特許異議申立
2019-700116
回転機械の羽根車、コンプレッサ、過給機及び回転機械の羽根車の製造方法
- 審判番号
- 2019-700116
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-507241
- 登録番号
- 特許第6386162号(P6386162)
- 請求日
- 2019年02月13日
- 審決日
- 2020年02月25日
- 公報発行日
- 2020年05月29日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社
- 【権利者代理人】誠真IP特許業務法人
- 【異議申立人】株式会社 カワイ
- 【異議申立人代理人】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 久保 竜一
- 審判官 佐々木 芳枝
- 審判官 窪田 治彦
- 分類
- P1652.121-Z (F04D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6386162号発明「回転機械の羽根車、コンプレッサ、過給機及び回転機械の羽根車の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6386162号の請求項1及び9に係る特許を取り消す。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6386162号の請求項1ないし12に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2015年(平成27年)3月25日を国際出願日とする出願であって、平成30年8月17日に特許権の設定登録がされ、同年9月5日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成31年 2月13日 :特許異議申立人本件特許のうち請求項1及び請求項9に係る特許についての特許異議の申立て
令和 元年 5月31日付け:取消理由通知書
令和 元年 8月 1日 :特許権者による意見書の提出
令和 元年 9月13日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和 元年11月15日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
令和 元年12月26日付け:訂正拒絶理由通知書
令和 2年 2月10日 :特許権者による訂正請求取下書の提出
第2 本件特許発明
特許第6386162号の請求項1及び9に係る発明(以下それぞれ「本件特許発明1」及び「本件特許発明9」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1及び9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
回転機械の羽根車であって、
Al又はAl合金によって構成される前記羽根車の基材と、
前記基材を覆うように設けられて前記羽根車の表面層を形成する無電解めっき皮膜と、を備え、
前記無電解めっき被膜は、アモルファス構造を有し、且つ、前記無電解めっき皮膜中におけるP含有率が5重量%以上11重量%以下であるNi-P系合金であることを特徴とする回転機械の羽根車。」
「【請求項9】
回転機械の羽根車の製造方法であって、
Al又はAl合金によって構成される前記羽根車の基材を覆うように、前記羽根車の表面層として無電解めっき皮膜を形成するステップを備え、
前記無電解めっき皮膜は、アモルファス構造を有し、且つ、前記無電解めっき皮膜中におけるP含有率が5重量%以上11重量%以下であるNi-P系合金であることを特徴とする回転機械の羽根車の製造方法。」
第3 取消理由の概要
請求項1及び9に係る特許に対して、当審が令和元年9月13日付けの取消理由通知(決定の予告)において特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
請求項1及び9に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1及び9に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
よって、請求項1及び9に係る特許は、取り消されるべきものである。
第4 甲第1号証及び甲第2号証
1.甲第1号証
(1)甲第1号証の記載
本件特許の出願前に頒布された甲第1号証(特開2014-163345号公報)には、「舶用ディーゼル機関の排気再循環システム」に関して、次のような記載がある(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)。
ア.「【0001】
本発明は、過給機のコンプレッサに発生するエロージョン等を防止可能にした舶用ディーゼル機関の排気再循環システムに関する。」
イ.「【0004】
しかし、排気をスクラバに通すと、スクラバを通過した後の排気中に液滴が含まれるようになる。一方、ディーゼル機関では、性能向上のため、過給機がよく用いられている。本発明者等は、給気路に過給機を構成するコンプレッサが設けられ、再循環した排気と給気との混合流が該コンプレッサを通過すると、排気中に含まれる液滴により、コンプレッサの羽根車の表面が機械的に変形又は削り取られるエロージョンが発生し易いという現象に着目した。また、本発明者等は、舶用ディーゼル機関の燃料として使用される重油には、S(硫黄)成分が含まれる。S成分を含む液滴によって、コンプレッサの翼面に化学的な腐食(コロージョン)が発生し易いという現象を見い出した。」
ウ.「【0011】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、再循環路にスクラバを有する舶用ディーゼル機関の排気再循環システムにおいて、簡易かつ低コストな手段で、過給機のコンプレッサに発生するエロージョンやコロージョン等の損傷を防止することを目的とする。」
エ.「【0026】
図2は、コンプレッサ20を構成する羽根車38を示す。羽根車38は、Al又はAl合金で製造され、半径方向に放射状に配置された複数のブレード40を有している。羽根車38は回転軸22に結合され、回転軸22を介して排気タービン18に連結されている。コンプレッサ20は、排気の動圧によって排気タービン18と共に回転軸22を中心に回転する。
【0027】
羽根車38は、ブレード40を含めた全表面に、無電解メッキ法を用いて被覆された、Ni-P合金からなるメッキ被膜が形成されている。メッキ被膜の膜厚は、後述するように、15μm以上60μm以下とするとよい。排気循環路24から再循環された排気を含む給気aは、回転軸22の軸線方向から入り、羽根車38の回転により加圧され、羽根車38の半径方向外側へ向けて吐出される。ブレード40の前縁40aが給気aの進入方向に対面した位置に配置されている。」
オ.上記エ.の記載から、羽根車38の基材は、Al又はAl合金によって構成されることが理解できる。
カ.上記エ.の記載から、メッキ被膜は、基材を覆うように設けられて羽根車38の表面層を形成するとともに、無電解メッキ法を用いて被覆されたものであることが理解できる。
キ.上記エ.の記載から、コンプレッサ20の羽根車38の製造方法は、 Al又はAl合金によって構成される羽根車38の基材を覆うように羽根車38の表面層として無電解メッキ法を用いてメッキ被膜と形成するステップを備えることが理解できる。
(2)甲第1号証に記載された発明
上記(1)及び図面を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明1」及び「甲1発明2」といい、これらを総称して「甲1発明」ともいう。)が記載されている。
ア.甲1発明1
「コンプレッサ20の羽根車38であって、
Al又はAl合金によって構成される前記羽根車38の基材と、
前記基材を覆うように設けられて前記羽根車38の表面層を形成する無電解メッキ法を用いて被覆されたメッキ被膜と、を備え、
前記メッキ被膜は、Ni-P系合金からなるコンプレッサ20の羽根車38。」
イ.甲1発明2
「コンプレッサ20の羽根車38の製造方法であって、
Al又はAl合金によって構成される前記羽根車38の基材を覆うように、前記羽根車38の表面層として無電解メッキ法を用いてメッキ被膜を形成するステップを備え、
前記メッキ被膜は、Ni-P系合金からなるコンプレッサ20の羽根車38の製造方法。」
2.甲第2号証
(1)甲第2号証の記載
本件特許の出願前に頒布された甲第2号証(特開2008-127598号公報)には、「耐食性めっき層形成方法および回転機械」に関して、次のような記載がある。
ア.「【0001】
本発明は、無電解ニッケル系めっきによる耐食性めっき層形成方法、及び、この耐食性めっき層形成方法が施された回転機械に関するものである。」
イ.「【0002】
発電プラントや化学プラントに用いられる圧縮機(回転機械)は、CO2、H2S、H2O等の腐食性ガスを含むガスを圧縮する。圧縮機の基材として炭素鋼(鋳鉄、鋳鋼、鍛鋼)が用いられる場合には、防食性が不十分であるため、腐食性ガスに曝されるダイヤフラムやインペラに対してNi-P等の無電解ニッケル系めっきが施されるのが一般的である。
しかし、特に炭素鋼では、図11に示すように、鋳造時の巣といった欠陥が形成され易く、基材100の表面に開口する複数の孔100aが形成される。このような孔100aが存在すると、基材100上に無電解めっきを行っても、無電解めっき層101中に表面まで貫通する貫通ピンホール101aが形成されてしまう。
このような貫通ピンホール101aが存在すると、図12に示すように、腐食液が基材100まで浸透し、基材100上に腐食生成物100bを形成する。そして、この腐食生成物100bが次第に成長し、最終的には無電解めっき層101が剥離してしまう。
上述のような貫通ピンホールは、ダイヤフラムやインペラ等の複雑な形状部分を起点として形成されることもある。」
ウ.「【0020】
以下に、本発明にかかる実施形態について、図面を参照して説明する。
本実施形態は、CO2、H2S、H2O等の腐食性ガスに曝される圧縮機のダイヤフラムやインペラに、無電解Ni-Pめっきによって防食処理を施すものである。防食処理が行われる基材としては、炭素鋼(鋳鉄、鋳鋼、鍛鋼)が用いられる。
図1には、基材上に、無電解Ni-Pめっきによって防食処理を行う工程が示されている。
同図に示すように、基材に対して、洗浄、脱脂、水洗を行い、次いで、酸洗を行った後、水洗を行う。そして、希硫酸で酸洗を行い、水洗を行った後に、無電解Ni-Pめっきを行う。以上により、第1めっき工程が終了する。これにより、図2に示すように、基材1上に、第1めっき層3が形成される。なお、同図では、第1めっき層3に形成された貫通ピンホール3aが示されている。」
エ.「【0026】
次に、実施例について説明する。
[無電解Ni-PめっきのP濃度の検討]
先ず、無電解Ni-PめっきのP濃度の最適化を行うため、P濃度を変化させ、分極特性測定によって腐食速度を評価した。
(1)供試材
JIS SPCC(炭素鋼冷間圧延材)を基材とし、その表面にP濃度を2.5~12.5wt%に変化させた無電解Ni-Pめっきを表1の条件で成膜した。
表1 無電解Ni-Pめっき試験 作製液種
【表1】(省略)
【0027】
(2)試験方法
電気化学腐食試験によりアノード・カソード分極曲線を測定し、ターフェル法により腐食電流密度(Icorr)を求め(図3参照)、耐食性を評価した。
図4には、本試験に用いた電気化学的腐食試験装置が示されている。試験液10内にサンプル12が浸漬され、サンプル12は、Pt製の対極14に対向して配置されている。
試験液10は、周囲に配置された水加熱式のヒータ18によって温度調節される。試験液10の温度は、温度計16によって計測される。試験液10内には、模擬腐食性ガスとして、CO2及びH2Sガスが吹き込まれる。また、試験液10は、スターラ20によって攪拌される。
サンプル12及び対極14は、それぞれ、ポテンシオガルバノスタット21に接続されている。サンプル12には、塩橋22が接続されている。塩橋22の他端は、ポテンシガルバノスタット21に接続された照合電極(Ag/AgCl電極)23とともに、浴槽24内に浸漬されている。
表2に、本試験の測定条件を示す。
表2 分極特性測定条件
【表2】(省略)
【0028】
(3)試験手順
試験手順は以下の通りである。
(a)ガラス製電解槽(400ml容量でシ゛ャケット式)中に試験液350mlを入れる
(b)照合電極としてAg/AgCl電極、対極にPt、試験極にサンプル12(測定試験片)をセットする
(c)攪拌を0.3m/s、CO2ガス及びH2Sガスのバブリングを行いながら試験液を80℃まで昇温する
(d)測定試験片(サンプル12)の自然電位(Ecorr)を30分測定する
(e)自然電位より400mVカソード側に掃引速度 20mV/minで分極させる
(f)自然電位から1000mVアノード側に掃引速度20mV/minで分極させる
(g)上記(e)及び(f)から図3に示した分極曲線を得る
【0029】
(4)試験結果
図5に、上述の電気化学腐食試験による耐食性評価結果を示す。
本腐食環境では、無電解Ni-Pめっき中のP濃度が7~10wt%の組成域で最も耐食性が良好であるといえる。
P濃度7~10wt%の無電解Ni-Pめっきの耐食性が良好である理由を考察すると以下の通りである。
(i)2~3wt%P濃度めっき材との比較
Ni-2~3wt%P(約5wt%以下)では、めっき皮膜は結晶質になり、P濃度が7wt%を超えると非晶質となる。結晶質皮膜では、粒界での腐食基点により、非晶質より耐食性が劣ったものと考えられる。
(ii)10wt%以上の高Pめっき材との比較
当初は、高Pほど耐食性が良好であると予測されたが、本試験では、10wt%以上でむしろ耐食性が劣る結果となった。この理由として、高P材では孔食が多く発生しており、これに起因して耐食性が劣ったものと考えられる。めっき表面にはりん酸化物等の不動態皮膜が形成させるが、P%が大きいほど微結晶となると言われている。高Pの微結晶不動態皮膜は、破れやすい弱い点が多いことから、孔食が多数発生し、ターフェル法評価で腐食電流が大きい結果となった。
【0030】
以上の結果より、無電解Ni-PめっきのP濃度として、7~10wt%が好適である。
そこで、次に説明するめっき層の多層化の検討では、P濃度9~10wt%のめっきが成膜できる上村工業株式会社製のニムデンSXを用いることとする。」
オ.上記エ.の特に段落【0029】及び【0030】の記載から、耐食性を改善するために施される無電解Ni-Pめっき層においては、P含有率が7~10wt%であるとき最も耐食性が良好であって、そのめっき皮膜は非晶質となることが理解できる。
(2)甲第2号証に記載された事項
上記(1)及び図面の記載からみて、甲第2号証には次の事項が記載されている。
「回転機械のインペラの耐食性を改善するために施される無電解Ni-Pめっき層においては、P含有率が7~10wt%であるとき最も耐食性が良好であって、そのめっき皮膜は非晶質となること。」
第5 判断
1.本件特許発明1
本件特許発明1と甲1発明1とを対比する。
本件特許発明1と甲1発明1とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、甲1発明1における「コンプレッサ20」は、本件特許発明1における「回転機械」に相当し、以下同様に、「無電解メッキ法を用いて被覆されたメッキ被膜」あるいは「メッキ被膜」は「無電解めっき皮膜」に、「Ni-P系合金からなる」ことは「Ni-P系合金である」ことにそれぞれ相当する。
したがって、両者は、
「回転機械の羽根車であって、
Al又はAl合金によって構成される前記羽根車の基材と、
前記基材を覆うように設けられて前記羽根車の表面層を形成する無電解めっき皮膜と、を備え、
前記無電解めっき皮膜は、Ni-P系合金である回転機械の羽根車。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明1においては、「前記無電解めっき皮膜は、アモルファス構造を有し、且つ、前記無電解めっき皮膜中におけるP含有率が5重量%以上11重量%以下である」のに対し、
甲1発明1においては、メッキ被膜がアモルファス構造を有するか否かについて、及びメッキ被膜中のP含有率について不明である点。
相違点1について検討すると、甲第2号証には、回転機械のインペラの耐食性を改善するために施される無電解Ni-Pめっき層においては、P含有率が7~10wt%であるとき最も耐食性が良好であって、そのめっき皮膜は非晶質となることが記載されている。
ここで、甲1発明1の羽根車38の基材はAl又はAl合金であるのに対し、甲第2号証に記載されたインペラの基材は炭素鋼である。しかしながら、甲第1号証の段落【0004】には、「舶用ディーゼル機関の燃料として使用される重油には、S(硫黄)成分が含まれる。S成分を含む液滴によって、コンプレッサの翼面に化学的な腐食(コロージョン)が発生し易い」との記載、及び、段落【0011】には「過給機のコンプレッサに発生するエロージョンやコロージョン等の損傷を防止することを目的とする。」との記載があり、また、甲第2号証の段落【0020】には、「実施形態は、CO2、H2S、H2O等の腐食性ガスに曝される圧縮機のダイヤフラムやインペラに、無電解Ni-Pめっきによって防食処理を施すものである。」との記載があることから、両者は、めっきの基材は異なるものの、いずれもS成分を含む腐食環境において用いられる回転機械の羽根車であって、耐腐食性(耐コロ-ジョン性)を向上させるという共通の課題を有するとともに、課題解決手段として無電解Ni-Pめっき層を設ける点で共通の構成を備えている。
そうすると、甲1発明1において、より耐食性に優れためっきを施すために、甲第2号証に記載された事項を参考にして、めっき皮膜のP含有率に着目することは当業者であれば容易に想到し得ることであって、P含有率が5重量%以上11重量%以下のアモルファス構造のめっき皮膜をすることは、当業者が適宜なし得る数値範囲の最適化又は好適化にすぎず、かかる数値範囲のP含有率のめっき皮膜がアモルファス構造となることは、技術常識あるいは甲第2号証の段落【0029】の記載などから明らかである。
特許権者は、令和元年8月1日提出の意見書において、「したがって、基材として防食性に課題がある炭素鋼)鋳鉄、鋳鋼、鍛鋼)を用いる場合において、無電解Ni-Pめっき中のP濃度が7~10wt%の組成で最も耐食性が良好であることを開示する甲第2号証に記載された発明を、回転機械(羽根車)の基材として耐食性に優れるAl又はAl合金を用いることを開示する甲第1号証に適用し、本願の請求項1、9に係る発明を想到することなど、当業者が容易になし得ることではありません。(4ページ14ないし19行)」と主張している。しかしながら、上述のとおり、甲第1号証には、腐食の課題について記載があるから、かかる主張は採用できない。
また、特許権者は、同意見書において、「事実、本願発明では、耐食性の観点からではなく、互いに両立しにくい関係にある耐エロ-ジョン性と耐き裂性(疲労強度)とを両立させるとの観点に基づいて、めっき皮膜中におけるP含有率が決定されております。(4ページ6ないし8行)」と主張している。しかしながら、耐エロージョン性と耐き裂性は、回転機械に用いられる部材において当然要求される特性であるところ、特開2001-200390号公報には、基材がAlやAl合金あるいは炭素鋼であるコンプレッサー用部材に形成するメッキ被膜に関して、段落【0011】に、「ニッケル-リン系合金メッキ被膜中のリン含有率は、通常1~20重量%程度であり、好ましくは3~17重量%程度であり、より好ましくは5~15重量%程度である。リン含有率が低すぎる場合には、部材のエロージョン防止という所期の効果が十分に発揮されない。また、リンの含有率が多すぎる場合にはメッキ被膜が脆くなるので、リンの含有率は20重量%以下とすることが好ましい。」との記載があり、めっきの脆さと耐き裂性(疲労強度)に関連があることは明らかであるから、Ni-Pめっき皮膜中におけるP含有率を調節にして(最適には5~15重量%程度)、耐エロ-ジョン性と耐き裂性(疲労強度)とを両立させることは、本願出願時当業者に知られていたことである。
そうすると、耐エロ-ジョン性と耐き裂性(疲労強度)の両立という観点からみたとしても、甲1発明1に甲第2号証に記載された事項を適用して、めっき皮膜を、P含有率が5重量%以上11重量%以下であるアモルファス構造を有するものとした際に、耐エロ-ジョン性と耐き裂性(疲労強度)の両立という効果が期待できることは、当業者が予測し得る程度のことにすぎない。
したがって、本件特許発明1は、甲1発明1に甲第2号証に記載された事項を適用して、当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、特許権者は、令和元年11月15日に意見書を提出しているが、かかる意見書における主張は、同日に提出された訂正請求書により請求され、令和2年2月10日に提出された訂正請求取下書により取り下げられた訂正に基づくものであり、採用できない。
(2)本件特許発明9
本件特許発明9と甲1発明2とを対比する。
本件特許発明9と甲1発明2とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、甲1発明2における「コンプレッサ20」は、本件特許発明9における「回転機械」に相当し、以下同様に、「無電解メッキ法を用いて被覆されたメッキ被膜」あるいは「メッキ被膜」は「無電解めっき皮膜」に、「Ni-P系合金からなる」ことは「Ni-P系合金である」ことにそれぞれ相当する。
したがって、両者は、
「回転機械の羽根車の製造方法であって、
Al又はAl合金によって構成される前記羽根車の基材を覆うように、前記羽根車の表面層として無電解めっき皮膜を形成するステップを備え、
前記無電解めっき皮膜は、Ni-P系合金である回転機械の羽根車の製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2>
本件特許発明9においては、「前記無電解めっき皮膜は、アモルファス構造を有し、且つ、前記無電解めっき皮膜中におけるP含有率が5重量%以上11重量%以下である」のに対し、
甲1発明2においては、メッキ被膜がアモルファス構造を有するか否かについて、及びメッキ被膜中のP含有率について不明である点。
相違点2について検討すると、相違点2は相違点1と同じである。
したがって、本件特許発明9は、甲1発明2に甲第2号証に記載された事項を適用して、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第6 むすび
以上のとおり、請求項1及び9に係る発明は、甲1発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1及び9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2019-700116