特許拒絶査定不服審判
2019-011308
光照射装置および光照射方法
- 審判番号
- 2019-011308
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2014-184020外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年08月28日
- 審決日
- 2020年04月30日
- 公報発行日
- 2020年08月28日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .121-Z (B23K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2014-184020「光照射装置および光照射方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月21日出願公開、特開2016- 55319〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
1 手続の経緯
本願は、平成26年9月10日にした出願であって、その手続の経緯は、次のとおりである。
平成29年 7月12日 手続補正書
平成30年 7月18日付け 拒絶理由通知
平成30年 9月13日 意見書・手続補正書
平成30年10月30日付け 拒絶理由通知
平成31年 1月 9日 意見書
令和 1年 6月 5日付け 拒絶査定
令和 1年 8月28日 本件審判請求
2 本願発明
本願発明は、平成30年9月13日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~8に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される以下のとおりのもの(以下「本願発明」という。)である。
「【請求項1】
パルス光を出力する光源と、
前記パルス光を分散する分散素子と、
当該分散された光の位相スペクトルまたは強度スペクトルを変調する空間光変調器と、
前記空間光変調器によって変調された光を分散された状態で受け、その光を対象物の表面または内部の集光領域に集光して、前記集光領域において、前記空間光変調器による変調に応じて調整された時間波形のパルス光とする集光素子と、
を備える光照射装置。」
3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本願の出願前に頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1.Dawn N. Vitek, et al., Temporally focused femtosecond laser pulses for low numerical aperture micromachining through optically transparent materials, OPTICS EXPRESS, OSA, 16 August 2010, Vol. 18, No. 17, p. 18086 - 18094
引用文献2.特開2002-273583号公報
4 引用発明の認定
(1)引用文献1:Dawn N. Vitek, et al., Temporally focused femtosecond laser pulses for low numerical aperture micromachining through optically transparent materials, OPTICS EXPRESS, OSA, 16 August 2010, Vol. 18, No. 17, p. 18086 - 18094
ア
原査定において引用され、本願の出願前に頒布された引用文献1には、以下の記載がある(下線は当審で付加した。以下同様である。)
(ア)
「Temporally focused beams were employed by He et al. to write 2 mm long, sub-surface microfluidic channels and resulted in an improved channel shape [9]. We see similar gains in micromachining applications (Fig. 1 ). When 50 μJ, 60 fs, pulses(centered at 800 nm) are focused through a 6 mm thick fused silica sample at 0.05 NA without temporal focusing (Fig. 1(b)), we observe that the beamself-focuses and collapses into a filament. We are unable to selectively ablate the back surface of the sample, and the entire thickness of the glass is modified along the direction of propagation. Conversely, with temporal focusing and for the same pulse energy and duration and focal spot size, we are able to selectively ablate only the back surface of the sample, leaving the glass volume nearly unblemished (Fig. 1(c)).」(p. 18087, l. 49 - P. 18088, l. 2)
「当審訳:時間的に集束されたビームはHeらによって採用され、長さ2 mmの表面下マイクロ流体チャネルを作成し、チャネル形状を改善した[ 9 ]。マイクロマシニングアプリケーションでも同様の利益が得られる(図1)。50 μJ、60 fs、パルス(800 nmを中心とする)が、開口数0.05、時間的集束なしで厚さ6 mmの溶融シリカサンプルに集束される場合(図1(b))、ビームは自己集束し、フィラメントの崩壊が観察された。サンプルの裏面を選択的にアブレーションすることはできず、ガラスの厚みが伝搬方向に沿って変化した。逆に、時間的な集束により、同じパルスエネルギーと持続時間および焦点サイズの場合、サンプルの裏面のみを選択的にアブレーションすることができ、ガラスの塊はほとんど損傷を受けない(図1(c))。」
(イ)
「Fig. 1 Basic utility of temporal focusing for micromachining. (a) An illustration of the focusing geometry. 800 nm, 60fs, 50 μJ pulses are focused at 0.05 NA at the back surface of a 6 mm thick block of fused silica. (b) Without spatially chirped pulses, self-focusing and supercontinuum generation result in a loss of intensity at the focus. The glass is tracked along the length of the filament and selective ablation at the focal depth is inhibited. (c) With spatially chirped pulses, self-focusing and continuum generation are suppressed, and the backside of the glass sample is ablated as evidenced by the plasma emission.」(p. 18088, l. 3 - P. 18088, l. 9)
「当審訳:図1。マイクロマシニングのための時間的集束の基本的な有用性。(a)集束形状の図。800 nm、60 fs、50 μJのパルスは、厚さ6 mmの石英ガラスブロックの裏面に0.05 NAで集束する。(b)パルスが空間的にチャープされていない場合、自己集束およびスーパーコンティニウムの生成により、焦点強度が失われる。ガラスはフィラメントの長さに沿って追跡され、焦点深度での選択的アブレーションは抑制される。(c)空間的にチャープされたパルスにより、自己集束とコンティニウムの生成が抑制され、プラズマ放射によって証明されるように、ガラスサンプルの裏面がアブレーションされる。」
(ウ)
「2. Experimental methods
We use a single-pass, double grating configuration to spatially chirp the beam. The input to the micromachining platform (Fig. 2 ) is positively chirped femtosecond pulses from a 1 kHz Ti:Al2O3chirped pulse amplification system. The pulses must be slightly positively chirped to avoid pulse front tilt prior to the focusing element, given the single-pass, double grating configuration used to spatially chirp the beam. The grating system consists of two 600 l/mm gratings (Thorlabs, #GR25-0608) used at an angle of incidence of 36 degrees and a separation of 630 mm, as measured along the perpendicular between the gratings. The grating separation and angleare selected to minimize second and third order dispersion. Pulse compressionis third-order limited as a result of the mismatch between the 1200 l/mmgratings in the laser compressor and the 600 l/mm gratings used to spatially chirp the beam. The net efficiency of the two 600 l/mm gratings is 50%. The radius of the beam incident on the focusing optic is 7.4 mm in the chirped dimension, as measured to the 1/e2 radius of the central intensity.In the unchirped dimension, the beam width is 0.69 mm at the 1/e2radius. The beam is focused into the sample using a 25 mm focal length,90-degree off-axis parabola (Janos Technology, #A8037-175). At focus the beam measured 33 μm at the 1/e2 radius in the direction of spatial chirp.Beam width measurements were made using the translating knife-edge method [10].The pulse width at focus was measured with an interferometric second-order intensity autocorrelation [11] using a 100 μm thick KTP crystal and was determined to be 74 fs full-width athalf maximum (FWHM) amplitude with the assumption of a hyperbolic secant pulse shape.」(p. 18088, l. 10 - P. 18088, l. 30)
「当審訳:2.実験方法
我々はシングルパス、ダブルグレーティング構成を使用して、ビームを空間的にチャープした。マイクロマシニングプラットフォーム(図2 )への入力は、1kHz、Ti:Al2O3からのポジティブチャープフェムト秒パルスである。ビームを空間的にチャープするためにシングルパス、ダブルグレーティング構成が使用される場合、集束要素の前のパルスフロントチルトを避けるために、パルスをわずかに正にチャープする必要がある。格子システムは、2つの600l/mm格子(Thorlabs、#GR25-0608)で構成され、これは入射角36度、格子間の垂線に沿って測定した場合に間隔630 mmである。回折格子の間隔と角度は、2次および3次の分散を最小化するように選択される。パルス圧縮は、レーザーコンプレッサーの1200l/mm格子とビームを空間的にチャープするために使用される600l/mm格子の不一致の結果として、3次制限される。2つの600l/mm回折格子の正味効率は50%である。集光光学系に入射するビームの半径は、1/e2の中心強度の半径として測定されるチャープ次元で7.4 mmである。チャープされていない次元では、ビーム幅は1/e2半径で0.69 mm である。ビームは、25 mmの焦点距離、90度の軸外し放物面レンズ(Janos Technology、#A8037-175)を使用してサンプルに集束される。焦点において、ビームは、空間チャープの方向に1 / e 2半径で33 μmと測定された。ビーム幅の測定は、平行移動ナイフエッジ法を使用して行われた[ 10 ]。焦点でのパルス幅は、厚さ100 μmのKTP結晶を使用した干渉2次強度自己相関[ 11 ]で測定され、形状が双曲線正割パルスと仮定し、74 fs半値全幅(FWHM)振幅であると決定された。」
(エ)
「Fig. 2 Scheme for temporal focusing of chirped pulses. The temporally chirped pulses are spatially chirped then collimated by two gratings. After the second grating, the intensities, I, of all frequencies overlap in time, t, but the frequencies do not overlap spatially except at the focal plane.」(p. 18089, l. 1 - P. 18089, l. 4)
「当審訳:図2 チャープパルスの時間的集束のスキーム。時間的にチャープされたパルスは、2つの回折格子によって、空間的にチャープされコリメートされる。2番目の格子の後、すべての周波数の強度Iは時間tで重なるが、焦点面以外では周波数は空間的に重ならない。」
ここで、図1、2は以下のものである。
図1
図2
イ
上記ア(ウ)の「2.実験方法」の放物面レンズがサンプルのどの部分に集光するかについて、同項中には明記されていないが、「2.実験方法」に係るマイクロマシニングプラットフォームを説明した図2から、サンプルの裏面に集光することが理解される。
ウ
以上の記載から、引用文献1の「2.実験方法」には以下の発明が記載されているものと認められる(以下「引用発明」という。)。
「時間的にチャープされたパルス光を出力する光源と、
時間的にチャープされたパルス光を受け、空間的にチャープしコリメートし、すべての周波数の強度Iは時間tで重なる光パルスとする2つの回折格子と、
2つの回折格子で変換されたパルス光を受け、その光をサンプル裏面の集光領域に集光する放物面レンズと、
を備える光照射装置。」
(2)引用文献2:特開2002-273583号公報
ア
原査定おいて引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された引用文献2には、以下の記載がある。
「【請求項1】
加工対象に対して透過性を有する波長のレーザー光を発生させるための光源部と、
この光源部から出射したレーザー光の状態を可変制御するための光制御部と、
この光制御部によって制御されたレーザー光を加工対象に入射させるための入射光学系部と、
加工対象の内部におけるレーザー光の状態を計測するための光状態計測部と、
を備え、
加工対象の内部におけるレーザー光の状態が所望の状態となるように、前記光状態計測部の出力に基づき前記光制御部を調整する、
ことを特徴とする透明媒質加工装置。」
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、透明な媒質(例えばガラス、プラスティック等)をパルスレーザー光などによって加工する透明媒質加工装置に関する。」
「【0018】[透明媒質加工装置の具体的な実施例]:図3は、第1もしくは第2実施形態による透明媒質加工装置について、具体的な実施例の構成を示す図である。この実施例においては、加工対象TGとしてガラス製直方体を想定している。そして、光状態計測部4として例えば特開平2000-283854号公報に開示されている光飛跡観測装置を使用している。
(・・・中略・・・)
【0020】また、本実施例では光源部1として、フェムト秒レーザーシステム11を用いている。レーザーをガラス内部に集光することにより、ガラス内部の屈折率を部分的に変化させたり、内部に穴をあけたりする手法は既に知られているが、ここで使用されるレーザーは集光点においてのみガラスに作用することが望ましい。そのため、ガラスにおいて透過率が高い波長域で、多光子過程でレーザー加工を行うのが一般的であり、この用途に適している光源がフェムト秒レーザー装置である。なお、加工に際しさらに大きなエネルギーが必要なときは、再生増幅システムや、マルチパス増幅システムを追加できる。
【0021】光源部1として適用可能なフェムト秒レーザー光源装置に関しては、例えばIEEEJOURNAL OF QUANTUM ELECTRONICS, Vol.28, No.4, APRIL, 1992に示されるように、 種々の波形整形技術が知られている。さらに、波面等の補償を行うための可動部付き反射鏡技術等も確立しており、これらの技術を用いて光パルスに時間的・空間的変調をかけることができる。そのため、例えば特開平10-223959号公報に示すような光反応装置(光と物質の相互作用である光反応を起させる装置)も提案されている。
(・・・中略・・・)
【0023】図3に示すように、光源部1からの光を光制御部2へと導光する前段には光分岐器41が設置され、これにより二つの光束L1,L2が生成される。ここで、一方の光束L1は透明媒質(加工対象TG)の加工用であり、光制御部2へ導光される。また、他方の光束L2は透明媒質の加工ポイントにおけるパルス形状のモニタ用である。図では透過光を光束L1とし、反射光を光束L2としたが、逆の配置が可能なのは言うまでもない。本実施例においては、光制御部2として時間波形整形部21のみからなる系を例示しているが、これは空間形状整形部22、波面制御部23もしくは、それらの組み合わせであってもよい。
【0024】光制御部2へと導光された光束L1は、この時間波形整形部21において時間的な波形を変調される。図示の通り、加工用のレーザー光束L1は反射鏡211で反射されたのち、回折格子212で分光されてシリンドリカル凸レンズ213で平行光に変換される。そして、空間光変調器214を用いてスペクトルごとの位相を変化させられ、シリンドリカル凸レンズ215により回折格子216上に集光することで時間的な波形変調を実現している。
【0025】光制御部2で変調された光束L1は、反射鏡217で反射されて入射光学系3へと導光される。反射鏡31によって所定の光路へと変更された光は、λ/2板等の位相差板32を用いて偏光状態に所定の変化を与えられ、集光レンズ33で加工対象TGへと集光される。ここで、位相差板32を用いた理由は、特開平2000-283854号公報に開示されている光飛跡観測装置(公報の発明の名称は「光飛跡検出装置」である。)が、被測定光(ここでは光束L1)の偏光に必要条件を課すからである。
(・・・中略・・・)
【0029】以上の配置のもと、加工用のレーザー光束L1の伝播軸方向の幅(時間幅)は、加工対象TGの加工点において、ガラスの分散や非線形効果によって入射時から大きくずれていることが予想されるが、光状態計測部4を用いることで実測可能である。この時間幅が加工点において最短となるよう調整すると、加工に必要なエネルギーも小さくできることが期待される。そこで、この時間幅が最短になるよう、時間波形整形部21内の空間光変調器214の位相変調量を変化させる。」
イ
図3は以下のものである。
ウ
以上の記載から、引用文献2の[透明媒質加工装置の具体的な実施例]には以下の発明が記載されているものと認められる。
「加工対象に対して透過性を有する波長のレーザー光を発生させるための光源部と、
この光源部から出射したレーザー光の状態を可変制御するための光制御部と、
この光制御部によって制御されたレーザー光を加工対象に入射させるための入射光学系部と、
加工対象の内部におけるレーザー光の状態を計測するための光状態計測部と、
を備え、(【請求項1】)
光源部1として、フェムト秒レーザーシステム11を用い、(【0020】)
光制御部は時間波形整形部からなり、(【0023】)
光制御部へと導光されたレーザー光は、この時間波形整形部において時間的な波形を変調され、(【0024】)
加工用のレーザー光は反射鏡211で反射されたのち、回折格子212で分光されてシリンドリカル凸レンズ213で平行光に変換され、空間光変調器214を用いてスペクトルごとの位相を変化させられ、シリンドリカル凸レンズ215により回折格子216上に集光し、(【0024】)
加工用のレーザー光の伝播軸方向の幅(時間幅)は、加工対象TGの加工点において、ガラスの分散や非線形効果によって入射時から大きくずれていることが予想され、この時間幅が最短になるよう、時間波形整形部21内の空間光変調器214の位相変調量を変化させる、(【0029】)
透明媒質加工装置。」
5 対比
(1)本願発明と引用発明とを対比する。
ア 本願発明の「パルス光を出力する光源と」との特定事項について
(ア)引用発明の「時間的にチャープされたパルス光を出力する光源」は、本願発明の「パルス光を出力する光源」に相当する。
(イ)上記(ア)によれば、引用発明は本願発明の「パルス光を出力する光源と」との特定事項を備えることは、明らかである。
イ 本願発明の「前記パルス光を分散する分散素子と、」との特定事項について
(ア)本願発明の「パルス光を分散する」は、本願の発明の詳細な説明の【0003】に「波長によって異なる光路へ光が出力される」と記載されているとおりのものであるから、引用発明のパルス光を「空間的にチャープする2つの回折格子」は、「パルス光を分散する分散素子」に相当する。
(イ)上記(ア)によれば、引用発明は本願発明の「パルス光を分散する分散素子」との特定事項を備えることは、明らかである。
ウ 本願発明の「当該分散された光の位相スペクトルまたは強度スペクトルを変調する空間光変調器」との特定事項について、引用発明は、空間光変調器を備えていない。
エ 本願発明の「前記空間光変調器によって変調された光を分散された状態で受け、その光を対象物の表面または内部の集光領域に集光して、前記集光領域において、前記空間光変調器による変調に応じて調整された時間波形のパルス光とする集光素子」との特定事項について
(ア)引用発明の「放物面レンズ」は本願発明の「集光素子」に相当する。
(イ)引用発明において、「放物面レンズ」は「2つの回折格子」により「空間的にチャープ」された状態のパルス光を受けているから、本願発明でいう、光を分散された状態で受けているものである。そして、引用発明の「サンプル」は、本願発明の「対象物」に相当し、「放物面レンズ」は空間的にチャープされた光をサンプルの集光領域に集光するものである。
(ウ)引用発明において「放物面レンズ」によりサンプルに集光された光はパルス光であるから、この光が「時間波形」をもつ光であることは明らかである。
(エ)上記(ア)~(ウ)から、引用発明の「放物面レンズ」は本願発明の上記特定事項と、「光を分散された状態で受け、その光を対象物の集光領域に集光して、集光領域において時間波形のパルス光とする集光素子」の点で、共通する。
オ 本願発明の「光照射装置」との特定事項について
引用発明は、サンプルに光を照射し、加工する装置であるから、「光照射装置」との特定事項を備えることは、明らかである。
(2)したがって、本願発明と引用発明とは、次の(一致点)で一致する。
(一致点)
「パルス光を出力する光源と、
前記パルス光を分散する分散素子と、
光を分散された状態で受け、その光を対象物の集光領域に集光して、集光領域において、時間波形のパルス光とする集光素子と、
を備える光照射装置。」
(3)一方、両者は(相違点1)及び(相違点2)で相違する。
(相違点1)
本願発明は「分散された光の位相スペクトルまたは強度スペクトルを変調する空間光変調器」を備え、「集光素子」が受ける光は「空間光変調器によって変調された光」であるのに対して、引用発明はこのような構成を備えていない点。
(相違点2)
対象物における集光領域が、本願発明は対象物の「表面または内部」であるのに対して、引用発明はサンプルの「裏面」である点。
6 判断
(1)相違点1について検討する。
ア
引用文献2に記載の発明において、加工用のレーザー光は、フェムト秒レーザーシステムである「光源部」から出力され、「回折格子212で分光されてシリンドリカル凸レンズ213で平行光に変換され」た状態で、「空間光変調器214」に入力され、「スペクトルごとの位相を変化させられ」るものである。
ここで、「光源部」から出力された光はフェムト秒パルスレーザー光であり、フェムト秒パルスレーザー光を「回折格子212で分光」したパルス光は、本願発明でいう「分散された光」である。
したがって、引用文献2に記載の「空間光変調器214」は、「分散された光の位相スペクトルを変調する空間光変調器」である。
イ
引用文献2に記載の「空間光変調器214」を引用発明に採用することを、検討する。
引用発明において、第2の回折格子で変換されたパルス光は、「すべての周波数の強度が時間tで重なる」ものであり、放物面レンズを経てサンプルに至るパルス光も、同様に「すべての周波数の強度が時間tで重なる」ものと認められる。
ここで、引用発明において、第2の回折格子で変換されたパルス光が入力されるサンプルは「石英ガラスブロック」であり、ガラス素材であるならば、波長毎の屈折率が異なり、光の速度が異なることは、技術常識である。
そして、屈折率が光の波長に依存する現象を分散というから、引用発明のサンプルは分散を有しているといえる。
そうすると、引用発明のサンプルの内部では、引用文献2に記載の発明と同様に「ガラスの分散や非線形効果によって」、「加工用のレーザー光の伝播軸方向の幅(時間幅)」が、「加工対象TGの加工点において、入射時から大きくずれている」ことが発生すると認められるし、当業者はそのことを認識できるといえる。
そして、引用文献2に記載の発明の「空間光変調器214」は、「加工用のレーザー光の伝播軸方向の幅(時間幅)は、加工対象TGの加工点において、ガラスの分散や非線形効果によって入射時から大きくずれていることが予想され」ることを課題とし、「この時間幅が最短になるよう、時間波形整形部21内の空間光変調器214の位相変調量を変化させる。」ために用いられているものである。
したがって、引用発明においても、パルス光がサンプルへ入射した点からサンプルの加工点に至るまでに発生するずれを補正するために、引用文献2に記載の「空間光変調器214」を採用することは、当業者にとって容易に想到し得ることである。
ウ
そして、引用発明において「空間光変調器」を採用するならば、引用文献2と同様に、光束が分散され(空間的にチャープされ)、かつ、平行光(コリメート)の状態で用いられるから、引用発明であれば、「第2の回折格子」と「放物面レンズ」との間に設けられるのが自然である。
そうすると、引用発明において「放物面レンズ」に入力されるパルス光は、「空間光変調器によって変調された光」である。
エ
したがって、引用発明において、引用文献2に記載の「空間光変調器214」を採用することで、相違点1に係る構成を得ることは、当業者にとって容易に想到し得ることである。
(2)相違点2について
本願発明における「対象物の表面または内部」の「表面」は、その字義が「物の外面。おもて。」(広辞苑第六版)であり、本願明細書をみても、その意味に解して差し支えないところ、引用発明のサンプルの「裏面」も「物の外面」に含まれるから、相違点2は、実質的でない。
また、引用発明において、加工点がサンプルの「裏面」であることは、パルス光がサンプルを損傷することなく通過し加工点に至ることを示している
(上記4(1)ア(ア)の末文を参照のこと。)ところ、そのような意味においては、サンプルの内部を加工点としてもよいわけであるから、引用文献2に記載のように、ガラス内部を加工点とすることは、当業者が適宜なし得たことである。
したがって、相違点2は実質的でないか、又は、引用発明において、加工点である集光領域を対象物(サンプル)の内部とすることで、相違点2に係る構成とすることは、当業者にとって適宜なし得たことである。
(3)以上検討したとおり、引用発明において、引用文献2に記載の技術事項を採用し、相違点1及び相違点2に係る構成を備えることは、当業者にとって容易に想到し得たことである。
(4)効果について
本願発明が奏する効果は、引用発明及び引用文献2に記載の発明から当業者が十分に予測できたものであって格別なものとはいえない。
(5)請求人の主張について
ア
請求人は、審判請求書の「3 本願発明が特許されるべき理由 (4)本願発明と引用文献記載の発明との対比」において「イ 本願発明が解決しようとする課題は、引用文献1,2の何れにも記載も示唆もない。」と主張している。
しかしながら、上記のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載の発明から、当業者にとって容易に想到し得るものであるから、請求人の主張は上記の判断を左右するものではない。
イ
請求人は、審判請求書の「3 本願発明が特許されるべき理由 (4)本願発明と引用文献記載の発明との対比」において「ウ 引用文献2記載事項を引用発明に適用することについては、動機付けが存在せず、寧ろ阻害要因が存在する。」、「引用文献1では、焦点面において光のパルス幅を最短にするという目的のみが記載され、該目的が既に達成されている。」と主張している。
しかしながら、上記(1)のとおり、引用発明は、サンプル内部において、波長毎に光の速度が異なり、「加工用のレーザー光の伝播軸方向の幅(時間幅)」が、「加工対象TGの加工点において、入射時から大きくずれる」という課題を有しており、引用文献2に記載の発明を採用する動機付けが存在するから、請求人の主張は採用できない。
ウ
請求人は、審判請求書の「3 本願発明が特許されるべき理由 (4)本願発明と引用文献記載の発明との対比」において「エ 引用文献2に記載された時間波形整形部21の一体不可分の構成から一構成部品である空間光変調器214のみを取り出して引用発明に適用することはできない。」と主張している。
しかしながら、引用文献2に記載の発明において、「空間光変調器」は、波長毎に光路が異なる光(分散された光)を受光さえできれば、波長毎に位相を変化させることができるわけで、光を分散させる手段がいかなる機構であっても良く、また、位相を変化させた光をどのように集光させても良いものである。
そして、引用発明も、2つの回折格子からなる光を分散させる手段と、放物線レンズからなる光を集光させる手段を備えているのであるから、上記6(1)イのとおり、引用文献2に記載の発明における「空間光変調器214」を引用発明に備えるよう構成することは、当業者にとって容易に想到し得ることである。
エ
したがって、請求人が主張した事項をもって、本願発明の進歩性を認めることはできない。
7 むすび
以上のとおりであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2019-011308