特許異議申立
2022-700414
ウォータポンプ
- 審判番号
- 2022-700414
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-513507
- 登録番号
- 6968157
- 請求日
- 2022年05月13日
- 審決日
- 2022年08月29日
- 公報発行日
- 2022年09月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社TBK
- 【権利者代理人】大西 正悟
- 【権利者代理人】並木 敏章
- 【異議申立人】佐々木 良輔
- 審判長/審判官
- 審判長 柿崎 拓
- 審判官 関口 哲生
- 審判官 佐々木 芳枝
- 分類
- P1651.121-Y (F04D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6968157号発明「ウォータポンプ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6968157号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続等の経緯
特許第6968157号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)年4月17日を国際出願日とする出願であって、令和3年10月28日に特許権の設定登録がされ、令和3年11月17日に特許掲載公報が発行された。
これに対し、特許異議申立人佐々木良輔より、令和4年5月13日に、請求項1ないし3に係る特許について特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
特許第6968157号の請求項1ないし3の特許に係る発明(以下、請求項順に「本件発明1」等という。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
動力源からの駆動力により回転する回転部材と、
前記回転部材の駆動力により軸線周りに回転するポンプ軸と、
前記ポンプ軸の一端部に設けられて前記ポンプ軸と一体回転するインペラと、
前記ポンプ軸の他端部に設けられて前記ポンプ軸と一体回転するハブ部材を有し、前記回転部材及び前記ハブ部材を摩擦係合させて前記回転部材の駆動力を前記ポンプ軸に伝達する伝達状態と前記回転部材及び前記ハブ部材の摩擦係合を解除させて前記回転部材から前記ポンプ軸への駆動力の伝達を切断する切断状態とに切り替える電磁クラッチと、
前記ハブ部材に設けられて前記ポンプ軸と一体回転するフランジ部材とを備えたウォータポンプであって、
前記回転部材は、第1永久磁石を保持する第1磁石保持部を有し、
前記フランジ部材は、第2永久磁石を保持する第2磁石保持部を有し、
前記切断状態においては、前記回転部材及び前記ハブ部材の摩擦係合が解除されていても、前記第1永久磁石及び前記第2永久磁石の間の磁気吸引力により、前記回転部材の回転に対して前記フランジ部材を連れ回り回転させるように構成したことを特徴とするウォータポンプ。
【請求項2】
前記切断状態では、前記フランジ部材に所定の駆動力以上の駆動力が伝達されるとき、前記第1永久磁石と前記第2永久磁石との間の磁気カップリングが脱調状態となることで、前記フランジ部材を前記回転部材の回転数よりも低い回転数で連れ回り回転させるように構成したことを特徴とする請求項1に記載のウォータポンプ。
【請求項3】
前記第1磁石保持部内には、複数の第1永久磁石が軸線周りに配列され、
前記第2磁石保持部内には、複数の第2永久磁石が軸線周りに配列され、
前記第1磁石保持部と前記第2磁石保持部とが前記軸線方向及び前記軸線方向と直交する方向に所定の間隔をあけて配置されていることを特徴とする請求項1もしくは2に記載のウォータポンプ。」
第3 特許異議の申立ての理由の概要
特許異議申立人(以下、「申立人」という。)が主張する特許異議の申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 理由(進歩性違反)
本件発明1ないし3は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に開示された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、請求項1ないし3に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるため、同法第113条第2号により取り消されるべきである。
(証拠方法)
甲第1号証:特開2009-180267号公報
甲第2号証:「Водяной насос VOLVO FH Water Pump」、2016年2月14日、URL:https://www.youtube.com/watch?v=BEvqqlW5aJk
甲第3号証:「Водяной насос VOLVO FH Water Pump」のウェブサイト上のページのスクリーンショット、2022年4月18日に申立人佐々木良輔により作成、URL:https://www.youtube.com/watch?v=BEvqqlW5aJk
第4 当審の判断
1 各甲号証の記載事項及び各甲号証に記載された発明
(1)甲第1号証(以下、「甲1」という。)の記載事項及び甲1に記載された発明
ア 甲1の記載事項(下線は注目箇所を示すために当審で付したものである。以下、同様。)
(ア)「【0001】
本発明は、ウオーターポンプ用電磁クラッチ等に用いられる電磁クラッチに関するものである。」
(イ)「【0002】
エンジン用冷却水を循環させるウォーターポンプ用電磁クラッチは、低温時には冷却水の循環を止めてエンジンを早く昇温させるために、動力伝達が遮断された状態(アーマチュア解放状態)に制御される。このように電磁クラッチを制御することにより、エンジンに対する負荷が低減されるため、低温時におけるエンジンからの排ガスの排出量を低減することができる。」
(ウ)「【0016】
本発明は上記した従来の問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、磁気回路が長いことによるアーマチュア吸引力の低下、および磁気飽和によるアーマチュア吸引力の低下を防止することができる電磁クラッチを提供することにある。」
(エ)「【0021】
以下、本発明を図面に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明に係る電磁クラッチの一実施の形態を示す無励磁状態における断面図、図2はロータの正面図、図3は永久磁石組立体の正面図、図4はアーマチュア組立体の正面図、図5は励磁状態における要部の断面図である。本実施の形態は、駆動側機器としてのエンジン(図示せず)の回転を従動側機器としてのウォーターポンプ2の回転軸3に伝達したり、その伝達を遮断したりする電磁クラッチ1に適用した例を示す。前記電磁クラッチ1は、ウォーターポンプ2のハウジング4に軸受5を介して回転自在に配設されたロータ6と、前記回転軸3に固定されたアーマチュア組立体7と、このアーマチュア組立体7に取付けられたダンパー機構8と、永久磁石9と、磁性体10および電磁コイル装置11等で概ね構成されている。」
(オ)「【0025】
前記アーマチュア組立体7は、アーマチュアハブ20と、ストッパープレート21および前記アーマチュア18等で構成されている。アーマチュアハブ20は、前記回転軸3の端部にスプライン結合され、かつナット22によって固定されたボス部20Aと、このボス部20Aの外周に一体に突設された円板状のフランジ20Bとで構成されている。
【0026】
前記ストッパープレート21は、図4に示すように三角形に形成されて前記アーマチュアハブ20のフランジ20Bに3個のリベット23によってかしめ固定されており、外周寄りには、各ダンパー機構8のトルク伝達ピン24とダンパーゴム28の一部が挿通される複数個の挿通孔25が周方向に等間隔おいて形成されている。」
(カ)「【0036】
このような構造からなる電磁クラッチ1は、励磁コイル44ヘの通電が断たれている無励磁状態においては、図1に示すように永久磁石9の磁束φ1によりアーマチュア18がロータ6の磁極面15aに磁気吸着され、エンジンの動力をロータ6およびアーマチュア組立体7を介してウォーターポンプ2の回転軸3に伝達している。この動力伝達状態において、アーマチュア18は、ストッパープレート21から離間しており、これによりトルク伝達ピン24がロータ6側に変位し、頭部24aによってダンパーゴム28を圧縮している。
【0037】
この動力伝達状態において、電磁クラッチ1を解放することにより、動力伝達を遮断するときは、励磁コイル44に、永久磁石9の磁束φ1とは反対方向の磁束φ2が生じるように通電する。通電によって励磁コイル44を励磁すると、励磁コイル44の磁束φ2は、図5に示すようにフィールドコア45の内側円筒部45A-ロータ6の内側円筒状磁路部6A-円板状磁路部6C-アーマチュア18-ロータ6の-円板状磁路部6C-外側円筒状磁路部6B-フィールドコア45の外側円筒部45Bを経て円板部45Cに至る。この磁束φ2の方向は、永久磁石9による磁束φ1の方向と反対方向であり、かつ永久磁石9の磁気吸引力と略同じ磁気吸引力となるように励磁コイル44を励磁すると、磁束φ1と磁束φ2とが相殺される。このため、アーマチュア18は永久磁石9による磁気吸引力から解放され、ダンパーゴム28の弾性復帰力によりロータ6の磁極面15aから離間してストッパープレート27に当接し、電磁クラッチ1によるウォーターポンプ2への動力伝達が遮断される。図5はこの状態を示す。
【0038】
ウォーターポンプ2への動力伝達を遮断した後、上記とは反対に電流の向きを変えて永久磁石9の磁束φ1と同じ方向の磁束φ3(図5)が発生するように励磁コイル44に通電すると、アーマチュア18はこれらの磁束φ1、φ3による磁気吸引力によってロータ6の磁極面15aに磁気吸着され、ロータ6の回転をウォーターポンプ2の回転軸3に伝達するようになる。すなわち、電磁クラッチ1が作動する。そして、アーマチュア18がロータ6の磁極面15aに磁気吸着された後は、励磁コイル44ヘの通電を断っても、アーマチュア18は永久磁石9の磁気吸引力によりロータ6に摩擦結合されているので、動力を回転軸3に伝達し続ける。」
(キ)前記(イ)の記載内容及びウォーターポンプの技術常識から、ウォーターポンプ2の回転軸3の、アーマチュア組立体7が固定された端部とは別の一端部に、回転軸3と一体回転するインペラを備えることは明らかであるといえる。そして、アーマチュア組立体7が固定された回転軸3の端部は、前記「一端部」に対して他端部といえる。
(ク)甲1には、以下の図が示されている。
「【図1】
[図:0001388424000001.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
以上から、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「エンジンからの駆動力により回転するロータ6と、
前記ロータ6の駆動力により軸線周りに回転する回転軸3と、
前記回転軸3の一端部に設けられて前記回転軸3と一体回転するインペラと、
前記回転軸3の他端部に設けられて前記回転軸3と一体回転するアーマチュア18を有し、前記ロータ6及び前記アーマチュア18を摩擦結合させて前記ロータ6の駆動力を前記回転軸3に伝達する動力伝達状態と前記ロータ6及び前記アーマチュア18の摩擦結合を解除させて前記ロータ6から前記回転軸3への動力伝達を遮断する遮断状態とに切り替える電磁クラッチ1と、
を備えたウォーターポンプ。」
(2)甲2から看取される事項及び甲2に開示された事項
ア 甲2から看取される事項
(ア)(00:05秒)動画に示されるウォータポンプが、VOLVO製の型番21030340であることが確認できる。
(イ)(00:26~00:30秒)ウォータポンプが横置きされた状態で、カーキ色のインペラが手動で回転される。その間、ロータは回転していない。
(ウ)(00:32~00:37秒)ロータを手動で回転させても、インペラは回転しない。
(エ)(00:37~00:42秒)ロータの回転速度を上げていくと、インペラが連れ回り回転をはじめることが確認できる。
(オ)(00:43~00:48秒)ロータの回転速度を高くし、インペラが連れ回り回転している状態で、インペラの回転を停止させると、少し遅れてロータの回転が止まることが確認できる。
(カ)(00:55~01:06秒)インペラと反対側には、環状部分と環状部分から外方に向かって伸びる6つの腕部分で構成された星形部材が確認される。そして、星形部材は、6つの腕部分でロータに取り付けられ、ロータから星型部材が外されると、中心部に回転軸がはめ込まれて回転軸とつながる環状部材が現れる。
(キ)(01:10~01:20秒)星型部材を取り外した状態でロータを回転させても、回転軸とつながる環状部材は回転しない。同様に、環状部材を回転させても、ロータは回転しない。そして、これらのことから、ロータとインペラの連れ回り回転は、ロータに取り付けられた星型部材を介して行われていたこと、また、星型部材を取り外すことで現れた環状部材は、インペラと一体的に回転することから、インペラにロータの回転力を伝える部材で、回転軸に接続されていることが分かる。
(ク)(01:21~01:51秒)回転軸とつながる環状部材の表面に、円周方向に配列した円形の部品が15個配列されていることが看取されるところ、これら円形の部品に金槌の頭を近づけると強固に吸い付くことが確認できたことから、これら円形の部品は、永久磁石であるといえる。そして、環状部材は、永久磁石を円周方向に配列し取り付けられたもの、つまり、永久磁石を保持する保持部を有したものであることがわかる。
(ケ)(02:11~02:25秒)環状部材が取り外され、環状部材が、回転軸におけるインペラと反対側の端部に取り付けられたものであること、また、回転軸から径方向外側に張り出した部品であることが確認できる。
(コ)(02:30~03:30)ロータが取り外されると、ロータのインペラ側に形成された凹部に収まり、ハウジングにネジ止めされた接続端子を備えた部材が確認できる。
(サ)上記(キ)及び(ク)から、星型部材は磁石につく性質をもつものであるといえる。
イ 甲2に開示された発明
以上から、甲2には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が開示されている。
「ロータと、
前記ロータの駆動力により回転する回転軸と、
前記回転軸の一端部に設けられて前記回転軸と一体回転するインペラと、
前記回転軸の他端部に設けられて前記回転軸と一体回転する環状部材を有した、ウォータポンプであって、
前記ロータは、星型部材を有し、
前記環状部材は、永久磁石を保持する永久磁石保持部を有し、
前記星型部材と前記環状部材の間の磁気吸引力により、前記ロータの回転に対して前記環状部材を連れ回り回転させるように構成したウォータポンプ。」
2 本件発明について
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明の対比
本件発明1と甲1発明とを、その有する機能に照らして対比すると、甲1発明の「エンジン」は本件発明1の「動力源」に相当し、同様に、「ロータ6」は「回転部材」に、「回転軸3」は「ポンプ軸」に、「アーマチュア18」は「ハブ部材」に、「摩擦結合」は「摩擦係合」に、「動力伝達状態」は「伝達状態」に、「動力伝達を遮断」は「駆動力の伝達を切断」に、「遮断状態」は「切断状態」に、「電磁クラッチ1」は「電磁クラッチ」に、「ウォーターポンプ」は「ウォータポンプ」に、それぞれ相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、相違する。
[一致点]
「動力源からの駆動力により回転する回転部材と、
前記回転部材の駆動力により軸線周りに回転するポンプ軸と、
前記ポンプ軸の一端部に設けられて前記ポンプ軸と一体回転するインペラと、
前記ポンプ軸の他端部に設けられて前記ポンプ軸と一体回転するハブ部材を有し、前記回転部材及び前記ハブ部材を摩擦係合させて前記回転部材の駆動力を前記ポンプ軸に伝達する伝達状態と前記回転部材及び前記ハブ部材の摩擦係合を解除させて前記回転部材から前記ポンプ軸への駆動力の伝達を切断する切断状態とに切り替える電磁クラッチと、
を備えたウォータポンプ。」
[相違点]
本件発明1は「前記ハブ部材に設けられて前記ポンプ軸と一体回転するフランジ部材とを備え」、「前記回転部材は、第1永久磁石を保持する第1磁石保持部を有し、前記フランジ部材は、第2永久磁石を保持する第2磁石保持部を有し、前記切断状態においては、前記回転部材及び前記ハブ部材の摩擦係合が解除されていても、前記第1永久磁石及び前記第2永久磁石の間の磁気吸引力により、前記回転部材の回転に対して前記フランジ部材を連れ回り回転させるように構成した」のに対し、甲1発明は、そのような構成を有していない点。
イ 判断
(相違点について)
(ア)前記1(2)イで示したように、甲2には、甲2発明が開示されている。
そして、甲2には、ロータに設けた星型部材と回転軸の他端部に設けられた環状部材とが、連れ回り回転することが可能な構造が示されているといえる。しかし、この構造が、仮に、ポンプの動作時に連れ回り回転が行われるように構成されたものであったとしても、何のために連れ回り回転が行われるのか、すなわち、いかなるねらいをもって、ロータに設けた星型部材と回転軸の他端部に設けられた環状部材との間で、連れ回り回転することが可能な構造としたのか分からない。
したがって、当業者が、甲1発明と甲2発明に接したとしても、どのようなねらいをもって甲1発明に甲2発明を適用するのか想起し得ず、甲1発明に甲2発明を適用する動機付けはないといえる。
(イ)また、前記1(2)アで示したように、甲2に開示された環状部材は、ロータの駆動力をポンプ軸に伝達する部材であるところ、環状部材の他に、ロータの駆動力をポンプ軸に伝達する部材は見当たらないから、甲2発明には、本件発明1の「摩擦係合させて回転部材の駆動力をポンプ軸に伝達する」ための「ハブ部材」に対応するものがない。そうすると、甲2発明の環状部材は、「ハブ部材」に対応するものであるとも、「ハブ部材」に設けられる「フランジ部材」に対応するものであるともいえない。
したがって、甲1発明において、前記(ア)で検討したように甲2発明を適用する動機づけはなく、また、仮に甲2発明を適用し得たとしても、甲1発明と甲2発明はロータと回転軸との接続構造がかなり異なるため、どのように甲2発明を適用するのか不明であるといわざるを得ず、特に甲2に開示された環状部材が、ロータ及び星型部材からなるロータ側の部材に囲まれて配置されているところ、甲1発明のロータ6(回転部材)と摩擦結合するアーマチュア18(ハブ部材)は、ロータ側の部材に囲まれていないから、甲2に開示された環状部材を、アーマチュア18(ハブ部材)に設けることまで、当業者といえども容易に想到できるものではなく、前記相違点に係る構成のように特定された本件発明1には至らない。
以上によれば、本件発明1は、甲1発明及び甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
ウ 申立人の主張に対して
(ア)申立人は、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)において、甲1の記載における、ロータ6、回転軸3、アーマチュア組立体7は、それぞれ本件発明1における回転部材(ポンププーリ)、ポンプ軸、ハブ部材(アーマチュアアッシー)に相当する旨、また、アーマチュア組立体7に設けられたフランジ20Bないしストッパープレート21は、本件発明1におけるフランジ部材に相当するものと認められる旨主張する(申立書6頁22~27行)。
しかし、本件発明1で特定される「ハブ部材」は、本件発明1で特定される「回転部材」と摩擦係合されるものであるから、甲1の記載において、ロータ6と摩擦結合される「アーマチュア18」が、その機能からみて、本件発明1の「ハブ部材」に相当するものであるといえる。
また、本件発明1の「フランジ部材」は、「第2永久磁石を保持する第2磁石保持部を有」するために設けられたものであるところ、一方、甲1に記載された「フランジ20B」は、甲1の段落0025~0026の記載(前記ア(オ))によれば、ストッパープレート21を3つのリベット23によってかしめ固定するための部材であり、また、甲1に記載された「ストッパープレート21」は、甲1の段落0026(前記ア(オ))及び段落0036~0037(前記ア(カ))の記載によれば、ダンパー機構8を設け、アーマチュア18とロータ6とを、動力伝達状態としたり伝達状態を遮断したりするための部材である。そして、それぞれの部材の役割を勘案すると、甲1に記載された「フランジ20B」や「ストッパープレート21」は、永久磁石を保持する永久磁石保持部を有するために設けられたものではなく、本件発明1の「フランジ部材」に対応するものであるとはいえない。
(イ)申立人は申立書において、甲2に、「ウォータポンプが横置きされた状態で、インペラが手動で回転される。その間、回転部材(ロータ)は回転しない。すなわち、クラッチは切断状態である。(0分26秒~0分30秒)」ことが開示されている旨主張する(申立書5頁12~14行)。
しかし、甲2の動画からは、ウォータポンプにおいて、クラッチがあるのか確認できないところ、まして、クラッチの状態について、何ら確認することができない。
(ウ)申立人は申立書において、甲2に、「永久磁石の取り付けられた前記ポンプ軸側の部材が取り外され、この部材は、ポンプ軸におけるインペラと反対側の端部に取り付けられ、ポンプ軸から径方向外側に張り出すフランジ状の部品であったことが確認される。(2分11秒~2分250秒)」ことが開示されている旨主張する(申立書6頁5~7行)。
しかし、甲2発明において、本件発明1の「ハブ部材」に対応するものが確認されないから、ハブ部材に設けられたフランジ部材に対応するものとして、甲2に示されるウォータポンプに、「フランジ状の部品」が確認されるとした前記申立人の主張は、何ら理由がなく当を得たものとはいえない。
(エ)申立人は申立書において、「甲2に紹介されているウォータポンプは、電磁クラッチが切断状態にあっても、ポンプ軸およびインペラが、ロータの回転に応じ、これと連れ回り回転するようになっている。ポンプ軸のインペラと反対側には、ポンプ軸から径方向外側へ張り出すようにフランジ状の部材が取り付けられており、該フランジ状の部材の表面(ロータ側の部品と対向する面)には、永久磁石が備えられている。そうすると、ポンプ軸とロータの連れ回りは、ポンプ軸側に取り付けられた前記フランジ状の部材表面の永久磁石と、前記ロータ側の部品の間の磁気吸引力によって行われるものであると認められる。すなわち、甲2には、以下の点が開示されている。
1G)前記フランジ部材は、第2永久磁石を保持する第2磁石保持部を有し、
1h)前記切断状態においては、前記回転部材及び前記ハブ部材の摩擦係合が解除されていても、前記回転部材及び前記第2永久磁石の間の磁気吸引力により、前記回転部材の回転に対して前記フランジ部材を連れ回り回転させるように構成したことを特徴とするウォータポンプ。」(申立書の7頁26行~8頁10行)と、また、「甲1、甲2は共に、ウォータポンプおよび電磁クラッチに関するものである。したがって、甲1に記載されている装置に、甲2に開示されている電磁クラッチの構成を組み合わせることは、当業者が容易に想到し得たことである。」(申立書の8頁11~13行)と主張する。
しかし、甲2の動画からは、電磁クラッチが確認されないところ、まして、その電磁クラッチが切断状態か否かについて、全くわからない。
また、甲2で示されるウォータポンプには、本件発明1の「ハブ部材」に対応するものが確認されないから、ハブ部材に設けられた「フランジ部材」に対応するものが開示されているとはいえない。
さらに、甲1発明と甲2発明とは、ロータと回転軸との接続構造で、かなり異なるものであることから、甲1発明に甲2発明をどのように適用するのか分からないところ、仮に、甲1発明に甲2発明を適用したとしても、前記イで検討したように、本件発明1には至らない。
以上によれば、前記申立人の主張を採用することはできない。
(2)本件発明2又は3について
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2又は3は、本件発明1を特定するための事項を全て含み、本件発明1をさらに減縮したものである。したがって、その余の事項を検討するまでもなく、本件発明2又は3は、前記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明及び甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
(3)まとめ
以上のとおり、本件発明1ないし3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものということはできず、同法第113条第2号により取り消すことができない。
第5 まとめ
以上のとおりであるから、請求項1ないし3に係る特許は、申立書に記載された特許異議申立の理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700414