特許拒絶査定不服審判
2021-011597
除去対象体除去方法
- 審判番号
- 2021-011597
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-500309
- 請求日
- 2021年08月31日
- 審決日
- 2022年03月09日
- 公報発行日
- 2022年08月26日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】株式会社IHI
- 【請求人代理人】西澤 和純
- 【請求人代理人】寺本 光生
- 【請求人代理人】清水 雄一郎
- 【請求人代理人】高橋 久典
- 審判長/審判官
- 審判長 見目 省二
- 審判官 貞光 大樹
- 審判官 大山 健
- 分類
- P18 .121-WY (B26F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-500309「除去対象体除去方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 8月22日国際公開、WO2019/159535、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)12月21日(優先権主張 平成30年2月16日)を国際出願日とする出願であって、令和2年10月12日付けで拒絶理由通知がされ、令和2年12月9日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、令和3年3月3日付けで拒絶理由通知がされ、令和3年5月6日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、令和3年5月31日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、令和3年8月31日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。
第2 原査定の概要
原査定(令和3年5月31日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願請求項1-4、6に係る発明は、以下の引用文献1-4、6-8に記載された発明に基いて、請求項5に係る発明は、以下の引用文献1-8に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献等一覧
1.特表2016-517354号公報
2.特許第4445696号公報
3.特開2003-166212号公報
4.特開2003-190831号公報
5.特表2013-505129号公報
6.特開2001-114186号公報
7.特開2003-311691号公報
8.特公昭50-39846号公報
第3 本願発明
本願請求項1-6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明6」という。)は、令和3年5月6日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
液体が進入可能な微細孔を有する材料からなる除去対象体と、前記液体が進入可能な微細孔を有しない材料からなると共に前記除去対象体と一体化された残存対象体とを有する構造体から、前記除去対象体を除去する除去対象体除去方法であって、
噴射後に気化する液化流体を前記除去対象体に噴射して前記微細孔に前記液化流体を進入させ、
前記液化流体を噴射することで前記除去対象体の穿孔を進め、前記残存対象体が露出してから前記残存対象体を避けるように前記液化流体の噴射方向を変更する
除去対象体除去方法。
【請求項2】
内部に前記液化流体を案内する流路を有すると共に先端部に噴射開口を有する管体部を備えるノズルユニットによって前記液化流体を噴射する請求項1記載の除去対象体除去方法。
【請求項3】
前記管体部は、噴射開口を有する先端部が屈曲あるいは湾曲して基部に対して接続されると共に前記先端部及び前記基部を含む部位に前記液化流体を案内する流路が形成されている請求項2記載の除去対象体除去方法。
【請求項4】
前記除去対象体は、コンクリート材である請求項1~3いずれか一項に記載の除去対象体除去方法。
【請求項5】
前記除去対象体は、繊維強化プラスチック材である請求項1~3いずれか一項に記載の除去対象体除去方法。
【請求項6】
前記液化流体が液体窒素である請求項1~5いずれか一項に記載の除去対象体除去方法。」
第4 引用発明
1 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに以下の記載がある(下線は当審で付与した。以下同様。)。
(1)「【0001】
本発明は、極低温にある高圧流体のジェットを分配するための装置と、材料の表面を研磨又はスケール除去するために、特には、コンクリート表面をスケール除去するために、このような装置を使用する方法に関する。」
(2)「【0003】
1つの代替は、特定の表面又は被覆を研磨又はスケール除去するために、特には液体窒素である、極低温にある高圧流体の1つ又は複数のジェットを用いることである。このような作業の間、液体窒素の各々のジェットの以下の3つの効果が組み合わされる。
- ジェットの機械的な効果。つまり、基質に衝突する液体窒素の圧力の衝撃。
- 液体状態の窒素の極低温効果。つまり、典型的には-130℃未満の極低温である。
- 液体窒素が、より大きな体積を占める気相へと液相から遷移するときの、液体窒素の大気との接触における素早い加温によって発生される「吹き付け効果」。したがって、1リットルの液体窒素は、700リットルの気体の窒素へと蒸発する。
【0004】
コンクリートのスケール除去など、ある用途では、これは、要求される仕事を完遂するためには、関与する液体窒素の「吹き付け」効果が主である。
その場合、液体窒素の各々のジェットは、コンクリートの表面を「破裂させて開き」、コンクリートの構成物質をすべての方向に吹き飛ばす。
通常、表面又は被覆の研磨又はスケール除去は、概して、-100℃未満、好ましくは-130℃と-160℃との間の温度にあり、少なくとも300bar、好ましくは1000barと5000barとの間の圧力にある、極低温流体のジェットとも称される、極低温にある高圧流体の1つ又は複数のジェットによって実施される。」
(3)「【0015】
本発明の別の態様は、本発明による装置を用いて分配される、極低温にある高圧流体の1つ又は複数のジェット(5)を用いて、好ましくはコンクリート表面である、処理される表面を研磨又はスケール除去するための方法に関する。
有利には、極低温にある高圧流体の1つ又は複数のジェットが、少なくとも300bar、好ましくは1000barと5000barとの間の圧力にあり、-100℃未満、好ましくは-130℃と-160℃との間の温度にある。
優先的には、使用される流体は液体窒素である。
本発明の方法は、有利には、コンクリート表面を研磨又はスケール除去するために実行される。
ここで、本発明は、添付の図を参照しつつ提供される以下の詳細な説明から、より良く理解されることになる。」
2 引用文献1に記載された発明
上記1(1)-(3)の記載から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明1>
「コンクリートから、コンクリート表面を研磨またはスケール除去する方法であって、コンクリート表面に対して液体窒素の高圧のジェット(5)を用いて、『吹き付け効果』を利用してコンクリート表面を研磨またはスケール除去する方法。」
第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1における「コンクリート表面」及び「スケール」は、「コンクリート」の一部であって、研磨またはスケール除去される対象体であることから、引用発明1における「コンクリート表面」及び「スケール」は、本願発明1における「除去対象体」に相当する。
また、「コンクリート」は、「コンクリート表面」が研磨またはスケール除去された後において、「コンクリート表面及びスケール以外の部分」が残っているもの(残存対象体)であることから、「コンクリート」は、「コンクリート表面及びスケール」と、「コンクリート表面及びスケール以外の部分」とが一体化された構成であるといえ、すなわち、引用発明1における「コンクリート」は、本願発明1における「『除去対象体』と、前記除去対象体と一体化された『残存対象体』とを有する『構造体』」に相当する。
してみると、引用発明1における「コンクリートから、コンクリート表面を研磨またはスケール除去する方法」は、本願発明1における「除去対象体と、前記除去対象体と一体化された残存対象体とを有する構造体から、前記除去対象体を除去する除去対象体除去方法」に相当する。
イ 引用発明1における「液体窒素」は、本願発明1の「液化流体」に相当する。
ウ 引用発明1におけるコンクリート表面に対して液体窒素の「高圧のジェット(5)を用い」ることは、本願発明1の液化流体を除去対象体に「噴射」することに相当する。
エ 引用発明1における「吹き付け効果」は、上記第4の1(2)に記載のとおり、液体窒素の大気との接触における素早い加温によって液相から気相へと遷移するときに発生する効果であることから、「液体窒素」は、「高圧のジェット(5)」として噴射された後に、液相から気相へと遷移するものといえる。
よって、引用発明1における「吹き付け効果」を利用する「液体窒素」は、本願発明1の「噴射後に気化する液化流体」に相当する。
したがって、本願発明1と引用発明1の一致点、相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「除去対象体と、前記除去対象体と一体化された残存対象体とを有する構造体から、前記除去対象体を除去する除去対象体除去方法であって、
噴射後に気化する液化流体を前記除去対象体に噴射する、
除去対象体除去方法。」
<相違点1>
本願発明1は、「除去対象体」が「液体が進入可能な微細孔を有する材料」からなり、「残存対象体」が「前記液体が進入可能な微細孔を有しない材料」からなり、「前記除去対象体に噴射」する「液化流体」を「前記微細孔」に「進入」させる「除去対象体除去方法」であると特定されているのに対し、引用発明1では、「除去対象体」が「コンクリート表面」及び「スケール」であり、「残存対象体」が「コンクリート」における「コンクリート表面及びスケール以外の部分」であり、「コンクリート表面に対して液体窒素の高圧のジェット(5)を用いて、『吹き付け効果』を利用」して「コンクリート表面を研磨またはスケール除去する方法」である点。
<相違点2>
本願発明1は、「前記液化流体を噴射することで前記除去対象体の穿孔を進め、前記残存対象体が露出してから前記残存対象体を避けるように前記液化流体の噴射方向を変更する」という点が特定されているのに対し、引用発明1は、「コンクリート表面を研磨またはスケール除去」するものであり、本願発明1のように「前記除去対象体の穿孔を進め、前記残存対象体が露出してから前記残存対象体を避けるように前記液化流体の噴射方向を変更する」ものではない点。
(2)相違点についての判断
相違点1について検討する。
ア 本願明細書の段落【0014】には、
「本開示によれば、液化流体が気化する際の膨張力によって除去対象体を壊し、これによって除去対象体を除去する。液体が気化する場合の膨張率は例えば数百倍以上である。このため、液化流体を除去対象体の微細孔に進入させ、液化流体の膨張力を利用することによって除去対象体を容易に崩すことができる。一方で、液体が進入可能な微細孔を備えない残存対象体の内部には気化流体が進入しないため、気化流体の膨張によって残存対象体が壊れることはない。したがって、本開示によれば、残存対象体の位置を考慮することなく、噴射先に残存対象体が位置する場合でも、除去対象体の穿孔を続けることができる。したがって、本開示によれば、液体が進入可能な微細孔を有する材料からなる除去対象体と、液体が進入可能な微細孔を有しない材料からなると共に除去対象体と一体化された残存対象体とを有する構造体から、除去対象体を容易に除去することが可能となる。」
と記載され、さらに段落【0030】には、
「続いて、作業者は、ノズルユニット6の先端部62をコンクリート材11の表面に当て液体窒素Xを噴射する。このとき噴射された液体窒素Xは、コンクリート材11のポーラスの内部に進入し、ポーラスの内部にて気化膨張する。言い換えれば、液体窒素Xを、コンクリート材11のポーラス内に進入させるようにコンクリート材11に噴射する。この結果、液体窒素Xが進入した領域にてコンクリート材11が崩れ、孔部20が形成される。そして、作業者は、ノズルユニットの姿勢を変更することによって、孔部20を徐々に拡径かつ掘り進める。
なお、液体窒素Xをコンクリート材11へ噴射し、コンクリート材11のポーラス内に進入した液体窒素Xが気化するまでの間、液体窒素Xの噴射及び噴射位置を維持するようにしてもよい。この場合、コンクリート材11のポーラス内に液体窒素Xが進入した後、新たに噴射された液体窒素Xがポーラスの開口を塞ぐように働き、ポーラス内の液体窒素Xが気化した際の膨張力をポーラスの内面に適切に加えることができ、よって当該ポーラス及びその近傍のコンクリート材11を効率良く崩すことができる。」
と記載されていることから、本願発明1における除去対象体除去方法の原理は、液化流体を除去対象体の微細孔に進入させ、微細孔の内部にて気化膨張させることで、液化流体が進入した領域を崩す、という原理によるものであり、この原理のため、微細孔を備えない残存対象体は液化流体の膨張によって壊れることはなく、除去対象体のみが選択的に除去されると理解される。
イ 一方で、引用発明1におけるコンクリート表面を研磨またはスケール除去する方法は、液体窒素の大気との接触における素早い加温によって発生される「吹き付け効果」(段落【0003】)により、コンクリートの表面を「破裂させて開き」、コンクリートの構成物質をすべての方向に吹き飛ばす(段落【0004】)、という原理によるものであるが、この破裂が、コンクリート内部に進入させた液体窒素が内部で気化膨張して生ずる現象を利用したものであるか不明である上、引用発明1では、除去対象体と残存対象体は、いずれもコンクリートを含むものであることから、除去対象体は液体が進入可能な微細孔を有する材料からなり、残存対象体は液体が進入可能な微細孔を有しない材料からなる、とは認められず、引用発明1におけるコンクリート表面を研磨またはスケール除去する方法は、微細孔への液体窒素の進入を利用して除去対象体のみを選択的に除去可能とする方法であるとはいえない。
ウ 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2-4、7には、ウォータージェットによる除去対象体除去方法について記載されているものの、液化流体を除去対象体の微細孔に進入させて、微細孔内部での気化膨張によって除去対象体を選択的に除去する方法については記載されていない。
また、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献6には、除去対象を除去する方法について何ら記載されていない。
さらに、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献8には、工業窯炉の炉壁2内面に付着堆積している炉滓3を除去する方法として、炉滓3に達するよう炉壁2に孔5を貫通し、該孔5に装入した炉滓除去装置6の先端の噴射ノズル8から液化炭酸ガス又は液化窒素ガスを高圧力高速度で噴出し、炉滓3の高熱によって気化して生じた急激な高圧力のガスの作用により、炉滓3を破砕して炉壁2から剥離除去する、という方法について記載されている(第2欄第15行-第3欄第13行)ものの、炭酸ガス又は窒素ガスを液化流体の状態で炉滓3の微細孔に進入させ、微細孔内部での気化膨張によって炉滓3を選択的に除去する点については記載されておらず、また、上記引用文献8に記載される方法は、炉壁2に孔5を貫通し、該孔5に炉滓除去装置6を装入するといった準備を必要とする技術であるため、引用発明1のようなコンクリート表面を研磨またはスケール除去する発明に適用する動機づけを見出すことはできないものである。
エ したがって、引用文献1-4、6-8には、いずれも、本願発明1の相違点1に係る方法である、除去対象体が、液体が進入可能な微細孔を有する材料からなり、残存対象体が、前記液体が進入可能な微細孔を有しない材料からなり、前記除去対象体に噴射する液化流体を前記微細孔に進入させる除去対象体除去方法について記載されておらず、当該方法により、除去対象体のみを選択的に除去する、という効果を発揮させることができないものであることから、引用発明1において、引用文献2-4、6-8に記載された技術に基いて、本願発明1の相違点1に係る方法を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、引用文献1-4、6-8に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、原査定の理由を維持することはできない。
2 本願発明2-4、6について
本願発明1を直接的又は間接的に引用する本願発明2-4、6も、上記相違点1-相違点2に係る構成を備えるものである。
したがって、本願発明1と同じ理由により、本願発明2-4、6は、引用文献1-4、6-8に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、原査定の理由を維持することはできない。
3 本願発明5について
本願発明1を直接的又は間接的に引用する本願発明5も、上記相違点1-相違点2に係る構成を備えるものである。
そして、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5には、加圧液体窒素噴射によりガスボトルの本体上に存在するコーティング層を除去する方法について記載されている(段落【0008】)ものの、コーティング層が、液体が進入可能な微細孔を有する層であり、加圧液体窒素をコーティング層の前記微細孔の内部に進入させ、微細孔内部での気化膨張によってコーティング層を内部から崩して除去する点については記載されていない。
したがって、本願発明1と同じ理由により、本願発明5は、引用文献1-8に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、原査定の理由を維持することはできない。
第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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