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特許拒絶査定不服審判

2019-015085

無線基地局、パケット送信装置、無線端末、制御方法、及びプログラム

審判番号
2019-015085
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2016-556675外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2019年11月11日
審決日
2020年09月23日
公報発行日
2020年12月25日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .113-Z (H04W) / P18 .121-Z (H04W)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第17条の2第6項、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第126条第7項、特許法第159条第1項、特許法第53条第1項、特許法第29条
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2016-556675「無線基地局,パケット送信装置,無線端末,制御方法,及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月 6日国際公開,WO2016/068316〕について,次のとおり審決する。

結論

【結 論】
本件審判の請求は,成り立たない。

理由

目次 ▾ 11項目
【理 由】

第1 手続の経緯

本願は,2015年(平成27年)10月30日(優先権主張 平成26年10月31日)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

令和元年6月5日付け  :拒絶理由通知書
令和元年7月25日   :意見書,手続補正書の提出
令和元年8月6日付け  :拒絶査定
令和元年11月11日  :拒絶査定不服審判の請求,手続補正書の                提出

第2 令和元年11月11日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

令和元年11月11日にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1 補正の概要

本件補正は,令和元年7月25日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された

「 パケット送信装置が送信するパケットを,ネットワークを介して受信し,無線端末へ送信する無線基地局であって,
前記パケット送信装置が前記ネットワークにおけるプロトコルに従い前記パケットに設定したパケット種別又はパケット識別子を取得する取得手段と,
前記パケット種別又は前記パケット識別子に基づき,前記無線端末へ送信する前記パケットの送出順序を変更する送信制御を行う制御手段と,を有する,
ことを特徴とする無線基地局。」

との発明(以下,「本願発明」という。)を,

「 パケット送信装置が送信するパケットを,ネットワークを介して受信し,無線端末へ送信する無線基地局であって,
前記パケット送信装置が前記パケットの前記ネットワークにおけるプロトコルスタックの第1のレイヤに設定したパケット種別又はパケット識別子を取得する取得手段と,
前記パケット種別又は前記パケット識別子に基づき,前記パケットの前記無線端末へ送信する際のプロトコルスタックにおける前記第1のレイヤよりも下位の第2のレイヤで送出順序を変更する送信制御を行う制御手段と,を有する,
ことを特徴とする無線基地局。」(下線は,補正箇所を示す。)

との発明(以下,「本願補正発明」という。)に補正することを含むものである。

2 補正の適否

(1)補正の目的要件

請求項1についての上記補正は,本件補正前の「ネットワークにおけるプロトコルに従い前記パケットに設定したパケット種別又はパケット識別子を」を,「前記パケットの前記ネットワークにおけるプロトコルスタックの第1のレイヤに設定したパケット種別又はパケット識別子」と補正し,本件補正前の「前記無線端末へ送信する前記パケットの送出順序を変更する」を,「前記無線端末へ送信する際のプロトコルスタックにおける前記第1のレイヤよりも下位の第2のレイヤで送出順序を変更する」と補正するもので,「パケット種別又はパケット識別子」及び「送出順序を変更する送信制御を行う制御手段」を限定して,特許請求の範囲を減縮するものである。

したがって,上記補正は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものである。

(2)独立特許要件

請求項1についての上記補正は,特許請求の範囲の減宿を目的とするものであるから,本件補正後の請求項1に係る発明が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

ア 本願補正発明

本願補正発明は,上記「1 補正の概要」の項の「本願補正発明」のとおりのものと認める。

イ 引用発明

原査定の拒絶の理由で引用された原田裕一,ほか,「VoIP品質を保証するための動的MACフレーム受信機会制御」,電子情報通信学会技術研究報告情報ネットワーク,日本,社団法人電子情報通信学会,2009年9月3日,第109巻,第189号,第133-138ページ(以下,「引用例1」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。なお,下線は当審で付与した。

(ア)

「MACフレーム受信機会制御の制御パラメタであるフレーム受信拒否確率は,優先/非優先フローのトラフィック量等に応じて適応的に調整する必要がある。本研究では,音声通話のような双方向リアルタイムアプリケーションの品質を保証するためにMACフレーム受信機会制御を適用する場合において,APのバッファ占有状況を見ながらフレーム受信拒否確率を動的に制御する仕組みを提案し,その基本性能を評価する。さらに,MAC層での制御に加えて,APバッファを優先/非優先トラフィック用にIP層で分離し,Priority Queueを適用することが優先トラフィックの品質保証に極めて効果的であることを示す。」(第134ページ左欄第12行-第21行)

(イ)

「3.MACフレーム受信機会制御
MACフレーム受信機会制御(Receive Opportunity Control in MAC Frame:以下 ROC)を以下説明する。」(第134ページ右欄下第2行~第135ページ左欄第1行)

(ウ)

「3.2動作詳細
APは,接続中のフローを管理する。APはMACフレームを受信すると,(MAC,IP,TCP(UDP))ヘッダ情報から当該フレームのフローを識別し,フローの要求QoSに従って制御のアクションを決定する。
フレーム受信拒否の最も単純な実現方法は,フロー毎に定められた確率に従ってランダムにフレーム受信拒否を行うものである。例えば,VoIPフローのフレームは全て受信し,その他のフローについては一律20%の確率で受信拒否を行う。このタイプの制御を「ランダム受信拒否型制御」と呼ぶ。」(第135ページ左欄第21行-第30行)

(エ)

「4. VoIP品質保証用動的ROC
本研究にて提案する音声通話品質を保証するための動的MACフレームを受信機会制御について述べる。
4.1 Priority Queue
本研究は,音声通話のようなリアルタイム双方向アプリケーションが優先トラフィックとして扱われるケースを考察する。音声通話は上り下り1本ずつのVoice overIP(VoIP)フローから構成されるため,無線LAN上で音声通話が行われると,上り方向(端末→AP)と下り方向(AP→端末)それぞれに同量のVoIPトラフィックが加わる。既に述べたように,IEEE802.11DCFでは端末とAPに公平に無線チャネルアクセスの機会が与えられるが,下り方向のトラフィックが集中するAPはボトルネックとなりやすい。特に,下り方向のIPパケットを一時蓄積するバッファにおいて,バッファ待ち遅延やバッファ溢れが発生しやすい。ボトルネックとなるAPにおいてVoIPトラフィックを他のトラフィックよりも優先的に処理するため,本研究では,APでIPパケットを一時蓄積するバッファを優先トラフィック用と非優先トラフィック用に分け,優先トラフィックに絶対的な処理優先権を与えるPriority Queueを適用することとする。
Priority Queueでは,優先トラフィック(VoIP)用バッファにIPパケットが存在する間は,(MAC層が空になるたびに)常に優先トラフィック用バッファの先頭のIPパケットが処理され,非優先パケットが処理されるのは優先トラフィック用バッファが空のときのみである(図3)。MAC層に渡されたIPパケットはそこでフレーム化され,2.2章で説明したIEEE802.11DCFの手順に従って無線端末に送信される。」(第135ページ左欄下第3行~右欄第23行)

(オ)

図3

」

上記(ア)―(エ)の記載,及び(オ)の図面,並びに当業者の技術常識を考慮すると,

a 上記(エ)の4.1の「MAC層に渡されたIPパケットはそこでフレーム化されIEEE802.11DCFの手順に従って無線端末に送信される」との記載から「IPパケットを無線端末へ送信する」ことがいえ,さらに,4.1の「ボトルネックとなるAPにおいてVoIPトラフィックを他のトラフィックよりも優先的に処理するため,本研究では,APでIPパケットを一時蓄積するバッファを優先トラフィック用と非優先トラフィック用に分け,優先トラフィックに絶対的な処理優先権を与えるPiority Queueを適用することとする。」との記載から,「APが処理を行う」ことがいえ,APがIPパケットを送信することは明らかであるから,引用例1には「IPパケットを無線端末に送信するAP」が記載されている。

b 上記(ア)の音声通話のような双方向リアルタイムアプリケーションの品質を保証するためにMACフレーム受信機会制御を適用する場合において,APのバッファ占有状況を見ながらフレーム受信拒否確率を動的に制御する仕組みを提案し,その基本性能を評価する。さらに,MAC層での制御に加えて,APバッファを優先/非優先トラフィック用にIP層で分離し,Priority Queueを適用することが優先トラフィックの品質保証に極めて効果的であることを示す。」との記載から,引用例1には,3.のMACフレーム受信機会制御と4.1のPriority Queueの双方を含むことが記載されている。また,3.2の「APは,接続中のフローを管理する。APはMACフレームを受信すると,(MAC,IP,TCP(UDP))ヘッダ情報から当該フレームのフローを識別し,フローの要求QoSに従って制御のアクションを決定する。」と4.1の「IPパケットを一時蓄積するバッファを優先トラフィック用と非優先トラフィック用にわけ」との記載から,引用例1には,APは「MACフレームを受信すると,(MAC,IP,TCP(UDP))ヘッダ情報から当該フレームのフローを識別すること」が記載されている。

c 上記(エ)の4.1に,「特に,下り方向のIPパケットを一時蓄積するバッファにおいて,バッファ待ち遅延やバッファ溢れが発生しやすい。ボトルネックとなるAPにおいてVoIPトラフィックを他のトラフィックよりも優先的に処理するため・・・APでIPパケットを一時蓄積するバッファを優先トラフィック用と非優先トラフィック用に分け,・・・優先トラフィック(VoIP)用バッファにIPパケットが存在する間は・・・常に優先トラフィック用バッファの先頭のIPパケットが処理され・・・MAC層に渡されたIPパケットはそこでフレーム化」を行うことが記載されていることから,引用例1には,APは,「下り方向のIPパケットを優先トラフィック(VoIP)用と非優先トラフィック用のバッファに分け,優先トラフィック(VoIP)用バッファにIPパケットが存在する間,常に優先トラフィック用バッファの先頭のIPパケットが処理されMAC層に渡されたIPパケットはそこでフレーム化される」ことが記載されている。

したがって,引用例1には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「 IPパケットを無線端末に送信するAPであって,
MACフレームを受信すると,(MAC,IP,TCP(UDP))ヘッダ情報から当該フレームのフローを識別し,
下り方向のIPパケットを優先トラフィック(VoIP)用と非優先トラフィック用のバッファに分け,優先トラフィック(VoIP)用バッファにIPパケットが存在する間,常に優先トラフィック用バッファの先頭のIPパケットが処理され,MAC層に渡されたIPパケットがそこでフレーム化されるAP。」が記載されていると認める。

ウ 周知技術

(ア)周知例1

本願の優先日前に公知となった特表2010-538516号公報(以下,「周知例1」という。)には,図面とともに,以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与。)

「【0058】
3GPP LTEにおいて,音声データ(RTデータ)は,ボイスオーバーインターネットプロトコル(VoIP)を用いて送信される。VoIPトラフィックパターンには,独自の特徴がある。これらの特徴には,(20msにつき1回の一定間隔において)周期的な小さいVoIPデータパケットを使用すること,および,適応多重レート(AMRのような先進の音声符号化/復号(コーデック)方式によって生成された周期的な無音指示(SID)パケットを使用することが含まれる。AMRは,音声符号化用に最適化された音声データ圧縮方式であり,標準的な音声コーデックとして,3GPPに採用されている。典型的なVoIPトラフィックパターンを図5に示す。双方向の音声通信の場合,一方が話しているときには,他方は聞いていることが一般的である。従って,例えば,「有音」と呼ばれることもあるDLの音声バーストが,UL無音期間と同時に生じることになる。このため,2つの異なる周期が存在する。つまり,有音期間と無音期間とである。有音期間中には,20ms毎にVoIPパケットが到着するが,無音期間中には,160ms毎にSIDパケットが到着する。」
「【0070】
UEがCQIのUL送信を終了させることを可能にするため,および,eNBがPUCCHリソースを複数の他のUEに再割り当てすることを可能にするために,UEおよびeNBの両方が,いつDL無音期間が開始するかを知る方法を必要としている。例えば,図6では,eNBおよびUEは,DL有音301の終了時のDL SID350およびDL有音305の終了時のDLSID356を識別可能である必要がある。
【0071】
図7を参照して説明する一技術では,eNBおよびUEの両方が,IPパケットペイロードを検査して,該パケットがSIDまたは音声データであるかを判定することが可能である。図7に示すように,一般的なAMRコーデックフレーム構成600は,フレームタイプフィールドを備えるヘッダ602を含む。このフレームタイプフィールドは,音声データまたはSIDであるフレームを識別する。従って,SIDであるAMRフレームが,AMRヘッダの検査から識別され得る。同様に,音声データであるAMRフレームが,AMRヘッダの検査から識別され得る。3GPP LTEでは,eNBは,PDCP層215(図2参照)を含む。このPDCP層215は,AMRフレームをIPパケットのペイロード部分612に変換し,IPヘッダ614を付加する。PDCP層215は,IPヘッダを典型的には40バイトから2または4バイトに圧縮して,圧縮されたIPヘッダ616を形成するが,IPペイロード部分612は圧縮されない。従って,IPペイロード612は,PDCPによるヘッダ圧縮の後も,依然としてSIDとして識別されうる。ヘッダ圧縮の後,PDCPは,暗号化を行って,暗号化されたIPパケット618を形成する。暗号化されたIPパケット618は,暗号化されたペイロード部分を含む。このためIPペイロードは,もはやeNBによってSIDとして識別されることができない。従って,本発明では,eNBは,PDCPによる暗号化の前のどこかの時点で各IPパケットペイロードを検査して,SIDであるこれらのIPパケットにフラグ付けする。その後,PDCP層215は,暗号化されたIPパケット618を,RLCヘッダ621を有するプロトコルデータユニット(PDU)619へとさらに加工するためにRLC層216に渡し,その後,eNBのMAC層218に渡す。MAC層218は,暗号化されたVoIPパケット619を,MAC PDUヘッダ622とPDU624とを含むMACプロトコルデータユニット(PDU)に変換する。その後,このMAC PDUは,矢印626で示すようにUEに送信される。」

「【図2】

【図6】

【図7】

前記【0071】の「音声データ」は,前記【0058】の「音声データ(RTデータ)は,ボイスオーバーインターネットプロトコル(VoIP)を用いて送信される。」との記載を考慮すると「VoIPパケット」ということができる。さらに,前記【0071】の「IPパケットペイロードを検査して,該パケットがSIDまたは音声データであるかを判定することが可能である。図7に示すように,一般的なAMRコーデックフレーム構成600は,フレームタイプフィールドを備えるヘッダ602を含む。このフレームタイプフィールドは,音声データまたはSIDであるフレームを識別する。」との記載を合わせて考慮すると,周知例1には,IPパケットペイロードのAMRコーデックのヘッダの検査からVoIPパケットを識別することが記載されているといえる。

ここで,IPパケットペイロードを検査していることから,前記「識別」はIPレイヤで行われていることは明らかであり,AMRコーデックのヘッダは,IPレイヤの上位のレイヤで設定したものであることは技術常識である。してみれば,周知例1には,「IPレイヤにおいてIPパケットペイロードを検査して,IPレイヤの上位のレイヤで設定したVoIPパケットを識別する。」ことが記載されていると認める。

(イ)周知例2

本願の優先日前に公知となった特開2007-166294号公報(以下,「周知例2」という。)には,図面とともに,以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与。)

「【0025】
(複数回読み込みの構成) 図4は,マルチキャスト宛先テーブルを複数回読み込む本実施の形態におけるルータ101の構成例を示す図である。
ルータ101は,入力部410と,パケット転送/複製部403と,宛先検索部404と,宛先情報テーブル405と,スイッチ406と,出力部420とを備える。入力部410は,例えば,入力ポートに対応した受信キュー401とラウンドロビンスケジューラ402とを有する。出力部420は,例えば,出力ポートに対応した送信キュー407及び送信制御部408を有する。ルータ101は,スケジューリング設定部409をさらに備えてもよい。」
「【0034】
フロー検出/優先度指定部501は,パケット転送/複製部403からのパケットヘッダ情報の組合せによりフローを検出し,フロー毎に処理の優先度を指定する。例えば,フロー検出/優先度指定部501は,パケットヘッダ情報の組合せによりVoIPのフローを検出し,VoIPのフローの優先度を高く指定する。例えば,優先度情報を「高」と設定する。また,フロー検出/優先度指定部501は,パケットヘッダ情報の組合せによりマルチキャストのフローを検出し,マルチキャストのフローの優先度を低く指定する。例えば,優先度情報を「低」と設定する。また,フロー検出/優先度指定部501は,入力されたヘッダ情報と優先度情報とを宛先情報テーブルポインタ検索部502に出力する。なお,フロー検出/優先度指定部501は,VoIP以外にも適宜の音声パケットの優先度情報を「高」としてもよい。これら以外にも適宜のパケットの優先度情報を「高」又は「低」と設定してもよい。また,本実施の形態では,「高」と「低」の2段階に設定しているが,複数の優先度を設定し,優先度毎の複数のキューにキューイングするようにしてもよい。」

【図4】

前記【0025】及び【0034】の記載から,周知例2において,ルータは,パケットの「パケットヘッダ情報の組み合わせによりフローを検出」するものである。ここで,一般にルータはIPパケットを宛先に中継するものであるところ,前記受信したパケットはIPパケットである。したがって,周知例2においてIPパケットを処理するIPレイヤにおいてパケットヘッダ情報の組み合わせにより当該フロー検出を行っていることは明らかである。そして,VoIP等のフローのパケットヘッダ情報は,IPレイヤより上位のレイヤにて設定したものを含むものであることも明らかである。また,VoIPのフローはVoIPのパケットからなることから,VoIPのフローを検出することは,VoIPのパケットを検出することにほかならない。してみれば,周知例2には,「IPレイヤにおいて,IPレイヤより上位のレイヤにて設定したものを含むパケットヘッダ情報からVoIPのパケットを検出する。」ことが記載されていると認める。

(ウ)周知技術

周知例1のVoIPパケット及び,周知例2のVoIPのパケットは,いずれもパケットの種別ということができるから,周知例1及び2より,「IPレイヤにおいて,IPレイヤより上位のレイヤにて設定したパケットの種別を識別する。」ことは,周知であると認める。

エ 対比・判断

(ア)引用発明の「AP」は,本願補正発明の「無線基地局」に相当する。引用発明の「IPパケット」は本願補正発明の「パケット」に含まれる。また,引用発明はVoIPパケットを送受信することは明らかであり,VoIPでは,ダウンリンクパケットは,VoIPパケットを送信する装置からネットワークを介してAPが受信するものであることも明らかである。してみれば,引用発明の「IPパケットを無線端末に送信するAP」は,本願補正発明の「パケット送信装置が送信するパケットを,ネットワークを介して受信し,無線端末へ送信する無線基地局」との点で共通する。

(イ)引用発明の「IPパケットを優先トラフィック(VoIP)用と非優先トラフィック用のバッファに分け」との事項より,引用発明のAPはIPパケットを取得する手段を有し,当該IPパケットから優先トラフィック(VoIP)と非優先トラフィックという,パケット種別を取得していることは明らかである。してみれば,本願発明の「前記パケット送信装置が前記パケットの前記ネットワークにおけるプロトコルスタックの第1のレイヤに設定したパケット種別又はパケット識別子を取得する取得手段」と引用発明の前記事項は,「前記パケットのネットワークにおけるパケット種別を取得する取得手段」との点で共通する。

(ウ)引用発明の「下り方向のIPパケットを優先トラフィック(VoIP)用と非優先トラフィック用のバッファに分け」との事項により,当該分ける処理がIPレイヤで行われていることは明らかである。そして,引用発明は,「優先トラフィック(VoIP)用バッファにIPパケットが存在する間,常に優先トラフィック用バッファの先頭のIPパケットが処理され,MAC層に渡されたIPパケットがそこでフレーム化される」のであるから,送出順序を変更する送信制御をおこなっているものといえ,当該処理を行う制御手段を備えることは明らかである。

また,引用発明の「下り方向のIPパケット」は,無線端末へ送信する際のパケットに含まれることは明らかである。

してみれば,本願補正発明の「前記パケット種別又は前記パケット識別子に基づき,前記パケットの前記無線端末へ送信する際のプロトコルスタックにおける前記第1のレイヤよりも下位の第2のレイヤで送出順序を変更する送信制御を行う制御手段」と引用発明の「下り方向のIPパケットを優先トラフィック(VoIP)用と非優先トラフィック用のバッファに分け,優先トラフィック(VoIP)用バッファにIPパケットが存在する間,常に優先トラフィック用バッファの先頭のIPパケットが処理され,MAC層に渡されたIPパケットがそこでフレーム化される」とでは,「前記パケット種別に基づき,送出順序を変更する送信制御を行う制御手段」との点で共通する。

以上を総合すると,本願補正発明と引用発明とでは,以下の点で一致,又は,相違する。

(一致点)

「 パケット送信装置が送信するパケットを,ネットワークを介して受信し,無線端末へ送信する無線基地局であって,
前記パケットのネットワークにおけるパケット種別を取得する取得手段と,
前記パケット種別に基づき,送出順序を変更する送信制御を行う制御手段と,を有する
無線基地局。」

(相違点1)

前記一致点の,「前記パケットのネットワークにおけるパケット種別を取得する取得手段」,及び,「前記パケット種別に基づき,送出順序を変更する送信制御を行う制御手段と」に関し,本願補正発明では,「パケット種別又はパケット識別子」を取得し,それらに基づき送出順序を変更するものであるが,引用発明ではパケット種別には基づくが,パケット識別子については特定がない点で相違する。

(相違点2)

前記一致点の「前記パケットのネットワークにおけるパケット種別を取得する取得手段」に関し,本願補正発明は「前記パケット送信装置が前記パケットの前記ネットワークにおけるプロトコルスタックの第1のレイヤに設定したパケット種別又はパケット識別子を取得する取得手段」であって,本願補正発明における「パケット種別又はパケット識別子」は,「前記パケット送信装置が前記パケットの前記ネットワークにおけるプロトコルスタックの第1のレイヤに設定」するものであるのに対し,引用発明では,当該点について特定がない点で相違する。

(相違点3)

前記一致点の「前記パケット種別に基づき,送出順序を変更する送信制御を行う制御手段」に関し,本願補正発明の制御手段は「前記パケットの前記無線端末へ送信する際のプロトコルスタックにおける前記第1のレイヤよりも下位の第2のレイヤで送出順序を変更する」のに対し,引用発明では,「下り方向のIPパケットを優先トラフィック(VoIP)用と非優先トラフィック用のバッファに分け,優先トラフィック(VoIP)用バッファにIPパケットが存在する間,常に優先トラフィック用バッファの先頭のIPパケットが処理され,MAC層に渡されたIPパケットがそこでフレーム化される」ものである点,すなわち,引用発明ではIP層で送出順序を変更するものであるが,本願補正発明の「前記パケットの前記無線端末へ送信する際のプロトコルスタックにおける前記第1のレイヤよりも下位の第2のレイヤで送出順序を変更する」点は特定されていない点で相違する。

上記相違点について,検討する。

(相違点1)

本願補正発明において,「パケット種別又はパケット識別子」との事項に関する記載は,

「前記パケット送信装置が前記パケットの前記ネットワークにおけるプロトコルスタックの第1のレイヤに設定したパケット種別又はパケット識別子を取得する取得手段と,
前記パケット種別又は前記パケット識別子に基づき,前記パケットの前記無線端末へ送信する際のプロトコルスタックにおける前記第1のレイヤよりも下位の第2のレイヤで送出順序を変更する送信制御を行う制御手段」

というものであり,いずれも択一的な記載であることから,前記(イ)で検討したとおり「パケット種別」について相当する事項が認められる引用発明との間に実質的な相違点はない。さらに進めて,パケット識別子について検討すると,VoIPパケットでは,IPレイヤより上位のレイヤにおいてヘッダとともに音声データが作成され,当該ヘッダにはVoIP情報であることを示す情報が含まれていることは技術常識である。そして,当該情報を「パケット識別子」と称することは当業者が適宜なし得た事項である。

(相違点2)

一般にVoIPでは,端末装置間でVoIPパケットを作成し,ネットワークを介して送受信するものであるところ,パケットの送信を行う装置でVoIPパケットを作成することは当然である。また,VoIPパケットでは,IPレイヤより上位のレイヤにおいてヘッダとともに音声データが作成され,前記VoIPパケットのペイロードに格納されることは技術常識であるから,引用発明に特定はないものの,引用発明において,パケット送信装置がプロトコルスタックのIPレイヤより上位のレイヤにおいてヘッダとともに音声データを作成することは,引用発明に示唆されているといえる。また,IPレイヤより上位のレイヤを第1のレイヤと称することは適宜なしえることであるから,引用発明において,「前記パケット送信装置が前記パケットの前記ネットワークにおけるプロトコルスタックの第1のレイヤに設定」したパケット種別又はパケット識別子を取得する取得手段とすることは,当業者が容易に想到することができた事項である。

(相違点3)

引用発明には「MACフレームを受信すると」すなわちAPがアップリンクのフレームを受信すると,(MAC,IP,TCP(UDP))ヘッダ情報から当該フレームのフローを識別することが特定されている。すなわち,アップリンクの場合ではある(無線端末へ送信する場合ではない)ものの,MACレイヤにおいてMACレイヤより上位のレイヤのヘッダ情報から当該フレームのフローを識別することが特定されている。また,前記ウ(ウ)で検討したように「IPレイヤにおいて,IPレイヤより上位のレイヤにて設定したパケットの種別を識別する。」ことは周知である。このように,アップリンク,ダウンリンクにかかわらず,上位レイヤのヘッダ情報からパケット種別を取得することは,周知であるから,引用発明の「下り方向のIPパケットを優先トラフィック(VoIP)用と非優先トラフィック用のバッファに分け」る際に当該技術が用いられることは,当業者が容易に想到することができた事項である。そして,引用発明において,IPパケットの送出順序を変更するのはIPレイヤといえ,前記相違点2についての検討で示したとおり,IPレイヤより上位のレイヤを第1のレイヤと称することは適宜なしえることである。

してみれば,引用発明において,「前記パケットの前記無線端末へ送信する際のプロトコルスタックにおける前記第1のレイヤよりも下位の第2のレイヤで送出順序を変更する」ものとすることは,当業者が容易に想到することができた事項である。

さらに,本願補正発明の作用効果も,引用発明に基づいて当業者が予測できる範囲のものである。

したがって,本願補正発明(本件補正の請求項1に係る発明) は,引用発明,及び,周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない 。

[請求人の主張について]

請求人は審判請求書の「(4)本願発明と引用発明との対比」において,

「具体的には,「パケット送信装置が送信するパケットを,ネットワークを介して受信し,無線端末へ送信する」ための従来技術では,無線基地局と無線端末との間の無線区間におけるパケット(PDCPパケット)のシーケンス番号と,無線基地局までのネットワーク区間におけるパケット(TCPパケット)のシーケンス番号とが,異なるものを使用していたので,ユーザーが利用する無線端末には,必ずしも好ましい順序でパケットが到達しないという問題があります([発明が解決しようとする課題]および[0056]等参照)。
・・・中略・・・
また,引用文献1および引用文献2は,どちらも単に無線区間における優先順位を制御する技術に関するものであるので,上記したような「無線区間におけるパケット(PDCPパケット)のシーケンス番号と,無線基地局までのネットワーク区間におけるパケット(TCPパケット)のシーケンス番号とが,異なる」という課題が生じることもありません。したがいまして,如何に当業者といえども引用文献1および引用文献2に記載の技術に基づいて,本願発明のような「第1のレイヤに設定したパケット種別又はパケット識別子を取得」し,「前記第1のレイヤよりも下位の第2のレイヤで送出順序を変更する送信制御を行う」構成を容易に想到することはできなかったと思料いたします。」

と主張している。

しかしながら,本願補正発明には「無線区間におけるパケット(PDCPパケット)のシーケンス番号」及び「ネットワーク区間におけるパケット(TCPパケット)のシーケンス番号」に関する記載は存在しないから,請求人の上記の主張は本願補正発明に関するものではない。

更に,(相違点1),(相違点2),(相違点3)について検討したとおり,引用発明において「第1のレイヤに設定したパケット種別又はパケット識別子を取得」し,「前記第1のレイヤよりも下位の第2のレイヤで送出順序を変更する送信制御を行う」ことは当業者が容易に想到しうることである。

よって,請求人の主張を採用することはできない。

3 結語

したがって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に違反するものであるから,特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1 本願発明

令和元年11月11にされた手続補正は上記のとおり却下されたので,本願発明は,上記「第2」の項の「1 補正の概要」の項の「本願発明」のとおりのものと認める。

2 原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶理由の概要は,

「(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」

というものであり,請求項1に対して引用例1(原田裕一,ほか,「VoIP品質を保証するための動的MACフレーム受信機会制御」,電子情報通信学会技術研究報告情報ネットワーク,日本,社団法人電子情報通信学会,2009年9月3日,第109巻,第189号,第133-138ページ)が引用されている。

3 引用発明及び周知技術

引用発明,周知技術は,上記「第2 令和元年11月11日に手続補正についての補正の却下の決定」の項中の「(2)イ 引用発明」,「(2)ウ 周知技術」の項で認定したとおりである。

4 対比・判断

本願発明と引用発明とを対比するに,本願発明は,本願補正発明から当該補正に係る限定を省いたものである。

そうすると,本願発明の構成に当該補正に係る限定を付加した本願補正発明が,「第2 令和元年11月11日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の項中の「2 補正の適否」の項中の「(2)エ 対比・判断」の項で検討したとおり,当業者が引用発明に基づいて容易に発明できたものであるから,本願発明も同様の理由により,引用発明に基づいて容易に発明できたものである。

5 むすび

以上のとおり,本願発明(本源の請求項1に係る発明)は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。

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2019-015085

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