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特許拒絶査定不服審判

2019-013652

音波検知素子

審判番号
2019-013652
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2016-516425
請求日
2019年10月11日
審決日
2020年12月22日
公報発行日
2021年04月30日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】株式会社バルカー
  • 【請求人代理人】特許業務法人SSINPAT
  • 【請求人】学校法人 関西大学
  • 【請求人代理人】特許業務法人SSINPAT
審判長/審判官
  • 審判長 山田 正文
  • 審判官 五十嵐 努
  • 審判官 山本 章裕
分類
P18 .121-WZ (H01G)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2016-516425「音波検知素子」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月 5日国際公開、WO2015/167014〕について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 本願は、2015年(平成27年)5月1日(優先権主張 平成26年5月1日)を国際出願日とする出願であって、平成30年12月27日付け拒絶理由通知に対して平成31年3月4日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、令和1年7月8日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、同年10月11日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、令和2年6月23日付け当審の拒絶理由通知に対して同年8月27日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし6に係る発明は、令和2年8月27日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「分子および結晶構造に起因する双極子を持たないフッ素系樹脂からなる多孔質樹脂体と耐圧容器とを有し、 前記多孔質樹脂体が、フッ素系樹脂からなるファイバーから形成された不織布または織布を含み、 前記耐圧容器の音波透過率が20%以上であり、前記耐圧容器の引張強度が50~2000MPaであり、前記耐圧容器が密閉容器である、 音波検知素子。」 第3 当審拒絶理由の概要 当審において令和2年6月23日付けで通知した拒絶理由のうち理由2(進歩性)の概要は、請求項1に係る発明に対する拒絶理由を含むものであって、次のとおりである。 本願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1:特開2011-109095号公報 引用文献2:特開2012-164735号公報 引用文献3:特開2009-1689号公報(周知技術を示す文献) 引用文献4:特開2000-253494号公報 引用文献5:特開2006-101204号公報 第4 引用文献 1 引用文献1の記載及び引用発明 引用文献1には、背景技術として従来から知られている、圧電材料、及び圧電材料を含む圧電素子に関する記載として、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。 「【0002】 圧電材料は、機械的圧力を線形的に電圧信号に変えることができる。逆に、圧電材料に加えられた電場を、変換器の形状の変化に変換することができる。圧電材料は、多くの用途において、これまでも動的部品として組み込まれている。このような用途には、例えば、キーボード又はタッチパッド用構造圧力センサ、加速センサ、マイク、拡声器、医用工学、海洋工学又は材料試験における用途のための超音波変換器がある。WO 2006/053528 には、例えば、ポリマーフィルムを含んでなる圧電素子に基づく電子音響変換器が記載されている。 【0003】 近年、フェロエレクトレットとして知られている、新しい種類の圧電性ポリマーが、次第に研究対象となってきている。フェロエレクトレットは、ピエゾエレクトレットとしても知られている。フェロエレクトレットは、電荷を長時間保持できる空隙構造を有するポリマー材料からなる。これまで知られているフェロエレクトレットは、例えば、セル状空隙構造を有し、発泡ポリマーフィルムとして、あるいはポリマーフィルム又はポリマー織物を含む多層系として、形成されている。電荷が空隙の様々な表面にそれらの極性に応じて分布されるなら、各帯電空隙は電気双極子に相当する。そして、空隙が変形されると、双極子の大きさに変化が生じ、外部電極間に電流が流れることになる。フェロエレクトレットは、他の圧電材料に匹敵する圧電活性を示し得る。」 上記から、引用文献1には以下の事項が記載されている。 ・上記【0002】の記載によれば、圧電材料は医用工学、海洋工学又は材料試験における用途のための超音波変換器に動的部品として組み込まれて使用できるものである。ここで、圧電材料を利用した圧電素子を超音波変換器に用いることは技術常識であるから、引用文献1には、圧電材料を利用した圧電素子が医用工学、海洋工学又は材料試験における用途のための超音波変換器に組み込まれて使用できることが記載されているといえる。 ・上記【0003】の記載によれば、圧電材料は、電荷を長時間保持できる空隙構造を有するポリマー材料からなり、ポリマーフィルム又はポリマー織物を含む多層系として形成されている。また、帯電空隙が変形されると外部電極間に電流が流れ、圧電活性を示すものである。 したがって、上記摘記事項を総合勘案すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「圧電材料を利用した圧電素子であって、 圧電素子は、医用工学、海洋工学又は材料試験における用途のための超音波変換器に組み込まれて使用できるものであり、 圧電材料は、電荷を長時間保持できる空隙構造を有するポリマー材料からなり、ポリマーフィルム又はポリマー織物を含む多層系として形成されており、帯電空隙が変形されると外部電極間に電流が流れ、圧電活性を示す、圧電素子。」 2 引用文献1ないし3に記載された技術 (1)引用文献1には、フェロエレクトレットに関して、以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。 ア「【0005】 閉塞(独立気泡)外層及び多孔質又は穿孔中間層を含む多層系は、近年、種々の刊行物に記載されている。これら刊行物には、Z. Hu and H. von Seggern, "Air-breakdown charging mechanism of fibrous polytetrafluoroethylene films", Journal of Applied Physics, Vol. 98, paper 014108, 2005 及び "Breakdown-induced polarization buildup in porous fluoropolymer sandwiches: A thermally stable piezoelectret", Journal of Applied Physics, Vol. 99, paper 024102, 2006、更に、H. C. Basso, R.A.P. Altafilm, R.A.C. Altafilm, A. Mellinger, Peng Fang, W. Wirges and R. Gerhard "Three-layer ferroelectrets from perforated Teflon-PTFE films fused between two homogeneous Teflon-FEP films" IEEE, 2007 Annual Report Conference on Electrical Insulation and Dielectric Phenomena, 1-4244-1482-2/07, 453-456 (2007) 及び Jinfeng Huang, Xiaoqing Zhang, Zhongfu Xia and Xuewen Wang "Piezoelectrets from laminated sandwiches of porous polytetrafluoroethylene films and nonporous fluoroethylenepropylene films" Journal of Applied Physics, Vol. 103, paper 084111, 2008 が含まれる。多孔質又は穿孔中間層を有する層系は、多くの場合、上記の系より大きい圧電定数を有する。」 (2)引用文献2には、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。 イ「【0001】 本発明は、超音波センサ、接触センサ、感圧センサ等のセンサ類、スイッチ、マイクロフォン、ヘッドホン、スピーカなどに用いることができるプラスチックフィルム製の圧電素子に関し、更に詳述すると、多孔質フッ素樹脂フィルムを用いた圧電素子に関する。」 ウ「【0031】 本発明で使用する多孔質フッ素樹脂フィルムにおける多孔質構造については特に限定しないが、好ましくは、ノードと称されるフッ素樹脂粒子塊(二次粒子)部分を、フィブリルと称される繊維状のフッ素樹脂部分でつないだような網状構造の連通孔タイプの多孔質フィルムが好ましい。このような多孔質フィルムでは、フィブリル間、フィブリル・ノード間間隙が空孔に該当する。気孔の割合(気孔率)は、45%以上であり、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上である。 ―(中略)― 【0034】 多孔質フッ素樹脂フィルムの多孔質構造のフッ素樹脂材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル(EPA)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロ・テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体、及びこれらの1種又は2種以上の混合物などを用いることができ、好ましくはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であり、より好ましくは延伸PTFEである。一方、分子及び結晶構造に起因する双極子に基づき圧電性を発現するポリフッ化ビニリデン等は耐熱性の観点からは好ましくない。尚、(延伸)PTFEは、多孔質構造に起因して、圧電処理により圧電性を発揮するものであり、非多孔質のPTFEでは、同様にコロナ放電処理しても発電性を発現しない。」 (3)引用文献3には、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。 エ「【0001】 本発明は、高分子物質の圧電・焦電素子のうち、特に圧電性が高く、耐熱性、耐環境性に優れた高分子物質の圧電・焦電素子に関する。」 オ「【0010】 まず、本実施形態の圧電・焦電素子について図1を用いて説明する。 図1(A)は、本実施形態の圧電・焦電素子の平面図であり、図1(B)は、図1のα-α線断面図である。 この圧電・焦電素子1は、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)を発泡させて成形した発泡FEP(F-FEP)のシートを図1(A)に示すように矩形状に切断し、本発明の特徴的な部分である紫外線(以下、UV光という)を照射しつつコロナ放電を加えて電荷をトラップ(分極)させることにより作成されている。」 (4)上記アないしオの記載並びに当業者の技術常識を考慮すると、圧電性を有する多孔質の樹脂材料に関して、以下の技術は周知の技術事項であると認められる。 「PTFE、FEPを含むフッ素系樹脂は、多孔質構造に起因して圧電性を発揮し、圧電素子に使用できること」 3 引用文献4に記載された技術 引用文献4には、図面とともに以下の記載がある。 ア「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は超音波センサにおいて超音波を送受信する圧電素子に関する。」 イ「【0012】 【発明の実施の形態】以下、本発明の第1の実施の形態を図面に基づいて説明する。図2は本発明の圧電素子1を用いた超音波センサSの全体構造を示すもので、超音波センサSは後端(図の左端)が閉鎖された筒状のケース4を有している。ケース4はポリフェニレンスルフィド(PPS)系の樹脂材よりなり、旋盤等で成形することにより所定形状とされる。ケース4内には、本発明の圧電素子1が、その全周にコルク等よりなる吸音材41を巻いた状態で保持され、圧電素子1の後方にはケース4後端壁との間にブチルゴム等よりなる制振材42が配設されている。これら吸音材41および制振材42は圧電素子1の側方および後方への超音波の放射を防止している。圧電体11(当審注:「圧電体12」は「圧電体11」の誤記と認められる。)前方のケース41内には樹脂材よりなる3層構造の整合層43が形成してあり、音圧透過率を高めている。」 ウ 図2を参照すると、圧電素子1はケース4及び整合層43により閉じられている。 上記アないしウの記載から、引用文献4には、超音波センサの圧電素子に関して、以下の技術が記載されている。 「圧電素子がポリフェニレンスルフィド(PPS)系の樹脂材よりなるケース及び整合層によって閉じられること」 4 引用文献5に記載された技術 引用文献5には、超音波トランスデューサに関して、図面とともに以下の記載がある。 ア「【0001】 本発明は、超音波用探触子において、超音波の送受信を行う振動子と被検体との間の音響インピーダンスを整合させるために用いられる音響整合層及びその製造方法、並びに、振動子及び音響整合層を含む超音波トランスデューサに関する。」 イ「【0016】 以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、説明を省略する。 図1は、本発明の第1の実施形態に係る音響整合層を含む超音波トランスデューサを示す断面図である。図1に示す超音波トランスデューサ1は、圧電体10の両端に電極11及び12が形成された振動子13と、電極11を介して振動子13に積層された音響整合層14とを含んでいる。また、超音波トランスデューサ1は、振動子13における音響整合層14とは反対側の面に配置されているバッキング層15を含んでも良い。 【0017】 圧電体10としては、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛:Pb(lead) zirconate titanate)に代表される圧電セラミックや、PVDF(ポリフッ化ビニリデン:polyvinylidene difluoride)に代表される高分子圧電素子等を用いることができ、本実施形態においては、PZT(音響インピーダンス:約35MRayl)を用いている。この圧電体10の両端に形成された電極11及び12に、パルス状の電気信号又は連続波の電気信号を送って電圧を印加すると、圧電体10が伸縮して超音波を発生する。また、圧電体10は、伝搬する超音波を受信することにより伸縮して電気信号を発生する。この電気信号は、電極11及び12並びにそれらの電極と接続された配線を介して、超音波受信信号として出力される。 電極11及び12の材料としては、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)等の金属又はそれらの金属を含む合金等を用いることができ、本実施形態においては、白金が用いられている。」 ウ「【0020】 次に、本実施形態に係る音響整合層の製造方法について、図2~図5を参照しながら説明する。本実施形態において製造される音響整合層は、図1に示す振動子13上に形成される。」 エ「【0037】 図6は、図1に示す音響整合層14を構成する層の数と、振動子と生体との間における超音波の透過率との関係を、計算により求めた結果を示している。図6に示すように、音響整合層を配置しない場合(層の数=0)に透過率が約8%であるのに対して、接着剤を介することなく音響整合層を設けることにより、透過率は増加している。例えば、1層構成の音響整合層(層の数=1)の場合には、透過率は約12%となり、約1.5倍に増加している。また、従来、技術上の問題により限界とされてきた2層構成の音響整合層の場合には、透過率は約14%であるが、層の数を10に増やすことにより、透過率は約18.5%(0層の場合の約2.3倍、2層の場合の約1.3倍)まで上昇し、層の数を30に増やすことにより、透過率は約20%(0層の場合の約2.5倍、2層の場合の約1.4倍)まで上昇する。ここで、透過率は、超音波の送信時及び受信時の双方に影響を与えるので、例えば、透過率が2倍上昇すると、往路及び復路で超音波の透過効率が4倍(2倍×2倍)に向上することを意味する。即ち、送受信の感度に換算すると、12dB程度上昇するので、超音波画像の画質を各段に向上させることができる。そのような多数の層を含む音響整合層は、本実施形態に係る音響整合層の製造方法を用いることにより、容易に作製することができる。」 上記アないしエの記載から、引用文献5には、超音波トランスデューサの圧電素子に関して、以下の技術が記載されている。 「圧電素子の上に形成される層の超音波の透過率が20%まで上昇すると、超音波画像の画質を格段に向上できること」 第5 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 1 引用発明の「電荷を長時間保持できる空隙構造を有するポリマー材料」からなる「圧電性ポリマー」は、本願発明の「樹脂からなる多孔質樹脂体」に相当する。 ただし、樹脂からなる多孔質樹脂体に関して、本願発明は「分子および結晶構造に起因する双極子を持たないフッ素系樹脂からなる多孔質樹脂体」であるのに対して、引用発明にはその旨の特定がない点で相違する。 2 本願発明は「耐圧容器」を有し、「前記耐圧容器の音波透過率が20%以上であり、前記耐圧容器の引張強度が50~2000MPaであり、前記耐圧容器が密閉容器である」のに対して、引用発明にはその旨の特定がない点で相違する。 3 引用発明の圧電性ポリマーが「ポリマー織物を含む多層系として形成され」ることは、本願発明の多孔質樹脂体が「樹脂からなるファイバーから形成された不織布または織布を含」むことに相当する。 ただし、樹脂からなるファイバーに関して、本願発明は「フッ素系樹脂からなるファイバー」であるのに対して、引用発明にはその旨の特定がない点で相違する。 4 引用発明の「圧電素子」は「超音波変換器に組み込まれ」るものであるから、超音波を送受信し超音波を検知するものであることは明白といえ、本願発明の「音波検知素子」に相当する。 そうすると、本願発明と引用発明とは、 「樹脂からなる多孔質樹脂体を有し、 前記多孔質樹脂体が、樹脂からなるファイバーから形成された不織布または織布を含む、音波検知素子。」である点で一致し、 以下の点で相違する。 <相違点1> 樹脂からなる多孔質樹脂体に関して、本願発明は「分子および結晶構造に起因する双極子を持たないフッ素系樹脂からなる多孔質樹脂体」であるのに対して、引用発明にはその旨の特定がない点。 <相違点2> 本願発明は「耐圧容器」を有し、「前記耐圧容器の音波透過率が20%以上であり、前記耐圧容器の引張強度が50~2000MPaであり、前記耐圧容器が密閉容器である」のに対して、引用発明にはその旨の特定がない点。 <相違点3> 樹脂からなるファイバーに関して、本願発明は「フッ素系樹脂からなるファイバー」であるのに対して、引用発明にはその旨の特定がない点。 第6 判断 1 相違点についての検討 以下、相違点について検討する。 (1)<相違点1>及び<相違点3>について PTFE、FEPを含むフッ素系樹脂は、多孔質構造に起因して圧電性を発揮し、圧電素子に使用できることは周知の技術事項である(上記「第4 2(4)」参照)。ここで、PTFEやFEPは、分子および結晶構造に起因する双極子を持たないフッ素系樹脂である。 そうすると、引用発明の圧電素子に用いる圧電材料は、ポリマーフィルム又はポリマー織物を含む多層系として形成されるから、周知の技術事項を適用して、PTFE等のフッ素系樹脂からなるポリマー織物を用いて形成するようにし、上記相違点1及び3に係る構成とすることは当業者が容易になし得たことである。 (2)<相違点2>について 引用発明の圧電素子は、医用工学、海洋工学又は材料試験における用途のための超音波変換器に組み込まれるものであるから、通常、ケース等筐体に密閉されて使用されることが一般的であり、海洋工学等における用途のために耐圧とすることも当業者が適宜なし得ることである。 ここで、引用文献4には、圧電素子がポリフェニレンスルフィド(PPS)系の樹脂材よりなるケース及び整合層によって閉じられて使用されることが記載されており(上記「第4 3」参照)、通常、PPS系の樹脂材の引張強度は100~200MPa程度であるから(例えば特開2004-269750号公報の【0026】の【表1】参照)、本願発明の引張強度の数値範囲50~2000MPaに含まれるケースによって閉じられている。 また、引用文献5には、超音波トランスデューサにおいて、圧電素子の上に形成される層の超音波の透過率が20%まで上昇すると、超音波画像の画質を格段に向上できることが記載されている(上記「第4 4」参照)。 そうすると、引用発明の圧電素子をケース等筐体で密閉する際に、超音波変換器として求められる特性が得られるような筐体の強度や、超音波の検出性能を考慮し、引用文献4記載の技術事項のように引張強度が100~200MPa程度の樹脂を採用することや、引用文献5記載の技術事項を適用して超音波の透過率を20%以上にすることで、上記相違点2に係る構成とすることは当業者が容易になし得たことである。 (3)小括 よって、請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献4及び5に記載された技術事項、及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 そして、本願発明が奏する効果は、引用文献1に記載された発明、引用文献4及び5に記載された技術事項、及び周知の技術事項から当業者が十分に予測できたものであって格別なものとはいえない。 2 審判請求人の主張について (1)審判請求人の主張 審判請求人は、当審拒絶理由通知に対する令和2年8月27日付け意見書の「3-2」において、以下のとおり主張している。 ア 引用文献1には、「近年のフェロエレクトレット」として、上記[0003]の記載はあるが、この記載は、引用文献1の背景技術(先行技術)に関する記載である。引用文献1の[0013]には、「本発明は、先行技術の欠点を克服し」と記載されている通り、引用文献1に記載の発明は、先行技術、つまり、引用文献の[0002]~[0010]に記載の先行技術とは全く異なる発明である。従って、上記引用発明は、引用文献1に記載の発明とは全く異なる発明であり、引用文献1の課題を解決できない発明である(以下、「主張1」という。)。 イ 相違点は、2つのみであるとされたが、引用発明が上記の通りであるとすると、少なくとも、音波検知素子であるか、圧電素子であるかの点でも相違するがこの点については一切言及されていない。ちなみに、音波検知素子と圧電素子とは同一ではないため、この構成の相違が当業者にとって容易になし得たものではない場合、本発明の進歩性は否定されない(以下、「主張2」という。)。 ウ 相違点1について、『引用発明の「ポリマー織物」には、圧電活性を示す材料を用いることは明らかである』と認定されたが、そもそも、圧電活性を示す材料とは何なのか不明確(例えば、PTFE自体には圧電性はない)であり、引用文献1-3にもフッ素系樹脂が圧電活性を示す材料であるとは記載されていない(以下、「主張3」という。)。 エ 例えば、引用文献1の[0025]には、「フッ素化物質は廃棄に問題があり、焼却すると有毒物質を生成するので、通例、フッ素化物質は使用されないようにされる」と記載されており、引用文献1では、むしろ、フッ素化物質を使用しないことを示唆している。従って、このような引用文献1に接した当業者が、引用文献1のこの記載を無視して、フッ素系樹脂から形成される織物を用いることが容易であるとは言えないと思料する(以下、「主張4」という。)。 オ 相違点2について、『引用発明の圧電素子においても、ケースを使用することや、性能を向上させることは自明な課題といえる』と認定された。 確かに、引用文献4にはケースが記載されているが、この記載が、なぜ、引用発明においてケースを使用することが自明な課題になるのか全く不明であり、このようなご認定は、後知恵であると考えられ、到底容認できるものではない。 ちなみに、引用文献4に記載の発明は、その課題を解決するためにケースを用いているわけではなく、引用文献4の[0012]の最後に記載の「音圧透過率を高めている」のはケースではなく整合層である。また、引用文献1-3、5には、ケースは記載されておらず、例えば、引用文献5の記載によれば、性能を向上させるためなら、ケースではなく、特定の層数の音響整合層を用いればよいだけである(以下、「主張5」という)。 (2)検討 ア 主張1について 上記「第4 1」で述べたとおり、引用発明1に記載された、背景技術として従来から知られている技術に基づき、引用発明を認定しており、引用文献1の特許請求の範囲や発明を実施するための形態から引用発明を認定したものではない。 したがって、上記請求人の主張は採用できない。 イ 主張2について 上記「第5」で述べたとおり、引用発明の「圧電素子」は「超音波変換器に組み込まれ」るものであるから、超音波を送受信し超音波を検知するものであることは明白といえ、本願発明の「音波検知素子」に相当する。 したがって、請求人の主張は採用できない。 ウ 主張3について 引用発明は、圧電材料の帯電空隙が変形されると外部電極間に電流が流れ、「圧電活性を示す」のであるから、「圧電活性を示す材料」の意味は明確である。 また、PTFEを含むフッ素系樹脂が多孔質構造に起因して圧電性を発揮することは、周知の技術事項である(上記「第4 2(4)」参照)。 したがって、請求人の主張は採用できない。 エ 主張4について フッ素化物質に関しては、法律に基づいて適切に廃棄処理が行い得るものであり、焼却すると有毒物質を生成することがフッ素化物質を使用することの阻害要因になるとはえいない。 したがって、請求人の主張は採用できない。 オ 主張5について 上記「第6 1(2)」で<相違点2>について検討したとおり、引用発明の圧電素子は、超音波変換器を構成するケース等筐体に密閉されて使用されることが一般的であるから、強度のあるケースを使用することや、超音波検出の性能を向上させることは自明な課題といえる。 また、圧電素子の密閉に使用するケース等筐体として、圧電素子が底面に接着された有底筒状のケースを用いて、底面を介して超音波を検出することや(特開2013-110570号公報の図1及び2、実願昭59-72569号(実開昭60-184399号)のマイクロフィルムの第1及び4図参照)、整合層を形成したケースを用いて、整合層を介して超音波を検出することは(引用文献4の図2、引用文献5の図13)、いずれも普通に行われている周知の技術事項であるから、ケースの底面を介して超音波を検出する場合には、底面部分に対して超音波の検出性能を考慮する必要があることは自明である。 したがって、請求人の主張は採用できない。 第7 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献4及び5に記載された技術事項、及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項について論及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり、審決する。

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2019-013652

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