロール方式、エアーナイフ方式、ブレードコーティング方式、ロッドバーコーティング方式等がある。光拡散層の乾燥方法は、いずれの方法でもよいが、塗布直後に一度冷却した後、高温にして乾燥する方法が好ましい。特に、30~60℃の塗液を上記塗布方法を用いて塗布し、一度20℃以下、好ましくは10℃以下に冷却した後に、20℃以上、好ましくは30~70℃で乾燥することが好ましい。このような塗布、乾燥工程にすることによって、塗布欠陥が少なく、良好な光拡散層が得られる。
[0059] 本発明の透過型スクリーンが有する光透過性支持体としては、光透過性を有するものであれば特に限定されず、ガラスやプラスチックからなる板状のもの、フィルム状のもの等や、これらに光透過性を有する層を設けたものを使用することができる。ガラスの種類としては、特に限定されるものではないが、一般にはケイ酸塩ガラス、リン酸塩ガラス、ホウ酸塩ガラス等の酸化ガラスが実用的であり、ケイ酸ガラス、ケイ酸アルカリガラス、ソーダ石灰ガラス、カリ石灰ガラス、鉛ガラス、バリウムガラス、ホウケイ酸ガラス等のケイ酸塩ガラスがより好ましい。プラスチックとしては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアリレート、アクリル、アセチルセルロース、ポリ塩化ビニル等が使用でき、延伸加工、特に二軸延伸加工されたものは、機械的強度が向上されるので好ましい。なお、光透過性支持体のヘーズ値は、30%以下であることが好ましい。
[0060] 本発明の光透過性支持体の厚みは、適用される材料に対して適宜選択することができるが、一般には10μm~30mm、好ましくは20μm~20mm程度である。
[0061] また、光拡散層の上面や光透過性支持体の光拡散層面とは反対の面、及び両面に、粘着層を設けることができる。このように粘着層を設けた透過型スクリーンは、粘着層の保護のために、フィルムや紙等の公知のセパレート基材を設けることができる。該透過型スクリーンを使用する際はセパレート基材を剥離して透過型スクリーンを被接着基材へ接着して使用する。ショーウィンドウなどに代表される被接着基材としては特に制限はないが、透視性を必要とする用途に本発明の透過型スクリーンを用いる場合は、透過型スクリーンの透視性を妨げないものが好ましい。なお、このような粘着層は、一般に使用されるアクリル系、シリコーン系、ウレタン系、ゴム系等の合成樹脂系接着剤を用いることができる。セパレート基材は、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアリレート、アクリル、アセチルセルロース、ポリ塩化ビニル等が使用することができる。」
「[0065] 本発明の透過型スクリーンは、プロジェクターの映像を光拡散層側もしくはその反対側の双方どちらから投影して使用することも可能である。また一般的に透過型スクリーンの場合、スクリーンの垂線と平行に映像を投影した場合、ホットスポット現象が避けられないため、プロジェクターは、中心投影方向をスクリーンの垂線に対してある程度の角度を持たせて使用することが好ましく、スクリーンの至近距離の下部などから映像を投影できる超短焦点プロジェクターを用いることも好ましい。」
「[0096] 得られた実施例1~10、比較例1、2の透過型スクリーンに関し、JIS-K7105に準拠してヘーズ値と全光線透過率を測定した。その後、透過型スクリーンの光拡散層とは反対面を透明アクリル板に貼り付け、デジタルプロジェクター(BenQ製MP515ST)で実際に映像を、光拡散層側より投影し、プロジェクターとは反対側及びプロジェクター側よりスクリーンに投影された映像を観察した。なお、プロジェクターは、中心投影方向をスクリーンの垂線に対して上方向から約30度の角度を持たせて投影した。この状態でプロジェクターから投影された映像を視認できる視野角と、スクリーンの両面からの視認性を以下の基準で評価した。これら、ヘーズ値、視野角、及び両面からの視認性の結果を表1に示す。なお、実施例1~10、比較例1、2の透過型スクリーンの全光線透過率は全て50%を超えていた。
[0097]<視野角>
プロジェクターとは反対側から水平方向の視野角を0°(視線方向がスクリーンの垂線方向)から90°(視線方向がスクリーンの面方向)まで変えて観察し、以下の評価基準により評価した。
4:全ての角度で映像が十分確認でき非常に視野角が広い。
3:上記4よりはやや劣るが、全ての角度で映像が確認でき視野角が広い。
2:90°付近の高視野角で映像がやや確認しにくい。
1:90°付近の高視野角で映像が確認しにくい。
[0098]<両面からの視認性>
プロジェクターとは反対側及びプロジェクター側よりスクリーンに投影された映像を観察し、以下の評価基準により評価した。
3:双方側からの映像の輝度が高く、双方側の輝度差が感じられないレベル。
2:双方側の輝度差は少ないものの、全体的な輝度がやや低い。
1:双方側の輝度差が大きく、全体的な輝度が低い。
[0099][表1]
[0100] 表1の結果から、本発明により、プロジェクターから投影された映像から視認できる視野角が非常に広く、スクリーンの両面からの視認性にも優れる透過型スクリーンが得られることが判る。」
「[0127]
得られた実施例11~21、比較例2~4の透過型スクリーンに関し、透視性と映像視認性を以下の基準で評価した。これらの結果を表2に示す。なお、実施例11~21、比較例3、4の透過型スクリーンの全光線透過率は全て50%を超えていた。
[0128]<透視性>
透視性に関しては、JIS-K7105に準拠する測定器(スガ試験機製Haze Computer HZ-2)を用いて、得られた透過型スクリーンのヘーズ値を測定し以下の評価基準により評価した。
4:ヘーズ値が50以下。
3:ヘーズ値が50を超え60以下。
2:ヘーズ値が60を超え70以下。
1:ヘーズ値が70を超える。
[0129]<映像視認性>
映像視認性は、透過型スクリーンの光拡散層とは反対面を透明アクリル板に貼り付け、デジタルプロジェクター(BenQ製MP515ST)で実際に映像を、光拡散層側より投影し、プロジェクターとは反対面よりスクリーンに投影された映像の視認性を以下の評価基準により目視評価した。なお、プロジェクターは、中心投影方向をスクリーンの垂線に対して上方向から約30度の角度を持たせて投影し、評価者はスクリーンと正対する位置で映像を目視評価した。
4:映像の輝度が著しく高く映像視認性が非常に良好。
3:映像の輝度が高く映像視認性が良好。
2:映像の映像視認性が前記3レベルではないものの容認できるレベル。
1:映像の輝度が低く映像視認性が悪い。
[0130][表2]
[0131] 表2の結果から、本発明により、高い透視性とプロジェクター投影時の映像の映像視認性の双方を満足する透視可能な透過型スクリーンが得られることが判る。」
「[図1]
」
イ 甲第5号証に記載された発明
上記アにおいて摘記した記載内容及び図示内容を総合すると、甲第5号証には、次のとおりの発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。
[甲5発明]
「プロジェクターより投影された映像をスクリーンに映し出し、スクリーンを挟んでプロジェクターの反対側から視認する、いわゆる背面投射型の透過型スクリーンであって、([0001]、[0002])
透過型スクリーンが有する光透過性支持体は、ガラスからなる板状のものであり、ガラスの種類としてはソーダ石灰ガラスであり、([0059])
光透過性支持体の厚みは、一般には10μm~30mm、好ましくは20μm~20mm程度であり、([0060])
光透過性支持体上には光拡散層が形成されており、([0058])
プロジェクターは、スクリーンの至近距離の下部などから映像を投影できる超短焦点プロジェクターが用いられ、([0065])
JIS-K7105に規定される全光線透過率が50%を超え、
([0020]、[0096]、[0127])
透視性を必要とする用途に用いる場合は、JIS-K7105に規定される下記のヘーズ値が60%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましい、透過型スクリーン。
H=(Td/Tt)×100
ただし、H:ヘーズ値(%)、Td:拡散光線透過率、Tt:全光線透過率
([0021]、[0022])」
ウ 本件訂正発明6と甲5発明の対比
本件訂正発明6と甲5発明を対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。
[相違点]
本件訂正発明6は、「前記映像表示透明部材の反射率が、10%以下であり、前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、8~40%である」のに対して、甲5発明は、反射率の値が不明であり、前方ヘーズが「50%以下」ではあるものの、8~40%の範囲にあるか不明である点。
エ 判断
(ア)上記相違点について検討すると、甲5発明において、「透過型スクリーン」の反射率を10%以下とすること及び前方ヘーズを8~40%にすることは、当業者が適宜なし得た設計的事項であるとはいえない。また、申立人の主張する周知技術(甲第1、3、4、6号証)に照らしてみても、当業者といえども容易に想到し得たことであるとはいえない。
(イ)この点に関し、申立人は、特許異議申立書において次のとおり主張している(特許異議申立書50頁、52頁)。
「甲5には、構成要件Kで特定された、透過率を5%以上、前方ヘーズを8~40%とすることが記載されている。」
「甲5には、反射率が記載されていないが、透過率が85%以上の場合、反射率は15%以下であるから、反射率を15%以下にすることは甲5に記載されているに等しい事項である。」
「甲5に記載された透過型スクリーンは、ショーウインドウに用いられていることから高い透視性を要求され、スクリーンの透過率を高く、反射率を低くすることは当業者に自明の課題である。 よって、構成要件Kで特定された、映像表示透明部材の反射率を15%以下とすることは、甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に推考しうる設計的事項にすぎない。」
(ウ)上記主張について検討すると、甲5発明では、「ヘーズ値が60%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましい」としているものの、その値が8~40%の範囲にあるとまでは特定していない。
また、甲5発明において「全光線透過率が50%を超え」るとしても、透過率が85%以上であることや、90%以上であることまでは特定されていないから、反射率が10%以下であるとまではいえない。
また、甲5発明にとって「ショーウインドウに用いられていることから高い透視性を要求され、スクリーンの透過率を高く、反射率を低くすることは当業者に自明の課題」であるとしても、そのことから直ちに反射率を10%以下とすること及び前方ヘーズを8~40%にすることが導き出せるとはいえない。
よって、申立人の(イ)の主張を採用することはできない。
(エ)したがって、本件訂正発明6は、甲5発明であるとはいえず、また、甲5発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(オ)本件訂正発明7~8、14~16についても、同様に、甲5発明であるとはいえず、また、甲5発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
オ 小括
以上検討のとおりであるから、本件透過型発明について、甲第5号証から新規性及び進歩性が欠如しているとする申立理由2及び4を採用することはできない。
(3)申立理由5(甲2からの進歩性欠如)について
ア 「第4 取消理由の概要」の「<取消理由1(進歩性欠如)>」において示したとおり、甲第2号証からの進歩性欠如の取消理由は、請求項8及び16に係る発明について通知されており、「第5 当審の判断」「1 取消理由1(進歩性欠如)について」では、本件訂正発明6について検討したところ、本件訂正発明7、8は請求項6の記載を引用するものであり、本件訂正発明14~16は、本件訂正発明6~8と発明のカテゴリーが異なるものの、その構成はそれぞれ対応づけることが可能であるから、本件透過型発明(請求項6~8、14~16)について実質的に判断をしたことになる。
イ 申立理由5には、請求項1、2、9、10に係る発明について、甲第2号証から進歩性が欠如しているとする理由も含まれているから、以下、その点について検討する。
(ア)甲第2号証の記載
本件反射型発明に関連する甲第2号証の記載は以下のとおりである。下線は当審が付与した。
なお、「第5 当審の判断」「1 取消理由1(進歩性欠如)について」「(1)引用文献の記載」の「ア 甲第2号証」において、本件透過型発明に関連するものとして摘記した記載と重複する箇所もある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリーンに関し、特に、プロジェクタから投影される画像を表示するスクリーンに関する。
【背景技術】
【0002】
各種プロジェクタから出射された光をスクリーン上に投射して、画像を投影する投射型画像投影装置が開発されている。画像が投影されるスクリーンには、プロジェクタと同じ側から観察する反射型スクリーンと、スクリーンを挟んでプロジェクタと反対側から観察する透過型スクリーンと、がある。反射型スクリーンには、例えば、ショーウインドウなどに使用される、透明な反射型スクリーンも含まれる。
【0003】
室内照明や太陽光などの外光が入射する明所において、スクリーンに表示された画像を観ることがある。この場合、外光が、プロジェクタから投射される光に重畳してスクリーンに入射するため、特に反射型スクリーンにおいて、画像のコントラストが低下し易くなる。このような使用環境下でも、コントラストの高い画像を表示できるスクリーンが望まれている。」
「【0009】
すなわち、コントラストの高い画像を得るためには、フィルム表面から入射される光のうち特定方向の直線偏光を透過する一方、それと直交する直線偏光を効率よく反射する「偏光選択性」を有すること、かつ、ぎらつき等のない表示品位の高い画像を得るためには、透過光を均一に拡散させる「拡散性」を有することが望まれている。
本発明は、これらの偏光選択性と拡散性を有するスクリーンであって、ぎらつき等のない、コントラストの高い画像を表示でき、かつ製造が容易であるスクリーンを提供することを目的とする。」
「【0012】
本発明によれば、偏光選択性と拡散性を有するスクリーンであって、ぎらつき等のない、コントラストの高い画像を表示でき、かつ製造が容易であるスクリーンを提供できる。」
「【0015】
〔偏光性拡散フィルム〕
偏光性拡散フィルムとは、「偏光選択性」と「拡散性」を兼ね備えたフィルムである。偏光選択性とは、特定方向の直線偏光を、これと直交する直線偏光よりも多く透過させ、特定方向の直線偏光と直交する直線偏光をより多く反射する特性をいう。一方、拡散性とは、透過光または反射光を拡散させる特性をいう。すなわち、偏光性拡散フィルムは、特定方向の直線偏光を透過させて拡散させるが、これと直交する直線偏光は反射して光入射側へ戻すことができる。
【0016】
偏光性拡散フィルムは、一定以上の、可視光線に対する全光線透過率または全光線反射率を有する。全光線透過率が高すぎると、偏光反射性が低い(偏光選択性が低い)ので、透過型スクリーンにおいては画像が見え難くなる。このため、偏光性拡散フィルムの、可視光線に対する全光線透過率は、85%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましい。透過型スクリーンに用いられる偏光性拡散フィルムの、可視光線に対する全光線透過率は、透明性を確保する上で60%以上であることが好ましい。
【0017】
一方、全光線反射率が高いほど、偏光反射性も高くなるため反射型スクリーンにおいては好ましいが、一方の偏光を全て反射したとしてもせいぜい(最大)50%程度である。反射型スクリーンに用いられる偏光性拡散フィルムの、可視光線に対する全光線反射率は、15%以上50%未満であることが好ましく、15%以上35%未満であることがより好ましい。
【0018】
本願における可視光線に対する全光線透過率は、全光線透過率の視感平均値であって、以下の手順で求めることができる。
1)分光光度計の積分球の光線入射口側の試験片設置部の手前に偏光解消板をセットし、偏光解消板表面の法線方向から光を入射できるようにする。これにより、試験片であるフィルム表面の法線方向から無偏光の光を入射できるようにする。フィルム表面に、偏光解消板を透過した波長範囲380~780nmの光を入射させて、10nm毎に全光線透過率を測定する。
2)前記1)で得られた全光線透過データから、JIS R-3106に基づいて、視感平均値の全光線透過率Ttotalを算出する。
3)算出された全光線透過率Ttotalを、フィルム厚さtを100μmとしたときの値(Ttotal@100μm)に変換してもよい。具体的には、以下の式(1)にあてはめればよい。」
「【0022】
偏光性拡散フィルムの偏光選択性を示す指標の例が「透過偏光度」または「反射偏光度」である。フィルムの透過偏光度とは、偏光Vと、偏光Vに直行する偏光Pのいずれかを、選択的に透過する性質を示す指標である。つまり、偏光性拡散フィルムは、後述するように一軸延伸樹脂フィルムを含むが、その延伸方向(延伸軸)に対して垂直な偏光Vを、延伸方向(延伸軸)に対して平行な偏光Pよりも選択的に透過する性質を有しうる。
【0023】
透過偏光度は、下記式で示される。下記式において、「Tv」は延伸軸に対して垂直な偏光Vに対する、フィルムの全光線透過率(%)を示す。一方、「Tp」は延伸軸に対して平行な偏光Pに対する、フィルムの全光線透過率(%)を示す。」
「【0034】
偏光性拡散フィルムの拡散性を示す指標の例が「透過ヘイズ」および「反射ヘイズ」である。透過ヘイズは、透過した光の拡散性を示す指標であり、反射ヘイズは、反射した光の拡散性を示す指標である。偏光性拡散フィルムの可視光線に対する透過ヘイズは、15%以上であることが好ましく、25%以上であることがより好ましい。透過光の拡散を均一にすることで、スクリーンに投影される画像のぎらつきをなくし、均一な明るさを与えるためである。また、透過ヘイズは、90%以下であることが好ましい。透過ヘイズが高すぎるフィルムは、光線損失などにより画像を暗くするからである。」
「【0088】
〔基板〕
本発明のスクリーンは、必要に応じて基板を含んでもよい。基板は、偏光性拡散フィルムを支持する部材であるほか、反射層や色素層として機能する部材であってもよい。基板は、透過型スクリーンまたは反射型スクリーンなどのスクリーンの種類や、スクリーンの構成に応じて適宜選択されればよく、特に限定されない。基板の例には、樹脂基材、ガラス基材などが含まれる。基板の厚みは、例えば0.1~10mmである。これらの基板には、巻き取り可能な薄さのスクリーン等も含まれる。
【0089】
基板と、偏光性拡散フィルムとは、例えば接着剤や粘着剤などで貼り合わされてもよいし、予め粘着性を有する基板と直接張り合わされてもよい。基板は、ショーウインドウ等のガラス板であってもよい。その場合、偏光性拡散フィルムを直接ショーウインドウのガラス板上に粘着剤などで貼り付ければよい。接着剤や粘着剤の例には、アクリル系樹脂、シリコン系樹脂、ウレタン系樹脂などが含まれ、透明性、耐候性の良好なアクリル系樹脂が好ましい。これらの接着剤や粘着剤からなる層は、さらに色素を含む色素層であってもよいし、さらに拡散反射体(有機微粒子や無機微粒子等)を含む反射層であってもよい。
【0090】
以下、本発明のスクリーンを用いた画像投影システムの例について説明する。図2は、本発明の反射型スクリーンを用いた画像投影システムの例を示す図である。
画像投影システム10は、投射光を出射するプロジェクタ12と、プロジェクタ12からの投射光を反射することで画像を投影する反射型スクリーン14と、を有する。この場合、観察者Aは、プロジェクタ12と同じ側から反射型スクリーン14に投影された画像を観察する。
【0091】
反射型スクリーン14は、基板16と、その上に形成された偏光性拡散フィルム18と、を有している。反射型スクリーン14は、観察者A側に偏光性拡散フィルム18が面するように配置される。
【0092】
基板16は、偏光性拡散フィルム18が配置された面に反射性(拡散反射性、正反射性、またはそれらの中間的な反射性)を有することが好ましい。このような基板16の例には、アルミ、銀等の金属薄膜;金属および/または誘電体の多層薄膜;金属箔を積層した、フィルム状または板状の樹脂基材やガラス基材;および金属板等が含まれる。公知の拡散反射性を有する白色の樹脂基材、または該白色樹脂基材に上記金属薄膜を形成したもの等も含まれる。基板16が、偏光性拡散フィルム18が配置された面に反射性を有しない場合、偏光性拡散フィルム18と基板16との間に、さらに別途反射層を有していてもよい。偏光性拡散フィルム18は、前述の偏光性拡散フィルムである。
【0093】
プロジェクタ12は、3板式液晶プロジェクタやDLP方式のプロジェクタあるいはCRT方式のプロジェクタなどでありうる。プロジェクタ12から出射される投射光は、直線偏光であることが好ましい。
【0094】
直線偏光の偏光軸は、偏光性拡散フィルム18の延伸方向に対して平行であることが好ましい。偏光性拡散フィルム18は、延伸方向に対して平行な偏光Pを、延伸方向に対して垂直な偏光Vよりも選択的に拡散反射(反射および拡散)する性質を有するためである。つまり、反射型スクリーン14に画像を映し出すには、プロジェクタ12からの直線偏光を効率よく反射させる必要があるためである。
【0095】
直線偏光の偏光軸が、偏光性拡散フィルム18の延伸方向と平行である場合の作用について説明する。
反射型スクリーン14には、プロジェクタ12から出射された直線偏光に、室内照明や太陽光等の外光が重畳された状態で入射する。偏光性拡散フィルム18の延伸方向に対して平行な直線偏光は、偏光性拡散フィルム18で選択的に拡散反射されると共に、画像に寄与しない外光は無偏光であるため、多くは反射されるよりも透過する。このように、偏光性拡散フィルム18は、画像に寄与する直線偏光のみを選択的に拡散反射させることができる。このため、偏光性拡散フィルム18を有する反射型スクリーン14は、ぎらつきがなく、明所においてもコントラストの高い画像を表示できる。特に、偏光拡散フィルム18を透過した外光を吸収する色素層を、偏光拡散フィルム18の背面側(基板16側)に設けることで、明所における画像のコントラストを一層高めることができる。
【0096】
上記反射型スクリーン14は、透明であってもよい。この場合、基板16は、透明であることが好ましく、具体的には後述する透過型スクリーンにおける基板と同様のものが用いられる。基板16は、反射型スクリーンの部材の一つとして構成されてもよいし、既存のガラス窓やショーウインドウであってもよい。
【0097】
このように構成された、透明な反射型スクリーンにおいても、前述と同様に、偏光性拡散フィルムの延伸方向に対して平行な直線偏光は、偏光性拡散フィルムで選択的に拡散反射されると共に、画像に寄与しない外光は無偏光であるため、多くは反射されるよりも透過する。このように、偏光性拡散フィルムは、画像に寄与する直線偏光のみを選択的に拡散反射させることができる。このため、偏光性拡散フィルムを有する反射型スクリーンは、ぎらつきがなく、明所においてもコントラストの高い画像を表示できる。
【0098】
なお、反射型スクリーン14は、観察者Aにとって左右方向の広い視野角で画像を観やすくする上で、プロジェクタ12から投射される直線偏光の偏光軸と、偏光性拡散フィルム18の延伸軸とがほぼ平行である状態を保てるのであれば、偏光性拡散フィルム18の延伸方向がほぼ鉛直になるように配置されてもよい。偏光性拡散フィルム18は、透過した光を、延伸方向(延伸軸)に対して垂直方向に拡散させ易いためである。」
「【0131】
実施例1~8にて得られた延伸樹脂フィルムの、全光線透過率(Ttotal)およびフィルム厚さを100μmとしたときの全光線透過率(Ttotal@100μm);透過偏光度およびフィルム厚さを100μmとしたときの透過偏光度;反射偏光度;透過ヘイズおよびフィルム厚さを100μmとしたときの透過ヘイズ;延伸樹脂フィルムの延伸軸に平行または垂直な直線偏光に対する透過ヘイズ;延伸樹脂フィルムの延伸軸に平行な直線偏光に対する反射ヘイズを、それぞれ測定した。これらの測定は、日立ハイテクノロジーズ社製分光光度計U-4100と、150φ積分球付属装置を用いて行った。」
「【0134】
実施例1~8で得られた延伸樹脂フィルムについて、それぞれの測定結果を図4の表1にまとめた。」
「【図2】
」
「【図4】
」
(イ)甲第2号証に記載された発明
上記(ア)において摘記した記載内容及び図示内容を総合すると、甲第2号証には、次のとおりの発明が記載されていると認められる。
以下、「第5 当審の判断」「1 取消理由1(進歩性欠如)について」「(1)引用文献の記載」「イ 甲第2号証に記載された発明」において認定した「甲2発明」と区別するため、この発明を「甲2B発明」という。
[甲2B発明]
「反射型スクリーンを用いた画像投影システムであって、
画像投影システム10は、投射光を出射するプロジェクタ12と、プロジェクタ12からの投射光を反射することで画像を投影する反射型スクリーン14と、を有し、
観察者Aは、プロジェクタ12と同じ側から反射型スクリーン14に投影された画像を観察するものであり、
(【0090】、【0091】、【図2】)
前記プロジェクタ12は、3板式液晶プロジェクタやDLP方式のプロジェクタあるいはCRT方式のプロジェクタなどであり、(段落【0093】)
反射型スクリーン14は、基板16と、その上に形成された偏光性拡散フィルム18と、を有しており、観察者A側に偏光性拡散フィルム18が面するように配置され、(段落【0091】)
反射型スクリーン14は、透明であり、基板16は、透明であり、反射型スクリーンの部材の一つとして構成されてもよいし、既存のガラス窓やショーウインドウであってもよく、(【0096】)
偏光性拡散フィルムの、可視光線に対する全光線透過率は、85%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましく、(【0016】)
反射型スクリーンに用いられる偏光性拡散フィルムの、可視光線に対する全光線反射率は、15%以上50%未満であることが好ましく、15%以上35%未満であることがより好ましく、(【0017】)
偏光性拡散フィルムの可視光線に対する透過ヘイズは、15%以上であることが好ましく、25%以上であることがより好まく、90%以下であることが好ましく、(【0034】)
偏光性拡散フィルム28は、次の実施例1~8のいずれかの特性を有する延伸樹脂フィルムである、(【図4】の【表1】)
反射型スクリーンを用いた画像投影システム。
(実施例1)
フィルム厚み:75μm、全光線透過率:72.5%、透過ヘイズ:53.7%、反射ヘイズ:27.2%
(実施例2)
フィルム厚み:72μm、全光線透過率:77.3%、透過ヘイズ:39.9%、反射ヘイズ:23.2%
(実施例3)
フィルム厚み:72μm、全光線透過率:73.9%、透過ヘイズ:60.4%、反射ヘイズ:27.3%
(実施例4)
フィルム厚み:44μm、全光線透過率:84.6%、透過ヘイズ:37.2%、反射ヘイズ:12.5%
(実施例5)
フィルム厚み:44μm、全光線透過率:81.3%、透過ヘイズ:55.7%
、反射ヘイズ:17.1%
(実施例6)
フィルム厚み:72μm、全光線透過率:80.0%、透過ヘイズ:17.2%、反射ヘイズ:15.6%
(実施例7)
フィルム厚み:63μm、全光線透過率:74.1%、透過ヘイズ:25.2%、反射ヘイズ:23.7%
(実施例8)
フィルム厚み:134μm、全光線透過率:66.3%、透過ヘイズ:47.6%、反射ヘイズ:32.6%」
(ウ)本件訂正発明1と甲2B発明の対比
本件訂正発明1と甲2B発明を対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。
[相違点]
本件訂正発明1は、「前記映像表示透明部材の反射率が、18%以上」であるのに対して、甲2B発明は、「反射型スクリーンに用いられる偏光性拡散フィルムの、可視光線に対する全光線反射率は、15%以上50%未満であることが好ましく、15%以上35%未満であることがより好ましく」とされているものの、「反射型スクリーン」の反射率の値は不明である点。
(エ)判断
上記相違点について検討すると、甲2B発明において、「反射型スクリーン」の反射率を18%以上とすることは、当業者が適宜なし得た設計的事項であるとはいえない。また、申立人の主張する周知技術(甲第1、3、4号証)に照らしてみても、当業者といえども容易に想到し得たことであるとはいえない。
この点に関し、申立人は、特許異議申立書において、「全光線反射率は15~50%である(段落17)」と主張している(特許異議申立書62頁)。
上記主張について検討すると、甲2B発明において「可視光線に対する全光線反射率は、15%以上50%未満であることが好ましく、15%以上35%未満であることがより好ましく」としているのは、「反射型スクリーンに用いられる偏光性拡散フィルム」の反射率であって、「反射型スクリーン」そのものの反射率ではない。
仮に、「反射型スクリーン」そのものの反射率が、「偏光性拡散フィルム」」の反射率と同等であるとしても、甲第2号証では、段落【0002】や【0096】に記載されているように「反射型スクリーン」のうち「透明な反射型スクリーン」を区別して論じているから、上記段落【0017】の「反射型スクリーンに用いられる偏光性拡散フィルムの、可視光線に対する全光線反射率は、15%以上50%未満であることが好ましく、15%以上35%未満であることがより好ましい。」という記載の「反射型スクリーン」に「透明な反射型スクリーン」が何の区別もせずに含まれていると考えるのは不自然であり、「透明な反射型スクリーン」である場合の反射率が、上記段落【0017】に明示されているとはいえない。また、上記段落【0017】の「反射型スクリーン」に「透明な反射型スクリーン」が含まれるとしても、その場合には「透明」であるが故に反射率が18%以上となるかは定かではない(透明性を確保するため、反射率は15%以上18%未満の範囲であるかもしれないことを否定できない。)。
よって、申立人の上記主張を採用することはできない。
したがって、本件訂正発明1は、甲2B発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
本件訂正発明2、9、10についても、甲2B発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(オ)小括
以上検討のとおりであるから、本件訂正発明1、2、9、10について、甲第2号証から進歩性が欠如しているとする申立理由5を採用することはできない。
(4)申立理由6(サポート要件違反)について
申立理由6(2)は、本件透過型発明についてのものであり、「第5 当審の判断」「2 取消理由2(サポート違反)について」においてすでに検討済みである。
ここでは、本件反射型発明についての申立理由6(1)及び(3)を以下検討する。
ア 申立人は、請求項1において、「前記映像表示透明部材の透過率が、5~80%であり、前記映像表示透明部材の反射率が、18%以上であり、前記映像表示透明部材の後方ヘーズが、5~80%であり、前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、50%以下である」と記載されているところ、発明の詳細な説明には、反射型の実施例として例1(透過率45%、反射率18%、前方ヘーズ3%、後方ヘーズ53%)の1例のみ記載されているが、前方ヘーズ3%及び後方ヘーズ53%は請求項1に係る発明の特定範囲外であるから、この実施例は請求項1に係る発明の実施例であるとはいえない。また、反射率18%は請求項1において特定された範囲の境界値である。したがって、請求項1に係る発明は、実施例に裏付けられていないから、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない旨主張する。
イ この点に関し、本件反射型発明の実施例は、例1(【0103】~【0109】)及び例3(【0110】~【0111】)であり、その光学特性は、段落【0119】の【表1】に示されている。
なお、段落【0111】の「例1の反射型の映像表示透明部材の代わりに例3の透過型の映像表示透明部材を用いた以外は、例1と同様にして映像表示透明部材に映像を表示させた。」という記載の「例3の透過型の映像表示透明部材」は、その前後の文脈からみて、「例3の反射型の映像表示透明部材」の誤りであると認められる。
「【表1】
」
これらの記載から、反射型の実施例として例1(透過率45%、反射率18%、前方ヘーズ3%、後方ヘーズ53%)の1例のみ記載されているという申立人の主張には誤りがあり、また、例1の前方ヘーズ3%及び後方ヘーズ53%は、「前方ヘーズが、50%以下」、「後方ヘーズが、5~80%」を満たすから、請求項1に係る発明の特定範囲外とする主張も誤りである。さらに、例1の反射率18%は請求項1において特定された範囲の境界値であるものの、例3の反射率20%は境界値ではない。
ウ そうすると、申立理由6(1)及び(3)には、その前提において誤りがあるが、仮にその点は措くとしても、本件反射型発明が実施例に裏付けられていないとの主張には賛同できない。
エ すなわち、本件訂正後の明細書の段落【0010】には、【発明が解決しようとする課題】として、「本発明は、短焦点プロジェクタを用いた映像表示システムおよび映像表示方法において、観察者側から見て映像表示透明部材の向こう側に見える光景の視認性を低下させることなく、映像表示透明部材に表示される映像のコントラストが高い状態を維持できる映像表示システムおよび映像表示方法を提供する。」と記載されているところ、段落【0047】~【0053】には、本件反射型発明の「映像表示透明部材」の光学特性について、次の記載がある。
「【0047】
(反射型の映像表示透明部材の光学特性)
映像表示透明部材1の透過率は、観察者側から見て映像表示透明部材1の向こう側に見える光景の視認性がよい点から、5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、15%以上がさらに好ましい。
映像表示透明部材1の透過率は、スクリーンゲイン(輝度)を適切に保つ点から、90%以下が好ましく、80%以下がより好ましく、75%以下がさらに好ましい。
【0048】
映像表示透明部材1の第1の面Aにおける表面の反射率は、映像光Lの反射を抑える点から、5%以下が好ましく、2%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましい。
【0049】
映像表示透明部材1の反射率は、10%以上であり、30%以上が好ましい。映像表示透明部材1の反射率が10%以上であれば、特に、正反射光から0.044rad(2.5°)以上それた反射光において、このあたりの反射率が得られると人間の視感度的に変化が分かりにくくなるため、充分なスクリーンゲインを得られる。
【0050】
本発明においては、短焦点プロジェクタを用いることによって、映像表示透明部材1の第1の面Aへの映像光Lの入射角が大きくなり、映像光Lの光量の強い領域が映像表示透明部材1を大きな出射角で透過、または映像表示透明部材1の第1の面Aにて大きな出射角で正反射することによって観察者に到達しにくくなる。しかし、映像光Lの入射角が大きくなるため、透過光Tが映像表示透明部材1付近の床や天井に到達してしまう。そして、透過光Tが床や天井に到達することによって床や天井で散乱された光が、映像表示透明部材1に映りこんで、映像のコントラストの低下を引き起こす。
本発明においては、映像表示透明部材1の反射率を上記程度に高くすることによって、床や天井に到達する透過光Tの光量を減少させ、また、透過光Tが床や天井に到達することによって床や天井で散乱した光が、映像表示透明部材1を透過して写りこむ光量を低下させることができ、映像表示透明部材1に表示される映像のコントラストの低下を防ぐことができる。特に、映像表示透明部材1に表示された映像の投影機200に最も遠い部分における映像光Lの入射角が50度以上である場合は、透過光Tが映像表示透明部材1付近の床や天井に到達するのみでなく、床や天井で散乱された光のうち、比較的光量の多い領域である、正規反射角度からの角度差が90度未満の光が映像表示透明部材1へ到達するため、上記の効果が高くなる。
【0051】
映像表示透明部材1の前方ヘーズは、観察者側から見て映像表示透明部材1の向こう側に見える光景の視認性の点から、50%以下であり、30%以下が好ましく、20%以下がより好ましい。
【0052】
映像表示透明部材1の後方ヘーズは、スクリーンゲイン、およびコントラストの確保の点から、5%以上であり、15%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、50%以上がさらに好ましい。
映像表示透明部材1の後方ヘーズは、観察者側から見て映像表示透明部材1の向こう側に見える光景の視認性の点から、90%以下が好ましく、80%以下がより好ましい。
【0053】
映像表示透明部材1における隣り合う各層間の屈折率差は、各層界面における反射率が0.5%以内に抑えられる点から、0.2以内が好ましく、各層界面での反射率が0.1%程度となる点から、0.1以内がより好ましい。」
また、上記記載に関連して、段落【0056】には、作用機序として、次の記載がある。
「【0056】
(作用機序)
以上説明した反射型の映像表示透明部材1を用いた本発明の映像表示システムおよび映像表示方法にあっては、短焦点プロジェクタを用いることにより、光軸方向に焦点位置とずれた場所においても、光量の密度が高い状態となる映像の中央付近の光が、映像表示透明部材の第1の面Aにおいて正反射した反射光Rの出射角、および結像せずに反射膜33を透過した透過光Tの出射角が大きくなる。そのため、反射光Rや透過光Tが観察者Xや観察者Yの目に入りにくく、投影機200から投射された映像光Lに由来する反射光Rや透過光Tによる眩しさを観察者Xや観察者Yが感じにくい。また、眩しさを抑えるために、第1の面Aおよび反射膜33の散乱度を高く設定する必要がないため、前方ヘーズを50%以下にすることができ、観察者Xや観察者Y側から見て映像表示透明部材1の向こう側に見える光景の視認性を低下させることがない。
ただし、短焦点プロジェクタを用いることで、映像表示透明部材1の第1の面Aへの映像光Lの入射角が大きくなるため、透過光Tが映像表示透明部材1付近の床や天井に到達するようになる。そして、透過光Tが床や天井に到達することによって床や天井で散乱された光は、映像表示透明部材1に映りこんで、映像のコントラストの低下を引き起こす。そのため、映像表示透明部材1の反射率を10%以上にすることによって、床や天井に到達する透過光Tの光量を減少させ、また、透過光Tが床や天井に到達することによって床や天井で散乱した光が、映像表示透明部材1を透過して写りこむ光量を低下させることができ、映像表示透明部材1に表示される映像のコントラストの低下を防ぐことができる。
また、短焦点プロジェクタを用いることで、映像表示透明部材1の第1の面Aへの入射角が大きくなるため、反射膜33で散乱し、観察者Xへ向かう散乱光が少なくなり輝度が低くなる領域が発生する。そこで、後方ヘーズが5%以上である映像表示透明部材1を用いることで、各領域において適切なスクリーンゲインが得られ、映像表示透明部材1の映像表示位置によらず、映像を視認することができるようになる。」
「【図1】
」
オ これらの記載を手がかりとすれば、実施例としては例1と例3が開示されているのみであるとしても、当該実施例で確認された光学特性値以外の数値範囲を含む本件反射型発明が、出願時の技術常識に照らして、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではない。
以上検討のとおりであるから、本件反射型発明について、サポート要件違反であるとする申立理由6(1)及び(3)を採用することはできない。
(5)申立理由7(明確性要件違反)について
ア 申立理由7(1)及び(2)について
申立人は、請求項1において、「前記映像表示透明部材の透過率が、5~80%であり、前記映像表示透明部材の反射率が、18%以上であり、前記映像表示透明部材の後方ヘーズが、5~80%であり、前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、50%以下である」と記載されているが、透過率と反射率の関係、後方ヘーズ及び前方ヘーズの関係において、多くの矛盾する範囲を包含しており(例えば、透過率と反射率の合計が100%を超える場合)、各特性がどのような関係にあるのか不明であるから、請求項1に係る発明は明確ではない旨主張する。
同様に、申立人は、請求項6において、「前記映像表示透明部材の透過率が、5%以上であり、前記映像表示透明部材の反射率が、15%以下であり、前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、8~40%である」と記載されているが、透過率と反射率の関係において、多くの矛盾する範囲を包含しており(例えば、透過率と反射率の合計が100%を超える場合)、各特性がどのような関係にあるのか不明であるから、請求項6に係る発明は明確ではない旨主張する。
上記主張について検討すると、例えば、透過率と反射率の合計が100%を越えることは、現実にはあり得ないのであるから、請求項1及び6に係る発明がそのような場合を含むと考えるのは適当ではなく、請求項1において「前記映像表示透明部材の透過率が、5~80%であり、前記映像表示透明部材の反射率が、18%以上」であると規定され、請求項6において「前記映像表示透明部材の透過率が、5%以上であり、前記映像表示透明部材の反射率が、15%以下」であると規定されていても、そのような現実にはあり得ない範囲は除外されていると解釈すれば十分であり、その点において明確性に欠けるところはない。
請求項2~5、9~13に係る発明、請求項7~8、14~16に係る発明についても同様である。
したがって、申立理由7(1)及び(2)を採用することはできない。
イ 申立理由7(3)について
申立人は、請求項1において、「前記映像表示透明部材の後方ヘーズが、5~80%であり」と記載されているが、技術常識を考慮すれば、5%程度の低い値で映像を視認できるとは考えられず、「後方ヘーズ」に係る特定事項には不明な点があり、請求項1に係る発明は明確ではない旨主張する。
上記主張について検討すると、本件訂正後の明細書の段落【0052】には、「映像表示透明部材1の後方ヘーズは、スクリーンゲイン、およびコントラストの確保の点から、5%以上であり、15%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、50%以上がさらに好ましい。 映像表示透明部材1の後方ヘーズは、観察者側から見て映像表示透明部材1の向こう側に見える光景の視認性の点から、90%以下が好ましく、80%以下がより好ましい。」と記載されており、本件特許においては、「スクリーンゲイン」及び「コントラスト」の「確保」の要請から、「後方ヘーズ」が「5%以上」であれば足りるとしているのであるから、その点に記載として不明確な箇所があるとはいえない。
請求項2~5、9~13に係る発明についても同様である。
したがって、申立理由7(3)を採用することはできない。
ウ 申立理由7(4)について
申立人は、請求項1、6、9及び14において「短焦点プロジェクタ」と記載されているが、「短焦点プロジェクタ」とはいかなるプロジェクタを意味するのか不明であり、上記請求項に係る発明は明確ではない旨主張する。
上記主張について検討すると、本件訂正後の明細書の段落【0018】には、「(投影機) 投影機200は、映像表示透明部材1に映像光Lを投射できる短焦点プロジェクタである。 短焦点プロジェクタは、10~90cmの至近距離からの映像光の投射が可能なプロジェクタであり、超短焦点プロジェクタと呼ばれることもある。 短焦点プロジェクタを用いることによって、光軸方向に焦点位置とずれた場所においても、光量の密度が高い状態となる映像の中央付近の光が、映像表示透明部材1の第1の面Aにおいて正反射した反射光Rの出射角、および結像せずに反射膜33を透過した透過光Tの出射角が大きくなるため、反射光Rや透過光Tが観察者Xや観察者Yの目に入りにくい。」として、「短焦点プロジェクタ」の意味が明確に定義されている。
また、その投影方法についても、段落【0019】に「投影機200は、映像表示透明部材1に表示された映像の投影機200に最も近い部分における、映像表示透明部材1の第1の面Aへの映像光の入射角αが15~60度となるように、映像表示透明部材1の第1の面A側に設置されるのが好ましい。入射角αが15度以上であれば、第1の面Aにおいて正反射した反射光Rの出射角、および結像せずに反射膜33を透過した透過光Tの出射角が大きくなるため、反射光Rや透過光Tが観察者Xや観察者Yの目に入りにくい。入射角αが60度以下であれば、映像表示透明部材1における輝度の低下が抑えられる。すなわち、映像光Lの入射角が小さければ、反射膜33で散乱し、観察者Xへ向かう散乱光が多くなり輝度は高くなるが、映像光Lの入射角が大きければ、反射膜33で散乱し、観察者Xへ向かう散乱光が少なくなり輝度は低くなる。入射角αは、15~50度が好ましく、20~45度がより好ましい。 投影機200から投射される映像光Lは、投影機200から離れるほど入射角が大きくなり、より正反射から離れる角度方向に散乱されなければ、観察者Xによって視認されない。そのため、オリジナルの映像に対して、投影機200に近い方の光量が小さく、投影機200に遠い方の光量が大きくなるようにして、観察者Xへ到達する光量がオリジナルの映像と同等の光量分布となるように、補正してもよい。 また、映像表示透明部材1に表示された映像の中心部分における、映像表示透明部材1の第1の面Aへの映像光Lの入射角は、30度以上であってもよい。該入射角が30度以上であれば、映像表示透明部材1に表示された映像の中心付近における、映像を形成しない強度の高い光を観察者が広い範囲で視認しづらくなる。該入射角は、45度以上がより好ましい。」と詳述されている。
さらに、申立人が提出した甲第3号証(特開2013-237889号公報)の段落【0009】、甲第5号証(国際公開第2013/129290号)の段落[0065]にも記載されているように、「短焦点プロジェクタ」は周知なプロジェクタであるといえる。
したがって、申立理由7(4)を採用することはできない。
(6)申立理由8(実施可能要件違反)について
ア 申立理由8(1)及び(2)について
申立人は、本件反射型発明及び本件透過型発明のいずれについても、請求項に特定された各特性について、どのような組み合わせで実施可能なのか記載されていないから、発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない旨主張している。
上記主張について検討すると、「(5)申立理由7(明確性要件違反)について」「ア 申立理由7(1)及び(2)について」において説示したとおり、例えば、透過率と反射率の合計が100%を越えることは、現実にはあり得ないのであって、そのような現実にはあり得ない組み合わせを除外した上で、これらの光学特性の組み合わせを考えればよいから、申立人の上記主張を採用することはできない。
イ 申立理由8(3)について
申立人は、請求項1の「前記映像表示透明部材の後方ヘーズが、5~80%であり」という特定事項に関し、特許明細書等の段落【0052】には、「・・・映像表示透明部材1の後方ヘーズは、観察者側から見て映像表示透明部材1の向こう側に見える光景の視認性の点から、90%以下が好ましく、80%以下がより好ましい。」と記載されているが、後方ヘーズは光の拡散性の指標であり、背後の光景の視認性は透過性と前方ヘーズに依存するものと考えられ、背後の視認性が後方ヘーズに依存するという理由が不明である旨主張している。
上記主張について検討すると、この段落【0052】の記載を、映像表示透明部材の後方ヘーズの値に所定の上限を設ける趣旨の説明であると解すれば、その理由の是非はともかくとして、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとまではいえない。
ウ 申立理由8(4)について
申立人は「短焦点プロジェクタ」とはいかなるプロジェクタを意味するのか、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない旨主張する。
上記主張について検討すると、「(5)申立理由7(明確性要件違反)について」「ア 申立理由7(4)について」において説示したとおり、本件訂正後の明細書の段落【0018】には「短焦点プロジェクタ」の意味が明確に定義されており、また、その投影方法についても段落【0019】に詳述されており、さらに「短焦点プロジェクタ」は周知なプロジェクタであるといえるから、申立理由8(4)を採用することはできない
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知において通知した取消理由及び申立人が主張する特許異議申立理由によっても、請求項1~16に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2019-701007