特許異議申立
2019-700755
打ち抜き装置およびその装置により打ち抜かれたガスケット
- 審判番号
- 2019-700755
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-151149
- 登録番号
- 特許第6485911号(P6485911)
- 請求日
- 2019年09月20日
- 審決日
- 2020年08月04日
- 公報発行日
- 2020年11月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】住友ゴム工業株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人あい特許事務所
- 【権利者代理人】稲岡 耕作
- 【権利者代理人】川崎 実夫
- 【権利者代理人】京村 順二
- 【異議申立人】山口 愛美
- 審判長/審判官
- 審判長 見目 省二
- 審判官 刈間 宏信
- 審判官 田々井 正吾
- 分類
- P1651.113-YAA(B26F) / P1651.121-YAA(B26F) / P1651.537-YAA(B26F) / P1651.536-YAA(B26F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第29条、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6485911号発明「打ち抜き装置およびその装置により打ち抜かれたガスケット」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6485911号の明細書及び特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-6〕,7について訂正することを認める。
特許第6485911号の請求項2ないし7に係る特許を維持する。
特許第6485911号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6485911号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし7に係る特許についての出願は,平成27年7月30日に出願され,平成31年3月1日にその特許権の設定登録がされ,平成31年3月20日に特許掲載公報が発行された。
そして,本件特許異議の申立ての経緯は,次のとおりである。
令和元年 9月20日 :特許異議申立人 山口愛美(以下「申立人」
という。)による請求項1ないし7に係る
特許に対する特許異議の申立て
令和元年11月11日付け:取消理由通知書
令和元年12月12日 :特許権者 住友ゴム工業株式会社(以下
「特許権者」という。)による意見書及び
訂正請求書の提出
令和2年 1月22日 :申立人による意見書の提出
令和2年 2月 7日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和2年 4月 7日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和2年 5月22日 :申立人による意見書の提出
なお,令和元年12月12日にされた訂正の請求は,特許法120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和2年4月7日付け訂正請求書によってされた訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正事項は,以下のとおりである。なお,下線は特許権者が付したものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に,
「前記外刃先角に付与された角アールは,曲率半径が0.02mm以上であることを特徴とする,請求項1に記載の打ち抜き装置。」
と記載されているのを,
「下刃および上刃を備え,前記下刃および上刃の間に成型シートでつながった製品を配置し,製品をつないでいる成型シートにテンションをかけた状態で前記下刃および上刃を挟み合わせることによって前記成型シートから前記製品を打ち抜く打ち抜き装置であって,
前記下刃または上刃は,前記製品の外縁を切断するための製品切断面側に位置する内刃先角と,前記製品切断面側の外側に位置する外刃先角とを含み,
前記外刃先角に角アールが付与されており,
前記外刃先角に付与された角アールは,曲率半径が0.02mm以上であることを特徴とする,打ち抜き装置。」
に訂正する。(請求項2の記載を引用する請求項4,5及び6も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に,
「前記外刃先角に付与された角アールは,曲率半径が0.02mm~0.5mmであることを特徴とする,請求項1に記載の打ち抜き装置。」
と記載されているのを
「下刃および上刃を備え,前記下刃および上刃の間に成型シートでつながった製品を配置し,製品をつないでいる成型シートにテンションをかけた状態で前記下刃および上刃を挟み合わせることによって前記成型シートから前記製品を打ち抜く打ち抜き装置であって,
前記下刃または上刃は,前記製品の外縁を切断するための製品切断面側に位置する内刃先角と,前記製品切断面側の外側に位置する外刃先角とを含み,
前記外刃先角に角アールが付与されており,
前記外刃先角に付与された角アールは,曲率半径が0.02mm~0.5mmであることを特徴とする,打ち抜き装置。」
に訂正する。(請求項3の記載を引用する請求項4,5及び6も同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7に,
「弾性材で構成された本体と,この本体の表面に積層された不活性フィルムとを含む医療用注射器に適用されるガスケットであって,
前記ガスケットは,シリンジの内周面に接する円周面部と,
前記ガスケットの後端周囲に形成され,成型シートから打ち抜かれた際に生じた後端切断面部とを含み,
前記後端切断面部は,シリンジの内周面に接しない周径となっていることを特徴とする,ガスケット。」
と記載されているのを
「弾性材で構成された本体と,この本体の表面に積層された不活性フィルムとを含む医療用注射器に適用されるガスケットであって,
前記ガスケットは,シリンジの内周面に接する円周面部と,
前記ガスケットの後端面の周囲に形成され,成型シートから打ち抜かれた際に生じた後端切断面部とを含み,
前記後端切断面部は,前記ガスケットの軸方向に対して,後方に向かって縮径するように斜め方向に傾いていて,シリンジの内周面に接しない周径となっていることを特徴とする,ガスケット。」
に訂正する。
(5)訂正事項5
願書に添付した明細書の段落【0027】に記載された
「[打ち抜き装置]
図2に示す打ち抜き装置20を使用して,成型シートでつながった製品(ガスケット10)を個別の製品(ガスケット10)に打ち抜いた。打ち抜き装置20において,上刃25の内刃先角251(不活性フィルム積層面側の打ち抜き刃の刃先角)の角アールを,比較例1,2および実施例1,2でそれぞれ異ならせ,打ち抜き処理を行った。
外刃先角251の角アールの測定は,キーエンス社製のレーザー変位計LJ-V7020を使用し,打ち抜き刃の全数を,1個の刃に対して90°毎に4箇所測定した。」を,
「[打ち抜き装置]
図2に示す打ち抜き装置20を使用して,成型シートでつながった製品(ガスケット10)を個別の製品(ガスケット10)に打ち抜いた。打ち抜き装置20において,上刃25の外刃先角252(不活性フィルム積層面側の打ち抜き刃の刃先角)の角アールを,比較例1,2および実施例1,2でそれぞれ異ならせ,打ち抜き処理を行った。
外刃先角252の角アールの測定は,キーエンス社製のレーザー変位計LJ-V7020を使用し,打ち抜き刃の全数を,1個の刃に対して90°毎に4箇所測定した。」に訂正する。
本件訂正請求は,訂正事項1ないし3が一群の請求項〔1-6〕に対して,訂正事項4は請求項7に対して,それぞれ請求されたものである。また,明細書に係る訂正である訂正事項5は,一群の請求項〔1-6〕について請求されたものである。
2.訂正の目的の適否,新規事項の有無,及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
訂正事項1は,請求項を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2
ア.訂正事項2は,訂正前の請求項2が請求項1を引用していたのを,当該請求項1の発明特定事項を記載して,請求項1との引用関係を解消すると共に,さらに,「製品をつないでいる成型シートにテンションをかけた状態で」という事項を付加するものである。
イ.まず,訂正事項2のうち,請求項1との引用関係を解消する訂正は,上記訂正事項1で請求項1を削除することに伴い,他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすることを目的としたものであって,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。
ウ.次に,「製品をつないでいる成型シートにテンションをかけた状態で」という事項を付加する訂正は,訂正前の請求項2が引用する請求項1に記載された「前記成型シートから前記製品を打ち抜く打ち抜き装置」の使用状態を限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして,本件特許に係る願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)の段落【0008】には「この発明の打ち抜き装置によれば,製品を成型シートから切り離す打ち抜き工程において,・・・打ち抜きバリ部が均一なテンション付与の下で打ち抜かれる・・・」との記載や,段落【0021】には「・・・打ち抜き時に,テンションをかけるように成型シート30を引っ張った・・・」との記載があるとおり,成型シートにテンションをかけた状態で打ち抜くことは本件特許明細書に記載された事項であるから,上記の事項を付加する訂正は,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3
訂正事項3は,訂正前の請求項3が請求項1を引用していたのを,上記訂正事項1で請求項1を削除することに伴い,当該請求項1の発明特定事項を記載して,請求項1との引用関係を解消すると共に,さらに,「製品をつないでいる成型シートにテンションをかけた状態で」という事項を付加するものであるから,上記(2)と同様に,その訂正は,他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすること,及び,特許請求の範囲の減縮を目的とし,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。
(4)訂正事項4
ア.訂正事項4は,訂正前の請求項7の「前記ガスケットの後端」を「前記ガスケットの後端面」と訂正すると共に,「前記ガスケットの軸方向に対して,後方に向かって縮径するように斜め方向に傾いていて,」という事項を付加するものである。
イ.まず,訂正事項4のうち,「前記ガスケットの後端面」と訂正することは,ガスケットの後端を後端面に限定するとともに,ガスケットの後端におけるどの部分かを,より明確にしているから,特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また,本件特許明細書の段落【0017】に「ガスケット10には,その後端面15の周囲に形成された後端切断面部17が含まれている。」との記載があるから,上記訂正は新規事項の追加に該当しない。そして,当該訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。
ウ.次に,「前記ガスケットの軸方向に対して,後方に向かって縮径するように斜め方向に傾いていて,」という事項を付加する訂正は,訂正前の「記後端切断面部」の形態を具体化するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また,本件特許明細書の段落【0017】には,「後端切断面部17は,ガスケット10が成型シートから打ち抜かれる際に生じる切断面部であり『打ち抜きバリ部』と称される部分である。打ち抜きバリ部17がガスケット10の軸方向に対して斜め方向に傾いているのは,いわゆるテンション抜きがされたためである。」との記載があり,図1において,後端切断面部17がガスケットの軸方向に対して,後方に向かって縮径するように斜め方向に傾いている形態が記載されているから,上記の事項を付加する訂正は,新規事項の追加に該当しない。そして,上記の事項を付加する訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。
(5)訂正事項5
訂正事項5は,訂正前の段落【0027】の「上刃25の内刃先角251・・・の角アール」及び「外刃先角251の角アール」という記載を「上刃25の外刃先角252・・・の角アール」及び「外刃先角252の角アール」とするものである。
「角アール」という用語について,本件特許明細書を参照すると,例えば「外刃先角に角アールが付与」(【0007】,【0010】,【0012】),「外刃先角252には,角アールが付与」(【0020】),「外刃先角252に付与された角アール」(【0021】,【0022】),「外刃先角252に対してだけ角アールを付与」(【0021】),「外刃先角252に角アールが付与」(【0023】),「下刃22の外刃先角222に角アールが付与」(【0024】)と記載されるように,「角アール」は,外刃先角に対して付与されるものであることを理解できる。また,上刃25の外刃先角を示す符号が「252」であることは,本件特許明細書及び図面の記載から明らかである。
そうすると,訂正前の段落【0027】の「上刃25の内刃先角251・・・の角アール」及び「外刃先角251の角アール」という記載は,いずれも誤記というほかないから,訂正事項5は,誤記の訂正を目的とするものであって,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。
3.小括
上記のとおり,訂正事項1ないし5に係る訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号ないし4号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
したがって,本件特許明細書及び特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-6〕,7について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件特許発明
1.本件発明1ないし7
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし7に係る発明(以下,各請求項に係る発明を「本件発明1」などといい,本件発明1ないし7をまとめて「本件特許発明」という。)は,訂正特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
下刃および上刃を備え,前記下刃および上刃の間に成型シートでつながった製品を配置し,製品をつないでいる成型シートにテンションをかけた状態で前記下刃および上刃を挟み合わせることによって前記成型シートから前記製品を打ち抜く打ち抜き装置であって,
前記下刃または上刃は,前記製品の外縁を切断するための製品切断面側に位置する内刃先角と,前記製品切断面側の外側に位置する外刃先角とを含み,
前記外刃先角に角アールが付与されており,
前記外刃先角に付与された角アールは,曲率半径が0.02mm以上であることを特徴とする,打ち抜き装置。
【請求項3】
下刃および上刃を備え,前記下刃および上刃の間に成型シートでつながった製品を配置し,製品をつないでいる成型シートにテンションをかけた状態で前記下刃および上刃を挟み合わせることによって前記成型シートから前記製品を打ち抜く打ち抜き装置であって,
前記下刃または上刃は,前記製品の外縁を切断するための製品切断面側に位置する内刃先角と,前記製品切断面側の外側に位置する外刃先角とを含み,
前記外刃先角に角アールが付与されており,
前記外刃先角に付与された角アールは,曲率半径が0.02mm~0.5mmであることを特徴とする,打ち抜き装置。
【請求項4】
前記成型シートでつながった製品は,弾性材の一方表面に不活性フィルムが積層された成型シートが成型されて作られたものであることを特徴とする,請求項2または3に記載の打ち抜き装置。
【請求項5】
前記製品は,接液部に不活性フィルムが積層されたプレフィルド注射器用のガスケットを含むことを特徴とする,請求項4に記載の打ち抜き装置。
【請求項6】
前記外刃先角に角アールが付与された刃は上刃であり,
当該上刃は下刃に向かって降下する際に,下刃の上に配置された成型シートでつながった製品に対してテンションを付与することを特徴とする,請求項2または3に記載の打ち抜き装置。
【請求項7】
弾性材で構成された本体と,この本体の表面に積層された不活性フィルムとを含む医療用注射器に適用されるガスケットであって,
前記ガスケットは,シリンジの内周面に接する円周面部と,
前記ガスケットの後端面の周囲に形成され,成型シートから打ち抜かれた際に生じた後端切断面部とを含み,
前記後端切断面部は,前記ガスケットの軸方向に対して,後方に向かって縮径するように斜め方向に傾いていて,シリンジの内周面に接しない周径となっていることを特徴とする,ガスケット。」
2.本件特許発明の課題
本件特許明細書の段落【0006】には,【発明が解決しようとする課題】として「接液面側に不活性フィルムが積層されたガスケットを製造する場合,成型シートの製品部とバリ部の両方に跨がって不活性フィルムが積層されている。そこで,成型シートでつながった製品(ガスケット)を打ち抜く時に,製品(ガスケット)を良好に打ち抜ける打ち抜き装置を提供することが,この発明の解決課題である。」と記載され,段落【0008】には,【発明の効果】として「この発明の打ち抜き装置によれば,製品を成型シートから切り離す打ち抜き工程において,バリ部に積層された不活性フィルムを切除することなく打ち抜きを行うことができ,洗浄等による除去が困難な小さな不活性フィルム片の発生を抑えることができる。また,この打ち抜き装置により打ち抜かれた製品(医療用ガスケット)は,打ち抜きバリ部が均一なテンション付与の下で打ち抜かれるので,打ち抜きバリ部がシリンジ内壁と接触することはない。また,ガスケットを吸着してシリンジに打栓する際に,吸着治具による操作性を良好に保てる。」と記載されている。
これらの記載から,本件特許発明が解決しようとする課題は,製品(ガスケット)を良好に打ち抜ける打ち抜き装置を提供することであると認められるが,当該課題の「製品を良好に打ち抜ける」ことは,より具体的には,打ち抜き工程において小さな不活性フィルム片の発生を抑えること,及び,打ち抜きバリ部がシリンジ内壁と接触することのないガスケットを得ることの2つを意味すると理解できる。
第4 取消理由についての当審の判断
1.取消理由(決定の予告)の概要
当審が令和2年2月7日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は,次のとおりである。
(1)特許法36条6項1号(サポート要件)について
本件特許発明の課題である打ち抜きバリ部がシリンジ内壁と接触することがないガスケットを提供するためには,テンション付与の構成が不可欠であるが,令和元年12月12日に訂正請求された請求項2ないし6に係る発明は,テンション付与の構成が記載されておらず,課題を解決するための手段が反映されていないから,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求しているものである。
よって,請求項2ないし6に係る特許は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,取り消されるべきである。
(2)特許法36条4項1号(実施可能要件)について
本件特許明細書の段落【0027】の記載からみて,段落【0031】には,内刃先角251の角アールを実施例と比較例で変化させた際の評価の結果が記載されていると理解される。
そうすると,請求項2及び3に係る発明のように,外刃先角に付与された角アールの曲率半径を0.02mm以上とすることにより,本件特許発明の課題である打ち抜きバリ部がシリンジ内壁と接触することがないガスケットを提供することが,実施可能であるか否か不明である。
また,請求項7に係る発明は,「前記後端切断面部は,前記ガスケットの軸方向に対して,後方に向かって縮径するように斜め方向に傾いていて,シリンジの内周面に接しない周径となっている」ものであるが,上記段落【0027】及び【0031】の記載からは,内刃先角251の角アールを最小で0.02mm以上となるように設定していることは理解できても,このように設定することで,請求項7に係る発明のシリンジの内周面に接しない周径となる後端切断面部を得ることが,実施可能であるか否か不明である。
したがって,請求項2ないし7に係る発明は,本件特許明細書の発明の詳細な説明において当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
よって,請求項2ないし7に係る特許は,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,取り消されるべきである。
2.取消理由についての判断
(1)サポート要件の判断
本件訂正請求に係る訂正により,請求項1は削除され,請求項2及び3に「製品をつないでいる成型シートにテンションをかけた状態で」という事項が付加された。そうすると,本件発明2及び3に係る打ち抜き装置は,「製品をつないでいる成型シートにテンションをかけた状態で」,「前記成型シートから前記製品を打ち抜く」手段を有することが,請求項2及び3の記載によって特定され,本件発明2及び3並びにこれらを引用する本件発明4ないし6において,打ち抜きバリ部がシリンジ内壁と接触することがないガスケットを提供するという本件特許発明の課題を解決できることを,当業者が認識できるようになった。なお,テンション付与の具体的構成を特定することまで要さないことについては,下記3.(2)アに述べる。
よって,本件発明2ないし6は,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求しているものではなく,本件特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしている。
(2)実施可能要件の判断
本件訂正請求に係る訂正により,本件特許明細書の段落【0027】の誤記が訂正され,「外刃先角252の角アール」であることが明確になった。これにより,本件特許明細書の段落【0031】の【表1】の「刃先角R値」が外刃先角252の角アールであることも理解されるところ,実施例1で角アールの最小値が0.02mmであれば,バレル内壁への接触がなく,フィルム片付着率0%,総合評価◎という効果を生じることが認められる。
したがって,本件発明2ないし7は,本件特許明細書において,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
よって,本件明細書の記載は,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしている。
(3)小活
したがって,当審が令和2年2月7日付けで特許権者に通知した取消理由によって,請求項2ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
3.令和2年5月22日の意見書における申立人の主張について
(1)申立人の主張の概要
申立人が令和2年5月22日に提出した意見書(以下「意見書」という。)における,サポート要件及び実施可能要件についての申立人の主張の概要は,以下のとおりである。
なお,申立人は,特許法36条6項2号(明確性要件)及び特許法29条2項(進歩性)についても主張しているが,それらは,以下の第5で検討する。
ア.テンションについてのサポート要件
本件発明2及び3には,「成型シートにテンションをかけた状態」という文言が追記されたが,成型シートにテンションをかけた方向や,テンションをかける具体的な手段が特定されていないから,外刃先端の角アールに,成型シート30が接触しない態様を包含し,課題を解決するための手段が反映されていない。(意見書5ないし10ページ)。
イ.角アールの曲率半径のサポート要件
段落【0027】の記載は,外刃先角252とは別に内刃先角251の角アールを特定したものと解しても何ら不自然ではない。
また,仮に,段落【0027】の記載が誤記だとしても,比較例1は,角アールの最大値が0.02mm以上であるにも関わらず,効果の評価が低いから,明細書により特許発明2ないし6が十分にサポートされていない。(意見書10及び11ページ)
ウ.不活性フィルムのサポート要件
本件特許発明の課題は,「成型シートの製品部とバリ部の両方に跨がって不活性フィルムが積層されている。そこで,成型シートでつながった製品(ガスケット)を打ち抜く時に,製品(ガスケット)を良好に打ち抜ける打ち抜き装置を提供する」(【0006】)であり,本件特許明細書の実施例には,不活性フィルムが積層された「成型シートでつながった製品」を打ち抜いた例しか記載されていない。
本件発明2,3,6及び7には,不活性フィルムが積層されていることが特定されていないから,上記課題を解決し得ない発明を含んでいる。(意見書11及び12ページ)
エ.テンションについての実施可能要件
本件発明2及び3には,「成型シートにテンションをかけた状態」の文言が追記されたが,成型シート受け部23やテンション付与突起40の構成がない状態で,どのようにテンションをかけるのか明細書に記載がなく,当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に記載されていない。(意見書15及び16ページ)
オ.ガスケット後端切断面部の実施可能要件
本件発明7に,「前記ガスケットの軸方向に対して,後方に向かって縮径するように斜め方向に傾いていて」の文言が追記されたが,参考資料4(以下の第5の1.(7))によれば,プレス打ち抜き加工により,バリが生じて太径になるはずであるから,どのようにすればガスケット後端切断面部が斜め方向に傾くのか明細書に具体的な記載がない。(意見書16ページ)
(2)申立人の主張の検討
ア.テンションについてのサポート要件に対して
成型シートにテンションをかけながら製品を打ち抜く,いわゆる「テンション抜き」は,本件特許明細書の段落【0004】に背景技術として開示されるように,本件特許に係る出願時の技術常識というべきである。そうすると,当業者は,本件特許明細書で先行技術文献として示される特開2012-147859号公報(甲第2号証,以下の第5の1.(7))記載の打ち抜き型(特に,段落【0043】及び【0044】,並びに図6及び7を参照。)のようなテンション抜きの技術常識の存在を前提とすれば,本件特許発明において,テンション付与のための具体的な構造の特定がなくても,内刃及び外刃の両方が成型シートに接触し,成型シート受け部等の支持部材で成型シートを支持する構造を認識し,本件特許発明の課題を解決できるというべきである。
よって,申立人の主張は採用できない。
イ.角アールの曲率半径のサポート要件に対して
上記第2の2(5)に説示するとおり,本件特許明細書の段落【0027】の記載は,本件特許明細書の他の記載と整合しないから,誤記と解するほかない。
そして,実施例1(角アールが0.02mm~0.17mm)及び実施例2(同0.05mm~0.22mm)において,角アールが0.02mm以上0.5mm以下の範囲内にあるものが総合評価が◎又は○として本件特許明細書に記載されているからサポート要件を満たしているというべきであり,申立人の主張は採用できない。
なお,比較例1は,角アールが0.01mm~0.20mmであるから(本件特許明細書の段落【0031】の表1),比較例1が本件発明2及び3の角アールの数値範囲内にあることを前提とする申立人の主張は失当である。
ウ.不活性フィルムのサポート要件に対して
本件特許発明の課題は,製品を良好に打ち抜ける打ち抜き装置を提供すること,すなわち,ガスケットの打ち抜きバリ部がシリンジの内壁に接触しないこと,及び,打ち抜き工程において小さな不活性フィルム片の発生を抑えること(ガスケットにフィルム片が付着しないこと)の2つであると理解できる(上記第3の2)。
本件発明2,3及び6には,不活性フィルムを積層することの特定はないが,これによっても,外刃先角に角アールが付与されることにより,打ち抜きバリ部が均一なテンション付与の下で打ち抜かれることで,ガスケットの打ち抜きバリ部がシリンジの内壁に接触しないという課題は解決し得るものであるところ,明細書に挙げられた2つの課題の両方を解決しなければサポート要件を満たさないということはないから,本件発明2,3及び6に不活性フィルムを積層しないものが含まれるとしても,サポート要件を満たさないとまではいえない。
また,本件発明7には,「前記後端切断面部は・・・シリンジの内周面に接しない周径となっている」旨の特定があり,ガスケットの打ち抜きバリ部がシリンジの内壁に接触しないという課題を解決し得るものであるから,申立人の主張は失当である。
エ.テンションについての実施可能要件に対して
本件特許明細書には,「成型シートにテンションをかけた状態」を実施する手段として,成型シート受け部23やテンション付与突起40を設けることが記載されているから,当業者は,本件発明2及び3を実施するための手段が,明確かつ十分に記載されていると理解する。
明細書の実施可能要件は,特許請求の範囲に含まれ得る全ての場合についての具体的な開示を求めるものではないから,本件発明2及び3に,成型シート受け部23やテンション付与突起40以外の手段が含まれ得るとしても,そのような手段の開示がないことにより,直ちに実施可能要件を充足しないとまではいえない。
オ.ガスケット後端切断面部の実施可能要件に対して
本件特許明細書には,「成型シートにテンションをかけた状態」で成型シートを打ち抜くことで,ガスケットの後端切断面部が斜め方向に傾くことが記載されている(【0017】)から,当業者は,本件発明7をこのような構成を用いることで実施可能であると理解する。
申立人は,参考資料4を根拠に,プレス打ち抜き加工により,バリが生じて太径になるなどと説明しているが,参考資料4は,例えば22ページの「2・3・2 せん断面」の欄に「刃先の側面に強圧をもって押しつけられつつ,相対的にスベリを行なった部分であって,図上におけるbの間である。この部分の特徴は滑らかで光っているから,次の破断面とは確然と見わけることができる。光輝仕上りになっている面という意味で,バニシ部分(Burnishing)とよばれている。」との記載があるから,参考資料4の打ち抜き加工の対象は,せん断面に光を観察できるような,金属材料と解するべきである。これに対して,本件発明7は,弾性材及び不活性フィルムの成型シートから打ち抜かれるガスケットであり,金属材料と異なるから,当業者が,参考資料4を根拠に,本件発明7のガスケット後端切断面部の形状を理解することはなく,申立人の主張は採用できない。
第5 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由についての当審の判断
1.特許異議申立理由の概要及び申立人が提出した証拠
取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由の概要,及び申立人が提出した証拠は,以下のとおりである。
(1)甲1に基づく特許法29条1項3号(新規性)の理由(本件発明1)
本件発明1は,甲第1号証(以下,各甲号証を「甲1」などという。)に記載されているから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであり,その特許は取り消されるべきである。(特許異議申立書16ないし18ページ)
(2)甲2に基づく新規性の理由(本件発明7)
本件発明7は,甲2に記載されているから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであり,その特許は取り消されるべきである。(特許異議申立書18及び19ページ)
(3)甲1に基づく特許法29条2項(進歩性)の理由(本件発明1ないし7)
本件発明1ないし7は,甲1に記載された発明,及び甲2ないし7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから,その特許は取り消されるべきである。(特許異議申立書19ないし24ページ)
(4)甲2に基づく進歩性の理由(本件発明1ないし7)
本件発明1ないし7は,甲2に記載された発明,並びに甲1及び3ないし7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから,その特許は取り消されるべきである。(特許異議申立書24ないし30ページ)
(5)サポート要件の理由
ア.不活性フィルムのサポート要件(本件発明2,3及び6)
上記第4の3.(1)ウ.と同趣旨。(特許異議申立書30及び31ページ)
イ.角アールの曲率半径のサポート要件(本件発明1及び4ないし6)
本件特許明細書の段落【0021】には,角アールの曲率半径が0.02mm以上であることが記載されているが,本件発明1は「角アールが付与されている」構成しか記載されておらず,当業者は,当該構成だけで本件特許の課題を解決できるとは認識しない。
したがって,本件発明1及び4ないし6は,発明の詳細な説明に記載された範囲を超えている。(特許異議申立書31及び32ページ)
(6)特許法36条6項2号(明確性)の理由
ア.角アールの曲率半径の明確性(本件発明2)
本件発明2は,外刃先角の角アールの下限値のみが特定されているが,角アールの曲率半径が極端に大きい場合,成型シートにテンションがかからないから,「打ち抜きバリ部がシリンジ内壁と接触することはない」という効果を奏しない。
そのため,上記効果を奏する外刃先角の角アールの範囲は下限値のみによって定まらないから,本件発明2は明確でない。(特許異議申立書33及び34ページ)
イ.テンションについての明確性(本件発明6)
本件発明6には,「当該上刃は下刃に向かって降下する際に・・・製品に対してテンションを付与する」と記載されているが,「テンションを付与する」ことと,上刃及び下刃との構造的関係が特定されていないから,上刃及び下刃をどのように構成すれば「テンションを付与する」ことができるのか,当業者が理解できない。(特許異議申立書34ページ)
ウ.プロダクトバイプロセスクレームの明確性(本件発明4及び7)
本件発明4は,打ち抜き装置という物の発明であるが,打ち抜き装置の構成要素の一つである製品は「成型されて作られた」という,物の製造方法によって特定されている。
また,本件発明7は,ガスケットという物の発明であるが,「成型シートから打ち抜かれた際」という時系列が記載されているから,製造方法によって物の発明が特定されている。
したがって,本件発明4及び7は明確でない。(特許異議申立書34及び35ページ)
なお,特許異議申立書32及び33ページに記載されたサポート要件に係る特許異議申立理由は,取消理由通知(決定の予告)におけるサポート要件の理由(上記第4の1.(1))及び意見書におけるテンションについてのサポート要件の理由(上記第4の3.(1)ア.)と同趣旨のものである。
(7)申立人が提出した証拠
甲1:特開昭62-46433号公報
甲2:特開2012-147859号公報
甲3:特開2013-22591号公報
甲4:社団法人日本機械学会,「機械工学事典」,社団法人
日本機械学会,1997年8月20日初版発行,
1057,1297及び1298ページ
甲5:特開2001-104450号公報
甲6:特開2013-188431号公報
甲7:特開2014-47828号公報
甲8:藤岡啓介,「工業英語語群辞典」,株式会社工業調査会,
2005年5月13日初版発行,585ページ
甲9:金田一京助ほか3名,「新明解国語辞典第四版」,株式会社
三省堂,1989年11月10日第4版発行,683ページ
参考資料1:大西清,「JISにもとづく機械設計製図便覧
(第11版)」,理工学社,2009年2月1日第11版
発行,17-24及び17-25ページ
参考資料2:JIS B0701-1987,658及び659ページ
参考資料3:実公昭53-36282号公報
参考資料4:橋本明,「プレス打抜き加工」,日刊工業新聞社,
昭和41年11月15日初版発行,21ないし23ページ,
並びに106及び107ページ)
2.甲1に基づく新規性の理由の検討(本件発明1)
本件訂正請求により,本件発明1は削除されたため,新規性を検討する対象が存在しない。
したがって,本件発明1についての甲1に基づく新規性の理由は,却下すべきものである。
以下、本件発明1についての異議申立ての理由については、すべて同様に却下すべきものである。
3.甲2に基づく新規性の理由の検討(本件発明7)
(1)甲2の記載事項及び甲2発明
ア.甲2の記載事項
甲2には,以下の事項が記載されている。
「【0002】
近年では,使用時の簡便性に優れ,かつ薬剤の取り違えなどの医療事故を防止できるという点から,予め薬液を注射器に充填したプレフィルドシリンジの使用が拡大している(特許文献1参照)。プレフィルドシリンジは,注射針が取り付けられる先端部分がキャップで密閉されており,投与の際には先端部分に注射針を取り付け,プランジャーロッドを先端側に向けて押し込んでガスケットを摺動させることにより,注射針を介して注射液が投与される。
【0003】
ガスケットの表面にフッ素樹脂などの不活性フィルムを積層(ラミネート)することにより,耐薬品性を向上させることができる。しかし,不活性フィルムを積層すると,弾性が低下して気密性が悪化するため,薬液が漏れてしまうおそれがある。従って,耐薬品性及び気密性を両立したガスケットの開発が求められている。」
「【0022】
(実施形態1)
図1は,実施形態1のガスケットを示す断面模式図である。図1において,ガスケット(プレフィルドシリンジ用ガスケット)1は,シリンジ内で薬液に接触し,摺動時にシリンジ内壁に接触しない接液部2と,摺動時にシリンジ内壁と接触する摺動部(環状シール部)3と,プランジャーロッドが嵌合される嵌合穴4とを有する。
【0023】
接液部2には不活性フィルム5が積層されており,図1では凸部を有する接液部2の一例が示されている。この不活性フィルム5は,接液部2に積層され,摺動部3には積層されていない。不活性フィルム5をこのように配置することにより,ガスケット1の耐薬品性を向上させながら,良好な気密性を確保することができる。
【0024】
不活性フィルム5としては特に限定されないが,良好な耐薬品性が得られるという点から,テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE),ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),ポリクロロテトラフルオロエチレン(PCTFE)からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂,及び/又はオレフィン系樹脂が好ましい。また,医療用容器の滅菌法として,蒸気滅菌,エチレンオキサイドガス滅菌,ガンマ線滅菌が行われるが,PTFEはガンマ線に対する耐性が低い。よって,ガンマ線滅菌に対する耐性が高いETFE,変性ETFE,PCTFEが特に好ましい。
「【0031】
摺動部3の環状突起数は特に限定されないが,2~4であることが好ましい。摺動部3は,切断部6,又は切断部6及び金型成形部6aよりなる第一環状突起部7aと,複数の環状突起7とを有する。なお,摺動部3は金型成形部6aを有していなくてもよい。摺動抵抗を低減できるという点から,摺動部3は,シリコーンコート等の潤滑剤をコートすることが好ましい。なお,潤滑剤は摺動部3の全てにコートする必要はなく,例えば,切断部6がコートされていなくてもよい。
【0032】
不活性フィルム5が積層された接液部2で薬剤との接触を防止し,接液部2側から連続する切断部6,又は該切断部6及び金型成形部6aよりなる第一環状突起部と,環状突起7とによりシリンジ内が隔てられることにより気密性,液密性が保たれるが,特に切断部6,又は切断部6及び金型成形部6aよりなる第一環状突起部が重要である。
【0033】
切断部6の厚みは0.5~1.5mmであることが好ましく,金型成形部6aの厚みは0~1.0mmが好ましい。切断部6の厚みは大きくなるほど摺動抵抗が大きくなり,1.5mmを超えると,実用的ではない。一方0.5mm未満であると,十分な気密性,液密性を確保できないおそれがある。また,切断部6の厚みが上記範囲内であれば,ガスケット1の製造時に金型から成形シートを容易に取り剥がすことができる。
なお,切断部6の厚みは,図1中の上下方向の長さiであり,金型成形部6aの厚みは,図1中の上下方向の長さjである。」
「【0039】
以下,実施形態1のガスケットの製造方法について説明する。図6及び7は,実施形態1のガスケットの製造工程(打ち抜き工程)を示す断面模式図である。
【0040】
まず,不活性フィルム5と未加硫のゴムシート104とを重ねて成形金型に置き,真空プレスで加熱圧縮を行う。加熱圧縮により,不活性フィルム5と未加硫のゴムシート104との加硫接着,及び成形が行われる。これにより,ガスケット1の形状,及び偏芯防止用リング106がそれぞれ複数成形された成形シート105が得られる。なお,ガスケット1には,接液部と,環状突起部を有する摺動部とが成形される。
【0041】
ゴムシート104としては,合成ゴム及び熱可塑性エラストマーを使用することができる。なかでも,良好な気密性が得られるという点から,合成ゴムが好ましく,ブチルゴムがより好ましい。ブチルゴムとしては,塩素化ブチルゴムなどのハロゲン化ブチルゴムを好適に使用できる。
【0042】
成形後,成形シート105の摺動部側にシリコーンを塗布する。シリコーンの塗布は,成形シート105のゴムシート104側(摺動部が成形された側)から行うことが好ましい。これにより,接液部にシリコーンが付着しないため,シリコーンによる薬液の汚染を防止できる。
【0043】
次に,図6に示すように,成形シート105の摺動部を打ち抜き型の下刃101にセットする。その後,偏芯抜き不良をなくすため,図7に示すように,成形シート105の接液部側からストリッパープレート102を下降させ,成形シート105のバリ部にテンションを掛け,成形シート105を下刃101に密着させる。
【0044】
この状態で,成形シート105の接液部側から上刃103を下降させ,環状突起と略同径に成形シート105のバリ部を切断することで,切断部,又は切断部及び金型成形部からなる第一環状突起部が形成される。これにより,ガスケット1が得られる。」
「【0049】
実施例及び比較例
塩素化ブチルゴムを含む未加硫のゴムシートと厚み100μmの不活性フィルムとを張り合わせ,真空プレスで175℃,10分間加硫接着しながら成形し,ガスケットの形状,及び偏芯防止用リングがそれぞれ複数成形された成形シートを得た。得られた成形シートのゴムシート側(摺動部が成形された側)をシリコーンでコートした後,図6及び7で示した方法で成形シートを打ち抜き,図1~5,及び図10~11に示す形状のガスケットを得た。使用した上刃の先端部の厚みは1.2mm,成形シートの切断部の厚みは1.0mmであった。得られたガスケットを洗浄,滅菌乾燥してから,該ガスケットを用いてプレフィルドシリンジ(公称容量:5ml,シリンジ内径:12.45mm)を作製し,以下の試験を行った。」
「図6
」
「図7
」
「図11
」
イ.甲2発明
甲2の記載事項を整理すると,甲2には以下の発明が記載されているということができる。
「ゴム及び熱可塑性エラストマーで構成されたゴムシート104と,このゴムシート104の接液部2に積層されたフッ素樹脂等の不活性フィルム5とを含むプレフィルドシリンジ用ガスケットであって,ガスケット1は摺動部3に,環状突起7と,プレフィルドシリンジ用ガスケットの後端に形成され,成形シートから打ち抜かれる際に生じた切断部6とを,含み,切断部6は,環状突起7よりも小さい周径を有しているガスケット。」(以下「甲2発明」という。)
(2)対比
本件発明7と甲2発明を対比する。
甲2発明の「ゴム及び熱可塑性エラストマー」は,本件発明7の「弾性材」に相当する。以下,同様に,「ゴムシート104」は,ガスケットの大部分を構成するものであるから,「本体」に,「ゴムシート104の接液部2に積層されたフッ素樹脂等の不活性フィルム5」は,「本体の表面に積層された不活性フィルム」に,「プレフィルドシリンジ用ガスケット」は,医療用の注射器として用いられるから,「医療用注射器に適用されるガスケット」に,「環状突起7」はシリンジの気密性,液密性を保つもので環状に形成されているから,「シリンジの内周面に接する円周面部」に,「切断部6」は成形シートから打ち抜かれる際に後端面の周囲に形成されるものであるから,「後端切断面部」に,それぞれ相当する。
そうすると,本件発明7と甲2発明は,以下の点で一致及び相違する。
<一致点A>
「弾性材で構成された本体と,この本体の表面に積層された不活性フィルムとを含む医療用注射器に適用されるガスケットであって,
前記ガスケットは,シリンジの内周面に接する円周面部と,
前記ガスケットの後端面の周囲に形成され,成型シートから打ち抜かれた際に生じた後端切断面部とを含む,ガスケット。」である点。
<相違点A>
本件発明7は,「前記後端切断面部は,前記ガスケットの軸方向に対して,後方に向かって縮径するように斜め方向に傾いていて,シリンジの内周面に接しない周径となっている」のに対し,甲2発明は,「切断部6は,環状突起7よりも小さい周径を有している」ものの,切断部6が,ガスケットの軸方向に対して後方に向かって縮径するように斜め方向に傾く形状ではなく,シリンジの内周面に接しない周径となっているか不明な点。
(3)小活
本件発明7と甲2発明は,上記の相違点Aで相違し,同一とはいえないから,特許法第29条第1項第3号に該当しない。
したがって,甲2に基づく新規性の理由で本件発明7にかかる特許を取り消すことはできない。
4.甲1に基づく進歩性の理由の検討(本件発明1ないし7)
(1)甲1の記載事項及び甲1発明
ア.甲1の記載事項
甲1には,以下の事項が記載されている。
(ア)「産業上の利用分野
本発明は,ディスク状フレキシブル磁気記録媒体及びその打抜金型に関し,媒体におけるバリ及びクラックの数を14個/cm以下とすることにより,エラーレート及び媒体或いはヘッドの破壊を従来より著しく低下させるようにしたものである。」(1ページ右欄10ないし16行)
(イ)「中心孔が露出する磁気記録媒体においては,外周エッジのみならず,中心孔の内周エッジにおけるバリ及びクラックの数も,14個/cmとなるようにするのが望ましい。」(2ページ右上欄1ないし4行)
(ウ)「第1図はディスク型磁気記録媒体の金型の断面図で,1は磁気記録媒体材,2は上側の打抜金型,3は下側の打抜金型,4及び5はストリッパである。磁気記録媒体材lはポリエステルフィルム等のフレキシブル基体の片面または両面に磁気記録層102を形成した長尺材でなり,上側の打抜金型2,下側の抜打抜金型3及びストリッパ4,5の間に位置させて打抜加工を施す。前記磁気記録層102は,蒸着,スパッタリングまたはメッキ等の何れかの手段によって,面内磁気記録層もしくは垂直磁気記録層として成膜されている。
上下打抜金型2.3の刃のエッジ部分(イ),(ロ)は,第3図に拡大して示すように,丸み2a,3aを持たせである。丸み2a,3aは,半径が2~8μm程度の曲面とすることが望ましい。」(2ページ左下欄16行ないし右下欄12行)
(エ)「上記の打抜金型を使用してディスク型磁気記録媒体を打抜くには,例えば打抜金型2を矢印aの如く移動させる。これにより,第2図に示すような中心孔103を有するディスク型磁気記録媒体が得られる。」(3ページ左上欄2ないし6行)
(オ)第1図
「
」
(カ)第2図
「
」
イ.甲1の記載事項から明らかな技術的事項
上記ア.(ウ)及び(エ)から,第1図の上下打抜金型2及び3を使用して,第2図のような中心孔103を有するディスク型磁気記録媒体が得られることを理解できる。
第1図には,上側の打抜金型2が,左右方向に3つ記載されているが,左側に位置する打抜金型2の右側の刃のエッジ部分(イ)により,記録媒体の外周の左側が切断され,中央に位置する打抜金型2の左右両端の刃のエッジ部分(イ)により,記録媒体の中心孔103の内周が切断され,右側に位置する打抜金型2の左側の刃のエッジ部分(イ)により,記録媒体の外周の右側が切断されることは明らかである。
同様に,第1図には,下側の打抜金型3が,左右方向に2つ配置されるように記載されているが,左側の打抜金型3の左側の刃のエッジ部分(ロ)により,記録媒体の外周の左側が切断され,左側の打抜金型3の右側の刃のエッジ部分(ロ)及び右側の打抜金型3の左側の刃のエッジ部分(ロ)により,記録媒体の中心孔103の内周が切断され,右側の打抜金型3の右側の刃のエッジ部分(ロ)により,記録媒体の外周の右側が切断されることは明らかである。
ウ.甲1発明
上記イ,に示す技術的事項を踏まえて,甲1の記載事項を整理すると,甲1には以下の発明が記載されているということができる。
「下側の打抜金型3及び上側の打抜金型2を備え,前記下側の打抜金型3及び上側の打抜金型2の間にフレキシブル基体の片面または両面に磁気記録層を形成した長尺材でなる磁気記録媒体材1を位置させて,上側の打抜金型2を矢印aの如く移動させることによって,前記磁気記録媒体材1からディスク型磁気記録媒体を打抜く打抜金型であって,前記下側の打抜金型3または上側の打抜金型2は,前記ディスク型磁気記録媒体の中心孔103の内周及び前記ディスク型磁気記録媒体の外周を切断するための刃のエッジ部分(イ),(ロ)を有する打抜金型。」(以下「甲1発明」という。)
(2)本件発明2について
ア.対比
本件発明2と甲1発明を対比する。
甲1発明の「下側の打抜金型3」が本件発明2の「下刃」に相当することは明らかであり,以下同様に,「上側の打抜金型2」が「上刃」に,「フレキシブル基体の片面または両面に磁気記録層を形成した長尺材でなる磁気記録媒体材1」が「成型シートでつながった製品」に,「ディスク型磁気記録媒体」が「製品」に,「打抜金型」が「打ち抜き装置」に,「前記ディスク型磁気記録媒体の外周を切断するための刃のエッジ部分(イ),(ロ)」が「前記製品の外縁を切断するための製品切断面側に位置する内刃先角」に相当する。
また,甲1発明で「上側の打抜金型2を矢印aの如く移動させる」ことは,上側の打抜金型2と下側の打抜金型3とを挟み合わせていることになるものと認められるから,本件発明2で「前記下刃および上刃を挟み合わせる」ことに相当する。
そうすると,本件発明2と甲1発明は,以下の点で一致及び相違する。
<一致点B>
「下刃および上刃を備え,前記下刃および上刃の間に成型シートでつながった製品を配置し,前記下刃および上刃を挟み合わせることによって前記成型シートから前記製品を打ち抜く打ち抜き装置であって,
前記下刃または上刃は,前記製品の外縁を切断するための製品切断面側に位置する内刃先角を含む,打ち抜き装置。」
<相違点B1>
製品を打ち抜く際に,本件発明2は,「製品をつないでいる成型シートにテンションをかけた状態で」打ち抜くのに対し,甲1発明は,磁気記録媒体材1にテンションがかけられているか不明な点。
<相違点B2>
本件発明2は,下刃または上刃が,「前記製品切断面側の外側に位置する外刃先角とを含み,前記外刃先角に角アールが付与されており,前記外刃先角に付与された角アールは,曲率半径が0.02mm以上である」のに対し,甲1発明は,製品切断面側の外側に位置する外刃先角が不明な点。
イ.相違点の判断
事案に鑑みて,まず相違点B2を検討する。
上記(1)イ.で説示するとおり,甲1発明の下側の打抜金型3または上側の打抜金型2の刃のエッジ部分(イ),(ロ)は,いずれも,ディスク型磁気記録媒体の中心孔103の内周を切断するか,当該記録媒体の外周を切断するための刃であり,甲1発明は,これらの刃を備えるだけで十分に記録媒体を製造できるのであって,本件発明2のような,「前記製品切断面側の外側に位置する外刃先角」を設ける必要がないから,甲1発明には,「前記製品切断面側の外側に位置する外刃先角」を設けようとする動機が存在しない。
また,申立人が提出する甲2ないし7及び参考資料1ないし4を参照しても,甲1発明に「前記製品切断面側の外側に位置する外刃先角」を設けようと試みる動機となる記載や示唆はないから,上記相違点B2に係る本件発明2の構成は,甲1発明,甲2ないし7及び参考資料1ないし4に記載された事項から当業者が容易に想到できたものとはいえない。
ウ.小活
したがって,上記相違点B1について検討するまでもなく,本件発明2は,甲1発明,甲2ないし7及び参考資料1ないし4に記載された事項から,当業者が容易に発明できたものとはいえず,甲1に基づく進歩性の理由によって,本件発明2に係る特許を取り消すことはできない。
(3)本件発明3について
本件発明3は,本件発明2と同様に,「前記製品切断面側の外側に位置する外刃先角とを含み」という発明特定事項を有しているから,本件発明3と甲1発明は,上記相違点B2と同様の相違点を有するものであり,上記(2)に示す理由と同様の理由により,本件発明3は,甲1発明,甲2ないし7及び参考資料1ないし4に記載された事項から,当業者が容易に発明できたものとはいえず,甲1に基づく進歩性の理由によって,本件発明3に係る特許を取り消すことはできない。
(4)本件発明4ないし6について
本件発明4ないし6は,本件発明2又は3を直接又は間接的に引用したものであるから,上記(2)又は(3)に示す理由と同様の理由により,甲1発明,甲2ないし7及び参考資料1ないし4に記載された事項から,当業者であっても容易に発明をすることができたものとはいえず,甲1に基づく進歩性の理由によって,本件発明4ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
(5)本件発明7について
ア.甲1発明の2
甲1の記載事項(上記(1)ア.)を整理すると,甲1には以下の発明が記載されているということができる。
「ポリエステルフィルム等のフレキシブル基体と,その片面または両面に形成された磁気記録層102とを含むディスク型磁気記録媒体であって,
前記ディスク型磁気記録媒体は,外周の円周面部と,
前記ディスク型磁気記録媒体の後端面の周囲に形成され,長尺材でなる磁気記録媒体材1から打ち抜かれた際に生じた後端切断面部とを含む,ディスク型磁気記録媒体。」(以下「甲1発明の2」という。
イ.対比
本件発明7と甲1発明の2を対比する。
甲1発明の2の「ポリエステルフィルム等のフレキシブル基体」と本件発明7の「弾性材で構成された本体」は,「高分子材料で構成された本体」という点で一致する。
また,甲1発明の2の「その片面または両面に形成された磁気記録層102」と本件発明7の「この本体の表面に積層された不活性フィルム」は,「この本体の表面に積層された被覆層」という点で一致する。
また,甲1発明の2の「ディスク型磁気記録媒体」と本件発明7の「医療用注射器に適用されるガスケット」は,「打ち抜き製品」という点で一致する。
また,甲1発明の2の「外周の円周面部」と本件発明7の「シリンジの内周面に接する円周面部」は,「円周面部」という点で一致する。
また,甲1発明の2の「長尺材でなる磁気記録媒体材1」と本件発明7の「成型シート」は,「シート」という点で一致する。
そうすると,本件発明7と甲1発明の2は,以下の点で一致及び相違する。
<一致点C>
「高分子材料で構成された本体と,この本体の表面に積層された被覆層とを含む打ち抜き製品であって,
前記打ち抜き製品は,円周面部と,
前記打ち抜き製品の後端面の周囲に形成され,シートから打ち抜かれた際に生じた後端切断面部とを含む,打ち抜き製品。」である点。
<相違点C1>
「打ち抜き製品」,「本体」,「被覆層」及び「円周面部」が,本件発明7は,「医療用注射器に適用されるガスケット」,「弾性材で構成された本体」,「この本体の表面に積層された不活性フィルム」及び「シリンジの内周面に接する円周面部」であるのに対して,甲1発明の2は,「ディスク型磁気記録媒体」,「ポリエステルフィルム等のフレキシブル基体」,「その片面または両面に形成された磁気記録層102」及び「外周の円周面部」である点。
<相違点C2>
本件発明7は,「前記後端切断面部は,前記ガスケットの軸方向に対して,後方に向かって縮径するように斜め方向に傾いていて,シリンジの内周面に接しない周径となっている」のに対して,甲1発明の2は,そのようなものではない点。
<相違点C3>
シートが,本件発明7は「成型シート」であるのに対して,甲1発明の2は,「長尺材でなる磁気記録媒体材1」である点。
ウ.相違点の判断
相違点C1を検討すると,甲1には,当業者が,ディスク型磁気記録体に替えて,ガスケットを構成しようと試みる動機となるような記載や示唆はないし,申立人が提出する甲2ないし7及び参考資料1ないし4にも,当業者が,甲1のディスク型磁気記録体に替えて,ガスケットを構成しようと試みる動機となるような記載や示唆はない。
申立人は,甲2に打ち抜き金型でガスケットを製造することの開示があり,甲1にも打ち抜き金型でディスク型磁気記録体を製造することが示されている点や,甲2のガスケットと甲1のディスク型磁気記録体は,被覆層を有する高分子材料という点で共通することなどを根拠に,甲1発明の2のディスク型磁気記録体に替えてガスケットを構成することが容易想到であると説明している。
しかし,甲2のガスケットは,シリンジの内周面に接することができる程度の弾性を有し,その被覆層は,シリンジの内周面との摩擦抵抗を少なくするものであるのに対して,甲1のディスク型磁気記録体は,そのような弾性を有するものでなく,被覆層は,摩擦抵抗を少なくするものでないから,甲1のディスク型磁気記録体と甲2のガスケットは,機能が全く異なる。
そうすると,甲1のディスク型磁気記録体と甲2のガスケットが,打ち抜き製品として共通するとしても,当業者が,甲1のディスク型磁気記録体に替えて,甲2のガスケットを構成しようと試みることはないから,相違点C1に係る本件発明7の構成は,甲1発明の2,甲2ないし7及び参考資料1ないし4に記載された事項から,当業者が容易に想到できたものとはいえない。
エ.小活
したがって,上記相違点C2及びC3について検討するまでもなく,本件発明7は,甲1発明の2,甲2ないし7及び参考資料1ないし4に記載された事項から,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず,甲1に基づく進歩性の理由によって,本件発明7に係る特許を取り消すことはできない。
5.甲2に基づく進歩性の理由の検討(本件発明1ないし7)
(1)甲2発明の2
ア.甲2の記載事項から明らかな技術的事項
甲2の図6(上記3.(1)ア.)には,下刃101が左右方向に2つ記載されているが,左側に位置する下刃101の右側の角部により,ガスケット1の外周の左側が切断され,右側に位置する下刃101の左側の角部により,ガスケット1の外周の右側が切断されることは明らかであるから,これらの角部を,ガスケット1の外縁を切断するためのガスケット1切断面側に位置する内刃先角ということができる。
また,図6には,左側に位置する下刃101の左側の角部と,右側に位置する下刃101の右側の角部が示されており,これらの角部を,ガスケット1切断面側の外側に位置する外刃先角ということができる。
イ.甲2発明の2
上記ア,に示す技術的事項を踏まえて,甲2の記載事項(上記3.(1)ア.)を整理すると,甲2には以下の発明が記載されているということができる。
「下刃101及び上刃103を備え,前記下刃101及び上刃103の間に成型シート105をセットし,成型シート105にテンションをかけた状態で前記上刃103を下降させることによって,前記成型シート105からガスケット1を打ち抜く打ち抜き型であって,
前記下刃101は,前記ガスケット1の外縁を切断するためのガスケット1切断面側に位置する内刃先角と,前記ガスケット1切断面側の外側に位置する外刃先角とを含む,打ち抜き型。」(以下「甲2発明の2」という。
(2)本件発明2について
ア.対比
本件発明2と甲2発明の2を対比する。
甲2発明の2の「下刃101」が本件発明2の「下刃」に相当することは明らかであり,以下同様に,「上刃103」が「上刃」に,「ガスケット1」が「製品」に,「打ち抜き型」が「打ち抜き装置」に相当する。
また,甲2発明の2の「成型シート105」は,「ガスケット1」の製造のために打ち抜くシートであるから,本件発明2の「成型シートでつながった製品」及び「製品をつないでいる成型シート」に相当する。
また,甲2発明の2において,「前記上刃103を下降させること」は,上刃103の下降により下刃101と挟み合うことが明らかであるから,本件発明2の「前記下刃および上刃を挟み合わせること」に相当する。
そうすると,本件発明2と甲2発明の2は,以下の点で一致及び相違する。
<一致点D>
「下刃および上刃を備え,前記下刃および上刃の間に成型シートでつながった製品を配置し,製品をつないでいる成型シートにテンションをかけた状態で前記下刃および上刃を挟み合わせることによって前記成型シートから前記製品を打ち抜く打ち抜き装置であって,
前記下刃または上刃は,前記製品の外縁を切断するための製品切断面側に位置する内刃先角と,前記製品切断面側の外側に位置する外刃先角とを含む,打ち抜き装置。」である点。
<相違点D>
本件発明2は,「前記外刃先角に角アールが付与されており,前記外刃先角に付与された角アールは,曲率半径が0.02mm以上である」のに対し,甲2発明の2は,外刃先角に角アールが付与されているか否か不明な点。
イ.相違点の判断
甲2の【0043】及び図7(上記3.(1))の記載からみて,甲2発明の2の外刃先角は,ストリッパープレート102との間で成型シート105を挟むことで,テンションをかける機能を有するものと解され,当該外刃先角によって成型シートを切断することを意図して設けられたものではない。
これに対して,甲1には,上下打抜金型2,3の刃のエッジ部分に丸み2a,3aを持たせ,当該丸み2a,3aの半径を2~8μm程度の曲面とすることが記載されている(上記4.(1)ア.(ウ))。
しかし,甲1の上下打抜金型2,3の刃のエッジ部分は,ディスク型磁気記録媒体の中心孔103の内周や,当該記録媒体の外周を切断するための刃である(上記4.(1)イ.)から,甲2発明の2の外刃先角に相当するものとはいえない。
そして,甲1の上下打抜金型2,3の刃のエッジ部分は,ディスク型磁気記録媒体の中心孔103の内周や,当該記録媒体の外周の切断面のバリ及びクラックを低減させる機能を有するものと解される(上記4.(1)ア.(イ))。
そうすると,甲1及び2に接した当業者は,成型シートにテンションをかける機能を有し,切断は意図していない甲2発明の2の外刃先角に,切断面のバリ及びクラックを低減させる機能を有する甲1の丸み2a,3aを適用しようとする動機があるとはいえない。
また,甲3ないし7,及び参考資料1ないし4には,ストリッパープレートとの間で成型シートを挟むことで,テンションをかける機能を有する外刃先角に対して,角アールを付与しようと試みる動機となる記載や示唆はないから,上記相違点Dに係る本件発明2の構成は,甲2発明の2,甲1及び3ないし7,並びに参考資料1ないし4に記載された事項から,当業者が容易に想到発明できたものとはいない。
ウ.小活
したがって,本件発明2は,甲2発明の2,甲1及び3ないし7,並びに参考資料1ないし4に記載された事項から,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず,甲2に基づく進歩性の理由によって,本件発明2に係る特許を取り消すことはできない。
(3)本件発明3について
本件発明3は,本件発明2と同様に,「前記外刃先角に角アールが付与されており,前記外刃先角に付与された角アールは,曲率半径が0.02mm~0.5mmである」という発明特定事項を有しているから,本件発明3と甲2発明の2は,上記相違点Dと同様の相違点を有するものであり,上記(2)に示す理由と同様の理由により,本件発明3は,甲2発明の2,甲1及び3ないし7,並びに参考資料1ないし4に記載された事項から,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず,甲2に基づく進歩性の理由によって,本件発明3に係る特許を取り消すことはできない。
(4)本件発明4ないし6について
本件発明4ないし6は,本件発明2又は3を直接又は間接的に引用したものであるから,上記(2)又は(3)に示す理由と同様の理由により,甲2発明の2,甲1及び3ないし7,並びに参考資料1ないし4に記載された事項から,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず,甲2に基づく進歩性の理由によって,本件発明4ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
(5)本件発明7について
ア.対比
本件発明7と甲2発明を対比すると,上記3.(2)のとおり,一致点Aで一致し,相違点Aで相違する。
イ.相違点の判断
甲7の図1ないし3には,ガスケットのロッド挿入後端部の形状が,先端側から後端側に向けて縮径するように斜め方向に傾いていること示されている。
図1
「
」
図2
「
」
図3
「
」
しかし,甲7には,ガスケットのロッド挿入後端部の形状を,先端側から後端側に向けて縮径するように斜め方向に傾けた形状とすることにより,どのような作用効果や技術的な意義が生じるのか,何も記載されていない。
また,甲2には,甲2発明の切断部6の形状に起因して,何らかの技術的な問題が生じるといった記載や示唆はない。
そうすると,甲2及び7に接した当業者が,甲2発明の切断部6の形状に替えて,甲7の図1ないし3に示すような,先端側から後端側に向けて縮径するように斜め方向に傾いた形状を採用しようと試みる動機がないというほかない。
また,申立人が提出する甲1及び3ないし6,並びに参考資料1ないし4を参照しても,甲2発明の切断部6の形状に替えて,甲7に示すような形状を採用しようと試みる動機となる記載や示唆はないから,上記相違点Aに係る本件発明7の構成は,甲2発明,甲1及び3ないし7,並びに参考資料1ないし4に記載された事項から,当業者が容易に想到できたものとはいえない。
ウ.小活
よって,本件発明7は,甲2発明,甲1及び3ないし7,並びに参考資料1ないし4に記載された事項から,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず,甲2に基づく進歩性の理由によって,本件発明7に係る特許を取り消すことはできない。
6.サポート要件の理由の検討
(1)不活性フィルムのサポート要件に対して(本件発明2,3及び6)
上記第4の3.(2)ウ.に説示する理由と同様の理由により,サポート要件の理由によって,本件発明2,3及び6に係る特許を取り消すことはできない。
(2)角アールの曲率半径のサポート要件に対して(本件発明1)
本件訂正請求により,本件発明1は削除されたため,角アールの曲率半径のサポート要件を検討する対象が存在しない。
したがって,角アールの曲率半径のサポート要件の理由は,却下すべきものである。
7.明確性の理由の検討
(1)角アールの曲率半径の明確性に対して(本件発明2)
申立人は,外刃先角の曲率半径が下限値しか特定されていないから不明確である旨を主張するが,数値の上限が規定されていないからといって,発明が不明確であるということはできない。
すなわち,本件発明2には「曲率半径が0.02mm以上」との記載があり,当該記載は,曲率半径が0.02mmを含み,かつ,それよりも大きいことを意味し,その意味は明確である。
また,本件発明2は,成型シートにテンションをかけた状態で打ち抜くことを特定しており,テンションがかかることを前提とするものであるから、テンションがかからない場合があるとの申立人の主張は失当である。
したがって,角アールの曲率半径の明確性の理由により,本件発明2に係る特許を取り消すことはできない。
(2)テンションについての明確性に対して(本件発明6)
上記第4の3.(2)ア.で説示するとおり,いわゆる「テンション抜き」は,本件特許に係る出願時の技術常識であるから,当業者は,当該技術常識を参酌することで,「テンションを付与する」ことと,上刃及び下刃との構造的関係を理解できる。
したがって,テンションについての明確性の理由により,本件発明6に係る特許を取り消すことはできない。
(3)プロダクトバイプロセスクレームの明確性に対して(本件発明4及び7)
本件発明4の「成型されて作られた」という記載は,本件発明4の打ち抜き装置が打ち抜く対象である「成型シート」が成型されたことを意味するものであり,本件発明4の「打ち抜き装置」が成型されたことを意味するものではないから,本件発明4の「打ち抜き装置」という物の発明が,製造方法によって特定されていることにはならない。
また,本件発明7の「成型シートから打ち抜かれた際」という記載は,「後端切断面部」が成型シートから打ち抜かれて生じたものであることを意味し,打ち抜きによって生じた断面の状態を示しているから,本件発明7の「ガスケット」という物の発明が,製造方法によって特定されていることにはならない。
したがって,プロダクトバイプロセスクレームの明確性の理由により,本件発明4及び7に係る特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおり,請求項2ないし7に係る特許は,取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては,取り消すことができない。
また,他に請求項2ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに,請求項1に係る特許は,上記のとおり,訂正により削除された。 これにより,申立人による特許異議の申立てについて,請求項1に係る申立ては,申立ての対象が存在しないものとなったため,特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって,結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2019-700755