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特許拒絶査定不服審判

2024-004122

ガスエンジンの再着火処理装置、再着火方法およびプログラム

審判番号
2024-004122
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2019-201065
請求日
2024年03月08日
審決日
2024年10月15日
公報発行日
2024年11月29日
結論
原査定取消(特許/登録すべき)
当事者
  • 【請求人】三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社
  • 【請求人代理人】SSIP弁理士法人
審判長/審判官
  • 審判長 八木 誠
  • 審判官 倉橋 紀夫
  • 審判官 北村 亮
分類
P18 .121-WY (F02D) / P18 .537-WY (F02D)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第17条の2第3項
データ出所
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特願2019-201065「ガスエンジンの再着火処理装置、再着火方法およびプログラム」拒絶査定不服審判事件〔令和3年5月20日出願公開、特開2021-76029、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、令和元年11月5日の出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。 令和 5年 8月 1日付け:拒絶理由通知書 令和 5年10月 5日提出:意見書、手続補正書 令和 5年12月15日付け:拒絶査定 令和 6年 3月 8日提出:審判請求書、手続補正書 令和 6年 4月 9日付け:前置報告書 令和 6年 5月28日提出:上申書 第2 原査定の概要 原査定(令和5年12月15日付け拒絶査定)の概要は、次のとおりである。 1 本願の請求項1~10に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1:特開2008-208804号公報 2 本願の請求項1~10に係る発明は、明確ではないから、本願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 第3 審判請求時の補正について 審判請求時の補正(令和6年3月8日提出の手続補正書による補正)は、特許法第17条の2第3項から第6項の要件に違反しているものとはいえない。 審判請求時の補正によって、補正前の請求項1の 「前記複数のシリンダのうちの少なくとも1つの前記シリンダで失火が発生すると、前記失火が発生した失火発生シリンダの筒内圧力に基づく損傷診断結果、前記ガスエンジンの燃焼制御および燃焼診断を実行する制御装置の異常の有無、前記失火発生シリンダに関する運転履歴、および、前記ガスエンジンの運転状態に基づいて、前記失火の原因が一過性のものであるか前記ガスエンジンの定常的な異常によるものであるかを判定し、前記失火の原因が一過性のものである場合にのみ前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理の実行を許可可能とするよう構成された実行許可部と、」 という発明特定事項が 「前記複数のシリンダのうちの少なくとも1つの前記シリンダで失火が発生すると、前記失火が発生した失火発生シリンダの筒内圧力に基づく損傷診断結果、前記ガスエンジンの燃焼制御および燃焼診断を実行する制御装置の異常の有無、前記失火発生シリンダに関する運転履歴、および、前記ガスエンジンの運転状態に基づいて、前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理の実行を許可するよう構成された実行許可部であって、 前記損傷診断結果において、前記ガスエンジンを構成するエンジン本体、着火装置、および燃料供給系の損傷が発見されず、 前記制御装置の記憶部に記憶されている履歴情報であって、前記燃焼診断の結果および前記燃焼診断の結果に基づいて行った制御内容に関する履歴情報が、予め定めた特定のアラーム情報を含んでおらず、 前記運転履歴が、過去に再着火処理が実行されていないことを示す履歴、あるいは再着火処理の実行回数が所定回数以下であることを示す履歴、を含んでおり、 前記運転状態が、前記失火が発生した時の前記ガスエンジンの負荷が一定でなかったこと、あるいは、再着火処理の実行時の前記ガスエンジンの負荷が一定であること、の少なくとも一方である許可条件を満たす場合に、 前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理の実行を許可するよう構成された実行許可部と、」 と補正された(上記下線は、補正箇所を示す。)が、この補正は、補正前の「前記失火の原因が一過性のものであるか前記ガスエンジンの定常的な異常によるものであるかを判定し」という事項を具体化、明確化するものであり、原査定で通知された上記第2の2に係る理由に示す事項についてされた明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 また、上記補正により追加された事項は、本願の出願当初明細書の【0022】~【0023】、【0026】~【0028】、【0032】~【0037】に記載されており、新規事項を追加するものではない。 さらに、いわゆるシフト補正でないことは明らかであり、独立特許要件は問われない。 そして、請求項2及び7についてなされた補正は、上記補正後の請求項1に従属する請求項2及び7をそれぞれ独立請求項にする補正であり、また、請求項9及び10についてされた補正は、上記請求項1についてされた補正と同様である。 第4 本願発明 本願の請求項1~10に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」~「本願発明10」という。)は、令和6年3月8日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 複数のシリンダを有するガスエンジンの運転中にシリンダの再着火処理を実行するガスエンジンの再着火処理装置であって、 前記複数のシリンダのうちの少なくとも1つの前記シリンダで失火が発生すると、前記失火が発生した失火発生シリンダの筒内圧力に基づく損傷診断結果、前記ガスエンジンの燃焼制御および燃焼診断を実行する制御装置の異常の有無、前記失火発生シリンダに関する運転履歴、および、前記ガスエンジンの運転状態に基づいて、前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理の実行を許可するよう構成された実行許可部であって、 前記損傷診断結果において、前記ガスエンジンを構成するエンジン本体、着火装置、および燃料供給系の損傷が発見されず、 前記制御装置の記憶部に記憶されている履歴情報であって、前記燃焼診断の結果および前記燃焼診断の結果に基づいて行った制御内容に関する履歴情報が、予め定めた特定のアラーム情報を含んでおらず、 前記運転履歴が、過去に再着火処理が実行されていないことを示す履歴、あるいは再着火処理の実行回数が所定回数以下であることを示す履歴、を含んでおり、 前記運転状態が、前記失火が発生した時の前記ガスエンジンの負荷が一定でなかったこと、あるいは、再着火処理の実行時の前記ガスエンジンの負荷が一定であること、の少なくとも一方である許可条件を満たす場合に、 前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理の実行を許可するよう構成された実行許可部と、 前記実行許可部によって前記再着火処理の実行が許可された前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理を実行するよう構成された再着火実行部と、を備えるガスエンジンの再着火処理装置。 【請求項2】 複数のシリンダを有するガスエンジンの運転中にシリンダの再着火処理を実行するガスエンジンの再着火処理装置であって、 前記複数のシリンダのうちの少なくとも1つの前記シリンダで失火が発生すると、前記失火が発生した失火発生シリンダの筒内圧力に基づく損傷診断結果、前記ガスエンジンの燃焼制御および燃焼診断を実行する制御装置の異常の有無、前記失火発生シリンダに関する運転履歴、および、前記ガスエンジンの運転状態に基づいて、前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理の実行を許可するよう構成された実行許可部と、 前記実行許可部によって前記再着火処理の実行が許可された前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理を実行するよう構成された再着火実行部と、 前記失火発生シリンダでの前記再着火処理の実行指示を外部から受信するよう構成された受信部と、を備え、 前記実行許可部は、 前記損傷診断結果において、前記ガスエンジンを構成するエンジン本体、着火装置、および燃料供給系の損傷が発見されず、 前記制御装置の記憶部に記憶されている履歴情報であって、前記燃焼診断の結果および前記燃焼診断の結果に基づいて行った制御内容に関する履歴情報が、予め定めた特定のアラーム情報を含んでおらず、 前記運転履歴が、過去に再着火処理が実行されていないことを示す履歴、あるいは再着火処理の実行回数が所定回数以下であることを示す履歴、を含んでおり、 前記運転状態が、前記失火が発生した時の前記ガスエンジンの負荷が一定でなかったこと、あるいは、再着火処理の実行時の前記ガスエンジンの負荷が一定であること、の少なくとも一方である許可条件を満たすとともに、 さらに、前記受信部が前記実行指示を外部から受信した場合に、前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理の実行を許可するよう構成されている、 ガスエンジンの再着火処理装置。 【請求項3】 前記ガスエンジンは、シリンダヘッドと前記複数のシリンダの各々の内部に摺動自在に設置されるピストンとで画定される複数の主室と、前記複数の主室の各々毎に噴孔を介して連通する副室とを有しており、 前記失火発生シリンダの前記主室、および該主室に連通される前記副室への燃料ガスの供給は停止されるように構成されており、 前記再着火実行部は、前記再着火処理の開始時に前記失火発生シリンダの前記主室に供給される前記燃料ガスである対象主室ガスの流量を、前記失火が発生していない残りのシリンダの前記主室にそれぞれ供給される前記燃料ガスである参照主室ガスの流量の平均値よりも少ない量に決定するよう構成された燃料量決定部を有する請求項1または2に記載のガスエンジンの再着火処理装置。 【請求項4】 前記ガスエンジンは、前記複数の主室にそれぞれ供給される前記燃料ガスの流量を調整弁によって調整可能に構成されており、 前記再着火実行部は、決定された前記対象主室ガスの流量に対応する弁開度を前記調整弁に送信するよう構成された弁開度指令部を、さらに有する請求項3に記載のガスエンジンの再着火処理装置。 【請求項5】 前記ガスエンジンは、シリンダヘッドと前記複数のシリンダの各々の内部に摺動自在に設置されるピストンとで画定される複数の主室と、前記複数の主室の各々毎に噴孔を介して連通する副室とを有しており、 前記失火発生シリンダの前記主室、および該主室に連通される前記副室への燃料ガスの供給は停止されるように構成されており、 前記再着火実行部は、前記再着火処理の開始時に前記失火発生シリンダの前記副室に供給される前記燃料ガスである対象副室ガスの流量を、前記失火が発生していない残りのシリンダの前記副室にそれぞれ供給される前記燃料ガスである参照副室ガスの流量の平均値よりも少ない量に決定するよう構成された燃料量決定部を有する請求項1または2に記載のガスエンジンの再着火処理装置。 【請求項6】 前記ガスエンジンは、前記複数の副室にそれぞれ供給される前記燃料ガスの流量を調整弁によって調整可能に構成されており、 前記再着火実行部は、決定された前記対象副室ガスの流量に対応する弁開度を前記調整弁に送信するよう構成された弁開度指令部を、さらに有する請求項5に記載のガスエンジンの再着火処理装置。 【請求項7】 複数のシリンダを有するガスエンジンの運転中にシリンダの再着火処理を実行するガスエンジンの再着火処理装置であって、 前記複数のシリンダのうちの少なくとも1つの前記シリンダで失火が発生すると、前記失火が発生した失火発生シリンダの筒内圧力に基づく損傷診断結果、前記ガスエンジンの燃焼制御および燃焼診断を実行する制御装置の異常の有無、前記失火発生シリンダに関する運転履歴、および、前記ガスエンジンの運転状態に基づいて、前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理の実行を許可するよう構成された実行許可部と、 前記実行許可部によって前記再着火処理の実行が許可された前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理を実行するよう構成された再着火実行部と、 前記再着火処理の実行中に所定の中止条件が満たされた場合に実行中の前記再着火処理を中止させるよう構成された実行中止部と、を備え、 前記実行許可部は、 前記損傷診断結果において、前記ガスエンジンを構成するエンジン本体、着火装置、および燃料供給系の損傷が発見されず、 前記制御装置の記憶部に記憶されている履歴情報であって、前記燃焼診断の結果および前記燃焼診断の結果に基づいて行った制御内容に関する履歴情報が、予め定めた特定のアラーム情報を含んでおらず、 前記運転履歴が、過去に再着火処理が実行されていないことを示す履歴、あるいは再着火処理の実行回数が所定回数以下であることを示す履歴、を含んでおり、 前記運転状態が、前記失火が発生した時の前記ガスエンジンの負荷が一定でなかったこと、あるいは、再着火処理の実行時の前記ガスエンジンの負荷が一定であること、の少なくとも一方である許可条件を満たすとともに、 さらに、前記運転履歴に前記再着火処理が中止されたことを示す実行履歴が含まれていない場合に、前記再着火処理を許可するように構成されている ガスエンジンの再着火処理装置。 【請求項8】 前記再着火処理が実行されている前記失火発生シリンダの再着火を検出するよう構成された再着火検出部と、 前記失火発生シリンダが前記再着火した後に前記再着火処理が中止された場合には、前記制御装置に対して、該失火発生シリンダに対する前記再着火処理の中止時の前記燃焼制御の条件の維持を指示するよう構成される指示部と、をさらに備える請求項7に記載のガスエンジンの再着火処理装置。 【請求項9】 複数のシリンダを有するガスエンジンの運転中にシリンダの再着火処理を実行するガスエンジンの再着火方法であって、 前記複数のシリンダのうちの少なくとも1つの前記シリンダで失火が発生すると、前記失火が発生した失火発生シリンダの筒内圧力に基づく損傷診断結果、前記ガスエンジンの燃焼制御および燃焼診断を実行する制御装置の異常の有無、前記失火発生シリンダに関する運転履歴、および、前記ガスエンジンの運転状態に基づいて、前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理の実行を許可するステップであって、 前記損傷診断結果において、前記ガスエンジンを構成するエンジン本体、着火装置、および燃料供給系の損傷が発見されず、 前記制御装置の記憶部に記憶されている履歴情報であって、前記燃焼診断の結果および前記燃焼診断の結果に基づいて行った制御内容に関する履歴情報が、予め定めた特定のアラーム情報を含んでおらず、 前記運転履歴が、過去に再着火処理が実行されていないことを示す履歴、あるいは再着火処理の実行回数が所定回数以下であることを示す履歴、を含んでおり、 前記運転状態が、前記失火が発生した時の前記ガスエンジンの負荷が一定でなかったこと、あるいは、再着火処理の実行時の前記ガスエンジンの負荷が一定であること、の少なくとも一方である許可条件を満たす場合に、 前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理の実行を許可するステップと、 前記実行を許可するステップにおいて前記再着火処理の実行が許可された場合に、前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理を実行するステップと、を備えるガスエンジンの再着火方法。 【請求項10】 複数のシリンダを有するガスエンジンの運転中にシリンダの再着火処理を実行するガスエンジンの再着火プログラムであって、 コンピュータに、 前記複数のシリンダのうちの少なくとも1つの前記シリンダで失火が発生すると、前記失火が発生した失火発生シリンダの筒内圧力に基づく損傷診断結果、前記ガスエンジンの燃焼制御および燃焼診断を実行する制御装置の異常の有無、前記失火発生シリンダに関する運転履歴、および、前記ガスエンジンの運転状態に基づいて、前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理の実行を許可するよう構成された実行許可部であって、 前記損傷診断結果において、前記ガスエンジンを構成するエンジン本体、着火装置、および燃料供給系の損傷が発見されず、 前記制御装置の記憶部に記憶されている履歴情報であって、前記燃焼診断の結果および前記燃焼診断の結果に基づいて行った制御内容に関する履歴情報が、予め定めた特定のアラーム情報を含んでおらず、 前記運転履歴が、過去に再着火処理が実行されていないことを示す履歴、あるいは再着火処理の実行回数が所定回数以下であることを示す履歴、を含んでおり、 前記運転状態が、前記失火が発生した時の前記ガスエンジンの負荷が一定でなかったこと、あるいは、再着火処理の実行時の前記ガスエンジンの負荷が一定であること、の少なくとも一方である許可条件を満たす場合に、 前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理の実行を許可するよう構成された実行許可部と、 前記実行許可部によって前記再着火処理の実行が許可された場合に、前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理を実行するよう構成された再着火実行部と、を実現させるための再着火プログラム。」 第5 引用文献、引用発明 1 引用文献1について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面と共に以下の事項が記載されている(下線は、当審が付与。以下同様。)。 (1)「【0001】 本発明は、複数シリンダをそなえた4サイクルガスエンジンにおいて、燃料噴射弁によって副室内にパイロット燃料を噴射することにより着火火炎を発生する着火装置をそなえ、該着火装置から前記着火火炎を燃焼室内に噴出させて該燃焼室内の予混合混合気を着火燃焼せしめるように構成されたガスエンジン、及びこれの失火発生時における運転方法に関する。」 (2)「【0013】 本発明によれば、失火の検出後、失火コントローラによって、失火発生シリンダにおける筒内圧力の上昇度合いの確認等の燃焼室周りの健全性の有無を確認し、着火装置の副室内にパイロット燃料を燃料噴射弁から噴射して着火させる着火確認を、パイロット燃料の噴射タイミング及びパイロット燃料噴射量を繰り返し変化させることにより行い、 ・前記筒内圧力の計測及び副室の温度計測を行って、前記筒内圧力が予め設定された基準圧力に達し、且つ前記副室の温度が予め設定された基準温度に達しているとき ・あるいは、前記に加えて、排気ガス中のNOx濃度及びCO2濃度を含む排出物濃度を検出して、該排出物濃度が予め設定された基準濃度に達しているとき着火したと判定し、 かかる着火確認後に、予混合混合気を燃焼室に投入して着火装置からの着火火炎により着火燃焼せしめるように構成したので、 失火の発生時に、エンジンを停止せずに、当該失火発生シリンダについて、筒内圧力の上昇度合いの確認を含む燃焼室周りの健全性の有無を確認した後、副室内にパイロット燃料噴射を行う着火装置において、パイロット燃料の噴射タイミング及びパイロット燃料噴射量を繰り返し変化させる着火確認運転を行うことによって、失火を回避し得るパイロット燃料の噴射タイミング及び噴射量を選出して着火を確認することにより、失火発生の主原因である着火装置の不具合を完全に解消して、予混合混合気を燃焼室に投入しての通常運転に入ることが可能となる。」 (3)「【0017】 図1(A)は、本発明の実施例に係る4サイクルのガスエンジン100の失火発生時運転システムを示す全体構成図である。なお本実施形態のガスエンジン100は、発電用のガスエンジン100を例に説明する。 図1(A)において、シリンダ2内に往復摺動自在に嵌合されたピストン4、該ピストン4の往復動を回転に変換するクランク軸6、該クランク軸6に連動される発電機8が設けられ、該発電機8の負荷を検出する負荷検出器10が設けられている。またクランク軸6に連動する部位にエンジン回転数検出器12が設けられている。 前記ピストン4の上面とシリンダ2の内面2aとの間に区画形成される燃焼室14、該燃焼室14に接続される吸気ポート16、該吸気ポート16を開閉する吸気弁18、該燃焼室14に接続される排気ポート20と該排気ポート20を開閉する排気弁21等によって構成される。また、燃焼室14には燃焼室14内の筒内圧力を検出するために筒内圧力センサ22が設けられている。 【0018】 前記吸気ポート16につながる吸気通路24の途中にはガスミキサー26が設置され、ガス燃料通路28からガス量調整弁30を通して供給された燃料ガスと吸気通路24から供給された空気とがガスミキサー26で混合し、この混合気がスロットル弁33を介して前記吸気ポート16及び吸気弁18を通して燃焼室14に供給される。 ガス燃料としては、例えばCNG(圧縮天然ガス)やH2(水素ガス)が使用される。 【0019】 また、ガスミキサー26の上流側の吸気通路24には、ガスミキサー26に流入する空気量を制御する空気制御弁32が設置されるとともに、流入空気の温度および圧力を検出する空気温度センサ34、空気圧力センサ36が設置されている。 【0020】 燃焼室14の上部には着火装置38が設置され、パイロット燃料通路によって供給された軽油、重油等の液体燃料が、パイロット燃料噴射装置40を介してパイロット燃料噴射弁42に供給される。パイロット燃料噴射装置40は失火コントローラ44からの制御信号によって作動するようになっている。 着火装置38は、図1(B)に示すように、着火装置本体46の内部に副室48を形成し、頂部に前記パイロット燃料噴射弁42が設置されて副室48内にパイロット燃料を噴射するようになっている。また本体の下部には燃焼室14に連通した複数の副室噴孔50、50が形成されている。また、副室48内の温度を検出するために副室48には副室温度センサ52が設置されている。 【0021】 パイロット燃料噴射装置40は、失火コントローラ44からの作動信号によって、パイロット燃料をパイロット燃料噴射弁42に供給することで、副室48に液体燃料を噴射して、副室48内に燃焼室14から副室噴孔50、50を介して導入された圧縮空気によって着火し、さらに、この着火した燃焼火炎を副室噴孔50、50から燃焼室14内に噴射することで、吸気ポート16から燃焼室14に吸入されたあらかじめガスミキサー26で予混合された空気とガスとの予混合混合気に着火して拡散燃焼が行われる。 【0022】 また、副室48内にはグロープラグ53が取付けられており、始動時や後述する失火後の回復時に通電して副室48内の温度を高めてパイロット燃料を着火し易くするものであるが、通常の運転時には停止され、副室48内の高圧圧縮ガスによって自己着火燃焼するものである。 また、排ガスセンサ54がシリンダ毎に設置されていて、各シリンダからの排ガスをサンプリングして、常時、NOx濃度、O2濃度、CO2濃度、CO濃度を測定し、失火コントローラ44に入力されている。 【0023】 以上のように構成された、ガスエンジン100の失火発生時運転システムにおいて、失火発生時の失火回復制御について、図2~4を参照して説明する。 図2に示すように、まずステップS1で失火の発生を検出する。この失火発生の検出は、負荷検出器10で検出した負荷の変動値、またはエンジン回転数検出器12で検出した回転数の変動値、または筒内圧力センサ22で検出した筒内圧力の上昇率や変動値から求められる。この失火現象の発生検出手法については、先行技術で説明したものと同様の技術によって行われる。 【0024】 次に、ステップS2で、シリンダの健全性について確認する。このシリンダの健全性とは、筒内圧力センサ22で検出した筒内圧力に基づいて、シリンダ内部が正常であるか、すなわち、機械的損傷、または吸気弁や排気弁の作動不良による吹き抜け等が生じていないかを判断することである。そして筒内圧力が基準値以上に達していれば正常に圧縮されていると判断してステップS3に進んで次のグロープラグ53のON作動を行い、基準値に達しない場合にはステップS4に進んで機関を停止して点検等の対応を行う。 【0025】 ステップS3でグロープラグ53に電流を流してON作動させて、ステップS5で副室48内の温度を一定の基準温度まで上昇させる。その後ステップS6でパイロット燃料のみを副室48内に噴射して、ステップS7で着火を確認するまで、ステップS8でパイロット燃料の噴射量と噴射タイミングを変更する。」 (4)「【0031】 以上のように、パイロット燃料の噴射量と噴射時期との設定をかえて繰り返し噴射することで、着火条件を求める。 そして着火を確認すると、次に、図2のメインフローに戻り、ステップS10で燃料ガスを漸次投入し、ステップS12で筒内圧力センサ22による筒内圧力の監視しによって、S11で正常燃焼を確認する。この正常燃焼の確認についてはステップS13ではガス燃料量を調整しながら行う。そして正常燃焼が確認されたら次のステップS14に進んで通常運転に回復する。」 (5)「【0037】 以上のように、ガス燃料の噴射量の設定を変えながら繰り返し噴射することで、燃焼を確認できる空気過剰率(λ)を設定することができる。 そして、次にステップS14では、燃焼が確認できた後にはグロープラグ53の通電を停止し、設定した適正な空気過剰率の燃焼によって、正規の運転条件に各条件を近付けていき、通常運転に移行する。そして、筒内圧力が他のシリンダと同じになるまでガス投入量を増加させていく。ただし、パイロット燃料の噴射タイミングθ、および噴射期間Eについては、着火条件を下回らない範囲で運転する。 【0038】 本実施形態によれば、失火の検出後、失火コントローラ44によって、失火発生のシリンダ2における筒内圧力の上昇度合いの確認等から燃焼室周りの健全性の有無を確認し、その後、着火装置38の副室48内にパイロット燃料をパイロット燃料噴射弁42から噴射して着火させる着火確認を、パイロット燃料の噴射タイミング及びパイロット燃料噴射量を繰り返し変化させることにより行い、 ・筒内圧力センサ22の計測及び副室温度センサ52の計測を行って、筒内圧力が予め設定された基準圧力に達し、且つ副室48の温度が予め設定された基準温度に達しているとき、 ・あるいは、前記に加えて、排気ガス中のNOx濃度及びCO2濃度を含む排出物濃度を排ガスセンサ54で検出して、該排出物濃度が予め設定された基準濃度に達しているとき、 着火性能が発揮されて着火したと判定し、 かかる着火確認後に、予混合混合気を燃焼室14に投入して着火装置38からの着火火炎により着火燃焼せしめるように構成したので、 失火の発生時に、ガスエンジン100を停止せずに、失火発生シリンダについて、失火発生の主原因である着火装置38の不具合を解消して、予混合混合気を燃焼室14に投入しての通常運転に入ることが可能となる。 つまり、パイロット燃料の噴射タイミング及びパイロット燃料噴射量を繰り返し変化させることにより、着火装置38の副室噴孔50、50の詰り等によるパイロット燃料の噴霧不良を解消させることができ、予混合混合気を燃焼室14に投入しての通常運転に入ることが可能となる。」 2 引用発明について 引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「複数シリンダをそなえた4サイクルのガスエンジン100の失火の検出後に、失火発生シリンダを着火させる失火コントローラ44であって、 失火の検出後、失火発生のシリンダ2における筒内圧力の上昇度合いの確認等から燃焼室周りの健全性の有無を確認し、失火発生シリンダを着火させ、 前記健全性とは、筒内圧力センサ22で検出した筒内圧力に基づいて、シリンダ内部が正常であるか、すなわち、機械的損傷、または吸気弁や排気弁の作動不良による吹き抜け等が生じていないかを判断することであり、筒内圧力が基準値以上に達していれば正常に圧縮されていると判断して、着火させる失火コントローラ44。」 第6 対比、判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると、後者の「4サイクルのガスエンジン100」は前者の「ガスエンジン」に相当し、以下同様に、「複数シリンダをそなえた4サイクルのガスエンジン100の失火の検出後に、失火発生シリンダを着火させる」態様は「複数のシリンダを有するガスエンジンの運転中にシリンダの再着火処理を実行する」態様に、それぞれ相当する。 また、後者の「失火コントローラ44」は、「燃焼室周りの健全性の有無を確認し」た結果着火を許可し、「失火発生シリンダを着火」を実行しているといえるから、その内部に着火を許可する部分と着火を実行する部分があるといえる。そして、後者の「失火の検出後、失火発生のシリンダ2における筒内圧力の上昇度合いの確認等から燃焼室周りの健全性の有無を確認し」、「前記健全性とは、筒内圧力センサ22で検出した筒内圧力に基づいて、シリンダ内部が正常であるか、すなわち、機械的損傷、または吸気弁や排気弁の作動不良による吹き抜け等が生じていないかを判断することであり、筒内圧力が基準値以上に達していれば正常に圧縮されていると判断して」着火を許可する部分と前者の「前記複数のシリンダのうちの少なくとも1つの前記シリンダで失火が発生すると、前記失火が発生した失火発生シリンダの筒内圧力に基づく損傷診断結果、前記ガスエンジンの燃焼制御および燃焼診断を実行する制御装置の異常の有無、前記失火発生シリンダに関する運転履歴、および、前記ガスエンジンの運転状態に基づいて、前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理の実行を許可するよう構成された実行許可部であって、前記損傷診断結果において、前記ガスエンジンを構成するエンジン本体、着火装置、および燃料供給系の損傷が発見されず、前記制御装置の記憶部に記憶されている履歴情報であって、前記燃焼診断の結果および前記燃焼診断の結果に基づいて行った制御内容に関する履歴情報が、予め定めた特定のアラーム情報を含んでおらず、前記運転履歴が、過去に再着火処理が実行されていないことを示す履歴、あるいは再着火処理の実行回数が所定回数以下であることを示す履歴、を含んでおり、前記運転状態が、前記失火が発生した時の前記ガスエンジンの負荷が一定でなかったこと、あるいは、再着火処理の実行時の前記ガスエンジンの負荷が一定であること、の少なくとも一方である許可条件を満たす場合に、前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理の実行を許可するよう構成された実行許可部」とは、「前記複数のシリンダのうちの少なくとも1つの前記シリンダで失火が発生すると、前記失火が発生した失火発生シリンダの筒内圧力に基づく損傷診断結果に基づいて、前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理の実行を許可するよう構成された実行許可部であって、前記損傷診断結果において、前記ガスエンジンを構成するエンジン本体の損傷が発見されない場合に、前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理の実行を許可するよう構成された実行許可部」という限りにおいて一致する。 さらに、後者の「失火発生シリンダを着火させ」る着火を実行する部分は前者の「前記実行許可部によって前記再着火処理の実行が許可された前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理を実行するよう構成された再着火実行部」に相当する。 よって、両者は 「複数のシリンダを有するガスエンジンの運転中にシリンダの再着火処理を実行するガスエンジンの再着火処理装置であって、 前記複数のシリンダのうちの少なくとも1つの前記シリンダで失火が発生すると、前記失火が発生した失火発生シリンダの筒内圧力に基づく損傷診断結果に基づいて、前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理の実行を許可するよう構成された実行許可部であって、 前記損傷診断結果において、前記ガスエンジンを構成するエンジン本体の損傷が発見されない場合に、 前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理の実行を許可するよう構成された実行許可部と、 前記実行許可部によって前記再着火処理の実行が許可された前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理を実行するよう構成された再着火実行部と、を備えるガスエンジンの再着火処理装置。」 という点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点1] 実行許可部に関し、本願発明1は、「前記複数のシリンダのうちの少なくとも1つの前記シリンダで失火が発生すると、前記失火が発生した失火発生シリンダの筒内圧力に基づく損傷診断結果、前記ガスエンジンの燃焼制御および燃焼診断を実行する制御装置の異常の有無、前記失火発生シリンダに関する運転履歴、および、前記ガスエンジンの運転状態に基づいて、前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理の実行を許可するよう構成された実行許可部であって、前記損傷診断結果において、前記ガスエンジンを構成するエンジン本体、着火装置、および燃料供給系の損傷が発見されず、前記制御装置の記憶部に記憶されている履歴情報であって、前記燃焼診断の結果および前記燃焼診断の結果に基づいて行った制御内容に関する履歴情報が、予め定めた特定のアラーム情報を含んでおらず、前記運転履歴が、過去に再着火処理が実行されていないことを示す履歴、あるいは再着火処理の実行回数が所定回数以下であることを示す履歴、を含んでおり、前記運転状態が、前記失火が発生した時の前記ガスエンジンの負荷が一定でなかったこと、あるいは、再着火処理の実行時の前記ガスエンジンの負荷が一定であること、の少なくとも一方である許可条件を満たす場合に、前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理の実行を許可するよう構成された実行許可部」であるのに対し、引用発明は、制御装置の異常の有無、運転履歴、及び、ガスエンジンの運転状態に基づいて再着火処理の実行を許可するよう構成されていない点。 [相違点2] 損傷診断結果に関し、本願発明は、「エンジン本体、着火装置、および燃料供給系の損傷」の診断を行っているのに対し、引用発明は、着火装置及び燃料供給系の損傷の診断を行っているか不明な点。 (2)相違点についての判断 上記相違点1について検討すると、相違点1に係る本願発明1の発明特定事項は、引用文献1には記載も示唆もされておらず、また、周知技術、慣用技術又は技術常識であるとする証拠もない。さらに、当業者が適宜なし得る事項ともいえず、当業者が引用発明に基いて容易に想到したものとはいえない。 したがって、相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者が引用発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。 2 本願発明2~10 本願発明2~8は、いずれも本願発明1の全ての発明特定事項を包含するものであり、本願発明9は、「ガスエンジンの再着火処理装置」という物の発明である本願発明1を「ガスエンジンの再着火方法」という方法の発明に変えただけであり、さらに、本願発明10は、本願発明9の「ガスエンジンの再着火方法」を「再着火プログラム」としただけである。 よって、本願発明2~10も、実質的に上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を含んでおり、上記1(2)の判断と同様に当業者が引用発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。 第7 原査定について 1 理由1(特許法第29条第2項)について 上記第6で判断したとおり、本願発明1~10は、引用発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。 よって、原査定の理由1を維持することはできない。 2 理由2(特許法第36条第6項第2号)について 審判請求時の補正によって、補正前の「前記失火の原因が一過性のものであるか前記ガスエンジンの定常的な異常によるものであるかを判定し」という事項は、具体化、明確化された。 また、本願発明1の「再着火処理の実行時の前記ガスエンジンの負荷が一定であること」という事項に関し、再着火処理の実行の許可条件の一つであり、本願発明1において、再着火処理の実行が許可された場合速やかに再着火処理を実行することは明らかであるから、極めて近い未来の出来事である「再着火処理の実行時」において「ガスエンジンの負荷が一定である」と予測されることであると理解できる。そして、極めて近い未来のガスエンジンの負荷が一定か否かを予測することは、具体的な説明がなくても当業者であれば、十分実施できることが理解できる。 また、本願発明2~10についても同様である。 よって、本願発明1~10は、明確であり、原査定の理由2を維持することはできない。 第8 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。

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2024-004122

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